JP2022166239A - 検量線作成用の原液、標準液、分析対象液、及びそれらの製造方法 - Google Patents

検量線作成用の原液、標準液、分析対象液、及びそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】有機溶媒に含まれる水の分析を、広範囲の分野や業種の分析試料でも、分析に際しての信頼性を維持したうえで適用可能とする技術を提供する。【解決手段】水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、脱水有機溶媒に対して含水量に係る検量線の作成のために必要な量が添加された水とからなる、検量線作成用の原液及びその関連技術を提供する。【選択図】図4

Description

本発明は、検量線作成用の原液、標準液、分析対象液、及びそれらの製造方法に関する。
有機溶媒は、様々な分野や業種において、塗装、印刷、洗浄などの用途で広く用いられている。例えば、トリクロロエチレンに代表される塩素系有機溶媒は、脱脂洗浄能力にとても優れており、プレス加工品や各種金属部品の脱脂洗浄用として知られている。
これらの有機溶媒は、コスト面を理由として、回収後に再精製を行い再使用する場合も多いが、回収した有機溶媒中には一般的に水が含まれており、使用の目的によっては、かかる水を除去する必要がある。
例えば、非水系電解液を使用する電池を製造する際、材料由来の水分、或いは空気中の水分が非水系電解液へ僅かながら吸収されて、微量の水分でも影響を及ぼすことがある。
従って、有機溶媒に含まれる水の分析を行い、その含水量を微量濃度まで正確に把握することは、極めて重要である。
有機溶媒に含まれる水の分析方法については、古典的かつ常用的な方法として、特許文献1に記載されているカールフィッシャー滴定法が知られている。
特許文献2では、ガスクロマトグラフや、液体クロマトグラフを分析機器として用いた、順相液体クロマトグラフ(NPLC)による水の分析方法が紹介されている。
特許文献2には、周囲からの水が標準液体を汚染する傾向があるため、比較的低い濃度(例えば、1ppmの範囲)での水の測定のために、化学分析機器を較正することは困難であると記載されている。
その結果、工程(b)<参照水分析工程>の水分析方法としてカールフィッシャー滴定法を適用し、その分析結果を基に、後の工程(d)<分析機器較正工程>において、ガスクロマトグラフ装置の較正を行っている。
特許文献3では、振動式密度比重計による有機溶剤中の水分測定方法が紹介されている。この方法は、予め、有機溶剤における含水量の変化に対する密度の変化を、振動式密度比重計により測定し、含水量と密度の相関式を求めておくことで、分析サンプルの密度測定値を相関式に当てはめて水分濃度を算出するものである。なお、特許文献3においても含水量の変化をカールフィッシャー滴定法で分析している。
特許文献4では、固体試料の付着水分を、クロロホルム<CHCl3>に抽出した後、クロロホルムの水分測定に、カールフィッシャー滴定法又は核磁気共鳴分光法(以降、NMRとも称する。)を用いる分析方法が紹介されている(特許文献4の請求項1等)。
特許文献4に記載の技術では、固体試料の種類によって存在し得るヒドロキシル基(水酸基、OH)や結晶水の影響を避けるため、固体試料を直接分析するのではなく、付着水分のみを有機溶媒に抽出した上で、その有機溶媒の水分率測定を行っている(特許文献4の[0006]~[0008]等)。
特開昭60-55261号公報 特開2005-501255号公報 特開平10-318900号公報 特開2017-102045号公報
特許文献1~4をはじめ、有機溶媒に含まれる水の分析に関しては標準液を要する場合が多い。
例えば特許文献1~4に記載のカールフィッシャー滴定法の場合、カールフィッシャー滴定値が正しい値を示しているかどうかを確認するチェック試料として標準液を用いるほか、原液や標準液の一定量を分析対象試料に添加し、添加した分の水が上乗せされて検出されるかどうかを確認する添加回収率試験用試料として標準液を用いることがある(これらについては、「分析対象液」として後で詳しく説明する)。特許文献4に記載されたNMRを用いる手法の場合、検量線の作成のための標準液が使用される。
ただし、上記標準液は、測定手法及び測定対象試料に応じて、それぞれ異なったものが用意されているのが通常であり、汎用性に乏しい。
例えばカールフィッシャー滴定法のためのチェック試料や添加回収率試験用試料としては、測定対象試料に応じた所定の物質を使用するのが通常である。
また、特許文献4では、NMRのスペクトルの水ピークから検量線を作成する際に、標準液として超脱水されたクロロホルムを採用したうえで所定量の水を添加したものを使用している。その一方で、金属水酸化物に付着した水の量を定量すべく金属水酸化物と接触させる有機溶媒としては、同じく超脱水されたクロロホルムを使用する例しか記載が無い。つまり、含水量の分析対象となる有機溶媒試料と標準液とで、構成される有機溶媒は全く同一とし、しかも、特許文献4に記載されたような、同一の前処理を施す操作を経て、定量を行っている。
そのように標準液として使用する物質の選択肢を、NMRに適用できる物質へと狭めたうえ、更に、分析対象となる有機溶媒試料を構成する有機溶媒と全く同一、かつ同一の前処理操作としなければならないという大きな制限が課せられている。それにもかかわらず、特許文献4の図2に記載された検量線は一次式とは程遠く、高相関の検量線(一次式)が得られているとは言えず、分析に際しての信頼性を維持できているとは言えない。
つまり、広範囲の分野や業種の分析試料にも、分析に際しての信頼性を維持し且つ広範囲で適用可能な標準液や有機溶媒試料、及びその製造方法が、未だ開発されていないのが現状である。
本発明は、上記の点に着目して成されたものであり、有機溶媒に含まれる水の分析を、広範囲の分野や業種の分析試料でも、分析に際しての信頼性を維持したうえで適用可能とする技術を提供することを目的とする。
上記の知見に基づいて成された、本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、前記脱水有機溶媒に対して含水量に係る検量線の作成のために必要な量が添加された水とからなる、検量線作成用の原液であることを特徴とする、検量線作成用の原液である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記脱水有機溶媒がエタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサンの1種以上からなることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の発明において、
水の調製濃度が1000ppm以上100000ppm以下であることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記脱水有機溶媒におけるヒドロキシル基の含有量が37質量%以下であることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の発明において、
前記脱水有機溶媒の誘電率が5.0以上であることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれかの態様に記載の発明において、
一次式の検量線を作成した際の寄与率が0.96以上であることを特徴とする。
本発明の第7の態様は、
第1~第6のいずれかの態様に記載の原液と、希釈用有機溶媒とからなることを特徴とする、検量線作成用の標準液である。
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の発明において、
水の調製濃度が1ppm以上2000ppm以下であることを特徴とする。
本発明の第9の態様は、第7又は第8の態様に記載の発明において、
前記標準液におけるヒドロキシル基の含有量が7.4質量%以下であることを特徴とする。
本発明の第10の態様は、第7~第9のいずれかの態様に記載の発明において、
前記標準液の誘電率が5.0未満であることを特徴とする。
本発明の第11の態様は、第7~第10のいずれかの態様に記載の発明において、
前記希釈用有機溶媒の含水量が50ppm以下であることを特徴とする。
本発明の第12の態様は、第7~第11のいずれかの態様に記載の発明において、
一次式の検量線を作成した際の寄与率が0.96以上であることを特徴とする。
本発明の第13の態様は、
水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、前記脱水有機溶媒に対して含水量に係る検量線の作成のために必要な量が添加された水とを混合することを特徴とする、検量線作成用の原液の製造方法である。
本発明の第14の態様は、
第13の態様に記載の原液の製造方法により得られた原液と、希釈用有機溶媒とを混合することを特徴とする、検量線作成用の標準液の製造方法である。
本発明の第15の態様は、
水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、前記脱水有機溶媒に対して含水量の分析に必要な量が添加された水とからなることを特徴とする、分析対象液である。
本発明の第16の態様は、第15の態様に記載の態様において、
カールフィッシャー滴定法、近赤外線吸収法、誘電率測定法、マイクロ波吸収法、放射線法、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量法、振動式密度比重計法、核磁気共鳴分光法のいずれかの分析方法に用いられることを特徴とする。
本発明の第17の態様は、
水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒に対して含水量の分析に必要な量の水を混合して分析対象液を得ることを特徴とする、分析対象液の製造方法である。
本発明の第18の態様は、
標準添加法用の分析対象液の製造方法であって、
1つの有機溶媒試料から所定量を分取した複数の併行試料を準備し、かつ、第1~第6のいずれかの態様に記載の検量線作成用の原液、又は、第7~第12のいずれかの態様に記載の検量線作成用の標準液を準備し、前記併行試料の各々に対して、前記検量線作成用の原液、又は、前記検量線作成用の標準液を段階的に添加し、濃度の異なった複数の分析検体液を得ることを特徴とする、分析対象液の製造方法である。
本発明によれば、有機溶媒に含まれる水の分析を、広範囲の分野や業種の分析試料でも、分析に際しての信頼性を維持したうえで適用可能とする。
本実施形態において、検量線作成用の原液の製造工程を示す図である。 本実施形態において、原液の希釈工程を示す図である。 本実施形態において、前処理工程(分析検体液の調製工程)を示す図である。 本実施形態において、実施例及び比較例で作成した検量線(低濃度用)を示す図である。 本実施形態において、実施例1で作成した検量線(高濃度用)を示す図である。 本実施形態において、NMRスペクトルを示す図である。 本実施形態において、実施例5で作成した標準添加法用の検量線を示す図である。
本実施形態は、検量線作成用の原液、その原液を希釈した標準液、そしてそれらの製造方法(以下、製造工程とも称する。)に大きな特徴がある。上記標準液は検量線の作成、ひいては有機溶媒試料の含水量の定量に使用される関係上、標準液の製造のみならず、検量線作成用の標準液の製造工程からNMRによる有機溶媒試料の含水量の分析工程に至るまでを説明する。
以下、一具体例としての本実施形態について、以下の順に説明する。
1.検量線作成用の標準液の製造工程
1-1.検量線作成用の原液の製造工程
1-2.原液の希釈工程
2.前処理工程(分析検体液の調製工程)
3.検量線作成工程
4.NMRによる有機溶媒試料の含水量の分析工程
本明細書において、「~」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを指す。その他、本明細書の含水量の単位として用いられる「ppm」は、「μg/g」を表し、特に断らない限りは、質量換算によって求められる値であり、例えば、10000ppmは1質量%を意味する。本明細書においては特記の無い限りppmは水の濃度(含水量)について示すものとする。
本実施形態において、図1~3の概略図は、図1が「1-1.検量線作成用の原液の製造工程」を、図2が「1-2.原液の希釈工程」を、図3が「2.前処理工程(分析検体液の調製工程)」を、それぞれ示す。
また、これらの工程では、空気中の水分などを避けるため、高ドライボックス(又はグローブボックス)を使用するのが好ましい。グローブボックスを使用する際は、水分を含まないヘリウム、窒素、アルゴンなどのガス、若しくは露点の低い大気で置換して、その中で操作を行うのが好ましい。特に後述の前処理工程及び前記標準液の製造工程においてはその操作を行うのが好ましい。従って、電子天秤、器具・容器類、試薬類など必要なものを、予めボックス内へ準備しておく。
そして、「3.検量線作成工程」では、図4及び図5に、縦軸を「積分値(強度)」、横軸を「含水量(濃度)」とした検量線(低濃度用及び高濃度用)を示し、「4.NMRによる有機溶媒試料の含水量の分析工程」では、図6に、縦軸を「積分値」、横軸を「化学シフト(ppm:ピーク位置、先述した含水量の単位であるppmとは異なる)」としたスペクトル及びピークを示す。
<1.検量線作成用の標準液の製造工程>
まず、検量線作成用の標準液の製造工程について説明する。
後述する本試験であるところの分析検体液(分析対象である有機溶媒試料+希釈用有機溶媒)に対する含水量の分析に先立ち、NMRのスペクトルにおいて水に該当するピークの面積と水の量との間の関係を示す検量線を得る必要がある。詳しく言うと、機器分析法を行うためには、目的成分の既知濃度を有する標準液を用いて機器を較正し、分析の尺度となる検量線(目的成分濃度と測定信号数値との相関式)を作成する必要がある。
検量線を得るには、検量線作成用の標準液に対して各々所定の量の水を加えたものを複数用意し、各々における、NMRのスペクトルの水のピークの面積と水の量との間の関係を得、それをプロットにする。本工程である検量線作成用の標準液の製造工程においては、その標準液を製造する。そして本工程は、検量線作成用の原液の製造工程、原液の希釈工程の二つの工程を有する。
(1-1.検量線作成用の原液の製造工程)
以下、検量線作成用の原液(以降、単に原液とも称する。)の製造方法について説明する。
本実施形態においては、例えば、含水量に係る検量線の作成のために必要な量の水を所定容器にはかり取り、続いて、水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒を、同じ容器に適量はかり取る。はかり取った溶媒と水とを混合して、完全に混和したことを目視確認することで、原液が完成する。
ここで言う「脱水有機溶媒に対して含水量に係る検量線の作成のために必要な量」とは、本実施形態においてはNMRスペクトルの水ピークの面積と含水量との関係を示す検量線を得るための試験に使用される少量の水のことである。そのため、上記必要な量とは、脱水有機溶媒に、むやみに水が添加された場合や、漠然と水が混入している場合は含まない。例えば、「消毒用エタノール」の様に、エタノールに多量の水を混ぜたものは、検量線作成用の原液として、正確な分析には適用出来ないので含まない。また、「工業用エタノール」の様に、脱水処理がなされておらず、かつ、正しい含水量が判明していないものも、検量線作成用の原液として、正確な分析には適用出来ないので含まない。
ところで、本発明において、原液作製に使用する有機溶媒には、余計な水が含まれないことが必要である。このほか、半導体分野や二次電池分野などにおいても、洗浄用溶媒や電解液用溶媒として、極力、水が含まれない有機溶媒が望まれる。即ち、元々、水を含むことを嫌うために脱水処理がなされた脱水有機溶媒に、あえて再び水を定量的かつ正確に添加し、検量線作成用の原液として適用すること、更には、その様にして作製された検量線作成用の原液だからこそ、大きな意義がある。
脱水有機溶媒としては、水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下であるという条件を満たしていれば特に限定は無いし、脱水有機溶媒の種類(組成)についても、特に限定は無い。また、試薬メーカーが販売する品質保証されたものを使用するのが好ましいが、これに限定されない。
本実施形態の脱水有機溶媒における水溶解度とは、20℃における水の溶解度のことを指す。本実施形態の脱水有機溶媒における水溶解度は10g/L以上であれば好ましく、100g/L以上であれば更に好ましく、1000g/L以上であれば特に好ましい。
水溶解度が高い化合物は極性が高いことを鑑み、誘電率が5.0以上である脱水有機溶媒を使用しても良い。そのため脱水有機溶媒のことを脱水極性有機溶媒と呼称することも可能である。つまり、水溶解度が9.0g/L以上という規定と共に、又はその代わりに、誘電率が5.0以上という規定を採用しても構わない。以降においては誘電率についての記載は特記の無い限り省略する。
本実施形態の脱水有機溶媒における含水量は50ppm以下とするのが好ましく、10ppm以下のものが特に好ましい。つまり本実施形態の標準液の原液に使用する脱水有機溶媒は、水溶解度が所定の値よりも高いものである一方、含水量がもともと少ないものを使用する。このような原液を使用することにより、後述する「原液の希釈工程」で原液と希釈用有機溶媒とを混和させて標準液を作製する際に、検量線作成に必要な所定量の水は標準液においても溶解したままであり、含水量の測定誤差も低減でき、後述の実施例の項目にて示されるように測定結果の信頼性が維持される。
しかも本実施形態の脱水有機溶媒は、水溶解度を9.0g/L以上且つ含水量50ppm以下とすることにより、測定結果の信頼性の維持のみならず、高い汎用性を確保できる。汎用性について具体的に言うと、本実施形態の標準液又はその原液を使用する場合、NMRにおいて、有機溶媒試料と脱水有機溶媒とを含水量含め同一条件とするほか同一の前処理を施す操作(すなわち特許文献4に記載された操作)が、本発明では必要が無くなる。しかも、本実施形態の標準液又はその原液は、NMRやカールフィッシャー滴定法など様々な手法にも使用可能である。このような予期せぬ知見が本発明者により初めて得られた(例えばカールフィッシャー滴定法の標準液の適用については後述の実施例4参照)。本実施形態は、上記の予期せぬ知見に基づきなされたものであり、種々の予期せぬ効果(例えば測定結果の信頼性の維持と汎用性の両立)を奏するものである。
脱水有機溶媒に対する具体的な脱水の手法としては、含水量により、蒸留法(高濃度)、共沸蒸留法(中濃度)、吸着法(低濃度)を使い分けても良い。その他、ゼオライト分離膜を用いて脱水しても構わない。この方法では、低コストで幅広い濃度範囲へ対応でき、アルコール系、エステル系、アミン系、ケトン系、エーテル系など、多種の有機溶媒を処理することが可能である。
脱水有機溶媒の組成としては、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルの1種以上からなることが好ましいが、これに限定されない。例えば誘電率が5.0未満である一方水溶解度が9.0g/L以上のジオキサン(1,4-ジオキサン)を使用しても構わない。
その他、検量線作成に必要な所定量の水の調製濃度は1000ppm以上であることが好ましい。何故なら、水の調製濃度をなるべく高く設定したほうが、脱水有機溶媒における含水量の変動、即ち、NMR測定におけるバックグラウンド値の変動で生じる影響を、より低減出来るためである。ただ、検量線作成に必要な所定量の水の調製濃度は上記の範囲に限定されるものではない。なお、水の調製濃度の上限としては、最終的に、有機溶媒試料の含水量を、NMRにより、測定下限1ppm未満で分析可能な値であれば特に規定する必要は無いが、100000ppmを一つの上限としてもよい。
本明細書における測定下限とは、希釈倍率1倍のときの最小定量の限界値のことである。測定下限1ppm未満だからといって、含水量が1ppm未満の有機溶媒試料のみに対する分析に本発明が限定されるわけではない。
(1-2.原液の希釈工程)
次に、原液の希釈工程について説明する。所定の量の上記原液を希釈用有機溶媒にて希釈することにより本実施形態における検量線作成用の標準液が得られる。
本実施形態においては、例えば、原液を所定容器に適量はかり取り、続いて、希釈用有機溶媒を、同じ容器に適量はかり取る。
このとき、希釈用有機溶媒は、本試験にて分析対象となる有機溶媒試料と同種の有機溶媒を用いるのが、検量線作成の条件と本試験の条件とを合わせるという意味では好ましい。原液を希釈することにより得られる標準液と、分析対象となる有機溶媒試料から準備した分析検体液とで、組成をなるべく一致させることにより誤差要因を排することが可能となり、良好な分析結果が得られる。
希釈用有機溶媒は低極性有機溶媒すなわち水と混和し難いもの、或いは水と殆ど混和しないのが好ましい。希釈用有機溶媒としては、誘電率が5.0未満であり、含水量が50ppm以下であるものを用いるのが好ましい。別の規定の仕方を挙げると、希釈用有機溶媒は、脱水有機溶媒の水溶解度よりも低いものを選択するのが好ましく、両者の水溶解度の差が500g/L以上であれば好ましい。
はかり取った原液と希釈用有機溶媒とを混合して、完全に混和したことを目視確認することで、標準液が完成する。
その他、原液の希釈後における水の調製濃度については1ppm以上2000ppm以下であることが好ましい。何故なら、標準液により、分析機器の検量線を作成した際に、良好な直線性を持つ相関式(一次式)を得るためである。上記範囲ならば、分析機器においては、測定信号数値が低すぎないため測定ノイズの影響を受けにくくなり、逆に測定信号数値が高すぎないため、検出器の性能内に測定信号数値が収まる。ただ、検量線作成に必要な所定量の水の調製濃度は上記の範囲に限定されるものではない。
このとき、原液の希釈によって標準液における(好ましくは原液においても)ヒドロキシル基の含有量を7.4質量%以下とするのが好ましい。なお、原液におけるヒドロキシル基の含有量としては37質量%以下とするのが好ましい。これにより後の「3.検量線作成工程」における、ヒドロキシル基の水ピークへの影響を抑制することが出来る。
なお、ヒドロキシル基の含有量は10質量%以下であっても構わず、また、6.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。
なお、本明細書におけるヒドロキシル基の含有量(質量%)の求め方としては、溶液(例:標準液)におけるヒドロキシル基を有する化合物(例:エタノール)の含有量(質量%)に対して分子量比(17(OH)/46(C25OH))を乗じた値である。本明細書におけるヒドロキシル基の含有量には水由来のものは除外している。
原液由来のヒドロキシル基の含有量は、脱水有機溶媒により左右される。そうなると脱水有機溶媒の量を減らすことにより、原液由来のヒドロキシル基の含有量を減らすことができる。これを実現するためには、脱水有機溶媒が少量であっても所定量の水を溶解可能とするのが好ましい。つまり原液の段階で、所定量の水に対して脱水有機溶媒が少量の状態、すなわち水を高濃度化させることが有効である。だからこそ原液においては水の調製濃度は1000ppm以上を好適例としている。
また、標準液を作製する際、分析検体液を作製する際、ともに同種の希釈用有機溶媒を使用する場合、原液における水の高濃度化は、標準液と分析検体液の組成を近づけることにつながり、分析精度を向上させることができる。また、原液における水の高濃度化は、脱水有機溶媒の含水量による影響の低減にも繋がる。
なお、希釈用有機溶媒由来の水は、検量線作成時の標準液を水無添加(0ppm)としたときの測定を行い、この結果を加味して検量線を作成することにより、ある程度は補正調整される。ただ、分析の際の誤差要因の一つであることに変わりはないため、希釈用有機溶媒由来の水は極力少ないほうが好ましい。本実施形態における希釈用有機溶媒は、脱水有機溶媒と同様に、含水量が50ppm以下のものが好ましく、10ppm以下のものが特に好ましい。
<2.前処理工程(分析検体液の調製工程)>
次に、分析検体液の調製工程について説明する。
分析検体液の基であって分析対象である有機溶媒試料としては特に制限は無い。この有機溶媒試料は、固体と接触(洗浄、浸漬)させて該固体の表面の水分を吸収した有機溶媒であってもよい。具体例を挙げると、金属材料Mを有機溶媒により洗浄した後の洗浄後液、すなわち金属材料Mの表面の水分を吸収した有機溶媒であってもよい。その場合、当然ながら、金属材料Mがほとんど溶解しない有機溶媒を選択する。なお、希釈用有機溶媒と同様、有機溶媒試料の誘電率が5.0未満であってもよいが、有機溶媒試料の誘電率はそれに限定されない。例えば誘電率が32.2のN-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒試料として使用した場合でも、前処理工程を行うことにより、何ら問題無くNMRにて測定下限1ppm未満で定量できている。言い方を変えると、前処理工程を省略可能な有機溶媒試料は、誘電率が5.0未満であり、ヒドロキシル基の含有量が7.4質量%以下であるのが好ましい。
分析検体液の基であって分析対象である有機溶媒試料の含水量(濃度)がある程度事前に分かっている場合は、検量線の濃度範囲内となるように、含水量(濃度)を低下させるための希釈操作を行う。
また、この希釈操作によって、有機溶媒試料においてもヒドロキシル基の含有量を7.4質量%以下とするのが好ましい。これにより後の「4.NMRによる有機溶媒試料の含水量の分析工程」における、ヒドロキシル基の水ピークへの影響を抑制することが出来る。
なお、ヒドロキシル基の含有量は10質量%以下であっても構わず、また、6.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。その際、上記標準液におけるヒドロキシル基の含有量の規定を満たすのが、ヒドロキシル基の水ピークへの影響を抑制するという点で非常に好ましい。また、検量線作成用の原液作製のための脱水有機溶媒を構成する有機溶媒、及び希釈用有機溶媒としては、ヒドロキシル基を有さないものを使用するのも好ましい。
上記操作の一具体例を挙げると、有機溶媒試料を所定容器に適量はかり取り、続いて、希釈用有機溶媒を同じ容器に適量はかり取る。この希釈操作においては、有機溶媒試料と希釈用有機溶媒のはかり取る順番が入れ替わっても構わない。はかり取った溶媒を混合し、完全に混和したことを目視確認することで、分析検体液が完成する。なお、有機溶媒試料の含水量(濃度)が検量線の濃度範囲内であれば、本工程すなわち希釈操作は特には必要無い。
また、上記操作は、一般的な分析手段である検量線法による分析を想定したものだが、それに限らず、標準添加法による分析を想定して、分析検体液を調製しても構わない。なお、これまで述べた検量線法は、目的成分と物理的・化学的性質の類似した成分を内標準として用いる「内標準法」に対して、「絶対検量線法」とも呼ばれる。
検量線法は、試料中の目的成分濃度に対して、既知濃度の標準液を段階的に複数準備し、使用する分析装置特有の信号を測定することによって、濃度と信号との関係を求めて検量線を得る方法である。標準液は、可能な限り分析検体液の液性に近付けるのが好ましい。分析検体液に、目的成分以外の成分が多量に含まれている場合は、干渉作用による妨害を相殺するため、標準液にも、これらの成分を添加する。
その一方、実施例5で後述するが、標準添加法は、1つの試料から所定量を分取した複数の併行試料を準備し、それぞれに標準液の異なる量を段階的に加え、目的成分濃度の異なった複数の分析検体液を作製して、使用する分析装置特有の信号を測定する。即ち、「分析対象である試料に、標準液を直接添加」して、分析検体液を作製する。これによって、添加した標準液の濃度と信号との関係を求め、図7に示す様な検量線を作成し、検量線とX軸との交点から、試料の目的成分濃度を得ることが出来る。この方法は、検量線が良好な直線性を示し、かつ、検量線とX軸が交差する場合に適用可能であり、共存成分の影響が除かれるため、複雑な組成及び液性の試料を分析する上で、非常に好ましい。
但し、標準添加法は、一つの試料において、目的成分濃度の異なった分析検体液を複数作製しなければならず、検量線法に比べて、分析検体数、ひいては分析に掛かる時間が、かなり増えてしまうデメリットもある。検量線法及び標準添加法のどちらを選択するかは、分析試料に含まれる共存成分のほか、必要な分析精度や分析納期などを考慮して決定すればよい。
なお、上記の標準添加法において、有機溶媒試料の含水量(濃度)が検量線の濃度範囲内であれば、希釈操作は特には必要無く、標準液の代わりに原液を使用してもよい。
<3.検量線作成工程>
次に、一般的な分析手段である検量線法における検量線作成工程について説明する。
本実施形態では、先述の工程で製造した、所定の水の量が添加された標準液(複数体)について、水素(以降、1Hとも称する)を核とし、NMR(核磁気共鳴分光法)による測定を行い、得られたスペクトルのピーク面積から、含水量を算出する。
例えば、図5には、脱水有機溶媒にエタノール(含水量10ppm以下)と水とを用いて製造した原液(含水量10000ppm)を基として、希釈用有機溶媒にジメチルカーボネート(含水量30ppm以下)を用いて標準液5つ(含水量0ppm、100ppm、500ppm、1000ppm、2000ppm)を製造し、これらにより作成した検量線(高濃度用)を示している。そのため、本実施形態においては、核磁気共鳴分光法により得られるスペクトルから含水量を分析する際の検量線の濃度範囲を少なくとも0~2000ppmとするのが好ましい。
ここで、各標準液にて存在するヒドロキシル基の含有量は、予め定められた量の水に加え、用いたエタノール量から求めることが出来る。例えば、標準原液から5倍希釈されている、含水量2000ppmの標準液(エタノール含有量:20質量%)のヒドロキシル基が7.4質量%以下とする。こうすることにより、後述の図4、5が示すように、ヒドロキシル基の影響を過度には受けずに、直線性が良好で、かつ高相関の検量線(一次式)が得られるため、好ましい。
詳細は明細書末尾にて述べるが、特許文献4にて含水量の最小単位が0.1%(千分の一)に留まっている理由は、特許文献4では水の抽出溶媒として、水を速やかに溶解できないすなわち水溶解度が比較的低いクロロホルムを使用していることに起因していると考えられる。
特許文献4では、水溶解度を高くする傾向のあるヒドロキシル基を有する有機溶媒を用いることは、NMRの使用も想定しているため好ましくないものと考えている(特許文献4の[0028])。
その一方、本実施形態においては、ヒドロキシル基を有する有機溶媒を使用した場合であっても最終的にNMRを使用した測定下限1ppm未満の分析を行えれば良い。それを可能とする一つの要因が、ヒドロキシル基がNMRスペクトルの水に起因するピークへの影響を適切な程度に抑えるべく、例えば上記の(1-2.原液の希釈工程)によって、ヒドロキシル基を7.4質量%以下に設定することにある。
なお、NMRでは、重溶媒(重水素化溶媒)及び基準物質(内部標準)が、通常用いられる。
1Hを核として測定を行った場合、分析対象の有機溶媒量が大過剰であり、普通の有機溶媒のままでは、有機溶媒由来の水素ピークに埋もれて試料ピークが隠れてしまう。つまり、水素として検出されない重水素に置き換えた溶媒を使用することが必要となり、この溶媒が重溶媒である。
また、測定において基準となるピークを定めることが必要なため基準物質が使用される。
本実施形態では、重溶媒にはアセトン-d6<CD3COCD3>を、基準物質にはテトラメチルシラン<TMS:Si(CH34>を用いているが、これに限定されない。
重溶媒として一例を挙げると、アセトン-d6の他にも、重クロロホルム<CDCl3>、重DMSO<(D3C)2S=0>、重メタノール<CD3OD>、重水<D2O>などが用いられる。
基準物質として一例を挙げると、テトラメチルシランの他にも、重溶媒が重水であるなら、3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホン酸ナトリウム<DSS:C615NaO3SSi>が用いられる。
その他、標準添加法における検量線作成工程については、上述した通り、標準添加法による分析を想定して調製された分析検体液を、NMR(核磁気共鳴分光法)で測定することによって、図7に示す様な検量線が得られる。
<4.NMRによる有機溶媒試料の含水量の分析工程>
次に、NMRによる有機溶媒試料の含水量の分析工程について説明する。
本工程においては、分析検体液に対してNMRにより得られるスペクトルから検量線を用いて含水量を分析する。具体的には、作成した検量線を用い、分析検体液のNMRスペクトルの水のピーク面積から含水量を求める。
図6には、ヒドロキシル基の含有量が7.4質量%であって、水の濃度が100ppmの場合のNMRスペクトルにおける水に起因するピークを一例として示している。本実施形態においてはこのピークの面積から含水量を求める。
なお、本工程においてはフーリエ変換核磁気共鳴分光分析装置(FT-NMR)を用いても良いし、連続波法核磁気共鳴分光分析装置(CW-NMR)を用いても構わない。
本工程においては、各管が同心となる多重管(三重管や四重管など)や、二重管などを用いる。多重管の場合は、一つの管に基準物質を配置して、別の管に分析検体液を配置しても構わない。二重管の場合は、中心の管に基準物質を配置して、その外側の管に分析検体液を配置しても構わない。その際は、基準物質を、磁場を固定するために必要な重溶媒(例えば、アセトン-d6)が入った管に添加する。その他、多重管を用いず、単なる試料管を用いても構わない。その際の分析検体液の装置導入量は1ml以下とするのが好ましい。
以上、本実施形態における、有機溶媒試料の含水量分析方法を用いれば、以下のような顕著な効果が得られる。
本実施形態によれば、有機溶媒に含まれる水の分析を、広範囲の分野や業種の分析試料でも、分析に際しての信頼性を維持したうえで適用可能となる。
また、本実施形態の手法ならば、あらゆる分野や業種における、有機溶媒試料の含水量について、分析操作が簡便で、かつ分析機器や周辺機器の構成も複雑ではなく、短時間で分析を行うことが出来る。更には、前処理や測定中の汚染を防止しながらの微量分析が可能となる。
更には、本実施形態の手法ならば、多種の有機溶媒に対して、含水量の定量的な制御や管理を可能となる。また、保管や取扱いのほか、廃棄も容易であり、工業上の顕著な効果を奏する。
なお、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件や、その組み合わせによって得られる、特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
ちなみに上記各手法に用いられる原液、標準液には、検量線を作成する以外、例えば、先に挙げたようにカールフィッシャー滴定法により得られた測定値が正しいかどうかを確認するための上記チェック試料や、添加した分の水が上乗せされて検出されるかどうかを確認する上記添加回収率試験用試料としても用途がある。本実施形態において検量線作成用の原液における水は「脱水有機溶媒に対して検量線の作成のために必要な量が添加された水」であったが、上記の場合、「脱水有機溶媒に対して含水量の分析(例えば含水量測定に係る較正)に必要な量が添加された水」と読み替えても良い。本発明では、これらを総称して、「分析対象液」と記載している。
上記の内容を加味したうえで本発明の一態様を表現すると以下の通りとなる。
『水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、前記脱水有機溶媒に対して含水量の分析に必要な量が添加された水とからなることを特徴とする、分析対象液。』
『水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒に対して含水量の分析に必要な量の水を混合して分析対象液を得ることを特徴とする、分析対象液の製造方法。』
なお、本実施形態にて挙げた検量線作成用の原液、標準液も検量線作成のためとはいえ含水量に関する分析を行うものであることからこれらも「分析対象液」に含まれる。
例えば本実施形態においてはNMRスペクトルの水ピークの面積と含水量との間の関係を示す検量線を作成する手法について述べたが、本実施形態の原液、標準液は、上記分析対象液にて述べたように、NMR以外の手法にも適用可能である。具体的には、カールフィッシャー滴定法、近赤外線吸収法、誘電率測定法、マイクロ波吸収法、放射線法、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量法、振動式密度比重計法、NMRのいずれの分析方法においても、検量線を作成する際の原液、標準液として使用可能である。
また、上記の標準添加法では、有機溶媒試料と原液又は標準液とにより分析検体液が作製される。標準添加法におけるこの分析検体液には、「脱水有機溶媒に対して含水量の分析に必要な量が添加された(言い方を変えるとそもそも定量対象となる)水」が含有されている。当然のことながら分析検体液に対し含水量に関する分析を行う。そのため、標準添加法におけるこの分析検体液を、分析対象液と呼んで差し支えない。
以下、本実施例について説明する。本実施例では、有機溶媒試料の含水量の測定は行わず、検量線の作成までを行い、測定結果の信頼性が維持されているかどうかを確かめるべく、検量線の正確さ及び精度の良さを調べた。以降の例においては、グローブボックス内に、電子天秤、ピペットやフラスコ等の器具・容器類、試薬類を搬入し、試験を行っている。再度繰り返すが、以下のppmは特記無い限り含水量を示す。なお、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<検量線作成>
まず、脱水有機溶媒としては、水溶解度が1000g/Lで、誘電率が24.3で、かつ含水量が10ppm以下であるエタノール(超脱水)<C25OH>(和光純薬工業株式会社製、以降同様。)を用いた。そして超純水と脱水有機溶媒とから、原液(含水量10000ppm)を1000g製造した。
次に、希釈用有機溶媒としては、水溶解度が139g/Lで、誘電率が2.8で、かつ含水量が30ppm以下であるジメチルカーボネート<C363>(キシダ化学株式会社製、以降同様。)を用いた。そして原液(10000ppm)と希釈用有機溶媒とから、標準液9つ(含水量0ppm、1ppm、10ppm、20ppm、50ppm、100ppm、500ppm、1000ppm、2000ppm)を1000g製造した。
出来上がった標準液9つのうち、含水量0ppm、1ppm、10ppm、20ppm、50ppmの5つで低濃度用の検量線を、含水量0ppm、100ppm、500ppm、1000ppm、2000ppmの5つで高濃度用の検量線を、それぞれ作成した。
なお、検量線作成時に使用した分析機器としては、フーリエ変換核磁気共鳴分光分析装置(以降、FT-NMRとも称する)を使用した。NMR測定用試料管(ガラス製二重管)の外管に標準液、内管に基準物質を添加した重溶媒を所定量移し入れ、1H-NMRスペクトルを測定した。
なお、その際の各条件は以下の通りである。
・フーリエ変換核磁気共鳴分光分析装置:
FT-NMR装置AVANCE400型(ブルカー・バイオスピン株式会社製)
・NMR測定用試料管:
ガラス製二重管:外管→N-10P、内管→N-5P(両方とも、日本精密化学株式会社製)
・重溶媒:アセトン-d6(キシダ化学株式会社製)
・基準物質:テトラメチルシラン(和光純薬工業株式会社製)
上述のスペクトルでは、テトラメチルシランのピーク位置を基準(0ppm)として、2.8ppm付近の位置に検出される水のピーク面積と、標準液濃度との関係を示す検量線を作成した。
作成した2つの検量線のうち、低濃度用の検量線を図4に、高濃度用の検量線を図5にそれぞれ示す。
[実施例2]
<検量線作成>
希釈用有機溶媒を、水溶解度が11g/L、誘電率が1.9、含水量が10ppm以下のヘキサン(超脱水)<C614>(和光純薬工業株式会社製、以降同様。)とし、且つ原液の含水量を1000ppmとしたことと、標準液5つ(0ppm、1ppm、10ppm、20ppm、50ppm)を1000g製造し、この標準液5つで低濃度用の検量線のみを作成したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。作成した低濃度用の検量線を図4に示す。
[実施例3]
<検量線作成>
水溶解度が8.8g/L、誘電率が4.8、含水量が10ppm以下のクロロホルム(超脱水)<CHCl3>(和光純薬工業株式会社製、以降同様。)を希釈用有機溶媒としたこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。作成した低濃度用の検量線を図4に示す。
[比較例1]
<検量線作成>
実施例1の脱水有機溶媒の代わりに、水溶解度が1000g/Lで、誘電率が18.3であるが、含水量がカールフィッシャー滴定値にて180ppmである2-プロパノール<CH3CH(OH)CH3>(電子工業グレード:製造ロットA)(試薬メーカーX社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、カールフィッシャー滴定には、微量水分測定装置CA-200(株式会社三菱ケミカルアナリテック社製)を用いた(以降、同様)。作成した低濃度用の検量線を図4に示す。
[比較例2]
<検量線作成>
比較例1の2-プロパノールの製造ロットが違うもの(製造ロットB、カールフィッシャー滴定値での含水量:290ppm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。作成した低濃度用の検量線を図4に示す。
[比較例3]
<検量線作成>
脱水有機溶媒として、クロロホルム(上記、新品)を使用したことを除けば実施例1と同様の操作を行った。作成した低濃度用の検量線を図4に示す。
[実施例4]
実施例1~3においてはNMRのスペクトルの検量線を得るために原液、標準液を作製したが、カールフィッシャー滴定法の標準液(つまり、カールフィッシャー滴定法により得られた測定値が正しいかどうかを確認するための上記チェック試料)として使用する場合、カールフィッシャー滴定法により正確かつ精度良く含水量を定量可能であることを示すべく、本実施例において試験を行った。
具体的な試験の内容としては、実施例1で製造した原液(10000ppm)のほか、標準液のうち1000ppmのものについて、水が完全に混和しているかどうかを確認するために、それぞれの溶媒を、所定容器の中央部から分取して、カールフィッシャー滴定法により水の濃度を分析した。
なお、カールフィッシャー滴定装置には、微量水分測定装置CA-200(株式会社三菱ケミカルアナリテック社製)を用いた。その結果を表1に示す。
[比較例4]
比較例3(脱水有機溶媒がクロロホルム)で製造した原液(1000ppm)について、水が完全に混和しているかどうかを確認するために実施例4と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
Figure 2022166239000002
なお、各実施例及び各比較例における、脱水有機溶媒又は比較溶媒の種類及び含水量、並びに希釈用有機溶媒の種類及び含水量をまとめたものを以下の表2に示す。
Figure 2022166239000003
[実施例5]
<有機溶媒試料>
実施例1に記載された、ジメチルカーボネートを有機溶媒試料とした。
<検量線作成>
まず、上記の有機溶媒試料において、1つの試料から、それぞれ10gずつ、3つの併行試料を分取し、準備した。次に、実施例1で製造した標準液1000ppmを、3つの併行試料に、0.1g、0.2g、0.5gと段階的に添加して、濃度の異なる分析検体液を作製した。更に、作製した分析検体液を、実施例1に記載された条件と同条件で測定することにより、図7に示す様に、標準添加法における検量線を作成した。
[総合評価]
図4に示す結果から、実施例1~3の検量線に比べて、比較例1及び2の検量線では、積分値(FT-NMRの測定信号数値)が、脱水有機溶媒の代わりに使用した比較溶媒由来の水の影響を受け、高めにずれていることが分かる。
また、比較例1及び2の間においても、比較溶媒は、どちらも同じ試薬メーカーの電子工業グレードであったが、製造ロットが変わると、含水量(カールフィッシャー滴定値)が異なり、検量線の積分値に大きな差が見られた。
これに対して、比較例3の検量線では、逆に、実施例1~3の検量線に比べて、積分値が低めにずれていることが分かる。これは、表1に示す比較例4の結果から、原液製造時に、比較溶媒として用いたクロロホルムと、添加した超純水が、完全に混和していないことが原因として挙げられる。
表1を見ると、脱水有機溶媒としてエタノールを用いた実施例4の結果については、調製濃度に見合ったカールフィッシャー滴定値を得られているが、比較例4の結果は、調製濃度と比べて、2割程低値を示している。
この理由は、図1に示す原液の製造方法において、はかり取った溶媒を混合して、完全に混和したことを目視確認することとなっているが、クロロホルムの場合は、混合操作を10分以上続けても混和せず、その時点で溶媒の分取を行ったためである。
なお、エタノールを用いた場合には、混合操作によって速やかに混和し、水の濃度が10000ppmでも難なく完全に混和した。
比較例3、4で用いたクロロホルムは、ニッケルや銅などの金属元素を、溶媒抽出分離法で分析する際に、抽出溶媒としても用いられており、水の添加量が溶解度の範囲内であっても、完全に混和させるためには、それなりの時間を要するものと思われる。
その他、実施例1~3、比較例1~3では、FT-NMR(フーリエ変換核磁気共鳴分光分析装置)を、分析機器として用いている。そして、先述した特許文献4では、プロトン核磁気共鳴スペクトル分析装置(1H-NMR)を用いるにあたり、付着水由来のヒドロキシル基(水酸基、OH)との分離性を高めるために、試薬類はヒドロキシル基を含有しないものが好ましいと記載されており、それが一因で、水の抽出溶媒としてクロロホルムを選択している。
各実施例においては、原液に、エタノールや1-プロパノールなど、ヒドロキシル基を含む脱水有機溶媒を用いているが、これらに由来するヒドロキシル基は、標準液製造時に、希釈用有機溶媒を添加することで、ヒドロキシル基の含有量(すなわち質量%)を大幅に下げることが出来る。
ここで、実施例1で作成した高濃度用の検量線を確認してみると、図5に示す様に、直線性が良好で高相関の一次式が得られている。製造した標準液に含まれるヒドロキシル基の最大含有量は、添加されたエタノール量から求めると、標準液2000ppmにおいて7.4質量%となる。これを考慮して7.4質量%をヒドロキシル基の含有量の上限としたならば、NMRのスペクトルにおいて、標準液に含まれるヒドロキシル基の影響を受けずに水を分析することが可能となるため好ましい。
また、低濃度用の検量線については、相関の指標となる寄与率(相関係数の2乗)は、図4に示すように、作成された低濃度用の検量線のうち、通常の一次式において、各実施例だと寄与率は極めて良好(0.96以上、好ましくは0.999以上)であった。
図4に示すように、NMRにおける水ピークの面積(積分値)と水の調整濃度との関係を示す検量線において、例えば、傾きが0.010(積分値)/50(ppm)~0.012(積分値)/50(ppm)の範囲にあるのが好ましい。
その他、実施例5にて行われた試験により、実施例1で作成した標準液1000ppmを用いて、標準添加法における検量線が作成出来ることも確認出来た。なお、標準液に限らず、原液10000ppmを標準添加法に用いたい場合には、併行試料の分取量を増やす(例えば、100gとする)ことによって、原液添加量も相対的に増やす(実施例5と同様に、0.1~0.5gとする)ことができ、通常の電子天秤で、より精度良く添加量を計量することが可能となる。
[まとめ]
本実施例ならば、有機溶媒に含まれる水の分析を、広範囲の分野や業種の分析試料でも、分析に際しての信頼性を維持したうえで適用可能となる。

Claims (12)

  1. 分析対象である有機溶媒試料の含水量を測定下限1ppm未満で分析する定量に用いられる検量線作成用の原液であって、
    水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、水と、からなり、
    前記原液の含水量が1000ppm以上100000ppm以下であることを特徴とする、検量線作成用の原液。
  2. 前記脱水有機溶媒がエタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサンの1種以上からなることを特徴とする、請求項1に記載の検量線作成用の原液。
  3. 分析対象である有機溶媒試料の含水量を測定下限1ppm未満で分析する定量に用いられる検量線作成用の標準液であって、
    請求項1に記載された原液と、希釈用有機溶媒とからなり、
    前記希釈用有機溶媒は、誘電率が5.0未満であり、含水量が50ppm以下であることを特徴とする、検量線作成用の標準液。
  4. 前記標準液の含水量が1ppm以上2000ppm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の検量線作成用の標準液。
  5. 請求項1又は2に記載された検量線作成用の原液を用いて、有機溶媒試料の含水量を定量する分析方法において、
    一次式の検量線を作成した際の寄与率が0.96以上であることを特徴とする分析方法。
  6. 請求項3又は4に記載された検量線作成用の標準液を用いて、有機溶媒試料の含水量を定量する分析方法において、
    一次式の検量線を作成した際の寄与率が0.96以上であることを特徴とする分析方法。
  7. 分析対象である有機溶媒試料の含水量を測定下限1ppm未満で分析する定量に用いられる検量線作成用の原液の製造方法であって、
    水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、水と、を混合し、
    前記原液の含水量を1000ppm以上100000ppm以下とすることを特徴とする、検量線作成用の原液の製造方法。
  8. 請求項7に記載の原液の製造方法により得られた原液と、希釈用有機溶媒とを混合し、水の調製濃度を1ppm以上2000ppm以下とすることを特徴とする、検量線作成用の標準液の製造方法。
  9. 分析対象である有機溶媒試料の含水量を測定下限1ppm未満で分析する定量に用いられる分析対象液であって、
    水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒と、水と、からなり、
    前記分析対象液の含水量が1000ppm以上100000ppm以下であることを特徴とする、分析対象液。
  10. 請求項9に記載された分析対象液を用いて、有機溶媒試料の含水量を定量する分析方法において、
    カールフィッシャー滴定法、近赤外線吸収法、誘電率測定法、マイクロ波吸収法、放射線法、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量法、振動式密度比重計法、核磁気共鳴分光法のいずれかの分析方法に用いることを特徴とする分析方法。
  11. 分析対象である有機溶媒試料の含水量を測定下限1ppm未満で分析する定量に用いられる分析対象液の製造方法であって、
    水溶解度(20℃)が9.0g/L以上且つ含水量が50ppm以下である脱水有機溶媒に対して水を混合して、
    含水量が1000ppm以上100000ppm以下の分析対象液を得ることを特徴とする、分析対象液の製造方法。
  12. 標準添加法用の分析対象液の製造方法であって、
    1つの有機溶媒試料から所定量を分取した複数の併行試料を準備し、かつ、請求項1又は2に記載の検量線作成用の原液、又は、請求項3又は4に記載の検量線作成用の標準液を準備し、前記併行試料の各々に対して、前記検量線作成用の原液、又は、前記検量線作成用の標準液を段階的に添加し、濃度の異なった複数の分析検体液を得ることを特徴とする、分析対象液の製造方法。
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