JP2022061819A - 溶接継手の製造方法及び開先充填用のフラックス入りカットワイヤ - Google Patents
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Abstract
【課題】母材が低温用鋼であっても、SAW溶接によりこれまでよりも更に高能率に溶接することができる溶接効率の高い溶接継手の製造方法、及びこの方法に用いるフラックス入りカットワイヤを提供する。【解決手段】鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有するフラックス入りカットワイヤを開先内に充填して溶接する方法であって、フラックスが高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)を含むと共にNiの含有量が高合金化元素の合計含有量の50質量%以上である溶接継手の製造方法であり、また、これに用いるフラックス入りカットワイヤである。【選択図】図1
Description
この発明は、母材間に設けた開先内にカットワイヤを充填して溶接する溶接継手の製造方法、及び、これに用いられる開先充填用のフラックス入りカットワイヤに関する。
近年の地球環境問題の観点から、クリーンなエネルギーとして液化天然ガス(以下、「LNG」と略称する。)の需要がますます増加する傾向にある。LNG貯蔵タンクの内槽材には、フェライト系の極低温材料、例えば、5.5%Ni鋼、6~7%Ni鋼、9%Ni鋼等(以下、「低温用鋼」という。)が適用されてきた。これらの低温用鋼の溶接部には、溶接まま(即ち、溶接を行った後の溶接部に、熱処理及びピーニング等による材質的な変化を与えていない状態のこと)で低温靱性が要求されるので、母材よりもNi含有量の多いNi基合金ワイヤが適用されている。現場施工では、サブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding; SAW)方法、被覆アーク溶接及びTIG溶接方法等が適用されている。しかし、被覆アーク溶接及びTIG溶接は、施工効率が悪いという課題がある。
この課題を解決するための技術として、特許文献1~2には、低温用鋼に適したSAW溶接材料が開示されている。特許文献1では、Ni含有量が65.0~82.4質量%であるNi基合金溶接ワイヤを用いることが提案されており、また、特許文献2では、Ni含有量が60質量%以上のワイヤと、Al2O3:15~40質量%、SiO2:5~35質量%、ZrO2:5~25質量%、MgO:5~25質量%、CaCO3:5~25質量%、及び金属Al:1~7質量%を含有する焼結型フラックスとを用いて、9%Ni鋼のSAW溶接を行うことが提案されている。
しかしながら、SAW溶接で更に高効率化を図るには、特許文献1のNi基合金溶接ワイヤの使用や、特許文献2のNi含有量60質量%以上のワイヤ及び焼結型フラックスの併用では、溶着量を高効率に確保できないことから、不十分であった。
しかしながら、SAW溶接で更に高効率化を図るには、特許文献1のNi基合金溶接ワイヤの使用や、特許文献2のNi含有量60質量%以上のワイヤ及び焼結型フラックスの併用では、溶着量を高効率に確保できないことから、不十分であった。
ところで、低温用鋼での高能率溶接を実現するためには、カットワイヤを開先内に充填して溶接を行うことが望ましい。しかし、これまで低温用鋼での溶接に適した高合金を含む充填材は存在していない。これは、従来の充填材がソリッドワイヤを素材としたカットワイヤであるため、充填材の成分系については伸線加工が可能な成分系に限定されるからである。
そこで、本発明者らは、この課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の元素を含んだフラックス入りのカットワイヤを開先内に充填して溶接することで、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、伸線加工が可能な鋼製外皮とこの製鋼外皮の内部に充填されたフラックス入りカットワイヤを用い、このフラックス入りカットワイヤに高合金化が可能な所定の高合金化元素を含ませることにより、上記の課題を解決した。加えて、本発明者らは、高合金で問題となる高温割れに対しても、フラックス中に所定の強脱酸元素を添加することで、その発生を抑制することができることを見出した。
すなわち、本発明者らは、伸線加工が可能な鋼製外皮とこの製鋼外皮の内部に充填されたフラックス入りカットワイヤを用い、このフラックス入りカットワイヤに高合金化が可能な所定の高合金化元素を含ませることにより、上記の課題を解決した。加えて、本発明者らは、高合金で問題となる高温割れに対しても、フラックス中に所定の強脱酸元素を添加することで、その発生を抑制することができることを見出した。
従って、本発明の目的は、フラックス入りカットワイヤを用いることで、母材が低温用鋼であっても、SAW溶接によりこれまでよりも更に高能率に溶接することができ、溶接効率の高い溶接継手の製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、このような溶接継手の製造方法に用いられるフラックス入りカットワイヤを提供することにある。
また、本発明の別の目的は、このような溶接継手の製造方法に用いられるフラックス入りカットワイヤを提供することにある。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1) 母材間に設けた開先内にカットワイヤを充填し、サブマージアーク溶接により溶接する溶接継手の製造方法であって、
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有するフラックス入りカットワイヤを前記開先内に充填して溶接する方法であり、
前記フラックスが、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を金属及び/又は合金として含むと共に、前記Niの含有量が前記高合金化元素の合計含有量の50質量%以上であることを特徴とする溶接継手の製造方法。
(2) 前記フラックス入りカットワイヤは、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記高合金化元素の合計含有量が50%以上98%以下であって、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、かつ、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素の含有量が合計で4.0%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の溶接継手の製造方法。
(3) 前記強脱酸元素は、酸化物及び/又は合金として前記フラックス入りカットワイヤ中に含まれており、また、その合計含有量がフラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で0.005%以上4.0%以下であることを特徴とする前記(2)に記載の溶接継手の製造方法。
(1) 母材間に設けた開先内にカットワイヤを充填し、サブマージアーク溶接により溶接する溶接継手の製造方法であって、
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有するフラックス入りカットワイヤを前記開先内に充填して溶接する方法であり、
前記フラックスが、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を金属及び/又は合金として含むと共に、前記Niの含有量が前記高合金化元素の合計含有量の50質量%以上であることを特徴とする溶接継手の製造方法。
(2) 前記フラックス入りカットワイヤは、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記高合金化元素の合計含有量が50%以上98%以下であって、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、かつ、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素の含有量が合計で4.0%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の溶接継手の製造方法。
(3) 前記強脱酸元素は、酸化物及び/又は合金として前記フラックス入りカットワイヤ中に含まれており、また、その合計含有量がフラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で0.005%以上4.0%以下であることを特徴とする前記(2)に記載の溶接継手の製造方法。
(4) 母材間に設けた開先内に充填して溶接継手を製造する開先充填用のカットワイヤであって、
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有し、
前記フラックスが、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を金属及び/又は合金として含み、前記Niの含有量が前記高合金化添加元素の合計含有量の50質量%以上であることを特徴とする開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(5) 前記フラックス入りカットワイヤが、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記高合金化元素の合計含有量が50%以上98%以下であって、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、かつ、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれる1種又は2種以上の強脱酸元素の含有量が合計で4.0%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする前記(4)に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(6) 前記強脱酸元素は、酸化物及び/又は合金として前記フラックス入りカットワイヤ中に含まれており、また、その合計含有量がフラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で0.005%以上4.0%以下であることを特徴とする前記(5)に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(7) 母材間に設けた開先内に充填して用いられることを特徴とする前記(4)~(6)のいずれかに記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有し、
前記フラックスが、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を金属及び/又は合金として含み、前記Niの含有量が前記高合金化添加元素の合計含有量の50質量%以上であることを特徴とする開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(5) 前記フラックス入りカットワイヤが、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記高合金化元素の合計含有量が50%以上98%以下であって、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、かつ、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれる1種又は2種以上の強脱酸元素の含有量が合計で4.0%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする前記(4)に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(6) 前記強脱酸元素は、酸化物及び/又は合金として前記フラックス入りカットワイヤ中に含まれており、また、その合計含有量がフラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で0.005%以上4.0%以下であることを特徴とする前記(5)に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(7) 母材間に設けた開先内に充填して用いられることを特徴とする前記(4)~(6)のいずれかに記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
本発明によれば、例えば、SAW手溶接により低温用鋼を溶接する場合であっても、高温割れを防ぐことができ、しかも、施工効率においても有利に溶接継手を製造することができる。
本発明は、鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されるフラックスとを有したフラックス入りカットワイヤを用いるものであり、母材間に設けた開先内にこのフラックス入りカットワイヤを充填して溶接するフラックス入りカットワイヤ溶接工程を備えるようにして、溶接継手を製造する。
以下、本発明に係るフラックス入りカットワイヤについて説明すると共に、これを用いた溶接継手の製造方法について説明する。
以下、本発明に係るフラックス入りカットワイヤについて説明すると共に、これを用いた溶接継手の製造方法について説明する。
〔フラックス入りカットワイヤ〕
先ず、フラックス入りカットワイヤについて、フラックスとしては、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を含むと共に、前記Niの含有量が前記高合金化元素の合計含有量の50質量%以上であるものを用いる。これらの高合金化元素は、溶接金属の組織をオーステナイト組織とし、低温(例えば-196℃)における溶接金属の引張強さ及び靱性を確保するのに顕著な働きを持つ。
先ず、フラックス入りカットワイヤについて、フラックスとしては、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を含むと共に、前記Niの含有量が前記高合金化元素の合計含有量の50質量%以上であるものを用いる。これらの高合金化元素は、溶接金属の組織をオーステナイト組織とし、低温(例えば-196℃)における溶接金属の引張強さ及び靱性を確保するのに顕著な働きを持つ。
上述したように、本発明の高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)は、溶接金属中の機械的特性を確保する観点から、所定の量を含まなければならない。特にNiは必須の元素であって、その含有量は高合金化元素の合計含有量の50質量%以上の割合で含まれるようにするのがよく、好ましくは60質量%以上であるのがよく、より好ましくは70質量%以上であるのがよく、更に好ましくは80質量%以上であるのがよい。Niの含有量が50質量%未満である場合、溶接金属の引張強さ及び靱性の確保が難しくなる。
また、本発明の高合金化元素において、Ni以外のCr、Mo、及びWは、その合計の含有量が好ましくは5質量%以上であるのがよく、より好ましくは10質量%以上であるのがよく、更に好ましくは20質量%以上であるのがよい。つまり、フラックス中に含まれるNi量が50質量%位上となる限り、このNi以外のCr、Mo、及びWの合計の含有量の下限値は、特に制限されるものではなく、それぞれの含有量を0質量%としてもよい。
ここで、本発明におけるフラックス入りカットワイヤでは、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)の合計含有量については、通常50%以上98%以下である。そして、高合金化元素の合計含有量における上限値については、特に制限されないが、鋼製外皮の内部にフラックスが充填されることを考慮すると、実質的には上限が98%になり、この上限は95%であってもよく、90%であってもよく、更には85%であってもよい。また、高合金化元素の合計含有量における下限値については、本発明の効果を発現させる上で50%以上であればよいが、55%であれば更によく、また、この下限は60%であってもよく、65%であってもよく、70%であってもよい。
また、本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、上記の高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)以外に、例えば、溶接金属の化学成分や炭素当量(Ceq)等を制御するための合金成分(以下、これらの化学成分や合金成分を単に「化学成分」という。)、更には強脱酸元素を含むようにしてもよい。ここで、化学成分については、合金成分であって溶接の際に鋼製外皮と同様に溶融するので、例えば、金属粉や合金粉の形態でフラックスに含めるようにしてもよく、鋼製外皮の形態で含まれるようにしてもよく、鋼製外皮の外表面にめっきとして含まれるようにしてもよく、いずれの場合も同様の効果を奏する。なお、高合金化元素以外のこれらの化学成分は、カットワイヤではないフラックス入りワイヤの場合のように、アーク安定性や全姿勢溶接性が求められないことから、酸化物や炭酸塩の状態である必要がなく、上記のような金属粉や合金粉の形態で含有させることができる。また、強脱酸元素については、例えば、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM〔希土類金属(Rare Earth Metals)〕のいずれか1種又は2種以上を酸化物及び/又は合金としてフラックス入りカットワイヤ中に添加するのがよく、好ましくは合金鉄や酸化物として含有させるのがよい。酸化物及び/又は合金として用いることにより、酸化物は球状になっており、また、合金は変形し易いので、フラックス入りカットワイヤの製造時の、特にワイヤを伸線する際に破断し難くなる。ここでREMとは、原子番号57~71の15元素、並びにSc及びYの2元素の合計17元素をさし、そのうちの任意の1種類、あるいは2種類以上の混合物を用いることができる。REMの含有量は前記17元素の合計含有量である。
具体的には、本発明のフラックス入りカットワイヤは、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)を合計で50%以上98%以下の割合で含むと共に、任意成分としてC、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の化学成分、及びCa、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素を含み、かつ、前記各化学成分の含有量がそれぞれC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、前記強脱酸元素の含有量が合計で4.00%以下であり、また、P及びSからなる不純物元素の含有量がそれぞれP:0.030%以下及びS:0.020%以下である。
なお、本発明においては、上述した高合金化元素を含むことにより、上記の任意の化学成分及び強脱酸元素を含むことなく強度と靭性を確保することができるため、これら任意の化学成分及び強脱酸元素のそれぞれの含有量の下限値はいずれも0%である。
前記高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)を合計で50%以上98%以下の割合で含むと共に、任意成分としてC、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の化学成分、及びCa、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素を含み、かつ、前記各化学成分の含有量がそれぞれC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、前記強脱酸元素の含有量が合計で4.00%以下であり、また、P及びSからなる不純物元素の含有量がそれぞれP:0.030%以下及びS:0.020%以下である。
なお、本発明においては、上述した高合金化元素を含むことにより、上記の任意の化学成分及び強脱酸元素を含むことなく強度と靭性を確保することができるため、これら任意の化学成分及び強脱酸元素のそれぞれの含有量の下限値はいずれも0%である。
このうち、任意成分として含まれる化学成分において、「C:0.120%以下」について、Cは、固溶強化によって溶接金属の耐力及び引張強さを確保するために重要な元素である。但し、フラックス入りカットワイヤにおけるC含有量が0.120%を超えると、溶接金属中のC含有量が過剰になり、溶接金属の耐力及び引張強さが過度に上昇して、溶接金属の靭性が低下する。溶接金属の靭性、耐力、及び引張強さの全てを安定的に確保するためには、このC含有量の上限値を0.10%にするのが好ましい。一方、C含有量の下限は0%であるが、必要に応じて、C含有量の下限を0.010%、0.020%、0.030%、0.040%、又は0.050%としてもよい。同様に、C含有量の上限を0.100%、0.090%、0.080%、又は0.070%としてもよい。
「Si:2.00%以下」について、Siは、脱酸元素であり、溶接金属の酸素量を低減して溶接金属の清浄度を高める働きを有する。フラックス入りカットワイヤにおけるSi含有量が2.00%を超える場合、Siが溶接金属の靱性を劣化させる。溶接金属の靭性を安定して確保するために、このSi含有量の上限は1.90%、1.80%、1.70%、又は1.50%としてもよい。一方、Si含有量の下限は0%であるが、必要に応じて、Si含有量の下限を0.01%、0.02%、0.03%、又は0.04%としてもよい。
「Mn:3.50%以下」について、Mnは、溶接金属の焼入性を確保して溶接金属の強度を高めるために必要な元素であるが、0%でもよい。溶接金属の強度を高めるために、フラックス入りカットワイヤにおけるMn含有量の下限値を0.50%、0.75%、1.0%としてもよい。一方、このMn含有量が3.50%を超える場合、溶接金属の粒界脆化感受性が増加して溶接金属の靱性が劣化する。従って、Mn含有量の上限値は3.50%であるが、Mn含有量の上限値を3.00%、2.50%、又は2.00%としてもよい。
「Cu:5.00%以下」について、Cuは、溶接金属の強度と靭性を向上させる効果を有するが、0%でもよい。Cuは、フラックス入りカットワイヤにおける鋼製外皮の表面のめっきに含まれてもよく、フラックスに単体又は合金として含まれてもよい。このCu含有量は、鋼製外皮やフラックスに含まれるCuと表面のめっきに含まれるCuとの合計量である。このCu含有量が5.00%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。Cu含有量の上限値は、好ましくは4.00%、3.00%、又は2.00%である。Cu含有量の下限値は、好ましくは0.05%、0.1%、又は0.15%である。
「Nb:0.50%以下」について、Nbは必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるNb含有量の下限値は0%である。一方、Nbは、溶接金属において微細炭化物を形成し、この微細炭化物が溶接金属中で析出強化を生じさせるので、Nbは溶接金属の引張強さを向上させる。その効果を十分に得るためには、Nb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。しかしながら、このNb含有量が0.50%を超えることは、Nbが溶接金属中で粗大な析出物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるので、好ましくない。Nb含有量の上限値は、好ましくは0.40%、0.30%、0.20%、又は0.10%である。
「V:0.500%以下」について、Vは必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるV含有量の下限値は0%である。一方、Vは溶接金属の焼入れ性を向上させるので、溶接金属の高強度化に有効な元素である。その効果を十分に得るためには、V含有量を0.010%以上とすることが好ましい。このV含有量が0.500%を超える場合、溶接金属中のV炭化物の析出量が過剰となり、溶接金属が過剰に硬化し、溶接金属の靭性を劣化させる。V含有量の上限値は、好ましくは0.400%、0.300%、0.200%、又は0.100%である。
「Al:1.70%以下」について、Alは脱酸元素であり、Siと同様に、溶接金属中の酸素量を低減させ、溶接金属の清浄度向上効果を有する。フラックス入りカットワイヤにおけるAl含有量が1.70%を超える場合、Alが窒化物及び酸化物等を形成して、溶接金属の靱性を減少させる。そのため、フラックス入りカットワイヤにおけるAl含有量の上限を1.70%とする。この上限値は、好ましくは1.60%、1.50%、1.40%、又は1.30%である。Al含有量の下限値は、好ましくは0.005%、0.010%、0.050%、0.100%、0.150%又は0.200%である。
「B:0.020%以下」について、Bは必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるB含有量の下限値は0%である。一方、Bは、溶接金属において固溶Nと結びついてBNを形成するので、固溶Nが溶接金属の靭性に及ぼす悪影響を減じる効果を有する。また、Bは溶接金属の焼入性を高めるので溶接金属の強度を向上させる効果も有する。そのため、フラックス入りカットワイヤが0.0005%以上のBを含有してもよい。しかしながら、このB含有量が0.020%超になると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBN及びFe23(C、B)6等のB化合物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるので、好ましくない。B含有量の上限値は、好ましくは0.015%、0.010%、0.005%、0.003%、又は0.001%である。
「Bi:0.020%以下」について、Biは必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるBi含有量の下限値は0%である。一方、Biは、スラグの剥離性を改善する元素である。その効果を十分に得るために、Bi含有量を0.005%以上、0.010%以上又は0.012%以上とすることが好ましい。一方で、Bi含有量が0.020%を超える場合、溶接金属に凝固割れが発生しやすくなるので、Bi含有量の上限値は0.020%である。このBi含有量の上限値は、好ましくは0.020%、0.015%、0.010%、又は0.005%である。
また、強脱酸元素として含まれるCa、Mg、Ti、Zr、及びREMは、合計での含有量が4.0%以下であり、各強脱酸元素のそれぞれの含有量はいずれも2.00%以下であることが好ましい。これらの強脱酸元素は必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるこれら各強脱酸元素の含有量の下限値は0%である。しかし、これら各強脱酸元素は、耐高温割れ性を改善する元素であって高温割れが懸念される場合には含有させるのがよく、また、その効果を十分に得るためには、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、合計含有量を0.005%以上、0.010%以上又は0.012%以上とすることが好ましい。一方で、これら強脱酸元素の合計含有量が4.00%を超えると、溶接金属中の酸化物が凝集し、靭性劣化し易くなるので、その上限値は4.00%であり、好ましくは3.90%であって、上限値として3.80%、3.7%、3.6%、3.5%、又は3.0%の値であってもよい。
更に、前記不純物元素として存在する「P:0.030%以下」におけるPは、溶接金属の靱性を低下させるので、フラックス入りカットワイヤ中のP含有量は極力低減させる必要がある。そのため、P含有量の下限値は0%である。また、このP含有量が0.030%以下であれば、Pの靱性への悪影響が許容できる範囲内となる。溶接金属の凝固割れを防止するために、より好適には、このP含有量は0.020%以下、0.015%以下、又は0.010%以下である。
前記不純物元素として存在する「S:0.020%以下」におけるSは、溶接金属中に過大に存在すると、溶接金属の靱性と延性を共に劣化させるので、フラックス入りカットワイヤにおけるS含有量は極力低減させるのが望ましい。そのため、このS含有量の下限値は0%である。また、S含有量が0.020%以下であれば、溶接金属の靱性及び延性にSが及ぼす悪影響が許容できる範囲内となる。より好適には、0.010%以下、0.008%以下、0.006%以下、又は0.005%以下である。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、上述したような化学成分や強脱酸元素を含んでもよく、また、含まなくてもよいが、これらの化学成分及び強脱酸元素と前記高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)及び不純物元素のほかは、Fe及び不純物である。このうち、Feについては、鋼製外皮として含むようにしてもよく、また、鉄粉として含むようにしてもよい。すなわち、フラックス入りカットワイヤにおけるフラックスの充填率の調整のために、或いは、溶接効率の向上のために、必要に応じてフラックス中に鉄粉を含有させるようにしてもよい。この鉄粉の含有量は特に制限されないが、鉄粉の表層に付着した酸素が溶接金属の酸素量を増加させて、靭性を低下させることも考えられることから、鉄粉の含有量の上限値については8.0%、6.0%、4.0%、2.0%、又は1.0%に制限してもよい。勿論、本発明に係るフラックス入りカットワイヤにおいて鉄粉は必須ではないので、鉄粉の含有量の下限値は0%である。
また、不純物については、フラックス入りカットワイヤを工業的に製造する際に、原料に由来して、又は、製造工程の種々の要因によって混入する成分である。これらは、本発明に係るフラックス入りカットワイヤに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤにおいては、上述された高合金化元素、化学成分、強脱酸元素、及び不純物元素以外の他の金属元素の合金、酸化物、炭酸塩等も、その特性を損なわない範囲で含有してもよい。この場合、前記他の金属元素の合金、酸化物、炭酸塩は、上記の高合金化元素、化学成分、強脱酸元素、及び不純物元素、並びにFe及び不純物の含有量には含まれないものとする。但し、これら他の金属元素の合金、酸化物、炭酸塩については、それを含有する場合を排除するものではないことを表すものである。すなわち、本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、前述の高合金化元素を所定の割合で含むと共に、前述の化学成分、強脱酸元素、及び不純物元素の含有量がそれぞれ所定の範囲であり、残部がFe及び不純物、又は、Fe、不純物、及びこれら他の金属元素の合金、酸化物、炭酸塩からなる化学組成を有するものである。好ましくは、前述の高合金化元素を所定の割合で含むと共に、前述の化学成分、強脱酸元素、及び不純物元素の含有量がそれぞれ所定の範囲であり、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する。
更に、上述した事項が満たされる限り、本発明に係るフラックス入りカットワイヤの鋼製外皮については、特に制限されないが、鋼製外皮は軟鋼であることが望ましいことから、その外皮の化学組成は、例えば、質量割合で、C:0.1%以下、Si:0.1%以下、Mn:3.00%以下、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Al:0.1%以下、及びN:0.030%以下であり、残部が鉄及び不純物であるものを挙げることができる。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、鋼製外皮にフラックスが充填されたワイヤ形状の状態で、所定の長さに細かく裁断することで得ることができる。カットされたフラックス入りカットワイヤの形状について特に制限はなく、細径鋼素線を所定の長さに細かく裁断して、断面が円形をなした一般的なカットワイヤと同程度にすることができるが、フラックスが充填されることなどを考慮すると、その直径としてはφ1.0~φ3.0mmであるのがよい。ちなみに、従来のカットワイヤの直径はφ1.0~φ2.0mm程度である。一方で、フラックス入りカットワイヤの長さは0.5~3.5mmであるのがよい。一般的なカットワイヤでは、その長さはワイヤ径の0.5~2.0倍相当である。
また、フラックスの充填率については、上述した条件が満たされる限り、特に制限されない。例えば、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、フラックスの充填率の下限値を10%、又は12%としてもよい。また、フラックスの充填率の上限値を80%、又は90%としてもよい。
ここで、溶接金属の拡散性水素量を低減するために、好ましくは、フラックス入りカットワイヤに含まれる水素量が、フラックス入りカットワイヤの全質量に対して12ppm以下であるのがよい。この水素量は、フラックス入りカットワイヤの製造時に侵入するほか、フラックス入りカットワイヤの保管の間に水分が侵入することにより増大するおそれがあることから、カットワイヤ製造後から使用までの期間が長い場合には、水分の浸入を防止しながら保管することが望ましい。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤを製造するにあたり、その手順等は特に制限されないが、裁断する前のフラックスが充填されたワイヤを製造する方法として、以下のような例を示すことができる。
先ず、鋼製外皮の継目が溶接されてスリット状の隙間がないシームレス形状のフラックス入りカットワイヤの製造方法としては、弗化物や化学成分等が所定の範囲内になるようにフラックスを調製する工程のほか、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU字型のオープン管を得る工程と、オープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給する工程と、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合せ溶接してシームレス管を得る工程と、シームレス管を伸線して所定の線径を有するフラックス入りのワイヤを得る工程と、伸線する工程の途中、又は完了後にフラックス入りのワイヤを焼鈍する工程を備える。その後、ワイヤを所定の長さに裁断することで、フラックス入りカットワイヤを得ることができる。
先ず、鋼製外皮の継目が溶接されてスリット状の隙間がないシームレス形状のフラックス入りカットワイヤの製造方法としては、弗化物や化学成分等が所定の範囲内になるようにフラックスを調製する工程のほか、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU字型のオープン管を得る工程と、オープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給する工程と、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合せ溶接してシームレス管を得る工程と、シームレス管を伸線して所定の線径を有するフラックス入りのワイヤを得る工程と、伸線する工程の途中、又は完了後にフラックス入りのワイヤを焼鈍する工程を備える。その後、ワイヤを所定の長さに裁断することで、フラックス入りカットワイヤを得ることができる。
ここで、突合せ溶接は、電縫溶接、レーザ溶接、又はTIG溶接等により行われる。また、伸線工程の途中又は伸線工程の完了後に、ワイヤ中の水分を除去するために焼鈍を行う。好ましくは、ワイヤに含まれるH含有量を12ppm以下とするために、焼鈍温度は650℃以上とし、焼鈍時間は4時間以上とするのがよい。但し、フラックスの変質を防ぐために、焼鈍温度は900℃以下とする。なお、突合せ溶接のかわりに、鋼製外皮の隙間をろう付けしても、スリット状の隙間がないワイヤを得ることができる。
また、鋼製外皮の継目を溶接せずに、スリット状の隙間を有したままのフラックス入りカットワイヤを得るようにしてもよい。その場合には、オープン管の端部を突き合わせ溶接してシームレス管を得る工程のかわりに、オープン管を成形して、オープン管の端部を突き合わせてスリット状の隙間有りの管を得る工程を有する点以外は、シームレス形状を有するワイヤの製造方法と同様である。スリット状の隙間を有するワイヤの製造方法は、突き合わせられたオープン管の端部をかしめる工程を更に備えてもよい。スリット状の隙間を有するワイヤの製造方法では、スリット状の隙間を有した状態で管を伸線する。
本発明に係るフラックス入りカットワイヤは、上述したように、鋼製外皮の継目が溶接されてスリット状の隙間がないシームレス形状のワイヤを裁断したものであってもよく、鋼製外皮の継目が溶接されずに、スリット状の隙間を有したワイヤを裁断したものであってもよいが、好ましくは、鋼製外皮にスリット状の隙間がないワイヤをカットしたフラックス入りカットワイヤであるのがよい。溶接時に溶接部に侵入するH(水素)は、溶接金属及び被溶接材中に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。Hの供給源は様々であるが、溶接部の清浄度や溶接条件が厳密に管理された状態であれば、フラックス入りカットワイヤ中に含まれる水分(H2O)がHの供給源となり得て、この水分の量が溶接継手の拡散性水素量に影響する場合がある。そのため、スリット状の隙間がないシームレス形状のワイヤを裁断したものが望ましいが、スリット状の隙間を有したワイヤを裁断したものである場合には、例えば、真空包装して保管したり、乾燥した状態を保持できる容器内でフラックス入りカットワイヤを保管するようにすればよい。
また、本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、その表面に油(潤滑剤)が塗布されたものであってもよい。充填材表面に塗布された潤滑剤は、保管時の錆発生を抑える効果がある。このような潤滑剤としては、様々な種類のもの(例えばパーム油等の植物油)を使用できるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、H(水素)を含有しないパーフルオロポリエーテル油(PFPE油)を使用するのが好ましい。なお、フラックス入りカットワイヤが、その表面にめっきを備えたものである場合には、潤滑剤はめっきの表面に塗布される。
〔溶接継手の製造方法〕
次に、上述したフラックス入りカットワイヤを用いて溶接継手を製造するにあたり、本発明では、母材間に設けた開先内の少なくとも一部にフラックス入りカットワイヤを充填して溶接するフラックス入りカットワイヤ溶接工程を備えるようにする。つまり、溶接継手を製造するにあたり、1パスから最終パスのいずれか1つ以上において、本発明に係るフラックス入りカットワイヤを母材の開先内に充填して溶接する。溶接が1パスのみである場合、その1パスにおいて本発明のフラックス入りカットワイヤを用いるようにする。
次に、上述したフラックス入りカットワイヤを用いて溶接継手を製造するにあたり、本発明では、母材間に設けた開先内の少なくとも一部にフラックス入りカットワイヤを充填して溶接するフラックス入りカットワイヤ溶接工程を備えるようにする。つまり、溶接継手を製造するにあたり、1パスから最終パスのいずれか1つ以上において、本発明に係るフラックス入りカットワイヤを母材の開先内に充填して溶接する。溶接が1パスのみである場合、その1パスにおいて本発明のフラックス入りカットワイヤを用いるようにする。
図1及び図2には、それぞれ本発明におけるフラックス入りカットワイヤ溶接工程の一例が示されている。このうち、図1は、母材1と母材2との間に設けられた開先3内の一部にフラックス入りカットワイヤ4を充填して、溶接を行う例である。
先ず、図1(a)に示されるように、母材1、2の裏面に裏当材5を取り付けた上で、開先3内の初層に本発明に係るフラックス入りカットワイヤ4を充填する。ここで、強度と靭性が求められるのが、もし初層側の表面のみ場合には、以降の溶接では、本発明のフラックス入りカットワイヤを用いずに、溶接継手を製造するようにしてもよい。また、もし初層だけでは溶着量が不足したり、あるいは、全厚での機械特性が求められる場合には、図1(c)に示したように、初層に充填したフラックス入りカットワイヤ4を含んで得られた溶接金属7の上に、再度、本発明のフラックス入りカットワイヤ4を散布して開先3内に充填し、溶接用ワイヤ6を配置して溶接を行う。以降、これを繰り返して、必要な溶着量に達したところで、本発明のフラックス入りカットワイヤを用いずに、溶接するようにすればよい。
また、図2に示したように、本発明に係るフラックス入りカットワイヤ溶接工程は、開先内にフラックス入りカットワイヤを充填して1パスで溶接するフラックス入りカットワイヤ充填1パス溶接からなるようにしてもよい。
すなわち、図2(a)に示したように、母材1、2の裏面に裏当材5を取り付けた上で、この図2の例では、開先3内のほぼ全て、例えば、開先内高さの80%程度が充填されるように、本発明に係るフラックス入りカットワイヤ4を散布する。次いで、図2(b)のように、充填したフラックス入りカットワイヤ4の略中心部上に溶接用ワイヤ6を配置し、アークを発生させて溶接することで、図2(c)に示したように、フラックス入りカットワイヤ4を含んだ溶接金属7によって溶接継手を製造する。
すなわち、図2(a)に示したように、母材1、2の裏面に裏当材5を取り付けた上で、この図2の例では、開先3内のほぼ全て、例えば、開先内高さの80%程度が充填されるように、本発明に係るフラックス入りカットワイヤ4を散布する。次いで、図2(b)のように、充填したフラックス入りカットワイヤ4の略中心部上に溶接用ワイヤ6を配置し、アークを発生させて溶接することで、図2(c)に示したように、フラックス入りカットワイヤ4を含んだ溶接金属7によって溶接継手を製造する。
図2に示したフラックス入りカットワイヤ溶接工程の例では、開先内のほぼ全てに本発明に係るフラックス入りカットワイヤが用いられるため、溶接部を全板厚に亘って、強度と靭性を担保すことができる。
これらの図1、図2では、母材間の開先がいわゆるV型開先の例を示したが、本発明においてはこの開先形状に制限はなく、V型以外にも、例えばI型、レ型、K型、J型、X型、U型、H形等の開先形状や、これら以外の任意の形状の開先であってもよい。また、本発明においては、片面溶接の場合であってもよく、両面溶接の場合であっても適用可能である。更には、図1の例のように多層盛りの溶接の場合、各層を2パス以上に分けて溶接するようにしてもよい。
本発明において用いられる溶接方法(溶接手段)については特に制限されないが、開先内に充填したフラックス入りカットワイヤを確実に溶かすために、好ましくは、サブマージアーク溶接であるか、又はガスシールドアーク溶接であるのがよい。ただし、立向溶接や上向溶接では、フラックス入りカットワイヤを開先内に充填することが困難な場合があるため、溶接姿勢は下向又は横向きであるのが望ましい。
また、本発明における溶接継手の製造方法では、母材の種類や形状等は特に制限されないが、低温用鋼で施工効率が問題となる場面での適用が最も効果的である。
(実施例)
次に、実施例等に基づき本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徹して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
次に、実施例等に基づき本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徹して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
本発明例及び比較例のフラックス入りカットワイヤ(ワイヤ番号1~35の試料)は、次の方法により製造した。
先ず、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU型のオープン管を得た。このオープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給し、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合わせ溶接してシームレス管を得た。このシームレス管を伸線して、スリット状の隙間がないフラックス入りのワイヤを得た。但し、その際に、一部の試料は、シーム溶接をしないスリット状の隙間有りの管とし、それを伸線してワイヤとした。このようにして、最終の充填材径がφ2.0mmのフラックス入りのワイヤを試作した。
なお、これらワイヤの伸線作業の途中で、フラックス入りのワイヤを650~950℃の温度範囲内で4時間以上焼鈍した。試作後、一部のワイヤ表面には潤滑剤(PFPE油)を塗布した。そして、製造したフラックス入りのワイヤを長さが2.0mmになるように裁断して、フラックス入りカットワイヤの各試料を準備した。
そして、フラックスの調製に際しては、表1に示す高合金化元素について、Ni、Cr、Mo、及びWの各元素についてはそれぞれその金属(合金)粉として使用し、そして、表2に示す化学成分について、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiの各元素についてはそれぞれその金属粉として使用し、また、表2に示す強脱酸元素について、Ca、Mg、及びTiについては金属(合金)粉として使用し、また、Zr及びREM元素として用いたCe及びLaの各元素についてはそれぞれその酸化物として使用した。なお、表1中にはそれぞれ各元素の質量割合に換算して示した。
これらフラックス入りカットワイヤの構成を表1及び表2に示す。
先ず、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU型のオープン管を得た。このオープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給し、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合わせ溶接してシームレス管を得た。このシームレス管を伸線して、スリット状の隙間がないフラックス入りのワイヤを得た。但し、その際に、一部の試料は、シーム溶接をしないスリット状の隙間有りの管とし、それを伸線してワイヤとした。このようにして、最終の充填材径がφ2.0mmのフラックス入りのワイヤを試作した。
なお、これらワイヤの伸線作業の途中で、フラックス入りのワイヤを650~950℃の温度範囲内で4時間以上焼鈍した。試作後、一部のワイヤ表面には潤滑剤(PFPE油)を塗布した。そして、製造したフラックス入りのワイヤを長さが2.0mmになるように裁断して、フラックス入りカットワイヤの各試料を準備した。
そして、フラックスの調製に際しては、表1に示す高合金化元素について、Ni、Cr、Mo、及びWの各元素についてはそれぞれその金属(合金)粉として使用し、そして、表2に示す化学成分について、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiの各元素についてはそれぞれその金属粉として使用し、また、表2に示す強脱酸元素について、Ca、Mg、及びTiについては金属(合金)粉として使用し、また、Zr及びREM元素として用いたCe及びLaの各元素についてはそれぞれその酸化物として使用した。なお、表1中にはそれぞれ各元素の質量割合に換算して示した。
これらフラックス入りカットワイヤの構成を表1及び表2に示す。
表1~2に記載された高合金化元素(Ni、Cr、Mo、及びW)や、任意成分としての化学成分、強脱酸元素(Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM)、及び鉄粉(Fe粉)や、不純物元素として含まれる各元素の含有量の単位は、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合(質量%)である。
また、フラックス入りカットワイヤの化学組成における残部(すなわち、表1及び表2に開示された各元素以外の成分)は、鉄(意図的に添加されたFe粉を含む。)及び不純物である。また、各フラックス入りカットワイヤのワイヤ構造は表1に示したとおりであり、更に、備考欄で特に断りが無い限り、油は塗布していない。一方で、表2に開示されたフラックス入りカットワイヤに含まれる各元素は、鋼製外皮中に合金の形態で、又は金属粉や酸化物の形態で含まれるものである。なお、表1及び表2において、高合金化元素、化学成分、強脱酸元素、及びFe粉の含有量に係る表中の空欄は、その高合金化元素、化学成分、強脱酸元素、及びFe粉が意図的に添加されていないことを意味する。なお、高合金化元素、化学成分、及び強脱酸元素については、不可避的に混入されることもある。
発明例及び比較例のフラックス入りカットワイヤ(ワイヤ番号1~35の試料)は、以下に説明する方法により評価した。
板厚20mmの9%Ni鋼板(JIS G 3127 SL9Nの鋼板)を用い、表3の溶接条件下に1パスで、SAW溶接をした。その際、開先形状は、図3に示すV型として、開先3内でのフラックス入りカットワイヤ4の散布厚さは18mmとした。更には、溶接フラックスとして日鐵住金溶接工業(株)製NITTETSU FLUX 10Hを使用し、溶接ワイヤには日鐵住金溶接工業(株)製NITTETSU FILLER 196(ワイヤ径φ4.8mm)を使用した。溶接ワイヤは鋼板に対して垂直に設置した。
板厚20mmの9%Ni鋼板(JIS G 3127 SL9Nの鋼板)を用い、表3の溶接条件下に1パスで、SAW溶接をした。その際、開先形状は、図3に示すV型として、開先3内でのフラックス入りカットワイヤ4の散布厚さは18mmとした。更には、溶接フラックスとして日鐵住金溶接工業(株)製NITTETSU FLUX 10Hを使用し、溶接ワイヤには日鐵住金溶接工業(株)製NITTETSU FILLER 196(ワイヤ径φ4.8mm)を使用した。溶接ワイヤは鋼板に対して垂直に設置した。
上記のSAW溶接で作製された溶接継手の溶接金属の機械的性質は、以下の手順で評価した。上記の手順で作製した溶接継手から、引張試験用の試験片、及び衝撃試験用の試験片をそれぞれ採取し、JIS Z 3111:2005試験法に準じて引張試験及び衝撃試験を行って評価した。
引張試験は、JIS Z 3111:2005のA2号試験片を溶接金属から採取(試験片長手方向と溶接線方向とが一致するように採取)して試験を行い、720MPa以上の引張強さを有する試験片に係る例を、溶接金属の機械特性に関して「合格」と判断した。
衝撃試験は、JIS Z 3111:2005の4号試験片(試験片のノッチ位置は溶接金属中央)を採取し、試験温度-196℃での衝撃試験を行い、50J以上の吸収エネルギーを有する試験片のかかる例を、低温靭性に関して「合格」と判断した。
そして、総合判定については、引張試験と衝撃試験の両方が合格したものを、機械的性質に関して「合格」と判断した。
引張試験は、JIS Z 3111:2005のA2号試験片を溶接金属から採取(試験片長手方向と溶接線方向とが一致するように採取)して試験を行い、720MPa以上の引張強さを有する試験片に係る例を、溶接金属の機械特性に関して「合格」と判断した。
衝撃試験は、JIS Z 3111:2005の4号試験片(試験片のノッチ位置は溶接金属中央)を採取し、試験温度-196℃での衝撃試験を行い、50J以上の吸収エネルギーを有する試験片のかかる例を、低温靭性に関して「合格」と判断した。
そして、総合判定については、引張試験と衝撃試験の両方が合格したものを、機械的性質に関して「合格」と判断した。
上述の方法により評価した各試験結果は表4に示されている。発明例のフラックス入りカットワイヤを用いて溶接を行った場合、強度、靭性が共に良好であり、いずれの溶接金属も合格であり、優れた機械的特性を有する溶接金属を製造することができた。
一方、比較例は、強度と靭性いずれかが不足し、不合格となった。
一方、比較例は、強度と靭性いずれかが不足し、不合格となった。
以上のとおり、本発明によれば、母材が低温用鋼であっても、SAW溶接により高施工能率で優れた機械的特性を有する溶接継手を作製することができるようになる。
1、2:母材(鋼材)、3:開先、4:フラックス入りカットワイヤ、5:裏当材、6:溶接用ワイヤ、7:溶接金属。
Claims (7)
- 母材間に設けた開先内にカットワイヤを充填し、サブマージアーク溶接により溶接する溶接継手の製造方法であって、
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有するフラックス入りカットワイヤを前記開先内に充填して溶接する方法であり、
前記フラックスが、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を金属及び/又は合金として含むと共に、前記Niの含有量が前記高合金化元素の合計含有量の50質量%以上であることを特徴とする溶接継手の製造方法。 - 前記フラックス入りカットワイヤは、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記高合金化元素の合計含有量が50%以上98%以下であって、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、かつ、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素の含有量が合計で4.0%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手の製造方法。 - 前記強脱酸元素は、酸化物及び/又は合金として前記フラックス入りカットワイヤ中に含まれており、また、その合計含有量がフラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で0.0005%以上4.0%以下であることを特徴とする請求項2に記載の溶接継手の製造方法。
- 母材間に設けた開先内に充填して溶接継手を製造する開先充填用のカットワイヤであって、
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有し、
前記フラックスが、Ni、Cr、Mo、及びWからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高合金化元素を金属及び/又は合金として含み、前記Niの含有量が前記高合金化添加元素の合計含有量の50質量%以上であることを特徴とする開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。 - 前記フラックス入りカットワイヤが、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記高合金化元素の合計含有量が50%以上98.00%以下であって、C、Si、Mn、Cu、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であって、かつ、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれる1種又は2種以上の強脱酸元素の含有量が合計で4.0%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする請求項4に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。 - 前記強脱酸元素は、酸化物及び/又は合金として前記フラックス入りカットワイヤ中に含まれており、また、その合計含有量がフラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で0.0005%以上4.0%以下であることを特徴とする請求項5に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
- 母材間に設けた開先内に充填して用いられることを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
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