JP2023105784A - リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法及びポリエステル系繊維製品 - Google Patents

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和洋 米澤
Kazuhiro Yonezawa
修 埴田
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智栄子 柴田
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Abstract

【課題】特殊な方法を用いず、かつ環境負荷が低い方法により、染色されたポリエステル系繊維製品を容易に脱色することが可能な、リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法を提供する。【解決手段】剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維を、アルカリ可抜型分散染料を用いて125℃未満の温度で染色して、ポリエステル系繊維製品を得る工程と、前記染色における温度よりも高い温度で、前記ポリエステル系繊維製品を脱色して、リサイクル用ポリエステル系繊維製品を得る工程と、を含む、リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法及びポリエステル系繊維製品に関する。
ポリエステルは、強度、加工性、耐薬品性、耐光性、染色性などの面からPETボトルをはじめ、繊維、フィルムなどとして広く用いられている。一方で、近年においては循環型社会をめざし、ポリエステルを用いた製品の再利用方法として、リユース、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクル、ケミカルリサイクルなどの様々な方法が検討されている。例えば、ポリエステル系繊維製品では、リサイクルを行うためのシステムを検討したもの(特許文献1)や回収されたポリエステル系繊維製品を用いたケミカルリサイクル時の工程トラブルを防ぎ、安定して高純度の有効成分を回収する方法(特許文献2)などが知られている。
ポリエステル系繊維製品のリサイクル方法としては、PETボトルのリサイクル方法を参考に検討されているものが多い。しかしながら、ポリエステル系繊維製品はほとんどのものが分散染料によって着色されており、リサイクルにあたって事前に色を除去しなければならないといった問題があった。
また、回収された衣服などのポリエステル系繊維製品を古着としてリユースすることも行われている。しかしながら、この場合においても、着色されている色が流行とは合わず、消費者に受け入れられなかったり、洗濯などが何度もされているため色あせしており、消費者に敬遠されたりと、古着としてのリユースもさほど数量としては伸びていないのが現状である。
特開2004-308077号公報 特開2004-300115号公報
従来から、染色されたポリエステル系繊維製品に対して苛性ソーダとハイドロサルファイトとを用いた還元脱色が行われているものの、ケミカルリサイクルなどが可能な程度に十分な脱色をするためには、高温でかつ長時間の脱色処理が必要となり、脱色のためのエネルギー投入量が増大し、リサイクルする意味を損ねてしまっていた。また、染色されたポリエステル系繊維製品を脱色したうえで、消費者の好みの色に染め直すことの検討も行われたが、濃色への染め替えは可能であるものの、淡色をはじめとする様々な色への染め直しができるほど十分な脱色はできないといった問題があった。
また、染色されたポリエステル系繊維製品のさらなる脱色方法として、苛性ソーダとハイドロサルファイトとを用いて還元脱色を行った後、蓚酸や酢酸またはギ酸と亜塩素酸ソーダとを用いて酸化脱色を行うという、還元脱色と酸化脱色とを組み合わせた脱色方法の検討も行われた。しかしながら、酸化脱色を行う場合、一般的に染色加工に用いられているステンレス製の加工機が腐食してしまう。これを避けるためには、チタンメッキ製の加工機が必要であるが、価格が高価である。この点、染色されたポリエステル系繊維製品について、酸化脱色を行わずに脱色することが望まれている。
さらに、分散染料を溶かすことのできる有機溶剤を大量に用いて脱色することも検討されてはいるが、これに用いられる大量の有機溶剤は人体および環境に対する悪影響が懸念され、また脱色時間も非常に長く、1日1バッチ程度しか脱色処理を行うことができない。
したがって、本発明では、酸化脱色などの特殊な方法を用いず、また大量のエネルギーや有機溶剤を用いない環境負荷が低い方法により、染色されたポリエステル系繊維製品を容易に脱色することが可能な、リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明は、例えば、下記の構成(1)~(7)のいずれかからなる。
(1)本発明のリサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法は、剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維を、アルカリ可抜型分散染料を用いて125℃未満の温度で染色して、ポリエステル系繊維製品を得る工程と、前記染色における温度よりも高い温度で、前記ポリエステル系繊維製品を脱色して、リサイクル用ポリエステル系繊維製品を得る工程とを含む。
(2)前記製造方法において、前記脱色における温度が125℃を超える温度であるとよい。
(3)前記製造方法において、前記アルカリ可抜型分散染料がアゾ染料であるとよい。
(4)前記製造方法において、前記染色の後、且つ、脱色の前に、セット工程を行わないか、または、160℃以下の温度でセット工程を行うとよい。
(5)前記製造方法において、前記染色の前に、セット工程を行わないか、または、170℃以下の温度でセット工程を行うとよい。
(6)前記製造方法においては、前記脱色において、前記染色されたポリエステル系繊維製品を、アルカリ剤、還元剤および非イオン系界面活性剤を含む脱色用処理液によって処理するとよい。
(7)前記(6)の製造方法においては、前記脱色において、前記脱色用処理液がさらにキャリアを含むとよい。
(8)本発明のポリエステル系繊維製品は、剛直非晶分率が55%以下のポリエステル系繊維を含み、アルカリ可抜型分散染料により染色され、且つ、以下の性質を有する。
性質:アルカリ剤、還元剤および非イオン系界面活性剤を含む脱色用処理液を用い、125℃を超え、135℃以下の温度で脱色することにより、前記ポリエステル系繊維製品の脱色後の着色の程度が、染色前の繊維製品の色(白布の色)と比べ、JIS L0805に規定する汚染用グレースケールの3-4級を超える白さまで脱色される。
本発明の製造方法を用いれば、染料で染色された繊維製品から容易に色を除去することが可能であるため、リサイクル可能なポリエステル系繊維製品を製造することができる。また、本発明の製造方法において酸化脱色などの特殊な方法は不要であり、従来の染色加工で用いられている装置により脱色することができ、またエネルギーの投入量を抑制し、かつ大量の有機溶剤を用いる必要性もないので、安価で、安全で、環境負荷が低い方法でリサイクル用ポリエステル系繊維製品を製造することができる。
1.リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法
以下に本発明のリサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法を実施するための形態について説明するが、本発明は、これらの態様のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な変更がなされ得ることを理解されたい。
本実施の形態のリサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法は、剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維を、アルカリ可抜型分散染料を用いて125℃未満の温度で染色して、ポリエステル系繊維製品を得る工程と、前記染色における温度よりも高い温度で、前記ポリエステル系繊維製品を脱色して、リサイクル用ポリエステル系繊維製品を得る工程とを含む。
尚、本願において、染色前の「ポリエステル系繊維」は、糸状;綿状;織物、編物、不織布などの布地状;衣服、鞄、袋物、テント、カーテン、布団、敷布などの最終製品の形状;などのいずれの状態にあってもよい。また、染色後の「ポリエステル系繊維製品」は、糸状、綿状又は布地状などの半製品とされた「ポリエステル系繊維」を染色したうえで、縫製などを経て得られたものであってもよいし、半製品又は最終製品の形状とされた「ポリエステル系繊維」を染色して、そのままのものであってもよい。さらに、「リサイクル用ポリエステル系繊維製品」は、「ポリエステル系繊維製品」が脱色されることで、リサイクルをするためにより適した状態となったものといえる。
1.1 ポリエステル系繊維
本実施の形態に用いられるポリエステル系繊維は、55%以下の剛直非晶分率を有する。ポリエステル系繊維は、少なくとも染色直前の時点で、55%以下の剛直非晶分率を有していればよい。好ましくは、染色直前のポリエステル系繊維が55%以下の剛直非晶分率を有するとともに、染色後且つ脱色直前のポリエステル系繊維製品を構成するポリエステル系繊維も55%以下の剛直非晶分率を有するとよい。
1.1.1 ポリエステル系繊維の種類
本実施の形態に用いられるポリエステル系繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートやポリ乳酸などのポリエステル系樹脂からなる繊維である。熱による加工のしやすさや、リサイクル製品としての汎用性の高さといった観点から、PET繊維であることが好ましい。なお、ポリエステル系繊維にスルホ基やオキシアルキレン基などを導入する染色性向上のための改質を行ってもよいが、糸の強度、洗濯堅牢度、昇華堅牢度などが低下するおそれがある。本実施の形態のリサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法においては、特に改質されていないポリエステル(レギュラーポリエステル)系繊維であっても十分に適用できるため、レギュラーポリエステルを用いるのが好ましい。
1.1.2 ポリエステル系繊維の剛直非晶分率
ポリエステル系繊維を製造する過程においては、得られる繊維の強度、形態安定性、染色堅牢性、タッチ、膨らみ感の付与などの種々の観点より、溶融紡糸工程やその後の撚糸や仮撚りなどの工程においてポリエステル系繊維を延伸する工程がある。延伸されたポリエステル系繊維は、一般的に、結晶、可動非晶(ガラス転移を示す非晶)、剛直非晶(ガラス転移を示さない非晶)の三相から構成されている。
通常(従来)のポリエステル系繊維(「通常糸」ともいう)の剛直非晶分率は60~70%程度であるが、本実施の形態に係る繊維製品に用いられるポリエステル系繊維は、上記のように、剛直非晶分率が55%以下である。
剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維は、低い温度で染色処理を行った場合においても、着色性(染色性)に優れ、衣服などの分野において用いるに十分な染色堅牢度を有するものとなる。また、低い温度で染色処理を行うことで、脱色処理において低温で色を除去し易くなる。また、結晶と剛直非晶とを合わせてトータル結晶領域とみているが、本実施の形態では、ポリエステル系繊維の剛直非晶分率が55%以下であることから、剛直非晶に結晶分を合わせてもトータル結晶領域が少ない。トータル結晶領域が少ないことは、染色に寄与する可動非晶分が多いことを指す。従って、通常糸よりトータル結晶領域が少ない本実施の形態におけるポリエステル系繊維は、通常糸よりも染色に寄与する可動非晶分が多いといえる。そして、このことが低温での染色性を良くしていると考えられる。つまり、本実施の形態におけるポリエステル系繊維では、剛直非晶分率が55%以下であることから、トータル結晶領域が少なく、染色に寄与する可動非晶分が多くなっている。これにより、低い温度で所望の色濃度が得られる染色処理を行うことができ、同時に低い温度での脱色処理であっても十分な脱色を行うことができる。特に、上述の通り、染色直前のポリエステル系繊維が55%以下の剛直非晶分率を有するとともに、染色後且つ脱色直前のポリエステル系繊維製品を構成するポリエステル系繊維も55%以下の剛直非晶分率を有するものである場合、脱色処理における温度を一層低温化できるものと考えられる。
本実施の形態において、ポリエステル系繊維の剛直非晶分率は以下の(式1)で定義される物性値である。具体的には、温度変調DSC(例えばDSC8500(PerkinElmer社製))にて測定できる。また、昇温条件としては、60~160℃間では、ガラス転移温度前後での比熱測定用に緩やかな条件であり、例えば、昇温速度5℃/分、ステップ温度幅2℃、等温保持時間2分で行い、160~280℃間では、再結晶化を防ぐために速い条件であり、例えば、昇温速度40℃/分、ステップ温度幅2℃、等温保持時間0.4分で行う。そして、試料質量を約5mgにて測定を行って、以下の(式2)及び(式3)により、剛直非晶分率を求めることができる。
剛直非晶分率(%)=100-結晶化度-可動非晶分率・・・(式1)
剛直非晶分率(%)=(1-X-ΔC/ΔCp,a)×100・・・(式2)
(結晶化度)=Δh/ΔhF,perfect ・・・(式3)
(式2)及び(式3)において、ΔC、ΔCp,a、Δh、ΔhF,perfectは、以下のように定義される。なお、本実施の形態において、PETの固有物性値として、ΔhF,perfect=140J/g とし、ΔCp,a=0.405J/g・Kとした。
ΔC:温度変調DSCにて求めたガラス転移温度前後での比熱の差
ΔCp,a:完全非晶のガラス転移温度前後での比熱の差
Δh:試料の融解熱量
ΔhF,perfect:完全結晶の融解熱量
分散染料を用いた低い温度での染色性、染色堅牢性、及び脱色性の観点からは、ポリエステル系繊維の剛直非晶分率は、50%以下であることがより好ましく、45%以下がより好ましい。なお、本実施の形態に係るポリエステル系繊維において、剛直非晶分率の下限は、特に限定されるものではない。結晶化度にもよるものの、得られる糸の強度の観点からは、例えば、20%以上であることが好ましく、より好ましくは25%以上、さらにより好ましくは30%以上である。
1.1.3 ポリエステル系繊維の配向度
また、本実施の形態に係るポリエステル系繊維では、低温での染色性および脱色性の観点から、広角X線散乱測定により求められる繊維軸方向と平行な面における配向度は、通常糸よりも小さいとよりよい。具体的には、通常糸では、配向度は83%程度であるが、本実施の形態におけるポリエステル系繊維は、配向度は、80%以下であるとよく、より好ましくは78%以下である。なお、配向度の下限は特に限定されるものではないが、配向度が低過ぎると、高い強度を発現する分子中の結晶成分が繊維の軸方向に十分配向しておらず、機械強度が低下するおそれがある。そのため、配向度は70%以上が好ましい。
なお、配向度は、例えば、c軸を繊維軸方向と一致させて広角X線散乱測定をして得られた2次元散乱像のうち、2θ=25.5°(ポリエステル系樹脂の結晶系である三斜晶系におけるミラー指数(100)面に相当)部分を方位角に沿って散乱強度をプロットし、現れたピークの半値幅をWとしたときに、以下の(式4)で求めることができる。
配向度(%)={(360-2W)÷360}×100・・・(式4)
この場合、測定装置としては、株式会社リガクが提供している「SmartLab」(商品名)の全自動多目的X線回折装置を用い、管電流200mA、管電圧45kV、照射時間15分にて測定を行うことで、配向度を求めることができる。
1.1.4 ポリエステル系繊維のガラス転移温度
本実施の形態に用いるポリエステル系繊維のガラス転移温度は、ポリエステル系繊維製品の熱による収縮を抑制する観点から、110℃以上が好ましく、114℃以上がより好ましい。また、ポリエステル系繊維製品の脆化を抑制する観点から、130℃以下が好ましく、124℃以下がより好ましい。
尚、ポリエステル系繊維のガラス転移温度は、動的引張弾性率の温度依存性から求めたものである。具体的には、動的粘弾性測定装置E4000(UBM社製)を用い、測定周波数10Hz、昇温速度2℃/分、温度範囲40~150℃で測定された損失弾性率のピーク時の温度より求めることができる。
1.1.5 ポリエステル系繊維の調整方法及びその他の事項
本実施の形態に用いるポリエステル系繊維は、剛直非晶分率を55%以下に調整したものであれば、その調整方法は特に限定されない。剛直非晶分率を調整する方法としては、例えば、繊維への結晶核剤又は結晶化阻害剤となる粒子の添加、繊維又は繊維布帛に対する加熱、急冷、水や有機溶剤など適宜の液体の噴霧や液体への浸漬、延伸、揉み加工などの機械的せん断力の付与、及びこれらを組み合わせる方法などが挙げられる。
なかでも公知の方法で溶融紡糸(生糸や半延伸糸、また、これらを複合した部分的に延伸率を変化させた糸であってもよい)にした後、110℃以上160℃以下の温度で延伸倍率が1.6未満にて仮撚加工されたものが、剛直非晶分率を55%以下に調整して染色温度および脱色温度を低下させる効果と、繊維の機械強度や寸法安定性、風合いの良さを同時に向上させることができ、工程の簡略化が可能となる効果とが得られるため、好ましい。より好ましくは、仮撚時の温度は、120℃以上、150℃以下である。さらに、仮撚時の温度は、140℃以下であるとよい。また、延伸倍率は、1.5以下であることがより好ましい。なお、延伸倍率の下限値は特に限定されるものではないが、糸の嵩高性及び伸縮性の観点から、延伸倍率は、1.1以上であるとよく、さらに好ましくは1.3以上である。
また、得られるポリエステル系繊維の寸法安定性(乾熱、湿熱、湿潤)、特に、精練時や後に説明を行う染色加工時の寸法安定性向上の観点から、仮撚り時の熱処理は、2段階にて行うとよい。この場合、1段目は、前記の110℃以上160℃以下の加熱温度で熱処理し、2段目は、200℃以上300℃以下の加熱温度で熱処理を行うとよい。より好ましくは、1段目の加熱温度は、120℃以上150℃以下であることが好ましく、2段目の加熱温度は、230℃以上280℃以下、さらにより好ましくは240℃以上270℃以下であることが好ましい。
また、本実施の形態に用いるポリエステル系繊維は、長繊維及び短繊維のいずれであってもよく、モノフィラメント及びマルチフィラメントのいずれであってもよい。汎用性の観点から、ポリエステル系繊維は、長繊維マルチフィラメントであることが好ましい。
また、ポリエステル系繊維から得られる糸は、特に限定されるものではないが、糸の太さが5デシテックス~200デシテックスで、フィラメント数が1本~300本程度のものが挙げられる。
1.2 ポリエステル以外の繊維
本実施の形態に用いられるポリエステル系繊維は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、綿、麻、羊毛などの天然繊維やナイロン、アクリルなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維と組み合わされてもよいし、部分的に剛直非晶分率が55%を超える繊維を含んでいてもよい。ただし、リサイクル時の分別やケミカルリサイクル、マテリアルリサイクル時に得られる成分の純度の観点、並びに染色性、染色堅牢性、及び脱色性の観点からは、本実施の形態に用いられる繊維は、同一のポリエステル系繊維のみからなり、かつ、染色前における全体の剛直非晶分率が55%以下であるものが好ましい。
1.3 アルカリ可抜型分散染料
本実施の形態に用いられる染料は、脱色性の観点よりアルカリ可抜型分散染料が用いられる。アルカリ可抜型分散染料とは、捺染技術の一手法であるアルカリ抜染により布地に柄を付与する際に、地染用染料として用いられる染料であり、アルカリ可抜型分散染料で染色された布地に、アルカリ性物質と非アルカリ可抜型分散染料とを含む糊を捺染法にて付与し、180℃~200℃程度で蒸熱処理を行うことにより、当該糊が付与された場所以外の色を抜いて柄を形成することができる染料である。
より具体的には、C.I.Disperse Yellow 79、C.I.Disperse Yellow 163、C.I.Disperse Yellow 186、C.I.Disperse Orange 119、C.I.Disperse Red 88、C.I.Disperse Red 183、C.I.Disperse Red 221、C.I.Disperse Red 348、C.I.Disperse Red 376、C.I.Disperse Violet 36、C.I.Disperse Violet 97、C.I.Disperse Blue 108、C.I.Disperse Blue 340、Disperse Blue 341などが挙げられる。
また、本実施の形態に用いられるアルカリ可抜型分散染料は、染色性、脱色性の観点よりアゾ系のアルカリ可抜型分散染料(アゾ染料)が好ましい。アゾ系の分散染料としては、モノアゾ型、ジスアゾ型、ベンゼンアゾ型、チアゾールアゾ型、イミダゾールアゾ型、チオフェンアゾ型およびピロリドンアゾ型分散染料が挙げられる。また、脱色性の観点よりアルキルエステルを有するものも好ましく用いられ、カルボキシル基、カルボン酸エステルを有するものがより好ましい。
また、本実施の形態に用いられる染料は、色濃度の向上及び染ムラの抑制の観点より、低温染色性を示すE型のグループに属する分散染料を用いるとよい。E型染料は、低温で染まるとともに移染性にも優れ染ムラの抑制効果を有する。低温染色性を示す染料の選択の際には、染料メーカーにもよるが、染料名に付与されている染色特性記号として「E」や「SE」が付されているものを目安とすることができる。
なお、アゾ系分散染料以外のベンゾジフラノン系、フタルイミド系、キノン系分散染料などであっても、染料の使用濃度などを調整することにより下記の脱色処理後に問題にならない程度の残色を示すものであれば、併用してもよい。
1.4 染色処理
本実施の形態に係る製造方法においては、上記のポリエステル系繊維に対して、上記のアルカリ可抜型分散染料を用いて、125℃未満の温度で染色が行われる。これにより、染色されたポリエステル系繊維製品が得られる。以下、染色処理の一例について説明する。
1.4.1 プレセット
本実施の形態に用いられるポリエステル系繊維は、染色性及び脱色性の観点からは、染色の前に、セット工程を行わないか、または、170℃以下の温度でセット工程を行って得られたものであるとよい。通常、ポリエステル系繊維製品では、精練後、分散染料にて染色される前に、180℃~210℃にて20秒から60秒程度、ヒートセット(熱セット)を行う。この熱セット(プレセット)を行う目的は、布地の収縮を抑制し、シワの固定化を防ぐとともに、染ムラや染色再現性を付与することにある。しかしながら、本実施の形態では、プレセットを行わないか、または170℃以下の温度でプレセットを行うことにより、熱を受けポリエステル系繊維中の剛直非晶分率が向上してしまうことを抑制し、低温での染色であっても任意の色に着色することができ、また、脱色処理においても優れた脱色効果が得られる。なお、弱いプレセット条件では染ムラなどの欠点が生じる場合には、適宜の条件でプレセットを行い、染ムラの発生を抑制し、先に例示した分散染料や後に説明を行う脱色処理時の条件設定にて脱色の程度を調整するとよい。
1.4.2 付帯加工
なお、ポリエステル系繊維は、撥水加工、制電加工、吸水加工、抗菌防臭加工、制菌加工、難燃加工、柔軟加工などの一般的なポリエステル系繊維製品に行われている各種付帯加工が施されていてもよい。リサイクルの観点からは、これらの付帯加工はポリエステル系繊維の内部に薬剤を浸透(吸尽)させたものではなく、ポリエステル表面に薬剤を付着させる方法、例えばパディング法やスプレー法などで薬剤を付与することが好ましい。
ただし、剛直非晶分率が55%以下のポリエステル系繊維には、分散染料にて染色する際、難燃剤や抗菌剤なども効率よく吸尽されるため、ポリエステル系繊維製品を染め替えにてリサイクルする予定であれば、染色と同時に防炎加工や抗菌加工を行うと、ポリエステル系繊維製品に効率的に前記機能を与えることができる。
1.4.3 染色温度
ポリエステル系繊維を分散染料で染色する場合、得られるポリエステル系繊維製品の色の再現性、色濃度、染色堅牢度の観点より一般的には130℃以上、135℃以下で染色が行われる。これに対し、本実施の形態における染色処理は、エネルギー投入量を抑え、かつ脱色性を向上させるため、125℃未満で行う。染色温度は、122℃以下がより好ましく、さらに好ましくは120℃以下がよい。下限は繊維製品として目的とする色(色濃度、色相)や染色堅牢度またポリエステル系繊維の種類(樹脂種、繊度、延伸倍率など)にもよるが90℃程度であり、105℃以上がよく、より好ましくは115℃以上がよい。なお、「染色温度」とは染色時に設定した最高温度をいう。
1.4.4 染色時間
染色時間は、目的とする色(濃度、色相)、染料の特性や染色堅牢度にもよるが、5分以上が好ましく、より好ましくは10分以上、さらにより好ましくは15分以上である。上限は特に限定されるものではないが、生産性の観点より90分以下が好ましい。なお、「染色時間」とは前記の染色温度(最高温度)における維持時間をいう。
1.4.5 染色液
染色液は、上記のアルカリ可抜型分散染料のほか、通常、分散染料を用いたポリエステル系繊維の染色時に用いられる各種の添加剤が含まれていてもよい。例えば、分散剤や均染剤や酸などを含み得る。これら添加剤は公知であることから、詳細な説明を省略する。
1.4.6 浴比
染色における繊維とアルカリ可抜型分散染料を含む染色液との浴比(質量比)は、例えば、1:3~1:100程度で行えばよい。
1.4.7 染料濃度
染色における染料濃度は、特に限定されるものではなく、繊維の質量に対して、市販されている染料での濃度で一般的に使用されている濃度とすることができる。具体的には、0.001~15%omf程度である。
1.4.8 染色についてのその他の事項
染色されたポリエステル系繊維製品の色相は、赤、青、黄、緑、黒など任意の色であってよい。また、(色)濃度は淡色から濃色のいずれでもよい。上記分散染料による染色は、前述したポリエステル系繊維が、糸状、綿状や織物、編物、不織布など布地状や、衣服、鞄、袋物、テント、カーテン、布団、敷布など縫製された最終商品の形状などいずれの形状で行われてもよい。
1.5 仕上げセット
本実施の形態に用いられるポリエステル系繊維製品は、脱色性の観点からは、前記染色の後、且つ、後述の脱色の前に、セット工程を行わないか、または、160℃以下の温度でセット工程を行って得られたものであるとよい。通常、ポリエステル系繊維製品では、染色後に、170℃~200℃にて20秒から200秒程度、熱セットを行う。この熱セット(仕上げセット)を行う目的はプレセットと同様であるが、本実施の形態では、仕上げセットを行わない、または、160℃以下の温度で仕上げセットを行うことにより、熱を受けポリエステル系繊維中の剛直非晶分率が向上してしまうことを抑制し、脱色処理において優れた脱色効果が得られる。なお、弱い仕上げセット条件では発色不良などの欠点が生じる場合には、適宜の条件で仕上げセットを行い、発色不良の発生を抑制し、後に説明を行う脱色処理時の条件設定にて脱色の程度を調整するとよい。
1.6 ポリエステル系繊維製品
上述の通り、本実施の形態に用いられるポリエステル系繊維製品は、上記で求められる剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維を染色して得られたものである。ポリエステル系繊維製品の形状は、上述の通り、糸状;綿状;織物、編物、不織布などの布地状;衣服、鞄、袋物、テント、カーテン、布団、敷布などの縫製された最終製品の形状;などのいずれであってもよい。
1.7.脱色処理
本実施の形態においては、上記のようにして得られたポリエステル系繊維製品に対して、脱色を行うことで、当該ポリエステル系繊維製品がリサイクルに適した状態となる。ここで、本実施の形態においては、染色されたポリエステル系繊維製品を得てから脱色に至るまでにおいて、当該ポリエステル系繊維製品の販売や使用等がされてもよい。すなわち、本実施の形態に係る製造方法は、染色工程と脱色工程とが連続的に行われるものに限られない。例えば、染色されたポリエステル系繊維製品を市場に流通させるなどした後、使用済又は未使用のポリエステル系繊維製品を回収し、回収されたポリエステル系繊維製品を脱色するものであってもよい。
1.7.1 脱色温度
本実施の形態においては、上記の染色温度よりも高い温度で脱色する。脱色における温度は、好ましくは125℃を超える温度、より好ましくは128℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。脱色温度の上限は、ポリエステル系繊維の脆化の抑制と、再染色を容易にするとの観点からは、135℃未満がよい。また、脱色性の観点からは、染色温度と脱色温度との差は3℃以上あるとよく、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは7℃以上、最も好ましくは9℃以上である。上限は特に無いが、ポリエステル系繊維製品の染色により任意の色に着色し、実用的な染色堅牢度を維持すること、ポリエステル系繊維の脆化を防ぐこと、及び脱色性の観点より、染色温度と脱色温度との温度差は30℃以下であってもよい。なお、「脱色温度」とは脱色条件において設定した最高温度をいう。
1.7.2 脱色時間
脱色時間は、脱色性の観点より10分以上が好ましく、より好ましくは20分以上、さらにより好ましくは30分以上がよい。上限は特に限定されないが、生産性の観点からは120分以下がよく、さらに好ましくは60分以下、さらにまた好ましくは45分以下がよい。なお、「脱色時間」とは前記の脱色温度(最高温度)における維持時間をいう。
1.7.3 脱色用処理液
本実施の形態における脱色では、染色されたポリエステル系繊維製品を、アルカリ剤、還元剤および非イオン系界面活性剤を含む脱色用処理液によって処理するとよい。脱色用処理液には、これらの他、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分の一例としては、キレート剤、アニオン系界面活性剤、芳香族化合物などが挙げられる。
(アルカリ剤)
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。これらは、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのアルカリ剤は、0.05~10質量%の濃度、特に0.1~2質量%の濃度の水溶液として用いられるのが好ましい。アルカリ剤の濃度が0.05質量%未満であると脱色効果が十分でないことがあり、また、アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いた場合には、その濃度が10質量%を超えるとポリエステル系繊維を溶かしてしまう可能性がある。
(還元剤)
有用な還元剤としては、ハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素、亜鉛スルホキシレート・ホルムアルデヒド、ナトリウムスルホキシレート・ホルムアルデヒドなどが挙げられる。これらは、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。特に、ハイドロサルファイトと二酸化チオ尿素とを併用するのが好ましい。これらの還元剤は、0.1~10質量%の濃度、特に0.5~3質量%の濃度の水溶液として用いられるのが好ましい。この濃度が0.1質量%未満であると脱色が十分でないことがあり、10質量%を超えても脱色効果にさほど差がなく、コスト的に不利である。
(非イオン系界面活性剤)
有用な非イオン系界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールもしくはソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミドなどが挙げられる。これらは、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのうちでは脂肪酸エチレンオキサイド付加物が好ましく、不飽和脂肪酸エチレンオキサイド付加物がより好ましい。より具体的には、ポリエチレングリコールオレイン酸モノエステル、ポリエチレングリコールオレイン酸ジエステルが挙げられる。これらの非イオン系界面活性剤は、0.01~10質量%の濃度の水溶液として用いられるのが好ましい。この濃度が0.01質量%未満であると脱色が十分でないことがあり、10質量%を超えても脱色効果にさほど差がなく、コスト的に不利であり、多量の泡が発生したりする可能性がある。
(キレート剤)
脱色用処理液はキレート剤を含んでいてもよい。有用なキレート剤としては、縮合リン酸塩としてピロリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダなど、アミノカルボン酸型としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)など、オキシカルボン酸型としてグルコン酸など、ホスホン酸型としてヒドロキシエチリデンジホスホン酸など、ポリカルボン酸型としてポリアクリル酸ソーダ、ポリマレイン酸ソーダなどが挙げられる。これらのうちではエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が好ましく、これらはそれぞれ単独でまたは2種以上の組み合わせで用いられてもよい。これらのキレート剤は、0.001~0.1質量%の濃度の水溶液として用いられるのが好ましい。この濃度が0.001質量%未満であるとキレート剤の効果が不足し脱色が十分でないことがあり、0.1質量%を超えても脱色効果にさほど差がなく、コスト的に不利である。なお、トリポリリン酸ソーダをキレート剤以外の目的、例えば脱色された染料の分解生成物による繊維製品の汚染防止やその他、塩効果などを得る目的で使用した場合には、トリポリリン酸ソーダを0.1質量%以上用いてもよい。
(アニオン系界面活性剤)
脱色用処理液はアニオン系界面活性剤を含んでいてもよい。アニオン系界面活性剤としては、セッケン、高級アルコール硫酸エステル、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩などが挙げられる。より好ましくは硫酸化油であり、さらに好ましくは硫酸化ひまし油である。これらは、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのアニオン系界面活性剤は0.001~5質量%の濃度の水溶液として用いられるのが好ましい。この濃度が0.001質量%未満であると脱色が十分でないことがあり、5質量%を超えても脱色効果にさほど差がなく、コスト的に不利である。
(キャリア)
脱色用処理液は、さらにキャリアを含んでいてもよい。キャリアとは、ポリエステル分子と親和性が高く、ポリエステル系繊維を構成する分子の結晶構造を緩め、ポリエステル系繊維に染着した染料が系外へ溶出するのを促進したり、他の助剤がポリエステル系繊維に浸透しやすくしたりする役割を担う化合物である。かかるキャリアとしては、ポリエステル分子との親和性の高さから種々の芳香族化合物が用いられてもよく、ポリエステル分子との親和性の高さと水への分散性の高さとを両立しやすいことから、分子量110以上320以下の低分子芳香族化合物が用いられてもよい。具体的には、ビフェニル、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、o-ベンジルフェノール、p-ベンジルフェノール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、サリチル酸メチル、ブチルパラベン、バニリン、ジベンジルエーテル、N-ブチルフタルイミド、1,2,4-トリクロロベンゼンなどが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。脱色性や臭いの観点からは、安息香酸ベンジル、N-ブチルフタルイミドが好ましい。これらのキャリアは0.01~10質量%の濃度の水溶液として用いられるのが好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。この濃度が0.01質量%未満であると脱色が十分でないことがあり、10質量%を超えても脱色効果にさほど差がなく、コスト的に不利であり、また繊維製品にキャリアが残留し、臭いが発生する可能性がある。
1.7.4 浴比
脱色されるポリエステル系繊維製品と脱色用処理液の浴比(質量比)は、ポリエステル系繊維製品の色濃度によっても変わるが、ポリエステル系繊維製品:脱色用処理液=1:5~1:500程度がよい。ポリエステル系繊維製品の脱色の観点からは、好ましくは、脱色用処理液の比が1:10より大きいと好ましく、1:20以上がより好ましく、1:30以上がさらにより好ましい。脱色用処理液の比が小さ過ぎると十分な脱色が得られないおそれがあり、脱色用処理液の比が過剰であっても脱色効果にさほど差がみられないため、コスト的に不利である。
1.7.5 脱色装置
脱色に用いられる装置としては通常、ポリエステル系繊維製品の染色や精練処理に用いられる高圧液流染色機や高圧ワッシャーなどを、ポリエステル系繊維製品の形態に応じて適宜選択して用いることができ、上記の処理条件で処理できるものであれば特に限定されるものではない。
1.7.6 脱色についてのその他の事項
本実施の形態においては、必要に応じて、上記の脱色の処理を2回以上繰り返して行ってもよい。また、脱色処理後は、乾燥前に水洗、必要に応じ中和処理後、水洗を行うのが好ましい。
1.8 リサイクル用ポリエステル系繊維製品
本実施の形態によれば、リサイクル用ポリエステル系繊維製品を製造することができる。本実施の形態におけるリサイクル用ポリエステル系繊維製品の脱色後の着色の程度は、染色前の繊維製品の色(白布の色)と比べ、JIS L0805に規定する汚染用グレースケールにて3-4級を超える白さとなり得る。好ましくは4級(4号程度のもの)以上、より好ましくは4級超、さらに好ましくは4-5級(4-5号程度のもの)以上、特に好ましくは4-5級超がよい。
本実施の形態におけるリサイクル用ポリエステル系繊維製品は、繊維製品として任意の色に染色することができる。また、染色堅牢度も実用上問題のないものが得られる。そして脱色により、染色し着色された色が十分に脱色され、リサイクルを行う繊維製品として好ましい。特に、染め替えなどを行うマテリアルリサイクル用の繊維素材として適している。
また、本実施の形態におけるリサイクル用ポリエステル系繊維製品の具体例としては、糸、綿、織物や編物などの布地、衣服、鞄、袋物、テント、カーテン、布団、敷布、シーツ、椅子張りなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
1.9 作用・効果
以上の通り、本実施の形態のリサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法を用いれば、通常のポリエステル系繊維製品と同様に任意の色に着色され、また、実用上必要な染色堅牢度を有するポリエステル系繊維製品が得られ、また、脱色により優れた脱色性を有し、染め替えを含めたマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルに適したリサイクル用ポリエステル系繊維製品を得ることができる。なお、本願にいう「リサイクル」には「リユース」も含まれるものとする。すなわち、上記のリサイクル用ポリエステル系繊維製品は、当該繊維製品とは異なるものにリサイクルされてもよいし、当該繊維製品を染色し直すなどして、リユースされてもよい。
2.ポリエステル系繊維製品
本開示の技術は、ポリエステル系繊維製品としての側面も有する。すなわち、本実施形態に係るポリエステル系繊維製品は、剛直非晶分率が55%以下のポリエステル系繊維を含み、アルカリ可抜型分散染料により染色され、且つ、以下の性質を有することを特徴とする。
性質:アルカリ剤、還元剤および非イオン系界面活性剤を含む脱色用処理液を用い、125℃を超え、135℃未満の温度で脱色することにより、前記ポリエステル系繊維製品の脱色後の着色の程度が、染色前の繊維製品の色(白布の色)と比べ、JIS L0805に規定する汚染用グレースケールの3―4級を超える白さまで脱色される。
脱色用処理液や脱色処理の詳細については上述の通りである。本実施形態に係るポリエステル系繊維製品は、アルカリ可抜型分散染料によって任意の色に着色される一方、リサイクルなどを目的として125℃を超え、135℃未満で脱色処理が施された場合に所定の白さにまで容易に脱色されるものである。このようなポリエステル系繊維製品は、上述の通り、脱色時の温度が染色時の温度よりも高くなるように、染色時の温度を低く設定することによって製造され得る。染色条件の詳細については上述の通りである。
3.ポリエステル系繊維製品の製造方法
本開示の技術は、ポリエステル系繊維製品の製造方法としての側面も有する。すなわち、本実施形態に係るポリエステル系繊維製品の製造方法は、剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維を、アルカリ可抜型分散染料を用いて125℃未満の温度で染色して、ポリエステル系繊維製品を得る工程を含む。当該工程の詳細については上述の通りである。当該工程を経てポリエステル系繊維製品を得ることで、低温での脱色性に優れるポリエステル系繊維製品が得られる。
4.補足
本開示の技術は、ポリエステル系繊維製品のリサイクルシステムとしての側面も有する。すなわち、本開示のリサイクルシステムは、剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維がアルカリ可抜型分散染料によって125℃未満の温度で染色されて第1繊維製品(第1のポリエステル系繊維製品)となること、前記第1繊維製品がユーザによって購入又は使用されること、購入又は使用後の前記第1繊維製品が回収されること、及び、回収された前記第1繊維製品が前記染色における温度よりも高い温度で脱色されてリサイクル用ポリエステル系繊維製品となること、を含む。当該リサイクル用ポリエステル系繊維製品は、任意に染色されて、第2繊維製品(第2のポリエステル系繊維製品)となり、再びユーザによって購入などされてもよいし、或いは、当該リサイクル用ポリエステル系繊維製品は、繊維製品以外の製品のポリエステル原料として用いられてもよい。染色により第1繊維製品を製造する者と、第1繊維製品を回収する者と、第1繊維製品を脱色する者とは、各々、同じ者であってもよいし異なる者であってもよい。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
1.評価方法
本実施例においては、ポリエステル系繊維の各種物性、染色処理後のポリエステル系繊維製品の染色堅牢度及び脱色後のリサイクル用ポリエステル系繊維製品の色残りの程度を以下の方法で確認した。
1.1 剛直非晶分率、結晶化度
DSC8500(PerkinElmer社製)を用いた温度変調DSC測定によりポリエステル系繊維の剛直非晶分率及び結晶化度を求めた。具体的には、昇温条件としては、60~160℃間では、ガラス転移温度前後での比熱測定用に緩やかな条件で、昇温速度5℃/分、ステップ温度幅2℃、等温保持時間2分とし、160~280℃間では、再結晶化を防ぐために速い条件で、昇温速度40℃/分、ステップ温度幅2℃、等温保持時間0.4分とした。そして、試料重量を約5mgにて測定を行ってΔC、Δhを算出し、以下の(式5)及び(式6)により、剛直非晶分率を求めた。
剛直非晶分率(%)=(1-X-ΔC/ΔCp,a)×100・・・(式5)
(結晶化度)=Δh/ΔhF,perfect ・・・・・・・・・・・・(式6)
ΔhF,perfect=140J/g
ΔCp,a=0.405J/g・K
1.2 配向度
「SmartLab」(商品名)(株式会社リガク製)を用いた広角X線散乱測定によりポリエステル系繊維の配向度を求めた。具体的には、管電流200mA、管電圧45kV、照射時間15分の条件で、c軸を繊維軸方向と一致させ測定を行った。得られた2次元散乱像のうち、2θ=25.5°部分を方位角に沿って散乱強度をプロットし、現れたピークの半値幅Wを求め、さらに以下の(式7)により、配向度を求めた。
配向度(%)={(360-2W)÷360}×100・・・(式7)
1.3 ガラス転移温度
E4000(株式会社UBM製)を用いた動的粘弾性測定によりポリエステル系繊維のガラス転移温度を求めた。具体的には、測定周波数10Hz、昇温速度2℃/分、温度範囲40~150℃の条件で動的粘弾性を測定した。得られた損失弾性率のピーク時の温度より、ガラス転移温度を求めた。
1.4 耐光堅牢度
染色処理後のポリエステル系繊維製品に対して、JIS L0842:2004 紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度 第3露光法に準じて試験を行い、4級以上か、未満かを評価した。
1.5 洗濯堅牢度
染色処理後のポリエステル系繊維製品に対して、JIS L0844:2011 洗濯に対する染色堅牢度試験 A法 A-2号に準じて試験を行った。なお、添付白布はナイロンと綿を用い、汚染の評価は、汚染がひどい方の添付白布の評価を行った。
1.6 摩擦堅牢度
染色処理後のポリエステル系繊維製品に対して、JIS L0849:2013 摩擦試験機II形(学振形)法に準じて試験を行った。
1.7 脱色の色残りの程度の確認
JIS L0805:2005に準じて、脱色後の繊維製品の着色の程度を、汚染用グレースケールを用いて、脱色後の繊維製品と染色前の繊維製品(白布の色)とを比較し評価した。
2.リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造
2.1 実施例1
改質されていないポリエチレンテレフタレート(レギュラーPET)を溶融紡糸し、半延伸糸を得た。次に、仮撚加工を行い、83デシテックス、36フィラメントのレギュラーPET繊維からなる糸を得た。得られたレギュラーPET繊維は、剛直非晶分率が46%で、結晶化度が30%で、配向度が77%で、ガラス転移点が120℃であった。
次に、このレギュラーPET繊維を用いて平織し、平織物を得た。
得られた平織物に対し、下記染色液を用いて、液流染色機により120℃で15分間染色を行い青色に染色した(浴比1:20)。
<染色液>
アルカリ可抜型アゾ系分散染料(青色)(C.I. Disperse Blue 340及び341の混合物) 0.5%omf
ニッカサンソルトSN-550(日華化学(株)製 分散均染剤) 1.0g/L
酢酸 0.2g/L
次に、平織物を染色機から取り出した後、帯電防止剤をパディング法で付与し、120℃で乾燥した。その後、140℃で30秒間仕上げセットを行った。これにより、ムラなく均一に染色された平織物が得られた。帯電防止加工を施した平織物の染色堅牢度を測定したところ、耐光堅牢度:4級以上、洗濯堅牢度:変退色4-5級、汚染4-5級、摩擦堅牢度:乾4-5級、湿4-5級であり、実用上問題のないレベルの染色堅牢度を有していた。また、仕上げセット後のPET繊維は、剛直非晶分率が39%で、結晶化度が32%で、配向度が76%で、ガラス転移点が124℃であった。
次に、上記の平織物を用いてシャツを縫製し、ポリエステル系繊維製品とした。
上記シャツを着用した後、回収した。回収したシャツからボタンなどを取り去り、下記脱色用処理液を用い、高圧ワッシャーにて常温より2℃/分にて昇温しながら130℃まで昇温を行い、130℃にて30分間の脱色処理を1回行った(浴比1:50)。
<脱色用処理液>
炭酸ナトリウム 0.7質量%
ハイドロサルファイト 0.7質量%
二酸化チオ尿素 0.7質量%
ポリエチレングリコールオレイン酸モノエステル 0.3質量%
硫酸化ひまし油 0.1質量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 0.01質量%
トリポリリン酸ナトリウム 0.1質量%
キレート剤(DTPA) 0.01質量%
水 残量
その後、水洗、乾燥された繊維製品は、ほぼ白色になっていた。繊維製品の脱色処理後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ4-5級であった。また、脱色後のPET繊維は、剛直非晶分率が43%で、結晶化度が32%で、配向度が76%で、ガラス転移点が121℃であった。
次に、脱色されたリサイクル用ポリエステル系繊維製品(シャツ)を先のアルカリ可抜型アゾ系分散染料(青色)に変えて、アルカリ可抜型アゾ系分散染料(赤色、C.I.Disperse RED 376)を0.5%omfで用い、また、高圧ワッシャーを用いた以外は、上記と同様に染色を行った。
染色されたリサイクル用ポリエステル繊維製品(シャツ)にボタンをつけ、再度ユニホームとして用いた。シャツは、先の青色に染色されていた色の影響をほとんど受けず、綺麗な赤色のシャツであった。また、得られたPET繊維は、剛直非晶分率が36%で、結晶化度が34%で、配向度が75%で、ガラス転移点が123℃であった。
その後、再度上記と同様の条件にて脱色処理を行った。脱色処理された繊維製品は、先と同様にほぼ白色になっていた。繊維製品の脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ4-5級であった。また、得られたPET繊維は、剛直非晶分率が42%で、結晶化度が33%で、配向度が74%で、ガラス転移点が123℃であった。
2.2 比較例1
剛直非晶分率が64%で、結晶化度が26%で、配向度が83%で、ガラス転移点が123℃のレギュラーPETを用いた以外は、実施例1と同様にして平織物の染色加工を行った。得られた平織物は、青色であったが、色濃度が薄かった。また、実施例1の平織物と比較して、染具合については、ややムラ状に染められていた。帯電防止加工と仕上げセットを施した平織物の染色堅牢度を測定したところ、耐光堅牢度:4級未満、洗濯堅牢度:変退色4級、汚染3-4級、摩擦堅牢度:乾3-4級、湿3級であった。また、得られたPET繊維は、剛直非晶分率が57%で、結晶化度が28%で、配向度が81%で、ガラス転移点が123℃であった。
2.3 比較例2
染料として非アルカリ可抜型アントラキノン系分散染料 Miketon P Blue TGSF E/C(ダイスタージャパン(株)提供。)を濃度0.3%omfとして用いたこと以外は実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た後に脱色処理を行った。
染色後の繊維製品の染色堅牢度は、耐光堅牢度:4級以上、洗濯堅牢度:変退色4-5級、汚染4-5級、摩擦堅牢度:乾4-5級、湿4-5級であり、実用上問題のないレベルの染色堅牢度を有していた。しかしながら、脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ2級であった。従って、脱色後のリサイクル用ポリエステル系繊維製品には色が残っており、染め替えを行う場合には、黒などの濃色に染める必要があった。また、脱色前のPET繊維は、剛直非晶分率が38%で、結晶化度が32%で、配向度が76%で、ガラス転移点が124℃であった。さらに、脱色後のPET繊維は、剛直非晶分率が43%で、結晶化度が33%で、配向度が76%で、ガラス転移点が121℃であった。
2.4 比較例3
脱色温度を120℃として染色温度と脱色温度とを同一温度とした以外は、実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た後に脱色処理を行った。脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ1-2級であった。従って、脱色処理後のリサイクル用ポリエステル系繊維製品には色が強く残っており、濃色での染め替えもできない程度であった。また、脱色後のPET繊維は、剛直非晶分率が42%で、結晶化度が33%で、配向度が76%で、ガラス転移点が121℃であった。
2.5 実施例2
脱色温度を125℃とした以外は、実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た後に脱色処理を行った。脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ、3-4級と4級の間であった。また、得られたPET繊維は、剛直非晶分率が41%で、結晶化度が34%で、配向度が76%で、ガラス転移点が125℃であった。
2.6 実施例3
染色後、縫製前の平織物に対し、セット工程を170℃で2分間行った以外は、実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た後に脱色処理を行った。脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ、3-4級と4級の間であった。また、上記セット直後のPET繊維は、剛直非晶分率が51%で、結晶化度が36%で、配向度が79%で、ガラス転移点が122℃であった。さらに、脱色後のPET繊維は、剛直非晶分率が53%で、結晶化度が36%で、配向度が77%で、ガラス転移点が121℃であった。
2.7 実施例4
染色前の平織物に対し、セット工程を180℃で30秒間行った以外は、実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た後に脱色処理を行った。
染色後の繊維製品の染色堅牢度は、耐光堅牢度:4級以上、洗濯堅牢度:変退色4-5級、汚染4-5級、摩擦堅牢度:乾4-5級、湿4-5級であり、実用上問題のないレベルの染色堅牢度を有していた。脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ、3-4級と4級の間であった。また、前記セット直後のPET繊維は、剛直非晶分率が53%で、結晶化度が34%で、配向度が79%で、ガラス転移点が124℃であった。さらに、脱色前のPET繊維は、剛直非晶分率が47%で、結晶化度が36%で、配向度が77%で、ガラス転移点が125℃であった。加えて、脱色後のPET繊維は、剛直非晶分率が50%で、結晶化度が36%で、配向度が77%で、ガラス転移点が122℃であった。
2.8 実施例5
剛直非晶分率が38%で、結晶化度が37%で、配向度が73%で、ガラス転移点が119℃のレギュラーPETを用いた以外は、実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た後に脱色処理を行った。
染色後の繊維製品の染色堅牢度は、耐光堅牢度:4級以上、洗濯堅牢度:変退色4-5級、汚染4-5級、摩擦堅牢度:乾4-5級、湿4-5級であり、実用上問題のないレベルの染色堅牢度を有していた。脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ、4-5級と5級の間であった。また、青色に染色直後のPET繊維は、剛直非晶分率が32%で、結晶化度が38%で、配向度が71%で、ガラス転移点が122℃であった。さらに、脱色後のPET繊維は、剛直非晶分率が36%で、結晶化度が36%で、配向度が71%で、ガラス転移点が120℃であった。
2.9 実施例6
実施例1の脱色用処理液に、さらにキャリアである安息香酸ベンジルを1質量%添加し、且つ脱色温度を125℃としたたこと以外は、実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た後に脱色処理を行った。脱色後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較したところ、4級と4-5級の間であった。また、得られたPET繊維は、剛直非晶分率が39%で、結晶化度が31%で、配向度が72%で、ガラス転移点が119℃であった。
2.10 参考例1
実施例1と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た。このポリエステル系繊維製品について、JIS L0860:2020 A-1法に規定されるパークロロエチレンを用いたドライクリーニング試験と同様の方法で洗濯を所定の回数行うことで、有機溶剤を用いて脱色する試験を行った。洗濯後の色と繊維製品が染色される前の白生地の色とを汚染用グレースケールにて比較すると、5回洗濯後の色残りの程度は1-2級であり、15回洗濯後の色残りの程度は2-3級と3級の間であり、50回洗濯後の色残りの程度は4級であった。
2.11 参考例2
比較例2と同様にし、青色のポリエステル系繊維製品を得た。このポリエステル系繊維製品について、参考例1と同様の方法で、有機溶剤による脱色試験を行った。5回洗濯後の色残りの程度は1-2級であり、15回洗濯後の色残りの程度は2-3級であり、50回洗濯後の色残りの程度は3-4級と4級の間であった。
以上のように、分散染料を溶かすことのできる有機溶剤を用いて脱色を行う場合、十分な脱色を行うためには大量の有機溶剤が必要となり、人体および環境に対する悪影響が懸念されるものであった。また脱色に要する時間も長時間となった。
3.まとめ
上記の結果を下記表1及び2にまとめた。
以上の通り、剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維を、アルカリ可抜型分散染料を用いて125℃未満の温度で染色して、ポリエステル系繊維製品を得る工程と、前記染色における温度よりも高い温度で、前記ポリエステル系繊維製品を脱色して、リサイクル用ポリエステル系繊維製品を得る工程とにより、繊維製品における脱色の色残りの程度を十分に低減することができ、酸化脱色などの特殊な方法は不要であり、従来の染色加工で用いられている装置により脱色することができ、またエネルギーの投入量を抑制し、かつ大量の有機溶剤を用いる必要性もないので、安価で、安全で、環境負荷が低い方法でリサイクル用ポリエステル系繊維製品を製造することができる。
本発明は、染色されたポリエステル系繊維製品のリサイクルを容易とするものであり、循環型社会の構築に大きく寄与し得る。

Claims (8)

  1. 剛直非晶分率が55%以下であるポリエステル系繊維を、アルカリ可抜型分散染料を用いて125℃未満の温度で染色して、ポリエステル系繊維製品を得る工程と、
    前記染色における温度よりも高い温度で、前記ポリエステル系繊維製品を脱色して、リサイクル用ポリエステル系繊維製品を得る工程と、
    を含む、リサイクル用ポリエステル系繊維製品の製造方法。
  2. 前記脱色における温度が125℃を超える温度である、
    請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記アルカリ可抜型分散染料がアゾ染料である、
    請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記染色の後、且つ、前記脱色の前に、セット工程を行わないか、または、160℃以下の温度でセット工程を行う、
    請求項1または2に記載の製造方法。
  5. 前記染色の前に、セット工程を行わないか、または、170℃以下の温度でセット工程を行う、
    請求項1または2に記載の製造方法。
  6. 前記脱色において、前記染色されたポリエステル系繊維製品を、アルカリ剤、還元剤および非イオン系界面活性剤を含む脱色用処理液によって処理する、
    請求項1または2に記載の製造方法。
  7. 前記脱色において、前記脱色用処理液がさらにキャリアを含む、
    請求項6に記載の製造方法。
  8. 剛直非晶分率が55%以下のポリエステル系繊維を含み、アルカリ可抜型分散染料により染色され、且つ、以下の性質を有する、ポリエステル系繊維製品。
    性質:アルカリ剤、還元剤および非イオン系界面活性剤を含む脱色用処理液を用い、125℃を超え、135℃以下の温度で脱色することにより、前記ポリエステル系繊維製品の脱色後の着色の程度が、染色前の繊維製品の色(白布の色)と比べ、JIS L0805に規定する汚染用グレースケールの3-4級を超える白さまで脱色される。
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