JP2022180344A - Fe系電気めっき高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents

Fe系電気めっき高強度鋼板及びその製造方法 Download PDF

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麻衣 宮田
Mai Miyata
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Tomosuke Okumura
俊佑 山本
Shunsuke Yamamoto
洋一 牧水
Yoichi Makisui
正貴 木庭
Masataka Koba
克弥 星野
Katsuya Hoshino
亮太 星見
Ryota Hoshimi
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Abstract

【課題】優れた化成処理性及び塗装後耐食性を有するとともに、耐遅れ破壊特性に優れるFe系電気めっき高強度鋼板を提供する。【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明のFe系電気めっき高強度鋼板は、Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板と、該Si含有冷延鋼板の少なくとも片面に形成された、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/m2である、Fe系電気めっき層と、を備え、鋼中拡散性水素の含有量が、0.25質量ppm以下であることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、優れた化成処理性及び塗装後耐食性を有するとともに、耐遅れ破壊特性に優れるFe系電気めっき高強度鋼板及びその製造方法に関するものである。
近年、地球環境を保護する観点から、自動車の燃費改善が強く求められている。また、衝突時における乗員の安全を確保する観点から、自動車の安全性向上も強く要求されている。それらの要求に応えるためには、自動車車体の軽量化と高強度化を同時に達成することが重要であり、自動車部材の素材となる冷延鋼板においては、高強度化及び薄肉化が積極的に進められている。また、自動車部材の多くは鋼板を成形加工して製造されることから、高い強度に加えて、良好な成形性も求められる。
ここで、冷延鋼板の成形性を損うことなく高強度化を図ることができる方法の1つとして、Si添加による固溶強化が挙げられる。ただし、冷延鋼板に、多量のSi、特に0.5質量%以上のSiを添加した場合には、スラブ加熱時や、熱間圧延後あるいは冷間圧延後の焼鈍時に、鋼板表面にSiOやSi-Mn系複合酸化物等のSi含有酸化物が形成されることが知られている。形成されたSi含有酸化物は、化成処理性を著しく低下させるため、化成処理性に劣るだけでなく、電着塗装後の塩温水試験においては、通常の鋼板に比べて塗膜剥離を起こし易く、塗装後耐食性にも劣るという問題があった。
また、冷延鋼板の高強度化に関しては、強度の増加に伴って遅れ破壊が生じやすくなることも知られており、特に、引張り強度が980MPa以上の高強度鋼では、この遅れ破壊の傾向が顕著である。
なお、遅れ破壊とは、高強度鋼材が静的な負荷応力(引張り強さ以下の負荷応力)を受けた状態で、ある時間が経過したとき、外見上はほとんど塑性変形を伴うことなく、突然脆性的な破壊が生じる現象である。この遅れ破壊は、鋼板の場合、プレス加工により所定の形状に成形したときの残留引張り応力と、応力集中部における鋼の水素脆性により生じるものであることが知られている。
さらに、冷延鋼板は、上述した強度や成形性に加えて、化成処理皮膜の形成状態(化成処理性)の改善も望まれている。
例えば特許文献1には、0.5~2.0質量%のSiを含有する高強度冷延鋼板を焼鈍した後に、酸洗を行い付着量1~5g/mの範囲でZn-Fe合金を電気めっきすることで化成処理性を改善する技術が開示されており、特許文献2には、鋼板を酸化雰囲気で焼鈍し酸洗した後、Fe又はNiを1~50mg/mめっきすることで化成処理性を改善する技術が開示されている。
また、特許文献3には、焼鈍後の鋼板にFe-Ni合金めっきをすることで化成処理性を改善する技術が開示されており、特許文献4には、焼鈍後の鋼板に0.02~1.5g/mのFe被覆層を形成することで化成処理性を改善する技術が開示されている。
特開2015-89946号公報 特開2008-190030号公報 特開昭61-113787号公報 特開平5-320952号公報
しかしながら、特許文献1~4の化成処理性を改善する技術については、いずれも後半に電気めっきを施すことから、電気めっき中に鋼板に水素が侵入し、引張強度が980MPaを超える高強度鋼板においては、上述した遅れ破壊が生じやすくなるという問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑み、優れた化成処理性及び塗装後耐食性を有するとともに、耐遅れ破壊特性に優れるFe系電気めっき高強度鋼板及びその製造方法を提供する。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、電気めっきを施す際に鋼板へ侵入する水素を抑えるためには、鋼板の焼鈍前に電気めっきを施すことが有効であることを知見した。通常鋼板の焼鈍は700~900℃程度の高温域で実施されるため、電気めっきで鋼板に侵入した拡散性水素は炉内に放出され、鋼中拡散性水素の含有量を低減できる。
なお、焼鈍時に鋼板に含有されるSiがFeめっき層中に拡散して表面に濃化することもあるが、焼鈍炉内の露点を制御することによって、Feめっき層の結晶粒サイズを調整し、化成処理性も同時に満足できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板と、
該Si含有冷延鋼板の少なくとも片面に形成された、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/mである、Fe系電気めっき層と、を備え、
鋼中拡散性水素の含有量が、0.25質量ppm以下であることを特徴とする、Fe系電気めっき高強度鋼板。
2前記Si含有冷延鋼板が、980MPa以上の引張強度を有することを特徴とする、前記1に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
3.前記Fe系電気めっき層と前記Si含有冷延鋼板との界面における、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合が50%超であることを特徴とする、前記1又は2に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
4.前記Si含有冷延鋼板は、質量%で、
Si:0.5~3.0%、
C:0.8%以下、
Mn:1.5~3.5%、
P:0.1%以下、
S:0.03%以下、及び、
Al:0.1%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする、前記1~3のいずれか1項に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
5.前記Si含有冷延鋼板の組成は、さらに、質量%で、
B:0.005%以下、
Ti:0.2%以下、
N:0.010%以下、
Cr:1.0%以下、
Cu:1.0%以下、
Ni:1.0%以下、
Mo:1.0%以下、
Nb:0.20%以下、
V:0.5%以下、
Sb:0.200%以下、
Ta:0.1%以下、
W:0.5%以下、
Zr:0.1%以下、
Sn:0.20%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.005%以下、及び、
REM:0.005%以下
からなる群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする、前記4に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
6.前記Fe系電気めっき層は、B、C、P、N、O、Ni、Mn、Mo、Zn、W、Pb、Sn、Cr、V及びCoからなる群から選択される一種以上の元素を、合計で10質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする、前記1~5のいずれか1項に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
7.Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板に、Fe系電気めっきを施して、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/mのFe系電気めっき層が少なくとも片面に形成された、焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を得る工程と、
前記焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を、露点-30℃以下、水素濃度8体積%以下の雰囲気下で焼鈍して、Fe系電気めっき鋼板を得る工程と、
を含むことを特徴とする、Fe系電気めっき鋼板の製造方法。
8.前記焼鈍時の雰囲気は、露点が-40℃以下、水素濃度が5体積%以下であることを特徴とする、前記7に記載のFe系電気めっき鋼板の製造方法。
本発明によれば、優れた化成処理性及び塗装後耐食性を有するとともに、耐遅れ破壊特性に優れるFe系電気めっき高強度鋼板及びその製造方法を提供できる。
(a)は、Fe系めっき層とSi含有冷延鋼板との界面において、Si含有冷延鋼板に接するFe系電気めっき層の結晶粒界の数を測定するための、観察用サンプルの概要を示した斜視図であり、(b)は、(a)のA-A断面図である。 (a)は、SIM像のFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面に、走査型電子顕微鏡を用いて境界線Bを描画した画像であり、(b)は、二値化処理後の画像において、境界線Bを中心とする幅40ピクセルの判定領域のL及びLによって囲まれる領域)境界線Bに沿うように描画した画像であり、(c)は、(b)の四角で囲った箇所を拡大した図である。 実施例における複合サイクル腐食試験の工程を示した図である。 実施例で用いた遅れ破壊評価用試験片を模式的に示した図である。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。なお、以下の説明において、鋼成分組成の各元素の含有量、めっき層成分組成の各元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であり、特に断らない限り単に「%」で示す。
<Fe系電気めっき高強度鋼板>
本発明のFe系電気めっき高強度鋼板は、Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板と、該Si含有冷延鋼板の少なくとも片面に形成された、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/mである、Fe系電気めっき層と、を備える。
(Si含有冷延鋼板)
本発明のFe系電気めっき高強度鋼板は、Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板を備える。以下、前記Si含有冷延鋼板の鋼成分について説明する。
Si:0.5~3.0%
前記Si含有冷延鋼板は、Siを0.5~3.0%含む。Siは、加工性を大きく損なうことなく鋼の強度を高める効果(固溶強化能)が大きいため、鋼の高強度化を達成するのに有効な元素である。そのため、Siを高強度達成手段として添加する場合には、0.5%以上の添加が必要である。Si含有量が0.5%未満では、化成処理性や耐抵抗溶接割れ特性への影響は少ない。一方、Siは化成処理性や塗装後耐食性及び耐抵抗溶接割れ特性に悪影響を及ぼす元素でもあるため、Siの含有量は3.0%以下である。Siの含有量が3.0%を超えると、熱間圧延性や冷間圧延性が大きく低下し、生産性に悪影響を及ぼしたり、鋼板自体の延性の低下を招くことがある。同様の観点から、Si含有量は0.7~2.5%の範囲であることが好ましい。
また、前記Si含有冷延鋼板は、Siを上記範囲で含有することを必須の要件とするが、その他の成分については、通常の冷延鋼板が有する組成範囲であれば許容することができ、特に制限されるものではない。
ただし、本発明の冷延鋼板を、自動車車体等に用いられる引張強さTSが590MPa以上の高強度冷延鋼板に適用する場合には、以下の成分組成を有するものであるのが好ましい。
C:0.05~0.3%
Cは、鋼組織としてマルテンサイトなどを形成させることで加工性を向上しやすくする。そのため、0.05%以上含有することが好ましい。しかし、Cを過剰に添加すると溶接性が低下するため、含有量を0.3%以下とすることが好ましい。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Cを0.5%以上0.3%以下含むことが好ましい。
Mn:1.5~3.5%
Mnは、鋼を固溶強化して高強度化するとともに、焼入性を高め、残留オーステナイトやベイナイト、マルテンサイトの生成を促進する作用を有する元素である。このような効果は、1.5%以上の添加で発現する。一方、Mnの含有量が3.5%以下であれば、コストの上昇を招かずに上記効果が得られる。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Mnを1.5~3.5%の範囲で含むことが好ましい。
P:0.1%以下(0%を含まない)
Pは、溶接性を低下させるとともに、粒界に偏析して延性、曲げ性や靭性を劣化させる。 さらに多量に添加すると、フェライト変態を促進することで結晶粒径も大きくしてしまう。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Pを0.1%以下含むことが好ましい。
S:0.03%以下(0%を含まない)
Sは、溶接性を低下させるとともに、熱間での延性を著しく低下させることで、熱間割れを誘発し、表面性状を著しく劣化させる。さらに、Sは、強度にほとんど寄与しないばかりか、不純物元素として粗大な硫化物を形成することにより、延性、曲げ性、伸びフランジ性を低下させる。これらの問題はSの含有量が0.030%を超えると顕著となり、Sの含有量は極力低減することが望ましい。そのため、前記Si含有冷延鋼板中のSの含有量は0.03%以下であることが好ましい。
Al:0.01~0.1%
Alは、製鋼工程で脱酸剤として添加される元素であり、伸びフランジ性を低下させる非金属介在物をスラグとして分離するのに有効な元素であることから、0.01%以上含有させることが好ましい。一方、Alの含有量が0.1%以下であれば、原料コストの上昇を招かず、上記効果を得ることができる。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Alを0.01%以上0.1%以下含むことが好ましい。
Nb:0.005~0.05%
Nbは、炭化物や窒化物を形成し、焼鈍時の加熱段階でフェライトの成長を抑制して組織を微細化させ、成形性、特に伸びフランジ性を向上させる。このような効果は、0.005%以上の添加で発現する。一方、0.05%以下であれば、コストの上昇を招かずに上記効果が得られる。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Nbを0.005~0.05%含むことが好ましい。
Ti:0.005~0.05%
Tiは、Nbと同様、炭化物や窒化物を形成し、焼鈍時の加熱段階でフェライトの成長を抑制して組織を微細化させ、成形性、特に伸びフランジ性を向上させる。このような効果は、0.005%以上の添加で発現する。一方、0.05%以下であれば、コストの上昇を招かずに上記効果が得られる。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Tiを0.005~0.05%含むことが好ましい。
Cu:0.05~0.5%
Cuは0.05%以上含有されることで、残留γ相形成促進効果が得られやすい。一方、0.5%超えではコストアップを招く。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Cuを添加する場合、0.05~0.5%含むことが好ましい。
Ni:0.05~0.5%
Niは0.05%以上含有されることで、残留γ相形成促進効果が得られやすい。一方、0.5%超えではコストアップを招く。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Niを添加する場合、0.05~0.5%含むことが好ましい。
Sb:0.001~0.2%
Sbは鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有することができる。Sbは、窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、0.001%以上で得られる。一方、0.2%を超えると靭性が劣化する。そのため、前記Si含有冷延鋼板は、Sbを添加する場合、0.001~0.2%含むことが好ましい。
前記Si含有冷延鋼板は、上記成分以外の残部が、Fe及び不可避的不純物である。ただし、本発明の作用効果を害しない範囲であれば、その他の成分の添加を拒むものではない。
例えば、Moは、鋼の焼入性を向上し、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進する元素であるため、0.005~0.3%の範囲でさらに添加することができる。また、Ca及びREMは、硫化物系介在物の形態を制御し、鋼板の伸びフランジ性を向上させる元素であるので、Ca:0.001~0.1%、REM:0.001~0.1%のうちから選ばれる1種又は2種をさらに添加することができる。
(Fe系電気めっき層)
本発明のFe系電気めっき高強度鋼板は、前記Si含有冷延鋼板の少なくとも片面に形成された、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/mである、Fe系電気めっき層を備える。
前記Fe系電気めっき層を形成することによって、焼鈍時のSiやMnの外部酸化を遅延させ、Si含有冷延鋼板であっても、良好な化成処理性を有する冷延鋼板を得ることができる。
本発明では、1.0g/m以上の付着量を有するFe系電気めっき層を形成させる。化成処理性を向上させる効果を生じさせるためには、Fe系電気めっき層の片面あたりの付着量を1.0g/m以上とすることが必要である。同様の観点から、前記Fe系電気めっき層の付着量は、好ましくは3.0g/m以上、より好ましくは5.0g/m以上とする。前記Fe系電気めっき層の片面あたりの付着量の上限は、特に限定されないが、コストの観点から、Fe系電気めっき層の片面あたりの付着量を20g/m以下とする。
また、本発明のFe系電気めっき高強度鋼板では、前記Si含有冷延鋼板の表裏両面にFe系電気めっき層を形成することが好ましい。さらに、前記Fe系電気めっき層の付着量を3.0g/m以上とすることで化成処理性が特に良好となる。
なお、前記Fe系電気めっき層の付着量は、以下の通り測定する。焼鈍後のSi含有冷延鋼板から10×15mmサイズのサンプルを採取して樹脂に埋め込んだものを、断面埋め込みサンプルとする。断面埋め込みサンプルの任意の3か所を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて加速電圧15kV、Fe系電気めっき層の厚みに応じて倍率2000~10000倍で観察し、3視野の厚みの平均値に鉄の比重を乗じることによって、Fe系電気めっき層の片面あたりの付着量に換算する。
ここで、前記Fe系電気めっき層の種類については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択できる。例えば、前記Fe系電気めっき層として、純Feの他、Fe-B合金、Fe-C合金、Fe-P合金、Fe-N合金、Fe-O合金、Fe-Ni合金、Fe-Mn合金、Fe-Mo合金、Fe-W合金等の合金めっき層を適宜使用できる。
また、前記Fe系電気めっき層の成分組成についても、特に限定はされない。例えば、B、C、P、N、O、Ni、Mn、Mo、Zn、W、Pb、Sn、Cr、V及びCoからなる群から選ばれる1又は2以上の元素を、合計で10質量%以下含み、残部はFe及び不可避的不純物からなる成分組成とすることが好ましい。前記Fe以外の元素の量を合計で10質量%以下とすることで、電解効率の低下を防ぎ、低コストでFe系電気めっき層を形成することができる。
なお、本発明に係るSi含有冷延鋼板は、表面にFe系電気めっき以外のめっき層を形成しないことが好ましい。前記Si含有冷延鋼板が表面にFe系電気めっき以外のめっき層を有さないことで、防錆用途としての亜鉛めっき鋼板が過剰に必要とされない部品、あるいは腐食環境がマイルドで過剰な防錆が必要とされない環境下で用いられる部品を、低コストで提供できるためである。
(鋼中拡散性水素)
そして、本発明のFe系電気めっき高強度鋼板は、鋼中拡散性水素の含有量が、0.25質量ppm以下であることを特徴とする。
前記鋼中拡散性水素の含有量を0.25質量ppm以下とすることで、耐遅れ破壊特性を向上させることができる。
前記鋼中拡散性水素の含有量が0.25質量ppmを超える場合、曲げ性の劣化や耐遅れ破壊特性の劣化を招く。前記鋼中拡散性水素の含有量が0.25質量ppm以下であれば、耐遅れ破壊特性を大幅に改善することができ、また、前記鋼中拡散性水素の含有量は、0.10質量ppm以下であることが好ましい。0.10質量ppm以下であれば、耐遅れ破壊特性に加え、曲げ性等の機械特性も大きく改善することができる。
前記遅れ破壊は、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板でより顕著になることから、前記鋼中拡散性水素の含有量を0.25質量ppm以下とするのは、980MPa以上の高強度鋼板に適用することが好ましい。
ただし、鋼中水素は、引張強度が590MPa以上で重要視される曲げ性等の機械特性にも影響することから、本発明の技術は、引張強度が590MPa以上の高強度鋼板に適用することもできる。
ここで、前記鋼中拡散性水素の含有量を0.25質量ppm以下とする方法としては、特に限定はされない。例えば、前記Fe系電気めっきを形成後に後述する焼鈍処理を行うことによって、前記鋼中拡散性水素の含有量を0.25質量ppm以下に抑えることができる。
前記Fe系電気めっきを形成後に焼鈍処理を行うことによって、電気めっき中に侵入した水素が高温環境下で焼鈍炉に放出され、耐遅れ破壊特性を劣化させずに化成処理性を改善することが可能である。
前記電気めっきを施す際、鋼板側はカソードとなり、主に、以下の反応によって、めっき浴中のFeイオンが還元され、鋼板表面に金属Feとして電析する。
Fe2++2e-→Fe
同時に、めっき浴は酸性であることから、ある一定の割合で、以下の反応のように、水素の発生反応も生じている。
2H+2e→2H→H
鋼板上で生じた水素は、一定の割合で鋼板中に拡散性水素として浸入し、残りは水素ガスとなる。侵入した水素は、鋼中に残存し、曲げ性等の機械的特性の劣化に繋がるとともに、特に、980MPa以上の高強度鋼板で重要視される耐遅れ破壊特性を劣化させる要因となる。
なお、前記鋼中拡散性水素の含有量を測定するための方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー等を使用し、昇温分析することで測定することができる。一般的に、温度250℃以下で放出される水素が拡散性水素と呼ばれる。
なお、Fe系電気めっき層を形成後に焼鈍を施すことは、鋼板の脱水素に有効であり、耐遅れ破壊特性を劣化させない反面、Fe系電気めっき層があっても、最表層にSiやMnの外部酸化が生じ、十分な化成処理性が得られないおそれがある。
そのため、本発明では、前記Fe系電気めっき層と前記Si含有冷延鋼板との界面における、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合を50%超とすることが好ましい。前記Si含有冷延鋼板のSiやMnは、Fe電気めっき層の結晶粒界を拡散し、表面に酸化物を形成する。そのため、この結晶粒の一体化が十分に進行せず、電気めっき後のFeめっき層の超微細組織が残存すると、SiやMnの拡散が促進され、十分な化成処理性が得られないことがある。そのため、本発明では、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合を50%超とすることで、Fe系電気めっき層を設けることによる、焼鈍時のSiやMnの外部酸化抑制効果が顕著になり、より優れた化成処理性を実現できる。なお前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合の上限は、特に限定されず、100%であってもよい。
ここで、前記Fe系電気めっき層と前記Si含有冷延鋼板との界面における、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合は、以下のように測定できる。
まず、Fe系電気めっき高強度鋼板から、10×10mmサイズのサンプルを採取する。該サンプルの任意の3箇所を集束イオンビーム(Focused Ion Beam;FIB)装置にて加工し、図1に示すようなT断面(鋼板の圧延直角方向に対して平行かつ鋼板表面に垂直な断面)方向に対して45°の角度をつけた、圧延直角方向30μm幅、T断面方向に対して45°方向の長さが50μmの45°断面を3箇所に形成して、観察用サンプルとする。次いで、走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope;SIM)を用いて該観察用サンプルの45°断面の中央部を倍率5000倍で観察し、幅1024×高さ943ピクセル、8ビットのSIM像を撮影する。3箇所に作成した45°断面毎に撮像したSIM像から、以下の式(1)に基づいて、Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面においてFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している割合を求め、3箇所の平均値を求める。なお、小数点以下は切り上げとする。
式(1):Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面においてFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している割合=(Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面のうち、Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している箇所の長さ)÷(観察視野での界面の長さ)×100(%)
前記Fe系電気めっき層と前記Si含有冷延鋼板との界面における、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化しているか否かは、画像処理で判断する。
図2を用いて、結晶方位が一体化している割合の評価方法を説明する。まず、図2(a)に示すように、前述したSIM像のFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面に、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)を用いて境界線Bを描画する。次いで、前境界線を描画した像とは別に、SIM像を画像処理した像を作成する。具体的には、まず撮像した幅1024×高さ943ピクセル、8ビットのSIM像に対し、ソーベルフィルタにより結晶粒界を強調する。続いて、結晶粒界を強調した画像にガウスフィルタ(半径(R):10ピクセル)により平滑化処理を行なう。次いで、平滑化処理後の画像に二値化処理(閾値:17)を行う。引き続き、界面を描画した像の境界線Bを、二値化処理した像に転写する。その後、図2(b)に示すように、二値化処理後の画像において、境界線Bを中心とする幅40ピクセルの判定領域(図2(b)のL及びLによって囲まれる領域)を二値化処理した像上の境界線Bに沿うように描画する。境界線Bの長さのうち、該判定領域内にFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面(二値化処理した像上の白黒の境界)が存在しない長さの合計を、結晶方位が一体化している箇所の長さとみなす。ここで、境界線の長さのうち判定領域内にFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面が存在しない長さの合計は、以下の通り求める。まず、境界線Bの法線二本によって、白黒いずれか一色のみが含まれるよう判定領域を略矩形に区分できる箇所を判定領域全域について探す。次いで、該箇所における境界線と二本の法線との交点同士の最大距離を、判定領域全域について合計して、境界線の長さのうち判定領域内にFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面が存在しない長さの合計とする。なお、観察視野での界面の長さから結晶方位が一体化していない箇所の長さを引くことによって、結晶方位が一体化している箇所の長さを求めてもよい。説明のために、図2(c)に、図2(b)の四角で囲った箇所の拡大図を示す。まず、図2(c)に示すように境界線Bの法線二本(図2(c)においては、l及びl、並びにl及びl)によって、白黒の二色が含まれるよう判定領域を略矩形に区分できる箇所を判定領域全域について探す。次いで、該箇所における境界線と二本の法線との交点同士の最大距離を、判定領域全域について合計して、境界線の長さのうち判定領域内にFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面が存在する長さの合計とする。該長さ、すなわち、結晶方位が一体化していない箇所の長さを、観察視野での界面の長さから引くことにより、結晶方位が一体化している箇所の長さを求めることができる。
<Fe系電気めっき高強度鋼板の製造方法>
次に、Fe系電気めっき高強度鋼板の製造方法について説明する。
本発明のFe系電気めっき鋼板の製造方法は、Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板に、Fe系電気めっきを施して、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/mのFe系電気めっき層が少なくとも片面に形成された、焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を得る工程と、
前記焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を、露点-30℃以下、水素濃度8体積%以下の雰囲気下で焼鈍して、Fe系電気めっき鋼板を得る工程と、を含む。
(Si含有冷延鋼板の製造)
前記焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を得る工程では、まず、Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板を製造する。該Si含有冷延鋼板の製造は、通常の冷延鋼板の製造方法に従うことができる。一例としては、高強度焼鈍前冷延鋼板を、上述した成分組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施して熱延板とし、次いで該熱延板に酸洗を施した後、熱延板に冷間圧延を施すことで、Si含有冷延鋼板を製造できる。
(Fe系電気めっき処理)
前記Fe系電気めっき鋼板を得る工程では、得られたSi含有冷延鋼板の表面にFe系電気めっき処理を施して、Fe系電気めっき鋼板を製造する。前記Fe系電気めっきの方法は特に限定されない。
例えば、Fe系電気めっき浴として、硫酸浴、塩酸浴あるいは両者の混合浴等を用いることができる。
通電開始前の前記Fe系電気めっき浴中のFeイオン含有量については、Fe2+として1.0mol/L以上とすることが好ましい。Fe系電気めっき浴中のFeイオン含有量が、Fe2+として1.0mol/L以上であれば、十分なFe付着量を得ることができる。
また、前記Fe系電気めっき浴中には、Feイオン、並びに、B、C、P、N、O、Ni、Mn、Mo、Zn、W、Pb、Sn、Cr、V及びCo等の合金化元素の他、添加剤あるいは不純物として硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の伝導度補助剤を含有することができる。なお、上述した金属元素は、金属イオンとして含有すればよく、非金属元素はホウ酸、リン酸、硝酸、有機酸等の一部として含有することができる。また、硫酸鉄めっき液中には、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の伝導度補助剤や、キレート剤、pH緩衝剤が含まれていてもよい。
前記Fe系電気めっき浴のその他の条件についても特に限定しない。浴温は、定温保持性を考えると、30℃以上であることが好ましい。前記Fe系電気めっき浴のpHも特に規定しないが、Fe系電気めっき浴の電気伝導度を考慮すると、3.0以下であることが好ましい。電流密度についても特に限定しないが、通常10~150A/dm程度である。めっき時の通板速度は5mpm以上、150mpm以下であればよい。通板速度が5mpm未満では生産性に劣り、一方で通板速度が150mpm以上では、めっき付着量を安定的に制御することが困難であるためである。
なお、前記Fe系電気めっきを施す前の処理として、Si含有冷延鋼板の表面を清浄化するための脱脂処理及び水洗、さらには、Si含有冷延鋼板の表面を活性化するための酸洗処理及び水洗を施すこともできる。これらの前処理に続いてFe系電気めっき処理が実施される。
前記脱脂処理及び前記水洗の方法は特に限定されず、通常の方法を用いることができる。前記酸洗処理については、硫酸、塩酸、硝酸及びこれらの混合物等各種の酸を使用できる。これらの中でも、硫酸、塩酸又はこれらの混合物を用いることが好ましい。また、前記酸洗処理に用いる酸の濃度は特に規定しないが、酸化皮膜の除去能力、及び過酸洗による肌荒れ(表面欠陥)防止等を考慮すると、1~20質量%程度であることが好ましい。また、酸洗処理液には、消泡剤、酸洗促進剤、酸洗抑制剤等を含有してもよい。
(焼鈍)
そして、本発明のFe系電気めっき鋼板の製造方法では、前記焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を、露点-30℃以下、水素濃度8体積%以下の雰囲気下で焼鈍を実施する。
焼鈍により、圧延工程によって生じた焼鈍前Fe系電気めっき鋼板の歪を除去し、組織を再結晶させ、鋼板強度を高めることができる。また、焼鈍により、前記鋼中の拡散性水素の含有量を低減させることができる。
本発明のFe系電気めっき鋼板の製造方法においては、前記焼鈍における焼鈍雰囲気の露点は、加湿設備等の追加設備が不要な条件となる-30℃以下の低露点とする。
本発明者らは独自の検討によって、Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面における、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合と、Fe系電気めっき層形成後の焼鈍工程における焼鈍雰囲気の露点との間に相関関係があることを見出した。すなわち、Fe系電気めっき層形成後の焼鈍前Fe系電気めっき鋼板に焼鈍を施す際に、焼鈍雰囲気の露点が低いほど、焼鈍後に得られる前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合が高くなり、逆に、焼鈍雰囲気の露点が高いほど前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合が低くなることを究明した。
このように、前記Fe系電気めっき層と前記Si含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している割合と、露点との間に相関関係が見いだせる理由は明らかではないが、次のように推測することができる。一定以上の高露点で制御した場合、焼鈍時に鋼板からFe系電気めっき層へ拡散する元素がFe系電気めっき層の内部で酸化物として形成し、この酸化物がFeめっき粒の結晶成長を阻害し、細粒化させる。一方で、前記Fe系電気めっき層を形成後に低露点の雰囲気下にて焼鈍を施した場合、上記のような酸化物は形成されにくく、Fe系電気めっき層の結晶粒径が粗大化する。そのため、低露点で焼鈍を施した際にはFe系電気めっき層の結晶方位がSi含有冷延鋼板との結晶方位と高い割合で一体化すると考えることができる。前記焼鈍における焼鈍雰囲気の露点を-30℃以下とした場合、前記Fe系電気めっき層と前記Si含有冷延鋼板との界面において、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合が高まる。その結果、SiやMnの拡散パスが減少し、焼鈍時のSiやMnの外部酸化を効率的に抑制することが可能になる。また、前記焼鈍雰囲気の露点が-40℃以下であれば、結晶方位の一体化を促進できるため、より好ましい。前記焼鈍雰囲気の露点の下限は特に定めないが、-80℃未満は工業的に実現が困難であるため、-80℃以上とすることが好ましい。焼鈍雰囲気の露点はより好ましくは-55℃以上である。
前記焼鈍時の雰囲気は、水素濃度が8.0体積%以下であることを要する。水素は、焼鈍中の焼鈍前Fe系電気めっき鋼板表面のFeの酸化を抑制し、鋼板表面を活性化する役割を果たすことができるものの、濃度が高すぎると、鋼板中に浸入し、耐遅れ破壊特性を劣化させることがある。そのため、鋼中に侵入する水素を抑制する観点から、前記焼鈍時の雰囲気の水素濃度は、8.0体積%以下であることを要し、5.0体積%以下とすることが好ましい。また、前記焼鈍時の雰囲気の水素濃度は、1.0体積%以上であれば、鋼板表面のFeが酸化することにより、鋼板の酸化を抑制することができる。そのため、前記焼鈍時の水素濃度は、1.0体積%以上であることが好ましく、2.0体積%以上であることがより好ましい。なお、焼鈍雰囲気の水素以外の残部は、窒素とすることが好ましい。
また、前記焼鈍では、650℃以上900℃以下の温度域での保持時間を、30秒以上600秒以下とすることが好ましい。当該温度域での保持時間を30秒以上とすることで、焼鈍前Fe系電気めっき層表面に形成したFeの自然酸化膜を好適に除去し、後述するようにFe系電気めっき鋼板表面に化成処理皮膜を設ける場合の化成処理性を向上することができる。そのため、当該温度域での保持時間は30秒以上とすることが好ましい。当該温度域での保持時間の上限は特に定めないが、生産性の観点から、当該温度域での保持時間は600秒以下とすることが好ましい。
前記焼鈍前Fe系電気めっき鋼板の最高到達温度は、特に限定されないが、650℃以上900℃以下とすることが好ましい。焼鈍前Fe系電気めっき鋼板の最高到達温度を650℃以上とすることで、鋼板組織の再結晶が好適に進み、所望の強度を得ることができるためである。また、前記Fe系電気めっき鋼板の最高到達温度が900℃以下であれば、鋼中のSi及びMnの拡散速度が増加しすぎることを防ぎ、鋼板表面へのSi及びMnの拡散を防ぐことができるため、化成処理性を向上することができる。さらに、最高到達温度が900℃以下であれば、熱処理炉の炉体ダメージを防ぐことができ、コストダウンすることもできる。そのため、焼鈍前Fe系電気めっき鋼板の最高到達温度は900℃以下とすることが好ましい。なお、上記最高到達温度は、焼鈍前Fe系電気めっき鋼板の表面にて測定された温度を基準とする。
なお、前記焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を得る工程及び前記Fe系電気めっき鋼板を得る工程のその他の条件については、本発明のFe系電気めっき高強度鋼板の中で説明した内容と同様である。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
<サンプル1~79>
(1)表1に示す化学成分の鋼を溶製して得た鋳片に対して、熱間圧延、酸洗、冷間圧延を施すことによって、板厚1.4mmの鋼板A~Oを得た。
(2)得られた各鋼板に対して、アルカリでの脱脂処理を施し、その後、表2に示す条件で、Fe系電気めっき及び焼鈍を実施し、Fe系電気めっき鋼板のサンプルを製造した。
ここで、Fe系電気めっき浴は、Fe2+を1.5mol/L、硫酸ナトリウムを0.35mol/L含有し、pHを硫酸で2.0に調整した溶液を用い、陽極には酸化イリジウム電極を使用した。Fe系電気めっき層の付着量(g/m)については、通電時間を変化させることで制御した。Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面においてこれらの結晶方位が一体化している割合(%)については、各サンプルの任意の3箇所を集束イオンビームにより加工し、観察用サンプルを作製した後、走査イオン顕微鏡を用いて該観察用サンプルのSIM像を撮影し、式撮像したSIM像から、式(1)に基づいて、Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面においてFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している割合を求め、3箇所の平均値を算出することで導出した。
式(1):Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面においてFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している割合=(Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面のうち、Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している箇所の長さ)÷(観察視野での界面の長さ)×100(%)
各サンプルの、Fe系電気めっき層の付着量、並びに、Fe系電気めっき層及びSi含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合については、表2に示す。
また、焼鈍については、表2に示す露点を有し、表2に示す含有量で水素を含有する窒素雰囲気において、温度が800℃になるように焼鈍した。なお、Fe系電気めっきと焼鈍とのいずれが先に実施されたかについても表2に示す。
<評価>
上記のように得られたFe系電気めっき鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
(1)化成処理性
各サンプルのFe系電気めっき鋼板から採取した試験片に、日本パーカライジング社製の脱脂剤:FC-E2011、表面調整剤:PL-Z及び化成処理剤:パルボンドPB-SX35を用いて、下記の標準条件で、化成処理皮膜付着量が2.0~3.0g/mとなるよう化成処理を施した。
(化成処理条件)
・脱脂工程:処理温度43°C、処理時間120秒
・スプレー脱脂、表面調整工程:pH9.5、処理温度室温、処理時間20秒
・化成処理工程:化成処理液の温度35℃、処理時間90秒
(化成処理性評価)
化成処理を施した各試験片(n=1)の表面を、倍率×1000倍にてSEM観察し、以下の基準に従って評価を行った。
◎ : 化成結晶の粒径が5μm以下かつ未析出部が認められない
○ : 化成結晶の粒径が5μm以上だが、未析出部が認められない
× : 化成結晶の粒径が5μm以上かつ未析出部が認められる
(2)耐食性
上記(1)化成処理性の評価の際と同様の条件で化成処理を施した試験片の表面に、関西ペイント社製の電着塗料:GT-100を用いて、膜厚が15μmとなるように電着塗装を施し、下記の腐食試験に供した。
(塩温水浸漬試験条件)
化成処理および電着塗装を施した上記試験片(n=1)の表面に、カッターで長さ45mmのクロスカット疵を付与した後、この試験片を、5mass%NaCl溶液(60℃)に360時間浸漬し、その後、水洗し、乾燥した。
(耐食性評価)
カット疵部に粘着テープを貼り付けた後、引き剥がすテープ剥離試験を行い、カット疵部左右を合わせた最大剥離全幅を測定し、以下の基準に従って評価を行った。
◎ : 最大剥離全幅が3.0mm以下
○ : 最大剥離全幅が5.0mm以下
× : 最大剥離全幅が5.0mm越え
(3)耐遅れ破壊特性
(3-1)鋼中の水素含有量
各サンプルのFe系電気めっき鋼板について、試験片の温度が上昇し、鋼中水素が抜けるのを抑制する目的で、焼鈍後の試験片を液体窒素に保管した。
その後、試験片をAr雰囲気中で100℃/sの昇温速度で250℃まで昇温し、放出された水素ガスを、ガスクロマトグラフィーで定量測定した。
(3-2)遅れ破壊特性評価
各サンプルのFe系電気めっき鋼板について、所定の応力が曲げ先端に生じるようにボルトで締め込んだ状態(図4を参照)で、図3に示すように、温度10℃、塩分付着量10000mg/mの条件で、40日間に渡って乾湿繰り返し工程(相対湿度30%と90%を各2時間繰り返し、1サイクル8時間の条件で、塩水付与を2回/週を行う工程)を実施した際の割れ発生の有無を確認した。評価は、以下の基準により評価した。
○:40日間割れの発生なし
×:割れの発生あり
(4)引張強さ(TS)
各サンプルのFe系電気めっき鋼板から、圧延方向に対して直角方向にJIS5号引張試験片(JIS Z 2201)を採取し、引張速度(クロスヘッドスピード)10mm/minで引張試験を行った。引張強さTSは、引張試験における最大荷重を初期の試験片平行部断面積で除した値とした。平行部の断面積算出における板厚は、めっき厚込みの板厚値を用いた。
Figure 2022180344000001
Figure 2022180344000002
表2の結果から、本発明例のサンプルは、いずれも、化成処理性及び耐食性が良好であり、Fe電気めっき後に焼鈍したことで、鋼中水素も少なく、耐遅れ破壊特性も優れていることがわかる。また、本発明例は、いずれも、Fe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との界面においてFe系電気めっき層とSi含有冷延鋼板との結晶方位が一体化している割合が50%以上であった。
本発明によれば、優れた化成処理性及び塗装後耐食性を有するとともに、耐遅れ破壊特性に優れるFe系電気めっき高強度鋼板及びその製造方法を提供できる。

Claims (8)

  1. Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板と、
    該Si含有冷延鋼板の少なくとも片面に形成された、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/mである、Fe系電気めっき層と、を備え、
    鋼中拡散性水素の含有量が、0.25質量ppm以下であることを特徴とする、Fe系電気めっき高強度鋼板。
  2. 前記Si含有冷延鋼板が、980MPa以上の引張強度を有することを特徴とする、請求項1に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
  3. 前記Fe系電気めっき層と前記Si含有冷延鋼板との界面における、前記Fe系電気めっき層及び前記Si含有冷延鋼板の結晶方位が一体化している割合が50%超であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
  4. 前記Si含有冷延鋼板は、質量%で、
    Si:0.5~3.0%、
    C:0.8%以下、
    Mn:1.5~3.5%、
    P:0.1%以下、
    S:0.03%以下、及び、
    Al:0.1%以下
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
  5. 前記Si含有冷延鋼板の組成は、さらに、質量%で、
    B:0.005%以下、
    Ti:0.2%以下、
    N:0.010%以下、
    Cr:1.0%以下、
    Cu:1.0%以下、
    Ni:1.0%以下、
    Mo:1.0%以下、
    Nb:0.20%以下、
    V:0.5%以下、
    Sb:0.200%以下、
    Ta:0.1%以下、
    W:0.5%以下、
    Zr:0.1%以下、
    Sn:0.20%以下、
    Ca:0.005%以下、
    Mg:0.005%以下、及び、
    REM:0.005%以下
    からなる群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする、請求項4に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
  6. 前記Fe系電気めっき層は、B、C、P、N、O、Ni、Mn、Mo、Zn、W、Pb、Sn、Cr、V及びCoからなる群から選択される一種以上の元素を、合計で10質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のFe系電気めっき高強度鋼板。
  7. Siを0.5~3.0質量%含む、Si含有冷延鋼板に、Fe系電気めっきを施して、片面あたりの付着量が1.0~20.0g/mのFe系電気めっき層が少なくとも片面に形成された、焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を得る工程と、
    前記焼鈍前Fe系電気めっき鋼板を、露点-30℃以下、水素濃度8体積%以下の雰囲気下で焼鈍して、Fe系電気めっき鋼板を得る工程と、
    を含むことを特徴とする、Fe系電気めっき鋼板の製造方法。
  8. 前記焼鈍時の雰囲気は、露点が-40℃以下、水素濃度が5体積%以下であることを特徴とする、請求項7に記載のFe系電気めっき鋼板の製造方法。
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