JP6801494B2 - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、および溶接継手の製造方法 - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、および溶接継手の製造方法 Download PDF

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本発明は、フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法に関する。
近年、地球温暖化の問題による二酸化炭素排出量規制の強化により、石油及び石炭などに比べて二酸化炭素の排出量が少ない天然ガスの需要が高まっており、それに伴いLNGタンク建造の需要も世界的に高まっている。LNGタンクには、−196℃の極低温度での靭性を確保するために、5.5〜9.5%のNiを含むNi系低温用鋼(極低温用鋼)が使用されている。
従来技術、例えば特許文献1に開示された溶接方法では、このNi系低温用鋼の溶接に際して、厳格な安全性を満足するために、60〜80%のNiを含むNi基合金溶接材料が使用されている。特許文献1の溶接方法では、溶接金属中の酸素量を低減するために、主に不活性ガスからなるシールドガスが用いられ、且つ主にCaFからなるスラグ形成剤を溶接材料に添加している。しかし、多量のNiを含有しているため、特許文献1の溶接材料は極めて高価である。さらに、60〜80%のNiを含むNi基合金溶接材料は、溶融金属の湯流れが悪いため、融合不良などの溶接欠陥を発生させやすい。60〜80%のNiを含むNi基合金溶接材料を用いる溶接では、溶接欠陥の発生を防止するために低入熱での溶接が実施されているので、溶接施工効率にも課題がある。さらに、仮付け溶接では100%COガスシールド溶接を用いることが一般的であるが、特許文献1の溶接材料は、100%COガスと組み合わせて用いられた場合、スパッタを多量に発生させる。多量のスパッタは、溶接後の塗装ムラ及び後続溶接における欠陥発生をもたらす。
溶接材料のコスト低減を目的に、溶接材料のNi量を、Ni系低温用鋼並みの5.5〜9.5%程度、又は10%程度まで低減することも試みられている。しかしながら、Ni含有量が低減された溶接材料から得られる溶接金属は、非常に硬いマルテンサイト組織となるため、低温割れが発生するおそれが高い。低温割れは、溶接金属の組織がオーステナイトであるNi基合金溶接材料を用いた溶接では発生しないものである。低温割れ抑制のために実施される予熱作業は、溶接施工コストを上昇させる。従来技術では、耐低温割れ性について検討されていない。
このような現状に対し、極低温用鋼の溶接ワイヤとして例えば次のようなワイヤが提案されている。特許文献2では、CaFを主体としたスラグ成分系の溶接材料が提案されている。しかしながら、この特許文献2の溶接材料を100%COシールドガス溶接に適用した場合、スパッタが多量に発生し、溶接施工効率が極端に下がる。
特許文献3では、Ni含有量が8〜13%であり、F換算量(フラックス入りワイヤ中の弗化物に含まれる弗素のワイヤ全質量に対する含有量)が2〜15%であるワイヤを用いたサブマージアーク溶接方法が提案されている。しかし、特許文献3に記載の溶接方法によって得られる溶接金属は、酸素量が250〜310ppmであるので、−196℃での吸収エネルギーが低値であり、十分な靭性が確保されていないという問題がある。また、特許文献3では、低温割れについて何ら検討されていない。
特許文献4では、Ni含有量が7.5〜12.0%の溶接材料を用いたTIG溶接方法が開示されている。しかし、TIG溶接は溶接施工効率が低い。
非特許文献1には、Ni含有量を約10%に低減した鉄合金のソリッドワイヤを使用し、100%ArシールドガスによるMIG溶接を実施することで、TIG溶接と同程度に酸素量が低減された溶接金属が得られる技術が開示されている。非特許文献1に開示されたワイヤは、P含有量及びS含有量が著しく低減されているので、溶接金属の靭性を確保することができる。しかしながら、本発明者らの実験によれば、非特許文献1の溶接材料は、非常に硬いため、溶接材料の送給性に課題がある。また非特許文献1の方法で得られた溶接金属は、拡散性水素量が高い水準になりやすく、耐低温割れ性が悪い欠点があることが判明した。
従って、溶接施工効率に優れる消耗電極式のガスシールドアーク溶接用の溶接ワイヤであって、極低温用鋼の仮付け溶接用のワイヤとして、溶接材料の低コスト化に加え、溶接施工効率を向上でき、且つ、耐低温割れ性にも優れる溶接ワイヤの開発が強く望まれている。
特開2008−246507号公報 特開2014−050882号公報 特開2008−161932号公報 特開平09−253860号公報
阿草一男、古生正昭ら、「9%Ni鋼の純アルゴンシールド共金MIG溶接」、川崎製鉄技報、川崎製鉄株式会社、1982年、vol.14、No.3、p.298−309
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、安価であり、低温靭性が優れ且つ十分な引張強さを有する溶接金属が得られ、低温割れを抑制するための予熱作業が不要、または、予熱作業を著しく低減することができ、さらにスパッタ発生量を低減することができるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供すること、並びにそのフラックス入りワイヤを用いた溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮と、前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、前記フラックスが、弗化物であって、CaF、MgF、NaAlF、LiF、NaF、KZrF、BaF、及び、KSiFからなる群から選択される1種又は2種以上の前記弗化物であって、前記弗化物の前記フラックス入りワイヤの全質量に対するF換算値の合計値αが0.21%以上である前記弗化物と、酸化物であって、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Ti酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、及びK酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含み、CaOを除き、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量の合計値βが0.30%以上3.50%未満である前記酸化物と、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%での含有量の合計値が0〜3.50%であり、MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO及びMnCOからなる群から選択される1種又は2種以上を含む炭酸塩と、を含み、前記フラックス中の前記CaOの含有量が、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0%以上0.20%未満であり、前記フラックス中の鉄粉の含有量が、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0%以上10.0%未満であり、式cを用いて算出されるX値が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対して5.0%以下であり、前記CaFの含有量が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0.50%未満であり、前記Ti酸化物の含有量が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0.10%以上2.50%未満であり、前記MgCO、前記NaCO、及び前記LiCOの含有量の合計値が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0〜3.00%であり、さらに、前記弗化物、前記酸化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、C:0.003〜0.080%、Si:0.001〜0.800%、Mn:0.10〜1.50%、Al:0.003〜0.050%、Ni:6.0〜16.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Cu:0〜0.5%、Cr:0〜0.5%、Mo:0〜0.5%、V:0〜0.2%、Ti:0〜0.10%、Nb:0〜0.10%、B:0〜0.010%、Mg:0〜0.6%、及びREM:0〜0.0500%を含み残部がFeおよび不純物からなり、下記の式aで定義されるSMが0.20〜1.50%であり、下記の式bで定義されるCeqが0.25〜0.52%である。
SM=[Si]+[Mn]・・・(式a)
Ceq=[C]+(1/24)×[Si]+(1/6)×[Mn]+(1/40)×[Ni]+(1/5)×[Cr]+(1/4)×[Mo]+(1/14)×[V]・・・(式b)
但し、式a及び式bに記載の括弧が付された元素記号は、前記元素記号にかかる元素であって前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を構成しないものの、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を表し、含有されない元素の含有量は0とみなす。
X=[NaF]+[MgF]+[NaAlF]+1.50×([KSiF]+[KZrF]+[LiF]+[BaF])+3.50×([CaF])・・・(式c)
但し、式cに記載の括弧が付された化学式は、前記化学式に係る化合物の、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を表し、含有されない化合物の含有量は0とみなす。
(2)上記(1)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤ中の前記REMの含有量が、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.0100%以下であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤ中の前記CaOの含有量が、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.10%未満であってもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤが、ワイヤ全質量に対する質量%で、MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO及びMnCOからなる群から選択される1種または2種以上を含む前記炭酸塩を合計で2.00%以下含有してもよい。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接によって得られる溶着金属の引張強さが、日本工業規格JISZ3111−2005に規定された溶着金属の引張試験において、660〜980MPaであってもよい。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無くてもよい。
(7)上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮にスリット状の隙間が有ってもよい。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮の表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されていてもよい。
(9)上記(1)〜(8)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックスの充填率が5.0〜30.0%であってもよい。
(10)本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法では、板厚が6〜100mmであり、Niの含有量が5.5〜9.5質量%であり、引張強さが660〜900MPaである鋼板に対し、上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて溶接する。
(11)上記(10)に記載の溶接継手の製造方法では、前記ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて、シールドガスを100%COとして仮付け溶接してもよい。
(12)上記(10)または(11)に記載の溶接継手の製造方法では、前記ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて、シールドガスとして純Arガス、Arと1.5体積%以下のOまたはCOとの混合ガス、純Heガス、及び、Heと1.5体積%以下のOまたはCOとの混合ガスからなる群から選択された1種を用いて本溶接してもよい。
本発明の上記各態様によれば、Ni量が小さいので溶接材料のコストが低く、スパッタ発生量を抑制することで施工効率に優れるガスシールドアーク溶接に適用でき、さらにワイヤ内に充填するフラックスの合金成分を低減し、溶接金属の酸素量を低減することで、−196℃での低温靭性の優れる溶接金属が得られ、さらに、低温割れを抑制するための予熱作業が不要、または、予熱作業を著しく低減できるフラックス入りワイヤを提供することができる。
仮付け溶接用100%COシールドガス溶接時の、スパッタ発生量とフラックス入りワイヤのX値との関係を表した図である。 フラックス入りワイヤのSMと、溶接金属の−196℃でのシャルピー吸収エネルギーとの関係を示す図である。 フラックス入りワイヤのCaO含有量と、溶接金属中の拡散性水素量との関係を示す図である。 フラックス入りワイヤの断面図である。 実施例および比較例にかかる、JIS Z3111−2005に準拠した試験片の採取位置を示す図である。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、Ni量を5.5〜9.5%Ni鋼並みに低減したガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、CaF含有量が少ない弗化物をスラグ形成剤の主成分とすることにより、アークが安定し、スパッタ発生量が減少し、健全な溶接金属が得られ、さらに溶接金属の拡散性水素を大幅に低減可能であることを見いだした。さらに本発明者らは、C、Si、及びMn等の合金元素を最適化することで、−196℃でのシャルピー吸収エネルギーが優れた溶接金属が得られることを見出した。本発明者らは、これら手段によって、特に5.5〜9.5%Ni鋼の溶接において、優れた低温靭性を有する溶接金属が得られ、溶接施工効率が高く、かつ、低温割れ抑制のために実施される予熱を省略または簡略化できるフラックス入りワイヤが製造であることを見出し、本発明に到達した。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、従来技術に係るフラックス入りワイヤよりもスパッタ発生量を抑制できる。特にNi系低温用鋼の、シールドガスが100%COガスである仮付け溶接時に、本実施形態に係るフラックス入りワイヤはスパッタ発生量を顕著に抑制できる。さらに、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、本溶接後の溶接金属の−196℃での靭性(低温靭性)を高く保つことができる。溶接金属の低温靭性を確保するためには、フラックス入りワイヤのスラグ系成分に含まれる弗化物の成分を最適化する必要があり、さらに、溶接金属のNi量を6〜16%の範囲にする必要がある。
本発明者らは、Ni含有量がNi系低温用鋼と同程度まで低減されたフラックス入りワイヤであって、NaAlFを初めとする種々の弗化物、および酸化物の含有量を種々の割合で異ならせ、さらに、C、Si、Mn及びその他合金元素の含有量を種々の割合で異ならせたワイヤを用いて、不活性ガスを使用したガスシールドアーク溶接によってNi系低温用鋼の溶接を実施した。
その結果、本発明者らは、(i)フラックス入りワイヤのCaFの含有量を抑制し、かつフラックス入りワイヤのNaAlF及びその他弗化物の量、並びに酸化物の量を特定の範囲内にすると、100%COガスを使用したガスシールドアーク溶接においても、アークが安定し、スパッタ発生量が抑制され、健全な溶接金属が得られることを知見した。また、本発明者らは、(ii)フラックス中の弗化物の含有量を特定の範囲内にすることで、溶接金属の酸素量を大幅に低減できることを知見した。さらに本発明者らは、(iii)フラックス入りワイヤのC、Si、Mn及びその他合金元素の含有量を特定の範囲内にすることで、−196℃での低温靭性が良好な溶接金属が得られることを知見した。加えて本発明者らは、(iv)フラックス入りワイヤの弗化物の含有量を特定の範囲内にすることで、溶接金属の拡散性水素量を大幅に低減することができることを知見した。上述に加え、本発明者らは、(v)溶接金属の拡散性水素量を減少させることにより、フラックス入りワイヤのNi量をNi系低温用鋼程度まで低減した場合に問題となる低温割れを抑制するために必要な予熱作業を不要、または予熱作業を著しく簡略化できることを知見した。
以下、本実施形態のフラックス入りワイヤが特徴とする技術要件の限定理由、及び好ましい態様について順次説明する。本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮と、鋼製外皮の中に充填されたフラックスとを備える。フラックスは、弗化物と、酸化物とを含み、好ましくは炭酸塩をさらに含む。CaO及び鉄粉がフラックスに含まれる場合があるが、これらは本実施形態に係るフラックス入りワイヤに必要とされない。
最初に、ワイヤの鋼製外皮の内部に挿入されるフラックスについて説明する。以下の説明において、「%」は特に説明がない限り、「質量%」を意味し、各成分の含有量は、ワイヤ全質量に対する鋼製外皮およびフラックス中の各成分の質量%の合計となる成分含有量を意味するものとする。
(フラックス入りワイヤの全質量に対する弗化物のF換算値の合計値(α):0.21%以上)
(弗化物の種類:CaF、MgF、NaAlF、LiF、NaF、KZrF、BaF、及び、KSiFからなる群から選択された一種以上を含む)
本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、CaF、MgF、NaAlF、LiF、NaF、KZrF、BaF、及び、KSiFからなる群から選択された一種以上の弗化物を、フラックス入りワイヤの全質量に対するF換算値で、合計0.21%以上含有させる。フラックス入りワイヤの全質量に対するF換算値とは、弗化物に含まれる弗素(F)の量を、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものである。例えば、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%でn%のCaFがフラックス入りワイヤに含まれる場合、CaFのF換算値は以下の式dで求められる。
(CaFのF換算値)=n×(19.00×2/78.08)・・・(式d)
上の式d中の「19.00」は、Fの原子量であり、「2」は、1個のCaFに含まれるF原子の個数であり、「78.08」は、CaFの分子量である。CaF以外の弗化物に関しても、同様にF換算値が算出できる。フラックス中に複数種類の弗化物が含まれる場合、各弗化物のF換算値の合計値が、フラックスに含まれる弗化物のF換算値とみなされる。本実施形態において記号「α」は、各弗化物のF換算値の合計値を示す。
弗化物は、溶接金属の拡散性水素量及び酸素量を低減させることができる。弗化物のF換算値の合計が0.21%未満では、溶接金属の拡散性水素量を低減して耐低温割れ性に関する目標を満足することができず、さらに、溶接金属の酸素量を低減して低温靭性に関する目標を満足することができない。溶接金属の拡散性水素量及び酸素量をより低減するために、F換算値合計の下限を0.30%、0.40%、又は、0.50%としてもよい。
弗化物の含有量が過剰である場合、溶接中のスパッタ量が増大する。しかしながら本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、弗化物のF換算値の上限値を定める必要はない。本発明者らは、弗化物の含有量の上限値を、後述するスパッタ生成指数X(X値)を用いて制限すべきである旨を見いだしたからである。弗化物のF換算値は、X値が以下に説明される範囲内である限り、適宜選択可能である。
(CaF:フラックス入りワイヤの全質量に対して0.50%未満)
CaFは、MgF、NaAlF、LiF、NaF、KZrF、BaF、及び、KSiFと比べて、100%COガスを使用するガスシールドアーク溶接において、スパッタを多量に発生させるため、本実施形態に係るフラックス入りワイヤに添加しないことが好ましい。従って、本実施形態に係るフラックス入りワイヤではCaF含有量を0.50%未満に制限する。CaF含有量を0.50%未満に制限すれば、スパッタの問題は無視できる。スパッタの発生をさらに確実に回避するために、CaF含有量の上限値を0.40%、又は、0.30%としてもよい。また、CaF含有量の下限値を0.10%又は、0.00%としてもよい。
(スパッタ生成指数X(X値):フラックス入りワイヤの全質量に対して5.0%以下)
ガスシールドアーク溶接、特にシールドガスが100%COガスであるガスシールドアーク溶接において、弗化物のうち、CaFがスパッタを増加させることは上述した。さらに、本発明者らは、弗化物の種類とスパッタ量との関係を調査するために、多種の弗化物を含有させて、鋼製外皮にスリット状の隙間のない(植物油を外皮に塗布した)1.2mmφのワイヤを多数作成した。銅製の捕集箱内で、鋼板上に、ビードオンプレートで、溶接電流280A、電圧27V、溶接速度25cm/min、シールドガス100%CO(25 l/min)、及び予熱なしの条件で、上述の種々のフラックス入りワイヤを用いて、1分間、溶接ビードを作製した。この溶接ビードの作成の間に箱内に飛散したスパッタおよび鋼板に付着したスパッタを回収し、これらのうち直径1.0mm超のものの総重量を測定した。スパッタ発生量、弗化物の種類、及び各弗化物の含有量のデータを多元解析した結果、式cを用いて算出されるX値とスパッタ発生量との間に、図1に示される良好な相関関係があることが見出された。
X=[NaF]+[MgF]+[NaAlF]+1.50×([KSiF]+[KZrF]+[LiF]+[BaF])+3.50×([CaF])・・・(式c)
式cにおいて、括弧が付された化学式は、化学式に係る化合物(弗化物)の含有量を、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示す。フラックス入りワイヤに含まれない化合物の含有量は0とみなす。式cで定義するX値をフラックス入りワイヤの全質量に対して5.0%以下とすることで、上述の試験においてスパッタ増加量が約5g/min以下となることがわかった。上述の試験でスパッタ発生量を約5g/min以下とすることができるフラックス入りワイヤは、シールドガスが100%COガスである溶接で用いられた際に良好な溶接作業性を提供することができる。なお、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、弗化物のX値の下限値を定める必要はない。弗化物の含有量の下限値は、上述されたF換算値を用いて規定されるからである。
以上のように、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、F換算値の合計値とX値とが上述の範囲内となるように弗化物の種類と含有量とを選択することで、耐低温割れ性と、100%COシールドガス下での仮付け溶接におけるスパッタ抑制の両方を達成できる。これが、本実施形態に係るフラックス入りワイヤのもっとも重要な技術思想である。
フラックス入りワイヤに含まれる弗化物が溶接金属の拡散性水素量を低減する理由については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、弗化物が溶接アークにより分解し、生成されたフッ素が水素と結合してHFガスとして大気中に散逸したか、又は、そのまま溶接金属中に水素がHFとして固定されたためではないかと考えている。また、弗化物の種類によって、スパッタの発生量が異なる理由については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、弗素と化学結合している元素が、何らかの理由でスパッタ生成量に影響していると推測している。また、フラックス入りワイヤに含まれる弗化物が溶接金属の酸素量を低減する理由については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、弗化物が溶融池内で分解され、溶融池内の酸素と再結合し、浮上するためと推測している。
(酸化物の種類:Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Ti酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、及びK酸化物からなる群から選択される一種以上を含み、CaOを除く)
(CaOを除く酸化物の、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での合計含有量(β):0.30%以上3.50%未満)
本実施形態に係るフラックス入りワイヤのフラックスは、酸化物を合計で0.30%以上3.50%以下含有する。この酸化物の種類は、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Ti酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、及びK酸化物からなる群から選択される1種または2種以上を含み、CaOを除く。本実施形態では、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での、CaOを除く酸化物の含有量の合計を「β」と定義する。本実施形態では、「CaOを除く酸化物」を単に「酸化物」と称する場合がある。
CaOを除く酸化物は、溶接ビードの形状を良好に維持する効果を有する。CaOを除く酸化物の含有量の合計が0.30%未満である場合、溶接ビードの形状が悪くなることがある。溶接ビードの形状をさらに良好に維持するために、CaOを除く酸化物の合計量の下限を0.40%、0.50%、0.60%、又は、0.70%としてもよい。しかし、βが3.50%超である場合、溶接金属の靭性を低下させることがある。溶接金属の靱性の改善のために、合計量βの上限を3.00%、2.50%、2.25%、2.00%、1.75%、1.50%、1.25%、1.00%、0.90%、0.80%、又は0.70%としてもよい。
CaOを除く酸化物の種類は特に限定されない。なお、本実施形態においてβは、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Ti酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、及びK酸化物の合計量に加え、フラックスの造粒に使用されるバインダーなどに含まれる酸化物も合計した含有量とみなす。
(Ti酸化物の、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量:0.10%以上、2.50%未満)
Ti酸化物は、溶接ビード形状の改善に寄与する。CaOを除く酸化物の含有量の合計が0.30%以上3.50%未満である場合でも、CaOを除く酸化物に含まれるTi酸化物が0.10%未満である場合、溶接ビード形状が悪くなることがある。従って、Ti酸化物の含有量の下限値を0.10%とする必要がある。Ti酸化物をアーク安定剤として用いることで、さらに良好な溶接ビード形状を得るために、Ti酸化物の含有量の下限値を0.15%、0.20%、0.25%、0.30%、0.40%、又は、0.45%としてもよい。一方、Ti酸化物の含有量が2.50%超である場合、溶接金属の靭性を低下させることがある。従って、Ti酸化物の含有量を2.50%以下とする必要がある。溶接金属の靱性のさらなる改善のために、Ti酸化物の含有量の上限値を2.40%、2.20%、2.00%、1.80%、1.50%、1.25%、1.00%、0.90%、0.80%、0.70%、0.60%、又は0.50%としてもよい。
(CaO:フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、0%以上0.20%未満)
CaOは、他の酸化物とは異なる性質を有し、0.20%超含有されると、シールドガスが100%COガスであるガスシールドアーク溶接において、スパッタを多く発生させる。さらに、CaOは、大気に触れると水素を含む化合物であるCaOHに変化するので、溶接金属の拡散性水素を増加させる。このような知見が得られた実験について図3に示す。図3から、CaOが増加するにつれて溶接金属中の拡散性水素量が増加することがわかる。一方、CaOが0.20%以下である場合、溶接金属中の拡散性水素量が1.5ml/100g以下となる。溶接金属中の拡散性水素量が1.5ml/100g以下である場合、予熱作業を低減する効果が得られるため、0.20%以下のCaOは許容される。CaOはフラックス原料に不純物として含まれる場合があるので、CaO含有量が0.20%以下になるように、フラックスの原料を選定する必要がある。CaO含有量は好ましくは0.18%以下、0.10%以下、又は0.10%未満である。CaOは本実施形態に係るフラックス入りワイヤに必要とされないので、CaO含有量の下限値は0%である。CaO含有量の下限値を0.01%、0.02%、または0.05%としてもよい。
(炭酸塩の合計:好ましくは、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、0〜3.50%)
(炭酸塩の種類:MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、及び、MnCOからなる群から選択される1種又は2種以上を含む)
(MgCO、NaCO、及びLiCOの含有量の合計値:フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0〜3.00%)
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、炭酸塩を含有する必要はない。従って本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおける炭酸塩の合計含有量の下限値は0%である。しかし本実施形態に係るフラックス入りワイヤには、更に、MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、及び、MnCOからなる群から選択される1種又は2種以上の炭酸塩を、合計で3.50%以下含有させることが好ましい。
炭酸塩は、アークによって電離し、COガスを発生させる。炭酸塩から生成されたCOガスは、水素分圧を下げ、溶接金属中の拡散性水素量を低減させる。この効果を得るために炭酸塩をフラックス入りワイヤに添加する場合、炭酸塩の含有量の合計を0.30%以上とすることが好ましい。溶接金属中の水素量をさらに低減するために、炭酸塩の含有量の合計の下限を0.50%又は1.00%としてもよい。また、炭酸塩の含有量の合計が2.00%以下である場合、溶接ヒュームの発生を抑制することができる。溶接ヒューム発生の回避のために、炭酸塩の含有量の合計の上限を3.00%、2.50%、2.00%、1.50%、1.00%、0.50%、0.10%、0.04%、0.02%、又は、0.01%としてもよい。
上述された炭酸塩に含まれるMgCO、NaCO、及びLiCOの含有量の合計は、0〜3.00%とされる必要がある。炭酸塩の合計含有量が0〜3.50%であったとしても、MgCO、NaCO、及びLiCOの含有量の合計が3.00%超である場合、溶接ビードが垂れやすくなり、溶接作業性が悪化する。溶接ビードの垂れを抑制するために、MgCO、NaCO、及びLiCOの含有量の合計の上限を2.70%、2.50%、又は、2.00%としてもよい。一方、溶接金属中の水素をより低減するために、MgCO、NaCO、LiCOの含有量の合計の下限を0.30%超、0.50%、0.75%、又は、1.00%としてもよい。
次に、本実施形態に係るフラックス入りワイヤを構成する鋼製外皮及びフラックス中に含有される合金成分及び金属脱酸成分について説明する。本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいて、合金成分及び金属脱酸成分とは、弗化物、酸化物、及び炭酸塩を構成しない成分のことである。合金成分及び金属脱酸成分は、金属粉または合金粉の状態でフラックスに含まれても、鋼製外皮に含まれても、鋼製外皮にめっきされてもよい。
(C:0.003〜0.080%)
Cは、溶接金属の強度を向上させる元素である。溶接金属の強度を確保するためには、Cを0.003%以上含有させる必要がある。溶接金属の強度の向上のため、C含有量の下限を0.005%、0.008%、0.010%、又は0.013%としてもよい。一方で、C含有量が0.080%を超えると、溶接金属が極めて硬化し、溶接金属の靭性が大きく低下する。後述される通り、本実施形態に係るフラックス入りワイヤから得られる溶接金属は、6〜16%のNiを含有し、硬いマルテンサイト組織を有するからである。マルテンサイトの硬さにCが及ぼす影響は非常に大きいので、C含有量の上限を0.080%とする。安定して溶接金属の靭性を確保するためには、C含有量の上限を0.070%、0.050%、0.040%、0.035%又は、0.030%としてもよい。
(Si:0.001〜0.800%)
Siは、溶接金属の清浄度を向上させ、且つブローホールなどの溶接欠陥の発生を抑制するために必要な元素である。これらの効果を得るためには、0.001%以上のSiをフラックス入りワイヤに含有させる必要がある。溶接欠陥の発生をさらに防止するために、Si含有量の下限を0.005%、0.008%、0.010、0.020%、0.030%又は0.060%としてもよい。一方で、6〜16%のNiを含有する溶接金属では、Siはミクロ偏析しやすく、Si含有量が0.800%超になると、Siの偏析部で顕著な脆化が生じる。従って、Si含有量の上限を0.800%とする。また、溶接金属の靭性を安定して確保するためには、Si含有量の上限を0.600%、0.500%、0.400%、0.200%、又は0.150%としてもよい。
(Mn:0.10〜1.50%)
Mnは、溶接金属の清浄度を向上させる。さらに、Mnは、MnSを形成することで、Sを無害化し、溶接金属の靭性を向上させる元素である。その効果を得るためには、0.10%以上のMnをフラックス入りワイヤに含有させる必要がある。溶接金属の靭性の一層の向上のために、Mn含有量の下限を0.20%、0.30%、0.35%又は0.40%としてもよい。一方、6〜16%のNiを含有する溶接金属では、Mnはミクロ偏析しやすく、Mn含有量が1.50%を超えると、Mnの偏析部で顕著な脆化が生じる。従って、Mn含有量の上限を1.50%とする。また、溶接金属の靭性を安定して確保するためには、Mn含有量の上限を1.20%、1.00%、0.80%、0.60%、又は0.50%としてもよい。
(P:0.020%以下)
Pは不純物元素であり、溶接金属の靭性を劣化させる。従って、P含有量を極力低減する必要があるが、P含有量を0.020%以下に制限すれば、この悪影響は許容される。溶接金属の靭性の一層の向上のために、P含有量の上限を0.015%、0.010%、0.008%又は0.006%としてもよい。P含有量の下限を制限する必要はなく、P含有量の下限は0%である。
(S:0.010%以下)
Sは、不純物元素であり、溶接金属の靭性を著しく劣化させる。従って、S含有量を極力低減することが好ましい。S含有量を0.010%以下に制限すれば、溶接金属の靭性への悪影響が許容できる範囲内となる。溶接金属の靭性の一層の向上のために、S含有量の上限を0.008%、0.006%、0.004%又は0.003%としてもよい。S含有量の下限を制限する必要はなく、S含有量の下限は0%である。
(Al:0.003〜0.050%)
Alは脱酸元素であり、Si及びMnと同様に、溶接金属の清浄度向上に効果があり、その効果を発揮するために0.003%以上含有させる。一方、0.050%を超えてAlを含有させると、Alが窒化物及び酸化物等を形成して、溶接金属の靭性を阻害する。従って、Al含有量の上限を0.050%とする。また、溶接金属の靭性を向上する効果を十分に得るためには、Al含有量の下限を0.005%、0.007%、0.009%又は0.011%としてもよい。酸化物の生成抑制のために、Al含有量の上限を、0.040%、0.035%、0.030%又は0.025%としてもよい。
(Ni:6.0〜16.0%)
Niは、固溶靭化(固溶により靭性を高める作用)により、いかなる組織及び成分の溶接金属についても靭性を向上できる唯一の元素である。特に、−196℃での低温靭性を十分に確保するためにNiは必須の元素である。この効果を得るためには、Ni含有量は6.0%以上にする必要がある。一方、Ni含有量が16.0%を超えると、その効果が飽和するのに加え、溶接材料コストが過大となるため好ましくない。Ni含有量の上限を15.0%又は14.0%に制限してもよい。安定して溶接金属の低温靭性を確保するためには、Ni含有量の下限を7.0%又は、8.0%、更には、9.0%としてもよい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、Cu、Cr、Mo、V、Ti、Nb、B、Mg、及びREMからなる群から選択される一種以上を、選択元素として含有してもよい。ただし、Cu、Cr、Mo、V、Ti、Nb、B、Mg、及びREMが含まれない場合でも、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは課題を解決できるので、これら元素の含有量の下限値は0%である。
(Cu:0〜0.5%)
Cuは、ワイヤの鋼製外皮、鋼製外皮の表面のめっき、および、フラックスに単体または合金として含有された場合には、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Cu含有量の下限は0%とするが、フラックス入りワイヤがCuを含有してもよい。この場合、Cu含有量が0.5%を超えると溶接金属の靭性が低下するので、Cu含有量は0.5%以下とする。溶接金属の靭性の向上のために、Cu含有量の上限を0.3%、0.2%又は0.1%としてもよい。なお、Cuの含有量については、鋼製外皮及びフラックス中に含有されている分に加えて、ワイヤ表面に銅めっきされる場合にはその分も含む。上述の効果を得るためには、Cu含有量の下限を0.01%としてもよい。
(Cr:0〜0.5%)
Crは、溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。Crの含有量の下限は0%とするが、Crを含有させる場合、Cr含有量が0.5%を超えると溶接金属の靭性が低下するので、Cr含有量は0.5%以下とする。靭性の向上のために、Cr含有量の上限を0.3%、0.2%又は0.1%としてもよい。上述の効果を得るためには、Cr含有量の下限を0.01%としてもよい。
(Mo:0〜0.5%)
Moは、析出強化により溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。Moの含有量の下限は0%とするが、Moを含有させる場合、Mo含有量が0.5%を超えると溶接金属の靭性が低下するので、Mo含有量は0.5%以下とする。溶接金属の靭性の向上のために、Mo含有量の上限を0.3%、0.2%又は0.1%としてもよい。上述の効果を得るためには、Mo含有量の下限を0.01%としてもよい。
(V:0〜0.2%)
Vは、析出強化により溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。Vの含有量の下限は0%とするが、Vを含有させる場合、V含有量が0.2%を超えると溶接金属の靭性が低下するので、Vを含有させる場合のV含有量は0.2%以下とする。溶接金属の靭性の向上のために、V含有量の上限を0.15%、0.1%又は0.05%としてもよい。上述の効果を得るためには、V含有量の下限を0.01%としてもよい。
(Ti:0〜0.10%)
Tiは、固溶Nを固定して、溶接金属の靭性への固溶Nの悪影響を緩和するために有効である。また、Tiは脱酸元素であり、溶接金属中のO量を低減させる効果がある。Tiの含有量の下限は0%とする。一方、Ti含有量が0.10%を超えて過剰になると、溶接金属中に炭化物が生成し、溶接金属の靭性を劣化させる。Tiを含有させる場合のTi含有量は、0.10%以下とする。溶接金属の靭性の向上のため、Ti含有量の上限を0.06%、0.04%又は0.02%としてもよい。上述の効果を得るためには、Ti含有量の下限を0.005%としてもよい。
(Nb:0〜0.10%)
Nbは、析出強化により溶接金属の強度を高めるために有効である。Nbの含有量の下限は0%とする。Nb含有量が0.10%を超えると、溶接金属中に粗大な析出物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるので、Nbを含有させる場合のNb含有量は0.10%以下とする。溶接金属の靭性の向上のため、Nb含有量の上限を0.06%、0.04%又は0.02%としてもよい。上述の効果を得るためには、Nb含有量の下限を0.002%としてもよい。
(B:0〜0.010%)
Bは、溶接金属中に適正量含有させると、固溶Nと結びついてBNを形成して、溶接金属の靭性に対する固溶Nの悪影響を減じる効果がある。Bの含有量の下限は0%とする。B含有量が0.010%を超えると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBNやFe23(C、B)等のB化合物を形成して溶接金属の靭性を逆に劣化させる。従って、Bを含有させる場合のB含有量は0.010%以下とする。溶接金属の靭性の向上のため、B含有量の上限を0.006%、0.004%又は0.002%としてもよい。上述の効果を得るためには、B含有量の下限を0.0003%としてもよい。
(Mg:0〜0.6%)
Mgは、強脱酸元素であり、溶接金属の酸素を低減し、溶接金属の靭性の改善に効果がある。Mgの含有量の下限は0%とする。Mg含有量が0.6%を超えると、スパッタが増加し、溶接作業性を劣化させる。従って、Mgを含有させる場合のMg含有量は0.6%以下とする。溶接作業性の向上のため、Mg含有量の上限を0.4%、0.2%又は0.1%としてもよい。上述の効果を得るためには、Mg含有量の下限を0.05%としてもよい。
(REM:0〜0.0500%)
REMは、過剰に含有するとスパッタが激しくなり、溶接作業性が劣悪となる。このため、REM含有量の下限は0%とする。添加する場合でも、スパッタを低減し、アークを安定させるREM含有量は、0.0500%以下である。また、さらにスパッタの低減およびアークの安定に寄与するために、REM含有量の上限を0.0300%、0.0200%、0.0100%、0.0050%、又は0.0010%としてもよい。
(SM:0.20〜1.50%)
本実施形態のフラックス入りワイヤは、合金成分又は金属脱酸成分として以上の各元素を含有する。さらに、溶接金属の−196℃での低温靭性を十分に向上させるために、下記式aで表される、Si及びMnの含有量の合計SMが、0.20〜1.50%である必要がある。
SM=[Si]+[Mn]・・・(式a)
但し、式aに記載の括弧が付された元素記号は、元素記号にかかる元素であって弗化物、酸化物、及び炭酸塩を構成しないものの、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を表し、含有されない元素の含有量は0とみなす。
本実施形態のフラックス入りワイヤは、100%COガスをシールドガスとしたシールドアーク溶接でもスパッタ発生量を抑制できるが、フラックス入りワイヤに充填される金属粉の周りには薄い酸化層が存在しており、少量ではあるが溶接金属中に酸素が入り込む。
溶接金属の清浄度を向上させるSi及びMnの量が十分でない場合、フラックス中の金属粉の酸化層に含まれる酸素によって、溶接金属中にブローホールのような溶接欠陥が生じる。この溶接欠陥を抑制するために、上記SMが0.20%以上となるようにSiとMnとを含有させる必要がある。より確実に溶接欠陥を抑制するため、SMの下限を0.25%又は0.30%としてもよい。一方で、6.0〜16.0%のNiを含有する溶接金属では、Si及びMnはミクロ偏析しやすく、その偏析部では、顕著な脆化が生じる。SMが1.50%以下であれば、偏析部の脆化が許容範囲内となるので、SMの上限を1.50%とする。
このような知見が得られた実験について図2に示す。本発明者らは、SMの値が異なる以外は本実施形態に係るフラックス入りワイヤの要件を満たすフラックス入りワイヤを試作し、そのワイヤを用いて後述の実施例と同様にして溶接を行い、得られた溶接金属から試験片を作成し、その試験片の−196℃でのシャルピー吸収エネルギーとワイヤのSMとの関係を図2に示した。図2より、SMが0.20〜1.50%になるようにSiとMnとを添加したワイヤは、−196℃でのシャルピー吸収エネルギーが50J以上となることが分かった。SMの上限を1.20%、0.90%、0.80%、0.75%又は0.70%としてもよい。
(炭素当量Ceq:0.25〜0.52%)
さらに本実施形態のフラックス入りワイヤでは、下記式bで表される、日本溶接協会(WES)で定める炭素当量Ceqが0.25〜0.52%となるように、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、及びVの含有量をさらに調整する。
Ceq=[C]+(1/24)×[Si]+(1/6)×[Mn]+(1/40)×[Ni]+(1/5)×[Cr]+(1/4)×[Mo]+(1/14)×[V] ・・・(式b)
但し、式bに記載の括弧が付された元素記号は、元素記号にかかる元素であって弗化物、酸化物、及び炭酸塩を構成しないものの、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を表し、含有されない元素の含有量は0とみなす。
Ceqは、その値が高い程、溶接金属の引張強さが向上するが、一方で溶接金属の靭性が低下し、また溶接割れ感受性が高くなるので、低温割れ抑制のための対策が必要となる。このCeqの値が0.25%以上である場合、溶接金属の強度(引張強さ)が、660MPa以上となる。このことは、660MPa以上の引張強さを有する鋼板の溶接を行う上で有利である。一方でCeqの値が0.52%を超えると、溶接金属の引張強さが過剰となり、溶接金属の靭性が低下する。そのため、Ceqの範囲は、0.25〜0.52%とする。安定して溶接金属の強度を確保するために、Ceqの下限を0.27%、0.29%又は0.31%としてもよい。溶接金属の靭性向上のため、Ceqの上限を0.50%、0.48%又は0.46%としてもよい。
なお、以上の合金成分又は金属脱酸成分として含有される元素の含有量には、それらの元素が弗化物、酸化物及び炭酸塩として含有される場合の含有量は含めない。また、それらの元素は必ずしも純物質(不純物の含有は可)である必要はなく、Fe−Mn、Cu−Ni等の合金の形態で含有されていても何ら問題はない。また、それらの元素は鋼製外皮中に含有されていても、フラックスとして含有されていても、鋼製外皮の表面がめっきされている場合はめっき中に含有されていても、その効果は同じであるため、鋼製外皮とフラックスの何れでも含有することが可能である。
(鉄粉:0%以上10.0%未満)
鉄粉は、フラックス入りワイヤにおけるフラックスの充填率の調整のために、または溶着効率の向上のために必要に応じて含有させる場合がある。しかし、鉄粉の表層は酸化されているので、フラックスが鉄粉を過剰に含有すると、溶接金属の酸素量を増加させて靭性を低下させる場合がある。したがって、鉄粉は本実施形態に係るフラックス入りワイヤに含有させなくてもよい。つまり、鉄粉の含有量の下限は0%である。充填率の調整のために鉄粉を含有させる場合には、溶接金属の靭性を確保するために、鉄粉の含有量の上限を10.0%未満とする。
以上が本実施形態のフラックス入りワイヤの化学組成に関する限定理由である。その他の残部の合金の化学成分は、鉄及び不純物である。鉄成分としては、鋼製外皮の鉄、フラックス中に含まれる鉄粉及び合金成分中の鉄が含まれる。また、鉄を主成分とする残部が、本実施形態に係るフラックス入りワイヤの特性を阻害しない範囲で、製造過程等で混入する不純物を含有してもよい。
(充填率:好ましくは5.0〜30.0%)
鋼製外皮の内側にある中空の空間にフラックスは充填される。フラックスの充填率は特に規定されず、適宜選択可能である。鋼製外皮の板厚によってフラックスの充填率は増減するが、安定的にフラックスを添加するために、フラックスの充填率の上限を30.0%としてもよい。充填率の上限を25.0%、20.0%又は15.0%としてもよい。また、フラックスの充填率が低すぎる場合、鋼製外皮の内側に充填されたフラックスと鋼製外皮との間の摩擦力が不足し、フラックスが鋼製外皮内を移動し、フラックス入りワイヤにおいてフラックスの疎密が生じてしまう恐れがある。よって充填率の下限値を5.0%としてもよい。
続いて、フラックス入りワイヤの形態について説明する。
図4に、フラックス入りワイヤの切断面を示す。図4(a)に、エッジ面を突合せて溶接して作ったフラックス入りワイヤ、図4(b)に、エッジ面を突合せて作ったフラックス入りワイヤ、及び、図4(c)に、エッジ面をかしめて作ったフラックス入りワイヤを示す。このように、フラックス入りワイヤには、図4(a)に示すように鋼製外皮にスリット状の隙間がないワイヤと、図4(b)、(c)に示すように鋼製外皮にスリット状の隙間を有するワイヤとに大別できる。本実施形態に係るフラックス入りワイヤではいずれの断面構造も採用することができるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、スリット状の隙間がないワイヤ(シームレスワイヤともいう)とすることが好ましい。
溶接時に溶接部に侵入する水素は、溶接金属内及び鋼材側に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。この水素源は溶接材料が保有する水分、大気から混入する水分、並びに鋼表面に付着した錆び及びスケール等である。十分に溶接部の清浄度、及びガスシールドの条件が管理された溶接の下では、ワイヤ中に含有される水分の水素が、溶接継手の拡散性水素の主な供給源となる。
このため、鋼製外皮をスリット状の隙間がない管とし、ワイヤ製造後から使用するまでの間に、鋼製外皮からフラックスへの大気中の水素の侵入を抑制することが望ましい。鋼製外皮をスリット状の隙間(シーム)を有する管とした場合には、大気中の水分は外皮のスリット状の隙間部からフラックス中に侵入しやすいので、水分等の水素源の侵入を防止することはできない。鋼製外皮がスリットを有し、かつ製造後使用するまでの期間が長い場合は、ワイヤ全体を真空包装するか、又はワイヤを乾燥した状態に保持できる容器内で保存することが望ましい。
また、ワイヤの送給性をよくするため、ワイヤ表面に潤滑油が塗布される場合がある。潤滑油を、植物油としてもよい。溶接金属の拡散性水素量を低減するために、ワイヤ表面に塗布される潤滑油は、パーフルオロポリエーテル油(PFPE)のように水素分を含まない油であってもよい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、通常のフラックス入りワイヤの製造方法と同様の製造工程によって製造することができる。
すなわち、まず、外皮となる鋼帯、並びに、弗化物、合金成分、酸化物、及び炭酸塩等が所定の含有量になるように配合したフラックスを準備する。鋼帯を、長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管(U字型)に成形して鋼製外皮とする。この成形途中で、オープン管の開口部からフラックスを供給する。開口部の相対するエッジ面を突合せ、スリット状の隙間を溶接する。溶接法は、例えば電縫溶接、レーザー溶接、又は、TIG溶接などである。溶接により得られたスリット状の隙間のない管を伸線し、伸線途中又は伸線工程完了後に焼鈍処理して、所望の線径を有するスリット状の隙間のないワイヤを得る。また、開口部の相対するエッジ面を突合わせた後にスリット状の隙間を溶接しないことにより、鋼製外皮をスリット状の隙間有りの管とし、それを伸線することで、スリット状の隙間を有するワイヤを得る。
突合せシーム溶接されたスリット状の隙間が無いワイヤを切断した断面は、図4(a)に示される。この断面では、研磨及びエッチングされない限り、溶接跡が観察されない。そのため、上記のようにスリット状の隙間が無いワイヤをシームレスワイヤと呼ぶことがある。例えば、溶接学会編「新版 溶接・接合技術入門」(2008年)産報出版、p.111には、スリット状の隙間が無いワイヤがシームレスタイプのワイヤと記載されている。
図4(b)に、鋼帯のエッジ面を突き合わせたワイヤの例を示し、図4(c)に鋼帯のエッジ面をかしめたワイヤの例を示す。図4(b)のように突合せてから、隙間をろう付けしたり、図4(c)のようにかしめてから、隙間をろう付けしたりしても、スリット状の隙間が無いワイヤが得られる。また、図4(b)、及び図4(c)のワイヤは、その隙間がろう付けされない場合、スリット状の隙間が有るワイヤとなる。
上述の特徴を有する本実施形態に係るフラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接によって得られる溶着金属の引張強さは、日本工業規格JIS Z3111−2005に規定された溶着金属の引張試験において、660〜980MPaとなることが好ましい。溶着金属とは、溶接中に付加される溶加材(フラックス入りワイヤ)から溶接部に移行した金属と定義される。従って、溶着金属の諸特性はフラックス入りワイヤの特徴に応じて決まるものである。溶着金属の引張強さを660〜980MPaとすることができるフラックス入りワイヤは、例えばLNGタンクのような大型構造体の溶接に供する溶接材料として非常に好適である。本実施形態のフラックス入りワイヤは、いかなる種類の鋼板にも適用可能である。さらに、本実施形態のフラックス入りワイヤは、例えば、5.5〜9.5%のNiを含むNi系低温用鋼をガスシールドアーク溶接するために特に好適である。LNGタンクには、Ni含有量が5.5〜9.5%であり、板厚は6mm以上100mmであり、引張強さが660〜900MPaである鋼材が使用されている。この鋼材の溶接のために、本実施形態のフラックス入りワイヤを使用することができる。
本発明の別の実施形態に係る溶接継手の製造方法は、鋼板に対し、本実施形態に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて溶接することを特徴とする。鋼板は、例えば上述のLNGタンク用Ni系低温用鋼板、即ち板厚が6〜100mmであり、Niの含有量が5.5〜9.5質量%であり、引張強さが660〜900MPaである鋼板とすることが好ましい。溶接は、本溶接と仮溶接(仮付け溶接)とを含んでもよい。本溶接の際に用いられるシールドガスの種類は特に制限されないが、純Arガスまたは純Heガスが使用できる。また、本溶接において、1.5体積%以下の範囲内であれば、純Arガスまたは純Heガスのそれぞれに、OまたはCOを混合させても、本実施形態に係るフラックス入りワイヤの効果を得ることができる。
仮溶接の際に用いられるシールドガスの種類は特に制限されないが、安価な100%COであることが好ましい。100%COガスはスパッタを発生させやすいという欠点を有するが、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、100%COガスと組み合わせて使用された場合、スパッタの発生を十分に抑制することができる。
次に、実施例により本発明の実施可能性及び効果についてさらに詳細に説明する。なお、表において下線が付された値は、本発明の規定範囲外の値、または本発明の合否基準を満たさない値である。
鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管に成形し、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合わせシーム溶接することで鋼帯を継目無し管とし、造管したワイヤの伸線作業の途中で焼鈍を加えることにより、最終のワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。試作後、ワイヤ表面には潤滑剤を塗布した。鋼帯、すなわち鋼製外皮は、表1のF0に示すようにC:0.01%、Si:0.01%、Mn:0.1%、P:0.007%、S:0.007%、及びAl:0.005%であり残部が鉄および不純物からなる成分の軟鋼とした。ここでの%はすべて、外皮全質量に対する質量%を意味する。表4−1および表4−2においてPFPE油塗布と記載されていないものには、すべて、植物油を塗布した。また、試料A1及びB7は、シーム溶接をしない継目有りの管とし、それを伸線することで、ワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤとした。これら2つのワイヤは、製造後直ちに真空包装し、隙間からの水素侵入を極力抑制した。
フラックス入りワイヤの分析は以下のように行った。ワイヤから、充填されたフラックスを取り出し、ワイヤを鋼製外皮とフラックスとに分けた。鋼製外皮の金属成分を、化学分析によって測定した。フラックスの構成物と成分の定量評価を、X線回折、及び蛍光X線分析にてした後、浮遊選鉱、及び磁力選鉱などの選鉱法を用いてスラグ分と合金分とを分離し、それぞれに化学分析、ガス分析などを行った。試作したフラックス入りワイヤの化学組成を表2−1〜表2−4、及び表3−1〜表3−2に示す。表2−1〜表2−4、及び表3−1〜表3−2に示したフラックス入りワイヤの化学組成は、上記の分析方法により分析した結果である。表2−1〜表2−4、及び表3−1〜表3−2に記載する質量%は、特に断りが無い限り、ワイヤ(外皮とフラックスとを全て含めた)の全質量に対する質量%を意味する。F換算値合計量(α)は、フラックス入りワイヤの全質量に対する各弗化物のF換算値の合計値である。X値は、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での各弗化物の含有量を上述の式cに代入して得られる値である。合金成分の残部は鉄及び不純物であった。
表2−1〜表2−4、表3−1〜表3−2に示すフラックス入りワイヤを用いて、日本工業規格JIS Z3111−2005「溶着金属の引張及び衝撃試験方法」に準拠して、溶着金属に引張試験を行い、これにより溶着金属の機械特性を評価した。すなわち、図5(試験板の記号1.3)に示すような要領とした。板厚が20mmの鋼板1を、ルートギャップ16mm及び開先角度20°で突き合わせ、裏当金2を用いた。鋼板1及び裏当金2はSM490Aとしたが、鋼板1の開先面及び裏当金2の表面には、試験を行うフラックス入りワイヤを用いて2層以上、かつ余盛高さ3mm以上のバタリングを実施した。溶接条件は、表4−1〜表4−2(シールドガスの組成は、体積%で表記した)に示す。溶接条件は電流値280A、電圧値27V、溶接速度30cm/分、入熱14.0kJ/cm、予熱無し、パス間温度150℃以下、ガス流量25l/分とし、仮付け溶接の評価においては、図5に示す開先内の初層の溶接を、シールドガスが100%COガスである溶接によって行って、スパッタ発生量を測定した。溶接金属の機械特性の評価として、前述の初層COガス溶接後の2層目以降の溶接条件を表4−1〜表4−2とした。
機械特性の評価は、作製した試験体から、図5に示すように、機械試験片としてJIS Z3111(2005年)に準拠したA0号引張り試験片(丸棒)5(径=10mm)とシャルピー衝撃試験片(2mmVノッチ)4を採取し、それぞれの機械特性試験を行って、溶接金属の引張強さ及びシャルピー吸収エネルギーを測定することにより行った。表5−1、表5−2に記載の試料のうち、溶接金属の引張強さを660〜980MPaとし、且つ溶接金属の靭性を示すシャルピー吸収エネルギーを、−196℃でのシャルピー衝撃試験で50J以上とすることができるものを合格とした。
また、得られた溶接金属から試験片を採取して、溶接金属中の酸素量を測定した。溶接金属中の酸素量測定は、インパルス加熱炉−不活性ガス溶解赤外線吸収法により測定した。測定した溶接金属中の酸素量を表5−1〜表5−2に示す。本発明のワイヤにおいては、溶接金属中の酸素量を低減することで靭性を向上させているが、酸素量が160ppm以下のものは、−196℃でのシャルピー吸収エネルギーを確保することができた。
次に、表5−1〜表5−2の評価結果で引張強さ、−196℃でのシャルピー吸収エネルギーの両方が合格であったフラックス入りワイヤについて、耐低温割れ性を評価した。耐低温割れ性の評価は、拡散性水素量の測定とy形溶接割れ試験とによって評価した。
拡散性水素量の測定は、機械特性試験と同じ溶接条件でJIS Z3118(鋼溶接部の水素量測定方法)に準拠したガスクロマトグラフ法によって実施した。拡散性水素量の測定結果を表5−1〜表5−2に示す。
y形溶接割れ試験は、温度0℃、及び湿度60%の一定雰囲気管理下において、表6に示す板厚25mmの鋼板(母材番号:P1)を用いて、表4−1〜表4−2の溶接条件でJIS Z3158(y形溶接割れ試験)に準拠した方法で実施した。得られたy形溶接割れ試験結果を表5−1〜表5−2に示す。拡散性水素量が1.5ml/100g以下の全ての試料は、試験温度が非常に低温である0℃であり、且つ予熱無しの条件でも、y形溶接割れ試験において、断面割れ無し(断面割れが発生していないこと)であり、極めて高い耐低温割れ性を有することが証明された。
スパッタ発生量の評価は以下のように行なった。銅製の捕集箱内で、鋼板上を、ビードオンプレートで、溶接電流280A、電圧27V、溶接速度30cm/分、入熱14.0kJ/cm、シールドガス種類100%CO、ガス流量25l/分、予熱なしの条件で、1分間、溶接ビードを作製した。箱内に飛散したスパッタおよび鋼板に付着したスパッタをそれぞれ回収し、発生したスパッタにおける直径1.0mm超のものについて重量を測定した。結果をg/minを単位として表5−1及び5−2に示す。スパッタ発生量5g/min以下となる試料を合格とした。
表5−1の試験結果に示されるように、本発明例であるワイヤ番号A1〜A21は、引張強さ、靭性、耐低温割れ性のすべてが優れ、合格であった。一方、表5−2の試験結果に示されるように、比較例であるワイヤ番号B1〜B37は、本発明で規定する要件を満たしていないため、引張強さ、靭性、耐低温割れ性を一項目以上満足できず、総合判定で不合格となった。
本発明によれば、LNGタンク及び化学プラント等に使用される、極低温用5.5〜9.5%Ni鋼のガスシールドアーク溶接時に特に、仮付け溶接時に適用される100%COシールドガス溶接においてスパッタが低減できるので、溶接施工効率を著しく向上でき、さらに低温靭性に優れる溶接金属が得られるので、産業界における価値はきわめて高い。
1 鋼板
2 裏当金
3 溶接ビード
4 2mmVノッチシャルピー衝撃試験片
5 丸棒引張り試験片

Claims (12)

  1. 鋼製外皮と、前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、
    前記フラックスが、
    弗化物であって、CaF、MgF、NaAlF、LiF、NaF、KZrF、BaF、及び、KSiFからなる群から選択される1種又は2種以上の前記弗化物であって、前記弗化物の前記フラックス入りワイヤの全質量に対するF換算値の合計値αが0.21%以上である前記弗化物と、
    酸化物であって、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Ti酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、及びK酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含み、CaOを除き、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量の合計値βが0.30%以上3.50%未満である前記酸化物と、
    前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%での含有量の合計値が0〜3.50%であり、MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO及びMnCOからなる群から選択される1種又は2種以上を含む炭酸塩と、を含み、
    前記フラックス中の前記CaOの含有量が、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0%以上0.20%未満であり、
    前記フラックス中の鉄粉の含有量が、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0%以上10.0%未満であり、
    式cを用いて算出されるX値が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対して5.0%以下であり、
    前記CaFの含有量が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0.50%未満であり、
    前記Ti酸化物の含有量が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0.10%以上2.50%未満であり、
    前記MgCO、前記NaCO、及び前記LiCOの含有量の合計値が前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で0〜3.00%であり、
    さらに、前記弗化物、前記酸化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、
    C:0.003〜0.080%、
    Si:0.001〜0.800%、
    Mn:0.10〜1.50%、
    Al:0.003〜0.050%、
    Ni:6.0〜16.0%、
    P:0.020%以下、
    S:0.010%以下、
    Cu:0〜0.5%、
    Cr:0〜0.5%、
    Mo:0〜0.5%、
    V:0〜0.2%、
    Ti:0〜0.10%、
    Nb:0〜0.10%、
    B:0〜0.010%、
    Mg:0〜0.6%、及び
    REM:0〜0.0500%を含み
    残部がFeおよび不純物からなり、
    下記の式aで定義されるSMが0.20〜1.50%であり、
    下記の式bで定義されるCeqが0.25〜0.52%である
    ことを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    SM=[Si]+[Mn] ・・・(式a)
    Ceq=[C]+(1/24)×[Si]+(1/6)×[Mn]+(1/40)×[Ni]+(1/5)×[Cr]+(1/4)×[Mo]+(1/14)×[V] ・・・(式b)
    但し、式a及び式bに記載の括弧が付された元素記号は、前記元素記号にかかる元素であって前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を構成しないものの、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を表し、含有されない元素の含有量は0とみなす。
    X=[NaF]+[MgF]+[NaAlF]+1.50×([KSiF]+[KZrF]+[LiF]+[BaF])+3.50×([CaF])・・・(式c)
    但し、式cに記載の括弧が付された化学式は、前記化学式に係る化合物の、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を表し、含有されない化合物の含有量は0とみなす。
  2. 前記フラックス入りワイヤ中の前記REMの含有量が、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.0100%以下であることを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  3. 前記フラックス入りワイヤ中の前記CaOの含有量が、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.10%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  4. 前記フラックス入りワイヤが、ワイヤ全質量に対する質量%で、MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO及びMnCOからなる群から選択される1種または2種以上を含む前記炭酸塩を合計で2.00%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  5. 前記フラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接によって得られる溶着金属の引張強さが、日本工業規格JIS Z3111−2005に規定された溶着金属の引張試験において、660〜980MPaであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  6. 前記フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  7. 前記フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮にスリット状の隙間が有ることを特徴する請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  8. 前記フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮の表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  9. 前記フラックスの充填率が5.0〜30.0%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  10. 板厚が6〜100mmであり、Niの含有量が5.5〜9.5質量%であり、引張強さが660〜900MPaである鋼板に対し、請求項1〜9のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて溶接することを特徴とする溶接継手の製造方法。
  11. 前記ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて、シールドガスを100%COとして仮付け溶接することを特徴とする請求項10に記載の溶接継手の製造方法。
  12. 前記ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて、シールドガスとして純Arガス、Arと1.5体積%以下のOまたはCOとの混合ガス、純Heガス、及び、Heと1.5体積%以下のOまたはCOとの混合ガスからなる群から選択された1種を用いて本溶接することを特徴とする請求項10または11に記載の溶接継手の製造方法。
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