JP2022099829A - ポリプロピレン系グラフト重合体、熱可塑性樹脂組成物およびその成形品 - Google Patents

ポリプロピレン系グラフト重合体、熱可塑性樹脂組成物およびその成形品 Download PDF

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Abstract

【課題】熱可塑性樹脂本来の耐衝撃性などの機械的特性を保持ないし向上させつつ、外観に優れた熱可塑性樹脂成形品を提供することができ、ポリプロピレン系樹脂との二色成形などによる密着強度が高く、優れた二色成形品を提供することができるポリプロピレン系グラフト重合体及び熱可塑性樹脂組成物とその成形品を提供する。【解決手段】ポリプロピレン樹脂(A)100質量部と酸変性オレフィン樹脂(B)5~25質量部とを含む、体積平均粒子径が50~850nmのポリプロピレン系樹脂粒子(C)に、ビニル系単量体(D)をグラフト重合してなるポリプロピレン系グラフト重合体。このポリプロピレン系グラフト重合体を含む熱可塑性樹脂組成物。この熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリプロピレン系グラフト重合体と、このポリプロピレン系グラフト重合体を含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関するものである。
ポリプロピレンは優れた性能を保持しているものの、他樹脂との相性はよくないため、他樹脂との相溶化剤やポリプロピレン自体の改質などについて、例えば、下記の特許文献1~3等に開示されるように種々検討がなされてきた。
特許文献1には、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物および特定の官能基を有する芳香族ビニル化合物を重合して得られる芳香族系ランダム共重合体が開示され、このものが、他の樹脂の改質剤、または、ポリオレフィン等より選ばれた樹脂とABS等のスチレン系樹脂とのポリマーアロイの相溶化剤としても有用であることが開示されている。
特許文献2には、水酸基を有するα,β-不飽和カルボン酸エステルと芳香族ビニル化合物とをグラフト共重合工程に付して得られる変性プロピレン系重合体と、それとは異なる水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基及びアミノ基から選ばれる極性基を有するプロピレン系重合体とを混合してなる塗装用ポリプロピレン系樹脂組成物が開示され、このものが、塗装時、プライマーの塗布及び/又はトリクロロエタン等の有機溶剤洗浄を必要とすることなく、優れた塗料付着性及び高い機械的強度を有することが開示されている。
特許文献3には、ポリプロピレン系樹脂粒子を核にして、スチレンを重合させることで得られるスチレン改質ポリプロピレン系樹脂粒子が開示され、これにより、機械特性や耐薬品性などに優れるスチレン改質ポリプロピレン系樹脂発泡成形体を提供できることが開示されている。
特開平6-279545号公報 特開平8-60076号公報 特開2011-58008号公報
上記のように、従来、ポリプロピレンの改質や他樹脂との相溶化剤について種々提案がなされているが、特許文献1,2の技術では、相溶化剤や改質剤としての衝撃強度、塗装性の向上にはある程度の効果があるものの未だ不十分である。
また、特許文献3の技術は、ポリプロピレン系樹脂粒子にスチレンを含浸させた後重合を行うものであるが、ポリプロピレン系樹脂粒子の中にスチレンを含浸させるため、十分な強度は得られず、また、相溶化剤としての役割も十分なものとは言えなかった。
特に、従来技術では、改質効果、相溶化剤としてポリプロピレン系樹脂と熱可塑性樹脂との二色成形における樹脂同士の接着性などについては十分に満足し得る結果は得られていない。
本発明は、熱可塑性樹脂本来の耐衝撃性などの機械的特性を保持ないし向上させつつ、外観に優れた熱可塑性樹脂成形品を提供することができ、また、ポリプロピレン系樹脂との二色成形において密着強度が高く、優れた二色成形品を提供することができるポリプロピレン系グラフト重合体及び熱可塑性樹脂組成物とその成形品を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、ポリプロピレン樹脂(A)と酸変性オレフィン樹脂(B)とを所定の割合で含む特定の粒子径のポリプロピレン系樹脂粒子(C)に、ビニル系単量体(D)をグラフト重合してなるポリプロピレン系グラフト重合体が、上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1] ポリプロピレン樹脂(A)100質量部と酸変性オレフィン樹脂(B)5~25質量部とを含む、体積平均粒子径が50~850nmのポリプロピレン系樹脂粒子(C)に、ビニル系単量体(D)をグラフト重合してなるポリプロピレン系グラフト重合体。
[2] 前記ポリプロピレン系グラフト重合体のグラフト率が10~70質量%である、[1]に記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
[3] 前記ビニル系単量体(D)100質量%のうち50~90質量%が芳香族ビニル化合物で10~50質量%がシアン化ビニル化合物である、[1]又は[2]に記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
[4] 前記ポリプロピレン系グラフト重合体は、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)30~80質量%の存在下に、ビニル系単量体(D)20~70質量%(ただし、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)とビニル系単量体(D)との合計は100質量%)をグラフト重合して得られる、[1]ないし[3]のいずれかに記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
[5] 前記ポリプロピレン系樹脂粒子(C)は前記ポリプロピレン樹脂(A)と前記酸変性オレフィン樹脂(B)とを溶融混練し、得られた混練物を水性媒体中に分散させてなる、[1]ないし[4]のいずれかに記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載のポリプロピレン系グラフト重合体を含む熱可塑性樹脂組成物。
[7] 前記ポリプロピレン系グラフト重合体の含有量が前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる全樹脂成分100質量%中に3~70質量%である、[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8] [6]又は[7]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
[9] [6]又は[7]の熱可塑性樹脂組成物とポリプロピレン系樹脂とを二色成形してなる二色成形品。
本発明のポリプロピレン系グラフト重合体は、製造安定性に優れ、乳化状態で分散した比較的に小さな粒子径を持つため熱可塑性樹脂への分散性にも優れる。
本発明のポリプロピレン系グラフト重合体を含む熱可塑性樹脂組成物によれば、耐衝撃性などの機械的特性を保持ないし向上させつつ、外観に優れた熱可塑性樹脂成形品を提供することができ、ポリプロピレン系樹脂が使用される製品や部品、例えば、車両内装外装部品を問わず、幅広い用途に有効に用いることができる。
さらに、本発明のポリプロピレン系グラフト重合体を含む熱可塑性樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂との二色成形における密着強度が高く、優れた二色成形品を提供することができるため、接着工程などを不要として高品質の製品を効率的に得ることができる。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[ポリプロピレン系グラフト重合体]
本発明のポリプロピレン系グラフト重合体は、ポリプロピレン樹脂(A)100質量部と酸変性オレフィン樹脂(B)5~25質量部とを含む、体積平均粒子径が50~850nmのポリプロピレン系樹脂粒子(C)に、ビニル系単量体(D)をグラフト重合してなるものであり、本発明のポリプロピレン系グラフト重合体によれば、耐衝撃性、外観に優れた熱可塑性樹脂成形品を得ることができ、さらに、これを含む熱可塑性樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂との二色成形用材料としても好適である。
<ポリプロピレン樹脂(A)>
ポリプロピレン樹脂(A)としては、プロピレン単位を主成分として、全構成単位中に50モル%以上、好ましくは80~100モル%含むものであればよく、プロピレンの単独重合体であるホモ重合体(ホモポリマー)、プロピレンとエチレン、1-ブテン等のα-オレフィンなどの共重合成分とを共重合させたランダム共重合体、プロピレンの単独重合後、プロピレンとエチレン、1-ブテン等のα-オレフィンなどの共重合成分を共重合させたブロック共重合体が挙げられ、これらの何れも用いることができる。
ポリプロピレン樹脂(A)のホモ重合体としては、市販品を使用することができる。上記市販品としては、例えば、(株)プライムポリマー製の製品名:プライムポリプロJ105G、プライムポリプロJ106G、プライムポリプロJ106MG、プライムポリプロJ108M、プライムポリプロJ-700GP、住友化学(株)製の製品名:ノーブレンFS2011DG3、ノーブレンWF836DG3、ノーブレンD101、ノーブレンW101、ノーブレンZ101A等がある。
ポリプロピレン樹脂(A)のランダム共重合体としては、市販品を使用することができる。上記市販品としては、例えば、(株)プライムポリマー製の製品名:プライムポリプロJ226T、プライムポリプロJ229E、プライムポリプロJ-721GR、プライムポリプロJ-2021GR、プライムポリプロJ-2023GR、プライムポリプロJ-2041GA、プライムポリプロJ-3021GR、住友化学(株)製の製品名:ノーブレンFL6632G、ノーブレンFL6737、ノーブレンS131等がある。
ポリプロピレン樹脂(A)のブロック共重合体としては、市販品を使用することができる。上記市販品としては、例えば、(株)プライムポリマー製の製品名:プライムポリプロBJS-MU、プライムポリプロJ704LB、プライムポリプロJ704UG、プライムポリプロU705UG、プライムポリプロJ715M、プライムポリプロJ707G、プライムポリプロJ707EG、プライムポリプロJ830HV、プライムポリプロJ708UG、プライムポリプロJ709QG、住友化学(株)製の製品名:ノーブレンAD571、ノーブレンAW564、ノーブレンAZ564等がある。
ポリプロピレン樹脂(A)の重合度(分子量)は特に限定されないが、JIS K7210に準拠して測定温度230℃、荷重50Nで測定されたメルトマスフローレート(以下、MFRとも記す。)は、40~70g/10分であることが好ましく、45~65g/10分であることがより好ましい。MFRがこの範囲にあることで、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)製造時の乳化状態をより安定的に実現できる。MFRがこの範囲から外れると乳化の形成が不十分となりやすく、乳化状態の安定時間が短くなりやすい。
このようなポリプロピレン樹脂(A)は、1種のみを用いてもよく、物性や共重合成分の種類や共重合組成等の異なるものを2種以上混合して用いることも可能である。
用いるポリプロピレン樹脂(A)は目的に応じて選択することができるが、本発明のポリプロピレン系グラフト重合体の製造に際しては、乳化安定性の面からランダム共重合体、特にプロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体を用いることが好ましい。
<酸変性オレフィン樹脂(B)>
酸変性ポリオレフィン樹脂(B)は、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロペンテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、シクロヘキセン、1-ヘプテン、2-ヘプテン、シクロヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、シクロオクテン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクテン等のオレフィンの1種又は2種以上の重合体又は共重合体であるポリオレフィン樹脂を酸変性したものである。ポリオレフィン樹脂としては、これらの1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよいが、これらの中でも特にポリプロピレンを用いることが好ましい。
上記ポリオレフィン樹脂の酸変性により導入される変性基としては、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基、ヒドロキシ基、チオール基等が好ましく、特にカルボキシル基が好ましい。
酸変性基としてカルボキシル基を導入した酸変性オレフィン樹脂(B)は、ポリオレフィン樹脂をカルボキシル基を有する飽和もしくは不飽和カルボン酸およびその酸無水物基含有化合物により変性することで得ることができる。
カルボキシル基を有する飽和もしくは不飽和カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。酸無水物基含有化合物としては、例えば、無水マレイン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(B)の酸価は1~60mgKOH/gであることが好ましく、5~50mgKOH/gがより好ましい。酸価が1mgKOH/g以上であると乳化状態での安定性が良好となり、60mgKOH/g以下であれば優れた相溶性を得やすい。
また、同様の観点から、例えば、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂の場合、その無水マレイン酸のグラフト量は1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%がより好ましい。無水マレイン酸のグラフト量が1質量%以上であると乳化状態での安定性が良好となり、20質量%以下であれば優れた相溶性を得やすい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(B)としては市販品を用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂(B)の市販品としては、例えば、三洋化成工業(株)製の製品名:ユーメックス1001、三井化学(株)製の製品名:ハイワックスNP0555A、ハイワックスNP50605A等が挙げられる。
酸変性ポリオレフィン樹脂(B)は1種のみを用いてもよく、導入された酸変性基の種類や導入量、酸価、ポリオレフィン樹脂の種類等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(B)は、ポリプロピレン樹脂(A)100質量部に対して5~25質量部用い、この配合量は好ましくは7~22質量部である。ポリプロピレン樹脂(A)100質量部に対して酸変性ポリオレフィン樹脂(B)を5~25質量部含むことで乳化状態が安定化し、これにより熱可塑性樹脂組成物に配合された際の特性の影響を小さくすることができる。
<ポリプロピレン系樹脂粒子(C)>
本発明に係るポリプロピレン系樹脂粒子(C)は、ポリプロピレン樹脂(A)100質量部と酸変性オレフィン樹脂(B)を5~25質量部、好ましくは7~22質量部含むポリプロピレン系樹脂組成物を特定範囲の体積平均粒子径をもった状態で、水性媒体に乳化分散させたものである。
ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の調製方法は、特に限定されない。ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の調製方法としては、例えば、公知の溶融混練手段(ニーダー、バンバリーミキサー、多軸スクリュー押出機等)でポリプロピレン樹脂(A)と酸変性オレフィン樹脂(B)を溶融混練し、機械的せん断力を与えて分散させ、乳化剤を含む水性媒体に添加する方法;ポリプロピレン樹脂(A)と酸変性オレフィン樹脂(B)を炭化水素溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)に乳化剤とともに溶解し、これを水性媒体に添加して乳化させた後、十分に撹拌し、その後炭化水素溶媒を留去する方法;等が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の製造方法としては、有機溶媒を使用せずに生産することで、残留溶媒の臭気や、揮発性物質による健康及び環境への影響を回避できること、さらに、製造中の有機溶媒成分の換気などの特別な設備を必要としないことから、ポリプロピレン樹脂(A)と酸変性オレフィン樹脂(B)を180~240℃程度の温度で溶融混練し、機械的せん断力を与えて分散させ、乳化剤を含む水性媒体に添加する方法が好ましい。
乳化剤としては、公知のものが挙げられる。例えば、長鎖アルキルカルボン酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
乳化剤の添加量は、得られるポリプロピレン系樹脂粒子(C)の熱着色を抑制でき、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の粒子径制御が容易である点から、例えば、乳化剤としてオレイン酸カリウム等のアニオン系乳化剤を用いる場合、ポリプロピレン樹脂(A)100質量部に対して1~15質量部が好ましい。
なお、乳化剤は、溶融混練に先立ち、ポリプロピレン樹脂(A)及び酸変性オレフィン樹脂(B)と共に予め混合しておくことが、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の分散性の向上、乳化状態の安定性の観点から好ましい。
また、溶融混練に際しては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを水溶液として添加する。アルカリ水溶液を添加することで、得られるポリプロピレン系樹脂粒子(C)の体積平均粒子径を制御し易くなる。アルカリは5~20質量%程度の濃度の水溶液として添加することが好ましく、その添加量は、他の条件や所望とする体積平均粒子径によっても異なるが、ポリプロピレン樹脂(A)100質量部に対して1~10質量部程度とすることが好ましい。
ポリプロピレン樹脂(A)と酸変性オレフィン樹脂(B)を溶融混練し、機械的せん断力を与えて分散させて得られる混練物は、60~120℃に冷却した後、水性媒体に添加して乳化させる。水性媒体としては通常水が用いられる。混練物を添加する際の水性媒体の温度は分散性の観点から80~90℃とすることが好ましい。
このようにして得られるポリプロピレン系樹脂粒子(C)の水性分散体の固形分濃度(ポリプロピレン系樹脂粒子(C)濃度)は20~60質量%程度であることが、その後のグラフト重合反応時の取り扱い性、生産性、長期乳化安定性等の観点から好ましい。
本発明において、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の体積平均粒子径は、乳化安定性、熱可塑性樹脂に対する分散性、得られる成形品の物性が優れる点から、50~850nmであり、好ましくは150~750nm、より好ましくは250~650nmである。
ここで、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の体積平均粒子径は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定された値である。
ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の体積平均粒子径を制御する方法としては、乳化剤の種類または添加量、溶融混練時のアルカリ添加や、混練時に加えるせん断力、温度条件等を調整する方法が挙げられる。
<ビニル系単量体(D)>
ビニル系単量体(D)としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ビニル系単量体(D)として、好ましくは芳香族ビニル化合物を含むものであり、さらに、シアン化ビニル化合物を含む単量体混合物であることがより好ましい。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-またはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。得られる成形品の耐衝撃性、外観の点から、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。シアン化ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
芳香族ビニル化合物の含有率は、ビニル系単量体(D)100質量%のうち50~90質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましく、70~80質量%がさらに好ましい。芳香族ビニル化合物の含有率が上記範囲内であれば、得られる成形品の発色性、透明性、耐衝撃性がさらに優れる。
シアン化ビニル化合物の含有率は、ビニル系単量体(D)100質量%のうち10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。シアン化ビニル化合物の含有率が上記範囲内であれば、成形品の耐衝撃性、外観がさらに優れる。
ビニル系単量体(D)としては、芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物の他に、これらと共重合可能な他の単量体を、本発明の効果を損なわない範囲で、例えばビニル系単量体(D)100質量%中に30質量%以下の範囲で含んでもよい。
他の単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等)、マレイミド系化合物(N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等)等が挙げられる。他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<ポリプロピレン系グラフト重合体>
本発明のポリプロピレン系グラフト重合体は、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の存在下に、ビニル系単量体(D)をグラフト重合することによって得られる。
ポリプロピレン系グラフト重合体は、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)30~80質量%の存在下に、ビニル系単量体(D)20~70質量%(ただし、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)とビニル系単量体(D)との合計は100質量%)をグラフト重合して得られたものが、得られる成形品の耐衝撃性、外観に優れる点から好ましい。
ポリプロピレン系グラフト重合体のグラフト率は、得られる成形品の耐衝撃性、外観に優れる点から好ましくは10~70質量%、より好ましくは15~60質量%、さらに好ましくは20~50質量%である。
ここで、グラフト率は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定された値である。
ポリプロピレン系樹脂粒子(C)へのビニル系単量体(D)のグラフト重合法としては、公知の重合法(乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等)が挙げられる。グラフト重合法としては、得られる成形品の耐衝撃性、外観がより一層優れる点から、乳化重合法が特に好ましい。
乳化重合法によるポリプロピレン系グラフト重合体の製造方法としては、例えば、ビニル系単量体(D)に有機過酸化物を混合した上で、ビニル系単量体(D)をポリプロピレン系樹脂粒子(C)の水性分散体に連続的に添加して70~95℃程度でグラフト重合させる方法が挙げられる。有機過酸化物は、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤として用いるのが好ましい。グラフト重合の際には、連鎖移動剤、乳化剤等を状況に応じて用いてもよい。
レドックス系開始剤としては、重合反応条件を高温下にする必要がなく、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の劣化等を避け、得られる成形品の耐衝撃性の低下を回避できる点から、有機過酸化物と硫酸第一鉄-キレート剤-還元剤を組み合わせたものが好ましい。
有機過酸化物としては、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられ、その添加量は、ビニル系単量体(D)100質量部に対して0.5~4質量部程度が好ましい。
レドックス系開始剤としては、クメンヒドロペルオキシドと、硫酸第一鉄と、ピロリン酸ナトリウムと、デキストロース及び/又はラクトースとからなるものがより好ましい。
連鎖移動剤としては、メルカプタン類(オクチルメルカプタン、n-またはt-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-またはt-テトラデシルメルカプタン等)、アリル化合物(アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、これらのナトリウム塩等)、α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。分子量を調整することが容易な点から、メルカプタン類が好ましい。連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
連鎖移動剤の添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
連鎖移動剤の添加量は、ビニル系単量体(D)100質量部に対して2.0質量部以下が好ましい。
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸スルホン酸塩、リン酸系塩、脂肪酸塩、アミノ酸誘導体塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、通常のポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アニオン部にカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等を有し、カチオン部にアミン塩、第4級アンモニウム塩等を有するものが挙げられる。
乳化剤の添加量は、ビニル系単量体(D)100質量部に対して10質量部以下が好ましい。
乳化重合法によって得られたポリプロピレン系グラフト重合体は、水性媒体中に分散した状態である。ポリプロピレン系グラフト重合体を含む水性分散体からポリプロピレン系グラフト重合体を回収する方法としては、例えば、該水性分散体に析出剤を添加し、加熱、撹拌した後、析出剤を分離し、析出したポリプロピレン系グラフト重合体を水洗、脱水、乾燥する析出法が挙げられる。
析出剤としては、例えば、硫酸、酢酸、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の水溶液が挙げられる。析出剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリプロピレン系グラフト重合体を含む水性分散体には、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。
[熱可塑性樹脂組成物]
<熱可塑性樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のポリプロピレン系グラフト重合体を含むものである。本発明の熱可塑性樹脂組成物に本発明のポリプロピレン系グラフト重合体と共に含まれる熱可塑性樹脂として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、シリコン系ゴムに由来するSAS樹脂、AS共重合体、アクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド共重合体、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-N-フェニルマレイミド共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレン複合体などの1種または2種以上が挙げられる。
<ポリプロピレン系グラフト重合体の含有量>
本発明のポリプロピレン系グラフト重合体をこれらの熱可塑性樹脂に配合する際の配合量は、本発明のポリプロピレン系グラフト重合体を改質剤として用いたり、相溶化剤として用いたりする等、目的や用途によって選定することができるが、ポリプロピレン系グラフト重合体の含有量は、熱可塑性樹脂組成物中に含まれる全樹脂成分100質量%中に好ましくは3~70質量%、より好ましくは5~50質量%である。
ポリプロピレン系グラフト重合体の含有量が上記下限以上であればポリプロピレン系グラフト重合体を含有することによる相溶化効果や改質効果を十分に得ることができる。ポリプロピレン系グラフト重合体の含有量が上記上限以下であれば、ポリプロピレン系グラフト重合体を含有することによる耐衝撃性などの機械的特性や外観の低下を抑制することができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物中の全樹脂成分100質量%に占めるポリプロピレン樹脂成分の合計の割合(ポリプロピレン系グラフト重合体中のポリプロピレン樹脂(A)とその他の熱可塑性樹脂として熱可塑性樹脂組成物に含まれるプロピレン樹脂の合計の割合)は1~60質量%、特に5~40質量%であることが、耐衝撃性などの機械的特性や外観、二色成形品での密着強度等の観点から好ましい。
<添加剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて添加剤を含有していてもよく、添加剤としては、例えば顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、難燃剤、安定剤、補強剤、加工助剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等の1種又は2種以上が挙げられる。
[成形品]
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、耐衝撃性及び外観に優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、耐衝撃性及び外観に優れることから、車両内外装部品、OA機器、建材などに好適である。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のポリプロピレン系グラフト重合体を含むことで、ポリプロピレン系樹脂との二色成形における樹脂同士の接着性(密着性)に優れ、しかも良好な外観の二色成形品を得ることができるため、ポリプロピレン系樹脂/熱可塑性樹脂の二色成形材料として有用である。
このような二色成形品は、ポリプロピレン系樹脂の軽量、耐薬品性という優れた特性と、これと二色成形された熱可塑性樹脂組成物による接合強度の効果で、車両内外装部品、電化製品等の用途に好適に用いることができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品及び本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いた本発明の二色成形品の工業的用途例としては、車両部品として各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング等が挙げられる。
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
なお、以下において、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
[測定・評価・操作方法]
以下の実施例および比較例における各種測定、評価及びそのための操作方法は以下の通りである。
<平均粒子径の測定>
マイクロトラック(日機装社製「ナノトラック150」)を用い、測定溶媒として純水を用いて測定した体積平均粒子径(MV)を平均粒子径とした。
<グラフト率の算出>
ポリプロピレン系グラフト重合体の1gを80mLのアセトンに添加し、65~70℃にて3時間加熱還流し、得られた懸濁アセトン溶液を遠心分離機(日立工機社製、「CR21E」)にて14,000rpm、30分間遠心分離して、沈殿成分(アセトン不溶成分)とアセトン溶液(アセトン可溶成分)を分取した。そして、沈殿成分(アセトン不溶成分)を乾燥させてその質量(Y(g))を測定し、下記式(1)からグラフト率を算出した。
なお、式(1)におけるYは、ポリプロピレン系グラフト重合体のアセトン不溶成分の質量(g)、XはYを求める際に用いたポリプロピレン系グラフト重合体の全質量(g)、粒子質量分率は、ポリプロピレン系グラフト重合体中のポリプロピレン系樹脂粒子(C)の固形分換算での含有割合である。
グラフト率(%)=
{(Y-X×粒子質量分率)/X×粒子質量分率}×100・・・(1)
<溶融混練>
表1に示す樹脂成分配合で各成分を混合し、30mmφの真空ベント付き二軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、透明の熱可塑性樹脂組成物を得た。溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
<メルトボリュームレート(MVR)の測定>
溶融混練で得られた熱可塑性樹脂組成物について、ISO 1133規格に従って、220℃、10kgfでMVRを測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となる。
<射出成形1(物性評価)>
溶融混練で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの成形品を成形し、物性測定用成形品1とした。
別に、熱可塑性樹脂組成物のペレット100部とカーボンブラック0.8部とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給し、混練して黒色ペレットを得、この黒色ペレットを用いて、上記と同様に成形し、外観評価用成形品2とした。
<射出成形2(二色成形)>
まず、ホモポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製FY4)を用いて射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ1mmのプレートを成形した。
次いで、上記プレートを縦100mm、横100mm、厚さ3mmの金型内に固定し、溶融混練で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形することにより、ホモポリプロピレン樹脂のプレートの片面に溶融混練で得られた熱可塑性樹脂組成物層が密着した二色成形評価用サンプルを作成した。
<射出成形3(塗装用成形品)>
射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ3mmのプレートを成形し、塗装用成形品3とした。
<密度の測定>
射出成形1で得られた成形品1について、ISO1183規格に従い、密度を測定した。
<シャルピー衝撃強度の測定>
射出成形1で得られた成形品1について、ISO179規格に従い、23℃の条件でシャルピー衝撃試験(ノッチあり)を行い、シャルピー衝撃強度を測定した。
<荷重たわみ温度の測定>
射出成形1で得られた成形品1について、ASTM D648規格に従い、エッジワイズ法で荷重たわみ温度(HDT)(℃)を測定した。
<硬度の測定>
射出成形1で得られた成形品1について、ISO2039によりロックウェル硬度を測定した。
<成形品の外観評価>
射出成形1で得られた成形品2を目視評価し、評価結果を以下の通り示した。
なし:成形外観の不良がなく、実用上問題ない。
剥離:成形品表層に剥離が発生しており、実用不可能である。
表面凹凸:成形品表面に凹凸が発生しており、実用不可能である。
また、この成形品2について、以下の測定を行った。
(発色性の評価)
射出成形1で得られた成形品2について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて明度L*を測定した。測定されたL*を「L*(ma)」とする。L*が低いほど黒色となり、発色性が良好と判定した。
「明度L*」とは、JIS Z8729において採用されているL*a*b*表色系における色彩値のうちの明度の値(L*)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
(表面光沢の測定)
射出成形1で得られた成形品2について、スガ試験機株式会社製の「デジタル変角光沢計UGV-5D」を用い、JIS K7105に準拠して、入射角60°、反射角60°における成形品表面の反射率(%)を測定した。反射率が高いほど表面外観に優れることを意味する。
<二色成形品の外観評価>
射出成形2で得られた二色成形評価用サンプルについて、ホモポリプロピレン樹脂側より、外観を目視観察し、下記基準で評価した。
○:全面が密着しており、空気層などが見られない
△:ほぼ全面が密着しているが、密着していない部分に空気層が見られる
×:密着しておらず、ほぼ全面に空気層が見割れる
<二色成形品の密着強度評価>
射出成形2で得られた二色成形評価用サンプルについて、樹脂流動方向に沿って22mm幅となるように切断した。ホモポリプロピレン樹脂プレートと熱可塑性樹脂組成物層との密着面をカッターナイフで20mmほど剥離し、プレートと直角になるようにホモポリプロピレン樹脂プレートを折り曲げた。東洋精機製作所製のストログラフVE50にて、自由つかみ治具を用いてホモポリプロピレン樹脂プレートの折り曲げ部を挟み、プレートと垂直になるよう5mm/minで引張試験を行い、変位2~6mmの間での引っ張り力の極大値を密着強度とした。この密着強度は高いほど密着強度に優れる。
<塗装外観の評価>
射出成形3により得られた塗装用成形品3に、ウレタン系塗料をスプレー塗装し、下記基準で評価した。
○:成形品表面に凹凸は全く発生せず、実用上問題ない。
×:成形品表面に凹凸が全体に発生し、実用レベルに達していない。
<ポリプロピレン樹脂(A)>
ポリプロピレン樹脂(A)として、以下を用いた。
(株)プライムポリマー製:プロピレンランダム共重合体
「プライムポリプロJ229E」
MFR:50g/10分(230℃/荷重50N)
<酸変性ポリオレフィン樹脂(B)>
酸変性オレフィン重合体(B)として以下を用いた。
三井化学(株)製:無水マレイン酸変性ポリプロピレン
「ハイワックスNP0555A」
無水マレイン酸グラフト量:3質量%
酸価:45mgKOH/g
<ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の製造>
ポリプロピレン樹脂(A)100部、酸変性オレフィン重合体(B)20部と、アニオン系乳化剤としてオレイン酸カリウム5部とを混合した。
この混合物を二軸スクリュー押出機(池貝社製、「PCM30」、L/D=40)のホッパーから4kg/hで供給し、該二軸スクリュー押出機のベント部に設けた供給口より、水酸化カリウム0.63部とイオン交換水3.87部を混合した水溶液を連続的に供給しながら、220℃に加熱して溶融混練して押出した。溶融混練物を二軸スクリュー押出機の先端に取り付けた冷却装置に連続的に供給し、90℃まで冷却した。そして、二軸スクリュー押出機先端より吐出させた固体を、80℃の温水中に投入し、連続的に分散させて、固形分濃度40%付近まで希釈して、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の水性分散体を得た。このポリプロピレン系樹脂粒子(C)の体積平均粒子径は500nmであった。
<ポリプロピレン系グラフト重合体の製造>
撹拌機付きステンレス重合槽に、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)の水性分散体を固形分として60部を入れ、固形分濃度が30%になるようにイオン交換水を加え、硫酸第一鉄0.008部、ピロリン酸ナトリウム0.35部およびフラクトース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。スチレン30部、アクリロニトリル10部およびクメンヒドロペルオキシド0.62部を150分間連続的に添加し、重合温度を80℃に保ち乳化重合を行い、体積平均粒子径510nmのポリプロピレン系グラフト重合体を含む水性分散体を得た。
このポリプロピレン系グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、粉状のポリプロピレン系グラフト重合体を得た。
このポリプロピレン系グラフト重合体のグラフト率を測定したところ30%であった。
この粉状のポリプロピレン系グラフト重合体は、有機溶剤を使用していないため、溶剤臭はしなかった。
<ABS樹脂の製造>
ポリブタジエン(ゲル含有率94%、平均粒子径290nm)50部、スチレン35部、アクリロニトリル15部(単量体成分中の5%)、t-ドデシルメルカプタン0.1部、ロジン酸ナトリウム1.0部、水酸化カリウム0.05部、純水160部を反応器に仕込み、60℃に昇温して60分間含浸させた後、t-ヘキシルパーオキシピバレイト0.3部を添加し、75℃まで昇温して2時間重合を行った。得られたラテックスに酸化防止剤を添加し、塩化カルシウム水溶液中に投入して凝固させ、洗浄、脱水、乾燥してABS樹脂を得た。
<AS共重合体の製造>
窒素置換した撹拌機付きステンレス重合槽に、イオン交換水120部、ポリビニルアルコール0.1部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、アクリロニトリル30部、スチレン70部、t-ドデシルメルカプタン0.35部を仕込み、開始温度60℃として5時間反応させた。120℃に昇温し、4時間反応させた後、内容物を取り出し、洗浄、乾燥することによって粉状のAS共重合体を得た。
[実施例1]
ポリプロピレン系グラフト重合体、ABS樹脂及びAS共重合体を表1に示す配合量で混合し、30mmφの真空ベント付き二軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、透明の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物中のポリプロピレン樹脂成分の含有量は5質量%となる。溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
なお、得られたペレットの形状は、直径3mm、長さ3mmの円柱形状であり、1粒あたりの重さは21mgであった。
[実施例2~4]
樹脂成分配合を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性樹脂組成物中のポリプロピレン樹脂成分の含有量は、実施例2は5質量%、実施例3は20質量%、実施例4は30質量%である。
[比較例1、2]
ポリプロピレン系グラフト重合体の代わりにポリプロピレン樹脂(A)を用い、表1に示す樹脂成分配合としたこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性樹脂組成物中のポリプロピレン樹脂成分の含有量は、比較例1は5質量%、比較例2は20質量%である。
[比較例3]
ポリプロピレン系グラフト重合体を用いず、表1に示す樹脂成分配合としたこと以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
実施例1~4及び比較例1~3の各ペレットの比重とMVRを測定した。また、熱可塑性樹脂組成物のペレットを各種成形品に成形し、前述の評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
Figure 2022099829000001
表1より、以下のことが分かる。
実施例1~4によれば、比較例3のABS樹脂/AS共重合体組成物の衝撃強度に対して、衝撃強度は低下傾向ではあるものの、外観はポリプロピレン樹脂成分が高含有量になっても問題が無いことが分かる。
これに対して、ポリプロピレン系グラフト重合体の代りにポリプロピレン樹脂(A)を配合した比較例1、2では、衝撃強度の低下が著しく、外観も劣る。
また、二色成形品においても実施例1~4は、外観及び密着強度に優れる。
一方、比較例1は密着強度及び外観が悪く、比較例2は密着強度及び外観は良好であるが、上記の通り、単体での衝撃強度及び外観に劣る。
比較例3では二色成形品において密着強度が得られず、外観も劣る。
本発明のポリプロピレン系グラフト重合体を含む本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、耐衝撃性及び外観に優れ、またポリプロピレン系樹脂との二色成形においても高い密着強度と良好な外観を得ることができることから、車両外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング等に好適に利用できる。

Claims (9)

  1. ポリプロピレン樹脂(A)100質量部と酸変性オレフィン樹脂(B)5~25質量部とを含む、体積平均粒子径が50~850nmのポリプロピレン系樹脂粒子(C)に、ビニル系単量体(D)をグラフト重合してなるポリプロピレン系グラフト重合体。
  2. 前記ポリプロピレン系グラフト重合体のグラフト率が10~70質量%である、請求項1に記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
  3. 前記ビニル系単量体(D)100質量%のうち50~90質量%が芳香族ビニル化合物で10~50質量%がシアン化ビニル化合物である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
  4. 前記ポリプロピレン系グラフト重合体は、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)30~80質量%の存在下に、ビニル系単量体(D)20~70質量%(ただし、ポリプロピレン系樹脂粒子(C)とビニル系単量体(D)との合計は100質量%)をグラフト重合して得られる、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
  5. 前記ポリプロピレン系樹脂粒子(C)は前記ポリプロピレン樹脂(A)と前記酸変性オレフィン樹脂(B)とを溶融混練し、得られた混練物を水性媒体中に分散させてなる、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリプロピレン系グラフト重合体。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリプロピレン系グラフト重合体を含む熱可塑性樹脂組成物。
  7. 前記ポリプロピレン系グラフト重合体の含有量が前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる全樹脂成分100質量%中に3~70質量%である、請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  8. 請求項6又は7に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
  9. 請求項6又は7の熱可塑性樹脂組成物とポリプロピレン系樹脂とを二色成形してなる二色成形品。
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