JP2022069470A - 超音波モータ、駆動制御システム、光学機器および振動子 - Google Patents

超音波モータ、駆動制御システム、光学機器および振動子 Download PDF

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Abstract

Figure 2022069470000001
【課題】本願発明は、超音波モータ、それを用いた駆動制御システム等に関する。
【解決手段】円環状の振動子と該振動子に対して加圧接触する円環状の移動体とを備えた超音波モータ。前記振動子は、円環状の振動板と円環状の圧電素子よりなる。前記圧電素子は、円環状の一片の圧電セラミックスと、その一方の面上に設けられた共通電極と、他方の面上に設けられた複数の電極とからなる。前記圧電セラミックスは、鉛の含有量が1000ppm未満である。前記複数の電極は、2つの駆動相電極と1つ以上の非駆動相電極と1つ以上の検知相電極よりなる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、超音波モータ、ならびにそれを用いた駆動制御システムおよび、光学機器、さらには超音波モータに用いる振動子に関する。
振動型(振動波)アクチュエータは、圧電素子等の電気-機械エネルギー変換素子に交番電圧等の電気信号を印加することにより、それに接合した円環形状、楕円環形状、棒状等の弾性体に振動が励起されるように構成された振動子を有する。振動型アクチュエータは、当該振動子に励起された振動の駆動力を利用して、例えば、該振動子に加圧接触させた弾性体(移動体)と該振動子(静止体)とを相対移動させる超音波モータとして利用されている。
以下に、振動型アクチュエータの代表的な利用形態である、円環状の超音波モータの構造及び駆動原理の概略を示す。なお、以下において「円環状」といったときは、当該物品または部材の形態は、模式的に、所定の厚みをもった円板が同心状に円形の貫通孔を有する形態とみなすことができるものとする。このとき、その円板の厚みに相当する当該円板状の物品または部材の寸法をその物品または部材の「厚み」といい、その円板の厚みを挟む両表面に相当する当該円環状の物品または部材の各表面を、それぞれ個別的に、あるいは包括的に、その物品または部材の「面」ということにする。
円環状の超音波モータは、円環状の振動子と該振動子に加圧接触させた円環状の移動体を備えている。該移動体は弾性体よりなり、その材質は金属が一般的である。該振動子は円環状の振動板とその一方の面上に設けられた円環状の圧電素子とを備えている。該振動板は弾性体よりなり、その材質は金属が一般的である。該圧電素子は、円環状の圧電セラミックスの一方の面上に、当該円環の円周方向に沿って複数の領域に分割された電極を有し、他方の面上に1つの共通電極を有している。圧電セラミックスの材質はチタン酸ジルコン酸鉛系材料が一般的である。
前記複数の領域に分割された電極は、駆動相電極を構成する2つの領域と、検知相電極を構成する少なくとも1つの領域と、必要に応じて設けられる非駆動相電極を構成する領域とからなる。各駆動相電極には、それに接する前記円環状の圧電セラミックスの対応する領域に電界を印加するための電力を入力する配線が設けられ、その配線が電源部と接続されている。
前記円環状の圧電素子の面上の任意の位置を通る、当該円環と中心を共にする円を想定し、その円の円周をn等分した(nは自然数)1つの円弧の長さをλとして円周長をnλで表わすことにする。各駆動相電極を構成する領域に対応する圧電セラミックスの領域に対しては、予め、その厚み方向に、円周方向に沿ってλ/2のピッチで交互に逆方向の電界を印加することにより、分極処理が施されている。そのため、その領域全体に対して、厚み方向に同じ向きの電界を印加したとき、圧電セラミックスの当該領域における伸縮極性は、λ/2のピッチで交互に反転することになる。さらに、それぞれの駆動相電極を構成する2つの領域は、円周方向にλ/4の奇数倍の距離を隔てて配置されている。通常、この2つの駆動相電極を隔てる2つの領域(間隔部)には、自発的に圧電振動を起こさないように、共通電極と短絡された非駆動相電極が設けられており、この領域の圧電セラミックスには電界が印加されないようになっている。また、この間隔部には、通常、後に述べるように検知相電極が設けられる。
このような超音波モータの一方の駆動相電極のみに交番電圧を印加すると、波長λの第一の定在波が振動子の全周に亘って発生する。もう一方の駆動相電極のみに交番電圧を印加しても、同様に第二の定在波が生ずるが、波の位置は第一の定在波に対して円周方向にλ/4だけ回転移動したものとなる。他方、周波数が同じでかつ時間的位相差がπ/2の交番電圧をそれぞれの駆動相電極に印加すると、両者の定在波の合成の結果として、振動子には全周に亘って円周方向に進行する曲げ振動(振幅が振動子の面に垂直な振動)の進行波(円環に沿った波数n、波長λ)が発生する。
曲げ振動の進行波(以下単に「曲げ振動波」ということがある)が発生すると、振動子を構成する振動板の面上の各点は楕円運動をするため、この面に接する移動体は振動板から円周方向の摩擦力(駆動力)を受けて回転をする。その回転方向は、各駆動相電極に印加する交番電圧の位相差π/2の正負を切換えることより、反転できる。また、回転速度は、各駆動相電極に印加する交番電圧の周波数や振幅を変えることにより、制御できる。
発生した曲げ振動波は、前記間隔部に設けられた検知相電極により検知することができる。すなわち、検知相電極と接する圧電セラミックスに生じた変形(振動)の歪は、その大きさに応じた電気信号に変換され、該検知相電極を通して駆動回路に出力される。
超音波モータは、共振周波数よりも高い周波数で交番電圧を印加すると回転動作を開始し、前記周波数を前記共振周波数に近づけることで回転は加速し、前記共振周波数において最高回転速度に達する。このように超音波モータは、共振周波数よりも高い周波数領域から共振周波数に向かって周波数を掃引することで、所望の回転速度における駆動を行うことが一般的である。
一方、前記圧電セラミックスの材質に用いられるチタン酸ジルコン酸鉛系材料は、ABO型ペロブスカイト型金属酸化物のAサイトに多量の鉛を含有する。そのため、環境に対する影響が問題視されている。この問題に対応するために、鉛を含有しない(鉛の含有量が1000ppm未満である)ペロブスカイト型金属酸化物を用いた圧電セラミックスの提案がなされている。
特許文献1には、チタン酸バリウムのAサイトの一部をカルシウム(Ca)に、Bサイトの一部をジルコニウム(Zr)で置換することで圧電特性を向上させた圧電セラミックスが開示されている。また、特許文献2には、(Na,K)NbOを主体とし、菱面晶―正方晶相境界を利用して圧電特性を向上させた圧電セラミックスが開示されている。
特許第5344456号公報 特許第5213135号公報
しかし、近年、超望遠レンズのような重量物を超音波モータで動かす機能が必要となってきており、特許文献1および特許文献2に開示されている圧電セラミックスは、従来の振動子を用いて超音波モータを作製して超望遠レンズなどの高負荷なものを動かそうとしても、トルク不足により、超音波モータの回転速度を十分に得ることはできなかった。
本発明は、上述の課題に対処するためになされたものであり、非鉛系の圧電セラミックスを用いても十分なトルクで回転する超音波モータを提供するものである。また、それを用いた駆動制御システム、光学機器、超音波モータに用いる振動子を提供するものである。
上記課題を解決するための本発明の超音波モータは、
円環状の振動子と該振動子に対して加圧接触するように配設された円環状の移動体とを備えた超音波モータであって、
前記振動子は、円環状の振動板と、該振動板の第一の面上に設けられた円環状の圧電素子よりなり、前記振動板は前記第一の面とは反対側の第二の面で前記移動体と接触し、
前記圧電素子は、円環状の一片の圧電セラミックスと、該圧電セラミックスの前記振動板と対向する面上に該圧電セラミックスと該振動板との間に挟まれるように設けられた共通電極と、該圧電セラミックスの前記共通電極が設けられた面とは反対側の面上に設けられた複数の電極とを有しており、
前記圧電セラミックスは鉛の含有量が1000ppm未満であり、前記複数の電極は、2つの駆動相電極と1つ以上の非駆動相電極と1つ以上の検知相電極よりなり、
前記円環状の振動板の第二の面は、放射状に伸びる溝部をX箇所に有し、
該円環状の振動板の外径を2R(単位mm)としたとき、前記Xは2R/0.85-5≦X≦2R/0.85+15を満たす自然数であり、前記2Rは57mm以上であり、
隣接する前記溝部同士を隔てる隔壁部の外径側の円周方向の長さの平均値Ltopと前記溝部の外径側の円周方向の長さの平均値Lbtmの比は2.00≦Ltop/Lbtm≦2.86の範囲にあり、
前記X箇所の溝部の中心深さを円周方向に順にD~Dとしたとき、D~Dは1つ以上の正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化しており、
当該中心深さの変化における極大となる溝部と極小となる溝部とがそれぞれ12箇所以上あり、
該極大となる溝部と極小となる溝部とは互いに隣接しないことを特徴とする。
上記課題を解決するための本発明の駆動制御システムは、上記の超音波モータと電気的に接続される駆動回路を少なくとも有することを特徴とする。
上記課題を解決するための本発明の光学機器は、上記の駆動制御システムと前記超音波モータに力学的に接続した光学部材とを少なくとも有することを特徴とする。
上記課題を解決するための本発明の振動子は、円環状の振動子であって、円環状の振動板と、該振動板の第一の面上に設けられた円環状の圧電素子よりなり、前記圧電素子は、円環状の一片の圧電セラミックスと、該圧電セラミックスの前記振動板と対向する面上に該圧電セラミックスと該振動板との間に挟まれるように設けられた共通電極と、該圧電セラミックスの前記共通電極が設けられた面とは反対側の面上に設けられた複数の電極とを有しており、
前記圧電セラミックスは、鉛の含有量が1000ppm未満であり、
前記複数の電極は、2つの駆動相電極と1つ以上の非駆動相電極と1つ以上の検知相電極よりなり、
前記円環状の振動板の第二の面は、放射状に伸びる溝部をX箇所に有し、
該円環状の振動板の外径を2R(単位mm)としたとき、前記Xは2R/0.85-5≦X≦2R/0.85+15を満たす自然数であり、前記2Rは57mm以上であり、
隣接する前記溝部同士を隔てる隔壁部の外径側の円周方向の長さの平均値Ltopと前記溝部の外径側の円周方向の長さの平均値Lbtmの比は2.00≦Ltop/Lbtm≦2.86の範囲にあり、
前記X箇所の溝部の中心深さを円周方向に順にD~Dとしたとき、D~Dは1つ以上の正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化しており、
当該中心深さの変化における極大となる溝部と極小となる溝部とがそれぞれ12箇所以上あり、
該極大となる溝部と極小となる溝部とは互いに隣接しないことを特徴とする。
本発明によれば、非鉛系の圧電セラミックスを用いた超音波モータ、あるいは前記超音波モータを用いた駆動制御システムや、光学機器において、高い負荷(例えば、500gf・cm以上)を掛けても十分な駆動速度を発揮することができる。
本発明の超音波モータの一実施形態を示す概略図である。 本発明の超音波モータの一実施形態の構成の一部を示す断面模式図である。 本発明の超音波モータおよび振動子に用いられる円環状の圧電素子における円周長と振動波の波長の関係を示す概略図である。 本発明の超音波モータおよび振動子に用いられる円環状の圧電素子の一実施形態の概略図である。 本発明の超音波モータおよび振動子に用いられる円環状の振動板の突起部および溝部の数と振動板の外径の関係を示す図である。 本発明の超音波モータおよび振動子に用いられる円環状の振動板の突起部と溝部の外径側の円周方向の長さの測り方を示す概略図である。 本発明の超音波モータおよび振動子の一実施形態における振動板の溝部の中心深さの分布を示す概略図である。 本発明の超音波モータおよび振動子の一実施形態における振動板の溝部の中心深さの分布を示す概略図である。 本発明の駆動制御システムの一実施形態を示す模式図である。 本発明の光学機器の一実施態様を示す概略図である。 本発明の光学機器の一実施態様を示す概略図である。 本発明の超音波モータおよび振動子に用いられる円環状の振動板の製造過程の一例を示す概略工程図である。 本発明の超音波モータの製造過程の一例を示す概略工程図である。
以下、本発明を実施するための超音波モータ、駆動制御システム、光学機器、振動子の実施形態について説明する。
(超音波モータおよび超音波モータに使用可能な振動子)
本発明の超音波モータは、円環状の振動子と、その振動子に対して加圧接触するように配設された円環状の移動体とを備えている。前記振動子は、円環状の振動板と、その振動板の第一の面(一方の面)上に設けられた円環状の圧電素子よりなり、その振動板の第二の面(第一の面とは反対側の面)が前記移動体と接触する。前記圧電素子は、円環状の一片の(一体として継ぎ目なく形成されている)圧電セラミックスと、その圧電セラミックス一方の(振動板と対向する面側の)面上に設けられた共通電極と、その圧電セラミックスの他方の(共通電極が設けられた面とは反対側の)面上に設けられた複数の電極とを有している。前記圧電セラミックスは、鉛の含有量が1000ppm未満である。前記複数の電極は、2つの駆動相電極と1つ以上の非駆動相電極と1つ以上の検知相電極よりなる。前記円環状の振動板の第二の面は放射状に伸びる溝部をX箇所に有する。このとき、前記Xは2R/0.85-5≦X≦2R/0.85+15(2Rは振動板の外径で単位はmm)を満たす自然数であり、2Rは57mm以上であり、隣接する前記溝部同士を隔てる隔壁部の外径側の円周方向の長さの平均値Ltopと前記溝部の外径側の円周方向の長さの平均値Lbtmの比は2.00≦Ltop/Lbtm≦2.86の範囲にあり、前記X箇所の溝部の中心深さを円周方向に順にD~Dとしたとき、D~Dは1つ以上の正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化しており、当該中心深さの変化における極大となる溝部と極小となる溝部はそれぞれ12箇所以上あり、極大となる溝部と極小となる溝部とは互いに隣接しないことを特徴とする。
本発明の超音波モータは、前記条件を満たすことにより、高負荷においても、高いトルクで十分な駆動速度を発揮することができる。また、高トルクで十分な駆動速度を発揮するとともに、駆動に寄与しない不要な振動波を除去し、効率(超音波モータへの投入電力に対する出力の効率)よく駆動することができる。
(図1、図2)
本発明の超音波モータは円環状の振動子1と前記振動子1に接して設けられた円環状の移動体2とを備えている。
図1(a)、(b)は、本発明の超音波モータの一実施形態を示す概略図である。図1(a)は、超音波モータを斜め方向から見た概略斜視図である。図1(b)は、超音波モータを複数の電極(パターン電極)が設けられた側から見た概略平面図である。
また、図2は、本発明の超音波モータの一実施形態の細部の構成を側方から見た模式部分断面図である。ここでいう側方とは、当該円環から半径方向に離れた位置のことである。
(円環状)
本発明において、円環状とは、初めに述べたように、模式的に、所定の厚みをもった円板が同心状に円形の貫通孔を有するもの、とみなし得る形状をいう。その円板および貫通孔の外周形状は、理想的には真円形であるが、模式的に円環とみなし得る限り、楕円形、長円形なども含む。円形が真円形でない場合の半径や直径は同面積の真円を仮定して決定する。円環の一部が欠けた形状、円環の一部が切れた形状、または円環の一部が突出した形状のような略円環状も、実質的に円環状とみなし得る限り、本発明では円環状に含める。従って、製造上のばらつきにより、僅かに変形した略円環状も、やはり実質的に円環状とみなし得る限り、本発明では円環状に含める。略円環状の場合の半径や直径は、その欠陥部や異常部を補った真円を仮定して決定する。
(移動体)
円環状の移動体2は同じく円環状の振動子1に加圧接触させられ、振動子1との接触面に発生する振動がもたらす駆動力によって回転する。移動体2の振動子1との接触面は平面状(平坦)であることが好ましい。移動体2の材質は弾性体であることが好ましく、その素材は金属であることが好ましい。例えば、アルミニウムが移動体2の素材として好適に用いられる。アルミニウム表面をアルマイト(陽極酸化)処理しても良い。
(振動子)
振動子1は、図1(a)に示すように、円環状の振動板101と、振動板101の第一の面上に設けられた円環状の圧電素子102よりなり、該振動板101の第二の面で移動体2と接触している。
移動体2は、適当な外力によって振動板101の第二の面に押し付けられていると、振動子1から移動体2への駆動力の伝達が良好となるため、好ましい。
振動板101の外径2R(単位mm)は、57mm以上である(2R≧57)。外径2Rが57mmより小さいと、貫通孔の部分が小さくなってしまうため、円環状である利点が得られなくなってしまう。例えばカメラ用のレンズを移動させる目的で本発明の超音波モータを使用する場合に、外径が小さいと光束が通過する面積が小さくなるために実用に適さない。
振動板101の外径2Rの上限は特に定められないが、駆動に寄与しない不要振動波の除去を十分達成できると言う観点で、2R≦90mmであることが好ましい。より好ましくは、2R≦80mmである。なお、前記振動板101の外周面が単純形状ではなく、測定箇所によって複数の外径を有する場合は、最大の外径を2Rとする。
振動板101の内径2Rin(単位mm)は、外径2Rより小さければ特に限定されないが、2R-16≦2Rin≦2R-6であることが好ましい。この要件は振動板101の円環の半径方向の長さ(以下これを円環の「幅」という)を3mm以上8mm以下にすることと換言することができる。振動板101の円環の幅を前記の範囲にすることで、円環状である利点を有しながら、超音波モータの駆動時に十分な駆動力を発生させることになる。内径2Rinが2R-16より小さいと、貫通孔の部分が小さくなってしまうため、上に述べたように円環状である利点が得られなくなってしまう。一方、2Rinが2R-6より大きいと、振動板101の円環の幅が不十分となって、超音波モータの駆動時に発生する駆動力が不十分となるおそれがある。駆動力は、圧電定数とヤング率と円環の厚みにほぼ比例する。駆動力を増加すれば、移動体の負荷が大きいときでも、移動体を高速で回転させることができる。
振動板101の第一の面は、平面であると、圧電素子102の伸縮に伴った振動の伝達が良好になるため、好ましい。振動板101の円環の中心と、圧電素子102の円環の中心が一致していると、振動の伝達が良好になるため好ましい。
振動板101の第一の面上に圧電素子102を設ける手段は限定されないが、振動の伝達を阻害しないように直接密着させるか、高弾性の素材(図示を省略)を介在させて密着させることが好ましい。高弾性の素材の例として、室温(例えば20℃)でのヤング率が0.5GPa以上、より好ましくは1GPa以上である接着層(図示を省略)を設けると圧電素子102から振動板101への振動の伝達が良好になる。他方、接着層の室温でのヤング率の上限は特に設けなくてもよいが、硬化後の樹脂の接着強度を十分得るためには、10GPa以下であることが好ましい。例えば、エポキシ系樹脂が接着層として好適に用いられる。接着層の室温でのヤング率は、JIS K6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」(1995年)によって算出可能である。
振動板の最大厚みをTdia(単位mm)とする。通常、振動板101の第一の面と突起部1011の頂面との距離をとる。振動板101の厚みが場所によって異なるときは、原則として、その最大値を振動板101の最大厚みとする。
diaは、4mm以上6mm以下であることが好ましい。Tdiaが4mm未満であると、振動子1としての弾性変形(歪)の中立面が圧電セラミックス1021側にシフトしてくるので、モータ駆動の効率が悪くなってしまう。そこで、前記中立面を振動板101側に戻す目的で圧電セラミックス1021を薄くすると、厚みのマイナス2乗に比例して変形時の応力が増加することから、圧電セラミックス1021は割れやすくなる。また、振動子1の発生力が低下する。一方、Tdiaが6mmより大きくなると、振動板101のモータ駆動時の変形量が小さくなり、モータの回転速度が低下する。そこで、振動板101のモータ駆動時の変形量を補う目的で圧電セラミックス1021を厚くすると、モータの駆動電圧が極端に大きくなってしまう。
(振動板の材質)
振動板101は圧電素子102と一体となって曲げ振動の進行波を形成し、移動体2に振動を伝達するという目的から、弾性体であることが好ましい。また、振動板101は弾性体としての性質および加工性の観点から金属よりなることが好ましい。振動板101に使用可能な金属としては、アルミ、真鍮、Fe-Ni36%合金、ステンレス鋼を例示できる。このうち、本発明で用いることが好ましい室温におけるヤング率が80GPa以上125GPa以下の圧電セラミックス1021と組み合わせて、高い回転速度を得られるのはステンレス鋼である。ここでいうステンレス鋼とは、鋼を50質量%以上、クロムを10.5質量%以上含有する合金を指している。ステンレス鋼の中でも、マルテンサイト系ステンレス鋼が好ましく、SUS420J2が振動板101の材質として最も好ましい。
(圧電素子)
円環状の圧電素子102は、図1(a)に示すように、円環状の一片の圧電セラミックス1021と、圧電セラミックス1021の振動板101と対向する側の面上に設けられた共通電極1022と、共通電極1022が設けられた面とは反対側の面上に設けられた複数の電極1023を有している。
本発明において、一片の圧電セラミックス1021とは、金属元素を有する原料粉末を焼成して得られる組成が均一のバルクであって、室温における圧電定数d31の絶対値が10pm/Vまたは圧電定数d33が30pC/N以上を示すセラミックスを意味している。圧電セラミックスの圧電定数は、当該セラミックスの密度ならびに共振周波数および反共振周波数の測定結果から、電子情報技術産業規格(JEITA EM-4501)に基づいて、計算により求めることが出来る。以下、この方法を共振-反共振法と呼ぶ。密度は、例えば、アルキメデス法により測定できる。共振周波数と反共振周波数は、例えば、インピーダンスアナライザを用いて測定できる。
セラミックスは一般的に微細な結晶の集まり(多結晶とも言う)で、1つ1つの結晶は正の電荷を持つ原子と負の電荷を持つ原子から構成されている。セラミックスの多くはこの正の電荷と負の電荷のつりあいが取れた状態になっている。しかし、誘電体セラミックスのなかには、強誘電体と言って、自然状態でも、結晶中の正負の電荷のつりあいが取れておらず、電荷の偏り(自発分極)を生じているものがある。焼成後の強誘電体セラミックスは、この自発分極の向きがバラバラで、セラミックス全体としては、見かけ上、電荷の偏りがないように見る。しかし、これに高い電圧を加えると、自発分極の向きが一様の方向にそろい、電圧を取り除いても元に戻らなくなる。このように自発分極の向きを揃えることを一般に分極処理という。また、分極処理が施された強誘電体セラミックスは外部から電圧を加えると、セラミックス内部の正負それぞれの電荷の中心が外部電荷と引き合ったり、しりぞけ合ったりして、セラミックス本体が伸びたり縮んだりする(逆圧電効果)。本発明の一片の圧電セラミックス1021とは、このような分極処理を施されたことで逆圧電効果が生じるセラミックスであり、少なくとも一片の圧電材料の一部の領域が分極処理されている。
円環状の一片の圧電セラミックス1021の外径は、振動板101の外径2Rより小さく、かつ、円環状の一片の圧電セラミックス1021の内径は、振動板101の内径2Rinより大きいことが好ましい。すなわち、円環の中心を一致させた時に、圧電セラミックス1021の円環中心軸方向の投影面は、振動板101の同じ方向の投影面に内包されていることが好ましい。円環状の一片の圧電セラミックス1021の外径および内径をそのような範囲にすることで、圧電セラミックス1021と振動板101の間での振動の伝達が良好になる。
本発明では、圧電セラミックス1021は、鉛の含有量が1000ppm未満、すなわち非鉛系である。また、室温(例えば、20℃)におけるヤング率が80GPa以上125GPa以下であることが好ましい。圧電セラミックス1021の室温におけるヤング率は、上に述べた共振-反共振法により算出することができる。従来の圧電セラミックスはそのほとんどがジルコン酸チタン酸鉛を主成分とする。そのため、例えば圧電素子が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりした際、従来の圧電セラミックス中の鉛成分が土壌に溶け出し生態系に害を成す可能性が指摘されている。しかし、本発明の圧電セラミックス1021のように鉛の含有量が1000ppm未満であれば、例えば圧電素子が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりしても、圧電セラミックス1021に含まれる鉛成分が環境に及ぼす影響は無視できるレベルとなる。
圧電セラミックス1021に含まれる鉛の含有量は、例えば蛍光X線分析(XRF)、ICP発光分光分析により定量された圧電セラミックス1021の総重量に対する鉛の含有量によって評価することができる。
圧電セラミックス1021の室温におけるヤング率が80GPaより小さいと、超音波モータの駆動時に発生する駆動力が不十分となるおそれがある。一方、圧電セラミックス1021の室温におけるヤング率が125GPaより大きいと、圧電セラミックス1021が割れやすくなる。例えば、圧電セラミックスのヤング率が大きいと、超音波モータの駆動により生じる圧電セラミックス1021の変形(歪)による応力が大きくなるため、圧電セラミックス1021は割れやすくなるおそれがある。また、例えば、ヤング率が大きいと、振動子1としての弾性変形の中立面が振動板101側から圧電セラミックス1021側にシフトしてくるので、モータ駆動の効率が悪くなってしまう。そこで、前記中立面を振動板101側に戻す目的で圧電セラミックス1021の厚みを薄くすると、厚みのマイナス2乗に比例して変形時の応力が増加することから、圧電セラミックス1021は割れやすくなる。圧電セラミックス1021の室温におけるより好ましいヤング率の範囲は95GPa以上125GPa以下である。
鉛の含有量が1000ppm未満であり、かつ、室温におけるヤング率が80GPa以上125GPa以下である圧電セラミックス1021の主成分としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する金属酸化物(ペロブスカイト型金属酸化物)が好適である。
本発明において、ペロブスカイト型金属酸化物とは、岩波理化学辞典 第5版(岩波書店、1998年2月20日発行)に記載されているような、理想的には立方晶構造であるペロブスカイト構造(ペロフスカイト構造とも言う)を持つ金属酸化物を指す。ペロブスカイト構造を持つ金属酸化物は一般にABOの化学式で表現される。Bサイトの元素とO元素のモル比は1対3で表記されているが、元素量の比が若干ずれた場合(例えば1.00対2.94~1.00対3.06)でも、金属酸化物がペロブスカイト構造を主相としていれば、ペロブスカイト型金属酸化物と言える。金属酸化物がペロブスカイト構造であることは、例えば、X線回折や電子線回折による構造解析から判断することができる。
ペロブスカイト型金属酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。A元素、B元素、O元素がそれぞれ単位格子の対称位置から僅かに座標シフトすると、ペロブスカイト型構造の単位格子が歪み、正方晶、菱面体晶、斜方晶といった結晶系となる。
Aサイトイオン、Bサイトイオンの取りうる価数の組み合わせは、A5+2- 、A2+4+2- 、A3+3+2- 、およびこれらを組み合わせた固溶体がある。前記の価数は同じサイトに位置する複数のイオンの平均価数であっても良い。
圧電セラミックス1021の組成は、鉛の含有量が1000ppm未満(すなわち非鉛系)であれば、特に限定されない。例えば、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムカルシウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム、チタン酸ビスマスナトリウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸チタン酸ナトリウムバリウム、鉄酸ビスマスなどの組成の圧電セラミックスや、これらの組成を主成分とした圧電セラミックスを本発明の超音波モータおよび振動子1に用いることができる。
これらのうちでも、圧電セラミックス1021は、下記一般式(1)、(2)のいずれかで表されるペロブスカイト型金属酸化物を主成分とし、主成分以外の金属成分の含有量が前記一般式で表される金属酸化物100重量部に対して金属換算で1重量部以下であることが好ましい。
一般式(1)
{M(NaLi1-j-k1-h1-m{(Ti1-u-vZrHf(Nb1-wTa1-h}O (1)
(式中、Mは(Bi0.50.5)、(Bi0.5Na0.5)、(Bi0.5Li0.5)、Ba、Sr及びCaから選ばれる少なくとも一種であり、0.06<h≦0.3、0≦j≦1、0≦k≦0.3、0≦j+k≦1、0<u≦1、0≦v≦0.75、0≦w≦0.2、0<u+v≦1、-0.06≦m≦0.06)
一般式(2)
(Ba1-sCaα(Ti1-tZr)O (2)
(式中、0.986≦α≦1.100、0.02≦s≦0.30、0.020≦t≦0.095)
前記一般式(1)、(2)において、Bサイトの元素とO元素のモル比はいずれも1対3であるが、元素量の比が若干ずれた場合(例えば、1.00対2.94から1.00対3.06)でも、前記金属酸化物がペロブスカイト型構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。前記金属酸化物がペロブスカイト型構造であることは、例えば、X線回折や電子線回折による構造解析から判断することができる。
(主成分とその他の金属成分)
本発明において、主成分とは圧電セラミックス1021の全重量に対して、前記一般式(1)、(2)のいずれかで表わされるペロブスカイト型金属酸化物を90質量%以上含むことを意味している。より好ましくは95質量%以上である。さらに好ましくは99質量%以上である。
加えて、主成分以外の金属成分の含有量は、前記一般式(1)、(2)で表わされる金属酸化物100重量部に対して金属換算で1重量部以下であることが好ましい。金属成分とは、例えば、典型金属、遷移金属、希土類元素やSi、Ge、Sbのような半金属元素を指す。金属成分の圧電セラミックス1021への含有の形態は問わない。例えば、ペロブスカイト構造のAサイトやBサイトに固溶していても良いし、粒界に含まれていてもかまわない。また、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態で金属成分が圧電セラミックス1021に含まれていても良い。
例えば、Mn、Cu、Fe、Biから選択される一つ以上の金属元素を前記一般式で表される金属酸化物100重量部に対して金属換算で1重量部以下の範囲で含有させると圧電セラミックス1021の絶縁性や機械的品質係数が向上する。ここで、機械的品質係数とは圧電素子102の振動に対する弾性損失を表す係数であり、機械的品質係数の大きさはインピーダンス測定における共振曲線の鋭さとして観察される。つまり圧電素子102の共振の鋭さを表す定数である。
前記金属成分の含有量が前記一般式で表される金属酸化物100重量部に対して金属換算で1重量部を超えると、圧電セラミックス1021の圧電特性や絶縁特性が低下するおそれがある。
前記圧電セラミックス1021の組成を測定する手段は特に限定されない。手段としては、X線蛍光分析、ICP発光分光分析などが挙げられる。いずれの手段においても、圧電セラミックス1021に含まれる主成分の組成およびその他の金属成分の含有量を算出できる。
(KNN系圧電セラミックス)
一般式(1)は、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)をベース材料として、特性調整のためにLi、(Bi0.50.5)、(Bi0.5Na0.5)、(Bi0.5Li0.5)、Ba、Sr、Ca、Ti、Zr、Hf、Taを最大でも30原子%以下でサイト置換した圧電性のペロブスカイト型金属酸化物である。
一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物を主成分とする圧電セラミックス(以下、KNN系圧電セラミックス)の室温(例えば、20℃)におけるヤング率は、概ね80GPa~125GPaの範囲となる。本発明に用いることが可能な圧電セラミックスの中ではKNN系圧電セラミックスのヤング率は低い部類に入るので、超音波モータの駆動時の発生力を十分得るために、2.00≦Ltop/Lbtm≦2.86であることが好ましい。更に好ましいLtop/Lbtmの範囲は、2.40≦Ltop/Lbtm≦2.86である。LtopとLbtmが前記関係を満たすことで、KNN系圧電セラミックスを用いた本発明の超音波モータは振動子1と移動体2の間で、適度な摩擦を有しながら、十分な発生力を伝達することができる。
KNN系圧電セラミックス1021の室温における圧電定数d31の絶対値は、例えば100pm/V以上と大きい。そのため、本発明の超音波モータにKNN系圧電セラミックスを用いた場合、モータ駆動時に高い回転速度を得られる。
一般式(1)において2価または擬似2価のAサイト金属であるMのAサイトにおけるモル比を示すhは、0.06<h≦0.3の範囲である。4価のBサイト金属であるTi、Zr、HfのBサイトにおける存在量もMと同じくモル比率hで導入される。このようにすることで、金属酸化物全体の荷電平衡(チャージバランス、電気的中性)が保たれて、圧電セラミックス1021の絶縁性を確保できる。
KNN系圧電セラミックスのAサイトは、元来、1価であるが、このAサイトの一部を2価金属で置換することで結晶構造に変化が起き、圧電定数を向上させることができる。しかし、hが0.3より大きいと、脱分極温度が、例えば100℃以下に低下するおそれがある。
本明細書において、脱分極温度(Tともあらわす)とは、分極処理をして十分時間が経過した後に、室温からある温度T(℃)まで上げ、再度室温まで下げたときに圧電定数が温度を上げる前の圧電定数に比べて減少している温度を指す。本明細書においては温度を上げる前の圧電定数の90%未満となる温度を脱分極温度Tと呼ぶ。
また、KNN系圧電セラミックスのBサイトは、元来、5価であるが、このBサイトの一部を4価のTi、ZrまたはHfで一部置換することで、結晶構造の転移温度に変化が起き、圧電定数の環境温度に対する変動を抑制することができる。この圧電定数の環境温度に対する変動を抑制する効果は、Zr、Ti、Hfの順番で大きい。4価の金属の中でのHfの内訳を示すvが、0.75より大きいと、圧電定数が小さくなって超音波モータの回転速度が低下するおそれがある。
一般式(1)のAサイトにおいて、前記のMを除くアルカリ金属はNa、K、Liよりなる。Aサイトにおけるアルカリ金属の総量1-hは、0.7≦1-h<0.94である。すなわち、0.06<h≦0.3である。アルカリ金属のベースはNaとKであって、Liの置換量kは0.3以下である。NaおよびKに対して、前記範囲でLiを置換することで、ペロブスカイト構造の格子定数のアスペクト比が高まり、脱分極温度を高める効果がある。
一般式(1)において、ペロブスカイト構造のAサイトとBサイトの構成原子のモル比を示す1-mは、0.94≦1-m≦1.06の範囲である。すなわち、-0.06≦m≦0.06である。理想的には、Aサイトの構成原子数とBサイトの構成原子数が1:1となる化学量論比、すなわちm=0が好ましい。しかしながら、実際のKNN系圧電セラミックスの製造工程では、mが±0.06以内の範囲で変動することがある。このmの範囲であれば、KNN系圧電セラミックスの圧電定数は大きく変化しない。
一般式(1)のBサイトのNbの一部はTaで置換されていても良く、置換のモル比を示すwの範囲は、0≦w≦0.2である。Nbに対してTaを前記wの範囲で置換すると、KNN系圧電セラミックスの圧電定数が向上する。
(BCTZ系圧電セラミックス)
一般式(2)は、ペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウムのBaの一部をCaで置換し、Tiの一部をZrで置換したチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(BCTZ)を表している。CaとZrを同時置換すると、圧電セラミックス1021の脱分極温度を低下させずに圧電定数を大きく向上させることができる。一般式(2)で表されるペロブスカイト型金属酸化物の結晶系は室温で正方晶構造であると、良好な機械的品質係数を得られるため好ましい。
BCTZ系圧電セラミックス1021の室温(例えば、20℃)におけるヤング率は、概ね80GPa~125GPaの範囲となる。本発明に用いることが可能な圧電セラミックスの中ではBCTZ圧電セラミックスのヤング率は高い部類に入るので、超音波モータの駆動時に高い発生力を得ることができる。
他方、BCTZ系圧電セラミックス1021の室温における圧電定数d31の絶対値は、例えば90pm/V以上と大きい。そのため、本発明の超音波モータにBCTZ圧電セラミックスを用いた場合、モータ駆動時に高負荷でも高い回転速度を得られる。
一般式(2)において、AサイトにおけるBa、Caのモル量と、BサイトにおけるTi、Zrのモル量との比を示すαは、0.986≦α≦1.100の範囲である。αが0.986より小さいと圧電セラミックス1021を構成する結晶粒に異常粒成長が生じ易くなり、圧電セラミックス1021の機械的強度が低下する。一方で、αが1.100より大きくなると圧電セラミックス1021の粒成長に必要な温度が高くなり過ぎ、一般的な焼成炉で焼結ができなくなる。ここで、「焼結ができない」とは密度が充分な値にならないことや、圧電セラミックス内にポアや欠陥が多数存在している状態を指す。
一般式(1)において、AサイトにおけるCaのモル比を示すsは、0.02≦s≦0.30の範囲である。ペロブスカイト型のチタン酸バリウムのBaの一部を前記範囲でCaに置換すると斜方晶と正方晶との相転移温度が低温側にシフトするので、超音波モータおよび振動子1の駆動温度範囲において安定した圧電振動を得ることができる。しかし、sが0.30より大きいと、圧電セラミックスの圧電定数が十分ではなくなり、超音波モータの回転速度が不足する。他方、sが0.02より小さいと超音波モータおよび振動子1の駆動温度範囲において、十分な機械的品質係数が得られない。
一般式(2)において、BサイトにおけるZrのモル比を示すtは、0.020≦t≦0.095の範囲である。Tiサイトの一部を上記範囲でZrに置換すると、圧電材料の正方晶歪みが低下するため、c/aが小さくなって1に近づき、大きな圧電振動を得ることができる。より好ましいtの範囲は0.040≦t≦0.085である。tが0.095より大きいと脱分極温度が低くなり、高温雰囲気下、例えば50℃での超音波モータの駆動が十分でなくなるおそれがある。
共通電極1022は、円環状の一片の圧電セラミックス1021の振動板101と対向する側の面、すなわち振動板101に接触する面または上に述べた接着層に接触する面に設けられている。共通電極1022は圧電セラミックス1021の面に相似して円環状に配置されている。共通電極1022は、複数の電極1023のうち非駆動相電極10232(図1(b)参照)と導通していると、複数の電極1023の特定の領域のみで駆動電圧を印加できるようになるため、好ましい。例えば、共通電極1022と非駆動相電極10232の両方に接するように配線を設けることで、両者を導通させることができる。あるいは、導電性を有する振動板101を介して、共通電極1022と非駆動相電極10232を導通させるように配線を設けても良い。
そのような配線は、例えば銀等の金属ペーストを塗布し、乾燥または焼き付けることで形成可能である。
複数の電極1023は、図1(b)に示すように、2つの駆動相電極10231と1つ以上の非駆動相電極10232と1つ以上の検知相電極10233よりなる。駆動相電極10231と非駆動相電極10232と検知相電極10233は、各々が駆動時に独立した電位を有することができるように互いに導通していないことが好ましい。
検知相電極10233は、振動子1の振動状態を検知して、その振動状態の情報を外部、例えば駆動回路にフィードバックする目的で設けられている。検知相電極10233と接する部分の圧電セラミックス1021には分極処理が施されている。そのため、超音波モータを駆動させると、振動子1の変形(歪)の大きさに応じた電圧が検知相電極10233の部分で発生して、検知信号として外部に出力される。
非駆動相電極10232のうち少なくとも1つ以上は、共通電極1022と導通していることが好ましい。非駆動相電極10232をグランド電極として使用することが可能となるためである。導通を得るための好ましい形態および手法は、上に述べたとおりである。駆動相電極10231、グランド電極としての非駆動相電極10232、検知相電極10233がいずれも円環状の圧電素子102の一方の面(共通電極1022が設けられた面とは反対側の面)に設けられていることで、超音波モータ外部との電気信号(駆動信号、検知信号)のやりとりが容易となる。例えば、フレキシブルプリント基板による駆動信号、検知振動のやりとりが可能となる。
超音波モータと駆動回路の電気的接続にフレキシブルプリント基板を用いる場合、フレキシブルプリント基板は円環状の圧電素子102の一方の面(共通電極1022が向けられた面とは反対側の面)で、各駆動相電極10231の一部、非駆動相電極10232および検知相電極10233と接するように配置される。フレキシブルプリント基板は寸法精度も高く、冶具等を用いることで位置決めも容易である。フレキシブルプリント基板の接続には、エポキシ系接着剤等を用いて熱圧着することも可能であるが、好ましくは導電性を有する異方性導電ペースト(ACP)および異方性導電フィルム(ACF)を熱圧着することで導通不良の軽減やプロセス速度が向上するため、量産性の点で好ましい。フレキシブルプリント基板の接続に熱圧着を用いる場合、圧電セラミックス1021の脱分極温度より低い温度を選択することが好ましい。
非駆動相電極10232と接する部分の圧電セラミックス1021は、残留分極を有していても、有していなくても良い。ただし、非駆動相電極10232と接する部分の圧電セラミックス1021が残留分極を有している場合は、当該の非駆動相電極10232と共通電極1022とが導通していることが好ましい。
各々の駆動相電極10231は、図1(b)に示すように、6つの分極用電極102311と前記6つの分極用電極102311を電気的に接続したつなぎ電極102312よりなる。
図3は、本発明の超音波モータに用いられる円環状の圧電素子102における円周長と振動波の波長の関係を示す概略図である。図3は説明の便宜上、電極の記載を省略している。図中の円環は圧電素子102を示しているが、圧電セラミックス1021の形状と実質、同一である。円環の面上で任意の位置を指定し、圧電素子102の円環形状と中心を同一として前記任意の位置を通過する円の直径を2Rarb(単位mm)とすると、前記円の円周長は2πRarbとなる。この円周長2πRarbを本発明では7λとする。本発明におけるλとは、本発明の超音波モータを構成する振動子1の円周方向に7次(波数7)の曲げ振動の進行波を発生させるときの波長である。上で指定した任意の位置によってλの値は異なるが、複数の電極1023の形状と大きさを設計するためにこのようなパラメータλを仮定する。以後、円周方向の長さについては、特に記載が無くても、圧電素子102の面上の任意の位置を通過する円を仮定して考える。
図4(a)、(b)は、本発明の超音波モータに用いられる円環状の圧電素子102における分極用電極102311の配置と各電極部における圧電セラミックス1021の極性を示す概略図であり、円環状の圧電素子102を複数の電極を設けた側から見たものである。ただし、図4(a)、(b)では、説明の便宜上、つなぎ電極102312の表示を省略している。なお図4(a)、(b)の極性の組み合わせは一例であって、本発明を限定するものでは無い。
駆動相電極10231と接する部分の圧電セラミックス1021は、駆動相電極10231に対して略垂直な方向に残留分極を有している。前記残留分極を有している領域は、分極用電極102311と共通電極1022に狭持された領域における圧電セラミックス1021の一部であっても全部であっても構わないが、超音波モータの駆動時の発生力を高める観点では、分極用電極102311と共通電極1022に狭持された全部の領域が残留分極を有していることが好ましい。本発明では、残留分極を有している領域を分極部と称する。残留分極とは圧電セラミックス1021に電圧を印加していない時に圧電セラミックス1021に残留している分極のことを指す。圧電セラミックス1021は、分極処理を施すことで、自発分極の方向が電圧印加方向に揃い、残留分極を有するようになる。圧電セラミックス1021が残留分極を有しているか否かは、圧電素子102を狭持する電極間に電圧を印加し、印加電界Eと分極量P(P-Eヒステリシス曲線)を測定することにより、特定することができる。
各駆動相電極10231は6つの分極用電極102311を有しており、それに対応して、分極用電極102311と接する圧電セラミックス1021の部分、すなわち分極部も6つある。6つの分極部および分極用電極102311は図4(a)、(b)に示すように未分極部を挟んで円周に沿って配置されている。分極部の極性は円周に沿って配置された順に見て交互に反転している。図4(a)、(b)において分極用電極102311の内側に記載された「+」および「-」の記号は、残留分極の方向、すなわち極性を示している。本明細書においては、圧電素子102の製造工程における分極処理において正の電圧を印加した電極部に「+」の記号を記載しているので、「+」電極部分のみで圧電定数d33を測定すると負の値が検出される。同様に「-」電極部分では正の圧電定数d33が検出される。他方、図4(b)において「0」の記号が表示されている電極部分または電極が設けられていない未分極部のみでは、室温における圧電定数d33はゼロまたはごく小さな値、例えば5pC/N以下しか検出されない。図4(a)、(b)で例示した圧電素子102においては、圧電セラミックスは紙面に対して下向きに残留分極を有する領域と上向きに残留分極を有する領域を有する。領域によって残留分極の極性が異なることを確認する方法としては、圧電定数を測定して検出された値の正負で判断する方法やP-Eヒステリシス曲線における抗電界の原点からのシフト方向が逆であることを確かめる方法が挙げられる。
各分極部と各分極用電極102311の大きさは、実質的に等しい。
すなわち、6つの分極用電極102311(2つの駆動相電極10231で合計すると12箇所の分極用電極102311)は、円周方向に互いに同等な長さを有することが好ましい。また、各分極部と各分極用電極102311は、投影面積で考えて差が2%未満であることが好ましい。
より詳しくいうと、各分極用電極102311の形状は扇型であり、円周方向の長さは未分極部を無視すると理想的にはλ/2である。実際は、隣接した領域が互いに極性の異なる分極状態を作り出す時の短絡を防止する目的で、各分極用電極102311の間には未分極部が存在する。その場合は未分極部の円周方向の中心を起点にとって隣接する分極用電極102311を超えた次の未分極部の中心までをλ/2とすることが理想的である。もっとも、2%未満程度の長さの誤差は許容される。また、超音波モータの駆動時に発生する駆動力を高める観点では、未分極部の体積は可能な限り小さいことが好ましい。分極用電極102311に挟まれた未分極部はつなぎ電極102312とは接している。
各駆動相電極10231の円周方向の長さは理想的には3λである。実際は、隣接する非駆動相電極10232または検知相電極10233との短絡を避けるための電極の無い隙間が存在するために3λより僅かに小さくなっている。例えば、実際は3λより1~2.5%程度小さい。
圧電素子102の面上の任意の位置を通る円の円周長は、円周を7等分した1つの円弧の長さをλとしたとき7λであるので、2つの駆動相電極10231を除いた円周長の残分は電極間の隙間を無視するとλである。これを1つ以上の非駆動相電極10232と1つ以上の検知相電極10233で分け合う。このとき、2つの駆動相電極10231は、円周方向の長さがそれぞれλ/4および3λ/4である2つの間隔部により円周方向に離隔されなくてはならず。また、非駆動相電極10232と検知相電極10233は、いずれも2つの間隔部に設けなくてはならない。このようにとすることで、2つの駆動相電極10231の部分に発生する定在波の位相、例えば節の位置がλ/4だけずれ、互いに極性の異なる分極部を有する円環状の圧電素子102は、振動子1の円周方向に曲げ振動波を形成することができる。つなぎ電極102312を介して、各分極用電極102311に同時に電圧を印加すると、逆圧電効果によって一方は円周方向に伸びて他方は縮むためである。
本発明の超音波モータの一方の駆動相(A相)電極10231と共通電極1022とで挟まれた部分のみに、振動子1の固有振動数となる周波数をもつ交番電圧を印加すると、振動板101の表面には円周方向に沿った全周にわたって波長λの定在波が発生する。また、もう一方の駆動相(B相)電極10231と共通電極1022とで挟まれた部分のみに同様の交番電圧を印加すると、同様の定在波が発生する。ただし、それぞれの定在波の節の位置は振動板101の円周方向に沿ってλ/4のずれを有する。
超音波モータとして駆動する時には、本発明の超音波モータの2つの駆動相(A相およびB相)電極10231の部分に対し、振動子1の固有振動数となる周波数をもつ交番電圧を、周波数が同一でかつ時間的位相差がπ/2となるように印加する。そうすると、上記2つの定在波の合成により、振動板101には、円周方向に進行する波長λかつ7次の進行波が発生する。
分極用電極102311、非駆動相電極10232、検知相電極10233、つなぎ電極102312は、抵抗値が10Ω未満、好ましくは1Ω未満の層状あるいは膜状の導電体からなる。電極の抵抗値は、例えば回路計(電気テスター)で測定することで評価できる。各電極の厚みは5nmから20μm程度である。その材質は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。
電極の材料としては、例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。前記電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、圧電素子に配置された各電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
これらのうち、本発明に用いる電極としては、AgペーストやAgの焼きつけ電極、Au/Tiのスパッタリング電極などが、抵抗値が小さいため好ましい。
(振動板)
図2に示すように、移動体2と接触する振動板101の第二の面は、放射状に伸びる断面U字形の溝部1012を複数本有する。ここでいう「断面U字形」とは、当該振動板の第二の面に対して、実質的に垂直な両壁面と実質的に水平な底面を有する断面形状をいう。ただし、底面と各壁面とが丸く滑らかに接続している所謂U字形のみならず、底面と各壁面とが直角をなして接続している所謂矩形状や、それらの中間的形状、あるいはそれらからの多少の変形など、所謂U字形に準ずる形状であって「断面U字形」とみなし得るものを広く含む。図6(b)、(c)、(d)は、そのような本発明に含まれる断面U字形の溝部の断面形状の例を示したものである。
振動板101の第二の面は、放射状に設けられた複数の溝部1012を有するため、隣接する2つの溝部の間はそれらを隔てる隔壁部1011を構成する。そして、放射状に延びる複数の溝部1012が円周方向に配列されるのであるから、その間に形成される隔壁部1011の数は溝部と同じである。隔壁部1011の頂面(天井面)は、当該円環状振動体の第二の面に相当し、各溝部の深さを定義する際の基準面にもなるものであるが、凹部である溝部に対しては凸部とみなせるため、これを「突起部」ということもできる。すなわち、移動体2は、突起部1011の頂面との摩擦による駆動力で、加圧接触している当該振動子に対して相対移動するということができる。以下においては、説明の都合上、原則として、溝部間の領域1011を「隔壁部」ではなく「突起部」ということにする。
本発明の溝部1012は、個々の溝部ごとに中心深さが異なることが特徴である(ただし図2においては同じ中心深さとして描画している)が、ここでいう「中心深さ」とは、個々の溝部を移動体側から見たときの中心位置における深さのことである。すなわち、半径方向にも円周方向にも個々の溝部の中央に当たる位置における、突起部の頂面(振動板の第二の面)から測った当該溝の深さということになる。通常、溝部1012の底面は、振動板101の第二の面に全体として平行であり、半径方向(溝が延びる方向)には全体として平らで、円周方向(溝が配列される方向)には全体として平らであるか、中央部が平らで両側部(壁面近傍)が盛り上がった凹面状であるから、中心深さは、個々の溝部の最深部の深さを意味することになる。ただし、それは個々の溝部の底面形状がどのようになっているかによって異なるわけであるから、必ずしも最深部の深さを意味するとは限らず、例えば、深さの中央値(底面が一方向に傾斜している場合など)を意味することもあり得る。もっとも、当該中心位置における深さが通常は当該深さの代表値としての意味を持たない値である(例えば特異点である)ような場合には、当該中心位置に近い他の点における深さであって、その溝部の深さを代表する値を中心深さとする。なお、全ての溝部について、深さの測定位置が固定されている以上、各溝部の底面が同様の形状を有するのであれば、中心深さの持つ意義は全ての溝部で同等となる。
突起部(隔壁部)1011と溝部1012とは円環状の振動板101の円周方向に沿って交互に設けられ、上に述べたように、その個数は一致する。突起部1011と溝部1012はそれぞれX箇所あるとする。突起部1011または溝部1012の数は、振動板101の外径2Rにほぼ比例し、2R/0.85-5≦X≦2R/0.85+15の関係を満たすように決められる。ここで、2Rの単位はmm、Xの単位は箇所(数)である。Xと2Rとが前記関係を満たすことで、本発明の超音波モータは、振動子1と移動体2の間で、適度な摩擦力を有しながら、十分な駆動力を伝達することができる。
図5は、振動板101の溝部1012(または突起部1011)の数と振動板101の外径2Rの関係を示す図である。図の線分上を含む斜線部が本発明の範囲である。外径2Rについては特に上限を設ける必要はないが、外径2Rが90mmを超える範囲については、記載を省略し、90mm以下である範囲のみを示している。
一方、振動板の外径2Rは57mm以上であるので、溝部のXの最小値は63となる。仮に2Rの上限を90mmとすると、Xの最大値は120となる。別の例として、仮に2Rの上限を80mmとすると、Xの最大値は109となる。
溝部の数Xが2R/0.85-5より小さな自然数であると、移動体2と接触する突起部1011の変形(歪)が不十分となり、その結果として振動子1が発生する駆動力が低下してしまう。他方、Xが2R/0.85+15より大きな自然数であると、突起部1011ひとつあたりの移動体2との接触面積が小さくなるため、移動体2側の部材に重量体を用いたり、大きなトルクが掛けられたりすると、移動体2と突起部1011の間の摩擦力が不十分となり、駆動力が十分に伝わらずに滑りが発生することがある。
モータ駆動時の発生力と滑りの防止の観点から、より好ましいXの範囲は、85≦X≦100である。
図6(a)~(d)は、本発明の超音波モータまたは本発明の振動子に用いられる円環状の振動板101の突起部1011と溝部1012の(外径側の)円周方向の長さ(単位mm)の測り方を示す概略図である。突起部と溝部の境界線が正確に半径方向に延びている(すなわち溝部が扇形状に形成されている)場合には、それらの円周方向の長さの比、当該円周を振動板の面上のどこにとっても同じである。しかしながら、通常、溝部は扇形状ではなく、溝の中心線が半径方向に延び、両壁面はその中心線に平行に延びる形状(移動体側から見て長方形状)に形成される。従って、厳密にいうと、突起部と溝部の円周方向の長さの比は、当該円周をどこにとるか(当該仮想円の半径)によって微妙に異なる。そのような場合は、当該円周を振動板の外径側にとり、当該仮想円の半径をRとする。
本発明において、突起部1011の外径側の円周方向の長さの平均値Ltopと前記溝部の外径側の円周方向の長さの平均値Lbtmの比は、2.00≦Ltop/Lbtm≦2.86である。LtopとLbtmが上の関係を満たすことで、本発明の超音波モータは振動子1と移動体2の間で、適度な摩擦力を有しながら、振動子に発生した駆動力を十分に伝達することができる。
図6(a)は、振動板101を移動体2と接触する面(第二の面)側から見た模式的部分平面図である。X箇所の突起部(1011-1~1011-X)から任意の突起部を一つ選択したとする。選択された突起部1011-1の外径側の円周方向の長さ(円弧)をLtop1とする。他の突起部1011-2~1011-Xのそれぞれについても、同様に外径側の円周方向の長さを求め、これらX箇所の長さ(Ltop1~LtopX)の平均をとるとLtopとなる。なお、平均をとるので、各突起部1011の外径側の円周方向の長さは等しくても異なっていても良い。
同じように、X箇所の溝部(1012-1~1012-X)から任意の溝部を一つ選択したとする。選択された溝部1012-1の外径側の円周方向の長さ(円弧)をLbtm1とする。他の溝部1012-2~1012-Xについても、同様に外径側の円周方向の長さを求め、これらX箇所の長さ(Lbtm1~LbtmX)の平均をとるとLbtmとなる。なお、平均をとるので各溝部1012-1~1012-Xの外径側の円周方向の長さは等しくても異なっていても良い。
図6(b)、(c)、(d)は、任意の突起部1011-1と任意の溝部1012-1を含む振動板101の一部を円環の外径側(円環から半径方向に離れた位置)から見た展開模式図である。図6(b)のように突起部1011-1と溝部1012-1が矩形状または略矩形状に形成されている場合は、突起部の天井辺(頂面の外径側の辺)の長さをLtop1、溝の底辺(底面の外径側の辺)をLbtm1とすれば良い。
図6(c)のように、突起部1011-1および溝部1012-1に共通の壁面は振動板101の第一の面に対して垂直でありながら、突起部1011-1の頂面あるいは溝部1012-1の底面が平坦で無い時は、外径側における壁面間の距離からLtop1、Lbtm1を求めることができる。図6(d)のように、突起部1011-1および溝部1012-1に共通の壁面が振動板101の第一の面に対して垂直で無い場合は、突起部1011-1の中心高さと溝部1012-1の中心深さの中点となる壁面上の位置に振動板の第一の面に対する垂線を仮定して、Ltop1やLbtm1の測長基準とすれば良い。
突起部と溝部の外径側の円周方向の長さの比Ltop/Lbtmが2.00より小さいと、X箇所の突起部1011の移動体2との接触面積が小さくなるため、移動体2側の部材に重量体を用いたり、大きなトルク(例えば、500gf・cm以上)が掛けられたりすると、移動体2と突起部1011の間での摩擦力が不十分となり、駆動力が有効に伝わらずに滑りが発生し、駆動速度が低下することがある。他方、Ltop/Lbtmが2.86より大きいと、移動体2と接触する突起部1011の変形(歪)が不十分となり、その結果として振動子1が発生する駆動力が低下してしまうため、駆動速度が低下する。
より好ましくは、2.00≦Ltop/Lbtm≦2.40である。
なお、図6(b)、(c)、(d)のいずれの場合であっても、さらに図示していないような場合を含めて、移動体2との接触を増やす観点において、振動板の第一の面を起点とした各突起部1011-1~1011-Xの最高点までの距離は加工寸法の公差の範囲内で等しいことが好ましい。
X箇所の溝部1012の中心深さを振動板の円周方向に順にそれぞれD~D(単位mm)とする。本発明においてD~Dは、5種以上の異なる値を取り、1つ以上の正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化している。
例えば、本発明が目的とする円環に沿った7波の進行波に対して不要振動波となる4次、5次、6次、8次(円環に沿った波数が4、5、6、8)の進行波を抑制する場合は、1つ以上4つ以下の正弦波を重ね合せた曲線にそってD~Dを変化させると良い。その場合の正弦波を重ね合せた曲線の一般式は以下の数式(1)のようになる。
Figure 2022069470000002
数式(1)において、ωは円環状の振動板101の放射状に伸びる溝の中心位置を示す角度である。θは位相差を示す角度であり、実施形態によって後述の条件を満たすように適宜決定される。D(単位mm)は円環状の振動板101の任意の溝の中心位置における理想的な溝の深さを示すものであって、D~DはD±0.1とする。また、D~D の個々の値の深さ変動は、数式(1)で算出したDと一致している。Dave(単位mm)は、D~Dの平均値として別途設定される溝部1012の標準深さである。
Am(単位mm)は各正弦波の振幅となる実数であり、添え字は低減を意図する不要振動波の次数(波数)を示している。Am、Am、Am、Amのうち、少なくとも1つ以上は0以外の値を取る。0以外の値を有する振幅の数が、正弦波の重ね合せの数である。正弦波の重ね合せの数は、1つ以上であれば上限は特に定められないが、5つ以上の正弦波を重ね合せると不要振動波を低減する効果があまり向上せず、モータ駆動の効率が低下するおそれがある。よって、正弦波の重ね合せの数は1以上4以下が好ましい。より好ましい正弦波の重ね合せの数は2以上4以下である。
図7-1(a)、(b)、(c)、(d)、および図7-2(e)、(f)、(g)、(h)は、本発明の超音波モータの一実施形態における振動板の溝部の中心深さの分布を示す概略図である。図7-1(a)、(c)、および図7-2(e)、(g)は、X=90を仮定した時の各溝部の深さとDaveの差分を示す一例である。プロットの横軸はX=90[箇所]の溝部の順番(以下、溝番号と呼ぶ)を示しており、0番は本来存在しないがプロット上では90番目の溝部の深さを2回示すために便宜上用いている。図7-1(a)、(c)、および図7-2(e)、(g)における各溝部の深さのプロットは、いずれも4つの正弦波を重ね合せた曲線に沿っている。
図7-1(b)、(d)、および図7-2(h)は、それぞれ図7-1(a)、(c)、および図7-2(g)で示した各溝部の深さをDave=1.85mmとして振動板101に適用した場合の突起部と溝部の高さや深さの関係をグラフプロットして示す模式図である。この例において振動板の第一の面を起点とした各突起部の高さは等しい。プロットの横軸は90箇所の溝部の位置を円環の中心から見た角度として示している。横軸の値は相対的なものであるが、図7-1(b)においては、図7-1(a)における89番の溝と90番(0番)の溝に挟まれた突起部の中心を起点としている。
同様に図7-2(f)は、図7-2(e)で示した各溝部の深さをDave=1.65mmとして振動板101に適用した場合の突起部と溝部の高さや深さの関係をグラフプロットして示す模式図である。
図7-1(a)、(b)、(c)、(d)および図7-2(e)、(f)、(g)、(h)のような溝深さにすることで、7次の進行波に対して不要な振動波である4次、5次、6次、8次の進行波の発生が大幅に抑制される。例えば、4次の不要振動波のみに着目すると、数式(1)の右辺第2項『sin(4×2×ω+θ)』にも示されるように溝部の中心深さは円周に対して8箇所の極大部(深部)と8箇所の極小部(浅部)を均等間隔(π/4の角度)で有するようになる。2つの駆動相電極部で発生する各々の定在波の腹の位置もπ/4の角度でずれているので、一方の定在波は剛性の低い箇所で振動するために、共振周波数が低周波側にシフトする。他方の定在波は剛性の高い箇所で振動するために、共振周波数が高周波側にシフトする。相互の定在波の共振周波数が分離するために、結果として4次の進行波(不要振動波)は発生しなくなる。他の次数の不要振動波についても、抑制の機構は同じである。
超音波モータの振動板101におけるX箇所の溝部1012の中心深さが、1つ以上の正弦波を重ね合わせた曲線に沿って変化していることを確かめる方法として、以下の方法を例示できる。まず、振動板の外径側の円周長に対する各溝の中心部の座標と深さを実測する。横軸に溝部の座標、縦軸に実測深さを取り、プロット間を補完して、全ての座標に溝深さが存在するような曲線を仮定する。この曲線をフーリエ変換すると、正弦波の存在と個数が分かる。
X箇所の溝部1012の中心深さの変化は、その極大となる溝部と極小となる溝部の数がそれぞれ12箇所以上となるように変化している。中心深さの極大とは、ある溝部の中心深さが、両側に隣接する溝部の中心深さのいずれよりも大きいことを示している。同様に、中心深さの極小とは、ある溝部の中心深さが、両側に隣接する溝部の中心深さのいずれよりも小さいことを示している。
本発明の超音波モータおよび振動子1は、7次の曲げ振動波を移動体2の駆動源としており、悪影響の大きい不要振動波は、共振周波数が近い6次および8次の振動波である。数式(1)の右辺第4項に示したように、12箇所の極大部(深部)と12箇所の極小部(浅部)を溝部に設けることで、特に影響の大きい6次の不要振動波を効果的に抑制することができる。
極大となる溝部の数と極小となる溝部の数は一致していることが好ましい。極大となる溝部と極小となる溝部の数がそれぞれ16箇所以下であることが好ましい。8次の不要振動波を抑制しようとすると、極大となる溝部と極小となる溝部の数がそれぞれ16箇所となることがあるが、その数が17箇所以上となると本発明の超音波モータおよび振動子1が発生する駆動力が極端に低下するおそれがある。また、極大となる溝部は12箇所乃至16箇所であることが、より好ましい。このような構成にすることによって不要振動波の抑制はさらに効果的となる。
(中心深さの極大部と極小部の位置関係)
X箇所の溝部1012において、その中心深さが極大となる溝部と極小となる溝部は隣接せず、1つ以上の溝部を間に挟むように設けられる。この構成によって、本発明の超音波モータおよび振動子1を駆動させた時の移動体2の回転動作が安定する。
本発明の超音波モータおよび振動子1を駆動させると、各突起部1011の天井面では楕円運動が発生し、移動体2を回転させる動力となる。この楕円運動の楕円比は、溝部の中心深さに依存しており、中心深さが小さいと楕円比は大きくなり、中心深さが大きいと楕円比は小さくなる。中心深さが極大となる溝部と極小となる溝部では、この楕円比が大きく異なるため、それらの溝部が隣接すると、移動体2の回転動作が滑らかでなくなったり、回転方向によって回転動作の挙動が異なったりする。
極大となるX箇所の溝部は、中心深さが最も大きい溝部と二番目に大きい溝部の間に位置する溝部の数Iが、I≧X/18の関係を満たすことが好ましい。このような構成にすることによって、前記楕円比がより均一なものになり、結果、回転動作がさらに安定し、回転速度が上がる。
~Dのうち、最大値(最も中心深さが大きい溝)と最小値(最も中心深さが小さい溝)の差分(変化幅)は、振動板の最大厚みTdiaに対して5%以上25%以下であることが好ましい。D~Dの変化幅を振動板の最大厚みTdiaに対して、前記の範囲に収めることで不要振動波の抑制とモータ駆動の効率を両立することができる。D~Dの最大値と最小値の差分がTdiaに対して5%未満であると、不要振動波の抑制が十分でなくなるおそれがある。一方、D~Dの最大値と最小値の差分がTdiaに対して25%を超えると、各突起部1011の移動体2への振動の伝達効率がバラつくために、モータの駆動効率が低下するおそれがある。
なお図7-1(a)、(b)、(c)、(d)および図7-2(e)、(f)、(g)、(h)は、Tdiaが4mm以上6mm以下であるとして、D~Dの最大値と最小値の差分がTdiaに対して5%以上25%以下となるように中心深さを設計した例である。
~Dの平均値Daveは、Tdiaに対して25%以上50%以下であることが好ましい。Daveを振動板の最大厚みに対して、前記の範囲に収めることでモータ駆動の効率と回転速度を両立することができる。DaveがTdiaに対して25%未満であると、振動板101の駆動時の変形量が小さくなり、モータの回転速度が低下するおそれがある。一方、DaveがTdiaに対して50%を超えると、モータの駆動効率が低下するおそれがある。
また、極大となる溝部は、その中心深さがDaveの1.15倍以上1.30倍以下である箇所が8箇所以上あることが好ましい。このような構成にすることによって、溝ごとに均一に負荷が掛かるため、特に高負荷における回転速度が向上する。
Xが偶数の場合、D~Dのうち、前半のD~Dx/2の深さ変動(個々の溝部の中心深さの列)と後半のDx/2+1~Dの深さ変動は一致することが好ましい。起点となる溝部1012は任意に選択して良いので、例えばX=90である場合は、D=Dn+45が任意のnについて成立することが好ましい。このとき、連続する45箇所の溝部の深さ変動と、残りの連続する45箇所の溝部の深さ変動は同じ円周方向で見て一致することになる。このような構成にすることで、不要振動波の抑制は更に向上し、移動体2の回転運動の対称性が良くなる。
X箇所の溝部1012のうち、検知相電極10233に最近接する溝部の中心深さをDsen(単位mm)とする。ここでsenは1以上X以下の自然数である。最も近接する溝部は、検知相電極10233の中心部を基準点として決定する。前記最も近接する溝部に隣接する2つの溝部の中心深さをDsen-1、Dsen+1とする。この時、|Dsen+1-Dsen-1|/Dsenが5%以下であることが好ましい。3つの溝部の中心深さの関係を前記の範囲内にすることで、検知相電極10233を中心とした両隣の溝部の中心深さが近くなる。その結果、超音波モータの駆動時の検知相電極10233近傍での振動子1の振幅は、時計回りの駆動であっても反時計回りの駆動であっても同程度となり、駆動回路による超音波モータの駆動制御が容易となる。
以上、7次の曲げ振動波を利用する超音波モータを例にとって説明してきたが、本発明は、別の次数の曲げ振動波を利用する場合にも適用可能である。例えば、6次の曲げ振動波を利用する超音波モータにおいて、6次以外の不要振動波を抑制しても良い。同様に8次、11次等の任意の曲げ振動波を利用する超音波モータにも本発明を適用できる。
(駆動制御システム)
次に、本発明の駆動制御システムを説明する。図8は、本発明の駆動制御システムの一実施形態を示す模式図である。
本発明の駆動制御システムは、本発明の超音波モータと、前記超音波モータと電気的に接続される駆動回路を少なくとも有することを特徴とする。駆動回路は、本発明の超音波モータに7次の曲げ振動波を発生させ、回転駆動させるための電気信号を発する信号発生機構を内蔵する。
駆動回路は、周波数が同じで、かつ、時間的位相差がπ/2の交番電圧を超音波モータの各駆動相電極10231(A相およびB相)に同時に印加する。その結果、A相およびB相で発生する定在波が合成されて、振動板101の第二の面に周方向に進行する7次の曲げ振動波の進行波(波長λ)が発生する。
このとき、振動板101のX箇所の突起部1011上の各点は楕円運動をするため、移動体2は振動板101から円周方向の摩擦力を受けて回転する。7次の曲げ進行波が発生すると、検知相電極10233は該電極と接する部分の圧電セラミックス1021の振動の振幅に応じた検知信号を発生し、配線を通じて該信号を駆動回路に出力する。駆動回路は、前記検知信号と、駆動相電極10231に入力した駆動信号の位相を比較して、共振状態からのずれを把握する。この情報から駆動相電極10231に入力する駆動信号の周波数を再度決定することにより、超音波モータのフィードバック制御が可能となる。
(光学機器)
次に、本発明の光学機器について説明する。本発明の光学機器は、本発明の駆動制御システムと前記駆動制御システムに含まれる超音波モータと力学的に接続した光学部材とを少なくとも有することを特徴とする。
本明細書において「力学的な接続」とは一方の部材の座標変動、体積変化、形状変化によって生じた力が他方の部材に伝わるように直接的に接触している状態、または、第三の部材を介して接触している状態を指している。
図9(a)、(b)は、本発明の光学機器の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の主要断面図である。また、図10は本発明の光学機器の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の分解斜視図である。カメラとの着脱マウント711には、固定筒712と、直進案内筒713と、前群レンズ701を保持する前群鏡筒714が固定されている。これらは交換レンズ鏡筒の固定部材である。
直進案内筒713には、フォーカスレンズ702用の光軸方向の直進案内溝713aが形成されている。フォーカスレンズ702を保持した後群鏡筒716には、径方向外方に突出するカムローラ717a、717bが軸ビス718により固定されており、このカムローラ717aがこの直進案内溝713aに嵌まっている。
直進案内筒713の内周には、カム環715が回動自在に嵌まっている。直進案内筒713とカム環715とは、カム環715に固定されたローラ719が、直進案内筒713の周溝713bに嵌まることで、光軸方向への相対移動が規制されている。このカム環715には、フォーカスレンズ702用のカム溝715aが形成されていて、カム溝715aには、前述のカムローラ717bが同時に嵌まっている。
固定筒712の外周側にはボールレース727により固定筒712に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環720が配置されている。回転伝達環720には、回転伝達環720から放射状に延びた軸720fにコロ722が回転自由に保持されており、このコロ722の径大部722aがマニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bと接触している。またコロ722の径小部722bは接合部材729と接触している。コロ722は回転伝達環720の外周に等間隔に6つ配置されており、それぞれのコロが上記の関係で構成されている。
マニュアルフォーカス環724の内径部には低摩擦シート(ワッシャ部材)733が配置され、この低摩擦シートが固定筒712のマウント側端面712aとマニュアルフォーカス環724の前側端面724aとの間に挟持されている。また、低摩擦シート733の外径面はリング状とされマニュアルフォーカス環724の内径724cと径嵌合しており、更にマニュアルフォーカス環724の内径724cは固定筒712の外径部712bと径嵌合している。低摩擦シート733は、マニュアルフォーカス環724が固定筒712に対して光軸周りに相対回転する構成の回転環機構における摩擦を軽減する役割を果たす。
なお、コロ722の径大部722aとマニュアルフォーカス環のマウント側端面724bとは、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、加圧力が付与された状態で接触している。また同じく、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、コロ722の径小部722bと接合部材729の間も適度な加圧力が付与された状態で接触している。波ワッシャ726は、固定筒712に対してバヨネット結合したワッシャ732によりマウント方向への移動を規制されており、波ワッシャ726が発生するバネ力(付勢力)は、超音波モータ725、更にはコロ722に伝わり、マニュアルフォーカス環724が固定筒712のマウント側端面712aを押し付け力ともなる。つまり、マニュアルフォーカス環724は、低摩擦シート733を介して固定筒712のマウント側端面712aに押し付けられた状態で組み込まれている。
従って、不図示の信号発生機構を内蔵した駆動回路により超音波モータ725が固定筒712に対して回転駆動されると、接合部材729がコロ722の径小部722bと摩擦接触しているため、コロ722が軸720f中心周りに回転する。コロ722が軸720f回りに回転すると、結果として回転伝達環720が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。
また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環724に光軸周りの回転力が与えられると以下のように作用する。
すなわち、マニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bがコロ722の径大部722aと加圧接触しているため、摩擦力によりコロ722が軸720f周りに回転する。コロ722の径大部722aが軸720f周りに回転すると、回転伝達環720が光軸周りに回転する。このとき超音波モータ725は、移動体725cと振動子725bの摩擦保持力により回転しないようになっている(マニュアルフォーカス動作)。
回転伝達環720には、フォーカスキー728が2つ、互いに対向する位置に取り付けられており、フォーカスキー728がカム環715の先端に設けられた切り欠き部715bと嵌合している。従って、オートフォーカス動作或いはマニュアルフォーカス動作が行われて、回転伝達環720が光軸周りに回転させられると、その回転力がフォーカスキー728を介してカム環715に伝達される。カム環が光軸周りに回転させられると、カムローラ717aと直進案内溝713aにより回転規制された後群鏡筒716が、カムローラ717bによってカム環715のカム溝715aに沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ702が駆動され、フォーカス動作が行われる。すなわち、光学部材であるフォーカスレンズ702は、超音波モータ725との力学的な接続によって位置が変化する。
上においては、本発明の光学機器として、一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明したが、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ等、カメラの種類を問わず、超音波モータを備えた多様な光学機器に適用することができる。
[実施例]
次に、実施例を挙げて本発明の振動子、超音波モータ、駆動制御システムおよび光学機器を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。なお、実施例は、図面に基づいて、図面中の符号を用いて説明する。
(円環状の一片の圧電セラミックスの製造例)
鉛の含有量が1000ppm未満であり、かつ、室温におけるヤング率が80GPa以上125GPa以下である円環状の一片の圧電セラミックスを以下のように製造した。ヤング率については、圧電素子から切り出した試験片を用いて測定した。
(KNN系圧電セラミックスの製造例)
前記一般式(1)において、金属MがBa0.75(Bi0.5Na0.50.25であり、h=0.08、j=0.49、k=0.02、u=0.75、v=0.05、w=0.10、m=0の組成に相当する[{Ba0.75(Bi0.5Na0.50.250.08(Na0.49Li0.020.490.921.00{(Ti0.20Zr0.75Hf0.050.08(Nb0.90Ta0.100.92}OへのCuの添加を意図して、相当する原料粉を以下のように秤量した。
原料粉として純度99.9%以上として市販されている炭酸バリウム、酸化ビスマス、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、五酸化二ニオブ、五酸化二タンタルを用いて、Ba、Bi、Na、Li、K、Ti、Zr、Hf、Nb、Taが、[{Ba0.75(Bi0.5Na0.50.250.08(Na0.49Li0.020.490.921.00{(Ti0.20Zr0.75Hf0.050.08(Nb0.90Ta0.100.92}Oの組成になるように秤量した。低温で焼結可能な組成なので、焼結工程中のアルカリ金属成分の揮発は想定せずに、目標通りの仕込み比とした。前記組成[{Ba0.75(Bi0.5Na0.50.250.08(Na0.49Li0.020.490.921.00{(Ti0.20Zr0.75Hf0.050.08(Nb0.90Ta0.100.92}Oの100重量部に対して、Mnの含有量が0.25重量部となるように二酸化マンガンを秤量した。
これらの秤量した粉を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合して混合粉を得た。得られた混合粉を造粒するために、混合粉に対して3重量部となるPVAバインダーを、スプレードライヤー装置を用いて、混合粉表面に付着させ、造粒粉を得た。
次に、得られた造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。円盤状の成形に用いた金型の大きさは、目的物である円盤状の圧電セラミックスの外径、内径、厚みに対して、それぞれ2mm、2mm、0.5mmのマージンを持たせた。
得られた成形体を電気炉に入れ、1000℃の最高温度で10時間保持し、合計48時間かけて大気雰囲気で焼結した。次に、焼結体を所望の外径、内径、厚みを有する円環形状にそれぞれ研削加工して、円環状の一片の圧電セラミックスを得た。
外径については54mmから90mmの範囲、内径については38mmから84mmの範囲、厚みについては0.3mmから1.0mmの範囲で同等の圧電特性を有する圧電セラミックスを製造可能であった。前記範囲のいずれの大きさの圧電セラミックスを用いても、本発明の振動子および超音波モータを作製可能であるが、説明の便宜上、外径77.0mm、内径67.1mm、厚み0.5mmの円環状の一片の圧電セラミックスを代表例として、説明を続ける。
製造した圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径と相対密度を評価し、平均円相当径が0.5μmから10.0μmのもので相対密度が95%以上の圧電セラミックスを次工程の圧電素子の製造に用いた。平均円相当径の算出には偏光顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いた。相対密度はアルキメデス法を用いて密度を測定し、圧電セラミックスの格子定数と構成元素の原子量から計算した理論密度から評価した。
円環の表面に対するX線回折測定によると、上記方法によって製造した圧電セラミックスは、いずれもペロブスカイト構造を有することが分かった。
ICP発光分光分析により圧電セラミックスの組成を評価した。その結果、上記方法によって製造した圧電セラミックスの鉛の含有量は、いずれも5ppm未満であった。また、ICP発光分光分析とX線回折測定の結果を合わせると、圧電セラミックスの組成は([{Ba0.75(Bi0.5Na0.50.250.08(Na0.49Li0.020.490.921.00{(Ti0.20Zr0.75Hf0.050.08(Nb0.90Ta0.100.92}Oの組成で表すことができるペロブスカイト型金属酸化物を主成分とし、前記主成分100重量部に対してMnを0.25重量部含有した組成であることが分かった。
(BCTZ系圧電セラミックスの製造例)
前記一般式(2)において、s=0.16、t=0.06、α=1.006の組成に相当する(Ba0.84Ca0.161.006(Ti0.94Zr0.06)OへのMnとBiの添加を意図して、相当する原料粉を以下のように秤量した。
原料粉としていずれも平均粒子径が300nm以下でペロブスカイト型構造を有するチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウムを用いて、Ba、Ca、Ti、Zrが(Ba0.84Ca0.161.006(Ti0.94Zr0.06)Oの組成になるように秤量した。AサイトとBサイトのモル比を示すαを調整するために炭酸バリウムおよび酸化チタンを用いた。前記組成(Ba0.84Ca0.161.006(Ti0.94Zr0.06)Oの100重量部に対して、Mnの含有量が金属換算で0.18重量部となるように四酸化三マンガンを秤量した。同様にBiの含有量が金属換算で0.26重量部となるように酸化ビスマスを秤量した。
これらの秤量した粉を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合して混合粉を得た。得られた混合粉を造粒するために、混合粉に対して3重量部となるPVAバインダーを、スプレードライヤー装置を用いて、混合粉表面に付着させ、造粒粉を得た。
次に、得られた造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。円盤状の成形に用いた金型の大きさは、目的物である円盤状の圧電セラミックスの外径、内径、厚みに対して、それぞれ2mm、2mm、0.5mmのマージンを持たせた。
得られた成形体を電気炉に入れ、1380℃の最高温度で5時間保持し、合計24時間かけて大気雰囲気で焼結した。次に、焼結体を所望の外径、内径、厚みを有する円環形状にそれぞれ研削加工して、円環状の一片の圧電セラミックスを得た。
外径については54mmから90mmの範囲、内径については38mmから84mmの範囲、厚みについては0.3mmから1.0mmの範囲で同等の圧電特性を有する圧電セラミックスを製造可能であった。前記範囲のいずれの大きさの圧電セラミックスを用いても、本発明の振動子および超音波モータを作製可能であるが、説明の便宜上、外径77.0mm、内径67.1mm、厚み0.5mmの円環状の一片の圧電セラミックスを代表例として、説明を続ける。
製造した圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径と相対密度を評価し、平均円相当径が0.7μmから3.0μmのもので相対密度が95%以上の圧電セラミックスを次工程の圧電素子の製造に用いた。平均円相当径の算出には偏光顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いた。相対密度はアルキメデス法を用いて密度を測定し、圧電セラミックスの格子定数と構成元素の原子量から計算した理論密度から評価した。
円環の表面に対するX線回折測定によると、上記方法によって製造した圧電セラミックスは、いずれも正方晶のペロブスカイト構造を有することが分かった。
ICP発光分光分析により圧電セラミックスの組成を評価した。その結果、上記方法によって製造した圧電セラミックスの鉛の含有量は、いずれも1ppm未満であった。また、ICP発光分光分析とX線回折測定の結果を合わせると、圧電セラミックスの組成は(Ba0.84Ca0.161.006(Ti0.94Zr0.06)Oの組成で表すことができるペロブスカイト型金属酸化物を主成分とし、前記主成分100重量部に対してMnを0.18重量部、Biを0.26重量部含有した組成であることが分かった。
(振動板の製造例1)
図11(a)、(b)は、本発明の超音波モータおよび振動子に用いられる円環状の振動板の製造方法の一例を示す概略工程図である。
本発明に使用する振動板を作製するために、図11(a)に示すような円環状の金属板101aを準備した。金属板101aは、JIS規格の磁性ステレンス鋼SUS420J2により形成されている。SUS420J2は、マルテンサイト系のステンレス鋼であり、鋼を70質量%以上、クロムを12から14質量%含有する合金である。
金属板101aの外径、内径および最大厚みは、図11(b)に示す振動板101の外径2R、内径2Rinおよび最大厚みTdiaの目的値と同じとなるようにした。金属板101aの外径(2R)は56mmから90mmの範囲、内径については40mmから84mmの範囲、厚みについては4mmから6mmの範囲で本発明の振動子および超音波モータに適用可能な振動板を製造可能であった。本製造例では、説明の便宜上、外径2Rが77mm、内径2Rinが67.1mm、最大厚みTdiaが5.0mmの金属板101aを代表例として、説明を続ける。
次に円環状の金属板101aの片方の面(第二の面)に放射状に90箇所(X=90)の溝部1012を機械的に削って形成した(溝切り工程)。溝切り後の金属板101aにバレル処理、ラップ研磨、無電解ニッケルメッキ処理を施すことで本発明の振動子1に用いる振動板101とした。
振動板101の溝部1012は第二の面側から見て、0.895mm幅の直方体状に形成したので、突起部1011は円環の外径側で幅が広くなる扇形状となった。この結果、突起部1011の外径側の円周方向の長さの平均値Ltopと溝部1012の外径側の円周方向の長さの平均値Lbtmは、Ltop/Lbtm=2.00の関係であった。
振動板101の90箇所の溝部1012の中心深さDからD90は、図7-1(a)に示す深さになるようにした。すなわち、DからD90は4つの正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化している。また、変化の極大部と極小部は図7-1(a)や対応する図7-1(b)から分かるように12箇所ずつであった。変化の極大部と極小部で隣接している箇所は無かった。DからD90の絶対値の最大は2.216mmであり、最小は1.493mmであったので、その差分は0.722mmであり、振動板101の最大厚みTdia(5.0mm)に対して14.45%であった。DからD90の絶対値の平均は1.85mmであり、振動板101の最大厚みTdia(5.0mm)に対して37.0%であった。
また、極大となる溝部のうち、中心深さが最も大きい溝部はD30=D75=2.216であり、
中心深さが二番目に大きい溝部はD18=D63=2.164であり、これらの間に位置する溝部の数Iは最少で11箇所であった。
また、極大となる溝部のうち、その中心深さがDaveの1.15倍以上1.30倍以下である溝部は、深さD18、D30、D40、D63、D75、D85の部分で、6箇所であった。
また、DからD45の深さ変動とD46からD90の深さ変動は表1に示す通りであった。表1ではDの下付き添え字を視認しやすいように大きく表示している。表1から分かるように、DからD90のうち、DからD90/2の深さ変動とD90/2+1からD90の深さ変動は一致していた。このような構成にすることで7次以外の不要振動波を更に抑制できる。
Figure 2022069470000003
(振動板の製造例2)
振動板V1と同様の原材料と製造方法によって、振動板V2を作製した。ただし、Ltop/Lbtm=2.40となるように作製した。
振動板101の90箇所の溝部1012の中心深さDからD90は、図7-1(d)に示す深さになるようにした。すなわち、DからD90は4つの正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化している。また、変化の極大部と極小部は図7-1(d)や対応する図7-1(c)から分かるように12箇所ずつであった。変化の極大部と極小部で隣接している箇所は無かった。DからD90の絶対値の最大は2.202mmであり、最小は1.498mmであったので、その差分は0.703mmであり、振動板101の最大厚みTdia(5.0mm)に対して14.1%であった。DからD90の絶対値の平均は1.85mmであり、振動板101の最大厚みTdia(5.0mm)に対して37.0%であった。
また、極大となる溝部のうち、中心深さが最も大きい溝部はD30=D75=2.202mmであり、
中心深さが二番目に大きい溝部はD18=D63=2.169mmであり、これらの間に位置する溝部の数Iは最少で9箇所であった。
また、極大となる溝部のうち、その中心深さがDaveの1.15倍以上1.30倍以下である溝部は、深さD、D18、D30、D40、D46、D63、D75、D85の部分で、8箇所であった。
また、DからD45の深さ変動とD46からD90の深さ変動は表2に示す通りであった。表2ではDの下付き添え字を視認しやすいように大きく表示している。表2から分かるように、DからD90のうち、DからD90/2の深さ変動とD90/2+1からD90の深さ変動は一致していた。このような構成にすることで7次以外の不要振動波を更に抑制できる。
Figure 2022069470000004
(振動板の製造例3)
振動板V1と同様の原材料と製造方法によって、振動板V3を作製した。ただし、Tdia=6.0mm、Dave=1.65mm、Ltop/Lbtm=2.40となるように作製した。
振動板101の90箇所の溝部1012の中心深さDからD90は、図7-2(f)に示す深さになるようにした。すなわち、DからD90は4つの正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化している。また、変化の極大部と極小部は図7-2(f)や対応する図7-2(e)から分かるように12箇所ずつであった。変化の極大部と極小部で隣接している箇所は無かった。DからD90の絶対値の最大は2.016mmであり、最小は1.292mmであったので、その差分は0.724mmであり、振動板101の最大厚みTdia(6.0mm)に対して12.1%であった。DからD90の絶対値の平均は1.65mmであり、振動板101の最大厚みTdia(6.0mm)に対して27.5%であった。
また、極大となる溝部のうち、中心深さが最も大きい溝部はD30=D75=2.016mmであり、
中心深さが二番目に大きい溝部はD18=D63=1.963mmであり、これらの間に位置する溝部の数Iは最少で11箇所であった。
また、極大となる溝部のうち、その中心深さがDaveの1.15倍以上1.30倍以下である溝部は、深さD、D18、D30、D40、D46、D63、D75、D85の部分で、8箇所であった。
また、DからD45の深さ変動とD46からD90の深さ変動は表3に示す通りであった。表3ではDの下付き添え字を視認しやすいように大きく表示している。表3から分かるように、DからD90のうち、DからD90/2の深さ変動とD90/2+1からD90は深さ変動を一致していた。このような構成にすることで7次以外の不要振動波を更に抑制できる。
Figure 2022069470000005
(振動板の製造例4)
振動板V1と同様の原材料と製造方法によって、振動板V4を作製した。ただし、Ltop/Lbtm=2.86となるように作製した。
振動板101の90箇所の溝部1012の中心深さDからD90は、図7-2(h)に示す深さになるようにした。すなわち、DからD90は4つの正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化している。また、変化の極大部と極小部は図7-2(h)や対応する図7-2(g)から分かるように12箇所ずつであった。変化の極大部と極小部で隣接している箇所は無かった。DからD90の絶対値の最大は2.180mmであり、最小は1.494mmであったので、その差分は0.687mmであり、振動板101の最大厚みTdia(5.0mm)に対して13.7%であった。DからD90の絶対値の平均は1.85mmであり、振動板101の最大厚みTdia(5.0mm)に対して37.0%であった。
また、極大となる溝部のうち、中心深さが最も大きい溝部はD30=D75=2.180mmであり、
中心深さが二番目に大きい溝部はD40=D85=2.177mmであり、これらの間に位置する溝部の数Iは最少で9箇所であった。
また、極大となる溝部のうち、その中心深さがDaveの1.15倍以上1.30倍以下である溝部は、深さD18、D30、D40、D63、D75、D85の部分で、6箇所であった。
また、DからD45の深さ変動とD46からD90の深さ変動は表4に示す通りであった。表4ではDの下付き添え字を視認しやすいように大きく表示している。表4から分かるように、DからD90のうち、DからD90/2の深さ変動とD90/2+1からD90は深さ変動を一致していた。このような構成にすることで7次以外の不要振動波を更に抑制できる。
Figure 2022069470000006
(比較用の振動板の製造例)
本発明との比較のために、振動板V1と同様の原材料と製造方法によって、振動板V5を作製した。ただし、振動板V5の90箇所の溝部の中心深さDからD90は、全て1.85mmとし、Ltop/Lbtm=1.24となるように作製した。
また、さらに、本発明との比較のために、振動板V1と同様の原材料と製造方法によって、振動板V6を作製した。ただし、振動板V6の90箇所の溝部の中心深さDからD90は、全て1.85mmとし、Ltop/Lbtm=4.40となるように作製した。
ここで、振動板V1、V2、V3、V4、V5およびV6の特徴を表5にまとめる。
Figure 2022069470000007
(振動子の製造実施例および比較例)
図12(a)~(e)は、本発明の振動子および超音波モータの製造方法の一例を示す概略工程図である。
前記製造例に示したKNN系圧電セラミックスとBCTZ系圧電セラミックスと、振動板V1、V2、V3、V4、V5およびV6を掛け合わせて12種類の振動子を製造した。その製造例を表6に示す。
Figure 2022069470000008
まず、円環状の圧電セラミックス1021に、銀ペーストのスクリーン印刷によって、一方の面には図12(c)に示すように共通電極1022を、もう一方の面には図12(b)に示すように、12箇所の分極用電極102311、3箇所の非駆動相電極10232、および1箇所の検知相電極10233を形成した。この時、図12(b)に示す各電極の隣り合う電極間距離は0.5mmとした。
次に、共通電極1022と、分極用電極102311、非駆動相電極10232、および検知相電極10233の間に、圧電素子の伸縮極性が図4(a)のようになるように、直流電源を用いて空気中で分極処理を行った。電圧は1.0kV/mmの電界がかかる大きさとし、温度および電圧印加時間はそれぞれ100℃、60分とした。また、電圧は降温中40℃になるまで印加した。
次に図12(d)に示すように、分極用電極102311を繋ぐため、銀ペーストによってつなぎ電極102312を形成し、両種の電極を合わせて2箇所の駆動相電極10231とすることで圧電素子102を得た。銀ペーストの乾燥は圧電セラミックス1021の脱分極温度より十分低い温度で行った。駆動相電極10231の抵抗値を回路計(電気テスター)で測定した。テスターの一方は検知相電極10233に最も近い分極用電極102311の部分の表面に、もう一方は駆動相電極10231のうち円環形状の周方向に最も離れた分極用電極102311の部分の表面に接触させた。その結果、駆動相電極10231の抵抗値は0.6Ωであった。
この段階で、圧電素子102の抜き取り検査として試験片を切り出して圧電セラミックス1021の各種特性を評価した。具体的には、圧電素子102のうち、一つの分極用電極102311の領域から矩形状の短冊、例えば長さ10mm×幅2.5mm×厚み0.5mmの短冊を切りだした。この短冊に対する室温(20℃)での共振-反共振法による測定から、圧電定数d31、機械的品質係数Q、ヤング率Y11を得た。結果を表7に示す。
Figure 2022069470000009
次に図12(e)に示すように、圧電素子102の2箇所の駆動相電極10231と2箇所の非駆動相電極10232と検知相電極10233とをまたぐ領域に、湿気硬化型のエポキシ系樹脂接着剤を用いて室温プロセスでフレキシブルプリント基板3を圧着した。フレキシブルプリント基板3は、前記電極群への給電および検知信号の取り出しを目的に設けられる部材で、電気配線301、絶縁性のベースフィルム302、外部の駆動回路と接続するためのコネクタ部(不図示)を有する。
次に、図1(a)に示すように、振動板101(V1、V2、V3、V4、V5、V6のいずれか)の第一の面に圧電素子102を湿気硬化型のエポキシ系樹脂接着剤を用いて室温プロセスで圧着し、振動板101と3箇所の非駆動相電極10232を銀ペーストからなる短絡配線(不図示)で接続し、本発明の振動子1または比較用の振動子を作製した。銀ペーストの乾燥は圧電セラミックス1021の脱分極温度より十分低い温度で行った。前記エポキシ系接着剤の硬化後の室温におけるヤング率をJIS K6911に従って測定したところ、2.5GPa程度であった。
なお、振動板V1を用いた振動子1においては、図7-1(a)における40番の溝部が検知相電極10233と最も近接するように圧着した。この時、39番、40番、41番の溝部の中心深さの関係は|D41-D39|/D40=0.05%であった。
なお、振動板V2を用いた振動子1においては、図7-1(c)における21番の溝部が検知相電極10233と最も近接するように圧着した。この時、20番、21番、22番の溝部の中心深さの関係は|D22-D20|/D21=0.31%であった。
なお、振動板V3を用いた振動子1においては、図7-2(e)における30番の溝部が検知相電極10233と最も近接するように圧着した。この時、29番、30番、31番の溝部の中心深さの関係は|D31-D29|/D30=0.01%であった。
なお、振動板V4を用いた振動子1においては、図7-2(g)における36番の溝部が検知相電極10233と最も近接するように圧着した。この時、35番、36番、37番の溝部の中心深さの関係は|D37-D35|/D36=0.02%であった。
(振動子の共振周波数における不要振動波の評価)
上記の製造実施例で得た本発明の振動子1の共振周波数を測定することで、発生する曲げ振動波の波数を特定し、比較用の振動子との差異を評価した。
共振周波数の測定は、駆動相電極(A相、B相)10231毎に実施した。まず、A相電極のみに交番電圧を印加する目的で、フレキシブルプリント基板3のコネクタ部を利用してB相電極と検知相電極10233を非駆動相電極10232と短絡させて、その短絡部を評価用の外部電源のグランド側と配線接続した。A相電極に周波数可変で振幅が1Vの交番電圧を印加して室温でのインピーダンスを測定した。周波数は高周波側、例えば50kHz、から低周波側、例えば1kHz、まで変化させた。次に、A相電極と検知相電極10233を非駆動相電極10232と短絡させて、B相電極のみに交番電圧を印加して、同様にインピーダンスの周波数依存性を測定した。
溝部の中心深さに変化のない振動板V5またはV6を用いた比較用の振動子(製造例9、10、11、12)では、A相とB相のそれぞれで計測したインピーダンス曲線の間で6次、7次、8次の共振周波数が一致していた。すなわち、A相とB相の定在波を合成すると、所望の7次の進行波以外に6次と8次の不要な進行波も発生することが分かった。
他方、溝部の中心深さを本発明に従って変化させた振動板V1、V2、V3、V4を用いた本発明の振動子1(製造例1~8)では、A相とB相のそれぞれで計測したインピーダンス曲線の間で所望する7次の共振周波数は一致していたが、不要である6次と8次の共振周波数は異なるピーク位置を示していた。すなわち、A相とB相の定在波を合成すると、所望の7次の進行波の発生に対して、6次と8次の不要な進行波の発生は抑制されていることが分かった。
(移動体の製造例)
本発明の超音波モータおよび比較用の超音波モータに用いるために、移動体2を作製した。
移動体の形状は、円環状であり、かつ、外径が77.0mm、内径が67.1mm、厚み5mmとした。移動体の材質にはアルミニウム金属を用いて、ブロック削り出しによって形状を整えた後、表面をアルマイト処理した。
(超音波モータの製造実施例および比較例)
図1(a)および図2に示すように、本発明の振動子1の第二の面に振動板101のサイズに合わせた移動体2を加圧接触させて本発明の超音波モータを作製した。同様に、比較用の超音波モータを作製した。
(駆動制御システムの製造実施例および比較例)
フレキシブルプリント基板3のコネクタ部を利用して、本発明の超音波モータにおける駆動相電極10231、共通電極1022と短絡している非駆動相電極10232および検知相電極10233と外部の駆動回路を電気的に接続し、図8のような構成の本発明の駆動制御システムを作製した。外部の駆動回路は、超音波モータを駆動するための制御機構および制御機構の指示によって7次の曲げ振動波を発生させるための交番電圧を出力する信号発生機構を有している。
同様に、比較用の駆動制御システムを作製した。
(超音波モータの最高回転速度の評価)
本発明の駆動制御システム(駆動制御システム1~8)および比較用の駆動制御システム(駆動制御システム9~12)のを用いて、超音波モータの最高回転速度の評価を実施した。
具体的には移動体2に荷重を掛けて、150gf・cmと700gf・cmの2種類の負荷を設定した。駆動回路のA相とB相には、それぞれ、振幅が70V、周波数が同一、かつ、時間的位相差がπ/2となるよう交番電圧を印加した。そして、周波数を40kHzから25kHzまで掃引させたときの超音波モータの最高回転速度を評価した。その結果を表8に示す。表8の7列目に、荷重150gf・cmでの最高回転数が荷重700gf・cmにしたときにどれぐらい減少したかをパーセント(最高回転数の減少率(%))で示した。
Figure 2022069470000010
実施例の振動子、超音波モータを用いた駆動制御システムの方が、150gf・cmと700gf・cmの両方の場合で、比較用の駆動制御システムに対し、超音波モータの最高回転速度が高い値となった。また、振動板V5とV6を使用している比較例1乃至4は、150gf・cmのときの回転速度に比べて700gf・cmにしたときの回転速度の減少率が大きく、特に比較例1と比較例3の減少率が大きかった。
また、実施例においては、いずれの回転方向についても同等の回転駆動が見られ、駆動時の異音は発生しなかった。試験後に、移動体2を取り外して、振動板101の突起部1011の形状を確認したが、摩耗による減損は見られなかった。
他方、比較用の駆動制御システムにおいては、回転駆動時に異音が発生した。
(光学機器の製造実施例)
本発明の駆動制御システムを用いて、図9および10に示される光学機器を作製し、交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作を確認した。そのフォーカス速度は、比較例の光学機器と比較して高負荷においても十分に速いものであった。
本発明は、7次の曲げ振動波によって移動体を回転させる超音波モータに関するものであり、環境安全性の高い非鉛系圧電セラミックスを用いても、十分なトルクで所望の駆動速度を発揮する超音波モータおよびそれを用いた駆動制御システム、光学機器、超音波モータに用いる振動子を提供することができる。
1 振動子
101 振動板
101a 金属板
1011 隔壁部(突起部)
1012 溝部
102 圧電素子
1021 圧電セラミックス
1022 共通電極
1023 複数の電極
10231 駆動相電極
102311 分極用電極
102312 つなぎ電極
10232 非駆動相電極
10233 検知相電極
2 移動体
3 フレキシブルプリント基板
301 電気配線
302 絶縁体(ベースフィルム)
701 前群レンズ
702 後群レンズ(フォーカスレンズ)
711 着脱マウント
712 固定筒
713 直進案内筒
714 前群鏡筒
715 カム環
716 後群鏡筒
717a カムローラ
717b カムローラ
718 軸ビス
719 ローラ
720 回転伝達環
722 コロ
724 マニュアルフォーカス環
725 超音波モータ
726 波ワッシャ
727 ボールレース
728 フォーカスキー
729 接合部材
732 ワッシャ
733 低摩擦シート

Claims (20)

  1. 円環状の振動子と該振動子に対して加圧接触するように配設された円環状の移動体とを備えた超音波モータであって、
    前記振動子は、円環状の振動板と、該振動板の第一の面上に設けられた円環状の圧電素子よりなり、前記振動板は前記第一の面とは反対側の第二の面で前記移動体と接触し、
    前記圧電素子は、円環状の一片の圧電セラミックスと、該圧電セラミックスの前記振動板と対向する面上に該圧電セラミックスと該振動板との間に挟まれるように設けられた共通電極と、該圧電セラミックスの前記共通電極が設けられた面とは反対側の面上に設けられた複数の電極とを有しており、
    前記圧電セラミックスは、鉛の含有量が1000ppm未満であり、
    前記複数の電極は、2つの駆動相電極と1つ以上の非駆動相電極と1つ以上の検知相電極よりなり、
    前記円環状の振動板の第二の面は、放射状に伸びる溝部をX箇所に有し、該円環状の振動板の外径を2R(単位mm)としたとき、
    前記Xは2R/0.85-5≦X≦2R/0.85+15を満たす自然数であり、前記2Rは57mm以上であり、
    隣接する前記溝部同士を隔てる隔壁部の外径側の円周方向の長さの平均値Ltopと前記溝部の外径側の円周方向の長さの平均値Lbtmの比は2.00≦Ltop/Lbtm≦2.86の範囲にあり、
    前記X箇所の溝部の中心深さを円周方向に順にD~Dとしたとき、D~Dは1つ以上の正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化しており、
    当該中心深さの変化における極大となる溝部と極小となる溝部とがそれぞれ12箇所以上あり、
    該極大となる溝部と極小となる溝部とは互いに隣接しないことを特徴とする超音波モータ。
  2. 前記圧電セラミックスの室温におけるヤング率が80GPa以上125GPa以下である請求項1に記載の超音波モータ。
  3. 前記D~Dの最大値と最小値との差分が前記振動板の最大厚みTdiaに対して5%以上25%以下である請求項1または2に記載の超音波モータ。
  4. 前記D~Dの平均値Daveが前記振動板の最大厚みTdiaに対して25%以上50%以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  5. 前記円環状の圧電素子の面上の任意の位置を通る、当該円環と中心を共にする円の円周を7等分した1つの円弧の長さをλとして円周長を7λで表したとき、前記2つの駆動相電極の円周方向の長さはそれぞれ3λであり、それらは円周方向にλ/4および3λ/4の長さを有する2つの間隔部により互いに円周方向に離隔され、各駆動相電極と接する部分の圧電セラミックスは円周方向に交互に極性が反転する6つの分極部からなり、前記1つ以上の非駆動相電極および前記1つ以上の検知相電極は前記2つの間隔部に設けられている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  6. 前記振動板の外径2Rが90mm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  7. 前記振動板の内径2Rin(単位mm)が、2R-16≦2Rin≦2R-6の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  8. 前記円環状の一片の圧電セラミックスの外径が、前記振動板の外径より小さく、かつ、前記円環状の一片の圧電セラミックスの内径が、前記振動板の内径より大きいことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  9. 前記振動板の最大厚みTdiaが、4mm以上6mm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  10. 前記振動板が、鋼を50質量%以上、クロムを10.5質量%以上含有する合金よりなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  11. 前記Xが偶数であり、前記D~Dのうち、D~Dx/2の深さ変動とDx/2+1~Dの深さ変動とがそれぞれ一致することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  12. 前記検知相電極に最も近接する溝部の中心深さをDsen(senはX≧senである自然数)としたときに、(Dsen+1-Dsen-1)/Dsenが5%以下であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  13. 前記極大となる溝部のうち、その中心深さが前記D~Dの平均値Daveの1.15倍以上1.30倍以下である溝部が8箇所以上であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  14. 前記極大となる溝部のうち、中心深さが最も大きい溝部と二番目に大きい溝部の間に位置する溝部の数Iが、I≧X/18の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  15. 前記溝部の中心深さが極大となる溝部が12箇所乃至16箇所であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  16. 前記圧電セラミックスが下記一般式(1)
    {M(NaLi1-j-k1-h1-m{(Ti1-u-vZrHf(Nb1-wTa1-h}O (1)
    (式中、Mは(Bi0.50.5)、(Bi0.5Na0.5)、(Bi0.5Li0.5)、Ba、Sr及びCaから選ばれる少なくとも一種であり、0.06<h≦0.3、0≦j≦1、0≦k≦0.3、0≦j+k≦1、0<u≦1、0≦v≦0.75、0≦w≦0.2、0<u+v≦1、-0.06≦m≦0.06)または、下記一般式(2)
    (Ba1-sCaα(Ti1-tZr)O (2)
    (式中、0.986≦α≦1.100、0.02≦s≦0.30、0.020≦t≦0.095)
    で表わされるペロブスカイト型金属酸化物を主成分とし、前記圧電セラミックスに含まれる主成分以外の金属成分の含有量が前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で1重量部以下であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載の超音波モータ。
  17. 請求項1乃至16のいずれか一項に記載の超音波モータと、該超音波モータと電気的に接続される駆動回路を少なくとも有することを特徴とする駆動制御システム。
  18. 前記駆動回路が前記振動子に7次の曲げ振動波を発生させる信号発生機構を有することを特徴とする請求項17に記載の駆動制御システム。
  19. 請求項18に記載の駆動制御システムと前記超音波モータに力学的に接続した光学部材とを少なくとも有することを特徴とする光学機器。
  20. 円環状の振動子であって、
    円環状の振動板と、該振動板の第一の面上に設けられた円環状の圧電素子よりなり、
    前記圧電素子は、円環状の一片の圧電セラミックスと、該圧電セラミックスの前記振動板と対向する面上に該圧電セラミックスと該振動板との間に挟まれるように設けられた共通電極と、該圧電セラミックスの前記共通電極が設けられた面と反対側の面上に設けられた複数の電極とを有しており、
    前記圧電セラミックスは、鉛の含有量が1000ppm未満であり、 前記複数の電極は、2つの駆動相電極と1つ以上の非駆動相電極と1つ以上の検知相電極よりなり、
    前記円環状の振動板の第二の面は、放射状に伸びる溝部をX箇所に有し、該円環状の振動板の外径を2R(単位mm)としたときに、
    前記Xは2R/0.85-5≦X≦2R/0.85+15を満たす自然数であり、前記2Rは57mm以上であり、
    隣接する前記溝部同士を隔てる隔壁部の外径側の円周方向の長さの平均値Ltopと前記溝部の外径側の円周方向の長さの平均値Lbtmの比は 2.00≦Ltop/Lbtm≦2.86であり、
    前記X箇所の溝部の中心深さを円周方向に順にD~Dとしたとき、D~Dは1つ以上の正弦波を重ね合せた曲線に沿うように変化しており、
    当該中心深さの変化における極大となる溝部と極小となる溝部とがそれぞれ12箇所以上あり、
    該極大となる溝部と極小となる溝部とは互いに隣接しないことを特徴とする振動子。
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