JP2022144471A - スクリーン紗用ポリエステルモノフィラメント - Google Patents

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【課題】 メッシュ織物に製織する際の耐摩耗性に優れ、染色工程を要せずスクリーンに印刷パターンを形成する際のハレーション防止効果に優れたスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを提供する。【解決手段】 ポリエステルからなるモノフィラメントであり、下記要件を満足するスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメント。(a)300~500nmにピークを有する波長の光に対する反射率が10.0%以下(b)繊維横断面全体に有機化合物系顔料を含有している(c)繊度が3.0~15.0dtex(d)破断強度が6.0~9.0cN/dtex【選択図】 なし

Description

本発明はスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントに関する。詳しくは、メッシュ織物を染色せずに、スクリーン紗に印刷パターンを形成する際のハレーション防止効果に優れたスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントに関する。
スクリーン印刷用織物として、従来はシルクなどの天然繊維やステンレスなどの無機繊維からなるメッシュ織物がスクリーン紗として広く使用されてきた。近年は、柔軟性や耐久性、コストパフォーマンスに優れる合繊メッシュが好んで使用され、中でもポリエステルモノフィラメントは寸法安定性に優れるなどスクリーン用途適性が高く、広く普及している。また、電子部品の電極・配線印刷などの高精細スクリーン印刷用途において、積層セラミックスコンデンサ、太陽電池など世界的なクリーンエネルギーへの需要の高まりを背景に、高精細印刷要求の高度化が著しく、スクリーン紗用モノフィラメントの高度化が求められている。
スクリーン紗を用いた製版工程は、モノフィラメントを用いたスクリーン紗を版枠に紗張り固定し、精錬してモノフィラメントに付着している油剤等の不要物を除去後、紫外線硬化性樹脂を塗布・乾燥した後に、印刷したい図柄を黒色で描いたポジフィルムをスクリーン紗に密着させた状態で、波長300~500nmの紫外線を露光して行われる。
この際、ポジフィルムの図柄部分に重複した紫外線硬化性樹脂は固化せず、他部分は紫外線硬化性樹脂が紫外線に露光して光化学反応により固化するため、露光後の版を水洗することで、ポジフィルムの図柄部分の紫外線硬化性樹脂が洗い流され、印刷ネガとなる。スクリーン印刷において、より精密・精細な印刷を行うためには、いかにポジフィルムの図柄通りに紫外線硬化性樹脂を固化させるかが重要な課題となる。
ここで、スクリーン紗の紫外線反射率が高いと、スクリーン紗表面で紫外線が乱反射し露光不要な図柄部分まで感光させてしまう、いわゆるハレーションが発生するため、印刷精度が著しく低下する。紫外線の乱反射を防ぐ方法として、一般にモノフィラメントでスクリーン紗を製織した後に、染色を施す方法が採用されている。この染色工程では環境の負荷の高い排液が排出されることが深刻な課題となっている。この染色工程を廃止すべく、製糸工程段階で顔料を付与したスクリーン紗用モノフィラメントに関する検討が種々行われている。
例えば、特許文献1には、ポリエステルモノフィラメントを芯鞘複合構造とし、鞘成分のみに有機化合物系顔料を含有させる発明が開示されている。また、特許文献2には、有機化合物系顔料および無機粒子を繊維中に均一に分散させて、紫外線吸収性だけでなく、光の遮蔽性、耐摩耗性をポリエステルフィラメントに付与する発明が開示されている。
また、高精細印刷要求の高度化が著しく、スクリーン紗用モノフィラメントの高度化として、製織する際の耐摩耗性に優れた高強度のスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントの提案がされている。例えば特許文献3では、細繊度ポリエステルモノフィラメントにおいて最終延伸ローラーにて高温熱処理を行うことで結晶化度を向上させタフネスを最大限引き出す技術が開示されている。特許文献4では、脂肪酸アルキルエステルの重量平均分子量範囲を既定値以上とすることで、高温熱処理を行った後でもポリエステルモノフィラメントの表面に該成分を残存させ耐摩耗性を改良する技術が開示されている。
特開2007-92233号公報 特開2009-221620号公報 特開2010-77563号公報 特開2008-121125号公報
特許文献1記載では、十分なハレーション防止効果を得るために鞘成分に非常に高濃度の顔料を含有させる必要がある。顔料はポリエステルの分子鎖にとっては異物であるため、ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性・タフネスが低下する課題があった。所望の強度を得るには延伸倍率を上げる必要があるため、繊維表面が削れやすくなり、製織時の筬のみならず、製糸工程における糸道にも多量のスカムが発生し良好な品質を得られずにいた。特許文献2記載では、有機顔料だけでなく無機粒子を繊維中に均一に分散させて耐摩耗性を向上させているが、近年要求されるより精密・精細なスクリーン印刷を実現するべく、繊維を細繊度・高強度化すると、製糸工程におけるガイドとの擦過により、繊維表面にフィブリルを発生させ、著しく工程通過性を低下させることがわかった。
特許文献3記載では、使用する油剤に含まれる脂肪酸アルキルエステルの重量平均分子量範囲を既定する思想がなく、高温熱処理を行ったときに、脂肪酸アルキルエステルが揮発・分解してしまう。その結果、ポリエステルモノフィラメントの表面に残存する該成分の量が減少し、十分な平滑性を維持することができないため、繊維表面が削り取られ易くなって耐摩耗性が低下していた。一方、特許文献4記載では、油剤成分の分子量の増大により、該成分そのものの粘性抵抗による摩擦が高くなる問題が依然として残されていた。
そこで本発明では、上記課題を克服し、耐摩耗性に優れ、高精細スクリーン印刷に好適な強度を有し、ハレーションを防止するための染色工程を不要とするスクリーン紗用細繊度ポリエステルモノフィラメントを提供することを課題とする。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
(1)要件(a)~(d)を満足するスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメント。
(a)300~500nmにピークを有する波長の光に対する反射率が10.0%以下
(b)繊維横断面全体に有機化合物系顔料を含有している。
(c)繊度が3.0~15.0dtex
(d)破断強度が6.0~9.0cN/dtex
(2)糸―梨地間動摩擦係数Fが0.180μd以下である上記(1)記載のスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメント。
本発明によれば、高精細スクリーン印刷に好適な強度を有し、ハレーションを防止するための染色工程を不要とする細繊度ポリエステルモノフィラメントを提供できる。
本発明において、モノフィラメントを構成するポリエステルは、溶融紡糸可能な繊維形成性ポリエステルであればよく、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル、およびそれらを主とする共重合ポリエステルが挙げられる。中でも、寸法安定性・製造コストの観点から、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する)を主体とするポリエステルが好ましい。
PETとしては、テレフタル酸を主たる酸成分、エチレングリコールを主たるグリコール成分とする、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエステルを用いることが好ましい。共重合成分は繊維の配向を阻害するため、高精細スクリーン印刷用途として満足な原糸強度が得られない場合があるため、共重合成分を含まないことが好ましい。
また、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、さらには難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤等を必要に応じてポリエステルに添加することができる。
艶消剤として添加される酸化チタンに代表される無機粒子の添加物の含有量は0.05~2.0重量%が好ましく、十分な遮蔽性・耐摩耗性が得られる。より好ましくは0.2~1.0重量%である。
本発明において、ポリエステルモノフィラメントの断面形状は、スクリーン紗の目開きの均一性の観点から丸断面が好ましい。また、ポリエステルモノフィラメントの横断面において、芯成分が鞘成分に覆われ、芯成分が表面に露出していないように配置された芯鞘複合型の繊維構造とするのが好ましい。ここで芯鞘複合型とは芯成分が鞘成分により完全に覆われており、同心円状に配置されているのが好ましい。芯成分、鞘成分ともにポリエステルとするため、ポリエステル/ナイロン複合糸等に度々発生するような複合界面での剥離という現象は起きにくい。また鞘成分によるスカム抑制効果と芯成分による高強度化を両立するという点で、芯成分:鞘成分の複合比は60:40~95:5とすることが好ましく、より好ましい複合比は70:30~90:10である。ここで、複合比とは、ポリエステルモノフィラメントの横断面写真においてポリエステルモノフィラメントを構成する2種のポリエステルの横断面積比率である。
本発明において、ポリエステルモノフィラメントは300~500nmにピークを有する波長の光に対する反射率が10.0%以下であり、好ましくは8.0%以下である。印刷パターンを形成するのに、紫外線硬化性樹脂で印刷パターンを高精細に再現させる。この製版工程にて感光性樹脂を紫外線で硬化させる際に、写真製版法(JIS Z8722:2009)の300~800nmの波長を照射させることが多く、ハレーション防止のためにこの範囲の波長の反射を抑制することが重要である。この波長域の反射率が10.0%以下であると、光の反射を抑制してハレーションを生じず鮮明な印刷模様を得ることができる。反射率が10.0%を超えると高精細スクリーン紗用途において十分なハレーション防止効果が得られない。
本発明において、ポリエステルモノフィラメントは、印刷パターンを形成する際にハレーションを抑制し、紫外線硬化性樹脂で印刷パターンを高精細に再現させる目的で、有機化合物系顔料を繊維横断面全体に含有させる。有機化合物系顔料を局所的に含有させると、ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性・タフネスが著しく低下し易い。ポリエステルモノフィラメントへの有機化合物系顔料の含有濃度は0.05~1.0重量%が好ましい。0.05重量%以上で十分なハレーション防止効果が得られ、1.0重量%以下で精密・精細なスクリーン印刷を実現するうえで十分な耐摩耗性・タフネスのポリエステルモノフィラメントが得られる。より好ましくは0.4~0.8重量%である。
有機化合物系顔料としては、溶融ポリエステルによく分散し、溶融紡糸段階で着色することができる従来公知の有機化合物系顔料を使用することができ、紫外線硬化樹脂との相性によって適宜選択すればよい。一般的には、スクリーン紗は赤色や黄色の暖色系とすれば可視光の高波長側から紫外線の吸収性が良いため広く用いられており、本発明の有機化合物系顔料としても同様の色味を呈するものであれば好ましい。そのような条件を満足する有機化合物系顔料の代表としてアゾ顔料やアンスラキノン系、イソインドリン系の縮合多環顔料などを挙げることができる。
本発明において、ポリエステルモノフィラメントの繊度は3.0~15.0dtexである。精密印刷に適した#400(2.54cm当たり400本)以上のハイメッシュスクリーン紗の場合、1本あたりのメッシュ格子間隔は非常に小さいものとなるため、繊度15dtexより太いポリエステルモノフィラメントを使用した場合、1格子当たりのオープニング(目開き)が非常に小さくなる。これより筬とポリエステルモノフィラメントの擦過によってスカムが発生し易くなり、結果として#400以上のスクリーン紗が得られないことがある。したがって本発明のポリステルモノフィラメントの繊度の上限としては15.0dtexであり、#450以上のスクリーン紗では8.0dtex以下、#500以上のスクリーン紗では6.0dtex以下であることが好ましい。また、繊度の下限としては、製織性、特にスルーザー織機における緯糸の飛送性の点で3.0dtex以上であり、より好ましくは4.0dtex以上である。上記のような繊度を達成するためには、ポリエステルモノフィラメントの製造において、吐出量および紡糸口金を適宜変更すればよい。
スクリーン印刷では、一般的に印刷パターンの精度を向上させるために、紗張りテンションを高くし、スクリーン紗と被印刷物の距離を小さくする方法が採られている。紗張りの際、テンションを高くするためにはポリエステルモノフィラメント1本あたりの強力を向上させる。また、印刷業界の要求は厳しく、細繊度でハイメッシュ、すなわち、織密度の高いスクリーン紗を要求している製織過程で糸にかかる張力は必ずしもその繊度に比例するわけではなく、ポリエステルモノフィラメント1本当たりの強力が高いことが重要であり、細くなればなるほど、より破断強度の高いものとすることが求められる。
本発明において、ポリエステルモノフィラメントは高精度印刷に適した高強力モノフィラメントであり、製織性の低下や紗伸びなどの発生を抑え、高い寸法安定性を得る点から、破断強度を6.0cN/dtex以上とする。また、前記したように紗張りのテンションをより高くし、より精密な印刷を可能にするには破断強度を7.0cN/dtex以上とすることが好ましい。一方、耐摩耗性の点で配向や結晶化度を抑える必要があるため、破断強度は9.0cN/dtex以下とし、8.8cN/dtex以下であることが好ましい。
本発明において、ポリエステルモノフィラメントの10%伸長時の強度は5.0~8.8cN/dtexであることが好ましい。10%伸長時の強度が5.0cN/dtex以上であれば、製織時の伸度低下や印刷時の紗伸びが発生し難く、高い寸法安定性が得られ、8.8cN/dtex以下であれば繊維の結晶配向のフィブリル化が起こりにくいため耐摩耗性が向上し易い。
スクリーン紗製造の工程において、ハイメッシュの要求に応えるため高密度に経糸を形成し、製織する際に糸と筬との間により過酷な繰り返し摩擦を受けても繊維表面が削り取られることを抑制することが求められる。本発明において、ポリエステルモノフィラメントは糸-梨地間動摩擦係数F≦0.180μdであることが好ましく、製織時での糸とガイドや筬との擦過が低減される。より好ましくはF≦0.160である。
次に本発明のスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントの好ましい製造方法について記載する。
本発明のスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを溶融紡糸する方法としては従来公知の溶融紡糸方法を採用すれば良く、溶融押出機にてポリエステルを溶融させた後、計量・濾過して紡糸ノズルから糸条を紡出させる。芯鞘複合型の繊維構造とする場合には芯成分・鞘成分のポリエステルをそれぞれ別々の溶融押出機にて溶融させ、計量・濾過をした後に、紡糸ノズルから芯鞘型に貼り合わせて糸条を紡出させる。その後、冷却・給油し、一旦巻き取ることなく引き続き延伸を行う直接紡糸延伸法によって、本発明のスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを製造することができる。
紡糸工程で一旦未延伸糸として巻き取り、改めて延伸工程に供することもできるが、製造工程において糸条が通過するガイドを減らして糸の削れを抑制する点から、紡糸工程と直結して延伸を行う直接紡糸延伸法が好ましい。
延伸工程は、3対以上のローラーによる多段延伸が好ましい。多段延伸の最終延伸ローラー以前の延伸ローラー温度は、好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下として延伸途中での結晶化を抑制する。最終延伸ローラー温度は好ましくは130℃以上、より好ましくは180℃以上として得られるポリエステルモノフィラメントの結晶化度を向上させる。
巻取り工程では、パーン状あるいはチーズ状に巻き取り、本発明のスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを得ることができる。
本発明において、ポリエステル成分の固有粘度IVは0.70~1.50が好ましい。IVを0.70以上とすることにより、十分な強度と伸度を兼ね備えたポリエステルモノフィラメントを製造することが可能となる。より好ましいIVは0.90以上である。また、IVの上限は溶融押出し等の成形の容易さの点から1.50以下が好ましく、さらに製造コストや工程途中の熱やせん断力によって起きる分子鎖切断による分子量低下の影響を考慮すると、より好ましくは1.30以下である。
芯鞘複合型の繊維構造とする場合、良好な耐摩耗性と十分な強度を得るという観点から、鞘成分のポリエステル成分の固有粘度IVを芯成分のポリエステル成分のIVより低くし、その差を0.20~1.00にすることが好ましい。IVの差を0.20以上とすることで鞘成分のポリエステル成分、すなわちポリエステルモノフィラメント表面のポリエステル分子鎖の配向度および結晶化度を抑えることができ、良好な耐摩耗性を得ることができる。また、溶融紡糸の口金吐出孔内壁面におけるせん断応力を鞘成分が担うため、芯成分が受けるせん断力は小さくなる。これにより芯成分は分子鎖配向度が低く、かつ均一な状態で紡出されるため、最終的に得られるポリエステルモノフィラメントの強度が向上する。一方、ポリエステルモノフィラメントが高強度を有するためには鞘成分の配向も適度に必要となるため、IVの差が1.00以下とすることで原糸強度を得る。さらに好ましいポリエステル成分のIV差は0.30~0.70である。芯成分の高粘度ポリエステルの固有粘度は0.80~1.80が好ましい。より好ましくは固有粘度を0.90以上とすることにより、高い強度を兼ね備えた芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントが得られる。また、製造コストや工程途中の熱や剪断力によって起きる分子鎖切断による分子量低下の影響を考慮すると、より好ましくは1.50以下である。鞘成分の低粘度ポリエステルの固有粘度は0.40~0.70が好ましい。0.40以上にすることにより安定した製糸性が得られる。より好ましくは0.45以上である。また0.70以下であると、より耐摩耗性に優れる。
有機化合物系顔料を添加させる方法としては、ポリエステルに所定の有機化合物系顔料と無機粒子を添加させたペレットを溶融紡糸する方法、所定の含有量の2~20倍程度の高濃度マスターペレットと通常のポリエステルとを溶融混練・希釈させつつ紡糸を行う方法などが挙げられる。後者の場合は、ペレット状態でマスターペレットと通常のポリエステルペレットを混合して溶融押出機で混練しても良く、それぞれ別々の溶融押出機で溶融させた後、溶融ポリマーの輸送配管や紡糸パック内で混練させても良く、いずれの場合も有機化合物系顔料や無機粒子の分散均一性を確保するために静的混練子を使用することが好ましい。
芯鞘複合型の繊維構造とする場合は、芯成分・鞘成分の両方に有機化合物系顔料を含有させる。芯成分への有機化合物系顔料の含有濃度は0.05~0.8重量%が好ましい。0.05重量%以上であれば十分なハレーション防止効果が得られ、0.8重量%以下であれば十分な破断強度を得ることができる。鞘成分への有機化合物系顔料の含有濃度は0.1~1.0重量%が好ましい。0.1重量%以上であれば十分なハレーション防止効果を得られ、1.0重量%以下であれば耐摩耗性の低下を抑制することができる。
製造工程で給油する油剤は、重量平均分子量が450~650の脂肪酸アルキルエステルの割合が油剤全成分あたり50~60重量%であることが好ましい。また本発明で使用する変性シリコーンの含有率としては、油剤全成分あたり6~8重量%とすることが好ましい。
主として、第1の油剤成分として脂肪酸アルキルエステルと、第2の油剤成分として変性シリコーンからなる。第1の油剤成分である脂肪酸アルキルエステルおよび第2の油剤成分である変性シリコーンは、いずれも糸表面の平滑性を向上させ、製織工程での糸解舒時、糸道ガイド通過時、経糸間通過時などの張力変動や糸切れを抑制し、工程通過性を安定化させるために用いられる。
本発明に用いられる脂肪酸アルキルエステルとしては、脂肪酸モノアルキルエステル、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステル、脂肪族多価アルコールの多脂肪酸エステル等の化合物をいい、好ましい脂肪族アルキルエステルとしては、例えば、イソトリデシルステアレート、イソトリデシルラウレート、イソトリデシルオレート等が挙げられる。
また本発明に用いられる変性シリコーンとしては、アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸変性シリコーン、フルオロ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルコール変性シリコーンなどが挙げられる。
脂肪酸アルキルエステルは、分子中に極性基が少なく、同じく疎水性の複合ポリエステルモノフィラメント表面との親和性が高い。脂肪酸アルキルエステルの重量平均分子量を増加させることにより、ポリエステルモノフィラメントとの親和性を向上させることが可能である。変性シリコーンは、平滑性に優れ、摩擦低減の観点から油膜外側に配置されることが好ましいが、該成分は一般的に、油剤中に偏在することなく分散している。
かかる範囲とすることで、最終延伸ローラーによる熱処理工程通過後であっても、ポリエステルモノフィラメントに残存する油剤成分として、重量平均分子量450~650重量%の脂肪酸アルキルエステルを油剤全成分あたり30~60重量%残存させることができる。また変性シリコーンとしても、残存する油剤全成分あたり6~8重量%となる。その結果、該成分同士の相乗効果によって変性シリコーンを油膜外側に配置させることができ、摩擦係数が低減する。
一般的に、熱処理工程を通過した際、平滑成分の重量平均分子量が低いほど、糸表面へ平滑成分が残存しにくくなる傾向がある。脂肪酸アルキルエステルの重量平均分子量を450以上とすることで、最終延伸ローラーにおける熱処理によって揮発もしくは分解が生じても、ポリエステルモノフィラメントに付着する脂肪酸アルキルエステルの割合を30重量%以上とすることができる。その結果、相乗効果によって変性シリコーン成分が表面へ移動し、平滑性を向上させるため、摩擦係数が低下し、製織時の粉末状のスカム発生量を低減することができる。
一方で、平滑成分の重量平均分子量が高いほど膜形成能が向上して糸表面に平滑成分が残存しやすくなるが、平滑成分そのものの粘性抵抗による摩擦が生じるため、平滑成分の重量平均分子量が高いほど粘性抵抗による平滑性の低下が生じる傾向がある。そのため、脂肪酸アルキルエステルの重量平均分子量を650以下とすることで、摩擦係数の増加を抑制し、製織時の粉末状のスカム発生量を低減することができる。
なお変性シリコーンの含有率としては、残存する油剤全成分あたり6~8重量%とするものである。含有率を6重量%以上とすることで、十分に平滑性を付与することができ、摩擦係数が低減されるため、特に製織時の粉末状のスカム発生量を低減することができる。また、製織時に筬等と擦過した際に変性シリコーンが脱落することで生じるスカムを抑制するために、変性シリコーン含有率を8重量%以下とすることが好ましい。また、処理剤のコストアップの観点からも変性シリコーン含有率は8重量%以下とすることが好ましい。
実施例と比較例の評価は、次の方法により測定した。
(1)繊度
ポリエステルモノフィラメントを500mかせ取り、かせの質量(g)に20を乗じた値を繊度とした。
(2)破断強度(cN/dtex)、10%伸長時強度(cN/dtex)
JIS L1013(2010)に従い、オリエンテック製テンシロンUCT-100を用いて破断強度、10%伸長時強度を測定した。
(3)糸-梨地間動摩擦係数F
摩擦試験機(英光産業製)にて、糸-梨地間動摩擦係数Fを測定した。回転ロール上(表面速度55m/分)の、ポリエステルモノフィラメントの接触角を180度として、回転ロール入側張力T1と回転ロール入側張力T2を30秒間測定し、下式より算出した。
糸-梨地間動摩擦係数F=(1/π)×Ln(T2/T1)。
(4)繊維表面への付着油剤
ポリエステルモノフィラメントをソックスレー抽出装置に入れ、次にシクロヘキサンを加えて、約4時間加熱還流した後、シクロヘキサンを回収して糸表面の油剤成分を抽出した。得られた抽出液を公知の1H-NMR法にて測定を行い、スペクトルデータより油剤成分の構造を特定した。また、抽出液中の油剤成分の重量平均分子量は東ソー(株)製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8220GPCを用い、試料濃度3mg/ccで、昭和電工(株)製分離カラムKF-402HQ、KF-403HQに注入し、示差屈折率検出器で測定されたピークより算出した。
(5)固有粘度IV
定義式のηrは、25℃の温度の純度98%以上のo-クロロフェノール(以下、OCPと略記する。)10mL中に試料を0.8g溶かし、25℃の温度にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、固有粘度を算出した。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
固有粘度=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度、η0:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t0:OCPの落下時間(秒)、d0:OCPの密度(g/cm)。
(6)耐摩耗性
1本のポリエステルモノフィラメントについて、オリエンテックス社製テンシロン引張試験機を用い、ポリエステルモノフィラメントの繊維長手方向20mにおいて初期試料長20cm、引張速度20cm/分で引張試験を100回行った際の破断強度の平均値、最小値を求め、問題の有無を以下の通り評価し、SおよびAを合格とした。
S…平均値-最小値が0.2cN/dtex未満。
A…平均値-最小値が0.5cN/dtex未満。
B…平均値-最小値が0.5cN/dtex以上。
(7)製織性
モノフィラメントから経・緯織密度350メッシュ(350本/2.54cm)のスクリーン紗を得る際の工程の問題有無を以下の通り評価し、SおよびAを合格とした。
S…毛羽状の削れカス発生がほとんどなく、問題なし。
A…毛羽状の削れカス発生あるものの、品質上に問題なし。
B…毛羽状の削れカス発生が著しい。
(8)反射率
ポリエステルモノフィラメント10000mを縦6cm、横6cmのプレートに隙間なく巻き付け、写真製版法(JIS Z8722:2009)に準じて、日本分光株式会社 JASCO Corporation製V750分光光度計を用いて反射率を測定し、300~500nm間で20nmごとに測定した計測値の平均を反射率とした。
(9)ハレーション
モノフィラメントから得られた経・緯密度350メッシュ(350本/2.54cm)のスクリーン紗に微細パターンを焼き付けて電子顕微鏡で観察して評価、SおよびAを合格とした。
S…ハレーション防止効果大。微細パターンの滲みがほとんどなく、問題なし。
A…ハレーション防止効果有り。微細パターンの滲みがあるが、品質上に問題なし。
B…ハレーション発生。微細パターンの滲みが著しい。
(10)印刷精度
(7)で得られたスクリーン紗を30cm×30cmの版枠に紗張りした。得られたメッシュ織物に感光性乳剤にて50μm間隔で50μmのラインパターンを形成、印刷後の状態を観察し、以下の指標で判定した。
S…ライン再現良好
A…ラインの境界に凹凸が見られるが問題なし
B…ラインの境界の凹凸が激しく、部分的に断線している。
(実施例1)
常法により重合・ペレット化したIV0.96、酸化チタン1.6重量%のポリエチレンテレフタレートを冷凍粉砕し、アンスラキノンイエロー(CAS No.4118-16-5:1,1‘-[(6-phenyl-1,3,5-triazine-2,4-diyl)diimino]bisanthraquinone)10重量%を混合し、2軸エクストルーダー型混練押出機に供給し、マスターペレットを得た。配合装置を用いて、得られたマスターペレットとIV0.96、酸化チタン1.6重量%のポリエチレンテレフタレートペレットを1:24の比率で配合し、芯成分ポリエステルとした。
常法により重合・ペレット化したIV0.48、酸化チタン0.4重量%のポリエチレンテレフタレートを冷凍粉砕し、アンスラキノンイエロー(CAS No.4118-16-5:1,1‘-[(6-phenyl-1,3,5-triazine-2,4-diyl)diimino]bisanthraquinone)10重量%を混合し、2軸エクストルーダー型混練押出機に供給し、マスターペレットを得た。配合装置を用いて、得られたマスターペレットとIV0.48、酸化チタン0.4重量%のポリエチレンテレフタレートペレットを1:24の比率で配合し、鞘成分ポリエステルとした。
前記の芯成分・鞘成分ポリエステルを、エクストルーダーを用いてそれぞれ298℃の温度で溶融後、ポリマー温度275~285℃で、芯鞘比率が芯成分:鞘成分=80:20となるようにポンプ計量を行い、溶融紡糸用パックに流入させた。芯鞘型となるよう公知の複合口金に流入させ、糸条を紡出させた。口金から吐出されたポリエステルモノフィラメントは、紡糸口金直下の雰囲気温度が300℃となるよう、積極的に加熱保温し、その後、糸条冷却送風装置により冷却し、紡糸油剤を付与しつつ、680m/分の速度で非加熱の第1ゴデットロールに引き取った。この時使用した油剤は、重量平均分子量が470の脂肪酸アルキルエステル化合物の割合を油剤全成分あたり56重量%、変性シリコーンの含有率を油剤全成分あたり7重量%とした。一旦巻き取ることなく687m/分の速度で90℃の温度に加熱された第1ホットロール、2447m/分の速度で90℃の温度に加熱された第2ホットロール、3449m/分の速度で190℃の温度に加熱された第3ホットロールに引き回し、延伸、熱セットを行った。また、延伸倍率は5.14倍であった。さらに、3449m/分の速度で2個の表面粗度0.8S、非加熱のゴデットロールに引き回した後、巻取張力が0.417g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御してパッケージに巻き取り、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性は表1の通りであり、スクリ-ン紗用途として優れた耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
(実施例2,3)
吐出量を変更した以外は実施例1と同様にして、繊度3.1dtex、13.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性を表1に示す。いずれも十分な耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
(実施例4,5)
延伸条件を調整して、延伸倍率を変更した以外は、実施例1と同様に製糸して巻き取った。このポリエステルモノフィラメントの特性は表1の通りであり、スクリ-ン紗用途として十分な耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
(実施例6)
芯成分ポリエチレンテレフタレートペレットのIVを1.50とし、延伸倍率を6.00倍に変更した以外は実施例1と同様に製糸して巻き取った。このポリエステルモノフィラメントの特性は表1の通りであり、スクリ-ン紗用途として十分な耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
(実施例7)
芯成分ポリエステルに含まれるマスターペレットとポリエチレンテレフタレートペレットを1:48の比率で、鞘成分ポリエステルに含まれるマスターペレットとポリエチレンテレフタレートペレットを2:23の比率で配合した以外は実施例1と同様に製糸して巻き取った。このポリエステルモノフィラメントの特性は表1の通りであり、スクリ-ン紗用途として十分な耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
(実施例8)
芯成分ポリエステルに含まれるマスターペレットとポリエチレンテレフタレートペレットを2:23の比率で、鞘成分ポリエステルに含まれるマスターペレットとポリエチレンテレフタレートペレットを1:48の比率で配合した以外実施例1と同様に製糸して巻き取った。このポリエステルモノフィラメントの特性は表1の通りであり、スクリ-ン紗用途として十分な耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
(実施例9)
常法により重合・ペレット化したIV0.96、酸化チタン1.6重量%のポリエチレンテレフタレートを冷凍粉砕し、アンスラキノンイエロー(CAS No.4118-16-5:1,1‘-[(6-phenyl-1,3,5-triazine-2,4-diyl)diimino]bisanthraquinone)1.0重量%を混合し、2軸エクストルーダー型混練押出機に供給し、マスターペレットを得た。配合装置を用いて、得られたマスターペレットとIV0.96、酸化チタン1.6重量%のポリエチレンテレフタレートペレットを1:24の比率で配合した。得られたポリエチレンテレフタレートを、エクストルーダーを用いて298℃の温度で溶融後、ポリマー温度275~285℃で、ポンプ計量を行い、溶融紡糸用パックに流入させ、糸条を紡出させた以外は実施例1と同様に製糸して、繊度6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを巻き取った。この原糸特性は表1の通りでありスクリ-ン紗用途として十分な耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
(実施例10,11,12,13)
紡糸油剤を表1のとおり変更したこと以外、実施例1と同様に製糸して、巻き取った。原糸特性は表1の通りでありスクリ-ン紗用途として十分な耐摩耗性、ハレーション抑制効果を得た。
Figure 2022144471000001
(比較例1)
芯成分ポリエステルに含まれるマスターペレットとポリエチレンテレフタレートペレットを2:23の比率で配合し、鞘成分ポリエステルはマスターペレットを配合せず、IVが0.48のポリエチレンテレフタレートペレットを鞘成分ポリエステルとしたこと以外は実施例1と同様に製糸して巻き取った。300~500nmにピークを有する波長の光に対する反射率は高く、ハレーションが発生した。
(比較例2)
芯成分ポリエステルはマスターペレットを配合せず、IVが0.96のポリエチレンテレフタレートペレットを芯成分ポリエステルとし、鞘成分ポリエステルに含まれるマスターペレットとポリエチレンテレフタレートペレットを1:9の比率で配合し、鞘成分ポリエステルに含有させる有機化合物系顔料の濃度を変更させた以外は、実施例1と同様に製糸して巻き取った。評価結果は表2の通りである。
(比較例3)
延伸条件を調整して、延伸倍率を7.14倍と変更した以外は、実施例1と同様に製糸して巻き取った。評価結果は表2の通り、原糸の耐摩耗性・製織性に問題が生じた。
(比較例4)
延伸条件を調整して、延伸倍率を4.14倍と変更し、第3ホットロールでの熱セット温度を130℃とした以外は、実施例1と同様に製糸して巻き取った。評価結果は表2の通り、原糸強度が5.6cN/dtexであり、寸法安定性に欠け印刷制度に問題が生じた。
(比較例5)
常法により重合・ペレット化したIV1.22、酸化チタン1.6重量%のポリエチレンテレフタレートを冷凍粉砕し、アンスラキノンイエロー(CAS No.4118-16-5:1,1‘-[(6-phenyl-1,3,5-triazine-2,4-diyl)diimino]bisanthraquinone)1.0重量%を混合し、2軸エクストルーダー型混練押出機に供給し、マスターペレットを得た。配合装置を用いて、得られたマスターペレットとIV1.22、酸化チタン1.6重量%のポリエチレンテレフタレートペレットを1:24の比率で配合した。得られたポリエチレンテレフタレートを、エクストルーダーを用いて298℃の温度で溶融後、ポリマー温度275~285℃で、ポンプ計量を行い、溶融紡糸用パックに流入させ、糸条を紡出させた。紡出後は、延伸条件を調整して、延伸倍率を4.00倍とし、第3ホットロールでの熱セット温度を150℃とした以外は、実施例1と同様に製糸して、繊度18.0dtexのポリエステルモノフィラメントを巻き取った。評価結果は表2の通りである。
Figure 2022144471000002

Claims (2)

  1. 要件(a)~(d)を満足するスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメント。
    (a)300~500nmにピークを有する波長の光に対する反射率が10.0%以下。
    (b)繊維横断面全体に有機化合物系顔料を含有している。
    (c)繊度が3.0~15.0dtex。
    (d)破断強度が6.0~9.0cN/dtex。
  2. 糸―梨地間動摩擦係数Fが0.180μd以下である請求項1記載のスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメント。
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