JP2022130128A - ヒドロキシチロソールの製造 - Google Patents
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Abstract
Description
バイオ技術を用いた合成方法には、バイオコンバージョンと発酵法の2つがある。バイオコンバージョンでは比較的高い収量でヒドロキシチロソールを得ることが可能である(~6g/L、非特許文献1、非特許文献2)。しかし、バイオコンバージョンでの基質となるチロシン、チロソール、DOPAは非常に高価であり(数千円~数万円/kg)、それがヒドロキシチロソールの製造価格が高騰する原因となっている。またチロソールは化石資源由来であり、それらの使用は近年の持続可能な開発目標(SDGs)を推進する枠組みから逸脱するため、社会的にも好ましくない。
一方、発酵法での原料となる糖質は安価だが(数百円/kg)、発酵法によるヒドロキシチロソールの生産量が低いために(~0.65g/L、非特許文献3)、ヒドロキシチロソールを安価に製造することが不可能であった。
また、シキミ酸経路を拡張した組み換え大腸菌を利用して、グルコース等の糖から、チロソール(4-ヒドロキシフェニルエタノール、4HPE)や2PE等の芳香族化合物を効率よく生産する方法が報告された(非特許文献4)。
この非特許文献4には、pheA遺伝子を欠失させたフェニルアラニン要求性の組み換え大腸菌(ΔpheA)は、副産物が抑制され、チロソール(4HPE)の収率が倍増することが開示されている(同文献のTABLE 5、及び6211頁右欄第一パラグラフ等)。
大腸菌で糖質原料からヒドロキシチロソール(HTY)、チロソール(4HPE)、2-フェニルエタノール(2PE)等を合成するためには、少なくとも、菌体内で生成する4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(4HPP)又はフェニルピルビン酸(PP)を、それぞれ、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4HPAAL)又はフェニルアセトアルデヒド(PAAL)に変換する経路が必要である。その経路のために、外来生物種から得られるフェニルピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子(pdc遺伝子)が導入される(拡張シキミ酸経路)。
また、ヒドロキシチロソール(HTY)の上流の化合物であるチロソール(4HPE)の収率を向上させるには、菌株のフェニルアラニン合成経路を欠失させることが好ましい(ΔpheA)(非特許文献4のTABLE 5、及び6211頁右欄第一パラグラフ等)。
図2のような、pdc遺伝子が導入され、かつ、フェニルアラニン要求性(ΔpheA)であるヒドロキシチロソール産生組み換え大腸菌株は、試験管等による小スケールではフェニルアラニンを加えた培地で概ね問題なく生育し、ヒドロキシチロソールを産生できた。しかしながら、本発明者らは、同株が、ジャーファーメンターにおける大スケール培養では、フェニルアラニンを加えても菌そのものの生育が悪くヒドロキシチロソールの工業的な生産には利用できない、という新たな課題を見出した。
本開示は、この新たな課題が、tyrB遺伝子を破壊する改変を加えた株により解決される、という知見に基づく。
この株を用いれば、糖質原料からのヒドロキシチロソール製造における効率の向上が、ジャーファーメンター等の大量培養システムで可能になる、という格別顕著な効果を奏し得る。
ただし、本開示は、このメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
本開示に係る形質転換体は、エシェリキア属の菌の形質転換体である。
エシェリキア属の菌としては、一又は複数の実施形態において、エシェリキア コリ(大腸菌)が挙げられる。
大腸菌としては、大腸菌K12株及びB株、これらに由来する株が挙げられる。大腸菌K12株由来の株としては、MG1655、W3110、W1330、JM109、HST02、HB101、DH5α、及びこれらの染色体にラムダDE3遺伝子が組み込まれたDE3株が挙げられる。B株由来の株としては、BL21、BL21(DE3)等が挙げられる。
大腸菌としては、これら菌株から派生した自然変異株でも人為的な遺伝子改変株であってもよい。
本開示において「オーソログ」とは、異なる生物に存在する相同な機能を有する類縁遺伝子を意味する。
本開示において「由来する酵素」とは、一又は複数の実施形態において、元の酵素のアミノ酸配列に対して同一性が70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上のアミノ酸配列である酵素をいう。
本開示の形質転換体は、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする外因性遺伝子が発現可能に導入されている。
本開示において、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性とは、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(4HPP)から4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4HPAAL)への反応を触媒できる酵素活性をいう。このような酵素活性を有する酵素をコードする遺伝子を、本開示において、pdc遺伝子という。
4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素は、一又は複数の実施形態において、HTYの生産性向上の観点から、宿主であるエシェリキア属の菌が有さない酵素、すなわち、外因性の酵素であることが好ましい。
4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素としては、一又は複数の実施形態において、アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌、又は、サッカロミケス(Saccharomyces)属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、及びこれらに由来する酵素が挙げられる。
アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼとしては、アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense、NBRC102289)のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(GenBank ALJ36000.1)及びこれらに由来する酵素が挙げられる。
サッカロミケス属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼとしては、S.セレビシエ(S.cerevisiae)のARO10(GenBank DAA12223.1)及びこれらに由来する酵素が挙げられる。
本開示に係る形質転換体に導入されるpdc遺伝子は、一又は複数の実施形態において、上記の酵素をコードする外因性遺伝子又はこれらのオーソログである。
外因性pdc遺伝子が導入されることで、シキミ酸経路が拡張され、シキミ酸経路由来のPP及び4HPPがそれぞれPAAL及び4HPAALへ変換され、さまざまな芳香族化合物の生産が可能になる(拡張されたシキミ酸経路、図1)。
本開示において、発現誘導可能なプロモーターとともに導入される遺伝子は、単独の遺伝子であってもよく、複数遺伝子が発現可能なオペロンであってもよい。
遺伝子の発現亢進が誘導可能なプロモーターとしては、一又は複数の実施形態において、T7プロモーターが挙げられる。発現誘導にT7プロモーターを用いる場合、宿主微生物は、T7RNAポリメラーゼ遺伝子を有する株であることが好ましい。宿主微生物としては、一又は複数の実施形態において、λDE3ファージを溶原化したDE3株が挙げられる。
遺伝子の発現亢進が誘導可能なプロモーターとしては、その他の一又は複数の実施形態において、λファージのPLプロモーター(熱で発現誘導されるプロモーター)、アラビノースオペロンのアラビノースプロモーター(アラビノースで発現誘導されるプロモーター)、tetプロモーター(テトラサイクリンで発現誘導されるプロモーター)、tyrRなどの構成タンパク質のプロモーター、及び、構成性の人工プロモーターなどが挙げられる。
宿主への遺伝子の導入方法は、特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、プラスミドで導入する方法、及び、宿主染色体に組み込む方法が挙げられる。
本開示において、遺伝子を発現誘導可能なプロモーターとともに染色体に導入する方法は、特に限定されないが、一又は複数の実施形態において、実施例に記載の方法(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829に記載の方法)が挙げられる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
導入される遺伝子が、染色体上に組み込まれる場合、その座位は、宿主ゲノムが本来備えている当該遺伝子の座位でもよく、当該遺伝子とは別の宿主染色体の座位に導入さてもよい。
本開示に係る形質転換体は、宿主ゲノムのpheA遺伝子、すなわち、内因性pheA遺伝子が破壊されている。
本開示において、「pheA」遺伝子は、コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドラターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947081である。
本開示において、pheA遺伝子が破壊されているとは、一又は複数の実施形態において、pheA遺伝子又はその発現調節配列の変異(塩基配列の付加、置換、及び/又は欠失など)により、pheA遺伝子の機能が抑制又は消失していることをいい、あるいは、野生型pheA遺伝子の遺伝子産物の機能が抑制又は消失していることをいい、あるいは、形質転換体がフェニルアラニン要求性(ΔpheA)となっていることをいう。
そこで、HTY生産株をΔpheAとした株を作製したところ、この株は、試験管レベルでの培養であれば増殖性に問題は認められなかった。しかしながら、この株をジャーファーメンターのようなラージスケールで培養すると増殖性が著しく低下する、すなわち、菌数(菌密度)の上昇が通常の菌に比べて著しく低い段階で止まってしまうという問題点が、本発明者らにより見出された(実施例F株、図5)。
ラージスケールの培養では、エールリッヒ経路の影響が大きくなり、フェニルアラニンが枯渇し、増殖性に悪影響を及ぼしていると考えられる(図3)。
本開示に係る形質転換体は、宿主ゲノムのtyrB遺伝子、すなわち、内因性tyrB遺伝子が破壊されている。
本開示において、「tyrB」遺伝子は、チロシンアミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:945031である。
本開示において、tyrB遺伝子が破壊されているとは、一又は複数の実施形態において、tyrB遺伝子又はその発現調節配列の変異(塩基配列の付加、置換、及び/又は欠失など)により、tyrB遺伝子の機能が抑制又は消失していることをいい、あるいは、野生型tyrB遺伝子の遺伝子産物の機能が抑制又は消失していることをいう。
tyrB遺伝子が破壊されるとチロシン要求性になると考えられたが、チロシン要求性にならない場合がある。例えば、IlvE、AlaC、AspC等の他のアミノ酸アミノトランスフェラーゼが存在すると、tyrB遺伝子産物の機能が補完され、チロシン要求性とならない。本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、チロシン要求性ではない。
なお、IlvE、AlaC、AspC等のアミノ酸アミノトランスフェラーゼが存在しても増殖阻害は発生しない。これは、これらの酵素のPhe→PPの活性が高くなく、エールリッヒ経路が働きにくいからと考えられる。
本開示に係る形質転換体は、ヒドロキシチロソール(HTY)を生産する能力を有する。本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、糖質原料からHTYを生産する能力を有する。
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に生産する観点から、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されていることが好ましい。
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に生産する観点から、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されていることが好ましい。
本開示における4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、チロソール(4HPE)がヒドロキシチロソール(HTY)となる化学反応を触媒できるものである(図1)。
4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素としては、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシフェニルアセテート-3-ヒドロキシラーゼ(4-ヒドロキシフェニルアセテート-3-モノオキシゲナーゼ)が使用できる。
本開示における4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、上記触媒機能があるものであれば制限されないが、HTYを効率的に産生する観点から、一又は複数の実施形態において、二成分酵素のものが好ましく、補酵素として還元型のフラビンアデニンヌクレオチド(FAD)、すなわち、FADH2を使用する、二成分型FAD依存モノオキシゲナーゼがより好ましい。
同酵素としては、その他の一又は複数の実施形態において、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のhpaAC遺伝子の遺伝子産物(hpaA:GenBank AAG07478.1、hpaC:GenBank AAG07479.1)、若しくは、Parageobacillus thermoglucosidansのフェノールー2-ヒドロキシラーゼ(component A:GenBank AAF66546.1、component B: GenBank AAF66547.1)、及びこれらに由来する酵素又はこれらのオーソログの遺伝子産物が挙げられる。
本開示における4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素は、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4HPAAL)がチロソール(4HPE)となる化学反応を触媒できるものである(図1)。
4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素は、上記触媒機能があるものであれば制限されないが、一又は複数の実施形態において、大腸菌yahK遺伝子の遺伝子産物(GenBank AAC73428.1)、大腸菌yjgB遺伝子の遺伝子産物(GenBank AAC77226.2)、大腸菌yqhD(GenBank AAC76047.1)及びこれらに由来する酵素、又はこれらのオーソログの遺伝子産物が挙げられる。
これらの中でも、HTYを効率的に産生する観点から、yahK及びyjgBがより好ましく、yahKが更に好ましい。
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に産生する観点から、一又は複数の実施形態において、シキミ酸経路に関する遺伝子(群)の発現が強化されていることが好ましく、該遺伝子(群)が発現可能に導入されていることが好ましく、宿主染色体上に発現可能に導入されていることがより好ましい。
(1)aroA
(2)aroB
(3)aroC
(4)aroGfbr又はaroFfbr
(5)tyrAfbr
上記(4)及び(5)に加え、上記(1)~(3)のすべてを発現可能に導入することで、上記(4)及び(5)の発現亢進による代謝負荷を低減しうる。
本開示において、「aroB」遺伝子は、3-デヒドロキナ酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947927である。
本開示において、「aroC」遺伝子は、コリスミ酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:946814である。
本開示において、「aroG」遺伝子は、3-デオキシ-D-アラビノ-7-ホスホヘプツロン酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:645605である。
本開示において、「aroGfbr」遺伝子は、aroGのフィードバック阻害の脱感作変異型を意味する。aroGfbrは、一又は複数の実施形態において、特開平05-236947に開示のものを使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
本開示において、「aroF」遺伝子は、3-デオキシ-D-アラビノ-7-ホスホヘプツロン酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947084である。
本開示において、「aroFfbr」遺伝子は、aroFのフィードバック阻害の脱感作変異型を意味する。aroFfbrは、一又は複数の実施形態において、特開平05-236947に開示のものを使用できる。
本開示において、「tyrA」遺伝子は、コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947115である。
本開示において、「tyrAfbr」遺伝子は、tyrAのフィードバック阻害の脱感作変異型を意味する。tyrAfbrは、一又は複数の実施形態において、特開平05-076352に開示のものを使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
(6)ppsA
(7)tktA
ここで、発現誘導可能なプロモーターとしてT7プロモーターを使用する場合、目的の芳香族化合物の生産性向上の点から、上記(7)tktAのプロモーターは発現誘導能が低減した変異型T7プロモーターであることが好ましい。
本開示において、「tktA」遺伝子は、トランスケトラーゼ1をコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947420である。
(8)aroD
(9)aroE又はydiB
(10)aroL又はaroK
上記(9)のaroE又はydiBは相互に代替可能であるが、HTYを効率的に産生する観点から、上記(9)の遺伝子としては、aroEが好ましい。
上記(10)のaroL又はaroKは相互に代替可能であるが、HTYを効率的に産生する観点から、上記(10)の遺伝子としては、aroLが好ましい。
本開示において、「aroE」遺伝子は、デヒドロシキミ酸レダクターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947776である。
本開示において、「ydiB」遺伝子は、キナ酸/シキミ酸5-デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:946200である。
本開示において、「aroL」遺伝子は、シキミ酸キナーゼIIをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:945031である。
本開示において、「aroK」遺伝子は、シキミ酸キナーゼIをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:2847759である。
本開示に係るヒドロキシチロソールの製造方法は、糖質原料と、本開示に係る形質転換体とを反応させる工程を含む製造方法に関する。
本開示におけるこの「反応」は、「培養」や「発酵」ということもできる。
本開示に係る形質転換体と反応させる糖質原料としては、糖や糖アルコールが挙げられる。糖としては、グルコース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜等が挙げられる。糖アルコールとしては、グリセリン等が挙げられる。
糖質原料と本開示に係る形質転換体との反応は、一又は複数の実施形態において、所定量まで液体培地で培養した本開示に係る形質転換体に対して導入した発現誘導を行い、その後、培養中の培地に糖質原料を添加することで行うことができる。
本開示に係る形質転換体の培養は、フェニルアラニン要求性であること以外は、通常の培養方法の条件で行うことができ、反応工程も、従来の発酵又は反応の条件で行うことができる。
培養の培地は、フェニルアラニンに加え、炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、ミネラル、ビタミンなどのその他の成分を含むもので、本開示の微生物が生育できるものなら特に限定されない。培地におけるフェニルアラニンの含有量(初期濃度)としては、一又は複数の実施形態において、0.2~10mM、又は、1~8mMが挙げられる。
本開示に係る形質転換体の培養は、ヒドロキシチロソールの生産量を向上する点から、ジャーファンメンターやバイオリアクター等の大量培養可能な装置で行うことが好ましい。
本開示に係る形質転換体の培養は、ヒドロキシチロソールの生産量を向上する点から、糖質原料を培養中に添加する流加培養が好ましい。
微生物が生育できる温度が挙げられる。生育速度の観点から、その生物の至適な培養温度が好ましい。大腸菌であれば、一又は複数の実施形態において、25℃~40℃、又は、30℃~37℃が挙げられる。
[培地]
微生物が生育できる培地であれば制限されない。培地は、一又は複数の実施形態において、液体培地である。LB培地などの天然培地にフェニルアラニンを加えたもの、M9や実施例のHCF培地などの合成培地にフェニルアラニンを加えたものが挙げられる。化合物の精製を考えた場合には合成培地の方が好ましい。
[培養pH]
培養pHは、一又は複数の実施形態において、6.0~7.5の範囲が挙げられ、その他の態様において、7.0付近、又は、6.2~7.2が挙げられる。
[培地への糖質原料の添加量(流加速度)]
糖質溶液の添加量は、菌の種類、菌体量、培養条件に依存して調節する。一又は複数の実施形態において、添加した糖質原料の多くがなるべくHTYに変換されるように糖質原料を流加することが好ましい。一又は複数の実施形態において、酢酸などの副産物量を抑制できる範囲で添加することが好ましい。
一又は複数の実施形態において、糖質原料を、培地中の濃度が0~2g/L、好ましくは0.1~1g/Lの範囲に収まるように添加する。
添加される糖質原料の総量は、菌の種類や培養条件によって異なるが、添加した糖質原料のほぼすべてが菌体によって消費される量が好ましい。大腸菌の場合には、一又は複数の実施形態において、100~300g/L程度が挙げられる
[培養時間]
培養時間は、一又は複数の実施形態において、流加した糖質原料がなくなるまで培養することが好ましい。
但し、培養条件はこれらに限定されない。
<1> 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする外因性遺伝子が発現可能に導入され、
内因性pheA遺伝子が破壊され、
内因性tyrB遺伝子が破壊され、且つ、
ヒドロキシチロソールの生産能を有する、エシェリキア属の形質転換体。
<2> 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素が、アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌、又は、サッカロミケス(Saccharomayces)属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼである、<1>記載の形質転換体。
<3> さらに、4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、<1>又は<2>記載の形質転換体。
<4> さらに、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<3>のいずれかに記載の形質転換体。
<5> さらに、下記(1)~(5)の5つの遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<4>のいずれかに記載の形質転換体。
(1)aroA
(2)aroB
(3)aroC
(4)aroGfbr又はaroFfbr
(5)tyrAfbr
<6> さらに、下記(6)及び(7)の遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<5>のいずれかに記載の形質転換体。
(6)ppsA
(7)tktA
<7> さらに、下記(8)~(10)の少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<6>のいずれかに記載の形質転換体。
(8)aroD
(9)aroE又はydiB
(10)aroL又はaroK
<8> 糖質原料と、<1>から<7>のいずれかに記載の形質転換体とを反応させる工程を含む、ヒドロキシチロソールの製造方法。
<9> 前記反応が、糖質原料の流加培養より行われる、<8>記載の製造方法。
本開示において「T7p」は、T7lacプロモーター(lacリプレッサーが付加されたT7プロモーター)を意味する。本開示において「T7p(-8TC)」とは、発現誘導能が低減した変異型T7pを意味する。本開示において、「T7t」は、T7ターミネーターを意味する。
(1)プラスミドpET21a-FRT-tyrAfbrの作製
大腸菌MG1655のゲノムDNAを鋳型として、EcTyrA-F(CCAACCATATGGTTGCTGAATTGACCGC,配列番号1)とEcTyrA-RM1(CGCGAGGCCAAGATAGATGCCTCGCGC,配列番号2)プライマーペア、EcTyrA-FM1(GCGCGAGGCATCTATCTTGGCCTCGCG,配列番号3)とEcTyrA-RM2(CTCTGAAAACGCTGTACGTAATCGCCGAAC,配列番号4)プライマーペア、及びEcTyrA-FM2(GTTCGGCGATTACGTACAGCGTTTTCAGAG,配列番号5)とEcTyrA-R(CACTCGAGTTACTGGCGATTGTCATTCGCC,配列番号6)プライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼにより3つのDNA断片を増幅した。なお、PCR反応の条件は、説明書に記載の基本的な条件に基づいて行った。つぎに、3つの増幅断片を鋳型としてEcTyrA-FとEcTyrA-Rのプライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼによりオーバーラップエクステンションPCRを行い、53番目のメチオニンがイソロイシンに置換され、かつ354番目のアラニンがバリンに置換されたTyrAをコードするDNA(tyrAfbr)を得た。
増幅されたDNAとpET21a-FRTベクター(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829)をそれぞれNdeIとXhoIで消化し、1%アガロースゲル電気泳動でDNAを分離した後、QIAquick Gel Extraction kitを用いて該当のDNAをゲルから抽出・精製した。精製されたDNAを常法によりLigationし、反応液を大腸菌DH5αコンピテントセル(GMbiolab社製)と混ぜて氷上で40分間静置した後、42℃で45秒間ヒートショックを行い、再び氷上で2分間静置した後にLB液体培地を900μL加えて37℃で30分間恒温した。適量の菌液を20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。T7プロモータープライマー(TAATACGACTCACTATAGGG,配列番号7)とT7ターミネータープライマー(ATGCTAGTTATTGCTCAGCGG,配列番号8)を用いたコロニーダイレクトPCRを行い、目的のプラスミドを持つ菌株を選別した。コロニーダイレクトPCRにはOneTaq(New England BioLabs社製)を用いた。最終的に目的プラスミドを有する菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いて目的のプラスミドを抽出し精製した。
LB寒天培地の組成(本実施例において以下同じ):10g/L ハイポリペプトン、5g/L粉末酵母エキスD3-H、10g/L塩化ナトリウム、20g/L寒天、pH7.0
LB液体培地の組成(本実施例において以下同じ):10g/L ハイポリペプトン、5g/L粉末酵母エキスD3-H、10g/L塩化ナトリウム、pH7.0
tyrAfbr遺伝子の大腸菌染色体への導入は既報(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829)により行った。はじめに染色体へ導入するためのDNA断片を含む溶液の調製を行った。上記で作製したプラスミドpET21a-FRT-tyrAfbrを鋳型DNAとして、delta-ldhA-feaB-F(AAATATCTGTTTTAACTAATTGGCGTTGCAGTACATGCAACGCCAATTAGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号9)とdelta-feaB-FRT-R(TGCCGTTTTTTACTTATGAGCGAACCAGATTAATACCGTACACACACCGAATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号10)のプライマーセットを用いて、2つのフリパーゼ認識配列(FRT)とカナマイシン耐性遺伝子配列(Km)を含むtyrAfbr遺伝子(FRT-Km-FRT-T7p-tyrAfbr-T7t)をPCRで増幅した。PCR酵素にはPrimeStar GXL(タカラバイオ社製)を用い、添付の説明書に従って反応を行った。PCRでの増幅産物をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製した後、制限酵素DpnIで一晩消化し、再度、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)で精製したものを染色体導入用のDNA溶液とした。
つぎに、大腸菌のエレクトロポレーションセルの調製を行った。大腸菌MG1655(DE3)/pKD46株を10mMのL-アラビノースと100μg/mLのカルベニシリンを含むLB液体培地にて、OD660が0.5程度に達するまで30℃で培養した。次に、2mLの菌液を5,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上清を捨て、菌体を回収した。菌体を氷冷しておいた滅菌蒸留水1mLに懸濁し、5,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上清を捨て、菌体を回収した。再度、菌体を氷冷しておいた滅菌蒸留水1mLに懸濁し、5,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上清を捨て、菌体を回収した。菌体を氷冷しておいた滅菌蒸留水50μLに懸濁してエレクトロポレーションセルとした。
つぎに、エレクトロポレーションセルにDNA断片を100~200ng(1μL程度)添加し、溶液をエレクトロポレーションキュベットに移し、MicroPulserエレクトロポレーター(Bio-Rad社製)を用いてエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションキュベットに1mLのLB液体培地を加えた後、菌懸濁液を1.5mLチューブに移し、37℃で2時間程度振とうした。50μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に菌液を塗布し、37℃で一晩培養した。出現したコロニーから、ldhA-feaB座位にtyrAfbr遺伝子を持つ大腸菌をコロニーダイレクトPCRで選別した。EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ社製)に添付の説明書に従って、反応液にK2(CGGTGCCCTGAATGAACTGC,配列番号11)とDown-feaB(CTGTTGAGTAACCCGAACAAAG,配列番号12)のプライマーセットを添加し、コロニーを鋳型DNAとして加えてPCRを行った。反応後に1%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、ldhA-feaB座位にtyrAfbr遺伝子が挿入された菌株(A株)を確認した。
(1)プラスミドpET21a-FRT-pdcの作製
人工合成したpdc遺伝子(配列番号13、合成時に末端にNdeIとXhoIのサイトを付加してある)とpET21a-FRTをNdeIとXhoIで消化し、1%アガロースゲル電気泳動でDNAを分離した後、QIAquick Gel Extraction kitを用いて精製した。精製されたDNAを常法によりLigationし、大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。T7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、目的のプラスミドを持つ菌株を選別した。最終的に目的プラスミドを有する菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いて目的のプラスミドを抽出し精製した。
染色体DNAのmtlA座位にpdc遺伝子が挿入された菌株(B株)の作製は、A株の作製と同様に行った。
pdc遺伝子を染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにプラスミドpET21a-FRT-pdc、プライマーにdelta-mtlA-F(TCGGGCTTCCAGCCTGCGCGACAGCAAACATAAGAAGGGGTGTTTTTATGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号14)とdelta-mtlA-FRT-R(CTTCTCCATGTGGAGAGGGTGGGATTGGATTACTTACGACCTGCCAGCAGATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号15)のプライマーセットを用いた。また、mtlA座位へのpdc遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-mtlA(GATCAACGACATCATCACCAATGC,配列番号16)のプライマーセットを用いた。
(1)プラスミドpET21a-FRT-yahKの作製
大腸菌MG1655のゲノムDNAを鋳型として、yahK-Nde(CCAACCATATGAAGATCAAAGCTGTTGGTG,配列番号17)とyahK-Xho(CACTCGAGTCAGTCTGTTAGTGTGCG,配列番号18)のプライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼによりyahK遺伝子を含むDNAを増幅した。なお、PCR反応の条件は、説明書に記載の基本的な条件に基づいて行った。増幅されたDNAとpET21a-FRTベクターをそれぞれNdeIとXhoIで消化し、1%アガロースゲル電気泳動でDNAを分離した後、QIAquick Gel Extraction kitを用いて該当のDNAをゲルから抽出・精製した。精製されたDNAを常法によりLigationし、大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。T7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、目的のプラスミドを持つ菌株を選別した。最終的に目的プラスミドを有する菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いて目的のプラスミドを抽出し精製した。
染色体DNAのpykA座位にyahK遺伝子が挿入された菌株(C株)の作製は、A株の作製と同様に行った。染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにプラスミドpET21a-FRT-yahK、プライマーにdelta-pykA-F(TTTCATGTTCAAGCAACACCTGGTTGTTTCAGTCAACGGAGTATTACATGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号19)とdelta-pykA-FRT-R(TGGCGTTTTCGCCGCATCCGGCAACGTACTTACTCTACCGTTAAAATACGATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号20)のプライマーセットを用いた。また、pykA座位へのyahK遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-pykA(GTACTGGGGATATTATTTACCCG,配列番号21)のプライマーセットを用いた。
(1)プラスミドpET21a-FRT-hpaBCの作製
大腸菌BL21の染色体DNAを鋳型として、hpaBC-F(GTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATATGAAACCAGAAGATTTCCGC,配列番号22)とhpaBC-R(GTGGTGGTGGTGCTCGAGTTAAATCGCAGCTTCCATTTC,配列番号23)のプライマーセットを用いて、hpaBCオペロンをPCRで増幅した。PCR酵素にはPhusion Hot Start II DNA Polymerase(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、添付の説明書に従って反応を行った。PCRでの増幅産物をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製した後、制限酵素NdeIとXhoIで消化したpET21a-FRTベクターとGibson Assembly Master Mix(New England Biolabs社製)を用いて反応させた。反応液を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。
培養後のコロニーから目的とするプラスミドを有するものをコロニーダイレクトPCRで選別した。EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ社製)に添付の説明書に従って、反応液にT7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを規定量添加し、コロニーを鋳型DNAとして加えてPCRを行った。反応後に1%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、hpaBCのインサートが確認されたものを候補菌株とした。
候補菌株を50μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPure(マッハライ・ナーゲル社製)を用いてプラスミド抽出を行い、pET21a-FRT-hpaBCを得た。
染色体DNAのpheA座位にhpaBC遺伝子が挿入された菌株(D株)の作製は、A株の作製と同様に行った。染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにpET21a-FRT-hpaBC、プライマーにdelta-pheA-F(CTCCCAAATCGGGGGGCCTTTTTTATTGATAACAAAAAGGCAACACTATGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号24)とdelta-pheA-FRT-R(GATGATTCACATCATCCGGCACCTTTTCATCAGGTTGGATCAACAGGCACATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号25)のプライマーセットを用いた。また、pheA座位へのhpaBC遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-pheA(CATACCAATGGTTTCTGGAGCAAAT,配列番号26)のプライマーセットを用いた。
(1)プラスミドpET21a-FRT-lacIQ1-hpaBCの作製
pET21a-FRTを鋳型として、pET21a-FRT-lacIQ1-F(CAACACCATGGAGCGGCATGCATTTACGTTGACACCACCTTTCGCGGTATGGCATGATAG,配列番号27)とpET21a-FRT-lacIQ-R(CAACACCATGGCGGGATCTCGACGCTCTCC,配列番号28)のプライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼによりDNAを増幅した。なお、PCR反応の条件は、説明書に記載の基本的な条件に基づいて行った。増幅されたDNAはQIAquick Gel Extraction kitを用いて精製した。精製したDNAをそれぞれNcoIとDpnIで消化し、該当のDNAをゲルから抽出・精製した。精製されたDNAを常法によりSelf-ligationし、大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いてプラスミドpET21a-FRT-lacIQ1を抽出し精製した。
つぎにpET21a-FRT-hpaBCを鋳型として、hpaBC-FとhpaBC-Rのプライマーセットを用いて、hpaBCオペロンのDNAをPCRで増幅した。PCR酵素にはPhusion Hot Start 2 DNA Polymerase(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、添付の説明書に従って反応を行った。PCRでの増幅産物をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製した後、制限酵素NdeIとXhoIで消化したpET21a-FRT-lacIQ1ベクターとGibson Assembly Master Mix(New England Biolabs社製)を用いて反応させた。反応液を大腸菌DH5αコンピテントセル(GMbiolab社製)と混ぜて氷上で40分間静置した後、42℃で45秒間ヒートショックを行い、再び氷上で2分間静置した後にLB液体培地を900μL加えて37℃で30分間恒温した。適量の菌液を50μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。
培養後のコロニーから目的とするプラスミドを有するものをコロニーダイレクトPCRで選別した。EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ社製)に添付の説明書に従って、反応液にT7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを規定量添加し、コロニーを鋳型DNAとして加えてPCRを行った。反応後に1%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、hpaBCのインサートが確認されたものを候補菌株とした。
候補菌株を50μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPure(マッハライ・ナーゲル社製)を用いてプラスミド抽出を行い、pET21a-FRT-lacIQ1-hpaBCを得た。
染色体DNAのtyrB座位にlacIQ1とhpaBC遺伝子が挿入された菌株(E株)の作製は、A株の作製と同様に行った。染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにプラスミドpET21a-FRT-lacIQ1-hpaBC、プライマーにDelta-tyrB-Q-F(GTTTATTGTGTTTTAACCACCTGCCCGTAAACCTGGAGAACCATCGCGTGGTGCGGCGACGATAGTCATG,配列番号29)とdelta-tyrB-FRT-R(GCTGGGTAGCTCCAGCCTGCTTTCCTGCATTACATCACCGCAGCAAACGCATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号30)のプライマーセットを用いた。また、tyrB座位へのlacIQ1とhpaBC遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-tyrB(CGCTTTGCTGTTTTGCCGAG,配列番号31)のプライマーセットを用いた。
A株、B株、C株、D株、又はE株を20μg/mLのカナマイシンを含む5mLのLB液体培地に植菌し、37℃でOD660が0.1程度になるまで培養した。1M塩化カルシウムを50μL添加し、さらに100μLのP1ファージ溶液(>108pfu/mL)を添加して37℃で3~4時間程度培養した。10,000rpmで5分間遠心分離し、上澄みを0.2μmのポアサイズの滅菌フィルターでろ過することで、P1ファージライセートを得た。
フェニルアラニン生産菌P株を5mLのLB液体培地を用いて37℃で一晩培養した。50μLの1M塩化カルシウムを加えて良く撹拌した後、200μlを1.5mLチューブに移した。そこにA株のP1ファージライセートを20μL加えて混合し、37℃で20分間恒温した。1Mのクエン酸3ナトリウム溶液を100μLとLB液体培地を700μL加えて混合した後に、37℃でさらに40分間恒温した。20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に菌液を塗布し、37℃で一晩培養した。K2とDown-feaBのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のfeaB-ldhA座位にFRT-Km-FRT-T7p-tyrAfbrが挿入されていることを確認した。
なお、P株は、特許文献1のPhe13株に該当し、同文献を参照して作製できる。また、Koma et al. (2020) Appl. Environ. Microbiol. 86:e00525-20にも記載されている。これらの文献は参照により援用される。
つぎにこの株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地で培養し、OD660の値が0.5程度になるまで培養した。培養液を氷冷した後、1mLの培養液を10,000rpm、4℃で3分間遠心分離し、上清を捨てた。菌体を100μLのTSS溶液(10%ポリエチレングリコール3350、5%ジメチルスルホキシド、70mM塩化マグネシウム、0.1M塩化カリウム、30mM塩化カルシウム)に懸濁し、50ng/μLのpCP20プラスミド溶液を1μL添加し、氷中で30分間静置した。42℃で90秒間ヒートショックした後に氷中で2分間静置し、900μLのLB培地を加え、100μLを50μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布した。30℃で一晩培養し、出現したコロニーをLB寒天培地にストリークして、42℃で一晩培養した。つぎに、出現したコロニーを新たなLB寒天培地にストリークして、37℃で一晩培養した。Down-ldhA2(GTCTGTTTTGCGGTCGC,配列番号32)とDown-feaBのプライマーペアを用いて、feaB-ldhA座位に挿入されたFRT-Km-FRT-tyrAfbrからカナマイシン耐性遺伝子が除去されたことを確認した。
つぎに、得られた株を先と同様の方法に従って、C株のP1ファージライセートと反応させた。K2とDown-pykAのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のpykA座位にFRT-Km-FRT-T7p-yahKが挿入されていることを確認した。つぎに先と同様の方法に従って、pCP20を用いて、pykA座位に挿入したFRT-Km-FRT-T7p-yahKからカナマイシン耐性遺伝子を除去した。除去の確認は、UP-pykA(ACGCATGAGTTGTATGAATTGTAG,配列番号33)とDown-pykAのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
つぎに、得られた株を先と同様の方法に従って、B株のP1ファージライセートと反応させた。K2とDown-mtlAのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のmtlA座位にFRT-Km-FRT-T7p-pdcが挿入されていることを確認した。つぎに先と同様の方法に従って、pCP20を用いて、mtlA座位に挿入したFRT-Km-FRT-T7p-pdcからカナマイシン耐性遺伝子を除去した。除去の確認は、UP-mtlA(GCCAGAAGGGAGTCAGGCTG,配列番号34)とDown-mtlAのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
つぎに、得られた株を先と同様の方法に従って、D株のP1ファージライセートと反応させた。K2とDown-pheAのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のpheA座位にFRT-Km-FRT-T7p-hpaBCが挿入されていることを確認した。つぎに先と同様の方法に従って、pCP20を用いて、pheA座位に挿入したFRT-Km-FRT-T7p-hpaBCからカナマイシン耐性遺伝子を除去し、ヒドロキシチロソール生産菌のF株を得た。除去の確認は、UP-pheA(CTGATTAATCCACATATCATTCTGTC,配列番号35)とDown-pheAのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
ヒドロキシチロソール生産菌F株の作製と同様の方法により、F株をE株のP1ライセートと反応させた。K2とDown-tyrBのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のtyrB座位にFRT-Km-FRT-lacIQ1-T7p-hpaBCが挿入されていることを確認した。つぎにpCP20を用いて、tyrB座位に挿入したFRT-Km-FRT-lacIQ1-T7p-hpaBCからカナマイシン耐性遺伝子を除去し、ヒドロキシチロソール生産菌のG株を得た。除去の確認は、UP-tyrB(CAGTGCTGGTGAACGGTCG,配列番号36)とDown-tyrBのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
LB寒天培地に生育したF株、又はG株をLB液体培地に植菌し、33℃で8時間振とう培養した。15mLの培養液を1.5LのHCF(+Phe)培地を含む3L容のジャーファーメンターに植菌して培養を開始した。
ジャーファーメンターには、丸菱バイオエンジニアリング社製のBioneerシリーズMDL-8Cを用いた。
HCF(+Phe)培地の組成は、1168mLの蒸留水に、150mLの10×リン酸/クエン酸緩衝液、3.6mLの500g/L硫酸マグネシウム7水和物水溶液、15mLの100×微量金属溶液、63.4mLの700g/Lグルコース溶液、340μLの20g/Lチアミン塩酸塩溶液、100mLの1.24g/100mLフェニルアラニン溶液を加えたものである(培地中のフェニルアラニン濃度は5mM)。
蒸留水と10×リン酸/クエン酸緩衝液をジャーファーメンターのベッセルに入れてオートクレーブ滅菌しておき、滅菌後の溶液が室温に戻った後に、別でオートクレーブ滅菌しておいた硫酸マグネシウム溶液とグルコース溶液、そしてろ過除菌しておいたチアミン塩酸塩溶液、微量金属溶液、およびフェニルアラニン溶液を加えた。
10×リン酸/クエン酸緩衝液の組成は、133g/Lリン酸2水素カリウム、40g/Lリン酸水素2アンモニウム、17g/Lクエン酸であり、5MのNaOHを用いてpHを6.3に調整した。100×微量金属溶液の組成は、10g/Lクエン酸鉄(III)、0.25g/L塩化コバルト6水和物、1.5g/L塩化マンガン4水和物、0.15g/L塩化銅2水和物、0.3g/Lホウ酸、0.25g/Lモリブデン酸ナトリウム2水和物、1.3g/L酢酸亜鉛2水和物、0.84g/Lエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物である。
途中グルコースが枯渇した場合、又は枯渇しそうな場合には、グルコース濃度が10g/L程度になるようにフィード溶液(+Phe)を適時添加した。フィード溶液(+Phe)は、136mLの蒸留水に280gのグルコースを加えてオートクレーブ滅菌し、溶液が50℃程度に冷えた後に別滅菌しておいた500g/L硫酸マグネシウム7水和物水溶液を16mL、ろ過除菌しておいた100×微量金属溶液を4mL、ろ過除菌しておいた20g/Lチアミン塩酸塩溶液を900μL、ろ過除菌しておいた0.66g/50mLのフェニルアラニン溶液を50mL加えることで調製した。
HPLCによる定量は既報(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829)にある芳香族化合物の定量方法を用い、検量線の作製にはヒドロキシチロソール、チロソール、フェニルアラニン及び2-フェニルエタノールの標品(東京化成工業株式会社製)を用いた。
LB寒天培地に生育したG株をLB液体培地に植菌し、33℃で8時間振とう培養した。15mLの培養液を1.5LのHCF(+Phe)培地を含む3L容のジャーファーメンターに植菌して培養を開始した。培養条件やジャーファーメンターの設定等は、グルコース流加培養1と同様にした。ただし、IPTGの添加は培地のグルコースが枯渇した時に行った(OD660が29.0であった)。また、IPTGを添加した直後、オートクレーブ滅菌した150g/L粉末酵母エキスD3-H溶液を50mL加えて、100分間はグルコースが枯渇した状態で培養し、その後にグルコースの流加培養を開始した。グルコースのフィードに関しては、グルコース流加培養1に準じた。なお、IPTGを添加した際、pHは6.5に変更したが、培養温度は33℃のままとした。
培養液は適時サンプリングし、分光光度計によるOD660の値の測定、HPLCによるチロソール、ヒドロキシチロソール及びフェニルアラニンの定量を行った。
(1)グルコース流加培養1のF株
F株のグルコース流加培養1の結果を図5に示す。
・HCF(+Phe)培地で、16時間後にOD660の値が9.2で停止していた。16.5時間後にフェニルアラニン(Phe)を添加したところOD660の値が向上し始めた。19時間後にもOD660の値が停止したため、フェニルアラニンを添加した。20時間後にIPTGを添加した際に、フェニルアラニンが枯渇した状態ではヒドロキシチロソール(HTY)を合成するためのタンパク質が作れなくなるため、フェニルアラニンを添加した。
・2g/L以上の2-フェニルエタノール(2PE)が培地に蓄積した。
・チロソールの生産量は5.7g/Lであった。
・ヒドロキシチロソールの生産量は2.6g/Lであった。
・OD660は21.6までしか向上しなかった。フェニルアラニンを添加すればもう少し向上すると思われるが、同時に副産物である2-フェニルエタノールの蓄積量も増加すると考えられる。
・F株のOD660の値の低さと2PEの蓄積は、試験管培養では予想できない結果であった。
・フェニルアラニン要求性(Δphe)であるF株が、増殖能が悪く、2PEが蓄積するのは、添加したフェニルアラニンがエールリッヒ経路(図3の点線矢印の経路)により消費され、2-フェニルエタノールに変換されるためであると考えられる。
・なお、F株の試験管培養を行うと、HCF培地+5mM Phe培地を用いた48時間培養後に、OD660が2.6でヒドロキシチロソール濃度が1.3g/Lとなった。試験管培養としては良好な結果であり、やや増殖は悪いものの高いHTY濃度が認められ、ジャーファーメンターの培養におけるF株の図5の結果は予想できなかった。
G株のグルコース流加培養1の結果を図6に示す。
・OD660は35を超えた。培地に添加するフェニルアラニン(Phe)は初期の分とフィード溶液に加えた分のみであったが、菌株の増殖能はF株よりも大幅に向上した。
・2-フェニルエタノール(2PE)の蓄積量は0.35g/Lであった。
・チロソールは1.5g/L、ヒドロキシチロソール(HTY)は6.3g/Lの生産量であった。
・G株では、F株のエールリッヒ経路が破壊された(tyrB遺伝子が破壊された)ことにより(図4)、フェニルアラニンの消費が抑制され、G株の増殖能がF株と比べて大幅に向上し、2PEの蓄積量がF株と比べて大幅に減少し、HTYの生産性が向上した。
・なお、G株は、tyrB遺伝子が破壊されているが、チロシンを別途添加しなくても上記のような増殖能を示した。但し、G株は、F株同様、フェニルアラニン要求性(Δphe)である。
G株のグルコース流加培養2の結果を図7に示す。
・OD660は35を超えた。
・IPTG添加後に粉末酵母エキスD3-Hを添加してHpaBCタンパク質の合成を促すことで、チロソールのヒドロキシチロソールへの変換能を向上させることを試みた。結果、チロソールは1.0g/L、ヒドロキシチロソール(HTY)は8.7g/Lの生産量であり、HTYの生産性がさらに向上した。
Claims (9)
- 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする外因性遺伝子が発現可能に導入され、
内因性pheA遺伝子が破壊され、
内因性tyrB遺伝子が破壊され、且つ、
ヒドロキシチロソールの生産能を有する、エシェリキア属の形質転換体。 - 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素が、アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌、又は、サッカロミケス(Saccharomayces)属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼである、請求項1記載の形質転換体。
- さらに、4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1又は2記載の形質転換体。
- さらに、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1から3のいずれかに記載の形質転換体。
- さらに、下記(1)~(5)の5つの遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1から4のいずれかに記載の形質転換体。
(1)aroA
(2)aroB
(3)aroC
(4)aroGfbr又はaroFfbr
(5)tyrAfbr - さらに、下記(6)及び(7)の遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1から5のいずれかに記載の形質転換体。
(6)ppsA
(7)tktA - さらに、下記(8)~(10)の少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1から6のいずれかに記載の形質転換体。
(8)aroD
(9)aroE又はydiB
(10)aroL又はaroK - 糖質原料と、請求項1から7のいずれかに記載の形質転換体とを反応させる工程を含む、ヒドロキシチロソールの製造方法。
- 前記反応が、糖質原料の流加培養により行われる、請求項8記載の製造方法。
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