JP2023093078A - 電気炉における原料溶解方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】炭素を含有する還元鉄を原料として用いて、アーク式の電気炉で溶解して溶鋼を製造するに際して、溶鋼中炭素濃度が低濃度領域では、サブマージドアーク加熱を行ってスラグを生成して溶鋼を覆うことで、溶鋼の窒素吸収を防止することができる電気炉における原料溶解方法を提供する。【解決手段】本発明の電気炉1における原料溶解方法は、アーク式の電気炉1で溶鋼Mを製造するに際して、炭素を含有する還元鉄Rを原料として用いて、加熱によって溶解させる電気炉1における原料溶解方法において、加熱によって生成される溶鋼Mの炭素濃度が0.80mass%以下の状態で、サブマージドアーク加熱を行って原料Rを溶解する。【選択図】図1

Description

本発明は、電気炉の操業に関する技術であって、還元鉄を溶解するにあたって溶鋼の窒素吸収を防止する技術に関する。
従来、電気炉で鋼を製造するに際しては、スクラップや還元鉄などの鉄源をフラックスと一緒に炉内に装入し、アークにより鉄源を加熱し溶解している。その鉄源が十分に溶解した後、ランスより酸素ガスを溶鋼に吹き込みながら脱りんを行っている。
近年では、省エネルギーやリサイクルの観点から電気炉による製鋼法の重要性が再認識されつつある。ところが、電気炉鋼は、窒素含有量が高いため用途範囲が限られている。このようなことから、鋼中に窒素が吸収されることを抑制する技術が存在する。
特許文献1には、アーク炉でスクラップ、還元鉄及び銑鉄等の鉄源を原料とした時の低窒素鋼の溶製方法が開示されている。
具体的には、スクラップ等の原料溶け落ち後、溶鉄にO2及びCを供給する。また、O2の純度を99.5vol.%以上、送酸速度Qo2及び送酸時間t*を下記に限定することとされている。
0.55≦Qo2≦1.35(Nm3/min/ton)、
t*≧-7.2Qo2+15(min)。
且つ、次式:Cadd≧(12/11.2)Qo2t*W-CMD(kg)の右辺の値が正の値の場合には、上記式を満たすC添加量Caddを溶鉄に供給する。その際、Cのキャリアーガス中N濃度を3vol.%以下とすることとされている。ただし、W:原料溶解終了時の溶鉄量(ton)、CMD:原料溶解終了時の溶鉄に含まれる炭素重量(kg) である。
特許文献2には、電気炉内でスラグフォーミングの状態を排ガス中のNOx量測定で判定し、またスラグフォーミング状態を調整して、溶鋼と大気との接触を完全に断つことによる低窒素溶鋼の製造方法が開示されている。具体的には、NOxはアークスポットで発生し、NOxが発生していなければスラグがフォーミングしているとの考えに基づき、排ガス中NOx濃度からフォーミング状態を判定する。またこの判定結果に基づき、精錬期および昇温期にスラグをフォーミングさせるような操業を行うこととされている。
特許文献3には、アーク炉でスクラップ、還元鉄及び銑鉄等の鉄源を原料とした時の低窒素鋼の溶製方法が開示されている。具体的には、原料溶解後、溶鉄に純度99.0vol.%以上の純酸素を、送酸速度Qo2で送酸時間t*の間吹錬することとされている。
ここで、Qo2=0.55~1.35の範囲内、
t*≧-7.2Qo2+15(min)
この吹錬中、式:Cadd≧(12/11.2)Qo2t*W-CMD
但し、W:原料溶解終了時の溶鉄量(ton)、CMD:原料溶解終了時の溶鉄に含まれる炭素重量(kg)、で算出される炭素添加量Caddを添加することとされている。
特許文献4には、アーク炉で鉄鉱石や還元鉄、スクラップを溶解し、窒素・硫黄濃度の低い高純度溶鋼を製造する方法が開示されている。
具体的には、電気炉の電極を中空とし、そこから20Nm/秒以上の炭化水素ガスを供給しながら溶解させ、その後、酸素ガスを前記溶鉄に吹き付けて脱炭処理する。前記溶け落ち時の溶鉄中の炭素濃度が1質量%以上とすることとされている。
特許文献5は、電気炉の排ガスを、併設されるシャフト炉の還元ガスに利用することを目的としている。
具体的には、アーク式還元溶解炉に炭材を添加しながら電気アークにより還元鉄を還元溶解し、その後、必要に応じて酸素ガスを溶鉄に吹き付けて脱炭処理を行って溶鋼を製造するとともに、前記アーク式還元溶解炉で発生した排ガスを前記シャフト炉における還元ガスに利用し、前記シャフト炉で製造する還元鉄の還元率を50%以上とし、電気アークによる還元鉄の溶け落ち時の溶鉄中の炭素濃度を1質量%以上とすることとされている。
特許文献6は、溶け落ち後の昇温効率向上のために、炭素粉をインジェクションしてスラグを形成させることを目的としている。具体的には、溶鋼表面のスラグ層または溶鋼内
に炭素粉をキャリアーガスにより吹き込むことで、炭素粉による気泡をスラグ面上に形成させて溶鋼を覆い、効率よく溶鋼を昇温することとされている。
特開平11-012634号公報 特許3743095号公報 特開平10-121123号公報 特許6413710号公報 特許6476940号公報 特開昭55-089414号公報
しかしながら、特許文献1~6には、アーク式の電気炉において鋼を製造する技術が開示されているが、原料を溶解するときに溶鋼への窒素吸収を抑制するには技術的懸念があると考えられる。
特許文献1は、溶鋼の炭素濃度に応じたアーク加熱方法に関する記載や示唆が無いため、状況によっては吸窒したり、不要な酸素や炭材を使用して原料コストが高くなったり、あるいはCO2発生量が多くなる虞がある。また、同文献では、酸素が照射されることによる溶鋼の飛散や酸化により、歩留が低下する虞がある。
特許文献2は、還元鉄を溶解原料に配合する場合、溶鋼の炭素濃度が高くなる虞があり、この炭素が高い状態では吸窒しないので、スラグフォーミング状態に関わらずNOxも発生しない。従って、NOxだけ見てもスラグフォーミング状態を判定することはできない。また、同文献では、COガスによるフォーミングを判定することもできない。従って、過剰にCOガスを発生させても検知できず、過剰フォーミングにより鉄歩留が低下する虞がある。
特許文献3は、溶鋼の炭素濃度に応じたアーク加熱方法に関する記載や示唆が無いため、状況によっては吸窒したり、不要な酸素や炭材を使用して原料コストが高くなったり、あるいはCO2発生量が多くなる虞がある。また、同文献では、酸素が照射されることによる溶鋼の飛散や酸化により、歩留が低下する虞がある。
特許文献4は、電極を中空にする必要があり、電極の製造および管理が困難である。また、同文献は、COガスによる脱窒に必要な溶落時の炭素濃度が規定されているが、脱炭が進行した後のスラグ制御に関する記載や示唆が無いため、状況によっては吸窒する虞がある。
特許文献5は、アーク炉での還元鉄溶落時の炭素濃度を、COガスによる脱窒のために1質量%以上としているが、吸窒が生じてしまう1質量%以下の領域でのスラグ制御方法等の記載や示唆が無いため、状況によっては窒素濃度が高まってしまう虞がある。また、同文献は、シャフト炉と電気炉を近傍に設置しなければならないため、技術的に非常に困難である。
特許文献6は、そもそも低N化に関する記載が無いため、状況によってはN濃度が高くなる虞がある。つまり、溶鋼の窒素吸収を防止するには適さない。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、炭素を含有する還元鉄を原料として用いて、アーク式の電気炉で溶解して溶鋼を製造するに際して、溶鋼中炭素濃度が低濃度領域では、サブマージドアーク加熱を行ってスラグを生成して溶鋼を覆うことで、溶鋼の窒素吸収を防止することができる電気炉における原料溶解方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる電気炉における原料溶解方法は、アーク式の電気炉で溶鋼を製造するに際して、炭素を含有する還元鉄を原料として用いて、加熱によって溶解させる電気炉における原料溶解方法において、加熱によって生成される前記溶鋼の炭素濃度が0.80mass%以下の状態で、サブマージドアーク加熱を行って前記原料を溶解することを特徴とする。
本発明によれば、炭素を含有する還元鉄を原料として用いて、アーク式の電気炉で溶解して溶鋼を製造するに際して、溶鋼中炭素濃度が低濃度領域では、サブマージドアーク加熱を行ってスラグを生成して溶鋼を覆うことで、溶鋼の窒素吸収を防止することができる。
本発明の電気炉における原料溶解方法の概略を模式的に示した図である。 窒素上吹き終了時の溶鋼中[C]濃度(mass%)と、転炉吹錬後~次工程開始時の溶鋼中[N]濃度との変化量(ppm)の関係を示した図である。 取鍋精錬中の吸窒量を示した図である。 電気炉におけるサブマージ加熱の切り替え時の溶鋼中[C]濃度(mass%)と、電炉出鋼時の溶鋼中[N]濃度(mass%)との関係を示した図である。
以下、本発明にかかる電気炉における原料溶解方法の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
まず、本発明にかかる原料の溶解方法が行われる電気炉1について説明する。ただし、本発明の原料の溶解方法は、以下に例示する電気炉1以外の型式のものであってもよい。
図1に、本発明の電気炉1における原料(還元鉄R)の溶解方法の概略の模式図を示す。
図1に示すように、電気炉1は、上下に分割可能となっている。つまり、電気炉1は、上部が開口され且つ還元鉄R(冷鉄源)などが装入可能な本体2と、その本体2の開口を覆う蓋体3と、を有している。本体2と蓋体3の内部は、耐火レンガなどが施工されている。
電気炉1の側面には、排滓口4が形成されている。また、電気炉1には、排滓口4と反対側の側面に溶鋼Mを出鋼する出鋼口5が形成されている。電気炉1は、開蓋状態で装入された還元鉄R等の原料及びフラックスなどを本体2内部で溶解して溶湯M(溶鋼M)として収容可能となっている。
電気炉1には、上方から内部に向かって挿し込まれる複数の電極6が設けられている。本実施形態では、電極6が3本挿入されている。この電極6は、黒鉛電極であって三相交流が供給されており、電極6と内部に装入された還元鉄Rとの間にアークを発生して還元鉄Rが溶解して溶湯Mを形成可能となっている。
電気炉1の排滓口4からは、酸素ランス7が挿し込み可能となっている。酸素ランス7から溶湯Mに対して酸素ガスを吹き込むことで、滓化を促進して脱りん処理や脱炭処理ができるようになっている。
なお、電気炉1には姿勢を傾動させる炉傾動装置(図示略)が設けられている。この炉傾動装置を作動させて排滓口4が低くなるように電気炉1を傾動させることで、スラグSが排滓口4から排滓がされる。また、炉傾動装置を作動させて出鋼口5が低くなるように電気炉1を傾動させることで、溶鋼Mが出鋼口5から出鋼される。
図1に、本発明の電気炉1における原料の溶解方法の概略の模式図を示す。
図1に示すように、本発明の電気炉1における原料の溶解方法は、アーク式の電気炉1で溶鋼Mを製造するに際して、炭素を含有する還元鉄Rを原料(溶解原料)として用いて、加熱によって溶解させる電気炉1における原料溶解方法において、加熱によって生成される溶鋼Mの炭素濃度が0.80mass%以下の状態で、溶鋼Mに対してサブマージドアーク加熱を行って還元鉄Rを溶解することを特徴とする。
次いで、本発明の電気炉1における原料(還元鉄R)の溶解方法を具体的に説明する。
アーク式の電気炉1にて、溶解原料を用いて溶鋼Mを製造するに際しては、その電気炉1の操業では、一般的にスクラップが溶解原料として用いられている。なお、電気炉1を電炉1とも呼称することもある。
スクラップの炭素濃度は、基本的に1mass%以下であることから(例えば、参考文献(冨
浦梓,鉄鋼界11(1996)p25.)などを参照)、スクラップのみを溶解原料とした場合については溶鋼Mの炭素濃度が1mass%を上回ることは無い。
一方、還元鉄Rは1mass%を上回る炭素を含有している。その炭素を含有する還元鉄Rを溶解原料として用いる場合もある。
本発明は、アーク式の電気炉1で炭素を含有する還元鉄Rを溶解原料として用いて溶鋼Mを製造する場合に適用可能な技術である。
表1に、炭素を含有する還元鉄Rの組成の一例として、HBI(Hot Briquetted Iron)の組成を示す。なお、表1については、詳しくは(田中英年,神鋼R&D Vol.64(2014),No.1,p2-7.)や、(田中英年ら,鉄と鋼92(2006),p1022-1028.)などの参考文献を参照するとよい。また、表1は、あくまでも一例であって、還元鉄RとしてはHBIに限定しない。
HBIの定義は、「650 ℃以上の温度でブリケットにした、5g/cm3以上の見掛密度をもつ還元鉄(JIS M 8700:2013より)」を基にしている。
Figure 2023093078000002
表1に示すように、HBI(還元鉄R)は、1mass%超のCを含んでいる。また、表1については、その他不可避的混入成分を含むものとしている。
なお例えば、スクラップと、炭素を含有する還元鉄Rと、を組み合わせて溶解原料としても良く、その溶解原料の組み合わせについては特に限定しない。例えば、炭素を含有する材料と還元鉄Rとスクラップを併用したとしても、本発明の対象とする。
さて、電気炉1の操業では、アーク加熱などにより鉄源を溶解する工程と、フラックスの添加および酸素ガスを供給することにより酸化精錬(脱りんと脱炭)を行う工程と、に大別される。
酸化精錬工程では、溶落後の溶湯Mに対して電炉1内下部にあるガスパイプ、若しくは、電炉1内に挿入されるランス7から酸素などの所定のガスを吹き込んで溶鋼Mを攪拌しつつ酸素ガスによる脱炭を行うとともに、フラックスの添加によって形成させたスラグSとメタル(溶鋼M)との反応による脱りんを行う。
なお、上記の2つの工程については、明確に分かれているものではなく、溶解しながら酸素の吹き込み(injection)を行ったりもする。
すなわち、上記工程の区別に関し一概には言えない上に、溶解工程と酸化精錬工程の両工程の境目を明確に切り分けることは難しいが、一例としては、電気炉1の操業の全工程に要する時間は1~2時間程度である。その内訳としては、前半の鉄源溶解工程に要する時間が全体のおおよそ6~8割の時間であり、残り(4割~2割)の時間が酸化精錬工程の時間である。
さて、炭素を含有する溶鋼Mは、溶鋼Mに対してインジェクションされる酸素との反応により脱炭する。この酸素インジェクション量により、溶鋼M中の炭素濃度を制御することができる。
逆に言えば、酸素インジェクション量から、任意のタイミングでの溶鋼中炭素濃度を推算(予測)することができる。あるいは、測定用の治具等を用いて採取した溶鋼Mのサンプルを分析して実測することでも、溶鋼中炭素濃度を把握することができる。
アーク式の電気炉1で溶鋼Mを得る操業においては、サブマージドアーク加熱を行う方が、着熱効率が高いことが知られている。サブマージドアーク加熱とは、原料(還元鉄R)が全て溶落して溶湯Mがフラットバスとなった後に、スラグフォーミングして溶鋼M表面をスラグSで覆い、そのスラグSに電極6を浸漬させて加熱する方法である。なお、サブマージ加熱やサブマージド加熱と記載することもある。
一方で、原料の一部が固体の状態で残存している間に、スラグフォーミングを開始させると、そのスラグSが固体の原料を覆ってしまい、原料を覆うスラグSが原料の溶解を阻害する。
そのため、固体原料(還元鉄R)を溶落させて早期に溶湯Mをフラットバス化するためには、スラグSを生成させずに、固体原料(還元鉄R)に直接アークを照射して溶解するオープンアーク加熱を行う方が良い。
特に、還元鉄Rを原料として用いる場合では、還元鉄Rは脈石成分や空隙がスクラップと比較して多く溶解効率が低いことから、積極的にオープンアーク加熱を行って効率よく溶解することが有効である。なお、未溶解の原料Rが存在する状態でスラグフォーミングさせると、原料の溶解が難しくなるという記述が(参考文献:森井簾,電気炉製鋼法,2000,P155.)にある。
ただし、オープンアーク加熱を行う場合は、溶鋼Mと大気が接触するため、溶鋼Mが大気からNを吸収(吸窒)する可能性がある。その鋼材中の[N]濃度は、低濃度の方が望ましい。
溶鋼M中に固溶する窒素は、後工程における圧延工程または鍛造工程のときにおいて、鋼材表面に皺(しわ)や割れなどの欠陥をもたらすことが一般的に課題として知られている。そのため、電気炉1の操業中における溶鋼Mの吸窒を抑制し、電気炉1での処理後の窒素濃度を50ppm未満にすることが、欠陥の抑制(鋼材品質の向上)には必要となってくる。
従って、効率よく原料(還元鉄R)の溶解を行うためには、可能な限りオープンアーク加熱を志向しながらも、溶鋼Mの吸窒を起こさないことが重要となってくる。
ところで、溶鋼中炭素濃度は、溶鋼Mの吸窒(窒素吸収)挙動に影響する。その理由を以下に述べる。
先ず、溶鋼Mの平衡窒素濃度[%N]eは、以下の式(1)で算出することが可能である(参考文献:(鍋島ら,鉄と鋼101(2015),p627-635.)などを参照)。
Figure 2023093078000003
ただし、[N]e:溶鋼の平衡窒素濃度(mass%)
PN2:溶鋼と接触する気体の窒素分圧
T:絶対温度(K)
R:気体定数
式(1)のfNは、窒素の活量係数であり、以下の式(2)で算出することが可能である。
Figure 2023093078000004
ただし、[%J]:溶鋼中の溶質成分(mass%)
式(2)のej Nは、同じメタル中の各成分の窒素に対する相互作用助係数であり、eC N=0.13である(参考文献:(製鋼反応の推奨値 日本学術振興会19委員会編,(1984).)などを参照)。
また、eC Nがゼロ(0)より大きい数値であるため、溶鋼中[C]濃度の増加に伴いfNは大きくなる。
従って、溶鋼中[C]濃度の増加でfNが大きくなることで、平衡窒素濃度[N]eが小さくなる、すなわち溶鋼M中に溶解可能な窒素濃度が低くなる。
また、溶鋼M側の物質移動が律速する場合の溶鋼Mの脱窒・吸窒速度は、以下の式(3
)で算出することが可能である(参考文献:(鍋島ら,鉄と鋼101(2015),p627-635.)などを参照)。
Figure 2023093078000005
ただし、[N]:溶鋼中窒素濃度(mass%)
[N]e:溶鋼の平衡窒素濃度(mass%)
A:気体と接触する溶鋼の面積(m2)
V:溶鋼体積(m3)
kNm:物質移動係数(m/min)
上記の通り、溶鋼中[C]濃度の増加に伴って、平衡窒素濃度[N]eが小さくなる。
また、平衡窒素濃度[N]eが低くなるということは、到達する溶鋼中[N]濃度が低くなることに加え、溶鋼Mの吸窒速度も遅くなることである。
以上述べたことが、溶鋼中[C]濃度が高い場合においては、溶鋼Mの吸窒が生じにくくなる理由である。
従って、溶鋼中[C]濃度が高いときは、溶鋼Mは大気と触れても吸窒しないことから、積極的にオープンアーク加熱を実施しても良い。
一方で、低炭素濃度領域では溶鋼Mの吸窒(窒素吸収)が進行することから、所定の炭素濃度以下の領域では、溶鋼Mの窒素吸収を抑制するため、スラグSで覆うサブマージ加熱を行わなければならない。
溶鋼Mの吸窒が生じるか否かの溶鋼中[C]濃度の閾値については、転炉にて行ったテストにより導出した。
[実施例1]
以下に、転炉にて行ったテストの実施例及び比較例について、説明する。なお、本実施例に記載した内容は本発明の例示であって、これに限定されるものではない。
[実施条件(転炉)]
本実施例における転炉の実施条件については、以下の通りである。
表2に、転炉の実施条件について示す。
Figure 2023093078000006
なお、その他の実施条件については、当業者常法にて実施した。
本実施例は、250t転炉において、溶鋼Mが吸窒することで及ぼす溶鋼中[C]濃度の影響を研究するテストを行った。
ただし、250t転炉の操業は当業者常法であり、上吹きで酸素を照射することで溶鉄M(溶銑Mや溶鋼M)中の[C]濃度が漸減する。さらに、本テストでは、酸素に加え溶鉄Mに吸窒を生じさせるため、窒素も20Nm3/minで上吹きした。
本テストでは、吹錬初期から窒素の上吹きを開始し、窒素の上吹きを停止するときの溶鋼中[C]濃度を変化させる実験を複数ch(チャージ)行った。
なお、窒素上吹きテストの吸窒挙動は、以下のように評価した。
先ず、窒素を上吹していない通常操業ch (非テストch)の吹錬後の溶鋼中[N]濃度については、操業条件の因子を変数とした予測式を用いて算出することが可能である。
また、転炉の次工程においては、処理開始前に溶鋼Mのサンプルを採取して、溶鋼中[N]濃度を実測する。
これらから、通常操業chにおける転炉吹錬後の溶鋼中[N]濃度と、次工程開始前における溶鋼中[N]濃度の変化量を算出することができる。また、通常操業chにおける溶鋼中[N]濃度の変化量の平均および標準偏差σも算出することができる。
ところで、吹錬後の溶鋼中[N]濃度の予測式には、窒素上吹きに関する項は含まれていない。従って、窒素上吹きにおいて溶鋼中[N]濃度が高まったとしても、吹錬後の溶鋼中の予測[N]濃度は通常操業chにおける溶鋼中[N]濃度と同じ程度となる。その一方で、実測する次工程開始時の溶鋼中[N]濃度については、溶鋼Mの吸窒量に応じて高くなる。
このことから、窒素上吹きを行うことにより溶鋼中[N]濃度が高まった場合、転炉吹錬後の溶鋼中[N]濃度と、次工程開始時の溶鋼中[N]濃度との変化量は大きくなる。
以上より、窒素上吹きテストchにおいて、上吹きによる窒素の供給を停止したときの溶鋼中[C]濃度と、溶鋼中[N]濃度との変化量の関係を示すグラフを描いた上で、窒素変化量が通常の範囲を逸脱しているchがあった場合、そのchについては溶鋼Mの吸窒が進行したと判断することができる。
なお、本実施例では、窒素変化量が通常操業chにおける溶鋼中[N]濃度の変化量の平均+3σを外れた場合、溶鋼Mの吸窒(窒素吸収)が進行したと判断した。
上記の窒素上吹きテストchについては、10ch分のデータを用いた。また、通常操業ch(非テスト)については、187ch分のデータを用いた。
表3に、窒素吹きテストch(チャージ)のデータを示す。
Figure 2023093078000007
表4~7に、通常操業ch(チャージ)のデータを示す。
Figure 2023093078000008
Figure 2023093078000009
Figure 2023093078000010
Figure 2023093078000011
窒素吹き終了時の溶鋼中炭素濃度については、転炉へのインプット炭素量から排ガスとして系外へ排出されたC分を考慮した物質収支から算出した。
[実施例、比較例(転炉)]
図2に、窒素上吹き終了時の溶鋼中[C]濃度(mass%)と、転炉吹錬後~次工程開始時の溶鋼中[N]濃度の変化量(ppm)との関係を示す。
図2を参照すると、溶鋼中[C]濃度が0.80mass%以下であると、溶鋼中[N]濃度が高くなることがわかる。すなわち、溶鋼中[N]濃度の変化量(ppm)が高くなると、溶鋼Mの吸窒が行われるようになる。
図2に示す関係や、表3の実験番号N-9など、上記に基づいて考察した結果、溶鋼中[C]濃度>0.80mass%の範囲において、溶鋼Mの吸窒が抑制されることが分かったため、溶鋼中[C]濃度>0.80mass%と規定した。つまり、溶鋼中[C]濃度>0.80mass%が、溶鋼Mの窒素吸収の抑制に必要となる。
このように、溶鋼中[C]濃度>0.80mass%では、必ずサブマージドアーク加熱を行うこととする。
なお、溶鋼中[C]濃度:0.80mass%については、予測値でもよいし実測値でもよい。本実施形態では、溶鋼中[C]濃度:0.80mass%について予測値を用いた。
さらに鋭意研究した結果、図2に示すように、通常操業時における溶鋼中[N]濃度の変化量の平均+3σ=18.1ppmと、窒素吹き終了時の溶鋼中炭素濃度が低い4点の一次近似式との交点が0.83mass%である。このことから、溶鋼中[C]濃度>0.83mass%が好ましいと知見した。
[実施例2]
次に、電気炉1にて行ったテストの実施例及び比較例について、説明する。なお、本実施例に記載した内容は本発明の例示であって、これに限定されるものではない。
[実施条件(電気炉)]
本実施例における電気炉1の実施条件については、以下の通りである。
Figure 2023093078000012
なお、その他の実施条件については、当業者常法にて実施した。
表9に、使用したスクラップおよび銑鉄の組成の一例について示す。なお、表9については、主成分はFeである。またいずれも、その他不可避的混入成分を含むものとしている。また、表9は、あくまでも一例であって、スクラップおよび銑鉄の組成はこれに限定しない。
Figure 2023093078000013
なお、HBIの組成の一例については、表1に示す通りである。また、表1については、その他不可避的混入成分を含むものとしている。
表10に、フラックスの組成(mass%)の一例について示す。なお、表10については、空欄は分析値無しであり、またいずれも、その他不可避的混入成分を含むものとしている
。また、表10は、あくまでも一例であって、フラックスの組成はこれに限定しない。
Figure 2023093078000014
本実施例及び比較例については、20tと100tの電気炉1で行った。
電気炉1での本実施例及び比較例の操業としては、初期はオープンアーク加熱を行い、処理の途中から電極6を浸漬させるサブマージドアーク加熱を行った。そのサブマージ加熱に切り替えるまでに、酸素をinjectionした。このinjection酸素は、溶鋼M中のCと反応するものである。
すなわち、サブマージ加熱に切り替える前の溶鋼中炭素濃度については、酸素injection量で制御が可能である。この切り替え時の溶鋼中炭素濃度は、injectionした酸素が化学両論的に溶鋼M中のCと反応するものとして算出することが可能である。
なお本実施例では、上記のような電炉1での操業で効果を確認したが、溶鋼中炭素濃度は酸素injectionで制御しなくてもよく、溶鋼中炭素濃度を適宜測定しながら、オープンアーク加熱とサブマージドアーク加熱を適切に切り替えても良い。
溶鋼中[C]濃度が0.80mass%以下となると、上記した図2のように、溶鋼Mの吸窒量が増加することとなる。その吸窒量を抑制するためには、サブマージ加熱して溶鋼MをスラグSで覆うことで、溶鋼Mと大気との接触を遮断すると好ましい。
なお、電気炉1の操業において、オープンアーク加熱とサブマージドアーク加熱を切り替える方法については、例えば電極6の高さを変更する方法が良く、各工場の設備を鑑みて最適な方法を採用すると良い。
図3に、取鍋精錬中の吸窒量を示す。なお、図3については、詳しくは(阿部ら,鉄と鋼68(1982),1955.)などの参考文献を参照するとよい。
図3に示すように、スラグSが溶鋼Mの表面を覆うことで、溶鋼Mへの吸窒が抑えられることは、参考文献でも示されているように、これまでに確認された事象である。
[実施例、比較例(電気炉)]
表11に、電気炉1にて行ったテストの実施例及び比較例を示す。
Figure 2023093078000015
ただし、表11のサブマージドアーク加熱に切り替えたときの溶鋼中[C]濃度について、溶鋼中[C]濃度とinjection酸素が化学両論的に反応するとして算出した。
図4に、電炉1において、サブマージドアーク加熱に切り替えたときの溶鋼中[C]濃度(mass%)と、電炉1出鋼時の溶鋼中[N]濃度(mass%)との関係を示す。
図4、表11などに示すように、本実施例の実験番号E-1は、溶鋼中[C]濃度が1.59mass%のときにサブマージドアーク加熱に切り替え、溶鋼Mの吸窒抑制に必要な溶鋼中[C]濃度:0.80mass%以下の状態にてサブマージドアーク加熱を行った結果、電気炉1から出鋼したときの溶鋼中[N]濃度が36ppmとなり、50ppm未満となり、良好な結果を得た。
本実施例の実験番号E-2は、溶鋼中[C]濃度が1.68mass%のときにサブマージドアーク加熱に切り替え、溶鋼Mの吸窒抑制に必要な溶鋼中[C]濃度:0.80mass%以下の状態にてサブマージドアーク加熱を行った結果、電気炉1から出鋼したときの溶鋼中[N]濃度が40ppmとなり、50ppm未満となり、良好な結果を得た。
一方、比較例の実験番号E-3,4のように、溶鋼中[C]濃度が0.80mass%より下(0.61mass%,0,78mass%)でサブマージドアーク加熱に切り替えると、電気炉1から出鋼したときの溶鋼中[N]濃度が50ppmを超える(57ppm,50ppm)こととなってしまい、求める結果から外れることとなった。
つまり、溶鋼Mの炭素濃度が0.80mass%以下の状態にあるとき、その溶鋼Mに対してサブマージドアーク加熱を行って原料R(還元鉄R)を溶解すると、出鋼時の溶鋼中[N]濃度が50ppm未満となる。
なお、電気炉1での溶鋼中窒素濃度を50ppm未満にする理由については、以下の通りである。
溶鋼M中に固溶する窒素は、後工程における圧延工程または鍛造工程のときにおいて、鋼材の表面に皺(しわ)や割れなどの欠陥をもたらすことが、一般的に課題として知られている。そのため、吸窒による欠陥を抑制し鋼材の品質を高めるには、電気炉1での処理後の溶鋼中窒素濃度を50ppm未満にする必要がある。
上で詳説したように実施すれば、電気炉1での操業において、溶鋼中[C]濃度≦0.80mass%となる前に、サブマージドアーク加熱へ切り替えることで、電気炉1での処理後の溶鋼中窒素濃度を50ppm未満にすることが可能となる。
すなわち、還元鉄Rを原料とする原料溶解工程においては、C>0.80mass%の領域では着熱効率の優れるオープンアーク加熱を選択して実施しても良いが、低炭素濃度領域(C≦0.80mass%)では溶鋼Mの窒素吸収を抑制するサブマージドアーク加熱を行うことで、出鋼時の溶鋼中窒素濃度を低位にすることが可能となる。
以上、本発明の電気炉1における原料(還元鉄R)の溶解方法によれば、炭素を含有する還元鉄Rを原料として用いて、アーク式の電気炉1で溶解して溶鋼Mを製造するに際して、溶鋼中炭素濃度が低濃度領域(C≦0.80mass%)では、サブマージドアーク加熱を行ってスラグSを生成して溶鋼Mを覆うことで、溶鋼Mの窒素吸収を防止することができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範
囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
1 電気炉(電炉)
2 本体
3 蓋体
4 排滓口
5 出鋼口
6 電極
7 酸素ランス
M 溶鋼(溶湯、溶鉄)
S スラグ
R 還元鉄

Claims (1)

  1. アーク式の電気炉で溶鋼を製造するに際して、炭素を含有する還元鉄を原料として用いて、加熱によって溶解させる電気炉における原料溶解方法において、
    加熱によって生成される前記溶鋼の炭素濃度が0.80mass%以下の状態で、サブマージドアーク加熱を行って前記原料を溶解する
    ことを特徴とする電気炉における原料溶解方法。
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