JP2022037916A - アルミニウム接合体 - Google Patents

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Abstract

【課題】凝固割れを防止して溶接品質を向上することができるアルミニウム接合体を提供する。【解決手段】アルミニウム展伸材である第一部材1と、アルミニウムダイカスト材である第二部材2とを備え、第一部材1と第二部材2が溶接された溶接部10を有し、溶接部10の溶接ビード12は、凝固割れの要因となる少なくとも一つの要因成分を含み、溶接ビード12における前記要因成分の濃度は、割れ感受性のピーク濃度値から外れていて、溶接部10の溶接ビード12における要因成分の濃度は、第一部材1における要因成分の濃度よりも高い。【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム材同士が接合された接合体に関する。
最近の軽量化への材料転換の流れから、アルミニウム展伸材の普及が著しい。しかしながら、アルミニウム展伸材を溶接することは困難である。これは、アルミニウム展伸材を溶接すると、凝固割れ(Hot Crack)が発生するためである。そのため、アルミニウム展伸材を接合する方法としては、ボルトやカシメといった工法を用いた締結方法等の機械的な接合方法が採用されている。
下記特許文献1には、互いに同じ材質のアルミニウム展伸材同士をレーザ光によって溶接することが記載されている。しかしながら、凝固割れに対する対策は施されていない。アルミニウム展伸材同士をワイヤーを使ってレーザ溶接すると、凝固割れが起こりにくくなると考えられるが、異なる成分のワイヤーを溶接することで、均一な性能を確保することが難しい。また、ワイヤー添加が余分なコストとなる。
特開2019-123008号公報
本発明は、凝固割れを防止して溶接品質を向上することができるアルミニウム接合体を提供することを課題とする。
本発明に係るアルミニウム接合体は、アルミニウム展伸材である第一部材と、アルミニウムダイカスト材である第二部材とを備え、第一部材と第二部材が溶接された溶接部を有し、溶接部の溶接ビードは、凝固割れの要因となる少なくとも一つの要因成分を含み、溶接ビードにおける前記要因成分の濃度は、割れ感受性のピーク濃度値から外れている。尚、要因成分の濃度は、要因成分の含有量であり、%は重量%である。
この構成によれば、アルミニウム展伸材である第一部材と、アルミニウムダイカスト材である第二部材が溶接されている。図12に示すように、アルミニウム合金における凝固割れの割れ感受性は、凝固割れの要因となる要因成分の濃度によって大きく変化する。図12のグラフの縦軸は、割れ感受性の高さであって、値が大きくなるほど凝固割れが発生しやすくなり、値が小さくなるほど凝固割れが発生しにくくなる。図12のグラフの横軸は、要因成分の濃度である。割れ感受性は、要因成分の濃度が所定の濃度値になると、最大値となる。そのときの要因成分の濃度を要因成分のピーク濃度値(Cm)と称する。要因成分の濃度がピーク濃度値より低くなったり逆に高くなったりすると、割れ感受性は急激に低下する。上記アルミニウム接合体によれば、溶接ビード中の要因成分の濃度は、ピーク濃度値から外れている。そのため、その要因成分に起因する凝固割れが発生しにくい。
特に、溶接ビードにおける要因成分の濃度は、割れ感受性のピーク濃度値に対して高い方に1%以上外れていることが好ましい。この構成によれば、溶接ビードにおける要因成分の濃度は、ピーク濃度値よりも1%以上高い。要因成分の濃度がピーク濃度値より高くなる場合の方がピーク濃度値より低くなる場合よりも、割れ感受性は急激に低下する。従って、要因成分の濃度がピーク濃度値に対して高い方に外れていると、要因成分に起因する凝固割れが発生しにくい。そして、要因成分の濃度がピーク濃度値に対して高い方に1%以上外れていると、割れ感受性が大きく低下し、要因成分に起因する凝固割れが確実に抑制される。また、ピーク濃度値に対して高い方に外す方が低い方に外すよりも容易であり、溶接品質が向上する。
更に、第一部材及び第二部材は前記要因成分を含み、第一部材における要因成分の濃度は、第二部材における要因成分の濃度よりも低く、溶接ビードにおける要因成分の濃度は、第一部材における要因成分の濃度よりも高いことが好ましい。この構成によれば、溶接ビード中の要因成分の濃度は、第一部材中の要因成分の濃度よりも高くなっているので、その要因成分の割れ感受性が低下し、その要因成分に起因する凝固割れが発生しにくくなる。
特に、溶接部は、第一部材と第二部材が重ねられて溶接された重ね隅肉溶接部であることが好ましい。溶接部が重ね隅肉溶接部であると、溶接中に生じる溶融金属内におけるガスや不純物が大気に放出されやすい。そのため、良好な溶接品質が得られる。尚、重ね隅肉溶接部に第一部材の端部が位置していると、重ね隅肉溶接部における第一部材の端部にレーザ光を照射しやすい。また、重ね隅肉溶接部に第二部材の端部が位置していると、溶接ビード中の要因成分の濃度を高めやすい。
また、溶接ビードの全体に要因成分が均質に拡散していることが好ましい。このように要因成分が溶接ビード中に分散していると、より一層凝固割れが発生しにくくなる。
また、前記要因成分は、ケイ素を含み、溶接ビードにおけるケイ素の濃度は、3%以上であることが好ましい。凝固割れに対して割れ感受性が最も高くなるケイ素の濃度、即ち、ケイ素のピーク濃度値は0.6~0.8%である。溶接ビード中のケイ素の濃度が3%以上であると、凝固割れが確実に防止される。
また、アルミニウム接合体は、ケースであり、ケースは、第二部材としての枠体と第一部材としての板材とを備え、板材は、枠体の開口部を覆うように枠体に溶接されていることが好ましい。ダイカストにより枠体を容易に製造できる。板材を枠体に溶接することにより、容易にケースを製造できる。
また、第二部材は、前記要因成分としてケイ素を含んでおり、第二部材におけるケイ素の濃度は、7.0%から13.5%であることが好ましい。第二部材のケイ素の濃度が7.0%未満であると溶接中に第二部材2から溶接ビード12へのケイ素の拡散に時間がかかり、第一部材1への成分移動がうまく働かない。また第二部材2のケイ素の濃度が13.5%を越えると、凝固後の材料の加工性が低下し部品への応用が困難となる。
以上のように、溶接ビード中の要因成分の濃度が、割れ感受性のピーク濃度値から外れているので、その要因成分に起因する凝固割れの発生が防止され、溶接品質が向上する。
本発明の一実施形態におけるアルミニウム接合体の要部を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図。 同アルミニウム接合体の要部断面図。 同アルミニウム接合体の製造方法を示し、(a)は断面図、(b)は斜視図。 同アルミニウム接合体の製造方法の一例を示す模式図であって、(a)は斜視図、(b)は、平面図。 同アルミニウム接合体の製造方法の一例を示す模式図であって、(a)は斜視図、(b)は、平面図。 同アルミニウム接合体の製造方法の一例を模式的に示す平面図。 同アルミニウム接合体の溶接部を示す図面代用写真。 同アルミニウム接合体の溶接部を示す図面代用写真。 同アルミニウム接合体の溶接部を示す図面代用写真。 同アルミニウム接合体の溶接部を示す図面代用写真。 同溶接部の溶接ビード中におけるケイ素の濃度測定結果を示すグラフ。 凝固割れの要因成分と割れ感受性との関係を示すグラフ。 本発明の他の実施形態におけるアルミニウム接合体を示す図であって、(a)は下面側から見た斜視図、(b)は要部断面図。 (a)及び(b)は同実施形態におけるアルミニウム接合体の接合前の状態を下面側から見た斜視図。 本発明の他の実施形態におけるアルミニウム接合体を示す図であって、(a)は下面側から見た斜視図、(b)は要部断面図。 (a)及び(b)は同実施形態におけるアルミニウム接合体の接合前の状態を下面側から見た斜視図。
以下、本発明の一実施形態にかかるアルミニウム接合体(以下、単に接合体と称する。)について図1~図12を参酌しつつ説明する。本実施形態の接合体の要部の斜視図を図1(a)に、また、接合体の要部の平面図を図1(b)に示している。また、接合体の要部の断面図を図2に示している。接合体は、第一部材1と第二部材2を備えている。第一部材1は、アルミニウム展伸材である。第一部材1の形状は任意であるが、例えば板状である。アルミニウム展伸材は、例えば5000番系や6000番系である。第二部材2は、アルミニウムダイカスト材である。アルミニウムダイカスト材は、例えばADC12である。第二部材2の形状は任意である。
第一部材1と第二部材2は互いにレーザ溶接により接合されている。接合体は、第一部材1と第二部材2が溶接された溶接部を有している。溶接部には、溶接ビード12が形成される。図1及び図2は、溶接部の近傍を示している。本実施形態の溶接部は、第一部材1と第二部材2が重ねられて溶接された重ね隅肉溶接部10である。重ね隅肉溶接部10には、第一部材1の端部1aが位置していてもよいし、第二部材2の端部が位置していてもよい。本実施形態では、第一部材1の端部1aが重ね隅肉溶接部10に位置している。重ね隅肉溶接部10は、第二部材2を貫通していない。
図1及び図2に、第一部材1の端部1aの延伸方向を符号Xで示し、第一部材1側から見た平面視において延伸方向Xと直交する直交方向を符号Yで示している。また、第一部材1と第二部材2の重なり方向を符号Zで示している。重なり方向Zは、第一部材1と第二部材2の重ね合わせ面11に対する法線方向である。重なり方向Zは、例えば第一部材1が板状である場合には第一部材1の板厚方向である。重ね隅肉溶接部10は、第一部材1の端部1aに沿って形成されている。即ち、重ね隅肉溶接部10は、延伸方向Xに沿って形成されている。
第一部材1及び第二部材2は、それぞれ、アルミニウムと、アルミニウム以外の複数の合金成分を有している。アルミニウム以外の合金成分には、凝固割れの要因となる要因成分が一つあるいは複数含まれる。凝固割れの要因となる要因成分を、以下、単に要因成分と称する。要因成分は、例えば、ケイ素(Si)やマグネシウム(Mg)である。重ね隅肉溶接部10の溶接ビード12における要因成分の濃度は、割れ感受性のピーク濃度値から外れている。特に、溶接ビード12における要因成分の濃度は、割れ感受性のピーク濃度値に対して高い方に外れている。図12に、アルミニウム合金における要因成分の濃度と割れ感受性の関係をグラフで示している。割れ感受性は、ピーク濃度値(Cm)において急峻に高くなり、ピーク濃度値から外れると急激に低下する。ケイ素の場合、ピーク濃度値は0.6~0.8%である。マグネシウムの場合、ピーク濃度値は1~2%である。溶接ビード12における要因成分の濃度がピーク濃度値から外れていると、要因成分に対する割れ感受性が急激に低下し、凝固割れの発生が防止されて、溶接品質が向上する。特に、溶接ビード12における要因成分の濃度がピーク濃度値から高い方に1%以上外れていると、割れ感受性が大きく低下し、更に、溶接ビード12における要因成分の濃度がピーク濃度値から高い方に2%以上外れていると、割れ感受性が非常に小さくなって、凝固割れの発生が確実に防止される。尚、溶接ビード12の要因成分の濃度は、溶接ビード12における平均値とする。
また、溶接ビード12における要因成分の濃度は、第一部材1の要因成分の濃度よりも高いことが好ましい。溶接ビード12における要因成分の濃度は、第二部材2の要因成分の濃度よりも低いことが好ましい。溶接ビード12の全体に要因成分が分散していることが好ましい。というのも、凝固割れが生じるのは、要因成分が凝固の際、結晶粒界にある濃度を持って偏析しながら凝固するのが原因であると考えられているからである。
要因成分がケイ素である場合について説明する。溶接ビード12のケイ素の濃度は、ピーク濃度値(0.6~0.8%)から低い方に外れているか、あるいは、ピーク濃度値(0.6~0.8%)から高い方に外れている。好ましくは、溶接ビード12のケイ素の濃度は、ピーク濃度値から高い方に外れている。溶接ビード12のケイ素の濃度は、2%以上であることが好ましい。特に、溶接ビード12のケイ素の濃度は、3%以上であることが好ましい。
第二部材2のケイ素の濃度は、7.0%から13.5%とすることが望ましい。第二部材2のケイ素の濃度が7.0%未満であると溶接中に第二部材2から溶接ビード12へのケイ素の拡散に時間がかかり、第一部材1への成分移動がうまく働かない。また第二部材2のケイ素の濃度が13.5%を越えると、凝固後の材料の加工性が低下し部品への応用が困難となる。
第一部材1のケイ素の濃度は、第二部材2のケイ素の濃度よりも低い。例えば、第一部材1がA5052であり、第二部材2がADC12である場合、第一部材1のケイ素の濃度は、0.25%程度であり、第二部材2のケイ素の濃度は、9.6~12%程度である。そして、溶接ビード12のケイ素の濃度は、第一部材1のケイ素の濃度よりも高く、第二部材2のケイ素の濃度よりも低い。また、溶接ビード12の全体にケイ素が分散していることが好ましい。溶接ビード12におけるケイ素の濃度のバラツキは、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
<レーザ溶接方法>
図3に溶接前の状態の第一部材1と第二部材2を示している。図3(a)に矢印Lで示しているように、第一部材1の端部1aに向けてレーザ光を照射して、第一部材1と第二部材2を溶接する。第一部材1の端部1aに向けてレーザ光を照射すると、溶接によって生じる溶融金属中のガスや不純物が大気に放出されやすい。そのため、良好な溶接品質が得られやすい。特に、第一部材1の端部1aのうち、重ね合わせ面11とは反対側の第一部材1の面の外縁に、レーザ光を照射することが好ましい。レーザ光は、重なり方向Zに対して、直交方向の第二部材2側に所定角度傾斜した方向から照射されることが好ましい。図3(a)のように第一部材1及び第二部材2を直交方向Yに沿って切断したときの断面視において、重なり方向Zに対するレーザ光の傾斜角度θは例えば30度である。
図4~図6に示すように、レーザ光を延伸方向Xの第一方向X1と第二方向X2のうち第一方向X1に移動させる。延伸方向Xの第一方向X1がレーザ光の進行方向である。第二方向X2は、第一方向X2とは反対の方向である。レーザ光を延伸方向Xの第一方向X1に移動させながら、第一部材1の端部1aと第二部材2を連続的に溶接していく。レーザ光を延伸方向Xの第一方向X1に移動させる際に、レーザ光を揺動させることが好ましい。例えば図示しないガルバノミラーを駆動することにより、レーザ光を揺動させることが好ましい。レーザ光の揺動の態様は必ずしもガルバノミラーを駆動する方法に限定せず、それ以外の種々の方法であってよい。レーザ光を直交方向Yに直線状に揺動させたり、レーザ光を円運動させたりすることが好ましい。
例えば、図4のように、レーザ光を円運動させながら延伸方向Xの第一方向X1に移動させることが好ましい。この場合、レーザ光は、螺旋を描きながら延伸方向Xの第一方向X1に移動していく。円運動の円の中心は、第一部材1の端部1aの上に位置させる。レーザ光の円運動の回転方向は何れであってもよい。レーザ光は、一回の円運動において第一部材1の端部1aを二回横断する。レーザ光は、一回目に、延伸方向Xの第一方向X1側において、第一部材1から第二部材2に向けて第一部材1の端部1aを横断する。続いて、レーザ光は、二回目に、延伸方向Xの第二方向X2側(進行方向とは反対側)において、第二部材2から第一部材1に向けて第一部材1の端部1aを横断する。但し、円運動の回転方向が図4の場合とは逆であってもよい。図5のように、円運動における延伸方向Xの第一方向X1側においてレーザ光が第二部材2から第一部材1に向けて第一部材1の端部1aを横断してもよい。また、図6のように、レーザ光の揺動は、円運動ではなく、直交方向Yに往復運動するものでもよい。即ち、レーザ光を直交方向Yに直線に揺動させてもよい。この場合、レーザ光は、第一部材1の端部1aを直交方向Yに対して傾斜した方向に横断する。尚、レーザ光を延伸方向Xの第一方向X1に移動させた後、更に、延伸方向Xの第二方向X2に向けて移動させてもよい。即ち、レーザ光の移動は、延伸方向Xの一方向のみであってもよいし、二方向であってもよく、繰り返しの往復動であってもよい。
図7及び図8に、重ね隅肉溶接部10近傍の拡大写真の一例を示している。日本電子株式会社製の走査電子顕微鏡JSM-6060Aを使用して撮影、測定した。第一部材1は、A5052であり、第二部材2は、ADC12である。レーザ光を第一部材1の端部1aに向けて照射して第一部材1と第二部材2とを溶接している。重ね隅肉溶接部10には、第一部材1の端部1aが位置する。図7に写っている多数の小さな点は、成分の分布を示すものである。この写真では、特に、ケイ素の分布を測定している。小さな点は溶接ビード12中に略均一に存在しており、このことから、ケイ素は溶接ビード12中に分散していることがわかる。図8が実際の重ね隅肉溶接部10の拡大写真である。図8に、溶接ビード12中のケイ素の分布を測定する際の測定ポイントを四角で示すと共にその下に測定ポイントの順番を数字で示している。合計九個のポイントのそれぞれにおいてケイ素の濃度を測定した。測定結果を図11に示している。
また、図9及び図10には他の例の拡大写真を示している。第一部材1と第二部材2は図7及び図8と同様である。但し、第二部材2の端部にレーザ光を照射して第一部材1と第二部材2を溶接している。重ね隅肉溶接部10には、第二部材2の端部が位置する。図10に、図8と同様に、溶接ビード12中の測定ポイントを示している。測定結果を図11に示している。
図11の横軸は、図8及び図10の測定ポイントである。図11において、四角のマークでプロットしているもの(上:展伸材)は、図7及び図8の測定結果である。第一部材1の端部1aにレーザ光を照射した場合、溶接ビード12中のケイ素の濃度は、約3~4%の範囲に推移している。溶接ビード12中のケイ素の濃度は、3%以上となっていて、ピーク濃度値(0.6~0.8%)を大きく上回っており、ピーク濃度値よりも2%以上高くなっている。凝固割れは発生しておらず、溶接状態は良好である。
上述のようにA5052のケイ素の濃度は、0.25%程度で、ADC12のケイ素の濃度は、9.6~12%程度である。溶接ビード12中のケイ素の濃度は、第一部材1であるA5052のケイ素の濃度よりも大きく、第二部材2であるADC12のケイ素の濃度よりも小さい。また、溶接ビード12中のケイ素の濃度のバラツキの範囲は約1%と小さい。溶接ビード12中にケイ素が偏り少なく分散された状態となっている。
同様に、図11において、丸形のマークでプロットしているもの(上:ダイカスト)は、図9及び図10の測定結果である。第二部材2の端部にレーザ光を照射した場合、溶接ビード12中のケイ素の濃度は、約7~9%の範囲に推移している。溶接ビード12中のケイ素の濃度は、7%以上となっていて、ピーク濃度値(0.6~0.8%)を大きく上回っており、ピーク濃度値に対して6%以上高くなっている。溶接ビード12中のケイ素の濃度は、第一部材1であるA5052のケイ素の濃度よりも大きく、第二部材2であるADC12のケイ素の濃度よりも小さい。溶接ビード12中のケイ素の濃度のバラツキの範囲は約2%と小さく、溶接ビード12中にケイ素が偏り少なく分散された状態となっている。凝固割れは発生しておらず、溶接状態は良好である。
以上のように、溶接ビード12のケイ素の濃度が、第一部材1のケイ素の濃度よりも高く、ピーク濃度値を大きく上回っているのは、第二部材2のケイ素が溶接ビード12に移行したためと考えられ、上述のようなレーザ溶接方法によって第二部材2のケイ素が溶接ビード12にスムーズに移行したためと考えられる。レーザ光を揺動させたり、第一部材1の端部1aや第二部材2の端部にレーザ光を重なり方向Zに対して傾斜した方向に照射したりすることによって、溶融金属内が効率良く攪拌されると考えられる。溶融金属内が効率良く攪拌されることによって、第二部材2のケイ素がスムーズに溶融金属内に移行し、溶接ビード12におけるケイ素の濃度が高まると考えられる。また、溶融金属内が効率良く攪拌されることによって、溶融金属内にケイ素が分散し、溶接ビード12のケイ素の濃度が均一化するものと考えられる。更に、重ね隅肉溶接部10に第二部材2の端部が位置している場合には、第二部材2の端部にレーザ光が照射されることによって、第二部材2のケイ素が溶接ビード12に移行しやすいと考えられる。
図13に本発明の他の実施形態における接合体としてのケースを下面(底面)側から示している。ケースには、各種の物品を収容することができる。ケースは、例えば上面が開口した有底のものである。ケースの形状は任意であるが、一例として平面視矩形のものを示している。ケースは、枠体20と、板材としての底板21とを備えている。図13に、ケースの接合前の状態を示している。枠体20は、第二部材であってアルミニウムダイカスト材である。枠体20は、筒状、具体的には角筒状であって、両端が開口している。即ち、枠体20は、上下方向を軸線方向とする筒状である。枠体20は、軸線方向の第一端部である上端部に第一開口部である上開口部を有し、軸線方向の第二端部である下端部に第二開口部である下開口部を有している。上端部には外側に向けて上フランジ30が設けられていてよい。下端部には内側に向けて下フランジ31が設けられていてよい。
底板21は、第一部材であって板状のアルミニウム展伸材である。底板21は、枠体20の下端部にレーザ光Lにより溶接されている。底板21は、枠体20の下フランジ31の下面(外面)に溶接されている。底板21は、枠体20の下開口部を覆って、下開口部を閉じている。但し、底板21は、枠体20の下開口部の全体を閉じていなくてもよく、枠体20の下開口部の一部が底板21によって閉じられずに開放されていてもよい。底板21の端部21aと枠体20の下フランジ31が溶接されて重ね隅肉溶接部22が形成される。底板21の端部21aの全周が枠体20に溶接されている。レーザ光Lは、底板21の端部21aに照射される。レーザ光Lは、ケースの外側から照射される。レーザ光Lは、底板21の端部21aに沿って移動する。レーザ光Lは、底板21の端部21aを周回する。重ね隅肉溶接部22は、底板21の端部21aの全周に形成される。尚、この実施形態では、底板21側からレーザ光Lを照射している。即ち、図13(b)に矢印Aで示すように、ケースの外側からレーザ光Lを底板21の端部21aに向けて照射している。そして、重ね隅肉溶接部22はケースの外面に形成されている。但し、逆に、枠体20側からレーザ光Lを照射してもよい。即ち、図13(b)に矢印Bで示すように、枠体20の内側からレーザ光Lを下フランジ31の端部31aに向けて照射してもよい。その場合、重ね隅肉溶接部22は、ケースの内面に形成される。
図15に本発明の他の実施形態における接合体としてのケースを下面(底面)側から示している。また、図16には、ケースの接合前の状態を示している。図13及び図14と同様の構成については説明を省略する。この実施形態の底板21は、枠体20の下フランジ31の上面(内面)に溶接されている。レーザ光Lは、下フランジ31の端部31aに照射される。レーザ光Lは、ケースの外側から照射される。レーザ光Lは、下フランジ31の端部31aに沿って移動する。レーザ光Lは、下フランジ31の端部31aを周回する。重ね隅肉溶接部22は、下フランジ31の端部31aの全周に形成される。尚、この実施形態では、下フランジ31側からレーザ光Lを照射している。即ち、即ち、図15(b)に矢印Cで示すように、ケースの外側からレーザ光Lを下フランジ31の端部31aに向けて照射している。そして、重ね隅肉溶接部22はケースの外面に形成されている。但し、逆に、枠体20側からレーザ光Lを照射してもよい。即ち、図15(b)に矢印Dで示すように、枠体20の内側からレーザ光Lを底板21の端部21aに向けて照射してもよい。その場合、重ね隅肉溶接部22は、ケースの内面に形成される。
尚、上記実施形態においては、重ね隅肉溶接であったが、これに限定されず、重ね合わせ溶接にも適用可能である。
1 第一部材
1a 端部
2 第二部材
10 重ね隅肉溶接部
11 重ね合わせ面
12 溶接ビード
20 枠体(第二部材)
21 底板(第一部材、板材)
21a 端部
22 重ね隅肉溶接部
30 上フランジ
31 下フランジ
31a 端部

Claims (8)

  1. アルミニウム展伸材である第一部材と、アルミニウムダイカスト材である第二部材とを備え、
    第一部材と第二部材が溶接された溶接部を有し、
    溶接部の溶接ビードは、凝固割れの要因となる少なくとも一つの要因成分を含み、
    溶接ビードにおける前記要因成分の濃度は、割れ感受性のピーク濃度値から外れている、アルミニウム接合体。
  2. 溶接ビードにおける前記要因成分の濃度は、割れ感受性のピーク濃度値に対して高い方に1%以上外れている、請求項1記載のアルミニウム接合体。
  3. 第一部材及び第二部材は前記要因成分を含み、
    第一部材における前記要因成分の濃度は、第二部材における前記要因成分の濃度よりも低く、
    溶接ビードにおける前記要因成分の濃度は、第一部材における前記要因成分の濃度よりも高い、請求項2記載のアルミニウム接合体。
  4. 溶接部は、第一部材と第二部材が重ねられて溶接された重ね隅肉溶接部である、請求項1乃至3の何れかに記載のアルミニウム接合体。
  5. 溶接ビードの全体に前記要因成分が均質に分散している、請求項1乃至4の何れかに記載のアルミニウム接合体。
  6. 前記要因成分は、ケイ素を含み、溶接ビードにおけるケイ素の濃度は、3%以上である、請求項1乃至5の何れかに記載のアルミニウム接合体。
  7. アルミニウム接合体は、ケースであり、ケースは、第二部材としての枠体と第一部材としての板材とを備え、板材は、枠体の開口部を覆うように枠体に溶接されている、請求項1乃至6の何れかに記載のアルミニウム接合体。
  8. 第二部材は、前記要因成分としてケイ素を含んでおり、第二部材におけるケイ素の濃度は、7.0%から13.5%である、請求項1記載のアルミニウム接合体。
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