JP2023098285A - 乳化組成物 - Google Patents

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Narumi Komami
黎明 竹内
Reimei Takeuchi
嘉則 長谷川
Yoshinori Hasegawa
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Abstract

【課題】耐水性に優れた滑液性を有する膜を製造するための乳化組成物及びその製造方法を提供すること。【解決手段】成分(A):アニオン変性セルロース繊維、成分(B):イオン性基を有する有機化合物(ただし、前記成分(A)を除く。)、成分(C)成分前記成分(A)における親水性基と共有結合を形成し得る化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)、成分(D):25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)及び成分(C)を除く。)及び成分(E):水、を含有する乳化組成物。【選択図】なし

Description

本発明は改質セルロース繊維を含有する乳化組成物に関する。さらに本発明はかかる乳化組成物を製造する方法に関する。
従来より、微細繊維状に解繊されたセルロース繊維が優れた乳化力を示すことが知られている。特に、微細繊維状に解繊されたセルロース繊維上にアニオン性基を導入したアニオン変性セルロース繊維は、それ自体が分散安定性や透明性に優れていることから、これらのアニオン変性セルロース繊維を含有する乳化組成物は優れた乳化安定性や感触の良さを示すことが知られている。
さらに、セルロース繊維を疎水変性させた疎水変性セルロース繊維を利用して、より優れた機能を付与する試みが行われている。
例えば、特許文献1には、セルロース繊維にシリコーン系化合物又は特定の炭化水素系化合物を結合させた疎水変性セルロース繊維と、水及び25℃1気圧で液体の有機化合物を含有する乳化組成物を基板上に塗布し乾燥させることによって、耐水性あるいは耐久性に優れた、滑液性を示す膜を作製できることが示されている(特許文献1)。
一方、滑液性を有する膜は、汚れ等の流動物の付着を防止する表面膜として知られている(特許文献2)。例えば、特許文献1には、船舶に対するコーティング剤としての用途展開可能性について記載されているが、この場合かかる膜は長時間水に浸漬させた条件で利用されることが考えられる。
WO2021/024933 WO2018/164135
上述のように、長期間水にさらされる条件下でも滑液性を失わない膜に対する需要がある。しかしながら、そのような条件下では膜が膨潤してしまい、滑液性が損なわれるという場合があることが新たに分かった。
従って、本発明の目的は、耐水性に優れた滑液性を有する膜を製造するための乳化組成物及びその製造方法に関する。
本発明は、下記〔1〕~〔5〕に関する。
〔1〕 以下の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)を含有する乳化組成物。
(A) アニオン変性セルロース繊維
(B) イオン性基を有する有機化合物(ただし、前記成分(A)を除く。)
(C) 前記成分(A)における親水性基と共有結合を形成し得る化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)
(D) 25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)及び成分(C)を除く。)
(E) 水
〔2〕 前記〔1〕に記載の乳化組成物を乾燥させる工程を含む、改質セルロース繊維を含有する膜の製造方法。
〔3〕 前記〔1〕に記載の乳化組成物を乾燥して得られる膜。
〔4〕 前記〔1〕に記載の乳化組成物又は前記〔3〕に記載の膜を含む、生物付着抑制剤。
〔5〕 上記の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)を混合する工程を含む、乳化組成物の製造方法。
本発明によれば、長期間水にさらされる条件下においても、膜の膨潤を抑制できる、耐水性に優れた滑液膜を製造するための乳化組成物及びその製造方法を提供することができる。
本発明者らが上記課題解決のために鋭意検討した結果、アニオン変性セルロース繊維における親水性基と共有結合する能力を有する特定の化合物を配合することによって、これらの成分を含有する乳化組成物を用いて形成される膜の耐水性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
かかる効果が発現するメカニズムは定かではないが、乳化組成物を用いて膜を形成する際に、前記特定の化合物を介して三次元的な架橋構造が生じ、その結果、形成される膜の耐水性が向上するためであると推測される。
1.乳化組成物
本発明の乳化組成物は、以下の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)を含有する。
<成分(A)>
成分(A)はアニオン変性セルロース繊維である。
アニオン変性セルロース繊維中に含まれるアニオン性基は、例えばカルボキシ基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられる。前記アニオン性基としては、調製が容易である観点や、反応条件が穏やかである観点から、カルボキシ基であることが好ましい。アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)としては、例えば、製造時のアルカリ存在下で生じるナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオン等の金属イオンや、これらの金属イオンを酸で置換して生じるプロトン等が挙げられる。
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量は、修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下であり、より好ましくは2mmol/g以下であり、更に好ましくは1mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するセルロース中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径としては、取扱い性の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1.0nm以上、更に好ましくは2.0nm以上であり、成膜した時の強度の観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
〔成分(A)の調製方法〕
アニオン変性セルロース繊維は、原料のセルロース繊維に酸化処理又はアニオン性基の付加処理を施して、少なくとも1つ以上のアニオン性基を導入してアニオン変性させることによって得ることができる。
アニオン変性の対象となるセルロース繊維、即ち、アニオン変性セルロース繊維の原料のセルロース繊維としては、環境面から好ましくは天然セルロース繊維であり、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは1μm以上であり、一方、好ましくは300μm以下である。
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは100μm以上であり、好ましくは5,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。分散性の観点から、原料のセルロース繊維を、アルカリ加水分解処理や酸加水分解処理等で短繊維化処理した平均繊維長が1μm以上であり、1,000μm以下であるセルロース繊維を用いることが好ましい。
導入されるアニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基又はリン酸基が挙げられる。
(i)セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合
セルロース繊維にカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロースのヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロースのヒドロキシ基にカルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
前記セルロースのヒドロキシ基を酸化処理する方法としては特に制限されないが、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて酸化処理する方法が適用できる。より詳細には、公知の方法、例えば特開2011-140632号公報に記載の方法を参照することができる。
TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化処理を行うことによって、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換される。特にこの方法は、原料のセルロース繊維表面の酸化対象となるC6位のヒドロキシ基の選択性に優れており、且つ反応条件も穏やかである点で有利である。従って、本発明におけるアニオン変性セルロース繊維の好ましい態様として、セルロース構成単位のC6位がカルボキシ基であるセルロース繊維が挙げられる。本明細書において、かかるセルロース繊維を「酸化セルロース繊維」という場合がある。酸化セルロース繊維は、それ以外のアニオン変性セルロース繊維と比べて調製が容易であることから好ましい。
酸化セルロース繊維に更に追酸化処理又は還元処理を行うことで、残存するアルデヒド基を除去した酸化セルロース繊維を調製することができる。
(ii)セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
<成分(B)>
成分(B)はイオン性基を有する有機化合物である。ただし、成分(A)に該当する有機化合物は成分(B)には包含されない。
イオン性基としては、アニオン変性セルロース繊維とイオン結合する観点からカチオン性基が好ましく、カチオン性基を有する有機化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミン及び4級アンモニウム化合物が好ましい。
成分(B)のより好ましい例としては、修飾の容易さの観点から、アミノ基を有する高分子化合物や、カチオン性基を有する炭化水素系化合物が挙げられる。
〔アミノ基を有する高分子化合物〕
本発明における成分(B)として好ましい、アミノ基を有する高分子化合物は、市販品として入手することができ、あるいは公知の方法に従って調製することができる。アミノ変性高分子化合物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
本発明におけるアミノ基を有する高分子化合物としては、アミノ変性シリコーン、ポリオキシアルキレンアミン、アミノ変性ポリ(メタ)アクリレート系ポリマー、アミノ変性ビニル系ポリマー、アミノ変性ポリエステル、アミノ変性ポリカーボネート、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等の樹脂;鎖状脂肪族ポリアミン、環状脂肪族ポリアミン、脂芳香族ポリアミン等などが挙げられ、反応基の位置は高分子化合物の主鎖、側鎖、末端のいずれでもよい。これらの中では、修飾の容易さの観点から、好ましくはアミノ変性シリコーンである。
アミノ変性シリコーンとは、アミノ基を有するシリコーン系高分子化合物である。アミノ変性シリコーンとしては、25℃での動粘度が10mm/s以上20,000mm/s以下のものが好ましい。さらに、アミノ当量が400g/mol以上16,000g/mol以下のアミノ変性シリコーンが好ましいものとして挙げられる。
25℃での動粘度はオストワルト型粘度計で求めることができ、滑液性の観点から、より好ましくは20mm/s以上、更に好ましくは50mm/s以上であり、ハンドリング性の観点からより好ましくは10,000mm/s以下、更に好ましくは5,000mm/s以下である。
また、アミノ当量は、滑液性の観点から、好ましくは400g/mol以上、より好ましくは600g/mol以上、更に好ましくは800g/mol以上であり、アニオン変性セルロース繊維への結合のさせやすさの観点から、好ましくは16,000g/mol以下、より好ましくは14,000g/mol以下、更に好ましくは12,000g/mol以下である。なお、アミノ当量は、窒素原子1個当りの分子量であり、アミノ当量(g/mol)=重量平均分子量/1分子あたりの窒素原子数で求められる。ここで重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリスチレンを標準物質として求めた値であり、窒素原子数は元素分析法により求めることができる。
アミノ変性シリコーンの具体例として、一般式(a1)で表される化合物が挙げられる。
Figure 2023098285000001
〔式中、R1aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基又は水素原子から選ばれる基を示し、滑液性の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。R2aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基又は水素原子から選ばれる基であり、同様の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。Bは少なくとも一つのアミノ基を有する側鎖を示し、R3aは炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を示す。x及びyはそれぞれ平均重合度を示し、該化合物の25℃の動粘度及びアミノ当量が上記範囲になるように選ばれる。尚、R1a、R2a、R3aはそれぞれ同一でも異なっていても良く、また複数個のR2aは同一でも異なっていても良い。〕
一般式(a1)の化合物において、滑液性の観点から、xは好ましくは10以上~10,000以下の数、より好ましくは20以上5,000以下の数、更に好ましくは30以上3,000以下の数である。yは好ましくは1以上1,000以下の数、より好ましくは1以上500以下の数、更に好ましくは1以上200以下の数である。一般式(a1)の化合物の重量平均分子量は、好ましくは2,000以上1,000,000以下、より好ましくは5,000以上100,000以下、更に好ましくは8,000以上50,000以下である。
一般式(a1)において、アミノ基を有する側鎖Bとしては、下記のものを挙げることができる。
-C-NH
-C-NH-C-NH
-C-NH-[C-NH]-C-NH
-C-NH(CH
-C-NH-C-NH(CH
-C-NH-[C-NH]-C-NH(CH
-C-N(CH
-C-N(CH)-C-N(CH
-C-N(CH)-[C-N(CH)]-C-N(CH
-C-NH-cyclo-C11
(ここで、e、f、gは、それぞれ1~30の数である。)
本発明で用いるアミノ変性シリコーンは、例えば、一般式(a2)で表されるオルガノアルコキシシランを過剰の水で加水分解して得られた加水分解物と、ジメチルシクロポリシロキサンとを水酸化ナトリウムのような塩基性触媒を用いて、80~110℃に加熱して平衡反応させ、反応混合物が所望の粘度に達した時点で酸を用いて塩基性触媒を中和することにより製造することができる(特開昭53-98499号参照)。
N(CHNH(CHSi(CH)(OCH (a2)
また、アミノ変性シリコーンとしては、高い耐水性を有する膜を得る観点から、好ましくは側鎖Bの1個の中にアミノ基が1個有するモノアミノ変性シリコーン及び側鎖Bの1個の中にアミノ基が2個有するジアミノ変性シリコーンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアミノ基を有する側鎖Bが-C-NHで表される化合物〔以下、(a1-1)成分という〕及びアミノ基を有する側鎖Bが-C-NH-C-NHで表される化合物〔以下、(a1-2)成分という〕からなる群から選ばれる1種以上である。
本発明におけるアミノ変性シリコーンとしては、性能の点から、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSF4703(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、TSF4708(動粘度:1000、アミノ当量:2800)、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のSS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1700)、SF8457C(動粘度:1200、アミノ当量:1800)、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、SF8452C(動粘度:600、アミノ当量:6400)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、BY16-892(動粘度:1500、アミノ当量:2000)、BY16-898(動粘度:2000、アミノ当量:2900)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、信越化学工業社製のKF-8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、KF-8004(動粘度:800、アミノ当量:1500)、KF-8005(動粘度:1200、アミノ当量:11000)、KF-867(動粘度:1300、アミノ当量:1700)、KF-864(動粘度:1700、アミノ当量:3800)、KF-859(動粘度:60、アミノ当量:6000)、が好ましい。( )内において、動粘度は25℃での測定値(単位:mm/s)を示し、アミノ当量の単位はg/molである。
(a1-1)成分としては、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、BY16-853U(動粘度:14、アミノ当量:450)がより好ましい。
(a1-2)成分としては、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、SF8452C(動粘度:600、アミノ当量:6400)、KF-8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、SS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1700)がより好ましい。
なお、アミノ変性シリコーンは置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1~6のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1~6のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1~6のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数が1~6のジアルキルアミノ基が挙げられる。
〔カチオン性基を有する炭化水素系化合物〕
本発明における、成分(B)として好ましいカチオン性基を有する炭化水素系化合物とは、一つのカチオン性基に対して一つ以上の炭化水素基が結合したものである。カチオン性基を有する炭化水素系化合物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
カチオン性基を有する炭化水素系化合物の合計炭素数は、高い耐水性を有する膜を得る観点から、好ましくは4以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは12以上、更に好ましくは16以上、更に好ましくは18以上であり、ハンドリング性の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは26以下、更に好ましくは22以下である。
カチオン性基を有する炭化水素系化合物は、カチオン性基が1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム、ホスホニウム等の場合には、炭化水素基は窒素原子あるいはリン原子に共有結合を介して直接結合した化合物である。カチオン性基がアミジン、グアニジン等の場合は、その官能基の窒素原子あるいは炭素原子の少なくとも片方に共有結合を介して結合した化合物である。カチオン性基がイミダゾリウム、ピリジニウム、イミダゾリン等の場合は、環構造のいずれかの位置に少なくとも一つ以上の炭化水素基が共有結合を介して結合した化合物である。
(炭化水素基)
前記炭化水素系化合物における炭化水素基としては、例えば、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、入手性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、更に好ましくは4以上、更に好ましくは8以上、更に好ましくは12以上、更に好ましくは16以上、更に好ましくは18以上であり、同様の観点から、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下であり、更に好ましくは24以下、更に好ましくは22以下である。なお、炭化水素基の炭素数とは、別に規定の無い限り、一つの炭化水素基における炭素数のことを意味する。
芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる。アリール基及びアラルキル基としては、芳香族環そのものが置換されたものでも非置換のものであってもよい。
上記炭化水素系化合物は、一部の水素原子が更に置換されていてもよい。置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、ケトン基、チオール基等が挙げられる。
上記カチオン性基を有する炭化水素系化合物は、好ましくは1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム等の、アミノ基を有する炭化水素系化合物(本明細書において、「炭化水素系アミン」と略記する場合がある。)である。かかる炭化水素系アミンの具体例としては、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、テトラブチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩、ジメチルジオクチルアンモニウム塩、ジメチルジデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩等が好ましい。
<成分(C)>
成分(C)は成分(A)における親水性基と共有結合を形成し得る化合物である。ただし、成分(B)に該当する化合物は成分(C)には包含されない。
成分(A)における親水性基とは、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基、水酸基等が挙げられる。
本発明の乳化組成物において、成分(C)は成分(A)における親水性基と共有結合していてもよく、していなくてもよい。あるいは、成分(C)の一部が該親水性基と共有結合していてもよい。
成分(A)と共有結合し得る化合物であっても、反応中間体として成分(A)と共有結合を形成し得る化合物(例えば、架橋剤として使用されるカルボジミド等)は、成分(C)には該当しない。
成分(C)としては、下記の成分(a)及び成分(b)からなる群より選択される一種以上の化合物が好ましい。
成分(a):ヒドロキシ基と共有結合を形成し得る化合物
成分(b):カルボキシ基と共有結合を形成し得る化合物
〔成分(a)〕
成分(a)の好ましい例としては、種類が豊富で工業的に入手容易な観点から、オルガノアルコキシシラン化合物が挙げられ、一般式(a)で示される構造を有するオルガノアルコキシシラン化合物がより好ましい。
1c Si(OR2c4-n (a)
(式中、R1c、R2cは置換基、nは1~3の整数である。)
1cは、耐水性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下のアルキル基、更に好ましくはメチル基である。
2cは、耐水性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは炭化水素基又は水素原子、より好ましくはアルキル基、更に好ましくは炭素数が1以上6以下のアルキル基、更に好ましくはメチル基、更に好ましくはR1cと同一の官能基である。
nは整数であり、耐水性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは1又は2である。
オルガノアルコキシシラン化合物の具体例としては、例えば、トリメトキシメチルシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、i-プロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、メチルトリi-プロポキシシラン、エチルトリi-プロポキシシラン、n-プロピルトリi-プロポキシシラン、i-プロピルトリi-プロポキシシラン、3-クロロプロピルトリi-プロポキシシラン、ビニルトリi-プロポキシシラン、フェニルトリi-プロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、n-プロピルトリブトキシシラン、i-プロピルトリブトキシシラン、3-クロロプロピルトリブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、3,3,3-トリフルオロトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロトリi-プロポキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリi-プロポキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリi-プロポキシシラン、3-メルカプトプロピルトリi-プロポキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルトリi-プロポキシシラン、3,3,3-トリフルオロトリブトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリブトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルトリブトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用または2種以上併用することができる。また、これらの部分加水分解縮合物を用いることができる。
〔成分(b)〕
成分(b)の好ましい例としては、安全性及び取り扱い容易性の観点から、オキサゾリン基又はカルボジイミド基を有する架橋剤が挙げられる。
オキサゾリン基を有する架橋剤の具体例としては、例えば、日本触媒社製のエポクロス K-2010E、エポクロス K-2020E、エポクロス K-2035E、エポクロス WS-300、エポクロス WS-500、エポクロス WS-700などが挙げられる。また、カルボジイミド基を有する架橋剤の具体例としては、例えば、日清紡ケミカル社製のカルボジライト V-02、カルボジライト V-02-L2、カルボジライト SV-02、カルボジライト V-04、カルボジライト V-10などが挙げられる。
<成分(D)>
本発明における成分(D)は、25℃1気圧で液体の有機化合物である。ただし、成分(A)に該当する有機化合物又は成分(B)に該当する有機化合物は、成分(D)には包含されない。また、成分(D)は乳化組成物の製造の際の溶媒であってもよい。
25℃1気圧で液体の有機化合物の水への溶解度は、乳化組成物を得る観点から、25℃の水100gあたり、好ましくは10g以下、より好ましくは1g以下である。
成分(D)の分子量は、耐水性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上であり、滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは10,000以下である。
成分(D)の化合物は、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくはSP値が10以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.5以下であり、同様の観点から、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上である。
本明細書におけるSP値とは、Fedors法で計算される溶解度パラメーター(単位:(cal/cm3)1/2)を示し、例えば、参考文献「SP値基礎・応用と計算方法」(情報機構社、2005年)、Polymer handbook Third edition (A Wiley-Interscience publication, 1989)等に記載されている。
本発明における成分(D)としては、好ましくは油剤であり、油剤としては、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、例えば、エステル油、シリコーン油及びエーテル油からなる群より選択される一種以上が挙げられ、シリコーン油がより好ましい。
エステル油としては、モノエステル油、ジエステル油、トリエステル油が挙げられ、具体例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸イソプロピル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリン等の炭素数2~18の脂肪族又は芳香族のモノカルボン酸又はジカルボン酸エステルが挙げられる。
シリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
エーテル油としては、オキシプロピレン基の平均付加モル数が1~15であるポリオキシプロピレンヘキシルエーテル、ポリオキシプロピレンオクチルエーテル、ポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオクチルエーテル、ジデシルエーテル、ジラウリルエーテル、ジミリスチルエーテル、ジセチルエーテル、ジステアリルエーテル、ジイコシルエーテル、ジベヘニルエーテルが挙げられる。
<成分(E)>
本発明における成分(E)は水である。成分(E)は、アニオン変性セルロース繊維や改質セルロース繊維の製造の際の溶媒として、及び本発明の乳化組成物の構成成分の一つとしての役割を有する。成分(E)の量には、各種原料を水溶液又は水分散体として使用する際の媒体としての水が含まれる。
<成分(F)>
本発明の乳化組成物は、成分(F)のアニオン界面活性剤を含んでいてもよい。ただし、成分(B)に該当するアニオン界面活性剤又は成分(D)に該当するアニオン界面活性剤は、成分(F)には包含されない。
成分(F)としては、入手容易性の観点から、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩や硫酸エステルが挙げられ、スルホン酸塩、硫酸エステル、カルボン酸塩が好ましく、硫酸エステルがより好ましい。
成分(F)は、アルキル基又はアルケニル基等の炭化水素基を有するものが好ましい。かかる炭化水素基の炭素数としては、形成される膜の耐久性の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上であり、一方、同様の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
<成分(G)>
本発明の乳化組成物は、成分(G)のポリエーテル変性シリコーン化合物を含んでいてもよい。かかる成分(G)を乳化組成物に配合することによって、得られる膜の耐久性を向上させることができる。成分(G)の一例としては、膜の耐久性を向上させる観点から、トリシロキサン系化合物が好ましい。
成分(G)のHLB値は、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の耐久性の観点から、好ましくは1以上18以下である。
成分(G)のHLB値とは、親水性と親油性のバランスを表す指標であり、本発明においては、以下のグリフィン(Griffin)の式により求められるものを指す。
HLB値=20×親水基部の分子量の総和/分子量
成分(G)の25℃における動粘度は、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の耐久性の観点から、好ましくは1mm/s以上1000mm/s以下である。
<その他の成分>
本発明の乳化組成物は、前記成分以外に、高分子化合物、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レべリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の組成物を添加することも可能である。
<改質セルロース繊維>
本発明の乳化組成物の調製の際に、成分(A)のアニオン変性セルロース繊維の一部又は全部と、成分(B)のイオン性基を有する有機化合物の一部又は全部とが結合してもよい。成分(A)と成分(B)とが結合して生じるセルロース繊維誘導体を、改質セルロース繊維と称する。本発明の乳化組成物には、かかる改質セルロース繊維が含まれていてもよい。
酸化セルロース繊維に成分(B)が結合してなる改質セルロース繊維における修飾基は成分(B)に由来する基であり、修飾基の構造は、使用する成分(B)の構造に依存する。セルロース繊維に対する修飾基の結合様式は、共有結合あるいはイオン結合であることが好ましい。製造の簡便性の観点から、イオン結合が好ましく、形成される膜の安定性の観点から共有結合が好ましい。
酸化セルロース繊維における修飾基の結合箇所としては、酸化セルロース繊維が有するヒドロキシ基、アルデヒド基、あるいはカルボキシ基である。
前記結合箇所が酸化セルロース繊維のヒドロキシ基の場合には、結合様式は共有結合であり、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合等が挙げられる。
前記結合箇所が酸化セルロース繊維のカルボキシ基の場合には、結合様式はイオン結合あるいは共有結合である。結合様式がイオン結合の場合には、成分(B)が、静電相互作用を介して結合した状態であり、結合様式が共有結合の場合には、エステル結合、アミド結合などを介して結合した状態を指し、特にカルボキシ基含有セルロース繊維のカルボキシ基に対しては、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合等を介して結合した状態である。
また、成分(B)がカチオン性基を有する炭化水素系化合物の場合、改質セルロース繊維における修飾基は、カチオン性基を有する炭化水素系化合物由来のものである。この場合、酸化セルロース繊維と修飾基との結合様式はイオン結合であり、改質セルロース繊維は、セルロース繊維表面のカルボキシ基に、修飾基が持つカチオン性基が静電相互作用を介して吸着している状態である。
改質セルロース繊維における成分(B)による修飾基当量は、セルロース繊維に導入されたアニオン性基に対する修飾官能基の割合で定める。修飾基当量は、成分(B)の種類、反応温度、反応時間、溶媒などにより変更することができる。
修飾基当量は、耐水性および滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは0.1当量以上、より好ましくは0.5当量以上、更に好ましくは1当量以上、である。また、成膜性の観点から、好ましくは20当量以下、より好ましくは10当量以下、更に好ましくは2当量以下である。
〔セルロースI型結晶構造及び結晶化度〕
改質セルロース繊維は、その原料として天然セルロースを使用していることに起因して、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。改質セルロース繊維の結晶化度は、成膜時の強度発現の観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下であり、更に好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。セルロースI型結晶化度は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
〔改質セルロース繊維の平均繊維径〕
改質セルロース繊維の平均繊維径としては、取扱い性の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1.0nm以上、更に好ましくは2.0nm以上であり、成膜した時の強度の観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。改質セルロース繊維の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
<乳化組成物の性質>
本発明の乳化組成物は、前記の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)を必須成分として含む、乳化状態の組成物である。本発明における乳化は、水と、25℃1気圧で液体の有機化合物を混合した状態で機械力をかけ、一方の液中に他方の液滴が微細に分散した状態とすることである。o/w型エマルション、w/o型エマルションのどちらでもよいが好ましくはo/w型エマルションである。
乳化組成物中又は混合時の成分(A)の含有量としては、乳化力の観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
乳化組成物中又は混合時の成分(B)の含有量としては、耐水性が向上した膜を得る観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、成膜性の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
乳化組成物中又は混合時の成分(A)及び成分(B)の合計の含有量としては、組成物を十分に乳化させる観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、ハンドリング性の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
成分(C)として成分(a)及び/又は成分(b)を用いる場合、耐水性に優れた膜を得る観点から、成分(a)の量は、成分(A)のアニオン変性セルロース繊維100質量部に対して、好ましくは25質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは100質量部以上、更に好ましくは200質量部以上である。一方、膜の滑液性を十分に発現させる観点から、成分(a)の量は、成分(A)のアニオン変性セルロース繊維100質量部に対して、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下である。
成分(C)として成分(a)及び/又は成分(b)を用いる場合、耐水性に優れた膜を得る観点から、成分(b)の量は、成分(A)のアニオン変性セルロース繊維100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは4質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。一方、膜の滑液性を十分に発現させる観点から、成分(b)の量は、成分(A)のアニオン変性セルロース繊維100質量部に対して、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下である。
乳化組成物中又は混合時の成分(D)の含有量としては、乳化状態を維持する観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、一方、溶液粘度やハンドリング性の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
乳化組成物中又は混合時の成分(A)及び成分(B)と成分(D)との質量比(A+B/D)は、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上、更に好ましくは0.004以上、更に好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.04以上であり、成膜性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。
乳化組成物中又は混合時の成分(E)の含有量としては、乳化状態を維持する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であり、一方、有効分量の観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
成分(F)を用いる場合、乳化組成物中又は混合時の成分(F)の含有量としては、乳化安定性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、一方、得られる膜の耐水性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
成分(G)を用いる場合、乳化組成物中又は混合時の成分(G)の含有量としては、膜の耐久性の観点から、好ましくは0.01質量%以上であり、一方、組成物粘度の上昇を抑える観点から、好ましくは5質量%以下である。
乳化組成物の粘度は特に限定されないが、ハンドリングの観点から、25℃における粘度が好ましくは0.5mPa・s以上20Pa・s以下である。ここで粘度は、B型粘度計により各サンプルの粘度域に合わせた適切なローターを用いて、25℃、回転数60rpmの条件で1分攪拌後の値を測定したものである。
2.乳化組成物の製造方法
本発明の乳化組成物の製造方法は、前述の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)等を混合する工程を有するものである。
各成分を混合することで乳化が生じ、乳化組成物が得られる。かかる混合処理には、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ホモミキサー、真空乳化装置、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。混合処理は、2種類以上の操作を組み合わせて実施してもよい。
各成分の混合時の温度や時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、好ましくは5~50℃の温度範囲とし、好ましくは1分間~3時間の範囲とする。
混合時の各成分の含有量の好ましい範囲は、前述の本発明の乳化組成物における各成分の含有量の好ましい範囲と同じである。
各成分の混合の順序は特に限定されない。
例えば、各成分を含む混合物の調製方法としては、凝集を抑制する観点から、
工程1:成分(A)及び成分(E)を混合する工程、並びに
工程2:工程1で得られた混合物と成分(B)及び成分(D)を混合する工程、
を有する調製方法が好ましい。
また、その他の成分の混合順序は、乳化安定性の観点から、成分(C)として成分(b)を添加する場合には、工程2の後に工程3としてさらにそれを添加することが好ましく、成分(C)として成分(a)を添加する場合には工程2で成分(D)、成分(B)とともに混合することが好ましい。また、成分(F)は、凝集を抑制する観点から、工程1で混合することが好ましい。
乳化組成物の製造過程のいずれかの段階において、成分(A)を微細化処理に供することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。平均繊維径をナノメートルスケールに小さくすることによって成膜時の強度が向上するため、乳化組成物の製造過程のいずれかの段階において、微細化処理工程を更に行うことが好ましい。
微細化処理工程で使用する装置としては公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。微細化処理工程における混合物の固形分含有量は、好ましくは50質量%以下である。
3.改質セルロース繊維を含有する膜の製造方法
本発明の、改質セルロース繊維を含有する膜の製造方法は、前記本発明の乳化組成物又は前記本発明の乳化組成物の製造方法によって得られた乳化組成物を乾燥させる工程を含む。
乳化組成物の水が乾燥により除去されることにより、乳化粒子を形成していたセルロース繊維が、ネットワーク化された粒子状構造を形成すると考えられる。これは、成分(C)の少なくとも一部が、水の乾燥に伴って粒子状構造を互いに架橋することで、生じる膜の耐久性が向上したものと推定される。
具体的には、前記乳化組成物を、基質、例えば、ガラス、樹脂、金属、セラミックス、コンクリート、木材、石材、繊維等を素材とする固体表面あるいは皮膚、髪などに塗布する。塗布の方法としては、例えば、アプリケーター、バーコーダー、スピンコーター等を使用して塗布する方法や、刷毛塗り、手塗り、スプレー、ディップコート等が挙げられるが、それに限定されるものではない。
基質上の乳化組成物の塗膜の厚みとしては、膜の耐久性の観点から、好ましくは10μm以上であり、塗布性の観点から、好ましくは2000μm以下以下である。
次いで、乳化組成物の塗膜を乾燥させて膜を得ることができる。乾燥条件としては、減圧下でも常圧下でもよく、温度範囲としては15℃以上75℃以下が好ましい。また、乾燥のための時間としては、1時間以上24時間以下が好ましい。
4.乳化組成物の膜
前記の製造方法によって得られる本発明の乳化組成物の膜は、文献(超撥水・超撥油・滑液性表面の技術/発行者:元木浩/発行所:サイエンス&テクノロジー株式会社/2016年1月28日発行)に示される滑液表面性を示すことが好ましい。
滑液表面性は、例えば、後述の実施例の「滑落角測定試験」に記載の方法により測定することができる。滑落角の値が小さいほど、その膜の滑液性が高いことを示す。
本発明の膜の厚みは特に制限はなく、膜の耐久性の観点から、好ましくは1μm以上であり、経済性の観点から、好ましくは2000μm以下である。なお、膜の厚みは、アプリケーター等の塗布用具による塗膜厚の設定や、媒体の割合を調整することにより、所望の値とすることができる。なお、膜の厚みは後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
本発明の膜中の改質セルロース繊維の量は、膜の耐久性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、膜の滑液性の観点から、好ましくは65質量%以下、より好ましくは36質量%以下、更に好ましくは16質量%以下である。膜中の改質セルロース繊維の量は、乳化組成物における揮発性成分(例えば水や一部の有機化合物)の量を考慮して求めることができる。
本発明の膜には本発明の効果を損なわない任意成分が含まれていてもよい。
本発明の膜を固体表面に適用することにより、固体表面を滑液表面に改質することができる。本発明の膜は滑液性に優れるだけではなく、膜自体の耐久性に優れるためにその効果を長期間維持できることから、各種用途、例えば、日用品、化粧品、家電製品などの包装材として、ブリスターパックやトレイ、お弁当の蓋等の包装容器用の内装材、食品容器、工業部品の輸送や保護に用いる工業用トレイや輸送用パイプ等、さらには屋根、建造物の壁面、船底や電線等の被覆材として好適に用いることができる。これにより、粉塵等の付着を抑制する防汚膜、雪や氷等の付着を抑制する防雪膜、水性生物の付着を抑制する、生物付着抑制膜等として、好適に用いることができる。
本発明の膜は優れた滑液性を有するので、生物付着抑制剤として有用である。従って、本発明の乳化組成物を生物付着抑制剤として上記固体表面に塗布することで、生物付着抑制方法を提供することができる。
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。
〔アニオン変性セルロース繊維及び改質セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比〕
測定対象のセルロース繊維に水を加えて、その含有量が0.0001質量%の分散液を調製する。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製、Nanoscope II Tappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出する。AFMによる画像で分析される高さを繊維径とみなすことができる。
〔原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維に脱イオン水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
〔アニオン変性セルロース繊維及び改質セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-701」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
〔酸化セルロース繊維のアルデヒド基含有量〕
測定対象の酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量を、上記アニオン性基含有量の測定方法によって測定する。
一方、これとは別に、ビーカーに、測定対象の酸化セルロース繊維の水分散液100g(固形分含有量1.0質量%)、酢酸緩衝液(pH4.8)100g、2-メチル-2-ブテン0.33g、亜塩素酸ナトリウム0.45gを加え25℃で16時間撹拌して、酸化セルロース繊維に残存するアルデヒド基の酸化処理を行う。反応終了後、脱イオン水にて洗浄を行い、アルデヒド基を酸化処理したセルロース繊維を得る。反応液を凍結乾燥処理し、得られた乾燥品のカルボキシ基含有量を上記アニオン性基含有量の測定方法で測定し、「酸化処理した後の酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量」を算出する。続いて、式1にて測定対象の酸化セルロース繊維のアルデヒド基含有量を算出する。
アルデヒド基含有量(mmol/g)=(酸化処理した後の酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量)-(測定対象の酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量)・・・式1
〔分散液中の固形分含有量〕
ハロゲン水分計(島津製作所社製;商品名「MOC-120H」)を用いて測定する。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少がサンプルの初期量の0.1%以下となった値を固形分含有量とする。
〔改質セルロース繊維における結晶構造の確認〕
改質セルロース繊維の結晶構造は、X線回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:30kv、管電流:15mA、測定範囲:回折角2θ=5~45°、X線のスキャンスピード:10°/minとする。測定用サンプルは面積320mm×厚さ1mmのペレットに圧縮して作製する。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を、以下の式Aに基づいて算出する。
<式A>
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
一方、上記式Aで得られる結晶化度が35%以下の場合には、算出精度の向上の観点から、「木質科学実験マニュアル」(日本木材学会編;2000年4月発行)のP199-200の記載に則り、以下の式Bに基づいて算出することが好ましい。
したがって、上記式Aで得られる結晶化度が35%以下の場合には、以下の式Bに基づいて算出した値を結晶化度として用いることができる。
<式B>
セルロースI型結晶化度(%)=[A/(A+A)]×100
〔式中、Aは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)、(011面)(回折角2θ=15.1°)および(0-11面)(回折角2θ=16.2°)のピーク面積の総和、Aは,アモルファス部(回折角2θ=18.5°)のピーク面積を示し、各ピーク面積は得られたX線回折チャートをガウス関数でフィッティングすることで求める〕
〔アニオン変性セルロース繊維〕
原料として、表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維を用いた。
Figure 2023098285000002
[TEMPO酸化処理]
メカニカルスターラー、撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、原料の天然セルロース繊維としての針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gをはかり取り、25℃、100rpmで30分撹拌する。次いで、該パルプ繊維10gに対し、TEMPOを0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加する。次いで、自動滴定装置を用いてpHスタット滴定を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持する。撹拌速度100rpmにて反応25℃で120分行う。
次いで、撹拌しながら、それに0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。次いで、吸引濾過で、固形分を濾別する。固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μs/cm以下になるまで繰り返す。得られる固形分に対して脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
〔還元処理された微細化アニオン変性セルロース繊維の調製〕
前記アニオン変性セルロース繊維に微細化処理、次いで、還元処理を行って、表2に記載の物性値を有する微細化アニオン変性セルロース繊維を調製した。
Figure 2023098285000003
かかる微細化アニオン変性セルロース繊維は、例えば下記の微細化処理及び還元処理により調製することができる。
[微細化処理]
アニオン変性セルロース繊維に脱イオン水を添加して懸濁液(固形分含有量2.0質量%)100gを調製し、これに0.5M水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=8に調整する。次いで、脱イオン水を加えて合計200gとする。この懸濁液に、高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を3回行い、微細化アニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0質量%)を得ることができる。
[還元処理]
微細化アニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0質量%)182gをはかり取り、脱イオン水を加えて合計400gとし、そこに0.1M水酸化ナトリウム水溶液1.2mL、水素化ホウ素ナトリウム120mgを加え、25℃で4時間撹拌する。次いで、1M塩酸9mLを加えて撹拌を続ける。撹拌終了後、吸引ろ過して得られた固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を6回繰り返す。このようにして、微細化アニオン変性セルロース繊維に存在するアルデヒド基が還元処理された、微細化アニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量0.9質量%)を得ることができる。
〔改質セルロース繊維及び乳化組成物の製造〕
以下のようにして改質セルロース繊維及び乳化組成物を製造した。
ここで、表3~5に示す各原料の組成の数値は質量部であり、水を含めた各原料の合計は100質量部である。各原料の有効分が表3~5に記載の質量部となるように、各原料を使用した。なお、成分(E)の水の量には、各原料を水溶液や懸濁液等として使用した場合の媒体として水の量が含まれる。
実施例1
ビーカーに、前記アニオン変性セルロース繊維(固形分含有量21.3%)をはかりとり、脱イオン水を添加して懸濁液を調製し、25℃で15時間攪拌した。そこに10質量%アニオン界面活性剤水溶液を加えた。得られた懸濁液に対して、シリコーンオイル及びアミノ変性シリコーンを加えた。この溶液をメカニカルスターラーで1分間撹拌して、混合物を得た。混合物に粗大な凝集物が生じなかったことを目視で確認した後で、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した改質セルロース繊維を含む乳化物を得た。得られた乳化物は白濁液であって、光学顕微鏡によって水中に油滴が分散している様子が観察されたため、乳化状態であると判断した。この乳化物に対して、オキサゾリン基含有ポリマー1を添加し、メカニカルスターラーで1分間攪拌して、本発明の乳化組成物を得た。
実施例2~12、比較例1~2
各原料の配合を表3~4に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、乳化組成物を得た。
実施例13
実施例1等とは各原料の配合の順序を変えて、乳化組成物を製造した。具体的には、ビーカーに、前記アニオン変性セルロース繊維(固形分含有量21.3%)をはかりとり、脱イオン水を添加して懸濁液を調製し、25℃で15時間攪拌した。そこに10質量%アニオン界面活性剤水溶液を加えた。得られた懸濁液に対して、シリコーンオイル、アミノ変性シリコーン、及びジメトキシジメチルシランを混合した。この溶液をメカニカルスターラーで1分間撹拌して、混合物を得た。混合物に粗大な凝集物が生じなかったことを目視で確認した後で、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基にアミノ変性シリコーンがイオン結合し、ヒドロキシ基にシランカップリング剤であるジメトキシジメチルシランが共有結合を介して連結した改質セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。得られた組成物は白濁液であって、光学顕微鏡によって水中に油滴が分散している様子が観察されたため、乳化組成物であると判断した。
実施例14
乳化組成物の配合を表3に記載のものに変更したこと以外は、実施例13と同様の操作を行い、乳化組成物を得た。
実施例15
実施例14の乳化組成物に対して、架橋剤を0.08gを添加して混合物を得た。
実施例16
ビーカーに、前記還元処理された微細化アニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量0.9質量%)、シリコーンオイル、アミノ変性シリコーン、ジメトキシジメチルシラン(東京化成工業社製)を混合し、そこに脱イオン水を加えた。この溶液をメカニカルスターラーで5分間撹拌した後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、微細化アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基にアミノ変性シリコーンがイオン結合し、ヒドロキシ基にシランカップリング剤であるジメトキシジメチルシランが共有結合を介して連結した改質セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
実施例17~18、比較例3
各原料の配合を表4に記載のものに変更したこと以外は、実施例16と同様の操作を行い、乳化組成物を得た。
実施例等で使用した代表的な成分の詳細を以下にまとめた。
[成分(B)]
アミノ変性シリコーン:ダウ・東レ社製、SS-3551、(動粘度:1,000、アミノ当量:1,700)
[成分(C)]
オキサゾリン基含有ポリマー1:日本触媒社製、エポクロスWS300(有効分濃度:10質量%)
オキサゾリン基含有ポリマー2:日本触媒社製、エポクロスWS700(有効分濃度:25質量%)
オキサゾリン基含有ポリマー3:日本触媒社製、エポクロスK-2010E(有効分濃度40質量%)
オキサゾリン基含有ポリマー4:日本触媒社製、エポクロスK-2020E(有効分濃度:40質量%)
オキサゾリン基含有ポリマー5:日本触媒社製、エポクロスK-2035E(有効分濃度:40質量%)
カルボジイミド1:日清紡ケミカル社製、カルボジライトV-02-L2(有効分濃度:40質量%)
カルボジイミド2:日清紡ケミカル社製、カルボジライトSV-02(有効分濃度:40質量%)
カルボジイミド3:日清紡ケミカル社製、カルボジライトV-10(有効分濃度:40質量%)
カルボジイミド4:日清紡ケミカル社製、カルボジライトE-02(有効分濃度:40質量%)
ジメトキシジメチルシラン:東京化成工業社製
トリメトキシメチルシラン:東京化成工業社製
メトキシトリメチルシラン:東京化成工業社製
[成分(D)]
シリコーンオイル:信越化学工業社製、KF-96-100cs(SP値:7.3)
[成分(F)]
アニオン界面活性剤:富士フイルム和光純薬社製、ドデシル硫酸ナトリウム
[縮合剤]
DMTMM:富士フイルム和光純薬社製、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリウムクロリド
〔膜の作製〕
実施例1~18及び比較例1~3で作製した乳化組成物を、それぞれ別々のガラス基板(MATSUNAMI社製:Micro Slide Glass S2112)上に0.5mL塗布し、スライドガラス全域に塗り広げた。次いで、1気圧、25℃、湿度約40%RHで24時間乾燥させて膜を作製した。
〔膜の耐水性の測定〕
上記のようにして作製された実施例1~15、比較例1、2の膜を準備した。水(約23℃)で満たした300mLビーカーにガラス基板ごと浸漬し、24時間後の膜の膨潤率を以下の式Aによって算出した。膜の膨潤率の値が大きいほど、膜の耐水性が低いことを意味する。結果を表3~4に示す。
<式A>
膨潤率[%]=〔{〔浸漬後の質量〕-〔塗布前のガラス基板の質量〕}÷{〔浸漬前の質量〕-〔塗布前のガラス基板の質量〕}-1〕×100
浸漬後の質量:ガラス基板と該基板上に形成された膜を所定時間浸漬した後のガラス基板の質量
浸漬前の質量:ガラス基板と該基板上に形成された膜を水に浸漬する前のガラス基板の質量
〔滑落角測定試験〕
上記のようにして作製された実施例1~15、比較例1~2の膜を水平の状態に設置し、各膜に対して、全自動接触角計(協和界面科学社製、FAMAS)を用い、23℃にて、8μLの水滴(23℃)を滴下し、1秒静置した。次いで、1°/sの速さで膜表面を85°まで傾け、水滴が滑り始める角度を測定した。水滴滑落角の値が小さいほど、その膜の滑液性が高いことを示す。各成分の組成及び評価結果を下記の表に示す。ただし、80°まで傾けても水滴が滑り落ちなかった場合には、水滴滑落角は、「80超」と記した。
Figure 2023098285000004
Figure 2023098285000005
なお、上記表中、モル当量*1とは、成分(B)の成分(A)中のカルボキシ基に対するモル当量のことであり、モル当量*2とは、成分(C)の成分(A)中のカルボキシ基に対するモル当量のことであり、モル当量*3とは、成分(F)中の親水性基の成分(B)中のアミノ基に対するモル当量のことである。
表3~4より、本発明の乳化組成物を乾燥して得られた膜は、滑液性及び耐水性に優れていたことが分かった(実施例1~15)。一方、比較例1で製造された膜は、実施例と同程度の優れた滑液性を有していたものの、耐水性が大きく劣っていた。これは、比較例1では成分(C)を配合していないことによるものと思われる。さらに、比較例2では、成分(C)に代えて縮合剤を使用した結果、耐水性だけではなく滑液性も大きく劣っていることが分かった。
〔膜の耐久性の測定〕
上記に示した方法で作製された実施例16~18及び比較例3の膜を準備した。水道を用いて、高さ40cmの位置から一定流量(3L/分)の水(約23℃)を基板に対して30分間かけ続けた。このように、水道水で30分暴露した後の膜について、上記「滑落角測定試験」と同じ方法で、水滴に対する滑落角を測定した。流水暴露30分後の滑落角の値が小さいほど、膜の耐久性が高いことを示す。
各成分の組成(膜中の質量部数)及び評価結果を下記表に示す。
Figure 2023098285000006
なお、上記表中、モル当量*1とは、成分(B)の成分(A)中のカルボキシ基に対するモル当量のことである。
表5より、本発明の乳化組成物を乾燥して得られた膜は耐久性に優れていたことが分かった(実施例16~18)。一方、成分(C)が配合されなかった比較例3における膜の耐久性が、実施例16~18よりも著しく低いことが分かった。この理由としては、比較例3では成分(C)が配合されなかったことが考えられる。
本発明の製造方法によって製造された乳化組成物は、滑液性のある膜を形成することができるため、様々な表面、例えば、船舶、橋梁に対する生物付着抑制剤として利用することができる。

Claims (7)

  1. 以下の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)を含有する乳化組成物。
    (A) アニオン変性セルロース繊維
    (B) イオン性基を有する有機化合物(ただし、前記成分(A)を除く。)
    (C) 前記成分(A)における親水性基と共有結合を形成し得る化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)
    (D) 25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)及び成分(C)を除く。)
    (E) 水
  2. 以下の成分(F)を更に含有する、請求項1に記載の乳化組成物。
    (F) アニオン界面活性剤(ただし、前記成分(B)及び成分(D)を除く。)
  3. 前記成分(C)が、オキサゾリン基を含有する化合物、カルボジイミド基を含有する化合物、及びオルガノアルコキシシラン化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物を乾燥させる工程を含む、改質セルロース繊維を含有する膜の製造方法。
  5. 請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物を乾燥して得られる膜。
  6. 請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物又は請求項5に記載の膜を含む、生物付着抑制剤。
  7. 以下の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)を混合する工程を含む、乳化組成物の製造方法。
    (A) アニオン変性セルロース繊維
    (B) イオン性基を有する有機化合物(ただし、前記成分(A)を除く。)
    (C) 前記成分(A)における親水性基と共有結合を形成し得る化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)
    (D) 25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)及び成分(C)を除く。)
    (E) 水
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