JP2022158112A - 樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含みながら製造時の熱履歴によらず良好な物性を示す樹脂組成物の製造方法の提供。【解決手段】樹脂組成物の製造方法であって、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす第1のポリアミド(A1)及び[NH2]<[COOH]を満たす第2のポリアミド(A2)と、セルロースナノファイバー(B)とを含む混合成分を混合する混合工程を含み、(A1)の数平均分子量(MA1)、混合成分中の(A1)の質量濃度(CA1)、(A2)の数平均分子量(MA2)、混合成分中の(A2)の質量濃度(CA2)、及び混合成分中の(A1)の質量濃度(CA1)と(A2)の質量濃度(CA2)との合計質量濃度(CT)に基づいて算出される数平均分子量(MT)と、樹脂組成物中のポリアミドの数平均分子量(M)とが、M/MT>1.1を満たす、樹脂組成物の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法に関する。
樹脂材料は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されているが、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いことから、樹脂と各種フィラーとをコンポジットしたものが一般的に用いられている。近年、このようなフィラーとして、セルロースナノファイバー(CNF)等の天然物由来繊維を使用することが検討されている。CNFは、軽量性、及び廃棄時の少ない環境負荷に加えて、樹脂組成物に対する高い物性向上効果という利点を有する。特に、このようなCNFを、耐熱性、寸法安定性等に優れるポリアミドと組み合わせてなる樹脂組成物が、従来種々提案されている。
特許文献1は、(A)アミノ基末端濃度[-NH2]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが[-NH2]>[-COOH]を満たすポリアミドと、(B)平均繊維径が500nm以下のセルロース繊維とを含むポリアミド樹脂組成物を記載する。
特許文献2は、(A)アミノ基末端濃度[-NH2]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが[-NH2]<[-COOH]を満たすポリアミドと、(B)平均繊維径が500nm以下のセルロース繊維とを含むポリアミド樹脂組成物を記載する。
特開2020-7494号公報 特開2020-7495号公報
特許文献1及び2に記載される技術は、ポリアミドとセルロース繊維とを含む樹脂組成物を製造する際のセルロースの劣化に着目したものである。すなわち、特許文献1に記載される技術は、セルロースの分解によるガス成分の発生を抑制することで安定的な成型加工を可能にする樹脂組成物を提供しようとするものである一方、特許文献2に記載される技術は、セルロースの酸残基の離脱による着色及び臭気が低減された樹脂組成物を提供しようとするものである。これら文献に記載された技術によれば、樹脂組成物の製造中に生じるセルロースの不所望反応の低減によって、樹脂組成物の特性が改善され得る。しかし、本発明者の検討によって、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物においては、製造時の熱履歴でポリアミドが劣化することによって樹脂組成物が所期の物性を発現できない場合があることが見出された。
本発明は上記の課題を解決し、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含みながら製造時の熱履歴によらず良好な物性を示す樹脂組成物を製造可能な、樹脂組成物の製造方法の提供を目的とする。
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす第1のポリアミド(A1)及びアミノ末端基濃度[NH2]<カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす第2のポリアミド(A2)と、セルロースナノファイバー(B)とを含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る混合工程を含み、
前記第1のポリアミド(A1)の数平均分子量(MA1)、前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)、前記第2のポリアミド(A2)の数平均分子量(MA2)、前記混合成分中の前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)、及び前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)と前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)との合計質量濃度(CT)に基づいて、下記式:
T=(MA1×CA1+MA2×CA2)/CT
に従って算出される数平均分子量(MT)と、前記樹脂組成物中のポリアミドの数平均分子量(M)とが、下記式(1a):
M/MT>1.1 (1a)
の関係を満たす、樹脂組成物の製造方法。
[2] 前記第1のポリアミド(A1)のアミノ末端基濃度[NH2A1及びカルボキシル末端基濃度[COOH]A1、前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)、前記第2のポリアミド(A2)のアミノ末端基濃度[NH2A2及びカルボキシル末端基濃度[COOH]A2、前記混合成分中の前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)、並びに前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)と前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)との合計質量濃度(CT)に基づいて、下記式(1b)~(1d):
[NH2T=([NH2A1×CA1+[NH2A2×CA2)/CT (1b)
[COOH]T=([COOH]A1×CA1+[COOH]A2×CA2)/CT (1c)
([NH2]+[COOH])T=[NH2T+[COOH]T (1d)
に従って算出される合計濃度([NH2]+[COOH])Tが、10μ当量/g以上500μ当量/g以下である、上記態様1に記載の方法。
[3] 前記[NH2Tの前記[COOH]Tに対する比([NH2T/[COOH]T)が、1以上5以下である、上記態様2に記載の方法。
[4] 前記第1のポリアミド(A1)及び前記第2のポリアミド(A2)の各々の、アミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度([NH2]+[COOH])が、10μ当量/g以上500μ当量/g以下である、上記態様1~3のいずれかに記載の方法。
[5] ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
アミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が20μ当量/g以上であり且つ前記アミノ末端基濃度及び前記カルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が70μ当量/g以上であり、若しくはアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が50μ当量/g以上であり且つ前記アミノ末端基濃度及び前記カルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が60μ当量/g以上であるポリアミド(A)と、セルロースナノファイバー(B)とを含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る混合工程を含み、
前記樹脂組成物中のポリアミドの数平均分子量(M)と、前記混合に供される前記ポリアミド(A)の数平均分子量(MA)とが、下記式(2a):
M/MA>1.1 (2a)
の関係を満たし、
前記樹脂組成物の水分率が、前記混合に供される前記ポリアミド(A)の水分率よりも高い、樹脂組成物の製造方法。
[6] 前記ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度([NH2]+[COOH])が、90μ当量/g以上500μ当量/g以下である、上記態様5に記載の方法。
[7] 前記ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度[NH2]及びカルボキシル末端基濃度[COOH]の一方が20μ当量/g以上70μ当量/g未満であり且つ他方が70μ当量/g以上480μ当量/g以下である、上記態様5又は6に記載の方法。
[8] 前記樹脂組成物の水分率が100質量ppm以上5000質量ppm以下であり、前記混合に供される前記ポリアミド(A)の水分率が1質量ppm以上1000質量ppm以下である、上記態様5~7のいずれかに記載の方法。
[9] 前記樹脂組成物の一部を前記混合成分の一部として用いる、上記態様1~8のいずれかに記載の方法。
[10] 前記セルロースナノファイバー(B)の数平均繊維径が2nm以上1000nm以下である、上記態様1~9のいずれかに記載の方法。
[11] 前記セルロースナノファイバー(B)のアシル置換度(DS)が、0以上1.5以下である、上記態様1~10のいずれかに記載の方法。
[12] 前記セルロースナノファイバー(B)の結晶化度が、60%以上である、上記態様1~11のいずれかに記載の方法。
[13] 前記セルロースナノファイバー(B)の酸不溶成分平均含有率が、10質量%以下である、上記態様1~12のいずれかに記載の方法。
本発明の一態様によれば、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含みながら製造時の熱履歴によらず良好な物性を示す樹脂組成物を製造可能な、樹脂組成物の製造方法が提供され得る。
本発明の例示の態様(以下、本実施形態という。)について以下に具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
本実施形態は、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法を提供する。本発明者は、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む混合成分を混合(具体的には加熱混合)して樹脂組成物を製造する際に、ポリアミドの予想外の分子量低下が生じていることに着目し、その原因を種々検討した。その結果、本来的に吸湿性であるポリアミドの吸湿が、本来的に親水性であるセルロースナノファイバーの存在下ではより顕著になっている可能性があること、すなわち、セルロースナノファイバーの存在下でポリアミドが加熱されることで当該ポリアミドの加水分解が促進されている可能性があることを見出した。そして、このようなポリアミドの加水分解に関わらず、良好な物性の樹脂組成物を製造する方法を種々検討した結果、ポリアミド自身の構造を制御すると、混合工程において、アミノ末端基とカルボキシル末端基との反応による分子間アミド結合の形成、すなわち重合を進行させて分子量を増大させることが可能であり、これにより物性に優れる樹脂組成物が製造可能になることを見出した。
また、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物及びこれを成形してなる成形体を製造した後には、当該樹脂組成物又は当該成形体を樹脂組成物の材料の一部として再利用する場合がある。このような場合、一部に再利用された材料が含まれることで、再利用された樹脂が受けた熱履歴は再利用されていない樹脂が受けた熱履歴よりも大きいため、一般的に再利用されていない樹脂だけで構成される樹脂組成物よりも物性が劣ることが知られている。したがって、本実施形態において、セルロースナノファイバーとの混合時にポリアミドの分子量を増大させることは、このような樹脂組成物又は成形体の再利用にも有利である。すなわち、樹脂組成物及び成形体の製造においては、樹脂組成物を製造するための混合工程における熱履歴と、樹脂組成物から成形体を製造するための成形工程における熱履歴とによって、樹脂組成物中及び成形体中のポリアミドの分子量は、セルロースナノファイバーとの混合に供されたポリアミドの分子量よりも低下していることが多い。また樹脂組成物及び成形体の保管中にもポリアミドの吸湿による分子量低下が生じ得る。このような劣化したポリアミドを含む樹脂組成物又は成形体を樹脂組成物の材料として再利用すると、物性が劣る樹脂組成物が生成することになる。本実施形態によれば、混合工程において、樹脂組成物又は成形体に由来する部分を含むポリアミドと、樹脂組成物又は成形体に由来する部分を含むセルロースナノファイバーとが混合される際に、ポリアミドの分子量が増大する。すなわち、樹脂組成物中又は成形体中のポリアミドの低下した分子量が混合工程で回復することによって良好な物性の樹脂組成物が生成する。
本実施形態は、より具体的には、以下の第1及び第2の態様を包含する。
第1の態様に係る方法は、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす第1のポリアミド(A1)及びアミノ末端基濃度[NH2]<カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす第2のポリアミド(A2)と、セルロースナノファイバー(B)とを含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る混合工程を含む。
一態様においては、第1のポリアミド(A1)の数平均分子量(MA1)、混合成分中の第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)、第2のポリアミド(A2)の数平均分子量(MA2)、混合成分中の第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)、及び混合成分中の第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)と第2のポリアミドの質量濃度(CA2)との合計質量濃度(CT)に基づいて、下記式:
T=(MA1×CA1+MA2×CA2)/CT
に従って算出される数平均分子量(MT)と、樹脂組成物中のポリアミドの数平均分子量(M)とが、下記式(1a):
M/MT>1.1 (1a)
の関係を満たす。
第2の態様に係る方法は、アミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が20μ当量/g以上であり且つアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が70μ当量/g以上であり、若しくはアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が50μ当量/g以上であり且つアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が60μ当量/g以上であるポリアミド(A)と、セルロースナノファイバー(B)とを含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る混合工程を含む。
一態様においては、樹脂組成物中のポリアミドの数平均分子量(M)と、混合に供されるポリアミド(A)の数平均分子量(MA)とが、下記式(2a):
M/MA>1.1 (2a)
の関係を満たす。
一態様においては、樹脂組成物の水分率が、混合に供されるポリアミド(A)の水分率よりも高い。
上記式(1a)及び(2a)は、本実施形態の混合工程におけるポリアミドの分子量の増大度合の指標である。上記式(1a)におけるM/MT比、及び上記式(2a)におけるM/MA比は、それぞれ、ポリアミドの分子量を混合工程で顕著に増大させて良好な物性の樹脂組成物を得る観点から、一態様において1.1超であり、好ましくは、1.15以上、又は1.2以上、又は1.25以上、又は1.3以上、又は1.4以上であり、樹脂組成物の物性を精度良く制御する観点から、好ましくは、2.5以下、又は2以下、又は1.5以下である。M/MT比及びM/MA比を本実施形態の範囲に制御する手段としては、混合に供するポリアミドの末端基濃度を本実施形態で例示するように制御した上で、混合工程において、セルロースナノファイバーを添加して樹脂の溶融温度以上で混合する際の混合条件を調整すること(例えば、混合時間を所定範囲、例えば2分間以上とすること等)が挙げられる。
≪樹脂組成物の成分≫
<ポリアミド(A1)、(A2)、(A)>
第1の態様で用いるポリアミド(A1)及び(A2)並びに第2の態様で用いるポリアミド(A)としては、脂肪族、芳香族又はこれらの組合せの構造を有する種々のポリアミドを使用できる。好ましいポリアミドの例示としては:
ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;
1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド、例えば、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等;及び
これらがそれぞれ共重合された共重合体、例えば、ポリアミド6,T/6,I等;が挙げられる。
これらポリアミドの中でも:ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド;及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミド、がより好ましい。
ポリアミドの末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの、末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば:
酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;
シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;
安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;
アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸等のジカルボン酸;及び
これらから任意に選ばれる複数の混合物、が挙げられる。
これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びアジピン酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば:
メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;
シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;
アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;
テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等のジアミン;及び
これらの任意の混合物、が挙げられる。
これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン及びヘキサメチレンジアミンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
これら、末端調整剤をポリアミドに添加し末端官能基と反応させる方法は特に制限されないが、一態様として、重合時に任意の割合で末端調整剤を添加し反応させる方法が挙げられる。
アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。
ポリアミド(A1)、(A2)、(A)の各々の、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]は、樹脂組成物の良好な物性を得る観点から、好ましくは、0.6dL/g以上、又は0.7dL/g以上であり、樹脂組成物の製造及び加工の容易性、及び成形体の外観の観点から、好ましくは、2.0dL/g以下、又は1.4dL/g以下、又は1.2dL/g以下、又は1.0dL/g以下である。
本開示で、固有粘度とは、一般的に極限粘度と呼ばれる粘度と同義である。固有粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、ポリマー濃度の異なるいくつかの測定溶液のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。固有粘度の求め方の詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。このときポリマー濃度の異なるいくつかの測定溶液の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。推奨される異なる粘度測定溶液のポリマー濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
ポリアミド(A1)、(A2)、(A)の各々の数平均分子量は、樹脂組成物の良好な物性を得る観点から、好ましくは、5000以上、又は10000以上、又は15000以上、又は20000以上であり、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、好ましくは、100000以下、又は80000以下、又は60000以下、又は50000以下である。
ポリアミド(A1)、(A2)、(A)の各々の重量平均分子量は、樹脂組成物の良好な物性を得る観点から、好ましくは、5000以上、又は10000以上、又は15000以上、又は20000以上であり、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、好ましくは、100000以下、又は80000以下、又は60000以下、又は50000以下である。
ポリアミド(A1)、(A2)、(A)の各々のMw/Mnは、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、好ましくは、0.2以上、又は0.5以上、又は1以上であり、樹脂組成物の物性を精度良く制御する観点から、好ましくは、5以下、又は4以下、又は2以下である。
上記の数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で求められる値である。
ポリアミド(A1)、(A2)、(A)の各々の融点は、樹脂組成物の耐熱性が良好である点で、好ましくは、220℃以上、又は230℃以上であり、樹脂組成物の製造及び加工が容易である点で、好ましくは、350℃以下、又は320℃以下、又は300℃以下である。上記融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。
ポリアミド(A1)、(A2)、(A)の各々のガラス転移点は、樹脂組成物の機械強度が良好である点で、好ましくは、0℃以上、又は10℃以上、又は30℃以上であり、樹脂組成物の靭性が良好であるとともに製造及び加工が容易である点で、好ましくは、100℃以下、又は90℃以下、又は70℃以下である。上記ガラス転移点とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度を指す。
[ポリアミド(A1)及びポリアミド(A2)]
ポリアミド(A1)は、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす。カルボキシル末端基濃度[COOH]に対するアミノ末端基濃度[NH2]の比であるアミノ末端基比率は、一態様において1よりも大きく、好ましくは、1.01以上、又は1.05以上、又は1.10以上であり、好ましくは、10000以下、又は1000以下、又は100以下、又は10以下である。
ポリアミド(A1)のアミノ末端基濃度は、好ましくは、20μ当量/g以上、又は30μ当量/g以上であり、好ましくは、150μ当量/g以下、又は100μ当量/g以下、又は80μ当量/g以下である。
ポリアミド(A1)のカルボキシル末端基濃度は、好ましくは、20μ当量/g以上、又は30μ当量/g以上であり、好ましくは、150μ当量/g以下、又は100μ当量/g以下、又は80μ当量/g以下である。
ポリアミド(A1)のアミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、好ましくは、10μ当量/g以上、又は50μ当量/g以上、又は100μ当量/g以上であり、ポリアミドの分子量が小さくなり過ぎないようにして樹脂組成物の良好な物性を維持する観点から、好ましくは、500μ当量/g以下、又は300μ当量/g以下、又は135μ当量/g以下である。
ポリアミド(A2)は、アミノ末端基濃度[NH2]<カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす。アミノ末端基濃度[NH2]に対するカルボキシル末端基濃度[COOH]の比であるカルボキシル末端基比率は、一態様において1よりも大きく、好ましくは、1.01以上、又は1.05以上、又は1.10以上であり、好ましくは、10000以下、又は1000以下、又は100以下、又は10以下である。
ポリアミド(A2)のアミノ末端基濃度は、好ましくは、20μ当量/g以上、又は30μ当量/g以上であり、好ましくは、150μ当量/g以下、又は100μ当量/g以下、又は80μ当量/g以下である。
ポリアミド(A2)のカルボキシル末端基濃度は、好ましくは、20μ当量/g以上、又は30μ当量/g以上であり、好ましくは、150μ当量/g以下、又は100μ当量/g以下、又は80μ当量/g以下である。
ポリアミド(A2)のアミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、好ましくは、10μ当量/g以上、又は50μ当量/g以上、又は100μ当量/g以上であり、ポリアミドの分子量が小さくなり過ぎないようにして樹脂組成物の良好な物性を維持する観点から、好ましくは、500μ当量/g以下、又は300μ当量/g以下、又は135μ当量/g以下である。
特に好ましい態様においては、ポリアミド(A1)及びポリアミド(A2)の各々の合計濃度([NH2]+[COOH])が前述の範囲内である。
一態様において、混合成分中の第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)の第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)に対する比(CA1/CA2)は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、例えば、10/90以上、又は20/80以上、又は30/70以上、又は40/60以上であってよく、例えば、90/10以下、又は80/20以下、又は70/30以下、又は60/40以下であってよい。
一態様において、第1のポリアミド(A1)のアミノ末端基濃度([NH2A1)及びカルボキシル末端基濃度([COOH]A1)、混合成分中の第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)、第2のポリアミド(A2)のアミノ末端基濃度([NH2A2)及びカルボキシル末端基濃度([COOH]A2)、混合成分中の第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)、並びに混合成分中の第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)と第2のポリアミドの質量濃度(CA2)との合計質量濃度(CT)に基づいて、下記式(1b)~(1d):
[NH2T=([NH2A1×CA1+[NH2A2×CA2)/CT (1b)
[COOH]T=([COOH]A1×CA1+[COOH]A2×CA2)/CT (1c)
([NH2]+[COOH])T=[NH2T+[COOH]T (1d)
に従って算出される合計濃度([NH2]+[COOH])Tは、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、好ましくは、10μ当量/g以上、又は50μ当量/g以上、又は100μ当量/g以上であり、ポリアミドの分子量が小さくなり過ぎないようにして樹脂組成物の良好な物性を維持する観点から、好ましくは、500μ当量/g以下、又は300μ当量/g以下、又は200μ当量/g以下である。
一態様において、上記[NH2Tの上記[COOH]Tに対する比([NH2T/[COOH]T)は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成反応を良好に進行させる観点から、例えば、1以上、又は1.5以上、又は2以上であってよく、例えば、5以下、又は4以下であってよい。
[ポリアミドA]
ポリアミド(A)は、アミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が20μ当量/g以上であり且つアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が70μ当量/g以上であり、若しくはアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が50μ当量/g以上であり且つアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が60μ当量/g以上であるポリアミドである。
ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、一態様において、20μ当量/g以上、又は30μ当量/g以上、又は40μ当量/g以上、又は50μ当量/g以上であり、ポリアミドの分子量が小さくなり過ぎないようにして樹脂組成物の良好な物性を維持する観点から、好ましくは、150μ当量/g以下、又は100μ当量/g以下、又は80μ当量/g以下である。
ポリアミド(A)のカルボキシル末端基濃度は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、一態様において、20μ当量/g以上、又は30μ当量/g以上、又は40μ当量/g以上、又は50μ当量/g以上であり、ポリアミドの分子量が小さくなり過ぎないようにして樹脂組成物の良好な物性を維持する観点から、好ましくは、150μ当量/g以下、又は100μ当量/g以下、又は80μ当量/g以下である。
ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の少なくとも一方は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、一態様において、50μ当量/g以上、又は60μ当量/g以上、又は70μ当量/g以上、又は80μ当量/g以上である。一態様においては、ポリアミド(A)のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の少なくとも一方に富んでいることにより、混合工程において、ポリアミド分子間でのアミノ基とカルボキシル基との反応が良好に進行して分子量が顕著に増大する。
ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度は、混合工程におけるポリアミドのアミド結合形成促進の観点から、一態様において90μ当量/g以上であり、好ましくは、100μ当量/g以上、又は110μ当量/g以上であり、ポリアミドの分子量が小さくなり過ぎないようにして樹脂組成物の良好な物性を維持する観点から、好ましくは、500μ当量/g以下、又は300μ当量/g以下、又は200μ当量/g以下である。
一態様においては、ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の一方が70μ当量/g以上であり、他方が70μ当量/g未満であってよく、又は、アミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の一方が60μ当量/g以上であり、他方が60μ当量/g未満であってよい。この場合、混合工程での分子量増大による利点が良好に得られるとともに、樹脂組成物中のポリアミドの分子量が小さくなり過ぎず当該樹脂組成物の物性が良好である。好ましい態様においては、ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の一方が20μ当量/g以上、又は30μ当量/g以上で且つ70μ当量/g未満、又は60μ当量/g以下であり、他方が70μ当量/g以上、又は100μ当量/g以上であり且つ480μ当量/g以下、又は300μ当量/g以下である。また別の好ましい態様においては、ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の一方が50μ当量/g以上で且つ60μ当量/g未満であり、他方が60μ当量/g以上、又は100μ当量/g以上であり且つ480μ当量/g以下、又は300μ当量/g以下である。
ポリアミド(A)の、カルボキシル末端基濃度[COOH]に対するアミノ末端基濃度[NH2]の比であるアミノ末端基比率は、好ましくは、0.5以上、又は1以上、又は1.5以上であり、好ましくは、10以下、又は5以下、又は3以下である。
第1の態様においては、上記のポリアミド(A1)と上記のポリアミド(A2)とを併用することで、また第2の態様においては、上記のポリアミド(A)を用いることで、混合工程においてポリアミドの分子量を増大させることができる。理論に拘束されることを望まないが、混合工程において、セルロースナノファイバー(B)がポリアミド末端同士のアミド結合を促進し、これによりポリアミドの分子量が増大するものと推測される。
<セルロースナノファイバー(B)>
セルロースナノファイバーの原料としては、天然セルロース及び再生セルロースを用いることができる。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。
セルロースナノファイバーは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロースを加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の粉砕法により解繊した微細なセルロース繊維を指す。一態様において、セルロースナノファイバーは数平均繊維径1nm以上1000nm以下である。セルロースナノファイバーは後述のように化学修飾されたものであってもよい。
セルロース繊維を液体媒体中に分散させることによってスラリーを調製してもよい。分散は、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等を用いて行ってよい。スラリー中の液体媒体は、一態様において、水、及び任意に1種又は2種以上の有機溶媒を含み得る。有機溶媒としては、一般的に用いられる水混和性有機溶媒、例えば:沸点が50℃~170℃のアルコール(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等)、等を使用できる。典型的な態様においては、スラリー中の液体媒体は実質的に水のみである。
セルロース原料は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしても良い。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロースナノファイバーの重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が適切な範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロース分子の分子量を低下させるため、これらの工程によって、セルロースナノファイバーが低分子量化すること、及びセルロース原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
一態様において、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、セルロースナノファイバーによる物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは2~1000nmである。セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、より好ましくは500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下である。
セルロースナノファイバーの平均繊維長(L)/繊維径(D)比は、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物の機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで良好に向上させる観点から、好ましくは、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下である。
本開示で、セルロースナノファイバーの繊維長、繊維径、及びL/D比は、セルロースナノファイバーの水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースナノファイバーが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースナノファイバーの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロースナノファイバーについて、繊維長(L)の数平均値、繊維径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
又は、樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの繊維長、繊維径、及びL/D比は、固体である樹脂組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。
又は、樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの繊維長、繊維径、及びL/D比は、樹脂組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースナノファイバーを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水に置換した水分散液を調製し、セルロースナノファイバー濃度を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースナノファイバーは無作為に選んだ100本以上での測定を行う。
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロースナノファイバーを樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースナノファイバーの結晶化度について上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
植物由来のセルロースナノファイバーのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。セルロースナノファイバー中のリグニン等の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂組成物の変色を抑制する観点からも、セルロースナノファイバーの結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロースナノファイバーとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースナノファイバーを樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロースナノファイバーが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースナノファイバーがより好ましい。
また、セルロースナノファイバーの重合度は、良好な機械特性発現の観点から、好ましくは、100以上、又は150以上、又は200以上、又は300以上、又は400以上、又は450以上であり、加工性の観点から、好ましくは、3500以下、又は3300以下、又は3200以下、又は3100以下、又は3000以下である。
セルロースナノファイバーの重合度とは、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
一態様において、セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロースナノファイバーのセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロースナノファイバーが得られる。セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
ここでいうセルロースナノファイバーの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースナノファイバーを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
セルロースナノファイバーの重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロースナノファイバー内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースナノファイバーを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロースナノファイバー内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。
セルロースナノファイバーが含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロースナノファイバーの強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
一態様において、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロースナノファイバーの良好な分散性を得る観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
一態様において、セルロースナノファイバー中の酸不溶成分平均含有率は、セルロースナノファイバーの耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
セルロースナノファイバーの熱分解開始温度(TD)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において270℃以上であり、好ましくは275℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は300℃以下であってもよい。
本開示で、TDとは、熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である。セルロースナノファイバーの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
セルロースナノファイバーの250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、セルロースナノファイバーを250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。
(化学修飾)
セルロースナノファイバーは、化学修飾されたセルロースナノファイバーであってよい。セルロースナノファイバーは、例えば原料パルプ又はリンターの段階、解繊処理中、又は解繊処理後に予め化学修飾されたものであっても良いし、スラリー調製工程中又はその後、或いは乾燥(造粒)工程中又はその後に化学修飾されてもよい。
セルロースナノファイバーの修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化であり、特に好ましくはアセチル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステル、カルボン酸が好ましい。
酸ハロゲン化物は、下記式で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1-C(=O)-X
(式中、R1は炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式:
R-COO-CH=CH2
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。 アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
カルボン酸としては、下記式で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R-COOH
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ピバリン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニル、酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
一態様において、化学修飾はアシル化である。アシル置換度(DS)は、マトリックス樹脂との親和性の観点から、0以上、又は0.2以上、又は0.25以上、又は0.3以上、又は0.5以上であってよい。また、未修飾のセルロース骨格が残存していることにより、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高いマトリックス樹脂への分散性とを兼ね備えたエステル化セルロースナノファイバーを得ることができる点で、アシル置換度(DS)は、好ましくは、1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下、又は0.8以下、又は0.7以下、又は0.6以下、又は0.5以下である。
アシル置換度(DS)は、エステル化セルロースナノファイバーの反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する。エステル化セルロースナノファイバーのDSは、後述するエステル化セルロースナノファイバーの固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
固体NMRによるエステル化セルロースナノファイバーのDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロースナノファイバーについて13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
エステル化セルロースナノファイバーの繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂との複合化時の樹脂との親和性の向上、及び樹脂組成物の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2.0以上であり、化学修飾セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
DSsの値は、エステル化セルロースナノファイバーの修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
化学修飾セルロースナノファイバーのDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾セルロースナノファイバーを得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾セルロースナノファイバーの水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。
DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースナノファイバーを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
<追加の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、その性能を向上させるために、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては、分散剤;セルロース以外の有機又は無機のフィラー成分;相溶化剤;可塑剤;着色剤;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;酸化防止剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等が挙げられる。任意の追加の成分の樹脂組成物中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01質量%~50質量%、又は0.1質量%~30質量%であってよい。
分散剤としては、セルロースの水酸基と反応又は水素結合し得る化合物が好ましい。分散剤の好適例は、セルロース誘導体、ポリアルキレンオキシド、アミド及びアミンからなる群から選択される1種以上である。セルロース誘導体は、セルロース系物質であることからセルロースとの親和性が高い一方で、熱可塑性樹脂でもあることから、樹脂組成物中でのセルロースの分散安定性向上効果が高く好ましい。分散剤としては、水より高い沸点を有するものが好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
セルロース誘導体としては、セルロースエステル、セルロースエーテル等を例示でき、セルロースエステルは、耐熱性の観点で優れており、好ましい。
ポリアルキレンオキシドは、1種又は2種以上のオキシアルキレンユニットで構成されてよく、2種以上のオキシアルキレンユニットの配列はランダムでもブロックでもよい。セルロースとの良好な親和性という観点での好適例としては、ポリエチレンオキシドを例示できる。ポリアルキレンオキシドのアルキレンオキシド繰り返し数は、例えば500~100,000、又は1,000~80,000、又は2,000~50,000であってよい。
アミド化合物は、分子中にアミド結合(-C(=O)NH-結合)を1つ以上有する化合物である。アミド化合物は、脂肪族若しくは芳香族又はこれらの組合せのアミドであってよい。アミド化合物は、セルロースの分散性向上効果が良好である点で、アミド結合を分子骨格中(すなわち、側鎖でない部位)に有することが好ましい。アミン化合物としては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンを例示でき、例えば、アミンヘキサン酸等を例示できる。
界面活性剤としては、親水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリエチレングリコール)、疎水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリブタジエンジオール等)をそれぞれ1種以上用いて得られる共重合体(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロック共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのブロック共重合体)等、及びその変性体(例えば酸変性体)等が挙げられる。
樹脂組成物中、セルロースナノファイバー100質量部に対する分散剤の量は、セルロースの良好な分散及びネットワーク形成の観点から、好ましくは、1質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上であり、樹脂組成物の性能のばらつき低減の観点から、好ましくは、500質量部以下、又は300質量部以下、又は200質量部以下である。
≪樹脂組成物の製造≫
本実施形態の方法は、上記で説明した成分を含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る混合工程を含む。混合工程においては、ポリアミド(A1)、ポリアミド(A2)、及びセルロースナノファイバー(B)を含む混合成分(第1の態様において)、又はポリアミド(A)及びセルロースナノファイバー(B)を含む混合成分(第2の態様において)を混合する。
一態様において、混合成分中及び樹脂組成物中の各々において、ポリアミド100質量部に対するセルロースナノファイバーの量は、物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量部以上、又は0.5質量部以上、又は1質量部以上、又は2質量部以上であり、加工性の観点から、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は60質量部以下である。
一態様において、混合成分の総質量100質量%基準、及び樹脂組成物の総質量100質量%基準の各々で、セルロースナノファイバーの量は、物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上であり、加工性の観点から、好ましくは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下である。
混合は、典型的には溶融混練である。セルロースナノファイバーは、乾燥体又はスラリー(例えば水分散体)の形態で混合工程に供されてよい。混合成分を溶融混練する際の加熱温度は、使用するポリアミドに合わせて調整してよく、ポリアミドの融点以上であるが当該融点を大幅に上回らない温度が好ましい。加熱温度は、好ましくは、ポリアミドの融点以上、又は当該融点+20℃以上、又は当該融点+30℃以上、又は当該融点+40℃以上であり、混合成分の劣化抑制の観点から、好ましくは、当該融点+90℃以下、又は当該融点+80℃以下、又は当該融点+70℃以下である。上記融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのうち最も高温側のピークのピークトップ温度であり、混合成分が複数種のポリアミドを含む態様においては最も高温側の融点を意味する。
混合成分の水分率は、混合成分(特にポリアミド及びセルロースナノファイバー)の劣化抑制の観点から、好ましくは、5000質量ppm以下、又は2000質量ppm以下、又は1500質量ppm以下、又は1000質量ppm以下である。一方、当該水分率は、プロセス制御の容易性の観点から、例えば、1質量ppm以上、又は100質量ppm以上、又は500質量ppm以上であってもよい。好ましい態様においては、混合に供されるポリアミド、より具体的には、ポリアミド(A1)及び(A2)、又はポリアミド(A)の水分率が上記範囲内である。
溶融混練には、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用できるが、二軸押出機がセルロースの分散性を制御する上で好ましい。押出機のシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dは、40以上が好ましく、特に好ましくは50以上である。また、混練時のスクリュー回転数は、100~800rpmの範囲が好ましく、より好ましくは150~600rpmの範囲内である。これらはスクリューのデザインにより、変化する。樹脂組成物の熱劣化を抑制する観点から、弱練り(すなわち、小剪断力下での混練)が好適である。弱練りは、例えば、押出機のスクリュー構成において搬送ゾーンを多く設けること、スクリューの回転数を小さくすること等によって実現できる。
押出機のシリンダー内の各スクリューは、楕円形の二翼のねじ形状のフルフライトスクリュー、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメント、等を組み合わせて最適化される。
一態様においては、押出機のシリンダーの途中部分に添加口が設置され、添加口に投入された原料はシリンダー内のスクリューに導かれる。添加口の位置に特に制限は無いが、一態様において、添加口の位置は溶融混練ゾーンより下流に配置される。押出機を用いた通常の混練では、最初の樹脂溶融ゾーンが最も強く剪断がかかる領域であるため、搬送ゾーンを移動する未溶融状態の樹脂に対しフィラー成分を添加することにより、その後の加熱溶融下での剪断力でフィラーが微分散される。
セルロースナノファイバーをポリアミドに微分散させる場合、樹脂溶融ゾーンの手前でセルロースナノファイバーを添加すると、樹脂溶融ゾーンでの強い剪断力が原因でセルロースの劣化が生じ、セルロース本来の強固な結晶構造の損失、強化樹脂としての力学的特性の低下、着色及び臭気といった問題が生じる場合がある。特に、ポリアミドのような高融点樹脂を用いる場合には混練温度が高温であるため、セルロースナノファイバーへの熱履歴が過酷になる傾向がある。上記観点から、予め溶融されたポリアミドに対してセルロースナノファイバーを添加する場合、セルロースが劣化の少ない状態でポリアミド中に分散され有利である。
シリンダー内部を通過する際に混合成分が受ける熱履歴の軽減を目的とし、セルロースナノファイバーの添加口を、押出機の溶融混練ゾーンよりも下流側に設計することが好ましい。具体的には、シリンダーの全長(L1)に対し、シリンダーの出口から添加口までの長さ(L2)を1/2以下に設計することが好ましい。なおシリンダーの全長には混練に関与しない部分(例えば搬送ゾーン)も含まれる。添加口からは、セルロースが投入され、押出機内で溶融混練されたポリアミド中に混入される。
セルロースナノファイバーが押出機内を搬送される距離を、ポリアミドと比較して短くする場合、セルロースナノファイバー混入後のシリンダー内のスクリューの構成を工夫することで確実な均質分散を実現することができる。具体的には、これに限定するものではないが、進行方向と逆向きのフィードを作り出す反時計回りのスクリューを1箇所以上、添加口よりも下流側のシリンダー内に設けることにより、セルロースナノファイバーの高度な分散をより確実に実現することができる。
混合工程においては、樹脂組成物及び/又は成形体の一部を混合成分の一部として再利用することが好ましい。このような樹脂組成物及び/又は成形体は、本実施形態で製造される樹脂組成物及び/又は成形体であってもよいし、他のプロセスで製造されたもの(例えば、他のプロセスで製造したポリアミドのリサイクル物)であってもよい。樹脂組成物を製造するための混合工程における熱履歴でポリアミドの分子量が低下している樹脂組成物、及び/又は、上記混合工程の熱履歴と、樹脂組成物から成形体を製造するための成形工程における熱履歴とによってポリアミドの分子量が低下している成形体、を混合工程に戻すことで、ポリアミドの分子量低下分を回復させ、物性に優れる樹脂組成物又は成形体を得ることができる。
混合成分中の樹脂組成物由来分及び成形体由来分の合計比率は、上記のような分子量低下分の回復効果を良好に得る観点から、好ましくは、1質量%以上、又は2質量%以上、又は5質量%以上であり、樹脂組成物の物性を精度良く制御する観点から、好ましくは、99質量%以下、又は80質量%以下、又は50質量%以下である。
≪樹脂組成物の形状≫
本実施形態の樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性及び運搬の容易性から好ましい。好ましい樹脂ペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、形状は押出加工時のカット方式により異なってよい。例えば、アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの好ましいペレット直径は、1mm以上3mm以下である。円柱状ペレットの好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
≪樹脂組成物の特性≫
<水分率>
樹脂組成物の水分率は、樹脂組成物の経時安定性の観点から、好ましくは、5000質量ppm以下、又は2000質量ppm以下、又は1500質量ppm以下である。一方、当該水分率は、プロセス制御の容易性の観点から、一態様において、1質量ppm以上、又は100質量ppm以上、又は500質量ppm以上であってよい。
樹脂組成物中の水分率は、一態様において、混合に供されるポリアミドの水分率(より具体的には、第1の態様においてはポリアミド(A1)及びポリアミド(A2)の混合物の水分率、第2の態様においてはポリアミド(A)の水分率)よりも高い。本実施形態において、樹脂組成物の水分率が混合に供されるポリアミドの水分率よりも高いことは、混合工程においてポリアミドの分子間アミド結合の形成によって水が生成したことの指標である。本実施形態の方法によれば、ポリアミドがアミド結合形成によって重合することで、当該ポリアミドの分子量が例えば前述の式(1a)又は(2a)を満たす程度に増大する。混合に供されるポリアミドの水分率に対する樹脂組成物中のポリアミドの水分率の比は、一態様において1超であり、好ましくは、1.01以上、又は1.03以上、又は1.05以上である。上記比が高い程、本実施形態の方法による利点が顕著であることを示す。一方、樹脂組成物中のポリアミドの水分率を低く抑えることで樹脂組成物の物性を良好に維持する観点から、上記比は、好ましくは、1.50以下、又は1.30以下、又は1.25以下である。
<引張降伏強度>
本実施形態の樹脂組成物においては、セルロースナノファイバーの寄与により、引張降伏強度が、ポリアミド単独に比して飛躍的に改善する傾向がある。樹脂組成物の引張降伏強度の、ポリアミド単独の引張降伏強度を1.0としたときの比率は、1.1倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.11倍以上、さらにより好ましくは1.12倍以上、最も好ましくは1.13倍以上である。上記比率の上限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、1.5倍であることが好ましく、より好ましくは1.2倍である。引張降伏強度は、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形し、JIS K6920-2に準拠して測定される値である。
<線膨張係数>
本実施形態の樹脂組成物は、セルロースを含むため、比重を増すことなく、低熱膨張性を示すことが可能となる。具体的には、樹脂組成物の温度範囲20℃~100℃における熱膨張係数は、好ましくは70ppm/K以下であり、より好ましくは60ppm/K以下であり、より好ましくは50ppm/K以下であり、より好ましくは45ppm/K以下であり、さらにより好ましくは40ppm/K以下であり、最も好ましくは35ppm/K以下である。熱膨張係数の下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは10ppm/Kである。熱膨張係数は、ISO11359-2に準拠し、熱機械測定にて求められる値である。
<引張破断歪>
本実施形態の樹脂組成物の引張破断歪は、好ましくは10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は40%以上、又は50%以上である。このような樹脂組成物は、靭性に優れ好ましい。樹脂組成物の引張破断歪は高い方が好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、500%以下、又は200%以下、又は100%以下であってもよい。上記引張破断歪は、ISO 37 type 3の試験片について、引張試験機を用い、温度23℃,相対湿度50%の環境下にて引張速度5mm/分で引張試験を実施したときの、破断時の歪のデータ5点の算術平均として得られる値である。
≪成形体の製造≫
本実施形態の樹脂組成物から、種々の形状の成形体を製造できる。一態様において、成形体の製造方法は、
本実施形態の混合工程(すなわち、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る工程)と、
樹脂組成物を成形する成形工程と、
を含む。成形方法としては、射出成形(例えば射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、及び超高速射出成形)、各種押出成形(コールドランナー方式又はホットランナー方式)、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、各種異形押出成形(例えば二色成形及びサンドイッチ成形)等を例示できる。例えば、シート、フィルム、繊維等の成形には種々の押出成形が好適である。シート又はフィルムの成形にはインフレーション法、カレンダー法、キャスティング法等も用いることができる。さらに、特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また、回転成形又はブロー成形等により中空成形品とすることも可能である。デザイン性及びコストの観点から、成形方法としては射出成形が好ましい。
成形温度は、樹脂組成物の組成等に応じて適宜選択できるが、例えば、使用されるポリアミドの融点以上、又は当該融点+20℃以上、又は融点+30℃以上であってよく、融点+90℃以下、又は融点+80℃以下、又は融点+70℃以下であってよい。
≪樹脂組成物及び成形体の用途≫
本実施形態の樹脂組成物及び成形体は、鋼板、繊維強化プラスチック(例えば炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等)、無機フィラーを含む樹脂コンポジット、等の代替品として有用である。樹脂組成物及び成形体の好適な用途としては、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両・船舶・航空宇宙関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材、容器・包装部材、等を例示できる。
以下、本発明の例示の態様を実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
≪評価方法≫
<ポリアミド及び樹脂組成物の評価>
[ポリアミドのアミノ末端基濃度[NH2]]
秤量した試料を、90質量%フェノール水溶液に溶解し、25℃にて1/50N塩酸で電位滴定して算出した。
[ポリアミドのカルボキシル末端基濃度[COOH]]
秤量した試料を、160℃のベンジルアルコールに溶解し、指示薬に25℃にて1/50N塩酸で電位滴定して算出した。
[ポリアミドの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
ポリマーペレットについて、ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で算出した。
ミクロトーム(ライカ社製、型番:RM2245)でペレットを切削し、約5.0mgサンプリングした後、計算した樹脂分に対して1mg:1mLになるように0.0848%トリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロピルアルコールを加え、1時間静置し溶解させた。溶液を孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記のとおりである。
装置:東ソー社製 HLC-8320GPC
カラム:東ソー社製 SuperHM-M
ガードカラム:東ソー社製 TSK-GELガード
溶離液:ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(トリフルオロ酢酸ナトリウム 0.0848質量%)
流速:0.3mL/分
検出器:RI検出器
検量線サンプル:エーエムアール社製 EasiVialTMPM(PMMA)(分子量は、2,210,000、1,020,000、538,500、260,900、146,500、72,800、30,780、13,900、7,290、1,810、1,090、540のものを使用)
解析ソフト:EcoSEC-WorkStation
[ポリアミドの融点]
ポリマーペレットについて、示差走査熱量分析装置(PERKINELMER社製DSC8500)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を測定した。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を融点とした。
[ポリアミドのガラス転移点]
ポリマーをISO294-1に準拠して成形して得た板状の多目的試験片の中央部について、動的粘弾性測定装置(TA Instruments社製 ARES G2)を用いて、-100℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップ温度を測定した。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度をガラス転移点とした。
[ポリアミド及び樹脂組成物の水分率]
ISO 15512に準拠した方法でカールフィッシャー水分計(三菱化学アナリテック社製 電量滴定方式微量水分測定装置CA-200型)を用いて水分率(ppm)を測定した。
<セルロースナノファイバーの評価>
[多孔質シートの作製]
まず、ウェットケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。セルロース固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、ろ紙を剥離してシートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
[アシル置換度(DS)]
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式:
IRインデックス= H1730/H1030
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
[平均繊維径、L/D]
ウェットケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型顕微鏡で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロースが観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロースの長さ(L)、長径(D)及びこれらの比を求め、100本のセルロースの加算平均を算出した。
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N、N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
[アルカリ可溶多糖類平均含有率]
アルカリ可溶多糖類含有率は、セルロースについて非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をセルロースのアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。
[酸不溶成分平均含有率]
酸不溶成分の定量は、セルロース繊維について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法で行った。絶乾させたセルロース繊維を精秤し、所定の容器に入れて72質量%濃硫酸を加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押した後、オートクレーブしてセルロース及びヘミセルロースを酸溶液中に溶解させた。放冷後に内容物をガラスファイバーろ紙で濾過し、酸不溶成分を残渣として得た。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とした。
≪使用材料≫
<ポリアミド>
第1のポリアミド(A1):「UBEナイロン 1013A」(宇部興産株式会社製)
第2のポリアミド(A2):「UBEナイロン 1013B」(宇部興産株式会社製)
リサイクルポリアミド(R1):
以下の手順で調製した。
ポリアミドA1のペレットを小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、250℃、200rpmで5分間循環混練後に付属の射出成型機にて250℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片を作製した後、ラボネクト株式会社製ミニスピードミルMS-05で粉砕した。粉砕によって得られた粉体を、同じ方法で溶融混練、射出成型、粉砕の工程を4回繰り返すことで、リサイクルポリアミド粉末を得た。得られた樹脂の数平均分子量(Mn)は19363、重量平均分子量(Mw)は32647、Mw/Mnは1.69であった。
リサイクルポリアミド(R2):
以下の手順で調製した。
ポリアミドA1のペレットを小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、250℃、200rpmで5分間循環混練後に付属の射出成型機にて250℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片を作製した後、ラボネクト株式会社製ミニスピードミルMS-05で粉砕した。粉砕によって得られた粉体を、同じ方法で溶融混練、射出成型、粉砕の工程を4回繰り返すことで、リサイクルポリアミド粉末を得た。得られた樹脂の数平均分子量(Mn)は17431、重量平均分子量(Mw)は32668、Mw/Mnは1.87であった。
<セルロースナノファイバー>
[CNF-1](未修飾セルロースナノファイバー)
以下の手順で調製した。
リンターパルプを裁断後、純水中に固形分率が1.5質量%になるように、叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させることにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに1.5時間叩解を実施することで、未修飾セルロースナノファイバースラリーを得た。
[CNF-2](アセチル化セルロースナノファイバー)
KAPPA VITA(登録商標)ホモミキサー(タンクサイズ35L)に解繊セルロース1kg、ジメチルスルホキシド19kgを加えて均質になるまで撹拌した。そこに酢酸ビニル2.1kg、炭酸水素ナトリウム0.321kgを加え、撹拌しながら60℃で60分間アセチル化を行い、アセチル化セルロースナノファイバースラリーを得た。
<分散剤>
ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体
サンニックス GL-3000(重合度3000、三洋化成工業株式会社から入手可能)
≪樹脂組成物の製造≫
<実施例1>
得られた未修飾セルロースナノファイバースラリー中のセルロースナノファイバー固形分7質量部に対して、サンニックス GL-3000を3質量部投入し、プラネタリミキサー(プライミクス社製、ハイビスミックス2P-1)を用いて回転数50rpm、50℃で真空乾燥させることにより、乾燥複合粒子C1を得た。得られた乾燥複合粒子14質量部に対してUBEナイロン 1013Aを26質量部、UBEナイロン 1013Bを60質量部加え、小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、250℃、200rpmで5分間循環混練後に、付属の射出成型機にて250℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片を作製し、評価に用いた。得られたペレット、ダンベル状試験片の各形体とした樹脂複合体1を用いて各評価を行った。
また、乾燥複合粒子14質量部に対して、UBEナイロン 1013Aを13質量部、リサイクルポリアミド(R1)を13質量部、UBEナイロン 1013Bを30質量部、リサイクルポリアミド(R2)を30質量部加え、小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、250℃、200rpmで5分間循環混練後に、付属の射出成型機にて250℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片を作製し、以下の基準で評価した。
〇:リサイクルポリアミドを添加した組成物のMnが添加しない組成物のM以上
×:リサイクルポリアミドを添加した組成物のMnが添加しない組成物のM未満
<実施例2~5、比較例1~4>
ポリアミド及びセルロースナノファイバーの配合を表4に示すとおりとした他は実施例1と同様の手順で、樹脂組成物の製造及び評価を行った。結果を表4に示す。
Figure 2022158112000001
Figure 2022158112000002
Figure 2022158112000003
Figure 2022158112000004
本発明の一態様が提供する樹脂組成物は、耐熱性、寸法安定性等の物性に優れ、広範な用途の成形体の製造に好適に適用され得る。

Claims (13)

  1. ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
    アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす第1のポリアミド(A1)及びアミノ末端基濃度[NH2]<カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす第2のポリアミド(A2)と、セルロースナノファイバー(B)とを含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る混合工程を含み、
    前記第1のポリアミド(A1)の数平均分子量(MA1)、前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)、前記第2のポリアミド(A2)の数平均分子量(MA2)、前記混合成分中の前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)、及び前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)と前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)との合計質量濃度(CT)に基づいて、下記式:
    T=(MA1×CA1+MA2×CA2)/CT
    に従って算出される数平均分子量(MT)と、前記樹脂組成物中のポリアミドの数平均分子量(M)とが、下記式(1a):
    M/MT>1.1 (1a)
    の関係を満たす、樹脂組成物の製造方法。
  2. 前記第1のポリアミド(A1)のアミノ末端基濃度[NH2A1及びカルボキシル末端基濃度[COOH]A1、前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)、前記第2のポリアミド(A2)のアミノ末端基濃度[NH2A2及びカルボキシル末端基濃度[COOH]A2、前記混合成分中の前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)、並びに前記混合成分中の前記第1のポリアミド(A1)の質量濃度(CA1)と前記第2のポリアミド(A2)の質量濃度(CA2)との合計質量濃度(CT)に基づいて、下記式(1b)~(1d):
    [NH2T=([NH2A1×CA1+[NH2A2×CA2)/CT (1b)
    [COOH]T=([COOH]A1×CA1+[COOH]A2×CA2)/CT (1c)
    ([NH2]+[COOH])T=[NH2T+[COOH]T (1d)
    に従って算出される合計濃度([NH2]+[COOH])Tが、10μ当量/g以上500μ当量/g以下である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記[NH2Tの前記[COOH]Tに対する比([NH2T/[COOH]T)が、1以上5以下である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記第1のポリアミド(A1)及び前記第2のポリアミド(A2)の各々の、アミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度([NH2]+[COOH])が、10μ当量/g以上500μ当量/g以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
    アミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が20μ当量/g以上であり且つ前記アミノ末端基濃度及び前記カルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が70μ当量/g以上であり、若しくはアミノ末端基濃度及びカルボキシル末端基濃度の各々が50μ当量/g以上であり且つ前記アミノ末端基濃度及び前記カルボキシル末端基濃度の少なくとも一方が60μ当量/g以上であるポリアミド(A)と、セルロースナノファイバー(B)とを含む混合成分を混合して樹脂組成物を得る混合工程を含み、
    前記樹脂組成物中のポリアミドの数平均分子量(M)と、前記混合に供される前記ポリアミド(A)の数平均分子量(MA)とが、下記式(2a):
    M/MA>1.1 (2a)
    の関係を満たし、
    前記樹脂組成物の水分率が、前記混合に供される前記ポリアミド(A)の水分率よりも高い、樹脂組成物の製造方法。
  6. 前記ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度([NH2]+[COOH])が、90μ当量/g以上500μ当量/g以下である、請求項5に記載の方法。
  7. 前記ポリアミド(A)のアミノ末端基濃度[NH2]及びカルボキシル末端基濃度[COOH]の一方が20μ当量/g以上70μ当量/g未満であり且つ他方が70μ当量/g以上480μ当量/g以下である、請求項5又は6に記載の方法。
  8. 前記樹脂組成物の水分率が100質量ppm以上5000質量ppm以下であり、前記混合に供される前記ポリアミド(A)の水分率が1質量ppm以上1000質量ppm以下である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記樹脂組成物の一部を前記混合成分の一部として用いる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記セルロースナノファイバー(B)の数平均繊維径が2nm以上1000nm以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記セルロースナノファイバー(B)のアシル置換度(DS)が、0以上1.5以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 前記セルロースナノファイバー(B)の結晶化度が、60%以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記セルロースナノファイバー(B)の酸不溶成分平均含有率が、10質量%以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
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