JP2023068554A - 窒化用鋼及び窒化部品 - Google Patents

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将人 祐谷
Masahito Suketani
雅之 堀本
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Abstract

【課題】被削性に優れ、かつ、窒化後の疲労特性が高い窒化用鋼及び窒化部品を提供する。【解決手段】所定の化学組成を有し、下記式(1)で表される焼入性の指標であるD値が8.5~21.0であり、金属組織は、面積率で、ベイナイトが30%以上95%未満であり、初析フェライトが5%超であり、パーライトが20%未満であり、ビッカース硬さが200~260HVである窒化用鋼及び窒化部品である。D=√C×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn)×(1+2.83P)×(1-0.62S)×(1+2.33Cr)×(1+0.52Ni)×(1+3.14Mo)×(1+0.27Cu)×(1+2.5V)・・・式(1)但し、式(1)中、各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。【選択図】なし

Description

本開示は、窒化用鋼及び窒化部品に関する。
自動車、船舶、産業機械等に用いられる機械部品として、疲労強度を向上させるために窒化処理が施された鋼(すなわち、窒化部品)が用いられることがある。鋼を窒化すると、表層に硬い窒化層が生じ、疲労特性が高まる。更に、窒化処理は低温で行われるため、他の表面硬化処理と比べてひずみを低減することができる。
窒化した鋼の疲労特性を高めるためには、窒化層を硬くすればよい。ところが、歯車のように面疲労を受ける部品では、その表面から内部に向かって深い位置まで大きなせん断応力が加わるため、極表層のみを硬化させるだけでは面疲労特性を向上させることが難しいことがある。そこで、窒化層の硬度に加えて、未窒化層(すなわち、未窒化部分)の硬度も向上させるべく、高い硬度を有する窒化用鋼が求められている。
例えば、ビッカース硬さが200HVを超える窒化用鋼に関する技術が検討されており、そのような技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
特開2019-218633号公報
窒化用鋼には、上記のように高い硬度を有することが求められているが、硬過ぎると被削性が劣化することがある。また、窒化用鋼から得られる窒化部品には、面疲労特性だけでなく、回転曲げ疲労特性が求められることがある(以下、面疲労特性と回転曲げ疲労特性とを合わせて「疲労特性」と呼ぶことがある)。
特許文献1を始めとして、様々な技術が従来から検討されているが、被削性と疲労特性とを両立させるための技術が十分でないのが現状である。
本開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、被削性に優れ、かつ、窒化後の疲労特性が高い窒化用鋼を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記窒化用鋼を用いた窒化部品を提供することである。
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 質量%で、
C:0.10~0.23%、
Si:0.10~0.50%、
Mn:1.50~2.15%、
S:0.005~0.050%、
Cr:0.50~0.90%、
Al:0.001~0.050%、
V:0.05~0.25%、
N:0.0030~0.0250%、及び
P:0.050%以下を含有し、
残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
下記式(1)で表される焼入性の指標であるD値が8.5~21.0であり、
金属組織は、面積率で、
ベイナイトが30%以上95%未満であり、
初析フェライトが5%超であり、
パーライトが20%未満であり、
ビッカース硬さが200~260HVである窒化用鋼。
D=√C×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn)×(1+2.83P)×(1-0.62S)×(1+2.33Cr)×(1+0.52Ni)×(1+3.14Mo)×(1+0.27Cu)×(1+2.5V)・・・式(1)
但し、式(1)中、各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。
<2>
質量%で、
Ti:0.005%以下、
Nb:0.005%以下、
Mo:0.10%以下、
Cu:0.30%以下、
Ni:0.30%以下、
Ca:0.0050%以下、
Pb:0.09%以下、及び
Bi:0.20%以下
の1種又は2種以上を含有する<1>に記載の窒化用鋼。
<3> <1>又は<2>に記載の化学組成、金属組織及びビッカース硬さを有する芯部と、芯部の化学組成よりもN含有量が多い表層部とを含む窒化部品。
本開示の一実施形態によれば、被削性に優れ、かつ、窒化後の疲労特性が高い窒化用鋼が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記窒化用鋼を用いた窒化部品が提供される。
図1は、実施例で用いた回転曲げ疲労試験片を示す模式図である。 図2は、実施例で用いた小ローラー試験片を示す模式図である。
以下、本開示の一例である実施形態について詳しく説明する。
各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
化学組成の各元素の含有量を単に「量」又は「濃度」と表記することがある。例えば、Cの含有量は、C量又はC濃度と表記することがある。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
「窒化用鋼」を「鋼」又は「鋼材」と呼ぶことがある。
「ビッカース硬さ」を単に「硬さ」と呼ぶことがある。
<窒化用鋼>
本開示に係る窒化用鋼は、
質量%で、
C:0.10~0.23%、
Si:0.10~0.50%、
Mn:1.50~2.15%、
S:0.005~0.050%、
Cr:0.50~0.90%、
Al:0.001~0.050%、
V:0.05~0.25%、
N:0.0030~0.0250%、及び
P:0.050%以下を含有し、
残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
下記式(1)で表される焼入性の指標であるD値が8.5~21.0であり、
金属組織は、面積率で、
ベイナイトが30%以上95%未満であり、
初析フェライトが5%超であり、
パーライトが20%未満であり、
ビッカース硬さが200~260HVである窒化用鋼。
D=√C×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn)×(1+2.83P)×(1-0.62S)×(1+2.33Cr)×(1+0.52Ni)×(1+3.14Mo)×(1+0.27Cu)×(1+2.5V)・・・式(1)
但し、式(1)中、各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。
本開示に係る窒化用鋼は、被削性に優れ、かつ、窒化後の疲労特性(回転曲げ疲労特性、面疲労特性)が高い。
本開示に係る窒化用鋼は、次の知見により見出された。
本発明者らは、鋼の化学成分と金属組織とを種々に変更し、ビッカース硬さを200HV以上に高くしても優れた被削性を発揮できる窒化用鋼を製造するための条件について調査した。その結果、下記(a)及び(b)の知見を得た。
(a)ビッカース硬さが同一であれば、ベイナイトと他の金属組織との混合組織は、パーライトよりも、また、フェライトとパーライトとの混合組織よりも被削性が優れる。但し、ベイナイトを含む混合組織であっても、鋼のビッカース硬さが260HVを超えると、十分な被削性が得られないことがある。
(b)0.1質量%以上のC濃度を許容し、かつ、鋼のビッカース硬さが260HV以下でベイナイトと初析フェライトが主体の被削性の高い組織を得るためには、ベイナイトの一部を初析フェライトに置き換えればよい。但し、初析フェライト量が多くなり過ぎ、また、金属組織に多量のパーライトが混合すると、ベイナイトによる被削性改善効果は得られなくなり、ビッカース硬さに見合った被削性しか得られなくなる。
次に、本発明者らは、0.1質量%以上のCを含む鋼の金属組織を、初析フェライトが混在したベイナイトにするための条件について調査を行い、以下の(c)~(f)の知見を得た。
(c)合金元素を減らして焼入れ性を低減させた鋼の金属組織を初析フェライトが混在したベイナイトにするためには、加熱状態からの冷却を油冷又はそれに近い加速冷却とするか、オーステンパー等の特殊な熱処理を行う必要があり、生産設備が限定される。
(d)焼入性が中程度の鋼を用いると、熱間圧延又は熱間鍛造後の冷却を放冷相当の冷却速度で行っても、金属組織をベイナイトと初析フェライトとの混合組織とすることができる。但し、この場合、鋼素材の厚さ若しくは直径の変化、または、放冷中の外気温の変化により、金属組織が大きく変化するため、精緻な冷速管理が必要となる。
(e)特別な生産設備を用いずに冷却速度がばらついても狙いの金属組織を得るためには、熱間圧延又は熱間鍛造後に放冷すると金属組織が完全にベイナイト化する、または、それに近い金属組織となるような焼入れ性の高い鋼を、A点の直上で焼ならしすればよい。
(f)焼入れ性が過剰になると、焼ならし条件を最適化しても金属組織がベイナイト単一となる。したがって、鋼の焼入れ性は、A点の直上の焼ならしによって丁度、金属組織がベイナイトと初析フェライトとの混合組織になるようなものでなければならない。
以上の知見により、本開示に係る窒化用鋼は、被削性に優れ、更に、窒化後の疲労特性が高いことが見出された。
本開示に係る窒化用鋼は、窒化部品の製造に好適に用いることができる。具体的には、本開示に係る窒化用鋼は、例えば、機械加工で成型する際には優れた被削性を有し、窒化後には優れた回転曲げ疲労特性及び面疲労特性を有しており、自動車、産業機械、建設機械等の機械部品の鋼素材として用いるのに好適である。
また、本開示に係る窒化用鋼は、製造コストの観点からも好適である。
例えば、特許文献1では、鋼の金属組織がベイナイト主体となるように調整すると共に、鋼に含まれるV、Cr及びNbの含有量のバランスを調整することで、芯部硬さを向上させ、また、表層硬さを高めることで面疲労特性を向上させている。また、特許文献1の鋼は、金属組織をベイナイト化させるためにMn又はCrを多量に含んでおり、また、金属組織をベイナイト化させつつ、切削時の硬さが過度に高くならないように、実施例を見てもC濃度は最大でも0.098%と低い。ところが、鋼にMn又はCrを多量に含有させつつ、C濃度を低くするためには、Mn及びCrの原料となる合金として、C含有量の少ない高価なものを用いる必要があり、合金コストが増大する場合がある。
これに対して、本開示に係る窒化用鋼は、上述のように、C濃度が0.1質量%以上と高い鋼を用いながらも、優れた被削性が得られるため、高価な合金の使用を抑制することができ、安価に製造することが容易となる。
以下、本開示に係る窒化用鋼について詳細に説明する。
[化学組成(必須元素)]
本開示に係る窒化用鋼の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.10~0.23%
炭素(C)は、鋼材の硬さ及び疲労強度を高める。C含有量が低過ぎれば、硬さ又は疲労強度が不足する。また、C含有量を低くするためには、他の合金の原料としてC含有量が少ないものが必要となるため、合金のコストが増大する。一方、C含有量が高過ぎれば、切削抵抗が上昇し、金属組織を最適化したとしても被削性が低下する。したがって、C含有量は0.10~0.23%である。
C含有量の好ましい下限は、0.11%であり、より好ましくは0.12%である。
C含有量の好ましい上限は、0.21%であり、より好ましくは0.20%であり、更に好ましくは0.19%である。
Si:0.10~0.50%
シリコン(Si)は、フェライトに固溶して鋼材を強化する(固溶強化)。Siは初析フェライトの生成を促進する元素であり、焼入れ性を高めるCr又はMnと組み合わせることで、ベイナイトと初析フェライトとの混合組織を形成させ易くなる。Si含有量が低過ぎれば、上記効果が得られない。一方、Si含有量が高過ぎれば、被削性が劣化する。したがって、Si含有量は0.10~0.50%である。
Si含有量の好ましい下限は、0.15%であり、より好ましくは0.20%である。
Si含有量の好ましい上限は、0.45%であり、より好ましくは0.35%である。
Mn:1.50~2.15%
マンガン(Mn)は、焼入れ性を高めて組織をベイナイト化させたり、鋼材中でMnSを形成したりすることで鋼材の被削性を高める効果を有する。Mnは更に、窒化物を形成し、拡散層(表層部)の硬化にも寄与する。Mn含有量が低過ぎれば、上記の効果が得られない。一方、Mn含有量が高過ぎれば、焼入れ性が過度に高まり、金属組織の一部を初析フェライトとすることが困難になる。したがって、Mn含有量は1.50~2.15%である。
Mn含有量の好ましい下限は、1.60%であり、より好ましくは1.70%である。
Mn含有量の好ましい上限は、2.05%であり、より好ましくは2.00%である。
S:0.005~0.050%
硫黄(S)は、鋼材中でMnと結合してMnSを形成し、鋼材の被削性を高める。疲労特性を高めるために内部硬さを高めた鋼では、Sは特に重要であり、含有量が低過ぎれば上記効果が得られない。一方、S含有量が高過ぎれば、粗大なMnSが形成され、鋼材の疲労強度が低下する。したがって、S含有量は0.005~0.050%である。
S含有量の好ましい下限は、0.010%であり、より好ましくは0.015%であり、更に好ましくは0.020%である。
S含有量の好ましい上限は、0.040%であり、より好ましくは0.030%である。
Cr:0.50~0.90%
クロム(Cr)は、窒化処理により鋼材内に導入されたNと結合して窒化層中にCrNを形成し、窒化層を強化する。また、鋼の焼入れ性を高め、金属組織をベイナイトが主体の金属組織にする効果を持つ。Cr含有量が低過ぎれば、上記効果が得られない。一方、Cr含有量が高過ぎれば、焼入れ性が過度に高くなり、その結果、硬く被削性が劣ることとなる。したがって、Cr含有量は0.50~0.90%である。
Cr含有量の好ましい下限は、0.55%であり、より好ましくは0.60%である。
Cr含有量の好ましい上限は、0.85%であり、より好ましくは0.80%である。
Al:0.001~0.050%
アルミニウム(Al)は、窒化処理により鋼材内に導入されたNと結合して窒化層中にAlNを形成し、窒化層を強化する。また、Alは鋼の製造時に脱酸のために用いられる。Al含有量が低過ぎれば、上記効果が得られない。一方、Al含有量が高過ぎれば、窒化中の窒素の拡散を阻害し、窒化層の厚さを薄くすることで疲労特性を劣化させる場合がある。したがって、Al含有量は0.001~0.050%である。
Al含有量の好ましい下限は、0.005%であり、より好ましくは0.010%である。
Al含有量の好ましい上限は、0.045%であり、より好ましくは0.040%である。
V:0.05~0.25%
バナジウム(V)は、窒化処理により鋼材内に導入されたNと結合して窒化層中にVNを形成し、窒化層を強化する元素である。V含有量が低過ぎれば、上記効果が得られない。一方、V含有量が高過ぎれば、母材の硬さが高くなり過ぎて被削性が劣化する。したがって、V含有量は0.05~0.25%である。
V含有量の好ましい下限は、0.06%であり、より好ましくは0.10%である。
V含有量の好ましい上限は、0.20%であり、より好ましくは0.17%であり、更に好ましくは0.15%である。
N:0.0030~0.0250%
窒素(N)は、鋼材に固溶して鋼材の強度を高める。また、窒化層のN濃度が、合金窒化物が析出できる濃度に達するまでの時間を短くする効果を有する。N含有量が低過ぎれば、上記効果が得られない。一方、N含有量が高過ぎれば、鋼材中に気泡が生成される。気泡が欠陥となるため気泡の発生は抑制される方が好ましい。したがって、N含有量は0.0030~0.0250%である。
N含有量の好ましい下限は、0.0050%であり、より好ましくは0.0080%である。
N含有量の好ましい上限は、0.0200%であり、より好ましくは0.0180%であり、更に好ましくは0.0150%である。
P:0.050%以下
燐(P)は、不純物である。Pは結晶粒界に偏析し、粒界脆化割れを引き起こすため、P含有量はなるべく低い方が好ましい。したがって、P含有量は0.050%以下である。
P含有量の好ましい上限は、0.030%である。
なお、P含有量の下限は、0%がよいが(つまり含まないことがよいが)、脱Pコストを低減する観点から、0%超(例えば、0.0001%以上)であってよい。
本開示に係る窒化用鋼の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境等から混入されるものであって、本開示の窒化用鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[化学組成(任意元素)]
本開示に係る窒化用鋼は、Feの一部に代えて、任意元素を含んでもよい。
Ti:0.005%以下
Nb:0.005%以下
チタン(Ti)、及びニオブ(Nb)はNと結合して窒化物を形成し、Nが枯渇すると、Cと結合して炭化物を形成する。本開示では、初析フェライトを生成させるために、熱間圧延又は熱間鍛造後に徐冷したり、焼ならしを施したりする。いずれの場合でも、Ti及びNbの炭化物は比較的高温で粗大に析出しやすい。高温で析出したこれらの炭化物は強化には寄与せず、それどころか、炭化物を形成する際にオーステナイト中の炭素を消費するために、母材の硬さを低下させる。一方で、熱間圧延又は熱間鍛造後の徐冷開始温度によっては、Ti及びNbの高温での析出量が少なくなり、低温での析出量が多くなる可能性がある。その場合は、母材の硬さを増加させる。このように、本開示の窒化用鋼を製造する上では、硬さのばらつきを抑制するために、Ti及びNbの含有量を低下させる必要がある。また、Ti及びNbは高価な元素であり、その含有量を制限することは合金コストの抑制にもなる。
したがって、本開示の窒化用鋼は、Ti及びNbの1種又は2種以上を含有することは許容されるが、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.005%以下であり、Nbを含有させる場合、Nb含有量は0.005%以下である。
Tiを含有させる場合、Ti含有量の好ましい上限は、0.004%であり、より好ましくは0.003%である。
なお、Tiを含有させる場合、Ti含有量の下限は、0%がよいが(つまり含まないことがよいが)、脱Tiコストを低減する観点から、0%超(例えば、0.001%以上)であってよい。
Nbを含有させる場合、Nb含有量の好ましい上限は、0.004%であり、より好ましくは0.003%である。
なお、Nbを含有させる場合、Nb含有量の下限は、0%がよいが(つまり含まないことがよいが)、脱Nbコストを低減する観点から、0%超(例えば、0.001%以上)であってよい。
本開示に係る窒化用鋼において、任意元素のうち、Mo、Cu及びNiからなる群は、窒化部品の強度を高める作用があり、1種又は2種以上を含有してもよい。
Mo:0.10%以下
モリブデン(Mo)は、含有される場合、鋼の焼入れ性を高めることで鋼材の強度を高める。その結果、鋼材の疲労強度が高くなる。しかしながら、Moは高価な元素であり、含有量が多くなれば、部品の製造コストが上昇する。したがって、Moを含有させる場合、Mo含有量は0.10%以下である。
Moを含有させる場合、Mo含有量の好ましい下限は、0.02%である。
Moを含有させる場合、Mo含有量の好ましい上限は、0.08%であり、より好ましくは0.05%である。
Cu:0.30%以下
銅(Cu)は、含有される場合、フェライトに固溶して鋼材の強度を高める。そのため、鋼材の疲労強度が高まる。しかしながら、Cu含有量が過度に多くなると、熱間圧延又は熱間鍛造時に鋼の粒界に偏析して熱間割れを誘起する。したがって、Cuを含有させる場合、Cu含有量は0.30%以下である。
Cuを含有させる場合、Cu含有量の好ましい下限は、0.05%である。
Cuを含有させる場合、Cu含有量の好ましい上限は、0.25%であり、より好ましくは0.20%である。
Ni:0.30%以下
ニッケル(Ni)は、含有される場合、フェライトに固溶して鋼材の強度を高める。そのため、鋼材の疲労強度が高まる。Niは更に、鋼材がCuを含有する場合に、Cuに起因する熱間割れを抑制する。しかしながら、Ni含有量が多すぎれば、その効果が飽和し、製造コストが高くなる。したがって、Niを含有させる場合、Ni含有量は0.30%以下である。
Niを含有させる場合、Ni含有量の好ましい下限は、0.05%である。
Niを含有させる場合、Ni含有量の好ましい上限は、0.25%であり、より好ましくは0.20%である。
本開示に係る窒化用鋼において、任意元素のうち、Ca、Pb及びBiからなる群は、窒化用鋼の被削性を高める作用があり、1種又は2種以上を含有してもよい。
Ca:0.0050%以下
カルシウム(Ca)は、含有される場合、鋼材の被削性を高める。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、粗大なCa酸化物が生成し、鋼材の疲労強度が低下する。したがって、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0050以下%である。
Caを含有させる場合、上記効果をより安定して得るためのCa含有量の好ましい下限は、0.0001%であり、より好ましくは0.0003%である。
Caを含有させる場合、Ca含有量の好ましい上限は、0.0035%であり、より好ましくは0.0020%である。
Pb:0.09%以下
鉛(Pb)は、含有される場合、鋼材の被削性を高める。しかしながら、Pbは、環境の観点から、その使用量はできるだけ少なくすることが望ましい。したがって、Pbを含有させる場合、Pb含有量は0.09%以下である。
Pbを含有させる場合、Pb含有量の好ましい下限は、0.02%であり、より好ましくは0.03%である。
Pbを含有させる場合、Pb含有量の好ましい上限は、0.08%であり、より好ましくは0.07%である。
Bi:0.20%以下
ビスマス(Bi)は、鋼の被削性を高める。しかしながら、Bi量が高すぎれば、熱間加工性が劣化する。したがって、Biを含有させる場合、Bi含有量は0.20%以下である。
Biを含有させる場合、Bi含有量の好ましい下限は、0.03%であり、より好ましくは0.05%である。
Biを含有させる場合、Bi含有量の好ましい上限は、0.18%であり、より好ましくは0.16%である。
本開示に係る窒化用鋼は、上記の任意元素の他に、Hf、Zr、Co、W、Mg及びREM(希土類元素)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
Hfを含有させる場合、Hf含有量は、例えば、0.0005~0.0050%である。
Zrを含有させる場合、Zr含有量は、例えば、0.0005~0.0050%である。
Coを含有させる場合、Co含有量は、例えば、0.01~0.10%である。
Wを含有させる場合、W含有量は、例えば、0.01~0.20%である。
Mgを含有させる場合、Mg含有量は、例えば、0.0005~0.0100%である。
REMを含有させる場合、REM含有量は、例えば、0.0005~0.0100%である。
[焼入れ性]
焼入性:D値 8.5~21.0
鋼の焼入れ性の指標であるD値は、下記式(1)で表される。
D=√C×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn)×(1+2.83P)×(1-0.62S)×(1+2.33Cr)×(1+0.52Ni)×(1+3.14Mo)×(1+0.27Cu)×(1+2.5V)・・・式(1)
但し、式(1)中、各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。
D値が低過ぎると、金属組織にベイナイトを混在させるためには焼入れが必要となるため、設備面の制約が大きいことに加え、焼入れ後の洗浄等の工程の増加が懸念される。一方、D値が高過ぎると、目標の金属組織を得るために極めて長時間の炉冷、二段冷却等の煩雑な熱処理を行う必要が生じる。したがって、鋼の焼入れ性の指標のD値は8.5~21.0である。
D値の好ましい下限は、9.0であり、より好ましくは9.5である。
D値の好ましい上限は、20.0であり、より好ましくは19.0である。
[金属組織]
ベイナイトの面積率:30%以上95%未満
切削時の鋼の金属組織は、硬さが同一であれば、フェライトとパーライトとの混合組織よりも、それらにベイナイトが混入した混合組織の方が、切削抵抗が低下するため好ましい。切削抵抗を低下させる効果を得るためには、ベイナイトの面積率を30%以上とする必要がある。ベイナイトの面積率が高すぎると、硬さが高くなりすぎ必要な被削性が得られなくなる。したがって、ベイナイトの面積率は95%未満である。
ベイナイトの面積率の下限は、35%であることが好ましく、より好ましくは40%である。
ベイナイトの面積率の上限は、85%以下であることが好ましく、より好ましくは75%以下である。
初析フェライトの面積率:5%超
0.1%以上のCを含む鋼の金属組織をベイナイトのみにすると、硬さが増大し過ぎ、金属組織がベイナイトであっても被削性が劣化する。0.1%以上のCを含む鋼の金属組織は、ベイナイトを含ませつつ、硬さを下げるために初析フェライトを混在させるのが良い。本開示においては、フェライト粒を初析フェライトとみなし、この初析フェライトは、等軸状のポリゴナルフェライト、および、板状のウィッドマンステッテンフェライトの両者を包含する。ベイナイトによる切削抵抗低減の効果を得つつ、効果的に硬さを低減するためには、初析フェライトの面積率を5%超にする必要がある。
初析フェライトの面積率の下限は、10%であることが好ましく、20%であることがより好ましく、25%であることが更に好ましい。
初析フェライトの面積率は、上限は特に限定されないが、硬さの確保と被削性とをより容易に両立させる観点から、70%未満であることが好ましい。初析フェライトの面積率の上限は、60%であることがより好ましい。
パーライトの面積率:20%未満
ベイナイトの一部がパーライトになっても硬さは低下するが、切削抵抗を下げるためには、ベイナイトの一部をパーライトにするよりも初析フェライトにする方が良い。したがって、パーライトの面積率は低い方がよく、20%未満にする必要がある。
パーライトの面積率は、少なければ少ないほど良く、例えば、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、0%であることが最も好ましい。
以上のように、本開示に係る窒化用鋼の金属組織は、ベイナイト及び初析フェライトを含み、また、パーライトを含み得る。また、本開示に係る窒化用鋼の金属組織は、ベイナイト、初析フェライト及びパーライト以外の他の金属組織、例えば、オーステナイト等を含んでもよい。上記他の金属組織を含む場合、上記他の金属組織の面積率は、少なければ少ないほど良く、例えば、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
金属組織の面積率は、以下のようにして測定する。
・窒化用鋼の長手方向に垂直な断面を含むサンプルを窒化用鋼から採取して、上記断面を研磨する。
・上記断面をナイタール液で腐食して金属組織を現出させる。
・上記断面の厚み方向の中心部を光学顕微鏡(200倍)で観察し、無作為に選択した5視野の光学顕微鏡像を取得する。窒化用鋼の厚み方向とは、窒化用鋼の垂直な断面において、その断面の中心部(重心)を通り、かつ、表面上の2点を結ぶ最も短い線分の方向を意味する。例えば、丸棒鋼の場合、厚み方向は径方向であり、厚みを直径とみなす。
・各光学顕微鏡像について金属組織を分別し、点算法により各金属組織の面積率を求める。
・各金属組織について5つの光学顕微鏡像から得られた面積率の平均値を求め、窒化用鋼の金属組織の面積率とする。
[硬さ]
ビッカース硬さ:200~260HV
0.1%以上のCを含む鋼の被削性を十分に高めるためには、鋼材の化学組成及び金属組織を規定の範囲内として、鋼材の硬さを所定の範囲内に制御する必要がある。0.1%以上のCを含む、ベイナイトと初析フェライトとの混合組織(ベイナイトが主体)の被削性を十分に高めるためには、鋼材のビッカース硬さを260HV以下にする必要がある。本開示に規定した化学組成及び金属組織を満足する場合、鋼材のビッカース硬さは260HV以下になる。また、優れた疲労特性(回転曲げ疲労特性、面疲労特性)を得る観点から、鋼材のビッカース硬さは210HV以上である。
ビッカース硬さの下限は、210HVであることが好ましく、215HVであることがより好ましい。
ビッカース硬さの上限は、250HVであることが好ましく、240HVであることがより好ましい。
ビッカース硬さは、以下のようにして測定する。
・窒化用鋼の長手方向に垂直な断面を含むサンプルを窒化用鋼から採取する。その際、窒化用鋼の厚み方向の中心部を含む断面がサンプルに含まれるようにする。
・サンプルを樹脂に埋め込んで、サンプルの上記断面を研磨する。
・サンプルの上記断面において、窒化用鋼の厚み方向の中心部の無作為に選択した5点について、JIS Z2244-1:2020に従って、試験力を2.94Nとして、ビッカース硬さを測定する。
・上記5点で得られたビッカース硬さの平均値を求め、窒化用鋼のビッカース硬さとする。
<窒化部品>
本開示に係る窒化部品は、本開示に係る窒化用鋼の金属組織及びビッカース硬さを有する芯部と、芯部の化学組成よりもN含有量が多い表層部とを含む。
すなわち、本開示に係る窒化部品は、本開示に係る窒化用鋼を所望の部品形状に加工後、窒化処理を施すことにより得られる。そのため、窒化部品は、窒化処理の影響の及ばない深い位置にある芯部の化学組成が窒化用鋼の化学組成及びビッカース硬さを有し、窒化処理により硬化した表層部は、芯部の化学組成よりもN含有量が多い。
表層部の厚さ(すなわち、窒化部品の表面から、その表面に垂直な深さ方向の距離)は、窒化用鋼の化学組成、窒化処理の条件等にもよるが、例えば、100~500μm程度である。この厚さよりも深い位置は芯部となる。
窒化部品の表層部のビッカース硬さは、窒化用鋼の化学組成、窒化処理の条件等にもよるが、例えば、650~800HV程度である。
窒化部品の表層部のビッカース硬さは、以下のようにして測定することができる。なお、部品形状に加工されていない窒化用鋼に窒化処理を施して得られた鋼の表層部のビッカース硬さを、窒化部品の表層部のビッカース硬さとすることもできる。
・窒化用鋼に窒化処理を施し、窒化後の鋼の長手方向に垂直な断面を含むサンプルを窒化後の鋼から採取する。その際、窒化後の鋼の表面から、その表面に垂直な深さ方向に1.0mmの範囲を含む断面がサンプルに含まれるようにする。
・サンプルを樹脂に埋め込んで、サンプルの上記断面を研磨する。
・サンプルの上記断面において、窒化後の鋼の表面から、その表面に垂直な深さ方向に50μmの位置で無作為に選択した5点について、JIS Z2244-1:2020に従って、試験力を2.94Nとして、ビッカース硬さを測定する。
・上記5点で得られたビッカース硬さの平均値を求め、窒化後の鋼(部品形状に加工されている態様では、窒化部品)のビッカース硬さとする。
窒化部品は特に限定されず、自動車、産業機械、建設機械等の機械部品として用いることができる。窒化部品は、ギヤとして特に好適に用いることができ、ギヤ付きシャフトのギヤに用いることもできる。
<製造方法>
本開示に係る窒化用鋼及び窒化部品の製造方法の一例を説明する。
本開示に係る窒化部品の製造方法は、本開示に係る窒化用鋼準備工程と、機械加工工程と、窒化処理工程とを含む。窒化用鋼準備工程には、必要に応じて金属組織を調整するための熱処理工程も含まれる。以下、それぞれの工程を説明する。
[窒化用鋼準備工程]
本開示に係る窒化用鋼の化学組成を満たす溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、一般的な連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム)にする。又は、溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットにする。鋳片又はインゴットを熱間加工して、ビレットを製造する。ビレットを得る際の熱間加工は、熱間圧延でもよいし、熱間鍛造でもよい。
以上のようにして得られたビレットを用いて、以下のように、熱間圧延、又は熱間鍛造を行うことにより、本開示係る窒化用鋼を得ることができる。
(1)熱間圧延による窒化用鋼の製造
ビレットを一般的な条件で加熱して、熱間圧延を行う。加熱温度は、例えば、1000~1300℃である。熱間圧延の好ましい仕上げ温度は900℃以上である。仕上げ温度が低すぎれば、ロールへの負担が大きくなるためである。一方、仕上げ温度の好ましい上限は、1250℃である。
得られた圧延材を直接切削加工する場合は、熱間圧延後の金属組織が所定の組織となるように熱間圧延の仕上げ温度と冷却速度を調整する。具体的には、熱間圧延の仕上げ温度を1000℃以上として、1000℃から500℃までの冷却速度を0.1~0.5℃/秒になるように徐冷する。このような冷却速度は、熱間圧延後の鋼素材を冷却する際に断熱を目的としたカバーをかぶせる等すれば、容易に達成できるものであり、生産速度にも大きな影響はない。ただし、ここで述べた熱間圧延条件は、鋼材の微細組織を調整するための一例であり、金属組織の面積率が本開示で規定する範囲内である限りは、この条件でなくともよい。
(焼ならし)
熱間圧延後の組織が目的の金属組織にならなかった場合は、熱間圧延後に、十分な量の初析フェライトを生成させるために熱処理を行う。具体的には、860~940℃で加熱した後に、加熱温度から500℃までの平均冷却速度が0.5~2.0℃/秒となるように冷却する。このような冷却速度は大気中での放冷で達成できる。加熱温度が940℃を超える場合は、大気中で放冷するだけでは、初析フェライトが十分に生成しない場合があるため、カバー徐冷などで冷却速度を0.1~0.5℃/秒となるように遅くすることが望ましい。ここで述べた焼ならし条件は、鋼材の微細組織を調整するための一例であり、金属組織の面積率が本開示で規定する範囲内である限りは、この条件でなくともよい。
以上のようにして、圧延材(例えば、棒鋼)として、本開示に係る窒化用鋼を得ることができる。
(2)熱間鍛造による窒化用鋼の製造
ビレットを一般的な条件で加熱して、熱間圧延して得られた圧延材に熱間鍛造を施す。なお、圧延材として、本開示に係る窒化用鋼の要件を満足するものを用いてもよい。
熱間鍛造により圧延材を窒化部品粗形材に成型する。熱間鍛造の加熱温度が低すぎれば、鍛造装置に過度の負荷が掛かる。一方、加熱温度が高すぎれば、スケールロスが大きい。したがって、好ましい加熱温度は1000~1300℃である。
熱間鍛造の好ましい仕上げ温度は900℃以上である。仕上げ温度が低すぎれば、金型への負担が大きくなるためである。一方、仕上げ温度の好ましい上限は、1250℃である。
熱間鍛造後の窒化部品粗形材を直接切削加工する場合は、熱間鍛造後の組織が所定の組織となるように熱間鍛造の仕上げ温度と冷却速度を調整する。具体的には、熱間鍛造の仕上げ温度を1000℃以上として、1000℃から500℃までの冷却速度を0.1~0.5℃/秒になるように徐冷すればよい。このような冷却速度は、熱間鍛造後の素材を冷却する際に断熱を目的としたカバーをかぶせる等すれば、容易に達成できるものであり、生産速度にも大きな影響はない。ただし、ここで述べた熱間鍛造条件は、鋼材の微細組織を調整するための一例であり、金属組織の面積率が本開示で規定する範囲内である限りは、この条件でなくともよい。
(焼ならし)
焼ならしについては、熱間圧延による窒化用鋼の製造において上述した通りである。
以上のようにして、鍛造材(例えば、棒鋼)として、本開示に係る窒化用鋼を得ることができる。
[機械加工工程]
上述のようにして得られた窒化用鋼に対して機械加工を実施して所定の窒化部品形状にする。機械加工としては切削加工、研削加工等で所定の形状に加工する。
[窒化処理工程]
機械加工された窒化用鋼に対して、窒化処理を実施する。本開示においては、周知の窒化処理が採用されてよい。窒化処理は、例えば、ガス窒化、塩浴軟窒化、イオン窒化等である。窒化中に炉内に導入するガスは、NHのみであってもよいし、NHと、N及び/又はHとを含有する混合気であってもよい。また、これらのガスに、浸炭性のガスを含有して、軟窒化処理を実施してもよい。したがって、本開示において、「窒化」とは「軟窒化」も含む。
ガス軟窒化処理を実施する場合、例えば、吸熱型変成ガス(RXガス)とアンモニアガスとを1:1に混合した雰囲気中で、均熱温度を550~630℃にして1~3時間均熱する。
以上のようにして、本開示に係る窒化部品を得ることができる。
以下、本開示について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本開示を制限するものではない。
真空溶解炉を用いて表1に示す化学組成を有する鋼A、B、D、Q及びRの100kgのインゴット、並びに鋼C及びE~P、S、Tの50kgのインゴットを製造した。
各インゴットを1250℃に加熱した。加熱されたインゴットを35mmの直径を有する棒鋼に熱間鍛造したのち、室温まで放冷した。熱間鍛造した直径35mmの棒鋼は、試験番号1~17、20、22及び24については、表2に示す熱処理(温度880~980℃に1h加熱した後に放冷する焼ならし処理)を施した。試験番号18、19、21及び23については、鍛造ままとした。
各棒鋼から、R1及び深さ1mmの環状切欠きのついた直径10mmの平行部を有する回転曲げ疲労試験片(図1、同図中の数値の単位はmm)と、13mm×13mm×50mmの角棒試験片と、直径26mm及び幅28mmの試験部を有するローラーピッチング試験用の小ローラー試験片(図2、同図中の数値の単位はmm)と、直径30mm及び長さ300mmの切削試験片を作製した。
回転曲げ疲労試験片と角棒試験片は棒鋼の中心と外周部との中点付近から作製した。小ローラー試験片と切削試験片は棒鋼の中心から作製した。なお、後述する回転曲げ疲労試験において、十分に高い回転曲げ疲労強度が得られておらず、十分な面疲労強度も得られる見込みのない一部の試験番号については、ローラーピッチング試験は行っていない。
小ローラーの相手材として、直径130mm、幅18mm、外周部の幅方向のクラウニングRが150である大ローラー試験片を作製した。素材は、市販のSUJ2鋼として、焼入焼戻し後に、上記の寸法となるように機械加工した。
作製した試験片のうち、切削試験片と、角棒試験片の一部を除いた試験片は590℃×2hのガス軟窒化処理に供した。軟窒化中は、アンモニアとRXガスの流量比を1:1として炉内に導入し、処理後には炉から取り出し、100℃の油で油冷した。
軟窒化後の回転曲げ疲労試験片と小ローラー試験片は両端の掴み部が平行になるように、掴み部を機械加工で仕上げた。
各試験番号の各種試験片を用いて、次の試験を実施した。
[ビッカース硬さ測定]
軟窒化前の角棒試験片のビッカース硬さを以下のようにして測定した。
軟窒化前の角棒試験片の長手方向の端部より10mm位置を長手方向に垂直に切断してサンプル(13mm×13mm×10mm)を採取した。サンプルの切断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで、サンプルの上記断面を研磨する。サンプルの上記断面において、角棒試験片の厚み方向の中心部の無作為に選択した5点について、JIS Z2244-1:2020に従って、試験力を2.94Nとして、ビッカース硬さを測定した。上記5点で得られたビッカース硬さの平均値を求め、軟窒化前の角棒試験片のビッカース硬さとした。軟窒化前のビッカース硬さを「芯部のビッカース硬さ」と呼ぶことがある。
また、軟窒化後の角棒試験片の表層部のビッカース硬さを以下ようにして測定した。
軟窒化後の角棒試験片の長手方向の端部より10mmの位置を長手方向に垂直に切断してサンプル(13mm×13mm×10mm)を採取した。サンプルの切断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで、サンプルの上記断面を研磨した。サンプルの上記断面において、角棒試験片の表面から、その表面に垂直な深さ方向に50μmの位置で無作為に選択した5点について、JIS Z2244-1:2020に従って、試験力を2.94Nとして、ビッカース硬さを測定した。上記5点で得られたビッカース硬さの平均値を求め、軟窒化後の角棒試験片の表層部のビッカース硬さとした。
[金属組織の面積率]
ビッカース硬さ測定後の金属組織の面積率を以下のようにして測定した。
軟窒化前の角棒試験片のビッカース硬さの測定に用いたサンプルの上記断面をナイタール液で腐食して金属組織を現出させた。次いで、上記断面の厚み方向の中心部を光学顕微鏡(200倍)で観察し、無作為に選択した5視野の光学顕微鏡像を取得した。そして、各光学顕微鏡像について金属組織を分別し、点算法により各金属組織の面積率を求めた。各金属組織について5つの光学顕微鏡像から得られた面積率の平均値を求め、軟窒化前の角棒試験片の金属組織の面積率とした。
[回転曲げ疲労試験]
上述の窒化処理がされた回転曲げ疲労試験片を用いて、小野式回転曲げ疲労試験を実施した。具体的には、JIS Z2274:1978に準拠した回転曲げ疲労試験を室温(25℃)の大気雰囲気中において回転数3000rpmで実施した。繰り返し数1.0×10回まで破断しなかった試験のうち、最も高い応力をその試験番号の回転曲げ疲労強度(MPa)と定義した。回転曲げ疲労強度が500MPa以上である場合、回転曲げ疲労強度に優れると判断した。
[ローラーピッチング試験]
上述の窒化処理がされた小ローラー試験片と大ローラーを、回転軸が平行になるように外周部を押し当てながら、滑り率40%のローラーピッチング試験に供した。小ローラーの周速は1500rpmである。接触部には油を吹き付けながら試験を行い、小ローラーの回転数が2.0×10回までピッチングが起こらなかった試験の内、最も高い面圧をその試験番号の面疲労強度(MPa)と定義した。1mm以上の剥離が生じた状態をピッチングとみなした。面疲労強度が2000MPa以上である場合、面疲労強度に優れると判断した。
[切削試験]
切削試験片の外周部をNC旋盤で旋削加工した。チップブレーカのついたPVDコーティングした超硬工具を用い、切削速度は200m/min、送りは0.5mm/rev、切込みは1.5mmとした。水溶性潤滑剤で潤滑し、旋削加工時の切削抵抗の主分力と送り分力と背分力との合力で被削性を評価した。切削抵抗が1200N以下である場合、被削性に優れると判断した。
各試験結果を表2に示す。
表2において、軟窒化前の角棒試験片のビッカース硬さについては「芯部」、軟窒化後の角棒試験片の表層部のビッカース硬さについては「表層部」と示す。また、「F」は初析フェライト、「B」はベイナイト、「P」はパーライトを表す。
表1及び表2において、下線を付した数値は、本開示に規定の範囲から外れることを意味する。Cu、Ni及びMoの各含有量は、0.01%である場合、不純物であり、Ti、Nb、Pb、Bi及びCaの各含有量は、「<」として記載されている場合、不純物である。
Figure 2023068554000001
Figure 2023068554000002
[試験結果]
試験番号1~8は、本開示の規定の範囲内である例であり、曲げ疲労強度が500MPa以上、面疲労強度が2000MPa以上と高く、かつ、切削抵抗が1200N以下と低かった。このように、試験番号1~8は、被削性に優れ、かつ、窒化後の疲労特性が高かった。
これに対して、本開示の規定の範囲から外れた例である試験番号9~24では、疲労特性及び被削性の少なくとも一方が劣っていることがわかる。
具体的には、試験番号9は、Mnが少ない鋼種Iを用いた例であり、焼入れ性が低いため、ベイナイトの面積率が低く、また、パーライトの面積率が高くなり、切削抵抗が高かった。また、試験番号9は、曲げ疲労強度及び面疲労強度も低かった。
試験番号10は、Mnが多い鋼種Jを用いた例であり、焼入れ性が過度に高いため、ベイナイトの面積率が高く、また、初析フェライトの面積率が低く、更に芯部のビッカース硬さが高くなり、切削抵抗が高かった。
試験番号11は、Crが少ない鋼種Kを用いた例であり、窒化後の表層部の硬さが低いため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号12は、Crが多い鋼種Lを用いた例であり、焼入れ性が過度に高いため、ベイナイトの面積率が高く、また、初析フェライトの面積率が低くなり、切削抵抗が低かった。
試験番号13は、Cが多い鋼種Mを用いた例であり、芯部のビッカース硬さが高かった。また、鋼種MはD値が大きいため、上記の熱処理条件では、ベイナイトの面積率が100%となり、初析フェライト組織を得ることができなかった。その結果、試験番号13は、切削抵抗が高かった。
試験番号14は、Vが少ない鋼種Nを用いた例であり、窒化後の表層部、及び芯部のビッカース硬さが低く、曲げ疲労強度及び面疲労強度が低かった。
試験番号15は、Siが少ない鋼種Oを用いた例であり、初析フェライトの面積率が低く、また、ベイナイトの面積率が高くなり、芯部のビッカース硬さ高かった。その結果、試験番号15は、切削抵抗が高かった。
試験番号16は、D値が大きい鋼種Pを用いた例であり、上記の熱処理条件では、ベイナイトの面積率が100%となり、初析フェライト組織を得ることができず、芯部のビッカース硬さが高かった。その結果、試験番号16は、切削抵抗が高かった。
試験番号17は、Mn及びCrが少ない鋼種Qを用いた例であり、焼入れ性が低いため、ベイナイトの面積率が低く、また、鋼種QはVを含まないため、強度を高めることができず、芯部のビッカース硬さが低かった。その結果、試験番号17は、曲げ疲労強度及び面疲労強度が低かった。
試験番号18は、Mn及びCrが少ない鋼種Rを用いた例であり、焼入れ性が低いため、ベイナイトが生成しなかった。また、鋼種RはD値が小さいため、上記の熱処理条件では、ベイナイトを生成させることができなかった。その結果、試験番号18は、切削抵抗が高かった。また、試験番号18は、曲げ疲労強度も低かった。なお、鋼種Rは、芯部のビッカース硬さを高めるCを多く含むが、ベイナイトが生成しなかったため、試験番号18の芯部のビッカース硬さは過度に高まることなく、233HVであった。
試験番号19は、Mn及びCrが少ない鋼種Sを用いた例であり、焼入れ性が低いため、ベイナイトが生成しなかった。また、鋼種SはD値が小さいため、上記の熱処理条件では、ベイナイトを生成させることができなかった。更に、鋼種Sは、Siを多く含んでいた。その結果、試験番号19は、切削抵抗が高かった。また、試験番号19は、曲げ疲労強度も低かった。なお、鋼種Sは、芯部のビッカース硬さを高めるCを多く含むが、ベイナイトが生成しなかったため、試験番号19の芯部のビッカース硬さは過度に高まることなく、244HVであった。
試験番号20は、D値が小さい鋼種Tを用いた例であり、上記の熱処理条件では、ベイナイトの生成量が少なく、芯部のビッカース硬さが低かった。その結果、試験番号20は、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号21は、鋼種Bを用いて熱処理条件を変更(鍛造まま)し、ベイナイトの面積率を100%とした例である。その結果、試験番号21は、芯部のビッカース硬さが高くなり、切削抵抗が高かった。
試験番号22は、鋼種Bを用いて熱処理条件を変更(980℃に加熱後、焼ならし)し、ベイナイトの面積率を97%と高くした例である。その結果、試験番号22は、芯部のビッカース硬さが高くなり、切削抵抗が高かった。
試験番号23は、鋼種Dを用いて熱処理条件を変更(鍛造まま)し、ベイナイトの面積率を100%とした例である。その結果、試験番号23は、芯部のビッカース硬さが高くなり、切削抵抗が高かった。
試験番号24は、鋼種Bを用いて熱処理条件を変更(980℃に加熱後、焼ならし)し、ベイナイトの面積率を100%とした例である。その結果、試験番号24は、芯部のビッカース硬さが高くなり、切削抵抗が高かった。
鋼種Bを用いた試験番号2、21及び22の比較、更に、鋼種Dを用いた試験番号4、23及び24の比較から、熱処理による金属組織の制御により、切削抵抗を低減し、被削性を高めることができることが分かった。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.10~0.23%、
    Si:0.10~0.50%、
    Mn:1.50~2.15%、
    S:0.005~0.050%、
    Cr:0.50~0.90%、
    Al:0.001~0.050%、
    V:0.05~0.25%、
    N:0.0030~0.0250%、及び
    P:0.050%以下を含有し、
    残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
    下記式(1)で表される焼入性の指標であるD値が8.5~21.0であり、
    金属組織は、面積率で、
    ベイナイトが30%以上95%未満であり、
    初析フェライトが5%超であり、
    パーライトが20%未満であり、
    ビッカース硬さが200~260HVである窒化用鋼。
    D=√C×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn)×(1+2.83P)×(1-0.62S)×(1+2.33Cr)×(1+0.52Ni)×(1+3.14Mo)×(1+0.27Cu)×(1+2.5V)・・・式(1)
    但し、式(1)中、各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 質量%で、
    Ti:0.005%以下、
    Nb:0.005%以下、
    Mo:0.10%以下、
    Cu:0.30%以下、
    Ni:0.30%以下、
    Ca:0.0050%以下、
    Pb:0.09%以下、及び
    Bi:0.20%以下
    の1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の窒化用鋼。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の化学組成、金属組織及びビッカース硬さを有する芯部と、前記芯部の化学組成よりもN含有量が多い表層部とを含む窒化部品。
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