JP3551082B2 - サブマージアーク溶接用焼成型フラックス - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶、海洋構造物、貯槽、鉄骨、橋梁等の鋼構造物の溶接に用いられるサブマージアーク溶接用フラックスに関し、とくに溶接組立式H型部材の隅肉継手溶接を高速でサブマージアーク溶接する場合等において、欠陥のない溶接部が安定して得られ、優れた溶接作業性を有するサブマージアーク溶接用焼成型フラックスに関する。
【0002】
【従来の技術】
サブマージアーク溶接(潜弧溶接)用のフラックスは、一般に、2酸化ケイ素(SiO2)を主体とし、酸化マグネシウム (MgO)、マンガン酸化物(MnO、 Mn3O4など)、酸化カルシウム(CaO)、アルミナ(Al2O3 )およびその他の酸化物、ふっ化物等を原料として製造されている。
そして、このサブマージアーク溶接用フラックスはその製造方法により、溶融型フラックス、焼成型フラックス(焼結型フラックスも含む、以下同じ)および混合型フラックスに分類される。
このうち、焼成型フラックスは一般に、酸化物やふっ化物等のフラックス原料粉に結合剤(バインダー)として珪酸ソーダなどを添加し、混練、造粒、乾燥、焼成の工程を経て製造される。まれに、結合剤が省略される場合もある。このような焼成型フラックスは、比較的簡単な設備で製造可能なために、安価であるうえに、脱酸剤や合金元素の添加が可能であるので、溶接金属成分の調整ができるという利点がある。
しかしながら、焼成型フラックスの品質ひいては溶接金属の特性は、原料の種類によって大きく変化し、とくに低入熱溶接や高速溶接を行う場合には、ビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥が発生し易くなるという問題があった。
【0003】
このため、溶接欠陥の発生を抑えるために、従来から種々の方法が提案されてきた。たとえば、特開平6−31481 号公報には、CaOとCaF2 の添加量をコントロールし、かつ単体としての融点が高い Al2O3 やMgOの添加量を低く抑え、フラックス軟化温度を1100℃以下にすることにより、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥の発生を防ぐ方法が開示されている。
しかしながら、フラックスの軟化温度を単純に低下させるだけの方法では、溶接組立式H型部材の隅肉継手溶接を行う場合、スラグの剥離不良が発生しやすくなるなどの問題を残していた。
また、例えば、特公昭51−14095 号公報および特公平3−28997 号公報において、高融点の単一成分の酸化物であるMgO(マグネシアあるいはマグネシアクリンカー)や珪砂(SiO2)を使用する代わりに、多成分複合酸化物である Mg2SiO4 を主とするオリビンサンドおよびニッケルスラグを用い、フラックス融点を下げることにより、ビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥の発生を防ぐ方法が開示されている。
しかしながら、単にこれらを原料として用いるだけでは、ポックマークの発生、とりわけプライマー塗料を塗布した鋼板を溶接する場合のポックマークの発生を抑えることは困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明は、上記の問題を有利に解決するもので、溶接欠陥であるポックマークの発生を効果的に防止し、ひいてはビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥の発生を抑えることが可能な高能率で優れた溶接作業性を有するサブマージアーク溶接用焼成型フラックスを提案することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、焼成型フラックスを用いたプライマー塗布鋼板溶接時の耐ポックマーク性の改善を目的として、溶接時に発生するガスの溶接スラグ内からのガス抜けについて鋭意研究検討を重ねた。その結果、SiO2およびMgO源として用いるSiO2−MgO系酸化物の特性および組成とフラックスの組成を制御することが極めて有効であることを知見した。
そこで、発明者らは、上記観点からさらに検討した結果、特定成分のSiO2−MgO系複合酸化物を用いて、特定の成分となるように製造したフラックスによれば、プライマー塗布鋼板溶接時に発生するガスの溶接スラグからのガス抜けを改善でき、耐ポックマーク性を効果的に改善し得ることを知見した。さらに、ポックマークの発生とフラックスの溶融挙動との関係についても詳細に検討した結果、ポックマーク発生個数と、フラックスの焼結、軟化、溶融挙動、あるいはまた所定温度で加熱したときの嵩の減少量などとの間に極めて強い相関があることが判明した。
【0006】
この発明は、上記知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
(1) 800℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつSiO2:30〜60wt%、MgO:30〜50wt%、あるいはさらにMnO:0.01〜30wt%を含む、SiO2−MgO系複合酸化物を、フラックス中のSiO2源、MgO源、あるいはさらにマンガン酸化物源の少なくとも一部として10〜80wt%配合してなり、 1100 ℃× 30 分の熱処理による嵩の減少量が 20 %以下、軟化温度が 1200 〜 1300 ℃であることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
(2) 800℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつSiO2:30〜60wt%、MgO:30〜50wt%、あるいはさらにMnO:0.01〜30wt%を含む、SiO2−MgO系複合酸化物を10〜80wt%配合したフラックスであり、しかもこのフラックスは、少なくともマンガン酸化物(MnO量換算で):5〜20wt%、Li2O、Na2O、K2Oの合計量:3wt%以下を満足し、 1100 ℃× 30 分の熱処理による嵩の減少量が 20 %以下、軟化温度が 1200 〜 1300 ℃であることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
(3) 上記(1)または (2) に記載のフラックスにおいて、フラックスの成分組成が、全SiO2:30〜70wt%、MgO:3〜30wt%、マンガン酸化物(MnO量換算で):5〜20wt%、Li2O、Na2O、K2Oの合計量:3wt%以下Al2O3:2〜20wt%、CaO:10wt%以下、CaF2:15wt%以下および脱酸剤:10wt%以下を含有してなることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。最初に、この発明をするに至った経緯を実験結果に基づいて説明する。
表1に示す比率になるように配合した原料(ニッケルスラグはMgO、SiO2源であり、その組成は後述の表4に示す)を水ガラスを結合剤として12〜100 メッシュに造粒し、850 ℃、1時間の条件で焼成した。なお、フラックス中Na2O量がポックマーク発生に及ぼす影響を調べるため、結合剤にはNa2O含有量の異なる水ガラスを用いた。これらのフラックスと2wt%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用いて、溶接電流:750 A、溶接電圧:35V、溶接速度:40cm/min の溶接条件で、プライマー塗装を施したSS 400相当の鋼板を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。
得られた結果を表1に併せて示す。表1より明らかなように、MgOおよびSiO2源として用いる酸化物の種類およびフラックス中 Na2O量がポックマークの発生個数に及ぼす影響が極めて大きい。そこで、これらのフラックスの焼結、軟化、溶融挙動について調査した結果、ポックマークの発生個数が多いフラックスに比べ、発生個数の少ないフラックスは1100℃×30分の熱処理によるフラックスの嵩の減少量が20%以下と小さく、また軟化温度が1300℃以下と低いことが判明した。
【0008】
【表1】
【0009】
このフラックスの焼結, 軟化, 溶融挙動, あるいはまた所定温度で加熱したときの嵩減少量がポックマーク発生と密接な関係がある理由としては、下記のようなことが考えられる。
通常、溶接時に生成する溶接スラグは、図1に示すような断面を有する。図中の1−a 部は、溶接時にはフラックスが溶融して溶融スラグとなり、溶接後凝固した部分である。それに対し、図中の1−b 部は溶接時においてもフラックスは完全に溶融せずにフラックスの一部のみが溶融し、凝固時に溶融していないフラックス成分とともに溶接スラグとなった部分、もしくは溶融しても溶融したスラグがほとんど流動しなかった部分である。この1−b 部が、溶接時に発生するガスの溶接スラグからのガス抜けに影響すると考えられる。1−b 部では、溶接時の最高加熱温度が場所により異なり、1−a 部と接する部分がいちばん高い温度まで加熱され、またその反対側の溶融しなかったフラックスと接していた部分がいちばん低い温度に加熱された場所となる。1100℃×30分の熱処理によるフラックスの嵩の減少量が小さく、軟化温度が低くなると、この1−b 部の生成量が少なくなり、溶接時に発生するガスの溶接スラグからのガス抜けが改善されると考えられる。
【0010】
つぎに、発明者らは、フラックスのMgOおよびSiO2源となる酸化物およびフラックス組成がポックマーク発生に及ぼす影響について検討した。フラックスのMgOおよびSiO2源となる酸化物原料の組成を表2に示す。ここに、溶解原料はニッケルスラグと酸化マンガンを電気炉で溶解して製造したものであり、オリビンサンドおよび溶解原料はフラックス原料中の結晶水等の水分の影響を除去するために 850℃で10分間熱処理したものを用いた。
表2の酸化物原料を用いて、主成分が表3となるように配合してフラックスを製造した。これらのフラックスと2wt%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用い、溶接電流:700 A、溶接電圧:33V、溶接速度:65cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施したSS 400相当の鋼板を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。
溶接結果をもとに、フラックス中のMnO量がポックマーク発生に及ぼす影響を調べたところ図2に示す結果となった。図2から、フラックスのMgOおよびSiO2源となる酸化物原料の種類とともに、フラックス中のMnO量がポックマーク発生個数に及ぼす影響が極めて大きいことがわかる。このようなMnOによる影響は、フラックスの軟化温度の低下によるものであると考えられた。
【0011】
【表2】
【0012】
【表3】
【0013】
以上の実験をさらに押し進め、研究を重ねた結果、ポックマークの発生を抑制するには、フラックスの原料に用いるMgOおよびSiO2源となる酸化物の種類 (特性) 、組成とフラックス中のMnO量を適正化することによって、フラックスの焼結、軟化、溶融挙動、さらに前記嵩の減少量を制御することがとくに重要であることがわかった。
とりわけ、ニッケルスラグやオリビンサンドに例示される、特定の成分および特性をもつSiO2−MgO系の複合酸化物を配合原料とし、これらを特定の成分となるように用いて製造したフラックスは、プライマー塗布鋼板の溶接において、発生ガスの溶接スラグからのガス抜けを良好にし、耐ポックマーク性を効果的に改善することが明らかとなった。
ここで、プライマー塗布鋼板とは、鋼溶接構造物の製作期間中における鋼板の発錆防止または防食・下塗りのためにプライマー塗料を鋼板に塗布したものである。プライマー塗料としては、無機ジンクリッチプライマー, ウォッシュプライマーなどがある。
【0014】
以下に、本発明における構成要件を前記範囲に限定した理由について説明する。
本発明では、還元性雰囲気における800 ℃での還元減量が0.05wt%以上、かつMgOを30〜50wt%、SiO2を30〜60wt%含有するSiO2−MgO系の複合酸化物を原料中に10〜80wt%含有 (配合) させる必要がある。
まず、本発明フラックスの原料に添加するSiO2−MgO系複合酸化物は、800 ℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上である必要がある。還元減量0.05wt%以上を満足するだけの量の鉄分を複合酸化物中に含有することにより、フラックス原料の予備乾燥処理などを施した際に、微量の酸化鉄を含むSiO2−MgO系酸化物が形成され、この微量の酸化鉄を含むSiO2−MgO系酸化物がフラックスの軟化温度の低下に顕著に貢献する。還元減量が0.05wt%未満では、十分な軟化温度の低下がもたらされず、とくにプライマー塗装材のようなガス発生の激しい素材の溶接においてポックマークを充分低減することができない。
なお、還元減量とは還元雰囲気 (通常、露点−20℃以下の水素ガス) 中で熱処理したときの重量減少率のことであり、800 ℃の還元性雰囲気における還元減量とは、800 ±10℃で60分間保持する還元減量試験をJIS H2601 に準拠した方法により測定した値を意味する。
【0015】
SiO2−MgO系複合酸化物の量は、フラックス原料粉の合計量 (結合剤は含めない) に対し10〜80wt%とするのが好ましい。SiO2−MgO系複合酸化物原料の量が10wt%未満でも、ポックマーク発生抑制効果はある程度期待できるが、10wt%以上添加することで極めて良好な耐ポックマーク性を得ることができる。一方、ビード外観を良くするためのふっ化物、脱酸剤あるいは造粒時の結合剤を必要量を確保することも考え、SiO2−MgO系の複合酸化物の添加量は80wt%以下、好ましくは70wt%以下とする。
【0016】
上記SiO2−MgO系の複合酸化物は、MgOの含有量が30〜50wt%でかつSiO2の含有量が30〜60wt%であることが好ましい。SiO2−MgO系複合酸化物のMgOおよびSiO2の含有量がこの範囲よりはずれるとフラックスの軟化温度が上昇し、溶接時に発生するガスのスラグ内からのガス抜けが悪くなり、ポックマークが発生しやすくなる。
SiO2−MgO系の複合酸化物の形態としては、 Mg2SiO4およびMgSiO3などが存在するが、複合酸化物の組成比率がMgO:30〜50wt%、SiO2:30〜60wt%であればポックマークを抑制する効果が得られる。この効果は、 Al2O3、CaO、 Cr2O3、Fe酸化物など他の成分を含んでいても影響はない。なお フラックス成分調整の観点からは、MgOの含有量を30〜45wt%とするのが好ましい。
また、このSiO2−MgO系複合酸化物には、MgOおよびSiO2の他に、マンガン酸化物を0.01〜30wt%(MnO量換算で)含有しても構わない。ただし、マンガン酸化物含有量がこの範囲よりはずれるとポックマークが発生しやすくなる。よって、SiO2−MgO系複合酸化物中のマンガン酸化物(MnO量換算で)含有量は0.01〜30wt%が好ましい。
【0017】
本発明フラックスの原料として好適であるSiO2−MgO系複合酸化物の具体例としては、溶解により製造した溶解原料、ニッケルスラグ、オリビンサンド、蛇紋岩などが挙げられる。これらの他にも、SiO2、MgO、マンガン酸化物を適正量含有した複合酸化物であれば同様な作用効果が期待され、使用上の支障はない。
【0018】
しかしながら、一般に上記の溶解原料やスラグ類はそのままでは0.05wt%以上の還元減量を有さないので、かかる還元減量を得るために必要な処理を行う。
具体的には、400 〜1300℃程度の酸化性雰囲気下 (大気下など) にて5〜60分程度の予備焼成処理を施し、結晶水等の水分を除去すると共に、原料中の鉄分を酸化させることによって還元減量を増加させる。
この予備焼成処理は、鉱石原料等において水分除去のために行われるものに類似し、同じ設備で処理できるが、好適な鉄酸化物を形成しうる焼成温度の設定に留意して処理する点で、単なる水分除去処理とは異なる。
【0019】
上述したSiO2−MgO系複合酸化物をフラックス原料として配合することのほか、フラックスの成分組成は、焼成後のフラックス原料粉と結合剤の合計量に対して、以下の範囲に調整することが望ましい。
マンガン酸化物:5〜20wt%(MnO量換算で)
マンガン酸化物含有量はMnO量換算で5〜20wt%とする。マンガン酸化物量が5wt%未満ではフラックスの軟化温度の低下が不十分となり、一方、20wt%を超えると溶接スラグが脆くなりスラグの剥離性が劣化するなどの問題が生じる。このため、マンガン酸化物の含有量は、MnO量換算で5〜20wt%の範囲とするのが望ましい。
【0020】
Li2O、Na2O、K2O の合計量:3wt%以下
Li2O、Na2O、K2O の各含有量の合計量は3wt%以下に限定するのが好ましい。フラックスの軟化温度を低めに制御したフラックスであっても、Li2O、Na2O、K2O の合計量が3wt%を超えると、1100℃以下の温度域においてフラックスが部分的ではあるが多量に溶融するため、フラックスの1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量が20%を超え、ポックマーク発生を充分防止することができない。これらの合計量を3wt%以下に保つには、配合する原料に留意する必要があり、とくに溶接スラグ等の再生原料については、含有されるLi2O、Na2O、K2O の量を注意して管理することが好ましい。
【0021】
全SiO2:30〜70wt%
SiO2は、ビード外観を良好に保つための造滓剤として添加する。全SiO2量が30wt%未満ではその効果が少なく、とくに高速隅肉溶接のようにビード端部のなじみが重要な場合には、30wt%未満では良好なビードが保持できない。一方、70wt%を超えて多量に含まれると粘性が高くなりすぎてかえってビード外観が乱れやすくなり、またスラグの剥離性が劣化するなどの不具合が生じる。このため、全SiO2の量は30〜70wt%の範囲とするのが好ましい。
【0022】
MgO:3〜30wt%
MgOは、スラグの融点および粘性を調節し、優れたスラグ剥離性を確保するのに有用な成分である。3wt%未満では十分な効果が得られず、一方、30wt%を超えると粘性が低下し過ぎたり、融点が上昇し過ぎてビード外観が劣化する傾向が現れる。このため、MgOは3〜30wt%の範囲とするのが望ましい。
【0023】
Al2O3 :2〜20wt%
Al2O3 はスラグの粘性および融点を調整する上で重要な成分であるが、2wt%未満ではこれらの効果に乏しく、一方20wt%を超えると融点が上昇しすぎてビード形状の劣化を招くので、含有量は2〜20wt%の範囲とするのが望ましい。
【0024】
CaO:10wt%以下
CaOは、スラグの流動性に影響を及ぼす成分であり、10wt%を超えると流動性が阻害されビード形状の劣化を招くため、CaOは10wt%以下とするのが望ましい。なお、好ましい含有量は5wt%以下である。
【0025】
CaF2:15wt%以下
CaF2は、スラグの流動性を向上させる成分であり、15wt%を超えるとスラグが流動し易くなる。このためCaF2は15wt%以下とするのが望ましい。なお、好ましい含有量は5wt%以下である。
【0026】
これらの他に、必要に応じ、スラグ生成剤として、TiO2:10wt%以下、BaO:5 wt%以下、ZrO2:5wt%以下、B2O3:4wt%以下、CaCO3 :5wt%以下から選ばれる1種以上を添加してもよい。
TiO2は、溶接中に還元され、溶接金属中へTiが移行し溶接金属の靱性を向上させる作用を有するが、10wt%を超えるとかえって靱性が劣化する。
BaOおよびZrO2は、スラグの塩基度や融点を調整するために添加する。しかし、5wt%を超える添加は、いずれもビード外観やスラグ剥離性を劣化させる。
B2O3は、溶接中の還元反応により、溶接金属中にBが移行して溶接金属の靱性改善に寄与する。しかし、4wt%を超えると溶接金属の凝固割れを助長する。
CaCO3 は、溶接中に分解してCO2 を発生し、水素分庄を下げるため溶接金属中の水素量低減に有効である。しかし、5wt%を超えるとビード外観を劣化させる。
【0027】
脱酸剤:10wt%以下
さらに、上記した以外に、脱酸剤を添加するのが好ましい。脱酸剤はビードの表面光沢を向上させ、また溶接金属の靱性を向上させるために配合するのが好ましい。脱酸剤としては、Ti、Al、Si、Mn等あるいはそれら元素と鉄(Fe)との合金が考えられるが、なかでもSi、Mnあるいはフェロシリコン、フェロマンガンが好適である。脱酸剤は1種のみでも、また、複合して添加してもよい。しかし、10wt%を超えて添加しても効果が飽和するので、脱酸剤の添加は10wt%以下とするのが望ましい。なお、好ましい添加量は1wt%以上である。
【0028】
所定量配合されたこれらのフラックス原料は、結合剤とともに混練され、造粒されたのち焼成される。造粒法はとくに限定しないが、転動式造粒機、押し出し式造粒機を用いるのが好ましい。造粒されたのち、ダスト除去、粗大粒の解砕などの整粒処理を行って、粒子径が0.075 〜1.4 mmの範囲となる大きさの粒子とするのが好ましい。
なお、結合剤(バインダ)としては、ポリビニルアルコールなどの水溶液、水ガラスが好適である。なかでも、従来から用いられているSiO2と Na2Oのモル比:1〜5の珪酸ソーダ(水ガラス)で十分である。また、使用量はフラックス原料1kgあたり80〜150 cc程度でよい。
また、焼成温度は650 ℃以上とするのが好ましい。というのは、焼成温度が650 ℃を下回ると、結合剤(バインダ)より持ち込まれる水分の乾燥が不十分となり、溶接金属中の拡散性水素の増加を招くからである。
【0029】
以上のように、本発明フラックスは、上記の工程のように、フラックス原料粉と結合剤とを混合し焼成した焼成型フラックスであり、フラックス原料粉として、800 ℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつMgOを30〜50wt%、SiO2を30〜60wt%、あるいはさらにMnOを0.01〜30wt%含むSiO2−MgO系の複合酸化物を原料粉の合計量に対して所定量含有するものである。このほか、マンガン酸化物と、 Li2O、 Na2OおよびK2 Oの1種以上などを焼成後の原料粉量に対して所定量含有する。
上記の成分で一連の工程で焼成することにより、1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量が20%以下となり、また軟化温度が1200〜1300℃となって、ポックマーク抑制に好適なフラックス特性が得られる。
【0030】
1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量が20%を超えると溶接時に発生するガスのスラグ内からのガス抜けが非常に悪くなり、ポックマークが発生しやすくなる。このため、本発明の焼成型フラックスの1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量は20%以下とした。
ここで、嵩の減少量とは、熱処理時のフラックスの焼結および部分的な溶融にともなうフラックスの嵩 (占める体積) の減少率を意味し、フラックスを充填した磁製るつぼを上記条件で熱処理し、その前後のフラックスの嵩測定から減少率を求めたものである。具体的測定を次に示す。磁製るつぼへのフラックスの充填は漏斗を用いて行い、るつぼが一杯になってあふれ出るまで流し込む。あふれ始めたら直ちにフラックスの流入をやめ、振動を与えないようにるつぼの上に盛り上がったフラックスをへら等でるつぼの上端に沿って平らにかきとる。このフラックスを充填した磁製るつぼを大気中において1100℃で30分保持する熱処理を行う。
【0031】
フラックスの軟化温度は1200℃〜1300℃以下とする。フラックスの軟化温度が1300℃を超えると、溶接時に発生するガスのスラグ内からのガス抜けが非常に悪くなり、ポックマークが発生しやすくなる。また、フラックスの軟化温度が1200℃未満では溶接スラグが脆くなりスラグの剥離性が劣化するなどの問題が生じる。このため、フラックスの軟化温度は1200℃〜1300℃の範囲とする。
ここで、フラックスの軟化温度は、フラックスを 150μm以下に粉砕後、成形圧力:1.27t/cm2 で直径10mm、高さ10mmのボタンを作り、これを炉内で連続的に加熱し、元の高さの80%の高さになる温度で定義した。
【0032】
以上述べたように、本発明者らの知見によれば、とくにプライマー塗装材のようなガス発生の激しい素材の溶接においてもポックマークの発生を防止するためには、フラックスの一部溶融温度を1100℃以上の高温とし (1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量≦20%) 、かつフラックスの軟化温度は1300℃以下と低めの温度に設定することにより、スラグ内からのガス抜けの悪いスラグ層の幅を狭くすることが重要である。
しかるに、たとえばMgO等を添加してフラックスの一部溶融温度を上昇させるとフラックス軟化温度も上昇し、また逆に一方を低温とすると他方の温度も下がるため、フラックスに求められるこのような特性を得るのは困難であった。
本発明によれば、MgO等の適正量の添加や、とりわけLi2O、Na2O、K2O の合計量制限等によりフラックスの一部溶融温度を適度に上昇させ、かつ、特性等を適正に制御したSiO2−MgO系複合酸化物原料を用いること等によりフラックスの軟化温度は適度に低減することができ、上記条件を満足するフラックスを得ることができ、溶接に際してのポックマークの発生を回避することができる。
当然、上記条件を満足するフラックスは、プライマーを塗布していない鋼板に対してもポックマークの発生を非常に効果的に防止できる。
【0033】
【実施例】
実施例1
機械粉砕により粒径:300 μm以下とし、還元減量が0.03wt%である表4に示す組成のニッケルスラグを熱処理により還元減量が0.05wt%のフラックス原料とした。これらのニッケルスラグをフラックス原料粉として、表5に示す割合で配合し、結合剤とともに混練し、12〜200 メッシュの粒子に造粒したのち、750 ℃×1hrで焼成して、焼成型フラックスを得た。得られたフラックス中のLi2O、Na2O、K2O の合計含有量はいずれも3wt%以下であった。
これらのフラックスと2%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用いて溶接電流:750 A、溶接電圧:35V、溶接速度:40cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B)を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃×30min の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。それらの結果を表6に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
表6より、還元減量が0.05wt%であるニッケルスラグをフラックス原料に用いた発明例(フラックスNo. 2)は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、還元減量が本発明の範囲外であるニッケルスラグをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo. 1)とSiO2−MgO系複合酸化物を用いずに単体の酸化物である珪砂とマグネシアクリンカーをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo. 3)はフラックスの軟化温度が本発明範囲外となり、ビード表面にポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。
【0038】
実施例2
フラックス原料に用いたSiO2−MgO系複合酸化物の組成を表7に示す。溶解原料はニッケルスラグと酸化マンガンを電気炉で溶解して製造したものである。また、オリビンサンドには熱処理雰囲気を変えることにより還元減量が0.04wt%と0.26wt%の2種類のものを用いた。
これらのSiO2−MgO系酸化物をフラックス原料粉として、表8に示す割合で配合し、結合剤とともに混練し、12〜100 メッシュの粒子に造粒したのち、850 ℃×30 minで焼成して、焼成型フラックスを得た。得られたフラックス中のLiO2、Na2O、K2O の含有量がいずれも3wt%以下であった。
以上のフラックスと2wt%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用いて溶接電流:750 A、溶接電圧:35V、溶接速度:40cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B ) を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃×30min の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。それらの結果を表9に示す。
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
表9より、還元減量が0.26wt%であるオリビンサンドおよび溶解原料をフラックス原料に用いた発明例(フラックスNo. 5、6)は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、還元減量が本発明の範囲外であるオリビンサンドをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo. 4)はフラックスの軟化温度が発明範囲外となり、ビード表面にポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。
【0043】
実施例3
実施例2で用いた還元減量0.26wt%のオリビンサンドをフラックス原料として20wt%配合し、結合剤とともに混練し、12〜65メッシュの粒子に造粒したのち、900 ℃×5min で焼成して、焼成型フラックスを得た。それぞれのフラックスに対してNa2O含有量の異なる結合剤 (水ガラス) を用いた。得られたフラックスの組成を表10に示す。これらのフラックスと2%Mn系ワイヤ (4.8 mmφ) を用いて溶接電流:800 A、溶接電圧:35V、溶接速度:60cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B ) を下向き隅肉溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。それらの結果を表11に示す。
表11より、還元減量が0.26wt%であるオリビンサンドをフラックス原料に用い、フラックスの成分組成が本発明の適正範囲内である発明例 (フラックスNo. 7 ) は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、フラックス中Na2O, K2O , Li2Oの合計量が本発明の範囲外である比較例 (フラックスNo. 8 ) は、嵩の減少量が発明範囲外となり、ビード表面にポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。また、フラックス中マンガン酸化物量が本発明の範囲外である比較例 (フラックスNo. 9) は、軟化温度が本発明の範囲外であるが、ポックマークの発生量は比較的少ない。しかし、フラックス中マンガン酸化物量および軟化温度が発明範囲外であることよりスラグが非常に脆くなり、スラグの剥離不良が発生し、溶接作業性が低下した。
【0044】
【表10】
【0045】
【表11】
【0046】
実施例4
実施例2で用いたオリビンサンド(表7)を定置式バッチ炉およびベルト式焼成炉を用いて 850℃で5分間の予備焼成熱処理を行った。得られた酸化物原料の性状を表12に示す。定置式バッチ炉およびベルト式焼成炉で焼成したオリビンサンドはいずれも原料中の水分量が十分に減少している。一方、還元減量はベルト式焼成炉で焼成したものの方が定置式バッチ炉で焼成したものに比べて大きくなっている。
これらのSiO2−MgO系酸化物をフラックス原料として、表13に示す割合で配合し、結合剤とともに混練し、12〜150 メッシュの粒子に造粒したのち、 950℃×5min の焼成を行い、焼成型フラックスとした。得られたフラックス中のLiO2、Na2O、K2Oの含有量はいずれも3wt%以下であった。
【0047】
これらのフラックスと2%Mn系ワイヤ(4.8mm)を用いて、溶接電流:800 A、溶接電圧:35V、溶接速度:60cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B ) を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況を調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。得られた結果を表14に示す。
表14から、還元減量が0.12wt%であるベルト式焼成炉で焼成したオリビンサンドをフラックス原料に用いた発明例(フラックスNo.11)は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、定置式バッチ炉で焼成した、水分量は減少したものの還元減量が本発明の範囲外にある、オリビンサンドをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo.10)は、フラックスの軟化温度が本発明範囲外となり、ポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。。
【0048】
【表12】
【0049】
【表13】
【0050】
【表14】
【0051】
図3は、発明者らが下向き隅肉溶接実験に用いた試験片の開先形状を示すものである。なお、母材1と母材2が接する部分のプライマー塗料はグラインダーにより除去したが、溶接による肉盛り部が掛かる部分には、プライマー塗料が残存していた。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、溶接時に発生するガスの溶接スラグ内からのガス抜けに好ましいフラックスの特性を定め、またフラックスの配合原料を適正化することにより、プライマー塗布鋼板溶接時に懸念される、耐ポックマーク性を大幅に改善できる。また本発明によれば、耐ポックマーク性の改善に伴い、ポックマークの発生原因と関連するビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥の発生も抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接スラグの断面を示す模式図である。
【図2】フラックス中のMnOがポックマークの発生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】下向き隅肉溶接に用いた試験片の開先形状を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶、海洋構造物、貯槽、鉄骨、橋梁等の鋼構造物の溶接に用いられるサブマージアーク溶接用フラックスに関し、とくに溶接組立式H型部材の隅肉継手溶接を高速でサブマージアーク溶接する場合等において、欠陥のない溶接部が安定して得られ、優れた溶接作業性を有するサブマージアーク溶接用焼成型フラックスに関する。
【0002】
【従来の技術】
サブマージアーク溶接(潜弧溶接)用のフラックスは、一般に、2酸化ケイ素(SiO2)を主体とし、酸化マグネシウム (MgO)、マンガン酸化物(MnO、 Mn3O4など)、酸化カルシウム(CaO)、アルミナ(Al2O3 )およびその他の酸化物、ふっ化物等を原料として製造されている。
そして、このサブマージアーク溶接用フラックスはその製造方法により、溶融型フラックス、焼成型フラックス(焼結型フラックスも含む、以下同じ)および混合型フラックスに分類される。
このうち、焼成型フラックスは一般に、酸化物やふっ化物等のフラックス原料粉に結合剤(バインダー)として珪酸ソーダなどを添加し、混練、造粒、乾燥、焼成の工程を経て製造される。まれに、結合剤が省略される場合もある。このような焼成型フラックスは、比較的簡単な設備で製造可能なために、安価であるうえに、脱酸剤や合金元素の添加が可能であるので、溶接金属成分の調整ができるという利点がある。
しかしながら、焼成型フラックスの品質ひいては溶接金属の特性は、原料の種類によって大きく変化し、とくに低入熱溶接や高速溶接を行う場合には、ビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥が発生し易くなるという問題があった。
【0003】
このため、溶接欠陥の発生を抑えるために、従来から種々の方法が提案されてきた。たとえば、特開平6−31481 号公報には、CaOとCaF2 の添加量をコントロールし、かつ単体としての融点が高い Al2O3 やMgOの添加量を低く抑え、フラックス軟化温度を1100℃以下にすることにより、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥の発生を防ぐ方法が開示されている。
しかしながら、フラックスの軟化温度を単純に低下させるだけの方法では、溶接組立式H型部材の隅肉継手溶接を行う場合、スラグの剥離不良が発生しやすくなるなどの問題を残していた。
また、例えば、特公昭51−14095 号公報および特公平3−28997 号公報において、高融点の単一成分の酸化物であるMgO(マグネシアあるいはマグネシアクリンカー)や珪砂(SiO2)を使用する代わりに、多成分複合酸化物である Mg2SiO4 を主とするオリビンサンドおよびニッケルスラグを用い、フラックス融点を下げることにより、ビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥の発生を防ぐ方法が開示されている。
しかしながら、単にこれらを原料として用いるだけでは、ポックマークの発生、とりわけプライマー塗料を塗布した鋼板を溶接する場合のポックマークの発生を抑えることは困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明は、上記の問題を有利に解決するもので、溶接欠陥であるポックマークの発生を効果的に防止し、ひいてはビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥の発生を抑えることが可能な高能率で優れた溶接作業性を有するサブマージアーク溶接用焼成型フラックスを提案することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、焼成型フラックスを用いたプライマー塗布鋼板溶接時の耐ポックマーク性の改善を目的として、溶接時に発生するガスの溶接スラグ内からのガス抜けについて鋭意研究検討を重ねた。その結果、SiO2およびMgO源として用いるSiO2−MgO系酸化物の特性および組成とフラックスの組成を制御することが極めて有効であることを知見した。
そこで、発明者らは、上記観点からさらに検討した結果、特定成分のSiO2−MgO系複合酸化物を用いて、特定の成分となるように製造したフラックスによれば、プライマー塗布鋼板溶接時に発生するガスの溶接スラグからのガス抜けを改善でき、耐ポックマーク性を効果的に改善し得ることを知見した。さらに、ポックマークの発生とフラックスの溶融挙動との関係についても詳細に検討した結果、ポックマーク発生個数と、フラックスの焼結、軟化、溶融挙動、あるいはまた所定温度で加熱したときの嵩の減少量などとの間に極めて強い相関があることが判明した。
【0006】
この発明は、上記知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
(1) 800℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつSiO2:30〜60wt%、MgO:30〜50wt%、あるいはさらにMnO:0.01〜30wt%を含む、SiO2−MgO系複合酸化物を、フラックス中のSiO2源、MgO源、あるいはさらにマンガン酸化物源の少なくとも一部として10〜80wt%配合してなり、 1100 ℃× 30 分の熱処理による嵩の減少量が 20 %以下、軟化温度が 1200 〜 1300 ℃であることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
(2) 800℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつSiO2:30〜60wt%、MgO:30〜50wt%、あるいはさらにMnO:0.01〜30wt%を含む、SiO2−MgO系複合酸化物を10〜80wt%配合したフラックスであり、しかもこのフラックスは、少なくともマンガン酸化物(MnO量換算で):5〜20wt%、Li2O、Na2O、K2Oの合計量:3wt%以下を満足し、 1100 ℃× 30 分の熱処理による嵩の減少量が 20 %以下、軟化温度が 1200 〜 1300 ℃であることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
(3) 上記(1)または (2) に記載のフラックスにおいて、フラックスの成分組成が、全SiO2:30〜70wt%、MgO:3〜30wt%、マンガン酸化物(MnO量換算で):5〜20wt%、Li2O、Na2O、K2Oの合計量:3wt%以下Al2O3:2〜20wt%、CaO:10wt%以下、CaF2:15wt%以下および脱酸剤:10wt%以下を含有してなることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。最初に、この発明をするに至った経緯を実験結果に基づいて説明する。
表1に示す比率になるように配合した原料(ニッケルスラグはMgO、SiO2源であり、その組成は後述の表4に示す)を水ガラスを結合剤として12〜100 メッシュに造粒し、850 ℃、1時間の条件で焼成した。なお、フラックス中Na2O量がポックマーク発生に及ぼす影響を調べるため、結合剤にはNa2O含有量の異なる水ガラスを用いた。これらのフラックスと2wt%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用いて、溶接電流:750 A、溶接電圧:35V、溶接速度:40cm/min の溶接条件で、プライマー塗装を施したSS 400相当の鋼板を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。
得られた結果を表1に併せて示す。表1より明らかなように、MgOおよびSiO2源として用いる酸化物の種類およびフラックス中 Na2O量がポックマークの発生個数に及ぼす影響が極めて大きい。そこで、これらのフラックスの焼結、軟化、溶融挙動について調査した結果、ポックマークの発生個数が多いフラックスに比べ、発生個数の少ないフラックスは1100℃×30分の熱処理によるフラックスの嵩の減少量が20%以下と小さく、また軟化温度が1300℃以下と低いことが判明した。
【0008】
【表1】
【0009】
このフラックスの焼結, 軟化, 溶融挙動, あるいはまた所定温度で加熱したときの嵩減少量がポックマーク発生と密接な関係がある理由としては、下記のようなことが考えられる。
通常、溶接時に生成する溶接スラグは、図1に示すような断面を有する。図中の1−a 部は、溶接時にはフラックスが溶融して溶融スラグとなり、溶接後凝固した部分である。それに対し、図中の1−b 部は溶接時においてもフラックスは完全に溶融せずにフラックスの一部のみが溶融し、凝固時に溶融していないフラックス成分とともに溶接スラグとなった部分、もしくは溶融しても溶融したスラグがほとんど流動しなかった部分である。この1−b 部が、溶接時に発生するガスの溶接スラグからのガス抜けに影響すると考えられる。1−b 部では、溶接時の最高加熱温度が場所により異なり、1−a 部と接する部分がいちばん高い温度まで加熱され、またその反対側の溶融しなかったフラックスと接していた部分がいちばん低い温度に加熱された場所となる。1100℃×30分の熱処理によるフラックスの嵩の減少量が小さく、軟化温度が低くなると、この1−b 部の生成量が少なくなり、溶接時に発生するガスの溶接スラグからのガス抜けが改善されると考えられる。
【0010】
つぎに、発明者らは、フラックスのMgOおよびSiO2源となる酸化物およびフラックス組成がポックマーク発生に及ぼす影響について検討した。フラックスのMgOおよびSiO2源となる酸化物原料の組成を表2に示す。ここに、溶解原料はニッケルスラグと酸化マンガンを電気炉で溶解して製造したものであり、オリビンサンドおよび溶解原料はフラックス原料中の結晶水等の水分の影響を除去するために 850℃で10分間熱処理したものを用いた。
表2の酸化物原料を用いて、主成分が表3となるように配合してフラックスを製造した。これらのフラックスと2wt%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用い、溶接電流:700 A、溶接電圧:33V、溶接速度:65cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施したSS 400相当の鋼板を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。
溶接結果をもとに、フラックス中のMnO量がポックマーク発生に及ぼす影響を調べたところ図2に示す結果となった。図2から、フラックスのMgOおよびSiO2源となる酸化物原料の種類とともに、フラックス中のMnO量がポックマーク発生個数に及ぼす影響が極めて大きいことがわかる。このようなMnOによる影響は、フラックスの軟化温度の低下によるものであると考えられた。
【0011】
【表2】
【0012】
【表3】
【0013】
以上の実験をさらに押し進め、研究を重ねた結果、ポックマークの発生を抑制するには、フラックスの原料に用いるMgOおよびSiO2源となる酸化物の種類 (特性) 、組成とフラックス中のMnO量を適正化することによって、フラックスの焼結、軟化、溶融挙動、さらに前記嵩の減少量を制御することがとくに重要であることがわかった。
とりわけ、ニッケルスラグやオリビンサンドに例示される、特定の成分および特性をもつSiO2−MgO系の複合酸化物を配合原料とし、これらを特定の成分となるように用いて製造したフラックスは、プライマー塗布鋼板の溶接において、発生ガスの溶接スラグからのガス抜けを良好にし、耐ポックマーク性を効果的に改善することが明らかとなった。
ここで、プライマー塗布鋼板とは、鋼溶接構造物の製作期間中における鋼板の発錆防止または防食・下塗りのためにプライマー塗料を鋼板に塗布したものである。プライマー塗料としては、無機ジンクリッチプライマー, ウォッシュプライマーなどがある。
【0014】
以下に、本発明における構成要件を前記範囲に限定した理由について説明する。
本発明では、還元性雰囲気における800 ℃での還元減量が0.05wt%以上、かつMgOを30〜50wt%、SiO2を30〜60wt%含有するSiO2−MgO系の複合酸化物を原料中に10〜80wt%含有 (配合) させる必要がある。
まず、本発明フラックスの原料に添加するSiO2−MgO系複合酸化物は、800 ℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上である必要がある。還元減量0.05wt%以上を満足するだけの量の鉄分を複合酸化物中に含有することにより、フラックス原料の予備乾燥処理などを施した際に、微量の酸化鉄を含むSiO2−MgO系酸化物が形成され、この微量の酸化鉄を含むSiO2−MgO系酸化物がフラックスの軟化温度の低下に顕著に貢献する。還元減量が0.05wt%未満では、十分な軟化温度の低下がもたらされず、とくにプライマー塗装材のようなガス発生の激しい素材の溶接においてポックマークを充分低減することができない。
なお、還元減量とは還元雰囲気 (通常、露点−20℃以下の水素ガス) 中で熱処理したときの重量減少率のことであり、800 ℃の還元性雰囲気における還元減量とは、800 ±10℃で60分間保持する還元減量試験をJIS H2601 に準拠した方法により測定した値を意味する。
【0015】
SiO2−MgO系複合酸化物の量は、フラックス原料粉の合計量 (結合剤は含めない) に対し10〜80wt%とするのが好ましい。SiO2−MgO系複合酸化物原料の量が10wt%未満でも、ポックマーク発生抑制効果はある程度期待できるが、10wt%以上添加することで極めて良好な耐ポックマーク性を得ることができる。一方、ビード外観を良くするためのふっ化物、脱酸剤あるいは造粒時の結合剤を必要量を確保することも考え、SiO2−MgO系の複合酸化物の添加量は80wt%以下、好ましくは70wt%以下とする。
【0016】
上記SiO2−MgO系の複合酸化物は、MgOの含有量が30〜50wt%でかつSiO2の含有量が30〜60wt%であることが好ましい。SiO2−MgO系複合酸化物のMgOおよびSiO2の含有量がこの範囲よりはずれるとフラックスの軟化温度が上昇し、溶接時に発生するガスのスラグ内からのガス抜けが悪くなり、ポックマークが発生しやすくなる。
SiO2−MgO系の複合酸化物の形態としては、 Mg2SiO4およびMgSiO3などが存在するが、複合酸化物の組成比率がMgO:30〜50wt%、SiO2:30〜60wt%であればポックマークを抑制する効果が得られる。この効果は、 Al2O3、CaO、 Cr2O3、Fe酸化物など他の成分を含んでいても影響はない。なお フラックス成分調整の観点からは、MgOの含有量を30〜45wt%とするのが好ましい。
また、このSiO2−MgO系複合酸化物には、MgOおよびSiO2の他に、マンガン酸化物を0.01〜30wt%(MnO量換算で)含有しても構わない。ただし、マンガン酸化物含有量がこの範囲よりはずれるとポックマークが発生しやすくなる。よって、SiO2−MgO系複合酸化物中のマンガン酸化物(MnO量換算で)含有量は0.01〜30wt%が好ましい。
【0017】
本発明フラックスの原料として好適であるSiO2−MgO系複合酸化物の具体例としては、溶解により製造した溶解原料、ニッケルスラグ、オリビンサンド、蛇紋岩などが挙げられる。これらの他にも、SiO2、MgO、マンガン酸化物を適正量含有した複合酸化物であれば同様な作用効果が期待され、使用上の支障はない。
【0018】
しかしながら、一般に上記の溶解原料やスラグ類はそのままでは0.05wt%以上の還元減量を有さないので、かかる還元減量を得るために必要な処理を行う。
具体的には、400 〜1300℃程度の酸化性雰囲気下 (大気下など) にて5〜60分程度の予備焼成処理を施し、結晶水等の水分を除去すると共に、原料中の鉄分を酸化させることによって還元減量を増加させる。
この予備焼成処理は、鉱石原料等において水分除去のために行われるものに類似し、同じ設備で処理できるが、好適な鉄酸化物を形成しうる焼成温度の設定に留意して処理する点で、単なる水分除去処理とは異なる。
【0019】
上述したSiO2−MgO系複合酸化物をフラックス原料として配合することのほか、フラックスの成分組成は、焼成後のフラックス原料粉と結合剤の合計量に対して、以下の範囲に調整することが望ましい。
マンガン酸化物:5〜20wt%(MnO量換算で)
マンガン酸化物含有量はMnO量換算で5〜20wt%とする。マンガン酸化物量が5wt%未満ではフラックスの軟化温度の低下が不十分となり、一方、20wt%を超えると溶接スラグが脆くなりスラグの剥離性が劣化するなどの問題が生じる。このため、マンガン酸化物の含有量は、MnO量換算で5〜20wt%の範囲とするのが望ましい。
【0020】
Li2O、Na2O、K2O の合計量:3wt%以下
Li2O、Na2O、K2O の各含有量の合計量は3wt%以下に限定するのが好ましい。フラックスの軟化温度を低めに制御したフラックスであっても、Li2O、Na2O、K2O の合計量が3wt%を超えると、1100℃以下の温度域においてフラックスが部分的ではあるが多量に溶融するため、フラックスの1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量が20%を超え、ポックマーク発生を充分防止することができない。これらの合計量を3wt%以下に保つには、配合する原料に留意する必要があり、とくに溶接スラグ等の再生原料については、含有されるLi2O、Na2O、K2O の量を注意して管理することが好ましい。
【0021】
全SiO2:30〜70wt%
SiO2は、ビード外観を良好に保つための造滓剤として添加する。全SiO2量が30wt%未満ではその効果が少なく、とくに高速隅肉溶接のようにビード端部のなじみが重要な場合には、30wt%未満では良好なビードが保持できない。一方、70wt%を超えて多量に含まれると粘性が高くなりすぎてかえってビード外観が乱れやすくなり、またスラグの剥離性が劣化するなどの不具合が生じる。このため、全SiO2の量は30〜70wt%の範囲とするのが好ましい。
【0022】
MgO:3〜30wt%
MgOは、スラグの融点および粘性を調節し、優れたスラグ剥離性を確保するのに有用な成分である。3wt%未満では十分な効果が得られず、一方、30wt%を超えると粘性が低下し過ぎたり、融点が上昇し過ぎてビード外観が劣化する傾向が現れる。このため、MgOは3〜30wt%の範囲とするのが望ましい。
【0023】
Al2O3 :2〜20wt%
Al2O3 はスラグの粘性および融点を調整する上で重要な成分であるが、2wt%未満ではこれらの効果に乏しく、一方20wt%を超えると融点が上昇しすぎてビード形状の劣化を招くので、含有量は2〜20wt%の範囲とするのが望ましい。
【0024】
CaO:10wt%以下
CaOは、スラグの流動性に影響を及ぼす成分であり、10wt%を超えると流動性が阻害されビード形状の劣化を招くため、CaOは10wt%以下とするのが望ましい。なお、好ましい含有量は5wt%以下である。
【0025】
CaF2:15wt%以下
CaF2は、スラグの流動性を向上させる成分であり、15wt%を超えるとスラグが流動し易くなる。このためCaF2は15wt%以下とするのが望ましい。なお、好ましい含有量は5wt%以下である。
【0026】
これらの他に、必要に応じ、スラグ生成剤として、TiO2:10wt%以下、BaO:5 wt%以下、ZrO2:5wt%以下、B2O3:4wt%以下、CaCO3 :5wt%以下から選ばれる1種以上を添加してもよい。
TiO2は、溶接中に還元され、溶接金属中へTiが移行し溶接金属の靱性を向上させる作用を有するが、10wt%を超えるとかえって靱性が劣化する。
BaOおよびZrO2は、スラグの塩基度や融点を調整するために添加する。しかし、5wt%を超える添加は、いずれもビード外観やスラグ剥離性を劣化させる。
B2O3は、溶接中の還元反応により、溶接金属中にBが移行して溶接金属の靱性改善に寄与する。しかし、4wt%を超えると溶接金属の凝固割れを助長する。
CaCO3 は、溶接中に分解してCO2 を発生し、水素分庄を下げるため溶接金属中の水素量低減に有効である。しかし、5wt%を超えるとビード外観を劣化させる。
【0027】
脱酸剤:10wt%以下
さらに、上記した以外に、脱酸剤を添加するのが好ましい。脱酸剤はビードの表面光沢を向上させ、また溶接金属の靱性を向上させるために配合するのが好ましい。脱酸剤としては、Ti、Al、Si、Mn等あるいはそれら元素と鉄(Fe)との合金が考えられるが、なかでもSi、Mnあるいはフェロシリコン、フェロマンガンが好適である。脱酸剤は1種のみでも、また、複合して添加してもよい。しかし、10wt%を超えて添加しても効果が飽和するので、脱酸剤の添加は10wt%以下とするのが望ましい。なお、好ましい添加量は1wt%以上である。
【0028】
所定量配合されたこれらのフラックス原料は、結合剤とともに混練され、造粒されたのち焼成される。造粒法はとくに限定しないが、転動式造粒機、押し出し式造粒機を用いるのが好ましい。造粒されたのち、ダスト除去、粗大粒の解砕などの整粒処理を行って、粒子径が0.075 〜1.4 mmの範囲となる大きさの粒子とするのが好ましい。
なお、結合剤(バインダ)としては、ポリビニルアルコールなどの水溶液、水ガラスが好適である。なかでも、従来から用いられているSiO2と Na2Oのモル比:1〜5の珪酸ソーダ(水ガラス)で十分である。また、使用量はフラックス原料1kgあたり80〜150 cc程度でよい。
また、焼成温度は650 ℃以上とするのが好ましい。というのは、焼成温度が650 ℃を下回ると、結合剤(バインダ)より持ち込まれる水分の乾燥が不十分となり、溶接金属中の拡散性水素の増加を招くからである。
【0029】
以上のように、本発明フラックスは、上記の工程のように、フラックス原料粉と結合剤とを混合し焼成した焼成型フラックスであり、フラックス原料粉として、800 ℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつMgOを30〜50wt%、SiO2を30〜60wt%、あるいはさらにMnOを0.01〜30wt%含むSiO2−MgO系の複合酸化物を原料粉の合計量に対して所定量含有するものである。このほか、マンガン酸化物と、 Li2O、 Na2OおよびK2 Oの1種以上などを焼成後の原料粉量に対して所定量含有する。
上記の成分で一連の工程で焼成することにより、1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量が20%以下となり、また軟化温度が1200〜1300℃となって、ポックマーク抑制に好適なフラックス特性が得られる。
【0030】
1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量が20%を超えると溶接時に発生するガスのスラグ内からのガス抜けが非常に悪くなり、ポックマークが発生しやすくなる。このため、本発明の焼成型フラックスの1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量は20%以下とした。
ここで、嵩の減少量とは、熱処理時のフラックスの焼結および部分的な溶融にともなうフラックスの嵩 (占める体積) の減少率を意味し、フラックスを充填した磁製るつぼを上記条件で熱処理し、その前後のフラックスの嵩測定から減少率を求めたものである。具体的測定を次に示す。磁製るつぼへのフラックスの充填は漏斗を用いて行い、るつぼが一杯になってあふれ出るまで流し込む。あふれ始めたら直ちにフラックスの流入をやめ、振動を与えないようにるつぼの上に盛り上がったフラックスをへら等でるつぼの上端に沿って平らにかきとる。このフラックスを充填した磁製るつぼを大気中において1100℃で30分保持する熱処理を行う。
【0031】
フラックスの軟化温度は1200℃〜1300℃以下とする。フラックスの軟化温度が1300℃を超えると、溶接時に発生するガスのスラグ内からのガス抜けが非常に悪くなり、ポックマークが発生しやすくなる。また、フラックスの軟化温度が1200℃未満では溶接スラグが脆くなりスラグの剥離性が劣化するなどの問題が生じる。このため、フラックスの軟化温度は1200℃〜1300℃の範囲とする。
ここで、フラックスの軟化温度は、フラックスを 150μm以下に粉砕後、成形圧力:1.27t/cm2 で直径10mm、高さ10mmのボタンを作り、これを炉内で連続的に加熱し、元の高さの80%の高さになる温度で定義した。
【0032】
以上述べたように、本発明者らの知見によれば、とくにプライマー塗装材のようなガス発生の激しい素材の溶接においてもポックマークの発生を防止するためには、フラックスの一部溶融温度を1100℃以上の高温とし (1100℃×30分の熱処理による嵩の減少量≦20%) 、かつフラックスの軟化温度は1300℃以下と低めの温度に設定することにより、スラグ内からのガス抜けの悪いスラグ層の幅を狭くすることが重要である。
しかるに、たとえばMgO等を添加してフラックスの一部溶融温度を上昇させるとフラックス軟化温度も上昇し、また逆に一方を低温とすると他方の温度も下がるため、フラックスに求められるこのような特性を得るのは困難であった。
本発明によれば、MgO等の適正量の添加や、とりわけLi2O、Na2O、K2O の合計量制限等によりフラックスの一部溶融温度を適度に上昇させ、かつ、特性等を適正に制御したSiO2−MgO系複合酸化物原料を用いること等によりフラックスの軟化温度は適度に低減することができ、上記条件を満足するフラックスを得ることができ、溶接に際してのポックマークの発生を回避することができる。
当然、上記条件を満足するフラックスは、プライマーを塗布していない鋼板に対してもポックマークの発生を非常に効果的に防止できる。
【0033】
【実施例】
実施例1
機械粉砕により粒径:300 μm以下とし、還元減量が0.03wt%である表4に示す組成のニッケルスラグを熱処理により還元減量が0.05wt%のフラックス原料とした。これらのニッケルスラグをフラックス原料粉として、表5に示す割合で配合し、結合剤とともに混練し、12〜200 メッシュの粒子に造粒したのち、750 ℃×1hrで焼成して、焼成型フラックスを得た。得られたフラックス中のLi2O、Na2O、K2O の合計含有量はいずれも3wt%以下であった。
これらのフラックスと2%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用いて溶接電流:750 A、溶接電圧:35V、溶接速度:40cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B)を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃×30min の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。それらの結果を表6に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
表6より、還元減量が0.05wt%であるニッケルスラグをフラックス原料に用いた発明例(フラックスNo. 2)は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、還元減量が本発明の範囲外であるニッケルスラグをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo. 1)とSiO2−MgO系複合酸化物を用いずに単体の酸化物である珪砂とマグネシアクリンカーをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo. 3)はフラックスの軟化温度が本発明範囲外となり、ビード表面にポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。
【0038】
実施例2
フラックス原料に用いたSiO2−MgO系複合酸化物の組成を表7に示す。溶解原料はニッケルスラグと酸化マンガンを電気炉で溶解して製造したものである。また、オリビンサンドには熱処理雰囲気を変えることにより還元減量が0.04wt%と0.26wt%の2種類のものを用いた。
これらのSiO2−MgO系酸化物をフラックス原料粉として、表8に示す割合で配合し、結合剤とともに混練し、12〜100 メッシュの粒子に造粒したのち、850 ℃×30 minで焼成して、焼成型フラックスを得た。得られたフラックス中のLiO2、Na2O、K2O の含有量がいずれも3wt%以下であった。
以上のフラックスと2wt%Mn系ワイヤ(4.8 mmφ)を用いて溶接電流:750 A、溶接電圧:35V、溶接速度:40cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B ) を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃×30min の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。それらの結果を表9に示す。
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
表9より、還元減量が0.26wt%であるオリビンサンドおよび溶解原料をフラックス原料に用いた発明例(フラックスNo. 5、6)は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、還元減量が本発明の範囲外であるオリビンサンドをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo. 4)はフラックスの軟化温度が発明範囲外となり、ビード表面にポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。
【0043】
実施例3
実施例2で用いた還元減量0.26wt%のオリビンサンドをフラックス原料として20wt%配合し、結合剤とともに混練し、12〜65メッシュの粒子に造粒したのち、900 ℃×5min で焼成して、焼成型フラックスを得た。それぞれのフラックスに対してNa2O含有量の異なる結合剤 (水ガラス) を用いた。得られたフラックスの組成を表10に示す。これらのフラックスと2%Mn系ワイヤ (4.8 mmφ) を用いて溶接電流:800 A、溶接電圧:35V、溶接速度:60cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B ) を下向き隅肉溶接し、ポックマークの発生状況について調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。それらの結果を表11に示す。
表11より、還元減量が0.26wt%であるオリビンサンドをフラックス原料に用い、フラックスの成分組成が本発明の適正範囲内である発明例 (フラックスNo. 7 ) は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、フラックス中Na2O, K2O , Li2Oの合計量が本発明の範囲外である比較例 (フラックスNo. 8 ) は、嵩の減少量が発明範囲外となり、ビード表面にポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。また、フラックス中マンガン酸化物量が本発明の範囲外である比較例 (フラックスNo. 9) は、軟化温度が本発明の範囲外であるが、ポックマークの発生量は比較的少ない。しかし、フラックス中マンガン酸化物量および軟化温度が発明範囲外であることよりスラグが非常に脆くなり、スラグの剥離不良が発生し、溶接作業性が低下した。
【0044】
【表10】
【0045】
【表11】
【0046】
実施例4
実施例2で用いたオリビンサンド(表7)を定置式バッチ炉およびベルト式焼成炉を用いて 850℃で5分間の予備焼成熱処理を行った。得られた酸化物原料の性状を表12に示す。定置式バッチ炉およびベルト式焼成炉で焼成したオリビンサンドはいずれも原料中の水分量が十分に減少している。一方、還元減量はベルト式焼成炉で焼成したものの方が定置式バッチ炉で焼成したものに比べて大きくなっている。
これらのSiO2−MgO系酸化物をフラックス原料として、表13に示す割合で配合し、結合剤とともに混練し、12〜150 メッシュの粒子に造粒したのち、 950℃×5min の焼成を行い、焼成型フラックスとした。得られたフラックス中のLiO2、Na2O、K2Oの含有量はいずれも3wt%以下であった。
【0047】
これらのフラックスと2%Mn系ワイヤ(4.8mm)を用いて、溶接電流:800 A、溶接電圧:35V、溶接速度:60cm/min の溶接条件でプライマー塗装を施した鋼板 (SM 490B ) を下向き隅肉シングル溶接し、ポックマークの発生状況を調査した。また、それぞれのフラックスの1100℃の熱処理による嵩の減少量および軟化温度を測定した。得られた結果を表14に示す。
表14から、還元減量が0.12wt%であるベルト式焼成炉で焼成したオリビンサンドをフラックス原料に用いた発明例(フラックスNo.11)は、嵩の減少量および軟化温度が本発明の適正範囲内であり、ポックマークの発生量が少なく、良好なビード外観が得られることがわかる。一方、定置式バッチ炉で焼成した、水分量は減少したものの還元減量が本発明の範囲外にある、オリビンサンドをフラックス原料に用いた比較例(フラックスNo.10)は、フラックスの軟化温度が本発明範囲外となり、ポックマークが発生し、ビード外観不良となっている。。
【0048】
【表12】
【0049】
【表13】
【0050】
【表14】
【0051】
図3は、発明者らが下向き隅肉溶接実験に用いた試験片の開先形状を示すものである。なお、母材1と母材2が接する部分のプライマー塗料はグラインダーにより除去したが、溶接による肉盛り部が掛かる部分には、プライマー塗料が残存していた。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、溶接時に発生するガスの溶接スラグ内からのガス抜けに好ましいフラックスの特性を定め、またフラックスの配合原料を適正化することにより、プライマー塗布鋼板溶接時に懸念される、耐ポックマーク性を大幅に改善できる。また本発明によれば、耐ポックマーク性の改善に伴い、ポックマークの発生原因と関連するビード形状不良、ビード趾端部のなじみ不良およびアンダーカット等の欠陥の発生も抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接スラグの断面を示す模式図である。
【図2】フラックス中のMnOがポックマークの発生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】下向き隅肉溶接に用いた試験片の開先形状を示す図である。
Claims (3)
- 800℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつSiO2:30〜60wt%、MgO:30〜50wt%、あるいはさらにMnO:0.01〜30wt%を含む、SiO2−MgO系複合酸化物を、フラックス中のSiO2源、MgO源、あるいはさらにマンガン酸化物源の少なくとも一部として10〜80wt%配合してなり、 1100 ℃× 30 分の熱処理による嵩の減少量が 20 %以下、軟化温度が 1200 〜 1300 ℃であることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
- 800℃の還元性雰囲気における還元減量が0.05wt%以上、かつSiO2:30〜60wt%、MgO:30〜50wt%、あるいはさらにMnO:0.01〜30wt%を含む、SiO2−MgO系複合酸化物を10〜80wt%配合したフラックスであり、しかもこのフラックスは、少なくともマンガン酸化物(MnO量換算で):5〜20wt%、Li2O、Na2O、K2Oの合計量:3wt%以下を満足し、 1100 ℃× 30 分の熱処理による嵩の減少量が 20 %以下、軟化温度が 1200 〜 1300 ℃であることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
- 請求項1または2に記載のフラックスにおいて、フラックスの成分組成が、全SiO2:30〜70wt%、MgO:3〜30wt%、マンガン酸化物(MnO量換算で):5〜20wt%、Li2O、Na2O、K2Oの合計量:3wt%以下Al2O3:2〜20wt%、CaO:10wt%以下、CaF2:15wt%以下および脱酸剤:10wt%以下を含有してなることを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
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