JP2023037488A - 薬剤送達デバイスおよびその製造方法 - Google Patents

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Takuya Miyazaki
美智子 伊藤
Michiko Ito
裕子 松本
Hiroko Matsumoto
紗綾香 金井
Sayaka KANAI
亮 松元
Ryo Matsumoto
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Kanagawa Institute of Industrial Science and Technology
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Tokyo Medical and Dental University NUC
Kanagawa Institute of Industrial Science and Technology
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Abstract

【課題】穿刺する際に十分な機械的強度を持つ、マイクロニードル型薬剤送達デバイスを提供する。【解決手段】マイクロニードル10は、ベース100部と、ベース部100に支持された少なくとも1つのニードル110とを有する。ニードル110は、薬剤を担持することができ、かつ前記薬剤の透過性を有するゲル組成物を含む。ベース部100は、ニードル110が担持する薬剤のリザーバとなる多孔質体を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、薬剤を担持することのできるニードルを有する薬剤送達デバイスおよびその製造方法に関する。
薬剤を経皮的に投与するデバイスとしてマイクロニードルが知られている。マイクロニードルは、例えば特許文献1に開示されるように、投与する薬剤を担持した長さが1mm以下の複数のニードルをアレイ状に配列したパッチとして提供され、皮膚表面に貼付することでニードルを経由して薬剤が送達されるように構成される。そのため、マイクロニードルは、低侵襲的に、かつ長時間にわたって連続的に薬剤を投与できるという特徴を有している。
国際公開第2019/182099号
マイクロニードル型薬剤送達デバイスを皮膚に装着する際には、ニードルが皮膚に十分に突き刺さるように、デバイスを皮膚にしっかりと押し当てる必要がある。しかしながら、従来のマイクロニードル型薬剤送達デバイスは、主にベース部分(リザーバ部分)の強度が不十分なために、穿刺する際に加圧しにくいことがあった。また、従来のマイクロニードルは、ニードルが非常に微細であることから力学的強度が不足し、ニードルを皮膚に穿刺する際にニードルが折れたり座屈したりすることがあった。これを防止するため、ニードルを高い力学的強度を有する材料で構成したり、ニードルの表面を高い力学的強度を有する材料でコーティングしたりすることが考えられる。しかし一般に、力学的強度が高い材料は密な構造を有しているため、ニードルからの薬剤の放出量が減少するなど薬剤の送達能が低下する可能性があった。
本発明は、薬剤の送達能への影響を抑制しつつ、穿刺する際の加圧を容易にするのに十分な機械的強度を持った、マイクロニードル型薬剤送達デバイスおよびその製造方法を提供することを目的の一つとする。
本発明の薬剤送達デバイスは、ベース部と、
前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルと、
を有し、
前記ニードルは、薬剤を担持することができ、かつ前記薬剤の透過性を有するゲル組成物を含み、
前記ベース部は、前記ニードルが担持する薬剤のリザーバとなる多孔質体を有する。
本発明の薬剤送達デバイスの製造方法は、ベース部と、前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルとを有する薬剤送達デバイスの製造方法であって、
多孔質体を用意する工程と、
前記ベース部が前記多孔質体を有するように、型を用いて前記ベース部および前記ニードルを成型する工程と、
を含み、
前記ニードルは、薬剤を担持することができ、かつ前記薬剤の透過性を有するゲル組成物を含み、
前記成型する工程は、
プレゲル溶液を注入する工程と、
前記プレゲル溶液中の前記単量体混合物を重合して前記ゲル組成物を形成する工程と、
を含む。
(用語の定義)
本明細書において、「生理的条件」とは、生体内と同等のpH、温度およびイオン組成に調整された水溶液を意味する。例えば、pHは、好ましくは1~9、さらに好ましくは7~8、温度は、好ましくは30~40℃、イオン組成は、塩化ナトリウム濃度が好ましくは100~200mMである。
また、本明細書において「約」という用語は、それに続く数値の前後10%の範囲を指すために使用される。すなわち、約30mol%は27mol%~33mol%の範囲を意味する。
本発明によれば、穿刺する際に十分な機械的強度を持つニードルを有する薬剤送達デバイスおよびその製造方法が提供される。
本発明の一形態によるマイクロニードルの模式的断面図である。 本発明の他の形態によるマイクロニードルの模式的断面図である。 図1に示すマイクロニードルの製造に用いられる型の一形態の断面図である。 図1に示すマイクロニードルの製造に用いられる型の他の形態の断面図である。 本発明の他の形態によるマイクロニードルの模式的断面図である。 実験2-1および実験2-2で得られたPEシート付マイクロニードルの、ニードル側から見た拡大写真である。 実験2-1および実験2-2で得られたPEシート付マイクロニードルを貼付した後のマウスの皮膚表面の写真である。
図1を参照すると、ベース部100と、複数のニードル110とを有し、皮膚に貼付するパッチとして提供される、本発明の一実施形態によるマイクロニードル10が示されている。ベース部100は、複数のニードル110を支持するシート状の部分であり、これらニードル110を支持でき、穿刺時の加圧に耐えうる機械的強度を有している。複数のニードル110がベース部100に支持されることで、複数のニードル110は、ニードルアレイとして構成される。ニードル110は、このマイクロニードル10が送達する薬剤を担持することができ、かつ、薬剤の透過性を有する、ゲル組成物を含む。
以下、マイクロニードル10についてより詳しく説明する。
[薬剤]
本発明に係る薬剤送達デバイスを用いて送達され得る薬剤としては、タンパク質、ペプチド、核酸、他の高分子ポリマー、低分子化合物などが挙げられるが、これらに限定はされない。薬剤は、疾患の治療剤、予防薬、ワクチン、栄養サプリメントなどであってもよい。特に好ましい薬剤は、インスリンである。様々な天然型インスリンあるいは改変インスリンが市販品の購入あるいは合成により利用可能となっている。インスリンとしては、例えば、ヒューマリン(登録商標)を使用してもよい。ヒューマリン(登録商標)は、イーライリリー社が販売しているヒト(遺伝子組換え)インスリンである。インスリン製剤には、速効型、中間型、持効型を含む各種製剤が開発されており、適宜選択して使用することができる。
[ベース部]
ベース部100は、多孔質体を有する。多孔質体の空隙にはニードル110が担持する薬剤を保持することができ、よって、多孔質体を薬剤のリザーバとして機能させることができる。例えば、多孔質体の空隙にゲル組成物を充填し、そのゲル組成物中に薬剤を含ませてもよい。多孔質体は、ニードル110を皮膚に穿刺(刺入ともいう)する際に皮膚から受ける反力によるベース部100の撓みを抑制する力学的強度を有する。ベース部100の全体が多孔質体で構成されてもよいし、ベース部100の一部が多孔質体で構成されてもよい。ベース部100の一部が多孔質体で構成される場合としては、例えば、図1Aに示すように、ベース部100が、多孔質体100aの外面の少なくとも一部を覆う、ニードル110を構成するゲル組成物と同じ成分のゲル組成物100bをさらに有することが挙げられる。ベース部100の一部が多孔質体で構成される場合、多孔質体がリザーバとして機能するためのリザーバとニードル110との連続性の観点、およびニードル110を皮膚に刺入する際のベース部100の撓み抑制の観点から、多孔質体はニードル110側の領域にニードルと接して位置していることが好ましい。なお、薬剤の良好な保持のために、ベース部100はハウジングまたはシートにより覆われていてもよい。
多孔質体は、上記の力学的強度を有する限り、材料および構造は特に限定されない。本形態では、ポリマー粒子を焼結したポリマー焼結体を多孔質体として用いることができる。ポリマー焼結体に用いるポリマーとしては、ポリエチレン(PE)を挙げることができる。粒子のサイズは、薬剤を保持する空隙を確保できる限り特に限定されない。例えば、好ましい粒子のサイズの範囲としては、平均粒子径が10μm以上、または20μm以上であってよく、また、平均粒子径が300μm以下、200μm以下、100μm以下、または60μm以下であってよい。多孔質体の気孔率は、ベース部100に必要とされる力学的強度およびベース部100が保持すべき薬剤の量に応じて任意に定めることができる。例えば、好ましい気孔率の範囲としては、20%以上、30%以上または40%以上であってよく、また80%以下、70%以下または60%以下であってよい。また、多孔質体の厚さ(マイクロニードル10を皮膚に刺入する際に力を加える方向に平行な方向での長さ)は、要求される力学的強度および皮膚への貼付性などに応じて定めることができ、好ましい厚さの範囲は、1mm以上、または1.5mm以上であってよく、また、3mm以下、または2.5mm以下であってよい。
本形態の多孔質体として、例えば、超高分子量ポリエチレンである旭化成社製サンファイン(登録商標)を用いた多孔質PEシートを用いることができる。このような多孔質PEシートとして、厚さが約2mm、見掛け密度が約500kg/m、気孔率が約50%、平均気孔径が約160μmの多孔質PEシートを用いることができる。
ベース部100が、薬剤のリザーバとして機能する多孔質体を有することで、薬剤を長期間(例えば7日間)にわたって放出することができるようになる。長期間にわたる薬剤の放出が可能なマイクロニードルは、血中グルコース濃度に応じて薬剤としてインスリンを投与するインスリン送達マイクロニードルとして好適に用いることができる。
ベース部100の平面形状は、円形、楕円形および多角形など任意の形状であってよく、例えば矩形状とすることができる。
[ニードル]
(配置および形状)
ニードル110の長さは、ニードル110を皮膚に穿刺したときにニードル110が角質層に達する十分な長さを有していればよく、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下であってよい。ニードル110の数および配置は任意であってよい。例えば、複数のニードル110を、M×N(M、Nはそれぞれ1~30の整数)のマトリックス状に配列することができる。具体的な配置の一例としては、8mm×8mmの矩形領域中に、10×12本のニードル110が500μmピッチで配置される。ニードル110の形状は、皮膚に穿刺できる先端を有していれば任意であってよく、好ましくは円錐形状または角錐形状、例えばピラミッド形状とすることができる。
(成分)
ニードル110は、送達する薬剤に応じて、薬剤の透過性を有している限り、任意の成分を含むことができる。以下、マイクロニードル10を、薬剤としてインスリンを血中グルコース濃度に応じて送達するデバイスとして用いる場合に好ましいニードル110の成分について説明する。
ニードル110は、少なくとも先端部が、フェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体を含むゲル組成物を含むことができる。ゲル組成物は、具体的には後述するようにフェニルボロン酸系単量体を含む単量体混合物を共重合することで得られ、その結果、共重合体の架橋分子構造を有するゲルが得られる。本出願において、「単量体ユニット」は、単量体に由来する(共)重合体中の構造単位を意味し、以下の説明において「単量体」を「単量体ユニット」の意味で使用することもある。フェニルボロン酸系単量体とは、下記式:
Figure 2023037488000002
(式中、Xは置換基を示し、好ましくはFであり、nは1~4の整数を表す。)
で表されるフェニルボロン酸官能基を有する単量体を意味する。
<ゲル組成物>
インスリン送達マイクロニードルでは、以下に記載するような、フェニルボロン酸構造がグルコース濃度に依存して構造を変化させるメカニズムを利用する。
Figure 2023037488000003
水中で解離したフェニルボロン酸(以下、本明細書において「PBA」と表記することもある)は糖分子と可逆的に結合し、上記の平衡状態を保っている。グルコース濃度が高くなると結合して体積も膨張するが、グルコース濃度が低い場合には収縮する。ニードル110が皮膚に穿刺された状態では、血液と接触したゲル界面でこの反応が生じ、界面でのみゲルが収縮して本発明者等が「スキン層」と呼ぶ脱水収縮層を生じる。この性質をインスリンの放出制御のために利用する。
好適に使用可能なゲル組成物は、上記の性質を有するフェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体を含むゲル組成物である。ゲル組成物は、特に限定するものではないが、例えば特許第5696961号公報に記載されたものが挙げられる。
ゲル組成物の調製のために使用するフェニルボロン酸系単量体は、限定するものではないが、例えば下記の一般式で表される。
Figure 2023037488000004
[式中、RはHまたはCHであり、Fは独立に存在し、nが1、2、3または4のいずれかであり、mは0または1以上の整数である。]
上記のフェニルボロン酸系単量体は、フェニル環上の水素が、1~4個のフッ素で置換されたフッ素化フェニルボロン酸(以下、本明細書では「FPBA」と表記することもある)基を有し、当該フェニル環にアミド基の炭素が結合した構造を有する。上記構造を有するフェニルボロン酸系単量体は、高い親水性を有しており、またフェニル環がフッ素化されていることにより、pKaを生体レベルの7.4以下に設定し得る。さらに、このフェニルボロン酸系単量体は、生体環境下での糖認識能を獲得するのみならず、不飽和結合により後述するゲル化剤や架橋剤との共重合が可能となり、グルコース濃度に依存して相変化を生じるゲルとなり得る。
上記のフェニルボロン酸系単量体において、フェニル環上の1つの水素がフッ素で置換されている場合、F及びB(OH)の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれであってもよい。
一般に、mを1以上としたときのフェニルボロン酸系単量体は、mを0としたときのフェニルボロン酸系単量体に比べて、pKaを低くすることができる。mは例えば20以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは4以下である。
上記のフェニルボロン酸系単量体の一例としては、nが1、mが2であるフェニルボロン酸系単量体があり、これはフェニルボロン酸系単量体として特に好ましい4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(4-(2-acrylamidoethylcarbamoyl)-3-fluorophenylboronic acid、AmECFPBA)である。
ゲル組成物は、生体内において生体機能に有毒作用や有害作用が生じない性質(生体適合性)を有するゲル化剤と、上記のフェニルボロン酸系単量体と、架橋剤とから調製され得る。調製方法は、特に限定するものではないが、ゲル(共重合体)の主鎖となるゲル化剤、フェニルボロン酸系単量体、および架橋剤を、所定の仕込みモル比で含む単量体成分と混合し、単量体を重合反応させることにより、調製することができる。重合のために、必要に応じて重合開始剤を使用する。
ゲル組成物中に予めインスリンが含まれていることが好ましい。そのためには、インスリンが所定濃度で含まれたリン酸緩衝水溶液(PBS)等の水溶液中にゲルを浸すことにより、ゲル内にインスリンを拡散させることができる。次いで、水溶液中から取り出したゲルを、例えば塩酸中に所定時間浸すことで、ゲル本体の表面に薄い脱水収縮層(スキン層と呼ぶ)を形成することにより、ニードル110に薬剤を内包(ローディング)させることができる。
ゲル化剤と、フェニルボロン酸系単量体と、架橋剤との好適な比率は、生理的条件下でグルコース濃度に応じてインスリンの放出を制御可能な組成であれば良く、用いる単量体等によって変動するものであり、特に限定するものではない。本発明者等は既に、種々のフェニルボロン酸系単量体を種々の比率でゲル化剤および架橋剤と組み合わせてゲルを調製し、その挙動を検討している(例えば特許第5622188号公報を参照されたい)。当業者であれば、本明細書の記載および当分野で報告されている技術情報に基づいて、好適な組成のゲルを取得することが可能である。
ゲル化剤、フェニルボロン酸系単量体、および架橋剤から得られる共重合体によって形成されるゲル本体が、グルコース濃度に応答して膨張又は収縮し得るとともに、pKa7.4以下の特性を維持でき、ゲル状に形成することができれば、ゲル化剤/フェニルボロン酸系単量体の仕込みモル比を、適宜の数値に設定してゲルを調製することができる。
ゲル化剤としては、生体適合性を有し、かつゲル化し得る生体適合性材料であればよく、例えば生体適合性のあるアクリルアミド系単量体が挙げられる。具体的には、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)、N,N-ジエチルアクリルアミド(DEAAm)等が挙げられる。
また、架橋剤としては、同じく生体適合性を有し、単量体を架橋できる物質であればよく、例えばN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド(MBMAAm)その他種々の架橋剤が挙げられる。
好適な一実施形態では、ゲル組成物は、以下に示すように、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPAAm)、4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、およびN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)を、適宜配合比で溶媒に溶解し、重合することによって得られるものである。重合は、常温および水性条件下で行うことができる。
Figure 2023037488000005
溶媒としては、単量体を可溶な任意の溶媒を用いることができる。そのような溶媒として、例えば、水、アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、イオン液体およびそれらの1種以上の組み合わせが挙げられる。これらの中でもメタノール水溶液を溶媒として好ましく用いることができる。
このような溶媒に、ゲル化剤、PBAおよび架橋剤を溶解したプレゲル溶液を作製し、重合を行う。
上記のゲル組成物では、フェニルボロン酸系単量体がゲル化剤および架橋剤と共重合してゲル本体を形成している。このゲルにインスリンを拡散させるとともに、ゲル本体の表面を脱水収縮層で取り囲む構成とすることができる。この構成をニードル110に適用することで、例えばpKa7.4以下であり、温度35℃~40℃の生理的条件下において、グルコース濃度が高くなると、ニードル110を構成するゲルが膨張する。これに伴って、脱水収縮層が消失し、ゲル内のインスリンを外部へ放出させることができる。
一方、グルコース濃度が再び低くなると、膨張していたゲルが収縮して表面全体に再び脱水収縮層(スキン層)が形成され、ゲル内のインスリンが外部へ放出されることを抑制できる。
従って、このようなゲル組成物は、グルコース濃度に応答してインスリンを自律的に放出させることができる。
重合には、開始剤、促進剤などの触媒を用いることができる。開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム(APS)を用いることができる。促進剤としては、例えばテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を用いることができる。この場合、プレゲル溶液1mlごとに、10重量%の過硫酸アンモニウム6.2μlおよびテトラメチルエチレンジアミン12μlを加え、室温にて重合を行ったところ、10分以内にゲル化が開始された。
ゲル組成物は、フェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体にさらにシルクフィブロイン(SF)を含む複合ゲル組成物であってもよい。この複合ゲル組成物は、フェニルボロン酸系単量体を含む単量体混合物を、SFの存在下で共重合することで得られ、その結果、共重合体の架橋分子構造中にSFの分子がほぼ均一に分散分布している。
複合ゲル組成物に含まれるSFは、ベース部100にも使用できる。SFはニードル110に機械的強度を付与する。SFの量(固形分重量)は、マイクロニードルの機械的強度が好適な値となるように決めることができるが、単量体(フェニルボロン酸系単量体、ゲル化剤および架橋剤)の合計100重量部に対して、例えば10~90重量部とすることができ、好ましくは24~60重量部、より好ましくは40~60重量部である。単量体の合計に対するSFの重量分率を高くするほど複合ゲル組成物の機械的強度を高くすることができる。ただし、SFの重量分率を高くすると、それだけ単量体濃度が低くなる。単量体濃度が低すぎるとゲル組成物が形成されにくくなるので、ゲル組成物の形成が阻害されない範囲で単量体の合計に対するSFの重量分率を決定することが重要である。
好適な一実施形態では、複合ゲル組成物は、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPAAm)、4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)およびSFを、適宜配合比で溶媒に溶解してプレゲル溶液を調製し、これを重合することによって得られる。プレゲル溶液は、ゲル化剤、PBAおよび架橋剤を必要に応じて含んでいてもよい。重合は、SFの変性を避けるために、常温および水性条件下で行うことが好ましい。
なお、SFはゲル化しやすい性質を有するため、プレゲル溶液の調製に際しては、溶媒中にゲル化剤、PBAおよび架橋剤等を溶解させた後に、その溶液にSFをSF溶液の状態で添加するようにすることが好ましい。
溶媒としてメタノール水溶液を用いる場合、SF添加前のプレゲル溶液中のメタノールの体積%は、例えば、40体積%となるようなアルコール水溶液を用いることができる。この場合、SF添加後のプレゲル溶液中のメタノールの好ましい体積%は、3体積%~30体積%、より好ましくは5体積%~20体積%、最も好ましいのは8体積%である。また、溶媒としてエタノール水溶液を用いる場合、PBAはエタノール中での溶解度が低い。そのため、メタノール水溶液を用いる場合と比べて高い体積%、例えばSF添加前のプレゲル溶液中のエタノールの体積%が60体積%となるようにすることが好ましい。
ゲル組成物は、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(NHEAAm)のような水酸基を有する単量体を含んでいてもよい。これにより、温度変化に対する耐性を備えたゲル組成物が得られる。このようなゲル組成物は、以下の態様を含む。
下記一般式(1)
Figure 2023037488000006
[式中、RはH又はCHであり、Fは独立に存在し、nが1、2、3又は4のいずれかであり、mは0又は1以上の整数である。]で表されるフェニルボロン酸系単量体、及び下記一般式(2)
Figure 2023037488000007
[式中、R1はH又はCHであり、mは0又は1以上の整数であり、RはOH、1以上の水酸基で置換された飽和若しくは不飽和のC1-6アルキル基、1以上の水酸基で置換された飽和若しくは不飽和のC3-10シクロアルキル基、1以上の水酸基で置換されたNH、O及びSより選ばれる1~4個のヘテロ原子を含有するC3-12複素環式基、1以上の水酸基で置換されたC6-12アリール基、単糖基、又は多糖基である。]で表される単量体(以下、ヒドロキシル系単量体ともいう。)を含むゲル組成物。
上記一般式(2)の単量体は、分子内に水酸基を有している。特定の理論に拘束するものではないが、この水酸基は、ゲルの親水性を高めて、ボロン酸による疎水性を相殺するとともに、ゲル中のボロン酸に作用して、ゲルの過度な膨潤を防ぐ効果を有すると考えられる。mの上限は特に限定されないが、例えば20以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは4以下である。
上記のヒドロキシル系単量体の一例としては、Rが水素であり、mが1であり、RがOHである単量体が挙げられ、これはヒドロキシル系単量体として特に好ましいN-ヒドロキシエチルアクリルアミド(N-(Hydroxyethyl)acrylamide、NHEAAm)である。特に、側鎖をメチルの代わりにエチルとすることで、側鎖の回転自由度を高め、分子間(ボロン酸側鎖との)架橋反応の効率を格段に向上させる効果がある。そのため、NHEAAmとすることにより、グルコース濃度に依存して相変化を生じる最適なゲルとなり得る。なお、他のヒドロキシル系単量体の例においては、Rは例えば、カテコール基あるいはグリコリル基等の糖誘導体であってもよい。単糖は例えばグルコースでありうる。
一般式(2)で表されるヒドロキシル系単量体は、ゲル組成物中に例えば、1mol以上、5mol%以上、10mol%以上、15mol%以上、20mol%以上、25mol%以上、30mol%以上、35mol%以上、40mol%以上、45mol%以上、50mol%以上、又は60mol%以上の割合で含まれることができる。また、一般式(2)で表されるヒドロキシル系単量体は、ゲル組成物中に例えば、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、45mol%以下、40mol%以下、35mol%以下、30mol%以下、25mol%以下、又は20mol%以下の割合で含まれることができる。濃度範囲としては、一般式(2)で表されるヒドロキシル系単量体は、ゲル組成物中に例えば、10mol%~90mol%、15mol%~45mol%、20mol%~40mol%、又は25mol%~35mol%の範囲内の割合としてもよい。濃度範囲は、上記の上限と下限の任意の組み合わせにより特定されうる。好ましいヒドロキシル系単量体の割合は、約10mol%である。
ゲル組成物は、生体内において生体機能に有毒作用や有害作用が生じない性質(生体適合性)を有するゲル化剤と、上記のフェニルボロン酸系単量体と、上記のヒドロキシル系単量体と、架橋剤とから調製され得る。ゲルの調製方法は、特に限定するものではないが、先ず、ゲルの主鎖となるゲル化剤と、フェニルボロン酸系単量体と、ヒドロキシル系単量体と、架橋剤とを、所定の仕込みモル比で混合し、重合反応をさせることにより、調製することができる。重合のために、必要に応じて重合開始剤を使用する。
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)などの当業者に公知の開始剤を使用することができる。ゲル組成物に加える重合開始剤の割合は、例えば約0.1mol%とすることができる。
重合反応は、例えば、反応溶媒にジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて行うことができ、反応温度は、例えば60℃とすることができ、反応時間は、例えば24時間とすることができるが、これらの条件は、当業者であれば適宜調整することができる。
水酸基を有する単量体を含むゲル組成物の好適な一形態としては、例えば、ゲル化剤(主鎖)としてN-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)、フェニルボロン酸系単量体として4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、ヒドロキシル系単量体としてN-ヒドロキシエチルアクリルアミド(NHEAAm)、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを、例えば、仕込みモル比62/27/11/5/0.1に調整したものが挙げられる。このように調整することで、正常血糖値(1g/L)近傍での温度依存性を大幅に軽減できる。しかしながら、これに限らず、ゲル化剤、フェニルボロン酸系単量体、ヒドロキシル系単量体及び架橋剤を含むゲル組成物によって形成できるゲル本体が、グルコース濃度に応答して膨張又は収縮し得るとともに、所望の温度耐性を示すことができれば、ゲル化剤/フェニルボロン酸系単量体/ヒドロキシル系単量体/架橋剤の仕込みモル比を、その他種々の数値に設定してゲルを調製してもよい。例えば、ゲル組成物は、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)、4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(NHEAAm)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)を、約62/約27/約11/約5(mol%)の仕込みモル比で重合して調製したものであってもよい。
水酸基を有する単量体を含むゲル組成物の好適な他の形態としては、例えば、ゲル化剤(主鎖)としてN-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)、フェニルボロン酸系単量体として4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、ヒドロキシル系単量体としてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(NHEAAm)、架橋剤としてN,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(MBAAm)を、例えば、約60.7/約10.7/約23.8/約4.8の仕込みモル比で溶媒に添加し、これを重合開始剤として光重合開始剤を用いて光重合して調製したものであってよい。例えば、ゲル組成物は、NIPMAAm、AmECFPBA、NHEAAm、MBAAmをそれぞれ、55~65mol%、8~12mol%、20~25mol%、2~8mol%の仕込みモル比で調製したものでありうる。光重合開始剤としては、例えば、イルガキュア(Irgacure)を用いることができる。溶媒としては、例えば、水とメタノールを4/6の体積比で混合した溶液を用いることができる。
Figure 2023037488000008
[ベース部およびニードルの形成]
ベース部100およびニードル110は、型を用いたマイクロモールディング技術を用いて一体的に形成することができる。型としては、例えば、図2に示すようなマイクロニードル型200を用いることができる。マイクロニードル型200は、ベース部100およびニードル110(図1参照)を合わせた形状に対応するキャビティ(凹部)201を有することができる。
このようなマイクロニードル型200を用いた場合のマイクロニードルの製造方法の一例を以下に説明する。まず、ニードル110を構成する単量体を含む単量体混合物を溶媒に溶解させた溶液(プレゲル溶液)を、マイクロニードル型200のニードル110に相当するキャビティ201の部分に流し込む(注入する)。マイクロニードル型200に流し込む溶液の量は、少なくともニードル110に相当するキャビティ201の部分が溶液で充填される量である。次いで、ベース部100に相当する予め用意した多孔質体(例えば、前述した多孔質PEシート)を、流し込んだ溶液の上からマイクロニードル型200内に挿入する。このとき、溶液と多孔質体とが対向する部分において溶液の液面が多孔質体と接するように多孔質体をマイクロニードル型200に挿入する。
マイクロニードル型200への多孔質体の挿入後、適宜方法により単量体混合物を重合する。単量体混合物の重合によりプレゲル溶液はゲル組成物となり、多孔質体を含むベース部100とゲル組成物からなるニードル110とが一体となった成型体が得られる。得られた成型体をマイクロニードル型200から取り出すことによって、マイクロニードル10が製造される。
マイクロニードル型200を用いたベース部100およびニードル110を形成する他の方法として、例えば、マイクロニードル型200のベース部100に相当するキャビティ201の部分に、予め用意した多孔質体を載置し、この状態でマイクロニードル型200のキャビティ201にプレゲル溶液を注入する。その後、プレゲル溶液の単量体混合物を重合し、ゲル化することも可能である。この方法によれば、図1Aに示したような構成のマイクロニードルを得ることができる。また、この方法によりマイクロニードルでは、多孔質体の空隙にゲル組成物が充填されている。
マイクロニードル型200としては、図2Aに示すように、ニードル110に対応するキャビティ201のみを有する平板状のマイクロニードル型200であってもよい。キャビティ201にプレゲル溶液を充填した後、キャビティ201に蓋をするようにマイクロニードル型200の上に多孔質体を載せる。その状態で単量体混合物を重合することによってプレゲル溶液をゲル組成物とし、多孔質体と一体化させる。最後に、多孔質体をマイクロニードル型200から剥離すると、ゲル組成物も多孔質体と一緒に剥離し、これによって、ニードル110とベース部100が一体化したマイクロニードル10が製造される。図2Aに示すマイクロニードル型200を用いることによって、キャビティ201を塞ぐことができる限り、任意の形状およびサイズの多孔質体を使用することができる。
図2および図2Aいずれのマイクロニードル型200においても、キャビティ201へのプレゲル溶液の重点に関して、ニードル110は非常に微細な構造を有するので、所望の形状のニードル110を形成するためには、ニードル110に対応するキャビティ201の部分の先端まで溶液を充填することが重要である。そのため、溶液の重合前に、遠心処理または真空処理を行なうことが好ましい。
遠心処理には、遠心分離機を利用することができる。より詳しくは、溶液を流し込んだマイクロニードル型200をファルコンチューブに入れ、遠心分離機を用いて遠心分離する。これにより溶液をキャビティ201の先端まで充填させることができる。
真空処理は、例えば、多孔質材料でマイクロニードル型200を構成し、そのマイクロニードル型200を減圧下に置いてマイクロニードル型200内の空気を除去した後、溶液をマイクロニードル型200に流し込むことによって行なうことができる。これによって、ニードル110に対応するキャビティ201の部分の先端まで溶液を充填させることができる。マイクロニードル型200を構成する多孔質材料としては、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いることができる。
遠心処理および真空処理のどちらの処理でも、得られるニードル110の形態に大きな差異は見られず、本発明においては遠心処理および真空処理のいずれも利用可能である。
[ベース部の他の形態]
(ゲル含有多孔質体)
前述した形態では、例えば多孔質シートである多孔質体をそのままベース部100に利用したマイクロニードル10について説明した。しかし、図3に示すように、多孔質体101aはその一部または全体にゲル組成物101bを含んでいてもよい。多孔質体101aがゲル組成物を含む場合、ゲル組成物101bは、少なくともニードル110と接する領域に存在することが好ましい。多孔質体101aに含まれるゲル組成物101bは、ニードル110を構成するゲル組成物と同じであってもよいし異なっていてもよい。多孔質体101aからニードル110への薬液の良好な送達のためには多孔質体101aとニードル110が構造的に連続していること、すなわち、多孔質体101aに含まれるゲル組成物101bと、ニードル110を構成するゲル組成物とは同じであることが好ましいと考えられる。
ゲル組成物101bを含む多孔質体101aを有するマイクロニードルは、例えば以下のようにして製造することができる。まず、ゲル組成物を構成する材料を含む単量体混合物を溶媒に溶解させた溶液(プレゲル溶液)を、予め用意したシート状の多孔質体101aの片面側から添加する。このときに添加するプレゲル溶液の量によって、多孔質体101aが含有するゲル組成物101bの量を制御することができる。その後、多孔質体101aに添加されたプレゲル溶液を適宜方法によってゲル化する。これによって、ゲル組成物101bを含有する多孔質体101aが得られる。
マイクロニードル成型用の型のニードルに対応するキャビティの部分に、ニードル用のプレゲル溶液を流し込み、その上に、上記で得られたゲル組成物101bを含有する多孔質体101aを載せる。その後、適宜方法によって、ニードル用のプレゲル溶液をゲル化することによって、ゲル組成物101bを含有する多孔質体101aがニードル110と一体化したマイクロニードルが得られる。
なお、上記の一連の工程において、ゲル組成物101bを含有する多孔質体101aを得る工程を経ず、ゲル組成物101bを含有しない多孔質体101aを用いた場合であっても、最終的にはゲル組成物101bを含有する多孔質体101aを有するベース部100が得られる可能性がある。その理由は、ニードル110の成型用のプレゲル溶液の上に多孔質体101aを載せたとき、プレゲル溶液の粘度によっては、毛管現象によってプレゲル溶液の一部が多孔質体101aに浸透し、それがニードル110用のプレゲル溶液をゲル化することによってゲル組成物となるからである。ただし、この場合は多孔質体101aが含有するゲル組成物の量の制御が困難であり、また、ニードル110用のプレゲル溶液の一部が多孔質体101a側に移行することによってニードル110の成型性に影響を与える可能性がある。一方、ゲル組成物101bを含有する多孔質体101aを予め用意しておき、それを用いてマイクロニードルを製造することで、多孔質体101aへのゲル組成物101bの含有量の制御が容易で、かつ、ニードル用のプレゲル溶液の多孔質体101a側への移行を抑制することができる。
[マイクロニードルの評価]
次に、マイクロニードルの評価について説明する。
(評価1)マイクロニードルの成型性
<実験1>
ゲル化剤(主鎖)としてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、フェニルボロン酸系単量体として4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、ヒドロキシル系単量体としてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(NHEAAm)および架橋剤としてN,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(MBAAm)を、NIPAAm/AmECFPBA/NHEAAm/MBAAm=60.7/10.7/23.8/4.8(モル比)の混合比および5Mの濃度で2-メトキシエタノールに添加した。これに光重合開始剤としてIrgacure651を40mg/mLの濃度で添加し、50℃で10分間溶解してプレゲル溶液を得た。単量体の溶解の際、超音波照射(照射時間:10分、周波数:35kHz)により単量体の溶解を促進した。
次に、得られたプレゲル溶液の一部を予め用意した多孔質PEシート(厚さ:2mm、PE粒子の平均粒径:200μm、見掛け密度:500kg/m、気孔率:49%、、平均気孔径:157μm)に添加し、多孔質PEシートにプレゲル溶液を浸透させた。プレゲル溶液を浸透させた多孔質PEシートに紫外線を照射して単量体を重合させ、プレゲル溶液をゲル化した。紫外線の照射条件は、波長365nm、照度155mW/cm、照射時間30秒であった。その後、24時間乾燥させ、ゲル含有PEシートを得た。
上記で得られたプレゲル溶液の一部を、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製のマイクロニードル型に、ニードルに対応するキャビティの部分にプレゲル溶液が充填されるまで流し込んだ。プレゲル溶液を流し込んだマイクロニードル型をデシケーター内で脱気した。その後、マイクロニードル型にゲル含有PEシートを挿入し、マイクロニードル型にニードル先端側から紫外線を照射して単量体を重合させ、型内のプレゲル溶液をゲル化した。紫外線の照射条件は、波長365nm、照度155mW/cm、照射時間60秒であった。ゲル化により得られた、ゲル組成物からなるニードルとゲル含有PEシートからなるベース部が一体化した成型体をマイクロニードル型から取り出し、混合溶媒(水/メタノール=4/6(体積比))および純粋で洗浄し、室温で1晩乾燥させることで、PEシート付マイクロニードルを得た。
<比較実験1>
ゲル含有PEシートを用いず、プレゲル溶液をマイクロニードル型に流し込む際にベース部に対応するキャビティの部分までプレゲル溶液を流し込んだ以外は実験1と同様にしてゲル組成物のみからなるマイクロニードルを得た。
<結果>
比較実験1により得られたゲル組成物のみからなるマイクロニードルでは目視にて歪みが確認された。一方、実験1により得られたPEシート付マイクロニードルでは歪みは確認されず、高い成型性および形状維持性が確認された。
(評価2)粒径の異なる多孔質体
<実験2-1>
平均粒径25μmのPE粒子をポリジメチルシロキサン(PDMS)製の型(焼結用型)に充填し、160℃で1時間焼結した。その後、プラズマ照射を行い、アクリル酸の5%メタノール溶液を用いて、60℃で1時間反応させ、多孔質PEシートを得た。得られた多孔質PEシートを用いた以外は実験1と同様にしてPEシート付マイクロニードルを得た。
<実験2-2>
平均粒径が60μmのPE粒子を用いた以外は実験2-1と同様にしてPEシート付マイクロニードルを得た。
<結果>
実験2-1および実験2-2で得られたPEシート付マイクロニードルの、ニードル側から見た拡大写真を図4に示す。図4より、平均粒径が25μmおよび60μmの両方において、PEシート付マイクロニードルの高い成型性が確認された。
(評価3)マイクロニードルの皮膚刺入性
<実験3>
実験2-1および実験2-2で得られたPEシート付マイクロニードルをそれぞれマウスの皮膚に1分間貼付し、トリパンブルー染色を実施してPEシート付マイクロニードルの皮膚刺入性を可視化した。
<結果>
PEシート付マイクロニードルを貼付した後のマウスの皮膚表面の写真を図5に示す。図5から明らかなように、平均粒径が25μmおよび60μmのいずれにおいても、マウスの皮膚表面にはトリパンブルー染色によるマイクロニードル由来の穴が確認された。このことから、PEシート付マイクロニードルは、優れた皮膚刺入性を有していることが確認された。
10 マイクロニードル
100 ベース部
101a 多孔質体
101b ゲル組成物
110 ニードル
200 マイクロニードル型
201 キャビティ

Claims (12)

  1. ベース部と、
    前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルと、
    を有し、
    前記ニードルは、薬剤を担持することができ、かつ前記薬剤の透過性を有するゲル組成物を含み、
    前記ベース部は、前記ニードルが担持する薬剤のリザーバとなる多孔質体を有する薬剤送達デバイス。
  2. 前記多孔質体は、ポリマー粒子を焼結させたポリマー焼結体である、請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
  3. 前記ポリマー粒子の平均粒径は10~300μmである、請求項2に記載の薬剤送達デバイス。
  4. 前記ポリマー粒子はポリエチレンからなる、請求項2または3に記載の薬剤送達デバイス。
  5. 前記多孔質体は、少なくとも前記ニードル側の領域に前記ニードルと接して位置している、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
  6. 前記多孔質体はゲル組成物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
  7. 前記ゲル組成物は、フェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
  8. ベース部と、前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルとを有する薬剤送達デバイスの製造方法であって、
    多孔質体を用意する工程と、
    前記ベース部が前記多孔質体を有するように、型を用いて前記ベース部および前記ニードルを成型する工程と、
    を含み、
    前記ニードルは、薬剤を担持することができ、かつ前記薬剤の透過性を有するゲル組成物を含み、
    前記成型する工程は、
    プレゲル溶液を注入する工程と、
    前記プレゲル溶液中の前記単量体混合物を重合して前記ゲル組成物を形成する工程と、
    を含む、
    薬剤送達デバイスの製造方法。
  9. 前記多孔質体は、ポリマー粒子を焼結させたポリマー焼結体である、請求項8に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  10. 前記ポリマー粒子の平均粒径は10~300μmである、請求項9に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  11. 前記ポリマー粒子はポリエチレンからなる、請求項9または10に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  12. 前記多孔質体を用意する工程は、
    前記多孔質体の少なくとも一部に前記ニードルが含む前記ゲル組成物と同じまたは異なるゲル組成物を含有させる工程を含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。

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