JP2022022731A - 抵抗体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】体積抵抗率が高く、抵抗温度係数が小さく、かつ、高温での特性安定性に優れた抵抗体、及びその製造方法を提供すること。【解決手段】抵抗体は、Ni基合金からなる。前記Ni基合金は、2.5≦Cr≦25.0at%、5.0≦Mo≦25.0at%、0≦Ti≦1.2at%、0≦Al≦1.8at%、0≦Mn≦4.0at%、及び、0≦Si≦7.0at%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、さらに、20.0≦Cr+Mo≦35.0at%、及び、0.2≦Mo/Cr≦10.0の関係を満たす。前記抵抗体は、20℃における体積抵抗率が125μΩcm以上であり、20~200℃における抵抗温度係数が100ppm/℃以下である。このような抵抗体は、原料の溶解・鋳造、均質化熱処理、熱間加工、及び冷間加工を行った後、所定の条件下で熱処理を行い、短範囲規則相を生成させることにより得られる。【選択図】なし

Description

本発明は、抵抗体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、体積抵抗率が高く、抵抗温度係数が小さく、かつ、高温での特性安定性に優れた抵抗体、及びその製造方法に関する。
近年、電源装置、電気自動車などの高性能化・発展に伴い、精密抵抗材料、特に高体積抵抗率・低抵抗温度係数を有する抵抗材料の要求が高まっている。さらに、従来のSiパワーデバイスよりも動作可能温度が向上したSiCパワーデバイスの普及に伴い、抵抗材料にも150℃以上での特性安定性が求められるようになっている。従来、精密抵抗材料としては、抵抗温度係数の低いCu-Mn系合金(特許文献1)などからなる金属薄膜抵抗体が用いられてきた。
これらの内、Cu-Mn系合金は、20~100℃付近での抵抗温度係数が極めて低く、加工性に富み、安価である。しかし、Cu-Mn系合金は、体積抵抗率が35~50μΩcmと小さい。また、100℃以上では体積抵抗率が減少し、抵抗温度係数の絶対値が増加するため、100℃以上の高温域での使用には不向きである。
特開2016-069724号公報
本発明が解決しようとする課題は、体積抵抗率が高く、抵抗温度係数が小さく、かつ、高温での特性安定性に優れた抵抗体、及びその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る抵抗体は、以下の構成を備えている。
(1)前記抵抗体は、Ni基合金からなり、
前記Ni基合金は、
2.5≦Cr≦25.0at%、
5.0≦Mo≦25.0at%、
0≦Ti≦1.2at%、
0≦Al≦1.8at%、
0≦Mn≦4.0at%、及び、
0≦Si≦7.0at%
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
さらに次の式(1)及び式(2)を満たす。
20.0≦Cr+Mo≦35.0at% …(1)
0.2≦Mo/Cr≦10.0 …(2)
(2)前記抵抗体は、
20℃における体積抵抗率が125μΩcm以上であり、
20~200℃における抵抗温度係数が100ppm/℃以下である。
本発明に係る抵抗体の製造方法は、
本発明に係る抵抗体が得られるように配合された原料を溶解及び鋳造し、鋳塊を得る溶解・鋳造工程と、
前記鋳塊に対して均質化熱処理を行い、熱処理体を得る均質化熱処理工程と、
前記熱処理体に対して熱間加工を行い、熱間成形体を得る熱間加工工程と、
前記熱間成形体に対して冷間加工を行い、冷間成形体を得る冷間加工工程と、
前記冷間成形体に対して熱処理を行い、短範囲規則相を生成させる熱処理工程と
を備えている。
Cr及びMoを含むNi基合金において、Cr量及びMo量を最適化し、かつ、適切な条件下で熱処理を行うと、体積抵抗率が高く、抵抗温度係数が小さく、かつ、高温での特性安定性に優れた抵抗体が得られる。これは、
(a)Cr及びMoの固溶効果により体積抵抗率が増加するため、並びに、
(b)適切な熱処理を施すことによってNi-Cr-Moの三元素からなる短範囲規則相が形成されるため
と考えられる。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. Ni基合金]
[1.1. 成分]
本発明に係る抵抗体は、Ni基合金からなる。Ni基合金は、以下のような元素を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
(1)2.5≦Cr≦25.0at%:
Crは、Ni中に固溶し、固溶効果によって体積抵抗率を増加させる。さらに、短範囲規則相を形成し、体積抵抗率を大幅に増加させる。このような効果を得るためには、Cr量は、2.5at%以上である必要がある。Cr量は、好ましくは、4.0at%以上である。
一方、Cr量が過剰になると、完全に規則化したNi2Cr相が形成されやすくなる。Ni2Cr相が形成されると、体積抵抗率が急激に低下する。従って、Cr量は、25.0at%以下である必要がある。Cr量は、好ましくは、20.0at%以下である。
(2)5.0≦Mo≦25.0at%:
Moは、Ni中に固溶に、固溶効果によって体積抵抗率を増加させる。このような効果を得るためには、Mo量は、5.0at%以上である必要がある。Mo量は、好ましくは、7.5at%以上、さらに好ましくは、10.0at%以上である。
一方、Mo量が過剰になると、完全に規則化したNi4Mo相又はNi3Mo相が形成されやすくなる。このような規則相が形成されると、体積抵抗率が急激に低下する。従って、Mo量は、25.0at%以下である必要がある。Mo量は、好ましくは、22.5at%以下である。
(3)0≦Ti≦1.2at%:
Tiは、固溶効果によって体積抵抗率を増加させる作用、及び、抵抗温度係数を低下させる作用があり、必要に応じて添加することができる。このような効果を得るめには、Ti量は、0.3at%以上が好ましい。
一方、Ti量が過剰になると、かえって抵抗温度係数が大きくなる。従って、Ti量は、1.2at%以下が好ましい。
(4)0≦Al≦1.8at%:
Alは、Tiと同様に、固溶効果によって体積抵抗率を増加させる作用、及び、抵抗温度係数を低下させる作用があり、必要に応じて添加することができる。このような効果を得るめには、Al量は、0.5at%以上が好ましい。
一方、Al量が過剰になると、かえって抵抗温度係数が大きくなる。従って、Al量は、1.8at%以下が好ましい。
(5)0≦Mn≦4.0at%:
Mnは、Ti及びAlと同様に、固溶効果によって体積抵抗率を増加させる作用、及び、抵抗温度係数を低下させる作用があり、必要に応じて添加することができる。このような効果を得るめには、Mn量は、0.5at%以上が好ましい。
一方、Mn量が過剰になると、かえって抵抗温度係数が大きくなる。従って、Mn量は、4.0at%以下が好ましい。
(6)0≦Si≦7.0at%:
Siは、Ti、Al及びMnと同様に、固溶効果によって体積抵抗率を増加させる作用、及び、抵抗温度係数を低下させる作用があり、必要に応じて添加することができる。このような効果を得るめには、Si量は、0.5at%以上が好ましい。
一方、Si量が過剰になると、かえって抵抗温度係数が大きくなる。従って、Si量は、7.0at%以下が好ましい。
[1.2. 成分バランス]
Ni基合金は、各元素が上述した範囲内にあることに加えて、次の式(1)~式(4)のいずれか1以上をさらに満たしているものが好ましい。
20.0≦Cr+Mo≦35.0at% …(1)
0.2≦Mo/Cr≦10.0 …(2)
Ti+Al+Mn+Si≦7.0at% …(3)
[Cr]+[Mo]≦0.55×(Cr)+28 …(4)
但し、式(4)中、[X]は元素Xのat%を表し、(Y)は元素Yのmass%を表す。
[1.2.1. 式(1)]
式(1)は、CrとMoの総量(以下、「Cr+Mo量」ともいう)の範囲を表す。Cr+Mo量は、体積抵抗率と温度抵抗係数に影響を与える。Niに対して所定量のCrとMoを複合添加すると、Ni中にCrとMoが固溶することに加えて、Ni-Cr-Moの三元素からなる短範囲規則相が形成される。その結果、体積抵抗率が高くなり、かつ、抵抗温度抵抗係数が小さくなる。
Cr+Mo量が少なくなりすぎると、体積抵抗率は急激に低下し、かつ、抵抗温度係数は上昇する。従って、Cr+Mo量は、20.0at%以上である必要がある。Cr+Mo量は、好ましくは、22.5at%以上である。
一方、Cr+Mo量が過剰になると、金属間化合物が形成されやすくなる。金属間化合物が形成されると、熱間加工が困難となる。従って、Cr+Mo量は、35.0at%以下である必要がある。Cr+Mo量は、好ましくは、32.5at%以下、さらに好ましくは、30.0at%以下である。
[1.2.2. 式(2)]
式(2)は、Crの原子数に対するMoの原子数の比(以下、「Mo/Cr比」ともいう)の範囲を表す。Mo/Cr比は、Cr+Mo量と同様に、体積抵抗率と温度抵抗係数に影響を与える。
Mo/Cr比が小さくなりすぎると、体積抵抗率は急激に低下し、かつ、抵抗温度係数は上昇する。従って、Mo/Cr比は、0.2以上である必要がある。Mo/Cr比は、好ましくは、1.0以上、さらに好ましくは、1.5以上である。
一方、Mo/Cr比が過剰になると、金属間化合物が形成されやすくなる。金属間化合物が形成されると、熱間加工が困難となる。従って、Mo/Cr比は、10.0以下である必要がある。Mo/Cr比は、好ましくは、5.0以下、さらに好ましくは、4.0以下である。
[1.2.3. 式(3)]
式(3)は、Ti、Al、Mn、及びSiの総量を表す。上述したように、Ti、Al、Mn、及びSiは、いずれも、体積抵抗率を増加させ、かつ、抵抗温度係数を低下させる作用がある。しかしながら、これらの元素の総量が過剰になると、かえって抵抗温度係数が大きくなる場合がある。従って、これらの元素の総量は、7.0at%以下が好ましい。
[1.2.4. 式(4)]
式(4)は、Cr及びMoを含むNi基合金の熱間加工性を表す経験式である。式(4)を満たすようにCr量及びMo量を最適化すると、良好な熱間加工性を確保することが可能となる。
[2. 抵抗体]
本発明に係る抵抗体は、
Ni基合金からなり、
20℃における体積抵抗率が125μΩcm以上であり、
20~200℃における抵抗温度係数が100ppm/℃以下である。
[2.1. Ni基合金]
本発明に係る抵抗体は、Ni基合金からなる。Ni基合金の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
[2.2. 特性]
[2.2.1. 体積抵抗率]
本発明に係る抵抗体は、成分が最適化されたNi基合金に対して適切な熱処理を施すことにより得られたものからなる。そのため、本発明に係る抵抗体は、従来の抵抗体に比べて、体積抵抗率が高い。成分及び熱処理条件を最適化すると、20℃における体積抵抗率が125μΩcm以上である抵抗体が得られる。成分及び熱処理条件をさらに最適化すると、20℃における体積抵抗率は、130μΩcm以上、あるいは、140μΩcm以上となる。
[2.2.2. 抵抗温度係数]
「抵抗温度係数」とは、次の式(5)で表される値をいう。
抵抗温度係数(ppm/℃)={(R-Ra)/Ra}×106/(T-Ta) …(5)
但し、
aは、基準温度における抵抗値、
Rは、任意温度における抵抗値、
aは、基準温度(本発明では20℃)、
Tは、任意温度(本発明では200℃)。
本発明に係る抵抗体は、成分が最適化されたNi基合金に対して適切な熱処理を施すことにより得られたものからなる。そのため、本発明に係る抵抗体は、従来の抵抗体に比べて、抵抗温度係数が小さく、かつ、抵抗温度係数の熱的安定性も高い。成分及び熱処理条件を最適化すると、20~200℃における抵抗温度係数が100ppm/℃以下である抵抗体が得られる。成分及び熱処理条件をさらに最適化すると、20~200℃における抵抗温度係数は、70ppm/℃以下、あるいは、50ppm/℃以下となる。
[2.2.3. 厚さ]
本発明に係る抵抗体は、体積抵抗率が高く、かつ、抵抗変化率が低いことに加えて、熱間加工性も高い。そのため、厚さの薄いリボン状に容易に加工することができる。製造条件を最適化すると、厚さが3mm以下である抵抗体が得られる。
成分及び製造条件を最適化すると、最小でも、0.10mm以上、あるいは、0.20mm以上の厚さを持つ抵抗体を得ることができる。
[3. 抵抗体の製造方法]
本発明に係る抵抗体の製造方法は、
本発明に係る抵抗体が得られるように配合された原料を溶解及び鋳造し、鋳塊を得る溶解・鋳造工程と、
前記鋳塊に対して均質化熱処理を行い、熱処理体を得る均質化熱処理工程と、
前記熱処理体に対して熱間加工を行い、熱間成形体を得る熱間加工工程と、
前記熱間成形体に対して冷間加工を行い、冷間成形体を得る冷間加工工程と、
前記冷間成形体に対して熱処理を行い、短範囲規則相を生成させる熱処理工程と
を備えている。
[3.1. 溶解・鋳造工程]
まず、本発明に係る抵抗体が得られるように配合された原料を溶解及び鋳造し、鋳塊を得る(溶解・鋳造工程)。溶解・鋳造の方法及び条件は、特に限定されるものではなく、周知の方法を用いることができる。
[3.2. 均質化熱処理工程]
次に、前記鋳塊に対して均質化熱処理を行い、熱処理体を得る(均質化熱処理工程)。本発明に係る抵抗体は、相対的に多量のCr及びMoを含むNi基合金を用いているので、鋳造ままの状態では元素が偏析しやすい。均質加熱処理は、このような元素の偏析を除去するために行われる。
均質化熱処理の温度が低すぎると、元素の偏析を十分に除去できない。従って、熱処理温度は、1000℃以上が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1100℃以上、さらに好ましくは、1200℃以上である。
一方、熱処理温度が高すぎると、酸化が急速に進行し、酸化層の除去が必要になる場合がある。従って、熱処理温度は、1250℃以下が好ましい。
均質化熱処理の時間が短すぎると、元素の偏析を十分に除去できない。従って、熱処理時間は、4時間以上が好ましい。熱処理時間は、好ましくは、8時間以上、さらに好ましくは、16時間以上である。
一方、熱処理時間が長くなりすぎると、酸化層の除去が必要になる場合がある。従って、熱処理時間は、24時間以下が好ましい。
[3.3. 熱間加工工程]
次に、前記熱処理体に対して熱間加工を行い、熱間成形体を得る(熱間加工工程)。熱間加工は、組織を均一化し、粗形状に加工するために行われる。熱間加工の方法及び条件は、組織の均一化及び粗形状への加工が可能な限りにおいて、特に限定されない。
なお、熱間加工後、冷間加工前に溶体化処理を行っても良い。冷間加工前に溶体化処理を行うと、熱間加工によって加工硬化した材料を軟化させ、容易に冷間加工を行うことができるという利点がある。
[3.4. 冷間加工工程]
次に、前記熱間成形体に対して冷間加工を行い、冷間成形体を得る(冷間加工工程)。通常、熱間加工のみでは、高い厚さ精度は得られない。冷間加工は、最終的な厚さ寸法に加工するために行われる。冷間加工の方法及び条件は、目的とする寸法精度が得られる限りにおいて、特に限定されない。
[3.5. 熱処理工程]
次に、前記冷間成形体に対して熱処理を行い、短範囲規則相を生成させる(熱処理工程)。これにより、本発明に係る抵抗体が得られる。
高い体積抵抗率を得るためには、Ni基合金中に短範囲規則相を生成させる必要がある。熱間加工後の冷却過程において、このような短範囲規則相が生成する場合がある。しかし、冷間加工によって短範囲規則相は破壊されるため、冷間加工ままの状態では、体積抵抗率が低く、かつ、抵抗温度係数も不安定となる。さらに、冷間加工後、熱処理によって歪の除去を十分に行わない場合、200℃近傍の使用環境下で徐々に歪みが緩和され、体積抵抗率及び抵抗温度係数が変化する。
そこで、冷間加工によって消滅した短範囲規則相を再形成させ、これによって体積抵抗率を上昇させ、かつ、抵抗温度係数を減少させる必要がある。同時に、残留歪みを十分に除去する必要がある。熱処理の方法及び条件は、短範囲規則相を再形成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。熱処理方法としては、具体的には、以下のようなものがある。
[3.5.1. 溶体化処理]
熱処理工程は、溶体化処理工程であっても良い。ここで、「溶体化処理」とは、
(a)冷間成形体を相対的に高い溶体化処理温度において、相対的に短時間保持することにより、巨視的には元素が均一に固溶しており、規則相が消滅している固溶体とし、
(b)その後、固溶体を溶体化処理温度から所定の平均冷却速度で冷却することにより、冷却過程において短範囲規則相を形成する
方法をいう。
「平均冷却速度」とは、溶体化処理温度から400℃までの区間の温度差(ΔT)を冷却に要した時間(t)で除した値(=ΔT/t)をいう。
溶体化処理の温度が低すぎると、元素の固溶が不十分となる。従って、処理温度は、600℃以上が好ましい。処理温度は、好ましくは、800℃以上、さらに好ましくは、1000℃以上である。
一方、溶体化処理の温度が高すぎると、結晶粒が急速に成長し、材料強度が低下する場合がある。従って、処理温度は、1200℃以下が好ましい。処理温度は、好ましくは、1100℃以下、さらに好ましくは、1050℃以下である。
溶体化処理の時間が短すぎると、元素の固溶が不十分となる。従って、熱処理時間は、3分以上が好ましい。熱処理時間は、好ましくは、10分以上、さらに好ましくは、30分以上である。
一方、溶体化処理の時間が長くなりぎると、結晶粒が成長し、材料強度が低下する場合がある。従って、熱処理時間は、1時間以下が好ましい。
平均冷却速度が遅すぎると、冷却中に規則化が過度に進行し、体積抵抗率が低下する場合がある。従って、平均冷却速度は、0.01℃/s以上が好ましい。
一方、平均冷却速度が速くなりすぎると、短範囲規則相の形成が不十分となり、十分な特性が発現しない。また、冷却中に歪みが導入され、残留歪みの除去が不十分となる。従って、平均冷却速度は、20℃/s以下が好ましい。
[3.5.2. 焼鈍処理]
前記熱処理工程は、焼鈍工程であっても良い。ここで、「焼鈍」とは、冷間成形体を相対的に低い温度において、相対的に長時間保持することにより、冷間加工時に導入された歪みの除去と短範囲規則相の形成とを同時に行う方法をいう。
焼鈍温度が低すぎると、現実的な焼鈍時間内に短範囲規則相を十分に形成することができない。従って、焼鈍温度は、400℃以上が好ましい。
一方、焼鈍温度が高すぎると、規則化が過度に進行し、あるいは、金属組織の一部又は全部が固溶状態になることにより規則相が消滅し、かえって体積抵抗率が低下し、あるいは、抵抗変化率が増大する場合がある。従って、焼鈍温度は、700℃以下が好ましい。焼鈍温度は、好ましくは、650℃以下である。
焼鈍時間が短すぎると、短範囲規則相の形成が不十分となる。従って、焼鈍時間は、3分以上が好ましい。焼鈍時間は、好ましくは、30分以上、さらに好ましくは、60分以上である。
一方、焼鈍時間が長すぎると、規則化が過度に進行し、かえって体積抵抗率が低下し、あるいは、抵抗変化率が増大する場合がある。従って、焼鈍時間は、48時間未満が好ましい。焼鈍時間は、好ましくは、24時間以下、さらに好ましは、16時間以下である。
なお、溶体化処理と焼鈍処理は、いずれか一方のみを行っても良く、あるいは、双方を行っても良い。また、溶体化処理と焼鈍処理の双方を行う場合、溶体化処理後に焼鈍処理を行うのが好ましい。これは、焼鈍処理を単独で行った場合よりも短範囲規則相の形成完了を短時間化することができるためである。
[4. 作用]
Cr及びMoを含むNi基合金において、Cr量及びMo量を最適化し、かつ、適切な条件下で熱処理を行うと、体積抵抗率が高く、抵抗温度係数が小さく、かつ、高温での特性安定性に優れた抵抗体が得られる。これは、
(a)Cr及びMoの固溶効果により体積抵抗率が増加するため、並びに、
(b)適切な熱処理を施すことによってNi-Cr-Moの三元素からなる短範囲規則相が形成されるため
と考えられる。
(実施例1~25、比較例1~6)
[1. 試料の作製]
表1に示す組成となるように配合された原料を真空誘導加熱炉で溶製し、30kgのインゴットを得た。次いで、インゴットを1200℃で24時間加熱する均質化処理を行った。その後、1150℃にて鍛造加工を行い、厚さ10mmの板形状に成形した。また、板状の熱間成形体に対し、1050℃で2時間保持した後、空冷する溶体化処理を行った。さらに、室温にて熱間成形体の冷間圧延を行い、厚さ2mmの冷間成形体を得た。
次に、得られた冷間成形体に対して、1050℃で1時間保持した後、空冷(AC)する溶体化処理を行った。
なお、実施例3、及び、実施例10については、上記の条件で溶体化処理した試料に加えて、
(a)冷間成形体に対して、1050℃で1時間保持した後、水冷(WC)する溶体化処理、又は、
(b)冷間成形に対して、500℃で3時間保持する焼鈍処理、
を行った試料も作製した。
Figure 2022022731000001
[2. 試験方法]
[2.1. 試験片の切り出し]
熱処理後の冷間成形体から、2mm×2mm×80mmの電気抵抗測定用試験片を切り出した。試験片の切り出しは、切断による歪みの導入を避けるため放電切断を用いた。切断方向は、圧延方向と試験片の長手方向が一致する方向とした。
[2.2. 体積抵抗率の測定、及び抵抗温度係数の算出]
四端子法にて体積抵抗率(ρ)を測定した。測定温度、20℃又は200℃とした。各温度でそれぞれ体積抵抗率を3回測定し、平均値を算出した。また、200℃での測定は、20℃から200℃までは1℃/sで昇温し、200℃に到達してから5分間保持した後に行った。さらに、上述した式(5)を用いて、抵抗温度係数を算出した。
[3. 結果]
表2に、1050℃/1h/ACの条件下で熱処理を行った試験片の体積抵抗率(ρ)及び抵抗温度係数(TCR)を示す。
なお、表2の熱間加工性に関し、「○」は、熱間加工中に材料表面に割れが入ることなく一貫した加工が可能であることを表す。「△」は、熱間加工中に材料表面に割れが生じ、そのまま最終まで加工を行うと割れが内部まで進展してしまうため、加工の途中で表面のキズ取りが必要であることを表す。「×」は、熱間加工初期の段階で瞬時に割れが表層から内部にわたって発生し、熱間加工が極めて困難であることを表す。
表2の体積抵抗率に関し、「○」は体積抵抗率が125μΩcm以上であることを表し、「×」は体積抵抗率が125μΩcm未満であることを表す。
さらに、表2のTCRに関し、「◎」はTCRが50ppm/℃以下であることを表し、「○」はTCRが50ppm/℃超100ppm/℃以下であることを表し、「×」はTCRが100ppm/℃超であることを表す。
また、表3に、各種条件下で熱処理を行った試験片(実施例3、及び実施例10)の比抵抗及び抵抗温度係数(TCR)を示す。表2及び表3より、以下のことが分かる。
Figure 2022022731000002
Figure 2022022731000003
(1)比較例1、2は、体積抵抗率が低く、かつ、TCRが大きい。これは、Cr+Mo量が少ないためと考えられる。
(2)比較例3は、熱間加工性が若干悪く、体積抵抗率が低く、かつ、TCRが大きい。これは、Cr+Mo量が過剰であるためと考えられる。
(3)比較例4は、熱間加工性が若干悪く、体積抵抗率が低く、かつ、TCRが大きい。これは、Cr量が過剰であるためと考えられる。
(4)比較例5は、熱間加工性が極めて悪く、厚さ2mmの冷間成形体を得ることができなかった。これは、Cr量が少ないためと考えられる。
(5)比較例6は、体積抵抗率が著しく低く、かつ、TCRが大きい。これは、Mo量が不足しているためと考えられる。
(6)実施例1~25は、いずれも熱間加工性が良好であり、体積抵抗率が高く、かつ、TCRも小さい。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る抵抗体は、電源装置、電気自動車などに用いられる各種の抵抗体として用いることができる。

Claims (7)

  1. 以下の構成を備えた抵抗体。
    (1)前記抵抗体は、Ni基合金からなり、
    前記Ni基合金は、
    2.5≦Cr≦25.0at%、
    5.0≦Mo≦25.0at%、
    0≦Ti≦1.2at%、
    0≦Al≦1.8at%、
    0≦Mn≦4.0at%、及び、
    0≦Si≦7.0at%
    を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
    さらに次の式(1)及び式(2)を満たす。
    20.0≦Cr+Mo≦35.0at% …(1)
    0.2≦Mo/Cr≦10.0 …(2)
    (2)前記抵抗体は、
    20℃における体積抵抗率が125μΩcm以上であり、
    20~200℃における抵抗温度係数が100ppm/℃以下である。
  2. 前記Ni基合金は、次の式(3)をさらに満たす請求項1に記載の抵抗体。
    Ti+Al+Mn+Si≦7.0at% …(3)
  3. 前記Ni基合金は、次の式(4)をさらに満たす請求項1又は2に記載の抵抗体。
    [Cr]+[Mo]≦0.55×(Cr)+28 …(4)
    但し、式(4)中、[X]は元素Xのat%を表し、(Y)は元素Yのmass%を表す。
  4. 厚さが3mm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の抵抗体。
  5. 請求項1から4までのいずれか1項に記載の抵抗体が得られるように配合された原料を溶解及び鋳造し、鋳塊を得る溶解・鋳造工程と、
    前記鋳塊に対して均質化熱処理を行い、熱処理体を得る均質化熱処理工程と、
    前記熱処理体に対して熱間加工を行い、熱間成形体を得る熱間加工工程と、
    前記熱間成形体に対して冷間加工を行い、冷間成形体を得る冷間加工工程と、
    前記冷間成形体に対して熱処理を行い、短範囲規則相を生成させる熱処理工程と
    を備えた抵抗体の製造方法。
  6. 前記熱処理工程は、
    (a)前記冷間成形体を600℃以上1200℃以下の溶体化処理温度において、3分以上1時間以下保持し、
    (b)その後、前記溶体化処理温度から400℃までの区間を0.01℃/s以上20℃/s以下の平均冷却速度で冷却する
    溶体化処理工程を含む請求項5に記載の抵抗体の製造方法。
  7. 前記熱処理工程は、前記冷間成形体を400℃以上700℃以下の焼鈍温度において、3分以上48時間未満保持する焼鈍工程を含む請求項5又は6に記載の抵抗体の製造方法。
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