JP2023143422A - 塗装鋼板、樹脂金属接合体及び樹脂金属接合体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】樹脂組成物との接合部の耐水密着性及び塗膜部分の耐疵付き性に優れる塗装鋼板、並びに当該塗装鋼板を用いて得られる樹脂金属接合体及びその製造方法を提供する。【解決手段】鋼板と、鋼板の表面に形成された塗膜とを有し、塗膜が、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂のいずれか一方又は両方を含む樹脂と、メラミン硬化剤とイソシアネート硬化剤のいずれか一方又は両方を含む架橋剤とを含み、塗膜のFT-IRによるIRスペクトルにおいて、塗膜中の樹脂に対する未反応基を有する架橋剤の存在比率に対応するIRスペクトル強度比が所定の範囲内に制御された塗装鋼板、並びに当該塗装鋼板を用いて得られる樹脂金属接合体及びその製造方法が提供される。【選択図】なし

Description

本発明は、熱可塑性樹脂組成物との接合に好適な塗装鋼板、樹脂金属接合体及び樹脂金属接合体の製造方法に関する。
鋼板は自動車や電気機器など様々な工業製品に使用されている。鋼板は樹脂組成物と接合された樹脂金属接合体として、使用される場合があり、このような接合体を製造する方法としては鋼板と樹脂組成物とを嵌合させることが一般的であった。しかし、嵌合による接合体の製造方法は、作業工程数が多く、生産性が低いため、近年はインサート成形(射出成形)により鋼板と樹脂組成物の成形体とを接合して、樹脂金属接合体を製造する方法が主流になっている。
インサート成形によって樹脂金属接合体を製造する場合、鋼板と樹脂組成物の成形体との密着性を向上させることが重要である。インサート成形による密着性をより高めるため、予め鋼板の表面に所定の塗膜を形成し、当該塗膜中のポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂が熱可塑性樹脂組成物と相溶して強固に結合することで、表面に形成された鋼板表面の粗面化処理などによるアンカー硬化のみでは得られない密着性を向上させることが提案されている(特許文献1)。
特開2013-226796号公報
従来の樹脂金属接合体においては、水蒸気や水分等が接合界面に侵入してきた際に密着性が低下し、長期間密着性を維持できない場合があった。また、特許文献1に記載されるような塗膜を用いた場合には、樹脂組成物と接合していない部分の塗膜の機械的強度が比較的低い場合があり、当該部分における耐疵付き性についても改善することが求められている。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、樹脂組成物を接合させた時の、接合部の耐水密着性、及び接合部以外の塗膜部分の耐疵付き性に優れる塗装鋼板、並びに当該塗装鋼板を用いて得られる樹脂金属接合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋼板の表面に所定の塗膜を形成することで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、鋼板の表面に形成された所定の塗膜を有する以下の塗装鋼板、それを用いて得られる樹脂金属接合体、及びその製造方法に関する。
(1)鋼板と、前記鋼板の表面に形成された塗膜とを有する塗装鋼板であって、
前記塗膜が、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂のいずれか一方又は両方を含む樹脂と、メラミン硬化剤とイソシアネート硬化剤のいずれか一方又は両方を含む架橋剤とを含み、
前記塗膜のFT-IRによるIRスペクトルにおいて、下記式1によって表されるIRスペクトル強度比が12~30であることを特徴とする、塗装鋼板。
((I3+I4)/(I1+I2))×100 ・・・式1
ここで、
I1は、1600(±10)cm-1でのビスフェノール型エポキシ樹脂の-C=C-に由来するピーク強度であり、
I2は、1730(±10)cm-1でのポリエステル樹脂のエステル基に由来するピーク強度であり、
I3は、800(±10)cm-1でのメラミン硬化剤のアミノ基に由来するピーク強度であり、
I4は、1690(±10)cm-1でのイソシアネート硬化剤の-N=C=Oに由来するピーク強度である。
(2)前記樹脂がポリエステル樹脂を含むことを特徴とする、上記(1)に記載の塗装鋼板。
(3)前記架橋剤がメラミン硬化剤とイソシアネート硬化剤の両方を含むことを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の塗装鋼板。
(4)前記塗膜が5質量%以下のカーボンブラックを含有することを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の塗装鋼板。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の塗装鋼板と、
前記塗装鋼板上に接合された熱可塑性樹脂組成物と
を含み、前記架橋剤と前記熱可塑性樹脂組成物との間に共有結合を有することを特徴とする、樹脂金属接合体。
(6)前記熱可塑性樹脂組成物がポリエステルエラストマーであることを特徴とする、上記(5)に記載の樹脂金属接合体。
(7)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の塗装鋼板を準備する工程と、
前記塗装鋼板を射出成形金型に挿入する工程と、
前記射出成形金型に熱可塑性樹脂組成物を射出して、前記塗装鋼板の表面に前記熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合する工程と
を含むことを特徴とする、樹脂金属接合体の製造方法。
本発明によれば、樹脂組成物を接合させた時の、接合部の耐水密着性、及び接合部以外の塗膜部分の耐疵付き性に優れる塗装鋼板、並びに当該塗装鋼板を用いて得られる樹脂金属接合体及びその製造方法を提供することができる。
以下、本発明の一実施の形態を説明する。
[塗装鋼板]
本発明の実施形態に係る塗装鋼板は、鋼板と、鋼板の表面に形成された塗膜とを有する。また、塗装鋼板は、鋼板と塗膜との間に化成処理皮膜が形成されていてもよい。以下、塗装鋼板の各要素について説明する。
[鋼板]
塗装基材となる鋼板の種類は、特に限定されない。鋼板の例には、冷延鋼板や亜鉛めっき鋼板、Zn-Al合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg-Si合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)などが含まれる。鋼板は、必要に応じて、脱脂、酸洗などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。鋼板の板厚は特に限定されないが、最終製品の軽量化のためには、例えば0.3~3.2mmであることが好ましく、0.5mm以上若しくは1.0mm以上であってもよく、及び/又は2.5mm以下、2.0mm以下若しくは1.6mm以下であってもよい。
[化成処理皮膜]
前述のように、塗装鋼板は、鋼板と塗膜との間に化成処理皮膜が形成されていてもよい。化成処理皮膜は、鋼板の表面に形成されており、鋼板に対する塗膜の密着性及び鋼板の耐食性を向上させる。化成処理皮膜は、通常、鋼板の表面全体に形成される。
化成処理皮膜を形成する化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理によって形成された化成処理皮膜の付着量は、塗膜密着性及び耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。例えば、クロメート皮膜やクロムフリー皮膜の場合、10~500mg/m2の範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、0.1~5g/m2となるように付着量を調整すればよい。
[塗膜]
塗膜は、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂のいずれか一方若しくは両方を含むか又はこれらの樹脂のいずれか一方若しくは両方である樹脂と、メラミン硬化剤とイソシアネート硬化剤のいずれか一方若しくは両方を含むか又はこれらの樹脂のいずれか一方若しくは両方である架橋剤とを含み、未反応基を有する架橋剤を必要量存在させることで鋼板に対する熱可塑性樹脂組成物の成形体の耐水密着性を向上させる。塗膜には任意の添加成分として、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン硬化剤、イソシアネート硬化剤以外の成分、例えば有機系成分をさらに含んでいてもよい。塗膜は、化成処理皮膜と同様に、通常、鋼板の表面全体に形成されている。
ビスフェノール型エポキシ樹脂は、樹脂の分子鎖中にビスフェノール型エポキシユニットを有し、ポリエステル樹脂は樹脂の分子鎖中にポリエステルユニットを有する。樹脂金属接合体においては、前記樹脂中のビスフェノール型エポキシユニット又はポリエステルユニットと熱可塑性樹脂組成物との分子間力によって接合力を向上させている。ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂の合計含有量は、特に限定されないが、例えば、塗膜の固形分に対して50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上若しくは80質量%以上であってもよく、及び/又は95質量%以下若しくは90質量%以下であってもよい。塗膜の固形分とは、塗膜調製時の溶剤を除く全成分をいうものである。
架橋剤のメラミン硬化剤及び/又はイソシアネート硬化剤は、塗膜形成時に一部が樹脂のビスフェノール型エポキシ樹脂及び/又はポリエステル樹脂と架橋反応を起こすことで、耐疵付き性に優れた塗膜を形成する。塗膜形成時に当該樹脂と反応しなかった未反応基を有する架橋剤すなわちメラミン硬化剤及び/又はイソシアネート硬化剤は、塗装鋼板と熱可塑性樹脂組成物の接合時に、熱可塑性樹脂組成物と架橋反応を起こすことで、塗装鋼板と熱可塑性樹脂組成物を接合させた後の、接合部の耐水密着性を向上させている。塗膜形成に用いられる架橋剤は一つの分子に複数の反応基を有している。複数の反応基のうち、塗膜形成時に一部の反応基が樹脂と架橋し、残存した未反応基が熱可塑性樹脂組成物の接合時に架橋反応する場合、最も耐水密着性の向上効果を発揮すると推測する。本発明の実施形態においては、上記のとおり、熱可塑性樹脂組成物との接合時に未反応基を有する架橋剤を適切に存在させることで、塗膜形成時と、熱可塑性樹脂組成物との接合時の両方において架橋剤を十分に作用させることができ、その結果として塗膜の耐疵付き性と熱可塑性樹脂組成物との接合部における耐水密着性の両方を顕著に向上させることが可能となる。
鋼板上に形成された塗膜中の、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂のいずれか一方又は両方と、塗膜形成時にこれらの樹脂と反応しなかった未反応基を有する架橋剤(メラミン硬化剤とイソシアネート硬化剤のいずれか一方又は両方)の存在比率は、塗膜のFT-IR(フーリエ変換式赤外分光法)によるIRスペクトル強度比で塗膜中の樹脂、より具体的にはビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂のいずれか一方又は両方の樹脂100に対し、未反応基を有する架橋剤が12~30となるように制御される。塗膜中の上記樹脂に対する未反応基を有する架橋剤の存在比率が低すぎると、接合部の耐水密着性が十分に得られない。とりわけ、架橋剤の配合量が少ないことに起因して未反応基を有する架橋剤の存在比率が低くなっている場合には、塗膜の架橋密度も不足していることがあり、この場合には塗膜の耐疵付き性も低下してしまう。また、当該樹脂に対する未反応基を有する架橋剤の存在比率が高すぎても、耐水密着性が低下する。この理由は明確でないが、前記塗膜と熱可塑性樹脂組成物の耐水密着性は、前記塗膜中の樹脂と熱可塑性樹脂組成物の分子間力と、前記塗膜中に残存している未反応基を有する架橋剤と熱可塑性樹脂組成物とが架橋反応して生成する共有結合との双方の作用により得られていると推測する。架橋剤と熱可塑性樹脂組成物との架橋点には限界があり、一定以上は共有結合が得られないこと、また分子鎖の絡み合いによる分子間力が塗膜中の樹脂よりも架橋剤の方が弱いことから、架橋剤の存在比率が高くなりすぎると、共有結合による作用は飽和する一方で、塗膜中の樹脂と熱可塑性樹脂組成物との間の分子間力が低下し、所望の耐水密着性が得られなくなるものと考えられる。とりわけ、架橋剤の配合量が多いことに起因して未反応基を有する架橋剤の存在比率が高くなっている場合には、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることがあり、この場合には塗膜が硬く脆くなり、塗膜の曲げ加工部密着性等の特性も低下してしまうことがある。上記観点から、未反応基を有する架橋剤の存在比率の指標となる上記IRスペクトル強度比は、塗膜中の樹脂100に対し、未反応基を有する架橋剤15~28が好ましく、未反応基を有する架橋剤16~25又は16~24であることがより好ましく、未反応基を有する架橋剤18~22又は18~21であることが最も好ましい。
前記IRスペクトル強度比は、前記塗装鋼板の塗膜表面をFT-IR(フーリエ変換式赤外分光法)により測定することで、得られた各波数帯域におけるピークP1~P4のピーク強度I1~I4を用いて下記式1で表されるものであり、塗膜中の樹脂、より具体的にはビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂のいずれか一方又は両方の樹脂の分子鎖に対する未反応基を有する架橋剤の存在比率を意味するものである。
P1:1600(±10)cm-1でのビスフェノール型エポキシ樹脂の-C=C-に由来するピーク
P2:1730(±10)cm-1でのポリエステル樹脂のエステル基に由来するピーク
P3:800(±10)cm-1でのメラミン硬化剤のアミノ基に由来するピーク
P4:1690(±10)cm-1でのイソシアネート硬化剤の-N=C=Oに由来するピーク
((I3+I4)/(I1+I2))×100 ・・・式1
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ骨格を有する樹脂であり、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等であってもよい。ビスフェノール型エポキシ樹脂の数平均分子量は特に限定されないが、塗膜伸び性の観点では塗料用に通常使用されている200~2500であることが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂の数平均分子量が200以上であると、良好な伸び性を有する塗膜が得られやすく、塗装鋼板として加工部耐食性なども向上しやすい。ビスフェノール型エポキシ樹脂の数平均分子量が高くなりすぎると、原料の塗料として粘度が高くなりすぎ塗装作業性が損なわれる場合がある。上記観点に鑑み、ビスフェノール型エポキシ樹脂の数平均分子量は200~2500であることが好ましく、400~2000であることがより好ましい。前記ビスフェノール型エポキシ樹脂の架橋点に対し、架橋剤を多く配合することで未反応基を有する架橋剤を塗膜中に残存させ、残存した未反応基を有する架橋剤をその後の熱可塑性樹脂組成物との接合に寄与させることが出来る。前記ビスフェノール型エポキシ樹脂の架橋点は樹脂の数平均分子量とエポキシ当量から算定でき、算定した架橋点1つに対し、1.1~1.2倍の架橋剤を配合することが好ましい。エポキシ当量は特に限定されないが、一般的にはビスフェノール型エポキシ樹脂であればエポキシ当量は180~3300である。
前記ポリエステル樹脂は、ポリエステル骨格を有する樹脂であり、得られる塗膜の耐熱性などを高める観点から、さらに芳香族骨格を有することが好ましい。前記ポリエステル樹脂の数平均分子量は特に限定されないが、塗膜伸び性の観点では塗料用に通常使用されている3000~18000であることが好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が3000以上であると、良好な伸び性を有する塗膜が得られやすく、塗装鋼板として加工部耐食性なども向上しやすい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が高くなりすぎると、原料の塗料として粘度が高くなりすぎ塗装作業性が損なわれる場合がある。上記観点に鑑み、ポリエステル樹脂の数平均分子量は3000~18000であることが好ましく、5000~15000であることがより好ましい。前記ポリエステル樹脂の架橋点に対し、架橋剤を多く配合することで未反応基を有する架橋剤を塗膜中に残存させ、残存した未反応基を有する架橋剤をその後の熱可塑性樹脂組成物との接合に寄与させることが出来る。前記ポリエステル樹脂の架橋点は樹脂の数平均分子量と水酸基価から算定でき、算定した架橋点1つに対し、1.1~1.2倍の架橋剤を配合することが好ましい。水酸基価は特に限定されないが、一般的にはポリエステル樹脂であれば10~80mgKOH/gである。
前記メラミン硬化剤の種類は特に限定されないが、一般的なメラミン硬化剤としてはアルコキシメラミン樹脂を用いることができる。具体的には、アルコキシ基としてメトキシ基、エトキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基等を用いたメチル化メラミン樹脂、エチル化メラミン樹脂、n-ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂等が挙げられる。
前記イソシアネート硬化剤は原料となる塗料の保管時安定性からブロックポリイソシアネート化合物の使用が好まれる。ブロックポリイソシアネート化合物としては、非黄変型のヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等の脂肪族多官能イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環肪族多官能イソシアネート、及びジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)や水添MDI等のポリイソシアネート化合物の官能基を、部分ブロック又は完全ブロックしたものを用いることが好ましい。
前記ブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤としては、アセトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム系のブロック剤、さらに、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、メタノール等のブロック剤が挙げられる。
前記メラミン硬化剤と前記イソシアネート硬化剤は架橋剤として単独でも使用できるし、複数の異なるメラミン硬化剤種を組み合わせて使用することも出来る。特に、架橋温度が異なる架橋剤を二種類以上組み合わせることで、熱可塑性樹脂組成物との接合時において未反応基を有する架橋剤を残存させやすくすることができる。この場合、前記塗膜の成膜時の架橋温度と、前記熱可塑性樹脂組成物との接合時における残存した架橋剤との架橋温度とが重ならないことが好ましい。具体的には、前記塗膜の成膜時の架橋温度が180~220℃、前記熱可塑性樹脂組成物との接合時における残存した架橋剤との架橋温度が220~350℃であることが好ましい。
前記塗膜には、必要に応じて他の添加剤を含有することができ、例えば防錆顔料又は着色顔料のいずれか一方又は両方を任意量含有することができる。防錆顔料は、耐食性を塗膜に付与するために添加される。添加量は、塗膜の固形分中1~29質量%であることが好ましい。防錆顔料種としては、ストロンチウムクロメートやジンククロメート等のクロメート系、リンモリブデン酸やリンバナジウム酸等のクロムフリー系が挙げられる。また、防錆顔料は、カルシウムイオン交換シリカ等であってもよい。着色顔料は色相付与の目的を達成できれば、どのようなタイプのものでも使用することができる。例えば、着色顔料はカーボンブラック等を含むか又はカーボンブラック等であってもよい。着色顔料又はカーボンブラックの含有量は、塗膜の固形分に対して1質量%以上、1.5質量%以上若しくは2質量%以上であってもよく、及び/又は10質量%以下、8質量%以下若しくは5質量%以下であってもよい。
本発明の実施形態に係る塗装鋼板では、架橋剤の一部が塗膜形成時に樹脂と架橋反応を起こすことで熱可塑性樹脂組成物成形体との接合部以外の塗膜部分においても優れた耐疵付き性を達成することができる。したがって、前記塗膜の膜厚は特に限定されないが、熱可塑性樹脂組成物成形体との接合部以外の塗膜の耐疵付き性をさらに向上させる観点からは、塗膜の膜厚は2μm以上であることが好ましい。一方、前記塗膜厚の上限値については、特に接着強度や塗膜耐疵付き性からは特に限定されないが、膜厚が厚くなり過ぎると鋼板面積当たりの塗膜コストが高くなるばかりでなく、樹脂液塗布後の焼付乾燥時間も長くなる。特に連続塗装ラインにおける連続製造工程でライン速度が低くなって生産性が低下し、結果として製造コストが高くなる。従って、塗膜は25μm以下が好ましい。塗膜耐疵付き性と製造コストの両面から、より望ましい樹脂塗膜の付着量は3~20μm又は3~15μmの範囲であることが好ましい。
[塗装方法]
鋼板上に塗膜を形成させるための塗装方法は従来用いられる方法であれば、いずれの方法でもよい。生産性の観点から、バーコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター等のコイル又はシート状鋼板に適用できる方法が特に好ましい。任意の適切な溶剤を用いて樹脂、架橋剤、任意選択の他の添加剤を混錬分散した塗料を用いて、バーコーター等により鋼板上に塗膜をコートすることができる。
塗膜形成時の焼付条件は、塗膜中の未反応基を有する架橋剤を前記所定の比率とするため適切に制御する必要がある。塗膜形成時の焼付温度は架橋剤に合わせて所定の温度範囲に設定しなければならない。前記架橋剤は一定の温度を下回ると塗膜中の架橋反応が起きず、塗膜硬度等の機械的性質が不足する。一方で、所定温度を超えると、架橋剤は塗膜中の樹脂との架橋反応のみならず、架橋剤の自己縮合反応が起こるため、熱可塑性樹脂組成物との接合時に用いられる架橋剤が消耗してしまい、塗膜と熱可塑性樹脂組成物との接合部で十分な耐水密着性が得られない。また、塗膜形成時の焼付時間も所定の範囲に設定しなければならない。焼付時間が短すぎると塗膜中の架橋反応が十分に起きない。一方で、焼付時間が長すぎると架橋剤の自己縮合反応が起き、塗膜と熱可塑性樹脂組成物との接合部で十分な耐水密着性が得られない。異なる種類の架橋剤を配合し、塗膜成膜時の架橋と、熱可塑性樹脂組成物と接合時の熱可塑性樹脂組成物との架橋とで、機能を分ける場合、塗膜成膜時の焼付温度は熱可塑性樹脂組成物と接合時の温度を超えてはならない。塗膜成膜時の焼付温度が接合時の温度を超えると、熱可塑性樹脂組成物との接合時に用いられる架橋剤が塗膜成膜時に消耗してしまい、塗膜と熱可塑性樹脂組成物との接合部で十分な耐水密着性が得られない。
具体的には、焼付温度は、最高到達板温度が180~230℃となるように制御されなければならない。最高到達板温度が180℃未満の場合には、架橋不足すなわち架橋密度の不足で耐疵付き性が不良となる。加えて、このような架橋不足に起因して塗膜が十分に硬化されないことで、式1によって表されるIRスペクトル強度比は30を超えて高くなるとともに、塗膜の耐疵付き性低下に加えて、塗膜の曲げ加工部密着性等の特性や、さらには熱可塑性樹脂組成物との接合部の耐水密着性における低下を招く場合がある。一方で、最高到達板温度が230℃を超えると、過硬化により塗膜中に存在する架橋剤が自己縮合反応等に消費され、熱可塑性樹脂組成物との反応に使用される架橋剤が十分に残存しないため、所望の耐水密着性が得られない。上記観点から、最高到達板温度は190~220℃であることが好ましい。
塗膜の焼付時間も約20~60秒の範囲内である必要がある。焼付時間が短ければ架橋不足で耐疵付き性が不良となる。加えて、このような架橋不足に起因して塗膜が十分に硬化されないことで、式1によって表されるIRスペクトル強度比は30を超えて高くなるとともに、塗膜の耐疵付き性低下に加えて、塗膜の曲げ加工部密着性等の特性や、さらには熱可塑性樹脂組成物との接合部の耐水密着性における低下を招く場合がある。一方で、焼付時間が長ければ塗膜中に存在する架橋剤が自己縮合反応等に消費され、熱可塑性樹脂組成物との反応に使用される架橋剤が十分に残存しないため、所望の耐水密着性が得られない。上記観点から、焼付時間は20~40秒であることが好ましい。前記メラミン硬化剤、前記イソシアネート硬化剤のいずれか一方又は両方から選ばれる複数の架橋温度が異なる架橋剤を用い、塗膜の成膜時の架橋温度と、熱可塑性樹脂組成物との架橋温度で重ならないように二種類以上の架橋剤を配合した場合、塗膜形成時の焼付温度は熱可塑性樹脂組成物との架橋温度まで到達してはならない。全ての架橋剤が塗膜成膜時に自己縮合反応に消費されてしまい、塗膜に未反応基を有する架橋剤が残存しないため、熱可塑性樹脂組成物との架橋反応が起きず、所望の耐水密着性が得られない。
[樹脂金属接合体]
上記のようにして得られた塗装鋼板は、塗膜中に未反応基を有する架橋剤が十分に残存しているため、熱可塑性樹脂組成物と接合して樹脂金属接合体を製造した場合に、塗膜中の樹脂と熱可塑性樹脂組成物との間の分子間力に加えて、未反応基を有する架橋剤と熱可塑性樹脂組成物とが架橋反応して生成する共有結合、より具体的には塗装鋼板と熱可塑性樹脂組成物との界面において生成する共有結合により、接合部の耐水密着性を顕著に改善することが可能となる。樹脂金属接合体において用いられる熱可塑性樹脂組成物の成形体を構成する熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されない。熱可塑性樹脂の例には、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリアミド(PA)系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、ポリエステルエラストマー又はこれらの組み合わせが含まれる。
鋼板上の塗膜中の樹脂がポリエステル樹脂であるとき、熱可塑性樹脂の種類はポリエステルエラストマーが好ましい。塗膜中の樹脂のポリエステルユニットと、熱可塑性樹脂組成物中のポリエステルユニットとが接合部させた時に相溶し、分子鎖の絡み合いによって接合強度を向上させることができる。
熱可塑性樹脂組成物は、成形収縮率や材料強度、機械的強度、耐疵付き性などの観点から、無機フィラーや熱可塑性樹脂フィラーなどを含んでいてもよい。
無機フィラーは、熱可塑性樹脂組成物の成形体の剛性を向上させる。無機フィラーの種類は、特に限定されず、既知の物質を使用することができる。無機フィラーの例には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂などの繊維系フィラー;カーボンブラック、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、ガラス、粘土、リグニン、雲母、石英粉、ガラス球などの粉フィラー;炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物などが含まれる。無機フィラーの配合量は、特に限定されないが、5~50質量%の範囲内が好ましい。無機フィラーは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
熱可塑性樹脂フィラーは、熱可塑性樹脂組成物の成形体の耐衝撃性を向上させる。熱可塑性樹脂フィラーの種類は、特に限定されない。熱可塑性樹脂フィラーの例には、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の粒状添加物が含まれる。熱可塑性樹脂フィラーは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
[共有結合の確認方法]
架橋剤と熱可塑性樹脂組成物との共有結合はソックスレー抽出方法により、確認される。熱可塑性樹脂組成物が溶解する溶媒を用いて、樹脂金属接合体を抽出することで、共有結合が存在する場合は塗膜表面上に熱可塑性樹脂組成物が残存する。一方で、共有結合が存在しない場合は熱可塑性樹脂組成物が全て溶解し、塗膜上に熱可塑性樹脂組成物は残らない。
[樹脂金属接合体の製造方法]
前記の樹脂金属接合体は、例えば、1)上で説明した塗装鋼板を準備する第1工程と、2)塗装鋼板を射出成形金型に挿入する第2工程と、3)射出成形金型に熱可塑性樹脂組成物を射出して、塗装鋼板の表面に熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合する第3工程とにより製造されうる。以下、各工程について説明する。
(1)第1工程
第1工程では、前述の手順により、塗装鋼板を準備する。
(2)第2工程
第2工程では、第1工程で準備した塗装鋼板を射出成形金型の内部に挿入する。塗装鋼板は、プレス加工などにより所望の形状に加工されていてもよい。
(3)第3工程
第3工程では、第2工程で塗装鋼板を挿入した射出成形金型の内部に、高温の熱可塑性樹脂組成物を高圧で射出する。このとき、射出成形金型にガス抜きを設けて、熱可塑性樹脂組成物が円滑に流れるようにすることが好ましい。高温の熱可塑性樹脂組成物は、塗装鋼板の表面に形成された塗膜に接触する。射出成形金型の温度は、熱可塑性樹脂組成物の融点近傍であることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物の射出温度は230℃超でなければならない。前記塗膜の成膜温度以上でなければ、残存した未反応基を有する架橋剤との反応が進みにくく、前記熱可塑性樹脂組成物と前記塗膜との架橋反応が起きず、共有結合が生成しないため、前記熱可塑性樹脂組成物と前記塗膜との接合部で十分な耐水密着性が得られない。熱可塑性樹脂組成物を射出した後、鋼板との接合時間に特に制限はないが、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましい。架橋剤や接合温度とも関連するが、極端に短い場合、塗膜中の残存架橋剤と熱可塑性樹脂組成物との架橋反応が起こらず、十分な耐水密着性が得られない可能性がある。
射出終了後、金型を開き離型して樹脂金属接合体を得る。射出成形により得られた樹脂金属接合体は、成形後にアニール処理をして、成形収縮による内部歪みを解消してもよい。
以上の手順により、本発明の実施形態に係る樹脂金属接合体を製造することができる。
以上のように、本発明の実施形態に係る塗装鋼板の表面に熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合させて、樹脂金属接合体を製造することができる。本発明の実施形態に係る塗装鋼板は、接合部においては鋼板及び熱可塑性樹脂組成物の両方に対する密着性に優れ、接合部以外の部分は耐疵付き性に優れる所定の塗膜が形成されている。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
本実施例では、塗装鋼板を作製し、塗装鋼板表面に形成された塗膜中の未反応基を有する架橋剤の存在比率を測定するとともに、塗膜の耐疵付き性及び曲げ加工部密着性について調べた。また、作製した塗装鋼板を用いて樹脂金属接合体を製造し、接合部の耐水密着性について調べた。
[塗装鋼板の作製]
塗装鋼板の基材として、板状の片面あたりめっき付着量が45g/m2の溶融Zn-11質量%Al-3質量%Mg合金めっき鋼板及び溶融Znめっき鋼板を準備した。めっき鋼板の基材には、板厚が0.5mmの冷間圧延鋼板(SPCC)を使用した。
まず、前記冷間圧延鋼板を脱脂後、タンニン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)、シランカップリング剤(KBE-403、信越シリコーン株式会社製)、シリカ微粒子(スノーテックスO、日産化学株式会社製)、ポリエステル樹脂(バイロナールMD1480、東洋紡株式会社製)からなるクロムフリー系化成処理を乾燥後面積当たりの処理付着量が100mg/m2となるようバーコートし、次いで60℃の乾燥炉で焼付乾燥し、塗装前化成処理を施した。
次に、表1に示す塗料配合に従って樹脂(ポリエステル樹脂及び/又はビスフェノール型エポキシ樹脂)、架橋剤(メラミン硬化剤及び/又はイソシアネート硬化剤)、その他添加剤、並びに溶剤を混練分散し、塗料を調製した。ポリエステル樹脂にはバイロンGK-810(東洋紡株式会社製)、ビスフェノール型エポキシ樹脂にはEPICLON 850(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、DIC社製)、メラミン硬化剤にはCYMEL303LF(メチル化メラミン樹脂、オルネクスジャパン株式会社製)及びユーバン20SB(n-ブチル化メラミン樹脂、三井化学株式会社製)、イソシアネート硬化剤にはブロックポリイソシアネート化合物としてのコロネートBI-301(東ソー株式会社製)及びMF-B60B(旭化成株式会社製)を用いた。
Figure 2023143422000001
前記クロムフリー系化成処理が施された塗装基材に、表2に示す条件でバーコート塗装及び300℃に設定した熱風乾燥機を用いて所定の到達鋼板温度になるよう任意の時間で焼付し、直後に水冷して、塗装鋼板を作製した。
[塗膜中の未反応基を有する架橋剤の存在比率測定]
前記のように作製して得られた塗装鋼板の表面をフーリエ変換式赤外分光装置(顕微IR、アジレント・テクノロジー社製610FTIR顕微鏡)を用い、赤外吸収スペクトルを測定した。下記波長帯域に検出されたピークP1~P4のピーク強度I1~I4を用いて下記式1によって表される塗膜中の樹脂に対する未反応基を有する架橋剤の存在比率(IRスペクトル強度比)を算出した。
P1:1600(±10)cm-1でのビスフェノール型エポキシ樹脂の-C=C-に由来するピーク
P2:1730(±10)cm-1でのポリエステル樹脂のエステル基に由来するピーク
P3:800(±10)cm-1でのメラミン硬化剤のアミノ基に由来するピーク
P4:1690(±10)cm-1でのイソシアネート硬化剤の-N=C=Oに由来するピーク
((I3+I4)/((I1+I2))×100 ・・・式1
[塗膜の耐疵付き性]
前記のように作製して得られた塗装鋼板の表面に形成された塗膜に、垂直に接触させたギザギザのない10円硬貨に1kg相当の圧力をかけ、塗膜表面を水平方向で横滑りさせて、塗膜の剥離状態を見て、塗膜の耐疵付き性を判定した。全く異常が認められなかったものを合格(〇)とし、疵や塗膜剥離が認められたものを不合格(×)とした。
[塗膜の曲げ加工部密着性]
前記塗装鋼板の塗膜を外側にして試験片を180°折曲げ、試験片と同じ厚さの鋼板を1枚挾んで行った。塗装鋼板の折り曲げ部頂点に粘着テープを貼り付け、これを一気に引き剥がした後の剥離状態を評価した。塗膜が全く剥離しなかったものを合格(〇)、一部でも塗膜の剥離が認められたものを不合格(×)とした。
[熱可塑性樹脂組成物]
熱可塑性樹脂組成物として、ポリエステルエラストマー(ハイトレルSB654、溶融温度160℃、東レ・デュポン株式会社製)、ポリエチレンテレフタレート(ノバデュラン5710F40、溶融温度240℃、三菱エンジニアプラスチックス株式会社製)、ポリフェニレンサルファイド(1130MF1、溶融温度310℃、ポリプラスチックス株式会社製)を用意した。
[樹脂金属接合体の作製]
射出成形金型に塗装鋼板を挿入し、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出成形金型内に射出した。射出成形金型内の熱可塑性樹脂組成物を流入させる部分の容積は、幅30mm×長さ100mm×厚さ4mmであり、幅30mm×長さ30mmの領域で塗膜と熱可塑性樹脂組成物と、が密着している。熱可塑性樹脂組成物が射出可能な流動性が得られ、且つ熱分解しない温度(熱可塑性樹脂の溶融温度+20~80℃)に加熱し、射出成形金型内に射出した後、射出温度で所定時間保持し、その後金型を開放し空冷させて、熱可塑性樹脂組成物を固化させて、塗装鋼板と熱可塑性樹脂の成形体との樹脂金属接合体を得た。
[樹脂金属接合体の耐水密着性評価]
樹脂金属接合体を24時間室温で純水に浸漬して、塗装鋼板と熱可塑性樹脂組成物との樹脂金属接合体を同一平面方向に100mm/minの速度で引っ張り、破断したときの強さを接合強度として測定した。接合強度が1.0MPa以上の場合を合格(○)、1.0MPa未満の場合を不合格(×)とした。
[共有結合の有無]
架橋剤と熱可塑性樹脂組成物との共有結合はソックスレー抽出方法により確認した。熱可塑性樹脂組成物が溶解する所定の溶媒を用いて樹脂金属接合体を抽出し、塗膜表面上に熱可塑性樹脂組成物が残存する場合を架橋剤と熱可塑性樹脂組成物との間に共有結合が存在すると判断し、一方で熱可塑性樹脂組成物が全て溶解し、塗膜上に熱可塑性樹脂組成物が残らない場合を架橋剤と熱可塑性樹脂組成物との間に共有結合が存在しないと判断した。
塗装鋼板の作製条件、樹脂金属接合体の製造条件、並びに塗膜中の樹脂に対する未反応基を有する架橋剤の存在比率(すなわち式1によって表されるIRスペクトル強度比)、塗膜の耐疵付き性、塗膜の曲げ加工部密着性、及び樹脂金属接合体の耐水密着性の測定及び評価結果を表2に示す。
Figure 2023143422000002
表2を参照すると、比較例36~38は、式1によって表されるIRスペクトル強度比が低く、塗膜の耐疵付き性及び熱可塑性樹脂組成物との接合部の耐水密着性が不合格であった。これは、塗料中の架橋剤配合量が少なく、塗膜の架橋密度が不足していたためと考えられ、これに関連して未反応基を有する架橋剤の存在比率も低くなり、塗装鋼板と熱可塑性樹脂組成物の接合時に十分な架橋反応が生じなかったためと考えられる。比較例39~41は、式1によって表されるIRスペクトル強度比が高く、塗膜の曲げ加工部密着性及び熱可塑性樹脂組成物との接合部の耐水密着性が不合格であった。これは、塗料中の架橋剤配合量が多すぎて塗膜が硬く脆くなり、塗膜の曲げ加工部密着性が低下したと考えられ、さらに未反応基を有する架橋剤の高い存在比率に起因する共有結合の作用は飽和する一方で、塗膜の樹脂比率が低いために分子鎖の絡み合いによる分子間力が低下したことで耐水密着性が低下したと考えられる。比較例42~44は、式1によって表されるIRスペクトル強度比が高く、塗膜の耐疵付き性、曲げ加工部密着性、及び熱可塑性樹脂組成物との接合部の耐水密着性のいずれの性能も不合格であった。これは、塗膜焼付時の鋼板最高到達温度が低く、さらに焼付時間も短かったことで、塗膜の硬化不足が生じたことによると考えられる。比較例45~47は、式1によって表されるIRスペクトル強度比が低く、塗装鋼板と熱可塑性樹脂組成物との接合部の耐水密着性が不合格であった。これは、塗膜焼付時の鋼板最高到達温度が高すぎたため、架橋剤の自己縮合反応が進み、熱可塑性樹脂組成物との共有結合に用いられる架橋剤量が不足したためと考えられる。また、表2には示していないが、ソックスレー抽出方法によって確認したところ、表2中の全ての発明例において架橋剤と熱可塑性樹脂組成物との間に共有結合が確認され、一方で比較例36、37、38、45、46、47については当該共有結合の存在は確認されなかった。
本発明の実施形態に係る塗装鋼板及び当該塗装鋼板と熱可塑性樹脂組成物との樹脂金属接合体は、塗装鋼板の塗膜の耐疵付き性及び熱可塑性樹脂との耐水密着性に優れているため、長期にわたって密着性を必要とし、且つ曲げ加工、はり出し加工などの成型加工が必要な部位に有用である。例えば、自動車のインバータケースやECU(エンジンコントロールユニット)ケース、電気製品の精密電子部品ケースなどに有用である。

Claims (7)

  1. 鋼板と、前記鋼板の表面に形成された塗膜とを有する塗装鋼板であって、
    前記塗膜が、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエステル樹脂のいずれか一方又は両方を含む樹脂と、メラミン硬化剤とイソシアネート硬化剤のいずれか一方又は両方を含む架橋剤とを含み、
    前記塗膜のFT-IRによるIRスペクトルにおいて、下記式1によって表されるIRスペクトル強度比が12~30であることを特徴とする、塗装鋼板。
    ((I3+I4)/(I1+I2))×100 ・・・式1
    ここで、
    I1は、1600(±10)cm-1でのビスフェノール型エポキシ樹脂の-C=C-に由来するピーク強度であり、
    I2は、1730(±10)cm-1でのポリエステル樹脂のエステル基に由来するピーク強度であり、
    I3は、800(±10)cm-1でのメラミン硬化剤のアミノ基に由来するピーク強度であり、
    I4は、1690(±10)cm-1でのイソシアネート硬化剤の-N=C=Oに由来するピーク強度である。
  2. 前記樹脂がポリエステル樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載の塗装鋼板。
  3. 前記架橋剤がメラミン硬化剤とイソシアネート硬化剤の両方を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
  4. 前記塗膜が5質量%以下のカーボンブラックを含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗装鋼板。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の塗装鋼板と、
    前記塗装鋼板上に接合された熱可塑性樹脂組成物と
    を含み、前記架橋剤と前記熱可塑性樹脂組成物との間に共有結合を有することを特徴とする、樹脂金属接合体。
  6. 前記熱可塑性樹脂組成物がポリエステルエラストマーであることを特徴とする、請求項5に記載の樹脂金属接合体。
  7. 請求項1~4のいずれか1項に記載の塗装鋼板を準備する工程と、
    前記塗装鋼板を射出成形金型に挿入する工程と、
    前記射出成形金型に熱可塑性樹脂組成物を射出して、前記塗装鋼板の表面に前記熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合する工程と
    を含むことを特徴とする、樹脂金属接合体の製造方法。
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