JP7307297B1 - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さく、それによりコネクタやリードフレームなどの応用製品の信頼性を高めることが可能な、銅合金板材およびその製造方法を提供する。銅合金板材は、NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、銅合金板材の圧延方向および厚さ方向を含む断面にて、EBSD法を用いてGROD値を測定したとき、測定したGROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲であり、引張強さが500MPa以上であり、かつ、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)が、3000ppm/℃以下である。

Description

本発明は、銅合金板材およびその製造方法に関し、特に、電気・電子機器用のコネクタやリードフレーム、リレー、スイッチなどの応用製品に用いることが可能な、銅合金板材およびその製造方法に関する。
コネクタやリードフレーム、リレー、スイッチなどの応用製品に使用される金属材料は、室温よりも高い使用温度の環境下でも抵抗値が室温時と大きく変わらないことと、高い引張強さを有することで、信頼性を向上させることができるため、環境温度が変化したときの抵抗の安定性の指標である、抵抗温度係数(TCR)が小さいことや、引張強さが高いことが要求される。
ここで、抵抗温度係数(TCR)は、温度による抵抗値の変化の大きさを1℃当たりの百万分率(ppm)で表したものであり、TCR(×10-6/℃)={(R-R)/R}×{1/(T-T)}×10という式で表される。式中、Tは試験温度(℃)、Tは基準温度(℃)、Rは試験温度Tにおける抵抗値(Ω)、Rは基準温度Tにおける抵抗値(Ω)を示す。特に、Cu-Mn-Ni合金やCu-Mn-Sn合金は、TCRが非常に小さい合金材料として広く用いられている。
例えば、特許文献1には、チップ抵抗器に用いられるCu-Mn-Ni合金が記載されており、Mnを21.0質量%以上30.2質量%以下の範囲で含有し、かつNiを8.2質量%以上11.0質量%以下の範囲で含有する銅合金において、20℃から60℃までの温度範囲におけるTCRの値x[ppm/℃]を-10≦x≦-2または2≦x≦10の範囲にし、かつ、体積抵抗率ρを80×10-8[Ω・m]以上115×10-8[Ω・m]以下にする銅合金が記載されている。特許文献1の銅合金では、抵抗温度係数(TCR)の大きさを制御することで、抵抗材料のジュール熱が高くなるのを抑制することができるとしている。
他方で、電気・電子機器用のコネクタやリードフレームなどの用途に用いられる銅合金として、コルソン銅合金(Cu-Ni-Si合金)が知られている。
例えば、特許文献2には、1.0~4.5質量%のNi及び0.2~1.0質量%のSiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、圧延平行断面における単位面積当たりの結晶粒個数に対して、結晶粒径が10μm以下の結晶粒個数の割合が15%以上、20μm以上の結晶粒個数の割合が15%以上である曲げ加工性及び応力緩和特性に優れたCu-Ni-Si系合金が開示されている。特許文献2の銅合金では、Cu-Ni-Si系合金の結晶粒径を制御することで、応力緩和特性を向上することができるとしている。
特開2017-53015号公報 特開2013-95977号公報
しかしながら、特許文献1の銅合金は、体積抵抗率ρが80×10-8[Ω・m]以上115×10-8[Ω・m]以下であり、チップ抵抗器としては小さい体積抵抗率を有するものであるが、この銅合金は、銅合金の体積抵抗率がジュール発熱を十分に抑制できるほどには低くないため、コネクタやリードフレーム、リレー、スイッチなどのような、高い電流密度の電流が流れる部材には、通電量が少ない場合や発熱の影響が無い場合などの非常に限定的な場合を除いて、用いることができないものであった。
また、特許文献2の銅合金は、抵抗温度係数によって表される、環境温度が変化したときの抵抗の安定性については何ら検討されておらず、ましてや、高い引張強さと小さい抵抗温度係数とをバランスよく両立させることについては開示もなく、これらの特性の評価結果も示されていない。
したがって、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さく、それによりコネクタやリードフレームなどの応用製品の信頼性を高めることが可能な、銅合金板材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材において、少なくとも、EBSD法を用いて測定されるGROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を20%以上82%以下の範囲にすることで、銅合金板材の抵抗温度係数(TCR)が小さくなることを見出した。さらに、本発明者らは、このような銅合金板材における引張強さを500MPa以上とすることで、高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さい銅合金板材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、前記銅合金板材の圧延方向および厚さ方向を含む断面にて、EBSD法を用いてGROD値を測定したとき、測定した前記GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲であり、引張強さが500MPa以上であり、かつ、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)が、3000ppm/℃以下である、銅合金板材。
(2)前記合金組成は、Mg、Sn、Zn、P、CrおよびZrからなる群から選択される、少なくとも1種の成分を、合計で0.10質量%以上1.00質量%以下の範囲でさらに含有する、上記(1)に記載に記載の銅合金板材。
(3)上記(1)または(2)に記載の銅合金板材の製造方法であって、前記合金組成と同等の合金組成を有する銅合金素材に、溶解鋳造工程[工程1]、均質化工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、面削工程[工程4]、第一冷間圧延工程[工程5]、第一熱処理工程[工程6]、第二熱処理工程[工程8]および仕上げ工程[工程9]を順次行ない、前記第一熱処理工程[工程6]では、加熱温度が750℃以上1000℃以下の範囲であり、前記第二熱処理工程[工程8]では、加熱温度が450℃以上550℃以下の範囲であり、前記仕上げ工程[工程9]が、2パス以上の仕上げ冷間圧延[工程9-1]と、前記仕上げ冷間圧延[工程9-1]の各パスの後に行なわれる仕上げ熱処理[工程9-2]によって構成され、前記仕上げ冷間圧延[工程9-1]は、1パスあたりの部分加工率の最大値が4%以上10%以下の範囲、かつ総加工率が10%以上40%以下の範囲であり、前記仕上げ熱処理[工程9-2]は、加熱温度が300℃以上400℃以下の範囲である、銅合金板材の製造方法。
(4)前記第一熱処理工程[工程6]および前記第二熱処理工程[工程8]の間に、第二冷間圧延工程[工程7]をさらに行ない、前記第二冷間圧延工程[工程7]では、総加工率を5%以上70%以下の範囲とする、上記(3)に記載の銅合金板材の製造方法。
本発明によれば、高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さく、それによりコネクタやリードフレームなどの応用製品の信頼性を高めることが可能な、銅合金板材およびその製造方法を提供することができる。
次に、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明は、本発明における実施の形態の例を示したものであって、特許請求の範囲を限定するものではない。
本発明に従う銅合金板材は、NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、前記銅合金板材の圧延方向および厚さ方向を含む断面にて、EBSD法を用いてGROD値を測定したとき、測定した前記GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲であり、引張強さが500MPa以上であり、かつ、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)が、3000ppm/℃以下である。
本発明の銅合金板材は、NiとCoのうち少なくとも一方の成分とSi成分とをそれぞれ適正量含有させるとともに、圧延方向および厚さ方向を含む断面にて、EBSD法を用いてGROD値を測定したとき、測定したGROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を、20%以上82%以下の範囲にすることが好ましい。特に、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を20%以上にすることで、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)を小さくすることができる。また、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を82%以下にすることで、銅合金板材の引張強さ、特に引張強さを高めることができる。特に、本発明では、銅合金板材の引張強さを500MPa以上としたときに、高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さい銅合金板材を得ることができる。したがって、本発明の銅合金板材によることで、高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)の小さい、銅合金板材およびその製造方法を提供することができる。その結果、コネクタやリードフレームなどの応用製品における信頼性を高めることができる。
[1]銅合金板材の合金組成
本発明の銅合金板材の合金組成は、必須含有成分として、NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有するものである。
以下、銅合金板材の合金組成の限定理由について説明する。
(NiとCo:少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下)
Ni(ニッケル)とCo(コバルト)は、ともに銅合金板材の引張強さを高める作用を有する重要な成分である。ここで、NiとCoの合計含有量が0.50質量%より少ないと、銅合金板材の引張強さが低下し、抵抗温度係数(TCR)も高くなる。また、NiとCoの合計含有量が5.00質量%を超えると、鋳塊に粗大な晶出物が発生しやすくなることで、後述の第一熱処理工程[工程6]の後に晶出物が未固溶のまま残存するため、銅合金板材に対して曲げ加工などの機械加工を行なった際に、クラックの起点になりやすい。さらに、NiとCoの合計含有量が5.00質量%を超えると、銅合金板材の材料コストも高くなりやすい。したがって、NiとCoのうち一方又は両方の成分を添加し、これらを合計で0.50質量%以上5.00質量%以下の範囲で含有することが必要である。特に、NiとCoの合計含有量は、1.50質量%以上5.00質量%以下の範囲にすることが好ましく、2.50質量%以上5.00質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Si:0.10質量%以上1.50質量%以下)
Si(珪素)は、銅合金板材の引張強さを高める作用を有する重要な成分である。かかる作用を発揮させる観点から、Si含有量を0.10質量%以上とすることが必要である。他方で、Si含有量が1.50質量%を超えると、鋳塊に粗大な晶出物が発生しやすくなることで、後述の第一熱処理工程[工程6]の後に晶出物が未固溶のまま残存するため、銅合金板材に対して曲げ加工などの機械加工を行なった際に、クラックの起点になりやすい。したがって、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有することが必要である。特に、Siの含有量は、0.20質量%以上1.40質量%以下の範囲にすることが好ましく、0.30質量%以上1.30質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
<任意添加成分>
さらに、本発明の銅合金板材は、任意添加成分として、Mg、Sn、Zn、P、CrおよびZrからなる群から選択される、少なくとも1種の成分を、合計で0.10質量%以上1.00質量%以下の範囲でさらに含有することができる。
(Mg:0.10質量%以上0.30質量%以下)
Mg(マグネシウム)は、耐応力緩和特性を向上させる作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Mg含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Mg含有量が0.30質量%を超えると、導電率が低下する傾向がある。このため、Mg含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
(Sn:0.10質量%以上0.30質量%以下)
Sn(錫)は、耐応力緩和特性を向上する作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Sn含有量は0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Sn含有量が0.30質量%を超えると、導電性が低下する傾向がある。このため、Sn含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
(Zn:0.10質量%以上0.50質量%以下)
Zn(亜鉛)は、Snめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Zn含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Zn含有量が0.50質量%を超えると、導電性が低下する傾向がある。このため、Zn含有量は、0.10質量%以上0.50質量%以下の範囲にあることが好ましい。
(P:0.10質量%以上0.30質量%以下)
P(リン)は、粒界上のSi化合物の析出を抑制するとともに、銅合金板材の引張強さを高める作用を有する成分である。この作用を発揮させる場合には、P含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、P含有量が0.30質量%を超えると、導電性が低下する傾向がある。このため、P含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
(Cr:0.10質量%以上0.30質量%以下)
Cr(クロム)は、溶体化熱処理における結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する成分である。この作用を発揮させる場合には、Cr含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が0.30質量%を超えると、鋳造時にCrを含んだ粗大な晶出物を生じ易くなることで、クラックの起点が形成されやすくなる。このため、Cr含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
(Zr:0.10質量%以上0.20質量%以下)
Zr(ジルコニウム)は、溶体化熱処理における結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する成分である。この作用を発揮させる場合には、Zr含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。また、Zr含有量が0.20質量%を超えると、鋳造時にZrを含んだ粗大な晶出物を生じ易くなることで、クラックの起点が形成されやすくなる。このため、Zr含有量は、0.10質量%以上0.20質量%以下の範囲にあることが好ましい。
(任意添加成分の合計含有量:0.10質量%以上1.00質量%以下)
これらの任意添加成分は、上述した任意添加成分による効果を得るため、合計で0.10質量%以上含有することが好ましい。他方で、これらの任意添加成分は、多量に含むと必須含有成分との間で化合物を生じやすくなるため、合計で1.00質量%以下にすることが好ましい。
(残部:Cuおよび不可避不純物)
銅合金板材を構成するCu合金は、上述した成分以外は、残部がCu(銅)および不可避不純物からなる合金組成を有する。なお、ここでいう「不可避不純物」とは、おおむね金属製品において、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、金属製品の特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物である。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、硫黄(S)、炭素(C)、酸素(O)などの非金属元素や、アンチモン(Sb)などの金属元素などが挙げられる。なお、これらの成分含有量の上限は、例えば上記成分ごとに0.05質量%、上記成分の総量で0.20質量%とすることができる。
[2]銅合金板材のGROD値およびその面積割合
GROD(Grain Reference Orientation Deviation)値は、EBSD法の結晶方位解析データから得られる値であり、同一結晶粒内の基準点に対する方位差を示す値である。ここで、基準点は、結晶粒内においてKAM値が最も小さい測定点である。また、KAM(Kernel Average Misorientation)値は、測定点とその隣接する全ての測定点との間の結晶方位差の平均値である。
本発明の銅合金板材は、銅合金板材の圧延方向および厚さ方向を含む断面にて、EBSD法を用いてGROD値を測定したとき、測定したGROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲である。これにより、銅合金板材の転位が十分に安定化するため、抵抗温度係数(TCR)を小さくすることができる。ここで、この面積割合が20%より小さいと、抵抗温度係数(TCR)が大きくなる。また、この面積割合が82%より大きいと、銅合金板材の引張強さが低下する。このため、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合は、20%以上82%以下の範囲にある必要がある。特に、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合は、30%以上70%以下の範囲にすることが好ましく、40%以上60%以下の範囲にすることがより好ましい。
GROD値は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得ることができる。ここで、「EBSD」とは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査型電子顕微鏡(SEM)内で試料である銅板材に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。また、「OIM Analysis」とは、EBSDにより測定されたデータの解析ソフトである。測定は、約400μm×800μmの視野において測定点間の距離(以下、ステップサイズともいう)0.5μmで行なう。測定領域は、銅合金板材を樹脂埋めしたものについて、機械研磨およびバフ研磨(コロイダルシリカ)で仕上げされた、圧延方向に沿った断面について行なうことができる。ここで、板厚が800μm未満の場合には、400μm×800μmと同じ大きさの測定面になるように、圧延方向に沿った測定範囲を広げてもよい。ここで、信頼性指数CI値が0.1以上となる測定点を解析の対象とする。
そして、方位差が15°以上となる境界を結晶粒界と定義し、この結晶粒界によって結晶粒の輪郭を画定したときに、同じ結晶粒の中でKAM値が最も小さい測定点を基準点として、結晶粒ごとに基準点に対する方位差を、解析対象となる全ての測定点について求めることで、解析対象となる測定点におけるGROD値をそれぞれ求めることができる。このとき、GROD値を求めた測定点の総数に対する、GROD値が0°以上5°以下の範囲である測定点の数の割合から、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を求めることができる。
[3]銅合金板材の引張強さ
本発明の銅合金板材は、圧延方向と平行な方向に引っ張ったときの引張強さが500MPa以上であることが必要である。これにより、銅合金板材をコネクタやリードフレーム、リレー、スイッチなどの応用製品に用いた場合であっても、所望の引張強さが得られるため、これらの用途における銅合金板材の信頼性を高めることができる。
ここで、引張強さの測定は、圧延方向と平行な方向が長手方向になるように切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の2本の試験片で行ない、これら2本の試験片から得られた、長手方向に引っ張ったときの引張強さの平均値を、引張強さの測定値とする。
[4]銅合金板材の抵抗温度係数(TCR)
本発明の銅合金板材は、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)が、3000ppm/℃以下であることが必要である。これにより、常温(例えば20℃)から高温(例えば150℃)までの広い温度範囲での抵抗温度係数が小さくなることで、銅合金板材が、常温と使用温度の両方において同等の電気抵抗を有するため、銅合金板材をコネクタやリードフレーム、リレー、スイッチなどの応用製品に用いたときの信頼性を高めることができる。
ここで、抵抗温度係数(TCR)は、温度による抵抗値の変化の大きさを、1℃当たりの百万分率で表したものである。抵抗温度係数(TCR)の測定は、JIS C2526に規定された方法に準じた四端子法によって、150℃での抵抗値R150℃[mΩ]と20℃での抵抗値R20℃[mΩ]を求め、これらR150℃およびR20℃の値から、TCR={(R150℃[mΩ]-R20℃[mΩ])/R20℃[mΩ]}×{1/(150[℃]-20[℃])}×10の式を用いて、抵抗温度係数(ppm/℃)を算出することで、行なうことができる。ここで、R150℃とR20℃は、銅合金板材を幅10mm、長さ300mmに切断して供試材を作製し、電圧端子間距離を200mm、測定電流を100mAとして、JIS C2526に規定された方法に準じた四端子法によって、供試材の温度を20℃および150℃にしたときの電圧をそれぞれ測定することで、求めることができる。
[5]銅合金板材の製造方法の一例
上述した銅合金板材は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御することによって実現することができ、その製造プロセスは特に限定されない。その中でも、このような高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さい銅合金板材を得ることが可能な、製造プロセスの一例として、以下の方法を挙げることができる。
本発明の銅合金板材の製造方法の一例は、上述した銅合金板材の合金組成と同等の合金組成を有する銅合金素材に、少なくとも、溶解鋳造工程[工程1]、均質化工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、面削工程[工程4]、第一冷間圧延工程[工程5]、第一熱処理工程[工程6]、第二熱処理工程[工程8]および仕上げ工程[工程9]を順次行なうものである。このうち、第一熱処理工程[工程6]では、加熱温度を750℃以上1000℃以下の範囲とする。また、第二熱処理工程[工程8]では、加熱温度を450℃以上550℃以下の範囲とする。また、仕上げ工程[工程9]は、2パス以上の仕上げ冷間圧延[工程9-1]と、仕上げ冷間圧延[工程9-1]の各パスの後に行なわれる仕上げ熱処理[工程9-2]によって構成される。このうち、仕上げ冷間圧延[工程9-1]は、1パスあたりの部分加工率の最大値が4%以上10%以下の範囲、かつ総加工率が10%以上40%以下の範囲とする。また、仕上げ熱処理[工程9-2]は、加熱温度が300℃以上400℃以下の範囲とする。
(i)溶解鋳造工程[工程1]
溶解鋳造工程[工程1]は、上述の合金組成と同等の合金組成を有する銅合金素材を溶融させ、これを鋳造することによって、所定形状(例えば厚さ30mm、幅100mm、長さ150mm)の鋳塊(インゴット)を作製する。溶解鋳造工程[工程1]は、例えば高周波溶解炉を用いて、大気中、不活性ガス雰囲気中または真空中で、銅合金素材を溶融および鋳造することが好ましい。なお、銅合金素材の合金組成は、製造の各工程において、添加成分によっては溶解炉に付着したり揮発したりして製造される銅合金板材の合金組成とは必ずしも完全には一致しない場合があるが、銅合金板材の合金組成と実質的に同じ合金組成を有している。
(ii)均質化工程[工程2]
均質化工程[工程2]は、溶解鋳造工程[工程1]を行なった後の鋳塊に対して、熱処理を行なう工程である。均質化工程[工程2]における熱処理の条件は、通常行なわれている条件であればよく、特に限定はしない。ここでの熱処理の条件の一例を挙げると、加熱温度が850℃以上1000℃以下の範囲、加熱時間が1時間以上6時間以下の範囲である。
(iii)熱間圧延工程[工程3]
熱間圧延工程[工程3]は、均質化工程[工程2]を行なった鋳塊に対して、所定の厚さになるまで熱間圧延を施して熱延材を作製する工程である。熱間圧延工程[工程3]では、例えば、圧延温度を700℃以上とし、かつ総加工率(合計圧下率)を50%以上とすることが好ましい。
ここで、「加工率」(圧下率)は、圧延前の断面積から圧延後の断面積を引いた値を圧延前の断面積で除して100を乗じ、パーセントで表した値であり、下記式で表される。
[加工率]={([圧延前の断面積]-[圧延後の断面積])/[圧延前の断面積]}×100(%)
熱間加工工程[工程3]後の熱延材は、冷却することが好ましい。ここで、熱延材に対する冷却の手段は、特に限定されないが、例えば結晶粒の粗大化を起こり難くすることができる観点では、できるだけ冷却速度を大きくする手段であることが好ましく、例えば水冷などの手段により、冷却速度を10℃/秒以上にすることが好ましい。
(iv)面削工程[工程4]
面削工程[工程4]は、熱延材に対して表面を削り取る工程である。面削工程[工程4]を行なうことで、熱間加工工程[工程3]で生じた表面の酸化膜や欠陥を除去することができる。面削工程[工程4]における面削の条件は、通常行なわれている条件であればよく、特に限定されない。面削により熱延材の表面から削り取る量は、熱間加工工程[工程3]の条件や、熱延材の表面の酸化状態に基づいて適宜調整することができ、例えば熱延材の表裏両面からそれぞれ0.5mm~5mm程度とすることができる。
(v)第一冷間圧延工程[工程5]
第一冷間圧延工程[工程5]は、面削工程[工程4]を行なった後の熱延材に、冷間圧延を施す工程である。第一冷間圧延工程[工程5]における圧延は、製品板厚に合わせて任意の圧下率で行なうことができ、例えば、総加工率を50%以上99.9%以下の範囲にすることができる。
(vi)第一熱処理工程[工程6]
第一熱処理工程[工程6]は、第一冷間圧延工程[工程5]を行なった後の冷延材に対して、合金組成に応じて熱処理を施す工程である。
第一熱処理工程[工程6]での熱処理は、加熱温度を750℃以上1000℃以下の範囲とすることによって、添加元素成分を固溶させることができるため、後述する第二熱処理工程[工程8]での析出硬化量を高めることができ、その結果、得られる銅合金板材の引張強さを高めることができる。特に、第一熱処理工程[工程6]での熱処理は、上記加熱温度での加熱時間を1秒以上60秒以下の範囲とすることによって、より多くの添加元素成分を固溶させて、第二熱処理工程[工程8]での析出硬化量をより一層高めることができる。他方で、第一熱処理工程[工程6]での熱処理の加熱温度が750℃より低い場合には、Ni成分やSi成分が十分固溶せず、それにより第二熱処理工程[工程8]での析出量が不足することで、第二熱処理工程[工程8]での析出硬化量が少なくなるため、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。また、第一熱処理工程[工程6]での熱処理の加熱温度が1000℃より高い場合には、結晶粒の粒径が粗大化すること等によって、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。
(vii)第二冷間圧延工程[工程7]
第二冷間圧延工程[工程7]は、第一熱処理工程[工程6]を行なった後の冷延材に対して、さらに冷間圧延を施す工程であり、任意の工程である。すなわち、本発明の銅合金板材の製造方法では、第一熱処理工程[工程6]および第二熱処理工程[工程8]の間に、第二冷間圧延工程[工程7]をさらに行なうことが好ましい。これにより、第二熱処理工程[工程8]での析出硬化量をより高めることができる。他方で、本発明の銅合金板材の製造方法では、第一熱処理工程[工程6]を行なった後、第二冷間圧延工程[工程7]を行なわずに、第二熱処理工程[工程8]を行なってもよい。
ここで、第二冷間圧延工程[工程7]における圧延は、所望とされる製品板厚に合わせて任意の加工率(圧下率)で行なうことができ、例えば、総加工率を5%以上70%以下の範囲にすることができる。
(viii)第二熱処理工程[工程8]
第二熱処理工程[工程8]は、第二冷間圧延工程[工程7]を行なった後の冷延材に対して熱処理を施して時効硬化させる熱処理の工程である。
ここで、第二熱処理工程[工程8]における加熱温度は、450℃以上550℃以下の範囲とする。このとき、加熱温度が450℃より低い場合には、析出量が不足することによって、析出硬化量が少なくなるため、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。また、加熱温度が550℃より高い場合には、析出物が粗大化すること等によって、析出硬化能が低くなるため、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。したがって、第二熱処理工程[工程8]における熱処理温度は、450℃以上550℃以下の範囲にすることが必要である。特に、より高い引張強さを得る観点では、第二熱処理工程[工程8]における熱処理温度は、470℃以上530℃以下にすることが好ましい。
また、第二熱処理工程[工程8]における加熱時間は、保持時間は1時間以上7時間以下の範囲であることが好ましい。このとき、加熱時間が1時間より短い場合や、7時間よりも長い場合には、析出物の粗大化により析出硬化量が少なくなること等によって、得られる銅合金板材の引張強さが小さくなる。したがって、第二熱処理工程[工程8]における加熱時間は、1時間以上7時間以下の範囲であることが好ましい。
第二熱処理工程[工程8]後の冷延材は、すぐに冷却することが好ましい。ここで、熱延材に対する冷却の手段は、特に限定されず、水冷や空冷、自然冷却などの手段を用いることができる。例えば、水冷による冷却の場合、冷却速度を50℃/秒以上にしてもよい。また、自然冷却による冷却の場合、冷却速度を50℃/h以上100℃/h以下の範囲にしてもよい。
(ix)仕上げ工程[工程9]
仕上げ工程[工程9]は、冷却後の冷延材に対して冷間圧延と熱処理を1セットとして2セット以上行ない、板材の引張強さや抵抗温度係数(TCR)について調質を行なう仕上げの工程である。より具体的に、仕上げ工程[工程9]は、2パス以上の仕上げ冷間圧延[工程9-1]と、仕上げ冷間圧延[工程9-1]の各パスの後に行なわれる仕上げ熱処理[工程9-2]によって構成される。このような仕上げ冷間圧延[工程9-1]と仕上げ熱処理[工程9-2]を2セット以上行なうことで、冷間圧延によって導入された転位を仕上げ熱処理によって安定化させることで、転位を高密度に分散させることができる。このように転位を高密度に分散させることで、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を20%以上82%以下の範囲に制御することができること等により、得られる銅合金板材における引張強さを高め、かつ抵抗温度係数(TCR)を低くすることができる。他方で、仕上げ冷間圧延[工程9-1]と仕上げ熱処理[工程9-2]を1セットのみ行なった場合は、転位が高密度に分散されないため、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。
このうち、仕上げ冷間圧延[工程9-1]は、1パスあたりの部分加工率の最大値が4%以上10%以下の範囲、かつ総加工率が10%以上40%以下の範囲である。ここで、「1パスあたりの部分加工率」とは、仕上げ冷間圧延[工程9-1]に含まれる1つの圧延パスを行なう前の板材の断面積から、当該圧延パスを行なった後の板材の断面積を引いて得られる値について、当該圧延パスを行なう前の断面積で除して100を乗じた値(%)である。また、「総加工率」とは、仕上げ冷間圧延[工程9-1]を最初に行なう前の冷延材の断面積から、仕上げ冷間圧延[工程9-1]を最後に行なった後の断面積を引いて得られる値について、仕上げ冷間圧延[工程9-1]を最初に行なう前の冷延材の断面積で除して100を乗じた値(%)である。このうち、部分加工率は、2パス以上のうちの少なくとも1パスで、部分加工率が4%以上10%以下の範囲の圧延を行なっていれば、それ以外のパスでは4%未満の加工率で行なってもよい。このとき、1パスあたりの部分加工率の最大値が4%未満では、繰り返し熱処理を行なっても、引張強さを高める効果は小さくなるため、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。他方で、仕上げ冷間圧延[工程9-1]では、1パスあたりの部分加工率が10%を超える圧延は行わないようにする。1パスあたりの部分加工率が10%を超える圧延を行なうと、転位量が多くなって十分に安定化することができなくなるため、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が20%より小さくなり、また、抵抗温度係数(TCR)が3000ppm/℃より大きくなる。特に、仕上げ熱処理[工程9-2]の回数を少なくすることで、引張強さをより高める観点では、仕上げ冷間圧延[工程9-1]は、5パス以下で行なうことが好ましく、2パスで行なうことがより好ましい。
また、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率が10%未満の場合、加工硬化量が少なくなるため、銅合金板材の引張強さを十分に高めることができないため、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。他方で、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率が40%を超える場合、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が20%を下回ることで、抵抗温度係数(TCR)が3000ppm/℃より大きくなる。したがって、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率は、10%以上40%以下の範囲にすることが必要である。特に、引張強さと抵抗温度係数のバランスを高める観点では、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率は、10%以上30%以下の範囲にすることが好ましく、17%以上30%以下の範囲にすることがより好ましい。
仕上げ熱処理[工程9-2]は、それぞれ、加熱温度が300℃以上400℃以下の範囲である。特に、より高い引張強さを得る観点では、仕上げ熱処理[工程9-2]における加熱温度は、300℃以上380℃以下の範囲であることが好ましい。このとき、加熱温度が300℃未満では、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が20%を下回り、それにより抵抗温度係数(TCR)が3000ppm/℃より大きくなる。一方、加熱温度が400℃より高いと、転位の過剰な回復や析出物の粗大化が徐々に進行すること等によって、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。さらに、第一熱処理工程[工程6]での熱処理における加熱温度が1000℃以下より高く、かつ仕上げ熱処理[工程9-2]における加熱温度が400℃より高いと、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が82%より高くなる。なお、仕上げ熱処理[工程9-2]における加熱時間は、特に限定されないが、例えば10秒以上60秒以下の範囲にすることができる。
[6]銅合金板材の用途
本発明の銅合金板材は、電気・電子部品などに用いるのに適している。より具体的には、特に小型化および軽薄化の必要がある、電気・電子部品用のコネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチなどの、高い電流密度の電流が流れる応用製品に用いるのに適している。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら本発明例に限定されるものではない。
(本発明例1~17および比較例1~13)
表1に示す合金組成を有する種々の銅合金素材を高周波溶解炉で溶解し、これを大気中で冷却して鋳造する溶解鋳造工程[工程1]を行なって鋳塊を得た。この鋳塊に対して、850℃以上1000℃以下の加熱温度および1時間の加熱時間で熱処理を行なう均質化工程[工程2]を行なった後、直ちに、総加工率が50%以上になるように、鋳塊の長手方向が圧延方向になるように圧延する熱間圧延工程[工程3]を行なって熱延材を得た。その後、水冷により室温まで冷却した。
冷却後の熱延材に対して、面削により表裏両面から0.5mm~5mm程度を削り取って表面の酸化膜を除去する面削工程[工程4]を行なった後、総加工率が90%になる条件で、熱延材の長手方向が圧延方向になるようにして圧延する、第一冷間圧延工程[工程5]を行なった。
第一冷間圧延工程[工程5]を行なった後の圧延材に対して、表2に記載される条件で熱処理を行なう第一熱処理工程[工程6]を行ない、次いで、表2に記載される総加工率[%]の条件で、圧延材の長手方向が圧延方向になるようにして圧延する第二冷間圧延工程[工程7]を行なった。
第二冷間圧延工程[工程7]を行なった後の圧延材に対して、表2に記載される加熱温度および加熱時間で熱処理を行なう第二熱処理工程[工程8]を行ない、すぐに水冷により室温まで冷却した。
冷却後の圧延材について、仕上げ工程[工程9]として、表2に記載されるパス数と1パスあたりの部分加工率で冷間圧延を行なう仕上げ冷間圧延[工程9-1]を行ない、仕上げ冷間圧延[工程9-1]の各パスの後に、表2に記載される加熱温度および加熱時間で熱処理を行なう仕上げ熱処理[工程9-2]を行なった。このとき、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率は、表2に記載されるとおりであった。
なお、表1では、銅(Cu)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Si(珪素)以外の構成成分を、任意添加成分として記載した。また、表1では、銅合金素材の合金組成に含まれない成分の欄には横線「-」を記載し、該当する成分を含まない、または含有していたしても検出限界値未満であることを明らかにした。
[各種測定および評価方法]
上記本発明例および比較例に係る銅合金板材を用いて、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
[1]銅合金板材のGROD値およびその面積割合
銅合金板材のGROD値は、本発明例および比較例で得られた銅合金板材に対して、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得た。測定は、約400μm×800μmの視野において測定点間の距離(以下、ステップサイズともいう)0.5μmで行なった。測定領域は、銅合金板材を樹脂埋めしたものについて、機械研磨およびバフ研磨(コロイダルシリカ)で仕上げされた、圧延方向および厚さ方向を含む断面について行なった。ここで、板厚が800μm未満の場合には、400μm×800μmと同じ大きさの測定面になるように、圧延方向に沿った測定範囲を広げてもよい。解析ソフトによる解析は、信頼性指数CI値が0.1以上となる測定点を解析対象とした。そして、15°以上の方位差のある境界を結晶粒界と定義し、この結晶粒界によって結晶粒の輪郭を画定したときに、結晶粒の中でKAM値が最小である測定点を結晶粒ごとの基準点として、これらの基準点に対する方位差を解析対象となる全ての測定点について求めることで、解析対象となる測定点におけるGROD値をそれぞれ算出した。このようにして得られる、GROD値を求めた測定点の総数に対する、GROD値が0°以上5°以下の範囲である測定点の数の割合から、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を求めた。なお、本実施例では、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲であるものを合格レベルとした。結果を表3に示す。
[2]銅合金板材の引張強さの測定
引張強さの測定は、圧延方向に対して平行な方向が長手方向になるように供試材を切り出した、JIS Z2241に規定されている13B号の2本の試験片で行ない、2本の試験片から得られた引張強さの平均値を測定値とした。ここで、試験片は、板厚が0.3mmの板材を用いて作製した。本実施例では、引張強さが500MPa以上を合格レベルとした。結果を表3に示す。
[3]抵抗温度係数(TCR)の測定
本発明例1~17および比較例1~13について、得られた厚さ0.3mmの銅合金板材を幅10mm、長さ300mmに切断し、供試材を作製した。
抵抗温度係数(TCR)の測定は、電圧端子間距離を200mm、測定電流を100mAとして、JIS C2526に規定された方法に準じた四端子法によって、供試材の温度を150℃に加熱したときの電圧を測定し、得られた値から150℃での抵抗値R150℃[mΩ]を求めた。次いで、供試材の温度を20℃に冷却したときの電圧を測定し、得られた値から20℃での抵抗値R20℃[mΩ]を求めた。そして、得られる抵抗値であるR150℃およびR20℃の値から、TCR={(R150℃[mΩ]-R20℃[mΩ])/R20℃[mΩ]}×{1/(150[℃]-20[℃])}×10の式から、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(ppm/℃)を算出した。なお、本実施例では、抵抗温度係数(TCR)が3000ppm/℃以下を合格レベルとした。結果を表3に示す。
Figure 0007307297000001
Figure 0007307297000002
Figure 0007307297000003
表1~表3の結果から、本発明例1~17の銅合金板材は、合金組成が本発明の適正範囲内であるとともに、EBSD法を用いて測定されるGROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合は20%以上82%以下の範囲であり、このときに、引張強さが500MPa以上であり、かつ、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)も3000ppm/℃以下と評価されるものであった。
したがって、本発明例1~17の銅合金板材は、高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さいものであった。
特に、本発明例5の銅合金板材は、本発明例4の銅合金板材と比べて、仕上げ冷間圧延[工程9-1]での1パスあたりの部分加工率の最大値が大きくなり、仕上げ熱処理[工程9-2]の回数が少なくなったことで、引張強さをより高めることができたと考えられる。
また、本発明例6の銅合金板材は、第二熱処理工程[工程8]における加熱温度が500℃のときに、加熱温度が450℃や550℃である本発明例5、7の銅合金板材と比べて高い引張強さが得られたため、より高い引張強さを得る観点では、第二熱処理工程[工程8]における加熱温度を500℃の近傍にすることが好ましいと考えられる。
また、本発明例8の銅合金板材は、仕上げ冷間圧延[工程9-1]での総加工率が17%のときに、この総加工率が13%である本発明例6の銅合金板材と比べて高い引張強さが得られ、かつ、この総加工率が38%である本発明例9の銅合金板材と比べて抵抗温度係数(TCR)が小さくなったため、引張強さと抵抗温度係数のバランスにより優れた銅合金板材を得る観点では、この総加工率を17%の近傍にすることが好ましいと考えられる。
また、本発明例10の銅合金板材は、仕上げ熱処理[工程9-2]での加熱温度が300℃のときに、この加熱温度が350℃である本発明例6の銅合金板材や、この加熱温度が400℃である本発明例11の銅合金板材と比べて、高い引張強さが得られた。本発明例6、11の銅合金板材の引張強さが伸び悩んだ原因として、仕上げ熱処理[工程9-2]での加熱温度が高いことで、冷延材がやや軟化したことが考えられる。従って、より高い引張強さを得る観点では、仕上げ熱処理[工程9-2]での加熱温度を、300℃の近傍にすることが好ましいと考えられる。
また、本発明例11の銅合金板材は、仕上げ熱処理[工程9-2]での加熱温度が400℃のときに、この加熱温度が350℃である本発明例6の銅合金板材や、この加熱温度が300℃である本発明例6の銅合金板材と比べて、抵抗温度係数(TCR)が小さくなった。そのため、より小さい抵抗温度係数(TCR)を得る観点では、仕上げ熱処理[工程9-2]での加熱温度を、400℃の近傍にすることが好ましいと考えられる。
また、本発明例14、15の銅合金板材は、NiとCoの合計含有量や、第二熱処理工程[工程8]における加熱温度、仕上げ冷間圧延[工程9-1]での総加工率がいずれも好ましい範囲内にあったため、引張強さと抵抗温度係数により優れた銅合金板材を得ることができたと考えられる。
他方で、比較例1~13の銅合金板材は、いずれも、合金組成、引張強さ、およびGROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合のうち、少なくともいずれかが本発明の適正範囲外であるため、引張強さと抵抗温度係数(TCR)のうち一方または両方が合格レベルに達していないものであった。
特に、比較例1の銅合金板材は、第二熱処理工程[工程8]における加熱温度が本願発明の範囲より低かったため、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例2の銅合金板材は、第二熱処理工程[工程8]における加熱温度が本願発明の範囲より高かったため、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例3の銅合金板材は、NiとCoの合計含有量が本願発明の範囲より少なかったため、抵抗温度係数(TCR)が合格レベルに達していないものであった。
また、比較例4の銅合金板材は、Si含有量が本願発明の範囲より少なかったため、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例5の銅合金板材は、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率が本願発明の範囲より低いため、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例6の銅合金板材は、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率が本願発明の範囲より高かったことで、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が本願発明の範囲より低く、その結果、抵抗温度係数(TCR)が合格レベルに達していないものであった。
また、比較例7の銅合金板材は、仕上げ熱処理[工程9-2]における加熱温度が本願発明の範囲より低かったことで、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が本願発明の範囲より低く、その結果、抵抗温度係数(TCR)が合格レベルに達していないものであった。
また、比較例8の銅合金板材は、仕上げ熱処理[工程9-2]における加熱温度が本願発明の範囲より高いため、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例9の銅合金板材は、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における1パスあたりの部分加工率の最大値が本願発明の範囲より高いことで、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が本願発明の範囲より低く、その結果、抵抗温度係数(TCR)が合格レベルに達していないものであった。
また、比較例10の銅合金板材は、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における1パスあたりの部分加工率の最大値が本願発明の範囲より低いことで、仕上げ熱処理[工程9-2]の回数が多く、その結果、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例11の銅合金板材は、第一熱処理工程[工程6]における加熱温度が本願発明の範囲より低かったことで、時効強度が得られなかったと考えられ、その結果、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例12の銅合金板材は、第一熱処理工程[工程6]における加熱温度が本願発明の範囲より高かったことで、結晶粒の粗大化を招いたと考えられ、その結果、引張強さが合格レベルに達していないものであった。
また、比較例13の銅合金板材は、第一熱処理工程[工程6]における加熱温度が本願発明の範囲より高く、仕上げ冷間圧延[工程9-1]における総加工率が本願発明の範囲より低く、かつ、仕上げ熱処理[工程9-2]における加熱温度が本願発明の範囲より高かったことで、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が本願発明の範囲より高く、その結果、引張強さが合格レベルに達していないものであった。

Claims (2)

  1. NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、
    前記銅合金板材の圧延方向および厚さ方向を含む断面にて、EBSD法を用いてGROD値を測定したとき、測定した前記GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲であり、
    引張強さが500MPa以上であり、かつ、
    20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)が、3000ppm/℃以下である、銅合金板材。
  2. 前記合金組成は、Mg、Sn、Zn、P、CrおよびZrからなる群から選択される、少なくとも1種の成分を、合計で0.10質量%以上1.00質量%以下の範囲でさらに含有する、請求項1に記載の銅合金板材。
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