以下、本発明に係る車椅子10の一実施例を、図面を用いて説明する。図1は、車椅子10の一実施例の斜視図であり、後方から見た図である。図2Aは、大車輪37の左側の車軸40を軸方向中間部で切断して左右方向最外側部分を除いた、車椅子10の主要部の側面図である。図2Bは、車椅子10の主要部の後面図である。
なお以下の説明では、車両のトランクルーム等に収納可能な折り畳み式の車椅子10を例にとり説明するが、車椅子10は折り畳み式に限るものではない。また、図面の明瞭さのために、ハンドリムや使用者が使用可能なブレーキ装置は図示を省略しているが、それらは付属されていてもよいことは言うまでもない。ただし、本発明では、使用者の他に介助者がこの車椅子10の操作をできるように、介助者専用のブレーキ装置を備える。
車椅子10の後部には、使用者がこの車椅子10を操作するために、把持部22が設けられている。把持部22は、車椅子10のフレーム20の上端部及び後端部を形成する。フレーム20では、その上側部分である上フレーム20aの前後方向中間部に、使用者の腕を乗せることができるアームレスト(肘掛け)21が形成されている。
フレーム20は、上フレーム20aと、上フレーム20aに後部で接続する縦フレーム20bと、縦フレーム20bの下端と接続し、前後方向に延びる下フレーム20cを含む。これらは、ほぼ左右同一形状の1対の左枠部24、右枠部25を形成し、一端が左、右枠部24、25のいずれかの底面に回動可能に固定された複数の座面部材27、28を付設する。なお軽量化のために、フレーム20には、中空のアルミパイプを用いることが多い。
異なる枠部24、25に一端(下端)が固定された座面部材27、28の丸棒部材27a、28a同士を長手方向中間部で互いに交差させ、交差部30に軸部材31を配設する。軸部材31は、左右の枠部24、25を連結している。丸棒部材27a、28aの他端側は、車椅子10の前後方向に連結部材27b、28bで連結され、後述する布製の覆い部材43の取付け部を形成する。覆い部材43は、使用者が着座する座面を形成する(図2B参照)。軸部材31を中心に丸棒部材27a、28aを回動させることにより、左、右枠部24、25は互いに接近または離反し、これにより車椅子10は折り畳まれ、または伸展する。
左、右枠部24、25の前端部であって下部には、下方に延びる垂直部材33が形成されており、垂直部材33には、キャスタ式の小車輪35が取り付けられる。小車輪35は、鉛直軸周りに回動可能であるとともに、地面に沿って回動自在である。左右の枠部24、25の小車輪35の取付位置近傍であって車椅子10の左右方向の内側には、使用者の足を乗せる使用者用の踏板(ステップ)45が折り畳み可能に設けられている。
左、右の枠部24、25の後部下方であって左、右の枠部24、25の外側には(左右両側に)、車椅子10の大車輪37が取り付けられている。大車輪37は、本図ではハンドリムがない状態で示されているが、ハンドリムを有するものであってもよい。左、右枠部24、25の後部上端部の把持部(グリップ)22には、詳細を後述するブレーキ装置100のブレーキレバー102が取り付けられている。左、右枠部24、25の側面部、背面部および底面部には、使用者を包み込むように、覆い部材(カバー)41、42、43が配設され、被介助者が着座可能な座席が構成されている。側面部の覆い部材41のみは、車椅子10の折り畳みにより形が変形しないので、硬質で軽量な、例えば木製やアルミ製、プラスチック製の板等を使用する。背面部および底面部は、車椅子10の折り畳みによりその形状が変化するので、覆い部材42、43には触感に優れる布等を用いる。
図3ないし図9をも用いて、本発明に係るブレーキ装置100の一実施例を説明する。ブレーキ装置100は、使用者(被介助者)が搭乗した状態で車椅子10を走行中に、坂道等で車椅子10が急加速するのを防止するために、介助者が介助者用のブレーキレバー102を把持して操作する走行ブレーキ110と、車椅子を駐車(パーキング)して固定するための駐車ブレーキ120を含む。本発明では、走行ブレーキ110と駐車ブレーキ120は、後述するように同じブレーキシュー210とドラム212を使用している。同一のブレーキシュー210を作動させるため、走行ブレーキ110は、ドラム212とブレーキシュー210部を除く走行ブレーキ機構130を、駐車ブレーキ120は同様にドラム212とブレーキシュー210部を除く駐車ブレーキ機構140を、それぞれ有する。
図2A、2Bに示すブレーキ装置100の主要部は、車椅子10の大車輪37の車軸40(車軸部)に取り付けられる。図2A、2Bでは、理解を容易にするために、大車輪37の一部を省略している。車軸40には、サーボブレーキとも呼ばれるドラムブレーキ200が取り付けられる。なお、ブレーキはサーボブレーキに限るものではなく、バンドブレーキもほぼ同様に使用できる。
図3に、ドラムブレーキ200の概略図を示す。カップ型(円筒形状)に形成されたドラム(ケーシング)212内(内周側)に、2つ割れ形状であって、一端部がアンカーピン214で連結された一対のブレーキシュー210、210が収容されている。ドラム212の内面にはライニング216が設けられており、このライニング216の内面に一対のブレーキシュー210、210が対向している。
ブレーキシュー210の連結端とは反対端は、ドラム212の周方向に間隙cがあいており、その間隙cには、支軸218がドラム212に回動可能に固定された作動カム220が配設されている。作動カム220は、例えば長円形のような半径方向長さが角度位置により異なる形状である。作動カム220が支軸218とともに回転することにより、一対のブレーキシュー210、210間の間隙cを変化させ、それにより、ライニング216に対向するブレーキシュー210をライニング216に近づけるまたは遠ざける、すなわち、ドラムの内周側に接近及び退避可能な状態でブレーキシューが配設されている。
ブレーキシュー210をライニング216に接触するまで近づけると、ブレーキシュー210とライニング216間で摩擦が生じ、接触の程度に応じて、大車輪37とともに回転するドラム212の回転速度を減少させるまたは停止させる。一対のブレーキシュー210、210間を複数のばね222が接続しており、ドラムブレーキ200のブレーキ動作を解除する際に、早期に解除するもしくは早期に元の状態に復帰するのを支援する。
支軸218はドラム212の側面を貫通して突出しており、この突出部に作動カムレバー240が取り付けられている。作動カムレバー240は、作動カム220と同期して回動する。作動カムレバー240は、接続金具144に連結されている。接続金具144には、走行ブレーキ機構130が有するワイヤー132が接続されるとともに、駐車ブレーキ機構140が有する位置調整ばね142が接続されている。したがって、作動カムレバー240をワイヤー132が駆動するか、位置調整ばね142が駆動するかで、ドラムブレーキ200を、走行ブレーキ110として機能させるか、駐車ブレーキ120として機能させるかが切り替えられる。
なお、位置調整ばね142や接続金具144、作動カムレバー240は、走行ブレーキ機構130と駐車ブレーキ機構140を接続する接続機構を構成する。この接続機構により走行ブレーキ機構130と駐車ブレーキ機構140の両機構は一体化される。ここで、一体化とは、両機構が独立して動作するだけではなく、関連して動作することが可能になることを意味する。
図4および図5を用いて、走行時に制動力を付与する走行ブレーキ110について以下に説明する。図4は、車椅子10の走行ブレーキ機構130の模式図を示し、走行ブレーキを動作させない状態である。図5は、ブレーキレバー102を操作して、走行ブレーキ110を動作させた状態の模式図である。走行ブレーキ110も駐車ブレーキ120も同一のブレーキ手段であるドラムブレーキ200を用いているので、走行ブレーキ110から共通のブレーキ手段であるドラムブレーキ200の部分を除いた部分を走行ブレーキ機構130としている。走行ブレーキ110は、家庭用自転車の後輪に用いられるものとほぼ同一の機構・構成である。
車椅子10のフレーム20の後部上端(背面側)に設けられる把持部22には、自転車で用いるのと同様の開閉式のブレーキレバー102が取り付けられている。ブレーキレバー102の一端には、ワイヤー132が取り付けられている。ワイヤー132には、プラスチックの被覆内に素線138が移動可能に収容されている。介助者がブレーキレバー102を開閉するごとに、ワイヤー132の素線138が介助者側へ延び、または車椅子側に退避する。ワイヤー132の長手方向中間部であってプラスチック被覆の終端点には金属金具の固定部134が設けられている。固定部134は、ドラムブレーキ200の外表面から半径方向外側に延在する固定板224に固定されている。したがって、フレキシブルなワイヤー132はこの固定部134で位置決めされている。
固定部134よりも先端側のワイヤー132の部分は、被覆のない素線138だけの状態であり、この部分に復帰ばね136が巻回されている。復帰ばね136が巻回された部分よりもさらに先端に位置するワイヤー132の部分には、接続金具144に形成された長穴176に嵌合するワイヤー取付け具174(ワイヤー部材)が設けられている。ワイヤー取付け具174は、一端がドラムブレーキ200の支軸218に係合する作動カムレバー240の他端部にも係合する。上述した通り、作動カムレバー240は、支軸218の回動と同期して回動するので、ブレーキレバー102が操作されるとワイヤー132の素線138が移動し、ワイヤー取付け具174も移動して、ワイヤー取付け具174が嵌合する作動カムレバー240を動かす。作動カムレバー240は、回動しかできないので、ワイヤー取付け具174は作動カムレバー240の動きに応じた回動運動をする。
接続金具144には、駐車ブレーキ機構140の位置調整ばね142も取り付けられている。そのため、位置調整ばね142とワイヤー132の素線138が動いたときに、それらが接続金具144部で互いに干渉することがないように、接続金具144及び作動カムレバー240には折れ曲がり部182、184が形成されている。折れ曲がり部182、184は、一例が図2Bの後面図に示されるように、車椅子10の左右幅方向の段差として形成される。
走行ブレーキ110が作動していない図4の状態では、ワイヤー132の素線138は、最も延びた状態にあり、復帰ばね136は許容範囲内で最大に延びている。すなわち、ドラムブレーキ200では、一対のブレーキシュー210、210がライニング216から最も離れた位置にある。そのとき、作動カム220が配置される部分の間隙cは最小になる。
この状態から、ブレーキレバー102を操作して、走行ブレーキ110を作動させると、ワイヤー132の素線138は上方に移動させられる。それとともに、ドラムブレーキ200が有する作動カムレバー240に、ワイヤー取付け具174を介して固定されたワイヤー132の素線138は、作動カムレバー240を回動させ、図5では上方に回動させる。ブレーキレバー102の操作量はアナログ量で可変であるから、作動カムレバー240の回動量も可変であり、復帰ばね136の収縮量も可変である。
すなわち、ブレーキシュー210がライニング216に当接して生じるブレーキ力が可変に生じる。このことから、走行ブレーキ110のブレーキ力(制動力)を設定する際には、接続金具144にワイヤー取付け具174を取り付け、その際、ワイヤー取付け具174に取り付けるワイヤー132の素線138の位置でワイヤー長だけを調節すればよいことが分かる。したがって、走行ブレーキ110の調節は、自転車の場合と同様な方法で、容易に実行できる。
図6~図7を用いて、車椅子10の駐車ブレーキ120について説明する。図6は、駐車ブレーキ120の左側面図であり、駐車ブレーキ120を非動作にした場合の模式図である。図7は、駐車ブレーキ120が有する踏板部302を、例えば介助者が足で踏み込んで(押し下げて)、ロック状態にした状態を示す。踏板部302は介助者によって操作可能である。
駐車ブレーキ120は、ドラムブレーキ200を走行ブレーキ110と共用する。この共用部分を除いたのが、駐車ブレーキ機構140である。駐車ブレーキ機構140は、一端側を接続金具144に回動可能に固定された位置調整ばね142を有する。接続金具144は、走行ブレーキ110が有するワイヤー取付け具174を介して間接的にドラムブレーキ200の作動カムレバー240に接続されている。位置調整ばね142の他端側は、アーム310の前側アーム部材310aの端部(前端側)に、取付け具146を用いて回動可能に固定されている。
アーム310は、踏板部302から大車輪37の中心部向かって延在し、長手方向中間部において回動可能にフレーム20に固定されている。すなわち、前側に位置し、長さが短い前側アーム部材310aと後ろ側に位置し長さが長い後ろ側アーム部材310bを有する。各アーム部材310a、310bの一方端は、車軸40を囲むように「く」の字形に組み合わされてアーム310を形成し、アーム310の長手方向中間部において、回動軸170に嵌合される。そして、各アーム部材310a、310bは、互いの相対位置を変えないままで回動軸170周りに回動可能である。後ろ側アーム部材310bの端部には、車椅子10の左右方向に所定幅広がる踏板部302が形成されている。アーム部材310a、310bは図2Bから分かるように、大車輪37とフレーム20間の空間で動く必要があるので、幅の狭い板等で構成されるが、その幅では介助者が踏みつけるのが困難となるので、踏板部302は、左右に広がった板を用いる。なお、左右の大車輪37の双方にそれぞれ駐車ブレーキ120を設ける場合には、左右の踏板部302を一体化してもよい。例えば左右の踏板部302の端部を蝶番で一体化して中央で折れ曲がる構成としてもよい。その場合、1回、踏板部302を踏みつけるだけで、左右両輪を駐車モードにすることができる。
後ろ側アーム部材310bの長手方向中間部と、車椅子10の縦フレーム20bに取り付けた取付板148との間に、補助ばね160の両端部がばね取付け具162、164で取り付けられている。補助ばね160は、走行ブレーキ110を作動させたときに、駐車ブレーキ機構140が動くのを抑制する、および駐車ブレーキ120を解除するときの解除動作を補助する。
図6に示した駐車ブレーキの非作動状態から踏板部302を踏んで踏板部302を下方に移動させた、図7の状態では、前側アーム部材310aの端部に取り付けた位置調整ばね142が伸縮しながら、最終的に位置調整ばね142の一端が位置調整ばね取付け具172を用いて取り付けられた接続金具144を上方に押し出す。そして、接続金具144にワイヤー取付け具174を介して接続された作動カムレバー240を、極限まで回動させる。これにより、ドラムブレーキ200では、ブレーキシュー210がライニング216に密着当接し、車椅子10の車軸40の回転を完全に阻止する。
ところで、後ろ側アーム部材310bをある程度踏み込めば、駐車ブレーキ120は作動しはじめるが、踏板部302に荷重を加え続けて所定位置(最大踏み込み位置)まで踏み込まないと、位置調整ばね142および補助ばね160のばね力により、駐車ブレーキ120は、すぐに非作動の状態に戻る。図7の状態になるまで踏板部302をさらに踏み込むと、荷重を加え続けなくとも駐車ブレーキ120が元に戻ることはない。この違いを、図8を用いて説明する。
図8は、位置調整ばね142と前側アーム部材310aの相対位置関係を示す図であり。図8(a)は図6に対応する駐車ブレーキ120が非作動の状態を示し、図8(b)は図7に対応する駐車ブレーキ120が作動してロックしている状態を示す。位置調整ばね142の両端の点、すなわち位置調整ばね取付け具172の中心と取付け具146の回転中心、それと前側アーム部材310aの後ろ側アーム部材310bとの接続点である回動軸170の中心のなす角が、図8(a)では下に凸(非駐車時)であり、図8(b)では上に凸(駐車時)である。
換言すれば、それら3点の間のなす角θ(位置調整ばね142の両接続端と前側アーム部材310aの回動中心なす角θ)が、図8(a)では180°未満であり、図8(b)では180°を超えている。図8(a)の状態からθが180°を超えない程度に大きくすると、位置調整ばね142および補助ばね160のばね力が作用して、前側アーム部材310aを上面側で位置調整ばね142側へ近づけようとする。一方、図8(b)の状態では、位置調整ばね142のばね力は、前側アーム部材310aの下面側を位置調整ばね142側へ近づけようとするので、ロック状態が維持される。
ロック解除の場合には、上記角度関係が逆転するように、踏板部302の裏面側から足などで上向きに押すことにより、アーム310に力を加える。踏板部302の裏面側は肉厚をその他の部分より薄くしている。駐車ブレーキ120のロックを解除して、再度走行する場合に、履物等をこの増大した空間に挿入して足で踏板部302を持ち上げる。一旦、上記角度関係が逆転すると、その後は位置調整ばね142等の力も加わってロック解除が推進される。これにより、他の手段や援助を必要とすることなく、容易にロック解除できる。
以上説明したように本発明の実施例によれば、同一のドラムブレーキ200を用いることで、走行ブレーキ110と駐車ブレーキ120の構造を簡素化し、低コストでブレーキ装置100を実現できる。しかしながら、ドラムブレーキ200を走行ブレーキ110と駐車ブレーキ120で共用するようにしたので、従来考慮されなかった新たな課題も出現している。
第1点目は、走行ブレーキ110と駐車ブレーキ120の干渉である。走行ブレーキ110の作動中に、駐車ブレーキ120が作動することは望ましくない。しかしながら、同一のドラムブレーキに走行ブレーキ機構130と駐車ブレーキ機構140の両機構が接続されているので、互いの動作が相手に対して影響することはやむを得ない。この不具合を解消するため、図7等で示したように補助ばね160を設けている。補助ばね160は、先端に踏板部302が形成されたアーム310が非作動側に戻るように、アーム310を常時付勢している。つまり、補助ばね160のばね力は、ブレーキレバー102からワイヤー132を介して加わる介助者の握力がアーム310に加える力を、減殺する。これにより、走行ブレーキ110の作動中に、駐車ブレーキ120が作動することが回避される。
ちなみに、駐車ブレーキ120を作動させても、接続金具144に設けた長穴176をワイヤー取付け具174が移動するだけで、ワイヤー132がブレーキレバー102を開かせることはない。これは、ワイヤー132の素線138と被覆間の摩擦が大きいこととブレーキレバー102を把持状態にするのに相当の力を要するためである。そのため、ワイヤー132の素線138が固定部134から延在する長さは、ブレーキレバー102を開放した状態とほとんど変わらず、図7に一部を示すように、固定部134とワイヤー取付け具174間で、より正確には復帰ばね136の配設区間で屈曲する。
第2点目は、走行ブレーキ110と駐車ブレーキ120がドラムブレーキ200を共用した結果、走行ブレーキ機構130と駐車ブレーキ機構140の両機構を、車椅子10上に設ける尤度が減少した、言い換えれば、両機構(走行ブレーキ機構130、駐車ブレーキ機構140)を車椅子10上に精度よく位置決めする必要が生じていることである。別々のブレーキ装置であれば、車椅子10上に任意に設けることができるが、両機構(走行ブレーキ機構130、駐車ブレーキ機構140)は間接的に連結しており、また、車椅子10は2個の大車輪37を有し、それぞれにブレーキ装置100を設けるのが大部分であるから、組立に多大な工数を要する。
一般に、走行ブレーキ110は、自転車の後輪ブレーキと同様の構成であるから、その位置決め設定も自転車の場合と同様に行う。その後、駐車ブレーキ120を、走行ブレーキ110の位置決めされた位置に応じて、精密に位置決めする。そして、一旦、駐車ブレーキ120を位置決めしたら、再度、走行ブレーキ110を動作させて走行ブレーキ110の位置決めをやり直し、次いで駐車ブレーキ120の位置決めをするという作業を繰り返す。
本発明では、この走行ブレーキ110と駐車ブレーキ120の繰り返し位置決め手順を省くために、位置調整ばね142を設け、位置調整ばね142のばね力で位置決め誤差を吸収するようにしている。車椅子10では、左右の大車輪37、37におけるアーム310、310の許容取付け誤差またはアーム310、310相互の間の許容取付け誤差、ドラムブレーキ200の周方向許容取付け誤差等に起因して、組立時にアーム310と作動カムレバー240間に、累積組立誤差が生じる。この累積組立誤差は、左右のブレーキ装置100で異なる値である。本発明の位置調整ばね142は、その動作力が300N程度であり、累積許容誤差を容易に吸収可能であるから、組立許容誤差範囲内で組み立てれば調整が必要ない。その結果、1度の組立でブレーキ装置100の本来の効果を達成できる。これにより、作業工数が大幅に改善される。
本実施例によれば、制動部であるドラムブレーキを共用した簡単な構成の、走行ブレーキと駐車ブレーキを有するブレーキ装置を車椅子に設けることが可能になる。これにより、車椅子の組立工数を低減するとともに、低廉化が可能になる。
また、位置調整ばねを有する接続機構を、走行ブレーキ機構と駐車ブレーキ機構の接続部に設けたので、駐車ブレーキのロック解除の際にドラムブレーキを最大作動範囲にしたまま、足踏み式のアームの作動範囲を拡大できる。これにより、駐車ブレーキの確実なロックとロック解除を実現できる。
本発明に係る車椅子10の他の実施例を、図9以下を用いて説明する。図9は、車椅子10の主要部の側面図であり、図2Aと同様の図である。図9では、図面を見やすくするため、スポーク等の一部の部品の図示を省略している。また、上記実施例と同一部品または同一動作をする部品には、同一符号を付している。
図10(a)は、車椅子10が有するブレーキ装置100の車椅子10への取付け状態を示す模式側面図であり、図10(b)はA-A部の矢視図である。また、図10(c)は、カム-ラチェット機構の拡大図である。本実施例の車椅子10は、カム-ラチェット機構を用いてより確実に駐車ブレーキ120のロックおよびロック解除を実行するとともに、作動カムレバー240をローラ288を介して駆動するようにした点を特徴としている。なお、車椅子10の後面図は、図1に示したものと同様である。
図9、図10(a)の側面図に示すように、ブレーキ装置100が有する走行ブレーキ110は、図2Aに示した実施例の走行ブレーキ110と同一であるので、ここでは駐車ブレーキについてのみ説明する。上記実施例と同様に、アーム310は折れ曲がった形状に形成されており、車椅子10の後部に直線状に延びる後ろ側アーム部材310bの端部には介助者が足で踏み押すことができる踏板部302が形成されている。アーム310の前部を構成する前側アーム部材310aは、車椅子10の前側に直線状に延びており、その先端には、位置調整ばね142の一端部が取付け具146を用いて取り付けられている。アーム310の中間部を構成する中間アーム部材310cは、アーム310を折れ曲がった形状にして踏板部302を所定位置に設定可能にする。それとともに、第1のストッパ312の位置を位置決めする。第1のストッパ312については、詳細を後述する。
前側アーム部材310aと中間アーム部材310cの長手方向の境界付近で、アーム310は、取付板148に固定した回動軸170周りに回動可能に固定保持される。回動軸170には、アーム310と同期して、アームの回動中心周りに、外径が周方向に変化するカム板260が取り付けられている。なお、カム板260とアーム310は一体ものであってもよい。図10(c)に示すように、カム板260は円板の外周の一部を取り去った形状に形成されている。
カム板260の外周側には、ラチェット板254が配設されている。ラチェット板254は、爪274が一端側に形成された細長い板である。ラチェット板254において、爪274が形成された部分の反対側の側面は半円筒面に形成されており、第1のストッパ312の当接面270を形成する。ラチェット板254の内部であってこの当接面270の近傍に、長穴272が形成されている。長穴272は、取付板148に固定されたピン部材256に嵌合する。
ラチェット板254に形成された爪274が、カム板260に係止するようにラチェット板254の側面(トーションばね当接面)278は、トーションばね(押圧バネ)252で押圧されている。トーションばねは、針金を1重または2重程度丸めて、その両端部を直線状に伸ばした形状であり、一端側はある程度の長さラチェット板254に当接するように配設される。トーションばね252の他端部(ばね端部(固定側)248)は、取付板148に固定される。
踏板部302または後ろ側アーム300bが踏み降ろされるにしたがって、カム板260は、図10(c)において右側に回転する。図10(c)では図示していないトーションばね252(図10(a)参照)がラチェット板254を押圧するので、ラチェット板254はカム板260の外周部に当接する。まだ踏板部302を踏み降ろさない初期状態では、切り欠き部である第1の噛み合い部232へラチェット板254の爪274が嵌り込む。そして、ラチェット板254の爪274の背中側である当接面276が、カム板260の第1の噛み合い部232を区切る当接面230に当接して安定した噛合い状態を保持する。なお、第1の噛み合い部232の当接面230の反対面は平面状に形成されているので、爪274の内側の面と密着して噛み合い、カム板260、延いてはアーム310の逆転が防止される。
踏板部302を踏み降ろすと、ラチェット板254の当接面276が、カム板260の当接面230を滑って移動する。この滑って移動するのを阻害しないように、カム板260の当接面230は平面ではなく、滑らかな曲面に形成されている。さらに踏板部302が踏み込まれると、ラチェット板254の爪274は、カム板260の切り欠かれていない外周部である遷移部234の外周表面を移動した後、カム板260の切り欠かれた第2の噛み合い部236に嵌り込む。
第2の噛み合い部236の周方向端部には、カム板260の最大径よりも外径側に延びた、板状の第2のストッパ262が配設されている。第2のストッパ262の当接面238に爪274の当接面276が当接すると、後述の理由により踏板部302の負荷が急激に増加するので、カム板260とラチェット板254の爪274は、この第2の噛み合い部236で安定して噛み合う。なお、この場合も、第2の噛み合い部236において第2のストッパ262が配設された面と反対面は、半径方向に広がる平面状に形成されているので、カム板260とラチェット板254の爪274は安定した噛合いを維持し、カム板260、延いてはアーム310がひとりでに逆転することはない。
アーム310の長手方向中間部にある前側アーム部材310aの部分と、取付板148との間に、補助ばね160が配設されている。補助ばね160は、アーム310の踏板部302が踏み降ろされると、常にアーム310を元の方向に逆回転させようとする力を発生する。ただし、この逆回転力は、カム板260とラチェット板254の爪274が、第1、第2の噛み合い部232、236で噛合っているのを解除するほどの力ではない。
取付板148の上部であって図10(a)で左側(車椅子10の前側方向)には、L字状のローラ支持部材280(ローラ支持板)が支軸292周りに回動可能に取り付けられている。図10(b)に示すように、ローラ支持部材280は1対で形成されており、少なくとも一方のローラ支持部材280は、その長手方向中間部に折れ曲がり部294が形成されており、他の部品との干渉を避けるとともに、一対のローラ支持部材280、280間にローラ288を回転保持可能になっている。すなわち、L字に形成されたローラ支持部材の曲がり角近傍に設けた支軸284にローラ288が回動(回転)可能に嵌合され、支軸292の端部は締結具286で締結されている。ローラ支持部材280の短辺側端部には、位置調整ばね142の一端が、位置調整ばね取付け具172を用いて回動可能に取り付けられている。ローラ288は、位置調整ばね142のばね力により、ドラムブレーキ200の作動カムレバー240の側面に当接させられる。これにより、踏板部302が踏み降ろされると、それに伴い位置調整ばね142がローラ288を押し上げ、ローラ288は上方及び作動カムレバー240の根元側へ移動する。ローラ288のこの動作により、作動カムレバー240が回動し、ドラムブレーキ200が作動する。
図11を用いて、駐車ブレーキ120の動作状態を説明する。図11は、ブレーキ装置100の側面図であり、同図(a)は駐車ブレーキ120を動作させている状態を示す図であり、同図(b)は駐車ブレーキ120を解除する状態を示す図である。これら両図において、ドラムブレーキ200の作動カムレバー240は、許容作動限界まで変位しており、これ以上の変位は不可能である。
一方、アーム300は駐車ブレーキ120が作動している同図(a)の状態でもまだ踏み降ろす余裕があり、踏板部302をさらに踏み降ろすことが可能である(同図(b)参照)。そこで、カム板260とラチェット板254が第2の噛み合い部236で噛み合っている(係合している)駐車ブレーキ120を用いた駐車状態から、その噛合いが解除する駐車解除(係合解除)の状態に移行するために、さらに踏板部302を踏み降ろす。すると、位置調整ばね142は上端側を作動カムレバー240によって抑えられるので、上端側は移動できないが、下端側はアーム300の移動に伴い上方に移動し、300N程度の大きな圧縮力を発生する。この圧縮力に抗して踏板部302を踏み降ろすことで、カム-ラチェット機構ではラチェット板254がカム板260から遠ざかり、第2の噛み合い部236の噛み合いが解除する。圧縮力が大きいので踏板部302の踏み降ろす力を継続するのは困難である。また、補助ばね160の伸びも増し、復元力を増大させるので、第2の噛み合い部236でのラチェット板254とカム板260噛み合いが解除すると、速やかに第1の噛み合い部232でのラチェット板254とカム板260噛み合いに移行する。
この移行の状態を、図12A、図12Bを用いて説明する。図12A、図12Bは、カム-ラチェット機構のみを模式的に示した図である。同図(a)は、駐車ブレーキ120を動作させない非動作の状態を示す。すなわち、車椅子10が自由に移動できる状態から、今まさに駐車ブレーキ120を作動させようとしている状態を示す。駐車ブレーキ120を作動させない非動作の状態では、カム板260の第1の噛み合い部232にラチェット板254の爪274が嵌り込んでいる。補助ばね160の復元力が大きい場合は、爪274の内面と第1の噛み合い部232のほぼ半径方向に広がる平面が当接する。この図12A(a)では第1の当接面230と爪274の当接面276が当接している。
このとき、ラチェット板254の長穴272側の側面は、アームに設けた第1のストッパ312に当接している。そのため、ラチェット板254の長穴272は、最も第1のストッパ312に近いところで、ピン部材256に嵌合している。トーションばね252は、ピン部材256近傍及びやや爪274に近い側を分布して押圧するので、ラチェット板254にはカム板260に近づく方向の力が加わる。
踏板部302の踏み降ろしが始まると、ラチェット板254の爪274は、カム板260の外周面をなぞって相対的に移動する。すなわちカム板260は回転し、それに伴い爪274の先端は、カム板260の外径方向に移動する。第1の当接面230が滑らかな曲面に形成されているので、爪274の先端は飛び跳ね現象等を起こすことなく、第1の噛み合い部232から遷移部234を経て第2の噛み合い部236に嵌り込み、カム板260の第2の噛み合い部236のほぼ径方向を向いた壁面と噛み合う。この状態が図12A(b)であり、駐車ブレーキ120が作動して固定された場合である。この状態は安定な状態なので、駐車ブレーキ120はアーム300に外力が加わらない限り駐車ブレーキ120はロックされ、この状態を維持する。
駐車ブレーキのロック状態を解除するためには、さらに踏板部302を踏み込む必要がある。図12A(c)に示すように、踏板部302がさらに踏み込まれ始めると、カム板260がさらに回転し、ラチェット板254の最前面である当接面276がカム板260から外径方向に延びる第2のストッパ262の当接面238に当接する。そしてカム板260の回動に従って、図12(d)に示すように、第2のストッパ262がラチェット板254の爪274の先端を外径方向に押し出す。爪274が第2のストッパ262に当接しながら外径方向に押し出されるときは、ラチェット板254はピン部材256周りのその場での回動だけでは第2のストッパ262と干渉するので、長穴272内で移動してこの干渉を回避する。このときトーションばね252は全体的にラチェット板の爪の反対側を押圧するので、ラチェット板254はカム板260から離れた位置を保持する(図13B(e)参照)。
駐車ブレーキ120のロックが解除されたので、介護者は踏板部302に加えた力を解放する。アーム300は補助ばね160および位置調整ばね142の力で急速に元の状態に復元する。踏板部302への負荷を取りやめたほぼ直後の図12B(e)の状態からアーム300は左回転する。アーム300が所定角度だけ左回転すると、長穴272を利用して後方(図では右下)に移動されたラチェット板254は、中間アーム部材300cに設けた第1のストッパ312に下端部の当接面270当接する(図12B(f)参照)。
そしてアーム300の復元状態への回動、すなわちカム板260の左回りの回動が続くと、図12B(g)に示すように、ラチェット板254の当接面270が第1のストッパ312に押されて、長穴272を利用して、ラチェット板254を前方(図では左上)へ押し出す。最終的にアーム300が元の位置に戻ると、図12B(h)に示すように、ラチェット板254の爪274がカム板260に形成した第1の噛み合い部232に嵌り込み、初期状態に戻る。このとき、ラチェット板254では、長穴272におけるピン部材256の位置が、最も後ろ側(図で右下)に位置する。図12A(c)~図12B(h)の動作を経ることで、駐車ブレーキ120のロックは解除される。
上記実施例では、カム-ラチェット機構の一例として、カム軸をラチェット板が噛み合う角度まで回転させて(前進側に)ラチェット爪をカム板に係止させてロック状態にする。そして、ロック解除の場合にはこの係止状態から、さらにカム軸を前進側に所定角度以上回動させてロックを外している。このように構成するとカム板とラチェット爪の係止状態を確実にかつ早期に実現できる。
ただし、この場合ロック解除にはロックさせる以上の大きな力が必要となっている。車椅子10の駐車ブレーキ120には、常時位置調整ばね142の力が作用している。位置調整ばね142のばね力は上述した通り300N程度であるから、車椅子10のロックは確実になるが、駐車ブレーキのロック及びロック解除にはかなりの力を要する。そこで、ロック解除時に要する力を低減したカム-ラチェット機構の例を、以下に説明する。
本発明に係るカム-ラチェット機構の他の実施例を、図13に示す。図13(a)は、カム-ラチェット機構を動作させない状態、すなわち車椅子10の走行状態時等を示す図である。走行状態であるので、駐車ブレーキ120は作動させない。図13(b)は、車椅子10の走行を止め、車椅子10を駐車させるために踏板(図13(b)では図示を省略したがアーム310の延長上にある)を踏んだ状態を示す図である。図13(c)は、駐車ブレーキ120をロック状態に保持した場合を示す図である。
カム-ラチェット機構は、先端部に踏板部が形成されたアーム310(310f)を有する。アーム310は回動軸170に取り付けられ、回動自在となっている。アーム310の他端側である前側アーム部材310eの先端部には、取付け具146を用いて位置調整ばね142が取り付けられている。前側アーム部材310eは、位置調整ばね142を取り付ける際に、他の部材と干渉しないよう、折れ目342、344で折れ曲がった構造になっている。アーム310の長手方向中間部であって、回動軸170への取り付け部分には、カム板部260bが形成されている。図10に示した実施例ではカム板260とアーム310は別体であったが、本実施例では部品点数の削減の目的から同一の鋼板から切り出している。
カム板260の近傍には、ラチェット板254bが配設されている。ラチェット板254bは、先端部に爪274bを有する平板であり、平板の内側に長穴272が形成されている。ラチェット板254bは、取付板148に固定されたピン部材256に遊嵌している。ラチェット板254bの右上部には穴247が形成されており、トーションばね252の一端が貫挿されている。トーションばね252の他端部(ばね端部(固定側))248は、取付板148に形成された穴に挿入されて固定されている。
ラチェット板254bとカム板部260bの双方の近傍に、ストッパ340が配置されている。ストッパ340は、くの字形に折れ曲がった形状をしており、取付板148に固定して設けた支軸に折れ曲がり部が回動可能に取り付けられている。折れ曲がった形状のストッパ340の一方側(図では右側)にあるラチェット板ストッパ334は、ラチェット板254bに当接し、他方側(図では左側)にあるカム板部ストッパ336は、カム板部260bに当接可能になっている。カム板部ストッパ336の先端には、カム板部260bに当接したときの衝撃を緩和する当接部338が形成されている。
カム板部260bは、ほぼ円形の外周部と、円形の一部を切り取った切り欠き形状部分と、突起部322とから構成される。具体的には、円周から所定半径距離だけ突起した突起部322と、突起部322から時計回り方向に形成された、大径部から小径部へ周方向に遷移する遷移部324と、遷移部324の端部であってラチェット板254bが係止可能な係止部326と、係止部326を端部として右回りに大径部から小径部へ周方向に遷移する遷移部328と、遷移部328の周方向端部であって、駐車ブレーキ120が非作動時にラチェット板254bの爪274bが保持される保持部330を有する。
このように構成したカム-ラチェット機構の動作を以下に説明する。車椅子10を非駐車状態、すなわち介助者が車椅子10を押して移動することができる場合には、アーム310の踏板部が上方にあり、いつでも駐車ブレーキ120を作動させることができる。この時、ストッパ340のカム板部ストッパ336の先端部にある当接部338が、カム板部260bの突起部322に当接するので、ラチェット板254bはストッパ340のラチェット板ストッパ334に当接しながら、長穴272に嵌合するピン部材256を長穴272の上端に位置させる。逆に言えば、ラチェット板254bは、最下側に位置させられる。
なお、ラチェット板254bの上端に形成した穴247に一端が挿入されたトーションばね252の他端部(ばね端部(固定側))248が、取付板148に形成した穴に挿入されている。トーションばね252は、ラチェット板254bの爪274bが保持部330に当接するようにラチェット板254bにばね力を加える。これにより、ラチェット板254bのラチェット爪274bは、カム板部260bとアーム310fの境界に形成された保持部330に安定して保持される。
この状態から、アーム310の先端の、図示しない踏板部を踏み込むと、アーム310は下方へ回動し、それと共にラチェット爪274bは、トーションばね252のばね力でカム板部260bの外周を当接しながら移動し、アーム310の回動角が所定角以上になると係止部326を越えて、カム板部260bに係止する(図13(b)の状態)。この時カム板部260bの突起部322がラチェット板254bの側面にほぼ当接する。長穴272におけるピン部材256の位置は上端位置である。
ラチェット爪274bがカム板部260bの係止部326に係止したので、踏板部の踏み込みを止めると、アーム310は、前側アーム部材310eの先端部に取り付けた位置調整ばね142のばね力で、戻り方向に回転、すなわち左回転する。このアーム310の逆戻りにより、長穴272のピン部材256との遊嵌の範囲内で、ラチェット板254bは係止部326の回動とともに上方へ移動する(図13(c)の状態)。この状態は、駐車ブレーキ120による車椅子10のロック状態である。
駐車ブレーキ120のロックを解除するためには、アーム310の踏板部をさらに踏み込むのは従来と同じであるが、その際最初の踏み込み範囲(走行状態から駐車ブレーキ120を作動させるためにする踏み込み)以下の僅かな踏み込みだけで、ロックが解除する。これは以下の理由による。踏板部をさらに踏み込むと、係止部326からラチェット爪274bが離れていき、その際、突起部322がラチェット板254bの側面部を衝撃的に押す。これによりカム板部260bの外周をなぞっていたラチェット爪274bがカム板部260bから半径方向外側に押し出され、カム板部260bとラチェット爪274bの当接が解除される。この時、ストッパ340は、突起部322に当接してラチェット板254bを下方に移動させるよう右回転する。
ラチェット板254bの制限がなくなったので、アーム310は自由に回動することが可能になる。つまり、アーム310の踏板部の踏み込みを止めると、アーム310は位置調整ばね142のばね力で自在に左回転する。所定角度まで回動すると、カム板部260bから離れていたラチェット板の爪274bがアーム310の保持部330近傍に位置する。それと共に、ストッパ340の先端の当接部338がカム板部260bの外周および突起部322に当接して、ストッパを支軸332周りに右回転してラチェット板254bの上方への移動を阻止する。この一連の動作を終えると、カム-ラチェット機構は、図13(a)の状態に戻る。
本実施例によれば、走行モードから駐車モードに変えるために、各モードに変化するアームの踏み込み位置を限界とする範囲をアーム可動範囲とするだけで、駐車ブレーキを作動及び作動解除できる。そのため、駐車ブレーキを解除するためのさらなるアームの踏み込み可動範囲を必要とせず、アームの踏み込み限界位置を下方に、駐車モード非動作時のアーム位置(初期位置)をかなり低い位置に設定できる。また、位置調整ばねのばね力をロック解除に利用するので、踏み込み力を低減することも可能である。
また、駐車ブレーキにカム-ラチェット機構を用いた上記各実施例のブレーキ装置では、走行ブレーキと駐車ブレーキとでドラムブレーキを共用し、それらを位置調整ばねを含む接続機構で接続しているので、確実に駐車ブレーキをロック及びロック解除できる。さらに、組立誤差や製作誤差を位置調整ばねで吸収できるので、組立に要する工数が低減する。
なお、上記各実施例では、ドラムブレーキとして市販の自転車用ドラムブレーキを用いている。そのため、ドラムブレーキに追加工することなく本実施例で示した車椅子およびブレーキ装置を実現できる。しかし、ドラムブレーキの一部に追加工することが可能な場合等には、作動カムレバーに、直接回動可能に位置調整ばねを取り付けることも可能である。その場合、部品点数が減るとともに、組立が容易になる。なお、この場合でも接続機構は位置調整ばねを含む。
また、上記各実施例において、車椅子は折り畳み式車椅子であってもよい。折り畳み式車椅子であっても、その取り付けに制限がない上に、制動部を共用化した分、軽量化が可能であり、車両のトランクルームへ収容しての移動も容易である。さらにまた、上記各実施例では車椅子の片側にだけドラムブレーキを搭載する例を示しているが、車椅子の大車輪の双方にドラムブレーキを設けるようにしてもよいし、その場合両ドラムブレーキを1個の操作手段(踏板部)で操作できるようにしてもよい。