JP2022082292A - 高分子材料の解析方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】補強剤の階層構造に影響を与える因子を判別可能な解析方法を提供する。【解決手段】階層構造を持つ補強剤を含有する高分子材料の解析方法は、(1)配合及び/又は加工条件が異なる複数の高分子材料を準備すること、(2)該複数の高分子材料にX線を照射して補強剤についての階層構造に関する情報を取得すること、および、(3)前記階層構造に関する情報を用いて統計処理を行うことにより高分子材料の配合及び/又は加工条件と補強剤の階層構造との関係の有無を判別すること、を含む。【選択図】図1

Description

本発明は、階層構造を持つ補強剤を含有する高分子材料の解析方法に関する。
ゴム材料などの高分子材料に配合される添加剤のうち、カーボンブラックやシリカなどの補強剤は物性に大きな影響を及ぼす因子であることから、高分子材料中の補強剤の階層構造を知ることは有益である。
特許文献1には、高分子材料中における補強剤のナノ~マイクロメートルオーダーの階層構造を評価するために、異なる空間分解能を持つ小角X線散乱測定とX線CT測定とを組み合わせることにより、高分子材料中における補強剤の階層構造の評価することが開示されている。
特開2019-113488号公報
配合や加工条件が異なる複数の高分子材料に対して小角X線散乱測定やX線CT測定などのX線を照射する解析を行うことにより、短い測定時間で大量のデータを取得することができる。しかしながら、かかる大量のデータに対し、配合や加工条件のいずれの要素が補強剤の階層構造に影響を与える因子になっているかを判別することは容易ではない。
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、補強剤の階層構造に影響を与える因子を判別可能な解析方法を提供することを目的とする。
本発明の実施形態に係る高分子材料の解析方法は、階層構造を持つ補強剤を含有する高分子材料の解析方法であって、配合及び/又は加工条件が異なる複数の高分子材料を準備すること、前記複数の高分子材料にX線を照射して前記補強剤についての階層構造に関する情報を取得すること、および、前記階層構造に関する情報を用いて統計処理を行うことにより、高分子材料の配合及び/又は加工条件と補強剤の階層構造との関係の有無を判別すること、を含むものである。
本発明の実施形態においては、前記階層構造に関する情報を取得することが、前記複数の高分子材料にX線を照射して小角X線散乱測定を実施し、得られた散乱強度曲線から前記補強剤についての階層構造に関する第1情報を取得することを含んでもよい。また、前記階層構造に関する情報を取得することが、前記複数の高分子材料にX線を照射してX線CT測定を実施し、得られた画像から前記補強剤についての階層構造に関する第2情報を取得することを含んでもよい。
本発明の実施形態においては、前記統計処理として、主成分分析を行ってもよく、決定木分析を行ってもよい。また、前記小角X線散乱測定が超小角X線散乱測定でもよい。
本発明の実施形態によれば、X線を照射して得られる補強剤の階層構造に関する情報に対して統計処理を行うことにより、高分子材料の配合や加工条件のいずれの要素が階層構造に影響を与える因子であるかを短時間で判別することができる。
一実施形態に係る解析方法のフローチャート 試料作製工程のフローチャート 小角X線散乱測定による二次元散乱像の一例を示す図 SAXSによる散乱強度曲線の一例を示すグラフ USAXSによる散乱強度曲線の一例を示すグラフ X線CT測定から得られた三次元像 主成分分析の結果をポリマー種類で分類した散布図 主成分分析の結果をシランカップリング剤種類で分類した散布図 主成分分析の結果をリミル回数で分類した散布図
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
本実施形態において、測定対象としては、階層構造を持つ補強剤を含有する高分子材料が用いられる。高分子材料の種類は特に限定されないが、好ましい高分子材料は、ゴム材料(即ち、ゴムポリマーに補強剤が配合されたゴム組成物)であり、より好ましくは加硫ゴム材料である。
ゴム材料を構成するゴムポリマーとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などが挙げられ、これらのゴムポリマーを単独又は2種類以上ブレンドしたものでもよい。
補強剤は、高分子材料中で階層構造を形成するものであり、詳細には一次凝集体と二次凝集体を形成し得る補強剤である。一次凝集体とは、単位粒子が融着もしくは化学結合により相互に凝集したナノメートルオーダーの集合粒子(凝集塊)であり、アグリゲートとも称される。二次凝集体とは、一次凝集体が物理化学的なより弱い凝集力で更に大きな塊になったマイクロメートルオーダーの凝集塊であり、アグロメレートとも称される。このような補強剤としては、例えば、シリカ、カーボンブラックなどが挙げられる。
補強剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴムポリマー100質量部に対して10~200質量部でもよく、20~150質量部でもよい。
高分子材料は、補強剤の他、様々な配合剤を任意成分として含有してもよい。一実施形態として、上記ゴム材料を構成するゴム組成物には、シランカップリング剤、オイル等の軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤など、通常ゴム工業で使用される各種配合剤を配合することができる。これら各成分の配合量は特に限定されない。なお、かかるゴム組成物は、バンバリーミキサーなどの混合機を用いて各成分を常法に従い混練することにより作製することができ、該ゴム組成物を常法に従い加熱して加硫することにより加硫ゴム材料が得られる。
測定対象としての高分子材料の形状は、X線が透過可能であれば、特に限定されないが、シート状であることが好ましい。一実施形態として、測定対象としては、シート状に加硫成形したゴムシートを用いてもよい。
本実施形態は、階層構造を持つ補強剤を含有する高分子材料について、その配合や加工条件と補強剤の階層構造との関係を解析する方法であり、配合及び/又は加工条件が異なる複数の高分子材料を準備する工程(試料作製工程)と、複数の高分子材料にX線を照射して補強剤についての階層構造に関する情報を取得する工程(X線測定工程)と、得られた情報を用いて統計処理を行う工程(統計処理工程)と、を含む。
X線測定工程としては、補強剤を含む高分子材料にX線を照射することにより補強剤についての階層構造に関する情報を取得することができれば、限定されないが、好ましくは小角X線散乱測定及び/又はX線CT測定である。すなわち、一実施形態において、X線測定工程は、小角X線散乱測定により補強剤についての階層構造に関する第1情報を取得する工程(小角X線散乱測定工程)と、X線CT測定により補強剤についての階層構造に関する第2情報を取得する工程(X線CT測定工程)と、のいずれか一方または双方を含んでもよい。その場合、統計処理工程は、第1情報及び/又は第2情報を用いて統計処理を行う。
図1は、一実施形態として小角X線散乱測定工程とX線CT測定工程の双方を実施する解析方法のフローチャートである。以下、図1に基づいて当該一実施形態に係る解析方法について説明する。
ステップS1の試料作製工程では、配合及び/又は加工条件が異なる複数の高分子材料を準備する。その際、配合のみが異なる複数の高分子材料を準備してもよく、加工条件のみが異なる複数の高分子材料を準備してもよく、配合と加工条件の双方が異なる複数の高分子材料を準備してもよい。
図2は試料作製工程の一例を示すフローチャートである。図2に示す例では、まず、ステップS11において、高分子材料において複数の配合内容を決定する。複数の配合内容としては、例えば、上記ゴムポリマーなどのポリマー種類が異なるもの、補強剤の配合量が異なるもの、補強剤としてシリカを用いる場合にシランカップリング剤の有無もしくは種類の異なるもの、その他の添加剤の有無もしくは種類の異なるものが挙げられる。ある特定の補強剤について、配合及び/又は加工条件の違いによる階層構造の違いを評価するためには、補強剤の種類は固定した上で、それ以外の配合内容を複数設定することが好ましい。
次いで、ステップS12において、複数の加工条件を決定する。加工条件としては、例えば、混合条件や加硫成形条件などが挙げられる。ゴム組成物の混合工程には、加硫剤及び加硫促進剤を除いた成分を混合するノンプロ練り工程と、該ノンプロ練り工程により得られた混合物に加硫剤と加硫促進剤を加えて混合するプロ練り工程とがあり、さらにノンプロ練り工程とプロ練り工程との間に配合剤を添加せずに混合を行うリミル工程を行う場合がある。複数の混合条件としては、ノンプロ練り工程での混合時間が異なるもの、混合開始温度が異なるもの、混合機の回転数が異なるもの、リミル工程の有無もしくは回数が異なるものが挙げられる。なお、複数の加工条件を先に決定した後に、複数の配合内容を決定してもよい。
次いで、ステップS13において、決定した配合内容および加工条件で複数の高分子材料を混合して作製する。その際、全ての配合内容と加工条件の組み合わせで高分子材料を作製してもよく、任意の組合せで複数の高分子材料を作製してもよい。
その後、ステップS14において、正常に作製できた高分子材料の試料数が十分であるか否かを判定し、試料数が不十分であれば、ステップS15に進んで、配合内容と加工条件を追加し、ステップS13において当該追加した配合内容と加工条件で高分子材料を作製する。一方、試料数が十分であれば試料作製工程を終了する。作製する試料数は特に限定されないが、10~10000であることが好ましく、より好ましくは10~1000である。
ステップS1で複数の高分子材料を準備した後、小角X線散乱測定工程において、複数の高分子材料にX線を照射して小角X線散乱測定を実施し、得られた散乱強度曲線から補強剤についての階層構造に関する第1情報を取得する。
詳細には、まず、ステップS2において、上記で得られた複数の高分子材料をそれぞれ測定試料として用いて、各高分子材料にX線を照射して小角X線散乱測定を行い、これにより散乱強度の大きさを示した二次元散乱像を得る(図3参照)。
小角X線散乱(SAXS: Small Angle X-ray Scattering)測定は、散乱角が数度以下の散乱X線を測定する手法であり、散乱角は通常10°以下である。小角X線散乱測定では、測定試料である高分子材料にX線を照射すると、高分子材料を構成する物質の電子密度を反映してX線は散乱される。その散乱の強度分布を構造解析に応用する方法である。高分子材料に対して小角X線散乱測定を行って二次元散乱像を得る方法自体は公知であり、公知の方法を採用することができる。
小角X線散乱測定としては、nmスケールから100nm程度までの大きさを観測可能なSAXS測定でもよく、SAXS測定よりも広くナノメートルオーダーから10μm程度までの大きさを観測可能な超小角X線散乱(USAXS: Ultra Small Angle X-ray Scattering)測定でもよい。
小角X線散乱測定を行う際に使用するX線としては、例えば1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上の高輝度X線であることが好ましい。このようなX線を放射するシンクロトロンとしては、高輝度光科学研究センターのSPring-8などが挙げられる。検出器としては、CCDカメラ等の一般的なX線検出器を用いることができる。
次いで、ステップS3において、上記で得られた二次元散乱像から一次元の散乱強度曲線(散乱プロファイル)を取得し、その解析を行う。これにより、補強剤についての階層構造に関する情報(第1情報)を取得する(ステップS4)。
散乱強度曲線は、二次元散乱像における散乱中心まわりの全角度範囲で散乱強度を平均化して求めてもよく、あるいはまた二次元散乱像における散乱中心まわりの一部の角度範囲で散乱強度を平均化して求めてもよい。散乱強度曲線は、散乱ベクトルq(=(4π/λ)sin(θ/2)。ここで、θは散乱角、λはX線の波長)に対する散乱強度I(q)の大きさを示すグラフである(図4、図5参照)。
散乱強度曲線の解析は、散乱強度曲線に対するフィッティング(曲線当てはめ)により行うことができる。フィッティング自体は公知の方法を用いることができ、例えばG. Beaucage, J.Appl.Cryst. 28, 717-728 (1995)やM.Takenaka,et al., Macromolecules 42,308-311(2009)に記載されたUnified functionを利用した解析により行うことができる。このように公知のフィッティング関数を用いたフィッティングにより、補強剤についての階層構造に関する第1情報を取得することができる。
得られる階層構造に関する第1情報としては、ナノメートルオーダーの情報である、補強剤の一次凝集体に関する情報が挙げられ、例えば、一次凝集体のサイズ(アグリゲート直径)、表面フラクタル次元、一次凝集体の個数(高分子材料の単位体積当たりの個数)、一次凝集体の体積(高分子材料の単位体積に占める一次凝集体の体積)、質量フラクタル次元などが挙げられる。第1情報には、マイクロメートルオーダーの情報が含まれてもよく、例えば、二次凝集体のサイズ(アグロメレート直径)、質量フラクタル次元などが挙げられる。
一実施形態において、SAXS測定による場合、第1情報として、一次凝集体サイズと表面フラクタル次元と質量フラクタル次元を取得してもよく、USAXS測定による場合、第1情報として、一次凝集体サイズと表面フラクタル次元と二次凝集体サイズと質量フラクタル次元を取得してもよい。また、SAXS測定とUSAXS測定の双方を実施して、両者で共通して得られる情報(例えば、一次凝集体サイズ、表面フラクタル次元、質量フラクタル次元)についてそれらの平均値を第1情報としてもよい。
次いで、X線CT測定工程において、複数の高分子材料にX線を照射してX線CT測定を実施し、得られた画像から補強剤についての階層構造に関する第2情報を取得する。なお、X線CT測定工程と上記の小角X線散乱測定工程との順番は逆でもよく、すなわち、先にX線CT測定工程を実施してから、次いで小角X線散乱測定工程を実施してもよい。
X線CT測定工程では、まず、ステップS5において、上記で得られた複数の高分子材料をそれぞれ測定試料として用いて、各高分子材料にX線を照射してX線CT測定を実施して、高分子材料の断面像または三次元像を取得する。
X線CT(ComputedTomography)測定は、物体をさまざまな方向からX線で撮影し、再構成処理を行うことにより、物体の内部構造を得る方法であり、コンピュータ断層撮影法とも称される。X線CT測定としては、ラミノグラフィー法を用いることが好ましい。X線CTの測定自体は公知の方法を用いることができ、例えば鈴木芳生他2名「シンクロトロン放射X線を用いたマイクロCTの現状」、Journal of the Vacuum Society of Japan, 第54巻第1号47-55頁(2011)に記載の方法を利用してもよい。
X線CT測定を行う際に使用するX線としては、小角X線散乱測定と同様、例えば1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上の高輝度X線が好ましく、高輝度光科学研究センターのSPring-8などのシンクロトロンを利用することができる。
次いで、ステップS6において、X線CT測定により得られた画像(断面像または三次元像)を二値化する。これにより、補強剤についての階層構造に関する情報(第2情報)を取得する(ステップS7)。
二値化は、X線CT測定により得られた画像において、補強剤とそれ以外の部分とを区別するための処理であり、所定以上の閾値で二値化した後、所定以上の大きさのものを補強剤の粒子(特にはその二次凝集体)であると判断して抽出する。例えば、粒径が1μm以上のものを二次凝集体として、その個数を算出してもよい。
X線CT測定により得られる階層構造に関する第2情報としては、マイクロメートルオーダーの情報である、補強剤の二次凝集体に関する情報が挙げられ、例えば、二次凝集体の個数(高分子材料の単位面積当たりの個数)、二次凝集体の平均体積、二次凝集体の平均表面積などが挙げられる。
小角X線散乱測定工程およびX線CT測定工程において、補強剤についての階層構造に関する第1情報と第2情報を取得した後、ステップS8において統計処理工程を行う。統計処理工程では、第1情報及び第2情報を用いて統計処理を行うことにより、高分子材料の配合及び/又は加工条件と補強剤の階層構造との関係の有無を判別する。
統計処理は、統計学上の解析処理であり、補強剤についての階層構造に関する情報を用いて、高分子材料の配合及び/又は加工条件と補強剤の階層構造との関係の有無を判別することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、主成分分析、非負値行列因子分解(NMF)、k-meansクラスタリング、t-SNEアルゴリズム、凝集型クラスタリング、DBSCANクラスタリング、決定木分析等が挙げられ、これらをいずれか1つまたは2つ以上組み合わせて実施してもよい。
一実施形態として主成分分析について説明する。主成分分析は、高次元データにおいて分散が最大となる方向を見つけ出し、元の次元かそれよりも低い次元に圧縮する手法である。主成分分析は要因の可読性は比較的弱いが、過学習を避けて分析することができる。
主成分分析については、例えば、Andreas C. Muller及びSarah Guido(著)、中田秀基(訳)「Pythonで始める機械学習」(オライリージャパン、2017年、第137~204頁)、Sebastian Raschka及びVahid Mirjalili(著)、株式会社クイープ(訳)「Python機械学習プログラミング」(インプレス、2018年、第123~162頁)に記載されており、これらに記載の方法を用いることができる。また、プログラム言語「python」およびそのライブラリである「scikit-learn」をソフトウェアとして用いて、コンピュータにより実施することができる。
例えば、補強剤についての階層構造に関する第1情報及び第2情報をp個(p≧3)の説明変数x(i=1~p)として、各説明変数に主成分負荷量(第1主成分についてはh1i、第2主成分についてはh2i。i=1~p)をかけて合成することにより、下記式で表される第1主成分PC1及び第2主成分PC2を求める。
PC1=h11+h12+…+h1p
PC2=h21+h22+…+h2p
ここで、h11~h1pの自乗和およびh21~h2pの自乗和はそれぞれ1であり、この条件下で分散(ばらつき)が最大となる第1主成分PC1を算出し、次いで、第1主成分PC1と直交する方向で分散が最大となる第2主成分PC2を算出する。
複数の高分子材料のそれぞれについて主成分得点を算出し、互いに直交する第1主成分PC1と第2主成分PC2を2軸とするグラフにプロットすることにより、2つの主成分PC1,PC2を組み合わせた散布図が得られる。得られた散布図において、プロットされた各データを高分子材料の配合及び/又は加工条件に応じて分類する。その結果、当該配合及び/又は加工条件の違いによりプロットされたデータがある程度の塊をもってグループ分けされている場合、当該配合及び/又は加工条件は補強剤の階層構造と関係を有しており、即ち階層構造に影響を与える因子であると判断することができる。一方、散布図において配合及び/又は加工条件が異なるデータが混在し、グループ分けできない場合には、その配合及び/又は加工条件は補強剤の階層構造とは関係が無く、即ち階層構造に影響を与える因子ではないと判断する。
また、配合及び/又は加工条件と補強剤の階層構造とが関係ありの場合、その配合及び/又は加工条件が階層構造のうちのどの階層構造に影響が強いかについては、第1及び第2主成分PC1,PC2における主成分負荷量h1i,h2iの絶対値に基づき判定することができ、該絶対値が大きいほど階層構造に対する影響が強い。
次に、他の実施形態として決定木分析について説明する。決定木分析は、一連の質問に基づいてデータを分類する手法である。決定木分析は過学習の場合があるが、要因の可読性は比較的強い。
決定木分析については、例えば、Andreas C. Muller及びSarah Guido(著)、中田秀基(訳)「Pythonで始める機械学習」(オライリージャパン、2017年、第27~126頁)、Sebastian Raschka及びVahid Mirjalili(著)、株式会社クイープ(訳)「Python機械学習プログラミング」(インプレス、2018年、第77~92頁)に記載されており、これらに記載の方法を用いることができる。また、SAS社の「SAS viya」をソフトウェアとして用いて、コンピュータにより実施することができる。なお、決定木分析としては、そのアンサンブル法でもよく、例えばランダムフォレスト、勾配ブースティング回帰木が挙げられる。
決定木分析では、補強剤についての階層構造に関する情報を目的変数とし、高分子材料の配合及び/又は加工条件を説明変数として、情報利得(Information Gain)が最大量となるようにデータを分割する。ここで、情報利得とは、親ノードの不純度とその子ノードの不純度の差であり、親ノードの不純度が大きく、子ノードの不純度が小さいとき、情報利得は大きくなる。ノードはデータのグループであり、親ノードはデータを分割(分岐)する前のノード、子ノードは分割後のノードである。そして、不純度を測る指標としてのジニ不純度に基づいて重要度を算出し、重要度が大きい説明変数について、補強剤の階層構造と関係を有し、即ち階層構造に影響を与える因子であると判断する。
一例として、上記で得られる第1情報と第2情報の各情報をそれぞれ目的変数として、決定木分析を行うことにより、それぞれの階層構造に対する配合及び/又は加工条件の要因の有無を判定することができる。
なお、ステップS8の統計処理工程においては、互いに相関する説明変数を削除したり、あるいはまた、説明変数を正規化したりしてもよい。同様の傾向を示す説明変数を削除することにより、計算工数を減らすことができるとともに、解析結果に誤りが出る可能性を下げることができる。また、説明変数を正規化することより、単位の違いによる影響を除くことができる。
本実施形態によれば、配合や加工条件が異なる複数の高分子材料に対して小角X線散乱測定やX線CT測定などのX線を照射する解析を行うことにより、短い測定時間で大量のデータを取得することができる。そして、それにより得られたデータに対して統計処理を行うことにより、高分子材料の配合内容や加工条件のうち補強剤の階層構造に影響を与える因子を短時間で判定することができる。また、人間の主観によることなく、見落としなく判断することができる。
このように、配合内容や加工条件について補強剤の階層構造に影響を与える因子を判断することができるので、それに応じて、より適切な配合や加工条件を探索することができ、所望の補強性能を持つ高分子材料の開発に役立てることができる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[試料の作製]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1~4に示す配合(質量部)及び練り条件に従って、未加硫ゴム組成物を調製した。詳細には、まずノンプロ練り工程で、ゴムポリマーに対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した。ノンプロ練り工程での混合機の回転数(NP回転数)、混合時間(NP混合時間)、混合開始温度(NP開始温度)は表1~4に示すとおりである。
ノンプロ練り後に、表1~4に示すリミル回数に従い、配合剤を添加することなく、混合を行うリミル工程を行った。リミル工程では、混合開始温度を直前のノンプロ工程と同じ温度で開始し、混合時間3分で排出した。その後、得られた混合物に、プロ練り工程で硫黄と加硫促進剤を添加して混合することにより、No.1~40の40種類の未加硫ゴム組成物を作製した。
表1~4中の各成分の詳細は以下の通りである。
・ポリマーA:SBR、JSR(株)製「JSR SL563」
・ポリマーB:末端変性SBR、JSR(株)製「JSR HPR355」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤A:エボニック・デグサ社製「Si69」
・シランカップリング剤B:エボニック・デグサ社製「Si75」
・亜鉛華:三井金属鉱業製「亜鉛華1号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS?20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
Figure 2022082292000002
Figure 2022082292000003
Figure 2022082292000004
Figure 2022082292000005
得られた未加硫ゴム組成物を、金型モールドでプレス加工(160℃、30分)することにより、小角X線散乱測定用に厚さ1.0mmの加硫ゴムシート、及びX線CT測定用に厚さ0.5mmの加硫ゴムシートを作製した。
[USAXS測定、SAXS測定]
試料No.1~40の加硫ゴムシートについて、USAXS測定とSAXS測定をそれぞれ行った。USAXS測定はBonse-Hart型光学系で行った。測定条件は以下の通りである。
(USAXS測定)
・シンクロトロン:SPring-8のビームラインBL24XU
・X線の波長:0.124(nm)
・露光時間:1分
・qレンジ:0.001~0.3nm-1
・ディテクター:APD検出器
(SAXS測定)
・シンクロトロン:SPring-8のビームラインBL08B2
・X線の波長:0.15(nm)
・カメラ長:6079mm
・露光時間:1秒
・qレンジ:0.015~0.3nm-1
・ディテクター:PILATUS
USAXS測定およびSAXS測定により得られた二次元散乱像から、散乱中心の左右両側のくびれ部における角度範囲α=40゜(図1参照)で散乱強度を平均して一次元データに変換することにより散乱プロファイル(散乱強度曲線)を得た。図4は試料No.1についてのSAXS測定により得られた散乱強度曲線であり、図5は試料No.1についてのUSAXS測定により得られた散乱強度曲線である。
SAXS測定により得られた散乱強度曲線に対して、下記式(1)に示すフィッティング関数を用いたフィッティングを行うことにより、補強剤についての階層構造に関する情報として、アグリゲート直径と表面フラクタル次元と質量フラクタル次元を算出した。
Figure 2022082292000006
式中、I(q)は散乱強度、qは散乱ベクトル、C、D及びEは回帰係数、Rssはアグリゲート直径(nm)、Dは質量フラクタル次元、Dは表面フラクタル次元を示す。
USAXS測定により得られた散乱強度曲線に対して、下記式(2)に示すフィッティング関数を用いたフィッティングを行うことにより、補強剤についての階層構造に関する情報として、アグリゲート直径とアグロメレート直径と表面フラクタル次元と質量フラクタル次元を算出した。
Figure 2022082292000007
式中、I(q)は散乱強度、qは散乱ベクトル、A、B、C、D及びEは回帰係数、Rssはアグリゲート直径(nm)、Rggはアグロメレート直径(nm)、Dは質量フラクタル次元、Dは表面フラクタル次元を示す。
参考データとして、試料No.1についてSAXS測定において算出したアグリゲート直径(Rss)は26.40nm、質量フラクタル次元(D)は3.09、表面フラクタル次元(D)は3.11であった。また、試料No.1についてUSAXS測定において算出したアグリゲート直径(Rss)は27.32nm、アグロメレート直径(Rgg)は560.22nm、質量フラクタル次元(D)は3.02、表面フラクタル次元(D)は2.81であった。これらの階層構造に関するデータを、試料No.1~40についてそれぞれ算出した。
[X線CT測定]
試料No.1~40の加硫ゴムシートについて、屈折コントラスト法によるX線CT測定を行った。測定条件は以下の通りである。
・シンクロトロン:SPring-8のBL24XU
・カメラ長:42mm
・照射X線のエネルギー:7keV
・装置構成:可視光変換型X線画像検出器を用いて行われ、シンチレーター(CsI (Tl))、タンデムレンズ光学系、高感度デジタルカメラ (Orca-Flash4.0(浜松ホトニクス製))を使用した。
X線CT測定に際し、加硫ゴムシートは回転ステージに固定した。また、撮影ピクセルサイズは0.65μmであった。得られた投影データはBackProjection法を用いて再構成を行い、三次元像を得た。
得られた三次元像から画像処理ソフトウェアである「Image-Pro Premier 3D 9.2」を用いてマイクロメートルオーダーの粒子数をカウントした。詳細には、三次元像を大津の二値化法(判別分析法)により二値化した後に、粒子の直径を算出し、撮影ピクセルサイズと二値化した際のノイズに鑑みて、直径1μm以上を補強剤の二次凝集粒子とみなして抽出し、その数を計測した。
図6は試料No.1についてのX線CT測定の解析結果を示す三次元像であり、該三次元像から粒子数をカウントした。かかる粒子数を、試料No.1~40についてそれぞれ算出した。
[主成分分析]
説明変数として、USAXS測定により得られたアグリゲート直径(Rss)とアグロメレート直径(Rgg)と表面フラクタル次元(Ds)と質量フラクタル次元(Dm)とともに、X線CT測定により得られた粒子数(particle number)を用いて、主成分分析を行った。主成分分析は、プログラム言語「python」およびそのライブラリである「scikit-learn」をソフトウェアとして用いて、圧縮を「2軸」に指定して(即ち、主成分を第1主成分PC1と第2主成分PC2として)実施した。
その結果、下記式で表される第1主成分PC1と第2主成分PC1が得られた。
Figure 2022082292000008
試料No.1~40のそれぞれについてPC1及びPC2の主成分得点を算出し、互いに直交する第1主成分PC1と第2主成分PC2を2軸とするグラフにプロットして散布図を得た。
得られた散布図において、プロットされた各データをポリマー種類に応じて分類した。図7は、その結果を示したものであり、配合にポリマーAを用いた試料を「△」で、ポリマーBを用いた試料を「○」で示している。
図7から明らかなように、第2主成分PC2=0付近を境界として、それよりも下側にポリマーAを用いた試料が、それよりも上側にポリマーBを用いた試料が概ねグループ分けされており、よって、ポリマー種類による分類が可能であった。そのため、ポリマー種類は階層構造に影響を与える因子であることが分かった。また、上記式よりPC2では、表面フラクタル次元Dsとアグリゲート直径Rssについての主成分負荷量の絶対値が大きいため、ポリマー種類は特にこれらの階層構造に対する影響が強いことが分かる。
得られた散布図において、プロットされた各データをシランカップリング剤で分類した。図8は、その結果を示したものであり、配合にシランカップリング剤Aを用いた試料を「□」で、シランカップリング剤Bを用いた試料を「△」で、シランカップリング剤を配合してない試料を「○」で示している。
図8から明らかなように、第1主成分PC1=1付近とPC1=-1付近を境界として、1付近よりも大きい側にシランカップリング剤Bを用いた試料が、-1付近よりも小さい側にシランカップリング剤なしの試料が、その間にシランカップリング剤Aを用いた試料が、概ねグループ分けされており、よって、シランカップリング剤の有無及び種類による分類が可能であった。そのため、シランカップリング剤は階層構造に影響を与える因子であることが分かった。また、上記式よりPC1では、粒子数とアグロメレート直径Rggについての主成分負荷量の絶対値が大きいため、シランカップリング剤は特にこれらの階層構造に対する影響が強いことが分かる。
得られた散布図において、プロットされた各データをリミル回数で分類した。図9は、その結果を示したものであり、練り条件でリミル回数が0回の試料を「□」で、リミル回数が1回の試料を「△」で、リミル回数が2回の試料を「○」で示している。
図9から明らかなように、リミル回数で分類した場合、リミル回数違いのデータが混在しており、グループ分けできなかった。そのため、リミル回数は階層構造に影響を与える因子ではないことが分かった。
このような散布図における分類を、試料No.1~40において異なる各条件(シリカの配合量、NP回転数、NP混合時間、NP開始温度、練り条件No)について実施することにより、各条件について階層構造に影響を与える因子であるか否かの判定を行うことができる。
[決定木分析]
USAXS測定により得られたアグリゲート直径(Rss)を応答(即ち、目的変数)とし、シリカ配合量、ポリマー種類、シランカップリング剤種類、リミル回数、NP回転数、NP混合時間、NP開始温度及び練り条件Noを予測子(即ち、説明変数)として、決定木分析を行った。決定木分析は、SAS社の「SAS viya」をソフトウェアとして用いて実施した。
詳細には、2分決定木を用い、下記式(3)で表される情報利得IGが最大量となるようにデータを分割した。
Figure 2022082292000009
ジニ不純度Iは下記式(4)により表される。
Figure 2022082292000010
ジニ不純度に基づいて、下記式(5)により重要度を算出した。結果を表5に示す。表5において、重要度は最も大きいものを100とした指数で表示した。また、表5には、重要度の最も大きいものから順に3つの説明変数についての出力結果を示す。
Figure 2022082292000011
Figure 2022082292000012
表5に示すように、上記説明変数のうちシランカップリング剤種類の重要度が最も大きく、よって、シランカップリング剤種類は階層構造であるアグリゲート直径に影響を与える因子であることが分かる。次いで、ポリマー種類の重要度が大きく、ポリマー種類もアグリゲート直径に影響を与える因子であることが分かる。その他の説明変数は重要度が小さく、アグリゲート直径に影響を与える因子であるとはいえないことが分かる。
目的変数をアグリゲート直径(Rss)からアグロメレート直径(Rgg)、表面フラクタル次元(Ds)、質量フラクタル次元(Dm)、又は粒子数(particle number)に代えて、同様に決定木分析を行うことにより、アグロメレート直径、表面フラクタル次元、質量フラクタル次元、及び粒子数のそれぞれに影響を与える因子を求めることができる。
以上のように、X線を照射して得られる補強剤の階層構造に関する大量のデータに対し、高分子材料の配合や加工条件のいずれの要素が階層構造に影響を与える要因になっているかを短時間で漏れなく判別することができる。

Claims (6)

  1. 階層構造を持つ補強剤を含有する高分子材料の解析方法であって、
    配合及び/又は加工条件が異なる複数の高分子材料を準備すること、
    前記複数の高分子材料にX線を照射して前記補強剤についての階層構造に関する情報を取得すること、および、
    前記階層構造に関する情報を用いて統計処理を行うことにより、高分子材料の配合及び/又は加工条件と補強剤の階層構造との関係の有無を判別すること、
    を含む高分子材料の解析方法。
  2. 前記階層構造に関する情報を取得することが、前記複数の高分子材料にX線を照射して小角X線散乱測定を実施し、得られた散乱強度曲線から前記補強剤についての階層構造に関する第1情報を取得することを含む、請求項1に記載の解析方法。
  3. 前記階層構造に関する情報を取得することが、前記複数の高分子材料にX線を照射してX線CT測定を実施し、得られた画像から前記補強剤についての階層構造に関する第2情報を取得することを含む、請求項1又は2に記載の解析方法。
  4. 前記統計処理として主成分分析を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の解析方法。
  5. 前記統計処理として決定木分析を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の解析方法。
  6. 前記小角X線散乱測定が超小角X線散乱測定である、請求項2に記載の解析方法。
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