好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が別段のことを明らかに示さない限り、単数の指示対象および複数の指示対象の両方を含む。
用語「を含んでなる(“comprising”, “comprises” and “comprised of”)」は、本明細書で使用する場合、「含む(“including”, “includes”)」または「含有する(“containing”, “contains”)」と同義であり、包含またはオープンエンドを示し、列挙されていない付加的なメンバー、要素または方法工程を排除しない。これらの用語はまた、特許技術用語において十分に確立された意味を有する「からなる」および「から本質的になる」も包含する。
端点による数の範囲の列挙は、各範囲内に包含される総ての数および分数、ならびに列挙される端点を含む。
用語「約」または「およそ」は、パラメーター、量、時間などの測定可能な値に関して本明細書で使用する場合、そのような変動が開示されている発明において機能するために適当である限り、指定の値の、また、指定の値からの変動、例えば、指定の値の、また、指定の値からの±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを意味する。修飾語「約」が指す値それ自体も具体的かつ好ましく開示されていることが理解されるべきである。
用語「1以上の」または「少なくとも1つの」、例えば、メンバーの群の1以上のメンバーまたは少なくとも1つのメンバーはそれ自体、さらなる例示により明らかになるが、この用語は、とりわけ、前記メンバーのいずれか1つ、または前記メンバーのいずれか2つ以上、例えば、前記メンバーのいずれか≧3、≧4、≧5、≧6または≧7など、および前記メンバーの最大総ての言及を包含する。別の例において、「1以上の」または「少なくとも1つの」は、1、2、3、4、5、6、7またはそれを超えるものを指し得る。
本明細書において本発明の背景の記述は、本発明の内容を説明するために含まれる。これは、言及される材料のいずれかが特許請求の範囲のいずれの優先日を基点としていずれかの国で公開されていた、公知であった、または共通の一般知識の一部であったことを認めるものではない。
本開示中に、種々の刊行物、特許および公開特許明細書が特定可能な引用により参照される。本明細書に引用される総ての文献はそれらの全内容が本明細書の一部として援用される。特に、本明細書において具体的に参照されるこのような文献の教示または節は本明細書の一部として援用される。
別段の定義がない限り、本発明の開示に使用される総ての用語は、技術用語および科学用語を含め、本発明が属する技術分野の熟練者により共通に理解されているものと同様の意味を有する。さらなる指針によって、用語の定義は本発明の教示をより良く理解するために含まれる。特定の用語が本発明の特定の側面または本発明の特定の実施形態に関して定義される場合、このような内包は、別段の定義がない限り、本明細書全体、すなわち、本発明の他の側面または実施形態に関しても当てはまるものとする。
後段で、本発明の異なる側面または実施形態をさらに詳しく定義する。このように定義される各側面または実施形態は、別段のことが明らかに示されない限り、他のいずれの側面または実施形態と組み合わせてもよい。特に、好ましいまたは有利であるとして示されるいずれの特徴も、好ましいまたは有利であるとして示されるいずれの他の1または複数の特徴と組み合わせてもよい。
本明細書において「1つの実施形態」、「ある実施形態」という場合には、実施形態に関して記載される特定の特徴、構造または特性は本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。よって、本明細書の様々な場所で「1つの実施形態において」または「ある実施形態において」という句が見られる場合、必ずしも総てが同じ実施形態に関するとは限らないが、その場合もある。さらに、特定の特徴、構造または特性は、1以上の実施形態において、本開示から当業者には自明であるような好適ないずれの様式で組み合わせてもよい。さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが他の特徴は含まないが、当業者により理解されるように、異なる実施形態の特徴の組合せは本発明の範囲内にあることが意味され、異なる実施形態を形成する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態はいずれも、いずれの組合せで使用してもよい。
1つの側面において、本発明は、MSCからMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ること;
(b)前記MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;ならびに
(c)前記MSC由来細胞を第2の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ることを含んでなる方法を提供する。
用語「間葉系幹細胞」または「MSC」は、本明細書で使用する場合、間葉系譜、一般には2つ以上の間葉系譜、より一般には3つ以上の間葉系譜、例えば、軟骨骨芽細胞系譜(軟骨および骨)、骨芽細胞系譜(骨)、軟骨芽細胞系譜(軟骨)、筋細胞系譜(筋肉)、腱細胞系譜(腱)、線維芽細胞系譜(結合組織)、脂肪細胞系譜(脂肪)および間質生成系譜(骨髄間質)の細胞を生成することができる成体の中胚葉由来幹細胞を指す。MSCは、生体サンプル、好ましくは、ヒト対象の生体サンプル、例えば、骨髄、骨梁、血液、臍帯、胎盤、胎児卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には、胎児および青年皮膚、骨膜、歯髄、腱および脂肪組織から単離され得る。
用語「生体サンプル」または「サンプル」は、本明細書で使用する場合、生物源から、例えば、動物またはヒト対象などの生物、細胞培養、組織サンプルなどから得られるサンプルを指す。動物またはヒト対象の生体サンプルは、動物またはヒト対象から取り出された、それらの細胞を含んでなるサンプルを指す。動物またはヒト対象の生体サンプルは1以上の組織種を含んでなってよく、1以上の組織種の細胞を含んでなってよい。動物またはヒト対象の生体サンプルを得る方法は、例えば、組織生検または採血など、当技術分野で周知である。ヒトMSC、それらの単離、in vitro拡大培養、および分化は、例えば、米国特許第5,486,359号;同第5,811,094号;同第5,736,396号;同第5,837,539号;または同第5,827,740号に記載されている。当技術分野に記載されるいずれかの方法により単離される、当技術分野に記載されるいずれのMSCも本方法において好適であり得る。特に、MSCは、骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨芽細胞へのin vitro 3系統間葉分化能を示すと定義され得る(Dominici et al., 2006, vol. 8, 315)。
用語「MSC」はまた、MSCの後代、例えば、動物またはヒト対象の生体サンプルから得られたMSCのin vitroまたはex vivo増殖(増殖/拡大培養)により得られた後代を包含する。
用語「幹細胞」は、一般に、自己再生し得る、すなわち、分化することなく増殖し得る、かつそれまたはその後代が少なくとも1つの比較的さらに専門化した細胞種を生じ得る、専門化していないまたは比較的専門化していない、かつ増殖能のある細胞を指す。この用語は、幹細胞の後代または少なくともその一部が、母幹細胞の専門化していないまたは比較的専門化していない表現型、分化能、および増殖能を実質的に保持する、実質的に無制限の自己再生をし得る幹細胞、ならびに限定された自己再生を示す幹細胞、すなわち、後代またはその一部のさらに増殖および/または分化する能力が、母細胞と比較して著しく低下している幹細胞を包含する。例として、限定されるものではないが、幹細胞は、1以上の系譜に分化してますます比較的さらに専門化した細胞を生産し得る子孫(このような子孫および/もしくはますます比較的さらに専門化した細胞はそれ自体、本明細書において定義されるような幹細胞であり得る)を生じ得るか、または有糸分裂後であり得る最終分化細胞、すなわち完全に専門化した細胞さえも生じ得る。
用語「成体幹細胞」は、本明細書で使用する場合、胎児段階、または好ましくは生後の(例えば、特に、しかし限定されるものではないが、ヒト生物では、生後少なくとも1か月齢、例えば、生後少なくとも2か月齢、少なくとも3か月齢、例えば、少なくとも4か月齢、少なくとも5か月齢、例えば、生後少なくとも6か月齢、例えば、生後1歳もしくはそれ以上、5歳以上、少なくとも10歳以上、15歳以上、20歳以上、または25歳以上の)、例えば、成人に達した後の生物内に存在するかまたはそれから得られる(例えば、単離される)幹細胞を指す。例として、成体幹細胞は、そうでなければ従来の用語「乳児」、「小児」、「若年」、「青年」、または「成人」で記載されるヒト対象から得ることができる。
好ましいMSCは、少なくとも軟骨骨芽細胞系譜の細胞、例えば、骨芽細胞系譜の細胞、例えば、軟骨骨前駆細胞および/もしくは骨前駆細胞および/もしくは前骨芽細胞および/もしくは骨芽細胞および/もしくは骨細胞、ならびに/または軟骨芽細胞系譜の細胞、例えば、軟骨骨前駆細胞および/もしくは軟骨前駆細胞および/もしくは前軟骨芽細胞および/もしくは軟骨芽細胞および/もしくは軟骨細胞を生成する能力を有する。
さらに好ましいMSCは、少なくとも骨芽細胞(骨)系譜の細胞、例えば、軟骨骨前駆細胞および/もしくは骨前駆細胞および/もしくは前骨芽細胞および/もしくは骨芽細胞および/もしくは骨細胞など;または少なくとも軟骨芽細胞(軟骨)系譜の細胞、例えば、軟骨骨前駆細胞および/もしくは軟骨前駆細胞および/もしくは前軟骨芽細胞および/もしくは軟骨芽細胞および/もしくは軟骨細胞;線維芽細胞(結合組織)系譜の細胞、例えば、線維芽細胞、線維細胞;または少なくとも滑膜細胞(滑液);または腱細胞などを生成する能力を有する。
記載されている場合を除き、「対象」または「患者」は互換的に使用され、動物、好ましくは、脊椎動物、より好ましくは、哺乳動物を指し、具体的には、ヒト患者および非ヒト哺乳動物を含む。好ましい患者は、ヒト対象である。動物対象は、例えば胎仔などの動物の出生前形態を含む。ヒト対象は胎児を含み得るが、胚は含まない。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、対象は、ヒト対象であり得る。
用語「細胞製品」は、本明細書で使用する場合、MSC由来細胞、本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞、本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団、または本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞もしくは本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団を含んでなる医薬処方物、例えば、投与に好適な細胞製品(例えば、凍結保存培地中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞)を指す。
ある実施形態において、MSCは健康な対象から得てよく、これは前記MSCから得られたMSC由来細胞の機能性を保証する助けとなり得る。
別の実施形態において、MSCは、MSC由来細胞の移植を必要とするヒト対象から得られる。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、治療対象と同種異系であり得る。MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞に関して用語「同種異系」または「同種」は、MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞が、MSC由来細胞と接触させる、またはMSC由来細胞で処置する対象以外の1以上の(プールされた)対象から得られることを表す。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、治療対象に対して自己であり得る。MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞に関して用語「自己」は、MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞が、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞と接触させる、またはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞で処置するものと同じ対象から得られることを表す。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、自己と同種異系(すなわち、同種)MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の混合物を含んでなり得る。好ましくは、MSCまたはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、治療対象に対して同種異系である。
用語「間葉系幹細胞由来細胞」または「MSC由来細胞」は、本明細書で使用する場合、MSCの分化により得られる、特に、MSCのin vitro(ex vivoを含む)分化により得られる、間葉系譜(例えば、軟骨骨芽細胞系譜(骨および軟骨)、骨芽細胞系譜(骨)、軟骨芽細胞系譜(軟骨)、筋細胞系譜(筋肉)、腱細胞系譜(腱)、線維芽細胞系譜(結合組織)、脂肪細胞系譜(脂肪)、または間質形成系譜(骨髄間質))の細胞を指す。
MSCの分化は、MSCをMSCの所望の細胞種への分化を誘導し得る条件下で培養すること、より一般には、MSCをMSCの所望の細胞種への分化を誘導し得る1以上の薬剤(例えば、増殖因子)を含んでなる培地で培養することを含み得る。MSCの分化のためのプロトコールはそれ自体公知である(とりわけ、WO2007/093431;およびさらにREGER, R.L. et al. ‘Differentiation and Characterization of Human MSCs’. In: Mesenchymal Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology), D.J. Prockop et al.編 Humana Press, 2008, Vol. 449, p. 93-107; VERMURI, M.C. et al. (編). Mesenchymal Stem Cell Assays and Applications (Methods in Molecular Biology). Humana Press, 2011, Vol. 698, 特に201〜352頁) 参照)
用語「増殖因子」は、本明細書で使用する場合、単独でまたは他の物質により媒介される場合に、様々な細胞種の増殖、成長、分化、生存および/または遊走に影響を及ぼし、生物の発生的、形態的および機能的変化に影響を及ぼし得る生物学的に活性な物質を指す。増殖因子は一般に、細胞内に存在する受容体(例えば、表面または細胞内受容体)に、増殖因子に応答してリガンドとして結合することにより作用する。本明細書において増殖因子は、特に、1以上のポリペプチド鎖を含んでなるタンパク質性の実体であり得る。例として、限定されるものではないが、用語「増殖因子」は、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリー、骨形成因子(BMP)ファミリー、血小板由来増殖因子(PDGF)ファミリー、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)ファミリー、神経成長因子(NGF)ファミリー、上皮細胞増殖因子(EGF)ファミリー、インスリン様増殖因子(IGF)ファミリー、成長分化因子(GDF)ファミリー、肝細胞増殖因子(HGF)ファミリー、造血増殖因子(HeGF)、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD−ECGF)、アンギオポエチン、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリー、グルココルチコイドなどのメンバーを包含する。当業者には、増殖因子または増殖因子の組合せは、MSCの所望の細胞種への分化を誘導し得ることが知られるいずれの増殖因子または増殖因子の組合せであってもよいことが理解されるであろう。当業者は、MSCの所望の細胞種への(例えば、軟骨骨芽細胞系譜細胞への)分化を誘導するためのin vitro法は、所望の細胞種の実質的に純粋な(すなわち、主としてそれからなる)細胞集団を生じ得ることを認識するであろう。限定されるものではないが、このようにして誘導された細胞集団は、少なくとも90%(数で)の所望の細胞種、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%の所望の細胞種を含有し得る。
特定の実施形態において、MSC由来細胞は、軟骨骨芽細胞系譜(軟骨および骨)のものである。
「MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞」という記載は、本明細書で使用する場合、軟骨骨前駆細胞、骨前駆細胞および/もしくは前骨芽細胞および/もしくは骨芽細胞および/もしくは骨細胞などの骨芽細胞系譜の細胞へ、または、軟骨骨前駆細胞、軟骨前駆細胞および/もしくは前軟骨芽細胞および/もしくは軟骨芽細胞および/もしくは軟骨細胞などの軟骨芽細胞系譜の細胞へ分化する能力を有する前駆細胞を指し得る。当業者には、前駆細胞は、それらがin vitroまたはin vivoで曝される物理的因子、および/または増殖因子などの化学的もしくは生物学的成分といった条件に応じて、骨芽細胞系譜の細胞(例えば、前骨芽細胞もしくは骨芽細胞)へ、または軟骨芽細胞系譜の細胞(例えば、前軟骨芽細胞もしくは軟骨芽細胞)へ分化することが理解されるであろう。
特定の実施形態において、「骨芽細胞系譜の細胞」または「MSC由来骨芽細胞系譜細胞」という記載は、骨芽細胞表現型を有し、軟骨骨前駆細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、または骨細胞、またはそれらの混合物など、骨材料または骨基質の形成に寄与し得る、または寄与し得る細胞へ発達し得る細胞種を指し得る。本明細書で使用する場合、「骨前駆細胞」は、特に初期および後期骨前駆細胞を含んでなり得る。好ましくは、「骨芽細胞系譜の細胞」または「MSC由来骨芽細胞系譜細胞」は、軟骨骨前駆細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、もしくは骨芽細胞、またはそれらの混合物を等しく指し得るが、さらにより好ましくは、この句は軟骨骨前駆細胞もしくは前骨芽細胞もしくは骨芽細胞、またはそれらの混合物を指し得、例えば、特定の例では、この句は前骨芽細胞を指し得、または他の特定の例では、この句は骨芽細胞を指し得る。これらの用語は総て、それ自体周知である。
さらなる指針により、限定されるものではないが、骨前駆細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞、ならびに骨前駆細胞、前骨芽細胞および/または骨芽細胞を含んでなる細胞集団は、以下の特性を示し得る:
a)これらの細胞は、骨芽細胞分化および骨芽細胞分化中の多くの細胞外基質タンパク質遺伝子の発現を調節する多機能性転写因子であるRunt関連転写因子2(Runx2)の発現を含む;
b)これらの細胞は、以下:アルカリ性ホスファターゼ(ALP)、より具体的には、骨−肝臓−腎臓型のALPのうち少なくとも1つの発現を含み;より好ましくは、オステオカルシン(OCN、BGLAP)、1型プロコラーゲンアミノ末端プロペプチド(P1NP)、オステオネクチン(ON、SPARC)、オステオポンチン(OPST、SPP1、OPN)および/もしくは骨シアロタンパク質(BSP)などの1以上のさらなる骨マーカー、および/またはデコリンおよび/もしくはオステオプロテゲリン(OPG)などの1以上のさらなる骨基質タンパク質の発現もまた含む;
c)これらの細胞はCD45を実質的に発現しない(例えば、CD45を発現し得る細胞は約10%未満、好ましくは約5%未満、より好ましくは約2%未満);
d)これらの細胞は、外部環境を石灰化する、またはカルシウム含有細胞外基質を合成する能力の証拠を示す(例えば、骨形成培地に曝された場合;Jaiswal et al. J Cell Biochem, 1997, vol. 64, 295-312参照)。カルシウムの細胞内蓄積および基質タンパク質への沈着は、例えば、45Ca2+中で培養し、洗浄し、再培養した後に、細胞内に存在するまたは細胞外基質に沈着した放射能を測定すること(米国特許第5,972,703号)によるか、またはアリザリンレッドに基づく石灰化アッセイ(例えば、Gregory et al. Analytical Biochemistry, 2004, vol. 329, 77-84参照)を用いて慣例的に測定することができる;
e)これらの細胞は、脂肪細胞系譜の細胞(例えば、脂肪細胞)にも軟骨芽細胞系譜の細胞(例えば、軟骨芽細胞、軟骨細胞)にも実質的に分化しない。このような系譜への分化がないことは、当技術分野で確立されている標準的な分化誘導条件(例えば、Pittenger et al. Science, 1999, vol. 284, 143-7参照)、およびアッセイ法(例えば、誘導されると、脂肪細胞は一般にオイルレッドOで染まって脂質蓄積を示し;軟骨細胞は一般にアルシアンブルーまたはサフラニンオレンジで染まる)を用いて試験され得る。脂肪生成および/または軟骨形成分化傾向が実質的に無いことは一般に、各試験に適用した場合に脂肪生成または軟骨形成分化の徴候を示すものが供試細胞のうち20%未満、または10%未満、または5%未満、または1%未満であることを意味する。
特定の実施形態において、「軟骨芽細胞(軟骨)系譜の細胞」または「MSC由来軟骨芽細胞(軟骨)系譜細胞」という記載は、軟骨芽細胞表現型を有し、軟骨または軟骨基質の形成に寄与し得る、または寄与し得る細胞へ発達し得る細胞種を指し得る。本明細書で使用する場合、「軟骨前駆細胞」は、特に初期および後期軟骨前駆細胞を含んでなり得る。好ましくは、「軟骨芽細胞(軟骨)系譜の細胞」または「MSC由来軟骨芽細胞(軟骨)系譜細胞」は、軟骨骨前駆細胞、軟骨前駆細胞、前軟骨芽細胞、もしくは軟骨芽細胞、またはそれらの混合物を指し得、さらにより好ましくは、この句は前軟骨芽細胞もしくは軟骨芽細胞、またはそれらの混合物を指し得、例えば、特定の例において、この句は前軟骨芽細胞を指し得、または他の特定の例において、この句は軟骨芽細胞を指し得る。これらの用語は総て、それ自体周知である。
さらなる指針により、限定されるものではないが、軟骨骨芽細胞系譜および/または軟骨芽細胞系譜の細胞、例えば、軟骨骨前駆細胞、軟骨前駆細胞、前軟骨芽細胞および軟骨芽細胞、ならびに軟骨骨前駆細胞、軟骨前駆細胞、前軟骨芽細胞および/または軟骨芽細胞を含んでなる細胞集団は、以下の特性を示し得る:
a)これらの細胞は、軟骨芽細胞分化および軟骨形成中に中枢的役割を果たす転写因子であるSOX9の発現を含む;
b)これらの細胞は、以下:アグレカン(ACAN)、II型コラーゲン、またはCD90のうち少なくとも1つの発現を含む;
c)これらの細胞は、CD45を実質的に発現しない(例えば、CD45を発現し得る細胞は約10%未満、好ましくは約5%未満、より好ましくは約2%未満である);
d)これらの細胞は、in situにおいて、高レベルのII、IX、およびXI型コラーゲンならびにプロテオグリカンを産生する能力の証拠を示す(これらはヒアリン細胞外基質(ECM)の主要な構成成分である)。軟骨形成は、例えば、それぞれプロテオグリカンおよび非コラーゲン性タンパク質を染色するサフラニンオレンジ/ファストグリーンアッセイを用いることにより慣例的に測定することができる(例えば、Lee et al. Tissue Engineering, 2011, vol. 18, 484-98参照);
e)ヒト関節軟骨細胞は、Diaz-Romero et al. 2005 (J Cell Physiol, vol. 202(3), 731-42)に概要が示されているような細胞発現特性を示し得、例えば、これらの細胞はインテグリンおよびその他の接着分子(CD49a、CD49b、CD49c、CD49e、CD49f、CD51/61、CD54、CD106、CD166、CD58、CD44)、テトラスパニン(CD9、CD63、CD81、CD82、CD151)、受容体(CD105、CD119、CD130、CD140a、CD221、CD95、CD120a、CD71、CD14)、外酵素(CD10、CD26)、およびその他の表面分子(CD90、CD99)を発現し得る。単層培養中、軟骨細胞は、間葉系幹細胞に特有と見なされる特定のマーカー(CD10、CD90、CD105、CD166)を上方調節し得る。従って、このようなマーカーは、成熟度の低い前軟骨芽細胞または軟骨芽細胞によっても発現される場合がある。
f)これらの細胞は、脂肪細胞系譜の細胞(例えば、脂肪細胞)にも骨芽細胞系譜の細胞(例えば、骨芽細胞、骨細胞)にも実質的に分化しない。このような細胞系譜への分化がないことは、当技術分野で確立されている標準的な分化誘導条件(例えば、Pittenger et al. Science, 1999, vol. 284, 143-7参照)およびアッセイ法(例えば、誘導されると、脂肪細胞は一般にオイルレッドOで染まって脂質蓄積を示し;前骨芽細胞および骨芽細胞は一般にALPで染まる)を用いて試験され得る。脂肪生成および/または骨芽細胞分化傾向が実質的に無いことは一般に、各試験に適用した場合に脂肪生成または骨芽細胞分化の徴候を示すものが供試細胞のうち20%未満、または10%未満、または5%未満、または1%未満であることを意味する。
特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、骨形成特性を有し得る。
用語「骨形成特性」、「骨形成能」または「骨形成活性」は、本明細書で使用する場合、in vivo、所望により、in vitroにおける骨基質分泌細胞へ(転換)分化する細胞の能力または骨基質を分泌する細胞の能力(すなわち、(転換)分化ステップの必要がない)を指す。この用語は、膜内骨化または軟骨内骨化により骨組織を形成する細胞の能力を包含する。膜内骨化により骨組織を形成する細胞の能力は一般に、鋳型としての骨化軟骨基質の必要なく骨組織を形成する細胞の能力を表す。軟骨内骨化により骨組織を形成する細胞の能力は一般に、まず石灰化した軟骨基質を形成し、次に前記の石灰化した軟骨基質を骨組織形成の鋳型として使用することにより骨組織を形成する細胞の能力を表す。この用語は細胞の骨誘導能を包含しない。
例えば、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞効力は、このような細胞の骨形成活性を測定することにより決定することができる。ヒトMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の骨形成活性は、in vivoにおいて、例えば、頭蓋冠への皮下注射によりマウスに細胞を投与した後に(例えば、ヒト起源またはヒト−マウス混合起源の)少なくとも1つの石灰化した結節の存在を決定することにより測定することができる。ヒトMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の骨形成活性は、in vivoにおいて、例えば、頭蓋冠への皮下注射によりマウスに細胞を投与した後に(例えば、ヒト起源またはヒト−マウス混合起源の)新たに石灰化した結節の厚さを評価することによるか、またはマウス大腿分節未臨界サイズ欠損(sub−CSD)モデルにおいて骨修復度を評価することによって測定することができる。
例えば、100μlの賦形剤中に処方された2.5×106細胞などのヒトMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、頭蓋冠骨への単回皮下投与によりヌードマウスに投与することができる。骨の経時的新形成を標識するために、アリザリンレッド(赤)、カルセイン(緑)、カルセイン(青)およびテトラサイクリン(黄)などのカルシウム結合蛍光色素を、MSC由来軟骨骨芽細胞系細胞の細胞投与のそれぞれ3日前および4日後、8日後、および12日後にマウス腹腔内注射により順次投与することができる。マウスを細胞投与の2週間後に安楽死させ、組織形態計測(例えば、骨形成の定量)により骨形成特性を評価するために各マウスの頭蓋冠を採取することができる。頭蓋冠の初期厚と最終厚を用いて細胞の投与後の骨新形成のパーセンテージを計算することができる。さらに、骨形成特性はまた、免疫蛍光(例えば、マウス起源またはヒト起源の骨形成)によって評価することもできる。骨芽細胞活性は、頭蓋冠切片においてALP酵素活性検出法を用いて評価することができる。破骨細胞活性は、頭蓋冠切片においてTRAP酵素活性検出法を用いて評価することができる。新形成骨の石灰化の状態は、例えば、市販のキット(例えば、Bio−Optica(登録商標))を用いてALPで染色した頭蓋冠切片においてマッソントリクロームゴールドナー染色を用いて評価することができる。軟骨形成は、頭蓋冠矢状パラフィン切片におけるサフラニンオレンジ染色を用いて評価することができる。
さらなる例において、大腿分節未臨界サイズ欠損を施した1日後に経皮注射により、50μlの賦形剤中に処方した1.25×106細胞などの、ヒトMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞をマウスの骨欠損部位に局部的に投与することができる。骨修復はX線撮像により定量することができる。骨欠損サイズは、骨欠損の二端の間の距離を測定することにより定量することができる。
特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、骨誘導特性を有し得る。
用語「骨誘導特性」、「骨誘導能」または「骨誘導活性」は、本明細書で使用する場合、他の骨基質分泌細胞を誘引し、かつ/または他の細胞の骨基質分泌細胞への(転換)分化を誘導する細胞の能力を指す。
例えば、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞効力は、このような細胞の骨誘導活性を測定することにより決定することができる。MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の骨形成誘導能は、in vivoにおいて、例えば、頭蓋冠への皮下注射によりマウスに細胞を投与した後に新たに石灰化した骨の厚さを評価することによるか、またはマウス大腿分節未臨界サイズ欠損(sub−CSD)モデルにおいて骨修復を評価することによって測定することができる。MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の骨形成誘導能はまた、例えば、ALP基質染色によるアルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性評価によって測定することもできる。
特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、骨誘導特性と骨形成特性の両方を有し得る。有利には、本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、それを必要とする対象に移植した際に、従来技術の方法により得られたMSCまたはMSC由来細胞の移植と比較した場合にその骨新形成を超える骨新形成を可能とする。
例として、限定されるものではないが、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞属性を評価するために好適な細胞表面マーカーとしては、CD73、CD105、CD10、およびCD44を含み得る。これらの細胞表面マーカーは、例えば、フローサイトメトリーによる細胞検出を可能とする蛍光色素標識モノクローナル抗体などの市販のモノクローナル抗体により検出することができる。特に、CD73およびCD105は間葉マーカーであり;CD44は接着マーカーであり;およびCD10はMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の高い画分により一般に発現される骨軟骨芽細胞マーカーである。MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞表面のCD73の量は一般に高く;MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞表面のCD105の量は一般に低く;MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞表面のCD44の量は一般に高い。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD73、CD105、CD44およびCD10陽性である。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD34陰性である。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD73、CD105、CD44およびCD10陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD34陰性である。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD45、CD34およびCD3陰性である。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD73、CD105、CD44およびCD10陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD45、CD34およびCD3陰性である。
特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、CD73の蛍光強度の正規化中央値(nMFI)(nMFICD73)が少なくとも500、CD44のnMFI(nMFICD44)が少なくとも100またはCD105のnMFI(nMFICD105)が多くても150のうちいずれか1以上を有する。例えば、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、少なくとも550、少なくとも600、少なくとも650、少なくとも700、少なくとも750、少なくとも800、少なくとも850または少なくとも900のnMFICD73;少なくとも110、少なくとも120、少なくとも130、少なくとも140、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300または少なくとも350のnMFICD44;または多くても180、多くても170、多くても160、多くても150、多くても140、多くても130、多くても120、多くても110または多くても100のnMFICD105のうちいずれか1以上を有する。好ましくは、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、少なくとも500のnMFICD73、少なくとも100のnMFICD44、および多くても150のnMFICD105を有する。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD73、CD105、CD10およびCD44陽性であり(すなわち、細胞表面にCD73、CD105、CD10およびCD44を発現し)、かつ、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、少なくとも500のnMFICD73、少なくとも100のnMFICD44または多くても150のnMFICD105のうちいずれか1以上を有する。例えば、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD73、CD105、CD10およびCD44陽性であり(すなわち、細胞表面にCD73、CD105、CD10およびCD44を発現し)、かつ、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、少なくとも550、少なくとも600、少なくとも650、少なくとも700、少なくとも750、少なくとも800、少なくとも850または少なくとも900のnMFICD73;少なくとも110、少なくとも120、少なくとも130、少なくとも140、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300または少なくとも350のnMFICD44;および多くても180、多くても170、多くても160、多くても150、多くても140、多くても130、多くても120、多くても110または多くても100のnMFICD105のうちいずれか1以上を有する。好ましくは、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、CD73、CD105、CD10およびCD44陽性であり(すなわち、細胞表面にCD73、CD105、CD10およびCD44を発現し)、かつ、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、少なくとも500のnMFICD73、少なくとも100のnMFICD44、および多くても150のnMFICD105を有する。
「蛍光強度の正規化中央値」または「nMFI」は、本明細書で使用する場合、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、アロフィコシアニン(APC)またはフィコエリトリン(PE)などの蛍光色素がコンジュゲートされた免疫グロブリンG(IgG)対照などの1以上の蛍光色素コンジュゲートアイソタイプ対照抗体で標識された全分析細胞集団のMFI(MFIisotype_channel)に対する、1以上の蛍光色素コンジュゲート抗体で標識されたその細胞集団のMFI(MFImarker_channel)の比を指す。nMFI結果は、対象とする集団の細胞表面に存在するマーカーの量に比例する。(n)MFIは一般に、蛍光シグナルの放出が測定される波長に関連する。
「CD73のnMFI」または「nMFICD73」という記載は、本明細書で使用する場合、APCがコンジュゲートされたIgG対照(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:555751)で標識された全分析細胞集団のMFIに対する、APCにコンジュゲートされたCD73に対する抗体(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:560847)で標識されたその細胞集団のMFIの比を指す。好ましくは、nMFICD73は、APCに関して、励起波長633nmおよび発光波長660nmで測定される。
「CD44のnMFI」または「nMFICD44」という記載は、本明細書で使用する場合、PEがコンジュゲートされたIgG対照(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:556650)で標識された全分析細胞集団のMFIに対する、PEにコンジュゲートされたCD44に対する抗体(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:550989)で標識されたその細胞集団のMFIの比を指す。好ましくは、nMFICD44は、PEに関して、励起波長488nmおよび発光波長580nmで測定される。
「CD105のnMFI」または「nMFICD105」という記載は、本明細書で使用する場合、APCがコンジュゲートされたIgG対照(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:555751)で標識された全分析細胞集団のMFIに対する、APCにコンジュゲートされたCD105に対する抗体(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:562408)で標識された細胞集団のMFIの比を指す。好ましくは、nMFICD105は、APCに関して、励起波長633nmおよび発光波長660nmで測定される。
「CD10のnMFI」または「nMFICD10」は、本明細書で使用する場合、PEがコンジュゲートされたIgG対照(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:556650)で標識された全分析細胞集団のMFIに対する、PEにコンジュゲートされたCD10に対する抗体(例えば、BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:555375)で標識されたその細胞集団のMFIの比を指す。好ましくは、nMFICD10は、PEに関して、励起波長488nmおよび発光波長580nmで測定される。
前述したように、上記に詳説した方法は、特に、(i)細胞の軟骨骨芽細胞系譜または骨芽細胞系譜への運命決定を表すALPの高い発現、および(ii)細胞が例えば同種異系対象への細胞移植により好適であることを示す、MSC由来骨軟骨芽細胞系譜または骨芽細胞系譜細胞の限定された免疫原性を表す低いHLA−DR発現などのより優れた特性を有するMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞、またはその集団をもたらし得る。
よって、特定の実施形態において、少なくとも70%(数で)(例えば、少なくとも75%(数で)、例えば、≧80%、≧85%、≧90%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がアルカリ性ホスファターゼ(ALP)陽性であり;10%未満(数で)(例えば、5%未満(数で)、例えば、3%未満、2%未満、または1%未満)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がHLA−DR陽性である。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD73、CD105、CD10およびCD44陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD34陰性であり;少なくとも70%(例えば、少なくとも75%(数で)、例えば、≧80%、≧85%、≧90%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がアルカリ性ホスファターゼ(ALP)陽性であり;10%未満(例えば、5%未満(数で)、例えば、3%未満、2%未満、または1%未満)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がHLA−DR陽性である。
特定の実施形態において、実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD73、CD105、CD10およびCD44陽性であり;実質的に総て(例えば、少なくとも90%(数で)、例えば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がCD45、CD34およびCD3陰性であり;少なくとも70%(例えば、少なくとも75%(数で)、例えば、≧80%、≧85%、≧90%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、または100%)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がアルカリ性ホスファターゼ(ALP)陽性であり;10%未満(例えば、5%未満(数で)、例えば、3%未満、2%未満、または1%未満)のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞がHLA−DR陽性である。
細胞が特定のマーカーに対して陽性である(またはそのマーカーを発現するもしくはその発現を含む)と言われる場合、これは、当業者が適当な測定を行った場合に、適切な対照と比較して、そのマーカーに対する明瞭なシグナルの存在または証拠、例えば、検出可能な抗体または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応による検出を結論付けることを意味する。この方法がマーカーの定量的評価を可能とする場合、陽性細胞は、対照とは有意に異なる、例えば、限定されるものではないが、対照細胞により生成されるこのようなシグナルの少なくとも1.5倍、例えば、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍またはさらにはそれを超える高さのシグナルを平均して生成し得る。
上記の細胞特異的マーカーの発現は、免疫組織化学またはアフィニティー吸着、ウエスタンブロット解析、フローサイトメトリー、ELISAなどの当技術分野で公知の任意の好適な免疫学的技術を用いて、または酵素活性(例えば、ALP)の任意の好適な生化学的アッセイにより、またはマーカーmRNAの量を測定する任意の好適な技術、例えば、ノーザンブロット、半定量的もしくは定量的RT−PCRなどにより検出することができる。本開示に列挙されているマーカーの配列データは既知であり、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)などの公開データベースから得ることができる。
特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、動物細胞、好ましくは、温血動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞または非ヒト哺乳動物細胞、最も好ましくは、ヒト細胞であり得る。
用語「in vitro」は、本明細書で使用する場合、動物またはヒト身体の外側または外部を表す。用語「in vitro」は、本明細書で使用する場合、「ex vivo」を含むと理解されるべきである。用語「ex vivo」は一般に、動物またはヒト身体から取り出され、かつ、体外で、例えば、培養容器内で維持または増殖された組織または細胞を指す。
MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、本明細書で意図する場合、好ましくは、接着性であり、すなわち、増殖に表面を必要とし、一般に、培養培地中で自由に浮遊する細胞(懸濁培養)ではなく、前記表面で接着単層として増殖する(すなわち、接着細胞培養)。組織培養プラスチック容器の表面などの表面への細胞の接着は、倒立顕微鏡下での目視検査により容易に調べることができる。接着培養で増殖される細胞は、周期的継代培養を必要とし、そこでは、細胞が表面から酵素的に(例えば、トリプシンを用いて)取り出され、増殖培地に懸濁され、新しい培養容器に再播種され得る。一般に、細胞の接着を可能とする表面または基質は実質的に親水性のいずれの基質であってもよい。当技術分野で知られているように、組織培養容器、例えば、培養フラスコ、ウェルプレート、ディッシュなどは、通常、親水性基質表面を提供するために成形後に適宜表面処理またはコーティングされた多様なポリマー材料から作製され得る。用語「接触させる」とは、本明細書で使用する場合、1以上の分子、成分または材料を別のものと直接的または間接的に一緒にし、それにより、それらの間の相互作用を促進することを意味する。一般に、MSCまたはMSC由来細胞の拡大培養および/または分化を誘導し得る1以上の薬剤を、MSCまたはMSC由来細胞が培養される培地にそれらを含めることによって、MSCまたはMSC由来細胞と接触させることができる。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ることを含んでなり得る。工程(a)は、本明細書において「一次培養」と呼称する場合がある。
用語「線維芽細胞増殖因子2(FGF−2)」、「塩基性FGF」、「FGF−b」、「FGFB」、「BFGF」、「ヘパリン結合増殖因子2(HBGF−2)」、または「プロスタトロピン」は互換的に使用することができ、線維芽細胞増殖因子ファミリーのよく知られているメンバーに関する。本発明者らは、FGF−2が本発明の方法において特に有効であることを認めた。
用語「トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)」、「TGFB」または「TGFβ」は、本明細書で使用する場合、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)ファミリーのメンバーを指す。本発明者らは、TGFβが本発明の方法において特に有効であることを認めた。さらなる実施形態において、TGFβファミリーの前記メンバーは、TGF−β−1、TGF−β−2、TGF−β−3、TGF−β−4、GDF1(成長分化因子1)、GDF−2、GDF−3、GDF−5、GDF−6、GDF−7、GDF−8、GDF−9、GDF−11、GDF−15、INHA(インヒビンα鎖)、INHBA(インヒビンβA鎖)、INHBB(インヒビンβB鎖)、INHBC(インヒビンβC鎖)、INHBE(インヒビンβE鎖)、MIS(ミューラー管阻害因子)、ならびにさらにGDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、NRTN(ニュールツリン)、PSPN(パーセフィン)、およびそれらの混合物を含むGDNFサブファミリーのメンバーからなる群から選択される。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、TGFβは、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましくは、TGFβはTGFβ1である。
さらなる実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、FGF−2およびTGFβに加えて、FGF−2およびTGFβ以外の1以上の付加的な、外因的に加えた増殖因子と接触させてもよい。別の実施形態において、FGF−2およびTGFβは、MSCまたはMSC由来細胞と接触させる唯一の外因性増殖因子であり得る。
好ましい実施形態において、本方法において使用される増殖因子は、ヒト増殖因子である。本明細書で使用する場合、用語「ヒト増殖因子」は、天然ヒト増殖因子と実質的に同じ増殖因子を指す。例えば、増殖因子がタンパク質性の実体である場合、その構成ペプチドまたはポリペプチドは、天然ヒト増殖因子と同一の一次アミノ酸配列を有し得る。本方法におけるヒト増殖因子の使用は、そのような増殖因子は細胞機能に望ましい効果を惹起すると思われるので好ましい。
用語「天然」は、ヒトにより人工的に生産されるのとは違って自然界に見られる対象または実体を表すために使用される。例えば、天然源から単離することができ、研究室でヒトにより意図的に改変されていない生物に存在するポリペプチド配列は、天然のものである。特定の実体、例えば、ポリペプチドまたはタンパク質に関して、この用語はあらゆる形態および例えば個体間の通常の変動のために自然界に見られるそれらの変異体を包含する。例えば、タンパク質性増殖因子という場合には、用語「天然」は、個体間の通常の対立遺伝子変形形態のためにそれらの構成ペプチドまたはポリペプチドの一次配列に違いを有する増殖因子を包含する。
本方法は、増殖因子の生物学的に活性な変異体または断片を使用し得る。本発明の方法において、増殖因子の「生物学的に活性な」変異体または断片は、他の条件が実質的に同じである場合に、各増殖因子と少なくともほぼ同程度の、MSCからの本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の取得を達成する。
ポリペプチドの「変異体」は、そのポリペプチドのアミノ酸配列と実質的に同一の(すなわち、大部分は同一であるが、完全には同一でない)アミノ酸配列を有する。ここで、「実質的に同一」とは、少なくとも85%同一、例えば、少なくとも90%同一、好ましくは、少なくとも95%同一、例えば、少なくとも99%同一を指す。配列の違いは1以上のアミノ酸の挿入(付加)、欠失および/または置換から生じ得る。
別の実施形態において、本方法において使用される増殖因子、すなわち、少なくともFGF−2およびTGFβは、非ヒト動物増殖因子、特に非ヒト哺乳動物増殖因子、またはそれらの生物学的に活性な変異体もしくは誘導体であり得る。本明細書で使用する場合、用語「非ヒト動物増殖因子」および「非ヒト哺乳動物増殖因子」は、それぞれ天然非ヒト動物増殖因子または非ヒト哺乳動物増殖因子と実質的に同じ増殖因子を指す。例えば、増殖因子がタンパク質性の実体である場合、その構成ペプチドまたはポリペプチドは天然非ヒト動物または非ヒト哺乳動物増殖因子と同一の一次アミノ酸配列を有し得る。当業者は、非ヒト動物または非ヒト哺乳動物増殖因子は、ヒト動物増殖因子(human animal growth factors)よりも程度は低いものの(それらはMSC細胞と同じ起源のものであるので)、本方法で適用可能であることを理解するであろう。特に、非ヒト動物増殖因子または非ヒト哺乳動物増殖因子は、それらが所望の効果、例えば、(類似の)ヒト増殖因子と同等の効果を惹起すれば使用可能である。
好ましい実施形態において、増殖因子またはそれらの生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は組換え型であり、すなわち、宿主生物またはその祖先に導入され、前記ポリペプチドをコードする配列を含んでなる組換え核酸分子の発現により宿主生物により生産される。用語「組換え核酸分子」は、本明細書で使用する場合、組換えDNA技術を用いて相互連結されたセグメントから構成される核酸分子(例えば、DNAまたはcDNA分子)を指す。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSCまたはMSC由来細胞は、培地がさらに血漿、血清またはその代替物のうち1以上を含んでなる場合などには、それらとのさらなる接触が行われる。
用語「血漿」は、従来の定義の通りであり、新鮮血漿、解凍された凍結血漿、溶媒/界面活性剤処理血漿、加工血漿(例えば、PRP)、またはそれらの2つ以上の混合物を含んでなる。血漿は通常、抗凝固剤(例えば、ヘパリン(極めて低濃度、一般に、約15×10−5IU/ml、クエン酸塩、シュウ酸塩またはEDTA)とともに提供される、または抗凝固剤と接触された全血のサンプルから得られる。次に、血液サンプルの細胞成分が適当な技術、一般に、遠心分離により、液体成分(血漿)から分離される。本発明において使用するために好適な血漿を得るための具体例として、限定されるものではないが、血液サンプルを、抗凝固剤EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含有するバキュテナーチューブ(例えば、BDバキュテナープラスチックEDTAチューブ、10ml、1.8mg/mL)に抜き取ることができる。このサンプルを穏やかに振盪した後に、室温で10分、1,000〜2,000gで遠心分離して赤血球から血漿を分離する。上清(血漿)を回収し、場合によりプールし(複数の血液サンプルを使用する場合)、凍結バイアルに分取し、これらを使用まで−80℃で保存する。用語「血漿」は、ヒトまたは動物身体の一部を形成しない組成物を指す。用語「血漿」は、特定の実施形態において、具体的には、処理血漿、すなわち、全血からのその分離の後に、その組成、具体的には、その化学的組成、生化学的組成、または細胞組成を変更する1以上の処理工程を受けた血漿を含み得る。よって、用語「血漿」は、本明細書で意図する場合、多血小板血漿(PRP)、すなわち、血小板を富化した血漿を含み得る。一般に、PRPは約1.0×106血小板/μlを含有し得るが、全血中の血小板濃度は約1.5×105〜3.5×105/μLであり得る。
血漿は、溶媒/界面活性剤で処理してよい。用語「溶媒/界面活性剤処理血漿」、「S/D処理血漿」、または「S/D血漿」は一般に、(a)血漿を溶媒および界面活性剤で処理する工程および(b)溶媒/界面活性剤処理血漿を濾過する工程を含んでなる方法により得ることができるまたは得られた脱細胞化血漿を指す。このような処理に好適な溶媒は、ジアルキルまたはトリアルキルホスフェートなどの溶媒および米国特許第4,764,369号に記載の界面活性剤である。S/D血漿を調製するために使用される界面活性剤は好ましくは、非毒性界面活性剤(例えば、Tween(登録商標)20またはTween(登録商標)80)である。
用語「血清」は、従来の定義の通りであり、新鮮血清、解凍された凍結血清もしくは血漿から調製された血清、またはそれらの2つ以上の混合物を含んでなる。血清は、通常全血サンプルから、まず、サンプル中で凝固させ、次に、このようにして形成された血餅および血液サンプルの細胞成分を液体成分(血清)から適当な技術、一般に、遠心分離により分離することにより得ることができる。凝固は、不活性触媒、例えば、ガラスビーズまたは粉体により促進することができる。あるいは、血清は、血漿から、抗凝固剤およびフィブリンを除去することにより得ることもできる。本発明において使用するために好適な血清を得るための具体例として、限定されるものではないが、血液サンプルを、抗凝固剤不含のバキュテナーチューブ(例えば、BDバキュテナープラスプラスチック血清チューブ、10ml)に抜き取り、室温で30〜45分インキュベートして凝固させる。次に、このチューブを室温で15分間、1,000〜2,000gで遠心分離して、赤血球から血清を分離する。上清(血清)を回収し、場合によりプールし(複数の血液サンプルを使用する場合)、凍結バイアルに分取し、これらを使用まで−80℃で保存する。ゆえに、用語「血清」は、ヒトまたは動物身体の一部を形成しない無細胞組成物を指す。血清は、本明細書で意図する場合、ヒト血清、すなわち、単一のヒト対象または複数のヒト対象(例えば、血清混合プール)から得られたものである。血清は、未処理血清、すなわち、全血からの分離により得られ、任意選択の熱不活性化、保存(低温または非低温)、滅菌、凍結乾燥および/または濾過以外の、その化学的組成、生化学的組成、または細胞組成を変更する下流処理工程を受けていない血清であり得る。特定の実施形態において、血清は、溶媒/界面活性剤処理血漿から得ることができる。
単離された血漿、血清またはその代替物は、本発明の方法において直接使用することができる。それらはまた、後の使用のために適宜保存することができる(例えば、血漿、血清またはその代替物の各凍結点より高いが周囲温度より低い温度(この温度は通常約4℃〜5℃である)で短期間、例えば、最大約1〜2週間;または通常約−70℃〜約−80℃で凍結保存により長期間)。
単離された血漿、血清またはその代替物は、特に補体を除去するために当技術分野で公知のように熱失活させることができる。本方法がその存在下で培養される細胞にとって自己の血漿、血清、またはその代替物を使用する場合、血漿、血清またはその代替物を熱不活性化する必要はない場合がある。血漿、血清またはその代替物が培養細胞に対して少なくとも部分的同種異系である場合、血漿、血清またはその代替物を熱不活性化することが有利であり得る。場合により、血漿、血清またはその代替物はまた、保存または使用前に、好ましくは0.2μm以下の孔径を有する、従来の微生物用フィルターを用いて除菌してもよい。
ある実施形態において、本方法は、接触させるヒトMSCまたはMSC由来細胞にとって自己のヒト血漿、血清またはその代替物を使用し得る。血漿、血清またはその代替物に関して「自己」という用語は、その血漿、血清またはその代替物が前記血漿、血清またはその代替物と接触させるMSCまたはMSC由来細胞と同じ対象から得られることを表す。自己の血漿、血清またはその代替物の使用は、対象によるその細胞の最適な受容を保証し、かつ/または例えば他の血清からの病原体の偶発的伝達を回避し得る。
別の実施形態において、この方法は、接触させるヒトMSCまたはMSC由来細胞に対して「同種」または「同種異系」のヒト血漿、血清またはその代替物、すなわち、MSCが得られる対象以外の1以上の(プールされた)ヒト対象から得られるものを使用し得る。
さらなる実施形態において、この方法は、上記で定義されるような自己のおよび同種異系の(すなわち、同種の)血漿、血清またはその代替物の混合物を使用し得る。「血清または血漿の代替物」という句は、本明細書で使用する場合、MSCまたはMSC由来細胞の増殖および/または拡大培養を誘導し得る組成物などの血漿および/または血清の1以上の機能を有する天然または人工非毒性組成物を指す。血清または血漿の代替物の限定されない例としては、血小板溶解液、およびヒト血清アルブミンなどの血漿または血清の1以上の分画成分を含んでなる細胞培養のための組成物が含まれる。当業者は、ヒト血漿、血清およびその代替物が1以上の増殖因子、サイトカインまたはホルモンを含んでなり得る複雑な生物学的組成物であることを認識する。
増殖因子FGF−2およびTGFβまたはそれらの個々の生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、血漿、血清またはその代替物のうち1以上に加えて、すなわち、それらに対して外因的に、またはそれらに補足して提供されることが意図される。
用語「ヘパリン」は、本明細書で使用する場合、その抗凝固効果を特徴とする、3〜30kDaの範囲の分子量を有する、グリコサミノグリカンファミリーの炭水化物のポリマーを指す。ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の効力は、in vitroにおいて生物学的アッセイによって決定することができ、ヒツジまたはヤギまたはヒト血漿の凝固を妨げるために必要なヘパリンの濃度が、ミリグラム当たりのヘパリン活性の単位に基づき国際的に認められている標準の濃度と比較される。1mgのヘパリンは一般に、140〜180国際単位(IU)に等しい。
用語「IU」または「国際単位」は、生体物質の生物活性または効果として表される生体物質の量の標準的尺度である。この単位が割り当てられている物質ごとに、国際的に認められている生物学的手順に従って試験した場合に、1IUの用量について期待される、国際的に認められている生物活性または効果が存在する。
特定の実施形態において、ヘパリンまたはヘパリン誘導体もしくは類似体は、非分画ヘパリン(UFH);低分子量ヘパリン(LMWH)、例えば、エノキサパリン、ダルテパリン、ナドロパリン、チンザパリン、セルトパリン、レビパリン、アルデパリン、パルナパリン、ベミパリン、またはそれらの混合物;ヘパリノイド、例えば、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、アカラン硫酸、ケラタン硫酸、またはそれらの混合物、例えば、ダナパロイド;ヘパリン塩;ヘパリノイド塩;ヘパリン断片;ヘパリノイド断片;およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましくは、ヘパリンまたはヘパリン誘導体もしくは類似体は、UFH、ダルテパリン、ダナパロイドおよびヘパラン硫酸からなる群から選択される。
特定の実施形態において、前記FGF−2、前記TGFβ、前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体、および場合により、血漿、血清またはその代替物のうち1以上は、培地、一般には、液体細胞培養培地中に含まれる。一般に、この培地は、当技術分野で公知のような基本培地配合物を含んでなる。多くの基本培地配合物(例えば、the American Type Culture Collection、ATCC;またはInvitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州から入手可能)が本明細書において細胞を培養するために使用可能であり、これには限定されるものではないが、InvitrogenまたはCambrex(ニュージャージー州)から入手可能なイーグルの最小必須培地(MEM)、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、α改変最小必須培地(α−MEM)、Basal Medium Essential(BME)、BGJb、F−12 Nutrient Mixture(Ham)、イスコブの改変ダルベッコ培地(IMDM)、またはX−VIVO(商標)無血清培地(臨床グレード)、およびその改変物および/または組合せが含まれる。上記の基本培地の組成は一般に当技術分野で公知であり、培養される細胞の必要に応じて培地および/または培地添加剤の濃度を改変または調整することは当業者の技術の範囲内にある。このような基本培地配合物は、それ自体既知である哺乳動物細胞の発達のために必要な成分を含有する。実例として、限定されるものではないが、これらの成分は、無機塩(特に、Na、K、Mg、Ca、Cl、Pおよび可能性としてはCu、Fe、SeおよびZnを含有する塩)、生理学的バッファー(例えば、HEPES、重炭酸塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよび/または核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、酸化防止剤(例えば、グルタチオン)および炭素源(例えば、グルコース、ピルビン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)などを含み得る。
培養において使用するために、基本培地には1以上のさらなる成分を添加することができる。例えば、付加的添加剤は、最適な増殖および拡大培養に必要な微量元素および物質を細胞に供給するために使用することができる。このような添加剤には、インスリン、トランスフェリン、セレン塩、およびそれらの組合せが含まれる。これらの成分は、限定されるものではないが、ハンクスの平衡塩溶液(HBSS)、アールの塩溶液などの塩溶液に含まれ得る。さらなる酸化防止剤添加剤、例えば、β−メルカプトエタノールを加えてもよい。多くの基本培地はアミノ酸をすでに含有しているが、例えば、溶液中では安定性が低いことが分かっているL−グルタミンなどのいくつかのアミノ酸は後に添加してよい。培地にはさらに抗生物質および/または抗真菌化合物、例えば、一般に、ペニシリンとストレプトマイシンの混合物、および/または限定されるものではないが、アムホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ナリジクス酸、ネオマイシン、ナイスタチン、パロモマイシン、ポリミキシン、ピューロマイシン、リファンピシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、チロシン、およびゼオシンにより例示される他の化合物を添加してもよい。また、脂質および脂質担体を、細胞培養培地を補足するために使用することもできる。このような脂質および担体は、限定されるものではないが、とりわけ、シクロデキストリン、コレステロール、アルブミンコンジュゲートリノール酸、リノール酸およびアルブミンコンジュゲートオレイン酸、非コンジュゲートリノール酸、アルブミンコンジュゲートリノール酸−オレイン酸−アラキドン酸、アルブミン非コンジュゲートおよびコンジュゲートオレイン酸を含み得る。アルブミンは、脂肪酸不含配合物にも同様に使用することができる。
特定の実施形態において、ヒト血漿、血清またはその代替物のうち1以上は、前記培地に約0.5%〜約30%、好ましくは約1%〜約15%、より好ましくは2%〜10%の割合(血漿、血清、またはその代替物のうち1以上の容量/培地の容量)で含まれてよい。本方法は、比較的低い量、例えば、約5または10容量%以下、例えば、約1、約2、約3または約4容量%の血漿、血清またはその代替物のうち1以上で満足のいく性能を示すことができ、MSCまたはMSC由来細胞を培養するために取得する必要のある血漿、血清またはその代替物のうち1以上の容量の低減を可能とする。
なおさらなる実施形態において、濃縮血漿製品(例えば、凍結血漿からの濃縮物などの血漿濃縮物)、濃縮血清製品または血漿または血清の濃縮代替物製品のうち1以上が使用され得る。このような濃縮製品は、濃縮係数を相殺する(釣り合わせる、補正する)ためなどに、血漿、血清またはその代替物のうち1以上の所望の濃度よりも低い濃度で組成物に含まれ得る。
特定の実施形態において、ヒト血漿、血清および/またはその代替物のうちいずれか2つ以上の組合せまたは混合物が使用され得る。
特定の実施形態において、FGF−2およびTGFβが所望の細胞種へ分化誘導するために十分な濃度で前記培地に含まれる。
特定の実施形態において、FGF−2およびTGFβが、MSCをMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞へ分化誘導するために十分な濃度で前記培地に含まれる。一般に、FGF−2またはその生物学的に活性な変異体もしくは断片は、0.1〜100ng/ml、好ましくは0.5〜20ng/ml、例えば、約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7または6ng/ml、または約5ng/ml以下、例えば、約4、3、2、1または0.5ng/mlの濃度で培地に含むことができる。一般に、TGFβ、例えば、TGFβ1、またはその生物学的に活性な変異体もしくは断片は、0.1〜100ng/ml、好ましくは0.25〜20ng/ml、例えば、約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7または6ng/ml、または約5ng/ml以下、例えば、約4、3、2、1または0.5ng/mlの濃度で培地に含むことができる。前記値は、培地に外因的に添加される場合に、各増殖因子またはそれらの生物学的に活性な変異体もしくは断片の濃度を指すことを意図する。
特定の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、少なくとも0.01IU/ml、少なくとも0.02IU/ml、少なくとも0.03IU/ml、少なくとも0.04IU/ml、少なくとも0.05IU/ml、少なくとも0.06IU/ml、少なくとも0.07IU/ml、少なくとも0.08IU/ml、少なくとも0.09IU/ml、少なくとも0.1IU/ml、少なくとも0.5IU/ml、少なくとも1IU/ml、少なくとも5IU/ml、少なくとも10IU/ml、少なくとも20IU/ml、少なくとも30IU/ml、少なくとも40IU/ml、少なくとも50IU/ml、少なくとも60IU/ml、少なくとも70IU/ml、少なくとも80IU/ml、少なくとも90IU/ml、または少なくとも100IU/mlの濃度で前記培地に含まれる。特定の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、少なくとも0.10IU/mlの濃度で前記培地に含まれる。特定の好ましい実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、約0.1IU/mlの濃度で前記培地に含まれる。特定の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体は、約0.10IU/ml、0.20IU/ml、0.30IU/ml、0.40IU/ml、0.50IU/ml、0.60IU/ml、0.70IU/ml、0.80IU/ml、0.90IU/mlまたは1.0IU/mlの濃度で前記培地に含み得る。
本明細書に教示されるような方法または使用の特定の実施形態において、ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度は、少なくとも0.05IU/ml、好ましくは約0.1IU/mlであり得る。
ある実施形態において、上記濃度は、培地中の増殖因子またはそれらの生物学的に活性な変異体もしくは断片の総濃度あるいは前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の総濃度を、すなわち、血漿、血清またはその代替物が寄与する場合およびそれらに加えて提供される場合の、前記増殖因子またはそれらの生物学的に活性な変異体もしくは断片の合計濃度あるいは前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の合計濃度を指し得る。
特定の実施形態において、上記濃度は、血漿または血清がすでに寄与しているものに加えて提供される場合の、前記増殖因子またはそれらの生物学的に活性な変異体もしくは断片の濃度あるいは前記ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度を指し得る。当然のことながら、添加されるべき増殖因子もしくはヘパリンまたはそれらの誘導体もしくは類似体がその血漿、血清またはその代替物中に通常存在しない(検出不能である)場合、増殖因子もしくはヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の総濃度と添加濃度は(実質的に)同じとなる。
好ましい実施形態において、本明細書の他所に定義されるように対象の生体サンプルから回収されたMSCを培養容器で培養する。培養容器は、細胞接着を可能とするためのプラスチック表面を提供し得る。別の実施形態において、この表面は、ガラス表面であり得る。さらに別の実施形態において、この表面は、細胞の接着および増殖が可能な適当な材料、例えば、マトリゲル(登録商標)、ラミニンまたはコラーゲンでコーティングしてもよい。
特定の実施形態において、MSCは、骨髄(または他の供給源)から、基質表面、例えば、プラスチック表面に接着可能なこれらの(単核)細胞を選択することにより回収され得る。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、(例えば、工程(a)の一部として)非接着物を除去し、接着細胞を(a)に定義される培地で培養することを含んでなり得る。
特定の実施形態において、細胞は、非接着物を除去する前に約1〜8日間、より一般には約2〜6日、より一般には約4日間接着させ得る。そうでなければ、非接着物の除去は、誘導工程(a)の後、多くても8日、多くても6日、多くても4日、好ましくは、多くても4日実施され得る。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、(例えば、工程(a)の一部として)培養培地の一部または全部を(a)に定義される培地で置き換えることを含んでなり得る。有利には、これは増殖因子の補充を可能とする。特定の実施形態において、この置換は、一次培養中に少なくとも1回、例えば、1回、2回または3回行い得る。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(a)において、約13日〜約15日の期間培養され得る。好ましくは、MSC由来細胞は、工程(a)において約14日の期間培養される。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、(b)MSC由来細胞を第1の時間継代培養し(「第1継代」または「P1」)、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養することを含んでなり得る。工程(b)はまた、本明細書では「二次培養」と呼ばれることもある。
ある実施形態において、工程(b)は、工程(a)で得られたMSC由来細胞を回収することを含んでなり得る。
ある実施形態において、工程(b)は、前記MSC由来細胞を剥離し、再播種し、さらに(a)に定義される培地、すなわち、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を、好ましくは少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培地で培養することを含んでなり得る。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来細胞は工程(b)において約8日〜約12日の期間培養される。特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)において約9日〜約11日の期間培養される。好ましくは、MSC由来細胞は、工程(b)において約10日間培養される。
特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてx日の期間培養されてよく、ここで、x日はMSC由来細胞の少なくとも20%が増殖している最終日である。
よって、ある側面は、間葉系幹細胞(MSC)からMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβ、およびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ること;
(b)前記MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;ならびに
(c)前記MSC由来細胞を第2の時間継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ること
を含んでなり、
前記MSC由来細胞は工程(b)でx日の期間培養され、ここで、x日は前記MSC由来細胞の少なくとも20%が増殖している最終日である方法に関する。
特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてx日の期間培養されてよく、ここで、x日はMSC由来細胞の少なくとも25%が増殖している(例えば、S期およびG2/M期にある)最終日である。例えば、MSC由来細胞は、工程(b)でx日の期間培養され、ここで、x日はMSC由来細胞の少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45、少なくとも50%、少なくとも55、または少なくとも60%が増殖している(例えば、S期およびG2/M期にある)最終日である。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、増殖しているMSC由来細胞は、細胞周期のS期、G2期またはM期にある。イベント/周期(G0/G1、SおよびG2/M期)による細胞周期分析は、蛍光活性化細胞選別(FACS)などのフローサイトメトリーによって行うことができる。
特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてx日の期間培養されてよく、ここで、x日はMSC由来細胞の数がx−1日よりも多い最終日である。例えば、MSC由来細胞の数がx−1日よりも多い最終日としてのx日を決定するために、MSC由来細胞を二次培養として28日間培養してよく(従来技術の方法に従う)、サンプルは毎日採取してよく、細胞数または細胞密度(例えば、細胞数/cm2として表される)は、各サンプルに関して、例えば、手での計数(例えば、ビルケルチャンバー)またはフローサイトメトリー(例えば、BD Trucount(商標))により決定され得る。細胞数に基づき、MSC由来細胞の数が前日(すなわち、x−1日)よりも多い最終日(すなわち、x日)を決定することができる。
特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてx日の期間培養されてよく、ここで、x日はMSC由来細胞の少なくとも20%が増殖しており、MSC由来細胞の数がx−1日より多い最終日である。
特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてさらなる培養のために3×102〜1×103細胞/cm2の密度で播種され得る。特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてさらなる培養のために5×102〜1×103細胞/cm2の密度で播種され得る。好ましくは、MSC由来細胞は、工程(b)においてさらなる培養のために3×102〜8×102細胞/cm2の密度で播種され得る。
よって、さらなる側面において、本発明は、MSCからMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ること;
(b)MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;ならびに
(c)MSC由来細胞を第2の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ること
を含んでなり、
前記MSC由来細胞は工程(b)においてさらなる培養のために3×102〜1×103細胞/cm2の密度、好ましくは3×102〜8×102細胞/cm2の密度で播種される方法を提供する。
用語「密度」および「細胞密度」は本明細書では互換的に使用可能であり、単位表面当たりの細胞数(例えば、細胞/cm2として表される)を指す。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、MSC由来細胞を第2の時間継代培養し(「第2継代」または「P2」)、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得る工程(c)を含んでなり得る。工程(c)はまた、本明細書では「三次培養」と呼ばれることもある。
工程(c)において得られるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、「第3継代」または「P3」細胞と見なすことができる。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(c)において約10日〜約14日間培養される。特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(c)において約11日〜約13日間培養される。好ましくは、MSC由来細胞は、工程(c)において約12日間培養される。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(c)においてさらなる培養のために3×102〜1×103細胞/cm2の密度で播種され得る。特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(c)においてさらなる培養のために5×102〜1×103細胞/cm2の密度で播種され得る。好ましくは、MSC由来細胞は、工程(c)においてさらなる培養のために3×102〜8×102細胞/cm2の密度で播種され得る。
よって、さらなる側面において、本発明は、MSCからMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ること;
(b)前記MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;ならびに
(c)前記MSC由来細胞を第2の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ること
を含んでなり、
前記MSC由来細胞は工程(c)においてさらなる培養のために3×102〜1×103細胞/cm2の密度、好ましくは3×102〜8×102細胞/cm2の密度で播種される方法を提供する。
当業者には、本明細書に教示されるような方法がさらなる継代培養を含んでなり得ることが理解されるであろう。当業者には、これが第4継代(P4)、第5継代(P5)、第6継代(P6)、第7継代(P7)、第8継代(P8)、第9継代(P9)または第10継代(P10)の細胞培養を生成し得ることが理解されるであろう。初代継代(P0)は、剥離および/または再播種されていないMSCまたはMSC由来細胞を指し得る。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存することを含んでなり得る。特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、(d)MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を対象に投与するのに好適な凍結保存培地に再懸濁させることを含んでなり得る。MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を対象に投与するのに好適な凍結保存培地に再懸濁させることにより、対象へ直接投与するのに好適な細胞製品を得ることができる。この細胞製品は好都合には凍結保存により保存することができ、凍結保存細胞製品は容易に輸送でき、要時に送達することができる。よって、投与に好適な細胞製品は、要時処置のために即利用可能である。さらに、本方法により得られる細胞製品の凍結保存は、細胞製品の全出荷試験を行い、細胞製品の投与前にそれらの結果を得ることを可能とする。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、(d)MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、対象に投与するのに好適な凍結保存培地に再懸濁させること;および(e)MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存することを含んでなり得る。
よって、さらなる側面において、本発明は、MSCからMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ること;
(b)MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;
(c)前記MSC由来細胞を第2の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ること;
(d)前記MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞(工程(c)のもの)を対象に投与するのに好適な凍結保存培地に再懸濁させること;ならびに
(e)前記MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞(工程(d)のもの)を凍結保存すること
を含んでなる方法に関する。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、(d)MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を臨床濃度で対象に投与するのに好適な凍結保存培地に再懸濁させること;および(e)前記MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存することを含んでなり得る。このような臨床濃度は有利には、本方法により得られたMSC由来軟骨骨形成系譜細胞を、さらなる希釈または濃縮工程無く、または投与前のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の付加的な洗浄工程無く、そのまま対象に投与することを可能とする。
特定の実施形態において、本明細書に教示されるような方法は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存し、それにより、投与に好適な細胞製品を得ることを含んでなり得る。投与に好適な細胞製品は、投与前の付加的な洗浄工程無く、そのままそれを必要とする対象に送達され得る。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、工程(d)において凍結保存培地に約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で再懸濁される。例えば、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、工程(d)において凍結保存培地に約1×107細胞/ml〜約8×107細胞/ml、約1×107細胞/ml〜約6×107細胞/ml、または約2×107細胞/ml〜約5×107細胞/mlの濃度で再懸濁される。好ましくは、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、工程(d)において凍結保存培地に約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で再懸濁される。
特定の実施形態において、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を約1×107細胞/mlおよび約1×108細胞/mlの濃度で含んでなる。例えば、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を約1×107細胞/ml〜約8×107細胞/ml、約1×107細胞/ml〜約6×107細胞/ml、または約2×107細胞/ml〜約5×107細胞/mlの濃度で含んでなる。好ましくは、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で含んでなる。
特定の実施形態において、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存培地に約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で含んでなる。例えば、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存培地に約1×107細胞/ml〜約8×107細胞/ml、約1×107細胞/ml〜約6×107細胞/ml、または約2×107細胞/ml〜約5×107細胞/mlの濃度で含んでなる。好ましくは、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存培地に約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で含んでなる。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、凍結保存培地は、ベンゾピランなどの抗酸化化合物を含んでなり得る。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、凍結保存培地は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)、アデノシン、ポリペプチド、ベンゾピラン、またはそれらの組合せを含んでなり得る。本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、凍結保存培地は、DMSO、HSA、アデノシン、(ポリ)ペプチド、抗酸化化合物、またはそれらの組合せを含んでなり得る。このような凍結保存培地は有利には、対象に投与する前のMSC由来軟骨骨形成系譜細胞の付加的洗浄工程無く、本方法により得られた軟骨骨形成系譜のMSC由来細胞を投与することを可能とする。
特定の実施形態において、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、ポリペプチド、ベンゾピラン、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地に、約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で含んでなる。例えば、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、ポリペプチド、ベンゾピラン、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地に、約1×107細胞/ml〜約8×107細胞/ml、約1×107細胞/ml〜約6×107細胞/ml、または約2×107細胞/ml〜約5×107細胞/mlの濃度で含んでなる。好ましくは、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、ポリペプチド、ベンゾピラン、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地に、約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で含んでなる。
特定の実施形態において、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、(ポリ)ペプチド、抗酸化化合物、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地中、約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で含んでなる。例えば、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、(ポリ)ペプチド、抗酸化化合物、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地に、約1×107細胞/ml〜約8×107細胞/ml、約1×107細胞/ml〜約6×107細胞/ml、または約2×107細胞/ml〜約5×107細胞/mlの濃度で含んでなる。好ましくは、投与に好適な細胞製品は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、(ポリ)ペプチド、抗酸化化合物、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地を、約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で含んでなる。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、凍結保存培地は、ヌクレオシド(例えば、アデノシン)、糖(例えば、デキストラン−40、デキストロース、スクロース、マンニトール、ラクトビオン酸)、トリペプチド(例えば、L−グルタチオン)、バッファー(例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’ −(2−エタンスルホン酸))、塩(例えば、水酸化ナトリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、リン酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)およびDMSOを含んでなる組成物であり得る。市販の凍結保存培地は、CryoStor(登録商標)CS10細胞凍結保存培地(C2874、Merck KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)である。他の例は、CryoStor(登録商標)CS5、CS2またはCSB細胞凍結保存培地(Merck KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)である。
特定の実施形態において、凍結保存培地は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも5%、または少なくとも10%のDMSOを含んでなり得る。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、凍結保存培地は、ヌクレオシド(例えば、アデノシン)、糖(例えば、デキストラン−40、デキストロース、スクロース、マンニトール、ラクトビオン酸)、トリペプチド(例えば、L−グルタチオン)、バッファー(例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’ −(2−エタンスルホン酸))、塩(例えば、水酸化ナトリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、リン酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)およびベンゾピラン(例えば、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸)を含んでなる組成物であり得る。市販の凍結保存培地は、HypoThermosol(登録商標)FRS Preservation溶液(H4416、Merck KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)である。
用語「Trolox」または「6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸」は、互換的に使用され得る。
特定の実施形態において、凍結保存培地は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも5%、または少なくとも10%のベンゾピランを含んでなり得る。特定の実施形態において、凍結保存培地は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも5%、または少なくとも10%の6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を含んでなり得る。
本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(a)において約13日〜約15日間、および工程(b)において約8日〜約12日間培養され得る。本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(a)において約13日〜約15日間、および工程(c)において約10日〜約14日間培養され得る。本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)において約8日〜約12日間、および工程(c)において約10日〜約14日間培養され得る。本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(a)において約13日〜約15日間、工程(b)において約8日〜約12日間、および工程(c)において約10日〜約14日間培養され得る。
本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(a)において約14日間、および工程(b)において約10日間培養され得る。本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(a)において約14日間、および工程(c)において約12日間培養され得る。本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)において約10日間、および工程(c)において約12日間培養され得る。本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(a)において約14日間、工程(b)において約10日間、および工程(c)において約12日間培養され得る。
本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてさらなる培養のために3×102〜1×103細胞/cm2の密度で播種され、さらに工程(c)において3×102〜1×103細胞/cm2の密度で培養され得る。
本明細書に教示されるような方法の特定の実施形態において、MSC由来細胞は、工程(b)においてさらなる培養のために3×102〜8×102細胞/cm2の密度で播種され、さらに工程(c)において3×102〜8×102細胞/cm2の密度で培養され得る。
さらなる側面において、本発明は、本明細書に定義されるような方法により得ることができるまたは得られたMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団を提供する。
「MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団」または「MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞」という記載は、本明細書では互換的に使用され得る。
用語「集団」は、本明細書で使用する場合、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞などの所望の細胞種の細胞の実質的に純粋(すなわち、主としてそれからなる)かつ均質な群に関する。
さらなる側面は、MSCのin vitroまたはex vivo拡大培養により得ることができるまたは得られたMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団に関し、それにより、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の少なくとも90%が25μm(D90≦25μm)以下の直径を有し、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の多くても1%が35μmを超える直径を有する。MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞集団の特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、本明細書に定義されるような方法により得ることができるまたは得られる。
実施例の節において示されるように、本明細書に教示されるような方法は、先に記載されていたMSC由来細胞よりも特に、小さい、およびより均質な大きさなどの、より優れた特性を有する、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞、またはそのようなものを含んでなる集団をもたらす。本明細書に記載されるような方法により得ることができるより小さく、より均質な大きさのMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、向上した移植特性を有する細胞を形成する。より詳しくは、本明細書に記載されるような方法により得ることができるより小さく、より均質な大きさのMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、これらの細胞を、とりわけ、良好なin vivo安全性プロフィールおよび/または注射針通過性を与えることによって肺塞栓および梗塞のリスクを軽減または排除することにより、あらゆる投与経路および特に、血管内投与に好適とする。さらに、本明細書に記載されるような方法により得ることができるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、調整可能かつ高い細胞濃度を限定された投与容量で部位に送達することを可能とする。
特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の平均直径は、25μm未満、24μm未満、23μm未満、22μm未満、21μm未満、または20μm未満である。好ましくは、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の平均直径は20μm未満である。
用語「懸濁液」および「細胞懸濁液」は一般に、液相に分散されたMSC由来細胞、特に、MSC由来の生細胞を指す。
特定の実施形態において、懸濁液中の、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の平均直径は、10μmを超えるか、11μmを超えるか、12μmを超えるか、13μmを超えるか、14μmを超えるか、または15μmを超える。
特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の平均直径は、10μm〜25μm、好ましくは15μm〜20μmである。
特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の少なくとも90%は、25μm以下(D90≦25μm)、24μm以下(D90≦24μm)、23μm以下(D90≦23μm)、22μm以下(D90≦22μm)、21μm以下(D90≦21μm)、または20μm以下(D90≦20μm)、好ましくは25μm以下(D90≦25μm)の直径を有する。
特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、25μm以下(D90≦25μm)のD90を有し、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の多くても1%が35μmを超える直径を有する。特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、24μm以下(D90≦24μm)、23μm以下(D90≦23μm)、22μm以下(D90≦22μm)、21μm以下(D90≦21μm)、または20μm以下(D90≦20μm)のD90を有し、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の多くても1%が35μmを超える直径を有する。
特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、25μm以下(D90≦25μm)のD90を有し、懸濁液中の多くても1%のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞が30μmを超える直径を有する。特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、24μm以下(D90≦24μm)、23μm以下(D90≦23μm)、22μm以下(D90≦22μm)、21μm以下(D90≦21μm)、または20μm以下(D90≦20μm)のD90を有し、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の多くても1%が30μmを超える直径を有する。
特定の実施形態において、懸濁液中のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、約25μm〜約10μm(10μm≦D90≦25μm)、約24μm〜約10μm(10μm≦D90≦24μm)、約23μm〜約10μm(10μm≦D90≦23μm)、約22μm〜約10μm(10μm≦D90≦22μm)、約21μm〜約10μm(10μm≦D90≦21μm)または約20μm〜約10μm(10μm≦D90≦20μm)、好ましくは約25μm〜約10μm(10μm≦D90≦25μm)のD90を有する。
細胞の直径は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、デジタル顕微鏡により、画像解析用ソフトウエア(例えば、Motic Image Plus(登録商標)2.02)を伴って決定することができる。平均細胞直径は、本明細書で言及する場合、自由に浮遊している非付着状態の細胞、従って、懸濁液中の細胞の直径に基づいて決定されるべきでえある。細胞は好ましくは、透明な、非毒性、等張バッファー、例えば、PBS、および場合により、生細胞と死細胞を識別するための色素、例えば、トリパンブルーを含んでなる溶液に懸濁させる。好ましくは、統計的に有意な分析を考慮するためには、少なくとも100個の細胞が測定されるべきである。
さらなる側面は、本明細書に定義されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞またはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団を含んでなる組成物に関する。特定の実施形態において、これらの組成物は、1以上の他の成分をさらに含んでなり得る。例えば、細胞の生存力を維持または増進し得る成分を含み得る。例として、限定されるものではないが、このような成分は、実質的等張条件を確保するための塩、pH安定剤、例えば、バッファー系(例えば、実質的中性pHを確保するためには、例えば、リン酸バッファー系または炭酸バッファー系)、担体タンパク質、例えば、アルブミン、基本培地および/もしくは培地添加剤、血清もしくは血漿、栄養素、炭水化物源、保存剤、安定剤、酸化防止剤または当業者に周知の他の材料を含む培地を含み得る。また、各MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を上記のような1以上の付加的成分と混合することにより前記組成物を生産する方法も開示される。これらの組成物は例えば液体であってよく、または半固体もしくは固体であってもよい(例えば、凍結組成物であってもよく、またはゲルとして存在してもよく、または固相支持体もしくは足場上に存在してもよい)。
用語「組成物」、「処方物」、または「調製物」は、本明細書では互換的に使用され得る。
特定の実施形態において、組成物は、本明細書に定義されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞、および場合により1以上の薬学上許容可能な賦形剤を含んでなる医薬処方物であり得る。
よって、さらなる側面において、本発明は、本明細書に定義されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団を含んでなる医薬処方物を提供する。
用語「薬学上許容可能な」とは、本明細書で使用する場合、当技術分野と矛盾なく、医薬処方物の他の成分と適合し、そのレシピエントに有害でないことを意味する。
本明細書で使用する場合、「担体」または「賦形剤」としては、あらゆる溶媒、希釈剤、バッファー(例えば、中性緩衝生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)、可溶化剤、コロイド、分散媒、ビヒクル、増量剤、キレート剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、アミノ酸(例えば、グリシン)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、芳香剤、増粘剤、デポ効果を達成するための薬剤、コーティング剤、抗真菌剤、保存剤、安定剤、酸化防止剤、張度調節剤、吸収遅延剤などを含む。医薬活性物質に関するこのような培地および薬剤の使用は当技術分野で周知である。このような材料は非毒性であるべきで、細胞の活性に干渉すべきでない。
担体もしくは賦形剤または他の材料の正確な性質は、投与経路によって異なる。例えば、組成物は、発熱物質不含で、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形態であり得る。医学処方物の一般原則については、Cell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy, G. Morstyn & W. Sheridan編, Cambridge University Press, 1996;およびHematopoietic Stem Cell Therapy, E. D. Ball, J. Lister & P. Law, Churchill Livingstone, 2000を参照されたい。
液体医薬処方物は一般に、水または薬学上許容可能な水溶液などの液体担体を含む。例えば、生理食塩水、組織または細胞培養培地、デキストロースまたは他の糖類溶液またはグリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールを含み得る。
組成物は、1以上の細胞保護分子、細胞再生分子、増殖因子、抗アポトーシス因子または細胞において遺伝子発現を調節する因子を含み得る。このような物質は、細胞をその環境に非依存性とし得る。
このような医薬処方物は、その中の細胞の生存力を確保するさらなる成分を含有し得る。例えば、組成物は、所望のpH、より通常には、ほぼ中性のpHを達成するために好適なバッファー系(例えば、リン酸バッファー系または炭酸バッファー系)を含んでなり得、また、浸透圧ストレスを防ぐために細胞に対して等張条件を確保するために十分な塩を含んでなり得る。例えば、これらの目的に好適な溶液は、当技術分野で知られているようなリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、リンゲル注射液または乳酸加リンゲル注射液であり得る。さらに、組成物は、細胞の生存力を高め得る担体タンパク質、例えば、アルブミン(例えば、ウシまたはヒトアルブミン)を含んでなり得る。
さらに好適には、薬学上許容可能な担体または添加剤は当業者に周知であり、例えば、コラーゲンまたはゼラチンなどのタンパク質、デンプン、多糖、糖(デキストロース、グルコースおよびスクロース)などの炭水化物、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはカルシウムのようなセルロース誘導体、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルファ化デンプン、ペクチン寒天、カラギーナン、粘土、親水性ガム(アカシアガム、グアーガム、アラビアガムおよびキサンタンガム)、アルギン酸、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、ポリグリコール酸およびポリ乳酸、デキストラン、ペクチン、水溶性アクリルポリマーまたはポリビニルピロリドンなどの合成ポリマー、プロテオグリカン、リン酸カルシウムなどから選択され得る。
所望により、細胞調製物は、組織再生の改善をもたらす支持体、足場、基質または材料上に投与され得る。例えば、この材料は、粒状セラミック、またはゼラチン、コラーゲン、もしくはフィブリノゲンなどの生体高分子であり得る。多孔性基質は、標準的な技術に従って合成することができる(例えば、Mikos et al., Biomaterials 14: 323, 1993; Mikos et al., Polymer 35:1068, 1994; Cook et al., J. Biomed. Mater. Res. 35:513, 1997)。このような支持体、足場、基質または材料は、生分解性であっても非生分解性であってもよい。よって、細胞は、移植用に提供するため多孔性または非多孔性基質などの好適な基質に移行され、および/または好適な基質上で培養され得る。例えば、要すれば、培養ディッシュ内で増殖または分化された細胞を、それらに分化過程を増大および/または継続させるために、固相支持体を本発明の液体栄養培地中でインキュベートすることにより、三次元固相支持体へ移行させることができる。細胞は、例えば、細胞を含有する液体懸濁液を支持体に含浸させることにより、三次元固相支持体へ移行させることができる。この方法で得られた含浸済みの支持体を対象に移植することができる。このような含浸済みの支持体はまた、最終的に移植する前に液体培養培地中に浸漬することによって再培養することもできる。三次元固相支持体は、それをヒトに移植可能とするために生体適合性である必要がある。三次元固相支持体は生分解性であっても非生分解性であってもよい。
細胞または細胞集団は、それらが生存、成長、増殖および/または骨芽細胞などの所望の細胞種へ分化可能な様式で投与することができる。細胞または細胞集団は、骨欠損などの意図した器官内に移植してもよいし、または移動させてもよいし、植え付けてもよい。細胞または細胞集団の他の場所への植え付けも想定され得る。
ある実施形態において、上記で定義されるような医薬細胞調製物は、液体組成物の形態で投与してもよい。複数の実施形態において、細胞またはそれらを含んでなる医薬処方物は、全身的に、局所的に、器官内に、器官機能不全もしくは病変部位にまたは組織病変部位に投与することができる。
好ましくは、医薬処方物は、治療上有効な量の所望の細胞を含んでなり得る。用語「治療上有効な量」は、研究者、獣医、医師またはその他の臨床家により求められる、組織、系、動物またはヒトにおいて生物学的または医学的応答を惹起し得る、および特に、治療される疾患または病態の局部的または全身的症状または特徴の1以上を予防または緩和し得る量を指す。適当な治療上有効な量は、所望の細胞の性質、病態および重症度、ならびに対象の年齢、大きさ、および状態を考慮して資格のある医師によって決定され得る。
また、本発明の細胞を上記のような1以上の付加的成分ならびに上記のような1以上の医薬賦形剤と混合することにより、前記医薬処方物を生産する方法も提供される。
ある実施形態において、上記の定義のような医薬処方物は、液体または粘稠な組成物の形態で投与してもよい。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、医薬処方物は、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子の組合せ、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ヒアルロン酸もしくはその誘導体、キトサン、ポリL−リシン、ゼラチン、コラーゲン、オステオネクチン、フィブリノゲン、オステオカルシン、またはそれらの組合せなどの骨誘導特性を有する成分をさらに含んでなり得る。
用語「骨誘導性」は、本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞などの細胞が付着し、移動し、成長し、新しい骨を産生する足場として機能する成分の能力を指す。
前述のように、本明細書に教示されるような医薬処方物は、骨創傷および骨欠損の修復に有用な成分を含んでなり得る。医薬処方物は、骨誘導特性を有する足場または基質を含んでなり得る。医薬処方物は、組成物を骨形成性ならびに骨誘導性(osteo-conductive)および骨誘導性(osteo-inductive)とするために脱石灰化した骨基質(DBM)または他の基質と組み合わせることができる。自己骨髄細胞を同種異系DBMとともに使用する類似の方法が良好な結果をもたらしている(Connolly et al. 1995. Clin Orthop 313:8-18)。
本明細書に教示されるような医薬処方物は、補足的生活性因子または骨誘導性(osteo-inductive)タンパク質、例えば、BMP−2、BMP−7またはBMP−4などの骨形成因子、または他の任意の増殖因子をさらに含んでよく、またはそれらと併用投与してよい。他の可能性のある併用成分としては、骨再生を補助するために好適なカルシウムまたはリン酸塩の無機供給源が含まれる(WO00/07639)。所望により、細胞調製物は、組織再生の改善を提供するために担体基質または材料に投与することができる。例えば、この材料は、ヒドロゲル、またはゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸もしくはその誘導体、オステオネクチン、フィブリノゲン、またはオステオカルシンなどの生体高分子であり得る。生体材料は、標準的な技術に従って合成され得る(例えば、Mikos et al., Biomaterials 14:323, 1993; Mikos et al., Polymer 35:1068, 1994; Cook et al., J. Biomed. Mater. Res. 35:513, 1997)。
また、本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞または本明細書に教示されるような医薬処方物を例えば、全身的に、例えば、注射により対象に投与するための手術用具または装置を含んでなり、さらに本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞または本明細書に教示されるような医薬処方物も含んでなる構成またはパーツキットも開示される。
別の側面において、本発明は、薬剤として使用するための、本明細書に定義されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団、または本明細書に定義されるような医薬処方物を提供する。
別の側面において、本発明は、軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする対象の治療において使用するための、本明細書に定義されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団、または本明細書に定義されるような医薬処方物を提供する。
関連の側面において、本発明は、軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする対象を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量の本明細書で定義されるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞もしくMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団、またはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞もしくはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団を含んでなる医薬処方物を投与することを含んでなる方法を提供する。関連の側面において、本発明は、軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする対象の治療のための薬剤の製造のための、上記に定義されるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞もしくはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団、またはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞もしくはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団を含んでなる医薬処方物の使用を提供する。
本明細書で使用する場合、用語「治療する」または「治療」は、治療的処置と、目的が望まない生理学的変化または障害を予防することまたは緩徐化する(減弱する)ことである予防または回避的手段の両方を指す。有益なまたは所望の臨床結果としては、限定されるものではないが、症状の緩和、疾患の程度の低減、疾患の安定(すなわち、非増悪)状態、疾患の進行および合併症の発生の遅延または緩徐化、病状の改善または軽減が含まれる。「治療」は、治療を受けなかった場合に期待される生存と比較した生存の延長も意味し得る。
用語「軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする対象」は、本明細書で使用する場合、所与の病態、好ましくは、本明細書に定義されるような病態または疾患の治療から利益を得ると思われる哺乳動物またはヒト対象などの対象を含む。このような対象には一般に、限定されるものではないが、前記病態が診断された対象、前記病態の罹患もしくは発症傾向がある対象および/または前記病態が予防される対象が含まれる。
用語「移植」または「細胞移植」は、その通常の意味を持ち、特に、対象への細胞の投与を指す。用語「細胞移植」は、「細胞療法」と互換的に使用することができる。細胞移植は、当技術分野で公知のいずれの技術によって行ってもよい。例として、限定されるものではないが、細胞は、対象への注入により移植され得る。一般に、細胞注入は、非経口的、例えば、血管内、皮下、皮内、または筋肉内、好ましくは、血管内に実施され得る。細胞は、例えば、限定されるものではないが、全身的に、局所的にまたは病変部位に投与され得る。特定の適用、標的組織、治療目的または細胞種によって、投与経路、ならびに処方、濃度などに関して相応に調整を行うことができることは明らかであり得る。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団または医薬処方物は、経皮、骨内、関節内、椎間または血管内投与に好適であり得る。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団または医薬処方物は、骨欠損部位に投与するために好適であり得る。
均質かつ小さな細胞サイズの本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、前記細胞を対象に静脈内投与する際に急性毒性の軽減または排除をもたらす。よって、本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、血管内または経皮投与に特に好適である。
よって、特定の実施形態において、上記に定義されるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞またはMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団または医薬処方物は、軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする前記対象に経皮または血管内投与され得る。
さらに、本発明者らは、本明細書に教示されるような方法により得られるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は骨形成特性を有すること見出した。
よって、特定の実施形態において、軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする対象は、筋骨格疾患を有する対象であり得る。
用語「筋骨格疾患」は、本明細書で使用する場合、その治療が疾患を有する対象への本医薬処方物の投与から利益が得られるいずれのタイプの骨疾患、筋肉疾患、関節疾患、または軟骨異栄養症も指す。特に、このような疾患は、例えば、骨および/もしくは軟骨形成の減少または過剰な骨および/もしくは軟骨吸収、骨に存在する骨芽細胞または骨細胞および/もしくは軟骨に存在する軟骨芽細胞は軟骨細胞の数、生存力または機能の低下、対象における骨量および/または軟骨量の減少、骨の脆化、骨強度または弾力性の低下などを特徴とし得る。
筋骨格疾患の限定されない例としては、例えば原発性、閉経後、老年性、コルチコイド誘発性、ビスホスホネート誘発性、および放射線療法誘発性などの任意のタイプの骨粗鬆症またはオステオペニア;任意の続発性、一部位または多部位骨壊死;例えば、癒合不能、変形癒合、癒合遅延骨折または圧迫、顎顔面骨折などの任意のタイプの骨折;骨固定(例えば、脊椎固定および再建)を必要とする病態;先天性骨欠損;例えば外傷性損傷または癌手術後の骨再建、および頭蓋顔面骨再建;外傷性関節炎、限局性軟骨および/または関節欠陥、限局性変形性関節炎;変形性関節症、変形性関節炎、変形性膝関節症、および変形性股関節症;骨形成不全症;溶骨性骨癌;パジェット病;内分泌障害;低リン酸血症;低カルシウム血症;腎性骨異栄養症;骨軟化症;無形成骨症、副甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、続発性副甲状腺機能亢進症;歯周病;ゴーハム病(Gorham-Stout disease)およびマッキューン・オルブライト症候群;関節リウマチ;強直性脊椎炎を含む脊椎関節症、乾癬性関節炎、腸疾患性関節症、および未分化脊椎関節炎および反応性関節炎;全身性紅斑性狼瘡および関連症候群;硬皮症および関連障害;シェーグレン症候群;巨細胞性動脈炎(ホートン病)、高安動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、ANCA関連血管炎(例えば、ウェゲナー肉芽腫、顕微鏡的多発性血管炎、およびチャーグ−ストラウス症候群)、ベーチェット症候群、およびその他の多発性動脈炎および関連障害(例えば、結節性多発性動脈炎、コーガン症候群、およびバージャー病)を含む全身性血管炎;アミロイドーシスおよびサルコイドーシスを含む他の全身性炎症性疾患を伴う関節炎;通風、ピロリン酸カルシウム二水和物病、リン酸カルシウムまたはシュウ酸カルシウム結晶の関節沈着に関連する障害または症候群を含む結晶性関節症;軟骨石灰沈着症および神経因性関節症;フェルティー症候群およびライター症候群;ライム病およびリウマチ熱といった局部性または全身性障害を含み得る。
特定の実施形態において、軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする対象は、骨関連障害を有する対象であり得る。
よって、用語「骨関連障害」は、本明細書で使用する場合、その治療が障害を有する対象への軟骨骨芽細胞系譜細胞、例えば、骨軟骨前駆細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞の移植から利益を受け得るいずれのタイプの骨疾患にも関する。特に、このような障害は、骨形成の減少または過度の骨吸収、骨に存在する骨芽細胞または骨細胞の数、生存力または機能の低下、対象における骨量の減少、骨の脆化、骨強度または弾力性の低下などを特徴とし得る。
例として、限定されるものではないが、本発明の方法により得られるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞(例えば、骨芽細胞系譜細胞)の移植から利益を受け得る骨関連障害としては、例えば原発性、閉経後、老年性、コルチコイド誘発性などの任意のタイプの骨粗鬆症またはオステオペニア;任意の続発性、一部位または多部位骨壊死;任意のタイプの骨折、例えば、癒合不能、変形癒合、癒合遅延骨折または圧迫などの任意のタイプの骨折;骨固定(例えば、脊椎固定および再建)を必要とする病態;例えば外傷性損傷または癌手術後の骨再建、および頭蓋顔面骨再建、骨形成不全症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌障害、低リン酸血症、低カルシウム血症、腎性骨異栄養症、骨軟化症、無形成骨症、関節リウマチ、副甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、続発性副甲状腺機能亢進症、歯周病、ゴーハム病およびマッキューン・オルブライト症候群といった局部性または全身性障害を含み得る。
本明細書に記載のMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団および医薬処方物は、単独で使用しても、または各障害に関して知られている療法もしくは活性化合物のいずれかと併用してもよい。他所に記載されているように、投与は同時であっても、または任意の順序で逐次であってもよい。
細胞が異種(すなわち、非自己、非同種または非同種異系)源に由来する場合、併用免疫抑制療法、例えば、シクロスポリンまたはタクロリムス(FK506)などの免疫抑制薬が一般に投与され得る。
細胞の投与量は、治療される対象によって異なる。好ましい実施形態において、細胞の投与量は102〜1010または102〜109、または103〜1010または103〜109、または104〜1010または104〜109、例えば、104〜108、または105〜107であり、例えば、約1×105、約5×105、約1×106、約5×106、約1×107、約5×107、約1×108、約5×108、約1×109、約2×109、約3×109、約4×109、約5×109、約6×109、約7×109、約8×109、約9×109または約1×1010細胞がヒト対象に投与可能である。さらなる実施形態において、106〜108細胞/kg体重または1×107〜9×107細胞/kg体重、例えば、約1×107、約2×107、約3×107、約4×107、約5×107、約6×107、約7×107、約8×107、約9×107または約1×108細胞/kg体重がヒト対象に投与可能である。例えば、このような細胞数またはこのような細胞数/kg体重は、特に、対象に投与される細胞総数を指し、この投与は好適には、1日以上にわたって(例えば、1、2、3、4もしくは5日またはそれを超える日数にわたって)投与される1用量以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10用量またはそれを超える用量)に分割され得る。しかしながら、治療上有効な用量の正確な決定は、それらの大きさ、年齢、組織損傷の大きさ、および損傷が発生してからの時間を含む、各患者の個々の因子に基づくものであり得、当業者ならば本開示および当技術分野の知識から容易に確認することができる。
好適には、投与される医薬処方物において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、約104細胞/ml〜約109細胞/ml、好ましくは約105細胞/ml〜約108細胞/ml、さらにより好ましくは約1×106細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で存在し得る。
特定の実施形態において、投与される医薬処方物は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で含んでなる。特定の実施形態において、投与される医薬処方物は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で含んでなる。
特定の実施形態において、投与される医薬処方物は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存培地中に約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で含んでなる。特定の実施形態において、投与される医薬処方物は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存培地中に約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で含んでなる。
特定の実施形態において、投与される医薬処方物は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、ポリペプチド、ベンゾピラン、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地中に約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/mlの濃度で含んでなる。特定の実施形態において、投与される医薬処方物は、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を、DMSO、HSA、アデノシン、ポリペプチド、ベンゾピラン、またはそれらの組合せを含んでなる凍結保存培地中に約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で含んでなる。
本明細書に教示されるような方法、使用、または細胞製品の特定の実施形態において、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞は、例えば、投与される医薬処方物中に、約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/ml、好ましくは約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で存在してよい。
本明細書に教示されるようなMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞サイズの縮小は、調整可能かつ/または高い細胞濃度を可能とする。よって、組成物が液体組成物である場合、MSC由来細胞の移植を必要とする対象に投与される、本明細書に教示されるような方法により得られるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を含んでなる組成物の容量は、他の方法により得られるMSC由来細胞を含んでなる組成物の容量よりも少ない。
本願はまた、以下の記載に示されるような側面および実施形態を提供する。
記載1 間葉系幹細胞(MSC)からMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)およびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、間葉系幹細胞(MSC)由来細胞を得ること;
(b)前記MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;ならびに
(c)前記MSC由来細胞を第2の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ること
を含んでなり、
前記MSC由来細胞は工程(b)でx日の期間培養され、ここで、x日は前記MSC由来細胞の少なくとも20%が増殖している最終日である、方法。
記載2 前記MSC由来細胞が工程(b)において約8日〜約12日間、好ましくは、約10日間培養される、記載1に記載の方法。
記載3 前記MSC由来細胞が工程(a)において約13日〜約15日間、好ましくは、約14日間培養される、記載1または2に記載の方法。
記載4 前記MSC由来細胞が工程(c)において約10日〜約14日間、好ましくは、約12日間培養される、記載1〜3のいずれか1つに記載の方法。
記載5 前記増殖しているMSC由来細胞が細胞周期のS期、G2期またはM期にある、記載1〜4のいずれか1つに記載の方法。
記載6 MSCからMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ること;
(b)前記MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;ならびに
(c)前記MSC由来細胞を第2の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ること
を含んでなり、
前記MSC由来細胞は工程(b)でさらに培養するために3×102〜1×103細胞/cm2の密度、好ましくは、3×102〜8×102細胞/cm2の密度で播種される、方法。
記載7 前記MSC由来細胞が工程(c)でさらに培養するために3×102〜1×103細胞/cm2の密度、好ましくは、3×102〜8×102細胞/cm2の密度で播種される、記載6に記載の方法。
記載8 MSCからMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法であって、
(a)対象の生体サンプルから回収されたMSCを、FGF−2、TGFβおよびヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体を少なくとも0.01IU/mlの濃度で含んでなる培養培地で培養し、それにより、MSC由来細胞を得ること;
(b)前記MSC由来細胞を第1の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養すること;
(c)前記MSC由来細胞を第2の時間、継代培養し、さらに前記MSC由来細胞を(a)に定義される培地で培養し、それにより、MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を得ること;
(d)前記MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を対象に投与するのに好適な凍結保存培地に再懸濁させること;ならびに
(e)前記MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞を凍結保存すること
を含んでなる、方法。
記載9 前記MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞が工程(d)において凍結保存培地に約1×107/ml〜約1×108/mlの濃度、好ましくは、約2×107/ml〜約4×107/mlの濃度で再懸濁される、記載8に記載の方法。
記載10 前記凍結保存培地がジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)、アデノシン、ポリペプチド、ベンゾピラン、またはそれらの組合せを含んでなる、記載8または9に記載の方法。
記載11 TGFβがTGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、およびそれらの混合物からなる群から選択される;好ましくは、TGFβがTGFβ1である、記載1〜10のいずれか一1つに記載の方法。
記載12 ヘパリンまたはその誘導体もしくは類似体の濃度が約0.1IU/mlであり;かつ/または
ヘパリンまたはヘパリン誘導体もしくはその類似体が非分画ヘパリン(UFH);エノキサパリン、ダルテパリン、ナドロパリン、チンザパリン、セルトパリン、レビパリン、アルデパリン、パルナパリン、ベミパリン、またはそれらの混合物などの低分子量ヘパリン(LMWH);ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、アカラン硫酸、ケラタン硫酸、またはそれらの混合物、例えばダナパロイドなどのヘパリノイド;ヘパリン塩;ヘパリノイド塩;ヘパリン断片;ヘパリノイド断片;およびそれらの混合物からなる群から選択される、
記載1〜11のいずれか1つに記載の方法。
記載13 前記培地が血漿、血清またはその代替物のうち1以上をさらに含んでなる場合など、前記MSCまたはMSC由来細胞がさらなる接触を受ける、記載1〜12のいずれか1つに記載の方法。
記載14 前記対象がヒト対象である、記載1〜13のいずれか1つに記載の方法。
記載15 記載1〜14のいずれか1つに記載の方法により得ることができるまたは得られたMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団。
記載16 懸濁液中のMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の少なくとも90%が25μm以下の直径を有し(D90≦25μm)、かつ、懸濁液中のMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞で35μmを超える直径を有するものは多くても1%である、MSCのin vitroまたはex vivo拡大培養により得ることができるまたは得られたMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団。
記載17 MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞が記載1〜14のいずれか1つに記載の方法により得ることができるまたは得られる、記載16に記載のMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団。
記載18 記載15〜17のいずれか1つに記載のMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団を含んでなる、医薬処方物。
記載19 リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子の組合せ、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ヒアルロン酸もしくはその誘導体、キトサン、ポリL−リシン、ゼラチン、コラーゲン、オステオネクチン、フィブリノゲン、オステオカルシン、またはそれらの組合せなどの骨誘導特性を有する成分をさらに含んでなる、記載18に記載の医薬処方物。
記載20 薬剤として使用するための、好ましくは、軟骨骨芽細胞系譜細胞の移植を必要とする対象の治療において使用するための、記載15〜17のいずれか一項に記載のMSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団、または記載18もしくは19に記載の医薬処方物。
記載21 前記MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞が約1×107細胞/ml〜約1×108細胞/ml、好ましくは、約2×107細胞/ml〜約4×107細胞/mlの濃度で存在し;および/または
前記MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団もしくは医薬処方物が経皮投与、骨内投与、関節内投与、椎間投与もしくは血管内投与に好適であり;
前記MSC由来の軟骨骨芽細胞系譜細胞の集団または医薬処方物が骨欠損部位における投与に好適である、
記載20に記載の使用のための集団または医薬処方物。
本発明をその特定の実施形態に関して説明してきたが、以上の説明に照らせば当業者には多くの代替、改変、および変形が明らかであることは明白である。よって、以下のようなこのような代替、改変、および変形は総て、添付の特許請求の範囲の趣旨および広義の範囲に包含することが意図される。
本明細書に開示される本発明の側面および実施形態は、以下の限定されない例によりさらに裏づけられる。
実施例1:本発明の実施形態によるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞を得るための方法
5%OctaPlasLG(登録商標)(Octapharma)、0.1UI/mlヘパリン(LEO Pharma)、FGF−b(CellGenix)およびTGFβ−1(Humanzyme)を添加した従来の培養培地を培養培地として使用した。
健康なボランティアドナーの腸骨稜から20〜60mlのヒト骨髄(BM)穿刺液を得た。採取後、骨髄白血球を計数し、培養培地に50,000細胞/cm2の密度で播種し、5%CO2を含有する加湿インキュベーターにて37℃でインキュベートした。細胞播種の4日後に、非接着細胞を除去し、培地を培養培地に更新した。播種の7日後および11日後に、培養培地の半分を除去し、増殖因子を更新するために新鮮な培地に置き換えた。細胞を一次培養として14日間培養した。14日目に、細胞を、Trypzean(Lonza)を用いて剥離し、旋回撹拌し、ピペットで上下させることにより採取した(第1継代:P1)。中間細胞を凍結保存し(CryoStor(登録商標)CS10中)、液体窒素中で保存した。各細胞保存株は1名のドナーから供給し、ドナー間でプールは行わなかった。
次に、中間細胞を解凍し、二次培養として572細胞/cm2の密度で再播種した。細胞を二次培養として10日間培養した。24日目に、細胞を、Trypzean(Lonza)を用いて剥離し、旋回撹拌し、ピペットで上下させることにより採取した(第2継代:P2)。中間細胞を凍結保存し(CryoStor(登録商標)CS10中)、液体窒素中で保存した。
次に、中間細胞を解凍し、三次培養として572細胞/cm2の密度で再播種した。細胞を三次培養として10日間培養した。34日目に、細胞を、Trypzean(Lonza)を用いて剥離し、旋回撹拌し、ピペットで上下させることにより採取した(第3継代:P3)。最終細胞製品を得るために、細胞をOctaPlasLG(登録商標)に終濃度25×106細胞/mlで再懸濁させた。この細胞製品を本明細書では「細胞製品C−新鮮」と呼称する。
三次培養の終了時に、細胞をまた長期保存用に凍結保存した。そのために、細胞を所望の濃度(25×106細胞/ml)となるように凍結保存培地に再懸濁させた。次に、この細胞懸濁液をクライオチューブに移し、液体窒素中で保存した。この細胞製品を本明細書では「細胞製品C−凍結」または「骨形成細胞C凍結(保存)」と呼称し、「B−F細胞 C」とも略す。凍結保存培地は、次の通りであった。
CryoStor(登録商標)CS10(BioLife Solutions Inc.)、または
50%(v/v)CryoStor(登録商標)CS10(BioLife Solutions Inc.)および50%(v/v)ヒト血清アルブミン(Octapharma)、または
95%(v/v)CryoStor(登録商標)CS10(BioLife Solutions Inc.)および5%(v/v)ヒト血清アルブミン(Octapharma)、または
80%(v/v)Hypothermosol(登録商標)(BioLife Solutions Inc.)、10%(v/v)DMSO、および10%(v/v)ヒト血清アルブミン(Octapharma)。
比較例1:間葉系幹細胞およびMSC由来細胞を得るための従来技術の方法
従来技術による比較細胞製品およびそれらの製造方法を以下に記載する。
間葉系幹細胞
未分化MSCは、健康なボランティアドナーの腸骨稜からヒト骨髄(BM)穿刺液を得ることにより調製した。採取後、骨髄白血球を計数し、従来の培養培地に50,000細胞/cm2の密度で播種し、5%CO2を含有する加湿インキュベーターにて37℃でインキュベートした。24時間後、培養培地を除去し、細胞新鮮培養培地を加えた。培養培地は2〜3日毎に置き換えた。半分を超えるコロニーが集密度80%に達した際または数コロニーが集密度100%に達した際に、細胞を採取した(第1継代1:P1)。この第1継代時に、細胞をそのままCryoStor(登録商標)CS10(BioLife Solutions Inc.)中で凍結保存した。培養プロセスを終了させるために、MSCを解凍し、二次培養として572細胞/cm2で播種し、培養した。半分を超えるコロニーが集密度80%に達した際または数コロニーが集密度100%に達した際に、第2継代(P2)のMSCを得るために細胞を採取した。この細胞製品を本明細書では「MSC」と呼称する。
細胞製品A
5%Octaserum(50:50自己血清およびOctaPlasLG(登録商標)(Octapharma))、FGF−b(CellGenix)およびTGFβ−1(Humanzyme)を添加した従来の培養培地を培養培地として使用した。
凍結培地:80%従来培養培地、10%Octaserum(50:50自己血清およびOctaPlasLG(登録商標)(Octapharma))、10%DMSO。
健康なボランティアドナーの腸骨稜からヒトBM穿刺液を得ることにより、本明細書において「細胞製品A」と呼称されるin vitroで分化したMSC由来細胞を作製した。採取後、骨髄白血球を計数し、50,000細胞/cm2の密度で培養培地に播種し、5%CO2を含有する加湿インキュベーターにて37℃でインキュベートした。細胞播種の4日後に、非接着細胞を除去し、培地を培養培地に更新した。播種の7日後および11日後に、培養培地の半分を除去し、新鮮培地に置き換えた。細胞は一次培養として14日間培養した。14日目に、細胞を、Trypzean(Lonza)を用いて剥離し、旋回撹拌し、ピペットで上下させることにより採取した(第1継代:P1)。中間細胞を、CryoStor(登録商標)CS10(BioLife Solutions Inc.)または凍結培地中で凍結保存し、液体窒素中で保存した。
二次培養のために、細胞を解凍し、1144細胞/cm2の密度で再播種した。細胞を二次培養として14日間培養した。28日目に、細胞を、Trypzean(Lonza)を用いて剥離し、旋回撹拌し、ピペットで上下させることにより採取した(第2継代:P2)。最終細胞製品を得るために、細胞をOctaPlasLG(登録商標)に終濃度25×106細胞/mlで再懸濁させた。この細胞製品を本明細書では「細胞製品A」と呼称する。
細胞製品B
5%OctaPlasLG(登録商標)(Octapharma)、0.1UI/mlヘパリン(LEO Pharma)、FGF−b(CellGenix)およびTGFβ−1(Humanzyme)を添加した従来の培養培地を培養培地として使用した。
健康なボランティアドナーの腸骨稜からヒトBM穿刺液を得ることにより、in vitroで分化したMSC由来細胞を作製した。採取後、骨髄白血球を計数し、培養培地中に50,000細胞/cm2の密度で播種し、5%CO2を含有する加湿インキュベーターにて37℃でインキュベートした。細胞播種4日後に、非接着細胞を除去し、培地を培養培地に更新した。播種7日後および11日後に、培養培地の半分を除去し、増殖因子を更新するために新鮮培地と置き換えた。細胞を一次培養として14日間培養した。14日目に、細胞を、Trypzean(Lonza)を用いて剥離し、旋回撹拌し、ピペットで上下させることにより採取した(第1継代:P1)。中間細胞をCryoStor(登録商標)CS10(BioLife Solutions Inc.)中で凍結保存し、液体窒素中で保存した。
次に、中間細胞を解凍し、二次培養として286細胞/cm2の密度で再播種した。細胞を二次培養として14日間培養した。28日目に、細胞を、Trypzean(Lonza)を用いて剥離し、旋回撹拌し、ピペットで上下させることにより採取した(第2継代:P2)。最終細胞製品を得るために、細胞をOctaPlasLG(登録商標)に終濃度25×106細胞/mlで再懸濁させた。この細胞製品を本明細書では「細胞製品B」と呼称する。
実施例2:本発明の実施形態による方法により得られるMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞、ならびに従来技術方法により得られるMSCおよびMSC由来細胞のin vitro細胞特性評価
材料および方法
細胞
本発明を示す細胞製品(すなわち、細胞製品C新鮮および細胞製品C凍結)は、実施例1に記載されているように得た。比較細胞製品(すなわち、MSC、細胞製品Aおよび細胞製品B)は、比較例1に記載されているように得た。
細胞計数および生存率
細胞密度および生存率は、トリパンブルー排除アッセイを用いて決定した。採取後、細胞をトリパンブルー(0.4%、Lonza BioWhittaker(登録商標))で1:2希釈し、細胞生存率を、ビルケルチャンバー(Sigma−Aldrich(登録商標))および倒立顕微鏡(AE31、Motic(登録商標))を用いて分析した。細胞生存率はまた、アミノ−アクチノマイシンD(7−AAD、BD Biosciences(登録商標))、BD FACSCanto II(商標)およびBD FACSDiva(商標)ソフトウエア(Becton Dickinson(登録商標))を用いたフローサイトメトリーによっても分析した。採取後、50,000細胞を室温、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)−1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Lonza BioWhittaker(登録商標))中、暗所で、2.5μlの7−AADとともにインキュベートした。
フローサイトメトリー
上記の比較例1および実施例1に記載されているように得られた比較細胞製品(すなわち、MSCおよびMSC由来細胞:細胞製品AおよびB)ならびに本発明を示す細胞製品(すなわち、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞:細胞製品C)を採取し、細胞表面マーカーをフローサイトメトリー(BD FACSCanto(商標)IIおよびBD FACSDiva(商標)ソフトウエア;Becton Dickinson)により分析した。細胞を以下のコンジュゲートモノクローナル抗体:抗CD73、抗CD90および抗CD166(間葉マーカーであり、MSCまたはMSC由来細胞により発現が高いはずである)、抗CD3、抗CD34および抗CD45(造血マーカーであり、MSCまたはMSC由来細胞には実質的に存在しないはずである)、抗CD44、抗CD51/61、抗CD49a−e、抗CD29(接着マーカーである)、抗CD40、抗CD86および抗HLA−DR(免疫原性マーカーである)、および抗アルカリ性ホスファターゼ(ALP)とともに室温で15分間インキュベートし、次に、PBSで洗浄した後に遠心分離し、0.3mlのPBSに再懸濁させた。
細胞表面マーカーCD105、CD73、CD10およびCD44の特性決定のため、5×104細胞をPBS−1%BSA中、1×106細胞/mlの濃度で、5μlの抗体とともに暗所で10分間インキュベートした。このインキュベーション時間の後、細胞をPBSで1回洗浄した。細胞外染色に使用した種々の抗体は以下である:CD105に対するアロフィコシアニン(APC)コンジュゲート抗体(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:562408)、CD73に対するAPCコンジュゲート抗体(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:560847)、CD10に対するフィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗体(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:555375)、CD44に対するPEコンジュゲート抗体(BD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:550989)。非特異的染色は、細胞を、FITC、APCおよびPEとコンジュゲートされた免疫グロブリンG(IgG)対照(総てBD Biosciences(登録商標)、カタログ番号:それぞれ556649;555751;556650)とともにインキュベートすることにより決定した。分析前に、対象とするシングレットおよび集団のゲーティングを行った。フローサイトメトリー分析は、1×104イベントのゲーティング集団に対してFACSCanto(商標)II(BD Biosciences(登録商標))およびFACSDiva(登録商標)8.0ソフトウエア(BD Biosciences(登録商標))を用いて行った。分析に使用した設定パラメーターを、ビーズ(BD CompBeads Plus(登録商標)、カタログ番号560497)を用いて自動実行した。各コンジュゲートに関して、陽性カットオフを対照アイソタイプ抗体陽性1%に固定し、各マーカーの陽性を決定した。全分析集団の蛍光強度の中央値(MFI)も求め、対応するアイソタイプ対照抗体のMFIにより割って正規化MFI(nMFI)を得た。
ALP酵素活性の測定
ALP酵素活性は、リン酸p−ニトロフェニル(pNPP)の加水分解に基づく生化学的アッセイにより測定した。ALPにより脱リン酸化された後、pNPPは黄色になり、分光光度計により410nmで検出することができる。細胞のALP酵素活性は、精製仔牛腸管ALP活性に基づく標準曲線に関して決定される。ALP活性はALP/mgタンパク質の単位で報告する。1単位のALPは、37℃で1分間に1μmolのpNPPを加水分解する。
逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT−qPCR)
採取後、細胞はRNA抽出まで乾燥ペレット(500,000細胞)として−80℃で保存した。RNeasy(登録商標)ミニキット(Qiagen(登録商標))を製造者の説明書に従って用い、全RNAを抽出した。RNA濃度は、DropSense(登録商標)16(Trinean(登録商標))を用いて測定した。RNA逆転写(RT)は、1μgの全RNA抽出物から、PrimeScript(登録商標)RT試薬キット(Takara(登録商標))を製造者の説明書に従って用いて行った。qPCRは、プレミックスEx Taq(登録商標)(Takara(登録商標))を用い、2μlのcDNAから、製造者の説明書に従って行った。対象とする以下の遺伝子の発現レベルを定量した:RUNX2(フォワード:GGTTCCAGCAGGTAGCTGAG(配列番号1)、リバース:AGACACCAAACTCCACAGCC(配列番号2))、SOX9(F:TAAAGGCAACTCGTACCCAA(配列番号3)、R:ATTCTCCATCATCCTCCACG(配列番号4)、BMP2(F:GGAACGGACATTCGGTCCTT(配列番号5)、R:CACCATGGTCGACCTTTAGGA(配列番号6))、ALPL(F:ACCATTCCCACGTCTTCACATTTG(配列番号7)、R:AGACATTCTCTCGTTCACCGCC(配列番号8))、MMP13(F:TGGAATTAAGGAGCATGGCGA(配列番号9)、R:AACTCATGCGCAGCAACAAG(配列番号10))、CHI3L1(F:TGGGTCTCAAAGATTTTCCAAGA(配列番号11)、R:GCTGTTTGTCTCTCCGTCCA(配列番号12))、DCN(F:AAAATGCCCAAAACTCTTCAGG(配列番号13)、R:GCCCCATTTTCAATTCCTGAG(配列番号14))、OCN(F:AAGGTGCAGCCTTTGTGT(配列番号15)、R:GCTCCCAGCCATTGATACAG(配列番号16))、SPON1(F:CCTGCGGAACTGCCAAGTA(配列番号17)、R:CACGGGTGAGCCCAATTCT(配列番号18))、POSTN(F:TTTGGGCACCAAAAAGAAAT(配列番号19)、R:TTCTCATATAACCAGGGCAACA(配列番号20))。qPCRは、LightCycler(登録商標)480(Roche(登録商標))を用いて2反復で行った。3つのハウスキーピング遺伝子:RPL13A(F:CATAGGAAGCTGGGAGCAAG(配列番号21)、R:GCCCTCCAATCAGTCTTCTG(配列番号22))、TBP(F:AACAACAGCCTGCCACCTTA(配列番号23)、R:GCCATAAGGCATCATTGGAC(配列番号24))、HPRT(F:CCCTGGCGTCGTGATTAGT(配列番号25)、R:GTGATGGCCTCCCATCTCCTT(配列番号26))から得られた幾何平均を用いて正規化を行った。同じドナー由来の異なるMSC由来細胞製品間の比較は、対象とする各遺伝子に関して2−ΔΔCt法を用いて遺伝子発現(変化倍率)を計算することにより行った(Schmittgen and Livak, 2008, 3(6), 1101-8; Nature Protocols, 3(6), 1101-1108)。
統計分析はJMP(登録商標)(13.1.0)ソフトウエアを用いて行った。変化倍率で表すRT−qPCRデータを対数変換し、スチューデントの検定(α=0.05)を行って細胞種間に見られる差異の統計的有意性を評価した。統計的有意性は得られたp値(p)に応じてグラフで表した:*p<0.05、**はp<0.01、および***はp<0.001。
多重アッセイ
採取後、細胞を50,000細胞/cm2の密度で播種した。5%CO2を含有する加湿雰囲気中、37℃で48時間のインキュベーション後、細胞培養上清を採取し、遠心分離し(室温にて1500rpmで5分)、−80℃で保存した。上清を、Human Magnetic Luminex(登録商標)アッセイ(R&D System(登録商標))を用い、Luminex(登録商標)アッセイにより分析した。プレミックスMultiplexは特注生産されたものであった(R&D System(登録商標))。以下の分泌因子を調べた:BMP−2、COL1A1、MMP13、OPN、OPG、SPARC、RANKL、CHI3L1。このアッセイは製造者の説明書に従って行い、分析はMAGPIX(登録商標)(R&D System(登録商標))およびBio−Plex Manager 5.0TMソフトウエア(Bio−Rad(登録商標))を用いて行った。
細胞サイズの測定
比較例1および実施例1に記載されているように得た比較細胞製品(すなわち、MSCおよびMSC由来細胞:細胞製品AおよびB)および本発明を示す細胞製品(すなわち、MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞:細胞製品C)を採取し、0.4%トリパンブルーを含むPBSに12.5×106細胞/mlの細胞密度で懸濁させた。10μlの細胞懸濁液を目盛り付きのスライドガラス(Motic(登録商標))に載せ、次いで、カバーガラスで保護し、倍率40倍の倒立顕微鏡(AE31;Motic)下に置いた。顕微鏡に取り付けたカメラ(Moticam、Motic(登録商標))で撮影した画像をMotic Image Plus(登録商標)2.02ソフトウエアにより分析して細胞直径を測定した。分析を統計的に有意と見なすために少なくとも100細胞を測定した。
ex vivo培養の種々の時点で得られた細胞のサイズはまた、フローサイトメトリー(BD FACSCanto(商標)IIおよびBD FACSDiva(商標)ソフトウエア;Becton Dickinson)によっても分析した。簡単に述べれば、実施例1または比較例1に記載されるように、ex vivo細胞培養の開始後21、23、26および28日目に細胞を採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に細胞密度1×106細胞/mlで懸濁させ、前方散乱(FSC)測定に関してフローサイトメーターで分析した(相対的蛍光単位で表す)。前方散乱は、レーザー光路方向の散乱光を測定するため、フローチャンバーを通過する細胞の相対的サイズが得られる。
結果
培養収量
本発明を示す方法は、全体的な培養収量を劇的に増大させたことから(表2、細胞製品C新鮮と細胞製品AおよびB)、臨床使用のための同種異系細胞の入手可能性(すなわち、1回の骨髄提供から得られる細胞の数)を有意に増大させた。
平均±SDは、ドナー効果による変動(骨髄出発材料間の変動)を含むバッチ間の変動を考慮;PDL:集団倍加レベルは、細胞数が倍加した時間;
*総収率は、総ての連続培養(0日目に細胞を播種してから製造工程の終了およびMSC由来細胞の生成まで)の培養収率の累積を考慮;NA:取得できず
細胞マーカー発現プロフィール
フローサイトメトリー分析は、細胞製品A、細胞製品B(従来技術に従う比較方法で作製)、および最終の凍結保存有りまたは無しの細胞製品C(本発明を示す方法で作製)の細胞表面マーカー発現プロフィールに基づく一般的な細胞識別は匹敵していたことを明らかにした。
それらは総て、間葉マーカーCD73、CD90およびCD105を発現し、造血マーカーCD45、CD34およびCD3を発現していなかった(細胞集団の5%未満はこれらのマーカーを発現していた)(表3)。細胞製品Bおよび細胞製品C(最終の凍結保存有りまたは無し)は、(i)低レベルのMHCクラスII細胞表面受容体、例えば、HLA−DRを発現し、(ii)ALPの発現が高かった(表3および4)。HLA−DRの弱い発現により呈される弱い免疫原性は有利には、例えば同種異系対象への細胞移植を可能とする(表3)。加えて、細胞製品A、細胞製品B、および細胞製品C(最終の凍結保存有りまたは無し)は、未分化MSCに比べてそれらの表面に接着マーカーCD49eおよび酵素ALPの発現が高かった(表3および4)。高いALP発現は、細胞製品A、細胞製品B、および細胞製品C(最終の凍結保存有りまたは無し)の骨芽細胞系譜への運命決定を強調する。
略語:ALP:アルカリ性ホスファターゼ;APC:アロフィコシアニン;FITC:フルオレセインイソチオシアネート;HLA−DR:ヒト白血球抗原−DRアイソタイプ;HLA−DR/DP/DQ:ヒト白血球抗原−DR/DP/DQアイソタイプ;MSC:間葉幹細胞;ND:決定されず;PE:フィコエリトリン;SD:標準偏差
略語:ALP:アルカリ性ホスファターゼ;ND:決定されず;PE:フィコエリトリン
細胞表面マーカー発現プロフィールは、細胞表面のマーカーの存在(集団陽性パーセンテージ)によるだけでなく、種々のマーカーの細胞表面に発現されるマーカーの量(集団正規化蛍光中央値)を分析することによっても特徴付けた。これらの分析により、異なるMSC由来細胞間のいくつかの差異が強調された。
ヘパリンの存在下で培養された細胞製品Bおよび細胞製品C(最終の凍結保存有りまたは無し)は、ヘパリンの不在下で培養されたMSCおよび細胞製品Aよりも高いレベルのALPを発現し(ALP−PE nMFI結果)、それらの骨形成細胞の骨芽細胞系譜への運命決定を強めた。
細胞表面での間葉マーカーCD73およびCD105の発現は、細胞種にも依存していた。ヘパリンの存在下で作製された細胞製品(最終の凍結保存有りまたは無しの細胞製品Bおよび細胞製品C)は、細胞製品Aよりも高いレベルのCD73およびCD105を発現した。加えて、細胞製品Cは、特に、細胞製品Cが最終の凍結保存を受けなかった場合に、それらの表面に細胞製品Bよりも多いCD73およびCD105を有していると思われた(表5)。分化細胞製品A、BおよびCは、未分化MSCよりも高い量の細胞マーカーCD10を発現する。加えて、細胞製品Cは、それらの表面に細胞製品AおよびBよりも多いCD10を有する(表5)。
nMFIフローサイトメトリー分析は、CD73およびCD44タンパク質発現が他の細胞種よりも細胞製品Cで上昇していたことを明らかにした(図1)。
略語:ALP:アルカリ性ホスファターゼ;APC:アロフィコシアニン;FITC:フルオレセインイソチオシアネート;HLA−ABC:ヒト白血球抗原ABC;HLA−DR:ヒト白血球抗原−DRアイソタイプ;MSC:間葉幹細胞;NA:適用不可;ND:決定されず;PE:フィコエリトリン;SD:標準偏差
RT−qPCRおよび多重アッセイ
分析により、MSCに比べて細胞製品C新鮮における遺伝子RUNX2は有意に(*)過剰発現したが、細胞製品Bに比べて有意に(*)下方調節されていたことが明らかになった(表6a)。MSCおよび細胞製品Aに比べて細胞製品C新鮮におけるMMP13遺伝子は有意に(*)上方調節されていたが、その発現は細胞製品Bではなお有意に(*)高かった(表6a)。
他方、遺伝子SPARCおよびKI67は、細胞製品C新鮮では他の総ての細胞種に比べて有意に(**)下方調節されていた(表6a)。遺伝子PPARGは、細胞製品C新鮮およびMSCでは同等に発現されたが、細胞製品AおよびBに比べて有意に(***)下方調節されていた(表6a)。
さらに、細胞製品C凍結保存における遺伝子BMP2、SOX9、MMP13およびALPLは、MSCに比べて有意に過剰発現されており(表6b)、軟骨骨形成系譜へのそれらの関与を示す。
細胞サイズ
(i)Motic Image Plus(登録商標)2.0ソフトウエアおよび(ii)フローサイトメトリーFSC分析を用いた細胞サイズの測定から、細胞製品B、細胞製品C新鮮および細胞製品C凍結は、細胞製品Aよりも小さく、均質であることが確認された(表7、図2)。
極めて興味深いことに、大部分の細胞製品C(少なくとも90%)は直径25μmを超えず、それらの1%未満が直径35μmを超えていた。これに対し、細胞製品Aは、直径25μmを超えないわずか35.4%の細胞および35μmより大きい直径を有する26.9%の細胞を含んでいた(表8、図2)。細胞製品Bは、直径25μmを超えない73.7%の細胞および35μmより大きい直径を有する3.3%の細胞を含んでいた(表8、図2)。
実施例3:実施例1の方法により得られたMSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞のin vivo骨形成
材料および方法
細胞
本発明を示す細胞製品(すなわち、細胞製品C凍結)は、実施例1に記載されているように得た。
マウス
10〜11週の雌NMRI−Nude(nu/nu)マウスはJanvier S.A.S.(Le Genest−St−Isle、フランス)から購入し、食物および水を自由に摂らせる標準的条件で飼育した。
頭蓋冠骨形成マウスモデル
12週齢の雌NMRI−Nude(nu/nu)マウスをイソフルラン(IsoFlo(登録商標))で麻酔し、細胞製品C凍結(マウス1個体当たり100μl中2.5×106細胞)または賦形剤(100μl)を頭蓋冠骨に単回の皮下投与を施した。経時的に骨新形成を標識するために、カルシウム結合蛍光色素をマウスに順次投与した。アリザリンレッド(赤)、カルセイン(緑および青)およびテトラサイクリン(黄)(総てSigma−Aldrich(登録商標)から)をそれぞれ細胞投与の2日または3日前および5日、12日、および19日後に腹腔内投与した。試験動物の、投与後4週間の体重、全身の臨床徴候、および投与部位の臨床徴候を経過観察した。細胞投与の4週間後に頚椎脱臼によりマウスを安楽死させ、各マウスの頭蓋冠を採取して、骨形成細胞の骨形成特性をX線撮像、組織形態計測(骨形成の定量)および免疫蛍光により評価した。
X線分析による骨形成の定量
安楽死時に、横に並べた各マウスの頭蓋冠のex vivoX線撮像をFaxitron(登録商標)MX−20装置を用いて行った。デジタル画像は、手動モードにて、35kVに設定した電圧、曝露時間4.8秒、明度/対比 8300/6000として、倍率1.5倍で撮影した。作成されたX線像は、0(ブラック領域)〜255(ホワイト領域)の範囲のグレー強度値を用いたグレーレベル画像であり、放射線不透性および従って骨不透明度または骨厚に正比例する。頭頂骨の骨形成の骨誘導部分(選択から除外された石灰化結節)(手による選択)のグレーレベル強度値を、AdobePhotoshop(登録商標)ソフトウエアのヒストグラムツールを用いて解析した。
X線撮像およびAdobePhotoshop(登録商標)ソフトウエアは、石灰化結節(手による選択)の表面積を定量するためにも使用した。
サンプル包理および組織切片化
組織形態計測、ALP、TRAP(酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ)、マッソントリクロームゴールドナー染色および免疫蛍光のために、頭蓋冠を固定し、4℃で穏やかに振盪しながら、各12時間の70%、80%および90%エタノール浴での連続インキュベーションで脱水し、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)プラスチック樹脂(HistoResin、Leica(登録商標))に包埋した。4μm厚および8μm厚の冠状切片を、ミクロトーム(Leica(登録商標)、RM2255)を用いて切片化した。
免疫蛍光染色
頭蓋冠の4μm厚冠状プラスチック組織切片に対してヒトおよびマウスコラーゲンIの免疫蛍光による評価を行った。簡単に述べれば、室温で30分間、PBS 1X/Triton0.3%の溶液を用いた透過化工程の後、組織切片を、室温で1時間、ブロッキング溶液(すなわち、PBS/BSA/ウマ血清/Triton(商標))中でインキュベートして非特異的結合部位を飽和させた。次に、これらの組織スライドをマウス抗ヒトおよびウサギ抗マウスコラーゲンI一次抗体(Abcam;それぞれ#ab138492およびAbcam;#ab21286)とともに4℃で一晩インキュベートした。RTで5分のPBS中での3回の洗浄の後、室温で1時間、ブロッキング溶液でブロッキングを行った。次に、ブロッキング溶液で希釈した二次抗体を室温で2時間加え、遮光した。二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488ロバ抗ウサギIgG H&L(ThermoFisher、#A21206)およびAlexa Fluor(登録商標)Cy3(登録商標)ヤギ抗マウスIgG H&L(Abcam;#ab97035)を、それぞれマウスコラーゲンIを緑でおよびヒトコラーゲンIを赤で可視化するために使用した。次に、これらのスライドをPBS 1×中、室温で5分、3回すすぎ、室温で1分、NucBlue(登録商標)溶液とともにインキュベートすることによって核を染色した。最後に、これらのスライドをPBS中で1回、軽くすすいだ後、GlycerGel(登録商標)試薬にマウントした。免疫蛍光の陰性対照として、隣接する組織スライドでは一次抗体を除いた。
組織染色
骨芽細胞および破骨細胞活性をそれぞれ頭蓋冠切片で、それぞれALPおよびTRAP酵素活性検出法を用いて評価した。ALP染色では、4μm厚の頭蓋冠冠状プラスチック切片を、Fast Blue RR Salt(Sigma−Aldrich(登録商標))およびNaphtol AS−MXアルカリ性リン酸塩(Sigma−Aldrich(登録商標))の溶液とともに1時間インキュベートした。8μm厚の頭蓋冠冠状プラスチック切片に対し、Acid Phosphatase, Leukocyte(TRAP)キット(Sigma−Aldrich(登録商標))を製造者の説明書に従って用い、TRAP染色を行った。新たに形成された骨の石灰化の状態を評価するために、ALPで染色した頭蓋冠切片に対し、キット(Bio−Optica(登録商標))を製造者の説明書に従って用い、マッソントリクロームゴールドナー染色を行った。デジタル画像を、光学顕微鏡(Leica(登録商標))およびLeica(登録商標)LAS EZソフトウエアを用いて取得した。
頭蓋冠の組織形態計測的解析
骨形成(すなわち、絶対的骨形成)の定量をプラスチック包埋組織で行った。石灰化結節有りおよび無しの絶対的新形成骨の厚さ(アリザリンレッドにより蛍光標識された基底石灰化前線からカルセインおよびテトラサイクリンにより蛍光標識された骨新形成まで)を、4μm厚の冠状切片でZEN(登録商標)画像解析ソフトウエア(Zeiss)により測定した(μm)。各動物について、5つの独立したレベルで、各レベル間の距離を200μmとして絶対的厚さの4回の測定を行った、第一段階として、各動物について、厚さの平均(結節有りまたは無し)±SD(すなわち、5つのレベルの各レベル当たり4回の測定の平均)を計算した。
統計分析
結果を平均±標準偏差(SD)として表した。統計分析は、JMP(登録商標)(SAS Institute Inc.)またはGaphPad Prism(登録商標)ソフトウエアを用いて行った。群間の差異は、p<0.05の場合に統計的に有意と見なした。
結果
細胞製品C凍結を投与したマウスは、投与4週間後に対象よりも高い骨形成を示した(図8A〜C)。骨の不透明度は、賦形剤に比べて骨形成細胞C凍結で有意に高かった(図8B)。骨形成の表面は、石灰化結節が見られなかった賦形剤に比べて有意に高かった(図8C)。骨形成を伴うまたは伴わない骨誘導(絶対的骨形成により表される)の組織形態計測的尺度は、賦形剤に比べて骨形成細胞C凍結で有意に高かった(図8D〜E)。また、骨誘導活性に加え、骨形成細胞C凍結は、石灰化結節の存在により強調される高い骨形成活性を促進した。この骨形成活性は4/5の骨髄ドナー(またはバッチ生成物)および65%のマウスに見られた(図8F)。1ドナー/バッチは、各群1個体のマウスで少なくとも1つの石灰化結節が見られた場合に骨形成性(陽性)であると見なした。賦形剤の投与後には結節は見られなかった。
より詳しくは、細胞製品C凍結は、骨誘導特性(頭蓋冠でのマウス起源の均質な骨形成)および骨形成特性(ヒトおよびマウス起源の石灰化結節)の両方を示した(図9)。
頭蓋冠表面に膜内宿主骨化が誘導された(図9および10)。より詳しくは、骨形成細胞C凍結は、骨誘導特性および骨形成特性を示した(図10「fluo」)。マウス/ヒトI型コラーゲン二重免疫標識(図10「ヒトI型コラーゲン」)は、宿主およびドナー起源の骨の存在(骨形成)を明らかにした。骨芽細胞活性(図10「ALP+」)および破骨細胞(図10「TRAP」)活性はほとんど石灰化結節に検出され、結節内の骨リモデリングプロセスが投与後4週間目になお進行していたことを示した。この所見は結節の大きさに依存し、結節が大きいほど高いALP活性およびTRAP活性が投与後4週間目になお存在していた。弱い類骨(図10「ゴールドナーのマッソントリクローム染色」)が強調され、骨形成が完了していることを示す。
よって、骨形成細胞C凍結保存は骨新形成を高めた。
このことは、扁平骨ならびに長骨における骨欠損の治療のための、本明細書および実施形態に記載されるような細胞製品および細胞組成物の有用性を実証する。
実施例4:実施例1の方法により得られた細胞製品C凍結により修復されたin vivoマウス分節大腿骨未臨界サイズ欠損(sub−CSD)
試験手順
細胞
本発明を示す細胞製品(すなわち、細胞製品C凍結)は、実施例1に記載されているように得られる。
分節大腿(sub−)未臨界サイズ欠損(SFCSD)モデル
文献(Manassero et al., 2013, Tissue Engineering, Part C Methods, 19(4):271-80; Manassero et al., 2016, Journal of Visualized Experiments; (116): 52940)に従い、無菌条件下で外科手術を行った。簡単に述べれば、13週齢の雌NMRI−Nude(nu/nu)マウスをイソフルラン(IsoFlo(登録商標))で、またはデクスメデトミジン塩酸塩(Dexdomitor(登録商標)、Orion Pharma、1mg/体重kg)とケタミン(Nimatek(登録商標)、Euronet、150mg/体重kg)の混合物の腹腔内注射で麻酔し、加温プレート上に腹臥位に置いた。左大腿の前側に6穴PEEKマイクロロッキングプレート(RISystem AG(登録商標))を適用した後、グリのこぎりおよびジグ(RISystem AG(登録商標))を用い、2mm長の大腿骨幹中部骨切り術を行った。予防的投薬として、抗生物質(Baytril(登録商標)、10mg/体重kg)を手術前日に投与し(飲用水中)および鎮痛剤(ブプレノルフィン塩酸塩、Temgesic(登録商標)、Schering−Plough、0.1mg/体重kg)を手術前日と手術後少なくとも3日間12時間毎に投与した。MSC由来細胞C凍結保存(マウス当たり50μl容量中1.25×106細胞)または賦形剤(対照群)を術後当日に、骨欠損部位に局所的に、100μlハミルトン(登録商標)シリンジを用いた経皮注射により投与した。細胞または賦形剤投与の10週間後に頚椎脱臼によりマウスを安楽死させた。各マウスの左大腿を切開し、採取し、X線撮像まで0.9%NaCl中、室温で維持した。
X線分析による骨修復の定量
各マウスの左大腿のin vivoX線撮像は、手術直後に、プレートの固定、分節大腿骨欠損サイズを制御するために、また、ベースラインを得るために、Faxitron(登録商標)MX−20装置を用いて、MSC由来細胞または賦形剤の投与後10週間まで2週毎に行った。デジタル画像は、手動モードにて、35kVに設定した電圧、曝露時間4.8秒、明度4,300および対比7,100として、倍率5倍で内外像および前後像を撮影した。
有効性は、3つの異なる方法、すなわち、骨修復パーセンテージ、適合されたラジオグラフィックユニオンスコア(RUS)、および癒合スコアにより、2週間毎の経過観察で測定した。
・骨修復パーセンテージは、修復欠損サイズを初期欠損サイズで割ることにより計算した。欠損サイズは、各マウスについて、ImageJ(登録商標)ソフトウエアを用い、内外および前後X線像で、骨欠損の両端間の距離(μm)を2か所(両皮質)で測定すること(合計4回の測定)により経時的に定量した。各マウスの各時点で、4回の測定値の平均を計算した。
・SFCSDモデルに関して適合されたRUS(ラジオグラフィックユニオンスコア)は、骨新形成、接合および骨折線(前後画像および内外ラジオグラフィック画像から)の有無に基づく半定量的測定値である。スコアリングは、両像で2つの皮質欠損部位において決定した4スコアの合計(各1〜4の範囲の4スコアの合計)に相当する。従って、スコアリングは、4(治癒の徴候無し)〜16(完全な癒合)の範囲である。
・癒合スコアは、大腿欠損の両端間の癒合率を評価するバイナリスコアである。癒合を定義するために使用される放射線学的基準は、少なくとも3つの皮質における欠損の接合の可視化である(Cekich E et al., Acta Orthop Traumatol Turc. 2014, 48(5), 533-40)。スコアは0(癒合無し)または1(癒合)である。このパラメーターについては、最後の時点のみ分析した(ここでは、W10)。
統計分析
結果を平均±標準偏差(SD)として表す。2元配置ANOVA反復測定とその後にボンフェローニ事後検定を含んでなる統計分析を、JMP(登録商標)(SAS Institute Inc.)またはGraphPad Prism(登録商標)ソフトウエアを用いて行う。群間の差異はp<0.05の場合に統計的に有意と見なした。
結果
分節大腿骨sub−CSDモデルにおいて、骨形成細胞C凍結保存は、投与2〜10週間後に賦形剤に比べて骨折修復のパーセンテージを有意に向上させ、加速化した(図11および12)(p<0.001)。さらに、RUSスコアは、賦形剤群に比べて骨形成細胞C凍結保存群で有意に増加していた(図13)。最後に、癒合率も、賦形剤投与後の癒合に比べて骨形成細胞C凍結保存の投与10週後に、9/19(47%)のマウスで向上していた。
このことは、長骨ならびに扁平骨における骨欠損の治療のための、本明細書および実施形態に記載されるような細胞製品および細胞組成物の有用性を実証する。
実施例5:動態研究およびマーカー発現分析による二次培養および三次培養の期間
上記の実施例1に記載されているように二次培養後に得られた本発明の実施形態によるMSC由来細胞を種々の時点(D21、D22、D23、D24、D25、およびD28)で採取し、細胞周期をフローサイトメトリー(BD FACSCanto II(商標)およびBD FACSDiva(商標)ソフトウエア;Becton Dickinson)により分析した。
BD Pharmigen(商標)BrdU Flowキットを用いて全細胞DNAを7−アミノ−アクチノマイシンD(7−AAD)で染色した。簡単に述べれば、105細胞を100μlのBD Cytofix/Cytopermバッファー中で固定した後、周囲温度で20分間インキュベートし、1mlのBD Perm/Washバッファーで洗浄し、その後、300gで5分遠心分離した。上清を廃棄し、100μlのBD Cytoperm Permeabilization Buffer Plus中で細胞に透過処理を施した後、4℃で10分間インキュベートし、BD Perm/Washバッファで洗浄し、その後、300gで5分遠心分離した。上清を廃棄し、細胞を再び100μlのBD Cytofix/Cytopermバッファー中で固定し(周囲温度で5分)、BD Perm/Washバッファーで洗浄し、300gで5分遠心分離した。全細胞DNAを20μlの7−AAD溶液中で染色した後、暗所、周囲温度で10分間インキュベートした。1mlの染色バッファーをこれらのサンプルに加えた後、フローサイトメトリー適合チューブに移した。
サンプルをFACSCanto(商標)IIフローサイトメーター(Becton−Dickinson)で分析し、7−AAD発光を、650nmのロングパスフィルターを通した後に収集した。
図3および4は、D24における細胞が増殖曲線の終わり付近に位置していたことを示す。細胞は細胞周期をまだ脱していなかったが、D25から細胞は主として細胞周期から脱し、すなわち、それらはもはや増殖しなかった。
図4は、種々の培養期間での二次培養における細胞のイベント/周期(G0/G1、SおよびG2/M)による細胞周期分析を示す。D24では、42%の細胞がなお増殖していたが(11%Sおよび31%G2/M)、D25から細胞は主として細胞周期から脱していた。従って、二次培養の最適期間は24日であった。
実施例1に記載されているように三次培養後に得られたMSC由来細胞を種々の時点で、すなわち、34日目(D34)から42日目(D42)までの各日に採取し、細胞表面マーカー発現を、実施例2のフローサイトメトリーに記載されているようなフローサイトメトリーにより分析した。
MSC由来軟骨骨芽細胞系譜細胞の細胞集団に対して行ったフローサイトメトリーマーカー発現分析は、分化マーカー(BMP2、RUNX2、ZNFS21、SPARC、MMP13、CHI3L1)の発現はD34からD42まで増加し(図5)、増殖マーカーKI67の発現はこの培養期間(D34〜D42)中、低下した。
図6は、8つのバッチに関する種々の培養期間での細胞密度を示す。細胞密度は一般に、D36でより高い。細胞はサイトメトリー(BD Trucount(商標))により計数した。図7は、2バッチについての種々の培養期間での平均細胞直径サイズを示す。細胞直径はD35〜D36で最小であった。従って、細胞の計数および細胞サイズの測定は、細胞がD35〜D38に増殖のプラトーに達し、細胞サイズはD35およびD36で最小であったことを示す(図6および7)。
これらを考慮し、D36で最高である細胞密度を考えれば、三次培養の最適期間はD36であった。