JP2022151805A - 油脂組成物の製造方法、油脂組成物、および飲食品用添加剤 - Google Patents

油脂組成物の製造方法、油脂組成物、および飲食品用添加剤 Download PDF

Info

Publication number
JP2022151805A
JP2022151805A JP2022046928A JP2022046928A JP2022151805A JP 2022151805 A JP2022151805 A JP 2022151805A JP 2022046928 A JP2022046928 A JP 2022046928A JP 2022046928 A JP2022046928 A JP 2022046928A JP 2022151805 A JP2022151805 A JP 2022151805A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
oil
fat
heating
pressurized
fats
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2022046928A
Other languages
English (en)
Inventor
泰子 大村
Yasuko Omura
宏輔 菊地
Kosuke Kikuchi
耕平 小松
Kohei Komatsu
和之 茂木
Kazuyuki Mogi
喬比古 土屋
Nobuhiko Tsuchiya
美穂 田村
Yoshio Tamura
耕児 大島
Koji Oshima
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Adeka Corp
Original Assignee
Adeka Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Adeka Corp filed Critical Adeka Corp
Publication of JP2022151805A publication Critical patent/JP2022151805A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Abstract

【課題】(1)油脂由来の美味しさの飲食品への付与等、および(2)飲食品の風味調和の改善のいずれか一つ以上を実現できる油脂組成物の製造方法を提供する。さらに、そのような油脂組成物、およびこれを含む飲食品用添加剤を提供する。【解決手段】本発明の油脂組成物の製造方法は、食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱すること、および、上記加熱の際に又は上記加熱の後に、加圧しながら加熱する前の油脂原料の過酸化物価に対する、加圧しながら加熱した後の油脂原料の過酸化物価の比の値を、1.0~3.0の範囲に調整することを含む。[油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と加熱時間(分)の積分値を加熱処理量としたとき、上記加熱による加熱処理量は、2700~10000℃・分である。【選択図】図1

Description

本発明は、油脂組成物の製造方法、油脂組成物、および飲食品用添加剤に関する。
近年、飲食品業界においては、植物性食品に対する嗜好の高まりや動物福祉の観点から、動物油脂(牛脂、豚脂および乳脂等)および動物油脂を含有する素材等の動物性原料を、飲食品の製造の際に使用することを避け、植物油脂(米油、ゴマ油およびオリーブ油等)および植物油脂を含有する素材等の植物性原料で代替する傾向がある。
また、同時に、飲食品に対する消費者の要望は多様化、高度化する傾向がある。例えば、健康志向から、飲食品中の油脂分を低減することへの要望は強い。
しかし、動物性原料を植物性原料で代替して、同じ飲食品を製造した場合には、植物性原料由来の特徴的な風味により、飲食品の風味や、トップ・ミドル・ラストの各段階における風味の調和(以下、単に、「風味調和」ともいう。)が損なわれやすいことが知られている。
加えて、飲食品中の油脂分量を単に低減した場合には、コク味(飲食品の特徴を決める味わいの持続性や広がりを意味する。)に代表される油脂由来の美味しさも、損なわれやすいことが知られている。
これらの呈味の問題に対して、香料等の添加や飲食品のテクスチャの変更(例えばトロミの付与)等により対応される場合がある。
しかしながら、香料等の添加によっては、例えばトップの風味が鋭く立ち上がったり、ラストの風味が後残りしたりと、風味調和をいっそう損なう恐れがある。また、飲食品のテクスチャの変更によっては、風味発現が元の飲食品とは異なりやすい上、飲食品本来の食感を感じにくいという問題がある。
また、香料等の添加や飲食品のテクスチャの変更だけでは、油脂由来の美味しさが依然として損なわれやすく、動物性原料を植物性原料で代替した場合に、植物性原料由来の特徴的な風味による風味調和の崩れを補うことは難しい。
このように、飲食品の風味調和および油脂由来の美味しさは、飲食品中に含有される油脂種の変更や油脂分量の低減によって損なわれやすい。そこで、動物性原料を植物性原料で代替したり油脂分量を低減したりする場合に、飲食品の風味調和を改善しまたは油脂由来の美味しさを付与する目的で、油脂に対して処理を施し、油脂が元来有する風味またはコク味を強めるという手法が近年検討されている。
例えば、特許文献1には、バターと乳類を含む含水混合物を、水分含量が1質量%未満になるまで加熱してバター加工品を製造し、これをマーガリン等の油脂組成物中に含有させて飲食品を製造することにより、風味をバランスよく底上げする方法が開示されている。
特許文献2には、過酸化物価が20以上400以下であり、乳脂を10質量%以上100質量%以下含む酸化油脂を有効成分とする食品用油脂感増強剤が開示されている。そして、特許文献2には、少量の油脂配合量でも、上記食品用油脂感増強剤を適用した食品の油脂感を増強できることが記載されている。
また、飲食品の風味調和を改善しまたは油脂由来の美味しさを付与する目的で提案されたものではないが、特許文献3では、過酸化物価が15~180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、甘味および/または塩味の増強剤が提案されている。
国際公開第2019/069544号 国際公開第2019/073811号 国際公開第2018/037926号
特許文献1の手法によれば、油脂分量の低減により損なわれやすい飲食品の風味調和を改善し、または油脂由来の美味しさを付与することは可能である。しかしながら、原料として動物油脂以外、すなわち植物油脂を原料として使用した場合において、同様の効果が得られるかどうかについては開示されていない。
特許文献2や特許文献3のような酸化油脂においては、極度に酸化させた油脂を飲食品中に含有させるため、風味の強化を図ることはできる。しかしながら、特定の風味が増強され、かつトップの風味が主として増強されやすいため、飲食品中の動物性原料を植物性原料で代替したり油脂分量を低減したりする場合に、飲食品の風味調和を改善しまたは油脂由来の美味しさを適切に付与することが難しい。加えて、油脂を極度に酸化するために油脂の加熱が行われるが、この加熱により加熱に供した油脂自体の風味が強まり、加熱に供した油脂固有の風味が飲食品に強く付与されてしまう場合があった。
また、出願人は、飲食品の風味およびコク味を改善する油脂組成物を得る手法として、食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱すること、および、加熱の際にまたは加熱の後に、油脂原料の過酸化物価を1.0~3.3meq/kgの範囲に調整することを含む、油脂組成物の製造方法に関する発明について出願している(特願2020-033580号)。
この製造方法により得られる油脂組成物は、飲食品の風味やコク味を充分に強化することができる。とりわけ、上記油脂組成物は、ラストの風味やコク味を強化することができ、油脂分量の多い飲食品で特に良好な効果を呈するものである。
一方で、特定の風味を強化するよりも飲食品全体の風味調和が求められる場合もあり、特に、油脂分量が少ない飲食品において、そのような要望が強い。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、動物性原料を植物性原料で代替したり油脂分量を低減したりする場合においても、(1)コク味に代表される油脂由来の美味しさの飲食品への付与または飲食品の油脂由来の美味しさの増強、および(2)飲食品の風味調和の改善、これら(1)および(2)のいずれか一つ以上を実現できる油脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記製造方法により製造された油脂組成物およびそれを含有する飲食品用添加剤の提供を目的とする。
上記課題は、油脂を加圧しながら一定量の加熱処理を行い、加圧しながら加熱する前後の油脂の過酸化物価の比の値を特定範囲に調整することにより解決できた。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
<1>
食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱すること、および
上記加熱の際に又は上記加熱の後に、加圧しながら加熱する前の油脂原料の過酸化物価に対する、加圧しながら加熱した後の油脂原料の過酸化物価の比の値を、1.0~3.0の範囲に調整することを含む、油脂組成物の製造方法であって、
上記加熱による加熱処理量が、2700~10000℃・分である、油脂組成物の製造方法;
但し、加熱処理量は、[油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と加熱時間(分)の積分値である。
<2>
上記加熱時に105~145℃の範囲で加熱温度を保持する、<1>に記載の製造方法。
<3>
加熱温度を保持する保持時間が9~75分である、<2>に記載の製造方法。
<4>
加熱時の昇温速度が1~20℃/分である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法。
<5>
加熱時の降温速度が1~40℃/分である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法。
<6>
油脂原料の加圧しながら加熱する前の過酸化物価が、1.0meq/kg以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の製造方法。
<7>
上記加熱を低酸素下で行う、<1>~<6>のいずれか1つに記載の製造方法。
<8>
上記食用油脂が、動物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、動物油脂およびその加工油脂の混合油脂を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
<9>
上記食用油脂が、植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、植物油脂およびその加工油脂の混合油脂を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の製造方法。
<10>
上記食用油脂が、動物油脂と植物油脂とを、前者対後者の質量比が50~90:10~50となるように混合した混合油脂、およびこの混合油脂に改質処理を施した加工油脂の少なくとも1種を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
<11>
上記食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくラクトン・ケトン成分量に対するアルデヒド成分量の比が2.60~3.19である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の製造方法。
<12>
上記食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくアルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比が2.91~3.30である、<1>~<11>のいずれか1つに記載の製造方法。
<13>
上記食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、アルデヒド成分量が24.0~28.0%であり、アルコール成分量が7.0~9.0%である、<1>~<12>のいずれか1つに記載の製造方法。
<14>
上記食用油脂が精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくアルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比が0.60~4.40である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の製造方法。
<15>
上記食用油脂が精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、アルデヒド成分量が10.0~60.0%である、<1>~<10>および<14>のいずれか1つに記載の製造方法。
<16>
アルコール成分量が14.0%以下である、<15>に記載の製造方法。
<17>
<1>~<16>のいずれか1つに記載の製造方法により製造された油脂組成物。
<18>
<17>に記載の油脂組成物を含む飲食品用添加剤。
本発明の油脂組成物の製造方法により、動物性原料を植物性原料で代替したり油脂分量を低減したりする場合においても、(1)コク味に代表される油脂由来の美味しさの飲食品への付与または飲食品の油脂由来の美味しさの増強、および(2)飲食品の風味調和の改善、これら(1)および(2)のいずれか一つ以上を実現できる油脂組成物が得られる。また、本発明の油脂組成物および飲食品用添加剤により、動物性原料を植物性原料で代替したり油脂分量を低減したりする場合においても、需要者の嗜好に合わせて飲食品の風味または美味しさを適宜調整することが可能となる。
温度制御および圧力制御の例を示すグラフである。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。各構成要素は、便宜上、この好適な実施形態に基づいて説明されるが、本発明は、そのような実施形態に限定されるものではない。
<油脂組成物>
まず、本発明の製造方法によって製造される油脂組成物(本発明の油脂組成物)について説明する。本発明の油脂組成物は、食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱し、加圧しながら加熱することによる加熱処理量([油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と加熱時間(分)の積分値)が2700~10000℃・分であり、加圧しながら加熱する前の油脂原料の過酸化物価に対する、加圧しながら加熱した後の油脂原料の過酸化物価の比(以下、単に過酸化物価比とも記載する。)の値を1.0~3.0の範囲に調整することにより得られる。なお、本明細書において、加圧しながら加熱することを「加圧加熱」ともいい、油脂を加圧加熱することにより得られる加工物を「加圧加熱物」ともいう。
本発明の油脂組成物である加圧加熱物を飲食品へ添加することにより、(1)コク味に代表される油脂由来の美味しさの飲食品への付与または飲食品の油脂由来の美味しさの増強、および(2)飲食品の風味調和の改善、これら(1)および(2)のいずれか一つ以上の効果を得ることができる。以下、油脂由来の美味しさの飲食品への「付与」、および飲食品の油脂由来の美味しさの「増強」を総称して、油脂由来の美味しさの「付与等」と記載し、または油脂由来の美味しさを「付与等する」と記載する場合もある。
油脂由来の美味しさの付与等には、加圧加熱物を飲食品へ添加することにより、加圧加熱物中の油脂に由来する風味またはコク味が飲食品へ付与されること、および、飲食品の本来の原料である油脂(つまり、加圧加熱物以外の油脂)に由来する風味またはコク味が本来よりも強く感じられること、が含まれる。
「風味調和の改善」とは、飲食品全体として、あるいは飲食品の風味プロフィールのトップ・ミドル・ラストの各段階において、調和のとれた良好な風味が得られるようにすることを意味する。風味調和の改善手段には、飲食品の原料が有する異味や異臭(以下、「異味異臭」とも記載する。)の飲食品への付与を抑制すること、および、加圧加熱物の風味およびコク味を飲食品へ付与することが含まれる。動物性原料を植物性原料で代替して飲食品を製造する場合において、上記異味異臭の原因は、例えば、植物性原料由来の苦み、渋みおよびアルカリ味等の不快な味覚(異味)、植物性原料由来のグラス臭(青草臭または牧草臭とも言われる。)、枯草臭、穀物臭、豆臭、寒天臭、タンパク臭、粉臭、石鹸臭、青臭さおよびオフフレーバー等の不快な風味(異臭)、および、これらの異味異臭から生じるえぐみであると考えられる。
さらに、本発明の油脂組成物には、それ自体に異味が少ないという利点もある。これにより、本発明の油脂組成物を飲食品に添加しても、この油脂組成物の添加に起因して飲食品の異味がほとんど生じず、飲食品の美味しさおよび風味を壊すことがない。
本発明および本明細書において「食用油脂」とは、動物油脂や植物油脂等の種類、さらにはそれらの油脂を水素添加等で加工して得られる加工油脂であるか否かを問わず、遊離の脂肪酸、グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリド等を含有する任意の食用の油脂を指す。本発明および本明細書において、動物油脂と植物油脂を合わせて、単に「動植物油脂」と記載する場合がある。
本発明の油脂組成物(加圧加熱物)は、技術常識に照らして、油脂由来の成分(例えば、遊離の脂肪酸、グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリド等)と、加圧加熱することにより二次的に産生された成分(例えば、有機酸類、炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、含硫化合物、ケトン類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、芳香族化合物およびラクトン類等)の混合物と推定される。このように多種多様な成分構成を有する加圧加熱物につき、本発明の課題を解決するのに必要な構造または特性を明らかにし、本発明をその構造または特性により直接特定することは、膨大な時間とコストを要すると予想され、およそ実際的でない。したがって、本発明の油脂組成物(加圧加熱物)について、その製造方法によって特定するのが合理的であると思量する。
本発明の加圧加熱物の過酸化物価は、加圧加熱前の油脂原料の過酸化物価に対する比(過酸化物価比)が1.0~3.0となる値である。過酸化物価比がこの範囲内にあることで、飲食品に油脂由来の美味しさを付与等し、または風味調和を改善する効果が得られる。加圧加熱物の過酸化物価比は、油脂由来の美味しさをいっそう付与等したり、風味調和をいっそう改善したりする観点から、1.0~2.7であることが好ましく、1.0~2.4であることがより好ましく、1.0~2.2であることが特に好ましい。
本発明の加圧加熱物の過酸化物価は0.2~2.0meq/kgであることができる。過酸化物価が0.2meq/kg以上であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品に油脂由来の美味しさを付与等しやすくなる。また、過酸化物価が2.0meq/kg以下であることで、風味調和を改善しやすくなる。加圧加熱物の過酸化物価は、飲食品に油脂由来の美味しさをより付与等する観点から、0.3meq/kg以上であることがより好ましく、0.4meq/kg以上であることがさらに好ましい。また、加圧加熱物の過酸化物価は、飲食品の風味調和をより改善する観点から、1.9meq/kg以下であることがより好ましく、1.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。
油脂の過酸化物価は、油脂の変質の指標となる数値の一つで、油脂に含まれる過酸化物の量の指標である。過酸化物価の値は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.5.2-2013」に示された手法により測定することができる。
本発明の加圧加熱物の酸価は0.5mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が上記範囲にあることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品の風味を損ねにくくなる。加圧加熱物の酸価は、飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等したり、風味調和をより改善したりする観点から、0.3mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.2mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。加圧加熱物の酸価の下限は、特に制限されず、例えば0.00mgKOH/g以上である。
油脂の酸価は、油脂の変質の指標となる数値の一つで、油脂1グラム中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数として定義される。酸価の値は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.3.1-2013」に示された手法により測定することができる。
本発明の加圧加熱物の形態は、通常、油脂原料の種類によって決まり、液状でも固体状でもよく、さらにそれらの混成状態でもよい。
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物の製造方法は、上記のとおり、食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱すること、および、過酸化物価比の値を1.0~3.0の範囲に調整することを含む。ただし、加圧しながら加熱することによる加熱処理量([油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と加熱時間(分)の積分値)が2700~10000℃・分である。
<<油脂原料>>
油脂原料は、食用油脂を含み、必要に応じて他の材料を含むこともできる。
油脂原料の加熱前の過酸化物価は1.0meq/kg以下であることが好ましい。油脂原料の過酸化物価は、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。油脂原料の過酸化物価の下限は、特に制限されず、例えば0.2meq/kg以上でもよく、0.3meq/kg以上でもよい。油脂原料の過酸化物価が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさを付与等しやすくなり、風味調和を改善しやすくなる。油脂原料を構成する食用油脂は、油脂原料全体の過酸化物価が上記範囲になるように適宜選択される。
油脂原料の加熱前の過酸化物価は、特に、食用油脂として牛脂、豚脂および乳脂等の動物油脂、もしくはこれらの動物油脂に改質処理を施した加工油脂、または上記動物油脂および上記加工油脂の混合油脂を含む場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。なお、油脂の「改質処理」は、物理的または化学的に油脂を改質できる処理を指し、特に制限されないが、例えば水素添加、分別およびエステル交換等の少なくとも1種の処理である。油脂原料を構成する動物油脂は、油脂原料全体の過酸化物価が上記範囲になるように適宜選択される。
一方、油脂原料の加熱前の過酸化物価は、特に、食用油脂として植物油脂のうち、菜種油、大豆油、米油、ゴマ油およびオリーブ油等の、常温(25℃)で液状である、いわゆる液状油、もしくはこれらの液状油に改質処理を施した加工油脂、または上記液状油および上記加工油脂の混合油脂を含む場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。また、油脂原料の加熱前の過酸化物価は、特に、食用油脂として植物油脂のうち、パーム油、パーム核油、カカオ脂およびシア脂等の、常温(25℃)で固体状である植物油脂、もしくはこれらの植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または上記植物油脂および上記加工油脂の混合油脂を含む場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。油脂原料を構成する植物油脂は、油脂原料全体の過酸化物価が上記範囲になるように適宜選択される。
また、油脂原料の加熱前の過酸化物価は、特に、食用油脂として動物油脂と植物油脂の混合油脂を含む場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。油脂原料を構成する動物油脂および植物油脂は、油脂原料全体の過酸化物価が上記範囲になるように適宜選択される。
油脂原料の加熱前の酸価は、選択される油種によっても異なるが、5mgKOH/g以下であることが好ましい。油脂原料の酸価が5mgKOH/g以下であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。油脂原料の酸価は、3mgKOH/g以下であることがより好ましく、2mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、0.5mgKOH/g以下、0.3mgKOH/g以下、0.1mgKOH/g以下であることが特に好ましい。油脂原料の酸価の下限は、特に制限されず、例えば0.0mgKOH/g以上である。
食用油脂は、特に制限されず、上記のとおり任意の食用の油脂を使用できる。例えば、食用油脂は、大豆油、菜種油(キャノーラ油、ハイエルシン菜種油なども含む。)、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油(ハイオレイックヒマワリ油なども含む。)、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、ゴマ油、紅花油(ハイオレイック紅花油なども含む。)、カポック油、月見草油、カラシ油、ヤシ油、マンゴー核油、カカオ脂、シア脂、サル脂、イリッペ脂、乳脂、牛脂、豚脂、羊脂、魚油および鯨油等の少なくとも1種の動植物油脂である。また、食用油脂は、そのような動植物油脂に改質処理を施した加工油脂でもよく、上記のような動植物油脂および加工油脂の混合油脂でもよい。食用油脂が、常温(例えば23~25℃)で固体の油脂を含む場合には、加圧加熱の前に、食用油脂全体を充分に溶解させ混合しておくことが好ましい。
特に、原料となる食用油脂は、動物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、動物油脂およびその加工油脂の混合油脂を含むことができる。或は、原料となる食用油脂は、植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、植物油脂およびその加工油脂の混合油脂を含むことができる。食用油脂は、動物油脂と植物油脂の混合油脂でもよい。
また、飲食品への原料に由来する異味異臭の付与をより抑制し、風味調和をより改善しやすくする観点から、本発明の加圧加熱物の原料となる食用油脂の構成脂肪酸組成において、ラウリン酸(C12:0脂肪酸)の含量は、好ましくは40質量%以下である。この含量の上限は、より好ましくは35質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。この含量の下限は、特に制限されず、例えば0質量%以上である。脂肪酸の「C12:0」といった記載において、左側は脂肪酸中の炭素数を表し、右側は二重結合の数を表す。
したがって、本発明において、構成脂肪酸組成においてラウリン酸を多く含む動植物油脂を、原料となる食用油脂として使用しないことが好ましい。あるいは、そのような油脂を使用する場合には、食用油脂全体において、ラウリン酸の含量が40質量%以下となるように、他の動植物油脂と混合したり油脂の改質処理を施したりして構成脂肪酸組成を調整することが好ましい。構成脂肪酸組成においてラウリン酸を多く含む動植物油脂としては、例えばヤシ油およびパーム核油ならびにこれらの油脂に改質処理が施された加工油脂が挙げられる。
油脂の構成脂肪酸組成および各成分の含量は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」を参考に、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。
特に、本発明の製造方法において、液状のまま或いは適宜溶融して液体の状態で食した場合に良好な風味を有する食用油脂を原料として使用することが好ましい。これにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品に油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、さらに飲食品の原料に由来する異味異臭をいっそう抑制して風味調和をより改善しやすくなる。このような油脂としては、例えば、米油、ゴマ油、オリーブ油、牛脂、豚脂、乳脂およびカカオ脂のうち少なくとも1種の動植物油脂、上記動植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、上記動植物油脂および上記加工油脂の混合油脂などが挙げられる。
動物油脂と植物油脂の混合油脂を油脂原料として用いる場合には、本発明の効果をいっそう好ましく得る観点から、原料となる食用油脂は、動物油脂と植物油脂とを、前者対後者の質量比が50~90:10~50となるように混合した混合油脂、およびこの混合油脂に改質処理を施した加工油脂の少なくとも1種を含むことが好ましい。この混合油脂において、前者対後者の質量比は、58~85:15~42であることがより好ましく、65~80:20~35であることが特に好ましい。
原料となる食用油脂の過酸化物価は1.0meq/kg以下であることが好ましい。食用油脂の過酸化物価は、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。食用油脂の過酸化物価が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。一般に、脱色工程や脱臭工程といった精製を経た後の食用油脂の過酸化物価は、上記範囲を満たす。
原料となる食用油脂の過酸化物価は、特に、食用油脂として牛脂、豚脂および乳脂等の動物油脂、もしくはこれらの動物油脂に改質処理を施した加工油脂、または上記動物油脂および上記加工油脂の混合油脂を使用する場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。
一方、原料となる食用油脂の過酸化物価は、特に、食用油脂として植物油脂のうち、菜種油、大豆油、米油、ゴマ油およびオリーブ油等の、常温(25℃)で液状である、いわゆる液状油、もしくはこれらの液状油に改質処理を施した加工油脂、または上記液状油および上記加工油脂の混合油脂を使用する場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。また、原料となる食用油脂の過酸化物価は、特に、食用油脂として植物油脂のうち、パーム油、パーム核油、カカオ脂およびシア脂等の、常温(25℃)で固体状である植物油脂、もしくはこれらの植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または上記植物油脂および上記加工油脂の混合油脂を使用する場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。
また、原料となる食用油脂の過酸化物価は、特に、食用油脂として動物油脂と植物油脂の混合油脂を使用する場合には、1.0meq/kg以下であることが好ましく、0.9meq/kg以下であることがより好ましく、0.8meq/kg以下であることがさらに好ましい。
原料となる食用油脂の酸価は0.5mgKOH/g以下であることが好ましい。食用油脂の酸価が0.5mgKOH/g以下であることで、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。食用油脂の酸価は、0.2mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.1mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。一般に、精製後の食用油脂の酸価は、0.1mgKOH/g程度以下である。
油脂原料中の食用油脂の含量は、特に制限はないが、90~100質量%あるいは95~100質量%であることが好ましい。これにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。効果をより高める観点から、油脂原料中の食用油脂の含量は、96質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。特に、本発明の製造方法において、油脂原料中の食用油脂の含量は100質量%であること、つまり、食用油脂のみを加圧加熱することが好ましい。しかしながら、食用油脂の含量は、99.9質量%以下でもよく、99.5質量%以下でもよく、99質量%以下でもよい。食用油脂は、1種単独で使用されてもよく、2種以上の組み合わせで使用されてもよい。2種以上の組み合わせで使用される場合には、それらの合計含量が上記範囲にあることが好ましい。
本発明の製造方法において、油脂原料は、食用油脂に加えて、食用の酸化防止剤を含有することもできる。これにより、本発明の加圧加熱物の過酸化物価比を上記所定の範囲に調整しやすくなり、場合によっては、酸価についても上記所定の範囲に調整しやすくなる。酸化防止剤としては、特に制限されず、公知の材料を使用できる。酸化防止剤は、例えばビタミンE、ビタミンC、ローズマリー抽出物および茶抽出物などが挙げられる。酸化防止剤の含量は、特に制限はないが、食用油脂100質量部に対し0.01~0.1質量部であることが好ましい。過酸化物価および酸価の調整をより容易にする観点から、酸化防止剤の含量は、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.03質量部以上であることがさらに好ましい。また、同様の観点から、酸化防止剤の含量は、0.07質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以下であることがさらに好ましい。酸化防止剤は、1種単独で使用されてもよく、2種以上の組み合わせで使用されてもよい。2種以上の組み合わせで使用される場合には、それらの合計含量が上記範囲にあることが好ましい。
本発明の製造方法によれば、風味付け用の食用素材と一緒に加熱せずとも、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさを付与等し、風味調和を改善することができる。したがって、上記食用油脂および上記酸化防止剤以外の食用素材の油脂原料中の合計含量を、1質量%以下とすることができる。
さらに、従来、いわゆる風味油と呼ばれる、食用素材の風味を移行させた油脂の製造で実施していた濾過工程のような、共に加熱した食用素材の除去工程が不要となり、効率よく油脂組成物を製造することができる。
<<その他の食用素材>>
油脂原料が食用油脂および酸化防止剤以外の食用素材を含む場合において、そのような食用素材の油脂原料中の合計含量は0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
食用油脂および酸化防止剤以外の食用素材としては、例えば下記のような材料が挙げられる。
・水、乳化剤。
・食塩や塩化カリウム等の塩味剤。
・クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料。
・糖類や糖アルコール類。
・乳や乳製品。
・ステビア、アスパルテーム等の甘味料。
・β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料。
・トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤。
・小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白。
・卵及および各種卵加工品。
・グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤。
・アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素。
・原料アルコール(食用エタノールなど)、蒸留酒(焼酎、ウイスキー、ウォッカ、ブランデーなど)、醸造酒(ワイン、日本酒、ビールなど)、および各種リキュール等の酒類。
・着香料、調味料、アミノ酸、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤等の他の食品添加物。
・果実、果汁、コーヒー、紅茶、緑茶、ナッツペースト、香料、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の他の食用素材。
特に、油脂原料中の水分含量は、1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下である(水分が実質的に含有されない)ことがさらに好ましい。油脂原料中の水分を少なくすることにより、加圧加熱中にグリセリドが加水分解されてしまうことを抑制できる。油脂原料中に水分が存在する場合には、加圧加熱の前に油脂原料から水分を除去することが好ましい。水分の除去は、例えば、減圧脱気しながら油脂を加熱する方法(例えば90~110℃)、遠心分離法、および、油水分離フィルタ(コアレッサー、濾材など)を使用した吸着脱水法などにより実施できる。材料中の水分含量は、常法により測定でき、例えば日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.1.3.4-2013」に示された手法により測定することができる。
<<加圧加熱>>
本発明の油脂組成物の製造方法において、加熱条件は、後述の加熱処理量が2700~10000℃・分である範囲で、加圧条件や求める効果の程度に応じて適宜調整される。
本発明の油脂組成物の製造方法において、105~145℃の範囲で加熱温度を保持することが好ましい。加熱温度が105℃以上であることにより、後述の加圧条件との調整をとりやすくなる。また、加熱温度が145℃以下であることにより、後述の加圧条件との調整をとりやすくなるとともに、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、さらに、原料に由来する異味異臭の飲食品への付与がより抑制されて飲食品の風味調和をより改善しやすくなる。加熱温度の保持は、上記温度範囲に加熱温度が収まっていれば充分であるが、加熱温度を所望の設定温度±2℃(好ましくは±1℃)の範囲で維持および調整することにより実施してもよい。保持する際の加熱温度は、108℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましい。また、保持する際の加熱温度は、138℃以下であることがより好ましく、133℃以下であることがさらに好ましい。
加熱処理される油脂原料自体の温度(品温)が上記加熱温度の範囲に含まれることが好ましい。しかしながら、品温を直接測定できない場合には、加熱処理における熱媒の温度を測定し、その測定値を油脂原料の加熱温度として扱ってもよい。例えば、後述するように、加圧加熱の方法としてオートクレーブを採用した場合には、熱媒となる水の温度をもって、油脂を加熱する際の加熱温度とすることができる。
加熱温度を保持する加熱時間(保持時間)は、9~75分であることが好ましい。保持時間が9分以上であることにより、飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等するのに好適な加圧加熱物が得られやすくなる。また、保持時間が75分以下であることにより、飲食品の風味調和をより改善するのに好適な加圧加熱物が得られやすくなる。保持時間は、15分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましく、25分以上であることが特に好ましい。また、保持時間は、70分以下であることがより好ましく、65分以下であることがさらに好ましく、55分以下でもよい。
加熱を開始する際の初期温度は、適宜調整でき、例えば常温(例えば23~25℃)でもよく、常温より高い温度(例えば60℃)から加熱を開始してもよい。加熱開始から保持期間までの昇温速度は1~20℃/分であることが好ましい。昇温速度は、1.5℃/分以上であることがより好ましく、2.0℃/分以上であることがさらに好ましい。また、昇温速度は、10℃/分以下であることがより好ましく、5℃/分以下であることがさらに好ましい。
加熱温度の保持が終了した後は、油脂原料を冷却することが好ましい。冷却は、急速に実施してもよく、緩慢に実施してもよい。冷却方法は、特に制限されず、公知の手法を採用でき、冷蔵庫や冷凍庫を使用する方法、室温下で静置する方法、および、加熱機器内の冷却機能(注水など)を使用する方法でもよい。油脂原料の冷却は、温度が5~60℃の範囲になるまで実施することが好ましく、温度が15~40℃の範囲になるまで実施することがより好ましく、温度が20~30℃の範囲になるまで実施することがさらに好ましい。降温速度は1~40℃/分であることが好ましい。降温速度は、3℃/分以上であることがより好ましく、4℃/分以上であることがさらに好ましい。また、降温速度は、25℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。
加熱処理される油脂原料自体の昇温速度が上記昇温速度の範囲に含まれることが好ましい。しかしながら、加熱処理される油脂原料自体の昇温速度を直接測定できない場合には、加熱処理における熱媒の昇温速度を測定し、その測定値を油脂原料の昇温速度として扱ってもよい。例えば、後述するように、加圧加熱の方法としてオートクレーブを採用した場合には、熱媒となる水の昇温速度をもって、油脂を加熱する際の昇温速度とすることができる。また、油脂原料を冷却する際の降温速度についても同様である。
加圧加熱状態を脱した後は、冷蔵もしくは冷凍により-20~+15℃の範囲で加圧加熱物を保管することが好ましい。
本発明の油脂組成物の製造方法において、加圧加熱における加熱処理量は、2700~10000℃・分である。加圧加熱における加熱処理量が2700℃・分以上であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさを付与等し、または飲食品の風味調和を改善することができる。また、10000℃・分以下であることにより、飲食品へ油脂由来の美味しさを付与等し、さらに、飲食品に対して原料に由来する異味異臭を付与することなく、飲食品の風味調和を改善することができる。
本発明および本明細書において、「加熱処理量」は、[油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と、加熱時間(分)(つまり、常温よりも高い温度にあった時間であり、昇温時および降温時も含む。)との積分値とする。常温は、概ね23~25℃であるが、加圧加熱を行う環境に応じて適宜設定される。このような加熱処理量は加熱処理の強さの目安となる。例えば、図1は、温度制御および圧力制御の例を示すグラフである。図1では、加熱初期(t0)における初期温度(T2)から昇温し、時刻t=t1において温度がT3となり、時刻t=t2までT3の温度を保持し、その後降温し、時刻t=t3において温度が常温(T1)となる温度履歴を示している。また、図1は、大気圧(P1)に対して加圧された加圧条件(圧力P=P2)も示している。このような温度制御を行った場合、加熱処理量は、温度履歴のグラフおよびT=T1の線の間の網かけ領域の面積に相当する。
加圧加熱における加熱処理量は、3000℃・分以上であることが好ましく、3500℃・分以上であることがより好ましく、4000℃・分以上であることがさらに好ましく、4500℃・分以上であることが特に好ましい。また、加圧加熱における加熱処理量は、9000℃・分以下であることが好ましく、8500℃・分以下であることがより好ましく、8000℃・分以下であることがさらに好ましく、7500℃・分以下であることが特に好ましい。
本発明の油脂組成物の製造方法において、加圧条件は、系内を加圧状態で加熱する温度および時間によって適宜調整されるが、加圧量は、大気圧(約0.10MPa)を基準として0.03~0.30MPaであることが好ましい。「加圧量」は、加圧時の圧力と大気圧との差分(いわゆるゲージ圧)で表示している。加圧量が0.03MPa以上であることにより、飲食品に油脂由来の美味しさをより付与等し風味調和をより改善するのに好適な加圧加熱物が得られやすくなる。また、加圧量が0.30MPa以下であることにより、上記の加熱条件との調整をとりやすくなる。一方、系内の圧力条件を常圧下すなわち大気圧下や減圧下として加熱を実施した場合には、飲食品に油脂由来の美味しさを付与等し風味調和を改善する効果を得ることができず、加圧加熱物に由来する強い異味が生じ、飲食品の品質を低下させてしまう。
加圧量は、0.05MPa以上であることがより好ましく、0.08MPa以上であることがさらに好ましい。また、加圧量は、0.25MPa以下であることがより好ましく、0.20MPa以下であることがさらに好ましく、0.15MPa以下であることが特に好ましい。加圧は、図1のように、少なくとも保持期間(t1-t2間)において継続して実施することが好ましく、昇温および降温の期間も含めた加熱期間(t0-t3間)において継続して実施することがさらに好ましい。
上記の加圧条件や加熱条件を満たすように油脂原料を加圧加熱する方法としては、例えばオートクレーブ、レトルト殺菌装置または圧力容器などを用いて、加圧しながら加熱する方法を挙げることができる。加圧加熱する際には、レトルトパウチ等の耐熱耐圧容器に油脂原料を封入してもよい。レトルト殺菌装置を使用する場合には、その加圧加熱の方式は、熱水スプレー式、熱水貯湯式および蒸気式のいずれの方式でも構わない。
<<過酸化物価比の調整>>
本発明の油脂組成物の製造方法において、上記のとおり、加圧加熱の際に又は加圧加熱の後に、加圧加熱物の過酸化物価比(つまり、加圧加熱前の油脂原料の過酸化物価に対する加圧加熱後の油脂原料の過酸化物価)は1.0~3.0の範囲に調整される。過酸化物価比は、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等したり風味調和をより改善したりする観点から1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましく、1.15以上であることが特に好ましく、また、2.80以下であることが好ましく、2.65以下であることがより好ましく、2.50以下であることが特に好ましい。
過酸化物価比の調整は、油脂原料又は加圧加熱物の過酸化物価の調整を行うことにより調整できる。加圧加熱物の過酸化物価の調整は上記加熱(加圧加熱)の際にまたは上記加熱の後に実施できる。
油脂原料の過酸化物価の調整は、従前知られた脱色工程や脱臭工程等の精製工程を経ることにより低下させることができる。油脂原料の過酸化物価を増加させたい場合は、適宜、加圧加熱の前に、油脂原料を加熱することにより過酸化物価を増加させることが可能である。ただし、本発明においては、油脂原料の過酸化物価を増加させると、加圧加熱物自体の風味が飲食品に付与されやすくなってしまうため、油脂原料の過酸化物価を増加させる処理は行わないことが好ましい。
加圧加熱物の過酸化物価の調整は、加熱の終了時に過酸化物価比が1.0~3.0となるように、上記の加熱条件及び加圧条件を調整することで可能である。例えば、過酸化物価比を高めたい場合には、加熱温度を上げたり、加熱時間を増やしたり、加圧量を増やしたりすることで、得られる加圧加熱物の過酸化物価を増加させればよい。過酸化物価比を減少させたい場合には、加熱温度を下げたり、加熱時間を減らしたり、加圧量を減らしたりすることで得られる加圧加熱物の過酸化物価を低減させればよい。上述した加熱条件および加圧条件であれば、原料として使用する油脂原料によっても異なるが、概ね加圧加熱物の過酸化物価は0.5~3.8meq/kgの範囲になりやすい。
一方、上記加熱の後における加圧加熱物の過酸化物価の調整は、加熱の終了時に過酸化物価比が3.0を超える加圧加熱物を、過酸化物価比が1.0~3.0の範囲になるように精製することにより実施できる。精製手法は、公知の方法を採用でき、例えば白土やシリカゲル等の吸着剤と接触させる方法を採用できる。この場合において、精製前の加圧加熱物の過酸化物価比は4.5以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることがより好ましい。精製前の加圧加熱物の過酸化物価比が3.0を大きく超えてしまうと、精製によって過酸化物価比が1.0~3.0の範囲になっても本発明の効果が得られにくいためである。なお、本発明の効果が得られる範囲で、精製前に過酸化物価比が1.0~3.0の範囲にある加圧加熱物を常法により精製してもよい。
本発明の油脂組成物の製造方法においては、加圧加熱物の過酸化物価比が上記範囲を満たすことにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさを付与等したり、飲食品の風味調和を改善したりすることができる。さらに、より一層これらの効果を高めると共に、加圧加熱物自体の風味を飲食品に対して付与することを一層避ける観点から、加圧加熱物の過酸化物価が次の条件(A)~(D)を満たすことが好ましい。
(A)油脂原料が、牛脂、豚脂および乳脂等の動物油脂もしくはこれらの動物油脂に改質処理を施した加工油脂、または上記動物油脂および上記加工油脂の混合油脂を含む場合には、加圧加熱物の過酸化物価は、0.10~0.85meq/kgであることが好ましく、0.15~0.80meq/kgであることがより好ましく、0.20~0.75meq/kgであることがさらに好ましい。
(B)油脂原料が、植物油脂のうち、菜種油、大豆油、米油、ゴマ油およびオリーブ油等の、常温(25℃)で液状である、いわゆる液状油、もしくはこれらの液状油に改質処理を施した加工油脂、または上記液状油および上記加工油脂の混合油脂を含む場合には、加圧加熱物の過酸化物価は、0.50~3.0meq/kgであることが好ましく、0.8~2.8meq/kgであることがより好ましく、1.0~2.0meq/kgであることがさらに好ましい。
(C)油脂原料が、植物油脂のうち、パーム油、パーム核油、カカオ脂およびシア脂等の、常温(25℃)で固体状である植物油脂、もしくはこれらの植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または上記植物油脂および上記加工油脂の混合油脂を含む場合には、加圧加熱物の過酸化物価は、0.3~2.5meq/kgであることが好ましく、0.3~2.0meq/kgであることがより好ましく、0.5~1.0meq/kgであることがさらに好ましい。
(D)油脂原料が、動物油脂および植物油脂(それぞれ加工油脂を含む)の混合油脂を含む場合には、加圧加熱物の過酸化物価は、0.50~1.50meq/kgであることが好ましく、0.50~1.35meq/kg以下であることがより好ましく、0.50~1.2meq/kgであることがさらに好ましい。
本発明の油脂組成物の製造方法で製造された加圧加熱物により、「飲食品へ油脂由来の美味しさを付与等し、飲食品の風味調和を改善する」という本発明の効果が得られる理由は定かではない。例えば、上述したような加圧加熱により、酸化による油脂の劣化を抑制しながら、飲食品への風味およびコク味の付与、ならびに飲食品の風味およびコク味の増強に適した油脂の改質が生じていると推定される。
<<DHS-GC-MS測定による成分構成>>
本発明の製造方法において、食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS(ダイナミックヘッドスペース-ガスクロマトグラフ-質量分析)測定による成分のピーク面積に基づくラクトン・ケトン成分量(ラクトン成分とケトン成分の合計量)に対するアルデヒド成分量の比は2.60~3.19であることが好ましい。ラクトン、ケトンおよびアルデヒドは油脂の過酸化物価に影響する成分であり、ラクトン・ケトン成分量に対するアルデヒド成分量の比が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。ラクトン・ケトン成分量に対するアルデヒド成分量の比は、2.80~3.18であることがより好ましく、2.90~3.17であることがさらに好ましい。
DHS-GC-MS測定に関して、食用油脂が「未精製油」であるとは、食用油脂が、「精製油」である食用油脂ではないことをいう。ここで、DHS-GC-MS測定に関して、食用油脂が「精製油」であるとは、脱色工程及び脱臭工程のいずれか1つ以上の精製工程を経て得られた油脂をさし、具体的には原料状態(加圧加熱前)の食用油脂にDHS-GC-MS測定を実施したときに、アルコール、アルデヒド、ラクトン、ケトン、エステルおよび有機酸が、合算して非検出~100ppm以下であることをいう。食用油脂が混合油脂である場合には、その混合油脂の測定結果について同様に定義する。例えば、未精製油といえる食用油脂と精製油といえる食用油脂との混合油脂の場合には、混合油脂が全体として「精製油」の要件を満たせば、その混合油脂は精製油であるとする。
本発明の製造方法において、食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくアルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比は2.91~3.30であることが好ましい。アルコールも油脂の過酸化物価に影響する成分であり、アルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。アルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比は、2.95~3.25であることがより好ましく、2.98~3.20であることがさらに好ましい。
食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、アルデヒド成分量は24.0~28.0%であり、アルコール成分量は7.0~9.0%であることが好ましい。アルデヒド成分量およびアルコール成分量が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。アルデヒド成分量は、24.5~27.7%であることがより好ましく、25.0~27.5%であることがさらに好ましい。アルコール成分量は、7.3~8.9%であることがより好ましく、7.5~8.8%であることがさらに好ましい。
食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、直鎖アルデヒド成分量は11.0~15.0%であることが好ましく、11.5~14.5%であることがより好ましい。直鎖アルデヒド成分量が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。さらに、ラクトン・ケトン成分量に対する直鎖アルデヒド成分量の比は1.20~1.80であることが好ましく、1.30~1.70であることがより好ましい。ラクトン・ケトン成分量に対する直鎖アルデヒド成分量の比が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。アルコール成分量に対する直鎖アルデヒド成分量の比は1.20~1.80であることが好ましく、1.30~1.70であることがより好ましい。アルコール成分量に対する直鎖アルデヒド成分量の比が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。
食用油脂が精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくアルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比は0.60~4.40であることが好ましい。アルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。アルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比は、0.80~4.20であることがより好ましく、1.00~4.00であることがさらに好ましい。
食用油脂が精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、アルデヒド成分量は10.0~60.0%であることが好ましい。アルデヒド成分量が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。アルデヒド成分量は、15.0~55.0%であることがより好ましく、20.0~50.0%であることがさらに好ましい。加えて、アルコール成分量は14.0%以下であることが好ましく、13.5%以下であることがより好ましく、13.0%以下であることがさらに好ましい。
食用油脂が精製油である場合に、過酸化物価についての上記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、直鎖アルデヒド成分量は12.0~60.0%であることが好ましく、20.0~50.0%であることがより好ましい。直鎖アルデヒド成分量が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。さらに、アルコール成分量に対する直鎖アルデヒド成分量の比は0.60~4.40であることが好ましく、1.00~4.20であることがより好ましい。アルコール成分量に対する直鎖アルデヒド成分量の比が上記範囲であることにより、本発明の加圧加熱物を含有する飲食品へ油脂由来の美味しさをより付与等しやすくなり、風味調和をより改善しやすくなる。
<<その他の条件>>
本発明の製造方法においては、油脂原料を加圧加熱する前に、系内の酸素を排除し、低酸素下で加圧加熱を実施することが好ましい。系内の酸素を排除する手法としては、例えば、窒素や二酸化炭素等の加圧加熱に対し不活性なガスで雰囲気を置換する方法、および耐熱耐圧容器に油脂原料を封入する際に容器内を脱気する方法などが挙げられる。系内の酸素を排除した状態で油脂原料を加圧加熱することにより、加圧加熱中の油脂の酸化劣化がより抑制され、その結果得られた加圧加熱物に由来する異味の発生をより抑制することができる。不活性なガスによる系内の置換を採用した場合には、置換後の酸素濃度は5体積%以下であることが好ましく、2体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることがさらに好ましい。
<飲食品用添加剤>
次に、本発明の飲食品用添加剤について述べる。本発明の飲食品用添加剤は、上記のようにして得られた油脂原料の加圧加熱物を含有し、とりわけ、飲食品へ油脂由来の美味しさを付与等したり、飲食品の風味調和を改善したりするために用いることができる。
本発明の飲食品用添加剤は、有効成分である上記加圧加熱物のみから構成されてもよい。また、本発明の飲食品用添加剤は、必要に応じて、上記加圧加熱物に加えて、他の食用素材(例えば、水、食用の動植物油脂、乳化剤、酸化防止剤、糖類および糖アルコール、増粘剤、澱粉、小麦粉、無機塩および有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、卵製品、着香料、調味料、着色料、保存料ならびにpH調整剤等)を含むことができる。
上記他の食用素材の含有量は、上記加圧加熱物が有効成分として機能する(つまり、油脂由来の美味しさを付与等したり、飲食品の風味調和を改善したりする効果が発揮できる)範囲で適宜調整される。例えば、上記他の食用素材の含有量は、加圧加熱物100質量部に対して合計で20質量部以下であることが好ましく、15質量部であることがより好ましく、10質量部以下でも5質量部以下でもよい。本発明の飲食品用添加剤が上記他の食用素材を含む場合には、均一な組成となるように充分に混合および撹拌することが好ましい。その手法としては特に制限されない。例えば、本発明の加圧加熱物が常温で固体である場合には、加圧加熱物を溶解させた後に加圧加熱物と他の食用素材を混合および撹拌する方法、加圧加熱物を粉末状あるいは粒状となるまで粉砕した後に加圧加熱物と他の食用素材を混合および撹拌する方法、または、公知の方法で加圧加熱物を粉末油脂とした後に加圧加熱物と他の食用素材を混合および撹拌する方法などが挙げられる。
本発明の飲食品用添加剤の最終的な製品形態は、特に限定されず、油脂原料の特質および用途等に応じて、任意の形態の乳化物とされてもよく、粉末タイプやショートニングタイプの固体状製品とされてもよい。また、加圧加熱物、または、加圧加熱物と他の食用素材の混合物を濾過して油分を抽出した抽出物製品とすることもできる。
本発明の飲食品用添加剤は、飲食品の製造または飲食の際に任意の手法およびタイミングで飲食品に添加することができる。本発明の飲食品用添加剤が添加される対象の飲食品の種類は、特に制限されない。例えば、以下に示す飲食品に対して適用することができる。
・レトルト食品:カレー、スープ、粥、丼物の具等。
・インスタント飲食品:即席麺、即席スープ、インスタントココア等。
・チルド・冷凍食品:唐揚げ、コロッケ、メンチカツ、トンカツ、グラタン、ピザ、チャーハン、ピラフ、肉まん、餃子等。
・ルウ:カレー、シチュー、ハヤシライス等。
・ベーカリー食品:食パン、菓子パン、バターロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ、ペストリー等のパン類、パイ、シュー、ドーナツ、ケーキ、クラッカー、クッキー、ハードビスケット、ワッフル、スコーン等の菓子類。
・畜肉食品:ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、焼肉等。
・水産物食品:蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ、ねぎとろ、焼き魚等。
・菓子および冷菓類:ポテトチップス、チョコレート、グミ、キャラメル、キャンデー、ゼリー、プリン、杏仁豆腐、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓等。
・飲料:ブラックコーヒー・ミルクコーヒー・ラクトコーヒー・コーヒー牛乳・カフェオレなどのコーヒー飲料、ココア飲料、チョコレート飲料、紅茶・ティーオレ、乳酸炭酸、栄養ドリンク、健康飲料、牛乳、豆乳・果汁豆乳・麦芽豆乳・乳酸発酵豆乳などの豆乳類、乳酸飲料、乳酸菌飲料、ミルクセーキ、チーズドリンク、乳清飲料、香料入り乳飲料等。
・調味料:醤油、味噌、マヨネーズ、ケチャップ、ソース、ドレッシング、調味油等。
特に、本発明の飲食品用添加剤は、油脂由来の美味しさを飲食品に付与等したり飲食品の風味調和を改善したりすることができる点から、特に含有する油脂分量が少ない飲食品に対して、好ましく適用することができる。本発明の飲食品用添加剤の効果を顕著に得る観点からは、飲食品中の油分含量は20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましい。勿論、飲食品中の油分含量が20質量%超であっても本発明の飲食品用添加剤を適用することができる。
本発明の飲食品用添加剤の飲食品への添加量は、飲食品用添加剤中の加圧加熱物の含有量、ならびに、対象とする飲食品の種類、所望の油脂由来の美味しさの強度、および風味調和の改善の程度、時には個人使用者の好み等に応じて、適宜調整可能である。例えば、飲食品が油脂を含まない場合には、本発明の加圧加熱物のみからなる飲食品用添加剤の添加量は、飲食品の量に対して、0.0001~1質量%であることが好ましい。一方、飲食品が油脂を含み、その油脂量が飲食品中1質量%超10質量%以下である場合には、本発明の加圧加熱物のみからなる飲食品用添加剤の添加量は、飲食品の量に対して、例えば0.005~1質量%であることが好ましく、0.01~0.7質量%であることがより好ましい。飲食品が油脂を含み、その油脂量が飲食品中10質量%超である場合には、本発明の加圧加熱物のみからなる飲食品用添加剤の添加量は、飲食品の量に対して、例えば0.01~1質量%であることが好ましく、0.02~0.7質量%であることがより好ましい。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されない。実施例において、特に述べない限り、「部」および「%」は質量基準である。
過酸化物価の測定は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.5.2-2013」に準拠して行った。また、酸価の測定は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.3.1-2013」に準拠して行った。以下、過酸化物価の単位はmeq/kgであり、酸価の単位はmgKOH/gである。
<油脂の加熱物の製造>
まず、下記に示す方法で油脂を加熱処理することにより、実施例における油脂の加圧加熱物および比較例における油脂の加熱物を製造した。製造条件等の詳細は表1~6にまとめて示した。なお、下記の実施例および比較例では、常温を25℃と設定した。
<<実施例:Ex-Aの製造>>
乳脂と、パームオレインのランダムエステル交換油脂とを65:35の質量比で混合した混合油脂(以下、単に混合油脂Aとも書く。過酸化物価0.5、酸価0.04)を、レトルトパウチ(福助工業社製 レトルトパウチNタイプ 14-18。以下同様である。)に100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
次に、図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa(飽和水蒸気圧)、設定加熱温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t0-t1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら10分(t1-t2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t2-t3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は2926.5℃・分であった。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された加圧加熱物Ex-Aを得た。加圧加熱物Ex-Aの過酸化物価および過酸化物価比は表1に示した。
なお、加圧加熱物EX-Aのことを、以下、単にEx-Aとも記載する。以下の実施例においても同様である。
<<実施例:Ex-B~Jの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表1に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Aの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物Ex-B~Ex-Jを得た。加圧加熱物Ex-B~Ex-Jの過酸化物価および過酸化物価比は表1に示した。
<<比較例:CEx-Aの製造>>
加圧槽内の温度が設定温度に到達してすぐに加圧槽内を常温(T1)まで冷却した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Aの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物CEx-Aを得た。すなわち、設定温度を保持しながら加圧加熱した時間は0分である。上記工程における加熱処理量は1976.5℃・分であった。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された、比較例の加圧加熱物CEx-Aを得た。加圧加熱物CEx-Aの過酸化物価および過酸化物価比は表1に示した。
なお、加圧加熱物CEx-Aのことを、以下、単にCEx-Aとも記載する。以下の比較例においても同様である。
<<比較例:CEx-B~Dの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表1に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Aの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物CEx-B~CEx-Dを得た。加圧加熱物CEx-B~CEx-Dの過酸化物価および過酸化物価比は表1に示した。
<<比較例:CEx-Eの製造>>
混合油脂A100gを4口フラスコに測りとり、フラスコ内を大気圧に対して-0.1MPa減圧した。次に、60℃に設定されたマントルヒーターに上記フラスコを設置し、設定温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、撹拌速度300rpmで撹拌しながら加熱を開始した。マントルヒーターの温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら30分間(t1-t2間)、加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度でマントルヒーターの温度を常温(T1)まで冷却し、内容物を取り出した。上記の工程により、減圧下で油脂が加熱処理された加熱物CEx-Eを得た。加熱物CEx-Eの過酸化物価および過酸化物価比は表1に示した。
<<比較例:CEx-Fの製造>>
Ex-Aにおける手順と同様に密閉したレトルトパウチを60℃(T2)に設定された大気下のオイルバスに浸漬し、その後、設定温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加熱を開始した。オイルバスの温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら30分間(t1-t2間)、加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度でオイルバスの温度を常温(T1)まで冷却し、レトルトパウチを取り出した。上記の工程により、常圧下で油脂が加熱処理された加熱物CEx-Fを得た。加熱物CEx-Fの過酸化物価および過酸化物価比は表1に示した。
<<実施例:Ex-Kの製造>>
米油(ボーソー油脂社製、ヨウ素価106)を加熱溶解し、これをレトルトパウチに100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。上記米油の過酸化物価は0.8であり、酸価は0.16であった。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
次に、図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa(飽和水蒸気圧)、設定加熱温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t0-t1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら10分(t1-t2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t2-t3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は2926.5℃・分であった。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された加圧加熱物Ex-Kを得た。加圧加熱物Ex-Kの過酸化物価および過酸化物価比は表2に示した。
<<実施例:Ex-L~Qの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表2に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Kの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物Ex-L~Ex-Qを得た。加圧加熱物Ex-L~Ex-Qの過酸化物価および過酸化物価比は表2に示した。
<<比較例:CEx-Gの製造>>
加圧加熱物Ex-Kの製造と同様に米油をレトルトパウチに詰めて加圧加熱を開始した後、加圧槽内の温度が設定温度に到達してすぐ、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Kの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物CEx-Gを得た。すなわち、設定温度を保持しながら加圧加熱した時間は0分である。なお、上記工程における加熱処理量は1976.5℃・分であった。加圧加熱物CEx-Gの過酸化物価および過酸化物価比は表2に示した。
<<比較例:CEx-H~Jの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表2に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Kの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物CEx-H~CEx-Jを得た。加圧加熱物CEx-H~CEx-Jの過酸化物価および過酸化物価比は表2に示した。
<<実施例:Ex-RおよびEx-Sの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表3に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Kの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物Ex-RおよびEx-Sを得た。加圧加熱物Ex-RおよびEx-Sの過酸化物価および過酸化物価比は表3に示した。
<<比較例:CEx-Kの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表3に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Kの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物CEx-Kを得た。加圧加熱物CEx-Kの過酸化物価および過酸化物価比は表3に示した。
<<実施例:Ex-Tの製造>>
牛脂(ADEKA製、過酸化物価0.25、酸価0.02)を、レトルトパウチに100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
次に、図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa(飽和水蒸気圧)、設定加熱温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t0-t1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら60分(t1-t2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t2-t3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は7676.5℃・分であった。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された加圧加熱物Ex-Tを得た。加圧加熱物Ex-Tの過酸化物価および過酸化物価比は表4に示した。
<<実施例:Ex-U~ACの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表4に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Tの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物Ex-U~Ex-ACを得た。加圧加熱物Ex-U~Ex-ACの過酸化物価および過酸化物価比は表4に示した。
<<比較例:CEx-LおよびMの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表4に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Tの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物CEx-LおよびCEx-Mを得た。加圧加熱物CEx-LおよびCEx-Mの過酸化物価および過酸化物価比は表4に示した。
<<実施例:Ex-ADおよびEx-AEの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表5に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Aの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物Ex-ADおよびEx-AEを得た。加圧加熱物Ex-ADおよびEx-AEの過酸化物価および過酸化物価比は表5に示した。
<<実施例:Ex-AFの製造>>
米油(ボーソー油脂社製、ヨウ素価106)とパームステアリン(ADEKA社製、ヨウ素価36)とを加熱溶解した状態で50:50の質量比で混合した混合油脂(以下、単に混合油脂Bとも書く。過酸化物価0.5、酸価0.04)をレトルトパウチに100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
次に、図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa(飽和水蒸気圧)、設定加熱温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t0-t1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら60分 (t1-t2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t2-t3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は7676.5℃・分であった。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された加圧加熱物Ex-AFを得た。加圧加熱物Ex-AFの過酸化物価および過酸化物価比は表5に示した。
<<比較例:CEx-Oの製造>>
保持する加熱温度、保持時間、加熱処理量、および加熱時圧力を表5に示したとおりに設定した他は、試験サンプルの準備、昇温速度・降温速度等の条件を加圧加熱物Ex-Aの製造条件と揃えて、加圧加熱を行うことにより、加圧加熱物CEx-Oを得た。加圧加熱物CEx-Oの過酸化物価および過酸化物価比は表5に示した。
<<実施例:Ex-AGの製造>>
ココアバター(大東カカオ社製、過酸化物価0.5、酸価3.6)を、レトルトパウチに100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
次に、図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa(飽和水蒸気圧)、設定加熱温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t0-t1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら30分(t1-t2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t2-t3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は4826.5℃・分であった。上記の工程により、加圧下で油脂が加熱処理された加圧加熱物Ex-AGを得た。加圧加熱物Ex-AGの過酸化物価および過酸化物価比は表6に示した。
Figure 2022151805000002
Figure 2022151805000003
Figure 2022151805000004
Figure 2022151805000005
Figure 2022151805000006
Figure 2022151805000007
[検討1]
検討1では、原料である食用油脂を変えずに製造条件を変えて製造した加圧加熱物を使用して、冷菓を作製し、冷菓を食したときの官能評価に基づいて、加圧加熱物が食品に与える効果を評価した。
<冷菓の製造>
まず、ベースクリーム(加圧加熱物無添加の水中油型乳化物)の調整を行った。ヤシ油12質量部を55℃に加温して溶解させ、ここにグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部加えてさらに撹拌し、分散・溶解させて油相を得た。別途、水59.6質量部を55℃に加温し、グラニュー糖15質量部、水あめ5質量部、脱脂粉乳8質量部、増粘多糖類0.2質量部を加えて撹拌し、分散・溶解させて水相を得た。水相に油相を加えて撹拌し、混合し、乳化させて予備乳化物を得た。この予備乳化物を均質化し、加熱滅菌し、急冷し、24時間4℃で撹拌しながらエージングして、ベースクリームを得た。
次に、加圧加熱物を含有する水中油型乳化物の調製を行った。ヤシ油11.92質量部と、実施例または比較例の加熱物0.08質量部(Ex-A~JおよびCEx-A~CEx-Fのいずれか1種)とを55℃に加温して溶解させ、撹拌しながら混合し、その後、グリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部加えてさらに撹拌し、分散・溶解させて油相を得た。別途、水59.6質量部を55℃に加温し、グラニュー糖15質量部、水あめ5質量部、脱脂粉乳8質量部、増粘多糖類0.2質量部を加えて撹拌し、分散・溶解させて水相を得た。水相に油相を加えて撹拌し、混合し、乳化させて予備乳化物を得た。この予備乳化物を均質化し、加熱滅菌し、急冷し、24時間4℃で撹拌しながらエージングして、水中油型乳化物Ex-1~Ex-10およびCEx-1~CEx-6をそれぞれ得た。
前述のベースクリームと、水中油型乳化物(Ex-1~Ex-10およびCEx-1~CEx-6のいずれか1種)を、前者対後者で90:10の質量比で混合し、冷菓用水中油型乳化物Ex-1~Ex-10およびCEx-1~CEx-6をそれぞれ得た。アイスクリームフリーザー(FMI社製「HTF-6N」。以下同様である。)を使用して各冷菓用水中油型乳化物を撹拌しながら冷却することにより、冷菓Ex-1~Ex-10およびCEx-1~CEx-6を得た。なお、得られた冷菓中の油分量は12%であった。
<評価方法>
上記で得た冷菓Ex-1~Ex-10およびCEx-1~CEx-6を食し、コントロールと比較した場合における風味調和の改善、油脂由来の美味しさの付与等、および、油脂の加熱物に由来する異味の抑制について官能評価を行い、油脂の各加熱物が食品に与える効果を評価した。
油脂由来の美味しさの付与等は、原料として油脂が使用された飲食品(コントロール)と、その油脂の一部として油脂の加熱物を添加した飲食品とを比較して、油脂の加熱物が使用された飲食品における油脂由来の美味しさ(主としてコク味)がコントロールよりも強く感じられるか否か、およびその強さに基づいて判断した。
油脂の加熱物に由来する異味の抑制は、原料として油脂が使用された飲食品(コントロール)と、その油脂の一部として油脂の加熱物を添加した飲食品とを比較して、油脂の加熱物が使用された飲食品に、油脂の加熱物に由来する異味が感じられるか否か、およびその異味の強さに基づいて判断した。
官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、検討1におけるコントロールは、上記のベースクリームのみを用いて、同様にアイスクリームフリーザーにて撹拌しながら冷却することで得られた冷菓とする。
<<評価基準:風味調和の改善>>
5点:コントロールと比較して、トップ・ミドル・ラストの各段階における風味発現プロフィールを損ねることなく、全体の風味が非常に強く向上している。
3点:コントロールと比較して、トップ・ミドル・ラストの各段階における風味発現プロフィールを損ねることなく、全体の風味が強く向上している。
1点:コントロールと比較して、トップ・ミドル・ラストの各段階における風味発現プロフィールを損ねることなく、全体の風味がやや強く向上している。
0点:コントロールと同等であり変化がない、またはコントロールと比較して風味発現プロフィールが劣化している。
<<評価基準:油脂由来の美味しさの付与等>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
<<評価基準:異味の抑制>>
5点:コントロールと同等の風味であり、異味が感じられない。
3点:コントロールと比較して、わずかに異味が感じられるが許容範囲である。
1点:コントロールと比較して、異味が感じられる。
0点:コントロールと比較して、強い異味が感じられる。
評価結果は表7のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、37~43点:+、25~36点:±、19~24点:-、11~18点:--、0~10点:---]として表記した。表中の風味調和、油脂由来の美味しさの付与等および異味抑制のすべての項目において、「±」以上の評点が与えられれば、本発明の課題達成レベルと言える。
Figure 2022151805000008
上記に加えて、昇温速度を3.5℃/分および降温速度を20℃/分にした他は、加圧加熱物Ex-Dと同様の配合および製造方法により、加圧加熱物(加熱処理量約5612℃・分、過酸化物価比1.6)を得た。この加圧加熱物を使用して同様に冷菓を製造した場合においても、冷菓Ex-4と同程度の効果が得られた。また、混合油脂A100質量部に対し酸化防止剤を0.1質量部添加した他は、加圧加熱物Ex-Dと同様の配合および製造方法により、加圧加熱物(加熱処理量約6251℃・分、過酸化物価比1.6)を得た。この加圧加熱物を使用して同様に冷菓を製造した場合においても、冷菓Ex-4と同程度の効果が得られた。
[検討2]
検討2では、原料である食用油脂を検討1から変えた油脂の加熱物を用いて、検討1と同様に冷菓を作製し、当該冷菓を食したときの官能評価に基づいて、油脂の各加熱物が食品に与える効果を評価した。
<冷菓の製造>
加圧加熱物Ex-K~Ex-QおよびCEx-G~CEx-Jを用いた他は、検討1の場合と同様の配合および製法で、ベースクリーム、水中油型乳化物Ex-11~Ex-17およびCEx-7~CEx-10を調製した。得られたベースクリームと、水中油型乳化物(Ex-11~Ex-17およびCEx-7~CEx-10のいずれか1種)とを、前者対後者で90:10の質量比で混合し、冷菓用水中油型乳化物Ex-11~Ex-17およびCEx-7~CEx-10をそれぞれ得た。アイスクリームフリーザーを使用して各冷菓用水中油型乳化物を撹拌しながら冷却することにより、冷菓Ex-11~Ex-17およびCEx-7~CEx-10を得た。なお、得られた冷菓中の油分量は12%であった。
<評価方法>
上記で得た冷菓Ex-11~Ex-17およびCEx-7~CEx-10について、検討1と同様の官能評価を行った。評価結果は表8のとおりである。
Figure 2022151805000009
[検討3]
検討3では、同一原料かつ同一条件で作製された加圧加熱物の食品中への添加量を変更しながら冷菓を製造し、この場合に得られる効果を検討1および2と同様に検証した。使用した加圧加熱物は、検討1で製造した加圧加熱物Ex-Cである。
<ベースクリームの製造>
ヤシ油12質量部を55℃に加温して溶解させ、ここにグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部加えてさらに撹拌し、分散・溶解させて油相を得た。別途、水59.6質量部を55℃に加温し、グラニュー糖15質量部、水あめ5質量部、脱脂粉乳8質量部、増粘多糖類0.2質量部を加えて撹拌し、分散・溶解させて水相を得た。水相に油相を加えて撹拌し、混合し、乳化させて予備乳化物を得た。この予備乳化物を均質化し、加熱滅菌し、急冷し、24時間4℃で撹拌しながらエージングして、ベースクリームを得た。
<実施例:水中油型乳化物Ex-18の製造>
ヤシ油11.92質量部と加圧加熱物Ex-C 0.08質量部とを55℃に加温して溶解させ、撹拌しながら混合し、その後、グリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部加えてさらに撹拌し、分散・溶解させて油相を得た。別途、水59.6質量部を55℃に加温し、グラニュー糖15質量部、水あめ5質量部、脱脂粉乳8質量部、増粘多糖類0.2質量部を加えて撹拌し、分散・溶解させて水相を得た。水相に油相を加えて撹拌し、混合し、乳化させて予備乳化物を得た。この予備乳化物を均質化し、加熱滅菌し、急冷し、24時間4℃で撹拌しながらエージングして、水中油型乳化物Ex-18を得た。
<実施例:水中油型乳化物Ex-19の製造>
ヤシ油を11.96質量部、加圧加熱物Ex-Cを0.04質量部とした他は水中油型乳化物Ex-18と同様の配合と製造方法により、水中油型乳化物Ex-19を得た。
<実施例:水中油型乳化物Ex-20の製造>
ヤシ油を11.88質量部、加圧加熱物Ex-Cを0.12質量部とした他は水中油型乳化物Ex-18と同様の配合と製造方法により、水中油型乳化物Ex-20を得た。
<実施例:水中油型乳化物Ex-21の製造>
ヤシ油を11.80質量部、加圧加熱物Ex-Cを0.20質量部とした他は水中油型乳化物Ex-18と同様の配合と製造方法により、水中油型乳化物Ex-21を得た。
<冷菓の製造>
上記ベースクリームと、水中油型乳化物Ex-18~Ex-21を、前者対後者で90:10の質量比で混合し、冷菓用水中油型乳化物Ex-18~Ex-21を得た。アイスクリームフリーザーを使用して各冷菓用水中油型乳化物を撹拌しながら冷却し、冷菓Ex-18~Ex-21を得た。なお、得られた冷菓中の油分量は12%であった。
<評価方法>
上記で得た冷菓Ex-18~Ex-21について、検討1と同様の官能評価を行った。評価結果は表9のとおりである。
Figure 2022151805000010
[検討4]
検討4では、特に風味の強い植物性原料としてココナッツミルクを用いた冷菓に対し、加圧加熱物を添加し、この場合に得られる効果を検討1~3と同様に検証した。さらに、検討4では、特に各加圧加熱物がココナッツミルクの風味に与える影響に注視した評価も行った。
<実施例:冷菓Ex-22の製造>
ココナッツミルク(ユウキ食品社製「ココナッツミルク」、油分量17.7%)70質量部、水あめ29.4質量部、香料0.1質量部、加圧加熱物Ex-L0.5質量部を秤量し、これらをホモミキサーで混合・均質化させた。得られた混合液を、氷浴で液温が5℃になるまで冷却し、その後アイスクリームフリーザーを使用して撹拌しながら冷却し、冷菓Ex-22を得た。
<実施例:冷菓Ex-23の製造>
水あめ29.8質量部、加圧加熱物Ex-L0.1質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-23を得た。
<実施例:冷菓Ex-24の製造>
水あめ29.85質量部、加圧加熱物Ex-L0.05質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-24を得た。
<実施例:冷菓Ex-25の製造>
水あめ29.89質量部、加圧加熱物Ex-L0.01質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-25を得た。
<実施例:冷菓Ex-26の製造>
水あめ29.85質量部、加圧加熱物Ex-M0.05質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-26を得た。
<実施例:冷菓Ex-27の製造>
水あめ29.85質量部、加圧加熱物Ex-N0.05質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-27を得た。
<実施例:冷菓Ex-28の製造>
水あめ29.85質量部、加圧加熱物Ex-K0.05質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-28を得た。
<実施例:冷菓Ex-29の製造>
水あめ29.85質量部、加圧加熱物Ex-R0.05質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-29を得た。
<実施例:冷菓Ex-30の製造>
水あめ29.85質量部、加圧加熱物Ex-S0.05質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓Ex-30を得た。
<比較例:冷菓CEx-11の製造>
水あめ29.88質量部、加圧加熱物に替えて米油(すなわち加圧加熱を加えていないもの)0.02質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、冷菓CEx-11を得た。
<比較例:冷菓CEx-12の製造>
水あめ29.85質量部、加圧加熱物Ex-K0.05質量部とした他は冷菓Ex-22と同様の配合と製造方法により、CEx-12を得た。
得られた冷菓中の油分量は、冷菓Ex-22において12.9質量%、冷菓Ex-23において12.5質量%、冷菓Ex-24、冷菓Ex-26~30および冷菓CEx-12において12.44質量%、冷菓Ex-25において12.4質量%、ならびに、冷菓CEx-11において12.41質量%であった。
<評価方法>
上記で得た冷菓Ex-22~Ex-30、CEx-11およびCEx-12について、検討1と同様の官能評価を行い、これに加えて、下記評価基準に基づき、特に各加圧加熱物がココナッツミルクの風味に与える影響に注視した評価も行った。ただし、検討4におけるコントロールは、加圧加熱物を添加せず、ココナッツミルク70質量部、水あめ29.9質量部、香料0.1質量部を用いて、冷菓Ex-22と同様に、アイスクリームフリーザーを使用して撹拌しながら冷却することで得られた冷菓とする。
<<評価基準:風味調和の改善(2)>>
5点:コントロールと比較して、ココナッツミルクのえぐみが感じられない。
3点:コントロールと比較して、ココナッツミルクのえぐみが抑えられている。
1点:コントロールと比較して、ココナッツミルクのえぐみがわずかに抑えられている。
0点:コントロールと同様にココナッツミルクのえぐみを感じる。
評価結果は表10のとおりである。風味調和の改善(2)の評価結果も、他の評価結果と同様に、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、37~43点:+、25~36点:±、19~24点:-、11~18点:--、0~10点:---]として表記した。表中の風味調和、油脂由来の美味しさの付与等、異味抑制および風味調和(2)のすべての項目において、「±」以上の評点が与えられれば、本発明の課題達成レベルと言える。
Figure 2022151805000011
[検討5]
検討5では、カレーに加圧加熱物を添加した場合に、各加圧加熱物が食品に与える効果を、特に油脂由来の美味しさの付与等および異味の抑制に注視した官能評価に基づいて評価した。
<実施例:カレーEx-31の製造>
レトルトカレー(明治社製、「銀座カリー中辛」、油分量15.6質量%)99.8質量部に対して、加圧加熱物Ex-Tを0.2質量部混合し、カレーEx-31を得た。
<実施例:カレーEx-32の製造>
加圧加熱物Ex-Tに替えて加圧加熱物Ex-Uを0.2質量部混合した他はカレーEx-31と同様の配合と製造方法により、カレーEx-32を得た。
<実施例:カレーEx-33の製造>
加圧加熱物Ex-Tに替えて加圧加熱物Ex-Vを0.2質量部混合した他はカレーEx-31と同様の配合と製造方法により、カレーEx-33を得た。
<実施例:カレーEx-34の製造>
加圧加熱物Ex-Tに替えて加圧加熱物Ex-Wを0.2質量部混合した他はカレーEx-31と同様の配合と製造方法により、カレーEx-34を得た。
<実施例:カレーEx-35の製造>
加圧加熱物Ex-Tに替えて加圧加熱物Ex-Xを0.2質量部混合した他はカレーEx-31と同様の配合と製造方法により、カレーEx-35を得た。
<実施例:カレーEx-36の製造>
加圧加熱物Ex-Tに替えて加圧加熱物Ex-Yを0.2質量部混合した他はカレーEx-31と同様の配合と製造方法により、カレーEx-36を得た。
<比較例:カレーCEx-13の製造>
加圧加熱物Ex-Tに替えて加圧加熱物CEx-Lを0.2質量部混合した他はカレーEx-31と同様の配合と製造方法により、カレーCEx-13を得た。
<比較例:カレーCEx-14の製造>
加圧加熱物Ex-Tに替えて加圧加熱物CEx-Mを0.2質量部混合した他はカレーEx-31と同様の配合と製造方法により、カレーCEx-14を得た。
<実施例:カレーEx-37の製造>
レトルトカレー(大塚食品社製、「100kcalマイサイズ 欧風カレー」、油分量2.60質量%)99.8質量部に対して、加圧加熱物Ex-Zを0.1質量部混合し、カレーEx-37を得た。
<実施例:カレーEx-38の製造>
加圧加熱物Ex-Zに替えて加圧加熱物Ex-AAを0.1質量部混合した他はカレーEx-37と同様の配合と製造方法により、カレーEx-38を得た。
<実施例:カレーEx-39の製造>
加圧加熱物Ex-Zに替えて加圧加熱物Ex-ABを0.1質量部混合した他はカレーEx-37と同様の配合と製造方法により、カレーEx-39を得た。
<実施例:カレーEx-40の製造>
加圧加熱物Ex-Zに替えて加圧加熱物Ex-ACを0.1質量部混合した他はカレーEx-37と同様の配合と製造方法により、カレーEx-40を得た。
<評価方法>
上記で得たカレーEx-31~Ex-40、CEx-13およびCEx-14を食し、コントロールと比較した場合における油脂由来の美味しさの付与等および油脂の加熱物に由来する異味の抑制について官能評価を行い、油脂の各加熱物が食品に与える効果を評価した。官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、検討5におけるコントロールは、各カレーを調製した際に使用したレトルトカレー(油脂の加熱物を加えていないもの)とする。
<<評価基準:油脂由来の美味しさの付与等>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
<<評価基準:異味の抑制>>
5点:コントロールと同等の風味であり、異味が感じられない。
3点:コントロールと比較して、わずかに異味が感じられるが許容範囲である。
1点:コントロールと比較して、異味が感じられる。
0点:コントロールと比較して、強い異味が感じられる。
評価結果は表11のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、37~43点:+、25~36点:±、19~24点:-、11~18点:--、0~10点:---]として表記した。表中の油脂由来の美味しさの付与等および異味抑制のすべての項目において、「±」以上の評点が与えられれば、本発明の課題達成レベルと言える。
Figure 2022151805000012
[検討6]
検討6では、飲料(ミルクコーヒー)に加圧加熱物を添加した場合に得られる効果を、官能評価に基づいて、評価した。
<実施例:飲料Ex-41の製造>
まず、コーヒー豆粉(ユーシーシー上島珈琲社製「UCCゴールドスペシャル スペシャルブレンド」)を使用してコーヒー固形分が3~5質量%であるコーヒー抽出液を用意した。次に、牛乳10質量部、重曹0.1質量部、グラニュー糖5質量部、カゼインナトリウム0.1質量部、ショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ社製「SE-P1670」)0.05質量部、加圧加熱物Ex-E 0.005質量部および上記コーヒー抽出液を混合し、飲料中のコーヒー固形分が1質量%となるように水分で調節しながら65℃で充分に撹拌することにより、混合液を得た。この混合液を、20MPaに設定されたホモジナイザーでホモジナイズした後スチール缶に封入し、さらに125℃で20分間レトルト殺菌を行って、飲料Ex-41を得た。なお、飲料Ex-41は、レトルト殺菌後、放冷し常温に戻して1週間保管した後、後述する官能評価に供した。
<実施例:飲料Ex-42の製造>
加圧加熱物Ex-Eの量を0.001質量部とした他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料Ex-42を得た。
<実施例:飲料Ex-43の製造>
加圧加熱物Ex-Eに替えて0.005質量部の加圧加熱物Ex-Cを使用した他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料Ex-43を得た。
<実施例:飲料Ex-44の製造>
加圧加熱物Ex-Eに替えて0.01質量部の加圧加熱物Ex-Cを使用した他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料Ex-44を得た。
<実施例:飲料Ex-45の製造>
加圧加熱物Ex-Eに替えて0.005質量部の加圧加熱物Ex-Bを使用した他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料Ex-45を得た。
<実施例:飲料Ex-46の製造>
加圧加熱物Ex-Eに替えて0.005質量部の加圧加熱物Ex-ADを使用した他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料Ex-46を得た。
<実施例:飲料Ex-47の製造>
加圧加熱物Ex-Eに替えて0.005質量部の加圧加熱物Ex-AEを使用した他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料Ex-47を得た。
<実施例:飲料Ex-48の製造>
加圧加熱物Ex-Eに替えて0.005質量部の加圧加熱物Ex-AFを使用した他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料Ex-48を得た。
<比較例:飲料CEx-16の製造>
加圧加熱物Ex-Eに替えて0.005質量部の加圧加熱物CEx-Oを使用した他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により、飲料CEx-16を得た。
<評価方法>
上記で得た飲料Ex-41~Ex-48およびCEx-16を喫食し、コントロールと比較した場合における油脂由来の美味しさの付与等および乳風味の増強について官能評価を行い、油脂の各加熱物が食品に与える効果を評価した。官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、検討6におけるコントロールは、加圧加熱物を使用しない他は、飲料Ex-41と同様の配合と製造方法により製造した飲料とする。
<<評価基準:油脂由来の美味しさの付与等>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
<<評価基準:乳風味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
評価結果は表12のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、37~43点:+、25~36点:±、19~24点:-、11~18点:--、0~10点:---]として表記した。油脂由来の美味しさの付与等、および乳風味の増強のすべての項目において、「±」以上の評点が与えられれば、本発明の課題達成レベルと言える。
Figure 2022151805000013
[検討7]
検討7では、菓子(ノーテンパー型チョコレート)に加圧加熱物を添加した場合に得られる効果を、官能評価に基づいて評価した。
<ランダムエステル交換油脂Aの製造>
まず、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加し極度硬化油とした大豆油45質量部、パーム分別硬部油25質量部、およびパーム油30質量部をそれぞれ融解した状態で、撹拌および混合して油脂配合物を得た。四口フラスコ内で液温を90℃に調整しながら、上記油脂配合物100質量部に対し0.2質量部のナトリウムメトキシドを加え、真空下で1時間、加熱しながら撹拌および混合した。その後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和し、常法により精製し、ランダムエステル交換油脂であるエステル交換油脂E-1(以下、単にE-1と記載する場合がある。)を得た。このエステル交換油脂E-1を、ジャケット付ガラス製晶析槽に投入し、完全に溶解された状態から、40rpmで撹拌しながら、48℃まで15℃/hで急冷し、48℃、44℃および42℃の各温度でそれぞれ4時間の熟成工程を経て、結晶化スラリーを得た。ここで、48℃から44℃への温度移行は2℃/hでの徐冷により行い、44℃から42℃への温度移行は1℃/hでの徐冷により行った。この結晶化スラリーを濾過分別および圧搾に供し、エステル交換油脂E-1の分別軟部油として、ランダムエステル交換油脂Aを得た。
<ランダムエステル交換油脂Bの製造>
パーム核油50部と、パーム極度硬化油50部(パーム油に対し、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加したもの)とを溶融した状態で混合した混合油脂を四口フラスコに入れ、液温110℃で真空下30分間加熱した。その後、対油0.2%の割合でランダムエステル交換触媒のナトリウムメトキシドを四口フラスコに加えて、液温を85℃に調整し、さらに真空下で1時間加熱してランダムエステル交換反応を行った。反応後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和し、反応物を常法により精製し、ランダムエステル交換油脂Bを得た。
<チョコレート用油脂の製造>
ランダムエステル交換油脂A 80質量部、およびランダムエステル交換油脂B 20質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で混合し、チョコレート用油脂を調整した。
<実施例:菓子Ex-49の製造>
上記チョコレート用油脂20質量部、ココアバター0.8質量部、カカオマス12.5質量部、加圧加熱物Ex-C 0.13質量部を、それぞれ55℃に加温して溶解した状態で混合した混合物を得た。この混合物に、ココアパウダー2.0質量部、全粉乳19質量部、砂糖37質量部を添加し、練り合わせてペースト状とし、ロール掛けを行った。その後、混合物にレシチン0.5質量部とチョコレート用油脂8.07質量部をさらに加え、コンチングして、ノーテンパー型のチョコレート生地を得た。このチョコレート生地を型に注入し、5℃で1時間冷却・固化させ、ノーテンパー型のチョコレートである菓子Ex-49を得た。
なお、カカオマス中の油脂分は55質量%であり、ココアパウダー中の油脂分は11質量%であり、これら油脂はココアバターであった。また、全粉乳中の油脂分は26.2質量%であり、この油脂は乳脂であった。菓子Ex-49の総油分は41.0質量%であり、この内、ココアバターは7.9質量%であった。
<実施例:菓子Ex-50の製造>
チョコレート用油脂の含量を28.08質量部とし、加圧加熱物Ex-Cの含量を0.03質量部とした他は、菓子Ex-49と同様の配合と製造方法により、菓子Ex-50を得た。
<実施例:菓子Ex-51の製造>
加圧加熱物Ex-Cに替えて0.13質量部の加圧加熱物Ex-AGを使用した他は、菓子Ex-49と同様の配合と製造方法により、菓子Ex-51を得た。
<実施例:菓子Ex-52の製造>
チョコレート用油脂の含量を28.08質量部とし、加圧加熱物Ex-Cに替えて0.03質量部の加圧加熱物Ex-AGを使用した他は、菓子Ex-49と同様の配合と製造方法により、菓子Ex-52を得た。
<実施例:菓子Ex-53の製造>
加圧加熱物Ex-Cの含有量を0.07質量部に減らしかつ0.06質量部の加圧加熱物Ex-AGを追加した他は、菓子Ex-49と同様の配合と製造方法により、菓子Ex-53を得た。
<比較例:菓子CEx-17の製造>
加圧加熱物Ex-Cに替えて0.13質量部の加圧加熱物CEx-Oを使用した他は、菓子Ex-49と同様の配合と製造方法により、菓子CEx-17を得た。
<評価方法>
上記で得た菓子Ex-49~Ex-53およびCEx-17を喫食し、コントロールと比較した場合におけるカカオ風味の増強および乳風味の増強について官能評価を行い、油脂の各加熱物が食品に与える効果を評価した。官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、検討7におけるコントロールは、加圧加熱物を使用しない他は、菓子Ex-49と同様の配合と製造方法により製造した菓子とする。
<<評価基準:カカオ風味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
<<評価基準:乳風味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
評価結果は表13のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、37~43点:+、25~36点:±、19~24点:-、11~18点:--、0~10点:---]として表記した。表中のカカオ風味および乳風味の増強のすべての項目において、「±」以上の評点が与えられれば、本発明の課題達成レベルと言える。
Figure 2022151805000014
[検討8]
検討8では、DHS-GC-MS測定により、加圧加熱物の成分構成と効果との関係を調べた。DHS測定では、トップノートからベースノートまでの幅広い成分を網羅的に分析できるゲステル社製のDHS-MVM(Multi-Volatile Method)を使用した。DHS測定における加熱脱着には、ゲステル社製の多機能オートサンプラー(MPS2)、サーマルデソープションユニット(TDU2)およびクールドインジェクションシステム(CIS4)を使用した。GC測定では、アジレント社製の7890Aを使用した。MS測定では、アジレント社製の5975Cを使用した。測定条件は下記のとおりである。
<DHS測定>
トップノート捕集条件
・インキュベーション温度 30℃
・インキュベーション時間 5分
・トラップ吸収剤 Shincarbon-X
・トラップ温度 30℃
・トラップ容積 150mL
・トラップ流量 50mL/分
・ドライパージ量 600mL
・ドライパージ流量 50mL/分
ミドルノート捕集条件
・インキュベーション温度 30℃
・インキュベーション時間 5分
・トラップ吸収剤 Shincarbon-X
・トラップ温度 30℃
・トラップ容積 650mL
・トラップ流量 100mL/分
・ドライパージ量 600mL
・ドライパージ流量 50mL/分
ラストノート捕集条件
・インキュベーション温度 80℃
・インキュベーション時間 0.1分
・トラップ吸収剤 TENAX TA
・トラップ温度 40℃
・トラップ容積 3500mL
・トラップ流量 100mL/分
<加熱脱着装置条件>
・TDU2
Shincarbon-X 300℃(各3分)、TENAX TA 240℃(3分)
・脱着流量 54.2mL/分
・脱着モード 溶媒ベント(50mL/分、3分)
・CIS4の温度
-10℃(1分保持)→720℃/分昇温→250℃(20分保持)
・CISライナー TENAX TA Packed Liner
・注入モード 低スプリット(スプリット時間3分)
<GC測定>
・カラム DB-WAX(60m×0.25mm×0.25μm)
・オーブン温度
35℃(1分保持)→5℃/分昇温→170℃→10℃/分昇温→240℃(55分保持)
・キャリアガス He
・初期カラム流量 1.2mL/分
・インターフェース温度 250℃
・検出器スピリット比
MS:NPD(窒素・リン検出器):PFPD(パルスド炎光光度検出器)
=1:1:1
<MS測定>
・イオン源タイプ Extactor
・イオン源温度 230℃
・四重極温度 150℃
・走査モード Scan(質量範囲:28.7~350)
・NPD
325℃、空気:120mL/分、水素:3mL/分、ヘリウム:5mL/分
・PFPD
250℃、空気:15mL/分、水素:9.5mL/分、窒素:10mL/分
<実施例:Ex-AH 未精製油(ココアバター)の加圧加熱物の分析>
ココアバター(大東カカオ社製、過酸化物価0.5、酸価3.6)を、レトルトパウチに100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
次に、図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa(飽和水蒸気圧)、設定加熱温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t0-t1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら30分(t1-t2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t2-t3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は4826.5℃・分であった。上記の工程により得られた加圧加熱物について、DHS-GC-MS測定を行った。
<実施例:Ex-AI>
設定加熱温度の保持時間が60分である点以外、Ex-AHと同様に加圧加熱物を作製し、DHS-GC-MS測定を行った。
<比較例:CEx-P>
加圧槽内の温度が設定温度に到達してすぐに(保持時間0分)加圧槽内を常温(T1)まで冷却した点以外、Ex-AHと同様に加圧加熱物を作製し、DHS-GC-MS測定を行った。
<比較例:CEx-Q>
設定加熱温度の保持時間が120分である点以外、Ex-AHと同様に加圧加熱物を作製し、DHS-GC-MS測定を行った。
<実施例:Ex-AJ 精製油(米油)の加圧加熱物の分析>
米油(ボーソー油脂社製、ヨウ素価106)を加熱溶解し、これをレトルトパウチに100g測りとり、レトルトパウチのヘッドスペースに空気が入らないように口を閉じ、ヒートシーラーでレトルトパウチを密閉した。上記米油の過酸化物価は0.8であり、酸価は0.16であった。このとき、レトルトパウチ内は充分に脱気され、酸素ガスはほとんど存在しないと推定できる。
次に、図1に示すような温度制御に従い、加圧加熱を行った。具体的には、密閉したレトルトパウチを、オートクレーブの加圧槽内に入れ、60℃(T2)の温水を所定量注水し、大気圧に対する加圧量0.1MPa(飽和水蒸気圧)、設定加熱温度120℃(T3)および昇温速度2.6℃/分の条件の下で、加圧加熱を開始した。加圧槽内の温度が設定温度に到達するまで(t0-t1間)の時間は約23.1分であった。加圧槽内の温度が設定温度に到達してから、設定温度を保持しながら30分(t1-t2間)、加圧加熱を行った。その後、9.5℃/分の降温速度で加圧槽内を常温(T1)まで冷却した後に常圧に戻し、レトルトパウチを取り出した。加圧槽内の温度が設定温度から常温に下がるまで(t2-t3間)の時間は10分であり、上記工程における加熱処理量は4826.5℃・分であった。上記の工程により得られた加圧加熱物について、DHS-GC-MS測定を行った。
<実施例:Ex-AK>
設定加熱温度の保持時間が60分である点以外、Ex-AJと同様に加圧加熱物を作製し、DHS-GC-MS測定を行った。
<比較例:CEx-R>
加圧槽内の温度が設定温度に到達してすぐに(保持時間0分)加圧槽内を常温(T1)まで冷却した点以外、Ex-AJと同様に加圧加熱物を作製し、DHS-GC-MS測定を行った。
<比較例:CEx-S>
設定加熱温度の保持時間が120分である点以外、Ex-AJと同様に加圧加熱物を作製し、DHS-GC-MS測定を行った。
<評価方法>
表14の評価方法
「パンにぬるホイップクリーム チョコ」(ソントン食品工業社製)100質量部に対し融解した加圧加熱物Ex-AH、Ex-AI、CEx-PおよびCEx-Qをそれぞれ0.1質量部添加してよく混合し、チョコレートスプレッドEx-54、Ex-55、CEx-18およびCEx-19を得た。得られたチョコレートスプレッドEx-54、Ex-55、CEx-18およびEx-19のカカオ風味について官能評価を行い、ココアバターの加圧加熱物がスプレッドの風味に与える影響を評価した。
官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、本試験におけるコントロールは、上記の「パンにぬるホイップクリーム チョコ」にいずれの加圧加熱物も添加せず、練り混ぜたものである。
<<評価基準:カカオ風味の増強>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
評価結果は表14のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、37~43点:+、25~36点:±、19~24点:-、11~18点:--、0~10点:---]として表記した。表中のカカオ風味において、「±」以上の評点が与えられれば、本発明の課題達成レベルと言える。
表15の評価方法
溶解されたスプレーオイル(ADEKA社製)100質量部に加圧加熱物Ex-AJ、Ex-AK、CEx-RおよびCEx-Sをそれぞれ0.1質量部添加・混合し、加熱加圧物を含有するスプレーオイルを調製し、米菓「ソフトサラダ」(亀田製菓社製)に対して、1枚あたり0.5gとなるように塗布し、米菓Ex-56、Ex-57、CEx-20およびCEx-21を得た。得られた米菓Ex-56、Ex-57、CEx-20およびCEx-21を食し、コントロールと比較した場合における油脂由来の美味しさの付与等について官能評価を行い、加圧加熱物が米菓の風味に与える効果を評価した。
官能評価は、下記評価基準に基づき、12名のパネラーにより実施した。官能評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、本試験におけるコントロールは、溶解された上記スプレーオイルを上記米菓「ソフトサラダ」に対して、1枚あたり0.5gとなるように塗布した米菓とする。
<<評価基準:油脂由来の美味しさの付与等>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、またはコントロールと比較して弱い。
評価結果は表15のとおりである。官能評価の結果は、全パネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、37~43点:+、25~36点:±、19~24点:-、11~18点:--、0~10点:---]として表記した。表中の油脂由来の美味しさの付与等において、「±」以上の評点が与えられれば、本発明の課題達成レベルと言える。
実施例Ex-54からEx-57および比較例CEx-18からCEx-21の結果を表14および15に示す。
Figure 2022151805000015
Figure 2022151805000016

Claims (18)

  1. 食用油脂を含む油脂原料を加圧しながら加熱すること、および
    前記加熱の際に又は前記加熱の後に、加圧しながら加熱する前の油脂原料の過酸化物価に対する、加圧しながら加熱した後の油脂原料の過酸化物価の比の値を、1.0~3.0の範囲に調整することを含む、油脂組成物の製造方法であって、
    前記加熱による加熱処理量が、2700~10000℃・分である、油脂組成物の製造方法;
    但し、加熱処理量は、[油脂原料の加熱温度(℃)-常温(℃)]と加熱時間(分)の積分値である。
  2. 前記加熱時に105~145℃の範囲で加熱温度を保持する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記加熱温度を保持する保持時間が9~75分である、請求項2に記載の製造方法。
  4. 前記加熱時の昇温速度が1~20℃/分である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 前記加熱時の降温速度が1~40℃/分である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記油脂原料の加圧しながら加熱する前の過酸化物価が、1.0meq/kg以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 前記加熱を低酸素下で行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記食用油脂が、動物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、動物油脂および前記加工油脂の混合油脂を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 前記食用油脂が、植物油脂に改質処理を施した加工油脂、または、植物油脂および前記加工油脂の混合油脂を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
  10. 前記食用油脂が、動物油脂と植物油脂とを、前者対後者の質量比が50~90:10~50となるように混合した混合油脂、およびこの混合油脂に改質処理を施した加工油脂の少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
  11. 前記食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての前記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくラクトン・ケトン成分量に対するアルデヒド成分量の比が2.60~3.19である、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
  12. 前記食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての前記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくアルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比が2.91~3.30である、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
  13. 前記食用油脂が未精製油である場合に、過酸化物価についての前記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、アルデヒド成分量が24.0~28.0%であり、アルコール成分量が7.0~9.0%である、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
  14. 前記食用油脂が精製油である場合に、過酸化物価についての前記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づくアルコール成分量に対するアルデヒド成分量の比が0.60~4.40である、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
  15. 前記食用油脂が精製油である場合に、過酸化物価についての前記比の値が調整された油脂原料において、DHS-GC-MS測定による成分のピーク面積に基づく成分量全体に対し、アルデヒド成分量が10.0~60.0%である、請求項1~10および14のいずれか1項に記載の製造方法。
  16. アルコール成分量が14.0%以下である、請求項15に記載の製造方法。
  17. 請求項1~16のいずれか1項に記載の製造方法により製造された油脂組成物。
  18. 請求項17に記載の油脂組成物を含む飲食品用添加剤。
JP2022046928A 2021-03-24 2022-03-23 油脂組成物の製造方法、油脂組成物、および飲食品用添加剤 Pending JP2022151805A (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021050408 2021-03-24
JP2021050408 2021-03-24

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2022151805A true JP2022151805A (ja) 2022-10-07

Family

ID=83464199

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2022046928A Pending JP2022151805A (ja) 2021-03-24 2022-03-23 油脂組成物の製造方法、油脂組成物、および飲食品用添加剤

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2022151805A (ja)

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5406050B2 (ja) コク味強化剤
JP2021132616A (ja) 油脂組成物の製造方法、ならびに、油脂組成物およびそれを含む食用添加剤
JP6585346B2 (ja) 可塑性油脂組成物及びその製造方法
JP2011083264A (ja) 油脂感増強剤
JP7454501B2 (ja) パーム系油脂の酸化処理物、酸化処理物の製造方法、食品の甘味増強方法、及び食品の甘味増強用組成物
JP2017131176A (ja) 新規な乳風味増強剤
JP4911815B2 (ja) 植物ステロール含有油脂組成物
JP6841680B2 (ja) 風味増強油脂の製造方法
JP7358067B2 (ja) 油脂分解物
JP2007135443A (ja) 可塑性油脂組成物
JP6075731B2 (ja) 焼き菓子
JP6210741B2 (ja) 呈味改善剤及び該呈味改善剤を含む香料組成物
JP2014161247A (ja) 層状ベーカリー生地
JP2022151805A (ja) 油脂組成物の製造方法、油脂組成物、および飲食品用添加剤
JP6458360B2 (ja) 油中水型乳化物
JP2017216894A (ja) 焼菓子練り込み用油脂組成物
JP2003064395A (ja) 油脂組成物
JP7063633B2 (ja) 冷やして食べる焼菓子用油脂組成物
JP2007325560A (ja) 香味油乳化物発酵調味料
JP6211809B2 (ja) 硬化風味油脂
JP2003225055A (ja) 水中油型チョコレート類
JP2007116984A (ja) 油中水中油型乳化油脂組成物
JP4868640B2 (ja) 油脂組成物
JP6513987B2 (ja) シート状可塑性油脂組成物
JP2022151720A (ja) 甘味増強剤、甘味増強用油脂組成物、食用組成物の甘味増強方法、及び甘味増強剤の製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
AA64 Notification of invalidation of claim of internal priority (with term)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A241764

Effective date: 20220412

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220608