以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。但し本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
図1は、本実施形態に係る定着装置が適用される画像形成装置の一例を示す概略構成図である。図1に、一般にタンデム型と呼ばれる中間転写方式の画像形成装置100を示す。図1に示す画像形成装置100は、電子写真方式により各色成分(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(B))のトナー像が形成される複数の画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kと、各画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kにより形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)させる一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写された重畳トナー画像を用紙(記録媒体)Pに一括転写(二次転写)させる二次転写部20(転写手段)と、二次転写された画像を用紙P上に定着させる定着装置60と、を備えている。また、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を有している。
各画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kは、矢印A方向に回転する感光体ドラム11(像保持体)の周囲に、感光体ドラム11を帯電する帯電装置12(帯電手段)と、レーザ等で感光体ドラム11上に静電潜像を書込む露光装置13(潜像形成手段)(図1中、露光ビームを符号Bmで示す)と、各色成分トナーが収容されて感光体ドラム11上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像装置14(現像手段)と、感光体ドラム11上に形成された各色成分のトナー像を一次転写部10にて中間転写ベルト15に転写する一次転写ロール16と、感光体ドラム11上の残留トナーを除去するドラムクリーナ17等の電子写真用デバイスが順次配置されている。これらの画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に、略直線状に配置されている。
中間転写体である中間転写ベルト15は、例えば、ポリイミドまたはポリアミド等の樹脂にカーボンブラック等の帯電防止剤を適当量含有させたフィルム状の無端ベルトで構成されている。そして、その体積抵抗率は、例えば、106Ωcm以上1014Ωcm以下となるように形成されており、その厚さは、例えば0.1mm程度に構成されている。中間転写ベルト15は、各種ロールによって、図1に示すB方向に予め定めた速度で循環駆動(回転)されている。この各種ロールとして、定速性に優れたモータ(図示せず)により駆動されて中間転写ベルト15を回転させる駆動ロール31と、各感光体ドラム11の配列方向に沿って略直線状に延びる中間転写ベルト15を支持する支持ロール32と、中間転写ベルト15に対して一定の張力を与えると共に中間転写ベルト15の蛇行を防止する補正ロールとして機能するテンションロール33と、二次転写部20に設けられるバックアップロール25と、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けられるクリーニングバックアップロール34と、を有している。
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟んで感光体ドラム11に対向して配置される一次転写ロール16により構成されている。一次転写ロール16は、例えば、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは、例えば、鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層は、例えば、カーボンブラック等の導電剤を配合したアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)とスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とのブレンドゴム等を含んで形成され、体積抵抗率が例えば107Ωcm以上109Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。そして、一次転写ロール16は、中間転写ベルト15を挟んで感光体ドラム11を押圧するように配置され、さらに一次転写ロール16には、トナーの帯電極性(例えばマイナス極性とする。以下同様。)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加されるようになっている。これにより、各々の感光体ドラム11上のトナー像が中間転写ベルト15に順次、静電吸引され、中間転写ベルト15上において重畳されたトナー像が形成されるようになっている。
二次転写部20は、例えば、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置される二次転写ロール22と、バックアップロール25とによって構成される。バックアップロール25は、例えば、EPDMゴム等を含んでなる内層部と、カーボンを分散したEPDMおよびNBRのブレンドゴム等を含んでなるチューブ状の表面層とから構成されている。そして、例えば、その表面抵抗率が107Ω/□以上1010Ω/□以下となるように形成され、硬度は、例えばアスカーC型ゴム硬度計による測定硬度で70°に設定されている。このバックアップロール25には、中間転写ベルト15の裏面側に配置されて二次転写ロール22の対向電極をなし、二次転写バイアスが安定的に印加される金属製の給電ロール26が接触して配置されている。
一方、二次転写ロール22は、例えば、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは、例えば、鉄、SUS等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層は、例えば、カーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴム等を含んで形成され、体積抵抗率が107Ωcm以上109Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。そして、二次転写ロール22は、中間転写ベルト15を挟んでバックアップロール25を押圧するように配置され、さらに二次転写ロール22は接地されてバックアップロール25との間に二次転写バイアスが形成され、二次転写部20に搬送される用紙P上にトナー像が二次転写される。
中間転写ベルト15の二次転写部20の下流側には、二次転写後の中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉を除去し、中間転写ベルト15の表面をクリーニングする中間転写ベルトクリーナ35が接離自在に設けられている。一方、イエローの画像形成ユニット1Yの上流側には、各画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42が配置されている。また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43が配置されている。この基準センサ42は、中間転写ベルト15の裏側に設けられた予め定めたマークを認識して基準信号を発生しており、この基準信号の認識に基づく制御部40からの指示により、各画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kは画像形成を開始するように構成されている。
また、図1に示す画像形成装置100は、用紙搬送系として、用紙Pを収容する用紙トレイ50と、この用紙トレイ50に集積された用紙Pを予め定めたタイミングで取り出して搬送するピックアップロール51と、ピックアップロール51により繰り出された用紙Pを搬送する搬送ロール52と、搬送ロール52により搬送された用紙Pを二次転写部20へと送り込む搬送シュート53と、二次転写ロール22により二次転写された後に搬送される用紙Pを定着装置60へと搬送する搬送ベルト55と、用紙Pを定着装置60に導く定着入口ガイド56とを備えている。
次に、本実施の形態に係る定着装置を用いた画像形成装置の基本的な作像プロセスについて説明する。
図1に示すような画像形成装置100では、画像読取装置(IIT)(図示せず)やパーソナルコンピュータ(PC)(図示せず)等から出力される画像データは、画像処理装置(IPS)(図示せず)により予め定めた画像処理が施された後、画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kによって作像作業が実行される。IPSでは、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の各種画像編集等の予め定めた画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、露光装置13に出力される。
露光装置13では、入力された色材階調データに応じて、例えば、半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kの各々の感光体ドラム11に照射する。画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kの各感光体ドラム11では、帯電装置12によって表面が帯電された後、この露光装置13によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。形成された静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kによって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像される。画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kの感光体ドラム11上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム11と中間転写ベルト15とが接する一次転写部10において、中間転写ベルト15上に転写される。より具体的には、一次転写部10において、一次転写ロール16により、中間転写ベルト15の基材に対し、トナーの帯電極性(例えばマイナス極性)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が付加され、トナー像を中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせて、一次転写が行われる。
トナー像が中間転写ベルト15の表面に順次一次転写された後、中間転写ベルト15は移動してトナー像が二次転写部20に搬送される。トナー像が二次転写部20に搬送されると、用紙搬送系では、トナー像が二次転写部20に搬送されるタイミングに合わせてピックアップロール51が回転し、用紙トレイ50から予め定められたサイズの用紙Pが供給される。ピックアップロール51により供給された用紙Pは、搬送ロール52により搬送され、搬送シュート53を経て二次転写部20に到達する。この二次転写部20に到達する前に、用紙Pは一旦停止され、トナー像が保持された中間転写ベルト15の移動タイミングに合わせてレジストロール(図示せず)が回転することで、用紙Pの位置とトナー像の位置との位置合わせがなされる。
二次転写部20では、中間転写ベルト15を介して、二次転写ロール22がバックアップロール25に押圧される。このとき、タイミングを合わせて搬送された用紙Pは、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれる。その際に、給電ロール26からトナーの帯電極性(例えばマイナス極性)と同極性の電圧(二次転写バイアス)が印加されると、二次転写ロール22とバックアップロール25との間に転写電界が形成される。そして、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像は、二次転写ロール22とバックアップロール25とによって押圧される二次転写部20において、用紙P上に一括して静電転写される。
その後、トナー像が静電転写された用紙Pは、二次転写ロール22によって中間転写ベルト15から剥離された状態でそのまま搬送され、二次転写ロール22の用紙搬送方向下流側に設けられた搬送ベルト55へと搬送される。搬送ベルト55では、定着装置60における最適な搬送速度に合わせて、用紙Pが定着装置60まで搬送される。定着装置60に搬送された用紙P上の未定着トナー像は、定着装置60によって熱および圧力で定着処理を受けることで用紙P上に定着される。そして定着画像が形成された用紙Pは、画像形成装置100の排出部に設けられた排紙載置部に搬送される。
一方、用紙Pへの転写が終了した後、中間転写ベルト15上に残った残留トナーは、中間転写ベルト15の回転に伴ってクリーニング部まで搬送され、クリーニングバックアップロール34および中間転写ベルトクリーナ35によって中間転写ベルト15上から除去される。
次に、本実施形態に係る定着装置について説明する。
図2は、本実施形態に係る定着装置の構成の一例を示す側断面図である。定着装置60は、回転可能な回転部材の一例としての定着ロール61と、定着ロール61に接触しながら移動可能な無端ベルト62部材の一例としての無端ベルト62と、無端ベルト62を介して定着ロール61と対向するように配置され、無端ベルト62を介して定着ロール61を加圧して定着ロール61と無端ベルト62との間に記録媒体としての用紙Pが通過するニップ部Nを形成する押圧部材の一例としての圧力パッド64とにより主要部が構成されている。
定着ロール61は、例えば、金属製のコア(円筒状芯金)611の周囲に耐熱性弾性体層612、および離型層613を積層して構成された円筒状ロールである。定着ロール61は、その形状、構造、大きさ等につき制限はなく、目的に応じて公知の定着ロールが使用され、例えば、外径が軸方向で略一様ないわゆるストレートロールで形成されている。
定着ロール61には、例えば、その内部にニップ部Nにおいてトナー像を加熱する加熱源として、ハロゲンヒータ66が配置されている。一方、定着ロール61の表面には温度センサ69が接触して配置されている。画像形成装置100の制御部40は、この温度センサ69による温度計測値に基づいてハロゲンヒータ66の点灯を制御し、定着ロール61の表面温度が予め定めた設定温度(例えば、175℃)を維持するように調整している。
無端ベルト62は、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じないように、原形が円筒形状等に形成された継ぎ目がないベルトである。無端ベルト62は、無端ベルト62の両端部に配置されたエッジガイド部材631(図3参照)によって回転自在に支持され、さらに、無端ベルト62を介して定着ロール61と対向するように配置された圧力パッド64とベルトガイド部材632とによってその内周面が支持されている。そして、ニップ部Nにおいて定着ロール61と接して配置され、定着ロール61に従って矢印D方向に回転(例えば、表面速度105mm/秒)する。
押圧部材の一例である圧力パッド64は、例えば、無端ベルト62の内側において金属製のホルダ65に支持されている。そして、無端ベルト62を介して定着ロール61に押圧される状態で配置され、定着ロール61との間でニップ部Nを形成している。
圧力パッド64は、ニップ部Nの入口側(上流側)に、幅の広いニップ部Nを確保するためのプレニップ部材が配置されている構成を有していてもよい。圧力パッド64は、ニップ部Nの出口側(下流側)に、定着ロール61表面を局所的に押圧することで、トナー像表面を平滑化して画像光沢を付与するとともに、定着ロール61表面に歪み(凹み)を与えて用紙Pにダウンカールを形成するための剥離ニップ部材が配置されている構成を有していてもよい。定着装置60では、無端ベルト62は、例えば、圧力パッド64により定着ロール61に約10°の巻き付き角度で覆われ、約8mm幅のニップ部Nを形成している。圧力パッド64が無端ベルトを介して定着ロール61を押圧することにより形成されるニップ部Nは、特に限定されるものではないが、定着ロールの外径の形状に沿って、曲率半径が10mm以上20mm以下である形状を有する。
図3は、本実施形態に係る定着装置における加圧側部材の一例の構成を示す断面図である。圧力パッド64を支持するホルダ65には、その両端部にエッジガイド部材631が配置されている。エッジガイド部材631は、ニップ部Nに対応する部分に切り欠きが形成された円筒状、すなわち断面がC形状のベルト走行ガイド部633、このベルト走行ガイド部633の外側に設けられたフランジ部634、さらにフランジ部634の外側に設けられ、エッジガイド部材631をホルダ65に位置決めして固定するための保持部(図示しない)で構成されている。
無端ベルト62の両端部では、両端部の内周面がベルト走行ガイド部633の外周面に支持され、無端ベルト62はベルト走行ガイド部633の外周面に沿って回転移動する。ベルト走行ガイド部633は摩擦係数の小さな材質で形成され、無端ベルト62から熱を奪い難いように無端ベルト62を形成する材質よりも熱伝導率の低い材質で形成されている。フランジ部634は、ホルダ65の両端部において対向するように配置された両フランジ部634の内側面が、無端ベルト62の幅と略一致する間隔を持つように配置されている。フランジ部634は、無端ベルト62の端部がフランジ部634の内側面の少なくとも一部に接することによって、無端ベルト62の長手方向への移動(ベルトウォーク)が制限されるように配置されることで、エッジガイド部材631によって無端ベルト62の片寄りが規制されている。
無端ベルト62の長手方向中央部を含む領域では、無端ベルト62は圧力パッド64とベルトガイド部材632とに支持されている(図2も参照)。そして、無端ベルト62の長手方向中央部を含む領域では、無端ベルト62の内周面が圧力パッド64とベルトガイド部材632とに接しながら、無端ベルト62が回転移動する。
管状部材68は、無端ベルト62の内周面側であって、無端ベルト62の長手方向において、押圧部材より外側で、且つ、エッジガイド部材631より内側に配置されており、さらに、エラストマーで形成され、管状部材68の外周面が無端ベルト62の内周面に密着するように配置されている。なお、本実施形態に係る定着装置において、「管状部材の外周面と無端ベルトの内周面とが密着するように配置されている」とは、製造された定着装置が静止した状態において、ニップ部に対応する部分を含む管状部材68の外周面の全周にわたって、管状部材68の外周面と無端ベルト62の内周面とが直接または潤滑剤を介して隙間なく接触していることを意味し、管状部材68の外周面と無端ベルト62の内周面との間に間隙が目視で発見されないか、または、間隙が発見される範囲が管状部材68の外周面の全周に対して8%以下であることを言う。
フリーベルトニップ方式の定着装置においては、無端ベルトを押圧部材によって定着ロール(回転部材)の表面に押圧するように構成されているため、無端ベルトと押圧部材との摺動抵抗が過大であると、無端ベルト駆動のためのトルクが増大し、定着ロールに働く応力つまり駆動トルクも大きくなるため、無端ベルトの磨滅または薄肉化、および、定着ロールのギアやコアの破損が引き起こされる懸念がある。また、このような場合、駆動モーターの負荷も大きくなり、より多くの電力が必要になる懸念があった。更に、定着ロールによる無端ベルトの駆動力に比べて、無端ベルトと押圧部材との摩擦力が無視できないほど大きくなると、定着ロールと無端ベルトとで滑りが生じ、未定着トナー像を保持した記録媒体をニップ部に通過させる際、定着させるトナー像に画像のずれを引き起こしてしまうという技術的問題も見られる。
上記の問題の解決には、無端ベルトと押圧部材との摩擦を低下させるために潤滑剤を使用する技術がある。また、押圧部材の無端ベルト側の表面に、潤滑剤を保持する多孔質樹脂で形成されたシート状部材を備えるように構成した定着装置も開示されている。しかしながら、当該シート状部材を形成する多孔質樹脂層が潤滑剤を保持したとしても、無端ベルトの長手方向の両端部は潤滑剤を堰き止める構造とはなっていないため、押圧部材が無端ベルトを介して定着部材を押圧すると、その両端部から潤滑剤が浸み出てしまう。すると、定着装置を長時間使用した場合、無端ベルトと押圧部材との間に潤滑剤の層を形成するための潤滑剤の量が不足し、無端ベルトと押圧部材との抵抗が増加し、定着ロールの駆動トルクが早期に上昇するという問題が引き起こされる可能性がある。また、無端ベルトの両端部から潤滑剤が漏れ出してしまうと、当該潤滑剤が無端ベルトの表面側(記録媒体の通過する側)に回り、ニップ部において無端ベルトと定着ロールとで滑りが生じたり、ニップ部を通過する記録媒体に潤滑剤が付着して染みが発生するという問題が生じる可能性がある。同様の問題は、押圧部材が上記のシート部材を備えていない場合にも生じる可能性がある。
また、無端ベルトの両端部の破断防止、または、無端ベルトを回転可能に支持することを目的として、無端ベルトの両端部の内周面に、硬質材料で形成された管状体を設けることが考えられる。この硬質材料で形成された管状体を設けた場合、潤滑剤の漏出を抑制する可能性も考えられるが、フリーベルトニップ方式では、無端ベルトはニップ部において定着ロールの曲率に沿って変形するところ、硬質材料で形成された管状体が無端ベルトに追従して変形せず、定着ロールまたは無端ベルトの両端にあるエッジガイド部材と接触する等により、定着ロールの回転不良を引き起こすおそれがある。無端ベルトに追従して変形するように、硬質材料で形成された管状体の厚さを薄くすることが考えられるが、その場合は無端ベルトの両端部からの潤滑剤の漏出が抑制されない。なお、「硬質材料」とは、微小押し込みによる硬度測定法で測定したヤング率が無端ベルトの基材層よりも高い材料を言い、微小押し込みによる硬度測定法で測定したヤング率が200MPa以上20GPa以下である材料である。微小押し込みによる硬度測定法による測定は、微小押し込み硬さ試験機(例えば、フィッシャー・インストルメンツ社製 ピコデンターHM500)により行われる。
本実施形態に係る定着装置は、上記の特定の位置に特定の管状部材を備えることにより、無端ベルトの内周面側であって、無端ベルトの長手方向において押圧部材の外側で、且つ、エッジガイド部材の内側に、硬質材料で形成された管状部材を備える定着装置と比較して、無端ベルトの長手方向の両端部からの潤滑剤の漏出が抑制される。回転部材の回転に従って無端ベルトが回転する際、無端ベルトはニップ部において回転部材の曲率に沿って変形するところ、本実施形態に係る定着装置を構成する管状部材は、無端ベルトのニップ部における形状変化に追従して変形することにより、無端ベルトの内周面との密着性を維持するためである。このため、本実施形態の定着装置は、長時間の使用においても、無端ベルトと押圧部材との間に形成された潤滑剤の層を維持することにより、無端ベルトと押圧部材との摩擦抵抗の増加を防止するとともに、潤滑剤の漏出に伴う、無端ベルトと定着部材との滑りや、潤滑剤の付着による記録媒体の染みの発生を防止する。さらに、無端ベルトの両端部からの潤滑剤が漏出を抑制することから、無端ベルトの内周面に多量の潤滑剤を充填し、無端ベルトと押圧部材との間を常に液体潤滑状態に維持することにより、初期の滑り抵抗も大幅に低減する。
管状部材68は、無端ベルト62に対して接着等の方法により固定されていてもよいが、無端ベルトの長手方向の移動に関しては、両端部がベルトガイド部材によって規制されているものの、ある程度の遊びがあり、管状部材が無端ベルトの内周面に固定されていると押圧部材やその保持部の端部と干渉して、無端ベルトの滑らかな回転の妨げとなる場合があること、あるいはベルトユニットの組み立て性(無端ベルト内周面に配置する押圧部材や支持部材の挿入の容易性)が難化することの観点から、無端ベルト62に対して、長手方向および回転方向に移動自在であることが好ましい。
ベルトガイド部材632はホルダ65に取り付けられ、無端ベルト62がスムーズに回転することができるように、摩擦係数の小さな材質で形成されている。また、無端ベルト62から熱を奪い難いように熱伝導率の低い材質で形成すされていることが好ましい。
無端ベルト62の内周面と圧力パッド64との間には、無端ベルト62の内周面と圧力パッド64との摩擦抵抗を小さくする目的で摺動部材(図示しない)が設けられていてもよい。摺動部材は、ニップ部Nの上流側端部がホルダ65に固定され、無端ベルト62の回転方向に沿って、圧力パッド64と無端ベルト62内周面との間に挟持された状態で、ニップ部Nの全域にわたって、または少なくとも一部に配置される。なお、摺動部材のニップ部Nの下流側は、摺動部材に歪みが生じないように、固定されず自由端(フリー)の状態に設定されていてもよい。摺動部材は、ニップ部Nにおいて圧力パッド64と定着ロール61との間に圧力が印加されている状態の下で、無端ベルト62の内周面と圧力パッド64との摩擦抵抗(摺動抵抗)を低減している。
このような構成において、定着ロール61は、図示しない駆動モータに連結されて矢印C方向に回転し、この回転に従って無端ベルト62も矢印D方向に回転する。図1に示した画像形成装置100の二次転写部20においてトナー像が静電転写された用紙Pは、定着入口ガイド56によって導かれて、定着装置60のニップ部Nに搬送される。そして、用紙Pがニップ部Nを通過する際に、用紙P上のトナー像はニップ部Nに作用する圧力と、定着ロール61から供給される熱とによって定着される。図2に示す定着装置60では、押圧部材の定着ロール61側の面が定着ロール61の外周面に略倣う凹形状を有することにより、ニップ部Nの用紙搬送方向の幅が広くなり、安定した定着性能が確保される。また、ニップ部Nの下流側には、定着ロール61から剥離した用紙Pを定着ロール61から分離し、画像形成装置100の排出部へ向かう排紙通路に誘導するための剥離補助部材(図示しない)が配置されている。
次に、定着装置60を構成する各部材について説明する。
定着ロール61の材質としては、コア611は、機械的強度に優れ、熱伝導率の高い材質であれば制限されるものではないが、例えば、アルミニウム(例えば、A−5052材)、SUS、鉄、銅等の金属または合金、セラミックス、繊維強化金属(FRM)等が挙げられる。
耐熱性弾性体層612の材質としては、耐熱性の高い公知の材質であればいずれも使用されるが、例えば、ゴム硬度がJIS−A硬度で15°以上45°以下程度のゴム、エラストマー等の弾性体が挙げられ、より具体的には、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が用いられる。なかでも、表面張力が小さく、弾性に優れる等の点でシリコーンゴムが好ましい。このようなシリコーンゴムとしては、例えば、RTV(room temperature vulcanization:室温加硫)シリコーンゴム、HTV(high temperature vulcanization:高温加硫)シリコーンゴム等が挙げられ、具体的には、ジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
耐熱性弾性体層612の厚さは、通常、3mm以下であり、好ましくは、0.5mm以上1.5mm以下の範囲内である。耐熱性弾性体層612をコア611の表面に形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、公知のコーティング法、成型等が採用される。
離型層613の材質としては、トナー像に対し適度な離型性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ素樹脂等が挙げられる。これらの材質の中でもフッ素樹脂が好適に挙げられる。フッ素樹脂としては、特に制限はなく、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン・テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。離型層613は、帯電防止性を付与する目的で、例えば、カーボンブラック、グラファイト、金属粉末等の導電性を有する粉末を配合していても良く、また、耐摩耗性を向上する目的で、例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等の無機化合物の粉末を配合していてもよい。
離型層613の厚さは、通常、10μm以上50μm以下の範囲内であり、好ましくは15μm以上30μm以下の範囲内である。離型層613を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、上述したコーティング法、押出し成型によって形成されたチューブを被覆する方法等が挙げられる。
無端ベルト62は、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じないように、原形が円筒形状等に形成された継ぎ目がないベルトである。無端ベルト62は、基材層と、この基材層の定着ロール61側の面(外周面)または両面に被覆された離型層(表面層)とを含んで構成されている。基材層は、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等から選ばれた一つまたは複数の混合体が、耐熱性、機械特性等の観点から好適に用いられる。また、基材層と離形層の間に、定着ロールに設けるものと同様な弾性層を設けることも可能である。
無端ベルト62の基材層は、その微小押し込み硬さ試験機を用いて測定したヤング率が3GPa以上7GPa以下の範囲であることが好ましい。無端ベルト62の基材層のヤング率が小さすぎたり、基材層の厚さが薄すぎたりすると、無端ベルト62が座屈する場合や、無端ベルト62の端部にあるベルトガイド部材との接触部が割れる場合がある。また、無端ベルト62の基材層におけるヤング率が大きすぎたり、基材層の厚さが厚すぎると、ニップ部の曲率に沿って変形しない場合や、ベルトが滑らかに回転しない場合がある。また、無端ベルト62の基材層は、通常、微小押し込み硬さ試験機を用いて測定したヤング率が、無端ベルト62を構成する離型層および弾性層等の他の層に比較して大きい。無端ベルト62において定着ロールと同様な弾性層が積層されている場合、その弾性層の膜厚は100μm以上300μm以下程度の範囲に設定される。
無端ベルト62の基材層、または基材層の上に積層された弾性層の表面に被覆される離型層(表面層)としては、例えば、フッ素樹脂が用いられる。ここで、フッ素樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体等のテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が挙げられる。さらに、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。これらの中でも、特に耐熱性、機械特性等の面から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)等のテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が好適に用いられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。離型層(表面層)の厚さは、通常、5μm以上100μm以下程度、好ましくは10μm以上30μm以下程度の範囲に設定される。
無端ベルト62の総膜厚は、通常、基材層および離形層のみで構成される場合は45μm以上130μm以下、好ましくは55μm以上100μm以下で設定される。また、弾性層を積層する場合、無端ベルト62の総膜厚は150μm以上400μm以下で設定される。無端ベルト62の総膜厚が薄すぎると、強度が低下する傾向がある。無端ベルト62の総膜厚が厚すぎると、無端ベルト62の熱容量が増大し、その結果、定着に必要な供給熱量を確保するための消費電力が増加する傾向がある。なお、無端ベルトの「膜厚」および「厚さ」は幅方向の平均厚さであることを意味する。無端ベルト62の周長及び幅は、特に限定されない。
図5(a)に、本実施形態に係る管状部材68の一例の構成を平面図で示し、図5(b)に、図5(a)のI−I線断面図を示す。また、図6に、本実施形態に係る管状部材68の一例の構成を示す拡大断面図を示す。図5(b)および図6には、管状部材68を正円にしたときの中心軸を含む面での管状部材68の断面の形状(以下「断面形状」と言う。)が示されている。本実施形態に係る管状部材68については、図6に示されているように、その断面形状において無端ベルト62の内周面と接する部分(以下「底辺」と言う。)に沿った軸方向の長さを管状部材68の「幅W」とし、その断面形状において底辺から中心軸に向かう軸方向の長さを、管状部材68の「厚さT」とする。
管状部材68の断面形状の厚さは、特に限定されるものではないが、断面形状の厚さの最大値(管状部材68の外径と内径との差を2で割った値)が1,500μm以上5,000μm以下の範囲であることが好ましい。管状部材68の厚さが小さすぎると、潤滑剤の漏出を抑制する効果が低下する場合があり、管状部材68の厚さが大きすぎると、ホルダ65等の他の部材と接触して、定着ロールの回転トルクの過度な増大や、部材の変形または破損等による定着ロールの回転不良を起こす場合がある。
また、管状部材68の断面形状における幅は、特に限定されるものではないが、底辺における幅が1,500μm以上5,000μm以下の範囲であることが好ましい。底辺の幅が狭すぎると、管状部材68と無端ベルト62との密着性が低下する場合があり、底辺の幅が広すぎると、圧力パッド64またはベルトガイド部材63、およびエッジガイド部材631の両者に接触することにより、定着ロールの回転トルクの過度な増大や、部材の変形または破損等による定着ロールの回転不良を起こす場合がある。
本実施形態に係る管状部材68においては、下記式で表される、「無端ベルト62の基材層の微小押し込み硬さ試験機(例えば、フィッシャー・インストルメンツ社製ピコデンター等)で測定したヤング率(MPa)」に対する「管状部材68の微小押し込み硬さ試験機で測定したヤング率(MPa)」の比と、「無端ベルト62の基材層の平均厚さ(mm)」に対する「管状部材68の平均厚さ(mm)」の比との積(指標F)が、0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。指標Fの値が高すぎると、無端ベルト62の形状変化に対する管状部材68の形状の追従性に劣る場合がある。なお、管状部材68の断面形状の「平均厚さ」は、管状部材68の断面形状の面積を底辺における幅の長さで割った値である。管状部材68は、その断面が中実であっても中空であってもよく、管状部材68が中空の構造を有する場合、断面形状の「平均厚さ」を算出する際の断面形状の面積は、その中空である領域を含まないものとする。
また、管状部材68の断面形状は、無端ベルト62の内周面との密着性、潤滑剤の漏出抑制、および、無端ベルト62の形状変化に対する追従性の観点から、例えば、断面形状の幅が底辺において最大であり、厚さ方向において中心軸に近づくにつれて幅が狭くなっている形状であることが好ましい。ここで、「中心軸に近づくにつれて幅が狭くなっている」とは、管状部材68の断面形状の中心軸に近い位置の幅が、底辺に近い位置の幅に対して少なくとも広くないことを意味する。上記の観点から、例えば、管状部材68の断面形状における平均厚さに対する管状部材68の厚さの最大値が2倍以上であることが好ましい。
管状部材68の断面形状は、図6に示すように、第一の長辺が無端ベルト62と接触する略長方形の基部と、基部の第二の長辺から中心軸の方向に向かって突出した形状を有するリブ状部とで形成されている管状部材68とすることにより、無端ベルト62の内周面との密着性、および、無端ベルト62の形状変化に対する追従性に優れる管状部材68が形成され、このような基部とリブ状部とで形成されている管状部材を備えていない場合と比較して、無端ベルトの長手方向の両端部からの潤滑剤の漏出が更に抑制された定着装置が製造される。
上記の基部とリブ状部とで形成された管状部材において、リブ状部において管状部材68の底辺に最も近い部分の幅をtと、基部の厚さをT1としたときに、tがT1より短い(t<T1である)場合、当該関係を満たす管状部材を備えない定着装置と比較して、ニップ部の曲率が小さくてもリブ状部の変形が容易であるため、回転するベルト内面にニップ部の曲率が小さい部分においても隙間なく密着した状態で滑らかに追従変形し、潤滑剤(摺動オイル)が浸みだしたりニップ部の曲率に沿わないベルトの変形による定着ロールと干渉による回転不良を引き起こしたりすることが少ない点で、より好ましい。また、リブ状部の厚さ方向の長さをT2としたときに、T2/T1が、2以上10以下であることが、潤滑剤のリブ状部の上部を乗り越えての漏れ防止と管状部材の曲率の小さいニップ部への追従性を確保する点で、より好ましい。
無端ベルト62との密着性の観点から、管状部材68の外径は、無端ベルト62部材の内径に対して99%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましい。管状部材68が潤滑剤によって膨潤するエラストマーで形成された場合は、管状部材68の外径が無端ベルト62部材の内径に対して99%未満であっても、密着性が確保されることがある。
管状部材68を形成するエラストマーとしては、耐熱性の高い公知のエラストマーであればいずれも使用されるが、例えば、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製 ピコデンターHM500)にて測定したヤング率が、5MPa以上100MPa以下程度のエラストマーが挙げられる。また、ニップ部でのベルトの変形形状に対して大きな影響を与えずに隙間なく密着し、滑らかに追従変形する必要がある観点から、管状部材68のヤング率が無端ベルト62基材のヤング率よりも小さいことが好ましい。
管状部材68を形成するエラストマーは、潤滑剤によって膨潤することが好ましい。潤滑剤によって膨潤するエラストマーを用いることにより、管状部材68の体積の増加に伴い、管状部材68から無端ベルト62を押圧する圧力が生じることで、管状部材68が潤滑剤によって膨潤しないエラストマーで形成された場合に比較して、管状部材68と無端ベルト62との密着性が向上し、無端ベルトの長手方向の両端部からの潤滑剤の漏出がより一層抑制されるためである。
管状部材68を形成するエラストマーとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム等のシリコーンゴム、EPDMゴム、またはフッ素ゴム等が挙げられる。上記の潤滑剤との膨潤性の観点から、管状部材68を形成するエラストマーとしてシリコーンゴムを用い、潤滑剤としてシリコーンオイルを使用することが好ましい。このときのシリコーンゴムの具体例としては、ジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。エラストマーと潤滑剤との組み合わせは、エラストマーが潤滑剤を膨潤するものであれば、上記の組み合わせに限定されない。
本実施形態に係る管状部材68は、射出成形等の公知の成形方法により、上記のエラストマーを所望する形状に成形することにより、製造される。また、本実施形態に係る管状部材等の部材を形成する材質および組成等を測定する方法としては、動的粘弾性測定(DMA)、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量測定(TGA)などの熱分析あるいはFTIRなどの方法がある。
押圧部材の一例としての圧力パッド64は、無端ベルト62の内周面側に配置される。圧力パッド64は、バネや弾性体等によって、例えば30kgfの荷重で定着ロール61を押圧するようにホルダ65に支持されている。
圧力パッド64は、無端ベルト62の回転移動に対して固定されており、無端ベルト62を定着ロール61に向けて押圧してニップ部Nを形成するものであれば、いずれの材質を用いてもよい。例えば、PPS、ポリイミド、ポリアミド、ガラス繊維入り液晶ポリマーやポリエステル等の樹脂;鉄、アルミニウム、SUS等の金属;金属酸化物等で形成される。
圧力パッド64は、例えば、支持体上に、樹脂弾性体で形成された弾性体層およびシート状部材を積層した構成であってもよい。シート状部材は、単一の層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。シート状部材の無端ベルト62との接触する面には、潤滑剤を保持する多孔質樹脂で形成された層があることが好ましい。潤滑剤を保持する多孔質樹脂の材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂等より選定され、耐熱性、離型性、耐久性、耐摩擦性等を考慮すると、多孔質化したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)を用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
シート状部材は、多孔質樹脂の層の支持体側に、潤滑剤の透過を防止する潤滑剤透過防止層を有することが好適である。圧力パッド64に潤滑剤透過防止層を設けることで潤滑剤の枯渇が抑制される。潤滑剤透過防止層は、例えば、耐熱性があり、潤滑剤を透過させない耐熱性樹脂フィルムや金属フィルムから選定される。弾性体層を形成する樹脂弾性体は、耐熱性の高い公知の材質であればいずれも使用され、例えば、ゴム硬度がJIS−A硬度で15°以上45°以下程度のゴム、エラストマー等の弾性体が挙げられ、より具体的には、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が用いられる。支持体は、例えば、PPS、ポリイミド、ポリアミド、ガラス繊維入り液晶ポリマーやポリエステル等の樹脂;鉄、アルミニウム、SUS等の金属;金属酸化物等で形成される。
圧力パッド64の定着ロール61側の面は、定着ロール61の外周面に略倣う凹状曲面で形成されている。定着装置60では、無端ベルト62は、例えば、押圧部材の一例である圧力パッド64により定着ロール61に約10°の巻き付き角度で覆われ、約8mm幅のニップ部Nを形成する。
押圧部材の一例としての圧力パッド64は、プレニップ部材と剥離ニップ部材とを含んで構成されていてもよく、この場合、プレニップ部材の定着ロール61側の面は、定着ロール61の外周面に略倣う凹状曲面で形成されている。プレニップ部材は、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等で形成される。剥離ニップ部材は、ニップ部Nにおける外面形状がある一定の曲率半径を有する凸状曲面に形成されている。剥離ニップ部材は、例えば、PPS、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミド、ガラス繊維入り液晶ポリマーやポリエステル等の樹脂;鉄、アルミニウム、SUS等の金属;金属酸化物等で形成される。
本実施形態に係る定着装置60には、無端ベルト62と押圧部材としての圧力パッド64との間に潤滑剤を介在する。潤滑剤は、定着温度環境下で長期使用しても無端ベルト62内周面との潤滑性が維持されるものが適しており、さらに、定着温度環境下での長期使用に対する耐久性、特に、耐熱性および揮発性に優れているものが適している。潤滑性の指標としては動粘度があり、例えば、動粘度が100cSt以上300cSt以下である潤滑剤が、摺動抵抗の観点から、好ましい。潤滑剤の動粘度は、毛細管粘度計の方法(ISO 3104)により測定される。
潤滑剤としては、例えば、シリコーンオイルやフッ素オイル等の液体状のオイル、固形物質と液体とを混合させた合成潤滑油グリース等、およびこれらの組み合わせが用いられる。シリコーンオイルとして、ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩添加ジメチルシリコーンオイル、ヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩およびヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、有機金属塩添加アミノ変性シリコーンオイル、ヒンダードアミン添加アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、シラノール変性シリコーンオイル、スルホン酸変性シリコーンオイル等を用いてもよい。また、フッ素オイルとして、パーフルオロポリエーテルオイル、変性パーフルオロポリエーテルオイルを用いてもよい。
潤滑剤としては、上記の定着温度環境下での長期使用に対する、潤滑性の維持、耐熱性、揮発性等の観点から、シリコーンオイルが好ましい。さらに濡れ性の観点からは、アミノ変性シリコーンオイルがより好ましく、より優れる耐熱性が要求される場合は、メチルフェニルシリコーンオイルがより好ましい。潤滑剤には、耐熱性を向上させる目的で、シリコーンオイル中に酸化防止剤を添加してもよい。
本実施形態に係る定着装置を構成する潤滑剤として使用されている化合物等を測定する方法としては、DSCやTGAなどの熱分析あるいはFTIRなどの方法がある。
定着装置60の長手方向にわたって潤滑剤塗布部材67が配置されてもよい。潤滑剤塗布部材を配置することにより、長期使用において安定的に潤滑剤が供給されるため、潤滑剤塗布部材を備える定着装置は好ましい。潤滑剤塗布部材67は、無端ベルト62の内周面に対して接触するように配置され、潤滑剤を適量供給する。これにより、無端ベルト62と圧力パッド64とが接する面に潤滑剤を供給し、無端ベルト62と圧力パッド64との摩擦抵抗を低減して、無端ベルト62の円滑な回転が図られる。
無端ベルト62の内周面と圧力パッド64との摩擦抵抗(摺動抵抗)を低減する目的で摺動部材を用いる場合、摺動部材の材質は、摩擦係数が小さく、耐摩耗性および耐熱性に優れた材質が適している。具体的には、焼結成型(シンタード成型)されたPTFE樹脂シート、変性ポリテトラフルオロエチレンを含浸させたガラス繊維シート、ガラス繊維にフッ素樹脂で形成されたシートを加熱融着した積層シート等が用いられる。
ここまでは無端ベルト62部材がトナー像と接しない側の加圧ベルトである構成、すなわち加圧側に無端ベルト62部材を用い、加熱側に定着ロールを用いた構成を例として説明したが、図7に示すような、無端ベルト62部材がトナー像と接する加熱側の定着ベルト72であり、加圧側に加圧ロール74を備え、定着ベルト72の内部に抵抗発熱体76を備えた構成であってもよい。
以下、実施例に基づき、本実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本実施形態は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定した加硫成形後のヤング率が56.5MPaであった液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、型番KE−782−U)を用いて、図6で示すような、外径19.8mm、幅5mm、厚さ1mmであるリング状基部と、リング状基部の内周面側にある、リング状基部と結合する部分の幅が1mm、厚さが4mmであるリブ状部とで形成されるリング状部材を、射出成形により作製した。得られた管状部材の平均厚さは1.8mmであった。
内径20mm、幅246mm、厚さ55μmのポリイミドで形成された基材層の外周面に、PFAを20μmの厚さでコーティングした部材を作製し、無端ベルトとして使用した。この無端ベルトの基材層の微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定したヤング率は3,810MPaであった。押圧部材として、無端ベルトと接する表面の摩擦係数が低い、ガラス繊維入り液晶ポリマー(LCP)樹脂で形成された部材を使用した。上記押圧部材を挿入し、上記無端ベルトを介して定着ロールと対向するような配置した後、無端ベルトの内周面に、潤滑剤として、300cStのアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、KF−8009)5mlを投入した。次いで、無端ベルトの両端部に上記管状部材を挿入し、PPSで形成されたエッジガイド部材を装着することにより、図2および図3に示す定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に間隙は発見されなかった。また、この定着装置の指標Fは0.485であった。
得られた定着装置について、定着ロールの表面温度を180℃に保ちながら、定着ロールの表面速度105mm/秒で、100時間の空回し試験を実施した。試験中の定着ロールの回転トルクを、回転トルク計(株式会社共和電業製、TP−5KCE)を用いて測定した。試験開始直後の回転トルクは0.121N・mであった。また、無端ベルトの両端部からの潤滑剤の漏出、および無端ベルトと他の部材との接触等の有無を目視で確認した。その結果、100時間経過後の定着ロールの回転トルクは0.127N・mであり、試験開始直後に対して0.006 N・m程度しか上昇しなかった。また、100時間経過後であっても、無端ベルトの両端部からの潤滑剤の漏出は発生せず、無端ベルトと定着ロール等の他の部材との接触による無端ベルトの回転不良も発生しなかった。
<実施例2>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定した加硫成形後のヤング率が30.6MPaであった液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、型番KE−961−U)を用いて、図6で示すような、外径19.8mm、幅5mm、平均厚さ3.2mm、最大厚さ5mm、断面形状がT字状であるリング状部材を、射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に間隙は発見されなかった。また、この定着装置の指標Fは0.467であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、100時間経過後の定着ロールの回転トルクは0.130N・mであり、試験開始直後に対して0.007N・m程度しか上昇しなかった。また、100時間経過後であっても、無端ベルトの両端部からの漏出は発生せず、無端ベルトと定着ロール等の他の部材との接触による無端ベルトの回転不良も発生しなかった。
<実施例3>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定した加硫成形後のヤング率が17.9MPaであった液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、型番KE−951−U)を用いて、図6で示すような、外径19.8mm、幅5mm、平均厚さ5.4mm、最大厚さ6mm、断面形状がT字状であるリング状部材を、射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に間隙は発見されなかった。また、この定着装置の指標Fは0.460であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、100時間経過後の定着ロールの回転トルクは0.120N・mであり、試験開始直後に対して0.008N・m程度しか上昇しなかった。また、100時間経過後であっても、無端ベルトの両端部からの潤滑剤の漏出は発生せず、無端ベルトと定着ロール等の他の部材との接触による無端ベルトの回転不良も発生しなかった。
<実施例4>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定した加硫成形後のヤング率が44.1MPaであった液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、型番KE−871T−U)を用いて外径19.8mm、断面形状がL字状であり、底辺の幅が5mm、平均厚さ2.11mm、最大厚さ5mmであるリング状部材を、射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に間隙は発見されなかった。また、この定着装置の指標Fは0.444であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、100時間経過後の定着ロールの回転トルクは0.127N・mであり、試験開始直後に対して0.006N・m程度しか上昇しなかった。また、100時間経過後であっても、無端ベルトの両端部からの潤滑剤の漏出は発生せず、無端ベルトと定着ロール等の他の部材との接触による無端ベルトの回転不良も発生しなかった。
<実施例5>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定した加硫成形後のヤング率が66.4MPaであった液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、型番KE−981−U)を用いて、図6で示すような、外径19.8mm、幅5mm、厚さ1mmであるリング状基部と、リング状基部の内周面側にある、リング状基部と結合する部分の幅が0.5mm、厚さが5mmであるリブ状部とで形成されるリング状部材(平均厚さ1.5mm)を、射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に間隙は発見されなかった。また、この定着装置の指標Fは0.475であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、100時間経過後の定着ロールの回転トルクは0.129N・mであり、試験開始直後に対して0.005N・m程度しか上昇しなかった。また、100時間経過後であっても、無端ベルトの両端部からの潤滑剤の漏出は発生せず、無端ベルトと定着ロール等の他の部材との接触による無端ベルトの回転不良も発生しなかった。
<実施例6>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定した加硫成形後のヤング率が49.2MPaであるフッ素ゴム(デュポン社製、型番A401C)を用いて、外径19.8mm、断面形状がT字状であり、底辺の幅が5mm、平均厚さ1.65mm、最大厚さ6mmであるリング状部材を、射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に間隙は発見されなかった。また、この定着装置の指標Fは0.388であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、100時間経過後の定着ロールの回転トルクは0.130 N・mであり、試験開始直後に対して0.005N・m程度しか上昇しなかった。また、100時間経過後であっても、無端ベルトの両端部からの潤滑剤の漏出は発生せず、無端ベルトと定着ロール等の他の部材との接触による無端ベルトの回転不良も発生しなかった。
<比較例1>
管状部材を用いないこと以外は実施例1と同様にして、図8で示す構成を有する定着装置を製造し、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、試験開始から数時間でベルト両端部から潤滑剤の漏出が発生すると共に、定着ロールの回転トルクが上昇した。定着ロールの回転トルクの上昇は、潤滑剤の漏出により、押圧部材と無端ベルトの内周面との摩擦抵抗が上昇したことによるものであると考えられる。
<比較例2>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定した加硫成形後のヤング率が56.5MPaであった液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、型番KE−782−U)を用いて、外径19.8mm、幅5mm、厚さ5mm、断面形状が四角形である管状部材を射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に、管状部材の外周面に対して20%の間隙を発見した。また、この定着装置の指標Fは1.348であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、試験開始から数時間でベルト両端部から潤滑剤の漏出が発生すると共に、定着ロールの回転トルクが上昇した。定着ロールの回転トルクの上昇は、潤滑剤の漏出により、押圧部材と無端ベルトの内周面との摩擦抵抗が上昇したことによるものであると考えられる。また、ニップ部のうち、無端ベルトの内周面に管状部材が接している範囲において、無端ベルトが定着ロールの曲率に追従して変形しないために、当該範囲にある無端ベルトと定着ロールとの圧力が過大になり、ベルトガイド近傍にある無端ベルトの端部が定着ロールとこすれ、無端ベルトが捻じれる回転不良が発生した。
<比較例3>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)測定したヤング率が7.5GPaであるPPS樹脂(東レ株式会社製、型番A504)を用いて、外径19.8mm、断面形状がT字状であり、底辺の幅5mm、平均厚さ0.23mm、最大厚さ2.2mmである管状部材を射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に、管状部材の外周面に対して30%の間隙を発見した。また、この定着装置の指標Fは8.23であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、試験開始から1時間でベルト両端部から潤滑剤の漏出が発生すると共に、定着ロールの回転トルクが上昇した。定着ロールの回転トルクの上昇は、潤滑剤の漏出により、押圧部材と無端ベルト内周面との摩擦抵抗が上昇したことによるものであると考えられる。また、ニップ部のうち、無端ベルトの内周面に管状部材が接している範囲において、無端ベルトが定着ロールの曲率に追従して変形しないために、当該範囲にある無端ベルトと定着ロールとの圧力が過大になり、ベルトガイド近傍にある無端ベルトの端部が定着ロールとこすれ、無端ベルトが捻じれる回転不良が発生した。
<比較例4>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定したヤング率が7.5GPaであるPPS樹脂(東レ株式会社製、型番A504)を用いて、外径19.8mm、断面形状がT字状であり、底辺の幅5mm、平均厚さ0.21mm、最大厚さ1.7mmである管状部材を射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に、管状部材の外周面に対して20%の間隙を発見した。また、この定着装置の指標Fは7.69であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、試験開始から3時間でベルト両端部から潤滑剤の漏出が発生すると共に、定着ロールの回転トルクが上昇した。定着ロールの回転トルクの上昇は、潤滑剤の漏出により、押圧部材と無端ベルト内周面との摩擦抵抗が上昇したことによるものであると考えられる。また、ニップ部のうち、無端ベルトの内周面に管状部材が接している範囲において、無端ベルトが定着ロールの曲率に追従して変形しないために、当該範囲にある無端ベルトと定着ロールとの圧力が過大になり、ベルトガイド近傍にある無端ベルトの端部が定着ロールとこすれ、無端ベルトが捻じれる回転不良が発生した。
<比較例5>
管状部材として、微小押し込み硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)で測定したヤング率が7.5GPaのPPS樹脂(東レ株式会社製、型番A504)を用いて、外径19.8mm、断面形状がT字であり、底辺の幅5mm、平均厚さ0.21mm、最大厚さ1.2mmである管状部材を射出成形により作製したことを除いて、実施例1と同様にして定着装置を製造した。目視で確認したところ、製造された定着装置には、管状部材の外周面と無端ベルトの内周面との間に、管状部材の外周面に対して10%の間隙を発見した。また、この定着装置の指標Fは7.69であった。製造された定着装置について、実施例1に示す100時間の空回しテストを実施した。その結果、試験開始から5時間でベルト両端部から潤滑剤の漏出が発生すると共に、定着ロールの回転トルクが上昇した。定着ロールの回転トルクの上昇は、潤滑剤の漏出により、押圧部材と無端ベルト内周面との摩擦抵抗が上昇したことによるものであると考えられる。また、ニップ部のうち、無端ベルトの内周面に管状部材が接している範囲において、無端ベルトが定着ロールの曲率に追従して変形しないために、当該範囲にある無端ベルトと定着ロールとの圧力が過大になり、ベルトガイド近傍にある無端ベルトの端部が定着ロールとこすれ、無端ベルトが捻じれる回転不良が発生した。
このように実施例1〜6に記載された、無端ベルトの内周面側であって、無端ベルトの長手方向において押圧部材の外側で、且つ、エッジガイド部材の内側に配置され、さらに、エラストマーで形成され、その外周面と無端ベルトの内周面とが密着するように配置されている管状部材を備えた定着装置を用いることにより、無端ベルトの内周面側であって、無端ベルトの長手方向において押圧部材の外側で、且つ、エッジガイド部材の内側に配置され、さらに、硬質部材で形成された管状部材を備えた定着装置と比較して、無端ベルトの長手方向の両端部からの潤滑剤の漏出が抑制された。