JP2023048805A - 配管コネクタ用アルミニウム合金押出材、その製造方法及び配管コネクタ - Google Patents

配管コネクタ用アルミニウム合金押出材、その製造方法及び配管コネクタ Download PDF

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Abstract

【課題】鋳造原料中のアルミニウム新地金の比率を低減した場合においても製造性及び機械的特性に優れ、配管に対する犠牲防食効果を備えた配管コネクタ用アルミニウム合金押出材、その製造方法及びこの配管コネクタ用アルミニウム合金押出材からなる配管コネクタを提供する。【解決手段】配管コネクタ用アルミニウム合金押出材は、Si:0.60質量%以上1.8質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.80質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.8質量%以下、Mg:0質量%超え0.50質量%以下及びZn:1.5質量%超え3.0質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。【選択図】なし

Description

本発明は、配管コネクタ用アルミニウム合金押出材、その製造方法及び配管コネクタに関する。
熱交換器における配管の接続に用いられる配管コネクタは、6000系合金などのアルミニウム合金から構成されていることが多い。これらのアルミニウム合金の中でも、A6063合金は、押出加工性に優れているとともに、押出後の熱処理によって強度を高めることができるため、配管コネクタとして広く使用されている。
従来、A6063合金からなるアルミニウム合金展伸材を作製する場合、良好な製造性や所望する機械的特性を確保するため、アルミニウム新地金を鋳造原料とし、SiやMnなどの元素を添加することにより化学成分を所望の範囲に調整していた。しかし、アルミニウム新地金は製造時に多量のエネルギーを消費するため、鋳造原料としてアルミニウム新地金を使用すると環境負荷が高くなるという問題がある。
そこで、近年では、環境負荷の低減の観点から、アルミニウム合金展伸材を作製する際の鋳造原料として、廃棄されたアルミニウム製熱交換器やアルミニウム製品の屑等のアルミニウム廃材を使用することが望まれている。例えば、特許文献1には、Si 0.5~2.5 wt%、Fe 0.2~1.0 wt%、Zn 0.45 ~1.5 wt%、Mg 0.1~1.0 wt%、Cu 0.05~1.0 wt%、Mn 0.4~1.5 wt%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物よりなることを特徴とする熱交換器コネクタ用アルミニウム合金押出材が記載されている。特許文献1のコネクタ用アルミニウム合金押出材は、アルミニウム製熱交換器の屑を原料に利用することができるように構成されている。
特開平8-218143号公報
配管コネクタには、配管の腐食を抑制するための犠牲陽極材としての機能が求められることがある。しかし、特許文献1のようにアルミニウム製熱交換器の屑を鋳造原料として使用する場合、最終的に得られるコネクタ用アルミニウム合金押出材には、鋳造原料として使用されたアルミニウム製熱交換器の屑に由来する種々の元素が含まれる。そのため、押出材の化学成分によっては、配管に対する犠牲防食効果が不十分となるおそれがある。特に、環境負荷の低減のために鋳造原料中のアルミニウム製熱交換器の屑の比率を高めようとすると、押出材中に含まれるアルミニウム以外の元素の種類が増えやすく、かつ、含有量も多くなりやすいため、配管に対する犠牲防食効果が不十分となりやすい。また、押出材中に含まれるアルミニウム以外の元素の種類及び含有量が多くなると、熱間押出における押出加工性や熱間押出後の二次加工における二次加工性の悪化を招くおそれもある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、鋳造原料中のアルミニウム新地金の比率を低減した場合においても製造性及び機械的特性に優れ、配管に対する犠牲防食効果を備えた配管コネクタ用アルミニウム合金押出材、その製造方法及びこの配管コネクタ用アルミニウム合金押出材からなる配管コネクタを提供しようとするものである。
本発明の一態様は、Si(シリコン):0.60質量%以上1.8質量%以下、Cu(銅):0.10質量%以上0.80質量%以下、Mn(マンガン):0.50質量%以上1.8質量%以下、Mg(マグネシウム):0質量%超え0.50質量%以下及びZn(亜鉛):1.5質量%超え3.0質量%以下を含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有する、配管コネクタ用アルミニウム合金押出材にある。
本発明の他の態様は、前記の態様の配管コネクタ用アルミニウム合金押出材からなる配管コネクタにある。
本発明のさらに他の態様は、前記の態様の配管コネクタ用アルミニウム合金押出材の製造方法であって、
アルミニウム廃材を10質量%以上含有する鋳造原料を用いて前記化学成分を有する鋳塊を鋳造し、
前記鋳塊を450℃以上620℃以下の温度に2時間以上保持して均質化処理を行い、
前記均質化処理後の前記鋳塊に、その温度が400℃以上550℃以下である間に熱間押出を行うことによりアルミニウム合金押出材を作製する、配管コネクタ用アルミニウム合金押出材の製造方法にある。
前記アルミニウム合金押出材(以下、「押出材」という。)は、前記特定の化学成分を有している。かかる化学成分を有する押出材は、優れた製造性及び機械的特性を有するとともに、配管に対する犠牲防食効果を有している。また、前記アルミニウム合金押出材においては、Cu等の主要ではない元素の含有量を比較的多くした場合においても、所望する特性を容易に実現することができる。それ故、前記押出材を作製するに当たっては、鋳造原料中のアルミニウム新地金の比率を容易に低減するとともに、アルミニウム廃材の使用量を多くすることができる。
また、前記押出材は、熱交換器における配管の接続に用いられる配管コネクタとして好適な特性を有している。それ故、前記押出材から構成された配管コネクタは良好な性能を有している。また、前記押出材から構成された配管コネクタは配管に対する犠牲陽極として機能し、配管の腐食を長期間に亘って抑制することができる。
前記の態様のアルミニウム合金押出材の製造方法においては、アルミニウム廃材を10質量%以上含む鋳造原料を用いて前記化学成分を有する鋳塊を作製する。このように、鋳造原料中にアルミニウム廃材を配合することにより、鋳造原料中のアルミニウム新地金の割合を効果的に低減することができる。そして、鋳造原料中のアルミニウム新地金の割合を低減することにより、前記押出材を作製する際の環境負荷を低減することができる。
また、前記製造方法においては、均質化処理後の鋳塊に前記特定の条件で均質化処理及び熱間押出を行う。均質化処理及び熱間押出の条件を前記特定の範囲とすることにより、鋳造原料中のアルミニウム新地金の割合を低減した場合であっても、熱間押出における鋳塊の押出加工性を高めるとともに、優れた二次加工性及び機械的特性及び配管に対する犠牲防食効果を有するアルミニウム合金押出材を容易に得ることができる。
以上のように、前記の態様によれば、鋳造原料中のアルミニウム新地金の比率を低減した場合においても製造性及び機械的特性に優れ、配管に対する犠牲防食効果を備えた配管コネクタ用アルミニウム合金押出材、その製造方法及びこの配管コネクタ用アルミニウム合金押出材からなる配管コネクタを提供することができる。
(アルミニウム合金押出材)
前記アルミニウム合金押出材の化学成分、構造およびその限定理由について説明する。
[化学成分]
・Si:0.60質量%以上1.8質量%以下
前記押出材は、必須成分として0.60質量%以上1.8質量%以下のSiを含有している。Siは前記押出材の強度を向上させる作用を有している。前記押出材中のSiの含有量を0.60質量%以上とすることにより、前記押出材の強度を向上させることができる。また、前記押出材中のSiの含有量を0.60質量%以上とすることにより、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めやすくすることができる。
前記押出材の強度をより高めるとともに、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率をより高めやすくする観点からは、押出材中のSiの含有量は、0.70質量%以上であることが好ましく、0.80質量%以上であることがより好ましく、0.90質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。前記押出材中のSiの含有量が0.60質量%未満の場合には、押出材の強度の低下を招くおそれがある。また、この場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めることが難しくなるおそれがある。
一方、前記押出材中のSiの含有量が過度に多くなると、押出材の二次加工性の悪化を招くおそれがある。押出材中のSiの含有量を1.8質量%以下とすることにより、二次加工性の悪化を回避しつつ、押出材の強度を向上させることができる。二次加工性の悪化をより確実に回避する観点からは、前記押出材中のSiの含有量は、1.6質量%以下であることが好ましく、1.4質量%以下であることがより好ましく、1.3質量%以下であることがさらに好ましい。
・Zn:1.5質量%超え3.0質量%以下
前記押出材は、必須成分として1.5質量%超え3.0質量%以下のZnを含有している。Znは、前記押出材の自然電位を卑化する作用を有している。押出材中のZnの含有量を1.5質量%よりも多くすることにより、押出材の自然電位を配管に対して適度に低くし、押出材からなる配管コネクタを配管に対する犠牲陽極として機能させることができる。また、前記押出材中のZnの含有量を1.5質量%よりも多くすることにより、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めやすくすることができる。
押出材からなる配管コネクタによる犠牲防食効果をより確実に得るとともに、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率をより高めやすくする観点からは、押出材中のZnの含有量は、1.6質量%以上であることが好ましく、1.7質量%以上であることがより好ましく、1.8質量%以上であることがさらに好ましく、1.9質量%以上であることが特に好ましい。前記押出材中のZnの含有量が1.5質量%以下の場合には、押出材からなる配管コネクタによる犠牲防食効果の低下を招くおそれがある。また、この場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めることが難しくなるおそれがある。
一方、前記押出材中のZnの含有量が過度に多くなると、押出材の自然電位が過度に低下し、自己耐食性の悪化を招くおそれがある。押出材中のZnの含有量を3.0質量%以下とすることにより、押出材からなる配管コネクタの自己耐食性の悪化を容易に回避し、配管に対する犠牲防食効果を長期間に亘って維持することができる。押出材の自己耐食性の悪化をより確実に回避する観点からは、押出材中のZnの含有量は、2.8質量%以下であることが好ましく、2.6質量%以下であることがより好ましく、2.4質量%以下であることがさらに好ましい。
また、前記押出材中のSiの含有量とZnの含有量との合計は2.2質量%以上であることが好ましく、2.4質量%以上であることがより好ましく、2.6質量%以上であることがさらに好ましい。例えば自動車用熱交換器のスクラップや自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップ等には、Al-Si系合金からなるろう材やAl-Zn系合金からなる犠牲陽極材が含まれている。そのため、これらのアルミニウム廃材を鋳造原料として使用する場合には、Si及びZnの含有量が高くなりやすい。
それ故、前記押出材中のSiの含有量とZnの含有量との合計を2.2質量%以上とすることにより、鋳造原料中に占める、自動車用熱交換器のスクラップや自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップなどのSiおよびZnを比較的多く含むアルミニウム廃材の比率をより高めやすくすることができる。
・Cu:0.10質量%以上0.80質量%以下
前記押出材は、必須成分として0.10質量%以上0.80質量%以下のCuを含有している。Cuは前記押出材の強度を向上させる作用を有している。前記押出材中のCuの含有量を0.10質量%以上、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上とすることにより、前記押出材の強度を向上させることができる。また、この場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めやすくすることができる。前記押出材中のCuの含有量が0.10質量%未満の場合には、押出材の強度の低下を招くおそれがある。また、この場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めることが難しくなるおそれがある。
一方、前記押出材中のCuの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における鋳塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。押出材中のCuの含有量を0.80質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、押出材の強度を向上させることができる。押出加工性の悪化をより確実に回避する観点からは、押出材中のCuの含有量は、0.60質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましい。
・Mn:0.50質量%以上1.8質量%以下
前記押出材は、必須成分として0.50質量%以上1.8質量%以下のMnを含有している。Mnは前記押出材の強度を向上させる作用を有している。また、Mnは、前記押出材の製造過程において鋳塊中にAl-Mn-Si系金属間化合物やAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物等を形成することができる。鋳塊中にこれらの金属間化合物を形成することにより、結晶粒界へのSiの偏析を抑制し、冷間加工時の割れの発生を抑制することができる。前記押出材中のMnの含有量を0.50質量%以上とすることにより、前記押出材の強度を向上させるとともに、冷間加工時の割れの発生を抑制することができる。
前記押出材の強度をより向上させる観点からは、押出材中のMnの含有量は、0.60質量%以上であることが好ましく、0.70質量%以上であることがより好ましく、0.80質量%以上であることがさらに好ましく、0.90質量%以上であることが特に好ましい。前記押出材中のMnの含有量が0.50質量%未満の場合には、押出材の強度及び二次加工性の低下を招くおそれがある。
一方、前記押出材中のMnの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における鋳塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。押出材中のMnの含有量を1.8質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、押出材の強度及び二次加工性を向上させることができる。押出加工性の悪化をより確実に回避する観点からは、押出材中のMnの含有量は、1.7質量%以下であることが好ましく、1.6質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましい。
・Mg:0質量%超え0.50質量%以下
前記押出材は、必須成分として0質量%超え0.50質量%以下のMgを含有している。Mgは前記押出材の強度を向上させる作用を有している。前記押出材の強度をより高める観点からは、前記押出材中のMgの含有量は0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましい。また、この場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率をより高めやすくすることができる。
一方、前記押出材中のMgの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における鋳塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。押出材中のMgの含有量を0.50質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、押出材の強度を向上させることができる。押出加工性の悪化をより確実に回避する観点からは、押出材中のMgの含有量は、0.45質量%以下であることが好ましく、0.40質量%以下であることがより好ましく、0.35質量%以下であることがさらに好ましい。
前記押出材は、前述した必須成分に加え、さらに、Fe(鉄):0質量%超え0.50質量%以下、Cr(クロム):0質量%超え0.10質量%以下、Ti(チタン):0質量%超え0.10質量%以下、Zr(ジルコニウム):0質量%超え0.10質量%以下及びV(バナジウム):0質量%超え0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を任意成分として含んでいてもよい。
・Fe:0質量%超え0.50質量%以下
前記押出材中には、任意成分として、0質量%超え0.50質量%以下のFeが含まれていてもよい。Feは、前記押出材の強度を向上させる作用を有している。前記押出材の強度をより高める観点からは、前記押出材中のFeの含有量は0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましく、0.20質量%以上であることが特に好ましい。
一方、前記押出材中のFeの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における鋳塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。押出材中のFeの含有量を好ましくは0.50質量%以下、より好ましくは0.45質量%以下、さらに好ましくは0.40質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、押出材の強度をより向上させることができる。
・Cr:0質量%超え0.10質量%以下、Ti:0質量%超え0.10質量%以下、Zr:0質量%超え0.10質量%以下及びV:0質量%超え0.10質量%以下
前記押出材中には、0質量%超え0.10質量%以下のCr、0質量%超え0.10質量%以下のTi、0質量%超え0.10質量%以下のZr及び0質量%超え0.10質量%以下のVからなる群より選択される1種または2種以上の元素が任意成分として含まれていてもよい。これらの元素は、押出材の金属組織における結晶粒を微細化する作用を有している。結晶粒を微細化する効果をより高める観点からは、押出材中のこれらの元素の含有量は、各元素について0.01質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましく、0.03質量%以上であることが特に好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過度に多くなると、前記押出材の製造過程において、鋳塊中に粗大な金属間化合物が形成されやすくなる。これらの粗大な金属間化合物は、熱間押出時や熱間押出後の二次加工時の割れの原因となるため好ましくない。押出材中のこれらの元素の含有量を、各元素について0.10質量%以下とすることにより、鋳塊中への粗大な金属間化合物の形成をより容易に回避することができる。
・その他の元素
押出材中には、不可避的不純物として、前述した元素以外の元素が含まれていてもよい。不可避的不純物として含まれ得る元素としては、例えば、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、Ca(カルシウム)、Ni(ニッケル)、Sr(ストロンチウム)、Sn(スズ)、Bi(ビスマス)等が挙げられる。これらの元素の含有量は、例えば各元素について0.05質量%以下であればよい。また、不可避的不純物としての元素の含有量の合計は0.50質量%以下であればよい。
[構造]
前記押出材の構造は特に限定されることはなく、種々の態様をとり得る。例えば、押出材は、配管を保持するための中空部を備えた筒状の断面形状を有していてもよい。また、押出材の長さや断面の外寸法は、所望する配管コネクタの用途に応じて適宜設定すればよい。
押出材における最も肉厚が薄い部分の肉厚は、0.5mm以上であることが好ましい。押出材中に肉厚が過度に薄い部分が存在する場合には、熱間押出を行うために必要な圧力が高くなり、熱間押出を行うことが難しくなるおそれがある。押出材の肉厚を、いずれの部分においても0.5mm以上とすることにより、熱間押出を容易に行うことができる。
また、押出材における最も肉厚が厚い部分の肉厚は10mm以下であることが好ましい。押出材中に肉厚が過度に厚い部分が存在する場合には、熱間押出の際に、ダイの内部におけるメタルの溶着が不十分となり、押出材に割れが生じやすくなるおそれがある。押出材の肉厚を、いずれの部分においても10mm以下とすることにより、健全な押出材を容易に得ることができる。
(配管コネクタ)
前記押出材は、前述したように、熱交換器の配管を接続するための配管コネクタとして好適な特性を有している。それ故、前記押出材からなる配管コネクタは、優れた性能を有している。また、前記押出材からなる配管コネクタは、配管に対する犠牲陽極として機能することができるため、配管の腐食を長期間に亘って抑制することができる。
(アルミニウム合金押出材の製造方法)
前記アルミニウム合金押出材を作製するに当たっては、まず、前記化学成分を有する鋳塊を鋳造する。鋳塊の鋳造方法は特に限定されることはなく、DC鋳造やCC鋳造などの公知の鋳造方法を採用することができる。
鋳造原料としては、アルミニウム新地金、中間合金及びアルミニウム廃材を使用することができる。鋳造原料に占めるアルミニウム廃材の比率は10質量%以上とする。これにより、作製時に多量のエネルギーが消費されるアルミニウム新地金の使用量を低減し、ひいては前記押出材を作製する際の環境負荷を低減することができる。押出材を作製する際の環境負荷をより低減する観点からは、鋳造原料に占めるアルミニウム廃材の比率は20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
鋳造原料として使用されるアルミニウム廃材には、例えば、廃棄されたアルミニウム製品、廃棄された製品から分離されたアルミニウム製部品、アルミニウム製品やアルミニウム製部品の製造過程で発生する端材及び切りくず等が含まれる。アルミニウム廃材を鋳造原料として用いる場合には、アルミニウム廃材をそのまま溶解してもよい。また、アルミニウム廃材を切断したり、圧縮したりすることによりアルミニウム廃材のサイズを調整した後に溶解してもよい。さらに、アルミニウム廃材から一旦アルミニウム再生地金を作製した後、アルミニウム再生地金を鋳造原料として使用してもよい。鋳造原料としてアルミニウム再生地金を使用する場合、前述した鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率には、アルミニウム再生地金中のアルミニウム廃材の比率が含まれる。
アルミニウム廃材を鋳造原料として再利用するに当たっては、化学成分の調整をより容易に行う観点から、予め、アルミニウム廃材に付随した、アルミニウム以外の金属を主成分とする部品を除去することが好ましい。同様の観点から、予め、アルミニウム廃材中に含まれる合金の類似度に応じてアルミニウム廃材を分別しておくことが好ましい。
鋳造原料には、Si:0.50質量%以上、Fe:0.10質量%以上、Cu:0.10質量%以上、Mn:0.50質量%以上、Mg:0.05質量%以上、Zn:0.10質量%以上からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなるスクラップ、自動車用熱交換器のスクラップまたは自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップのうち少なくとも1種のスクラップが含まれていることが好ましい。これらのスクラップには、前記押出材における必須成分が含まれていることが多い。そのため、これらのスクラップを鋳造原料として用いることにより、鋳造原料に占めるアルミニウム新地金の比率を低減しつつ、前記押出材の化学成分をより容易に所望の範囲に調整することができる。
なお、前述した自動車用熱交換器のスクラップには、例えば、自動車から回収したアルミニウム製熱交換器やその構成部品等が含まれる。また、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップには、例えば、Al-Si系合金からなるろう材を含むブレージングシートや、Al-Zn系合金からなる犠牲陽極材を含むクラッド材の端材及びこれらの切りくず等が含まれる。
前述したアルミニウム廃材の中でも、特に、自動車用熱交換器のスクラップ及び自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップには、ろう材を構成するAl-Si系合金や、犠牲陽極材を構成するAl-Zn系合金などの多様な化学成分を有するアルミニウム合金が混在していることが多い。それ故、これらのスクラップは、従来、化学成分の調整が比較的容易なアルミニウム合金鋳造材の鋳造原料としては再利用されているものの、自動車用熱交換器等のスクラップを鋳造材に比べて化学成分の調整が難しい展伸材の鋳造原料として再利用することは避けられてきた。
これに対し、前記製造方法においては、化学成分を前記特定の範囲とすることにより、化学成分の調整が鋳造材に比べて難しい押出材においても製造性及び機械的特性を向上させることができる。また、前記押出材には、自動車用熱交換器のスクラップ等に含まれる元素を比較的多く添加することができるため、押出材の鋳造原料として自動車用熱交換器等のスクラップを容易に利用することができる。それ故、前記製造方法によれば、従来は再利用する際の用途が限られていた自動車用熱交換器等のスクラップを資源としてより有効に活用し、押出材を作製する際の環境負荷をより低減することが期待できる。
かかる作用効果をより高める観点からは、鋳造原料に占める、Si:0.50質量%以上、Fe:0.10質量%以上、Cu:0.10質量%以上、Mn:0.50質量%以上、Mg:0.05質量%以上、Zn:0.10質量%以上からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなるスクラップの比率と、自動車用熱交換器のスクラップの比率と、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップの比率との合計が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
前記押出材の製造方法においては、前記化学成分を有する鋳塊を作製した後、鋳塊を450℃以上620℃以下の温度に2時間以上保持して均質化処理を行う。アルミニウム廃材を含む鋳造原料から鋳造された鋳塊には、アルミニウム廃材中の元素に由来する粗大な晶出物が形成されやすい。鋳塊中に粗大な晶出物が存在する場合であっても、均質化処理における保持温度及び保持時間を前記特定の範囲とすることにより、鋳塊中に存在する粗大な晶出物の分解、粒状化及びAl母相中への再固溶を促進し、鋳塊を十分に均質化することができる。鋳塊中の粗大な晶出物の分解などをより促進する観点からは、均質化処理における保持温度は500℃以上620℃以下であることが好ましい。
均質化処理における保持温度が前記特定の範囲よりも低い場合、または、保持時間が前記特定の範囲よりも短い場合には、鋳塊中の晶出物の分解等が不十分となるおそれがある。また、均質化処理における保持温度が前記特定の範囲よりも高い場合には、鋳塊が部分的に溶融するおそれがある。
なお、鋳塊の均質化を十分に行う観点からは、均質化処理における保持時間に上限はないが、生産性の観点からは、均質化処理における保持時間を24時間以下とすることが好ましい。
前記均質化処理後の前記鋳塊に、その温度が400℃以上550℃以下である間に熱間押出を行うことによりアルミニウム合金押出材を得ることができる。熱間押出における押出方法は特に限定されることはなく、ポートホール押出やマンドレル押出などの種々の方法を採用することができる。
熱間押出における押出開始時の鋳塊の温度が前記特定の範囲よりも低い場合には、熱間押出に必要な圧力が過度に高くなり、熱間押出を行うことが難しくなるおそれがある。また、押出開始時の鋳塊の温度が前記特定の範囲よりも高い場合には、押出後の押出材に、ムシレ欠陥と呼ばれる、押出材の表面からアルミニウム合金がむしり取られたような欠陥が生じやすくなるおそれがある。
熱間押出における押出加工性を確保する観点からは、熱間押出における押出開始時の鋳塊の温度を420℃以上とすることが好ましく、440℃以上とすることがより好ましい。また、ムシレ欠陥の発生をより効果的に抑制する観点からは、熱間押出における押出開始時の鋳塊の温度を540℃以下とすることが好ましく、510℃以下とすることがより好ましく、480℃以下とすることがさらに好ましく、470℃以下とすることが特に好ましい。
また、熱間押出における押出比、つまり、押出後に得られる押出材の断面積に対する押出前の鋳塊の断面積の比率は、10以上500以下であることが好ましく、100以上200以下であることがより好ましい。熱間押出における押出比を前記特定の範囲とすることにより、熱間押出に必要な圧力を低下させるとともに、熱間押出中にダイス内においてメタルを十分に溶着させることができる。
前記アルミニウム合金押出材の製造方法においては、必要に応じて熱間押出後の押出材に引き抜き加工を施し、押出材の寸法を調整することもできる。また、熱間押出後の押出材や引き抜き加工後の押出材に必要に応じて熱処理を施し、押出材の機械的特性を調整することもできる。例えば、押出材をT5またはT6等の質別記号で表される質別に調質しようとする場合には、熱間押出後の押出材に焼入れを施した後、時効処理を施せばよい。
(実施例1)
前記アルミニウム合金押出材及びその製造方法の実施例を以下に説明する。本例のアルミニウム合金押出材は、Si:0.60質量%以上1.8質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.80質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.8質量%以下、Mg:0質量%超え0.50質量%以下及びZn:1.5質量%超え3.0質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。
本例のアルミニウム合金押出材の作製方法は、例えば以下の通りである。まず、DC鋳造により、表1に示す化学成分(合金記号A1~A2)を有する鋳塊を鋳造する。鋳塊の形状は、例えば直径90mmの円柱状とすることができる。また、鋳造原料としては、アルミニウム新地金、アルミニウム再生地金、中間合金及びアルミニウム廃材を用いることができる。なお、表1における記号「Bal.」は、当該元素が残部であることを示す。
その後、鋳塊を加熱して均質化処理を行う。均質化処理における保持温度及び保持時間は表2に示す通りとする。均質化処理が完了した後、鋳塊の温度が450℃である状態で鋳塊に熱間押出を行うことにより、アルミニウム合金押出材を得ることができる。
(実施例2)
本例では、実施例1と同様の製造方法により条材を作製し、諸特性の評価を行う。具体的には、実施例1と同様の製造方法により、表2に示すアルミニウム合金からなる幅35mm、厚み3.0mmの条材を作製する。強制空冷により熱間押出直後の条材に焼入れを施した後、焼入れが完了した時点から72時間後に、条材を175℃の温度に5時間保持して焼き戻しを行う。以上により、条材を質別記号T5で表される質別に調質し、表2に示す試験材S1~S2を得ることができる。
なお、表2に示す試験材R1~R4は、試験材S1~S2との比較のための試験材である。試験材R1~R4の製造方法は、鋳塊の化学成分および均質化処理における処理条件を表2に示すように変更した以外は、試験材S1~S2の製造方法と同様である。
アルミニウム合金押出材の製造性、機械的特性及び犠牲防食効果の評価方法は以下の通りである。
[製造性]
アルミニウム合金押出材の製造性は、鋳塊を熱間押出する際の押出圧力及び冷間加工後の試験材の外観に基づいて評価することができる。押出圧力は、押出比や押出により得られる断面形状によって変化するため、実用合金との相対比較により評価することが好ましい。表2の「押出圧力」欄における記号「A」は、A6063合金を熱間押出する際の押出圧力に対する前記鋳塊を熱間押出する際の押出圧力の増加率が25%以下であることを示し、記号「B」は押出圧力の増加率が25%を超えることを示す。また、同表の「外観」欄における記号「A」は、試験材に冷間加工を施して厚みを1.0mmまで減少させた場合に、冷間加工後の試験材に割れが生じていないことを示し、記号「B」は冷間加工後の試験材に割れが生じたことを示す。
[機械的特性]
アルミニウム合金押出材の機械的特性は、試験材の引張強さに基づいて評価することができる。具体的には、各試験材の押出方向における中央部からJIS Z2241:2011に規定された5号試験片を採取した後、JIS Z2241:2011に準拠した方法により試験片の引張試験を行う。そして、引張試験により得られた試験力-変位曲線に基づいて引張強さを算出する。表2に各試験材の引張強さを示す。
[犠牲防食効果]
試験材の犠牲防食効果は、自然電位に基づいて評価することができる。試験材の自然電位を測定するに当たっては、まず、試験材を切断して自然電位測定用の小片を準備する。この小片の表面に、電解液と接触させる測定部及びポテンショスタットに接続する端子部が露出するようにして電気絶縁性のシーラントを塗布する。
シーラントを塗布した小片及び参照電極をポテンショスタットに接続した後、5%NaCl溶液に24時間浸漬し、参照電極を基準とした場合の試験材の自然電位を計測する。表2に、浸漬後18時間経過した時点から24時間経過した時点までの試験材の自然電位の平均値を示す。なお、参照電極としては、例えばAg/AgCl電極を使用することができる。
また、表2の「電位差」欄には、配管として多用されているA6063合金の自然電位に対する各試験材の自然電位の電位差を示す。A6063合金の自然電位の測定方法は、前述した試験材の自然電位の測定方法と同様である。
Figure 2023048805000001
Figure 2023048805000002
表2に示すように、試験材S1~S2は前記特定の化学成分を有しているため、熱間押出における押出加工性、二次加工性及び機械的特性に優れている。また、試験材S1~S2にはアルミニウム以外の元素が比較的多く含まれているため、アルミニウム廃材を鋳造原料として使用し、アルミニウム新地金の比率を低減した場合においてもこのような化学成分を容易に実現することができる。
一方、試験材R1及び試験材R2中のZnの含有量は前記特定の範囲よりも少ないため、これらの試験材の自然電位は試験材S1~S2に比べて高い。それ故、試験材R1及び試験材R2は、配管に対する犠牲防食効果が不十分となるおそれがある。
試験材R3中のMnの含有量は前記特定の範囲よりも少ないため、試験材R3の二次加工性は試験材S1~S2に比べて劣っている。
試験材R4中のMgの含有量は前記特定の範囲よりも多いため、試験材R4の熱間押出における押出加工性は試験材S1~S2に比べて劣っている。
以上、前記アルミニウム合金押出材及びその製造方法の例を実施例に基づいて説明したが、本発明にかかるアルミニウム合金押出材及びその製造方法の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
本発明の一態様は、Si(シリコン):0.60質量%以上1.8質量%以下、Cu(銅):0.10質量%以上0.80質量%以下、Mn(マンガン):0.50質量%以上1.8質量%以下、Mg(マグネシウム):0質量%超え0.50質量%以下及びZn(亜鉛):1.5質量%超え3.0質量%以下を含み、さらに、Fe(鉄):0質量%超え0.50質量%以下、Cr(クロム):0質量%超え0.10質量%以下、Ti(チタン):0質量%超え0.10質量%以下、Zr(ジルコニウム):0質量%超え0.10質量%以下及びV(バナジウム):0質量%超え0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有する、配管コネクタ用アルミニウム合金押出材にある。
前記押出材は、前述した必須成分に加え、さらに、Fe(鉄):0質量%超え0.50質量%以下、Cr(クロム):0質量%超え0.10質量%以下、Ti(チタン):0質量%超え0.10質量%以下、Zr(ジルコニウム):0質量%超え0.10質量%以下及びV(バナジウム):0質量%超え0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含んでいる

Claims (6)

  1. Si:0.60質量%以上1.8質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.80質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.8質量%以下、Mg:0質量%超え0.50質量%以下及びZn:1.5質量%超え3.0質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する、配管コネクタ用アルミニウム合金押出材。
  2. 前記配管コネクタ用アルミニウム合金押出材は、さらに、Fe:0質量%超え0.50質量%以下、Cr:0質量%超え0.10質量%以下、Ti:0質量%超え0.10質量%以下、Zr:0質量%超え0.10質量%以下及びV:0質量%超え0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含んでいる、請求項1に記載の配管コネクタ用アルミニウム合金押出材。
  3. 前記配管コネクタ用アルミニウム合金押出材中のSiの含有量とZnの含有量との合計が2.2質量%以上である、請求項1または2に記載の配管コネクタ用アルミニウム合金押出材。
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載の配管コネクタ用アルミニウム合金押出材からなる配管コネクタ。
  5. 請求項1~3のいずれか1項に記載の配管コネクタ用アルミニウム合金押出材の製造方法であって、
    アルミニウム廃材を10質量%以上含有する鋳造原料を用いて前記化学成分を有する鋳塊を鋳造し、
    前記鋳塊を450℃以上620℃以下の温度に2時間以上保持して均質化処理を行い、
    前記均質化処理後の前記鋳塊に、その温度が400℃以上550℃以下である間に熱間押出を行うことにより前記配管コネクタ用アルミニウム合金押出材を作製する、配管コネクタ用アルミニウム合金押出材の製造方法。
  6. 前記アルミニウム廃材には、Si:0.50質量%以上、Fe:0.10質量%以上、Cu:0.10質量%以上、Mn:0.50質量%以上、Mg:0.05質量%以上、Zn:0.10質量%以上からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなるスクラップ、自動車用熱交換器のスクラップまたは自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップのうち少なくとも1種のスクラップが含まれている、請求項5に記載の配管コネクタ用アルミニウム合金押出材の製造方法。
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