JP7307297B1 - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents
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本発明の銅合金板材の合金組成は、必須含有成分として、NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有するものである。
以下、銅合金板材の合金組成の限定理由について説明する。
Ni(ニッケル)とCo(コバルト)は、ともに銅合金板材の引張強さを高める作用を有する重要な成分である。ここで、NiとCoの合計含有量が0.50質量%より少ないと、銅合金板材の引張強さが低下し、抵抗温度係数(TCR)も高くなる。また、NiとCoの合計含有量が5.00質量%を超えると、鋳塊に粗大な晶出物が発生しやすくなることで、後述の第一熱処理工程[工程6]の後に晶出物が未固溶のまま残存するため、銅合金板材に対して曲げ加工などの機械加工を行なった際に、クラックの起点になりやすい。さらに、NiとCoの合計含有量が5.00質量%を超えると、銅合金板材の材料コストも高くなりやすい。したがって、NiとCoのうち一方又は両方の成分を添加し、これらを合計で0.50質量%以上5.00質量%以下の範囲で含有することが必要である。特に、NiとCoの合計含有量は、1.50質量%以上5.00質量%以下の範囲にすることが好ましく、2.50質量%以上5.00質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
Si(珪素)は、銅合金板材の引張強さを高める作用を有する重要な成分である。かかる作用を発揮させる観点から、Si含有量を0.10質量%以上とすることが必要である。他方で、Si含有量が1.50質量%を超えると、鋳塊に粗大な晶出物が発生しやすくなることで、後述の第一熱処理工程[工程6]の後に晶出物が未固溶のまま残存するため、銅合金板材に対して曲げ加工などの機械加工を行なった際に、クラックの起点になりやすい。したがって、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有することが必要である。特に、Siの含有量は、0.20質量%以上1.40質量%以下の範囲にすることが好ましく、0.30質量%以上1.30質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
さらに、本発明の銅合金板材は、任意添加成分として、Mg、Sn、Zn、P、CrおよびZrからなる群から選択される、少なくとも1種の成分を、合計で0.10質量%以上1.00質量%以下の範囲でさらに含有することができる。
Mg(マグネシウム)は、耐応力緩和特性を向上させる作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Mg含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Mg含有量が0.30質量%を超えると、導電率が低下する傾向がある。このため、Mg含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
Sn(錫)は、耐応力緩和特性を向上する作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Sn含有量は0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Sn含有量が0.30質量%を超えると、導電性が低下する傾向がある。このため、Sn含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
Zn(亜鉛)は、Snめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Zn含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Zn含有量が0.50質量%を超えると、導電性が低下する傾向がある。このため、Zn含有量は、0.10質量%以上0.50質量%以下の範囲にあることが好ましい。
P(リン)は、粒界上のSi化合物の析出を抑制するとともに、銅合金板材の引張強さを高める作用を有する成分である。この作用を発揮させる場合には、P含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、P含有量が0.30質量%を超えると、導電性が低下する傾向がある。このため、P含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
Cr(クロム)は、溶体化熱処理における結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する成分である。この作用を発揮させる場合には、Cr含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が0.30質量%を超えると、鋳造時にCrを含んだ粗大な晶出物を生じ易くなることで、クラックの起点が形成されやすくなる。このため、Cr含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下の範囲にあることが好ましい。
Zr(ジルコニウム)は、溶体化熱処理における結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する成分である。この作用を発揮させる場合には、Zr含有量を0.10質量%以上とすることが好ましい。また、Zr含有量が0.20質量%を超えると、鋳造時にZrを含んだ粗大な晶出物を生じ易くなることで、クラックの起点が形成されやすくなる。このため、Zr含有量は、0.10質量%以上0.20質量%以下の範囲にあることが好ましい。
これらの任意添加成分は、上述した任意添加成分による効果を得るため、合計で0.10質量%以上含有することが好ましい。他方で、これらの任意添加成分は、多量に含むと必須含有成分との間で化合物を生じやすくなるため、合計で1.00質量%以下にすることが好ましい。
銅合金板材を構成するCu合金は、上述した成分以外は、残部がCu(銅)および不可避不純物からなる合金組成を有する。なお、ここでいう「不可避不純物」とは、おおむね金属製品において、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、金属製品の特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物である。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、硫黄(S)、炭素(C)、酸素(O)などの非金属元素や、アンチモン(Sb)などの金属元素などが挙げられる。なお、これらの成分含有量の上限は、例えば上記成分ごとに0.05質量%、上記成分の総量で0.20質量%とすることができる。
GROD(Grain Reference Orientation Deviation)値は、EBSD法の結晶方位解析データから得られる値であり、同一結晶粒内の基準点に対する方位差を示す値である。ここで、基準点は、結晶粒内においてKAM値が最も小さい測定点である。また、KAM(Kernel Average Misorientation)値は、測定点とその隣接する全ての測定点との間の結晶方位差の平均値である。
本発明の銅合金板材は、圧延方向と平行な方向に引っ張ったときの引張強さが500MPa以上であることが必要である。これにより、銅合金板材をコネクタやリードフレーム、リレー、スイッチなどの応用製品に用いた場合であっても、所望の引張強さが得られるため、これらの用途における銅合金板材の信頼性を高めることができる。
本発明の銅合金板材は、20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)が、3000ppm/℃以下であることが必要である。これにより、常温(例えば20℃)から高温(例えば150℃)までの広い温度範囲での抵抗温度係数が小さくなることで、銅合金板材が、常温と使用温度の両方において同等の電気抵抗を有するため、銅合金板材をコネクタやリードフレーム、リレー、スイッチなどの応用製品に用いたときの信頼性を高めることができる。
上述した銅合金板材は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御することによって実現することができ、その製造プロセスは特に限定されない。その中でも、このような高い引張強さを有するとともに、抵抗温度係数(TCR)が小さい銅合金板材を得ることが可能な、製造プロセスの一例として、以下の方法を挙げることができる。
溶解鋳造工程[工程1]は、上述の合金組成と同等の合金組成を有する銅合金素材を溶融させ、これを鋳造することによって、所定形状(例えば厚さ30mm、幅100mm、長さ150mm)の鋳塊(インゴット)を作製する。溶解鋳造工程[工程1]は、例えば高周波溶解炉を用いて、大気中、不活性ガス雰囲気中または真空中で、銅合金素材を溶融および鋳造することが好ましい。なお、銅合金素材の合金組成は、製造の各工程において、添加成分によっては溶解炉に付着したり揮発したりして製造される銅合金板材の合金組成とは必ずしも完全には一致しない場合があるが、銅合金板材の合金組成と実質的に同じ合金組成を有している。
均質化工程[工程2]は、溶解鋳造工程[工程1]を行なった後の鋳塊に対して、熱処理を行なう工程である。均質化工程[工程2]における熱処理の条件は、通常行なわれている条件であればよく、特に限定はしない。ここでの熱処理の条件の一例を挙げると、加熱温度が850℃以上1000℃以下の範囲、加熱時間が1時間以上6時間以下の範囲である。
熱間圧延工程[工程3]は、均質化工程[工程2]を行なった鋳塊に対して、所定の厚さになるまで熱間圧延を施して熱延材を作製する工程である。熱間圧延工程[工程3]では、例えば、圧延温度を700℃以上とし、かつ総加工率(合計圧下率)を50%以上とすることが好ましい。
[加工率]={([圧延前の断面積]-[圧延後の断面積])/[圧延前の断面積]}×100(%)
面削工程[工程4]は、熱延材に対して表面を削り取る工程である。面削工程[工程4]を行なうことで、熱間加工工程[工程3]で生じた表面の酸化膜や欠陥を除去することができる。面削工程[工程4]における面削の条件は、通常行なわれている条件であればよく、特に限定されない。面削により熱延材の表面から削り取る量は、熱間加工工程[工程3]の条件や、熱延材の表面の酸化状態に基づいて適宜調整することができ、例えば熱延材の表裏両面からそれぞれ0.5mm~5mm程度とすることができる。
第一冷間圧延工程[工程5]は、面削工程[工程4]を行なった後の熱延材に、冷間圧延を施す工程である。第一冷間圧延工程[工程5]における圧延は、製品板厚に合わせて任意の圧下率で行なうことができ、例えば、総加工率を50%以上99.9%以下の範囲にすることができる。
第一熱処理工程[工程6]は、第一冷間圧延工程[工程5]を行なった後の冷延材に対して、合金組成に応じて熱処理を施す工程である。
第二冷間圧延工程[工程7]は、第一熱処理工程[工程6]を行なった後の冷延材に対して、さらに冷間圧延を施す工程であり、任意の工程である。すなわち、本発明の銅合金板材の製造方法では、第一熱処理工程[工程6]および第二熱処理工程[工程8]の間に、第二冷間圧延工程[工程7]をさらに行なうことが好ましい。これにより、第二熱処理工程[工程8]での析出硬化量をより高めることができる。他方で、本発明の銅合金板材の製造方法では、第一熱処理工程[工程6]を行なった後、第二冷間圧延工程[工程7]を行なわずに、第二熱処理工程[工程8]を行なってもよい。
第二熱処理工程[工程8]は、第二冷間圧延工程[工程7]を行なった後の冷延材に対して熱処理を施して時効硬化させる熱処理の工程である。
仕上げ工程[工程9]は、冷却後の冷延材に対して冷間圧延と熱処理を1セットとして2セット以上行ない、板材の引張強さや抵抗温度係数(TCR)について調質を行なう仕上げの工程である。より具体的に、仕上げ工程[工程9]は、2パス以上の仕上げ冷間圧延[工程9-1]と、仕上げ冷間圧延[工程9-1]の各パスの後に行なわれる仕上げ熱処理[工程9-2]によって構成される。このような仕上げ冷間圧延[工程9-1]と仕上げ熱処理[工程9-2]を2セット以上行なうことで、冷間圧延によって導入された転位を仕上げ熱処理によって安定化させることで、転位を高密度に分散させることができる。このように転位を高密度に分散させることで、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を20%以上82%以下の範囲に制御することができること等により、得られる銅合金板材における引張強さを高め、かつ抵抗温度係数(TCR)を低くすることができる。他方で、仕上げ冷間圧延[工程9-1]と仕上げ熱処理[工程9-2]を1セットのみ行なった場合は、転位が高密度に分散されないため、得られる銅合金板材の引張強さが500MPaより小さくなる。
本発明の銅合金板材は、電気・電子部品などに用いるのに適している。より具体的には、特に小型化および軽薄化の必要がある、電気・電子部品用のコネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチなどの、高い電流密度の電流が流れる応用製品に用いるのに適している。
表1に示す合金組成を有する種々の銅合金素材を高周波溶解炉で溶解し、これを大気中で冷却して鋳造する溶解鋳造工程[工程1]を行なって鋳塊を得た。この鋳塊に対して、850℃以上1000℃以下の加熱温度および1時間の加熱時間で熱処理を行なう均質化工程[工程2]を行なった後、直ちに、総加工率が50%以上になるように、鋳塊の長手方向が圧延方向になるように圧延する熱間圧延工程[工程3]を行なって熱延材を得た。その後、水冷により室温まで冷却した。
上記本発明例および比較例に係る銅合金板材を用いて、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
銅合金板材のGROD値は、本発明例および比較例で得られた銅合金板材に対して、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得た。測定は、約400μm×800μmの視野において測定点間の距離(以下、ステップサイズともいう)0.5μmで行なった。測定領域は、銅合金板材を樹脂埋めしたものについて、機械研磨およびバフ研磨(コロイダルシリカ)で仕上げされた、圧延方向および厚さ方向を含む断面について行なった。ここで、板厚が800μm未満の場合には、400μm×800μmと同じ大きさの測定面になるように、圧延方向に沿った測定範囲を広げてもよい。解析ソフトによる解析は、信頼性指数CI値が0.1以上となる測定点を解析対象とした。そして、15°以上の方位差のある境界を結晶粒界と定義し、この結晶粒界によって結晶粒の輪郭を画定したときに、結晶粒の中でKAM値が最小である測定点を結晶粒ごとの基準点として、これらの基準点に対する方位差を解析対象となる全ての測定点について求めることで、解析対象となる測定点におけるGROD値をそれぞれ算出した。このようにして得られる、GROD値を求めた測定点の総数に対する、GROD値が0°以上5°以下の範囲である測定点の数の割合から、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合を求めた。なお、本実施例では、GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲であるものを合格レベルとした。結果を表3に示す。
引張強さの測定は、圧延方向に対して平行な方向が長手方向になるように供試材を切り出した、JIS Z2241に規定されている13B号の2本の試験片で行ない、2本の試験片から得られた引張強さの平均値を測定値とした。ここで、試験片は、板厚が0.3mmの板材を用いて作製した。本実施例では、引張強さが500MPa以上を合格レベルとした。結果を表3に示す。
本発明例1~17および比較例1~13について、得られた厚さ0.3mmの銅合金板材を幅10mm、長さ300mmに切断し、供試材を作製した。
Claims (2)
- NiおよびCoのうちの少なくとも一方の成分を合計で0.50質量%以上5.00質量%以下、Siを0.10質量%以上1.50質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、
前記銅合金板材の圧延方向および厚さ方向を含む断面にて、EBSD法を用いてGROD値を測定したとき、測定した前記GROD値が0°以上5°以下の範囲である結晶粒の面積割合が、20%以上82%以下の範囲であり、
引張強さが500MPa以上であり、かつ、
20℃から150℃までの温度範囲における抵抗温度係数(TCR)が、3000ppm/℃以下である、銅合金板材。 - 前記合金組成は、Mg、Sn、Zn、P、CrおよびZrからなる群から選択される、少なくとも1種の成分を、合計で0.10質量%以上1.00質量%以下の範囲でさらに含有する、請求項1に記載の銅合金板材。
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