次に、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
本発明の人工皮革は、平均単繊維繊度が0.01〜0.50dtexの極細繊維からなる不織布と高分子弾性体からなる人工皮革であって、前記の高分子弾性体を10〜50質量%の割合で含み、前記人工皮革を表面方向に対して垂直に切断したときの断面において、前記の人工皮革の表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の表面方向の断面長あたりの数が、0.1〜2.5個/mmの人工皮革である。
本発明で用いられる極細繊維の平均単繊維繊度は、0.01〜0.50dtexであり、好ましくは0.04dtex〜0.30dtexであり、さらに好ましくは0.15dtex〜0.25dtexである。極細繊維の平均単繊維繊度がこの範囲であることによって、本革スエードに近い柔らかい触感を得るとともに、良好な発色性を実現することができる。平均単繊維繊度が0.01dtexよりも小さい場合、繊維の表面積割合が増大するため、繊維表面での乱反射が増加し発色が淡くなる。一方、平均単繊維繊度が0.50dtexよりも大きい場合、触感が硬くなり、本革調の柔軟性が得られない。
本発明で用いられる不織布を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステル、6−ナイロンや66−ナイロンなどのポリアミド、ポリアクリル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンおよび熱可塑性セルロースなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなる繊維を用いることができる。
中でも、強度、寸法安定性および耐光性の観点から、ポリエステル繊維を用いることが好ましい。また、不織布は、他の異なる素材の繊維が混合されて構成されることが可能である。
本発明で用いられる極細繊維の横断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型などの異形断面形状のものを採用することができる。
本発明の人工皮革は、高分子弾性体を含む人工皮革であって、高分子弾性体を10〜50質量%の割合で含むものである。高分子弾性体の含有割合は、15〜40%が好ましく、より好ましくは20〜30%である。高分子弾性体の含有割合を上記の範囲とすることによって、本革風の適度な弾力感と、均一な外観を両立することができる。高分子弾性体の含有割合が10質量%よりも少ない場合、本革のような弾力感を得ることが困難となり、ペーパーライク触感となる。一方、高分子弾性体の含有割合が50質量%よりも多い場合には、弾力感がゴムライクとなるほか、人工皮革表面に露出する高分子弾性体の量が増加するため、均一な外観を得にくくなる。
本発明の人工皮革において用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマーおよびスチレン・ブタジエンエラストマーなどを用いることができるが、柔軟性とクッション性の観点からポリウレタンが好ましく用いられる。
本発明で用いられるポリウレタンとしては、例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、あるいはポリエステルポリエーテルジオール等のポリマージオール等から選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系、イソホロンジイソシアネート等の脂環族系およびヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系のジイソシアネート等から選ばれた少なくとも1種類のジイソシアネートと、エチレングリコール、ブタンジオール、エチレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の2個以上の活性水素原子を有する少なくとも1種類の低分子化合物を、所定のモル比で反応させて得られたポリウレタンおよびその変性物が挙げられる。
ポリウレタンの質量平均分子量は、好ましくは50,000〜300,000である。質量平均分子量を50,000以上、より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは150,000以上とすることにより、人工皮革の強度を保持し、また複合繊維の脱落を防ぐことができる。また、質量平均分子量を300,000以下、より好ましくは250,000以下とすることにより、ポリウレタン溶液の粘度の増大を抑えて不織布への含浸を行いやすくすることができる。
また、高分子弾性体には、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂およびエチレン−酢酸ビニル樹脂などを含有させることができる。
また、本発明で用いられる高分子弾性体には、必要に応じてカーボンブラック等の顔料、染料酸化防止剤、酸化防止剤、耐光剤、帯電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤、難燃剤、抗菌剤および防臭剤などの添加剤が配合させることができる。
また、高分子弾性体は、有機溶剤中に溶解していても、水中に分散していてもどちらも使用することができる。
本発明の人工皮革は、人工皮革を表面方向に対して垂直に切断したときの断面において、人工皮革の立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の表面方向の断面長あたりの数が、0.1〜2.5個/mmの人工皮革である。
ここで、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の数は、人工皮革を表面方向に対して垂直に切断したときの断面を電子顕微鏡によって観察し計測することによって得られる値を使用する。断面内で連続して存在する高分子弾性体を1個としてカウントし、観察断面以外の場所で連続していても、断面内で分割されているものは分けてカウントする。また、ここで人工皮革の立毛部を除く表面から厚み方向200μmとは、人工皮革の立毛部を除いた、不織布の最表面から内側200μmまでの区間を指す。
厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の表面方向の断面長あたりの数が、上記の範囲内にあることによって、均一な外観と本革風の弾力感および耐久性を達成することができる。
図1は、本発明の人工皮革の構造を例示説明するための模式断面図である。図1において、本発明の人工皮革は、極細繊維(A)の不織布に高分子弾性体が含浸されており、好ましくは表面に極細繊維からなる立毛(C)を有する。ここで、高分子弾性体の塊(B)の数を計測する厚み方向の範囲は、立毛部を除く表面から200μm以内の領域(D)である。また、表面方向の範囲は、断面長(F)に相当する。
本発明者らは、高分子弾性体を含む人工皮革において、極細繊維と高分子弾性体との肉眼で判別できる色調差は、高分子弾性体が一定以上のサイズを有することによって生じるものであることを見出した。このようなサイズの大きい高分子弾性体は、極細繊維からなる繊維不織布に高分子弾性体を含浸し凝固させる過程で、人工皮革の前駆体である不織布内部もしくは表面近傍に生じるものである。
その後の半裁工程や、起毛工程によって表面に露出し、これが外観上の欠点となる。この過程では、厚み方向に一定以上のサイズを有する高分子弾性体が、表面に露出する可能性が高い。そこで、本発明においては、100μm以上のサイズを有する高分子弾性体の量を、所定の範囲内とすることにより、表面への露出を抑制し、均一な表面外観を達成するものである。
厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の数が、2.5個/mmよりも多い場合、表面に露出した高分子弾性体が外観の均一性を損ねる。また、高分子弾性体の塊の数が、0.1個よりも少ない場合には、高分子弾性体が極細繊維をバインドする効果が十分に得られないため、摩擦による毛羽落ち等を生じやすく、また本革調の弾力感のある触感が達成できない。
人工皮革の立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の表面方向の断面長あたりの数のより好ましい範囲は0.1〜2.0個/mmであり、さらに好ましくは0.1〜1.0個/mmである。
また、本発明の人工皮革においては、人工皮革表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の単位面積あたりの数は、2.0個/mm2以下であることが好ましい。
ここで、単位表面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の存在頻度は、人工皮革表面を電子顕微鏡で観察することによって計測する。長径250μm以上のサイズを有する高分子弾性体の存在頻度が上記の値の範囲内であることによって、本発明の人工皮革はより均一な表面外観を得られる。
単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の数が2.0個/mm2を上回った場合は、高分子弾性体と極細繊維の色調差に由来する外観不良の原因となる。人工皮革表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の単位面積あたりの数のより好ましい範囲は、1.5個以下であり、さらに好ましくは1.0個以下である。
本発明の人工皮革を構成する極細繊維からなる不織布は、極細繊維の束(極細繊維束)が絡合してなる構造を有するものであることが好ましい態様である。このような構造は、天然皮革に似た構造であり、極細繊維が独立して絡合した構造に比べて、より本革のスエードに近い触感を得ることができる。また、極細繊維が束の状態で絡合していることによって、人工皮革の強度が向上する。このような態様の極細繊維不織布は、極細繊維発現型繊維同士をあらかじめ絡合させた後に、極細繊維を発現させることによって得ることができる。
本発明の人工皮革は、表面に極細繊維からなる立毛を有することが好ましい態様である。極細繊維の立毛によって、本革スエード調の触感を得ることができる。また、立毛層の厚みは、100μm〜400μmの間であることが好ましく、より好ましくは150μm〜350μmであり、さらに好ましくは200μm〜300μmである。立毛層の厚みが100μm未満である場合、スエード調の柔軟なタッチが得られない場合があるほか、表面への高分子弾性体の露出部が増加し、外観不良を生じる場合がある。また、立毛層の厚さが400μmよりも大きい場合は、表面の立毛同士の絡み合いによって毛玉が発生したり、毛羽の抜け落ちが生じる場合がある。ここで、立毛層の厚みとは、乾燥状態の人工皮革について、立毛を寝かせた状態で表面方向に垂直に切断した断面を電子顕微鏡で観察したとき、極細繊維絡合体からなる不織布部の最上面から立毛部の最上部までの距離を指し、図1における立毛層の厚み(E)に相当する。
本発明の人工皮革は、不織布に積層させて補強用織編物を有することが好ましい態様である。補強用織編物は、人工皮革の立毛面の反対側の面近傍に存在させることが、品位面から好ましい態様である。補強用織編物を備えることによって、本発明の人工皮革は、より実用上好ましい強度を得ることができる。補強用織編物は、極細繊維不織布と絡合一体化されていることが好ましい。
補強用織編物の構成は、不織布との一体化工程においてニードルパンチ工程を適用する場合、針によって織編物を構成する糸が損傷することを避けるため、撚糸から構成される織編物を使用することが好ましい。
補強用織編物を構成する糸条は、撚数が500T/m未満では、糸条を構成する単繊維同士の絞まりが不十分であるため、ニードルに引っかかり損傷しやすい。また、撚数が多すぎても撚糸が硬くなりすぎ、製品風合柔軟化の点から好ましくない。そのため、撚糸の撚数は、500T/m以上4500T/m以下であることが好ましく、より好ましくは1000T/m以上4000T/m以下であり、さらに好ましくは1500T/m以上4000T/m以下であり、最も好ましくは2000T/m以上4000T/m以下である。
本発明で用いられる補強用織編物は、上記の撚数の撚糸(強撚糸)を少なくとも一部に用いたものが好ましく、特に好ましくは、高強力を発現する観点からすべてに強撚糸を使用したものである。
また、補強用織編物を構成する糸条の繊度(マルチフィラメントの場合は総繊度)は、200dtex以上では織編物の目付が大きくなり、そのため人工皮革の目付が大きくなりすぎ、それによって織編物の剛性が高くなるため、人工皮革として満足するほどの柔軟性を得ることが困難となる場合がある。補強用織編物を構成する糸条の繊度は、剛性および目付等の観点から、好ましくは30dtex以上150dtex以下であり、より好ましくは50dtex以上130dtex以下である。
また、本発明で用いられる補強用織編物を構成する糸条の平均単繊維繊度は、好ましくは1dtex以上10dtex以下であるが、0.001dtex以上1dtex以下の単繊維繊度の極細繊維を用いることもできる。
補強用織編物を構成する糸条は、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらの共重合体類などからなる合成繊維が好適に用いられる。中でも、ポリエステル、ポリアミドおよびそれらの共重合体類からなる合成繊維を単独でまたは複合もしくは混合して用いることができる。
また、補強用織編物を構成する糸条の形態としては、フィラメントヤーン、紡績糸およびフィラメントと短繊維の混紡糸などを用いることができる。
本発明で用いられる織物としては、平織、綾織、朱子織およびそれらの織組織を基本とした各種織物などが挙げられる。また、編物としては、経編、トリコット編みで代表される緯編、レース編みおよびそれらの編組織を基本とした各種編物のいずれも採用することができる。それらの中でも、加工性の観点から織物が好ましく、特にコストの面で平織織物が好ましく用いられる。また、織物の織密度は、糸条の総繊度や後述する不織布と織編物を絡合させる設備や条件により、適宜設定することができる。
本発明では、このような織編物に、必要に応じて水溶性樹脂を付与することができる。
次に、本発明の人工皮革を製造する方法について説明する。
本発明の人工皮革の製造方法は、極細繊維発生型繊維を紡糸する工程を含むことが好ましい。ここで、極細繊維発生型繊維としては、溶剤等への溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分に用い、後工程で、海成分を溶剤等により溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分以上の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。
これらの複合繊維としては2成分からなる複合繊維はもちろん、3成分以上の成分からなる複合繊維も用いることができる。中でも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、人工皮革の柔軟性や風合いを改善し、外観をより均一化する効果が得られることから、特に好ましく用いられる。
また、海島型繊維の場合は、海島型複合用口金を用い海成分と島成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがあるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られ人工皮革の強度にも資する点から、海島型複合繊維が特に好ましく用いられる。
海島型複合繊維を採用する場合、海成分を構成するポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、ポリ乳酸、およびポリビニルアルコールなどを用いることができる。
島成分を構成する成分としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステル、6−ナイロンや66−ナイロンなどのポリアミド、ポリアクリル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンおよび熱可塑性セルロースなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。中でも繊維としたときの、強度、寸法安定性および耐光性の点から、ポリエステル繊維が好ましく用いられる。
極細繊維発生型繊維として海島複合型複合繊維を採用する場合、複海島複合型合繊維に対して島成分の占める質量割合は30〜90%であることが好ましい。島成分が30質量%未満では、海溶解による極細繊維発生処理によって大多数の成分が失われるため、生産性の観点から不利になる場合があるほか、海成分の溶出後に生成する不織布中の空隙が大きくなり、高分子弾性体の塊が肥大化する場合がある。また、島成分の割合が90質量%を超えると、脱海後も極細繊維の束が分散せず、元の複合繊維の形態を維持する傾向にあり、不織布中の空隙サイズが大きくなることから、同様に高分子弾性体の塊が肥大化する場合がある。これら肥大化した高分子弾性体は、人工皮革表面に露出したときに外観不良の原因となる場合がある。
本発明の人工皮革の製造方法は、上記の極細繊維発生型繊維を不織布化する工程を含むことが好ましい。ここで、不織布化の方法としては、繊維ウェブをニードルパンチやウォータジェットパンチにより絡合させる方法、スパンボンド法、メルトブロー法および抄紙法などを採用することができ、中でも、前述のような極細繊維束の態様とする上で、ニードルパンチやウォータジェットパンチなどの処理を経る方法が好ましい。
また、不織布化の方法として、ニードルパンチやウォータジェットパンチによる絡合法を採用する場合には、極細繊維発生型繊維を長繊維のまま使用し長繊維不織布としてもよく、繊維を任意の長さにカットした上で、単繊維不織布として用いることもできる。風合いや品位を重視する場合には、短繊維不織布が好ましく用いられる。
短繊維不織布とする場合の極細繊維の繊維長は、25mm以上90mm以下であることが好ましい。極細繊維の繊維長を90mm以下とすることにより、良好な品位および風合いとなり、また繊維長を25mm以上とすることにより、耐摩耗性が良好な人工皮革とすることができる。
本発明で用いられる不織布には、前述のように補強用織編物を積層一体化させることができる。補強用織編物との一体化により、人工皮革としたときの強度を向上させることができる。補強用織編物を不織布と一体化させる方法としては、ニードルパンチやウォータジェットパンチ等により一体化する方法が好ましく用いられる。また、不織布と補強用織編物を積層一体化させる場合には、不織布を2枚の補強用織編物で挟むようにして積層一体化する方法が、生産性を高める観点から好ましい態様である。
ニードルパンチ処理に用いられるニードルにおいて、ニードルバーブ(切りかき)の数は好ましくは1〜9本である。ニードルバーブを1本以上とすることにより、効率的な繊維の絡合が可能となる。一方、ニードルバーブを9本以下とすることにより、繊維損傷を抑えることができる。
ニードルバーブに引っかかる極細繊維発生型繊維等の複合繊維の本数は、ニードルバーブの形状と複合繊維の直径によって決定される。そのため、ニードルパンチ工程で用いられる針のニードルバーブ形状は、キックアップが0〜50μm、アンダーカットアングルが0〜40°、スロートデプスが40〜80μm、およびスロートレングスが0.5〜1.0mmの針が好ましく用いられる。
ニードルパンチ工程におけるパンチング本数は、1000〜8000本/cm2であることが好ましい。パンチング本数を1000本/cm2以上とすることにより、緻密性が得られ高精度の仕上げを得ることができる。一方、パンチング本数を8000本/cm2以下とすることにより、加工性の悪化、繊維損傷および強度低下を防ぐことができる。
また、補強用織編物と極細繊維発生型繊維不織布を積層一体化する場合、積層時のニードルパンチのニードルのバーブ方向は、シートの進行方向に対して直行する90±15°とすることにより、損傷しやすい緯糸を引掛けにくくなる。
また、ウォータジェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、直径0.05〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで水を噴出させることが好ましい。
ニードルパンチ処理あるいはウォータジェットパンチ処理後の複合繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.15〜0.45g/cm3であることが好ましい。見掛け密度を0.15g/cm3以上とすることにより、人工皮革が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を0.45g/cm3以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
本発明の人工皮革の製造方法のより好ましい態様においては、このような上記の方法によって得られた極細繊維発生型繊維からなる不織布を、乾熱、湿熱もしくは薬剤処理等の方法、またはそれらの組合せによって収縮させる工程を含むものである。この工程によって不織布が緻密化し、人工皮革としたときの品位を一層向上させることができる。
本発明の人工皮革の製造方法は、極細繊維発生型繊維からなる不織布に対して、極細繊維を発生させる処理を行う工程を含むものである。極細繊維を発生させる工程としては、極細繊維発生型繊維が海島型複合繊維である場合には、海成分を溶剤等により溶解除去する方法をとることができ、また極細繊維発生型繊維が剥離型複合繊維である場合には、複合繊維を物理的または化学的作用により剥離し分割させる処理をとることができる。
中でも、極細繊維発生型繊維として海島型複合繊維を採用する場合の海成分を溶解する溶液もしくは溶剤としては、海成分がポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いることができる。また、海成分がポリエチレン等のポリオレフィンやポリスチレンの場合は、トルエンやトリクロロエチレン等の有機溶媒が用いることができる。この極細繊維発生処理(脱海処理)は、溶剤中に極細繊維発生型繊維からなる不織布を浸漬し、窄液することによって行うことができる。
海成分の溶解にアルカリ水溶液を使用する場合は、アルカリ水溶液を不織布に含浸させた状態で、スチーム等で加熱することにより海成分を溶解させることによって行うことができる。また、海成分の溶解にアルカリ水溶駅を使用する場合は、安全面や減量速度の面からアルカリ水溶液の温度が10〜97℃であることが好ましく、より好ましくは40〜97℃である。
本発明の人工皮革の製造方法においては、極細繊維発生型繊維から極細繊維を発現させた工程と、後述の高分子弾性体を付与する工程の間に、極細繊維を分散させる処理を施す工程を含むことが重要である。この処理を導入することによって、本発明の人工皮革は、表面への高分子弾性体の露出が少なく、均一な外観を有することができる。極細繊維発生型繊維から生じた極細繊維は、極細繊維発現処理後も、もとの複合繊維の形態をある程度保持しており、繊維束として互いに近接して存在している場合が多い。
一方で隣接する別個の複合繊維に由来する極細繊維同士は離れて存在しており、極細繊維からなる不織布の内部には、比較的大きい空隙が存在する場合がある。このような空隙に高分子弾性体の溶液もしくはエマルジョンを充填し、凝固させた場合、大きいサイズの高分子弾性体の塊が生じる。この高分子弾性体が、人工皮革の表面に露出したとき、表面外観の不均一さを生じることになる。
ここで、極細繊維を分散させる処理を施すことによって、極細繊維がばらけ、同一複合繊維由来の極細繊維同士の距離が広がる。これに従い、隣接する別個の複合繊維由来の極細繊維間の距離が縮まり、前述のような、極細繊維不織布中の大きい空隙が減少する。結果として、高分子弾性体溶液もしくはエマルジョンを充填し、凝固させた場合においても、外観不良の原因となるような連続した高分子弾性体の塊が生じることを防ぐことができる。
ここで、極細繊維を分散させる処理としては、液中において極細繊維不織布内部に水流を通過させる方法が好ましく用いられる。水流によって極細繊維の束に機械的な衝撃を与えることによって、極細繊維を分散させることができる。具体的には、バイブロウォッシャーなどの装置を用いることができる。バイブロウォッシャーは、シート全面にわたって均一な分散処理を行うことができる点で、好ましく用いられる。
ただし、液浴外において、局所的な高圧水流による機械的衝撃を与えるウォータジェットパンチのような手法は、ここでは好ましくない。ウォータジェットパンチ処理は、通液が局所的であるために、均一な処理が難しい。ノズル数を増やした場合であっても、長さ方向に筋状の規則的な外観不良を生じる傾向にあり、人工的な風合いの人工皮革となる。
本発明の人工皮革の製造方法においては、極細繊維もしくは極細繊維発生型繊維からなる不織布に、高分子弾性体を付与する前に、一時的な補強材として水溶性樹脂を付与することができる。水溶性樹脂としては、高分子弾性体を付与した後に抽出除去できる樹脂が好ましく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、糖類および澱粉などを用いることができる。それらの中でも、鹸化度が80%以上のポリビニルアルコールが好ましく用いられる。
補強材として水溶性樹脂(水溶性高分子化合物)を付与することによって、高分子弾性体が付与されるまでの不織布の厚みの潰れを抑制することができるため、所望の厚みの人工皮革を容易に得ることができる。
また、高分子弾性体を付与する前に水溶性樹脂を付与することによって、極細繊維の表面が水溶性樹脂によって保護されるため、その後の工程で高分子弾性体と直接極細繊維とが直に接触しない構造となる。このような構造では、極細繊維が高分子弾性体に完全には拘束されず、人工皮革として使用したときに、柔軟で弾力感に富んだ風合いを得ることができる。
さらに、水溶性樹脂を付与する工程は、極細繊維を分散させる処理を施す工程と、高分子弾性体を付与する工程の間に行うことが好ましい態様である。極細繊維を補強する前に分散処理を施すことによって、極細繊維の分散性がより向上し、人工皮革として使用したときの外観の均一性を向上させられる。また、極細繊維を主体としてなる不織布に分散処理を施してから、水溶性樹脂による補強を行うことによって、不織布の極細繊維密度を高めることができるため、起毛処理を施し人工皮革として使用したときに立毛密度を高めることができ、外観の均一性が一層向上させることができる。
水溶性樹脂の付与方法としては、水溶性樹脂水溶液を含浸した後にニップロールにて搾取する方法、スプレーにより付与する方法、およびナイフコーターやグラビアロール等でコーティングする方法が挙げられる。
一時的な補強材として付与された水溶性樹脂は、高分子弾性体が付与された後に除去されることが好ましい態様である水溶性樹脂の除去方法としては、熱水による抽出などが好ましく適用される。
本発明の人工皮革の製造方法は、上記の極細繊維を分散させる処理に次いで、極細繊維不織布に高分子弾性体を付与し、凝固させる工程を含むものである。
ここで、本発明の人工皮革に付与される高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマーおよびスチレン・ブタジエンエラストマーなどを用いることができるが、柔軟性とクッション性の観点からポリウレタンが好ましく用いられる。
高分子弾性体としてポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられるが、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いることもできる。
溶媒に溶解した高分子弾性体溶液に、不織布を浸漬する等して高分子弾性体を不織布に付与し、その後、乾燥等の処理を経ることによって高分子弾性体を実質的に凝固し固化させる。溶剤系のポリウレタン溶液の場合は、非溶解性の溶剤に浸漬することにより凝固させることができる。また、ゲル化性を有する水分散型ポリウレタン液の場合は、ゲル化させた後乾燥する乾式凝固方法等で凝固させることができる。例えば、ポリウレタンのジメチルホルムアミド溶液を含浸させた極細繊維不織布を、次いで水浴中に浸漬することにより、不織布中のポリウレタンを凝固させる方法を取ることができる。
ここで、溶液中の高分子弾性体濃度を適切な範囲とすることにより、人工皮革の外観と触感をより好ましく向上させることができる。例えば、溶剤系ポリウレタンを高分子弾性体として使用する場合、好ましい濃度範囲は5%〜15%である。高分子弾性体の濃度が15%より多い場合、凝固時に連続した高分子弾性体の塊のサイズが大きくなり易く、表面に露出したときに外観不良を生じる場合がある。また、高分子弾性体の濃度が5%未満である場合、皮革様の弾力感を付与することができず、ペーパーライクな触感となる場合がある。より好ましい溶剤系ポリウレタンの濃度範囲は、7%〜13%であり、さらに好ましくは8%〜12%の範囲である。
乾燥にあたっては、不織布および高分子弾性体の性能が損なわない程度の温度で加熱することができる。
ここで、高分子弾性体が付与された極細繊維からなる不織布の繊維密度は、0.30〜0.45g/cm3の範囲であることが好ましい。ここで、繊維密度は、高分子弾性体が付与された極細繊維からなる不織布全体の見かけ密度のうち、極細繊維と、織編物が一体化されている場合には織編物を構成する繊維の占める成分を差す。この不織布の繊維密度は、不織布全体の見かけ密度と、高分子弾性体を溶解などによって除去する前後の質量の比率などから算出することができる。不織布の繊維密度が0.30g/cm3以上であることによって、立毛処理を施したときに立毛密度が高くなるため、表面の均一性を向上させるこができる。また、不織布の繊維密度が0.45g/cm3以下であることによって、適度な弾力感を得ることができる。不織布の繊維密度のより好ましい範囲は、0.31〜0.40g/cm3であり、さらに好ましくは0.32〜0.38g/cm3である。
高分子弾性体を付与した極細繊維からなる不織布の繊維密度は、高分子弾性体の付与量や不織布全体の密度を制御することによって、ある程度任意に設定することができる。具体的には、高分子弾性体の付与工程における高分子弾性体の溶液濃度を適切な値とし、極細繊維の発生処理工程や高分子弾性体の付与工程において、不織布を適切なクリアランス設定によってニップする等の方法により、所望の値を得ることが可能である。
本発明の人工皮革の製造方法においては、高分子弾性体を付与した極細繊維からなる不織布を面方向に半裁する工程を含むことができる。半裁工程を含むことによって、人工皮革の生産性を大きく向上させることができる。織編物の積層方法として、極細繊維発生型繊維からなる不織布層を織編物で挟む方法を採用している場合には、高分子弾性体を付与した極細繊維からなる不織布を半裁し、内側の面を立毛面とすることが、スエード調の品位を達成する上で好ましい態様である。また、本発明の人工皮革の製造方法において、極細繊維を分散させることによって外観の均一性を改善する効果は、半裁時の内側を立毛面としたときに、より顕著に得ることができる。
本発明の人工皮革は、少なくとも片面が立毛されている。立毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて行うことができる。特に、サンドペーパーを用いることにより、均一かつ緻密な立毛を形成することができる。さらに、人工皮革の表面に均一な立毛を形成させるためには、研削負荷を小さくすることが好ましい。研削負荷を小さくするためには、例えば、バフ段数を3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手を、JIS規定の120番〜600番の範囲とすることがより好ましい態様である。また、起毛処理の前に滑剤としてシリコーン等を付与することは、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となる。
本発明の人工皮革には、染色処理を施すことができる。染色方法としては、人工皮革を染色すると同時に揉み効果を与えて人工皮革を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80〜150℃であることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、ポリウレタン樹脂の劣化を防ぐことができる。
本発明で用いられる染料は、不織布を構成する繊維の種類にあわせて選択することができる。例えば、不織布を構成する繊維がポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行うことができる。
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
本発明により得られる人工皮革は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ランドセル、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布、研磨パッド、吸水ロールおよびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
次に、本発明の人工皮革およびその製造方法について、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[評価方法]
(1)立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の横断面長あたりの数:
人工皮革から任意の10箇所の小片を切り出し、幅方向に沿って表面方向に垂直に切断した横断面を、電子顕微鏡で観察した。倍率は100倍とした。観察像から、立毛面近傍において、立毛部を除いた不織布部分の表面から、内層へ200μmまでの区間に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する、断面内で連続した高分子弾性体の塊の数を数えた。また、区間を貫いて存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊についても計数した。得られた個数を、観察した断面長(mm)で割った値を、立毛部を除く表面から200μm以内に存在する厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の横断面長あたりの数とした。
(2)表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数:
人工皮革から任意の10箇所の小片を切り出し、表面を電子顕微鏡で観察した。倍率は50倍とした。観察像から、表面に露出している長辺が250μm以上の高分子弾性体の塊の数を数えた。区間を跨いで存在する、前記のサイズの塊についても数えた。得られた個数を、観察した面の面積で割った値を、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積あたりの数とした。
(3)人工皮革の外観品位(均一性):
人工皮革の外観品位(均一性)は、健康状態の良好な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視と官能評価によって下記のように5段階評価し、最も多かった評価を外観品位とした。外観品位は、3級〜5級を良好とした。
5級:人工皮革の表面全体が均一な立毛で覆われており、色調が均一である。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:立毛状態にばらつきは見られるが、地の露出はなく色調は概ね均一である。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:立毛にばらつきがあり、部分的に地が露出しており色調が不均一である。
(4)人工皮革の触感品位(弾力感):
人工皮革の外観品位(弾力感)は、健康状態の良好な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、指先による触感によって下記のように5段階評価し、最も多かった評価を表面タッチとした。表面タッチは、3級〜5級を良好とした。
5級:本革のような弾力感を有しており、触感は良好である。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:弾力感に劣るが、触感はまずまず良好である。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:弾力感に乏しく、紙のような触感である。全体的に繊維の分散状態は非常に悪く、ざらつきが強く、表面タッチは不良である。
[実施例1]
<原綿>
(島成分:難溶出性ポリマー)
島成分として、融点が260℃で固有粘度が0.72のPETを用いた。
(海成分:易溶出性ポリマー)
海成分として、融点が240℃で固有粘度が0.69の5−スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したPET(共重合PET)を用いた。
(紡糸・延伸)
上記の海成分と島成分を用い、16島/ホールの海島型複合紡糸口金を用いて、紡糸温度が285℃、島/海質量比率が80/20、島成分の吐出量が1.2g/分・ホール、海成分の吐出量が0.3g/分・ホールであり、そして紡糸速度が1200m/分の条件で溶融紡糸した。
次いで、得られた糸条を、68℃の温度の液浴中でトータル倍率が3.7倍となるように2段延伸し、スタッフィングボックス型のクリンパーを用いて、クリンパー温度65℃で捲縮を付与した。得られた複合繊維を繊維長51mmにカットして、海島型複合繊維の原綿を得た。
<補強用織物>
固有粘度(IV)が0.65のPET単成分からなる単糸で、撚数が2500T/mからなるマルチフィラメント(総繊度84dtex、72フィラメント)を緯糸に用い、固有粘度(IV)が0.65の単成分からなる単糸で、撚数が2500T/mからなるマルチフィラメント(総繊度84dtex、72フィラメント)を経糸として用い、織密度が経97本/2.54cm、緯76本/2.54cmで、100℃の温度で5分間の乾熱処理での乾熱面積収縮率が1%であり、140℃の温度で5分間での乾熱面積収縮率が17%の平織物を製織した。
<不織布>
上記の原綿を用いて、カードとクロスラッパー工程を経て積層繊維ウェブを形成した。次いで、トータルバーブデプスが 0.075mmのニードル1本を植込んだニードルパンチ機を用いて、針深度7mm、パンチ本数4000本/cm2でニードルパンチした。また、このニードルパンチ工程において、前記の補強用織物を不織布の上下に積層した。この工程において、目付が837g/m2の極細繊維発生型繊維からなる不織布を作製した。
<極細繊維発現処理>
上記のようにして得られた極細繊維発生型繊維からなる不織布を、95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。
<極細繊維の分散処理>
海島型複合繊維の海成分を除去し、極細繊維を発現させた脱海シートを、バイブロウォッシャーで処理し、水中で、脱海シート内部に水流を通過させ、極細繊維の分散処理を行った。
<高分子弾性体の付与>
極細繊維の分散処理を施した脱海シートに、ポリビニルアルコールを付与して一時的に補強した後に、固形分濃度11質量%に調整したポリカーボネート系ポリウレタン(PU)樹脂DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)溶液を含浸し、DMF濃度30質量%の水溶液中でポリウレタンを凝固させた。その後、DMFとポリビニルアルコールを熱水で除去し、120℃の温度で10分間熱風乾燥することにより、不織布のポリエステル成分質量に対するポリウレタン樹脂の質量が30質量%となるようにポリウレタン樹脂を付与した極細繊維からなる不織布を得た。このポリウレタン樹脂が付与された極細繊維からなる不織布の繊維密度は、0.32g/cm3であった。
上記のポリウレタン樹脂を付与した人工皮革を厚さ方向に半裁し、半裁によって生成した面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理を施した後、サーキュラー染色機を用いて分散染料により125℃の温度で染色し還元洗浄を行い、人工皮革を得た。
実施例1の人工皮革は、立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、0.6個/mmであり、また、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が0.1個/mm2であった。また、表面全体が極細繊維の立毛で覆われており、均一な外観とスエード調の柔らかな触感を有していた。外観品位(均一性)の評価結果は5級で、触感品位(弾力感)の評価結果は5級であり、外観および触感ともに良好な評価結果であった。実施例1の人工皮革の特性値を、表1に示す。
[実施例2]
高分子弾性体の付与工程において、高分子弾性体の濃度を13%とし、半裁前のポリウレタン樹脂を付与された極細繊維からなる不織布の繊維密度を0.33g/cm3としたこと以外は、実施例1と同じ方法で人工皮革を得た。実施例2の人工皮革は、立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、2.2個/mmであり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が1.1個/mm2であった。また、表面全体が極細繊維の立毛で覆われており、均一な外観とスエード調の柔らかな触感を有していた。外観品位(均一性)の評価結果は4級で、触感品位(弾力感)の評価結果は5級であり、外観および触感ともに良好な評価結果であった。実施例2の人工皮革の特性値を、表1に示す。
[実施例3]
原綿の紡糸工程において、島成分の吐出量を0.6g/分・ホールとし、海成分の吐出量を0.15g/分・ホールとし、半裁前のポリウレタン樹脂を付与した極細繊維からなる不織布の繊維密度を0.32g/cm3としたこと以外は、実施例1と同じ方法で人工皮革を得た。実施例3の人工皮革は、立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、0.8個/mmであり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が0.3個/mm2であった。また、表面全体が極細繊維の立毛で覆われており、均一な外観とスエード調の柔らかな触感を有していた。外観品位(均一性)の評価結果は5級で、触感品位(弾力感)の評価結果は5級であり、外観および触感ともに良好な評価結果であった。実施例3の人工皮革の特性値を、表1に示す。
[実施例4]
原綿の紡糸工程において、島/海質量比率が90/10、島成分の吐出量を1.9g/分・ホールとし、海成分の吐出量を0.2g/分・ホールとし、半裁前のポリウレタン樹脂を付与した極細繊維からなる不織布の繊維密度を0.35g/cm3としたこと以外は、実施例1と同じ方法で人工皮革を得た。実施例4の人工皮革は、立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、1.3個/mmであり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が0.8個/mm2であった。また、表面全体が極細繊維の立毛で覆われており、均一な外観とスエード調の柔らかな触感を有していた。外観品位(均一性)の評価結果は4級で、触感品位(弾力感)の評価結果は5級であり、外観および触感ともに良好な評価結果であった。実施例4の人工皮革の特性値を、表1に示す。
[実施例5]
高分子弾性体の付与工程において、高分子弾性体の濃度を9%とし、半裁前のポリウレタン樹脂を付与した極細繊維からなる不織布の繊維密度を0.38g/cm3としたこと以外は、実施例1と同じ方法で人工皮革を得た実施例5の人工皮革は、立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、0.2個/mmであり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が0.1個/mm2未満であった。また、表面全体が極細繊維の立毛で覆われており、均一な外観とスエード調の柔らかな触感を有していた。外観品位(均一性)の評価結果は5級で、触感品位(弾力感)の評価結果は3級であり、外観および触感ともに良好な評価結果であった。実施例5の人工皮革の特性値を、表1に示す。
[実施例6]
高分子弾性体の付与工程において、高分子弾性体の濃度を13%とし、半裁前のポリウレタン樹脂を付与した極細繊維からなる不織布の繊維密度を0.30g/cm3としたこと以外は、実施例1と同じ方法で人工皮革を得た。半裁前の人工皮革の繊維密度は、0.25g/cm3であった。実施例6の人工皮革は、立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、2.3個/mmであり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が2.5個/mm2であった。また、表面全体が極細繊維の立毛で覆われており、均一な外観とスエード調の柔らかな触感を有していた。外観品位(均一性)の評価結果は3級で、触感品位(弾力感)の評価結果は3級であり、外観および触感ともに良好な評価結果であった。実施例6の人工皮革の特性値を、表1に示す。
[比較例1]
極細繊維発現処理の後に、繊維の分散処理を行わず、半裁前のポリウレタン樹脂を付与した極細繊維からなる不織布の繊維密度を0.29g/cm3としたこと以外は、実施例2と同じ方法で、人工皮革を得た。比較例1の人工皮革は、表層から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、2.6個/mmであり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が2.4個/mm2であった。また、表面に高分子弾性体の露出が見られ、外観面では極細繊維と高分子弾性体の色調差に由来する外観不良が、触感面では高分子弾性体塊に由来するザラツキを有していた。外観品位(均一性)の評価結果は2級で、触感品位(弾力感)の評価結果は3級であり、良好な結果が得られなかった。比較例1の人工皮革の特性値を、表2に示す。
[比較例2]
極細繊維の分散処理とポリビニルアルコールの付与工程の順序を入れ替え、バイブロウォッシャーによる極細繊維の分散処理の前に、ポリビニルアルコールを付与して一時的に補強し、半裁前のポリウレタン樹脂を付与した極細繊維からなる不織布の繊維密度を0.30g/cm3としたこと以外は、実施例1と同じ方法で人工皮革を得た。実施例5の人工皮革は、立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、3.2個/mmであり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が2.9個/mm2であった。また、表面に高分子弾性体の露出が見られ、外観面では極細繊維と高分子弾性体の色調差に由来する外観不良が、触感面では高分子弾性体塊に由来するザラツキを有していた。外観品位(均一性)の評価結果は2級で、触感品位(弾力感)の評価結果は3級であり、良好な結果が得られなかった。比較例1の人工皮革の特性値を、表2に示す。
[比較例3]
実施例1と同じ原綿を用いてカードとクロスラッパー工程を経て積層繊維ウェブを形成し、実施例1と同じニードルパンチマシン機を用いて、針深度7mm、パンチ本数1500本/cm2の条件でニードルパンチし、短繊維不織布を得た。次いで、得られた短繊維不織布について、実施例1と同じ方法で極細繊維発現処理を行い、極細繊維不織布を得た。得られた短繊維不織布を実施例1と同じ織物に積層し、0.1mmの噴射孔径で、0.6mm間隔のノズルヘッドからなるウォータージェットパンチマシンにて、1m/分の処理速度で、不織布側から、5MPa、10MPa、20MPaの圧力で処理し、次いで織物側から10MPa、20MPaの圧力で処理した。さらに、カレンダー処理を行い、不織布の圧縮処理を行った。このようにして得られた、高分子弾性体を含まない、極細繊維からなる不織布の繊維密度は、0.41g/cm3であった。得られた極細繊維からなる不織布について、実施例1と同じ方法で半裁し、起毛染色処理を行い、人工皮革を得た。
比較例3の人工皮革は、高分子弾性体を含んでいないため、表層から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の断面長さあたりの数が、0.1個/mm未満であり、表面の単位面積あたりに存在する長径250μm以上の高分子弾性体の塊の面積当たりの数が0.1個/mm2未満であった。表面全体が極細繊維の立毛で覆われており、均一な外観を有していたが、風合いはペーパーライクで、弾力性に乏しいものであった。外観品位(均一性)の評価結果は5級で、触感品位(弾力感)の評価結果は2級であり、良好な結果が得られなかった。比較例3の人工皮革の特性値を、表2に示す。