JP2022148818A - 石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法 - Google Patents

石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 石油プロセスにおける熱交換器の汚れを防止可能な新たな方法を提供する。【解決手段】 一態様において、石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法であって、石油プロセスにおける熱交換器を通過するプロセス流体に、チオリン酸エステル化合物と分散剤とを添加することを含む。【選択図】なし

Description

本開示は、石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法に関する。
原油を精製するための石油精製プラントの蒸留工程では、熱交換器及び加熱炉において原油が加熱された後、蒸留塔に送られ蒸留操作が行われる。熱交換器内や加熱炉内では原油が熱履歴を受け、その結果、多量の汚れが付着する。汚れの付着は、熱交換器や加熱炉の熱交換率の低下を引き起こし、出口温度を維持するための燃料使用量を増大させる一因となっている。汚れ成分の一形態として、アスファルテンやスラッジ等の有機系高分子成分が混合された形態がある。
特許文献1は、デソルター前のプロセス流体に添加する熱交換器及び加熱炉の汚れ防止剤及び汚れ防止方法を開示する。特許文献2は、リン酸エステル系防食剤と分散剤とを用いて石油プロセスにおける予熱交のアスファルテン由来の汚れを防止する方法を開示する。特許文献3は、亜リン酸エステル系防食剤と分散剤とを用いて石油プロセスにおける予熱交のアスファルテン由来の汚れを防止する方法を開示する。
特開2010-163539号公報 WO2015/022979 WO2018/207708
本開示は、一態様において、石油プロセスにおける熱交換器の汚れを防止可能な新たな汚れ防止方法を提供する。
本開示は、一態様において、石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法であって、 前記熱交換器を通過するプロセス流体に、チオリン酸エステル化合物と分散剤とを添加することを含む汚れ防止方法に関する。
本開示は、その他の態様において、汚れ防止方法に使用するための汚れ防止剤であって、チオリン酸エステル化合物及び分散剤を含有する汚れ防止剤に関する。
本開示の方法によれば、石油プロセスにおける熱交換器の汚れを防止可能な新たな汚れ防止方法を提供できる。
図1は、常圧蒸留塔を備える石油精製処理装置の一例を示すブロック図である。 図2は、汚れ防止試験に用いた加熱管の断面図である。 図3は、汚れ防止試験において加熱管を加熱管保持器に挿入した状態の断面図である。
本開示における「石油プロセス」とは、原料である原油等の炭化水素から、各種石油製品が製造されるまでの工程の全部又は一部をいう。石油プロセスは、一又は複数の実施形態において、原油等の炭化水素(原料)を加熱すること、及び加熱した炭化水素を常圧蒸留装置において沸点の差を利用してLPG又はナフサ等の揮発油及び軽油等の各主成分に分離することを含みうる。本開示における石油プロセスは、一又は複数の実施形態において、石油精製プロセスを含みうる。
本開示の汚れ防止方法における「熱交換器」は、石油プロセスに使用される熱交換器である。熱交換器としては、限定されない一又は複数の実施形態において、予熱交(予備加熱熱交又は予熱交換器ともいう)、プレヒーター及びリボイラー等が挙げられる。本開示における石油プロセスにおける熱交換器としては、一又は複数の実施形態において、石油精製プロセスの熱交換器、又は石油プロセスの予熱交等が挙げられる。
石油プロセスの熱交換器において特に汚れが発生し蓄積しやすいと考えられているのは、約200℃以上の高温部分である。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、処理時に約200℃付近又はそれ以上、例えば、180℃、190℃、200℃、210℃又は220℃以上となる高温部分がある熱交換器の汚れを防止するのに好適に使用できる。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、約200℃以上になった部分においてその汚れ防止効果をより効果的に発揮することができうる。
図1に石油プロセスにおける石油精製処理装置の一例を示す。図1の石油精製処理装置は、常圧蒸留塔を備える石油精製処理装置の一例である。図1に示す通り、当該石油精製処理装置は、ポンプ9、予熱交1、脱塩装置2、予熱交3、プレフラッシュタワー4、予熱交(熱交換器)5、予熱交(熱交換器)6、加熱炉7、常圧蒸留塔8、及びポンプ10を備える。
ポンプ9を介して供給された原油は、予熱交1で110℃~140℃で加熱された後、脱塩装置2に送られ脱塩される。次いで、予熱交3で150℃~180℃に加熱された後、プレフラッシュタワー4に送られる。プレフラッシュタワー4で分離された低沸点ガス分は塔頂から排出され、塔底から原油が排出される。排出された原油は、予熱交5、6によって240℃~280℃に加熱された後、加熱炉7で350℃~360℃にまで加熱され、その後、常圧蒸留塔8に導入される。常圧蒸留塔8では沸点範囲に応じてそれぞれナフサ、灯油、軽油及び常圧残油などの留分への分離が行われる。塔底から排出される缶出液はポンプ10を介して予熱交5、6に熱源として送られる。
本開示における「プロセス流体」とは、石油プロセスにおいて供される液体又は気体をいう。プロセス流体としては、一又は複数の実施形態において、石油プロセスにおいて処理される原油又は原油由来の炭化水素等が挙げられる。プロセス流体としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、石油精製プロセスにおいて予熱交に供給される液体又は予熱交内の液体等が挙げられる。
本開示の汚れ防止方法における「汚れ」は、限定されない一又は複数の実施形態において、アスファルテン(asphaltene)やスラッジ等の有機系高分子成分を含む汚れ、又は、熱交換器内で付着及び/又は蓄積するアスファルテンやスラッジ等の有機系高分子成分を含む汚れをいう。
本開示における「熱交換器の汚れ防止」としては、一又は複数の実施形態において、石油プロセスの熱交換器内の汚れの付着及び/又は堆積を抑制することをいう。本開示の汚れ防止方法は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、チオリン酸エステル化合物と分散剤とによって熱交換器を処理することにより、熱交換器の鉄系金属表面に被膜形成することで汚れが熱交換器に付着することを防止することを含みうる。
[汚れ防止方法]
本開示は、一態様において、石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法(本開示の汚れ防止方法)に関する。本開示の汚れ防止方法は、石油プロセスにおける熱交換器を通過するプロセス流体に、チオリン酸エステル化合物と分散剤とを添加することを含む。
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、汚れ防止効果に寄与する有効成分として機能する薬剤の一つとして、チオリン酸エステル化合物を使用する。本開示の汚れ防止方法で使用されるチオリン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、石油プロセスにおいて使用されるチオリン酸エステル化合物が挙げられる。
チオリン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、下記式(I)で表されるチオリン酸エステル化合物が挙げられる。
Figure 2022148818000001
式(I)において、X1、X2、X3及びX4は、互いに独立にして、酸素原子又は硫黄原子であって、X1、X2、X3及びX4のうち少なくとも1つは硫黄原子である。R1、R2及びR3は、一又は複数の実施形態において、互いに独立にして、水素原子又は炭素数1~30の炭素原子を有する基である。
炭素数1~30の炭素原子を有する基としては、一又は複数の実施形態において、炭素数1以上30以下のアルキル基、炭素数2以上30以下のアルケニル基、炭素数6以上30以下のアリール基、炭素数7以上30以下のアルアルキル基、炭素数7以上30以下のアルキルアリール基、又は炭素数3以上30以下のシクロアルキル基等が挙げられる。アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルアルキル基、アルキルアリール基及びシクロアルキル基は、一又は複数の実施形態において、置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい。
アルキル基は、一又は複数の実施形態において、直鎖アルキル基であってもよいし、分岐鎖アルキル基であってもよい。炭素数1以上30以下のアルキル基としては、一又は複数の実施形態において、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、、ドデシル基、トリデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソブチル基、イソヘキシル基、イソデシル基、イソオクタデシル基、ネオペンチル基、2-エチルヘキシル基、及びオレイル基等が挙げられる。
炭素数2以上30以下のアルケニル基としては、一又は複数の実施形態において、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ペンテニル基、5-ヘキセニル基、及びドデセニル基等が挙げられる。
アリール基は、単環であってもよいし、二環であってもよい。炭素数6以上30以下のアリール基、一又は複数の実施形態において、フェニル基、1-ナフチル基、又は2-ナフチル基等が挙げられる。
アルアルキル基は、アルキル基の1個以上の水素原子がアリール基で置換されたものをいう。炭素数7以上30以下のアルアルキル基としては、一又は複数の実施形態において、ベンジル基、ベンズヒドリル基、及びトリチル基等が挙げられる。
アルキルアリール基は、アリール基の1個以上の水素原子がアルキル基で置換されたものをいう。炭素数7以上30以下のアルキルアリール基としては、一又は複数の実施形態において、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、メチルビフェニル基、及びメチルナフチル基等が挙げられる。
シクロアルキル基は、単環であってもよいし、二環であってもよい。炭素数3以上30以下のシクロアルキル基としては、一又は複数の実施形態において、シクロプロピル基、シクロビチル基、シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。
チオリン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、下記式(II)又は(III)で表されるチオリン酸エステル化合物が挙げられる。
Figure 2022148818000002
式(II)において、X1、X2及びX3は、互いに独立にして、酸素原子又は硫黄原子であり、好ましくはX1、X2及びX3のすべてが酸素原子である。R1、R2及びR3は、一又は複数の実施形態において、互いに独立にして、水素原子又は炭素数1~30の炭素原子を有する基であり、好ましくはそのうちの1つが水素原子であって、残りの2つが炭素数1~30の炭素原子を有する基であるか、又は3つすべてが炭素数1~30の炭素原子を有する基である。
式(III)において、X1、X2及びX3は、互いに独立にして、酸素原子又は硫黄原子であって、X1、X2及びX3のうち少なくとも1つは硫黄原子である。R1、R2及びR3は、一又は複数の実施形態において、互いに独立にして、水素原子又は炭素数1~30の炭素原子を有する基である。
チオリン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、チオリン酸モノエステル化合物、チオリン酸ジエステル化合物、及びチオリン酸トリエステル化合物が挙げられる。チオリン酸モノエステル化合物は、上記式(I)~(III)のチオリン酸エステル化合物において、R1、R2及びR3のうち2つが水素原子であり、1つが炭素原子を有する基である。チオリン酸ジエステル化合物は、上記式(I)~(III)のチオリン酸エステル化合物において、R1、R2及びR3のうち1つが水素原子であり、2つが炭素原子を有する基である。チオリン酸トリエステル化合物は、上記式(I)~(III)のチオリン酸エステル化合物において、R1、R2及びR3の3つすべてが炭素原子を有する基である。本開示の汚れ防止方法において使用されるチオリン酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、チオリン酸モノエステル、チオリン酸ジエステル及びチオリン酸トリエステルから選択される2種類又は3種類の混合物であってもよい。
チオリン酸モノエステルとしては、一又は複数の実施形態において、下記化合物が挙げられる。
Figure 2022148818000003
上記式において、R1は、一又は複数の実施形態において、炭素数1~30の炭素原子を有する基である。
チオリン酸ジエステルとしては、一又は複数の実施形態において、下記化合物が挙げられる。
Figure 2022148818000004
上記式において、R1及びR2は、一又は複数の実施形態において、互いに独立にして、水素原子又は炭素数1~30の炭素原子を有する基であり、好ましくは両方が炭素数1~30の炭素原子を有する基であり、より好ましくは両方が同一の炭素数1以上30以下のアルキル基である。
チオリン酸トリエステルとしては、一又は複数の実施形態において、下記化合物が挙げられる。
Figure 2022148818000005
上記式において、R1、R2及びR3は、一又は複数の実施形態において、互いに独立にして、水素原子又は炭素数1~30の炭素原子を有する基であり、好ましくは3つすべてが炭素数1~30の炭素原子を有する基であり、より好ましくは3つすべてが同一であり、かつ置換基を有さない炭素数6以上30以下のアリール基又は置換基を有する炭素数6以上30以下のアリール基である。
チオリン酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、チオリン酸エステルのアミン塩であってもよい。チオリン酸エステルのアミン塩としては、一又は複数の実施形態において、下記式(IV)で表されるチオリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。
Figure 2022148818000006
上記式(IV)において、R1、R2、R3、X1、X2、及びX3は上述の通りであり、好ましくはX1、X2、及びX3が水素原子であり、R1、R2及びR3が少なくとも一つが水素原子であるか、又はすべて同一の炭素数1~30の炭素原子を有する基である。R4は炭素数1~30の炭素原子を有する基である。
本開示の汚れ防止方法で使用されるチオリン酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、1種類の単独使用あってもよいし、2種以上の併用であってもよい。
熱交換器に供給されるプロセス流体におけるチオリン酸エステル化合物の濃度(複数種類のチオリン酸エステル化合物を使用する場合はその合計の濃度)は、一又は複数の実施形態において、1ppm~100ppmが挙げられる。プロセス流体におけるチオリン酸エステル化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、その下限が1ppm以上、2ppm以上又は3ppm以上であり、その上限が100ppm以下、90ppm以下、80ppm以下又は50ppm以下である。本開示において「ppm」とは、プロセス流体を基準とする質量百万分率(質量ppm)を意味し、プロセス流体1kg当たりのチオリン酸エステル化合物の量(mg)をいう。
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、熱交換器に供給されるプロセス流体におけるチオリン酸エステル化合物の濃度が、1ppm~100ppmとなるように、該プロセス流体にチオリン酸エステル化合物を添加することを含む。
[分散剤]
本開示の汚れ防止方法において使用される分散剤としては、石油プロセス又は石油プロセスの熱交換器の汚れ防止として従来使用され、あるいは今後使用されうる分散剤が挙げられる。分散剤としては、一又は複数の実施形態において、ポリオレフィンエステル化合物、ポリアルケニル置換コハク酸エステル化合物、及びコハク酸イミド化合物等が挙げられる。
本開示の汚れ防止方法で使用される分散剤は、一又は複数の実施形態において、1種類の単独使用あってもよいし、2種以上の併用であってもよい。
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、熱交換器の汚れにおける炭素に対する水素の原子量比(H/C原子比)を測定し、それに基づき選択した分散剤をプロセス流体に添加することを含んでいてもよい。分散剤の選択の指標としてH/C原子比を使用することにより、効果的な薬剤選択が可能になり得る。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、熱交換器の汚れのH/C原子比が1.3を超える場合は、分散剤としてコハク酸イミド化合物を選択しそれをプロセス流体に添加し、熱交換器の汚れのH/C原子比が1.3以下である場合は、分散剤としてコハク酸エステル化合物を選択しそれをプロセス流体に添加することを含んでいてもよい。
H/C原子比の測定は、一又は複数の実施形態において、熱交換器から汚れを採取し、採取した汚れからH/C原子比を得ることに行うことができる。採取した汚れからH/C原子比を得ることは、一又は複数の実施形態において、汚れの元素分析を行って炭素原子に対する水素原子の比率を算出することを含む。汚れを採取する箇所としては、一又は複数の実施形態において、汚れが多く付着する熱交換器が挙げられ、中でも最も汚れている熱交換器が挙げられる。汚れが多く付着する熱交換器としては、一又は複数の実施形態において、加熱炉の直前又は脱塩装置よりも加熱炉側(脱塩装置から加熱炉に向かって下流側)に位置する熱交換器、及び加熱温度が高い熱交換器(例えば、200℃以上に加熱される熱交換器)等が挙げられる。汚れの元素分析は、JIS M 8819石炭類及びコークス類-機器分析装置による元素分析方法に準拠して行うことができる。具体的には、実施例の方法により行うことができる。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、熱交換器から汚れを採取し、採取した汚れからH/C原子比を得ることを含んでいてもよい。
熱交換器に供給されるプロセス流体における分散剤の濃度(複数種類の分散剤を使用する場合はその合計の濃度、以下同様)は、一又は複数の実施形態において、1ppm~100ppmが挙げられる。プロセス流体における分散剤の濃度は、一又は複数の実施形態において、その下限が1ppm以上、2ppm以上又は3ppm以上であり、その上限が100ppm以下、90ppm以下、80ppm以下又は50ppm以下である。
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、熱交換器に供給されるプロセス流体における分散剤の濃度が、1ppm~100ppmとなるように、該プロセス流体に分散剤を添加することを含む。
チオリン酸エステル化合物の濃度に対する分散剤の濃度の比(分散剤の濃度(ppm)/チオリン酸エステル化合物の濃度(ppm))は、一又は複数の実施形態において、0.2~5である。該比は、一又は複数の実施形態において、0.3~3、又は0.5~2である。
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、チオリン酸エステル化合物の濃度に対する分散剤の濃度の比が0.2~5となるように分散剤をプロセス流体に添加することを含む。
本開示の汚れ防止方法における薬剤(チオリン酸エステル化合物及び/又は分散剤)をプロセス流体に添加する場所としては、一又は複数の実施形態において、チオリン酸エステル化合物及び分散剤が、汚れ防止を行う対象の熱交換器に導入される場所が挙げられる。添加場所としては、一又は複数の実施形態において、汚れ防止を行う対象の熱交換器の手前等が挙げられる。
チオリン酸エステル化合物及び分散剤の添加順序は特に制限されず、一又は複数の実施形態において、同じ場所に同時に添加してもよく、同じ場所に別々に添加してもよく、異なる場所に添加されてもよい。
薬剤の添加場所としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、脱塩装置の上流に位置する熱交換器とその上流に位置するポンプとの間、脱塩装置とその下流に位置する熱交換器との間、プレフラッシュタワーとその上流に位置する熱交換器との間、及び、常圧蒸留塔の塔底から排出される缶出液を熱交換器に導入するポンプとその下流に位置する熱交換器との間等が挙げられる。
図1に示す石油プロセスの熱交換器5及び6を本開示の汚れ防止方法の対象とする場合薬剤の添加場所としては、一又は複数の実施形態において、図1の矢印A~Dの個所が挙げられる。
・矢印A:熱交換器5及び6の下流(プレフラッシュタワー4と熱交換器5との間)
・矢印B:ポンプ10とその下流に位置する熱交換器6との間
・矢印C:プレフラッシュタワー4の下流に位置する熱交換器3と脱塩装置2との間
・矢印D:脱塩装置2の蒸留に位置する熱交換器1とその上流に位置するポンプ9との間
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、定期清掃後又は緊急停止後の運転再開時の初期処理を含んでいてもよい。初期処理は、一又は複数の実施形態において、定期清掃後又は緊急停止後の運転再開時に、通常処理(定常運転時の処理)よりも高い濃度となるように、チオリン酸エステル化合物及び/又は分散剤をプロセス流体に添加し、通常よりも高い薬剤濃度でプロセス流体が接する熱交換器等の表面を処理することが挙げられる。通常よりも高い濃度としては、一又は複数の実施形態において、運転再開時における濃度(ppm)が、通常処理の濃度(ppm)の1.5倍以上、2倍以上又は3倍以上であることが挙げられる。
本開示における「定常運転」としては、一又は複数の実施形態において、当該石油プロセス(石油精製プロセス)において、定常に所望の生産量で石油精製を行うことができる運転状態が挙げられる。定常運転としては、一又は複数の実施形態において、常圧蒸留装置(常圧蒸留塔)又は減圧蒸留装置において、定常的に所望の量の原油を精製(蒸留)できることが挙げられる。
[汚れ防止剤]
本開示は、一態様において、本開示の汚れ防止方法に使用するための汚れ防止剤に関する。本開示の汚れ防止剤は、チオリン酸エステル化合物及び分散剤を含有する。本開示の汚れ防止剤は、一又は複数の実施形態において、汚れ防止に寄与する有効成分の一つとして、チオリン酸エステル化合物を含有する。本開示の汚れ防止剤におけるチオリン酸エステル化合物及び分散剤は、上述の通りである。
汚れ防止剤の形態は、一又は複数の実施形態において、粉末、錠剤等の固体であってもよく、溶媒に溶解された状態、すなわち、濃縮液の形態であってもよい。
本開示における汚れ防止剤におけるチオリン酸エステル化合物(複数種類のチオリン酸エステル化合物を含有する場合はその合計)の濃度(重量%)と分散剤(複数種類の分散剤を使用する場合はその合計)の濃度(重量%)との比率(濃度比)は、一又は複数の実施形態において、5:1~1:5、3:1~1:3、又は2:1~1:2が挙げられる。
[使用]
本開示は、一態様において、本開示の汚れ防止方法におけるチオリン酸エステル化合物の使用に関する。また、本開示は、その他の態様において、分散剤が添加されたプロセス流体が通過する石油プロセスの熱交換器の汚れを防止するための、チオリン酸エステル化合物の使用に関する。チオリン酸エステル化合物及び分散剤、並びにそれらの添加濃度等は、上述の通りである。
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法であって、
前記熱交換器を通過するプロセス流体に、チオリン酸エステル化合物と分散剤とを添加することを含む汚れ防止方法。
[2] 熱交換器に供給されるプロセス流体における前記チオリン酸エステル化合物の濃度が1ppm~100ppmとなるように、前記チオリン酸エステル化合物を前記プロセス流体に添加することを含む[1]記載の汚れ防止方法。
[3] 熱交換器に供給されるプロセス流体における前記チオリン酸エステル化合物の濃度に対する分散剤の濃度の比(分散剤の濃度(ppm)/チオリン酸エステル化合物の濃度(ppm))が、0.2~5となるように前記分散剤を前記プロセス流体に添加することを含む、[1]又は[2]に記載の汚れ防止方法。
[4] [1]から[3]のいずれかに記載の汚れ防止方法に使用するための汚れ防止剤であって、チオリン酸エステル化合物及び分散剤を含有する汚れ防止剤。
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
[薬剤]
チオリン酸エステル1:ジオレイルチオホスフェート・2-エチルヘキシルアミン塩
チオリン酸エステル2:アルキル化トリフェニルチオホスフェート
チオリン酸エステル3:tert-ブチル化トリフェニルチオホスフェートとトリフェニルチオホスフェートとの混合物
コハク酸イミド:ポリアルケニル置換コハク酸イミド化合物(ビス型)、分子量10,000
コハク酸エステル:ポリアルケニル置換コハク酸エステル化合物、分子量10,000
上記化合物の分子量は重量平均分子量であって、サイズ排除クロマトグラフィーによって測定できる。測定条件は以下の通りである。
<測定条件>
カラム:スチレン-ジビニルベンゼン架橋ゲル
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:0.7ml/min
カラム温度:40℃
[薬剤の調製]
チオリン酸エステル配合品Aの調製:
チオリン酸エステル1及び分散剤(コハク酸イミド)の濃度が、それぞれ10重量%及び20重量%となるように溶媒(重芳香族ナフサ)に希釈してチオリン酸エステル配合品Aを調製した。
チオリン酸エステル配合品Bの調製:
チオリン酸エステル1及び分散剤(コハク酸エステル)の濃度が、それぞれ10重量%及び20重量%となるように溶媒(重芳香族ナフサ)に希釈してチオリン酸エステル配合品Bを調製した。
チオリン酸エステル配合品Cの調製:
チオリン酸エステル2及び分散剤(コハク酸イミド)の濃度が、それぞれ10重量%及び20重量%となるように溶媒(重芳香族ナフサ)に希釈してチオリン酸エステル配合品Cを調製した。
チオリン酸エステル配合品Dの調製:
チオリン酸エステル3及び分散剤(コハク酸イミド)の濃度が、それぞれ10重量%及び20重量%となるように溶媒(重芳香族ナフサ)に希釈してチオリン酸エステル配合品Dを調製した。
チオリン酸エステル配合品Eの調製:
チオリン酸エステル1の濃度が10重量%となるように溶媒(重芳香族ナフサ)に希釈してチオリン酸エステル配合品Eを調製した。
コハク酸イミド配合品の調製:
コハク酸イミドの濃度が10重量%となるように溶媒(重芳香族ナフサ)に希釈してコハク酸イミド配合品を調製した。
コハク酸エステル配合品の調製:
コハク酸エステルの濃度が10重量%となるように溶媒(重芳香族ナフサ)に希釈してコハク酸エステル配合品を調製した。
[汚れ(ファウリング)防止試験]
石油精製プロセスにおいて汚れ防止に使用する薬剤の汚れ防止効果を調べるために、汚れ(ファウリング)防止試験を行った。具体的には、汚れを付着させるための試験部材として図2に示す加熱管(ヒートロッド)21を用い、加熱管21を油に接触させ、その汚れの付着状況を測定することにより行った。
図2に示すように、加熱管21は、JIS K2276に規定された熱安定度試験器に使用さる軟鋼製の管である。加熱管21は、くびれた管形状をなしており、端部21a、21bが大径であり、中間部21cが小径となっている。図3に示すように、加熱管保持器22の上部及び下部には、流入管23aと流出管23bとが接続されており、加熱管保持器22の中央部には加熱管21が挿入される。加熱管21の中央部には熱電対24が挿入され、温度調節器(図示せず)により、熱電対24によって感知される温度が所定の温度となるように、加熱管21の両端部21a、21bから電流を流すことが可能である。流入管23aは、評価を行うサンプルが入ったタンク(図示せず)と接続されている。
試験装置は、上述の加熱管21及び加熱保持器22を備えたHotLiquidProcessSimurator試験器(アルコア(Alcor)社製)を使用した。
試験装置により、下記条件で加熱管21を加熱し、サンプルを流入管23aから導入して試験を行った。
サンプル:下記表2のチオリン酸エステル化合物及び分散剤の濃度がそれぞれ20ppm及び40ppmになるように、原油1及び2にそれぞれ添加して調製した。チオリン酸エステル化合物および分散剤単独の場合は、濃度がそれぞれ60ppmになるように原油1及び2にそれぞれ添加して調製した。原油1及び2のAPI、分類及びH/C原子比を以下に示す。APIは、米国石油協会(America Protroleum Institute)が定める原油の比重単位であり、水と同じ比重を10として、26°未満を超重質、26~29.99°を重質、30~33.99°を中質、34~399.99°を形質、39度以上を超軽質と分類される。
<条件>
加熱管21の温度:330~340℃(20分かけて昇温)
タンク、ライン、ポンプの温度:100℃
サンプル量:200ml(タンク内は仕切られておらず、サンプルは循環する)
サンプル導入流速:1ml/分
系内圧力:500~600psi(窒素で圧力調整)
試験時間:5時間
Figure 2022148818000007
汚れ防止効果は、サンプルの出口温度変化(Δt)に基づき、下記の評価基準で評価した。その結果を下記表2に示す。
〔サンプルの出口温度変化:Δt〕
流出管23b(加熱部出口)における試験開始後最高温度のサンプル温度と、5時間経過後のサンプル温度の温度変化(Δt)を測定した。加熱管21に汚れが付着するほど、Δtが大きくなる。
評価基準 A:Δtが5以下
B:Δtが5を超え8未満
C:Δtが8以上10未満
D:Δtが10以上
Figure 2022148818000008
表2に示すように、チオリン酸エステル配合品A~Dを使用した実施例1~4では、十分な汚れ防止効果が得られることが確認できた。
本試験条件においては、評価基準B以上の場合、十分な汚れ防止効果が得られるとし、実施例1~4では、原油1及び2において、十分な汚れ防止効果が得られることが確認できた。
上記表に示すように、汚れのH/C原子比が1.3を超える場合、分散剤としてコハク酸イミドを使用することにより、コハク酸エステルを使用した場合と比較して、よりよい汚れの付着抑制効果が得られた。また、汚れのH/C原子比が1.3以下の場合、分散剤としてコハク酸エステルを使用することにより、コハク酸イミドとを使用した場合と比較して、よりよい汚れの付着抑制効果が得られた。

Claims (4)

  1. 石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法であって、
    前記熱交換器を通過するプロセス流体に、チオリン酸エステル化合物と分散剤とを添加することを含む、汚れ防止方法。
  2. 熱交換器に供給されるプロセス流体における前記チオリン酸エステル化合物の濃度が1ppm~100ppmとなるように、前記チオリン酸エステル化合物を前記プロセス流体に添加することを含む、請求項1記載の汚れ防止方法。
  3. 熱交換器に供給されるプロセス流体における前記チオリン酸エステル化合物の濃度に対する分散剤の濃度の比(分散剤の濃度(ppm)/チオリン酸エステル化合物の濃度(ppm))が、0.2~5となるように前記分散剤を前記プロセス流体に添加することを含む、請求項1又は2に記載の汚れ防止方法。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の汚れ防止方法に使用するための汚れ防止剤であって、
    チオリン酸エステル化合物及び分散剤を含有する、汚れ防止剤。
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