JP2022035076A - ヌバック調人工皮革、及びヌバック調人工皮革用基材 - Google Patents

ヌバック調人工皮革、及びヌバック調人工皮革用基材 Download PDF

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和徳 川村
Kazunori Kawamura
尚大 和田
Naohiro Wada
航 宮腰
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Abstract

【課題】天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みと、優れた耐摩耗性とを兼ね備えたヌバック調人工皮革を提供する。【解決手段】繊維10どうしが樹脂20により結合された連続構造体30を表層部101に有し、厚み方向断面において連続構造体30における糸密度が1100~12600dtex/mm2であり、厚み方向断面の画像において連続構造体30から基準となる繊維10sを選択し、基準となる繊維10sの径方向断面の中心から半径R1が以下の式 基準となる繊維の直径 ≦ R1 ≦ 基準となる繊維の直径×1.6 の範囲にある仮想円C1を描画したとき、仮想円C1の内部に基準となる繊維10sとは別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上である。【選択図】図1

Description

本発明は、絡み合った繊維からなる不織布又は織編物の繊維を起毛した起毛布帛に樹脂を付与してなるシート状のヌバック調人工皮革、及びシート状のヌバック調人工皮革用基材に関する。
天然皮革は、独特の触感(「ぬめり感」と称される滑らかで柔らかさを伴ったしなやかな感触)や風合い(毛並み)を有するが、摩耗し易いという欠点がある。そこで、天然皮革では得られない優れた耐摩耗性を実現するために、ヌバック調人工皮革が注目されている。
ヌバック調人工皮革の製造方法として、一般に、溶剤系ポリウレタン樹脂を含浸させた繊維シートを凝固用の液体に浸漬して溶剤系ポリウレタン樹脂を凝固させる湿式法(例えば、特許文献1を参照)、及び水系ポリウレタン樹脂を含浸させた繊維シートを気相中で乾燥して水系ウレタン樹脂を固化させる乾式法(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
特許文献1には、繊維基材に溶剤系ポリウレタン樹脂であるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含浸し、これをジメチルホルムアミド水溶液に浸漬して、繊維基材中のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を凝固させ、温水中で洗浄後、乾燥させるヌバック調シート材の製造方法が記載されている。特許文献1によれば、ヌバック調シート材の裏面側にポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が染み出すことがないため、美観や風合いに優れたヌバック調シート材が得られるとされている。
特許文献2には、繊維基材に水系ポリウレタン樹脂であるW/O型ウレタン系樹脂を含浸し、これを加熱乾燥した後、エンボス加工及び起毛処理を施したヌバック調シート材の製造方法が記載されている。特許文献2によれば、起毛処理によってヌバック調シート材上に起毛領域と非起毛領域とが形成され、これにより天然皮革に近い触感や風合いを得ることができるとされている。
特開平7-42082号公報 特開平7-60885号公報
しかしながら、特許文献1に代表される湿式法や、特許文献2に代表される乾式法には、夫々次のような問題がある。特許文献1のヌバック調シート材は、溶剤系ポリウレタン樹脂から溶媒(ジメチルホルムアミド水溶液)が抜けた跡が空隙として形成される。すなわち、溶剤系ポリウレタン樹脂の内部に空隙が形成される。この空隙を有する構造により、天然皮革に近いぬめり感や毛並みが実現されるが、摩擦等によってヌバック調シート材の表層部の溶剤系ポリウレタン樹脂が摩耗すると、それとともに空隙が消失し、ぬめり感や毛並みが低下し易い。このように、特許文献1のヌバック調シート材は、内部に空隙が形成された溶剤系ポリウレタン樹脂が表層部に露出しているため摩耗し易く、十分な耐摩耗性を有するものではなかった。
特許文献2のヌバック調シート材は、繊維と水系ポリウレタン樹脂とが互いに補強するように機能するため、湿式法によるヌバック調人工皮革よりも耐摩耗性の点では優れている。ところが、特許文献2のヌバック調シート材は、繊維に対するW/O型ウレタン系樹脂の親和性が高いため、ヌバック調シート材の表層部にW/O型ウレタン系樹脂からなる皮膜を形成し易く、その結果、ぬめり感や毛並みを十分に引き出すことが難しかった。
このように、従来の技術においては、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを実現しながら、高い耐摩耗性をも備えたヌバック調人工皮革を得ることは困難であった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、天然皮革に近いぬめり感や毛並みと、優れた耐摩耗性とを兼ね備えたヌバック調人工皮革、及びそのヌバック調人工皮革の製造に適したヌバック調人工皮革用基材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための本発明にかかるヌバック調人工皮革の特徴構成は、
絡み合った繊維からなる不織布又は織編物の繊維を起毛した起毛布帛に樹脂を付与してなるシート状のヌバック調人工皮革であって、
前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体を表層部に有し、
厚み方向断面において、前記連続構造体における糸密度が1100~12600dtex/mmであり、
厚み方向断面の画像において、前記連続構造体から基準となる繊維を選択し、当該基準となる繊維の径方向断面の中心から半径R1が以下の式(1):
基準となる繊維の直径 ≦ R1 ≦ 基準となる繊維の直径×1.6 ・・・(1)
の範囲にある仮想円を描画したとき、当該仮想円の内部に前記基準となる繊維とは別の繊維の径方向断面の中心が存在する確率が60%以上であることにある。
本構成のヌバック調人工皮革によれば、繊維どうしが樹脂により結合された連続構造体を表層部に有することにより、天然皮革の構造と類似したものとなり、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを実現することができる。また、厚み方向断面において、連続構造体における糸密度が上記の範囲にあり、厚み方向断面の画像において、連続構造体から基準となる繊維を選択し、当該基準となる繊維の径方向断面の中心から半径R1が上記の式(1)の範囲にある仮想円を描画したとき、当該仮想円の内部に基準となる繊維とは別の繊維の径方向断面の中心が存在する確率が60%以上であることにより、連続構造体において狭い間隔で繊維が近接して存在する箇所が生じ、このような箇所では樹脂による繊維どうしの結合が強固なものとなる。この結果、ヌバック調人工皮革の表層部の強度が向上し、優れた耐摩耗性を有するものとなる。
本発明にかかるヌバック調人工皮革において、
前記連続構造体の厚みが10~500μmであり、前記連続構造体において前記繊維どうしが前記樹脂により結合されている区間の長さが100μm以上であることが好ましい。
本構成のヌバック調人工皮革によれば、連続構造体の厚み及び連続構造体において繊維どうしが樹脂により結合されている区間の長さが上記の適切な範囲にあることにより、天然皮革により近いヌバック調特有のぬめり感を有するものとなる。
本発明にかかるヌバック調人工皮革において、
前記繊維の直径が1.0~8.5μmであることが好ましい。
本構成のヌバック調人工皮革によれば、繊維の直径が上記の適切な範囲にあることにより、連続構造体の強度が向上し、より優れた耐摩耗性を有するものとなる。また、繊維の直径が上記の適切な範囲にあることにより、より良好な毛並みを実現することができる。
本発明にかかるヌバック調人工皮革において、
平均表面摩擦係数が0.10~0.20であることが好ましい。
本構成のヌバック調人工皮革によれば、平均表面摩擦係数が上記の適切な範囲にあることにより、表面の触感が向上し、より天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを有するものとなる。
本発明にかかるヌバック調人工皮革において、
表面粗さの平均偏差が0.7~1.4μmであることが好ましい。
本構成のヌバック調人工皮革によれば、表面粗さの平均偏差が上記の適切な範囲にあることにより、表面の触感が向上し、より天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを有するものとなる。
上記課題を解決するための本発明にかかるヌバック調人工皮革用基材の特徴構成は、
繊維が絡み合った不織布又は織編物の繊維を起毛した起毛布帛からなるシート状のヌバック調人工皮革用基材であって、
厚み方向断面において、表層部の糸密度が900~10700dtex/mmであり、
厚み方向断面の画像において、表層部から基準となる繊維を選択し、当該基準となる繊維の径方向断面の中心から半径R2が以下の式(2):
基準となる繊維の直径 ≦ R2 ≦ 基準となる繊維の直径×3 ・・・(2)
の範囲にある仮想円を描画したとき、当該仮想円の内部に前記基準となる繊維とは別の繊維の径方向断面の中心が存在する確率が60%以上であることにある。
本構成のヌバック調人工皮革用基材によれば、厚み方向断面において表層部の糸密度が上記の範囲にあり、厚み方向断面の画像において、表層部から基準となる繊維を選択し、当該基準となる繊維の径方向断面の中心から半径R2が上記の式(2)の範囲にある仮想円を描画したとき、当該仮想円の内部に前記基準となる繊維とは別の繊維の径方向断面の中心が存在する確率が60%以上であることにより、表層部において狭い間隔で繊維が近接して存在する箇所が生じ、このような箇所では、ヌバック調人工皮革の製造時に、含浸された樹脂が堰き止められ、繊維どうしが樹脂によって強固に結合される。そのため、本構成のヌバック調人工皮革用基材を用いて製造されたヌバック調人工皮革は、表層部が天然皮革と類似した構造となり、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを有するものとなる。また、本構成のヌバック調人工皮革用基材を用いて製造されたヌバック調人工皮革は、繊維どうしが樹脂によって強固に結合されている表層部により、天然皮革よりも高い強度が得られ、優れた耐摩耗性を有するものとなる。
図1は、本発明のヌバック調人工皮革の微視的な内部構造を模式的に示す断面図である。 図2は、本発明のヌバック調人工皮革用基材の微視的な内部構造を模式的に示す断面図である。 図3は、本発明のヌバック調人工皮革の製造方法の手順を表したフローチャートである。 図4は、本発明のヌバック調人工皮革用基材の断面を撮影したSEM画像である。 図5は、本発明のヌバック調人工皮革用基材を圧縮した後に撮影したSEM画像である。 図6は、本発明のヌバック調人工皮革の連続構造体の断面を撮影したSEM画像である。 図7は、製造時に圧縮工程を施さなかったヌバック調人工皮革の断面を撮影したSEM画像である。
近年の環境意識の高まりから、繊維業界では環境に優しい製造技術が望まれており、ヌバック調人工皮革においても、今後は溶剤を大量に使用する湿式法よりも、基本的に溶剤を使用しない乾式法に移行していくものと予想される。そこで、本発明では、ヌバック調人工皮革の製造方法として乾式法に着目し、特に、従来の乾式法において課題とされているぬめり感や毛並みの改善について鋭意検討を行った。以下、本発明のヌバック調人工皮革、及びヌバック調人工皮革用基材について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。なお、各図において、ヌバック調人工皮革の各構成要素は、実際の形状、サイズ、位置関係、縮尺等を厳密に再現したものではなく、説明容易化のため適宜誇張してある。
〔ヌバック調人工皮革〕
図1は、本発明のヌバック調人工皮革100の微視的な内部構造を模式的に示す断面図である。図1の左側には、ヌバック調人工皮革100の表層部101近傍における厚み方向断面を図示しており、右側には、表層部101近傍における4つの領域を、矢印100a~100dで示すように夫々拡大して図示している。ヌバック調人工皮革100は、絡み合った繊維10と、繊維10に付与された樹脂20とからなるシート状物であり、繊維10どうしの交絡部が樹脂20によって固着されることで、繊維10間の相対的な位置関係は実質的に固定されている。さらに、ヌバック調人工皮革100の表層部101では、繊維10の表面に樹脂20が適度に付着することにより、複数の繊維10どうしが樹脂20で結合された連続構造体30が形成されている。ヌバック調人工皮革100の厚みは、0.5~2mmであることが好ましい。ヌバック調人工皮革100の厚みが0.5mm未満である場合、ヌバック調特有のぬめり感や毛並みが現れ難くなり、紙のような質感になってしまう虞がある。ヌバック調人工皮革100の厚みが2mmを超える場合、産業資材としての加工性が悪化し、縫製が困難になる等の製造上の問題が発生する虞がある。
<繊維>
繊維10は、ヌバック調人工皮革100の基材である不織布又は起毛布帛を構成する繊維であり、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、ウレタン等の合成繊維、アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生繊維を使用することができる。なお、ヌバック調人工皮革100の基材については、後述の「ヌバック調人工皮革用基材」の項目で詳細に説明する。上記の各繊維は、単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせた混繊物として使用してもよい。繊維10として好ましい素材は、汎用性及び耐久性の観点からポリエステル、ナイロン、アクリル、及びレーヨンであり、より好ましい素材は、強度的に優れているポリエステルである。
本発明のヌバック調人工皮革100において、ヌバック調特有のぬめり感や毛並みと、耐摩耗性とをバランスよく実現するためには、繊維10のサイズを適切に選択又は設定することが効果的となる。繊維10の直径は、1.0~8.5μmであることが好ましい。単繊度としては、0.0001~0.7dtexであることが好ましい。直径が1.0μm未満の場合、耐摩耗性を十分に確保することが困難となる虞がある。直径が8.5μmを超える場合、ヌバック調特有のぬめり感や毛並みを実現することが困難となる虞がある。さらに、基材として不織布を用いる場合、ヌバック調人工皮革100の厚み方向の断面を顕微鏡で観察したとき、その顕微鏡画像から求められる繊維10の長さaと直径bとの比率a/b(いわゆる、アスペクト比)は、100~76000に設定されることが好ましく、100~50000がより好ましく、250~50000がさらに好ましい。上記比率a/bが100未満の場合、繊維10の繊維長が小さくなり過ぎるため、繊維10どうしの間で十分な数の交絡部を形成し難くなり、強度が低下して摩耗し易くなる。上記比率a/bが76000を超える場合、繊維10の繊維長が大きくなり過ぎるため、繊維10の交絡部が不均一となり、人工皮革に色ムラが生じたり、物性がばらついたりする虞がある。なお、使用する繊維10は、上記の各条件を満たすものであれば、サイズが異なる複数種の繊維を混合した混繊物であっても構わない。
<樹脂>
樹脂20には、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、及びアクリル樹脂を使用することができる。これらの樹脂うち、ポリウレタン樹脂が好ましく使用される。ポリウレタン樹脂は、主に、非水系ポリウレタン樹脂(溶剤系ポリウレタン樹脂)と水系ポリウレタン樹脂とに分類される。本発明のヌバック調人工皮革100は、乾式法での製造を想定しているため、好適には水系ポリウレタン樹脂が使用されるが、従来湿式法で使用されていた非水系ポリウレタン樹脂も使用可能である。なお、乾式法による本発明のヌバック調人工皮革100の製造方法については、後述の「ヌバック調人工皮革の製造方法」の項目で詳細に説明する。ポリウレタン樹脂としては、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらのポリウレタン樹脂は、単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせた混合物として使用してもよい。ポリウレタン樹脂として好ましいものは、耐摩耗性の観点からポリカーボネート系ポリウレタン樹脂である。ポリウレタン樹脂の硬化形態は、一液型、二液硬化型、湿気硬化型などが挙げられる。これらのうち、環境負荷が小さく、且つ作業負荷が小さいという観点から、水系の一液型が好適である。また、水系の一液型の分散タイプは、強制乳化型、及び自己乳化型が挙げられる。これらのうち、強制乳化型が好適である。なお、上記の各ポリウレタン樹脂には、触媒、架橋剤、平滑剤、ゲル化促進剤、充填剤、ワックス、耐光向上剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、難燃剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、吸水剤、タンパク質粉末、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、艶消し剤、触感向上剤、増粘剤などの各種添加剤を添加することも可能である。
<連続構造体>
連続構造体30は、ヌバック調人工皮革100の表層部101において、複数の繊維10どうしが樹脂20で結合されたものである。ヌバック調人工皮革100は、このような連続構造体30が形成されることで、天然皮革の構造と類似したものとなり、天然皮革に近いヌバック調特有の触感(ぬめり感)や風合い(毛並み)を実現することができる。また、ヌバック調人工皮革100は、表層部101の連続構造体30において繊維10が樹脂20によって補強されているため、天然皮革より強度が増しており、優れた耐摩耗性を示すものとなる。特に、ぬめり感、毛並み、耐摩耗性等といったヌバック調特有の諸特性は、連続構造体30における糸密度、及び繊維10の存在状態を適切に設定することで、良好に発現させることができる。
連続構造体30における糸密度は、1100~12600dtex/mmに設定される。糸密度は、ヌバック調人工皮革100の厚み方向の断面を電子顕微鏡(SEM)で撮影し、その撮影画像において単位面積(1mm)の連続構造体30の領域に断面が含まれる繊維10の数n(本/mm)を数え、繊維10の単繊度d(dtex)を用いて、以下の式(3):
糸密度(dtex/mm) = n×d ・・・(3)
により算出することができる。糸密度は、ヌバック調人工皮革100の製造時に基材の圧縮の程度を調節することにより、ある程度調節することができる。糸密度が上記の範囲にあるように設定された本発明のヌバック調人工皮革100は、連続構造体30によって天然皮革に引けを取らないヌバック調特有のぬめり感や毛並みが付与される。また、連続構造体30において狭い間隔で繊維10が近接して存在する箇所が生じ、このような箇所では樹脂20による繊維10どうしの結合が強固なものとなるため、ヌバック調人工皮革100の耐摩耗性が向上する。糸密度が1100dtex/mm未満である場合、連続構造体30内における繊維10の相対的な割合が小さくなるため、強度が低下して摩耗し易くなる。糸密度が12600dtex/mmを超える場合、弾力性が無くなってヌバック調特有のぬめり感や毛並みを十分に付与することが困難となる。
連続構造体30における繊維10の存在状態は、ヌバック調人工皮革100の厚み方向の断面をSEMで撮影し、その撮影画像において評価することができる。ここでは、連続構造体30における繊維10の存在状態の評価方法を、図1を用いて説明する。連続構造体30における繊維10の存在状態の評価では、先ず、撮影画像において、図1の左側の断面図に示すように、連続構造体30に評価領域(矢印100aによって拡大図を示す領域、矢印100bによって拡大図を示す領域、及び矢印100cによって拡大図を示す領域)を設定し、図1の右側の拡大図に示すように、各評価領域に含まれる繊維10から基準となる繊維10sを複数本選択する。また、連続構造体30が存在しない領域(矢印100dによって拡大図を示す領域)についても同様の作業を行う。なお、図1の右側に示す拡大図では、説明容易化のため樹脂20の図示を省略している。
次に、繊維10sの直径をd(μm)とし、繊維10sの夫々の径方向断面の中心から半径R1が以下の式(4):
d ≦ R1 ≦ d×1.6 ・・・(4)
の範囲にある仮想円C1を撮影画像に描画する。描画した仮想円C1の内部に繊維10sとは別の繊維10oの径方向断面の中心が存在するものを数え、評価領域毎に選択した繊維10sの数に対し、仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率を百分率(%)で算出する。ここで、繊維10の径方向断面の中心は、数学的に厳密な幾何中心である必要はなく、繊維10の断面形状が円形ではない場合は、例えば、繊維10の断面形状における重心や、繊維10の断面形状の長軸と短軸との交点等を、繊維10の径方向断面の中心として用いてもよい。図1に例示のヌバック調人工皮革100では、厚み方向において繊維10の存在状態に勾配があり、表層部101における連続構造体30の領域で繊維10の存在状態が密になり、表層部101より深い領域で繊維10の存在状態が粗になっているが、少なくとも連続構造体30では、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となるように、繊維10の存在状態が設定される。繊維10sの直径dが3.2~3.3μmである場合、半径R1は、3.2~5.3μmであることが好ましい。
例えば、図1では、矢印100aによって拡大図を示す連続構造体30の表面側の浅い領域では、選択した5本の繊維10sの全てにおいて、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在しており、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率は100%となっている。矢印100bによって拡大図を示す連続構造体30の中央の領域では、選択した5本の繊維10sのうち4本の繊維10sにおいて、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在しており、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率は80%となっている。矢印100cによって拡大図を示す連続構造体30の深い領域では、選択した5本の繊維10sのうち3本の繊維10sにおいて、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在しており、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率は60%となっている。
このように、連続構造体30において、半径R1の仮想円C1の内部に基準となる繊維10sとは別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となるように、連続構造体30における繊維10の存在状態が設定されることにより、連続構造体30内では狭い間隔で複数の繊維10が近接して存在することになり、樹脂20による繊維10どうしの結合が強固なものとなる。また、連続構造体30が形成されることで、優れた耐摩耗性が得られるとともに、天然皮革に引けを取らないヌバック調特有のぬめり感や毛並みが付与される。半径R1の仮想円C1の内部に基準となる繊維10sとは別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%未満である場合、連続構造体30内における繊維10の相対的な割合が小さくなるため、強度が低下して摩耗し易くなる。連続構造体30における繊維10の存在状態は、ヌバック調人工皮革100の製造時に基材の圧縮の程度を調節することにより、ある程度調節することができる。
なお、図1で矢印100dによって拡大図を示す領域では、選択した5本の繊維10sのうち2本の繊維10sにおいて、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在しており、半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率は40%となっているが、この領域は連続構造体30とは異なる領域であるため、ぬめり感、毛並み、耐摩耗性等といったヌバック調特有の諸特性の発現に影響を及ぼすものではない。
半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となる連続構造体30の厚みT1は、10~500μmであることが好ましい。連続構造体30の厚みT1が10~500μmであることにより、ヌバック調人工皮革100は、優れた耐摩耗性を有し、天然皮革により近いヌバック調特有のぬめり感を有するものとなる。連続構造体30の厚みT1が10μm未満である場合、弾力性が無くなってヌバック調特有のぬめり感や毛並みを十分に付与することが困難となる虞や、強度が低下して摩耗し易くなる虞がある。連続構造体30の厚みT1が500μmを超える場合、弾力性が無くなってヌバック調特有のぬめり感や毛並みを十分に付与することが困難となる虞がある。
半径R1の仮想円C1の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となる連続構造体30において繊維10どうしが樹脂20により結合されている区間の長さは、100μm以上であることが好ましい。連続構造体30において繊維10どうしが樹脂20により結合されている区間の長さは、ヌバック調人工皮革100の表面と平行な方向の断面をSEMで撮影し、その撮影画像において連続構造体30に含まれる繊維10を複数本選択し、選択した繊維10と隣接する他の繊維10との間に樹脂20が充填されている区間の長さを測定することで、その平均値として算出することができる。連続構造体30において繊維10どうしが樹脂20により結合されている区間の長さが100μm以上であることにより、ヌバック調人工皮革100は、優れた耐摩耗性を有し、天然皮革により近いヌバック調特有のぬめり感を有するものとなる。連続構造体30において繊維10どうしが樹脂20により結合されている区間の長さが100μm未満である場合、弾力性が無くなってヌバック調特有のぬめり感や毛並みを十分に付与することが困難となる虞や、強度が低下して摩耗し易くなる虞がある。
<平均表面摩擦係数>
一般に、人工皮革の表面の触感を示す指標として、平均表面摩擦係数(MIU)、及び表面粗さの平均偏差(SMD)が使用される。本発明のヌバック調人工皮革100は、MIUが0.10~0.20の範囲に設定されていることが好ましい。MIUが0.10~0.20の範囲にあることにより、ヌバック調人工皮革100の表面の触感が向上し、より天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを有するものとなる。MIUが0.10未満である場合、ヌバック調人工皮革100の触感が過剰に滑らかになり、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感が得られない虞がある。MIUが0.20を超える場合、ヌバック調特有のぬめり感が十分に現れず、ヌバック調人工皮革100の触感がざらついたものとなる虞がある。
<表面粗さの平均偏差>
本発明のヌバック調人工皮革100は、SMDが0.7~1.4μmの範囲に設定されていることが好ましい。SMDが0.7~1.4μmの範囲にあることにより、ヌバック調人工皮革100の表面の触感が向上し、より天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを有するものとなる。SMDが0.7μm未満である場合、ヌバック調人工皮革100の触感が過剰に滑らかになり、天然皮革に近い毛並みが得られない虞がある。SMDが1.4μmを超える場合、人工皮革としての滑らかさが損なわれる虞がある。なお、MIU、及びSMDがヌバック調人工皮革100の表面の触感に及ぼす影響は、夫々が完全に独立したものではない。そのため、ヌバック調人工皮革100は、MIUが0.10~0.20の範囲に設定され、且つ、SMDが0.7~1.4μmの範囲に設定されていることがより好ましい。
以上のように構成された本発明のヌバック調人工皮革100は、繊維10どうしが樹脂20により結合された連続構造体30を表層部101に有するものとなり、これは天然皮革と類似した構造となる。このため、本発明のヌバック調人工皮革100によれば、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを実現することができる。さらに、本発明のヌバック調人工皮革100は、連続構造体30に含まれる繊維10が樹脂20によって補強されているため、天然皮革よりも優れた耐摩耗性を実現することができる。
〔ヌバック調人工皮革用基材〕
本発明のヌバック調人工皮革用基材は、絡み合った繊維からなる不織布、又は織編物の繊維を起毛した起毛布帛である。図2は、本発明のヌバック調人工皮革用基材200の微視的な内部構造を模式的に示す断面図である。図2では、不織布として構成されたヌバック調人工皮革用基材200を図示している。図2の左側には、ヌバック調人工皮革用基材200の表層部201近傍の厚み方向断面を図示しており、右側には、表層部201近傍における2つの領域を、矢印200a、及び200bで示すように夫々拡大して図示している。不織布であるヌバック調人工皮革用基材200は、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法等の方法によりフリースと称される繊維10の集積層(ウェブと呼ばれる場合もある)を形成し、ニードルパンチ法等により繊維10どうしを絡み合わせることで作製される。ヌバック調人工皮革用基材200において繊維10どうしは絡み合っているが固着されておらず、繊維10間の相対的な位置関係は、ヌバック調人工皮革用基材200にエンボス加工等の圧縮加工を施すことによって変化させることができる。ヌバック調人工皮革用基材200の厚みは、0.5~3mmであることが好ましい。ヌバック調人工皮革用基材200の厚みが0.5mm未満である場合、ヌバック調人工皮革用基材200を用いて製造されるヌバック調人工皮革100にヌバック調特有のぬめり感や毛並みが現れ難くなり、紙のような質感になってしまう虞がある。ヌバック調人工皮革用基材200の厚みが3mmを超える場合、最終製品であるヌバック調人工皮革100の産業資材としての加工性が悪化し、縫製が困難になる等の製造上の問題が発生する虞がある。ヌバック調人工皮革用基材200の目付は、150~1000g/mであることが好ましい。ヌバック調人工皮革用基材200の目付が150g/m未満の場合、繊維10の間から樹脂20が抜け落ち易くなり、ヌバック調人工皮革100の製造時に、過剰なマイグレーションが生じる虞がある。また、ヌバック調人工皮革用基材200を用いて製造されるヌバック調人工皮革100において、十分な強度が得られない虞がある。ヌバック調人工皮革用基材200の目付が1000g/mを超える場合、ヌバック調人工皮革100の製造時に、繊維10の間に十分な量の樹脂20を含浸させて保持することが困難となる虞がある。ヌバック調人工皮革用基材200に用いる繊維10は、ヌバック調人工皮革100に使用するものと同様であり、ヌバック調人工皮革100に関して前述したように、素材、直径、単繊度、及びアスペクト比が夫々適切なものを用いることが好ましい。
ヌバック調人工皮革用基材200において、表層部201の糸密度、及び繊維10の存在状態を適切に設定することで、最終製品であるヌバック調人工皮革100に連続構造体30を適切に形成することができる。
<ヌバック調人工皮革用基材における糸密度>
ヌバック調人工皮革用基材200の表層部201における糸密度は、900~10700dtex/mmに設定される。表層部201における糸密度は、ヌバック調人工皮革用基材200の厚み方向の断面をSEMで撮影し、その撮影画像において表層部201の単位面積(1mm)の領域に断面が含まれる繊維10の数n(本/mm)を数え、繊維10の単繊度d(dtex)を用いて、前述の式(3)により算出することができる。表層部201における糸密度は、エンボス加工等による圧縮の程度を調節することにより、ある程度調節することができる。表層部201における糸密度が上記の範囲にあるように設定された本発明のヌバック調人工皮革用基材200では、表層部201において狭い間隔で繊維10が近接して存在するため、ヌバック調人工皮革用基材200に樹脂を含浸させると、多くの樹脂が表層部201に保持される。そのため、図1に示すように、本発明のヌバック調人工皮革用基材200を用いて製造されたヌバック調人工皮革100の表層部101には、繊維10どうしが樹脂20によって強固に結合された連続構造体30が形成される。また、人工皮革の製造工程においては基材が圧縮されるため、ヌバック調人工皮革用基材200の表層部201における糸密度が上記の範囲(900~10700dtex/mm)にあれば、このヌバック調人工皮革用基材200を用いて製造されたヌバック調人工皮革100では、連続構造体30における糸密度が、ヌバック調人工皮革100に関して前述した1100~12600dtex/mmを満たすものとなる。表層部201における糸密度が900dtex/mm未満である場合、ヌバック調人工皮革100の製造時に、繊維10の間から樹脂20が抜け落ちて過剰なマイグレーションが生じ、ヌバック調人工皮革100の表層部101に適切に連続構造体30を形成できない虞がある。表層部201における糸密度が10700dtex/mmを超える場合、繊維10の間に十分な量の樹脂20を含浸させて保持することが困難となり、ヌバック調人工皮革100の表層部101に適切に連続構造体30を形成できない虞がある。
<ヌバック調人工皮革用基材における繊維の存在状態>
ヌバック調人工皮革用基材200の表層部201における繊維10の存在状態は、ヌバック調人工皮革用基材200の厚み方向の断面をSEMで撮影し、その撮影画像において評価することができる。ここでは、表層部201における繊維10の存在状態の評価方法を、図2を用いて説明する。表層部201における繊維10の存在状態の評価では、先ず、撮影画像において、図2の左側の断面図に示すように、表層部201に評価領域(矢印200aによって拡大図を示す領域)を設定し、図2の右側の拡大図に示すように、各評価領域に含まれる繊維10から基準となる繊維10sを複数本選択する。
次に、繊維10sの直径をd(μm)とし、繊維10sの夫々の径方向断面の中心から半径R2が以下の式(5):
d ≦ R2 ≦ d×3 ・・・(5)
の範囲にある仮想円C2を撮影画像に描画する。描画した仮想円C2の内部に繊維10sとは別の繊維10oの径方向断面の中心が存在するものを数え、評価領域毎に選択した繊維10sの数に対し、仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率を百分率で算出する。図2に例示のヌバック調人工皮革用基材200では、繊維10の存在状態が均質であるが、厚み方向において繊維10の存在状態に勾配があってもよく、少なくとも表層部201では、半径R2の仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となるように、繊維10の存在状態が設定される。繊維10sの直径dが6.95μm以下である場合、半径R2は、20.9μm以下であることが好ましい。また、ヌバック調人工皮革100の製造時にヌバック調人工皮革用基材200に樹脂を付与する手法として、樹脂を含む樹脂溶液にヌバック調人工皮革用基材200を浸漬するパッド法や、樹脂溶液をスプレーコーター、グラビアコーター、リバースコーター、ドクターナイフコーター等を用いてヌバック調人工皮革用基材200に塗布するコーティング法等を実施し、ヌバック調人工皮革用基材200に樹脂を含浸させてから圧縮する、所謂、ディップニップ処理を実施しない場合、少なくとも表層部201では、半径R2の仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が80%以上となるように、繊維10の存在状態が設定されることが好ましい。
例えば、図2は、厚み方向断面において、繊維10の存在状態が均質な構成を例示しており、矢印200aによって拡大図を示す表層部201の領域、及び矢印200bによって拡大図を示す表層部201とは異なる領域の何れでも、選択した5本の繊維10sのうち3本の繊維10sにおいて、半径R2の仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在しており、半径R2の仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率は60%となっている。表層部201において、半径R2の仮想円C2の内部に基準となる繊維10sとは別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となるように、表層部201における繊維10の存在状態が設定されることにより、表層部201では狭い間隔で複数の繊維10が近接して存在することになり、ヌバック調人工皮革用基材200に樹脂を含浸させると、多くの樹脂が表層部201に保持される。そのため、図1に示すように、本発明のヌバック調人工皮革用基材200を用いて製造されたヌバック調人工皮革100の表層部101には、繊維10どうしが樹脂20によって強固に結合された連続構造体30が形成される。半径R2の仮想円C2の内部に基準となる繊維10sとは別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%未満である場合、ヌバック調人工皮革100の製造時に、繊維10の間から樹脂20が抜け落ちて過剰なマイグレーションが生じ、ヌバック調人工皮革100の表層部101に適切に連続構造体30を形成できない虞がある。表層部201における繊維10の存在状態は、エンボス加工等による圧縮の程度を調節することにより、ある程度調節することができる。
半径R2の仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となる表層部201の厚みT2は、24~625μmであることが好ましい。表層部201の厚みT2が24~625μmであることにより、最終製品であるヌバック調人工皮革100では適切な厚みの連続構造体30が形成され、優れた耐摩耗性を有し、天然皮革により近いヌバック調特有のぬめり感を有するものとなる。表層部201の厚みT2が24μm未満である場合、最終製品であるヌバック調人工皮革100に十分な厚みの連続構造体30が形成されず、ヌバック調特有のぬめり感や毛並みを十分に付与することが困難となる虞や、強度が低下して摩耗し易くなる虞がある。表層部201の厚みT2が625μmを超える場合、最終製品であるヌバック調人工皮革100に過剰な厚みの連続構造体30が形成され、弾力性が無くなってヌバック調特有のぬめり感や毛並みを十分に付与することが困難となる虞がある。
以上のように、不織布で構成された本発明のヌバック調人工皮革用基材200は、少なくとも表層部201において繊維10が狭い間隔で近接して存在するものとなるため、これを用いたヌバック調人工皮革100の製造時に、含浸された樹脂20が表層部201で堰き止められて、ヌバック調人工皮革100の表層部101に連続構造体30が形成される。このため、不織布で構成された本発明のヌバック調人工皮革用基材200を用いて製造されるヌバック調人工皮革100は、表層部101が天然皮革と類似した構造となり、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを有するものとなる。また、不織布で構成された本発明のヌバック調人工皮革用基材200を用いて製造されるヌバック調人工皮革100は、表層部101に連続構造体30を有することにより、天然皮革よりも高い強度が得られ、優れた耐摩耗性を有するものとなる。
本発明のヌバック調人工皮革用基材は、起毛布帛で構成する場合、布帛の表面に起毛処理を施すことで作製することができる。起毛布帛で構成されたヌバック調人工皮革用基材に用いる繊維は、ヌバック調人工皮革100に使用するものと同様であり、少なくとも起毛した繊維の直径、及び単繊度を、ヌバック調人工皮革100に関して前述した適切なサイズに設定することが好ましい。布帛には、例えば、トリコット、ダブルラッセル、丸編等の編物、平織、綾織、朱子織等の織物を使用することができる。起毛処理を行うにあたっては、例えば、針布やサンドペーパー(エメリー)を巻き付けたロール(針布起毛機、エメリー起毛機等)を使用することができる。ロールを用いた起毛処理は、例えば、布帛をロール回転方向に移動させながらロール表面に接触させるバフ加工により行われる。起毛布帛で構成された本発明のヌバック調人工皮革用基材では、起毛した繊維により表層部が形成される。この起毛した繊維からなる表層部は、不織布で構成されたヌバック調人工皮革用基材200に関して前述したものと同様に、糸密度が900~10700dtex/mmとなり、且つ繊維の存在状態が前述の「ヌバック調人工皮革用基材における繊維の存在状態」で説明したように、半径R2の仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となるように調整される。表層部における糸密度、及び繊維の存在状態は、例えば、起毛処理において使用する針布やサンドペーパーの種類、ロールの回転数、ロールへの布帛の接圧、ロールへの布帛の接触頻度等の諸条件を変更することや、起毛処理後にエンボス加工、及び熱プレス加工等の圧縮処理を施すことで調整することができる。
以上のように、起毛布帛で構成された本発明のヌバック調人工皮革用基材は、少なくとも起毛部である表層部において繊維が狭い間隔で近接して存在するものとなるため、これを用いたヌバック調人工皮革100の製造時に、含浸された樹脂20が表層部で堰き止められて、ヌバック調人工皮革100の表層部101に連続構造体30が形成される。このため、起毛布帛で構成された本発明のヌバック調人工皮革用基材を用いて製造されるヌバック調人工皮革100は、表層部101が天然皮革と類似した構造となり、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを有するものとなる。また、起毛布帛で構成された本発明のヌバック調人工皮革用基材を用いて製造されるヌバック調人工皮革100は、表層部101に連続構造体30を有することにより、天然皮革よりも高い強度が得られ、優れた耐摩耗性を有するものとなる。
〔ヌバック調人工皮革の製造方法〕
図3(a)は、本発明のヌバック調人工皮革の製造方法の手順を表したフローチャートである。各工程に付されている記号「S」は、ステップを意味する。本発明のヌバック調人工皮革は、本発明のヌバック調人工皮革用基材を用いて、以下に説明する付与工程(S1)、乾燥工程(S2)、及び仕上工程(S3)を実施することにより製造される。これらの工程のうち、付与工程(S1)及び乾燥工程(S2)では、表層部において繊維に付着した樹脂を固化させて連続構造体を形成することにより、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを実現するとともに、耐摩耗性に優れた人工皮革製品を得ることができる。また、仕上工程(S3)を実施することにより、最終製品としてのヌバック調人工皮革におけるぬめり感や毛並みをより向上させることができる。以下、各工程について説明する。
初めに、乾式法によりヌバック調人工皮革用基材に樹脂を含浸させる付与工程(S1)を実施する。付与工程は、図3(b)に示す手順、又は図3(c)に示す手順とすることができる。
図3(b)に示す手順では、圧縮工程(S11)の実施によりヌバック調人工皮革用基材を圧縮してから、含浸工程(S12)の実施によりヌバック調人工皮革用基材に樹脂を付与する。圧縮工程(S11)におけるヌバック調人工皮革用基材の圧縮では、例えば、エンボス加工、熱プレス加工、及びマングル加工等の圧縮加工をヌバック調人工皮革用基材に施すことにより、ヌバック調人工皮革用基材の表層部における糸密度、及び繊維の存在状態が、ヌバック調人工皮革100に関して前述した連続構造体30における糸密度、及び繊維の存在状態を満たすものに調整される。含浸工程(S12)におけるヌバック調人工皮革用基材への樹脂の付与は、樹脂を含む樹脂溶液に圧縮後のヌバック調人工皮革用基材を浸漬するパッド法、樹脂溶液をスプレーコーター、グラビアコーター、リバースコーター、ドクターナイフコーター等を用いて基材に塗布するコーティング法等により実施される。樹脂の含浸条件は、例えば、150~1000g/mの目付を有するヌバック調人工皮革用基材に、固形分換算で15~300g/mの樹脂が付与されるように設定される。
図3(c)に示す手順では、含浸工程(S21)の実施によりヌバック調人工皮革用基材に樹脂を付与してから、圧縮工程(S22)の実施によりヌバック調人工皮革用基材を圧縮する。この手順は、所謂、ディップニップ処理であり、圧縮工程(S22)におけるヌバック調人工皮革用基材の圧縮では、ヌバック調人工皮革用基材の表層部における糸密度、及び繊維の存在状態が、ヌバック調人工皮革100に関して前述した連続構造体30における糸密度、及び繊維の存在状態を満たすものに調整される。また、圧縮工程(S22)におけるヌバック調人工皮革用基材の圧縮後に、例えば、150~1000g/mの目付を有するヌバック調人工皮革用基材に、固形分換算で15~300g/mの樹脂が付与されるように設定される。
次に、樹脂を含浸させたヌバック調人工皮革用基材を乾燥させる乾燥工程(S2)を実施する。乾燥工程は、ピンテンター、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、オーブン等を用いた乾熱乾燥、高温スチーマー、高圧スチーマー等を用いた湿熱乾燥、赤外線を利用した乾燥、マイクロ波を利用した乾燥等の方法により実施される。これらのうち、乾熱乾燥及び湿熱乾燥は、ヌバック調人工皮革用基材の内部まで樹脂を確実に固化できる点で好ましい乾燥方法である。基材の乾燥条件は、乾燥温度が80~150℃、好ましくは100~130℃に設定される。乾燥温度が80℃未満の場合、樹脂の乾燥(硬化)が不十分となり、繊維の所定位置に樹脂を付与することが困難となる。乾燥温度が150℃を超える場合、最終製品であるヌバック調人工皮革のぬめり感が低下し、毛並みが粗硬となり易くなる。乾燥時間は50~1200秒間、好ましくは100~600秒間に設定される。乾燥時間が50秒未満の場合、樹脂の乾燥(硬化)が不十分となり、繊維の所定位置に樹脂を付与することが困難となる。乾燥時間が1200秒を超える場合、最終製品であるヌバック調人工皮革のぬめり感が低下し、毛並みが粗硬となり易くなる。
ここで、圧縮工程(S11)又は圧縮工程(S22)を事前に実施していることで、ヌバック調人工皮革用基材は繊維間の距離が適度に近接したものとなっているため、乾燥工程(S2)の実施中に、樹脂を含む樹脂溶液がヌバック調人工皮革用基材の表層部で堰き止められ、マイグレーションが抑制される。具体的には、ヌバック調人工皮革用基材が、表層部において糸密度が900~10700dtex/mmとなり、且つ繊維の存在状態が前述の「ヌバック調人工皮革用基材における繊維の存在状態」で説明したように、半径R2の仮想円C2の内部に別の繊維10oの径方向断面の中心が存在する確率が60%以上となるように圧縮されている場合、乾燥工程が完了したヌバック調人工皮革用基材は、表層部の繊維が樹脂で結合された連続構造体が形成された状態で硬化しており、そのままでもヌバック調人工皮革として使用できるものとなる。
最後に、ヌバック調人工皮革を仕上げる仕上工程(S3)を実施する。この仕上工程は、必要に応じて実施される任意の工程であり、ヌバック調人工皮革の表面を起毛する起毛処理や、乾燥により乱れた毛並みを整える整毛処理が含まれる。仕上工程を行うことにより、完成したヌバック調人工皮革は、その表面が適度な平均表面摩擦係数(MIU)と表面粗さの平均偏差(SMD)とを備えたものとなり、より天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みを実現することができる。ヌバック調人工皮革に起毛処理を行うにあたっては、例えば、針布やサンドペーパー(エメリー)を巻き付けたロール(針布起毛機、エメリー起毛機等)を使用することができる。ロールを用いた起毛処理は、ヌバック調人工皮革をロール回転方向(ヌバック調人工皮革の長手方向)に移動させながらロール表面に接触させることにより行われる。このとき、針布やサンドペーパーの種類、ロールの回転数、ロールへのヌバック調人工皮革の接圧、ロールへのヌバック調人工皮革の接触頻度等の諸条件を変更すると、ヌバック調人工皮革の起毛状態を調整することができる。
本発明のヌバック調人工皮革(実施例1~5)を作製し、平均表面摩擦係数(MIU)、及び表面粗さの平均偏差(SMD)の測定、並びに触感、外観、及び耐摩耗性の評価を実施した。また、比較のため、本発明の範囲外となるヌバック調人工皮革(比較例1)を作製し、同様の測定及び評価を実施した。図4は、圧縮前のヌバック調人工皮革用基材の断面を撮影したSEM画像であり、(a)は繊維と直交する断面、(b)は繊維と平行な断面、(c)繊維と45°で交差する断面を撮影している。図5は、ヌバック調人工皮革用基材をエンボス加工により圧縮した後に撮影したSEM画像であり、(a)は加工条件が100℃、200kgであり、(b)は加工条件が100℃、100kgである。図6は、ヌバック調人工皮革の連続構造体の断面を撮影したSEM画像であり、(a)は実施例1のヌバック調人工皮革であり、(b)は実施例2のヌバック調人工皮革であり、(c)は実施例3のヌバック調人工皮革であり、(d)は実施例4のヌバック調人工皮革であり、(e)は実施例5のヌバック調人工皮革である。図7は、製造時に圧縮工程を施さなかった比較例1のヌバック調人工皮革の断面を撮影したSEM画像である。
<実施例1>
ポリエステル繊維(直径:3.2μm、単繊度:0.11dtex)からなる厚みが1.5mmのヌバック調人工皮革用基材に、100℃、100kgの加工条件でエンボス加工を施した。圧縮後のヌバック調人工皮革用基材は、厚みが1.2mmとなり、図5(b)の画像のように、図4(a)の状態よりも繊維間の距離が近接したものとなった。図5(b)の状態のヌバック調人工皮革用基材に、ポリウレタン樹脂液をリバースコーターで含浸させた。ポリウレタン樹脂液は、水系ポリウレタン樹脂(SAD8・2(固形分40重量%)、強制乳化型、第一工業製薬株式会社製)25重量%、及び水75重量%を含有するものを使用した。ポリウレタン樹脂液の含浸後、130℃で600秒間に亘って高温スチーマーによる湿熱乾燥処理(熱処理)を施し、湿熱乾燥後に、バフ加工による起毛処理を施すことで実施例1のヌバック調人工皮革を得た。実施例1のヌバック調人工皮革には、図6(a)の画像のように、繊維どうしが樹脂により結合された連続構造体が形成された。
<実施例2>
エンボス加工での加工条件を100℃、200kgに変更した。圧縮後のヌバック調人工皮革用基材は、厚みが1.1mmとなり、図5(a)の画像のように、図5(b)の画像のものよりも繊維間の距離が近接したものとなった。その他は実施例1と同様の手順にて実施例2のヌバック調人工皮革を得た。実施例2のヌバック調人工皮革には、図6(b)の画像のように、エンボス加工での圧力が小さかった実施例1のヌバック調人工皮革(図6(a))よりも多くの繊維が樹脂により結合された連続構造体が形成された。
<実施例3>
実施例1で用いたものと同じヌバック調人工皮革用基材に、図4(a)の状態のままディップニップ処理によりポリウレタン樹脂液を含浸させた。その他は実施例1と同様の手順にて実施例3のヌバック調人工皮革を得た。実施例3のヌバック調人工皮革には、図6(c)の画像のように、繊維どうしが樹脂により結合された連続構造体が形成された。
<実施例4>
実施例1で用いたものと同じヌバック調人工皮革用基材に、実施例1と同じ加工条件でエンボス加工を施した。その他は実施例3と同様の手順にて実施例4のヌバック調人工皮革を得た。実施例4のヌバック調人工皮革には、図6(d)の画像のように、エンボス加工を施さなかった実施例3のヌバック調人工皮革(図6(c))よりも多くの繊維が樹脂により結合された連続構造体が形成された。
<実施例5>
実施例1で用いたものと同じヌバック調人工皮革用基材に、実施例2と同じ加工条件でエンボス加工を施した。その他は実施例3と同様の手順にて実施例5のヌバック調人工皮革を得た。実施例5のヌバック調人工皮革には、図6(e)の画像のように、エンボス加工での圧力が小さかった実施例4のヌバック調人工皮革(図6(d))よりも多くの繊維が樹脂により結合された連続構造体が形成された。
<比較例1>
実施例1で用いたものと同じヌバック調人工皮革用基材に、図4(a)の状態のままリバースコーターでポリウレタン樹脂液を含浸させた。その他は実施例1と同様の手順にて比較例1のヌバック調人工皮革を得た。比較例1のヌバック調人工皮革は、図7の画像のように、連続構造体が形成されなかった。
[触感]
天然皮革(本革ヌバック)を準備し、天然皮革における触感との比較により、ヌバック調人工皮革の触感を下記の基準に従って官能試験により評価した。
5:天然皮革と同等の柔軟な風合い及びぬめり感が認められる。
4:天然皮革と同等の柔軟な風合いが認められるが、ぬめり感がやや劣る。
3:天然皮革よりも風合いがやや粗硬になり、ぬめり感がやや劣る。
2:天然皮革よりも風合いがやや粗硬になり、ぬめり感が認められない。
1:天然皮革よりも風合いが粗硬になり、ぬめり感が認められない。
[外観]
天然皮革(本革ヌバック)における外観との比較により、ヌバック調人工皮革の外観を下記の基準に従って官能試験により評価した。
5:天然皮革に類似した産毛状繊維及び微細凹凸が認められる。
4:天然皮革に類似した産毛状繊維が認められるが、微細凹凸が認められない。
3:繊維が認められるが、荒れているように見える。
2:毛足の長い又はほとんど毛足がない伏毛が認められる。
1:天然皮革とは全く異なる毛並みが認められる。
[耐摩耗性]
ヌバック調人工皮革から、長手方向300mm、幅方向70mmの試料を採取し、当該試料の裏面に長さ300mm、幅70mm、厚さ10mmのウレタンフォームを添えて摩擦試験を実施した。摩擦試験は、平面摩擦試験機(T-type、株式会社大栄科学精器製作所製)を使用し、綿帆布で覆った摩擦子に対して試料を9.8Nの荷重で押さえ付け、その状態で摩擦子を試料表面の長手方向140mmの区間に亘って60往復/分の速さで往復移動させることにより試料を摩擦した。そして、摩擦子を2500往復させる毎に綿帆布を交換し、合計10000往復の摩擦を行った。摩擦試験後、試料の状態を目視により観察し、下記の基準に従ってヌバック調人工皮革の耐摩耗性を評価した。
3:表面の状態に変化なし。
2:表面の毛羽(繊維)に脱落が一部認められる。
1:表面の毛羽(繊維)がほとんど脱落している。
実施例1~5のヌバック調人工皮革、及び比較例1のヌバック調人工皮革の詳細、測定結果、並びに評価結果を下記の表1に示す。
Figure 2022035076000002
実施例1~5のヌバック調人工皮革は、何れもMIUが0.10~0.20の範囲にあり、SMDが0.7~1.4μmの範囲にあり、優れた触感及び外観を有するものであった。これらは、任意の繊維からの半径R1が上述の式(1)の範囲にある仮想円内に繊維が存在する確率が60%以上であり、糸密度が1100~12600dtex/mmの範囲にある連続構造体を表層部に有することで、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みが実現されたと考えられる。中でも、実施例2及び5のヌバック調人工皮革は、天然皮革と極めて類似した外観を示した。これは、実施例2及び5のヌバック調人工皮革では樹脂を含浸させる前に人工皮革用基材に100℃、200kgの加工条件でエンボス加工を施したことで、その後に含浸された樹脂が表層部において確実に堰き止められ、その結果、糸密度が5000dtex/mm以上であり、任意の繊維からの半径R1が上述の式(1)の範囲にある仮想円内に繊維が存在する確率が100%となる連続構造体が形成されたためと考えられる。また、実施例1~5のヌバック調人工皮革は、何れも優れた耐摩耗性を示した。これは、連続構造体を表層部に有することで、表層部の強度が向上したためと考えられる。
一方、連続構造体が形成されていない比較例1のヌバック調人工皮革は、MIUが0.21、SMDが1.85μmと何れも大きく、触感及び外観ともに天然皮革に類似するものではなかった。比較例1のヌバック調人工皮革の触感及び外観が劣ったものである理由は、表層部に連続構造体が形成されていないため、天然皮革に近いヌバック調特有のぬめり感や毛並みが実現されなかったことが原因であると考えられる。また、比較例1のヌバック調人工皮革は、耐摩耗性が試験後に毛羽がほとんど脱落する劣ったものであった。これは、連続構造体が形成されていないことで、表層部の強度が不足したためと考えられる。
本発明のヌバック調人工皮革、及びヌバック調人工皮革用基材は、自動車用シート、航空機用シート、船舶用シート、ソファー、家具、鞄、靴等の各種皮革製品に利用可能である。
10 繊維
10s 基準となる繊維
10o 別の繊維
20 樹脂
30 連続構造体
100 ヌバック調人工皮革
101 ヌバック調人工皮革の表層部
200 ヌバック調人工皮革用基材
201 ヌバック調人工皮革用基材の表層部
C1、C2 仮想円
R1、R2 仮想円の半径
T1 連続構造体の厚み

Claims (6)

  1. 絡み合った繊維からなる不織布又は織編物の繊維を起毛した起毛布帛に樹脂を付与してなるシート状のヌバック調人工皮革であって、
    前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体を表層部に有し、
    厚み方向断面において、前記連続構造体における糸密度が1100~12600dtex/mmであり、
    厚み方向断面の画像において、前記連続構造体から基準となる繊維を選択し、当該基準となる繊維の径方向断面の中心から半径R1が以下の式(1):
    基準となる繊維の直径 ≦ R1 ≦ 基準となる繊維の直径×1.6 ・・・(1)
    の範囲にある仮想円を描画したとき、当該仮想円の内部に前記基準となる繊維とは別の繊維の径方向断面の中心が存在する確率が60%以上であるヌバック調人工皮革。
  2. 前記連続構造体の厚みが10~500μmであり、前記連続構造体において前記繊維どうしが前記樹脂により結合されている区間の長さが100μm以上である請求項1に記載のヌバック調人工皮革。
  3. 前記繊維の直径が1.0~8.5μmである請求項1又は2に記載のヌバック調人工皮革。
  4. 平均表面摩擦係数が0.10~0.20である請求項1~3の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。
  5. 表面粗さの平均偏差が0.7~1.4μmである請求項1~4の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。
  6. 繊維が絡み合った不織布又は織編物の繊維を起毛した起毛布帛からなるシート状のヌバック調人工皮革用基材であって、
    厚み方向断面において、表層部の糸密度が900~10700dtex/mmであり、
    厚み方向断面の画像において、表層部から基準となる繊維を選択し、当該基準となる繊維の径方向断面の中心から半径R2が以下の式(2):
    基準となる繊維の直径 ≦ R2 ≦ 基準となる繊維の直径×3 ・・・(2)
    の範囲にある仮想円を描画したとき、当該仮想円の内部に前記基準となる繊維とは別の繊維の径方向断面の中心が存在する確率が60%以上であるヌバック調人工皮革用基材。
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