JP2022120387A - 変性ビニルアルコール系重合体を含有する延伸フィルムおよび積層体並びにそれらの製造方法 - Google Patents

変性ビニルアルコール系重合体を含有する延伸フィルムおよび積層体並びにそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】延伸性及び延伸後の高湿での酸素ガスバリア性に優れる延伸フィルムの提供。【解決手段】変性ビニルアルコール系重合体を含有する延伸フィルムであって、当該重合体は、下記式(I)で表され、全単量体単位に対する各単量体単位の含有率a(モル%)、b(モル%)及びc(モル%)が下記式(1)~(3)を満足する、延伸フィルム。4≦a≦20(1)0.8≦c≦20(2)[100-(a+c)]×0.9≦b≦[100-(a+c)](3)JPEG2022120387000009.jpg57161【選択図】なし

Description

本発明は、変性ビニルアルコール系重合体を含有する延伸フィルムおよび積層体に関する。また、それらの製造方法に関する。
酸素ガスバリア性フィルムおよびそれを用いた包装材はよく知られている。酸素ガスバリア性を有する材料としてはアルミニウム(以下「Al」と略記することがある)箔があるが、ピンホールが発生し易いため、特殊な例を除いてアルミ箔単独では使用できない。したがって、アルミ箔はラミネートフィルムの中間層として使用されることが多い。このラミネートフィルムのガスバリア性は良好であるが、不透明であるため内容物が見えないこと、リサイクルが難しいこと等の欠点がある。
他の酸素ガスバリア性フィルムとしては、ポリ塩化ビニリデン(以下「PVDC」と略記することがある)の単層フィルムおよびPVDCがコーティングされたフィルムが知られている。特に後者は、酸素ガスおよび水蒸気に対するバリア性が必要な食品包材として広く使用されている。PVDCは吸湿性が殆どなく、高湿下でも良好なガスバリア性が維持されるため、種々の基材にコーティングされている。基材としては、例えば二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ナイロン(ON)、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(OPET)、セロファン等のフィルムが使用されている。そして基材にPVDCがコーティングされてなるラミネートフィルムはガスバリア性を有しており、乾燥物や水物などの種々の食品の包装に利用されている。しかしながら、これらの包装材料は使用後、家庭から一般廃棄物として廃棄されることとなるが、PVDC層を含むラミネートフィルムは溶融成形によるリサイクルが難しいことから、不使用の動きが広がっている。
また、酸素ガスバリア性フィルムとしてポリビニルアルコール(以下「PVA」と略記することがある)フィルムもよく知られている。PVAフィルムは吸湿量が少ない状態では非常に酸素ガスバリア性が良好であるが、吸湿性を有していて、水蒸気バリア性が十分ではなく用途が限定される傾向にある。そのため他成分を共重合させて、延伸配向を行うことによって結晶性を上げる方法がなされている。例えば、特許文献1には、エチレン単位3~19モル%を含む3倍以上延伸かつ120℃の熱処理を施してなるエチレンービニルアルコール共重合体が提案されている。しかしながら、当該コーティング剤に用いられる樹脂には、低温での延伸が難しい等の問題があった。
また、特許文献2には、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン単位を4~15モル%を含み、少なくとも一軸方向に延伸されてなる変性ビニルアルコール系樹脂の積層構造体が開示されている。当該積層構造体は、延伸性が良好であること、中湿度での酸素ガスバリア性が優れていることが記載されている。しかしながら、当該積層構造体は、高湿での酸素ガスバリア性が不十分である。
特許文献3には、2-メチレンプロパン-1,3-ジオールを0.1~2モル%とエチレン単位1~4モル%を含むポリビニルアルコール系樹脂を、一軸延伸させてなるフィルムおよび製造方法が開示されており、延伸性に優れることが記載されているが、当該フィルムは光学フィルム用途を想定しており、バリア性に関しては何ら記載されていない。
特開2000-318034 特開2006-312313 WO2015/020044
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、延伸性及び延伸後の高湿での酸素ガスバリア性に優れる延伸フィルムを提供するものである。さらに、そのような延伸フィルムの好適な製造方法を提供するものである。
本発明者らが鋭意検討した結果、以下に記載する態様によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
[1]: 変性ビニルアルコール系重合体を含有する延伸フィルムであって、
当該変性ビニルアルコール系重合体は、下記式(I)で表され、全単量体単位に対する各単量体単位の含有率a(モル%)、b(モル%)及びc(モル%)が下記式(1)~(3)を満足する、延伸フィルム。
4≦a≦20 (1)
0.8≦c≦20 (2)
[100-(a+c)]×0.9≦b≦[100-(a+c)] (3)
Figure 2022120387000001
[式(I)中、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表す。]
[2]: 前記ポリビニルアルコール系重合体の重合度が300以上1400以下である、[1]に記載の延伸フィルム。
[3]: 前記ポリビニルアルコール系重合体のけん化度が80%以上である、[1]または[2]に記載の延伸フィルム。
[4]: 膜厚が0.1μm~50μmである、[1]~[3]に記載の延伸フィルム。
[5]: 延伸倍率が2~10倍である、[1]~[4]のいずれかに記載の延伸フィルム。
[6]: [1]~[5]に記載の延伸フィルムと、基材とを含む積層体。
[7]: 前記基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びナイロンのいずれかで構成されるポリマー基材である、[6]に記載の積層体。
[8]: 前記基材が延伸された基材である、[6]または[7]に記載の積層体。
[9]: フィルムを製造する工程と、延伸する工程を有する、[1]~[5]に記載の延伸フィルムの製造方法。
[10]: 前記フィルムを製造する工程が、前記変性ビニルアルコール系重合体を含む塗工液を塗工してフィルムを得る工程を含む、[9]に記載の延伸フィルムの製造方法。
[11]: 前記延伸する工程が、80~200℃で延伸する工程を含む、[9]または[10]に記載の延伸フィルムの製造方法。
[12]: 前記変性ビニルアルコール系重合体を含有する無延伸のフィルムを製造する工程と、当該無延伸フィルムと基材を積層させて多層構造体を得る工程と、当該多層構造体を延伸する工程を含む、[8]に記載の積層体の製造方法。
本発明の変性ビニルアルコール系重合体を含有する延伸フィルムは高い酸素ガスバリア性を発現する。また、延伸フィルムの材料となる延伸原反が延伸性に優れるため、延伸フィルムを製造しやすい。
本発明の延伸フィルムに含有される変性ビニルアルコール系重合体は下記式(I)で表される。
Figure 2022120387000002
[式(I)において、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表す。]
前記変性ビニルアルコール系重合体は、エチレン単位[式(I)左端に示す単位]を含有する。エチレン単位によって当該重合体に高い酸素ガスバリア性を付与でき、特に高湿度下でも高い酸素ガスバリア性を付与できる。
前記変性ビニルアルコール系重合体は、側鎖にXを含有する単量体単位[式(I)中央に示す単位](以下、Xを含む単量体単位と称することがある)を含有する。Xを含む単量体単位によって当該重合体に水溶性と酸素ガスバリア性を付与できる。
前記変性ビニルアルコール系重合体は、側鎖にY及びZを含有する単量体単位[式(I)右端に示す単位](以下、Y及びZを含む単量体単位と称することがある)を含有する。Y及びZを含む単量体単位を含有することによって当該重合体の結晶性が低下するため、水溶性、粘度安定性及び溶融成形性などの取り扱い性が向上する。一方、通常、結晶性が低下するとビニルアルコール系重合体の酸素ガスバリア性が低下するが、驚くべきことに、前記変性ビニルアルコール系重合体では酸素ガスバリア性を維持でき、特に高湿度下でも高い酸素ガスバリア性を維持する。当該効果は、Y及びZを含む単量体単位が変性ビニルアルコール系重合体の主鎖を構成する4級炭素を1つ含むため運動性が低いことや、当該単量体単位中のY及びZに由来する高い水素結合力に起因するものと考えられる。
式(I)において、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表す。X、Y又はZが水素原子である場合には、式(I)が水酸基を有し、X、Y又はZがホルミル基又はアルカノイル基である場合には、式(I)がエステル基を有する。当該アルカノイル基としては、炭素数が2~5のアルカノイル基であることが好ましく、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基などが好適なものとして例示される。これらの中でも、アセチル基が特に好適である。X、Y及びZは、いずれも、水素原子であること、又は水素原子を含むことが好ましい。
Xを含む単量体単位は、通常、重合体中のビニルエステル単位をケン化することによって得られる。前記変性ビニルアルコール系重合体がXを含む単量体単位として、Xが水素原子であるビニルアルコール単位を含むことが好ましい。また、前記変性ビニルアルコール系重合体がXを含む単量体単位として、Xがホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基であるビニルエステル単位を含むことも好ましい。さらに、前記変性ビニルアルコール系重合体がXを含む単量体単位として、Xが水素原子であるビニルアルコール単位とXがホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基であるビニルエステル単位の双方を含むことがより好ましい。
ケン化を経てXを含む単量体単位を得る場合、ビニルエステル単位としては、単量体の入手のし易さや製造コストを考慮すれば、酢酸ビニル単位が好ましい。例えば、酢酸ビニル単位を有する重合体を部分ケン化した場合、Xを含む単量体単位として、Xが水素原子であるビニルアルコール単位と、Xがアセチル基である酢酸ビニル単位との双方を含む重合体を得ることができる。
前記変性ビニルアルコール系重合体における、Xを含む単量体単位の全量に対する、ビニルアルコール単位の含有量は、80~99.99モル%が好ましい。前記含有量は90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。一方、前記含有量は、99.95モル%以下がより好ましく、99.90モル%以下がさらに好ましい。
前記変性ビニルアルコール系重合体における、Xを含む単量体単位の全量に対する、ビニルエステル単位の含有量は、0.01~20モル%が好ましい。前記含有量は0.05モル%以上がより好ましく、0.10モル%以上がさらに好ましい。一方、前記含有量は、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。
Y及びZを含む単量体単位は、1,3-ジエステル構造を有する不飽和単量体を共重合してからケン化することによっても製造できるし、1,3-ジオール構造を有する不飽和単量体を共重合することによっても製造できる。前記変性ビニルアルコール系重合体がY及びZを含む単量体単位として、Y及びZが水素原子の単位を含むことが好ましい。前記変性ビニルアルコール系重合体がY及びZを含む単量体単位として、Yが水素原子で、Zがホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基である単位を含むことが好ましい。また、前記変性ビニルアルコール系重合体がY及びZを含む単量体単位として、Y及びZがホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基である単位を含むことが好ましい。さらに、前記変性ビニルアルコール系重合体が、Y及びZを含む単量体単位として、Y及びZが水素原子の単位、Yが水素原子で、Zがホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基である単位、及びY及びZがホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基である単位を全て含むことがより好ましい。
ケン化を経てY及びZを含む単量体単位を得る場合、例えば、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン(DAMP)単位を有する重合体を部分ケン化した場合、Y及びZを含む単量体単位として、Y及びZが水素原子である単位と、Yが水素原子でかつZがアセチル基である単位と、Y及びZがアセチル基である単位を含む重合体を得ることができる。
前記変性ビニルアルコール系重合体における、Y及びZの全量に対する、Y及びZのうち水素原子であるものの含有量は、80~99.99モル%が好ましい。前記含有量は90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。一方、前記含有量は、99.95モル%以下がより好ましく、99.90モル%以下がさらに好ましい。
前記変性ビニルアルコール系重合体における、Y及びZの全量に対する、Y及びZのうちホルミル基であるもの及び炭素数2~10のアルカノイル基であるものの合計含有量は、0.01~20モル%が好ましい。前記含有量は0.05モル%以上がより好ましく、0.10モル%以上がさらに好ましい。一方、前記含有量は、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。
式(I)で示される各単量体単位の結合形式に特に制限は無く、本発明の変性ビニルアルコール系重合体はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよいが、製造が容易である観点からランダム共重合体であることが好ましい。
本発明において、変性ビニルアルコール系重合体中の全単量体単位に対する各単量体単位の含有率a(モル%)、b(モル%)及びc(モル%)が下記式(1)~(3)を満足する必要がある。
4≦a≦20 (1)
0.8≦c≦20 (2)
[100-(a+c)]×0.9≦b≦[100-(a+c)] (3)
上記式(1)及び(3)におけるaは、全単量体単位に対するエチレン単位の含有率(モル%)である。含有率aは4モル%以上20モル%以下である。4モル%以上とすることにより、相対湿度が70%程度以上の高湿度において優れた酸素ガスバリア性を示す。また、延伸性が向上し、延伸後の酸素ガスバリア性も十分発揮される。この観点から、含有率aは好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは6モル%以上であり、さらに好ましくは7モル%以上であり、特に好ましくは8モル%以上である。一方、20モル%を越える場合にはポリビニルアルコール系重合体の水溶性が低下するとともに、水溶液安定性が悪化するといった問題がある。含有率aは好ましくは19モル%以下であり、より好ましくは18モル%以下であり、特に好ましくは17モル%以下である。含有率a、b及びcは核磁気共鳴(NMR)法によって求めることができる。
上記式(2)及び式(3)におけるcは、全単量体単位に対する、Y及びZを含む単量体単位の含有率(モル%)である。含有率cは0.8~20モル%である。含有率cが0.8モル%以上であることにより、前記変性ビニルアルコール系重合体の結晶性が低下し、延伸性が向上する。また、融点が下がるために延伸温度をより低温で行うことができる。これらの観点から、含有率cは好ましくは2%以上であり、より好ましくは3モル%以上である。一方、含有率cが15モル%を超えると、重合速度が著しく低下するため、工業的に合成することが困難となる傾向がある。また、酸素ガスバリア性が低下することがある。含有率cは好ましくは12モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下である。
上記式(3)におけるbは、全単量体単位に対するXを含む単量体単位の含有率(モル%)である。すなわち、上記式(3)によれば、本発明の変性ビニルアルコール系重合体においては、エチレン単位とY及びZを含む単量体単位以外の単量体単位のうちの90モル%以上がXを含む単量体単位となる。Xを含む単量体単位としては例えば、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位などが挙げられる。式(3)を満足しない場合、酸素ガスバリア性が不十分となる。好適には下記式(3’)を満足し、より好適には下記式(3”)を満足する。
[100-(a+c)]×0.95≦b≦[100-(a+c)] (3’)
[100-(a+c)]×0.98≦b≦[100-(a+c)] (3”)
前記変性ビニルアルコール系重合体の数平均重合度が300以上1400以下であることが好ましい。数平均重合度が300以上であることによって本発明の変性ビニルアルコール系重合体、前記重合体を用いて得られるフィルムの強度が向上する。また、延伸性が良好となる傾向がある。数平均重合度はより好ましくは350以上であり、さらに好ましくは400以上である。一方、数平均重合度が1400以下である場合、変性ビニルアルコール系重合体の溶液の粘度が高くなり過ぎないため、取り扱い性が向上する。数平均重合度はより好ましくは1300以下であり、さらに好ましくは1200以下である。数平均重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。具体的には実施例に記載された方法により数平均重合度が求められる。このとき、単分散ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標品とし、移動相として20ミリモル/リットルのトリフルオロ酢酸ナトリウムを加えたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、40℃で測定を行う。数平均重合度は例えばラジカル重合により重合体を作製する場合の溶媒量や、連鎖移動剤の添加により調整できる。
前記変性ビニルアルコール系重合体のけん化度は特に限定されないが、80~99.99モル%であることが好ましい。けん化度が80モル%未満の場合には十分な酸素ガスバリア性は得られないおそれがある。けん化度は90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。一方、けん化度が99.99モル%を越えるものは工業的に得ることが困難である場合がある。けん化度は99.95モル%以下がより好ましく、99.90モル%以下がさらに好ましい。本発明においてけん化度は、下記式(5)に示すDSで定義され、具体的には、NMRの測定結果から算出される。
DS=[(X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数)/(X、Y及びZの合計モル数)]×100 (5)
ここで、「X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数」は、水酸基のモル数を示し、「X、Y及びZの合計モル数」は、水酸基とエステル基の合計モル数を示す。
前記変性ビニルアルコール系重合体の製造方法は特に制限はない。例えば、エチレン、下記式(II)で示されるビニルエステル、及び下記式(III)で示される不飽和単量体をラジカル重合させて下記式(IV)で示される変性エチレン-ビニルエステル共重合体を得た後に、それをケン化する方法が挙げられる。下記式(IV)で示される変性エチレン-ビニルエステル共重合体における各単量体単位の結合形式に特に制限は無く、当該共重合体はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよいが、製造が容易である観点からランダム共重合体であることが好ましい。
Figure 2022120387000003
式(II)中、Rは、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1~4である。式(II)で示されるビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニルなどが例示される。経済的観点からは酢酸ビニルが特に好ましい。
Figure 2022120387000004
式(III)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1~4である。式(III)で示される不飽和単量体としては、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン(DAMP)、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパンなどが挙げられる。中でも、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン(DAMP)が、製造が容易な点から好ましく用いられる。
Figure 2022120387000005
[式(IV)中、R、R及びRは、式(II)及び(III)に同じである。式(IV)中、aはエチレン単位の含有率(モル%)を示し、bは式(II)で示されるビニルエステル由来の単位の含有率(モル%)を示し、cは式(III)で示される不飽和単量体由来の単位の含有率(モル%)を示す。]
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)で示される不飽和単量体とを共重合して、式(IV)で示される変性エチレン-ビニルエステル共重合体を製造する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。また、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を採用できる。無溶媒又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度の変性エチレン-ビニルエステル共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。
溶液重合法において用いられる溶媒は特に限定されないが、アルコールが好適に用いられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールがより好適に用いられる。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とする変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度や、溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は、0.01~10の範囲、好ましくは0.05~3の範囲から選択される。
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)で示される不飽和単量体とを共重合する際に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤としては、例えば2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、過酸化アセチルなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて使用してもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて調整される。重合開始剤の使用量は、上記式(II)で示されるビニルエステルに対して0.01~0.2モル%が好ましく、0.02~0.15モル%がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温~150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)で示される不飽和単量体とを共重合する際には、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、連鎖移動剤の存在下で共重合してもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2-ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などが挙げられる。なかでも、アルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。重合反応液への連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とする変性エチレン-ビニルエステル共重合体の重合度に応じて決定されるが、一般に上記式(II)で示されるビニルエステル100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
こうして得られた変性エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化して、本発明の変性ビニルアルコール系重合体を得ることができる。このとき、共重合体中の式(II)で示されるビニルエステルに由来するビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、式(III)で示される不飽和単量体に由来するエステル結合も同時に加水分解され、1,3-ジオール構造に変換される。このように、一度のケン化反応によって種類の異なるエステル基を同時に加水分解することができる。
前記変性エチレン-ビニルエステル共重合体のケン化方法としては、公知の方法を採用できる。ケン化反応は、通常、アルコール又は含水アルコールの溶液中で行われる。このとき好適に使用されるアルコールは、メタノール、エタノールなどの低級アルコールであり、特に好ましくはメタノールである。ケン化反応に使用されるアルコール又は含水アルコールは、その質量の40質量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの他の溶媒を含んでもよい。ケン化に使用される触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。ケン化を行う温度は限定されないが、20~120℃の範囲が好適である。ケン化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、変性ビニルアルコール系重合体を得ることができる。
前記変性ビニルアルコール系重合体は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、エチレン、上記式(II)で示されるビニルエステル、及び上記式(III)で示される不飽和単量体と共重合可能な、他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含んでもよい。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
前記変性ビニルアルコール系重合体は、本発明の性能を損なわない範囲であれば、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基またはこれらの塩を側鎖または分子末端に有しても良い。その変性量は通常、本発明の変性ビニルアルコール系重合体の全単量体単位に対して0.05~10モル%である。
本発明の延伸フィルムは、前記変性ビニルアルコール系重合体のみを単独で含んで構成されてもよいが、前記変性ビニルアルコール系重合体に加えて他の重合体や添加剤を配合した組成物で構成されてもよい。
他の重合体としては、例えばY及びZを含む単量体単位を含まないポリビニルアルコール及びエチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。添加剤としては例えば無機塩、有機塩、架橋剤、溶媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、防黴剤、防腐剤などが挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
前記組成物としては例えば、前記変性ビニルアルコール系重合体と酢酸ナトリウムとを含有する組成物が挙げられる。このときの前記組成物中の酢酸ナトリウムの含有量は好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.02~1質量%、さらに好ましくは0.03~0.5質量%、最も好ましくは0.35~0.45質量%である。当該含有量がこのような範囲であることにより酸素ガスバリア性がさらに向上する。本発明の変性ビニルアルコール系重合体と酢酸ナトリウムを混合して組成物としても良いし、本発明の変性ビニルアルコール系重合体の製造時のケン化工程で生じる酢酸ナトリウムを残存させて用いてもよい。
前記組成物としては例えば、前記変性ビニルアルコール系重合体と公知の架橋剤とを含有する組成物も挙げられる。架橋剤を含むことで組成物に耐水性を付与することができる。架橋剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シリカ化合物、アルミ化合物、硼素化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられるが、コロイダルシリカ、アルキルシリケート等シリカ化合物、ジルコニウム化合物が好適に用いられる。前記組成物中の架橋剤の含有量は、本発明の特徴を損なわない程度であれば特に制限はないが、前記変性ポリビニルアルコール系重合体100質量部に対して通常1~60質量部である。架橋剤の含有量が60質量部を越える場合は、酸素ガスバリア性に悪影響を与えることがある。架橋剤は、前述の酢酸ナトリウムと併存してもよい。
前記組成物中の前記変性ビニルアルコール系重合体の含有量は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましく、80質量%以上が最も好ましい。
本発明の延伸フィルムを得るにあたり、延伸に供するための無延伸フィルムを作製してもよい。無延伸フィルムの作製方法は特に制限がなく、押出成形、プレス成形、コーティング成形などの公知の方法が採用できる。例えば、前記組成物をコーティング剤として使用し、コーティング成形により、無延伸フィルムを得ることができる。コーティング剤は、本発明の変性ビニルアルコール系重合体及び溶媒を含むコーティング剤であって、前記溶媒が水又は炭素数1~4の脂肪族アルコールの少なくとも1つからなるものである。
前記コーティング剤中の前記変性ビニルアルコール系重合体の濃度は特に制限はないが、5~50質量%が好ましい。前記濃度が5質量%未満では乾燥負荷が大きくなることがある。前記濃度は8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。一方、前記濃度が50質量%を越える場合には粘度が高くなりすぎて取り扱い性が問題となることがある。
前記脂肪族アルコールは水溶性であれば特に制限はないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等が好適に用いられる。前記変性ビニルアルコール系重合体の溶解度をさらに高める点から、前記コーティング剤に用いられる溶媒が水、又は水と前記脂肪族アルコールとの混合液であることが好ましい。同様の観点から、前記コーティング剤中の全溶媒に占める前記脂肪族アルコールの割合の上限は好ましくは50質量%であり、より好ましくは40質量%であり、さらに好ましくは20質量%であり、特に好ましくは10質量%である。一方、前記コーティング剤が前記脂肪族アルコールを含む場合、その含有量の下限は特に制限されないが、好ましくは0.5質量%であり、より好ましくは1質量%であり、さらに好ましくは2質量%である。
前記コーティング剤は、前記変性ビニルアルコール系重合体及び溶媒以外の他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤の好ましい例としては、界面活性剤、レベリング剤等が挙げられる。前記コーティング剤中の前記変性ビニルアルコール系重合体及び溶媒以外の成分の含有量は通常30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。
塗工時の前記コーティング剤の温度は20℃~80℃が好適である。塗工方法としては、グラビアロールコーティング法、リバースグラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ワイヤーバーコーティング法等の公知の方法が好適に用いられる。
本発明の延伸フィルムは、酸素ガスバリア性に優れる。本発明の延伸フィルムの酸素透過量(OTR)[cc・20μm/(m2・day・atm)]の値は、好ましくは70以下、より好ましくは50以下である。酸素透過量(OTR)は実施例に記載の方法で測定できる。
本発明の延伸フィルムにおいて、延伸原反は延伸性に優れる。延伸倍率は、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上である。延伸倍率は実施例に記載の方法で測定できる。
本発明の延伸フィルムを製造する方法は特に限定されない。例えば、前記変性ビニルアルコール系重合体からなる無延伸フィルムを得て、当該フィルムを延伸原反として延伸することで延伸フィルムを得ることができる。
コーティング成形により前記無延伸フィルムを得る場合、塗膜が形成された後、直ちに延伸が施されてもよいが、延伸工程前にいったん100℃以下に冷却することが好ましい。延伸温度は例えば80~230℃から好適に選ばれるが、通常は後述する熱処理温度、熱固定温度と同じ温度又はそれ以下である。延伸温度は好ましくは80~200℃である。延伸温度の上限値は好ましくは180℃、より好ましくは150℃である。延伸温度の下限値は好ましくは85℃、より好ましくは90℃である。
延伸を行う際の延伸方向は成膜方向に向かって縦、横どちらでも良く、また縦横両方に二軸延伸を行ってもよい。この場合縦と横の延伸倍率や、延伸の順序等に制限はなく、また、縦、横の延伸によって延伸温度を変えることも何ら妨げない。好適には横一軸延伸あるいは縦横同時二軸延伸である。延伸倍率は例えば2~10倍とすることができる。延伸倍率は、3倍以上であることが好ましく、より好ましくは5倍以上である。この場合の延伸倍率は延伸前の延伸部分の長さと延伸後の延伸部分の長さから求めた値である。延伸倍率は30倍以下であることが好ましく、さらには20倍以下であることが好ましい。
延伸を行う前に、熱処理を行うことが好ましい。熱処理とは延伸工程の前に延伸原反を所定時間加熱する工程を指す。熱処理温度は80℃以上であることが好ましく、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上であることが好ましい。一方、230℃以上になると融解する恐れがあるため220℃以下であることが好ましく、より好ましくは210℃以下、さらに好ましくは200℃以下、特に好ましくは190℃以下である。熱処理の時間は延伸原反がその熱処理温度に達すれば良く、特に制限はないが、10秒から10分程度である。熱処理は好適には空気中で行われる。
また、延伸を行った後に、熱固定を行うことが好ましい。熱固定とは延伸直後に延伸フィルムを所定時間加熱することである。熱固定温度は80℃以上であることが好ましく、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上であることが好ましい。一方、230℃以上になると融解する恐れがあるため220℃以下であることが好ましく、より好ましくは210℃以下、さらに好ましくは200℃以下、特に好ましくは190℃以下である。熱固定の時間は、特に制限はないが、10秒から10分程度である。熱固定は好適には空気中で行われる。
本発明の延伸フィルムの厚みは特に限定されないが、0.1μm~50μmが好ましい。0.1μm未満の場合は、フィルムの機械強度が不満足なものとなり、ピンホール等が発生しやすくなることがある。50μmを超えると、延伸原反の厚みが大きくなるため、均一な延伸が難しくなる。フィルムの厚みはより好適には1~40μmであり、特に好適には5~20μmである。なお、延伸原反の厚みは0.3μm~400μmが好ましく、10μm~200μmがより好ましい。
本発明の積層体は、前記変性ビニルアルコール系重合体からなる延伸フィルムと、基材を含むものである。一態様では、積層体は、本発明の延伸フィルムと基材を用いて形成することができる。例えば、前記変性ビニルアルコール系重合体からなる無延伸フィルムを延伸原反として延伸して延伸フィルムを得て、当該延伸フィルムと基材とを公知の接着剤を用いてラミネートする方法(いわゆるドライラミネート法)によって積層して積層体を得ることができる。また別の一態様では、前記変性ビニルアルコール系重合体からなる無延伸フィルムと基材とで構成される多層構造体を延伸原反として延伸し、積層体を得ることができる。
基材としては、フィルム状のものやシート状のものが挙げられる。また、基材としては、ポリマー基材が挙げられる。ポリマー基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びナイロンのいずれかで構成されるポリマー基材が好ましい。基材の厚みは、1~3000μmが好ましく、2~1000μmがより好ましく、5~100μmがさらに好ましい。特に延伸後において、前記厚みの範囲にあることが好ましい。なお、コーティング成形により前記無延伸フィルムを得た場合、コーティングに用いた基材をそのまま基材として用いてもよいし、別の基材を用いてもよい。
本発明の積層体は、2層であってもよく、3層以上であっても良い。本発明の延伸フィルムからなる層をE、接着性樹脂からなる層をAd、前記基材からなる層をTで表わすと、E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T等が挙げられるが、これに限定されない。それぞれの層は単層であってもよいし、場合によっては多層であってもよい。さらに、E、Ad及びT以外の別の層を含んでいてもよい。
前記変性ビニルアルコール系重合体又は当該重合体を含む組成物にとって、最も良好な延伸条件で延伸を行うことができる観点から、前記変性ビニルアルコール系重合体からなる無延伸フィルムを延伸原反として延伸することが好ましい。延伸原反が単層であることから、延伸原反にとって良好な条件で延伸することが容易であり、ガスバリア性および耐クラック性をさらに向上させることが可能である。また、基材を延伸する必要がないため、延伸に適さない基材も使用することができる。
一方で、延伸原反として前記多層構造体を用いることもできる。この場合は、前記無延伸フィルムと前記基材を同時に延伸する必要があるため、必ずしも前記ビニルアルコール系重合体からなる無延伸フィルムにとって最適な延伸条件で延伸することができないことがある。この点、前記無延伸フィルムは、80℃以上120℃以下の延伸温度領域での延伸を可能となるように調整が可能なため、様々な異種材料である基材と積層された多層構造体の状態での延伸が可能であり、効率よく、本発明の積層体を製造することができる。
また、延伸原反として多層構造体を用いる場合、基材も同時に延伸できるため製造効率に優れる傾向があり、基材も延伸したい場合に適する。また、積層体に無延伸の層を用いたい場合は、多層構造体の延伸後にさらに別の無延伸の層を積層する工程を設けてもよい。
本発明の積層体において、前記変性ビニルアルコール系重合体からなる延伸フィルムと、基材との間には、接着性を向上させる目的で、接着性成分層を形成せしめてもよい。接着性成分は、例えば、コーティング成形を行う場合は、前述のコーティング剤を塗工する前に、コーティングを行う基材フィルムの表面に塗布して使用することができる。また、接着性成分をコーティング剤に混合して使用しても良い。接着剤の種類は特に制限無く従来公知のものが好適に用いられるが、有機チタン化合物系、イソシアネート系、ウレタン系、ポリエステル系、イミン系等が用いられる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を表す。
[各単量体単位の含有率a、b及びcの算出]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、合成例で得られたポリマーA~HのH-NMRを、重水素化ジメチルスルホキシド中、80℃で測定し、当該重合体における各単量体単位の含有率a(モル%)、b(モル%)、c(モル%)を定量した。
[数平均重合度]
東ソー株式会社製サイズ排除高速液体クロマトグラフィー装置「HLC-8320GPC」を用い、重合体の数平均分子量(Mn)を測定した。測定条件は以下の通りである。
カラム:東ソー株式会社製HFIP系カラム「GMHHR-H(S)」2本直列接続
標準試料:ポリメチルメタクリレート
溶媒及び移動相:トリフルオロ酢酸ナトリウム-HFIP溶液(濃度20mM)
流量:0.2mL/min
温度:40℃
試料溶液濃度:0.1質量%(開口径0.45μmフィルターでろ過)
注入量:10μL
検出器:RI
重合体の数平均重合度Pnは以下の式により求めた。
Pn=Mn×100/(28×a+44×b+88×c)
[けん化度]
重合体において、H-NMRの測定結果から、下記式(1)に示すDSで定義されるけん化度を算出した。
DS=[(X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数)/(X、Y及びZの合計モル数)]×100 (1)
ここで、「X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数」は、変性ビニルアルコール系重合体中の水酸基のモル数を示し、「X、Y及びZの合計モル数」は、当該重合体中の水酸基とエステル基の合計モル数を示す。
[変性ビニルアルコール系重合体の合成例]
<合成例1:ポリマーA>
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口及び溶液フィード口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル1.2kg、メタノール1.4kg及び1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン(DAMP)0.024kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。
別途フィード溶液用にDAMPをメタノールに溶解した濃度42g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行った。さらに別途ラジカル重合開始剤として2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)をメタノールに溶解した濃度20g/Lの開始剤溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。
次いで上記加圧反応槽に、反応槽圧力が0.8MPaとなるようにエチレンを導入した。上記の加圧反応槽の内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液120mLを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持し、DAMPのメタノール溶液をフィードして重合を実施した。重合率が40%となったことを確認した後、冷却して重合を停止した。重合停止までのDAMPのメタノール溶液(濃度42g/L)のフィード量は計470mLであった。
加圧反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去し変性エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、「変性PVAc」ともいう。)のメタノール溶液とした。次に、これにメタノールを加えて調製した変性PVAcのメタノール溶液438質量部(溶液中の変性PVAc100質量部)に、62.0質量部の水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度15.0%)を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液の変性PVAc濃度20%、変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.2)。アルカリ添加後約1分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。
フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のケン化物にメタノール900gと水100gの混合溶媒を加えて室温で3時間放置し、洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたケン化物を乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥された変性ビニルアルコール系重合体を得た。
得られた変性ビニルアルコール系重合体の数平均重合度Mnは450、けん化度は99.4モル%、エチレン単位の含有率aは8.3モル%、DAMP由来の単位の含有率cは3モル%であった。また、酢酸ビニル単位とビニルアルコール単位の合計の含有率bは88.7モル%であった。結果を表1に示す。
<合成例2~9:ポリマーB~I>
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時のエチレン圧、重合時に使用するコモノマーの添加量等の重合条件、けん化時における酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示すように変更したこと以外は、ポリマーAと同様の方法により各種変性ビニルアルコール系重合体を製造した。また、各種変性ビニルアルコール系重合体の変性量、けん化度、数平均重合度を表1に示す。
[コロナ処理]
無延伸フィルムを塗工する材料又は積層体製造時のポリマー基材として、以下の材料を用いた。
・厚み12μmのPETフィルム (東レ製 ルミラー #12 S-10)
・厚み100μmの無延伸プロピレンフィルム(CPP) (東洋紡製 パイレンP1111)
なお基材に対しては、KASUGA製AGL-B01Lを用いて、照射条件1200W・min/m2でコロナ処理を実施した上で使用した。
[延伸性]
各実施例で得られた重合体からなるフィルム(実施例8では積層体)を、実施例に記載の特定の延伸温度で5分間予熱し、同じ温度で、延伸速度50mm/秒で一軸延伸を行い、0.5倍刻みで延伸を行った際の延伸切れが生じなかった最大の倍率を最大延伸倍率とした。
また、3倍延伸時のフィルムの外観を目視観察し、以下の基準で評価を行った。
(3倍延伸性)
A・・・外観良好である
B・・・一部クラックがみられた
C・・・3倍延伸時に破断した
[酸素ガスバリア性]
酸素透過量(OTR)を酸素ガスバリア性の指標とした。OTRの値が低いほど酸素ガスバリア性が高いと言える。OTRの値の単位は[cc.20μm/(m・day・atm)]である。
延伸前のフィルム(実施例8では積層体)のOTR(X)と3倍延伸時に得られたフィルム(実施例8では積層体)のOTR(Y)は、いずれも当該フィルムを温度20℃,相対湿度90%の状態で7日間調湿した後、測定した。
具体的な測定は次の通り行った。酸素ガス透過量測定装置OX-TRAN 2/21(モコン社製)を用いて当該フィルムの酸素透過量(OTR)として値F1[cc/(m・day・atm)]を得た。測定後、当該フィルムの膜厚T(μm)を、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁式膜厚計SAMAC-PRоを用いて測定した。
その後下記式(1)を用いて20μm換算後のOTRの値A[cc.20μm/(m・day・atm)]を求めた。
A=F1×T/20 (1)
実施例8の積層体の酸素ガスバリア性測定時には、積層体全体のOTR実測値をF[cc/(m・day・atm)]とし、下記式(2)からF1を求めた後、式(1)を用いて、変性ビニルアルコール系重合体層の厚みが20μmである場合の当該層のOTRとして値A[cc.20μm/(m・day・atm)]を求めた。
以下の式(2)における各記号の意味は以下の通りである。
・多層フィルム全体のOTR実測値:F[cc/(m・day・atm)]
・変性ビニルアルコール系重合体層のOTR:F1[cc/(m・day・atm)]
・ポリプロピレンフィルムのOTR実測値:F2[cc/(m・day・atm)]
(1/F)=(1/F1)+(1/F2) (2)
<実施例1>
重合体としてポリマーAを用いた。
ポリマーAを、固形分濃度10重量%になるように、水とイソプロピルアルコールを9対1の重量比で混合した混合溶媒に溶解させ、塗工液を得た。得られた塗工液をPETフィルム上に可変式アプリケーター(YOSHIMITSU製)にて塗工を行い、乾燥温度60℃で1時間乾燥させ、PETフィルムから剥離させることで、延伸原反となる、厚み50μmの無延伸の単層フィルムを得た。
得られた単層フィルムのOTRを測定し、延伸前のフィルムのOTR(X)として、85[cc・20μm/(m2・day・atm)]の値を得た。
また、得られた無延伸の単層フィルムをダンベル状(2cm×10cm)にカットし、チャック間距離500mmに固定し、手動延伸治具装置にセットして、熱風乾燥機内にて120℃で5分間熱処理をし、同じ120℃の温度で、延伸速度50mm/秒でフィルムの長手方向に一軸延伸を行った。その結果、5倍以上延伸しても延伸切れは発生しなかった。
また、無延伸のフィルムを10cm×10cmのフィルムにカットし、延伸装置にセットして、熱風乾燥機内にて120℃で5分間熱処理をし、同じ120℃の温度で、延伸速度50mm/秒、延伸倍率3倍で一軸延伸を行い、得られた延伸フィルムのOTRを評価した。3倍延伸時に得られたフィルムのOTR(Y)として、41[cc・20μm/(m2・day・atm)]の値を得た。
<実施例2>
用いる重合体をポリマーBに変更した以外は、実施例1に記載した条件にてフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<実施例3>
用いる重合体をポリマーCに変更した以外は、実施例1に記載した条件にてフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<実施例4>
用いる重合体をポリマーCに変更し、延伸温度を150℃に変更した以外は、実施例1に記載した条件にてフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<実施例5>
用いる重合体をポリマーDに変更した以外は、実施例1に記載した条件にてフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<実施例6>
用いる重合体をポリマーEに変更した以外は、実施例1に記載した条件にてフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<実施例7>
用いる重合体をポリマーCに変更し、延伸時の温度を90℃に変更した以外は、実施例1に記載した条件にてフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<実施例8>
重合体としてポリマーAを用いた。
ポリマーAを、固形分濃度10重量%になるように、水とイソプロピルアルコールを9対1の重量比で混合した混合溶媒に溶解させ、塗工液を得た。得られた塗工液を、コロナ照射を行った無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)上に可変式アプリケーター(YOSHIMITSU製)にて塗工を行い、乾燥温度60℃で1時間乾燥させて、延伸原反となる、厚み150μmの多層構造体(ポリマーAからなる層の厚みは50μm)を得た。得られた多層構造体のOTRを測定したところ、OTR(X)は85[cc・20μm/(m2・day・atm)]であった。次に、得られた多層構造体をダンベル状(2×10cm)にカットし、チャック間距離500mmに固定し、手動延伸冶具装置にセットして、熱風乾燥機内にて120℃で5分間熱処理をし、同じ120℃の温度で、延伸速度50mm/秒でフィルムの長手方向に一軸延伸を行った。その結果、5倍以上延伸しても延伸切れは発生しなかった。
また、無延伸の多層構造体を10cm×10cmのフィルムにカットし、延伸装置にセットして、熱風乾燥機内にて120℃で5分間熱処理をし、同じ120℃の温度で、延伸速度50mm/秒、延伸倍率3倍で一軸延伸を行い、得られた積層体を基にOTRを評価した。3倍延伸時に得られた積層体において、変性ビニルアルコール系重合体からなる層のOTR(Y)は35[cc・20μm/(m2・day・atm)]を示した。
<比較例1>
用いる重合体をポリマーFに変更した以外は、実施例1で記載した方法でフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<比較例2>
用いる重合体をポリマーFに変更し、延伸時の温度を150℃に変更した以外は、実施例1で記載した方法でフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<比較例3>
用いる重合体をポリマーGに変更した以外は実施例1に記載した方法でフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<比較例4>
用いる重合体をポリマーHに変更した以外は、実施例1で記載した方法でフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
<比較例5>
用いる重合体をポリマーIに変更した以外は、実施例1で記載した方法でフィルム作製及び延伸試験を実施した。結果を表2に示した。
エチレン単位の含有率が4~20モル%の範囲内であり、DAMP由来の単位の含有率が0.8~20モル%の範囲内である変性ビニルアルコール系重合体を含有する本発明の延伸フィルム(実施例1~7)は延伸性が良好で、その結果、配向が進み延伸後の酸素ガスバリア性に優れた。また上記に加えて、本発明の実施例7の延伸フィルムによれば、120℃未満の低温でも延伸が可能で、酸素ガスバリア性も向上することが分かる。さらに実施例8によれば、無延伸フィルムと基材とを含んでなる多層構造体の状態での延伸が可能であり、かつ酸素ガスバリア性も優れることが分かる。
一方、DAMP由来の単位の含有率が0.8モル%未満である(比較例1~3)場合、延伸時にクラックや延伸切れが発生し、延伸時の酸素ガスバリア性は測定に適さなかった。仮に測定したとしても延伸後の酸素ガスバリア性が十分ではないと判断できる。
比較例4および5の場合、延伸性は比較的良好であるが、エチレン単位が4モル%未満であるため、延伸前の酸素ガスバリア性が悪く、延伸後の酸素ガスバリア性も十分な値が得られなかった。
Figure 2022120387000006
Figure 2022120387000007

Claims (12)

  1. 変性ビニルアルコール系重合体を含有する延伸フィルムであって、
    当該変性ビニルアルコール系重合体は、下記式(I)で表され、全単量体単位に対する各単量体単位の含有率a(モル%)、b(モル%)及びc(モル%)が下記式(1)~(3)を満足する、延伸フィルム。
    4≦a≦20 (1)
    0.8≦c≦20 (2)
    [100-(a+c)]×0.9≦b≦[100-(a+c)] (3)
    Figure 2022120387000008
    [式(I)中、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表す。]
  2. 前記ポリビニルアルコール系重合体の重合度が300以上1400以下である、請求項1に記載の延伸フィルム。
  3. 前記ポリビニルアルコール系重合体のけん化度が80%以上である、請求項1または2に記載の延伸フィルム。
  4. 膜厚が0.1μm~50μmである、請求項1~3に記載の延伸フィルム。
  5. 延伸倍率が2~10倍である、請求項1~4のいずれかに記載の延伸フィルム。
  6. 請求項1~5に記載の延伸フィルムと、基材とを含む積層体。
  7. 前記基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びナイロンのいずれかで構成されるポリマー基材である、請求項6に記載の積層体。
  8. 前記基材が延伸された基材である、請求項6または7に記載の積層体。
  9. フィルムを製造する工程と、延伸する工程を有する、請求項1~5に記載の延伸フィルムの製造方法。
  10. 前記フィルムを製造する工程が、前記変性ビニルアルコール系重合体を含む塗工液を塗工してフィルムを得る工程を含む、請求項9に記載の延伸フィルムの製造方法。
  11. 前記延伸する工程が、80~200℃で延伸する工程を含む、請求項9または10に記載の延伸フィルムの製造方法。
  12. 前記変性ビニルアルコール系重合体を含有する無延伸のフィルムを製造する工程と、当該無延伸フィルムと基材を積層させて多層構造体を得る工程と、当該多層構造体を延伸する工程を含む、請求項8に記載の積層体の製造方法。
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