JP2023025967A - 定着装置及び画像形成装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】潤滑剤の基油が潤滑対象領域の外部に流出することを抑制し、長期間に亘って定着装置の性能を維持する。【解決手段】回転可能な無端状のフィルムと、潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動されるヒータと、前記ヒータを保持するヒータホルダと、前記フィルムを介して前記ヒータと圧接され、前記ヒータとの間にニップ部を形成する加圧部材と、を有する定着装置において、前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、前記ヒータホルダは、前記ヒータが嵌合された嵌合溝を有し、前記嵌合溝には、前記ニップ部の長手方向に関して前記ヒータが前記フィルムの前記内面に摺動される範囲内に、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられている。【選択図】図3

Description

本発明は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる定着装置、及び、定着装置を備えた画像形成装置に関する。
電子写真方式で用いられる定着装置として、フィルム加熱方式の定着装置が知られている。フィルム加熱方式の定着装置は、セラミック等の基板上に抵抗発熱体を有するヒータと、ヒータと接触しつつ回転する定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラ等を有している。未定着トナー画像を担持する記録材は、このニップ部で定着フィルム及び加圧ローラに挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー画像は記録材に定着される。
フィルム加熱方式の定着装置のようにフィルム状(無端状、ベルト状)の回転部材とその内周面に摺接するヒータ等の摺動部材とを有する定着装置においては、回転部材の内面と摺動部材との間に潤滑剤を介在させることで両者の摺動摩擦抵抗を低減可能である。特許文献1には、フィルム加熱方式の定着装置において、ヒータを支持する支持部材のヒータより記録材搬送方向下流側に潤滑剤を溜める溝状の凹部を設けることで、潤滑剤が定着フィルムの長手方向端部から横溢することを抑制する技術が記載されている。
特開2008-76589号公報
定着装置に用いられる潤滑剤として基油及び増稠剤を含有するグリスを用いる場合、基油は潤滑対象の表面に広がって摺動膜を形成する。基油は流動性が比較的高いため、潤滑対象領域(例えば、定着フィルムの内面と、この内面に摺動されるヒータの摺動面)の外部に流出する可能性がある。基油が潤滑対象領域の外部に流出すると、潤滑剤の枯渇による摺動摩擦抵抗の増加や、ニップ部への基油の回り込みによる記録材の汚染や搬送不良の発生、加圧ローラの離型層の膨潤等といった種々の不都合を引き起こし得る。
加えて、潤滑剤が高温になると、基油が増稠剤から分離しやすくなる。粘性体である潤滑剤に比べて、増稠剤から分離した基油は粘度が低い液体であり、部材間の隙間を介して毛細管現象により流出しやすくなる。上記文献に記載の構成では、溝状の凹部により潤滑剤の流動方向を制限できるものの、毛細管現象による基油の流出を抑制することは難しかった。
そこで、本発明は、潤滑剤の基油が潤滑対象領域の外部に流出することを抑制し、長期間に亘って性能を維持することが可能な定着装置、及びこの定着装置を備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、回転可能な無端状のフィルムと、潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動されるヒータと、前記ヒータを保持するヒータホルダと、前記フィルムを介して前記ヒータと圧接され、前記ヒータとの間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、トナー像が形成された記録材を前記ニップ部で前記フィルム及び前記加圧部材の間に挟持して搬送しながら、前記ヒータにより加熱された前記フィルムを用いて前記トナー像を前記記録材に定着させる定着装置において、前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、前記ヒータホルダは、前記ヒータが嵌合された嵌合溝を有し、前記嵌合溝には、前記ニップ部の長手方向に関して前記ヒータが前記フィルムの前記内面に摺動される範囲内に、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする定着装置である。
本発明によれば、潤滑剤の基油が潤滑対象領域の外部に流出することを抑制し、長期間に亘って性能を維持することができる。
第1実施形態に係る画像形成装置の概略図。 第1実施形態に係る定着装置の横断面図(a)及び縦断面図(b)。 第1実施形態において撥油処理を施す範囲を示す図。 従来例(a)、比較例(b)及び第1実施形態(c)において、ヒータとヒータホルダの隙間に対する潤滑剤及び基油の侵入の様子を表す模式図。 第2実施形態において撥油処理を施す範囲を示す図(a)及び撥油処理の作用を説明するための模式図(b)。 第4実施形態に係る定着装置の構成例を示す概略図(a、b)。 第5実施形態において撥油処理を施す範囲を説明するための図(a~c)。 ヒータとヒータホルダの嵌合状態を示す図(a)、並びに、従来例(b)、比較例(c)及び第5実施形態(d)において、ヒータとヒータホルダの隙間に対する潤滑剤及び基油の侵入の様子を表す模式図。 第6実施形態において撥油処理を施す範囲を表す図(a、b)。 第7実施形態において撥油処理を施す範囲を表す図(a、b)。 第8実施形態において撥油処理を施す範囲を表す図。 第9実施形態において撥油処理を施す範囲を表す図。 第10実施形態において撥油処理を施す範囲を表す図。 第11実施形態において撥油処理を施す範囲を表す図。
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
本開示の第1実施形態を以下に説明する。まず、本実施形態における画像形成装置の本体構成を説明し、次いで、本実施形態に係る撥油剤と定着装置について詳しく説明する。
(画像形成装置)
本実施形態において用いる画像形成装置の一例を図1に示す概略図を用いて説明する。本実施形態における画像形成装置50は、感光ドラム1上のトナー像を直接記録材P上に転写する電子写真方式のモノクロレーザビームプリンタである。像担持体である感光ドラム1は、ドラム状(円筒状)に形成された電子写真感光体である。感光ドラム1の周面には、回転方向(矢印R1方向)に沿って順に、帯電器2、露光装置3、現像器5、転写ローラ10、及びドラムクリーナー16が配置されている。感光ドラム1、帯電器2、露光装置3、現像器5、転写ローラ10、及びドラムクリーナー16からなる画像形成ユニット(プロセスユニット)は、記録材にトナー像を形成する本実施形態のトナー像形成手段を構成する。
画像形成装置50に対して画像情報及び画像形成の実行指示が投入されると、感光ドラム1が矢印R1方向に回転駆動され、感光ドラム1の表面が帯電器2によって所定の極性(ここではマイナス極性とする)に帯電処理される。次に、帯電された感光ドラム1の表面に対して、露光装置3が画像情報に基づいて変調したレーザ光Lを照射し、感光ドラム1の表面に静電潜像を形成する。本実施形態の現像剤であるブラックトナーは、現像器5の内部において正規帯電極性であるマイナス極性に帯電されており、現像器5の現像ローラに担持された後、感光ドラム1の表面電位の分布に応じて感光ドラム1に付着する。これにより、感光ドラム1上の静電潜像が現像され、トナー像として可視化される。
上記のプロセスに並行して、記録材Pは、給送ローラ4によって1枚ずつ給送され、搬送ローラ6によって転写ニップNtrに向けて搬送される。トナー像の転写が行われる転写部としての転写ニップNtrは、感光ドラム1と転写ローラ10の間に形成されるニップ部である。転写ローラ10に不図示の電源からトナーの正規帯電極性とは逆の極性であるプラス極性の電圧が印加されることで、感光ドラム1上のトナー像は転写ニップNtrにおいて記録材P上に転写される。転写ニップNtrを通過した感光ドラム1の表面は、感光ドラム1の表面に当接する弾性体ブレード等のクリーニング部材を有するドラムクリーナー16によって清掃され、転写残トナー等の付着物が除去される。
転写ニップNtrを通過して未定着のトナー像を担持している状態の記録材Pは、定着装置100に搬送され、定着装置100による熱定着処理を受けた後、排出ローラ対により成果物として画像形成装置50の外部に排出される。
なお、ここでは像担持体から記録材に直接トナー像を転写する直接転写方式の画像形成ユニットを例示したが、像担持体から中間転写ベルト等の中間転写体に一次転写したトナー像を中間転写体から記録材に二次転写する中間転写方式としてもよい。また、複数の像担持体を備え、複数色のトナーを用いて形成したトナー像を記録材上で重ね合わせることでフルカラーのトナー像を形成する画像形成ユニットをトナー像形成手段として用いてもよい。「画像形成装置」は、外部から入力された画像情報に基づいて記録材に画像を形成するプリンターに限らず、原稿から読み取った画像情報に基づいて記録材に画像を形成する複写機や、複数の機能を備えた複合機であってもよい。
(定着装置)
本実施形態の定着装置100について以下に説明する。本実施形態の定着装置100は、立ち上げ時間の短縮や低消費電力化に優れたフィルム加熱方式の定着装置である。図2(a)は定着装置100を長手方向Bに垂直な平面で切断した様子を示す横断面図であり、図2(b)は定着装置100を長手方向Bに平行な平面で切断した様子を示す縦断面図である。
以下の説明において、定着装置100に関する部材の形状、配置、寸法等を、記録材搬送方向A、長手方向B、垂直方向Cを用いて表す。記録材搬送方向Aは、定着装置100のニップ部(下記の定着ニップN)における記録材Pの搬送方向である。長手方向Bは、定着ニップNの長手方向であり、定着ニップNを通過する記録材Pの幅方向(記録材搬送方向Aに直交する方向)である。垂直方向Cは、定着ニップNにおける記録材Pの表面に対して垂直な方向である。垂直方向Cは、定着ニップNにおいて加圧ローラ110がヒータ113に対して加圧される方向でもある。
定着装置100は、定着フィルム112、ヒータ113、ヒータホルダ130、加圧用ステイ119及び加圧ローラ110を備える。ヒータ113はヒータホルダ130に保持されている。ヒータ113及びヒータホルダ130は、加圧部材としての加圧ローラ110と共に定着ニップNを形成するニップ形成ユニットを構成する。ニップ形成ユニットの周囲に、筒状のフィルム状部材(ベルト状部材)である定着フィルム112が配置されている。ヒータ113は、回転する定着フィルム112の内面に摺動されながら、定着フィルム112を内側から加熱する。長手方向Bに関して、ヒータ113が定着フィルム112に摺動される範囲をフィルム接触領域とする。ヒータホルダ130は、記録材搬送方向Aにおけるヒータ113の上流側及び下流側に延びており、定着フィルム112の回転(走行)を案内するガイド機能を有する。
加圧ローラ110は、定着フィルム112の外面に接しており、定着フィルム112を挟んでヒータ113及びヒータホルダ130と圧接されている。加圧ローラ110は加圧部材の一例であり、例えば定着ニップに対向するローラを含む複数のローラと、これら複数のローラに張架されたベルト部材と、を含むベルトユニットを加圧部材として用いてもよい。加圧ローラ110と定着フィルム112が接触している領域を、定着ニップNとする。加圧ローラ110は、芯金117を有し(図2(b))、軸受123を介して芯金117の両端部を定着フレーム124によって回転可能に保持されている。また、加圧ローラ110は、芯金117の端部に設けられた駆動ギアを介して不図示の駆動源(回転手段)に接続されており、駆動源からの駆動力によって図2(a)の矢印R2方向に駆動される。加圧ローラ110の回転により、定着フィルム112は定着ニップNで加圧ローラ110から受ける摩擦力によって矢印R3方向に従動回転する。
未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、定着ニップNに向かって記録材搬送方向Aに搬送されてくると、記録材Pは定着ニップNで定着フィルム112と加圧ローラ110との間に挟持されて搬送される。記録材Pが定着ニップNを通過する間、未定着トナー像Tが加圧されると共に、定着フィルム112を介してヒータ113の熱が未定着トナー像Tに伝わる。これにより未定着トナー像Tのトナーが溶融し、定着ニップNを抜けた後に固まることで、記録材Pの表面に定着した定着画像が得られる。
本実施形態の定着フィルム112は、変形していない円筒状の状態で長手方向Bの長さ233mm、外径18mmの、可撓性を有する筒状部材(無端状部材)である。定着フィルム112は、厚み方向には多層構造となっている。定着フィルム112の層構成としては、フィルムの強度を保つための基層と、表面への汚れ付着低減のための離型層からなる。基層の材質は、ヒータ113の熱を受けるため耐熱性が必要であり、またヒータ113等と摺動するため強度も必要であるため、ステンレス鋼やニッケルなどの金属や、ポリイミドなどの耐熱性樹脂を用いると好適である。本実施形態では、定着フィルム112の基層の材質としてポリイミド樹脂を用い、熱伝導率と強度を向上させるためカーボン系のフィラーを添加して用いた。基層の厚さは薄いほどヒータ113の熱を加圧ローラ110の表面に伝達しやすいが強度が低下するため、15μm~100μm程度が好ましく、本実施形態では60μmとした。
定着フィルム112の離型層の材質は、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂を用いると好ましい。本実施形態では離型層としてフッ素樹脂の中でも離型性と耐熱性に優れるPFAを用いた。離型層は、基層の外周にチューブを被覆させたものでも良いが、表面を塗料でコートしたものでも良く、本実施形態では、薄肉成型に優れるコートにより離型層を成型した。離型層は薄いほどヒータ113の熱を定着フィルム112表面に伝達しやすいが、薄過ぎると耐久性が不足する可能性があるため、5μm~30μm程度が好ましく、本実施形態では10μmとした。なお、本実施形態には使用していないが、基層と離型層の間に、弾性層を設けても良い。その場合、弾性層の材質としては、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどが用いられる。
定着フィルム112の内周側には、ヒータ113を保持する保持部材としてのヒータホルダ130が設けられている。ヒータホルダ130は、横断面が、垂直方向Cにおいて加圧ローラ110側(定着ニップN側)に開放された略矩形状の凹部を有する樋型形状であり、長手方向Bに延びている。この凹部は長手方向Bに延びており、ヒータ113が嵌合される嵌合溝131である。ヒータホルダ130は、記録材搬送方向Aにおける定着ニップNの上流側と下流側(嵌合溝131の両側)で定着フィルム112の内面に沿って略半円状に延びる断面形状を有する(図1参照。図2(a、b)ではヒータホルダ130の一部を図示している)。また、ヒータホルダ130は、耐熱性及び剛性を満足するために耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂で形成されている。なお、本実施形態においては、液晶ポリマー樹脂として、全芳香族ポリエステルである住友化学工業株式会社製のスミカスーパー(登録商標)を使用している。また、ヒータホルダ130は、ヒータ113を保持するものであるが、定着フィルム112をこのヒータホルダ130にルーズに外嵌させることで、定着フィルム112の回転をガイドする役割をも果たしている。ヒータホルダ130については、後で詳細に述べる。
加圧用ステイ119は、ヒータホルダ130に沿って長手方向Bに延びている。加圧用ステイ119は、長手方向Bにおけるヒータホルダ130の略全域を加圧ローラ110に向かって均一に加圧するために、ステンレスなどの剛性の高い板金に曲げ加工を施したもので構成されている。
図2(b)に示すように長手方向Bにおける加圧用ステイ119の両端部にはフランジ部材である定着フランジ120が嵌着される。定着フランジ120は、定着フィルム112の回転軌道をガイド(支持)すると共に、長手方向Bにおける定着フィルム112の端部位置の規制(寄り規制)、及び、加圧用ステイ119への加圧力伝達を担う。即ち、各定着フランジ120は、定着ニップNを加圧する加圧手段の一例である加圧バネ122と接続されている。加圧バネ122は、定着装置100の枠体である定着フレーム124に対して固定されたバネ支持部121に支持されることで、定着フランジ120を垂直方向Cにおいて加圧ローラ110側に付勢している。これにより、定着フランジ120と連結された加圧用ステイ119が加圧ローラ110側に付勢され、加圧用ステイ119に押圧されたヒータホルダ130及びヒータ113は、定着フィルム112を挟んで加圧ローラ110と圧接する。
本実施形態の加圧ローラ110は、長さ220mm、外径20mmの円柱状であり、直径15mmの鉄製の芯金117の外周に厚さ2.5mmの弾性層116が形成されている。弾性層116の材質としては、ソリッドゴムや、発泡ゴムが用いられる。発泡ゴムは、低熱容量で熱伝導率が低く、加圧ローラ110の表面の熱が内部へ吸収され難いため、表面温度が上昇しやすく、定着立ち上がり時間を短縮できる利点がある。定着立ち上がり時間又はウォームアップ時間とは、ヒータ113への通電が行われていない状態から、通電開始後に定着ニップNにおける定着フィルム112の温度が画像の定着に適した所定の目標温度に到達するまでの所要時間である。本実施形態においては、弾性層116としてシリコーンゴムを発泡させた発泡ゴムを使用した。
加圧ローラ110の外径は小さい方が熱容量を抑えられるが、小さ過ぎると定着ニップNの幅が狭くなってしまうので適度な径が望ましく、本実施形態では、外径を20mmとした。弾性層116の肉厚に関しても、薄過ぎれば金属製の芯金に熱が逃げるので適度な厚みが望ましい。本実施形態では、弾性層116の厚さを2.5mmとした。弾性層116の上には、トナーの離型層として、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)からなる離型層118が形成されている。離型層118は定着フィルム112の離型層同様、チューブを被覆させたものでも表面を塗料でコートしたものでも良いが、本実施形態では、耐久性に優れるチューブを使用した。離型層118の材質としては、PFAの他に、PTFE、FEP等のフッ素樹脂や、離型性の良いフッ素ゴムやシリコーンゴム等を用いても良い。加圧ローラ110の表面硬度は、低いほど軽圧で定着ニップNの幅が得られる。本実施形態では、Asker-C硬度(タイプCデュロメータを用いて4.9N荷重で測定した硬度)で、50°のものを使用した。加圧ローラ110は、不図示の加圧手段により、ヒータに加圧されている。加圧力は、総圧14kgfとした。本実施形態において、定着ニップNの記録材搬送方向Aにおける幅は、長手方向Bにおける定着ニップNの全域に亘って6.0mm程度である。加圧ローラ110は、不図示の駆動源により、図中矢印R2方向に、表面移動速度266mm/secで回転するようになっている。
本実施形態のヒータ113はフィルム加熱方式の定着装置で用いられる一般的なヒータであり、セラミック製の基板上に抵抗発熱体を設けたものを用いている。ヒータ113は、記録材搬送方向Aの幅6mm、垂直方向Cの厚さ1mmのアルミナの基板を有する。ヒータ113は、基板の表面に、Ag/Pd(銀パラジウム)の抵抗発熱体をスクリーン印刷により厚さ約10μmで塗工し、その上に発熱体の保護と定着フィルム112の内面に対する摺動性確保のためガラスを60μmの厚さで覆ったものである。用途に応じてヒータ113の裏面に熱伝導性が高い均熱部材を配置しても良い。また、セラミック基板又は定着フィルム112の温度を検知する不図示の温度検知素子の信号に応じて、抵抗発熱体に流す電流を適切に制御することで、ヒータ113の温度を調整している。ヒータ113は、ヒータホルダ130に設けられた嵌合溝131に嵌合された状態でヒータホルダ130に固定されることで、ヒータホルダ130に支持(保持)されている。本実施形態では記録材Pに対して効率的に熱を伝えるために、記録材搬送方向Aにおいてヒータ113の中心(回転軸線)と加圧ローラ110中心(回転軸線)を合わせている。なお、ヒータ113の基板としてステンレス等の金属基板を用いてもよく、その場合は基板上にガラス等の絶縁層を形成し、絶縁層の上に抵抗発熱体を形成する。
本実施形態ではヒータ113の摺動面113Sに塗布する潤滑剤としてフッ素系のグリスを用いた。摺動面113Sとは、ヒータ113の定着フィルム112の内面に対する接触面(垂直方向Cにおいて加圧ローラ110側の面)であり、大部分は抵抗発熱体を覆うガラス層の表面で構成されるが、基板の一部が摺動面113Sに含まれていてもよい。潤滑剤としては、基油の主成分がパーフルオロポリエーテル(PFPE)等のフッ素オイルからなり、増稠剤の主成分がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂粉末からなるグリスを好適に用いることができる。主成分とは、その含有量が50質量%~100質量%(好ましくは80質量%~100質量%)であることをいう。本実施形態の構成例では、基油としてPFPEオイルを用い、増稠剤としてPTFE粉末を用いた。増稠剤の含有量は、潤滑剤組成物全体の10~50質量%、好ましくは15~40質量%の割合で添加混合される。基油については、後で詳細に述べる。
潤滑剤(グリス)は、ヒータ113の摺動面113Sの加圧ローラ110の長手方向Bの加圧領域幅220mmより若干短い210mmに亘って、スプレー塗布によって200mgを塗布した。摺動面113Sに塗布された潤滑剤は、加圧ローラ110及び定着フィルム112の回転に伴い、定着フィルム112の内面の全周に広がった後、大部分はヒータホルダ130の嵌合溝131及びヒータ113のエッジ部に滞留する。また、摺動面113Sには基油による潤滑層が形成される。嵌合溝131及びヒータ113のエッジ部に滞留した潤滑剤は、増稠剤により基油が保持されている状態にあるが、毛細管現象により摺動面113Sやヒータホルダ130とヒータ113の隙間部に侵入し拡散し得る。このような毛細管現象による基油の流出(流失、散逸)は、以下で説明する嵌合溝131又はヒータ113の撥油処理によって抑制可能である。
(基油及び撥油剤)
本実施形態において、基油としてPFPEのようなフッ素オイルを用いる。PFPEは、パーフルオロアルキレンエーテルを繰り返し単位として有するポリマーである。パーフルオロアルキレンエーテルの具体例としては、パーフルオロメチルエーテル、パーフルオロエチルエーテル、パーフルオロプロピルエーテル、及び、パーフルオロイソプロピルエーテルが挙げられる。
高温環境下で使用される潤滑剤組成物に使用される基油については、耐熱性の観点から、構成原子が、炭素原子、フッ素原子及び酸素原子のみであり、かつ、これらの原子が単結合で結合している化学構造を有するPFPEを好適に用いることができる。
PFPEは、市販品を用いることができる。該市販品としては、構造式(1)で表されるPFPE(例えば、デムナム(Demnum)S-200、デムナムS-65(いずれも商品名)、ダイキン工業社製)、構造式(2)で表されるPFPE(例えば、クライトックス(Krytox)GPL-107、クライトックスGPL-106、クライトックスGPL-105(いずれも商品名)、ケマーズ社製)、構造式(3)で表されるPFPE(例えば、フォンブリン(Fomblin)M30、フォンブリンZ25(いずれも商品名)、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)、構造式(4)で表されるPFPE(例えば、フォンブリンY45、フォンブリンY25(いずれも商品名)、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態においては、フォンブリンMシリーズの1つであるフォンブリンM30を用いている。
Figure 2023025967000002
(式中、nは正の数であり、nは40℃における動粘度が10~300mm/sの範囲を満たす範囲の数である。)
Figure 2023025967000003
(式中、nは正の数であり、nは40℃における動粘度が5~1200mm/sの範囲を満たす範囲の数である。)
Figure 2023025967000004
(式中、n、mは各々正の数であり、m/nは0.5以上2以下となる数であり、n+mは40℃における動粘度が10~900mm/sの範囲を満たす範囲の数である。)
Figure 2023025967000005
(式中、n、mは各々正の数であり、m/nは20以上1000以下となる数であり、n+mは40℃における動粘度が10~700mm/sの範囲を満たす範囲の数である。)
基油が毛細管現象により部材間の隙間に侵入して潤滑対象領域から流出することについて、一般に毛細管現象は液体の表面張力・壁面の濡れ易さ・液体の密度・隙間に依存する。このことから、基油がヒータホルダ130とヒータ113の隙間に入り込むか否かは隙間を形成する表面(ヒータホルダ130及びヒータ113の表面)の濡れ易さに依存する。つまり、基油に対して親油性の表面であれば隙間への侵入は促進され、基油に対して撥油性の表面であれば隙間への侵入は阻害されることになる。
発明者らが鋭意検討した結果、n-ヘキサデカン接触角が基油と大きく異なる材料を撥油剤として用いることで、毛細管現象による基油の流出を抑制することが可能となることを見出した。n-ヘキサデカン接触角が基油と大きく異なる材料とは、当該剤を部材表面に塗布したときのn-ヘキサデカンの接触角(γ1)と、基油を部材表面に塗布したときのn-ヘキサデカンの接触角(γ2)との差(γ1-γ2の絶対値)が大きいことを指す。
表面張力及び表面自由エネルギーは、それぞれ分散成分、極性成分、水素結合の成分に切り分けることができ、それぞれの成分値が近いもの同士ほど、よく濡れることが知られている。本件で用いる潤滑剤の基油であるPFPEについては、無極性かつ水素原子を含まないため表面自由エネルギーに占める分散成分が支配的である。また、評価に用いたヘキサデカンについても表面張力27.6mN/mのうち、分散成分27.6mN/m、極性成分0.0mN/mと分散成分が支配的である。
このため、基油の毛細管現象による流出を抑制するための撥油剤の選定に関しては、表面自由エネルギーの内、分散成分に着目して、ヘキサデカンで測定した接触角の値が基油と大きく異なる材料を選定すると好ましいと考えられる。なお、部材表面の基油に対する撥油性は、部材表面に基油を滴下したときの接触角を測定することで直接的に評価できるが、この接触角の大きさは、基油に対するヘキサデカン接触角の差の大きさと高い相関を示すことが分かっている。そのため、本開示では、基油に対するヘキサデカン接触角の差によって、撥油剤を塗布した表面の基油に対する撥油性を評価する。
毛細管現象による基油の流出を抑制するために、本実施形態では、基油が侵入しうる隙間を形成する部材の表面に対し、基油に対する撥油性を高める処理(撥油処理)を行う。撥油処理としては、上記のようにヘキサデカン接触角が基油と大きく異なる撥油剤を部材表面に塗布する方法の他、部材表面に微細な凹凸構造を設けること(ロータス効果)が考えられる。これらの内、撥油剤を塗布する方法が製造コスト等の面で有利である。
撥油剤の塗布方法としては、大きく2つが考えられる。1つは部材表面に撥油剤を直接塗布する方法であり、もう1つは、部材表面にシランカップリング剤等の撥油剤(部材表面と反応して改質する撥油剤)を塗布した後、焼成する方法である。本実施形態では、ヒータホルダ130の嵌合溝131にシリコーンオイルを主成分とする撥油剤を塗布する実施例と、嵌合溝131にシランカップリング剤を主成分とする撥油剤を塗布焼成する実施例を検討した。
本実施形態に係る撥油剤としてヒータホルダ130の表面処理に使用するシリコーンオイルは、ポリシロキサンであることが好ましく、ジメチルポリシロキサンであることがより好ましい。また、シリコーンオイルは、分子量が10,000以上100,000以下であることが好ましく、20,000以上70,000以下であることがより好ましい。シリコーンオイルの分子量が100,000以下であることで、25℃における動粘度を高くすることができ、撥油剤の流出を抑制できる。なお、シリコーンオイルは、複数種類のシリコーンオイルによって構成されていてもよい。
シリコーンオイルとして好適な、25℃における動粘度が200mm/s以上のシリコーンオイルの市販品は、KF-965-1,000cs(25℃における動粘度1,000mm/s)、KF-965-1万cs(25℃における動粘度10,000mm/s)(以上、信越化学工業製)、DOWSIL SH 200 Fluid 2,000cSt(25℃における動粘度2,000mm/s)、DOWSIL SH 200 CV Fluid 13,000cSt(25℃における動粘度13,000mm/s)(以上、東レ・ダウコーニング製)等が挙げられる。
本実施形態に係る撥油剤としてヒータホルダの表面処理に使用するシランカップリング剤は、一般式(ア)で示されるものである。
-Si-Y (ア)
(式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1~3の整数を示し、Yはアルキル基、ビニル基、グリシドキシ基、メタクリル基、アミノ基、エポキシ基の如き有機官能基を示す。即ち、Yは基油であるフッ素オイルに対する親和性が低い、フルオロ基を含まない有機官能基を示す。nは1~3の整数を示す。ただし、m+n=4である。)
上記一般式(ア)で示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
この中で、高い疎水性を得るという観点では下記一般式(イ)で示されるアルキルトリアルコキシシランカップリング剤を用いることが好ましい。
2p+1-Si-(OC2q+1 (イ)
(式中、pは1以上10以下の整数を示し、qは1以上3以下の整数を示す。)
上記式(イ)におけるpが大きくなると、撥油性が低下する(ヘキサデカン接触角が大きくなる)ため、pは1以上10以下が好ましい。さらに、qが3より大きいとシランカップリング剤の反応性が低下して撥油処理が十分に行われにくくなる可能性がある。そのため、式中のpが1以上10以下の整数(より好ましくは、1以上5以下の整数)を示し、qが1以上3以下の整数(より好ましくは、1又は2の整数)を示すアルキルトリアルコキシシランカップリング剤を使用するのが良い。
上記シランカップリング剤を用いる場合、単独で処理するか、あるいは複数の種類を併用して処理することが可能であり、併用する場合、それぞれのカップリング剤を個別に処理する、あるいは同時に処理することができる。
撥油剤として好適なシランカップリング剤の市販品は、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)、KBE-22(ジメチルジエトキシシラン)、KBEー3083(オクチルトリエトキシシラン)、KBM-13(メチルトリメトキシシラン)(以上、信越化学工業社製)、XIAMETER OFS-6366Silane(メチルトリメトキシシラン)、XIAMETER OFS-6383Silane(メチルトリエトキシシラン)(以上、ダウ・東レ社製)、M0451(メチルトリメトキシシラン)(以上、東京化成工業社製)等が挙げられる。
本開示において、接触角は、撥油処理したヒータホルダ130の表面について、ノルマルヘキサデカン(n-ヘキサデカン)の接触角を測定した。接触角の測定には接触角計(商品名:DM-501、協和界面科学社製)を使用した(測定環境:温度23℃、相対湿度55%)。
(撥油処理)
本実施形態において撥油処理を施す領域について図3に基づいて説明する。図3は、ヒータホルダ130及びその周辺を示す定着装置100の断面図である。ヒータ113は、ヒータホルダ130の嵌合溝131に嵌合され固定されており、ヒータ113と嵌合溝131との間には、加熱に伴うヒータ113の熱膨張を考慮して必要な隙間が設定される。本実施形態では、記録材搬送方向Aに関するヒータ113の幅5.8mmに対し、ヒータホルダ130の嵌合溝131の幅は6.45mmに設定される。ヒータ113の記録材搬送方向Aの上流側の側面113aと嵌合溝131の壁面131aの間には0.35mmの隙間132がある。また、ヒータ113の記録材搬送方向Aの下流側の側面113aと嵌合溝131の壁面131aの間には0.30mmの隙間132がある。なお、ヒータ113の側面113aは、ヒータ113の基板の側面である。
この隙間132に、潤滑剤の基油が毛細管現象により侵入、拡散することで、潤滑対象であるヒータ113の摺動面113Sと定着フィルム112の内面との間に介在する潤滑剤の基油が徐々に流出し、定着フィルム112の摺動摩擦抵抗の増大等が生じる。この現象を防ぐため、本実施形態ではヒータホルダ130の嵌合溝131の内面に撥油剤を塗布する撥油処理を施す。
撥油剤は、嵌合溝131の内面である壁面131a及び底面131bの少なくとも一部に塗布するものとする。長手方向Bに関して、撥油剤は、ヒータ113の摺動面113Sが定着フィルム112の内面に摺動される範囲内(後述のフィルム接触領域Lf、図7(b、c)参照)の少なくとも一部に塗布される。好ましくは、初期状態(工場出荷時の状態)で長手方向Bに関して潤滑剤が塗布される領域(後述の潤滑剤塗布領域Lg)の全域に亘って撥油剤を塗布する。より好ましくは、フィルム接触領域Lfの全域に亘って撥油剤を塗布する。本実施形態においては、長手方向Bにおける嵌合溝131の全域に亘って撥油剤の塗布を行った。撥油剤の塗布により撥油性が付与された部分を、撥油処理部AP(ヒータホルダ130の斜線部参照)とする。
撥油剤が塗布された撥油処理部APは、潤滑剤の基油に対して撥油性を示す撥油部として機能する。「潤滑剤の基油に対して撥油性を示す」とは、対象とする部材の未処理の表面(ここではヒータホルダ130を構成する液晶ポリマーの表面)に対する基油の接触角に比べて、処理後の表面に対する基油の接触角の方が大きいことを指す。
塗布方法については、スプレー塗布、刷毛塗り、ディッピングの如き公知の塗布方法を用いることができる。また、塗布方法に応じて撥油剤の希釈を行ってもよい。希釈を行う際には、撥油剤が十分に溶解すること、希釈剤が容易に除去可能なことなどを考慮し、希釈剤の選定を行うことが好ましい。
本実施形態の構成例では、シリコーンオイルをスプレー塗布によってヒータホルダ130に塗布することで、撥油処理を行った。他の構成例では、シランカップリング剤をアルコール水溶液(水/アルコール=1/9重量部)で5倍希釈し、スプレー塗布によってヒータホルダ130に塗布し、加熱炉において120℃の環境下で30分間、乾燥させた。
(撥油処理の作用)
次に図4(a~c)を用いて、比較例と比較しつつ本実施形態の撥油処理による作用を説明する。図4(a)は、ヒータホルダ130の撥油処理をしない従来例における潤滑剤G及び基油Gbの初期侵入の様子を示す模式図である。図4(b)は、ヒータホルダ130の嵌合溝131に親油剤を塗布した比較例における潤滑剤G及び基油Gbの初期侵入の様子を示す模式図である。図4(c)は、ヒータホルダ130の嵌合溝131に撥油剤を塗布した本実施形態における潤滑剤G及び基油Gbの初期侵入の様子を示す模式図である。
ヒータ113の摺動面113Sに潤滑剤Gを塗布した後に定着装置100を動作させると、定着フィルム112の回転に付随して潤滑剤Gは移動しヒータホルダ130等に付着し、基油Gbは摺動表面(定着フィルム112の内面と摺動面113S)に広がる。定着装置100の組立て時に潤滑剤を塗布した後に定着装置100を動作させていない状態でも、定着ニップNで潤滑剤Gは潰され、記録材搬送方向Aにおけるヒータ113の上流側及び下流側にはみ出した状態となる。いずれの場合においても、基油Gbはヒータホルダ130とヒータ113の間の隙間132に接触する。
一般に、毛細管現象は液体の表面張力・壁面の濡れ易さ・液体の密度・隙間に依存する。従って、潤滑剤Gを構成している基油Gbが隙間132に入り込みやすいか否かは、隙間132を構成するヒータホルダ130の壁面131a及びヒータ113の側面113aの濡れ易さに依存する。従来例では、基油Gbが隙間に触れた初期状態では、図4(a)に示すように、基油Gbがヒータホルダ130の壁面131a及びヒータ113の側面113aの極一部に付着している状態である。しかし、定着装置100の累積使用時間の増加又は組立て後の時間経過と共に、基油Gbは壁面131a及び側面113aを濡らしながら隙間132の奥へと進んでいく。このため、基油Gbが徐々にヒータ113とヒータホルダ130との間の空間に奪われ、潤滑対象である定着フィルム112の内面及びヒータ113の摺動面113Sの外部に流出することになる。
比較のためにヒータホルダ130の嵌合溝131に基油Gbに対して親油性を示す材料(親油剤)を塗布した場合の様子を図4(b)に示す。親油剤として、ここではフッ化アルキル基を持つシランカップリング剤(トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン、T2876、東京化成工業社製)を塗布してある。フッ素による表面処理は表面自由エネルギーを低くできるため液体を弾くものと誤認される場合もある。しかし、本実施形態の基油Gbであるフッ素オイルとフッ化アルキル基を持つシランカップリング剤により処理された表面(親油処理部)は、ヘキサデカン接触角が近しいことから親油性を示し濡れ易い。従って、この比較例では、基油Gbの隙間132への侵入拡散が助長され、短期間でより多くの基油Gbが潤滑対象領域の外部に流出する結果になる。
一方、本実施形態では、ヒータホルダ130の嵌合溝131の内面(特に、壁面131a)に撥油剤を塗布しており、基油Gbが隙間132に触れた初期状態では図4(c)に示す様子になっている。図に示すように、嵌合溝131の壁面131aに基油Gbに対する撥油性があることで、毛細管現象は生じにくくなり、基油Gbの隙間132への侵入が阻害される。これにより、定着装置100の累積使用時間の増加又は組立て後の時間経過が増加しても、毛細管現象による隙間132を介した基油Gbの流出が抑制されるため、潤滑剤Gによる潤滑作用が長期間に亘って安定して得られる。
ヒータホルダ130の嵌合溝131に塗布する撥油剤としては、例えばKF-965-1,000cs(信越化学工業社製)、DOWSIL SH 200 Fluid 2,000cSt(ダウ・東レ社製)、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)、KBE-22(ジメチルジエトキシシラン)、KBEー3083(オクチルトリエトキシシラン)、KBM-13(メチルトリメトキシシラン)(以上、信越化学工業社製)を用いることができる。
(比較実験)
撥油処理の効果を確認するために、比較実験を行った。ヒータホルダ130の嵌合溝131に撥油剤又は親油剤を塗布しない従来例の定着装置100と、ヘキサデカン接触角の値が互いに異なる材料をヒータホルダ130の嵌合溝131に塗布した定着装置100を用意した。これらの定着装置100を画像形成装置50に組付け、大量の記録材に対して画像形成動作(通紙)を実行させる通紙耐久試験により、定着装置100の耐久性を比較した。オフィス環境(温度23℃、相対湿度50%)において、1枚の記録材の通紙が行われる度に所定のインターバルをあける間欠通紙を行い、画像不良や定着装置100の動作不良が発生するまでの枚数を比較した。撥油剤又は親油剤として用いた材料と、定着装置100の耐久性の評価結果を表1に示す。表1では、許容範囲を超える画像不良又は動作不良を生じさせずに通紙できた記録材の枚数を通紙可能枚数として、従来例に比べて通紙可能枚数が明らかに増加したものを「〇」とし、通紙可能枚数が僅かに増加したものを「△」としている。
Figure 2023025967000006
従来例ではヒータホルダ130の材料は液晶ポリマーであり、嵌合溝131の内面もこの液晶ポリマーで構成されている。この場合、液晶ポリマーの表面に対するヘキサデカンの接触角γは36.2°である。一方、ヒータホルダ130の材料である液晶ポリマーに基油Gbを塗布した表面に対するヘキサデカンの接触角γは61.9°である。従って、撥油剤又は親油剤を塗布しない状態のヒータホルダ130の表面の、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は、25.7°である。この従来例において、通紙枚数が200,000枚を超えると、許容範囲を超える画像不良又は動作不良が発生するようになった。つまり、従来例における定着装置100の通紙可能枚数は、200,000であった。
基油に対して親油性を示すフッ化アルキル基を持つシランカップリング剤T2876を塗布した比較例では、ヒータホルダ130の表面のヘキサデカン接触角γは63.0°であり、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は1.1°であった。この比較例では、通紙可能枚数は130,000枚と従来例に比べて著しく減少した。これは、嵌合溝131の表面が基油Gbに対して親油性となることで、毛細管現象による基油Gbの隙間132への侵入が促進されたことを示している。また、基油Gbの隙間132への侵入により、本来の潤滑対象であるヒータ113の摺動面113Sと定着フィルム112の内面から基油Gbが奪われることで潤滑剤Gの枯渇が引きこされたことを示している。
これに対し、本実施形態の実施例であるシリコーンオイル(撥油剤1,2)を塗布した場合は、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が41.3°又は41.8°と従来例のΔγより大きくなった。これらの実施例では、通紙可能枚数は270,000枚と従来例に比べて顕著に増加し、耐久性が大きく向上したと言える。また、撥油剤3~6に示すシランカップリング剤を塗布焼成した場合のヘキサデカン接触角も、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は35.1°~38.1°と従来例のΔγより大きくなった。これらの実施例でも、通紙可能枚数は240,000~245,000枚と従来例に比べて増加し、耐久性が向上したと言える。
ただし、撥油剤7として示すシランカップリング剤KBE-903を用いてヒータホルダ130を撥油処理した場合は、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が27.0°と従来例(25.7°)に対して僅かな増加に留まった。そして、撥油剤7を用いた場合の通紙可能枚数は205,000枚と従来例に比べて僅かに増加するに留まった。
以上の結果が示すように、ヒータホルダ130の嵌合溝131内面に基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤を塗布することにより、毛細管現象により潤滑対象領域の外部に基油Gbが流出することを抑制できる。これにより、潤滑剤Gの枯渇を抑制し、長期間に亘って定着装置100の性能を維持することができる。また、比較実験の結果によれば、嵌合溝131に塗布する撥油剤としては基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が大きい材料が好ましいことが分かる。具体的に、撥油剤としてはΔγが35.0°以上となるものが好ましい。また、表1によれば、Δγが40.0°以上となるものがより好ましいと言える。
<第2実施形態>
本開示の第2実施形態を以下に説明する。第2実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と共通の参照符号を付した要素は第1実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第1実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における撥油剤の塗布領域とその作用について図5(a、b)を用いて説明する。第1実施形態では撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の内面に塗布したが、本実施形態では、図5(a)に示すように、嵌合溝131の内面に加えてヒータ113の側面113aにも撥油剤を塗布する。つまり、本実施形態における撥油部である撥油処理部APは、嵌合溝131の壁面131a及び底面131bと、記録材搬送方向Aにおけるヒータ113の側面113aと、を含む。
図5(b)は、本実施形態における潤滑剤G及び基油Gbの様子を示す模式図である。本実施形態では、ヒータホルダ130の嵌合溝131だけでなく、嵌合溝131の壁面131aと対向する面であるヒータ113の側面113aにも撥油剤を塗布する。そのため、基油Gbが隙間132に触れた初期状態で、図5(b)に示すように第1実施形態(図4(c))に比べて更に毛細管現象が生じにくくなり、基油Gbの隙間132への侵入が阻害される。これにより、定着装置100の累積使用時間の増加又は組立て後の時間経過が増加しても、毛細管現象による隙間132を介した基油Gbの流出が抑制されるため、潤滑剤Gによる潤滑作用が長期間に亘って安定して得られる。
第1実施形態ではヒータホルダ130の嵌合溝131に撥油剤を塗布することでヒータ113とヒータホルダ130の隙間132での毛細管現象による基油Gbの流出を防いだ。しかし、隙間132での毛細管現象は、ヒータ113の側面113aの影響も受け得る。ここで、撥油剤として液体(シリコーンオイル)を嵌合溝131に塗布した場合は撥油剤自体が毛細管現象により隙間132を埋めて、基油Gbの隙間132への侵入を阻害するようにすることができる。この場合、撥油剤の塗布により、隙間132を形成するヒータ113の側面113aも撥油処理部として機能する。
一方、シランカップリング剤等の撥油剤を嵌合溝131の内面に塗布焼成した場合、ヒータ113の側面113aは撥油処理されていないことから、隙間132の幅や深さといった条件によっては基油Gbの侵入を許す可能性もある。
本実施形態では、ヒータホルダ130の嵌合溝131だけでなくヒータ113の側面にも撥油処理を施すため、シランカップリング剤等の部材表面の改質により撥油性を付与する撥油剤を用いる場合に有効である。そこで、第1実施形態において定着装置100の耐久性が向上したシランカップリング剤に関して、本実施形態の塗布条件を適用し、第1実施形態で説明した比較実験と同様の実験を行った。各材料に関して第1実施形態の構成と本実施形態における構成での比較実験結果を表2に示す。
Figure 2023025967000007
表2から、撥油剤としていずれの材料を用いる場合でも、ヒータ113の側面113aにも撥油剤を塗布焼成する本実施形態の構成を適用することにより、第1実施形態に比べて定着装置100の耐久性が向上したことが分かる。つまり、定着装置100の性能をより長期間に亘って維持する観点からは、ヒータホルダ130とヒータ113の間の隙間132を形成する嵌合溝131の内面とヒータ113の側面113aの両方に撥油処理を施すことが好ましい。
(変形例)
第1実施形態ではヒータホルダ130のみに撥油処理を施し、第2実施形態ではヒータホルダ130及びヒータ113の両方に撥油処理を施しているが、変形例として、ヒータ113にのみ撥油処理を施すことも考えられる。この場合でも、ヒータ113の側面113aに基油Gbに対する撥油性を付与することで、ヒータホルダ130とヒータ113の間の隙間132への基油Gbの侵入を抑制して基油Gbの流出を低減できるからである。
<第3実施形態>
本開示の第3実施形態を以下に説明する。第3実施形態では、基油Gbの成分が第1実施形態と異なるため、それに対応して撥油剤も変更される。以下、第1実施形態と共通の参照符号を付した要素は第1実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第1実施形態と異なる要素を主に説明する。
第1実施形態及び第2実施形態では、潤滑剤Gの基油Gbの主成分としてフッ素オイルを用いた場合を扱った。フッ素オイルは高温環境下における高い摺動性と耐久性を満たす利点があるが、使用する温度領域や各種条件によっては基油Gbにシリコーンオイルを用いる場合もある。基油Gbの主成分としてシリコーンオイルを用いる場合でも、ヒータホルダ130とヒータ113の隙間132における毛細管現象により基油Gbが流出すると、摺動摩擦抵抗の増大等の不都合が生じ得る。そこで、基油Gbにシリコーンオイルを用いる場合は、シリコーンオイルに対する撥油性を高める撥油処理をヒータホルダ130の嵌合溝131やヒータ113の側面113aに施すことが有効である。
本実施形態の撥油剤としては、パーフルオロポリエーテルの如きフッ素オイルや、フッ素化された官能基を持つシランカップリング剤を用いることができる。本実施形態の撥油剤として使用できるカップリング剤としては、一般式(ウ)で示されるものである。
-Si-X (ウ)
(式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1~3の整数を示し、Xはフッ化アルキル基の如き有機官能基(即ち、基油であるシリコーンオイルに対する親和性が低い、フルオロ基を含有する有機官能基)を示し、nは1~3の整数を示す。ただし、m+n=4である。)
一般式(ウ)で示されるシランカップリング剤としては、例えば、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
表3に本実施形態における基油Gbであるシリコーンオイルと、撥油剤又は親油剤として用いる各材料をヒータホルダ130に塗布したときのヘキサデカン接触角と、通紙耐久試験の評価結果を記す。撥油剤1のフォンブリンM30はヒータホルダ130の嵌合溝131に塗布して使用し、撥油剤2、3及び親油剤1~4のシランカップリング剤はヒータホルダ130の嵌合溝131及びヒータ113の側面113aの両方に塗布焼成した。
Figure 2023025967000008
表3に示すように、撥油剤又は親油剤を塗布しない液晶ポリマーの表面(従来例)に対するヘキサデカンの接触角γは36.2°である。一方、ヒータホルダ130の材料である液晶ポリマーに本実施形態の基油Gbであるシリコーンオイルを塗布した表面に対するヘキサデカンの接触角γは20.6である。従って、撥油剤又は親油剤を塗布しない状態のヒータホルダ130の表面の、基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は、15.6°である。この従来例において、通紙枚数が150,000枚を超えると、許容範囲を超える画像不良又は動作不良が発生するようになった。
基油Gbに対しで親油性を示すシランカップリング剤(親油剤1~4)をヒータホルダ130の嵌合溝131に塗布した場合のヒータホルダ130の表面のヘキサデカン接触角γは26.8°~34.9°であった。従って、本実施形態の基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は6.2°~14.3°と従来例のΔγより小さくなった。これらの例では、通紙可能枚数は140,000~145,000枚と従来例に比べて著しく減少した。これは、ヒータホルダ130とヒータ113の隙間132への基油Gbの侵入拡散が親油剤によって促進され、従来例より早く潤滑剤Gの枯渇が引きこされたことを示している。
本実施形態の基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤1~3を用いた場合は、基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が39.0°~42.4°と従来例のΔγより大きくなった。これらの実施例では、通紙可能枚数は260,000~270,000枚と従来例に比べて顕著に増加し、耐久性が大きく向上したと言える。
以上の結果が示すように、基油Gbの成分が第5実施形態と異なる場合でも、基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131内面及びヒータ113の側面に塗布することにより、潤滑対象領域の外部への基油Gbの流出を抑制できる。これにより、潤滑剤Gの枯渇を抑制し、長期間に亘って定着装置100の性能を維持することができる。また、表3の結果によれば、嵌合溝131に塗布する撥油剤としては基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が35.0°以上となるものが好ましい。
<第4実施形態>
本開示の第4実施形態を説明する。本実施形態では定着装置の基本構成が第1~第3実施形態と異なる構成を説明する。以下、第1実施形態と共通の参照符号を付した要素は第1実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第1実施形態と異なる要素を主に説明する。
図6(a)は、ハロゲンランプHLが内部に配置された中空状の定着ローラ114と、加圧フィルム115、摺動板140及び摺動板保持部材141を含む加圧ユニットと、を備えた定着装置を示している。定着ローラ114は、定着ニップにおいて記録材上の画像を加熱する加熱部材である。摺動板140は摺動板保持部材141に設けられた嵌合溝142に嵌合された状態で摺動板保持部材141に保持され、潤滑剤を介して加圧フィルム115の内面と摺動する。摺動板保持部材141が不図示の加圧手段によって定着ローラ114側に加圧されることで、摺動板140と定着ローラ114の間のニップ部である定着ニップが形成される。この定着装置は、定着ニップにおいて定着ローラ114及び加圧フィルム115の間に記録材を挟持して搬送しながら、ハロゲンランプHLの輻射熱によって加熱される定着ローラ114によって記録材上の画像を定着処理する。
図6(b)は、ハロゲンランプHLを熱源とするフィルム加熱方式の定着装置を示している。この定着装置は、ハロゲンランプHL、摺動板143及び摺動板保持部材144が内部に配置された筒状の定着フィルム112と、定着フィルム112を挟んで摺動板143に圧接する加圧ローラ110と、を備えている。摺動板143は摺動板保持部材144に設けられた嵌合溝145に嵌合された状態で摺動板保持部材144に保持され、潤滑剤を介して定着フィルム112の内面と摺動する。摺動板保持部材144が不図示の加圧手段によって加圧ローラ110側に加圧されることで、摺動板143と加圧ローラ110の間のニップ部である定着ニップが形成される。この定着装置は、定着ニップにおいて定着フィルム112及び加圧ローラ110の間に記録材を挟持して搬送しながら、ハロゲンランプHLの輻射熱によって加熱される定着フィルム112によって記録材上の画像を定着処理する。
更に他の構成として、第1実施形態に示す定着装置100において、ヒータホルダ130の嵌合溝131(図2(a)参照)に、ヒータ113に重ねて配置した摺動板をヒータ113と共に嵌合溝131に嵌合させる構成がある。この摺動板は、定着フィルム112の摺動性を向上させ、又は、定着ニップにおける長手方向Bの温度分布を均一化する目的で配置される。この場合、潤滑剤は、摺動板の定着フィルム112に対する摺動面に塗布され、摺動板保持部材としてのヒータホルダ130の嵌合溝131と摺動板との隙間に付着する。
これらの構成において、摺動板と、摺動板を保持する摺動板保持部材141,144の嵌合溝と、の間の隙間を介して毛細管現象により潤滑剤の基油の流出が起こり得ることは、第1実施形態~第3実施形態で説明したのと同様である。従って、摺動板保持部材141,144の嵌合溝、及び/又は、摺動板の側面に基油に対して撥油性を示す撥油剤の塗布等の撥油処理を施すことで、毛細管現象による基油の流出を抑制することができる。これにより、長期間に亘って定着装置の性能を維持することが可能である。
<第5実施形態>
本開示の第5実施形態を以下に説明する。第5実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と共通の参照符号を付した要素は第1実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第1実施形態と異なる要素を主に説明する。
第1~第4実施形態では、ヒータ又は摺動板と、これを保持するヒータホルダ又は摺動板保持部材との間の隙間を介して、毛細管現象により基油が流出することを抑制可能な構成を説明した。本実施形態では、ヒータと、これを保持するヒータホルダとの間の隙間を介して、毛細管現象により基油が長手方向に広がって定着フィルムの長手方向端部から基油が流出(漏出)することを抑制可能な構成を説明する。
本来は定着フィルムの内側に存在している潤滑剤の基油が、定着フィルムの長手方向端部を回り込んで定着フィルムの外側に流出(漏出)すると、次のような不都合が生じ得る。例えば、定着ニップにおいて基油による記録材の汚染や搬送不良、加圧ローラの離型層が基油で膨潤することによる割れが発生する可能性がある。また、本来の潤滑対象領域(ヒータ摺動面及び定着フィルムの内面)から基油が奪われるため、第1~第4実施形態で説明したのと同様に、基油の枯渇による定着装置の性能低下が生じ得る。
そこで、本実施形態では、ヒータ113が嵌合されるヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に、撥油処理として潤滑剤の基油に対して撥油性を示す撥油剤を塗布する。撥油剤の選定方法及び撥油剤の塗布方法については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。また、第1実施形態と同様に、部材表面に微細な凹凸構造を設けること(ロータス効果)で基油に対する撥油性を高める撥油処理を行ってもよい。
本実施形態における撥油処理について図7(a~c)に基づいて説明する。図7(a)は、ヒータホルダ130及びその周辺を長手方向Bに垂直な平面で切断した断面図である。図7(b)は、ヒータホルダ130及びヒータ113を垂直方向Cにおいて定着ニップN側から見た図である。図7(c)は、ヒータ113を取り外したヒータホルダ130を図7(b)と同じ方向から見た図であり、撥油剤が塗布された撥油処理部APを示す図である。図7(b、c)において、定着装置100の長手方向Bに関して、定着フィルム112がヒータ113と接触する領域をフィルム接触領域Lfとし、ヒータ113に潤滑剤が塗布される領域を潤滑剤塗布領域Lgとする。同様に、定着装置100の長手方向Bに関して、ヒータホルダ130に撥油剤が塗布される領域を撥油剤塗布領域Lrとする。また、定着フィルム112を挟んでヒータ113に加圧ローラ110が圧接される領域をニップ加圧領域Lpとする。上述した通り、長手方向Bに関して潤滑剤塗布領域Lgはニップ加圧領域Lpの内側に位置し、加圧ローラ110の長さ(220mm)より若干短い長さ(210mm)に設定されている。
第1実施形態と同様に、ヒータ113とヒータホルダ130の嵌合溝131との間には、加熱に伴うヒータ113の熱膨張を考慮して必要な隙間が設定される(図7(a、b))。本実施形態では、記録材搬送方向Aに関するヒータ113の幅5.8mmに対し、ヒータホルダ130の嵌合溝131の幅は6.45mmに設定される。ヒータ113の記録材搬送方向Aの上流側の側面113aと嵌合溝131の壁面131aの間には0.35mmの隙間132がある。また、ヒータ113の記録材搬送方向Aの下流側の側面113aと嵌合溝131の壁面131aの間には0.30mmの隙間132がある。
この隙間132を伝って毛細管現象により潤滑剤の基油が長手方向Bに移動し、定着フィルム112の長手方向Bの端部の外側まで広がると、定着フィルム112の外面に基油が回り込んで上述した不都合を引き起こす可能性がある。このような毛細管現象による基油の漏れ出し現象を抑制するため、ヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向Bにおける少なくとも一方の端部、好ましくは両端部に撥油剤を塗布する(図7(c))。基油が定着フィルムの長手方向Bにおける両端部を回り込んで漏れ出ることを効果的に防ぐため、撥油剤は長手方向Bに関してフィルム接触領域Lfの両外側からフィルム接触領域Lfの内側に亘る領域に塗布する。本実施形態においては、図7(c)に斜線で示す潤滑剤塗布領域Lgの外側における嵌合溝131の全域を撥油剤塗布領域Lrとして撥油剤の塗布を行った。この場合、撥油剤塗布領域Lrの内側の端部とニップ加圧領域Lpの外側の端部が重複する。
塗布方法については、スプレー塗布、刷毛塗り、ディッピングの如き公知の塗布方法を用いることができる。また、塗布方法に応じて撥油剤の希釈を行ってもよい。希釈を行う際には、撥油剤が十分に溶解すること、希釈剤が容易に除去可能なことなどを考慮し、希釈剤の選定を行うことが好ましい。
本実施形態の構成例では、シリコーンオイルをスプレー塗布によってヒータホルダ130に塗布することで、撥油処理を行った。他の構成例では、シランカップリング剤をアルコール水溶液(水/アルコール=1/9重量部)で5倍希釈し、スプレー塗布によってヒータホルダ130に塗布し、加熱炉において120℃の環境下で30分間、乾燥させた。
(撥油処理の作用)
次に図8(a~c)を用いて比較例と比較しつつ、本実施形態の撥油処理による潤滑剤G及び基油Gbに対する作用を説明する。図8(a)はヒータ113がヒータホルダ130に嵌合された状態を示す図であり、潤滑剤Gは潤滑剤塗布領域Lgに塗布されている。図8(a)の下部には、潤滑剤塗布領域Lgの境界部を拡大した拡大図を示す。図8(b)は、ヒータホルダ130の撥油処理をしない従来例において、潤滑剤塗布領域Lgの境界部における潤滑剤G及び基油Gbの初期侵入の様子を示す模式図である。図8(c)は、ヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に親油剤を塗布した比較例において、潤滑剤塗布領域Lgの境界部における潤滑剤G及び基油Gbの初期侵入の様子を示す模式図である。図8(d)は、ヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に撥油剤を塗布した本実施形態において、潤滑剤塗布領域Lgの境界部における潤滑剤G及び基油Gbの初期侵入の様子を示す模式図である。
ヒータ113の摺動面113Sに潤滑剤Gを塗布した後に定着装置100を動作させると、定着フィルム112の回転に付随して潤滑剤Gは移動しヒータホルダ130等に付着し、基油Gbは定着フィルム112の内面とヒータ113の摺動面113Sに広がる。定着装置100の組立て時に潤滑剤を塗布した後に定着装置100を動作させていない状態でも、定着ニップNで潤滑剤Gは潰され、記録材搬送方向Aにおけるヒータ113の上流側及び下流側にはみ出した状態となる。いずれの場合においても、基油Gbはヒータホルダ130とヒータ113の間の隙間132に接触する。
一般に、毛細管現象は液体の表面張力・壁面の濡れ易さ・液体の密度・隙間に依存する。従って、潤滑剤Gを構成している基油Gbが隙間132に入り込みやすいか否かは、隙間132を構成するヒータホルダ130の壁面131a及びヒータ113の側面113aの濡れ易さに依存する。従来例では、基油Gbが隙間に触れた初期状態では、図8(b)に示すように、基油Gbがヒータホルダ130の壁面131a及びヒータ113の側面113aの極一部に付着している状態である。しかし、定着装置100の累積使用時間の増加又は組立て後の時間経過と共に、基油Gbは壁面131a及び側面113aを濡らしながら隙間132を奥側に向かって、かつ、長手方向Bに関しては初期の潤滑剤塗布領域Lgから外側に向かって広がっていく。
そして、長手方向Bに広がった基油がフィルム接触領域Lfの境界(定着フィルム112の長手方向端部)に到達すると、定着フィルム112の外面に基油Gbが回り込んで基油Gbが外部に流出(漏出)することになる。特に、定着フィルム112の外面に回り込んだ基油Gbが定着ニップN(ニップ加圧領域Lp)に達すると、定着フィルム112と加圧ローラ110によって形成される定着ニップNの隙間における毛細管現象より基油Gbが吸いだされる状況になり得る。この状況では、大量の基油Gbの損失による定着フィルム112の摺動摩擦抵抗の増大、定着ニップNにおける記録材の搬送力の低下、記録材の汚染、加圧ローラ110の離型層が基油Gbで膨潤することによる割れ等が生じやすくなる。
比較のために、ヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に基油Gbに対して親油性を示す材料(親油剤)を塗布した場合の様子を図8(c)に示す。親油剤として、ここではフッ化アルキル基を持つシランカップリング剤(トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン、T2876、東京化成工業社製)を塗布してある。本実施形態の基油Gbであるフッ素オイルと、フッ化アルキル基を持つシランカップリング剤により処理された表面(親油処理部)はヘキサデカン接触角が近しいことから親油性を示し濡れ易い。従って、この比較例では、基油Gbの隙間132を介した長手方向Bの拡散が助長され、短期間でより多くの基油Gbが定着フィルム112の外部に流出(漏出)する結果になる。
一方、本実施形態では、ヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に撥油剤を塗布してあるため、基油Gbが隙間132に触れた初期状態では、図8(d)に示す様子となる。図に示すように、嵌合溝131の壁面131aに基油Gbに対する撥油性があることで、毛細管現象は生じにくくなり、隙間132を介した基油Gbの長手方向Bへの拡散が抑制される。これにより、定着装置100の累積使用時間の増加又は組立て後の時間経過が増加しても、毛細管現象による隙間132を介した基油Gbの流出(漏出)が抑制され、基油Gbの流出(漏出)による不都合の発生を防ぐことができる。撥油剤としては、KF-965-1,000cs(信越化学工業社製)、DOWSIL SH 200 Fluid 2,000cSt(ダウ・東レ社製)、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)、KBE-22(ジメチルジエトキシシラン)、KBEー3083(オクチルトリエトキシシラン)、KBM-13(メチルトリメトキシシラン)(以上、信越化学工業社製)を用いた。
(比較実験)
撥油処理の効果を確認するために、比較実験を行った。ヒータホルダ130の嵌合溝131に撥油剤又は親油剤を塗布しない従来例の定着装置100と、ヘキサデカン接触角の値が互いに異なる材料をヒータホルダ130の嵌合溝131に塗布した定着装置100を用意した。これらの定着装置100を、ヒータ113の加熱を行いながら加圧ローラ110を回転駆動してエージングを行った後、40℃の高温環境に放置することで基油の定着フィルム112外への漏れ出しを比較観察した。エージング後の定着装置100は時間経過と伴に定着フィルム112の端部から潤滑剤(特に基油)の漏れ出しが進行するのが目視確認でき、外気温度は高いほど、より顕著に漏れ出しが引きこされる。表4では、エージング後48時間の観察で基油の漏れ出しがなければ〇、漏れ出しがあれば×としている。漏れ出しの程度に関しては観察結果を加味して後述する。撥油剤又は親油剤として用いた材料と、潤滑剤の漏れ出しに関する定着装置100の耐久性の評価結果を表1に示す。す。
Figure 2023025967000009
従来例ではヒータホルダ130の材料は液晶ポリマーであり、嵌合溝131の内面もこの液晶ポリマーで構成されている。この場合、液晶ポリマーの表面に対するヘキサデカンの接触角γは36.2°である。一方、ヒータホルダ130の材料である液晶ポリマーに基油Gbを塗布した表面に対するヘキサデカンの接触角γは61.9°である。従って、撥油剤又は親油剤を塗布しない状態のヒータホルダ130の表面の、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は、25.7°である。この従来例では、基油Gbの漏れ出しが確認された。
基油に対して親油性を示すフッ化アルキル基を持つシランカップリング剤T2876を塗布した比較例では、ヒータホルダ130の表面のヘキサデカン接触角γは63.0°であり、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は1.1°であった。この比較例では、従来に比べて基油Gbの漏れ出しは更に顕著になった。これは、嵌合溝131の表面が基油Gbに対して親油性となることで、毛細管現象による基油Gbの隙間132を介した長手方向Bの移動が促進され、定着フィルム112の端部まで基油Gbが到達しやすくなったことを示している。
これに対し、本実施形態の実施例であるシリコーンオイル(撥油剤1,2)を塗布した場合は、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が41.3°又は41.8°と従来例のΔγより大きくなった。これらの実施例では、基油Gbの漏れ出しは観察されず、基油Gbの漏れ出しに関して定着装置100の耐久性が大きく向上したと言える。また、撥油剤3~6に示すシランカップリング剤を塗布焼成した場合のヘキサデカン接触角も、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は35.0°~38.1°と従来例のΔγより大きくなった。これらの実施例でも、基油Gbの漏れ出しは観察されなかった。
ただし、撥油剤7として示すシランカップリング剤KBE-903を用いてヒータホルダ130を撥油処理した場合は、基油に対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が27.0°と従来例(25.7°)に対して僅かな増加に留まった。そして、撥油剤7を用いた場合には、基油の漏れ出しは従来例に比べて若干改善したものの、大幅には改善しなかった。
以上の結果が示すように、ヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向端部に基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤を塗布することにより、毛細管現象による潤滑対象領域の外部への基油Gbの流出を抑制することができる。特に、定着フィルム112の端部を介して基油Gbが定着フィルム112外に漏れ出すことを抑制できる。これにより、基油Gbの漏れ出しに伴う記録材の汚染や搬送不良、加圧ローラの離型層の膨潤割れ、本来の潤滑対象領域における基油の枯渇といった不都合の発生を抑制し、長期間に亘って定着装置100の性能を維持することができる。また、比較実験の結果によれば、嵌合溝131に塗布する撥油剤としては基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が大きい材料が好ましいことが分かる。具体的に、撥油剤としてはΔγが35.0°以上となるものが好ましい。
<第6実施形態>
本開示の第6実施形態を以下に説明する。第6実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第5実施形態と異なる。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における撥油剤の塗布領域を図9(a、b)に示す。第5実施形態では撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の内面の長手方向端部(特に、両端部)に塗布した。図9(a)は、ヒータホルダ130及びその周辺を長手方向Bに垂直な平面で切断した断面図である。図9(b)は、ヒータ113を取り外したヒータホルダ130を垂直方向Cにおいて定着ニップN側から見た図であり、撥油剤が塗布された撥油処理部APを示す図である。本実施形態では、図9(a)に示すように、嵌合溝131の内面に加えて、ヒータホルダ130が定着フィルム112の内面と接触するフィルム接触面133(ガイド面、摺動面)の長手方向両端部にも、基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤を塗布する。つまり、本実施形態における撥油部である撥油処理部APは、ヒータホルダ130の内、嵌合溝131の内面と、記録材搬送方向Aにおいて嵌合溝131の上流側及び下流側に延びる部分と、を含む。
第5実施形態ではヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に撥油剤を塗布することで毛細管現象による基油Gbの定着フィルム112外への漏れ出しを防いだが、嵌合溝131以外にも基油Gbが定着フィルム112外に漏れ出す経路が存在する。本実施形態によれば、ヒータ113とヒータホルダ130の嵌合溝131の隙間における毛細管現象だけでなく、定着フィルム112とヒータホルダ130のフィルム接触面133との隙間における毛細管現象による基油Gbの漏れ出しを抑制することができる。これにより、基油Gbの定着フィルム112外への流出(漏れ出し)による不都合の発生を、より効果的に抑制することができる。
<第7実施形態>
本開示の第7実施形態を以下に説明する。第7実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第5実施形態と異なる。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における撥油剤の塗布領域を図10(a、b)に示す。第5実施形態では撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の内面に塗布したが、本実施形態では、図10(a、b)に示すように、嵌合溝131の内面に加えてヒータ113の摺動面113S及び側面113aにも撥油剤を塗布する。つまり、本実施形態における撥油部である撥油処理部APは、嵌合溝131の長手方向端部と、ヒータ113の長手方向端部と、を含む。
本実施形態では、ヒータホルダ130の嵌合溝131だけでなく、ヒータ113の長手方向端部にも撥油剤を塗布するので、隙間132を介した毛細管現象が第5実施形態(図8(d))に比べて更に生じにくくなる。そのため、基油Gbの隙間132を介した長手方向Bへの拡散が阻害され、基油Gbの定着フィルム112外への漏れ出しを更に抑制することができる。これにより、基油Gbの定着フィルム112外への流出(漏れ出し)による不都合の発生を、より効果的に抑制することができる。なお、嵌合溝131に撥油剤を塗布せず、ヒータ113の長手方向端部にのみ撥油剤を塗布した場合でも、本実施形態に比べて効果が低くなる可能性はあるが、基油Gbの定着フィルム112外への流出(漏れ出し)を抑制することができる。
<第8実施形態>
本開示の第8実施形態を以下に説明する。第8実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第5実施形態と異なる。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における撥油剤の塗布領域を図11に示す。第5実施形態では撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の内面に塗布したが、本実施形態では、嵌合溝131の内面に加えて定着フランジ120にも撥油剤を塗布する。定着フランジ120は、定着フィルム112の内面と摺動する摺動部としての円弧状(半月状)の内面ガイド部120aと、定着フィルム112の長手方向端部に対向するフランジ状の端面ガイド部120bと、を有する。基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤は、定着フランジ120のうち少なくとも内面ガイド部120aに塗布される。つまり、本実施形態における撥油部である撥油処理部APは、嵌合溝131の長手方向端部と、定着フランジ120の摺動部である内面ガイド部120aと、を含む。
第5実施形態ではヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に撥油剤を塗布することで毛細管現象による基油Gbの定着フィルム112外への漏れ出しを防いだが、嵌合溝131以外にも基油Gbが定着フィルム112外に漏れ出す経路が存在する。本実施形態によれば、ヒータ113とヒータホルダ130の嵌合溝131の隙間における毛細管現象だけでなく、定着フィルム112と定着フランジ120との隙間における毛細管現象による基油Gbの漏れ出しを抑制することができる。これにより、基油Gbの定着フィルム112外への流出(漏れ出し)による不都合の発生を、より効果的に抑制することができる。なお、嵌合溝131に撥油剤を塗布せず、定着フランジ120にのみ撥油剤を塗布した場合でも、本実施形態に比べて効果が低くなる可能性はあるが、基油Gbの定着フィルム112外への流出(漏れ出し)を抑制することができる。
<第9実施形態>
本開示の第9実施形態を以下に説明する。第9実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第5実施形態と異なる。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における撥油剤の塗布領域を図12に示す。第5実施形態では撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の内面に塗布したが、本実施形態では、嵌合溝131の内面に加えて定着フィルム112の内面にも撥油剤を塗布する。具体的には、定着フィルム112の内面の内、長手方向Bに関して潤滑剤塗布領域Lgの外側の端部(特に、両端部)に、基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤を塗布する。つまり、本実施形態における撥油部である撥油処理部APは、嵌合溝131の壁面131a及び底面131b(図7(a)参照)と、定着フィルム112の内面の長手方向両端部と、を含む。
本実施形態によれば、ヒータ113とヒータホルダ130の嵌合溝131の隙間における毛細管現象だけでなく、定着フィルム112の内面と、定着フィルム112の内面と摺動する他の部材との隙間における毛細管現象による基油Gbの漏れ出しを抑制できる。定着フィルム112の内面と摺動する他の部材とは、例えばヒータホルダ130や定着フランジ120であるが、定着装置の具体的構成に応じてこれ以外の部材であってもよい。これにより、基油Gbの定着フィルム112外への流出(漏れ出し)による不都合の発生を、より効果的に抑制することができる。なお、嵌合溝131に撥油剤を塗布せず、定着フィルム112の内面の長手方向端部にのみ撥油剤を塗布した場合でも、本実施形態に比べて効果が低くなる可能性はあるが、基油Gbの定着フィルム112外への流出(漏れ出し)を抑制することができる。
<第10実施形態>
本開示の第10実施形態を以下に説明する。第10実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第5実施形態と異なる。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における撥油剤の塗布領域を図13に示す。第5実施形態では撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の内面に塗布したが、本実施形態では、嵌合溝131の内面に加えて定着フィルム112の外面にも撥油剤を塗布する。具体的には、定着フィルム112の外面の内、長手方向Bに関して両端部に、基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤を塗布する。つまり、本実施形態における撥油部である撥油処理部APは、嵌合溝131の壁面131a及び底面131b(図7(a)参照)と、定着フィルム112の外面の長手方向両端部と、を含む。
定着フィルム112の外面の撥油処理部APは、好ましくは、長手方向Bに関して、定着ニップNにおける最大記録材幅W(最大通紙領域)の外側に設けられる。最大記録材幅Wとは、定着装置が定着処理可能な記録材(画像形成装置が画像形成可能な記録材)の内、長手方向Bのサイズが最も大きい記録材が定着ニップNを通過するときに、長手方向Bに関して記録材が通過する範囲を指す。
また、本実施形態において、定着フィルム112の長手方向Bの端部には導電性を有する基層が露出した導通部Eが設けられており、撥油処理部APは導通部Eを除いた領域とした。導通部Eに電圧印加回路を接続して基層に所定のバイアス電圧を印加することで、定着ニップNにおける静電オフセットや尾引きの発生を抑制することができる。静電オフセットとは、高湿度下での吸湿による記録材の電気抵抗の低下により、記録材上の未定着トナー像の静電的保持力が低下し、定着ニップ通過時に定着フィルム112に転移してその後記録材に再付着することによる画像不要である。尾引きとは、吸湿した記録材の定着時に発生する水蒸気によって、特に横線画像が記録材搬送方向に引き延ばされる(尾を引く)画像不良である。定着フィルム112の基層にトナーの正規帯電極性と同極性のバイアス電圧を印加することで、未定着トナー像を記録材表面に拘束してこれらの画像不良の発生を抑制することができる。撥油処理部APから導通部Eを除いたのは、撥油剤の塗布により導通部Eの導電性が失われないようにするためである。
本実施形態によれば、毛細管現象による基油Gbの定着フィルム外への漏れ出しを抑制するだけでなく、定着フィルム112の外面に回り込んだ基油Gbが定着フィルム112と加圧ローラ110の間の隙間(定着ニップN)に到達することを抑制できる。これにより、定着フィルム112の外面に回り込んだ基油Gbが定着ニップNを介して流出することで引き起こされる、記録材の搬送性の低下や記録材の汚染、加圧ローラ110の離型層の膨潤割れといった不都合の発生をより効果的に抑制することができる。なお、嵌合溝131に撥油剤を塗布せず、定着フィルム112の外面の長手方向端部にのみ撥油剤を塗布した場合でも、本実施形態に比べて効果が低くなる可能性はあるが、基油Gbの定着ニップNへの到達を抑制することができる。
<第11実施形態>
本開示の第11実施形態を以下に説明する。第11実施形態は、撥油剤を塗布する範囲が第5実施形態と異なる。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における撥油剤の塗布領域を図14に示す。第5実施形態では撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の内面に塗布したが、本実施形態では、嵌合溝131の内面に加えて加圧ローラ110の表面にも撥油剤を塗布する。具体的には、加圧ローラ110の外周面(定着ニップNにおいて定着フィルム112と接触する面)の長手方向端部(特に、両端部)に、基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤を塗布する。つまり、本実施形態における撥油部である撥油処理部APは、嵌合溝131の壁面131a及び底面131b(図7(a)参照)と、加圧ローラ110の外周面の長手方向両端部と、を含む。加圧ローラ110の外周面の撥油処理部APは、好ましくは、長手方向Bに関して、定着ニップNにおける最大記録材幅W(最大通紙領域)の外側に設けられる。
本実施形態によれば、毛細管現象による基油Gbの定着フィルム外への漏れ出しを抑制するだけでなく、定着フィルム112の外面に回り込んだ基油Gbが定着フィルム112と加圧ローラ110の間の隙間(定着ニップN)に到達することを抑制できる。これにより、定着フィルム112の外面に回り込んだ基油Gbが定着ニップNを介して流出することで引き起こされる、記録材の搬送性の低下や記録材の汚染、加圧ローラ110の離型層の膨潤割れといった不都合の発生をより効果的に抑制することができる。なお、嵌合溝131に撥油剤を塗布せず、加圧ローラ110の長手方向端部にのみ撥油剤を塗布した場合でも、本実施形態に比べて効果が低くなる可能性はあるが、基油Gbの定着ニップNへの到達を抑制することができる。
また、加圧部材として加圧ローラ以外(例えば、前述のベルトユニット)を用いる場合も、定着ニップNにおいて定着フィルム112と接触する回転部材の外周面の長手方向端部に撥油剤を塗布すればよい。
<第12実施形態>
本開示の第12実施形態を以下に説明する。第12実施形態では、基油Gbの成分が第5実施形態と異なるため、それに対応して撥油剤も変更される。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
第5~第11実施形態では、潤滑剤Gの基油Gbとしてフッ素オイルを用いた場合を扱った。フッ素オイルは高温環境下における高い摺動性と耐久性を満たす利点があるが、使用する温度領域や各種条件によっては基油Gbにシリコーンオイルを用いる場合もある。基油Gbにシリコーンオイルを用いる場合でも、ヒータホルダ130とヒータ113の隙間132における毛細管現象により基油Gbが定着フィルム112外に流出(漏出)すると、種々の不都合が生じ得る。そこで、基油Gbにシリコーンオイルを用いる場合は、シリコーンオイルに対して撥油性を高める撥油処理をヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部等に施すことが、定着装置の耐久性向上の観点で有効である。
本実施形態の撥油剤としては、パーフルオロポリエーテルの如きフッ素オイルや、フッ素化された官能基を持つシランカップリング剤を用いることができる。本実施形態の撥油剤として使用できるカップリング剤としては、上掲の一般式(ウ)で示されるものである。一般式(ウ)で示されるシランカップリング剤としては、例えば、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
表5に本実施形態における基油Gbであるシリコーンオイルと、撥油剤又は親油剤として用いる各材料をヒータホルダ130に塗布したときのヘキサデカン接触角と、エージング後の基油Gbの漏れ出しの有無を観察した結果を記す。実験方法の詳細は表4で説明したものと同様である。撥油剤1のフォンブリンM30はヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に塗布して使用し、撥油剤2、3及び親油剤1~4のシランカップリング剤はヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に塗布焼成した。
Figure 2023025967000010
表5に示すように、撥油剤又は親油剤を塗布しない液晶ポリマーの表面(従来例)に対するヘキサデカンの接触角γは36.2°である。一方、ヒータホルダ130の材料である液晶ポリマーに本実施形態の基油Gbであるシリコーンオイルを塗布した表面に対するヘキサデカンの接触角γは20.6である。従って、撥油剤又は親油剤を塗布しない状態のヒータホルダ130の表面の、基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は、15.6°である。この従来例では、エージング後に定着フィルム112の端部から基油Gbの漏れ出しが確認された。
基油Gbに対しで親油性を示すシランカップリング剤(親油剤1~4)をヒータホルダ130の嵌合溝131に塗布した場合のヒータホルダ130の表面のヘキサデカン接触角γは25.7°~34.9°であった。従って、本実施形態の基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)は5.1°~14.3°と従来例のΔγより小さくなった。これらの例では、エージング後に定着フィルム112の端部から基油Gbの漏れ出しが確認された。これは、ヒータホルダ130とヒータ113の隙間132を介した基油Gbの長手方向の拡散が親油剤によって促進されたことを示している。
本実施形態の基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤1~3を用いた場合は、基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が39.0°~42.4°と従来例のΔγより大きくなった。これらの実施例では、基油Gbの漏れ出しは観察されず、従来例に比べて基油Gbが定着フィルム112外に流出(漏出)しにくくなり、定着装置の耐久性が向上したと言える。
以上の結果が示すように、基油Gbの成分が第5実施形態と異なる場合でも、基油Gbに対して撥油性を示す撥油剤をヒータホルダ130の嵌合溝131の長手方向両端部に塗布することにより、基油Gbの定着フィルム112外への漏れ出しを抑制できる。これにより、長期間に亘って定着装置100の性能を維持することができる。また、表5の結果によれば、嵌合溝131に塗布する撥油剤としては基油Gbに対するヘキサデカン接触角の差(Δγ)が35.0°以上となるものが好ましい。
<第13実施形態>
本開示の第13実施形態を説明する。本実施形態では定着装置の基本構成が第5~第12実施形態と異なる構成を説明する。以下、第5実施形態と共通の参照符号を付した要素は第5実施形態で説明したものと実質的に同等の構成及び作用を有するものとし、第5実施形態と異なる要素を主に説明する。
本実施形態における定着装置は、第4実施形態で説明したもの(図6(a、b)参照)と同様である。即ち、本実施形態における定着装置は、定着装置におけるフィルム状部材(ベルト状部材)の内面に摺動する摺動板と、この摺動板が嵌合される嵌合溝を備えた摺動板保持部材と、を備えている。
このような構成において、摺動板と、摺動板を保持する摺動板保持部材の嵌合溝との間の隙間を介して、毛細管現象により潤滑剤の基油が長手方向Bに拡散してフィルム状部材の外部に流出(漏出)すると、第5実施形態で説明した種々の不都合が生じ得る。そこで、第5~第12実施形態を参考にして、摺動板保持部材の嵌合溝、摺動板保持部材のフィルム摺動面、摺動板の側面、フィルム状部材をガイドするフランジ部材、フィルム状部材の内面或いは外面、及び/又は、フィルム状部材に対向するローラ部材について、長手方向端部(好ましくは両端部)に、基油に対して撥油性を示す撥油剤の塗布等により撥油処理を施す。これにより、毛細管現象によるフィルム状部材外部への基油の流出(漏出)を抑制することができる。従って、第5~第12実施形態と同様に、基油の漏れ出しによる記録材の搬送力の低下、記録材の汚染、加圧ローラ110の離型層が基油Gbで膨潤することによる割れ等の不都合を抑制することができ、定着装置の耐久性を向上させることができる。
(その他の実施形態)
上述の第1~第4の実施形態では、毛細管現象によりヒータ(摺動板)とヒータホルダ(摺動板保持部材)の隙間に基油が奪われることによる基油の枯渇を抑制するように、ヒータホルダの嵌合溝等に撥油処理を施す構成を説明した。一方、第5~第13実施形態では、毛細管現象により基油が定着フィルム外(フィルム状部材外部)に漏れ出すことを抑制するように、ヒータホルダの嵌合溝等の長手方向端部に撥油処理を施す構成を説明した。第1~第4の実施形態で説明した撥油処理と、第5~第13実施形態で説明した撥油処理は、1つの定着装置に対して同時に適用することが可能である。これにより、基油の枯渇と定着フィルム外への基油の漏れ出しをより効果的に抑制することができる。一例として、ヒータホルダの嵌合溝の長手方向全域に撥油剤を塗布すると共に、嵌合溝以外のヒータホルダ表面又は他の部材(定着フランジ等)の長手方向端部に撥油剤を塗布することが考えられる。
100…定着装置/110…加圧部材(加圧ローラ)/112…フィルム(定着フィルム)/113…ヒータ/130…ヒータホルダ/131…嵌合溝/AP…撥油部(撥油処理部)/G…潤滑剤/Gb…基油

Claims (24)

  1. 回転可能な無端状のフィルムと、
    潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動されるヒータと、
    前記ヒータを保持するヒータホルダと、
    前記フィルムを介して前記ヒータと圧接され、前記ヒータとの間にニップ部を形成する加圧部材と、
    を有し、トナー像が形成された記録材を前記ニップ部で前記フィルム及び前記加圧部材の間に挟持して搬送しながら、前記ヒータにより加熱された前記フィルムを用いて前記トナー像を前記記録材に定着させる定着装置において、
    前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、
    前記ヒータホルダは、前記ヒータが嵌合された嵌合溝を有し、
    前記嵌合溝には、前記ニップ部の長手方向に関して前記ヒータが前記フィルムの前記内面に摺動される範囲内に、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする定着装置。
  2. 回転可能な無端状のフィルムと、
    潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動されるヒータと、
    前記ヒータを保持するヒータホルダと、
    前記フィルムを介して前記ヒータと圧接され、前記ヒータとの間にニップ部を形成する加圧部材と、
    を有し、トナー像が形成された記録材を前記ニップ部で前記フィルム及び前記加圧部材の間に挟持して搬送しながら、前記ヒータにより加熱された前記フィルムを用いて前記トナー像を前記記録材に定着させる定着装置において、
    前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、
    前記ヒータホルダは、前記ヒータが嵌合された嵌合溝を有し、
    前記嵌合溝の壁面と対向する前記ヒータの面には、前記ニップ部の長手方向に関して前記ヒータが前記フィルムの前記内面に摺動される範囲内に、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする定着装置。
  3. 前記嵌合溝の壁面と対向する前記ヒータの面には、前記ニップ部の長手方向に関して前記ヒータが前記フィルムの前記内面に摺動される範囲内に、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
  4. 回転可能な無端状のフィルムと、
    潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動される摺動部材と、
    前記摺動部材を保持する保持部材と、
    前記フィルムを介して前記摺動部材と圧接され、前記摺動部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、
    前記ニップ部を加熱する加熱手段と、
    を有し、トナー像が形成された記録材を前記ニップ部で前記フィルム及び前記加圧部材の間に挟持して搬送しながら、前記加熱手段により加熱された前記フィルムを用いて前記トナー像を前記記録材に定着させる定着装置において、
    前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、
    前記保持部材は、前記摺動部材が嵌合された嵌合溝を有し、
    前記嵌合溝には、前記ニップ部の長手方向に関して前記摺動部材が前記フィルムの前記内面に摺動される範囲内に、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする定着装置。
  5. 前記撥油部は、前記長手方向に関して前記嵌合溝の全域に亘って設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置。
  6. 回転可能な無端状のフィルムと、
    潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動されるヒータと、
    前記ヒータを保持するヒータホルダと、
    前記フィルムを介して前記ヒータと圧接され、前記ヒータとの間にニップ部を形成する加圧部材と、
    を有し、トナー像が形成された記録材を前記ニップ部で前記フィルム及び前記加圧部材の間に挟持して搬送しながら、前記ヒータにより加熱された前記フィルムを用いて前記トナー像を前記記録材に定着させる定着装置において、
    前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、
    前記ヒータホルダは、前記ヒータが嵌合された嵌合溝を有し、
    前記ニップ部の長手方向における前記嵌合溝の端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする定着装置。
  7. 回転可能な無端状のフィルムと、
    潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動されるヒータと、
    前記ヒータを保持するヒータホルダと、
    前記フィルムを介して前記ヒータと圧接され、前記ヒータとの間にニップ部を形成する加圧部材と、
    を有し、トナー像が形成された記録材を前記ニップ部で前記フィルム及び前記加圧部材の間に挟持して搬送しながら、前記ヒータにより加熱された前記フィルムを用いて前記トナー像を前記記録材に定着させる定着装置において、
    前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、
    前記ヒータホルダは、前記潤滑剤を介して前記フィルムの前記内面に摺動される摺動面を有し、
    前記ニップ部の長手方向における前記摺動面の端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする定着装置。
  8. 回転可能な無端状のフィルムと、
    潤滑剤を介して前記フィルムの内面に摺動されるヒータと、
    前記ヒータを保持するヒータホルダと、
    前記フィルムを介して前記ヒータと圧接され、前記ヒータとの間にニップ部を形成する加圧部材と、
    を有し、トナー像が形成された記録材を前記ニップ部で前記フィルム及び前記加圧部材の間に挟持して搬送しながら、前記ヒータにより加熱された前記フィルムを用いて前記トナー像を前記記録材に定着させる定着装置において、
    前記潤滑剤は、基油及び増稠剤を含み、
    前記ニップ部の長手方向における前記ヒータの端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする定着装置。
  9. 前記ヒータホルダは、前記潤滑剤を介して前記フィルムの前記内面に摺動される摺動面を有し、
    前記ニップ部の長手方向における前記摺動面の端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3、6のいずれか1項に記載の定着装置。
  10. 前記ニップ部の長手方向における前記ヒータの端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3、6、7、9のいずれか1項に記載の定着装置。
  11. 前記フィルムの回転軌道を案内するフランジ部材をさらに有し、
    前記フランジ部材は、前記潤滑剤を介して、前記ニップ部の長手方向における前記フィルムの端部の内面に摺動される摺動面を有し、
    前記摺動面には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3、6乃至10のいずれか1項に記載の定着装置。
  12. 前記ニップ部の長手方向における前記フィルムの前記内面の端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3、6乃至11のいずれか1項に記載の定着装置。
  13. 前記ニップ部の長手方向における前記フィルムの外面の端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3、6乃至12のいずれか1項に記載の定着装置。
  14. 前記ニップ部の長手方向における前記加圧部材の外周面の端部には、前記基油に対して撥油性を示す撥油部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3、6乃至13のいずれか1項に記載の定着装置
  15. 前記撥油部は、前記長手方向において前記潤滑剤が塗布される領域の両外側に設けられていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の定着装置。
  16. 前記撥油部は、前記基油に対して撥油性を示す撥油剤が塗布された領域であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の定着装置。
  17. 前記基油が塗布された表面に対するヘキサデカンの接触角と、前記撥油剤が塗布された表面に対するヘキサデカンの接触角と、の差が35.0°以上であることを特徴とする請求項16に記載の定着装置。
  18. 前記基油の主成分は、パーフルオロポリエーテルであり、
    前記撥油剤の主成分は、シリコーンオイルであることを特徴とする請求項16又は17に記載の定着装置。
  19. 前記シリコーンオイルは、ジメチルポリシロキサンであることを特徴とする請求項18に記載の定着装置。
  20. 前記基油の主成分は、パーフルオロポリエーテルであり、
    前記撥油剤の主成分は、下記一般式(1)で示されるシランカップリング剤であることを特徴とする請求項16又は17に記載の定着装置。
    Rm-Si-Yn (1)
    (式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1~3の整数を示し、Yはフルオロ基を含まない有機官能基を示し、nは1~3の整数を示す。ただし、m+n=4である。)
  21. 前記シランカップリング剤は、アルキルトリアルコキシシランカップリング剤である請求項20に記載の定着装置。
  22. 前記基油の主成分は、シリコーンオイルであり、
    前記撥油剤の主成分は、パーフルオロポリエーテルであることを特徴とする請求項16又は17に記載の定着装置。
  23. 前記基油の主成分は、シリコーンオイルであり、
    前記撥油剤の主成分は、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤であることを特徴とする請求項16又は17に記載の定着装置。
    Rm-Si-Yn (2)
    (式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1~3の整数を示し、Yはフルオロ基を含む有機官能基を示し、nは1~3の整数を示す。ただし、m+n=4である。)
  24. 記録材にトナー像を形成するトナー像形成手段と、
    前記記録材に形成されたトナー像を前記記録材に定着させる請求項1乃至23のいずれか1項に記載の定着装置と、
    を備えることを特徴とする画像形成装置。
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