JP2022171393A - 転がり軸受 - Google Patents

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Yusuke Yamada
正典 上野
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Miyu Sato
則暁 三輪
Noriaki Miwa
力 大木
Tsutomu Oki
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Abstract

【課題】水素脆性に対する耐久性が改善された、風力発電機用増速機に用いられる転がり軸受を提供する。【解決手段】転がり軸受は、内輪と、外輪と、転動体とを備える。転がり軸受は、風力発電機用増速機の構成部材を支持する。内輪、外輪及び転動体の少なくともいずれかは、鋼製であり、かつ表面からの距離が20μmまでの領域である表層部を有している。鋼は、0.70質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.35質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上0.60質量パーセント以下のマンガンと、1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物である。【選択図】図2

Description

本発明は、転がり軸受に関する。
特許文献1(特許第5489111号公報)には、軸受部品が記載されている。特許文献1に記載の軸受部品は、鋼製の加工対象部材に対して、浸窒、焼入れ及び焼戻しを行うことにより形成されている。特許文献1に記載の軸受部品では、表層部の鋼中にセメンタイトが分散されているため、高い耐摩耗性を有している。
特許文献2(特許第6023422号公報)には、軸受部品が記載されている。特許文献2に記載の軸受部品は、鋼製の加工対象部材に対して、浸窒、焼入れ及び焼戻しを行うことにより形成されている。特許文献2に記載の軸受部品では、表層部の鋼中における残留オーステナイト量が大きいため、異物混入潤滑下における圧痕起点型剥離に対する耐久性が高い。
特許文献3(特開2007-263357号公報)には、風力発電機用増速機が記載されている。特許文献3に記載の風力発電機用増速機は、遊星歯車装置を備えている。遊星歯車装置では、遊星歯車が軸受を介して遊星軸に回転自在に支持されている。
特許第5489111号公報 特許第6023422号公報 特開2007-263357号公報
本発明者らが鋭意検討したところ、特許文献1に記載の軸受部品及び特許文献2に記載の軸受部品は、耐久性にさらに改善の余地がある。特に、特許文献1に記載の軸受部品及び特許文献2に記載の軸受部品を用いた転がり軸受を、特許文献3に記載の風力発電機用増速機に適用した場合の耐久性に改善の余地がある。具体的には、風力発電機用増速機に使用される転がり軸受には、20年以上の設計寿命が要求される。そこで、当該転がり軸受としては、負荷容量を大きくするため転動体サイズの大きな軸受が用いられる。一方、風力発電機では気象条件によって発電トルクが変動し、転がり軸受に負荷される荷重も変動する。このとき、転がり軸受に負荷される当該荷重が、転動体が転がるために必要な必要最小限荷重に満たない場合が発生する。このとき、転がり軸受において転動体と軌道面との間に滑りが発生する場合がある。当該滑りにより、転動体と軌道面との間に油膜切れが生じ、金属接触が発生する場合がある。この結果、転動体または軌道面には新生面が発生する。このような新生面から転動体などを構成する鋼材の内部に水素が侵入すると、水素脆性に起因した早期剥離が生じやすい。
また、当用途では、主として、増速機において、遊星歯車を支持する円筒ころ軸受、出力軸を支持する円筒ころ軸受が用いられる。遊星歯車を支持する円筒ころ軸受においては、変形し転動体のスキューや片当たりにより比較的滑りが発生しやすい場合がある。また、高速回転する出力軸を支持する円筒ころ軸受においては、高速回転で使用されることから、回転速度やトルク変動(軸受荷重)に追従できず、軸受の転動体と軌道面との間で滑りが発生し摩耗が促進され水素脆性剥離が生じやすい条件となる場合がある。
風力発電の場合、風の状況によっては、長い間、回転せずに停止している場合もある。その場合、軸受への給油が停止し、軸受中に潤滑油が殆どない状態になってしまっている。このような、長時間停止状態にあって潤滑油が殆どない状態となっている軸受が、風の状況の変化によって突然に回転することになる。そのため潤滑不良により、金属接触が発生し、水素脆性が発生しやすい状況になることもある。
上述の軌道面と転動体の滑りや潤滑状態によって生じる水素脆性はく離は、風力発電設備、機器、それらに使用する軸受の設計段階で予知することが極めて困難であり、また軸受などの構造面での対策も難しい。一方で、耐水素脆性を改善し、風力発電設備の信頼性を向上させたいニーズもあり、軸受に表面処理を施して対応する場合がある。
本発明は、風力発電機用増速機に用いられる転がり軸受において、水素脆性に対する耐久性を改善するものである。
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、転動体とを備える。転がり軸受は、風力発電機用増速機の構成部材を支持する。内輪、外輪及び転動体の少なくともいずれかは、鋼製であり、かつ、表面からの距離が20μmまでの領域である表層部を有している。鋼は、0.70質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.35質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上0.60質量パーセント以下のマンガンと、1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物である。表層部の鋼は、マルテンサイトブロック粒と、析出物とを有する。析出物は、クロム若しくはバナジウムを主成分とする窒化物又はクロム若しくはバナジウムを主成分とする炭窒化物である。表層部の鋼中において、比較面積率が30パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径は、2.0μm以下である。
上記転がり軸受は、静定格荷重に対する、等価荷重の割合が0.04%以下となる条件で使用されてもよい。上記転がり軸受は、油膜パラメータが0.5以上10以下となる条件で使用されてもよい。
上記転がり軸受は、円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、四点接触玉軸受などを含む玉軸受など、各種の転がり軸受であってもよい。上記転がり軸受では、表面には浸窒処理が行われていてもよい。
上記転がり軸受では、鋼が、0.90質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.20質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のシリコンと、0.40質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のマンガンと、1.40質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.20質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のバナジウムと、0.10質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物であってもよい。
上記転がり軸受では、表層部の鋼中における析出物の面積率が、2.0パーセント以上であってもよい。
上記転がり軸受では、表層部の鋼中において、析出物の最大粒径が、0.5μm以下であってもよい。
上記転がり軸受では、表層部の鋼が、セメンタイトをさらに有していてもよい。表層部の鋼中において、セメンタイトの最大粒径は、1.5μm以下であってもよい。
上記転がり軸受では、表層部の鋼中における窒素濃度が、0.15質量パーセント以上であってもよい。
上記転がり軸受では、表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼中の残留オーステナイトの体積比が、15パーセント以上であってもよい。
上記転がり軸受では、表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼の硬さが、58HRC以上であってもよい。
上記転がり軸受では、表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼中の残留オーステナイトの体積比が、25パーセント以上35パーセント以下であってもよい。表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼の硬さが、58HRC以上64HRC以下であってもよい。
本発明の転がり軸受によると、風力発電機用増速機に用いられる転がり軸受において、水素脆性に対する耐久性を改善することができる。
内輪10の断面図である。 図1中のIIにおける拡大図である。 内輪10の製造方法を示す工程図である。 転がり軸受100の断面図である。 転がり軸受100Aの断面図である。 風力発電機用増速機300の断面図である。 サンプル1の軌道盤の軌道面近傍における窒素濃度及び炭素濃度の測定結果を示すグラフである。 サンプル2の軌道盤の軌道面近傍における窒素濃度及び炭素濃度の測定結果を示すグラフである。 サンプル1の軌道盤の表層部におけるSEM画像である。 サンプル2の軌道盤の表層部におけるSEM画像である。 サンプル1の軌道盤の表層部におけるEBSDの相マップである。 サンプル2の軌道盤の表層部におけるEBSDの相マップである。 サンプル3の軌道盤の表層部におけるEBSDの相マップである。 サンプル1~サンプル3の軌道盤の表層部におけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径を示す棒グラフである。 転動疲労寿命試験の結果を示すグラフである。
本発明の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。ここでは、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
実施形態に係る軸受部品は、例えば、転がり軸受の内輪10である。以下においては、内輪10を実施形態に係る軸受部品の例として説明する。但し、実施形態に係る軸受部品は、これに限られない。実施形態に係る軸受部品は、転がり軸受の外輪又は転がり軸受の転動体であってもよい。
(内輪10の構成)
図1は、内輪10の断面図である。図1に示されるように、内輪10は、リング状である。内輪10の中心軸を、中心軸Aとする。内輪10は、幅面10aと、幅面10bと、内周面10cと、外周面10dとを有している。幅面10a、幅面10b、内周面10c及び外周面10dは、内輪10の表面を構成している。
以下においては、中心軸Aの方向を、軸方向とする。また、以下においては、軸方向に沿って見た際に中心軸Aを中心とする円周に沿う方向を、周方向とする。さらに、以下においては、軸方向に直交する方向を、径方向とする。
幅面10a及び幅面10bは、軸方向における内輪10の端面である。幅面10bは、軸方向における幅面10aの反対面である。
内周面10cは、周方向に延在している。内周面10cは、中心軸A側を向いている。内周面10cは、軸方向における一方端で幅面10aに連なっており、軸方向における他方端で幅面10bに連なっている。内輪10は、内周面10cにおいて、軸(図示せず)に嵌め合わされる。
外周面10dは、周方向に延在している。外周面10dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外周面10dは、径方向における内周面10cの反対面である。外周面10dは、軸方向における一方端で幅面10aに連なっており、軸方向における他方端で幅面10bに連なっている。
外周面10dは、軌道面10daを有している。軌道面10daは、周方向に延在している。外周面10dは、軌道面10daにおいて、内周面10c側に窪んでいる。断面視において、軌道面10daは、部分円形状である。軌道面10daは、軸方向において外周面10dの中央にある。軌道面10daは、転動体(図1中において図示せず)に接触する外周面10dの一部である。
内輪10は、鋼製である。より具体的には、内輪10は、焼入れ及び焼戻しが行われている鋼製である。内輪10を構成している鋼は、0.70質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素、0.15質量パーセント以上0.35質量パーセント以下のシリコン、0.30質量パーセント以上0.60質量パーセント以下のマンガン、1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロム、0.50質量パーセント以下のバナジウム及び0.50質量パーセント以下のモリブデンを含んでいる。なお、この鋼では、モリブデンの含有量は0.01質量パーセント以上であり、バナジウムの含有量は0.01質量パーセント以上である。
内輪10を構成している鋼中の炭素が0.70質量パーセント以上であるのは、硬さを改善するためである。内輪10を構成している鋼中の炭素が1.10質量パーセント以下であるのは、焼割れを抑制するためである。
内輪10を構成している鋼中のシリコンが0.15質量パーセント以上であるのは、焼戻し軟化抵抗を高めるため及び加工性を改善するためである。内輪10を構成している鋼中のシリコンが0.35質量パーセント以下であるのは、シリコン量が過剰となると加工性がかえって低下するためである。
内輪10を構成している鋼中のマンガンが0.30質量パーセント以上であるのは、焼入れ性確保のためである。内輪10を構成している鋼中のマンガンが0.60質量パーセント以下であるのは、マンガン量が過剰となると鋼中にマンガン系の非金属介在物が増加するためである。
内輪10を構成している鋼中のクロムが1.30質量パーセント以上であるのは、焼入れ性を確保するため並びに窒化物及び炭窒化物を形成させるためである。内輪10を構成している鋼中のクロムが1.60質量パーセント以下であるのは、粗大な析出物が形成されることを抑制するためである。
内輪10を構成している鋼中にバナジウムが含まれているのは、窒化物及び炭窒化物を微細化するためである。内輪10を構成している鋼中のバナジウムが0.50質量パーセント以下であるのは、バナジウム添加に伴うコスト増大を抑制するためである。
内輪10を構成している鋼中にモリブデンが含まれているのは、窒化物及び炭窒化物を微細化するため並びに焼入れ性の改善のためである。内輪10を構成している鋼中のモリブデンが0.50質量パーセント以下であるのは、モリブデン添加に伴うコスト増大を抑制するためである。
内輪10を構成している鋼は、0.90質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素、0.20質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のシリコン、0.40質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のマンガン、1.40質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロム、0.20質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のバナジウム、0.10質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のモリブデンを含んでいてもよい。なお、内輪10を構成している鋼の残部は、鉄及び不可避不純物である。
図2は、図1中のIIにおける拡大図である。図2に示されるように、内輪10では、表面からの距離が20μmまでの領域が、表層部11になっている。内輪10の表面に対しては、例えば、浸窒処理が行われている。その結果、表層部11の鋼中における窒素濃度は、例えば、0.15質量パーセント以上になっている。表層部11の鋼中における窒素濃度は、0.20質量パーセント以上0.30質量パーセント以下であることが好ましい。表層部11の鋼中における窒素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
表層部11の鋼中には、析出物が分散している。析出物は、クロム若しくはバナジウムを主成分とする窒化物又はクロム若しくはバナジウムを主成分とする炭窒化物である。
クロム(バナジウム)を主成分とする窒化物は、クロム(バナジウム)の窒化物又は当該窒化物中のクロム(バナジウム)のサイトの一部がクロム(バナジウム)以外の合金元素により置換されているものである。
クロム(バナジウム)を主成分とする炭窒化物は、クロム(バナジウム)の炭化物中の炭素のサイトの一部が窒素により置換されているものである。クロム(バナジウム)を主成分とする炭窒化物のクロム(バナジウム)のサイトは、クロム(バナジウム)以外の合金元素により置換されていてもよい。
表層部11の鋼中において、析出物の面積率は、2.0パーセント以下であることが好ましい。表層部11の鋼中において、析出物の最大粒径は、0.5μm以下であることが好ましい。
表層部11の鋼中における析出物の面積率及び最大粒径は、以下の方法により測定される。第1に、表層部11を含む内輪10の断面において、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて断面画像(以下「SEM画像」とする)が取得される。このSEM画像を取得する際の倍率は、15000倍とされる。
第2に、取得されたSEM画像に対して、画像処理が行われる。より具体的には、SEM画像中において析出物は白色に見えるため、SEM画像中において白色になっている部分の各々の面積及び合計の面積を、画像処理により算出する。
SEM画像中において白色になっている部分の合計面積は、表層部11の鋼中における析出物の面積率と見做される。SEM画像中において白色になっている各々の部分の面積の最大値をπ/4で除した値の平方根が、表層部11の鋼中における析出物の最大粒径と見做される。
表層部11の鋼中には、セメンタイト(FeC)がさらに分散していてもよい。セメンタイト中の鉄のサイトの一部は合金元素により置換されていてもよく、セメンタイト中の炭素のサイトの一部は窒素により置換されていてもよい。表層部11の鋼中におけるセメンタイトの最大粒径は、1.5μm以下であることが好ましい。
表層部11の鋼中におけるセメンタイトの最大粒径は、以下の方法により測定される。第1に、表層部11を含む内輪10の断面において、SEM画像が取得される。このSEM画像を取得する際の倍率は、15000倍とされる。第2に、取得されたSEM画像に対して、画像処理が行われる。より具体的には、SEM画像中においてセメンタイトは楕円状の灰色に見えるため、SEM画像中において楕円状の灰色になっている部分の各々の面積を、画像処理により算出する。そして、SEM画像中において楕円状の灰色になっている各々の部分の面積の最大値をπ/4で除した値の平方根が、表層部11の鋼中におけるセメンタイトの最大粒径と見做される。
内輪10の表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼中の残留オーステナイトの体積比は、15パーセント以上であることが好ましい。内輪10の表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼中の残留オーステナイトの体積比は、25パーセント以上35パーセント以下であることがさらに好ましい。
鋼中の残留オーステナイトの体積比は、X線回折法により測定される。すなわち、オーステナイトのX線回折における回折ピークの積分強度とオーステナイト以外の相のX線回折における回折ピークの積分強度とを比較することにより、鋼中の残留オーステナイトの体積比が算出される。
内輪10の表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼の硬さは、58HRC以上であることが好ましい。内輪10の表面からの距離が50μmとなる位置において、鋼の硬さは、58HRC以上64HRC以下であることがさらに好ましい。鋼の硬さは、JIS規格(JIS Z 2245:2016)に定められたロックウェル硬さ試験法にしたがって測定される。
表層部11の鋼は、マルテンサイトブロック粒を有している。隣り合う2つのマルテンサイトブロック粒は、粒界において、結晶方位の差が15°以上になっている。このことを別の観点から言えば、結晶方位にずれがある箇所が存在していても、結晶方位の差が15°未満である場合、当該箇所は、マルテンサイトブロック粒の結晶粒界とは見做されない。マルテンサイトブロック粒の粒界は、EBSD(Electron Back Scattered Diffraction)法により決定される。
表層部11の鋼中において、比較面積率が30パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径は、2.0μm以下である。表層部11の鋼中において、比較面積率が50パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径は、1.5μm以下であることが好ましい。
比較面積率が30パーセント(50パーセント)でのマルテンサイトブロック粒の平均粒径は、以下の方法により測定される。第1に、表層部11を含む内輪10の断面において、断面観察が行われる。この際、EBSD法により、観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒が特定される。この観察視野は、50μm×45μmの領域とされる。第2に、EBSD法により得られた結晶方位データから、観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒の各々の面積が解析される。
第3に、観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒の各々の面積を、面積が大きいものから順に加算していく。この加算は、観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒の合計面積の30パーセント(50パーセント)に達するまで行われる。上記の加算の対象になったマルテンサイトブロック粒の各々について、円相当径が算出される。この円相当径は、マルテンサイトブロック粒の面積をπ/4で除した値の平方根である。上記の加算の対象になったマルテンサイトブロック粒の円相当径の平均値が、比較面積率が30パーセント(50パーセント)でのマルテンサイトブロック粒の平均粒径と見做される。
(内輪10の製造方法)
図3は、内輪10の製造方法を示す工程図である。図3に示されるように、内輪10の製造方法は、準備工程S1と、浸窒工程S2と、焼入れ工程S3と、焼戻し工程S4と、後処理工程S5とを有している。浸窒工程S2は、準備工程S1の後に行われる。焼入れ工程S3は、浸窒工程S2の後に行われる。焼戻し工程S4は、焼入れ工程S3の後に行われる。後処理工程S5は、焼戻し工程S4の後に行われる。
準備工程S1では、加工対象部材が準備される。加工対象部材は、内輪10と同じ鋼で形成されているリング状の部材である。
浸窒工程S2では、加工対象部材の表面に対して、浸窒処理が行われる。浸窒処理は、加工対象部材を、窒素源(例えば、アンモニア)を含む雰囲気中において、加工対象部材を構成している鋼のA変態点以上の温度で保持することにより行われる。
焼入れ工程S3では、加工対象部材に対して、焼入れが行われる。焼入れは、加工対象部材を、加工対象部材を構成している鋼のA変態点以上の温度で保持し、その後に加工対象部材を構成している鋼のM変態点以下の温度まで急冷することにより行われる。焼入れ工程S3における加熱保持の温度は、浸窒工程S2における加熱保持の温度以下であることが好ましい。焼入れ工程S3は、2回行われてもよい。2回目の焼入れ工程S3における加熱保持温度は、1回目の焼入れ工程S3における加熱保持温度よりも低いことが好ましい。これにより、加工対象部材の表層部に、析出物が微細かつ多量に分散される。
焼戻し工程S4では、加工対象部材に対する焼戻しが行われる。焼戻しは、加工対象部材を、加工対象部材を構成している鋼のA変態点未満の温度で保持することにより行われる。後処理工程S5では、加工対象部材の表面に対する機械加工(研削、研磨)及び洗浄等が行われる。以上により、図1及び図2に示される構造の内輪10が形成される。
なお、表層部11の鋼中に析出物が微細かつ多量に分散されることにより、マルテンサイトブロック粒が大きくなりにくくなるため、表層部11の鋼中において、比較面積率30パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径が、2.0μm以下になる。
(内輪10の効果)
内輪10では、表層部11の鋼中において、比較面積率30パーセントでの平均粒径が2.0μm以下となるようにマルテンサイトブロック粒が微細化されている。その結果、内輪10では、表層部11が高靭性化により、転動体と接触する内輪10の表面(具体的には、軌道面10da)の剪断抵抗が改善されている。このように、内輪10によると、耐久性が改善されている。
表層部11の鋼中における析出物の面積率が2.0パーセント以上になっている場合、すなわち、表層部11の鋼中に析出物が高密度で分散している場合、転動体と接触する内輪10の表面(具体的には、軌道面10da)の剪断抵抗が改善されることにより、耐久性がさらに改善される。
表層部11の鋼中における析出物の最大粒径が0.5μmである場合、表層部11の鋼中に析出物が高密度かつ微細に分散しているため、耐摩耗性及び靱性が改善されることになり、内輪10の耐久性がさらに改善される。表層部11の鋼中におけるセメンタイトの最大粒径が1.5μm以下である場合、セメンタイトの微細な分散により、内輪10の耐摩耗性及び靱性がさらに改善される。
内輪10の表面からの距離が50μmとなる位置における鋼中の残留オーステナイトの体積比が15パーセント以上(25パーセント以上35パーセント以下)である場合、異物混入環境下での圧痕起点型剥離に対する耐久性が改善される。内輪10の表面からの距離が50μmとなる位置における鋼の硬さが58HRC以上(58HRC以上64HRC以下)である場合、内輪10の耐摩耗性がさらに改善される。
(実施形態に係る転がり軸受)
以下に、実施形態に係る転がり軸受(「転がり軸受100」とする)を説明する。
図4は、転がり軸受100の断面図である。図4に示されるように、転がり軸受100は、深溝玉軸受である。但し、転がり軸受100は、これに限られない。転がり軸受100は、例えば、スラスト玉軸受であってもよい。転がり軸受100は、内輪10と、外輪20と、転動体30と、保持器40とを有している。
外輪20は、幅面20aと、幅面20bと、内周面20cと、外周面20dとを有している。外輪20の表面は、幅面20a、幅面20b、内周面20c及び外周面20dにより構成されている。
幅面20a及び幅面20bは、軸方向における外輪20の端面である。幅面20bは、軸方向における幅面20aの反対面である。
内周面20cは、周方向に延在している。内周面20cは、中心軸A側を向いている。内周面20cは、軸方向における一方端で幅面20aに連なっており、軸方向における他方端で幅面20bに連なっている。外輪20は、内周面20cが外周面10dと対向するように配置されている。
内周面20cは、軌道面20caを有している。軌道面20caは、周方向に延在している。内周面20cは、軌道面20caにおいて、外周面20d側に窪んでいる。断面視において、軌道面20caは、部分円形状である。軌道面20caは、軸方向において内周面20cの中央にある。軌道面20caは、転動体30に接触する内周面20cの一部である。
外周面20dは、周方向に延在している。外周面20dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外周面20dは、径方向における内周面20cの反対面である。外周面20dは、軸方向における一方端で幅面20aに連なっており、軸方向における他方端で幅面20bに連なっている。外輪20は、外周面20dにおいて、ハウジング(図示せず)に嵌め合わされる。
転動体30は、球状である。転動体30は、外周面10d(軌道面10da)と内周面20c(軌道面20ca)との間に配置されている。保持器40は、リング状であり、外周面10dと内周面20cとの間に配置されている。保持器40は、周方向において隣り合う2つの転動体30の間隔が一定範囲内となるように、転動体30を保持している。
外輪20及び転動体30は、内輪10と同一の鋼で形成されていてもよい。また、外輪20の表層部(外輪20の表面からの距離が20μmまでの領域)及び転動体30の表層部(転動体30の表面からの距離が20μmまでの領域)は、表層部11と同一の構成になっていてもよい。
(変形例)
以下に、変形例に係る転がり軸受100(以下「転がり軸受100A」とする)を説明する。
図5は、転がり軸受100Aの断面図である。図5に示されるように、転がり軸受100Aは、円筒ころ軸受である。なお、転がり軸受100Aは、内輪110と、外輪120と、転動体130とを有している。
内輪110は、幅面110aと、幅面110bと、内周面110cと、外周面110dとを有している。幅面110a、幅面110b、内周面110c及び外周面110dは、内輪110の表面を構成している。
幅面110a及び幅面110bは、軸方向における内輪110の端面である。幅面110bは、軸方向における幅面110aの反対面である。
内周面110cは、周方向に延在している。内周面110cは、中心軸A側を向いている。内周面110cは、軸方向における一方端で幅面110aに連なっており、軸方向における他方端で幅面110bに連なっている。
外周面110dは、周方向に延在している。外周面110dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外周面110dは、径方向における内周面110cの反対面である。外周面110dは、軸方向における一方端で幅面110aに連なっており、軸方向における他方端で幅面110bに連なっている。外周面110dは、軌道面110daを有している。軌道面110daは、周方向に延在している。軌道面110daは、転動体130に接触する外周面110dの一部である。
外輪120は、幅面120aと、幅面120bと、内周面120cと、外周面120dとを有している。外輪120の表面は、幅面120a、幅面120b、内周面120c及び外周面120dにより構成されている。
幅面120a及び幅面120bは、軸方向における外輪120の端面である。幅面120bは、軸方向における幅面120aの反対面である。
内周面120cは、周方向に延在している。内周面120cは、中心軸A側を向いている。内周面120cは、軸方向における一方端で幅面120aに連なっており、軸方向における他方端で幅面120bに連なっている。外輪120は、内周面120cが外周面10dと対向するように配置されている。内周面120cは、軌道面120caを有している。軌道面120caは、周方向に延在している。軌道面120caは、転動体130に接触する内周面120cの一部である。
外周面120dは、周方向に延在している。外周面120dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外周面120dは、径方向における内周面120cの反対面である。外周面120dは、軸方向における一方端で幅面120aに連なっており、軸方向における他方端で幅面120bに連なっている。
転動体130は、円筒ころである。転動体130は、外周面110d(軌道面110da)と内周面120c(軌道面120ca)との間に配置されている。転動体130の外周面は、軌道面110da及び軌道面120caに接触する転動面130aである。
内輪110、外輪120及び転動体130は、内輪10と同一の鋼で形成されていてもよい。内輪110の表層部(内輪110の表面からの距離が20μmまでの領域)、外輪120の表層部(外輪120の表面からの距離が20μmまでの領域)及び転動体130の表層部(転動体130の表面からの距離が20μmまでの領域)は、表層部11と同一の構成になっていてもよい。
油膜パラメータは、たとえばh/{1.1×(Ra1 +Ra2 1/2}との式により算出される。なお、転動面130aと軌道面110da(軌道面120ca)との間の油膜厚さをh、転動面130aの算術平均粗さをRa1、軌道面110da(軌道面120ca)の算術平均粗さをRa2とする。当該油膜パラメータが0.5以上10以下である場合においても、油膜切れが生じやすくなる可能性がある。
転がり軸受100Aは、例えば、風力発電機用増速機300に用いられる。図6は、風力発電機用増速機300の断面図である。図6に示されるように、風力発電機用増速機300は、遊星歯車装置303と、2次増速装置305と、ケーシング306とを主に備える。遊星歯車装置303は、入力軸301の回転を増速して低速軸302に伝達する。2次増速装置305は、低速軸302の回転をさらに増速して出力軸304に伝達する。遊星歯車装置303および2次増速装置305は、共通のケーシング306内に設けられている。入力軸301は風車(図示せず)の主軸(図示せず)等に接続される。出力軸304は発電機(図示せず)に接続される。
遊星歯車装置303では、旋回自在なキャリア307の周方向複数箇所に遊星軸310が設けられる。各遊星軸310に構成部材としての遊星歯車308が転がり軸受309を介して回転自在に支持されている。転がり軸受309は図5に示した本実施形態に係る転がり軸受100Aである。各遊星歯車308の転がり軸受309は、図示の例では2列に並べて用いているが、1列であってもよい。また、転がり軸受309は、3列、4列およびそれ以上の列数で用いられてもよい。キャリア307は、遊星歯車装置303における入力部となる部材である。キャリア307は、上記入力軸301と一体の部材として設けられる。キャリア307は、別部材を入力軸301と一体に結合することで構成してもよい。構成部材としてのキャリア307は、入力軸301のとの境界部において軸受311を介してケーシング306に旋回自在に支持されている。
キャリア307に支持された各遊星歯車308は、ケーシング306に設けられた内歯のリングギヤ312に噛み合う。各遊星歯車308は、リングギヤ312と同心位置に回転自在に設けられた太陽歯車313にも噛み合う。リングギヤ312は、ケーシング306に直接に形成されたものであっても、ケーシング306に固定されたものであってもよい。太陽歯車313は、遊星歯車装置303における出力部となる部品である。太陽歯車313は、上記低速軸302に設けられている。構成部材としての低速軸302は、軸受314,315を介してケーシング306に回転自在に支持されている。
2次増速装置305は、ギヤ列により構成されている。図示の例において、2次増速装置305では、低速軸302に固定されたギヤ317が中間軸321の小径側ギヤ318に噛み合う。中間軸321に設けられ大径側ギヤ319が出力軸304のギヤ320に噛み合う。上記ギヤ317、小径側ギヤ318、大径側ギヤ319、ギヤ320によりギヤ列が構成される。構成部材としての中間軸321および出力軸304は、それぞれ軸受322,323によってケーシング306に回転自在に支持されている。
転がり軸受309および軸受311,314,315、322、323としては、図5に示した転がり軸受100Aを適用してもよいが、他の任意の構成の転がり軸受を用いてもよい。たとえば、転がり軸受309などとして、保持器で円筒ころを保持器する形式や、保持器を用いない総ころ型の軸受を用いてもよい。転がり軸受309などの外輪は両鍔付きであり、内輪は鍔無しとされている。なお、転がり軸受309などにおいて、外輪を鍔無しとし、内輪を両鍔付きとしてもよい。また、転がり軸受309などの転動体である円筒ころは中実体であるが、転動体として中空形状の中空ころを用いてもよい。
上述した風力発電機用増速機300の動作を説明する。入力軸301が回転すると、入力軸301と一体のキャリア307が旋回する。この結果、キャリア307の複数箇所に支持された遊星歯車308が公転移動する。このとき各遊星歯車308は、固定のリングギヤ312に噛み合いながら公転することで、自転を生じる。このように公転しながら自転する遊星歯車308に太陽歯車313が噛み合っている。そのため、太陽歯車313は入力軸301に対して増速されて回転する。遊星歯車装置303の出力部となる太陽歯車313は、2次増速装置305の低速軸302に設けられている。このため、太陽歯車313の回転が2次増速装置305で増速されて出力軸304に伝えられる。このように、入力軸301に入力される風車主軸(図示せず)の回転が、遊星歯車装置303と2次増速装置305とで大幅に増幅されて出力軸304に伝えられる。この結果、出力軸304からは発電が可能な高速回転が得られる。
各遊星歯車308を支持する転がり軸受309の潤滑は、次のように行われる。遊星歯車308およびその転がり軸受309は、キャリア307の旋回により公転してケーシング6の底に位置した時に油浴316に浸かることで潤滑油が供給される。なお、遊星歯車308および転がり軸受309には循環給油により潤滑油が供給されてもよい。
ここで、風力発電機においては、風車のメンテナンス、あるいは無風状態の発生などによって長時間の停止が続く場合がある。このとき、転がり軸受309では潤滑油の供給が不足する場合がある。特に、風力発電機用増速機300は、前述のように気象状況により発電トルクが変化し、転がり軸受309および他の軸受などに荷重が加わらない状態が発生する。この結果、転がり軸受309の転動体と軌道面との間に滑りが生じ、当該転動体と軌道面との間に金属接触が発生する場合がある。
特に、使用する等価荷重が静定格荷重の0.04倍以下の場合、転動体と軌道面との間に滑りが生じ、上述のように転動体と軌道面との間に金属接触が発生する場合がある。なお、上述した静定格荷重とは基本静定格荷重を意味する。さらに、潤滑状態が、増速機用軸受において一般的な使用条件である、油膜パラメータΛが0.5以上10以下という条件においても、転動体と軌道面との間に金属接触が発生する場合がある。
また、上記のような風力発電機用増速機300に用いられ転がり軸受309では、変形によって転動体のスキューまたは片当たりによる滑りが発生し易くなる場合がある。さらに、高速回転する出力軸304を支持する軸受323は、出力軸304の高速回転によるトルク変動などに追従できず、転動体と軌道面との間で滑りが発生する場合がある。この場合も、転動体および軌道面の摩耗が促進され、水素脆性が発生する恐れがある。
これらの使用条件で用いられる風力発電機用増速機300用の転がり軸受309および軸受311,314,315、322、323に、本実施形態に係る転がり軸受100Aを適用する。本実施形態に係る転がり軸受100Aでは、上述のような組成の鋼材と浸窒処理との組合せにより、硬質かつ微細な析出物が表層組織に多数分散している。つまり、転がり軸受100Aでは、内輪110の表層部、外輪120の表層部及び転動体130の表層部の鋼中に析出物が高密度で分散しているため、油膜切れが発生しやすい条件下でも摩耗が進展しにくい。また、内輪110の表層部、外輪120の表層部及び転動体130の表層部の鋼中に分散している析出物が水素原子のトラップサイトになるため、内輪110の表層部、外輪120の表層部及び転動体130の表層部における水素拡散係数が小さくなる。そのため、転がり軸受100Aによると、水素脆性に起因した早期剥離現象の発生を抑制することができる。
また、転がり軸受100Aでは、内輪110、外輪120及び転動体130の表面の距離が50μmとなる位置において、鋼中の残留オーステナイトの体積比が15パーセント以上(25パーセント以上35パーセント以下)になっているため、異物混入環境下での圧痕起点型剥離に対する耐久性が改善される。
また、転がり軸受100Aでは、高度な浸窒処理が施されているため、耐異物性が強化され、異物混入潤滑条件下でも長寿命を保つことができる。さらに、潤滑環境由来の水素原子の発生が抑制され、応力負荷域への水素原子の到達も遅延される。この点からも、水素脆性に起因した早期剥離現象の発生を抑制できるともに、圧痕起点型の早期損傷に対する耐久性が改善される。
本実施形態では、図6に示す増速機について説明したが、本実施の形態に係る増速機は他の任意の構成としてもよい。たとえば、遊星歯車装置を2段等の複数段としたり、平行軸を複数段でなく1段にしたりしてもよい。これらの段数は適宜変更できる。また、遊星歯車装置と平行軸との組合せでなく、遊星歯車装置のみや、平行軸のみにより構成される増速機であってもよい。
(転動疲労寿命試験)
実施形態に係る軸受部品の効果(水素脆性の発生を抑制する効果)を確認するために、転動疲労寿命試験を行った。転動疲労寿命試験には、サンプル1、サンプル2及びサンプル3が用いられた。サンプル1~サンプル3は、JIS規格に定められている51106型番のスラスト玉軸受である。
サンプル1では、軌道盤(内輪及び外輪)が、第1鋼材により形成された。サンプル2及びサンプル3では、軌道盤が、第2鋼材により形成された。第1鋼材及び第2鋼材の組成は、表1に示されている。表1に示されるように、第1鋼材及び第2鋼材の成分は、モリブデン及びバナジウムの含有量を除いて、ほぼ同一である。なお、第2鋼材は、JIS規格に定められている高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2に対応している。
Figure 2022171393000002
図7は、サンプル1の軌道盤の軌道面近傍における窒素濃度及び炭素濃度の測定結果を示すグラフである。図8は、サンプル2の軌道盤の軌道面近傍における窒素濃度及び炭素濃度の測定結果を示すグラフである。図7及び図8の横軸は、軌道面からの距離(単位:mm)であり、図7及び図8の縦軸は、炭素又は窒素の濃度(単位:質量パーセント)である。図7及び図8に示されるように、サンプル1及びサンプル2では、軌道盤の表面に対して浸窒処理が行われた。この浸窒処理が行われる際の加熱保持温度は、850℃とされた。他方で、サンプル3では、軌道盤の表面に対して、浸窒処理が行われなかった。
表2には、サンプル1~サンプル3の軌道盤の表層部(軌道面からの距離が20μmまでの領域)における窒素濃度が示されている。表2に示されるように、サンプル1及びサンプル2の軌道盤の表層部の鋼中では、窒素濃度が0.3パーセント以上0.5パーセント以下であった。サンプル3の軌道盤の表層部の鋼中では、窒素濃度が0.0パーセントであった。
Figure 2022171393000003
サンプル1~サンプル3の軌道盤に対しては、焼入れ及び焼戻しが行われた。焼入れの際の加熱保持温度は、850℃とされた。焼戻しの際の加熱保持温度は、180℃とされた。焼戻しの際の加熱保持時間は、2時間とされた。
図9は、サンプル1の軌道盤の表層部におけるSEM画像である。図10は、サンプル2の軌道盤の表層部におけるSEM画像である。図9及び図10のSEM画像中において、白色の部分が析出物であり、楕円状の灰色の部分がセメンタイトである。
表3に示されるように、サンプル1の軌道盤の表層部の鋼中では、析出物の面積率は、2.7パーセントであった。表3に示されるように、サンプル2の表層部の鋼中では、析出物の面積率は、1.6パーセントであった。すなわち、サンプル1の軌道盤の表層部では、サンプル2の軌道盤の表層部と比較して、析出物が高密度に分散していた。この比較から、0.5質量パーセント以下のバナジウム及びモリブデンを添加することにより、軌道盤の表層部の鋼中において析出物が高密度に分散されることが明らかになった。
サンプル1の軌道盤の表層部では、析出物の最大粒径が、0.5μmであった。サンプル2の軌道盤の表層部では、析出物の最大粒径が、1.1μmであった。すなわち、サンプル1の軌道盤の表層部では、サンプル2の軌道盤の表層部と比較して、析出物が微細に分散していた。この比較から、0.5質量パーセント以下のバナジウム及びモリブデンを添加することにより、軌道盤の表層部の鋼中において析出物が高密度かつ微細に分散されることが明らかになった。
Figure 2022171393000004
表4に示されるように、サンプル1及びサンプル2の軌道盤の表層部では、セメンタイトの最大粒径が、1.5μm以下であった。サンプル3の軌道盤の表層部では、セメンタイトの最大粒径が、1.5μmを超えていた。
Figure 2022171393000005
表5に示されるように、サンプル1及びサンプル2では、軌道面からの距離が50μmとなる位置において、鋼中の残留オーステナイトの体積比が、15パーセント以上であった。サンプル3では、軌道面からの距離が50μmとなる位置において、鋼中の残留オーステナイトの体積比が、15パーセント未満であった。サンプル1~サンプル3では、軌道面からの距離が50μmとなる位置において、鋼の硬さが、58HRC以上であった。
Figure 2022171393000006
図11は、サンプル1の軌道盤の表層部におけるEBSDの相マップである。図12は、サンプル2の軌道盤の表層部におけるEBSDの相マップである。図13は、サンプル3の軌道盤の表層部におけるEBSDの相マップである。図11~図13中において、マルテンサイトブロック粒は、白色になっている。図14は、サンプル1~サンプル3の軌道盤の表層部におけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径を示す棒グラフである。図14のグラフの縦軸は、マルテンサイトブロック粒の平均粒径(単位:μm)である。
図11~図14に示されるように、サンプル1の軌道盤の表層部では、比較面積率が30パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径が、2.0μm以下であった。他方で、サンプル2及びサンプル2の軌道盤の表層部では、比較面積率が30パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径が、2.0μmを超えていた。
サンプル1の軌道盤の表層部では、比較面積率が50パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径が、1.5μm以下であった。他方で、サンプル2及びサンプル2の軌道盤の表層部では、比較面積率が50パーセントでのマルテンサイトブロック粒の平均粒径が、1.5μmを超えていた。
図15は、転動疲労寿命試験の結果を示すグラフである。なお、図15のグラフの横軸は寿命(単位:時間)を示しており、図15のグラフの縦軸は累積破損確率(単位:パーセント)を示している。転動疲労寿命試験は、表6に示されている条件で行われた。すなわち、転動体と軌道盤との最大接触面圧は2.3GPaとされ、軌道盤は0回転/分と2500回転/分との間で急速な加減速が行われ、潤滑液はポリグリコール油に純水を加えたものが用いられた。
Figure 2022171393000007
図15及び表7に示されるように、サンプル1は、サンプル2よりも優れた転動疲労寿命を示した。より具体的には、サンプル1のL10寿命(累積破損確率が10パーセントにとなる寿命)はサンプル3のL10寿命の2.7倍であり、サンプル2のL10寿命はサンプル3のL10寿命の2.1倍であった。
上記のとおり、サンプル1の軌道盤の表層部において、比較面積率が30パーセントでのマルテンサイト粒の平均粒径が2.0μm以下であった。他方で、サンプル2及びサンプル3の軌道盤の表層部において、比較面積率が30パーセントでのマルテンサイト粒の平均粒径が2.0μmを超えていた。この比較から、実施形態に係る軸受部品によると耐久性が改善されることが明らかになった。
Figure 2022171393000008
また、上記のとおり、サンプル1の軌道盤の表層部では、サンプル1の軌道盤の表層部では、サンプル2の軌道盤の表層部よりも析出物が微細かつ高密度に分散していた。この比較から、表層部における析出物の面積率及び最大粒径をそれぞれ2.0パーセント以上及び0.5μm以下とすることにより、実施形態に係る軸受部品の耐久性がさらに改善されることが明らかになった。
また、サンプル2のL10寿命は、サンプル3のL10寿命よりも長かった。上記のとおり、サンプル2の軌道盤の表層部ではセメンタイトの最大粒径が1.5μm以下であった一方で、サンプル3の軌道盤の表層部ではセメンタイトの最大粒径が1.5μmを超えていた。また、サンプル2の軌道盤では軌道面からの距離が50μmとなる位置における残留オーステナイトの体積比が15パーセント以上になっている一方で、サンプル3の軌道盤では軌道面からの距離が50μmとなる位置における残留オーステナイトの体積比が15パーセント未満になっていた。
この比較から、軸受部品の表層部においてセメンタイトの最大粒径を1.5μm以下にすること及び軸受部品の表面からの距離が50μmとなる位置において残留オーステナイトの体積比を15パーセント以上とすることにより、軸受部品の耐久性が改善されることが明らかになった。
(水素侵入特性に関する試験)
サンプル1及びサンプル3の軌道部材としての軌道盤(内輪及び外輪)の表層部への水素侵入特性を、以下の方法により評価した。この評価では、第1に、上記の転動疲労寿命試験に供される前のサンプル1及びサンプル3の軌道部材を室温から400℃まで加熱することにより、転動疲労寿命試験に供される前のサンプル1及びサンプル3の軌道部材からの水素放出量が測定された。第2に、転動疲労寿命試験に50時間供された後のサンプル1及びサンプル3の軌道部材を室温から400°まで加熱することにより、転動疲労寿命試験に50時間供された後のサンプル1及びサンプル3の軌道部材からの水素放出量が測定された。
サンプル3では、転動疲労寿命試験の前後での水素放出量の比(すなわち、転動疲労寿命試験に供された後の水素放出量を転動疲労寿命試験に供される前の水素放出量で除した値)が、3.2になっていた。他方で、サンプル1では、転動疲労寿命試験の前後での水素放出量の比が、0.9になっていた。この比較から、接触面に表層部11が形成されることにより表層部11への水素侵入が抑制され、水素脆性に起因した早期剥離が抑制されることが、実験的に明らかにされた。
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上記の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
本実施形態は、軸受部品及びそれを有する転がり軸受に特に有利に適用される。
10,110 内輪、10a,10b,20a,20b,110a,110b,120a,120b 幅面、10c,20c,110c,120c 内周面、10d,20d,110d,120d 外周面、10da,20ca,110da,120ca 軌道面、11 表層部、20,120 外輪、30,130 転動体、40 保持器、311,314,315,322,323 軸受、130a 転動面、300 風力発電機用増速機、301 入力軸、302 低速軸、303 遊星歯車装置、304 出力軸、305 2次増速装置、307 キャリア、308 遊星歯車、310 遊星軸、312 リングギヤ、313 太陽歯車、316 油浴、317,320 ギヤ、318 小径側ギヤ、319 大径側ギヤ、321 中間軸、100,100A,309 転がり軸受、A 中心軸、S1 準備工程、S2 浸窒工程、S3 焼入れ工程、S4 焼戻し工程、S5 後処理工程。

Claims (11)

  1. 内輪と、外輪と、転動体とを備え、風力発電機用増速機の構成部材を支持する転がり軸受であって、
    前記内輪、前記外輪及び前記転動体の少なくともいずれかは、鋼製であり、かつ表面からの距離が20μmまでの領域である表層部を有し、
    前記鋼は、0.70質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.35質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上0.60質量パーセント以下のマンガンと、1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物であり、
    前記表層部の前記鋼は、マルテンサイトブロック粒と、析出物とを有し、
    前記析出物は、クロム若しくはバナジウムを主成分とする窒化物又はクロム若しくはバナジウムを主成分とする炭窒化物であり、
    前記表層部の前記鋼中において、比較面積率が30パーセントでの前記マルテンサイトブロック粒の平均粒径は、2.0μm以下である、転がり軸受。
  2. 前記転がり軸受は、静定格荷重に対する、等価荷重の割合が0.04以下となる条件で使用される、請求項1に記載の転がり軸受。
  3. 前記転がり軸受は、油膜パラメータが0.5以上10以下となる条件で使用される、請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
  4. 前記鋼は、0.90質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.20質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のシリコンと、0.40質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のマンガンと、1.40質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.20質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のバナジウムと、0.10質量パーセント以上0.30質量パーセント以下のモリブデンとを含み、かつ残部が鉄及び不可避不純物である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  5. 前記表層部の前記鋼中における前記析出物の面積率は、2.0パーセント以上である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  6. 前記表層部の前記鋼中において、前記析出物の最大粒径は、0.5μm以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  7. 前記表層部の前記鋼は、セメンタイトをさらに有し、
    前記表層部の前記鋼中において、前記セメンタイトの最大粒径は、1.5μm以下である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  8. 前記表層部の前記鋼中における窒素濃度は、0.15質量パーセント以上である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  9. 前記表面からの距離が50μmとなる位置において、前記鋼中の残留オーステナイトの体積比は、15パーセント以上である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  10. 前記表面からの距離が50μmとなる位置において、前記鋼の硬さは、58HRC以上である、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  11. 前記表面からの距離が50μmとなる位置において、前記鋼中の残留オーステナイトの体積比は、25パーセント以上35パーセント以下であり、
    前記表面からの距離が50μmとなる位置において、前記鋼の硬さは、58HRC以上64HRC以下である、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の転がり軸受。
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