JP2022061814A - 溶接継手の製造方法及び開先充填用のフラックス入りカットワイヤ - Google Patents

溶接継手の製造方法及び開先充填用のフラックス入りカットワイヤ Download PDF

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Takeshi Matsuo
孝浩 加茂
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Abstract

【課題】予熱作業の負担を軽減しつつ高温割れを防止することができ、しかも、溶接効率が高くて有利に溶接継手を得ることができる溶接継手の製造方法、及びこれに用いるフラックス入りカットワイヤを提供する。【解決手段】鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有するフラックス入りカットワイヤを開先内の初層に充填して溶接する方法であって、フラックスが強脱酸元素(Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM)を酸化物及び/又は合金として含むものである溶接継手の製造方法であり、また、これに用いるフラックス入りカットワイヤである。【選択図】図1

Description

この発明は、母材間に設けた開先内にカットワイヤを充填して溶接する溶接継手の製造方法、及び、これに用いられる開先充填用のフラックス入りカットワイヤに関する。
近年、造船、鉄骨、橋梁などの大型鋼構造物の製作分野において、軽量化と高性能化を両立させるため、鋼板の高強度化が進んでいる。また、施工効率向上の観点から、主に板継溶接で採用されるサブマージアーク溶接(SAW)では、片面溶接、両面一層溶接等の大入熱溶接に対応可能な溶接材料が要求されている。
一般に、サブマージアーク溶接における高張力鋼用溶接材料は、合金成分の添加によって優れた引張特性を得ているが、その際、添加成分による溶接金属の耐高温割れ性の低下が問題となる。溶接入熱を上げると、特に狭開先での溶接の場合にはビード形状がなし型となり易く、高温割れの発生リスクが高くなる。
この溶接金属で発生する高温割れは、溶着金属中に含まれるP,S等の低融点化合物が凝固時にデンドライト間やオーステナイト結晶粒界に偏析し、溶接収縮ひずみが加わって発生する割れである。そのため、高温割れの抑制策の一つとして、P,S等の低融点化合物等の不純物を100ppm以下に抑えることは効果的である。しかし、この方法では、不純物除去に要する費用が嵩んで製造コストがかかるため、一般的な不純物レベルでも、高温割れの発生を抑制できる技術が求められている。
また、サブマージアーク溶接において大入熱施工(大入熱溶接)を行う際には、高い溶着効率(溶着量増加)及び溶込み深さの制御のために、細径鋼素線を所定長さに細かく裁断して形成され、断面が円形をなし、カットワイヤとも呼ばれる開先充填材の使用が必要となる場合が多い。
例えば、特許文献1においては、このカットワイヤのNi含有量を抑制してMoを添加することにより、高温割れ性を確保すると共に、良好な靭性を確保するようにした開先充填材が開示されている(段落0015参照)。また、特許文献2においては、C含有量を抑制した充填剤を用いて母材希釈が抑えることにより、初層高温割れを防止する技術が開示されている(段落0012参照)。
しかしながら、鋼板の高強度化や溶接金属の高強度化が進み、合金元素添加量の高い高合金の使用や溶接時の大入熱溶接が求められるようになると、溶接材料の原料や鋼板から清浄度に依存してSが混入し、また、そのS混入量が増加すると固相線と液相線との温度差(ΔT)を大きくするため、元々この温度差(ΔT)の大きい高合金では温度差(ΔT)が大きくなり過ぎて高温割れを引き起し易くなり、上記の特許文献1及び特許文献2の技術では、必ずしも耐高温割れ性が十分であるとは言えず、高温割れを防止する新たな技術の開発が求められている。
また、上記の特許文献1及び特許文献2の技術は、いずれも低融点化合物を形成する硫黄元素(S)を固定する技術ではないため、溶接入熱が高くなることで高温割れが起こり易い凝固形態である突合せ凝固になると、溶接金属中の高温割れを抑制することができない。
特開2008-264,812号公報 特開2016-022,502号公報
このように、鋼板の高強度化や溶接金属の高強度化が進むにあたり、本発明者らは、大入熱溶接や高合金であっても、予熱の負担を軽減しつつ高温割れを防ぐことができる溶接継手の製造方法について鋭意検討を重ねた結果、溶接時に母材間の開先内に充填して使用されるカットワイヤ中に予め所定の強脱酸元素を含んだフラックスを入れておき、このフラックス入りカットワイヤを用いて溶接することにより、溶接金属中に強脱酸元素を硫化物として歩留り良く留めることができ、これによって上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明の目的は、予熱の負担を軽減しつつ高温割れを防止することができ、しかも、溶接効率の高い溶接継手を得ることができる溶接継手の製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、このような溶接継手の製造方法に用いられるフラックス入りカットワイヤを提供することにある。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1) 母材間に設けた開先内にカットワイヤを充填して溶接する溶接継手の製造方法であって、
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有するフラックス入りカットワイヤを前記開先内の初層に充填して溶接する方法であり、
前記フラックスが、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素を酸化物及び/又は合金として含むことを特徴とする溶接継手の製造方法。
(2) 前記フラックス入りカットワイヤは、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記強脱酸元素の合計含有量が0.1%以上98.0%以下であると共に、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Ni:5.00%以下、Cr:5.00%以下、Mo:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の溶接継手の製造方法。
(3) 前記フラックス入りカットワイヤを開先内の初層に充填した後、ソリッドワイヤをカットしたソリッドカットワイヤを充填して溶接することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の溶接継手の製造方法。
(4) 前記溶接がサブマージアーク溶接又はガスシールドアーク溶接であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかに記載の溶接継手の製造方法。
(5) 母材間に設けた開先内に充填して溶接継手を製造する開先充填用のカットワイヤであって、
鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有し、
前記フラックスが、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素を酸化物及び/又は合金として含むことを特徴とする開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(6) 前記強脱酸元素の酸化物及び/又は合金の合計含有量が、前記フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
前記強脱酸元素の合計含有量が0.1%以上98.0%以下であると共に、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Ni:5.00%以下、Cr:5.00%以下、Mo:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であり、また、
P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする前記(5)に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
(7) 母材間に設けた開先内の初層に充填して用いられることを特徴とする前記(5)又は(6)に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
本発明によれば、例えば、極厚の高強度鋼板を溶接する場合であっても、予熱の負担を軽減しつつ高温割れを防ぐことができ、しかも、溶接効率においても有利に溶接継手を製造することができる。
図1は、本発明におけるフラックス入りカットワイヤ溶接工程の一例を示す説明図である。 図2は、本発明におけるフラックス入りカットワイヤ溶接工程の他の一例を示す説明図である。 図3は、実施例において、耐高温割れ性の評価に使用した開先形状とフラックス入りカットワイヤを開先内に充填する様子を示す説明図である。 図4は、実施例において、耐高温割れ性の評価のために、作製された試験体から切り出された評価用観察片を示す斜視説明図である。
本発明は、鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されるフラックスとを有したフラックス入りカットワイヤを用いるものであり、母材間に設けた開先内の少なくとも初層にこのフラックス入りカットワイヤを充填して溶接するフラックス入りカットワイヤ溶接工程を備えるようにして、溶接継手を製造する。
以下、本発明に係るフラックス入りカットワイヤについて説明すると共に、これを用いた溶接継手の製造方法について説明する。
〔フラックス入りカットワイヤ〕
先ず、フラックス入りカットワイヤについて、フラックスとしては、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM〔希土類金属(Rare Earth Metals)〕からなる群から選択されるいずれか1種又は2種以上の強脱酸元素を含んだものを用いる。これらの強脱酸元素は、溶接金属の耐高温割れ性を顕著に向上させる働きを持つ。これは、これら強脱酸元素が硫化物を形成して溶接金属中に留まるためと推測される。このような強脱酸元素(以下、「硫化物生成元素」と称することもある。)は、その脱酸作用が強いので、通常の溶接ワイヤやSAW用フラックスに添加しても、脱酸反応で酸化物となって容易に消費されてしまい、溶接金属中に歩留り良く留めることは困難であったが、意外なことには、フラックス入りカットワイヤとして用いることにより、硫化物として溶接金属中に歩留り良く留めることができることが判明した。
そして、これらの強脱酸元素(Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM)については、そのいずれか1種又は2種以上を酸化物及び/又は合金としてフラックス入りカットワイヤ中に添加するのがよく、好ましくは合金鉄や酸化物として含有させるのがよい。酸化物及び/又は合金として用いることにより、酸化物は球状になっており、また、合金は変形し易いので、フラックス入りカットワイヤの製造時の、特にワイヤを伸線する際に破断し難くなる。一方、酸化物以外の化合物は、非球状になっている場合が多く、断線の可能性が高くなる。なお、化合物として窒素が含まれると溶接欠陥になる可能性がある。
ここで、本発明におけるフラックス入りカットワイヤでは、フラックスが鋼製外皮の内部(内側)に充填されているため、強脱酸元素(Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM)が多量に含まれていてもよい。そのため、前記強脱酸元素の上限は特に制限されないことになる。しかしながら、フラックス入りカットワイヤが鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部(内側)に充填されたフラックスとで構成されているので、酸化物及び/又は合金として含まれる強脱酸元素の合計含有量は、前記フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、0.1%以上98.0%以下であることが好ましい。また、この上限は97.0%であってもよく、95.0%であってもよく、更に90.0%であってもよい。ここでREMとは、原子番号57~71の15元素、並びにSc及びYの2元素の合計17元素をさし、そのうちの任意の1種類、あるいは2種類以上の混合物を用いることができる。REMの含有量は前記17元素の合計含有量である。
また、本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、前記強脱酸元素(Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM)以外に、例えば、溶接金属の化学成分や炭素当量(Ceq)等を制御するための合金成分(以下、これら化学成分や合金成分を単に「化学成分」という。)を含有させてもよい。その際、これらの化学成分は、溶接の際に鋼製外皮と同様に溶融する。そのため、前記強脱酸元素以外の化学成分は、例えば、金属粉や合金粉の形態でフラックス中に含まれるようにしてもよく、鋼製外皮の形態で含まれるようにしてもよく、鋼製外皮の外表面にめっきとして含まれるようにしてもよく、いずれの態様で添加しても同様の効果を奏する。なお、前記強脱酸元素以外の化学成分は、カットワイヤではない通常のフラックス入りワイヤの場合のように、アーク安定性や全姿勢溶接性が求められないことから、酸化物や炭酸塩の状態である必要がなく、上記のような金属粉や合金粉の形態で含有させることができる。
具体的には、本発明のフラックス入りカットワイヤは、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、強脱酸元素(Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM)の合計含有量が0.1%以上98.0%以下であると共に、任意成分としてC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Al、B、及びBiの群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の化学成分を含み、かつ、各化学成分の含有量がそれぞれC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Ni:5.00%以下、Cr:5.00%以下、Mo:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であり、また、P及びSからなる不純物元素の含有量がそれぞれP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることが好ましい。なお、本発明においては、上述した強脱酸元素を含むことにより、前記任意の化学成分を含むことなく高温割れを抑制することができるため、これら化学成分のそれぞれの含有量の下限値は0%である。
このうち、任意成分としての化学成分において、「C:0.120%以下」におけるCは、固溶強化によって溶接金属の耐力及び引張強さを確保するために重要な元素である。但し、フラックス入りカットワイヤにおけるC含有量が0.120%を超えると、溶接金属中のC含有量が過剰になり、溶接金属の耐力及び引張強さが過度に上昇して、溶接金属の靭性が低下する。溶接金属の靭性、耐力、及び引張強さの全てを安定的に確保するためには、このC含有量の上限値を0.10%にするのが好ましい。一方、C含有量の下限は0%であるが、必要に応じて、C含有量の下限を0.010%、0.020%、0.030%、0.040%、又は0.050%としてもよい。同様に、C含有量の上限を0.100%、0.090%、0.080%、又は0.070%としてもよい。
「Si:2.00%以下」におけるSiは、脱酸元素であり、溶接金属の酸素量を低減して溶接金属の清浄度を高める働きを有する。フラックス入りカットワイヤにおけるSi含有量が2.00%を超える場合、Siが溶接金属の靱性を劣化させる。溶接金属の靭性を安定して確保するために、このSi含有量の上限は1.90%、1.80%、1.70%、又は1.50%としてもよい。一方、Si含有量の下限は0%であるが、必要に応じて、Si含有量の下限を0.01%、0.02%、0.03%、又は0.04%としてもよい。
「Mn:3.50%以下」におけるMnは、溶接金属の焼入性を確保して溶接金属の強度を高めるために必要な元素であるが、0%でもよい。溶接金属の強度を高めるために、フラックス入りカットワイヤにおけるMn含有量の下限値を0.50%、0.75%、1.0%としてもよい。一方、このMn含有量が3.50%を超える場合、溶接金属の粒界脆化感受性が増加して溶接金属の靱性が劣化する。従って、Mn含有量の上限値は3.50%であるが、Mn含有量の上限値を3.00%、2.50%、又は2.00%としてもよい。
「Cu:5.00%以下」におけるCuは、溶接金属の強度と靭性を向上させる効果を有するが、0%でもよい。Cuは、フラックス入りカットワイヤにおける鋼製外皮の表面のめっきに含まれてもよく、フラックスに単体又は合金として含まれてもよい。このCu含有量は、鋼製外皮やフラックスに含まれるCuと表面のめっきに含まれるCuとの合計量である。このCu含有量が5.00%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。Cu含有量の上限値は、好ましくは4.00%、3.00%、又は2.00%である。Cu含有量の下限値は、好ましくは0.05%、0.1%、又は0.15%である。
「Ni:5.00%以下」におけるNiは、必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるNi含有量の下限値は0%である。また、このNi含有量が多過ぎる場合、凝固割れが起こり易くなる。そのため、Ni含有量の上限値は、好ましくは4.00%、3.00%、又は2.00%である。Ni含有量の下限値は、好ましくは0.05%、0.1%、又は0.15%である。
「Cr:5.00%以下」におけるCrは、必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるCr含有量の下限値は0%である。一方、Crは、溶接金属の焼入性を高めるので、溶接金属の強度を向上させるために有効な元素である。その効果を十分に得るためには、Cr含有量を0.10%以上とすることが好ましい。また、Cr含有量が5.00%を超える場合、溶接金属が過剰に硬化し、溶接金属の靱性を劣化させる。Cr含有量の上限値は、好ましくは4.00%、3.00%、2.00%、又は1.00%である。
「Mo:5.00%以下」におけるMoは、必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるMo含有量の下限値は0%である。一方、Moは、溶接金属の焼入れ性を向上させる効果を有するので、溶接金属の高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかしながら、このMo含有量が5.00%を超える場合、溶接金属の靭性が劣化することがあるので、Mo含有量は5.00%以下とする。Mo含有量の上限値は、好ましくは4.00%、3.00%、2.00%、1.00%、又は0.60%である。
「Nb:0.50%以下」におけるNbは、必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるNb含有量の下限値は0%である。一方、Nbは、溶接金属において微細炭化物を形成し、この微細炭化物が溶接金属中で析出強化を生じさせるので、Nbは溶接金属の引張強さを向上させる。その効果を十分に得るためには、Nb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。しかしながら、このNb含有量が0.50%を超えることは、Nbが溶接金属中で粗大な析出物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるので、好ましくない。Nb含有量の上限値は、好ましくは0.40%、0.30%、0.20%、又は0.10%である。
「V:0.500%以下」におけるVは、必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるV含有量の下限値は0%である。一方、Vは溶接金属の焼入れ性を向上させるので、溶接金属の高強度化に有効な元素である。その効果を十分に得るためには、V含有量を0.010%以上とすることが好ましい。このV含有量が0.500%を超える場合、溶接金属中のV炭化物の析出量が過剰となり、溶接金属が過剰に硬化し、溶接金属の靭性を劣化させる。V含有量の上限値は、好ましくは0.400%、0.300%、0.200%、又は0.100%である。
「Al:1.70%以下」におけるAlは、脱酸元素であり、Siと同様に、溶接金属中の酸素量を低減させ、溶接金属の清浄度向上効果を有する。フラックス入りカットワイヤにおけるAl含有量が1.70%を超える場合、Alが窒化物及び酸化物等を形成して、溶接金属の靱性を減少させる。そのため、フラックス入りカットワイヤにおけるAl含有量の上限を1.70%とする。この上限値は、好ましくは1.60%、1.50%、1.40%、又は1.30%である。Al含有量の下限値は、好ましくは0.005%、0.010%、0.050%、0.100%、0.150%又は0.200%である。
「B:0.020%以下」におけるBは、必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるB含有量の下限値は0%である。一方、Bは、溶接金属において固溶Nと結びついてBNを形成するので、固溶Nが溶接金属の靭性に及ぼす悪影響を減じる効果を有する。また、Bは溶接金属の焼入性を高めるので溶接金属の強度を向上させる効果も有する。そのため、フラックス入りカットワイヤが0.0005%以上のBを含有してもよい。しかしながら、このB含有量が0.020%超になると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBN及びFe23(C、B)等のB化合物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるので、好ましくない。B含有量の上限値は、好ましくは0.015%、0.010%、0.005%、0.003%、又は0.001%である。
「Bi:0.020%以下」におけるBiは、必須成分ではないので、フラックス入りカットワイヤにおけるBi含有量の下限値は0%である。一方、Biは、スラグの剥離性を改善する元素である。その効果を十分に得るために、Bi含有量を0.005%以上、0.010%以上又は0.012%以上とすることが好ましい。一方で、Bi含有量が0.020%を超える場合、溶接金属に凝固割れが発生しやすくなるので、Bi含有量の上限値は0.020%である。このBi含有量の上限値は、好ましくは0.015%、0.010%、又は0.005%である。
また、前記不純物元素として存在する「P:0.030%以下」におけるPは、溶接金属の靱性を低下させるので、フラックス入りカットワイヤ中のP含有量は極力低減させる必要がある。そのため、P含有量の下限値は0%である。また、このP含有量が0.030%以下であれば、Pの靱性への悪影響が許容できる範囲内となる。溶接金属の凝固割れを防止するために、より好適には、このP含有量は0.020%以下、0.015%以下、又は0.010%以下である。
前記不純物元素として存在する「S:0.020%以下」におけるSは、溶接金属中に過大に存在すると、溶接金属の靱性と延性を共に劣化させるので、フラックス入りカットワイヤにおけるS含有量は極力低減させるのが望ましい。そのため、このS含有量の下限値は0%である。また、S含有量が0.020%以下であれば、溶接金属の靱性及び延性にSが及ぼす悪影響が許容できる範囲内となる。より好適には、0.010%以下、0.008%以下、0.006%以下、又は0.005%以下である。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、上述したような化学成分を含んでもよく、また、含まなくてもよいが、これらの化学成分と前記強脱酸元素(Ca、Mg、Ti、Zr、及びREM)及び不純物元素のほかは、Fe及び不純物である。このうち、Feとしては、鋼製外皮に加えて、鉄粉を含むようにしてもよい。すなわち、フラックス入りカットワイヤにおけるフラックスの充填率の調整のために、或いは、溶着効率の向上のために、必要に応じてフラックス中に鉄粉を含有させるようにしてもよい。この鉄粉の含有量は特に制限されないが、鉄粉の表層に付着した酸素が溶接金属の酸素量を増加させて、靭性を低下させることも考えられることから、最大でも、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で90.0%未満、望ましくは80.0%未満にするのがよい。鉄粉の含有量の上限値については8.0%、6.0%、4.0%、2.0%、又は1.0%に制限してもよい。勿論、本発明に係るフラックス入りカットワイヤにおいて鉄粉は必須ではないので、鉄粉の含有量の下限値は0%である。
また、不純物については、フラックス入りカットワイヤを工業的に製造する際に、原料に由来して、又は、製造工程の種々の要因によって混入する成分である。これらは、本発明に係るフラックス入りカットワイヤに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤにおいては、上述された強脱酸元素、化学成分、及び不純物元素以外の他の金属元素の弗化物、酸化物、炭酸塩等も、その特性を損なわない範囲で含有してもよい。この場合、前記他の金属元素の弗化物、酸化物、炭酸塩は、前記強脱酸元素、化学成分、不純物元素、並びにFe及び不純物の含有量には含まれないものとする。但し、これら他の金属元素の弗化物、酸化物、炭酸塩については、それを含有する場合を排除するものではないことを表すものである。すなわち、本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、前述の強脱酸元素を所定の割合で含むと共に、前述の化学成分及び不純物元素の含有量がそれぞれ所定の範囲であり、残部がFe及び不純物、又は、Fe、不純物、及びこれら他の金属元素の弗化物、酸化物、炭酸塩からなる化学組成を有するものである。好ましくは、前述の強脱酸元素を所定の割合で含むと共に、前述の化学成分及び不純物元素の含有量がそれぞれ所定の範囲であり、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する。
更に、上述した事項が満たされる限り、本発明に係るフラックス入りカットワイヤの鋼製外皮については、特に制限されないが、例えば、鋼製外皮が軟鋼外皮からなる場合、その外皮の化学組成は、質量割合で、C:0.1%以下、Si:0.10%以下、Mn:3.00%以下、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Al:0.1%以下、及びN:0.030%以下であり、残部が鉄及び不純物であるものを挙げることができる。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、鋼製外皮にフラックスが充填された状態のワイヤ形状に形成され、次いで所定の長さに細かく裁断することで得ることができる。カットされたフラックス入りカットワイヤの形状について特に制限はなく、細径鋼素線を所定の長さに細かく裁断して、断面が円形をなした一般的なカットワイヤと同程度にすることができるが、フラックスが充填されることなどを考慮すると、その直径としてはφ1.0~φ3.0mmであるのがよい。ちなみに、従来のカットワイヤの直径はφ1.0~φ2.0mm程度である。一方で、フラックス入りカットワイヤの長さは0.5~3.5mmであるのがよい。一般的なカットワイヤでは、その長さはワイヤ径の0.5~2.0倍相当である。
また、フラックスの充填率については、上述した条件が満たされる限り、特に制限されない。例えば、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、フラックスの充填率の下限値を10%、又は12%としてもよい。また、フラックスの充填率の上限値を80%、又は90%としてもよい。
ここで、溶接金属の拡散性水素量を低減するために、好ましくは、フラックス入りカットワイヤに含まれる水素量が、フラックス入りカットワイヤの全質量に対して12ppm以下であるのがよい。この水素量は、フラックス入りカットワイヤの製造時に侵入するほか、フラックス入りカットワイヤの保管の間に水分が侵入することにより増大するおそれがあることから、カットワイヤ製造後から使用までの期間が長い場合には、水分の浸入を防止しながら保管することが望ましい。
本発明におけるフラックス入りカットワイヤを製造するにあたり、その手順等は特に制限されないが、裁断する前のフラックスが充填されたワイヤを製造する方法として、以下のような例を示すことができる。
先ず、鋼製外皮の継目が溶接されてスリット状の隙間がないシームレス形状のフラックス入りカットワイヤの製造方法としては、強脱酸元素や化学成分等が所定の範囲内になるようにフラックスを調製する工程のほか、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU字型のオープン管を得る工程と、オープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給する工程と、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合せ溶接してシームレス管を得る工程と、シームレス管を伸線して所定の線径を有するフラックス入りのワイヤを得る工程と、伸線する工程の途中、又は完了後にフラックス入りのワイヤを焼鈍する工程とを備える。その後、ワイヤを所定の長さに裁断することで、フラックス入りカットワイヤを得ることができる。
ここで、突合せ溶接は、電縫溶接、レーザ溶接、又はTIG溶接等により行われる。また、伸線工程の途中又は伸線工程の完了後に、ワイヤ中の水分を除去するために焼鈍を行う。好ましくは、ワイヤに含まれるH含有量を12ppm以下とするために、焼鈍温度は650℃以上とし、焼鈍時間は4時間以上とするのがよい。但し、フラックスの変質を防ぐために、焼鈍温度は900℃以下とする。なお、突合せ溶接のかわりに、鋼製外皮の隙間をろう付けしても、スリット状の隙間がないワイヤを得ることができる。
また、鋼製外皮の継目を溶接せずに、スリット状の隙間を有したままのフラックス入りカットワイヤを得るようにしてもよい。その場合には、オープン管の端部を突き合わせ溶接してシームレス管を得る工程のかわりに、オープン管を成形して、オープン管の端部を突き合わせてスリット状の隙間有りの管を得る工程を有する点以外は、シームレス形状を有するワイヤの製造方法と同様である。スリット状の隙間を有するワイヤの製造方法は、突き合わせられたオープン管の端部をかしめる工程を更に備えてもよい。スリット状の隙間を有するワイヤの製造方法では、スリット状の隙間を有した状態で管を伸線する。
本発明に係るフラックス入りカットワイヤは、上述したように、鋼製外皮の継目が溶接されてスリット状の隙間がないシームレス形状のワイヤを裁断したものであってもよく、鋼製外皮の継目が溶接されずに、スリット状の隙間を有したワイヤを裁断したものであってもよいが、好ましくは、鋼製外皮にスリット状の隙間がないワイヤをカットしたフラックス入りカットワイヤであるのがよい。溶接時に溶接部に侵入するH(水素)は、溶接金属及び被溶接材中に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。Hの供給源は様々であるが、溶接部の清浄度や溶接条件が厳密に管理された状態であれば、フラックス入りカットワイヤ中に含まれる水分(H2O)がHの供給源となり得て、この水分の量が溶接継手の拡散性水素量に影響する場合がある。そのため、スリット状の隙間がないシームレス形状のワイヤを裁断したものが望ましいが、スリット状の隙間を有したワイヤを裁断したものである場合には、例えば、真空包装して保管したり、乾燥した状態を保持できる容器内でフラックス入りカットワイヤを保管するようにすればよい。
また、本発明におけるフラックス入りカットワイヤは、その表面に油(潤滑剤)が塗布されたものであってもよい。充填材表面に塗布された潤滑剤は、保管時の錆発生を抑える効果がある。このような潤滑剤としては、様々な種類のもの(例えばパーム油等の植物油)を使用できるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、H(水素)を含有しないパーフルオロポリエーテル油(PFPE油)を使用するのが好ましい。なお、フラックス入りカットワイヤが、その表面にめっきを備えたものである場合には、潤滑剤はめっきの表面に塗布される。
〔溶接継手の製造方法〕
次に、上述したフラックス入りカットワイヤを用いて溶接継手を製造するにあたり、本発明では、母材間に設けた開先内の少なくとも初層にフラックス入りカットワイヤを充填して溶接するフラックス入りカットワイヤ溶接工程を備えるようにする。つまり、本発明では、溶接継手を製造する際に、溶接が複数回のパスからなる場合には、少なくとも1パス目において、本発明に係るフラックス入りカットワイヤを母材の開先内に充填して溶接し、2パス目以降では必要に応じて途中まで本発明のフラックス入りカットワイヤを使用する。また、溶接が1パスのみである場合、その1パスにおいて本発明のフラックス入りカットワイヤを用いるようにする。
なかでも、このフラックス入りカットワイヤ溶接工程については、少なくとも開先内の初層に本発明に係るフラックス入りカットワイヤを充填して、溶接を行うのが好ましい。すなわち、高温割れの発生確率が高い開先内の初層にフラックス入りカットワイヤを充填することで、高温割れを防止することができる。
図1及び図2には、それぞれ本発明におけるフラックス入りカットワイヤ溶接工程の一例が示されている。このうち、図1は、母材1と母材2との間に設けられた開先3内の初層にフラックス入りカットワイヤ4を充填して、溶接を行う例である。
先ず、図1(a)に示されるように、母材1、2の裏面に裏当材5を取り付けた上で、開先3内の初層に本発明に係るフラックス入りカットワイヤ4を充填する。そして、図1(b)に示されるように、充填したフラックス入りカットワイヤ4の上に溶接用ワイヤを配置して溶接し、耐高温割れ性が初層にのみ求められる場合には、図1(c)に示したように、初層に充填したフラックス入りカットワイヤ4を含んで得られた溶接金属7の上に、本発明のフラックス入りカットワイヤを用いずに、溶接する。
また、耐高温割れ性が初層以外に途中の層まで求められる場合には、図1(d)~図1(f)に示されているように、フラックス入りカットワイヤ4を含んで得られた初層の溶接金属7の上に、更にフラックス入りカットワイヤ4を用いて当該途中の必要な層まで溶接を行い、その後に、本発明のフラックス入りカットワイヤを用いることなく溶接を行う。
また、図2に示したように、本発明に係るフラックス入りカットワイヤ溶接工程は、開先内にフラックス入りカットワイヤを充填して1パスで溶接するフラックス入りカットワイヤ充填1パス溶接からなるようにしてもよい。
すなわち、図2(a)に示したように、母材1、2の裏面に裏当材5を取り付けた上で、この図2の例では、開先3内のほぼ全て、例えば、開先内高さの70%程度を充填するように、本発明に係るフラックス入りカットワイヤ4を散布する。次いで、図2(b)のように、充填したフラックス入りカットワイヤ4の略中心部上に溶接用ワイヤ6を配置し、アークを発生させて溶接することで、図2(c)に示したように、フラックス入りカットワイヤ4を含んだ溶接金属7によって溶接継手を製造する。
この図2に示したフラックス入りカットワイヤ溶接工程の例では、開先内のほぼ全てに本発明に係るフラックス入りカットワイヤが用いられる。
これらの図1、図2では、母材間の開先がいわゆるV型開先の例を示したが、本発明においてはこの開先形状に制限はなく、V型以外にも、例えばI型、レ型、K型、J型、X型、U型、H形等の開先形状や、これら以外の任意の形状の開先であってもよい。また、本発明においては、片面溶接の場合であってもよく、両面溶接の場合であっても適用可能である。更には、図1の例のように多層盛りの溶接の場合、各層を2パス以上に分けて溶接するようにしてもよい。
本発明において用いられる溶接方法(溶接手段)については、特に制限されないが、開先内に充填したフラックス入りカットワイヤを確実に溶かすために、好ましくは、サブマージアーク溶接であるか、又はガスシールドアーク溶接であるのがよい。ただし、立向溶接や上向溶接では、フラックス入りカットワイヤを開先内に充填することが困難な場合があるため、溶接姿勢は下向又は横向きであるのが望ましい。
また、本発明における溶接継手の製造方法では、母材の種類や形状等は特に制限されないが、高温割れが問題となるような場面での適用が最も効果的である。すなわち、代表的には、引張強さが780MPa以上の高強度鋼材からなる母材の溶接である。特に、狭開先の1パス溶接となる場合に本発明を適用するのは極めて効果的であると言える。なお、開先を形成する母材の組み合わせは任意であり、同じ種類同士の母材であってもよく、互いに異なる母材であっても構わない。
また、一般に、溶接継手の製造方法では、母材鋼板(母材)と、溶接金属及び溶接熱影響部から構成される溶接部とを備えた溶接継手が得られるところ、本発明では、所定の化学成分を更に含んだフラックス入りカットワイヤを用いることで、高強度、高靱性の溶接継手が得られるようになる。
(実施例)
次に、実施例等に基づき本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徹して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
本発明例及び比較例のフラックス入りカットワイヤ(ワイヤ番号1~42の試料)は、次の方法により製造した。
先ず、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU型のオープン管を得た。このオープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給し、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合わせ溶接してシームレス管を得た。このシームレス管を伸線して、スリット状の隙間がないフラックス入りのワイヤを得た。但し、その際に、一部の試料は、シーム溶接をしないスリット状の隙間有りの管とし、それを伸線してワイヤとした。このようにして、最終の充填材径がφ2.0mmのフラックス入りのワイヤを試作した。
なお、これらワイヤの伸線作業の途中で、フラックス入りのワイヤを650~950℃の温度範囲内で4時間以上焼鈍した。試作後、一部のワイヤ表面には潤滑剤を塗布した。そして、製造したフラックス入りのワイヤを長さが2.0mmになるように裁断して、フラックス入りカットワイヤの各試料を準備した。
そして、フラックスの調製に際しては、表1に示す硫化物生成元素(強脱酸元素)について、Ca、Mg、Tiは金属(合金)粉として使用し、REM元素であるCe及びLaの各元素についてはそれぞれその酸化物として使用し、表1及び表2中にはそれぞれ各元素の質量割合に換算して示した。
これらフラックス入りカットワイヤの構成を表1及び表2に示す。
Figure 2022061814000002
Figure 2022061814000003
表1及び2に記載された強脱酸元素(硫化物生成元素)、任意成分としての化学成分、並びに、鉄粉(Fe粉)及び不純物元素として含まれる各元素の含有量の単位は、フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合(質量%)である。
また、フラックス入りカットワイヤの化学組成における残部(すなわち、表1及び2に開示された各元素以外の成分)は、鉄(意図的に添加されたFe粉を含む。)及び不純物である。また、各フラックス入りカットワイヤのワイヤ構造は表1に示したとおりであり、更に、備考欄で特に断りが無い限り、油は塗布していない。一方で、表2に開示されたフラックス入りカットワイヤに化学成分として含まれる各元素は、鋼製外皮又はフラックスに金属粉及び/又は酸化物粉の形態で含まれるものである。
なお、表1及び2において、強脱酸元素、化学成分、及びFe粉の含有量に係る表中の空欄は、その強脱酸元素、化学成分、及びFe粉が意図的に添加されていないことを意味する。なお、強脱酸元素及び化学成分については不可避的に混入されることもある。
発明例及び比較例のフラックス入りカットワイヤは、以下に説明する方法により溶接継手を作製し、以下に説明する方法で評価した。
板厚が20mmである引張強さ490MPa級鋼に対して、表3の溶接条件下に1パスで、SAW溶接を行って溶接継手の試験体を作製した。その際、開先形状は、図3に示すV型として、開先3内でのフラックス入りカットワイヤ4の散布厚さは16mmとした。更には、溶接フラックスとして日鐵住金溶接工業(株)製NF-100を使用し、溶接ワイヤには日鐵住金溶接工業(株)製Y-DS(ワイヤ径φ4.8mm)を使用した。溶接ワイヤは鋼板に対して垂直に設置した。
Figure 2022061814000004
〔高温割れ性の評価〕
高温割れ性の評価に際しては、図4に示すように、作製された試験体を、溶接ビードのスタート部及びエンド部を除く長さ300mmの範囲で、50mm毎に5箇所を切断し、溶接金属7の部分の断面(溶接金属断面)が開先形状と同じV型断面になる5つの評価用観察片8を作製し、各評価用観察片8における溶接金属断面のマクロ組織を観察した。これら5つの評価用観察片8の溶接金属断面の全てに割れの発生していないものを「合格」とし、1つ以上の断面で割れの発生したものを「不合格」とした。
上述の方法により評価した各試験結果を表4に示す。
〔強脱酸元素(硫化物生成元素)の歩留りの評価〕
先ず、溶接金属の中央部付近から10mm×10mm×5mmの大きさの試験片を採取し、溶接方向と垂直方向の断面である10mm×10mmの領域の表面を鏡面研磨して観察した。試験片の表面観察は、JEOL製「JXA-8530F」を用いて、SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)解析により測定した。この際の観察条件は、加速電圧15kV、電流89~91μA、観察視野面積25mm、及び分析個数100個以上とした。
分析対象元素はO、S、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMとし、これら分析対象元素の全質量に対する各分析対象元素の質量割合(質量%)を求めた。ここで、Sの質量%が1.0質量%以上であって、強脱酸元素のCa、Mg、Ti、Zr、及びREMのいずれか1種以上が1.0質量%以上である介在物を「硫化物を含む介在物」とした。
そして、この硫化物を含む介在物の個数密度が10個/mm以上の場合を、強脱酸元素が溶接金属中に硫化物として歩留り良く留まったと評価した。
上述の方法により評価した強脱酸元素の歩留りの結果を表4に示す。
本発明例のフラックス入りカットワイヤを用いて溶接を行った場合、耐高温割れ性の評価のいずれの断面においても割れ無し(断面割れが発生していないこと)の評価(合格)であった。つまり、発明例のフラックス入りカットワイヤが極めて高い耐高温割れ性を有していることが確認された。
一方、比較例のフラックス入りカットワイヤを用いた場合には、耐高温割れ性の評価のいずれかの断面においても割れ有り(断面割れが発生していること)の評価(不合格)であった。
Figure 2022061814000005
以上のとおり、本発明によれば、高強度鋼板を溶接する場合であっても、高温割れを防ぐことができるようになり、作業環境やコスト性においても有利に溶接効率良く溶接継手を製造することができるようになる。
1、2…母材(鋼材)、3…開先、4…フラックス入りカットワイヤ、5…裏当材、6…溶接用ワイヤ、7…溶接金属、8…評価用観察片。

Claims (7)

  1. 母材間に設けた開先内にカットワイヤを充填して溶接する溶接継手の製造方法であって、
    鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有するフラックス入りカットワイヤを前記開先内の初層に充填して溶接する方法であり、
    前記フラックスが、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素を酸化物及び/又は合金として含むことを特徴とする溶接継手の製造方法。
  2. 前記フラックス入りカットワイヤは、該フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
    前記強脱酸元素の合計含有量が0.1%以上98.0%以下であると共に、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Ni:5.00%以下、Cr:5.00%以下、Mo:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であり、また、
    P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手の製造方法。
  3. 前記フラックス入りカットワイヤを開先内の初層に充填した後、ソリッドワイヤをカットしたソリッドカットワイヤを充填して溶接することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接継手の製造方法。
  4. 前記溶接がサブマージアーク溶接又はガスシールドアーク溶接であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の溶接継手の製造方法。
  5. 母材間に設けた開先内に充填して溶接継手を製造する開先充填用のカットワイヤであって、
    鋼製外皮とこの鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを有し、
    前記フラックスが、Ca、Mg、Ti、Zr、及びREMからなる群から選ばれた1種又は2種以上の強脱酸元素を酸化物及び/又は合金として含むことを特徴とする開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
  6. 前記強脱酸元素の酸化物及び/又は合金の合計含有量が、前記フラックス入りカットワイヤの全質量に対する質量割合で、
    前記強脱酸元素の合計含有量が0.1%以上98.0%以下であると共に、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Al、B、及びBiからなる化学成分の含有量がC:0.120%以下、Si:2.00%以下、Mn:3.50%以下、Cu:5.00%以下、Ni:5.00%以下、Cr:5.00%以下、Mo:5.00%以下、Nb:0.50%以下、V:0.500%以下、Al:1.70%以下、B:0.020%以下、及びBi:0.030%以下であり、また、
    P及びSからなる不純物元素の含有量がP:0.030%以下及びS:0.020%以下であることを特徴とする請求項5に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
  7. 母材間に設けた開先内の初層に充填して用いられることを特徴とする請求項5又は6に記載の開先充填用のフラックス入りカットワイヤ。
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