JP2023096511A - 電装部品及び電装部品においてイオンマイグレーション及びブリードアウトの発生を抑制しながら、耐熱エージング性を向上させる方法 - Google Patents

電装部品及び電装部品においてイオンマイグレーション及びブリードアウトの発生を抑制しながら、耐熱エージング性を向上させる方法 Download PDF

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勇樹 森
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Abstract

【課題】85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、耐熱エージング性に優れる電装部品を提供する。
【解決手段】電装部品は、ポリアミドと、ヒンダードフェノールと、ニグロシンと、無機充填材と、を含む、ポリアミド組成物を成形してなり、ハロゲン原子の含有量が前記ポリアミド組成物の総質量に対して50質量ppm以下である。前記ポリアミドがポリアミド66及びポリアミド6からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。前記ヒンダードフェノールの含有量が前記ポリアミド組成物の総質量に対して0.25質量%以上であってもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、電装部品及び電装部品においてイオンマイグレーション及びブリードアウトを抑制しながら、耐熱エージング性を向上させる方法に関する。
従来から、ポリアミドは、成形加工性、機械物性及び耐薬品性に優れていることから、衣料用、産業資材用、自動車、電気及び電子用、工業用等の、様々な部品材料として広く用いられている。
近年、ポリアミドの使用環境は、熱的及び力学的に厳しくなる傾向があり、高温使用下での強度及び剛性を向上させた、厳しい環境下での使用における耐久性において変化が少ないポリアミドが要求されている。また、燃費向上のための自動車部品の軽量化を目的とした薄肉化や、電気及び電子部品の小型化、精密化に伴い、良流動性及び良外観が求められている。
特に、ポリアミド組成物をオーバーモールド成形してなる成形体において、耐熱エージング性を付与するために、ポリアミドに銅ハロゲン化物(例えば、特許文献1等参照)や、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(例えば、特許文献2等参照)を添加する方法、また、流動性を向上させるために、ポリアミドにニグロシンを添加する方法(例えば、特許文献3等参照)が知られている。
特許第6304481号公報 特許第6400991号公報 特許第6274782号公報
しかしながら、特許文献1等に記載のポリアミドに銅ハロゲン化物を添加する方法では、成形体を電気及び電子部品に用いる場合には、絶縁性の低下やイオンマイグレーション等の不良を起こしやすいという課題を有する。また、特許文献2等に記載のポリアミドにヒンダードフェノールを添加する方法では、電気特性に影響を与えず、安価で入手しやすい一方で、高温多湿環境下でブリードアウトが発生しやすい。さらに、特許文献3等に記載のポリアミドにニグロシンを添加する方法では、ハロゲンが含まれることにより不良が起きやすい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、耐熱エージング性に優れる電装部品、及び電装部品においてイオンマイグレーション及びブリードアウトの発生を抑制しながら、耐熱エージング性を向上させる方法を提供する。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) ポリアミドと、ヒンダードフェノールと、ニグロシンと、無機充填材と、を含む、ポリアミド組成物を成形してなる、電装部品であって、
燃焼イオンクロマトグラフィによって測定されるハロゲン化物イオンの濃度が前記ポリアミド組成物の総質量に対して50質量ppm以下である、電装部品。
(2) 前記ポリアミドがポリアミド66及びポリアミド6からなる群より選ばれる1種以上である、(1)に記載の電装部品。
(3) 前記ヒンダードフェノールの含有量が前記ポリアミド組成物の総質量に対して0.25質量%以上である、(1)又は(2)に記載の電装部品。
(4) 電装部品においてイオンマイグレーション及びブリードアウトの発生を抑制しながら、耐熱エージング性を向上させる方法であって、
ポリアミドと、ヒンダードフェノールと、ニグロシンと、無機充填材と、を含む、ポリアミド組成物を成形して、電装部品を得ることを含む、方法。
上記態様の電装部品によれば、85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、耐熱エージング性に優れる電装部品を提供することができる。上記態様の方法によれば、85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、耐熱エージング性に優れる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施することができる。
なお、本明細書において、「ポリアミド」とは主鎖中にアミド(-NHCO-)結合を有する重合体を意味する。
≪電装部品≫
本実施形態の電装部品は、(A)ポリアミドと、(B)ヒンダードフェノールと、(C)ニグロシンと、(D)無機充填材と、を含む、ポリアミド組成物を成形してなる。
本実施形態の電装部品において、燃焼イオンクロマトグラフィによって測定される(E)ハロゲン化物イオンの濃度が前記ポリアミド組成物の総質量に対して50質量ppm以下である。
なお、以降において、上記(A)ポリアミド~(E)ハロゲン化物イオンをそれぞれ、(A)成分~(E)成分と称する場合がある。
本実施形態の電装部品は、上記構成を有することで、85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、耐熱エージング性に優れる。すなわち、一実施形態において、本発明は、電装部品においてイオンマイグレーション及びブリードアウトの発生を抑制しながら、耐熱エージング性を向上させる方法を提供する。
なお、本明細書中において、「耐熱エージング性」とは、成形品の形状を維持したまま融点以下での高温条件下で、大気雰囲気下中に長時間放置した際に、実用上十分な機械的特性を保持できる特性、すなわち熱酸化に対する耐性のことをいう。
以下、本実施形態の電装部品の原料であるポリアミド組成物の各構成成分について詳細に説明する。
<(A)ポリアミド>
(A)ポリアミドとしては、例えば、(a-1)ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、(a-2)ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、(a-3)ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びに、これらの共重合物等が挙げられる。ポリアミドとしては、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
(a-1)ポリアミドの製造に用いられるラクタムとしては、以下に制限されないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカラクタム、ドデカラクタム等が挙げられる。
(a-2)ポリアミドの製造に用いられるω-アミノカルボン酸としては、以下に制限されないが、例えば、上記ラクタムの水による開環化合物であるω-アミノ脂肪酸等が挙げられる。
また、上記ラクタム又は上記ω-アミノカルボン酸としては、それぞれ2種以上の単量体を併用して縮合させてもよい。
(a-3)ポリアミドの製造に用いられるジアミン(単量体)としては、以下に制限されないが、例えば、直鎖状の脂肪族ジアミン、分岐鎖状の脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミン等が挙げられる。
直鎖状の脂肪族ジアミンとしては、以下に制限されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等が挙げられる。
分岐鎖状の脂肪族ジアミンとしては、以下に制限されないが、例えば、2-メチルペンタンジアミン、2-エチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
脂環族ジアミンとしては、以下に制限されないが、例えば、シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミン等が挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、以下に制限されないが、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン等が挙げられる。
(a-3)ポリアミドの製造に用いられるジカルボン酸(単量体)としては、以下に制限されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、以下に制限されないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸等が挙げられる。
脂環族ジカルボン酸としては、以下に制限されないが、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、以下に制限されないが、例えば、フタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
上記した単量体としてのジアミン及びジカルボン酸は、それぞれ単独又は2種以上組み合わせて縮合させてもよい。
ポリアミド組成物に含まれるポリアミドとして具体的には、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、及び、これらを構成成分として含む共重合ポリアミド等が挙げられる。
中でも、ポリアミドとしては、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド610(PA610)、又は、ポリアミド612(PA612)が好ましい。PA66は、耐熱性、成形性及び靭性に優れていることから、自動車部品に好適な材料である。また、PA610、PA612等の長鎖脂肪族ポリアミドは、耐薬品性に優れる。
また、(A)ポリアミドとしては、耐熱エージング性向上の観点から、PA66及びPA6からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましい。
また、耐熱性、成形性及び靭性の観点から、(A)ポリアミドの総質量に対するPA66の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがよりさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%以上であることが最も好ましい。
[末端封止剤]
(A)ポリアミドの末端は、公知の末端封止剤により末端封止されていてもよい。
このような末端封止剤は、上記ジカルボン酸と上記ジアミンと、必要に応じて、上記ラクタム及び上記アミノカルボン酸のうち少なくともいずれか一方とから、ポリアミドを製造する際に、分子量調節剤としても添加することができる。
末端封止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。酸無水物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、無水フタル酸等が挙げられる。これら末端封止剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、末端封止剤としては、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましい。ポリアミドの末端が末端封止剤で封鎖されていることにより、熱安定性により優れるポリアミド組成物となる傾向にある。
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミドの末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよい。モノカルボン酸として具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等が挙げられる。
脂環族モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
芳香族モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。
これらモノカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミドの末端に存在し得るカルボキシ基との反応性を有するものであればよい。モノアミンとして具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン、芳香族モノアミン等が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。
脂環族アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
芳香族アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
これらモノアミンは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
末端封止剤により末端封止された(A)ポリアミドを含有するポリアミド組成物は、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性及び剛性により優れる傾向にある。
[(A)ポリアミドの含有量]
ポリアミド組成物中の(A)ポリアミドは、ポリアミドの総質量に対して、例えば40.00質量%以上99.80質量%以下とすることができ、例えば50.00質量%以上90.00質量%以下とすることができ、例えば55.00質量%以上80.00質量%以下とすることができる。
[(A)ポリアミドの製造方法]
(A)ポリアミドを製造する際に、ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量とは、同モル量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もモル比においては考慮して、ジカルボン酸全体のモル量1に対して、ジアミン全体のモル量は、0.9以上1.2以下が好ましく、0.95以上1.1以下が好ましく、0.98以上1.05以下がさらに好ましい。
(A)ポリアミドの製造方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンと、必要に応じて、ラクタム単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸のうち少なくともいずれかと、を重合して重合体を得る工程を含む。
また、ポリアミドの製造方法において、ポリアミドの重合度を上昇させる工程を、さらに含むことが好ましい。
また、必要に応じて、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでもよい。
ポリアミドの具体的な製造方法としては、例えば、以下の1)~4)に例示するように種々の方法が挙げられる。
1)ジカルボン酸-ジアミン塩若しくはジカルボン酸とジアミンとの混合物の水溶液、又は、これらの水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」と称する場合がある)。
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」と称する場合がある)。
3)ジカルボン酸-ジアミン塩、又は、ジカルボン酸とジアミンとの混合物を固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」と称する場合がある)。
4)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分及びジアミン成分を用いて重合させる方法(以下、「溶液法」と称する場合がある)。
中でも、ポリアミドの具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミドを製造する際には、重合が終了するまで、溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持する方法としては、例えば、ポリアミドの組成に適した重合条件で製造する方法等が挙げられる。重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14kg/cm以上25kg/cm以下(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm)になるまで30分以上かけながら降圧することで、所望の組成のポリアミドが得られる。
ポリアミドの製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でも連続式でもよい。
ポリアミドの製造に用いる重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができ、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等が挙げられる。
以下、ポリアミドの製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造する方法を具体的に示すが、ポリアミドの製造方法は、これに限定されない。
まず、ポリアミドの原料成分(ジカルボン酸、ジアミン、並びに、必要に応じて、ラクタム及びアミノカルボン酸のうち少なくともいずれか)を、約40質量%以上60質量%以下含有する水溶液を、110℃以上180℃以下の温度、及び、約0.035MPa以上0.6MPa以下(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽で、約65質量%以上90質量%以下に濃縮して濃縮溶液を得る。
次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、当該オートクレーブにおける圧力が約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれかを抜きながら圧力を約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)に保ち、温度が約220℃以上260℃以下に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は、0MPa)。
オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。
その後、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押し出す。押し出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミドのペレットを得る。
[(A)ポリアミドのポリマー末端]
(A)ポリアミドのポリマー末端としては、特に限定されないが、以下のように分類され、定義することができる。
すなわち、1)アミノ末端、2)カルボキシ末端、3)封止剤による末端、4)その他の末端である。
1)アミノ末端は、アミノ基(-NH基)を有するポリマー末端であり、原料のジアミン単位に由来する。
2)カルボキシ末端は、カルボキシ基(-COOH基)を有するポリマー末端であり、原料のジカルボン酸に由来する。
3)封止剤による末端は、重合時に封止剤を添加した場合に形成される末端である。封止剤としては、上述した末端封止剤が挙げられる。
4)その他の末端は、上述した1)~3)に分類されないポリマー末端である。その他の末端として具体的には、例えば、アミノ末端が脱アンモニア反応して生成した末端、カルボキシ末端から脱炭酸反応して生成した末端等が挙げられる。
<(B)ヒンダードフェノール>
ポリアミド組成物は、(B)ヒンダードフェノールを含むことで、電装部品における耐熱エージング性に優れる。
(B)ヒンダードフェノールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2-チオビス(4-メチル-6-1-ブチルフェノール)、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロキシンナマミド)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルフォスファスフォネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4、6-トリス(3,5-ジ-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルスルホン酸エチルカルシウム、トリス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイト、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、オクチル化ジフェニルアミン、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-sec-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、d-α-トコフェロール等が挙げられる。
これらは、化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、耐熱エージング性向上の観点から、ヒンダードフェノールとしては、アミド基を有するものが好ましく、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]がより好ましい。アミド基を有するヒンダードフェノールは、アミド基を有さないヒンダードフェノールと比較し、(C)ニグロシンとより強く相互作用することによって、ヒンダードフェノール等の添加剤のブリードアウトがより効果的に抑制される。
[(B)ヒンダードフェノールの含有量]
ポリアミド組成物において、電装部品における耐熱エージング性及びブリードアウトの抑制の観点から、(B)ヒンダードフェノールの含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、0.25質量%以上であることが好ましく、0.25質量%以上3.00質量%以下であることがより好ましく、0.25質量%以上2.00質量%以下であることがさらに好ましく、0.25質量%以上1.00質量%以下であることが特に好ましい。
(B)ヒンダードフェノールの含有量が上記下限値以上であることで、耐熱エージング性がより向上する。一方、(B)ヒンダードフェノールの含有量が上記上限値以下であることで、ブリードアウトをより抑制することができる。
<(C)ニグロシン>
(C)ニグロシンには、(B)ヒンダードフェノールとの相互作用により、(B)ヒンダードフェノール等の添加剤のブリードアウトを抑制する効果がある。このとき、アミド基を有する(B)ヒンダードフェノールとニグロシンが強く相互作用することによって、(B)ヒンダードフェノールのブリードアウトはより一層抑制される。すなわち、ポリアミド組成物は、(C)ニグロシンを含むことで、85℃、相対湿度85%下における(B)ヒンダードフェノール等の添加剤のブリードアウトを抑制することができる。
[(C)ニグロシンの含有量]
ポリアミド組成物において、(C)ニグロシンの含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、0.01質量%以上0.50質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.40質量%以下であることがより好ましく、0.08質量%以上0.30質量%であることがさらに好ましい。
(C)ニグロシンの含有量が上記下限値以上であることで、(B)ヒンダードフェノール等の添加剤のブリードアウトをより防ぐことができる。一方、(C)ニグロシンの含有量が上記上限値以下であることで、電装部品における強度及び剛性等の低下をより防ぐことができる。
[(C)ニグロシンの質量に対する(B)ヒンダードフェノールの質量の比]
ポリアミド組成物において、(C)ニグロシンの質量に対する(B)ヒンダードフェノールの質量の比(B)/(C)は、1.0以上10.0以下が好ましく、1.3以上7.0以下がより好ましく、1.7以上5.0以下がさらに好ましい。質量比(B)/(C)が上記下限値以上であることで、耐熱エージング性をより向上させることができ、一方、上記上限値以下であることで(B)ヒンダードフェノール等の添加剤のブリードアウトをより防ぐことができる。
[ハロゲン化物イオンの含有量]
(C)ニグロシンには、ハロゲン化物イオンが含まれることがある。ハロゲン化物イオンは電気特性の低下を引き起こすことから、(C)ニグロシンに含まれるハロゲン化物イオンの濃度は、(C)ニグロシンの質量に対して、1.00質量%未満であることが好ましく、0.60質量%未満であることがさらに好ましく、0.20質量%未満であることがさらに好ましい。ここで、ハロゲン化物イオンの濃度は燃焼イオンクロマトグラフィによって測定される。
<(D)無機充填材>
ポリアミド組成物は、(D)無機充填材を含むことで、電装部品における強度及び剛性等の機械物性を向上させることができる。
(D)無機充填材としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、ゼオライト、ベーマイト、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト、ミルドファイバー等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、(D)無機充填材としては、剛性及び強度等の観点で、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、又は、アパタイトが好ましい。
また、(D)無機充填材としては、ガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ウォラストナイト、及びミルドファイバーからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、ガラス繊維又は炭素繊維がさらに好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。
(D)無機充填材がガラス繊維又は炭素繊維である場合、数平均繊維径(d1)が3μm以上30μm以下であることが好ましい。また、重量平均繊維長(L)が100μm以上5mm以下であることが好ましい。さらに、重量平均繊維長(L)に対する数平均繊維径(d1)のアスペクト比((L)/(d1))が10以上100以下であるものが好ましい。上記構成のガラス繊維又は炭素繊維を用いることで、より高い特性を発現することができる。
また、(D)無機充填材がガラス繊維である場合、数平均繊維径(d1)が3μm以上30μm以下であることがより好ましい。重量平均繊維長(L)が103μm以上5mm以下であることがより好ましい。さらに、アスペクト比((L)/(d1))が3以上100以下であるものがより好ましい。
(D)無機充填材の数平均繊維径及び重量平均繊維長は、以下の方法を用いて測定することができる。
まず、成形品を、ギ酸等の、(A)ポリアミドが可溶な溶媒で溶解する。次いで、得られた不溶成分の中から、例えば100本以上の(D)無機充填材を任意に選択する。次いで、(D)無機充填材を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で観察し、測定した繊維径の合計を、測定した(D)無機充填材の数で割ることで、数平均繊維径を求めることができる。或いは、測定した繊維長の合計を、測定した(D)無機充填材の合計重量で割ることで、重量平均繊維長を求めることができる。
[(D)無機充填材の含有量]
ポリアミド組成物において、(D)無機充填材の含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、0質量%以上150質量%以下であることが好ましく、10質量%以上140質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上135質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以上130質量%以下であることが特に好ましく、30質量%以上100質量%以下であることが最も好ましい。
(D)無機充填材の含有量が上記下限値以上であることにより、電装部品における強度及び剛性等の機械物性がより向上する傾向にある。一方、(D)無機充填材の含有量が上記上限値以下であることにより、表面外観により優れる電装部品を得ることができる傾向にある。
特に、(D)無機充填材がガラス繊維であり、且つ、(D)無機充填材の含有量が、(a)ポリアミド組成物の総質量に対して、上記範囲であることにより、電装部品における強度及び剛性等の機械物性がさらに向上する傾向にある。
<(E)ハロゲン化物イオン>
(E)ハロゲン化物イオンとしては、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)等が挙げられる。
[(E)ハロゲン化物イオンの濃度]
ポリアミド組成物において、(E)ハロゲン化物イオンの濃度は、ポリアミド組成物の総質量に対して、50質量ppm以下であり、40質量ppm以下であることが好ましく、30質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以下であることがさらに好ましく、10質量ppm以下であることが特に好ましい。
一方、(E)ハロゲン化物イオンの濃度の下限値は少なければ少ないほど好ましいが、例えば、0.0質量ppmとすることができ、0.1質量ppmとすることができ、1質量ppmとすることができる。
ここで、ハロゲン化物イオンの濃度は燃焼イオンクロマトグラフィによって測定される。
ポリアミド組成物において、(A)成分~(D)成分には、その製法に応じて、ハロゲン化物イオンが不純物として含まれることがある。ポリアミド組成物において、(E)ハロゲン化物イオンが上記上限値超含まれると、体積抵抗率や耐トラッキング性といった電気特性が損なわれる虞がある。そのため、(A)成分~(D)成分それぞれに含まれる(E)ハロゲン化物イオンの量を抑え、ポリアミド組成物に含まれる(E)ハロゲン化物イオンの濃度を上記上限値以下とすることで、電装部品における電気特性を良好なものとすることができる。
<(F)ポリエチレンイミンホモポリマー又はコポリマー>
ポリアミド組成物は、上記(A)~(D)成分に加えて、(F)ポリエチレンイミンホモポリマー又はコポリマーを更に含むことができる。
本明細書における「ポリエチレンイミン」とは、UllMannの電子版にキーワード「アジリジン」で記載されている方法、又は国際公開第94/012560号(参考文献1)に記載されている方法により得られるホモポリマー及びコポリマーである。
以降、「(F)ポリエチレンイミンホモポリマー又はコポリマー」を「(F)ポリエチレンイミン」と称する場合がある。
一般的に、前記エチレンイミンのホモポリマーは、反応開始剤、酸又はルイス酸の存在下で、水溶液又は有機溶液中でのエチレンイミン(アジリジン)の重合により得られる。
このような方法により得られるエチレンイミンのホモポリマーは、一般的に、第一級、第二級、第三級アミノ基を、第一級アミノ基:第二級アミノ基:第三級アミノ基=約30%:40%:30%のモル比で含有する分岐ポリマーである。アミノ基の分布は13C-NMR分光法を用いて測定することができる。
前記エチレンイミンのコポリマーを形成するためのコモノマーとしては、上記のように、少なくとも2個のアミノ基を有するアミンが挙げられる。
当該コモノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキレン基中に2個以上10個以下のC原子を有するアルキレンジアミンが挙げられる。特に、エチレンジアミン又はプロピレンジアミンが好ましい。
前記コモノマーとしては、上記の他に、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、ジヘキサメチレントリアミン、アミノプロピルエチレンジアミン、ビスアミノプロピルエチレンジアミン等が挙げられる。
(F)ポリエチレンイミンとしては、上記の他、ポリエチレンイミンと、官能基として少なくとも1つのハロゲンヒドリン-、グリシジル-、アジリジン-、イソシアネート単位、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるものを有する二官能性又は多官能性架橋剤との反応により得られる架橋性ポリエチレンイミンが好適なものとして挙げられる。
例えば、ポリアルキレングリコールと、エチレンオキシド単位及びプロピレンオキシド単位からなる群より選ばれるいずれかの単位2以上100以下とのエピクロロヒドロリン;ビスクロロヒドリンエーテル、独国特許出願公開第19931720号明細書(参考文献2)及び米国特許第4144123号明細書(参考文献3)中に記載されている化合物等が挙げられる。
架橋性ポリエチレンイミンの製造方法としては、上記の参考文献や、欧州特許出願公開第0895521号明細書(参考文献4)及び欧州特許公開第0025515号明細書(参考文献5)に記載されている方法を適用できる。
さらに、(F)ポリエチレンイミンとしては、グラフト化ポリエチレンイミンも好適なものとして挙げられる。
グラフト剤としては、ポリエチレンイミンのアミノ基又はイミノ基と反応し得る全ての化合物が使用できる。
グラフト剤及びグラフト化ポリエチレンイミンの製造方法としては、例えば、欧州特許出願公開第0675914号明細書(参考文献6)に記載されている方法を適用できる。
また、(F)ポリエチレンイミンは、カルボン酸、カルボン酸のエステル若しくは無水物、カルボン酸アミド又はカルボン酸ハロゲン化物との反応により得られるアミド化されていてもよい。ポリエチレンイミン鎖中のアミド化窒素原子の割合に応じて、アミド化ポリマーは、所定の架橋剤により後から架橋されうる。この際、前記引き続く架橋反応のために、なお十分に第一級窒素原子及び第二級窒素からなる群より選ばれる少なくともいずれかの原子を供給できるように、アミノ官能基の30モル%までがアミド化される。すなわち、アミド化ポリマー中において、十分な量の第一級窒素原子及び第二級窒素からなる群より選ばれる少なくともいずれかの原子が存在している状態を確保するために、アミド化ポリマー中のアミノ官能基は、30モル%以下の割合でアミド化されていることが好ましい。
なお、カルボン酸類はアミド化により全て消費され、アミド化ポリマーにカルボン酸末端基は無く、有機酸とは明確に区別できる。
また、(F)ポリエチレンイミンは、例えば、ポリエチレンイミンとエチレンオキシド及びプロピレンオキシドからなる群より選ばれる少なくともいずれかとの反応より得られるアルコキシ化ポリエチレンイミンであってもよい。このようなアルコキシル化ポリマーはその後、架橋可能である。
また、(F)ポリエチレンイミンは、例えば、ポリアミド樹脂との親和性の観点から、ヒドロキシ基含有ポリエチレンイミン及び両性ポリエチレンイミン(アニオン性基の組み込み)、並びに、一般に、長鎖炭化水素基のポリマー鎖中への組み込みにより得られる親油性ポリエチレンイミンであってもよい。このようなポリエチレンイミンポリマーの製造方法は、本技術分野の当業者に公知である。
[(F)ポリエチレンイミンの含有量]
ポリアミド組成物において、電装部品における耐熱エージング性、外観、強度及び剛性の観点から、(F)ポリエチレンイミンの含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上1.4質量%以下であることがさらに好ましい。
(F)ポリエチレンイミンの含有量が上記下限値以上であることで、耐熱エージング性が向上する。一方、(F)ポリエチレンイミンの含有量が上記上限値以下であることで、電装部品における強度及び剛性等が向上する。
<(G)カーボンブラック>
ポリアミド組成物は、上記(A)~(D)成分に加えて、(G)カーボンブラックを含むことができる。また、(C)ニグロシンと共に使用することで、(G)カーボンブラックが結晶核剤として働いても、(C)ニグロシンの結晶化遅延効果によって、電装部品における外観が損なわれずにより良好なものとすることができる。
(G)カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、ガスブラック、オイルブラックが挙げられる。これら化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
[(G)カーボンブラックの含有量]
ポリアミド組成物において、(G)カーボンブラックの含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、0.01質量%以上0.50質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.25質量%以下であることがより好ましく、0.06質量%以上0.10質量%以下であることがさらに好ましい。
(G)カーボンブラックの含有量が上記下限値以上であることで、レーザーマーキング性がより良好なものとなる。一方、(G)カーボンブラックの含有量が上記上限値以下であることで、加熱による樹脂の炭化をより防ぐことができる。
<その他の添加剤>
ポリアミド組成物は、本実施形態の目的を損なわない範囲で、ポリアミドに慣用的に用いられるその他の添加剤を含有することもできる。その他の添加剤としては、例えば、フィブリル化剤、潤滑剤、蛍光漂白剤、可塑化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、流動性改良剤、補強剤、展着剤、造核剤、ゴム、強化剤、その他のポリマー等が挙げられる。本実施形態のポリアミド組成物中のその他の添加剤の含有量は、その目的に応じて、適宜当業者が設定することができる。
<ポリアミド組成物の製造方法>
ポリアミド組成物の製造方法において、各構成成分を添加する方法は、(A)成分~(D)成分と、必要に応じて、(F)~(G)成分や上述したその他の添加剤を混合する方法であれば、特に限定されるものではない。
構成材料の混合方法として、例えば、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し溶融混練機に供給し混練する方法や、トップフィーダーから単軸又は2軸押出機で溶融状態にした(A)成分、並びに、(B)成分~(C)成分(必要に応じて(F)~(G)成分)と、サイドフィーダーから必要に応じて、(D)無機充填材やその他成分を配合する方法等が挙げられる。
ポリアミド組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよく(A)成分~(D)成分と、必要に応じて、(F)~(G)成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
溶融混練温度は、樹脂温度にして250℃以上375℃以下程度であることが好ましい。
溶融混練時間は、0.5分間以上5分間以下程度であることが好ましい。
溶融混練を行う装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、ミキシングロール等の溶融混練機を用いることができる。
<電装部品の製造方法>
本実施形態の電装部品は、上記ポリアミド組成物を公知の成形機で成形することで得られる。
成形方法としては、特に限定されないが、例えば、射出成形、オーバーモールド成形、ガスアシスト射出成形等、一般に知られているプラスチックの射出成形方法が挙げられる。中でも、本実施形態の電装部品は、オーバーモールド成形で得られたものであることが好ましい。
本実施形態の電装部品を成形する際の成形機の設定温度は、使用するポリアミドの融点より5℃高い温度から50℃高い温度までの範囲で設定することが好ましく、使用するポリアミドの融点より10℃高い温度から40℃高い温度までの範囲がより好ましく、使用するポリアミドの融点より15℃高い温度から30℃高い温度までの範囲であることがさらに好ましい。成形機の設定温度を上記上限値以下とすることにより、ポリアミド組成物の溶融時及び射出時における上記(B)成分~(C)成分(必要に応じて(F)~(G)成分)の溶融や凝集を抑制することができ、電装部品中の上記(B)成分~(C)成分(必要に応じて(F)~(G)成分)の分散を充分なものとすることができる。
本実施形態の電装部品としては、例えば、自動車・鉄道・車両用電装部品、産業用電装部品、電気及び電子用部品、具体的にはトランスミッション部品、コイルボビン、電磁機器筐体、コネクター、ワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、コンビネーションスイッチ、電子部品ハウジング、電装用途のオーバーモールド用樹脂等が挙げられる。
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、1kg/cmは、0.098MPaを意味する。
<原料>
以下、ポリアミド組成物に含まれる各原料について説明する。
[(A)ポリアミド]
A-1:ポリアミド66(PA66)
[(B)ヒンダードフェノール]
B-1:N,N’-hexane-1,6-diylbis(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenylpropionamide))(BASFジャパン株式会社製、商品名「Irganox 1098」、アミド基あり)
[(B’)従来の耐熱性向上剤]
B’-1:ヨウ化銅とヨウ化カリウムの混合物
[(C)ニグロシン]
C-1:ニグロシン染料(オリエント化学社製、TH807)(ハロゲン化物イオンの濃度:0.06質量%)
C-2:ニグロシン染料(オリエント化学社製、TH870)(ハロゲン化物イオンの濃度:1.60質量%)
[(C’フタロシアニン)
C’-1:銅フタロシアニン(C.I.ソルベントブルー67)
[(D)無機充填材]
D-1:ガラス繊維(GF)(日本電気硝子製、商品名「ECS03T275H」、平均繊維径10μm、カット長3mm)
[(F)ポリエチレンイミン]
F-1:ポリエチレンイミン、BASF社製、商品名「Lupasol(登録商標) FG」
[(G)カーボンブラック]
G-1:カーボンブラック(CB)(一次粒径27nm)
<(A)ポリアミドの製造>
(ポリアミドA-1(PA66)の合成)
「熱溶融重合法」によりポリアミドの重合反応を以下のとおり実施した。
まず、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1500gを蒸留水1500gに溶解させて、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。次いで、110℃以上150℃以下の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。次いで、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次いで、1時間かけて圧力を降圧した。次いで、オートクレーブ内を真空装置で650torr(86.66kPa)の減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出して、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドA-1(PA66)を得た。
得られたポリアミドA-1(PA66)は、重量平均分子量が35000、分子量分布(Mw/Mn)が2.0であった。
<ポリアミド及びポリアミド組成物の物性>
[物性1]
(重量平均分子量及び分子量分布)
(A)結晶性ポリアミド及び(B)非晶性ポリアミドの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーショングラフ(GPC)(東ソー株式会社製、HLC-8020、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒、PMMA(ポリメチルメタクリレート)標準サンプル(ポリマーラボラトリー社製)換算)を用いて測定した。その値から、分子量分布Mw/Mnを計算した。
[物性2]
(ハロゲン化物イオンの濃度)
ポリアミド組成物のペレットに含まれるハロゲン化物イオン(Cl、Br、I)の濃度を燃焼イオンクロマトグラフィによって定量した。具体的には、三菱化学アナリテック製AQF-2100Hを使用し、吸収液として超純水(過酸化水素水、抱水ヒドラジン含有)を用いた燃焼菅燃焼法によってサンプルを作成した。イオンクロマトグラフィ(IC)の装置には、Thermo Fisher Scientific製のIntegrion RFICを、カラムにはThermo Fisher Scientific製のIonPac AS18-4μm(4mmφ×150mm)を、溶離液にはKOH水溶液を、検出器には、UV検出器を使用した。
測定結果から、下式を用いてハロゲン化物イオン(Cl、Br、I)の濃度を算出した。具体的には、下式を用いてCl、Br、及びIそれぞれについて試料中の濃度を算出し、それらを合計した値をハロゲン化物イオンの濃度とした。
「Cl、Br、又はIの濃度(質量ppm)」
=[(IC測定値(mg/L))×(希釈率)-(ブランクのIC測定値(mg/L))]×[(吸収液量(mL))/1000]×[1000000/(試料の質量(mg))]
<評価方法>
[平板成形品の製造]
平板成形品を以下のとおり製造した。
射出成形機(NEX50III-5EG:日精樹脂工業株式会社製)を用いて、冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、金型温度を80℃、シリンダー温度を290℃に設定し、充填時間が1.6±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整し、平板成形品(6cm×9cm、厚さ2mm)を製造した。
[評価1]
(ブリードアウト試験)
平板成形品を使用し、恒温恒湿槽(温度:85℃、相対湿度:85%)に500時間静置した。平板成形品を取り出し、表面に発生したブリード物を観察して、ブリードアウトの起こりやすさを以下の基準で評価した。表には、「ブリードアウト抑制」として表記した。
(評価基準)
○:平板成形品にブリード物が見られない。
△:平板成形品の一部にブリード物が見られる。
×:平板成形品全体にブリード物が見られる。
[評価2]
(イオンマイグレーション)
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(S2000i100B、ファナック株式会社製)を用いて、長さ90mm、幅30mm、厚み3mmの平板を成形した。なお、射出成形機の条件は、射出+保圧時間16秒、冷却時間10秒、金型温度80℃、溶融樹脂温度280℃に設定した。
得られた平板に、電極としてアルミテープ(AL-50BT スリーエム ジャパン株式会社)を貼付した。正極と負極間の距離を1mmとし、85℃、85%の恒温恒湿中において、800Vの電圧を500時間印加した。
イオンマイグレーションについて以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:アルミ電極のイオンマイグレーションが発生しなかった。
△:アルミ電極のイオンマイグレーションがやや発生した。
×:アルミ電極のイオンマイグレーションが激しく発生した。
[多目的試験片の製造]
ポリアミド組成物のペレットを、窒素気流中で乾燥し、ポリアミド組成物中の水分量を500質量ppm以下にした。次いで、水分量を調整した各ポリアミド組成物のペレットを、射出成形機(PS-40E、日精樹脂株式会社製)を用いて、ISO3167に準拠して、多目的試験片(A型、ダンベル形引張試験片)を成形した。なお、多目的試験片の寸法は、全長≧170mm、タブ部間距離109.3±3.2mm、平行部の長さ80±2mm、肩部の半径24±1mm、端部の幅20±0.2mm、中央の平行部の幅10±0.2mm、厚さ4±0.2mmである。具体的な射出成形時の条件としては、射出及び保圧の時間:25秒、冷却時間:15秒、金型温度:80℃、シリンダー温度:290℃に設定した。
[評価3]
(耐熱エージング性)
多目的試験片(A型)を用いて、ISO527に準拠して引張速度5mm/分で引張試験を行い、初期引張強度(MPa)を測定した(S0)。次いで、各多目的試験片(A型)をISO188に準拠したオーブンに入れて、180℃でそれぞれ1000時間加熱して、耐熱エージング試験を行った。1000時間後にオーブンから各多目的試験片(A型)を取り出し、23℃で24時間冷却させた。次いで、耐熱エージング試験後の各多目的試験片(A型)をISO527に準拠して引張速度5mm/分で引張試験を行い、耐熱エージング試験後の引張強度(MPa)を測定した(S1)。次いで、下記に示す式を用いて、引張強度保持率(%)を算出した。引張強度保持率が70%以上であるものを耐熱エージング性が良好であると評価した。
「引張強度保持率(%)」 = S1/S0×100
<ポリアミド組成物の製造方法>
[実施例1~実施例4及び比較例1~比較例5]
1.ポリアミド組成物PA-a1~PA-a4及びPA-b1~PA-b5の製造
下記表に記載の組成となるように、各原料成分用いて、各ポリアミド組成物を以下の方法で製造した。
なお、ポリアミドA-1は窒素気流中で乾燥し水分率を約0.2質量%に調整してから、ポリアミド組成物の原料として用いた。
ポリアミド組成物の製造装置としては、二軸押出機(ZSK-26MC:コペリオン社製(ドイツ))を用いた。
二軸押出機は、押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、6番目のバレルに下流側第1供給口を有し、9番目のバレルに下流側第2供給口を有していた。また、二軸押出機において、押出機長さ(lx)/スクリュー径(dx)は48であり、バレル数は12であった。
二軸押出機において、上流側供給口からダイまでの温度を295℃に設定し、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/時間に設定した。
上記製造装置を用いた具体的な製造方法としては、(A)ポリアミドを二軸押出機の上流側供給口より供給し、二軸押出機の下流側第1供給口より、その他原料成分を供給し、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズして各ポリアミド組成物のペレットを得た。得られたポリアミド組成物のペレットを、窒素気流中で乾燥し、ポリアミド組成物中の水分量を500質量ppm以下にした。
2.成形体の製造
得られたポリアミド組成物を用いて、上記方法で各成形体を製造し、評価を行った。結果を以下の表に示す。
Figure 2023096511000001
Figure 2023096511000002
上記表に示すように、ポリアミドと、ヒンダードフェノールと、ニグロシンと、無機充填材と、を含み、ハロゲン化物イオンの濃度がポリアミド組成物の総質量に対して2質量ppm以上7質量ppm以下であるポリアミド組成物PA-a1~PA-a4を用いた成形品(実施例1~4)では、85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、引張強度保持率が71%以上と、耐熱エージング性に優れていた。
一方、ニグロシンを含まないポリアミド組成物PA-b1~PA-b2を用いた成形品(比較例1~2)、ポリアミドと、ヒンダードフェノールと、ニグロシンと、無機充填材と、を含むが、ハロゲン化物イオンの濃度がポリアミド組成物の総質量に対して50質量ppm超であるポリアミド組成物PA-b3~PA-b4を用いた成形品(比較例3~4)、及び、ヒンダードフェノールを含まないポリアミド組成物PA-b5を用いた成形品(比較例5)では、ブリードアウト及びイオンマイグレーションの発生を抑制でき、且つ、耐熱エージング性に優れるものは得られなかった。
本実施形態の電装部品によれば、85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、耐熱エージング性に優れる電装部品を提供することができる。本実施形態の方法によれば、85℃、相対湿度85%環境下で添加剤のブリードアウトが発生せず、通電時にイオンマイグレーションが発生せず、耐熱エージング性に優れる。

Claims (4)

  1. ポリアミドと、ヒンダードフェノールと、ニグロシンと、無機充填材と、を含む、ポリアミド組成物を成形してなる、電装部品であって、
    燃焼イオンクロマトグラフィによって測定されるハロゲン化物イオンの濃度が前記ポリアミド組成物の総質量に対して50質量ppm以下である、電装部品。
  2. 前記ポリアミドがポリアミド66及びポリアミド6からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の電装部品。
  3. 前記ヒンダードフェノールの含有量が前記ポリアミド組成物の総質量に対して0.25質量%以上である、請求項1又は2に記載の電装部品。
  4. 電装部品においてイオンマイグレーション及びブリードアウトの発生を抑制しながら、耐熱エージング性を向上させる方法であって、
    ポリアミドと、ヒンダードフェノールと、ニグロシンと、無機充填材と、を含む、ポリアミド組成物を成形して、電装部品を得ることを含む、方法。
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