JP2023050728A - 吸音材 - Google Patents

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Abstract

【課題】広い周波数領域において高い吸音性を有するHIPEフォームから構成される吸音材を提供する。【解決手段】吸音材1は、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体の重合体が架橋された架橋重合体を基材樹脂とするHIPEフォームから構成される。周波数:1Hz、荷重:10mN、変形モード:圧縮という条件でHIPEフォームに対して動的粘弾性測定を行うことにより測定される温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδのピーク温度が50℃以下である。ISO 9053-1:2018に基づいて測定される流速:0.5mm/sにおけるHIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗が7×104N・s/m4以上1×106N・s/m4以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、吸音材に関する。
従来、自動車や建築物などの種々の分野において、多孔質材料からなる吸音材が使用されている。この種の吸音材としては、例えばポリウレタンフォームから構成された吸音材が知られている(例えば特許文献1)。
特表2013-515837号公報
しかし、ポリウレタンフォームからなる吸音材は、例えば自動車のロードノイズ等の、500~1000Hz程度の比較的低い周波数を有する音波の吸収性が低いという問題がある。
一方、水等の水性液体からなる水相を、ビニル系単量体、架橋剤、乳化剤、重合開始剤
等を含む有機相中に高比率で内包させた油中水型の高内相エマルション(いわゆるHIPE)を形成し、該エマルション中で有機相を重合することにより、HIPEフォーム等と呼ばれる、架橋重合体からなる多孔体を得る方法が知られている。このようなHIPEフォームは各種用途への応用が期待されているが、HIPEフォームを吸音材として使用することはこれまでに検討されておらず、所望する吸音性能が発現しないおそれがあった。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、広い周波数領域において高い吸音性を有するHIPEフォームから構成される吸音材を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体の重合体が架橋された架橋重合体を基材樹脂とするHIPEフォームから構成される吸音材であって、
周波数:1Hz、荷重:10mN、変形モード:圧縮という条件で前記HIPEフォームに対して動的粘弾性測定を行うことにより測定される温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδのピーク温度が50℃以下であり、
ISO 9053-1:2018に基づいて測定される流速:0.5mm/sにおける前記HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗が7×10N・s/m以上1×10N・s/m以下である、吸音材にある。
前記吸音材を構成するHIPEフォームの温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδのピーク温度及び単位厚さあたりの流れ抵抗は、それぞれ前記特定の範囲内である。このような特性を有するHIPEフォームは、HIPEフォームの気泡壁を伝播する固体伝播音と、HIPEフォーム内の空気を伝播する空気伝播音との両方を効果的に減衰させることができる。それ故、前記HIPEフォームから構成される吸音材は、広い周波数領域において優れた吸音性を有している。
図1は、吸音材を構成するHIPEフォームの低真空走査電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。 図2は、HIPEフォームの温度Tと損失正接tanδとの関係を示す温度-損失正接tanδ曲線の一例を示す説明図である。 図3は、HIPEフォームの温度Tと貯蔵弾性率E’との関係を示す温度-貯蔵弾性率曲線の一例を示す説明図である。
次に、吸音材の好ましい実施形態について説明する。本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、下限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以上であることを意味し、上限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以下であることを意味する。また、「重量部」、「重量%」は、それぞれ「質量部」、「質量%」と実質的に同義である。
[HIPEフォーム]
本明細書における吸音材は、HIPEフォームから構成されている。HIPEフォームは、ポリHIPEフォーム(PolyHIPE foam)、ポリHIPE材料、HIPE由来フォーム物質、高内相エマルション多孔体、高内相エマルション発泡体等とも呼ばれる多孔質架橋重合体であり、例えば、水相を有機相中に高比率で内包させた、油中水型の高内相エマルション中で単量体を重合することにより得られる。高内相エマルション(High Internal Phase Emulsion)は通称ハイプ(HIPE)と呼ばれる。HIPEフォームは、構造中に多数の気泡が存在すると共に、隣接する気泡間を連通する多数の貫通孔が形成された、連続気泡構造を有する。
HIPEフォームは、例えば、水相を有機相中に高比率で内包させた、油中水型の高内相エマルション中で、架橋剤の存在下でビニル系単量体(具体的には、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体)を重合することにより得られる。HIPEフォームは、例えば、油中水型高内相エマルション中でアクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体を重合することにより得られる、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体に由来する成分を含む架橋重合体を基材樹脂としている。架橋重合体は、具体的には、重合体骨格中にアクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体に由来する成分を含んでいる。換言すれば、HIPEフォームは、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体の重合体が架橋されてなる架橋重合体を基材樹脂とする。
また、HIPEフォームは、高内相エマルションを硬化してなる多孔質の硬化物であり、その気泡壁が架橋重合体(例えばビニル系架橋重合体)から構成されているともいえる。気泡は気孔ということもできる。HIPEフォームにおける気泡壁及び気泡の形状は、重合時における、高内相エマルションでの有機相と水相との分散形態や水相(つまり、分散相)の分散形状が反映されている。
HIPEフォームの製造過程においては架橋重合体が延伸されにくいため、一般的に、HIPEフォームは、分子配向を生じにくいと共に、異方性の少ない重合体となる。HIPEフォームは、押出機を用いた押出発泡法により得られる発泡体や、発泡性樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子を型内成形することにより得られる発泡粒子成形体等のように、製造時に延伸されて製造される発泡体とは容易に区別することができる。
[気泡構造]
図1に例示されるように、吸音材1を構成するHIPEフォームは、多数の気泡12が均質に存在する気泡構造を有すると共に、気泡壁11を貫通し、隣接する気泡間を連通する多数の貫通孔13が形成された連続気泡構造を有する。なお、図1において、気泡12は、気泡壁11により囲まれた部分である。貫通孔13は、気泡壁11を貫通し、隣接する気泡12間を連通する孔である。具体的には、貫通孔13は、気泡壁11に形成されると共に、気泡壁11を挟んで隣接する気泡12間を連通する孔である。貫通孔13のことを、貫通窓、連結孔ということもできる。なお、貫通孔は気泡壁に生じる、気泡間を連通する孔であることから、通常、貫通孔の孔径は気泡径より小さくなる。
吸音材を構成するHIPEフォームの気泡の平均径は20μm以上160μm以下であることが好ましい。この場合には、吸音材の吸音性をより容易に向上させることができる。HIPEフォームへの音波の侵入性を高め、比較的周波数の高い音を吸音しやすくする観点からは、HIPEフォームの気泡の平均径は、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、HIPEフォーム内に侵入した音波を気泡壁に衝突しやすくし、比較的周波数の低い音を吸音しやすくする観点からは、HIPEフォームの気泡の平均径は、150μm以下であることが好ましく、140μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。
HIPEフォームの気泡の平均径に対するHIPEフォームの貫通孔の平均径の比は0.05以上0.5以下であることが好ましい。この場合には、吸音材の吸音性を広い周波数領域においてより高めることができる。HIPEフォームへの音波の侵入性をより高める観点からは、HIPEフォームの気泡の平均径に対する、HIPEフォームの貫通孔の平均径の比は、0.08以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、HIPEフォーム内に侵入した音波を気泡壁に衝突しやすくする観点からは、HIPEフォームの気泡の平均径に対する、HIPEフォームの貫通孔の平均径の比は、0.4以下であることがより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。また、HIPEフォームの貫通孔の平均径は、5μm以上30μm以下であることが好ましく、6μm以上25μm以下であることがより好ましく、8μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。
前述した気泡の平均径は気泡の円相当径の平均値であり、気泡の円相当径はHIPEフォームの断面における気泡の面積と同じ面積の真円の直径である。また、貫通孔の平均径は貫通孔の円相当径の平均値であり、貫通孔の円相当径はHIPEフォームの断面における貫通孔の面積と同じ面積の真円の直径である。気泡の平均径及び貫通孔の平均径の測定方法については、後述するが、例えば、HIPEフォームの連続気泡構造を画像解析することにより測定される。
気泡の平均径は、後述のHIPEフォームの製造方法において、高内相エマルションの水相(つまり分散相)の水滴径を調整することにより制御できる。例えば、高内相エマルション調整時(乳化工程)において、乳化剤の添加量を増やすことや、撹拌動力密度を高めること等により、高内相エマルションにおける水滴径を小さくすることができる。そして、高内相エマルションにおける水滴径を小さくすることにより、気泡径を小さくすることができる。
貫通孔は、後述のHIPEフォームの製造方法において、油中水型の高内相エマルション中で単量体が重合する際に、重合体の体積収縮等によって、油膜が破れることにより形成される。なお、油膜は、重合、架橋の進行により、上述の気泡壁となる。貫通孔の平均径は、後述のHIPEフォームの製造方法において、重合速度、有機相の組成や粘度、撹拌動力密度等を調整することにより制御できる。例えば、高内相エマルション調整時(乳化工程)において、有機相に対する水相の比率を低くすることや、撹拌動力密度を高めること等により、貫通孔径を小さくすることができる。
[流れ抵抗]
ISO 9053-1:2018に基づいて測定される、流速:0.5mm/sにおける前記HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗は7×10N・s/m以上1×10N・s/m以下である。前述した流れ抵抗は、多孔質体に空気を流通させた場合における、多孔質体の内部での空気の流れにくさを示す値であり、流れ抵抗が高いほど多孔質体内部において空気が流れにくいことを意味する。
微風速の空気を流した時の多孔質体の内部における空気の流れにくさは、多孔質体の内部における音波の伝わりにくさと相関する。そのため、HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗の値は、HIPEフォームの吸音材としての特性を適切に表すことができる指標と考えられる。なお、単位厚さあたりの流れ抵抗の算出に当たっては、HIPEフォームに対して流速:0.5mm/sの条件で空気を流した場合の流れ抵抗の値に基づいて、流速:0.5mm/sにおける単位厚さあたりの流れ抵抗を算出してもよいが、測定精度を高める観点から、HIPEフォームに対して、例えば流速:1~3mm/sの条件で空気を流した場合の流れ抵抗を測定し、各流速と流れ抵抗との関係に基づいて、流速0.5mm/sにおける単位厚さあたりの流れ抵抗を算出してもよい。
HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗が過度に低くなると、HIPEフォーム内に侵入した音波が気泡壁に衝突しにくくなり、気泡壁による固体伝播音の減衰が不十分となるものと考えられる。そのため、この場合には、比較的低い周波数領域における吸音性の悪化を招くおそれがある。
一方、HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗が過度に高い場合には、音波がHIPEフォーム内に侵入しにくくなり、音波と気泡壁との間で生じる粘性抵抗等による空気伝播音の減衰が不十分となるものと考えられる。そのため、この場合には、比較的高い周波数領域における吸音性が低下し、吸音性の悪化を招くおそれがある。
HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗を前記特定の範囲とすることにより、HIPEフォーム内を伝播する音波のうち比較的高い周波数を有する空気伝播音と、比較的低い周波数を有する固体伝播音との両方をバランスよく減衰させることができる。その結果、比較的低い周波数領域における吸音性を向上させることができ、かつ広い周波数領域において吸音材の吸音性を向上させることができる。
HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗は主にHIPEフォームの密度や気泡径、気泡径と貫通孔径との比等に関連しているため、HIPEフォームにおける気泡壁及び気泡の構造を制御することにより、HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗を前記特定の範囲に調整することができる。例えば、HIPEフォームの密度が低くなると、HIPEフォームの体積に占める気泡の割合が高くなり、単位厚さあたりの流れ抵抗が低下する。また、例えば、HIPEフォームの気泡径が大きくなると、HIPEフォームの気泡内を空気が流通しやすくなり、単位厚さあたりの流れ抵抗が低下する。
[tanδのピーク温度]
動的粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)を行うことにより得られるHIPEフォームの温度-損失正接tanδ曲線(以下、「T-tanδ曲線」という。)における損失正接tanδのピーク温度は50℃以下である。T-tanδ曲線は、HIPEフォームに対して、周波数:1Hz、荷重:10mN、変形モード:圧縮という条件の動的粘弾性測定を行うことにより測定される。なお、上記動的粘弾性測定において、昇温速度は10℃/min、温度範囲は-100~120℃であることが好ましい。
図2に、HIPEフォームのT-tanδ曲線の一例を示す。なお、図2の縦軸は損失正接tanδであり、横軸は温度である。T-tanδ曲線は、HIPEフォームを構成する架橋重合体のガラス転移温度Tgの近傍においてtanδの値が最大となるようなtanδピークを有している。動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδは架橋重合体の貯蔵弾性率E’に対する損失弾性率E”の比E”/E’である。また、HIPEフォームの損失正接tanδのピーク温度及びその近傍の温度範囲においては、損失弾性率E”の値が貯蔵弾性率E’に対して相対的に大きくなる。そして、貯蔵弾性率E’に対する損失弾性率E”の比E”/E’の値が大きくなると、架橋重合体に加わった振動が熱エネルギーに変換されやすくなり、振動が減衰しやすくなる。
一方、前述したように、HIPEフォーム内を伝播する音波のうち比較低い周波数を有する成分は、主にHIPEフォームにおける気泡壁を伝播する。それ故、HIPEフォームの損失正接tanδのピーク温度を前記特定の範囲とすることにより、HIPEフォームを吸音材として使用する際の一般的な使用環境(例えば、温度1~30℃の室温条件下)において固体伝播音を効率よく減衰させることができる。その結果、比較的低い周波数領域における吸音材の吸音性を向上させることができる。
かかる作用効果をより高める観点からは、HIPEフォームのtanδのピーク温度は40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることがさらに好ましい。HIPEフォームのtanδのピーク温度が過度に高い場合には、HIPEフォームを吸音材として使用する際の一般的な使用環境において固体伝播音の減衰が不十分となり、比較的低い周波数領域における吸音材の吸音性の悪化を招くおそれがある。
HIPEフォームの機械的強度を高める観点からは、tanδのピーク温度は、-60℃以上であることが好ましく、-50℃以上であることがより好ましく、-40℃以上であることがさらに好ましく、-30℃以上であることが特に好ましい。
[tanδの最大値]
前記温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδの最大値は、0.4以上であることが好ましい。HIPEフォームのtanδのピーク温度を前記特定の範囲とした上で、更に、tanδの最大値、つまりT-tanδ曲線のピークトップにおけるtanδの値を前記特定の範囲とすることにより、比較的低い周波数領域における吸音材の吸音性をより高めることができる。同様の観点から、前記温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδの最大値は、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることがさらに好ましく、0.7以上であることが特に好ましく、0.8以上であることが最も好ましい。
また、HIPEフォームの損失正接tanδの最大値は、1.6以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.4以下であることがさらに好ましい。この場合には、HIPEフォームを構成する架橋重合体に、架橋構造をより均一に形成することができる。その結果、HIPEフォームの延性及び復元性を向上させることができ、吸音材としての取り扱い性をより高めることができる。
[tanδの半値幅]
前記温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδの最大値を示すtanδピークの半値幅は10℃以上80℃以下であることが好ましい。この場合には、HIPEフォームの延性及び可撓性をより向上させることができ、吸音材としての取り扱い性をより高めることができる。より均一な架橋構造が架橋重合体に形成され、HIPEフォームの延性がさらに一層向上するという観点から、tanδピークの半値幅は70℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましく、40℃以下であることが特に好ましい。また、HIPEフォームの復元性を維持しつつ、HIPEフォームの延性を高めやすくなる観点からは、tanδピークの半値幅は15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。
tanδピークの半値幅Hは、tanδピークにおいて損失正接tanδの値が最大値の半分(1/2)となる位置におけるtanδピークの温度幅(つまり、半値全幅)を意味する(図2参照)。
損失正接tanδのピーク温度、最大値及びtanδピークの半値幅は、後述のHIPEフォームの製造方法において、架橋剤の種類およびその配合割合、単量体の種類およびその配合割合等を制御することにより所望の値に調整することができる。例えば、架橋重合体において、アクリル酸ブチルのようなガラス転移温度を低下させる作用のある単量体に由来する成分の含有量を増やすことで、損失正接tanδのピーク温度を低くすることができる。また、例えば、架橋重合体における架橋剤成分の含有量を過度に多くしない一方で、架橋剤成分として後述するソフト系架橋剤成分を適度に含有させることで、損失正接tanδのピーク温度の上昇を抑制し、損失正接tanδのピーク温度を低く維持することができる。また、例えば、架橋重合体における、後述するハード系架橋剤成分の含有量を過度に多くしない一方で、ソフト系架橋剤成分を架橋重合体に適度に含有させることで、損失正接tanδの最大値を大きくし、かつ、tanδピークの半値幅を小さくすることができる。
[架橋点間分子量]
架橋点間分子量Mcは、HIPEフォームを構成する架橋重合体の架橋度の指標となる。架橋重合体の架橋点間分子量は、1.0×10以上30×10以下であることが好ましい。この場合には、HIPEフォームの延性及び復元性等の機械的物性がより向上し、吸音材としての取り扱い性をより向上させることができる。HIPEフォームの延性をさらに向上させるという観点からは、架橋重合体の架橋点間分子量は、2.0×10以上であることがより好ましく、2.5×10以上であることがさらに好ましく、3.0×10以上であることが特に好ましい。また、HIPEフォームの復元性を高める観点からは、架橋重合体の架橋点間分子量は、25×10以下であることがより好ましく、20×10以下であることがさらに好ましい。
HIPEフォームを構成する架橋重合体の架橋点間分子量Mcは、次のようにして測定される。HIPEフォームに対して、周波数:1Hz、荷重:10mN、変形モード:圧縮という条件の動的粘弾性測定を行う。動的粘弾性測定の昇温過程において、HIPEフォームの温度がガラス転移温度Tgを超えるまでの間は、横軸に温度、縦軸に貯蔵弾性率E’をプロットして得られる温度-貯蔵弾性率E’曲線(以下、「T-E’曲線」という。)が比較的平坦な形状を示す。HIPEフォームの温度がガラス転移温度Tgの付近まで上昇すると、HIPEフォームを構成する架橋重合体がガラス状態からゴム状態へと転移する。そして、架橋重合体がガラス状態からゴム状態へ転移すると、T-E’曲線において貯蔵弾性率E’が急激に低下する(図3参照)。HIPEフォームの温度がガラス転移温度Tgを超えた後のT-E’曲線はプラトー領域(ゴム状平坦部)を示す。このプラトー領域においてE’は温度に比例するため、以下の式(I)から架橋点間分子量Mcを計算することができる。
Mc=2(1+μ)ρRT/E’ ・・・(I)
式(I)において、μはポアソン比であり、μ=0.5である。ρはHIPEフォームの密度(単位:kg/m3)であり、Rは気体定数(8.314J/(K・mol))であり、Tはゴム状平坦部上の任意の点における温度(単位:K)であり、E’は当該温度Tにおける貯蔵弾性率(単位:kPa)である。架橋点間分子量Mcを適切に算出する観点から、架橋点間分子量Mcの算出に用いる温度Tは、Tg+50℃~Tg+80℃の範囲内(但し、Tgは、HIPEフォームを構成する架橋重合体のガラス転移温度である)から選択することが好ましい。なお、ポアソン比とは材料固有の値であり、物体に応力を印加した際の、応力に対して垂直な方向に生じるひずみを応力に対して平行な方向に生じるひずみで除し、これに-1を乗じた値である。理論上、ポアソン比は-1から0.5の範囲の値をとり、これが負の値である場合、縦方向に潰すと、横方向にも潰れることを意味する。逆に、正の値である場合は、縦方向に潰すと横方向に伸びることを意味する。上述した動的粘弾性測定の測定条件では、HIPEフォームを構成する架橋重合体に生じる歪はごく微小であり、体積変化が起こらないと見なすことができるため、体積一定の条件、すなわちポアソン比を0.5として、貯蔵弾性率E’、架橋点間分子量Mcを算出する。
HIPEフォームを構成する架橋重合体の架橋点間分子量Mcは、後述のHIPEフォームの製造方法において、架橋剤を配合することにより小さくすることができ、架橋剤の種類およびその配合割合、単量体の種類およびその配合割合等を調整することにより所望の値に調整することができる。例えば、架橋重合体に、後述するハード系架橋剤成分を多く含有させることで、架橋点間分子量を低くすることができる。また、例えば、架橋重合体において、架橋剤成分における後述するソフト系架橋剤成分の比率を高めることや、架橋剤成分として、官能基当たりの分子量が大きなソフト系架橋剤成分を含有させることで、架橋点間分子量を比較的高くすることができる。
[密度]
HIPEフォームの密度は10kg/m3以上200kg/m3以下であることが好ましい。この場合には、広い周波数領域における吸音材の吸音性をより向上させることができる。かかる作用効果をより高めると共に、HIPEフォームの機械的強度を高める観点からは、HIPEフォームの密度は20kg/m3以上であることがより好ましく、30kg/m3以上であることがさらに好ましく、40kg/m3以上であることが特に好ましく、45kg/m3以上であることが最も好ましい。また、優れた吸音性を確保しつつ吸音材の軽量性をより高める観点からは、HIPEフォームの密度は180kg/m3以下であることがより好ましく、150kg/m3以下であることがさらに好ましく、120kg/m3以下であることが特に好ましい。
HIPEフォームの密度ρは、HIPEフォームの質量をHIPEフォームの体積で除した値である。HIPEフォームの体積は、HIPEフォームの外形寸法に基づいて算出することができる。
HIPEフォームの密度ρは、後述のHIPEフォームの製造方法において、ビニル系単量体、架橋剤、乳化剤、及び重合開始剤の総量と、水相(具体的には、水性液体)の量との比率等を調整することにより所望の値に調整することができる。例えば、高内相エマルション調整時(乳化工程)において、有機相に対する水相の比率を高くすることで、密度ρを低くすることができる。
[ガラス転移温度Tg]
HIPEフォームを構成する架橋重合体のガラス転移温度Tgは-60℃以上30℃以下であることが好ましい。この場合には、HIPEフォームのtanδのピーク温度をより容易に前記特定の範囲とすることができる。その結果、比較的低い周波数領域における吸音材の吸音性をより確実に向上させることができる。HIPEフォームの強度を高める観点からは、架橋重合体のガラス転移温度Tgは-50℃以上であることが好ましく、-40℃以上であることがより好ましく、-30℃以上であることがさらに好ましい。また、比較的低い周波数領域における吸音材の吸音性をより確実に向上させる観点からは、架橋重合体のガラス転移温度Tgは20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることがさらに好ましく、-10℃以下であることが特に好ましい。
HIPEフォームを構成する架橋重合体のガラス転移温度Tgは、JIS K7121:1987に基づいた示差走査熱量分析(DSC)にて測定される。ガラス転移温度はDSC曲線の中間点ガラス転移温度のことである。試験片の状態調節として「(3)一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用する。
HIPEフォームを構成する架橋重合体のガラス転移温度Tgは、後述のHIPEフォームの製造方法において、ビニル系単量体の種類、その配合割合、架橋剤の種類、その配合割合等を調整することにより、上記範囲に調整される。
[構成成分]
HIPEフォームを構成する架橋重合体は、具体的には、単官能のビニル系単量体と架橋剤との重合体であり、単官能のビニル系単量体に由来する成分を有する。本明細書において、ビニル系単量体は、スチレン系単量体、アクリル系単量体等である。ビニル系単量体としては、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体を用いることができる。より具体的には、HIPEフォームを構成する架橋重合体は、アクリル系単量体に由来する成分および架橋剤に由来する成分を有していてもよく、スチレン系単量体に由来する成分および架橋剤に由来する成分を有していてよい。また、HIPEフォームを構成する架橋剤は、アクリル系単量体に由来する成分と、スチレン系単量体に由来する成分と、架橋剤に由来する成分とを有していてもよい。
架橋重合体は、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体を含むビニル系単量体と、架橋剤との重合体から構成されていることが好ましい。具体的には、架橋重合体は、重合体骨格中にアクリル系単量体成分及び/又はスチレン系単量体成分を有するとともに、後述の架橋剤成分を有することが好ましい。この場合には、HIPEフォームの靱性及び剛性をより高め、吸音材の取り扱い性をより向上させることができる。なお、スチレン系単量体成分は、架橋重合体におけるスチレン系単量体に由来する構造単位を意味し、アクリル系単量体成分は、架橋重合体におけるアクリル系単量体に由来する構造単位を意味する。
所望の物性を有するHIPEフォームが得られやすくなるという観点から、架橋重合体における、アクリル系単量体成分の含有割合とスチレン系単量体成分の含有割合との合計は、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。同様の観点から、架橋重合体における、アクリル系単量体成分の含有割合とスチレン系単量体成分の含有割合との合計は、98重量%以下であることが好ましく、96重量%以下であることがより好ましい。
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4,6-トリブロモスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどのスチレン化合物等が挙げられる。アクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸アダマンチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸アダマンチル等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。また、アクリル系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル等も挙げられる。
架橋重合体は、(メタ)アクリル酸エステルと、架橋剤との共重合体から構成されていても良いが、スチレン系単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを含むビニル系単量体と、架橋剤との共重合体から構成されていることが好ましい。換言すれば、架橋重合体は、重合体骨格中に、スチレン系単量体に由来する成分と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する成分(つまり構造単位)とを有することが好ましい。この場合には、所望の物性を有するHIPEフォームを容易に得ることができる。
なお、架橋重合体は、架橋された重合体であるため、重合体骨格中に架橋剤に由来する成分(つまり、構造単位)を有する。また、(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステルであり、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステルであることが好ましい。
前記HIPEフォームは、アクリル系単量体及びスチレン系単量体の重合体が架橋された架橋重合体を基材樹脂としており、前記アクリル系単量体が(メタ)アクリル酸と炭素数1以上20以下のアルコールとのエステルを含むことが好ましい。この場合には、吸音材の吸音性をより容易に向上させることができる。
ビニル系単量体がアクリル系単量体を含む場合、ビニル系単量体におけるアクリル系単量体の含有割合は、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましい。また、ビニル系単量体がアクリル系単量体とスチレン系単量体とを含む場合、アクリル系単量体と、スチレン系単量体との重量比は、アクリル系単量体:スチレン系単量体=50:50~95:5であることが好ましく、60:40~90:10であることがより好ましい。この場合には、製造コストの削減や、所望の物性に調整しやすくなるという効果が得られる。また、同様の観点から、スチレン系単量体はスチレンを含むことが好ましい。この場合、スチレン系単量体中のスチレンの含有割合は50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
また、所望の物性を有する架橋重合体を安定して得ることができるという観点から、(メタ)アクリル酸エステルを構成する炭化水素基の炭素数は、1~20であることが好ましく、2~18であることがより好ましく、3~16であることがさらに好ましく、3~12であることが特に好ましい。なお、炭化水素基は、アルキル基であることがより好ましい。また、炭化水素基は、環状であっても、非環状であってもよい。これらの中でも、炭化水素基の炭素数が3~10の(メタ)アクリル酸エステルを用いることが好ましい。この場合、アクリル系単量体中の、炭化水素基の炭素数が3~10の(メタ)アクリル酸エステルの含有割合が50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
また、(メタ)アクリル酸エステルとして、アクリル酸2-エチルヘキシル及び/又はアクリル酸ブチルを用いることがより好ましく、アクリル酸ブチルを用いることがさらに好ましい。この場合、アクリル系単量体中の、アクリル酸2-エチルヘキシル及び/又はアクリル酸ブチルの含有割合は、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしてアクリル酸2-エチルヘキシルやアクリル酸ブチルを用いると、架橋重合体のガラス転移温度を容易に低くすることができる。
架橋重合体は、架橋構造を有しており、架橋剤成分を含有する。架橋剤成分は、架橋重合体における架橋剤に由来する構造単位のことである。架橋剤は、重合体を構成する高分子鎖間を架橋(結合)し、重合体中に架橋構造を形成する化合物である。
架橋剤としては、例えば、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される官能基を分子内に少なくとも2つ有するビニル系化合物が用いられる。架橋重合体が架橋剤成分を所定量含有することにより、架橋重合体の剛性、靭性を高めることや、架橋重合体の架橋点間分子量の値を小さくすることができる。なお、上記ビニル系化合物には、アクリロイル基やメタクリロイル基のように、官能基の構造中にビニル基及び/又はイソプロペニル基を含む化合物も含まれる。架橋剤を安定して重合させる観点から、ビニル系化合物が分子内に有する官能基の数は、6つ以下であることが好ましく、5つ以下であることが好ましく、4つ以下であることがさらに好ましい。また、架橋重合体の靭性をより高めやすくなるという観点から、架橋剤は、分子の少なくとも両末端に官能基を有することが好ましく、分子の両末端のみに官能基を有することがより好ましい。
架橋重合体は、例えば1種類の架橋剤を用いて作製された、1種類の架橋剤成分を含有するものであってもよいが、架橋重合体の剛性を高めつつ、架橋重合体の靭性を高めやすいことから、比較的分子鎖が短いハード系架橋剤に由来するハード系架橋剤成分と、比較的分子鎖が長いソフト系架橋剤に由来するソフト系架橋剤成分とを含有することが好ましい。この場合には、HIPEフォームを構成する架橋重合体の損失正接tanδのピーク温度等を所望の範囲に調整し易くなる。また、HIPEフォームの過度な脆化が抑制されやすくなると共に、厚みが薄い部位を有する等、複雑な形状を有するHIPEフォームを製造する場合であっても、HIPEフォームに欠け等が発生することを抑制することができ、吸音材としての取り扱いを向上させることができる。なお、ハード系架橋剤のことを第1架橋剤といい、ソフト系架橋剤のことを第2架橋剤ということもできる。
ハード系架橋剤(つまり、第1架橋剤)は、官能基当量が130g/eq以下であるビニル系化合物であることが好ましい。このようなハード系架橋剤は、比較的分子鎖が短いため、ビニル系単量体と共重合されることにより、ポリマー分子鎖の可動性を低下させることができると考えられる。ハード系架橋剤を用いることで、HIPEフォームの剛性を高めやすくなる。なお、HIPEフォームを製造しやすくする観点から、ハード系架橋剤の官能基当量の下限は、30g/eqであることが好ましく、40g/eqであることがより好ましく、50g/eqであることがさらに好ましく、60g/eqであることがさらにより好ましい。また、ハード系架橋剤の官能基当量の上限は120g/eqであることが好ましい。なお、ハード系架橋剤の官能基当量は、官能基(具体的にはビニル基、イソプロペニル基などのアルケニル基)1個当たりのハード系架橋剤のモル質量を意味し、官能基当量の単位を[g/mol]とも表すことができる。
ソフト系架橋剤(つまり、第2架橋剤)は、官能基当量が130g/eqを超え、5000g/eq以下であるビニル系化合物であることが好ましい。このようなソフト系架橋剤は、比較的分子鎖が長いため、ビニル系単量体と共重合されることにより、ポリマー分子鎖の可動性を大きく低下させることなく、ポリマー分子鎖間を架橋できると考えられる。ソフト系架橋剤を用いることで、HIPEフォームの靭性を高めやすい。なお、取り扱いが容易であるという観点から、ソフト系架橋剤の官能基当量の上限は、5000g/eqであることが好ましく、4000g/eqであることがより好ましく、3000g/eqであることがさらに好ましい。また、ソフト系架橋剤の官能基当量の下限は150g/eqであることが好ましく、180g/eqであることがより好ましく、200g/eqであることがさらに好ましい。なお、ソフト系架橋剤の官能基当量は、官能基(具体的にはビニル基、イソプロペニル基などのアルケニル基)1個当たりのソフト系架橋剤のモル質量を意味し、官能基当量の単位を[g/mol]とも表すことができる。
HIPEフォームの靱性及び剛性をより高め易くなるという観点、損失正接tanδのピーク温度等を上記範囲に調整し易くなるという観点から、ソフト系架橋剤の官能基当量は、ハード系架橋剤の官能基当量よりも、100g/eq以上大きいことが好ましく、120g/eq以上大きいことがより好ましい。換言すれば、ソフト系架橋剤の官能基当量とハード系架橋剤の官能基当量との差が100g/eq以上であることが好ましく、120g/eq以上であることがより好ましい。また、重合安定性がより高められ、剛性と靭性とに優れるHIPEフォームを安定して得やすくなるという観点から、ソフト系架橋剤の官能基当量とハード系架橋剤の官能基当量との差は、3000g/eq以下であることが好ましく、2000g/eq以下であることがより好ましく、1000g/eq以下であることがさらに好ましい。なお、2種類以上のハード系架橋剤を用いる場合、すべてのハード系架橋剤の官能基当量の重量平均値を算出し、この値をハード系架橋剤の官能基当量とする。同様に、2種類以上のソフト系架橋剤を用いる場合、すべてのソフト系架橋剤の官能基当量の重量平均値を算出し、この値をソフト系架橋剤の官能基当量とする。
前述した作用効果をより確実に得る観点からは、上記架橋重合体が、官能基当量が130g/mol以下である第1架橋剤に由来する成分と、官能基当量が130g/molを超え5000g/mol以下である第2架橋剤に由来する成分とを含み、上記第2架橋剤の官能基当量が、上記第1架橋剤の官能基当量よりも100g/mol以上大きいことが好ましい。
ハード系架橋剤として用いられるビニル系化合物としては、ジビニルベンゼン;トリアリルイソシアヌレート;多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等のビニル系化合物が挙げられる。多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとしては、ブタンジオールジアクリレート等のブタンジオール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート等のトリメチロールプロパン(メタ)アクリレート;ヘキサンジオールジアクリレート等のヘキサンジオール(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等のビニル系化合物が挙げられる。ただし、ハード系架橋剤における官能基の数は1分子当たり2つ以上である。官能基は、ビニル基及び/又はイソプロペニル基であることが好ましい。ハード系架橋剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。つまり、架橋重合体を構成するハード系架橋剤成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
HIPEフォームの剛性を調整し易くなるという観点からは、ジビニルベンゼン及び/又はブタンジオールジアクリレートを主成分とするハード系架橋剤を用いることが好ましい。なお、ハード系架橋剤の主成分とは、ハード系架橋剤中の割合が50重量%以上である成分を意味する。また、ハード系架橋剤において主成分となる前記ビニル系化合物の割合は、60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
ソフト系架橋剤として用いられるビニル系化合物としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、ポリエーテルグリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、ウレタンオリゴマーと(メタ)アクリル酸とのエステル、エポキシオリゴマーと(メタ)アクリル酸とのエステル、(メタ)アクリル変性シリコーン等が挙げられる。より具体的には、上記ビニル系化合物としては、ノナンジオールジアクリレート等のノナンジオール(メタ)アクリレート;デカンジオールジアクリレート等のデカンジオール(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジアクリレート等のポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコールジアクリレート等のポリプロピレン(メタ)アクリレート;ポリテトラメチレングリコールジアクリレート等のポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート;ポリグリセリンジアクリレート等のポリグリセリン(メタ)アクリレート;ウレタンジアクリレート等のウレタン(メタ)アクリレート;エポキシジアクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート;ポリエステルジアクリレート等のポリエステル(メタ)アクリレート;両末端(メタ)アクリル変性シリコーン等の(メタ)アクリル変性シリコーン;カプロラクトン変性トリスイソシアヌレート等のカプロラクトン変性イソシアヌレート;エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート等のエトキシ化ビスフェノールA(メタ)アクリレート等が挙げられる。ただし、ソフト系架橋剤における官能基の数は1分子当たり2つ以上である。官能基は、ビニル基及び/又はイソプロペニル基であることが好ましい。ソフト系架橋剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。つまり、架橋重合体を構成するソフト系架橋剤成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
HIPEフォームの靭性を調整し易くなるという観点からは、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを主成分とするソフト系架橋剤を用いることが好ましい。ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートにおけるエチレングリコール由来の繰り返し構造単位の数は、3~23であることが好ましい。また、HIPEフォームの延性や強度をより高めることができる観点からは、官能基当量が500g/eq以上3000g/eq以下であるソフト系架橋剤を用いることが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレート及び/又はエポキシ(メタ)アクリレートを主成分とし、官能基当量が500g/eq以上3000g/eq以下であるソフト系架橋剤を用いることがより好ましく、エポキシ(メタ)アクリレートを主成分とし、官能基当量が500g/eq以上3000g/eq以下であるソフト系架橋剤を用いることがさらに好ましい。なお、ソフト系架橋剤の主成分とは、ソフト系架橋剤中の割合が50重量%以上である成分を意味する。また、ソフト系架橋剤において主成分となる前記ビニル系化合物の割合は、60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
代表的な架橋剤の分子量、官能基1つ当たりの分子量(つまり、官能基当量)を表1に示す。
Figure 2023050728000002
架橋重合体が、少なくとも、アクリル系単量体と、スチレン系単量体と、架橋剤との共重合体から構成される場合、tanδのピーク温度を上記範囲に調整し易くなる観点、HIPEフォームの靱性と剛性とのバランスがより良好になるという観点から、架橋重合体におけるアクリル系単量体成分の含有量は、架橋重合体を構成するビニル系単量体成分と架橋剤成分との合計100重量部に対して、50重量部以上、95重量部以下であることが好ましく、60重量部以上、90重量部以下であることがより好ましく、70重量部以上、85重量部以下であることがさらに好ましい。同様の観点から、架橋重合体におけるスチレン系単量体成分の含有量は、架橋重合体を構成するビニル系単量体成分と架橋剤成分との合計100重量部に対して、3重量部以上、45重量部以下であることが好ましく、5重量部以上、30重量部以下であることがより好ましく、10重量部以上、25重量部以下であることがさらに好ましい。また、アクリル系単量体としては、炭化水素基の炭素数が3~10の(メタ)アクリル酸エステルを用いることが好ましく、アクリル系単量体中の、炭化水素基の炭素数が3~10の(メタ)アクリル酸エステルの含有割合が50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。また、炭化水素基の炭素数が3~10の(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸2-エチルヘキシル及び/又はアクリル酸ブチルが好ましく、アクリル酸ブチルがより好ましい。
架橋重合体のtanδのピーク温度を所望の範囲に調整し易くなる観点から、架橋重合体中の架橋剤成分の含有量(具体的には、架橋重合体中のソフト系架橋剤成分とハード系架橋剤成分との合計含有量)は、架橋重合体を構成するビニル系単量体成分と架橋剤成分との合計100重量部に対して、3重量部以上、40重量部以下であることが好ましく、4重量部以上、35重量部以下であることがより好ましい。
また、架橋重合体が、官能基当量が500g/eq以上3000g/eq以下である架橋剤成分を含む場合、架橋重合体中の官能基当量が500g/eq以上3000g/eq以下である架橋剤成分の含有量は、架橋重合体を構成するビニル系単量体成分と架橋剤成分との合計100重量部に対して、20重量部以上、40重量部以下であることが好ましい。なお、500g/eq以上3000g/eq以下である架橋剤成分は、ソフト系架橋剤に相当する。
架橋重合体がハード系架橋剤成分とソフト系架橋剤成分とを含む場合において、HIPEフォームの剛性を高めやすく、tanδのピーク温度等を所望の範囲に調整し易くなる観点から、架橋重合体におけるハード系架橋剤成分の含有量は、架橋重合体を構成するビニル系単量体成分と架橋剤成分との合計100重量部に対して、1重量部以上、20重量部以下であることが好ましく、2重量部以上、15重量部以下であることがより好ましく、3重量部以上、10重量部以下であることがさらに好ましい。また、HIPEフォームが過度に脆化することを抑制しつつ、tanδのピーク温度を所望の範囲に調整し易くなる観点から、架橋重合体におけるソフト系架橋剤成分の含有量は、架橋重合体を構成するビニル系単量体成分と架橋剤成分との合計100重量部に対して、2重量部以上、40重量部以下であることが好ましく、3重量部以上、35重量部以下であることがより好ましい。同様の観点から、ソフト系架橋剤成分に対するハード系架橋剤成分の重量比が0.05以上、4以下であることが好ましく、0.06以上、3以下であることがより好ましく、0.08以上、2以下であることがさらに好ましい。
[吸音性]
厚み20mmの前記HIPEフォームを用いて23℃での垂直入射吸音率を測定した場合における、周波数125~5000Hzでの垂直入射吸音率の合計は8以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましい。このような吸音性を有するHIPEフォームを吸音材とすることにより、吸音材の吸音性を広い周波数領域においてより高めることができる。
また、厚み20mmの前記HIPEフォームを用いて23℃での垂直入射吸音率を測定した場合における、周波数500~1000Hzでの垂直入射吸音率の合計は2.5以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。このような吸音性を有するHIPEフォームを吸音材とすることにより、低い周波数領域における吸音材の吸音性をより高めることができる。なお、各周波数領域における垂直入射吸音率の合計の測定方法については、実施例で説明する。
[吸音材の厚み]
前記吸音材の最小厚みは10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることが好ましく、20mm以上であることが好ましい。吸音材の最小厚みを前記特定の範囲とすることにより、吸音材のどの部分においても優れた吸音性を発揮させることができる。
[用途]
前記HIPEフォームは、前述したように、比較的低い周波数領域における吸音性が良好で、広い周波数領域において優れた吸音性を有しているため、吸音材として好適に用いることができる。特に、前記HIPEフォームは、周波数100~5000Hzの音を吸音するための吸音材として好適に用いることができる。このようなHIPEフォームから構成された吸音材は、例えば自動車や建築物などに好適に用いることができる。
[HIPEフォームの製造方法]
HIPEフォームは、高内相エマルションを重合してなり、具体的には、油中水型高内相エマルションを重合させることにより製造される。油中水型高内相エマルションの有機相は、ビニル系単量体、架橋剤、乳化剤、重合開始剤等を含む連続相であり、水相は、脱イオン水等の水を含む分散相である。
HIPEフォームの製造方法のより好ましい態様(具体的には、第1の態様、第2の態様)は、以下の通りである。
第1の態様は、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体と、架橋剤と、乳化剤と、重合開始剤とを含む有機相に、水を含む水相を内包させた油中水型高内相エマルションを形成し、該エマルション中で、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体を重合することにより、HIPEフォームを製造する方法であって、
上記架橋剤が、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される官能基を分子内に少なくとも2つ有するビニル系化合物であると共に、官能基当量が130g/eq以下である第1架橋剤と、官能基当量が130g/eqを超え、5000g/eq以下である第2架橋剤とを含み、
上記第2架橋剤の官能基当量は、上記第1架橋剤の官能基当量よりも、100g/eq以上大きく、
上記アクリル系単量体と上記スチレン系単量体と上記架橋剤との合計100重量部に対する、上記架橋剤の添加量が3重量部以上40重量部以下であり、
上記第2架橋剤の重量に対する上記第1架橋剤の重量の比が0.05以上4以下である、HIPEフォームの製造方法にある。
第2の態様は、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体と、架橋剤と、乳化剤と、重合開始剤とを含む有機相に、水を含む水相を内包させた油中水型高内相エマルションを形成し、該エマルション中で、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体を重合することにより、HIPEフォームを製造する方法であって、
上記架橋剤が、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される官能基を分子内に少なくとも2つ有するビニル系化合物であると共に、官能基当量が500g/eq以上3000g/eq以下である架橋剤を含み、
上記アクリル系単量体と上記スチレン系単量体と上記架橋剤との合計100重量部に対する、上記架橋剤の添加量が20重量部以上40重量部以下である、HIPEフォームの製造方法にある。
なお、上述したビニル系単量体の種類や含有量、架橋剤の種類や含有量等の説明が、HIPEフォームの製造方法においても適宜参照される。
具体的には、以下のように、乳化工程、重合工程、乾燥工程を行うことにより、HIPEフォームを製造することができる。
まず、ビニル系単量体、架橋剤、乳化剤、重合開始剤等の有機物を含む油性液体(有機相)を撹拌しながら、油性液体中に水を含む水性液体(水相)を滴下することにより、油中水型高内相エマルションを作製する(乳化工程)。乳化工程では、体積比で水相が有機相の例えば3倍以上となるように油性液体に水性液体を添加することにより、高内相エマルションを作製することができる。なお、有機相に内包させる水相の比率は、有機相と水相との重量比で調整することができる。高内相エマルションにおける前記水相の含有量は、前記有機相100重量部に対して、300~3000重量部であることが好ましく、400~2500重量部であることがより好ましく、500~2000重量部であることがさらに好ましい。次いで、高内相エマルションを加熱して有機相のビニル系単量体、架橋剤等を重合させることにより、重合生成物(具体的には、水分を含んだ架橋重合体)を得る(重合工程)。その後、重合生成物を乾燥させることにより、架橋重合体から構成されたHIPEフォームを得る(乾燥工程)。
乳化工程において、有機相やエマルションを攪拌する際の撹拌動力密度は、0.01kW/m以上10kW/m以下であることが好ましく、0.03kW/m以上7kW/m以下であることがより好ましい。この場合には、所望の気泡構造を有するHIPEフォームが得られすくなる。なお、乳化工程における撹拌動力密度(単位:kW/m)は、乳化工程において用いる撹拌装置のトルク(単位:N・m)、回転数(単位:rpm)から、撹拌時における動力(単位:kW)を算出し、この動力を乳化工程における容器の内容物の体積(単位:m)で除することで求めることができる。
また、乳化工程での油性液体への水性液体の添加方法としては、例えば、撹拌容器内に油性液体と水性液体を投入した状態で撹拌を開始して乳化を行う方法等を採用することができる。所望の気泡構造を有するHIPEフォームを得やすくする観点からは、撹拌容器内に油性液体を投入して撹拌を開始し、撹拌下で、容器内にポンプ等を用いて水性液体を投入して乳化を行う方法を採用することが好ましい。油性液体を撹拌しながら油性液体中に水を含む水性液体を滴下することにより、油中水型高内相エマルションを作製する場合、水性液体の添加速度は、例えば、油性液体(有機相)100重量%に対して10重量%/min以上1000重量%/min以下であることが好ましく、100重量%/min以上800重量%/min以下であることがより好ましく、200重量%/min以上600重量%/min以下であることがさらに好ましい。また、乳化の方法としては、撹拌装置を備えた撹拌容器や遠心振とう機を用いて乳化するバッチ式の乳化工程、スタティックミキサーやメッシュ等を備えたライン中に、油性液体と水性液体を連続的に供給して混合させる連続式の乳化工程などが挙げられる。乳化の方法は特に限定されない。
水相は、脱イオン水等の水、重合開始剤、電解質などを含むことができる。乳化工程では、例えば、油性液体、水性液体をそれぞれ作製し、撹拌下で油性液体に水性液体を添加して、高内相エマルションを作製する。また、乳化工程において、水相及び/又は有機相には、難燃剤、難燃助剤、耐光剤、着色剤等の添加剤を適宜配合することができる。
難燃剤は、HIPEフォームの難燃性を向上させるために用いられる。難燃剤としては、ハロゲン、リン、窒素、シリコーン等を含む有機化合物;金属水酸化物、リン、窒素等を含む無機化合物等が挙げられ、難燃剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用され得る。難燃剤を配合する場合、その配合量は、架橋重合体を構成するビニル系単量体成分と架橋剤成分との合計100重量部に対して、5~20重量部であることが好ましい。少量の添加でも優れた難燃性を付与しやすい観点から、難燃剤としては、臭素化ビスフェノール系難燃剤を用いることが好ましく、2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル基を有する臭素化ビスフェノール系難燃剤及び/又は2,3-ジブロモプロピル基を有する臭素化ビスフェノール系難燃剤を用いることがより好ましく、2,2-ビス(4-(2、3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル)プロパンを用いることがさらに好ましい。
また、HIPEフォームには、難燃効率を向上させる目的として、難燃助剤を適宜配合することができる。例えば、ハロゲン系難燃剤を用いる場合において、難燃助剤としてジクミルパーオキサイド等のラジカル発生剤を用いると、ラジカル発生剤の分解によって難燃剤中のハロゲンの脱離が促進され、難燃効率の向上が期待できる。また、ハロゲン系難燃剤を用いる場合において、難燃助剤として三酸化アンチモン等のアンチモン化合物を用いると、ハロゲン系難燃剤によるラジカルトラップの効果と、酸化アンチモンによる空気遮断の効果とが相乗的に複合されることで難燃効率の向上が期待できる。なお、難燃剤は単独で用いても良く、異なる難燃機構の難燃剤を2種以上併用しても良い。
重合開始剤は、ビニル系単量体の重合を開始させるために用いられる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を用いることができる。具体的には、ジラウロイルパーオキサイド(LPO)、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(LTCP)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレエート、t-ヘキシルパーオキシピバレエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’アゾビス(4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物等が用いられる。重合時の水の沸騰を抑制するという観点から、重合開始剤の1時間半減期温度は、95℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。また、安全性の観点から、室温における重合開始剤の分解を抑制するため、重合開始剤の1時間半減期温度は、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましい。
重合開始剤としては、1種類以上の物質を用いることができる。また、HIPEフォームの密度の均一性を低下させることなく、重合時間を短縮することができる観点からは、1時間半減期温度が50℃以上70℃未満である有機過酸化物と、1時間半減期温度が70℃以上90℃以下である有機過酸化物とを、組み合わせて用いることが好ましい。
重合開始剤は、有機相及び/又は水相に添加することができる。また、水相に重合開始剤を添加する場合は、2,2’アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)ジヒドロクロリド、2,2’アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)ジヒドロクロリド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性の重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤の添加量は、例えば、ビニル系単量体と架橋剤との合計100重量部に対して、0.1~5重量部の範囲とすることができる。
乳化剤は、高内相エマルションの形成及び安定化のために用いられる。乳化剤としては、例えば、界面活性剤を用いることができる。具体的には、ポリグリセリン縮合リシノレート、ポリグリセリンステアレート、ポリグリセリンオレエート、ポリグリセリンラウレート、ポリグリセリンミリステート等のグリセロールエステル類;ソルビタンオレエート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート等のソルビトールエステル類;エチレングリコールソルビタンエステル類;エチレングリコールエステル類;ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等が用いられる。乳化剤の添加量は、例えば、ビニル系単量体と架橋剤と乳化剤との合計100重量部に対して、1~30重量部の範囲とすることができる。
電解質は、水相にイオン強度を付与し、乳化物の安定性を高めるために用いられる。電解質としては、水溶性の電解質を用いることができる。具体的には、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が用いられる。電解質の添加量は、例えば、水性液体100重量部に対して、0.01~10重量部の範囲とすることができる。
重合工程での重合温度は、例えば、ビニル系単量体の種類、重合開始剤の種類、架橋剤の種類等によって調整される。HIPEフォームの生産性を高めると共に、所望の気泡構造を有するHIPEフォームを得やすくなる観点からは、重合温度は、50℃~90℃であることが好ましく、70~85℃であることがより好ましい。また、重合温度が前述した範囲内である場合、重合時間は、0.5~15時間であることが好ましく、0.5~12時間であることがより好ましく、0.5~10時間であることがさらに好ましい。
乾燥工程では、オーブン、真空乾燥機、高周波・マイクロ波乾燥機等を用いて、水分を含んだ架橋重合体を乾燥する。乾燥が完了することで、重合前の乳化物において水滴があった箇所が、乾燥後の重合体においては気泡となり、HIPEフォームを得ることができる。乾燥前に、例えばプレス機等を用いて圧搾することにより架橋重合体を脱水させることができる。圧搾は、室温(例えば23℃)で行ってもよいが、例えば、HIPEフォームを構成する架橋重合体のガラス転移温度以上の温度で行うこともできる。この場合には、圧搾による脱水が容易になり、乾燥時間を短くすることができる。また、遠心分離により、架橋重合体の脱水を行うこともできる。この場合にも乾燥時間が短くなる。
以上の方法により得られたHIPEフォームは、そのまま吸音材として使用することができる。また、HIPEフォームに必要に応じて切削加工等を施すことにより、所望の形状を備えた吸音材とすることもできる。
以下に、吸音材の実施例及び比較例について説明する。本例では、以下の方法により、表2の実施例及び表3の比較例に示すHIPEフォームからなる吸音材を製造した。なお、本発明に係る吸音材の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を超えない範囲において適宜構成を変更することができる。なお、実施例における「%」は、重量%を意味する。
[実施例1]
まず、トルク変換器付撹拌装置の付いた、内容積が3Lのガラス容器に、ビニル系単量体としてのスチレン:14.5g及びブチルアクリレート:66g、ハード系架橋剤(以下、第1架橋剤という)としての純度57%のジビニルベンゼン:7g(ジビニルベンゼンとしては、4.0g)、ソフト系架橋剤(以下、第2架橋剤という)としてのポリエチレングリコールジアクリレート(具体的には、新中村化学工業株式会社製のNKエステルA-400):5g(ポリエチレングリコールジアクリレートとしては、4.8g)、乳化剤としてのポリグリセリン縮合リシノレート(具体的には、阪本薬品工業株式会社製のCRS-75):7.5g、重合開始剤としてジラウロイルパーオキサイド:0.5g及びビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート:0.5gを投入した。これらをガラス容器内で混合することにより、有機相を形成した。
撹拌動力密度0.03kW/m3で有機相を撹拌しながら、脱イオン水:2090gを約450g/minの速度(有機相100重量%に対して、約450重量%/minの添加速度)で添加し、脱イオン水の添加が終了してからも10分間撹拌を継続し、油中水型(つまりW/O型)の高内相エマルションを調製した。なお、撹拌動力密度(単位:kW/m3)は、撹拌装置のトルク(単位:N・m)、回転数(単位:rpm)より動力(単位:kW)を算出し、内容物の体積(単位:m)で除することで求めた。
次いで、撹拌動力密度を0.03kW/m3に下げ、ガラス容器にアスピレーターを接続して容器内を減圧し、エマルション中に含まれる微小気泡を除去した。減圧開始から10分後、撹拌を停止して容器内を大気圧に戻した。
ガラス容器の内容物を、縦約250mm、横約180mm、深さ約90mmの容器に充填し、70℃の温水槽にて約10時間かけて重合し、水を含有するHIPEフォームを得た。HIPEフォームを温水槽から取出し、室温まで冷却した。
冷却後、容器からHIPEフォームを取出し、水で洗浄した後脱水し、85℃のオーブンで恒量になるまで乾燥した。このようにして、ビニル系架橋重合体から構成された、直方体形状のHIPEフォームからなる吸音材を得た。吸音材を構成するHIPEフォームの密度は50kg/m3であった。
本例の仕込み組成等を表2に示す。なお、架橋重合体における、各種成分(ビニル系単量体及び架橋剤)の含有量は、仕込み時における、各種成分の配合量(架橋剤に関しては、不純物を除く配合量)と、ビニル系単量体成分と架橋剤成分(不純物を除く)との合計配合量とから求めることができる。
表中においては、化合物名を以下のように省略した。
St:スチレン
BA:アクリル酸ブチル
2-EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
DVB:ジビニルベンゼン
PEGDA:ポリエチレングリコールジアクリレート
PPGDA:ポリプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「APG-400」)
EpDA:エポキシジアクリレート(具体的には、両末端アクリル変性エポキシプレポリマー、ダイセル・オルネクス株式会社製「EBECRYL(登録商標)3708」)
LPO:ジラウロイルパーオキサイド
LTCP:ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート
[実施例2~8、比較例1~5]
仕込み組成を表2及び表3に示すように変更した点を除き、実施例1と同様にしてHIPEフォームからなる吸音材を製造した。
なお、仕込み組成以外の変更点としては、実施例3、5および比較例2、5においては、乳化工程における撹拌動力密度を4.4kW/mに変更した。実施例6、7においては、乳化工程における撹拌動力密度を0.2kW/mに変更した。実施例8においては、乳化工程における撹拌動力密度を0.6kW/mに変更した。比較例1、3においては、乳化工程における撹拌動力密度を7.8kW/mに変更した。比較例4においては、乳化工程における撹拌動力密度を0.02kW/mに変更した。
[評価]
実施例1~8及び比較例1~5について、下記の測定、評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
(密度ρ)
吸音材を構成するHIPEフォームから、その中心を含み、かつスキン面、つまり、重合時に容器と接触していた面を含まないようにして、厚み:25mm、幅:50mm、長さ:50mmの直方体状の試験片を3つ切り出した。次いで、試験片の重量と外形寸法を測定した。試験片の重量を外形寸法に基づいて算出した体積で除することにより、試験片の密度を算出した。そして、3つの試験片の密度の算術平均値をHIPEフォームの密度ρ(単位:kg/m)とした。
(ガラス転移温度Tg)
JIS K7121:1987に基づき、示差走査熱量(つまり、DSC)分析によりTgを算出した。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製のDSC250を用いた。具体的には、まず、吸音材を構成するHIPEフォームの中心付近から約2mgの試験片を採取した。試験片の状態調節としては、「(3)一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用した。具体的には、採取した試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温恒湿室で24時間以上静置した。次いで、試験片に対して、10℃/分の昇温速度でガラス転移終了時の温度より約30℃高い温度まで加熱し、この温度のまま10分間保持した後、10℃/分の冷却速度でガラス転移温度より約50℃低い温度まで冷却した。例えば、実施例1のHIPEフォームのTgの測定においては、40℃まで加熱した後、-45℃まで冷却した。冷却後、この温度のまま10分間保持して装置を安定させ、20℃/分の昇温速度でガラス転移終了時の温度より約30℃高い温度までDSC測定を行うことによりDSC曲線を得た。このDSC曲線から中間点ガラス転移温度を求め、この値をガラス転移温度Tgとした。なお、DSC測定における測定温度範囲は-90℃~70℃の範囲であった。
(架橋点間分子量Mc)
吸音材を構成するHIPEフォームの中心付近から、10mm×10mm×10mmの立方体形状の、スキン面を有しない試験片を3つ切り出した。この3つの試験片に対して動的粘弾性測定(DMA)を行い、-100~120℃の温度範囲におけるT-E’曲線を取得した。図3に、HIPEフォームのT-E’曲線の一例を示す。T-E’曲線は、横軸に温度、縦軸に貯蔵弾性率E’をプロットして得られる。測定装置としては、株式会社日立ハイテクサイエンス製のDMA7100を用いた。なお、測定条件の詳細は以下の通りである。
・変形モード:圧縮
・温度:-100~120℃
・昇温速度:10℃/min
・周波数:1Hz
・荷重:10mN
上記3つの試験片のT-E’曲線のそれぞれにおけるゴム状平坦部(具体的にはTg+50℃~Tg+80℃の温度域)から、無作為に3点の温度Tを選択し、当該温度Tにおける貯蔵弾性率E’を決定した。そして、これらの貯蔵弾性率E’と温度Tを用い、下記の式(I)から各温度における架橋点間分子量Mcを算出した。3つの試験片のT-E’曲線から算出された9つの架橋点間分子量の算術平均値を架橋点間分子量Mcとして採用した。なお、Tgは、HIPEフォームを構成する架橋重合体のガラス転移温度である。
Mc=2(1+μ)ρRT/E’ ・・・(I)
なお、上述した動的粘弾性測定の測定条件では、HIPEフォームを構成する架橋重合体に生じる歪はごく微小であり、体積変化が起こらないと見なすことができるため、体積一定の条件、すなわちポアソン比を0.5として架橋点間分子量Mcを算出した。
(気泡の平均径)
気泡の平均径の測定方法は以下の通りである。フェザー刃を用いて、直方体形状のHIPEフォームにおける短手方向と厚み方向との中央、及び、短手方向の両端における厚み方向の中央から観察用の試料をそれぞれ切り出した。次いで、試料を、低真空走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製のMiniscope(登録商標) TM3030Plus)で観察し、断面写真を撮影した。HIPEフォームの断面写真(倍率:500倍)の一例を図1に示す。なお、詳細な観察条件は以下の通りとした。
・試料の前処理:メタルコーティング装置(株式会社真空デバイスのMSP-1S)を用いて、試料の導電処理を行った。ターゲット電極にはAu-Pdを用いた。
・観察倍率:50倍
・加速電圧:5kV
・観察条件:表面(低倍率)
・観察モード:二次電子(標準)
次に、撮影した断面写真を画像処理ソフト(ナノシステム(株)のNanoHunter NS2K-Pro)で解析し、各試料の断面写真上に、面積の合計が5mm以上となるように計測領域を設定した。次いで、計測領域内に存在する気泡の気泡径を算出し、これらの算術平均値を各試料の気泡径とした。得られた3つの試料の気泡径を算術平均することで、HIPEフォームの気泡の平均径を求めた。詳細な解析の手順および条件は以下の通りとした。
(1)モノクロ変換
(2)平滑化フィルタ(3×3、8近傍、処理回数=1)
(3)濃度ムラ補正(背景より明るい、大きさ=5)
(4)NS法2値化(背景より暗い、鮮明度=9、感度=1、ノイズ除去、濃度範囲=0~255)
(5)収縮(8近傍、処理回数=1)
(6)特徴量(面積)による画像の選択(50~∞μm2のみ選択、8近傍)
(7)隣と接続されない膨張(8近傍、処理回数=3)
(8)円相当径計測(面積から計算、8近傍)
(貫通孔の平均径)
観察倍率を500倍に、観察モードを反射電子法(標準)に変更した以外は、気泡の平均径の算出方法と同様の手順でHIPEフォームの断面写真を撮影した。次に、撮影した断面写真を画像処理ソフト(三谷商事株式会社製のWinROOF2013)で解析し、各試料の断面写真上に、面積の合計が1mm以上となるように計測領域を設定した。次いで、計測領域内に存在する貫通孔の貫通孔径を算出し、これらの算術平均値を各試料の貫通孔径とした。得られた3つの試料の貫通孔径を算術平均することで、HIPEフォームの貫通孔の平均径を求めた。詳細な解析の手順および条件は以下の通りとした。
(1)モノクロ画像化
(2)平均化フィルタ(フィルタサイズ=3×3、回数=1)
(3)自動二値化(判別分析法、抽出領域=暗い領域、対象濃度範囲=0~255)
(4)モフォロジーの調整(膨張、回数=3)
(5)形状特徴からの計測(測定項目=円相当径、個数)
(tanδのピーク温度、最大値及びtanδピークの半値幅)
架橋点間分子量Mcの測定と同様にして、-100~120℃の温度範囲におけるT-tanδ曲線を取得した。なお、損失正接tanδは、損失弾性率E”を貯蔵弾性率E’で除した値であり、動的粘弾性測定において、E’、E”、tanδは同時に測定することができる。図2に、HIPEフォームのT-tanδ曲線の一例を示す。なお、図2の縦軸は損失正接tanδであり、横軸は温度(単位:℃)である。
このようにして得られたT-tanδ曲線におけるピークトップのtanδの値を損失正接tanδの最大値とし、tanδが最大値を示す温度をtanδのピーク温度とした。また、T-tanδ曲線に現れたtanδピークにおいて、tanδの値が最大値の1/2となる2つの温度を求め、これらの温度差を半値幅Hとした。
(単位厚さあたりの流れ抵抗)
吸音材を構成するHIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗を、ISO 9053-1:2018に基づいて測定した。具体的には、HIPEフォームの中心付近から、スキン面が含まれないようにして直径40mm、厚さ20mmの円板形状を有する試験片を切り出した。この試験片を測定装置(日本音響エンジニアリング株式会社製流れ抵抗測定システム「AirReSys」)のサンプルホルダー)に取り付け、試験片の一方の端面から他方の端面に向かって流速1~3mm/sの空気を流通させた。この時測定された、各流速と、試験片の一方の端面における圧力と他方の端面における圧力との差(つまり、差圧)との関係から、流速0.5mm/における差圧を求めた。そして、流速0.5mm/sにおける差圧と試験片の形状と基づいて、単位厚さあたりの流れ抵抗(単位:N・s/m)を算出した。その結果を、表2及び表3に記載した。
(吸音性)
JIS A 1405-2に基づいて測定された、各周波数における、23℃でのHIPEフォームの垂直入射吸音率に基づいて吸音性の評価を行った。具体的には、HIPEフォームの中心付近から、スキン面が含まれないようにして厚み20mm、直径40mmの円板形状を有する試験片を切り出した。この試験片を測定装置(日本音響エンジニアリング株式会社製垂直入射吸音率測定システム「WinZacMTX」)のサンプルホルダーに配置し、以下の条件で測定を行った。
FFT分析条件
・サンプリング周波数:32,000Hz
・FFT点数:8192点
・出力信号:ランダム信号(本測定およびキャリブレーション時ともに)
・窓関数:Hanning(本測定およびキャリブレーション時ともに)
・オーバーラップ:75%(本測定およびキャリブレーション時ともに)
・本測定時の平均回数:400回
・キャリブレーション時の平均回数:800回
測定条件
・測定種類:吸音率/反射率(反射法)
・マイクロホン形式:2マイクロホン法
・サンプル表面とMicAまでの距離:80mm
・マイクロホン間距離:30mm
・サンプル径:40mm
・サンプル厚:20mm
・背後空気層の長さ:0mm
・温度:23℃
以上により、周波数125Hz、200Hz、300Hz、400Hz、500Hz、600Hz、700Hz、800Hz、900Hz、1000Hz、1500Hz、2000Hz、2500Hz、3000Hz、3500Hz、4000Hz、4500Hz及び5000HzにおけるHIPEフォームの垂直入射吸音率を測定した。
以上の方法により測定した各周波数における垂直入射吸音率を合計した値を周波数125~5000Hzにおける垂直入射吸音率の合計として表2及び表3の「全周波数」欄に記載した。また、以上の方法により測定した各周波数における垂直入射吸音率のうち、500~1000Hzにおける垂直入射吸音率を合計した値を周波数500~1000Hzにおける垂直入射吸音率の合計として表2及び表3の「500~1000Hz」欄に記載した。
Figure 2023050728000003
Figure 2023050728000004
表2に示したように、実施例1~8の吸音材は、アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体の重合体が架橋された架橋重合体を基材樹脂としており、tanδのピーク温度及び単位厚さあたりの流れ抵抗がそれぞれ前記特定の範囲内にあるHIPEフォームから構成されている。そのため、これらの吸音材は、低い周波数領域での吸音性が改善されているとともに、広い周波数領域において優れた吸音性を有している。
一方、表3に示したように、比較例1の吸音材を構成するHIPEフォームは単位厚さあたりの流れ抵抗が高すぎる。それ故、比較例1の吸音材は、実施例1~8の吸音材に比べて全ての周波数領域において吸音性に劣っている。
比較例2の吸音材を構成するHIPEフォームは、tanδのピーク温度が前記特定の範囲よりも高く、単位厚さあたりの流れ抵抗が低すぎる。そのため、比較例2の吸音材は、実施例1~8の吸音材に比べて比較的低い周波数領域での吸音性に劣っている。
比較例3の吸音材を構成するHIPEフォームは、比較例1に比べて単位厚さあたりの流れ抵抗が低いものの、前記特定の範囲よりも流れ抵抗が高い。そのため、比較例3の吸音材は、実施例1~8の吸音材に比べて全ての周波数領域において吸音性に劣っている。
比較例4の吸音材を構成するHIPEフォームは、単位厚さあたりの流れ抵抗が低すぎる。そのため、比較例4の吸音材は、実施例1~8の吸音材に比べて比較的低い周波数領域での吸音性に劣っている。
比較例5の吸音材を構成するHIPEフォームは、tanδのピーク温度が高すぎる。そのため、比較例5の吸音材は、実施例1~8の吸音材に比べて比較的低い周波数領域での吸音性に劣っている。
以上、実施例に基づいて本発明に係る吸音材の具体的な態様を説明したが、本発明に係る吸音材の具体的な態様は、実施例に示した態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
1 吸音材
11 気泡壁
12 気泡
13 貫通孔

Claims (7)

  1. アクリル系単量体及び/又はスチレン系単量体の重合体が架橋された架橋重合体を基材樹脂とするHIPEフォームから構成される吸音材であって、
    周波数:1Hz、荷重:10mN、変形モード:圧縮という条件で前記HIPEフォームに対して動的粘弾性測定を行うことにより測定される温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδのピーク温度が50℃以下であり、
    ISO 9053-1:2018に基づいて測定される流速:0.5mm/sにおける前記HIPEフォームの単位厚さあたりの流れ抵抗が7×10N・s/m以上1×10N・s/m以下である、吸音材。
  2. 前記温度-損失正接tanδ曲線における損失正接tanδの最大値が0.4以上である、請求項1に記載の吸音材。
  3. 前記架橋重合体の架橋点間分子量が1.0×10以上30×10以下である、請求項1または2に記載の吸音材。
  4. 前記HIPEフォームが、アクリル系単量体及びスチレン系単量体の重合体が架橋された架橋重合体を基材樹脂としており、前記アクリル系単量体が、(メタ)アクリル酸と炭素数1以上20以下のアルコールとのエステルを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の吸音材。
  5. 前記HIPEフォームの密度が10kg/m3以上200kg/m3以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の吸音材。
  6. 前記HIPEフォームの気泡の平均径が20μm以上160μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の吸音材。
  7. 前記HIPEフォームの気泡の平均径に対する、前記HIPEフォームの気泡壁を貫通し、隣接する気泡間を連通する貫通孔の平均径の比が0.05以上0.5以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の吸音材。
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