以下、実施形態による電動パーキングブレーキ装置およびブレーキ制御装置を、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL,RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。車輪(各前輪2、各後輪3)は、車体1と共に車両を構成している。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキである前輪側ディスクブレーキ5により制動力が付与される。後輪3用のディスクロータ4は、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである後輪側ディスクブレーキ6により制動力が付与される。
左右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の後輪側ディスクブレーキ6は、液圧によりブレーキパッド6C(図2参照)をディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。図2に示すように、後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材6Aと、ホイルシリンダとしてのキャリパ6Bと、制動部材(摩擦部材、摩擦パッド)としての一対のブレーキパッド6Cと、押圧部材としてのピストン6Dとを備えている。この場合、キャリパ6Bとピストン6Dは、シリンダ機構、即ち、液圧によってピストン6Dが移動してブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧するシリンダ機構を構成している。
取付部材6Aは、車両の非回転部に固定されており、ディスクロータ4の外周側を跨いで配置されている。キャリパ6Bは、取付部材6Aにディスクロータ4の軸方向への移動を可能に設けられている。キャリパ6Bは、シリンダ本体部6B1と、爪部6B2と、これらを接続するブリッジ部6B3とを含んで構成されている。シリンダ本体部6B1には、シリンダ(シリンダ穴)6B4が設けられており、シリンダ6B4内にはピストン6Dが挿嵌されている。ブレーキパッド6Cは、取付部材6Aに移動可能に取付けられており、ディスクロータ4に当接可能に配置されている。ピストン6Dは、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する。
ここで、キャリパ6Bは、ブレーキペダル9の操作等に基づいてシリンダ6B4内に液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)されることにより、ブレーキパッド6Cをピストン6Dで推進する。このとき、ブレーキパッド6Cは、キャリパ6Bの爪部6B2とピストン6Dとによりディスクロータ4の両面に押圧される。これにより、ディスクロータ4と共に回転する後輪3に制動力が付与される。
さらに、後輪側ディスクブレーキ6は、電動アクチュエータ7と回転直動変換機構8とを備えている。電動アクチュエータ7は、電動機としての電動モータ7Aと、該電動モータ7Aの回転を減速する減速機(図示せず)とを含んで構成されている。電動モータ7Aは、ピストン6Dを推進するための推進源(駆動源)となるものである。回転直動変換機構8は、ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する保持機構(押圧部材保持機構)を構成している。
この場合、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位(直動変位)に変換すると共に該ピストン6Dを推進する回転直動部材8Aを含んで構成されている。回転直動部材8Aは、例えば、雄ねじが形成された棒状体からなるねじ部材8A1と、雌ねじ穴が内周側に形成された推進部材となる直動部材8A2とにより構成されている。回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位に変換すると共に、電動モータ7Aにより推進したピストン6Dを保持する。即ち、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aによりピストン6Dに推力を与え、該ピストン6Dによりブレーキパッド6Cを推進してディスクロータ4を押圧し、該ピストン6Dの推力を保持する。
回転直動変換機構8は、電動モータ7Aと共に、電動パーキングブレーキ装置(電動ブレーキ装置)の電動機構を構成している。電動機構は、電動モータ7Aの回転力を減速機と回転直動変換機構8とを介して推力に変換し、ピストン6Dを推進(変位)することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して車両の制動力を保持する。電動モータ7Aは、電動機構を駆動する。このような電動機構(即ち、電動モータ7Aおよび回転直動変換機構8)は、後述のパーキングブレーキ制御装置24と共に、電動パーキングブレーキ装置を構成している。
後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生するブレーキ液圧によりピストン6Dを推進させ、ブレーキパッド6Cでディスクロータ4を押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、後輪側ディスクブレーキ6は、後述するように、パーキングブレーキスイッチ23からの信号等に基づく作動要求に応じて、電動モータ7Aにより回転直動変換機構8を介してピストン6Dを推進させ、車両に制動力(パーキングブレーキ、必要に応じて走行中の補助ブレーキ)を付与する。
即ち、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aを駆動し、回転直動部材8Aによりピストン6Dを推進することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して保持する。この場合、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(駐車ブレーキ)を付与するためのアプライ要求となるパーキングブレーキ要求信号(アプライ要求信号)に応じて、ピストン6Dを電動モータ7Aで推進して車両の制動を保持する。これと共に、後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作に応じて、液圧源(後述のマスタシリンダ12、必要に応じて液圧供給装置16)からの液圧供給により車両を制動する。
このように、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aによりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧し該ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する回転直動変換機構8を有し、かつ、電動モータ7Aによる押圧とは別に付加される液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧可能に構成されている。
一方、左右の前輪2に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の前輪側ディスクブレーキ5は、パーキングブレーキの動作に関連する機構を除いて、後輪側ディスクブレーキ6とほぼ同様に構成されている。即ち、図1に示すように、前輪側ディスクブレーキ5は、取付部材(図示せず)、キャリパ5A、ブレーキパッド(図示せず)、ピストン5B等を備えているが、パーキングブレーキの作動、解除を行うための電動アクチュエータ7(電動モータ7A)、回転直動変換機構8等を備えていない。しかし、前輪側ディスクブレーキ5は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生する液圧によりピストン5Bを推進させ、車輪(前輪2)延いては車両に制動力を付与する点で、後輪側ディスクブレーキ6と同様である。即ち、前輪側ディスクブレーキ5は、液圧によりブレーキパッドをディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。
なお、前輪側ディスクブレーキ5は、後輪側ディスクブレーキ6と同様に、電動パーキングブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、実施形態では、電動ブレーキ機構(電動パーキングブレーキ)として、電動モータ7Aを備えた液圧式のディスクブレーキ6を用いている。しかし、これに限定されず、電動ブレーキ機構は、例えば、電動キャリパを備えた電動式ディスクブレーキ、電動モータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式のパーキングブレーキを備えたディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式電動パーキングブレーキ等を用いてもよい。即ち、電動ブレーキ機構は、電動モータ(電動アクチュエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力の保持と解除とを行うことができる構成であれば、各種の電動ブレーキ機構を用いることができる。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル9が設けられている。ブレーキペダル9は、車両のブレーキ操作時に運転者(ドライバ)によって踏込み操作される。各ディスクブレーキ5,6は、ブレーキペダル9の操作に基づいて、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル9には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ(ブレーキスイッチ)、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)10が設けられている。
ブレーキ操作検出センサ10は、ブレーキペダル9の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号をESC制御装置17に出力する。ブレーキ操作検出センサ10の検出信号は、例えば、車両データバス20、または、ESC制御装置17とパーキングブレーキ制御装置24とを接続する通信線(図示せず)を介して伝送される(パーキングブレーキ制御装置24に出力される)。
ブレーキペダル9の踏込み操作は、倍力装置11を介して、油圧源(液圧源)として機能するマスタシリンダ12に伝達される。倍力装置11は、ブレーキペダル9とマスタシリンダ12との間に設けられた負圧ブースタ(気圧倍力装置)または電動ブースタ(電動倍力装置)として構成されている。倍力装置11は、ブレーキペダル9の踏込み操作時に、踏力を増力してマスタシリンダ12に伝える。このとき、マスタシリンダ12は、マスタリザーバ13から供給(補充)されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ13は、ブレーキ液が収容された作動液タンクである。ブレーキペダル9により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ12内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して、液圧供給装置16(以下、ESC16という)に送られる。ESC16に送られた液圧は、ブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に供給される。ESC16は、各ディスクブレーキ5,6とマスタシリンダ12との間に配置されている。ここで、ESC16は、液圧ブレーキ(前輪側ディスクブレーキ5、後輪側ディスクブレーキ6)の液圧を制御する液圧制御装置である。このために、ESC16は、複数の制御弁と、ブレーキ液圧を加圧する液圧ポンプと、該液圧ポンプを駆動する電動モータと、余剰のブレーキ液を一時的に貯留する液圧制御用リザーバ(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。ESC16の各制御弁および電動モータは、ESC制御装置17と接続されており、ESC16は、ESC制御装置17を含んで構成されている。
ESC16の各制御弁の開閉と電動モータの駆動は、ESC制御装置17により制御される。即ち、ESC制御装置17は、ESC16の制御を行うESC用コントロールユニット(ESC用ECU)である。ESC制御装置17は、マイクロコンピュータを含んで構成されており、ESC16(の各制御弁のソレノイド、電動モータ)を電気的に駆動制御する。この場合、ESC制御装置17は、例えば、ESC16の液圧供給を制御し、かつ、ESC16の故障を検出する演算回路、電動モータおよび各制御弁を駆動する駆動回路(いずれも図示せず)等が内蔵されている。
ESC制御装置17は、ESC16の各制御弁(のソレノイド)、液圧ポンプ用の電動モータを個別に駆動制御する。これにより、ESC制御装置17は、ブレーキ側配管部15A-15Dを通じて各ディスクブレーキ5,6に供給するブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧)を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、それぞれのディスクブレーキ5,6毎に個別に行う。この場合、ESC制御装置17は、ESC16を作動制御することにより、例えば、制動力配分制御、アンチロックブレーキ制御(液圧ABS制御)、車両安定化制御、坂道発進補助制御、トラクション制御、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御(自動ブレーキ制御、衝突被害軽減ブレーキ制御)を実行する。
ESC16は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時においては、マスタシリンダ12で発生した液圧を、ディスクブレーキ5,6(のキャリパ5A,6B)に直接供給する。これに対し、例えば、アンチロックブレーキ制御等を実行する場合は、増圧用の制御弁を閉じてディスクブレーキ5,6の液圧を保持し、ディスクブレーキ5,6の液圧を減圧するときには、減圧用の制御弁を開いてディスクブレーキ5,6の液圧を液圧制御用リザーバに逃がすように排出する。さらに、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ディスクブレーキ5,6に供給する液圧を増圧または加圧するときは、供給用の制御弁を閉弁した状態で電動モータにより液圧ポンプを作動させ、該液圧ポンプから吐出したブレーキ液をディスクブレーキ5,6に供給する。このとき、液圧ポンプの吸込み側には、マスタシリンダ12側からマスタリザーバ13内のブレーキ液が供給される。
ESC制御装置17には、車両電源となるバッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が、電源ライン19を通じて給電される。図1に示すように、ESC制御装置17は、車両データバス20に接続されている。なお、ESC16の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC16を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ12とブレーキ側配管部15A-15Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス20は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器(例えば、ESC制御装置17、パーキングブレーキ制御装置24等を含む各種のECU)は、車両データバス20により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。この場合、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ10、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ(傾斜センサ)、シフトセンサ(トランスミッションデータ)、加速度センサ(Gセンサ)、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号(出力信号)による情報(車両情報)が挙げられる。さらに、車両データバス20に送られる車両情報としては、ホイルシリンダ圧(W/C圧)を検出するW/C圧力センサ21からの検出信号、マスタシリンダ圧(M/C圧)を検出するM/C圧力センサ22からの検出信号も挙げられる。
次に、パーキングブレーキスイッチ23およびパーキングブレーキ制御装置24について説明する。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、電動パーキングブレーキのスイッチとしてのパーキングブレーキスイッチ(PKB-SW)23が設けられている。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者によって操作される操作指示部である。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者の操作指示に応じたパーキングブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、パーキングブレーキ制御装置24へ伝達する。即ち、パーキングブレーキスイッチ23は、電動モータ7Aの駆動(回転)に基づいてピストン6D延いてはブレーキパッド6Cをアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(保持要求信号となるアプライ要求信号、解除要求信号となるリリース要求信号)を、パーキングブレーキ制御装置24に出力する。パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキ用コントロールユニット(パーキングブレーキ用ECU)である。
運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を付与するためのアプライ要求(制動保持要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からアプライ要求信号(パーキングブレーキ要求信号、アプライ指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側に回転させるための電力が、パーキングブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転に基づいてピストン6Dをディスクロータ4側に推進(押圧)し、推進したピストン6Dを保持する。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(制動保持状態)となる。
一方、運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(制動解除要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からリリース要求信号(パーキングブレーキ解除要求信号、リリース指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側とは逆方向に回転させるための電力が、パーキングブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転によりピストン6Dの保持を解除する(ピストン6Dによる押圧力を解除する)。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(制動解除状態)となる。
制御装置(ブレーキ制御装置)としてのパーキングブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7Aおよび回転直動変換機構8)と共に、電動パーキングブレーキ装置を構成している。パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの駆動を制御する。このために、図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)25およびメモリ26を有している。パーキングブレーキ制御装置24には、バッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が電源ライン19を通じて給電される。
パーキングブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aの駆動を制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(パーキングブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、左右の電動モータ7A,7Aを駆動することにより、ディスクブレーキ6,6をパーキングブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、パーキングブレーキ制御装置24は、入力側がパーキングブレーキスイッチ23に接続され、出力側は各ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aに接続されている。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、運転者の操作(パーキングブレーキスイッチ23の操作)の検出、電動モータ7A,7Aの駆動可否判定、電動モータ7A,7Aの停止の判定等を行うための演算回路25と、電動モータ7A,7Aを制御するためのモータ駆動回路28,28とを内蔵している。
パーキングブレーキ制御装置24は、運転者のパーキングブレーキスイッチ23の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、オートアプライ・オートリリースの判定による作動要求等に基づいて、左右の電動モータ7A,7Aを駆動し、左右のディスクブレーキ6,6のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、後輪側ディスクブレーキ6では、各電動モータ7Aの駆動に基づいて、回転直動変換機構8によるピストン6Dおよびブレーキパッド6Cの保持または解除が行われる。このように、パーキングブレーキ制御装置24は、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号に応じて、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)を推進するべく電動モータ7Aを駆動制御する。
図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25には、記憶部としてのメモリ26に加えて、パーキングブレーキスイッチ23、車両データバス20、電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29等が接続されている。車両データバス20からは、パーキングブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。また、パーキングブレーキ制御装置24は、車両データバス20または前記通信線を介して、ESC制御装置17を含む各種ECUに情報や指令を出力することができる。
なお、車両データバス20から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサをパーキングブレーキ制御装置24(の演算回路25)に直接的に接続することにより取得する構成としてもよい。また、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25は、車両データバス20に接続された他の制御装置(例えばESC制御装置17)からオートアプライ・オートリリースの判定による作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、オートアプライ・オートリリースの判定の制御を、パーキングブレーキ制御装置24に代えて、他の制御装置、例えばESC制御装置17で行う構成とすることができる。即ち、ESC制御装置17にパーキングブレーキ制御装置24の制御内容を統合することが可能である。
パーキングブレーキ制御装置24は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部としてのメモリ26を備えている。メモリ26には、パーキングブレーキの制御に用いる処理プログラムが格納されている。例えば、メモリ26には、後述の図4に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、電動パーキングブレーキのアプライ時の制御処理に用いる処理プログラム等が格納されている。なお、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24をESC制御装置17と別体としたが、パーキングブレーキ制御装置24とESC制御装置17とを一体に(即ち、1個の制動用制御装置により一体に)構成してもよい。また、パーキングブレーキ制御装置24は、左右で2つの後輪側ディスクブレーキ6,6を制御するようにしているが、左右の後輪側ディスクブレーキ6,6毎に設けるようにしてもよく、この場合には、それぞれのパーキングブレーキ制御装置24を後輪側ディスクブレーキ6に一体的に設けることもできる。
図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24には、電源ライン19からの電圧を検出する電圧センサ部27、左右の電動モータ7A,7Aをそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路28,28、左右の電動モータ7A,7Aのそれぞれのモータ電流を検出する左右の電流センサ部29,29等が内蔵されている。これら電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29は、それぞれ演算回路25に接続されている。これにより、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25では、駐車ブレーキのアプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部29により検出される電動モータ7Aの電流値((モニタ電流値)に基づいて、電動モータ7Aの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。なお、図示の例では、電圧センサ部27は、電源電圧を検出(計測)する構成としているが、例えば、電圧センサ部(電圧センサ)は、左右の電動モータ7A,7Aの端子間電圧を左右独立してそれぞれ計測する構成とすることができる。
ところで、従来技術によれば、制動力を保持するアプライのときに、電動モータの駆動に基づく推力がばらつく可能性がある。これに対して、アプライのときに、所望の推力で電動モータの駆動を精度よく停止することができれば、電動モータの駆動による最大推力を低減することができ、ブレーキ機構の小型化、低コスト化を図ることができる。ここで、電圧が高くなると、推力が上昇する。このため、電動モータを駆動するときの電圧の相違に伴って、推力のばらつきが大きくなる可能性がある。一方、電圧によって変化する要因の一つに、アプライ完了時の電動モータの回転加速度がある。そこで、実施形態では、電動モータの回転加速度(回転減速度)に応じて、電動モータの駆動を停止する目標の電流閾値(目標電流閾値)を補正することにより、推力を適正化する。
即ち、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを駆動しブレーキパッド6Cをディスクロータ4へ押圧し制動力を保持する際に、目標電流閾値に電動モータ7Aの電流値(モニタ電流値)が達したときに、電動モータ7Aの駆動を停止する。目標電流閾値は、電動モータ7Aの駆動を停止させる電流値である。パーキングブレーキ制御装置24は、目標電流閾値を電動モータ7Aの回転加速度に応じて変更する。より具体的には、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの回転速度と回転加速度とに応じて目標電流閾値を変更する。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、アプライ中に電動モータ7Aの回転速度と回転加速度を求める。回転速度、回転加速度、および、後述の目標電流閾値は、パーキングブレーキ制御装置24の制御周期(計算周期)で算出することにより、現時点の値を常に算出する。換言すれば、制御周期で算出した値を更新していくことにより、現時点の値を求める。
パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの電圧に基づいて、電動モータ7Aの回転速度と回転加速度を求める。具体的には、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの端子間電圧(モータ電圧V)と電流(モータ電流I)とから、下記の数1式を用いて回転速度ωを求める。数1式中、「V」は、モータ電圧(完了時点)であり、「I」は、モータ電流(完了時点)であり、「R」は、モータ抵抗(ECUであるパーキングブレーキ制御装置24と電動モータ7Aとの間のハーネスの抵抗も含む)であり、「Ke」は、逆起電力定数(電圧と回転数の比例係数)である。
パーキングブレーキ制御装置24は、モータ電圧Vに基づいて求められた回転速度ωを用いて、下記の数2式を用いて回転加速度ω′を求める。数2式中、「ωn」は、今回の制御周期で算出された回転速度(今回値)であり、「ωn-1」は、前回の制御周期で算出された回転速度(前回値)であり、ΔTは、パーキングブレーキ制御装置24の制御周期(計算周期)である。
パーキングブレーキ制御装置24は、求めた回転速度ωと回転加速度ω′を用いて下記の数3式より目標電流閾値Iを算出する。数3式中、「F」は、目標推力であり、「FLOSS」は、推力ロス分であり、「γ」は、回転運動を直動運動へ変換する機械効率(効率)であり、「nGR」は、減速比であり、「ηGR」は、減速機効率であり、「J」は、回転系のイナーシャであり、「c」は、グリースの粘性係数であり、「Kt」は、逆起電力定数(電流とトルクの比例係数)であり、「α」は、電流モニタ誤差である。これら目標推力F、推力ロス分FLOSS、機械効率γ、減速比nGR、減速機効率ηGR、回転系のイナーシャJ、粘性係数c、逆起電力定数Kt、電流モニタ誤差αについては、後で説明する。
ここで、数3式中の小カッコ「(F-FLOSS)」は、必要推力に対応する。また、数3式中の大カッコ「{・・・・・}」は、必要トルクに対応する。数3式中の「Jω′」は、回転加速度ω′による補正項に対応する。「cω」は、回転速度ωによる補正項に対応する。数3式より算出した目標電流閾値Iは、回転速度ωと回転加速度ω′とに基づいて算出された電流閾値、即ち、回転速度ωと回転加速度ω′とに応じて変更(補正)された電流閾値となる。
パーキングブレーキ制御装置24は、数3式より算出した目標電流閾値Iが予め設定した補正範囲内の値であるか否かを判定する。補正範囲は、「数3式より算出された目標電流閾値Iで電動モータ7Aの駆動を停止する」か「予め設定された所定値Itで電動モータ7Aの駆動を停止するか」を判定するための判定範囲である。パーキングブレーキ制御装置24は、数3式より算出した目標電流閾値Iが予め設定した補正範囲内の値であると判定した場合は、電動モータ7Aの電流値(モニタ電流値)が目標電流閾値Iに達したときに電動モータ7Aの駆動を停止する。これに対して、パーキングブレーキ制御装置24は、数3式より算出した目標電流閾値Iが予め設定した補正範囲内の値でないと判定した場合は、電動モータ7Aの電流値(モニタ電流値)が予め設定された所定値Itに達したときに電動モータ7Aの駆動を停止する。
所定値Itは、電動モータ7Aの駆動を停止する目標電流値として推力が過小または過大にならない値として予め設定しておくことができる。また、補正範囲は、目標電流閾値Iが過剰な値または過小な値として算出されたときに、推力が過剰または過小にならないように予め設定しておくことができる。例えば、所定値Itを11.0[A]とし、補正範囲を9.0[A]~11.0[A]とした場合を考える。この場合に、例えば、算出された目標電流閾値Iが10.5[A]の場合は、目標電流閾値Iが補正範囲内の値であるため、電動モータ7Aの電流値が10.5[A]に達したときに、電動モータ7Aの駆動を停止する。これに対して、例えば、算出された目標電流閾値Iが13.0[A]の場合は、目標電流閾値Iが補正範囲内の値でないため、推力が過剰とならないように、電動モータ7Aの電流値が11.0[A](=所定値It)に達したときに、電動モータ7Aの駆動を停止する。一方、例えば、算出された目標電流閾値Iが5.0[A]の場合は、目標電流閾値Iが補正範囲内の値でないため、推力が過小とならないように、電動モータ7Aの電流値が11.0[A](=所定値It)に達したときに、電動モータ7Aの駆動を停止する。
換言すれば、パーキングブレーキ制御装置24は、トルク演算部とトルク補正部と目標電流決定部とモータ駆動停止部とを有している。トルク演算部は、制動力を保持するために必要となる電動モータ7Aのトルクを演算する。トルク演算部は、上記数3式中の必要トルクを求める式(大カッコ「{・・・・・}」内の式)のうちの補正項以外の部分、即ち、補正前の目標トルクT1の算出処理に対応する。具体的には、トルク演算部は、次の数4式の算出処理(補正前の目標トルクT1を算出する処理)に対応する。
トルク補正部は、電動モータ7Aの回転加速度からトルク演算部で求められる電動モータ7Aのトルクを補正する。より具体的には、トルク補正部は、電動モータ7Aの回転速度と回転加速度とからトルク演算部で求められる電動モータ7Aのトルクを補正する。トルク補正演算部は、上記数3式中の必要トルクを求める式(大カッコ「{・・・・・}」内の式)のうちの補正項の部分、即ち、補正トルクT2の算出処理に対応する。具体的には、トルク補正演算部は、次の数5式の算出処理(補正トルクT2を算出する処理)に対応する。
目標電流決定部は、トルク補正部の出力に応じて、電動モータ7Aの駆動を停止させる目標電流閾値を演算する。目標電流決定部は、必要トルクに対応する上記数4式(T1)と上記数5式(T2)との和(T1+T2)から目標電流閾値Iを算出する処理に対応する。具体的には、目標電流決定部は、次の数6式の算出処理(目標電流閾値Iを算出する処理)に対応する。
モータ駆動停止部は、電動モータ7Aの電流値(モニタ電流値)が目標電流決定部で演算された目標電流閾値Iに達したときに、電動モータ7Aの駆動を停止する。この場合、モータ駆動停止部は、目標電流閾値Iが予め設定した補正範囲内の値であるか否かを判定し、この判定結果に応じて電動モータ7Aの駆動を停止する電流値を変更することができる。即ち、モータ駆動停止部は、目標電流閾値Iが補正範囲内の値(例えば、9.0[A]以上11.0[A]以下の値)である場合、電動モータ7Aの電流値が目標電流閾値Iに達したときに電動モータ7Aの駆動を停止する。モータ駆動停止部は、目標電流閾値Iが補正範囲内の値でない(例えば、9.0[A]未満の値、または、11.0[A]よりも大きい値である)場合、電動モータ7Aの電流値が目標電流閾値Iではなく予め設定された所定値It(例えば、11.0[A])に達したときに電動モータ7Aの駆動を停止する。なお、このようなパーキングブレーキ制御装置24による電動モータ7Aのアプライ駆動の制御、即ち、図4に示す制御処理については、後で詳しく述べる。
実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル9を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置11を介してマスタシリンダ12に伝達され、マスタシリンダ12によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ12内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管14A,14B、ESC16およびブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に供給され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
この場合、各ディスクブレーキ5,6では、キャリパ5A,6B内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストン5B,6Dがブレーキパッド6Cに向けて摺動的に変位し、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ5A,6B内へのブレーキ液圧の供給が停止されることにより、ピストン5B,6Dがディスクロータ4,4から離れる(後退する)ように変位する。これによって、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4から離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動側(アプライ側)に操作したときは、パーキングブレーキ制御装置24から左右の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、電動モータ7Aが回転駆動される。後輪側ディスクブレーキ6では、電動モータ7Aの回転運動が回転直動変換機構8により直線運動に変換され、回転直動部材8Aによりピストン6Dが推進する。これにより、ブレーキパッド6Cによりディスクロータ4が押圧される。このとき、回転直動変換機構8(直動部材8A2)は、例えば、螺合による摩擦力(保持力)により制動状態を保持される。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ7Aへの給電を停止した後にも、回転直動変換機構8により、ピストン6Dは制動位置に保持される。
一方、運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動解除側(リリース側)に操作したときには、パーキングブレーキ制御装置24から電動モータ7Aに対してモータが逆転するように給電される。この給電により、電動モータ7Aがパーキングブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、回転直動変換機構8による制動力の保持が解除され、ピストン6Dがディスクロータ4から離れる方向に変位することが可能になる。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとしての作動が解除(リリース)される。
次に、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25で行われる制御処理について、図4を参照しつつ説明する。なお、図4の制御処理は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24に通電している間、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し実行される。
ECU(Electronic Control Unit)であるパーキングブレーキ制御装置24が起動すると、図4の制御処理が開始される。パーキングブレーキ制御装置24は、S1で、アプライ開始か否かを判定する。即ち、パーキングブレーキスイッチ23がアプライ側へ操作されることによりアプライ指令が出力されると、または、パーキングブレーキのアプライ判定ロジックに基づいてアプライ指令が出力されると、アプライが開始される。S1では、アプライ指令に基づいてアプライが開始されたか否かを判定する。このように、S1では、アプライ制御中に補正制御を実行するために、指令がアプライ指令であることを確認する。
S1で「NO」、即ち、アプライが開始されていないと判定された場合は、リターンする。即ち、「エンド」を介して「スタート」に戻り、S1以降の処理を繰り返す。これに対して、S1で「YES」、即ち、アプライが開始されたと判定された場合は、S2に進む。S2では、電動モータ7Aに電力を供給(通電)し、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動する。このように、S2では、アプライ指令中である場合に、電動モータ7Aをアプライ方向に通電する。
S2に続くS3では、アプライ開始からの時間を計測するために、カウントアップする。即ち、S3では、アプライ作動中の場合には、時間をカウントアップする。S3で、カウントアップしたら、S4では、アプライが開始されてからマスク時間が経過したか否かを判定する。即ち、S4では、S3でカウントした時間がマスク時間を経過したことを判断する。マスク時間は、アプライ完了の判定を適切なタイミングで実施できるように、電動モータ7Aへの通電直後の突入電流が収束するまでの時間よりも長く、かつ、電動モータ7Aの駆動開始から目標の推力に到達するまでの時間よりも短く設定する。マスク時間は、予め机上計算や実験で求めておく。なお、S3およびS4は、マスク時間ではなく、リアルタイムでモニタした電流値の大きさ、または、電流値の時間変化を用いて突入電流が収束したことを判断してもよい。
S4で「NO」、即ち、アプライ開始(アプライ指令出力)から電流マスク時間が経過していないと判定された場合は、リターンする。これに対して、S4で「YES」、即ち、アプライ開始(アプライ指令出力)から電流マスク時間が経過したと判定された場合は、S5に進む。S5では、現在の制御周期での電動モータ7Aの電流値(モータ電流モニタ値I)および電圧値(モータ端子間電圧モニタ値V)を記憶(取得)する。この場合、電流値および電圧値は、フィルタ処理する。
続くS6では、S5で記憶したモータ電流モニタ値Iおよびモータ端子間電圧モニタ値Vを用いて、電動モータ7Aの回転速度ωを演算する。回転速度ωの算出には、電動モータ7Aの逆起電圧定数Ke、モータ抵抗値R(電圧モニタをしている箇所から電動モータ7Aまでの電線の抵抗値を含んでもよい)を用いて前記数1式に基づいて算出する。逆起電圧定数Keおよびモータ抵抗値Rは、予め設定してもよいし、モータ電流およびモータ電圧から推定してもよい。また、回転速度ωは、回転センサを用いて直接計測してもよい。
S7では、S6で求めた電動モータ7Aの回転速度ωから、電動モータ7Aの回転加速度ω′を求める。回転加速度ω′は、回転加速度ωの今回の制御周期の演算値ωnと、前回の制御周期の演算値ωnと、制御周期ΔTを用いて、前記数2式のように演算して求める。S6で回転加速度ωを算出し、S7で回転加速度ω′を算出したら、続くS8では、電動モータ7Aを停止する電流閾値である目標電流閾値Iを求める。即ち、S8では、S6とS7とで求めた電動モータ7Aの回転速度ωと回転加速度ω′とを用いて、目標の推力に相当する電流閾値、即ち、現時点の回転速度ωと回転加速度ω′とによる補正後の目標電流閾値Iを求める。
目標電流閾値Iは、回転速度ωと回転加速度ω′の他、目標推力F、推力ロス分FLOSS、回転運動を直動運動へ変換する機械効率γ、減速比nGR、減速機効率ηGR、回転系のイナーシャJ、粘性係数c、逆起電力定数Kt、電流モニタ誤差αを用いて、前記数3式に基づいて算出する。ここで、目標推力Fは、車両を停車保持するために必要な推力である。目標推力Fは、予め車両諸元と想定する停車勾配から決定しておく、または、車両の停車勾配を例えば前後加速度センサを用いて検出し、そこから推定される勾配の大きさに基づいて算出してもよい。推力ロス分FLOSSは、例えば、ブレーキキャリパ(キャリパ6B)のピストン(ピストン6D)の摺動抵抗等の損失である。これは、予め机上計算や実験により決定される。
回転運動を直動運動へ変換する機械効率γは、作動部位の機械的伝達率であり、本システムでは推力を発生するねじ機構(回転直動変換機構8)の入力トルクと出力する推力の比率である。この値は、予め机上計算や実験により求めておく。減速比nGRは、電動モータ7Aから回転運動を直動運動へ変換するまでの減速機の減速比である。この値は、ギアの構成により決定される。減速機効率ηGRは、減速機の噛み合い、摺動による損失、グリースの粘性等の損失を考慮した、減速機入力トルクと出力トルクの比率である。回転系のイナーシャJは、演算した回転加速度ω′によるトルクを求めるために必要な値であり、電動モータ7A(電動アクチュエータ7)のアーマチャー、ギア、ねじのイナーシャである。これらは、予め形状と質量密度から計算または測定する。粘性係数cは、グリースの粘性係数である。粘性係数cは、予め決められた値であり、事前に回転速度と抵抗トルクの関係から実測または演算により求めることができる。
前記数3式では、必要推力を、目標推力Fと推力ロス分FLOSSから求める。即ち、数3式中の小カッコ「(F-FLOSS)」は、必要推力に対応する。そして、前記数3式では、必要トルクを、必要推力、回転運動を直動運動へ変換する機械効率γ、減速比nGR、減速機効率ηGR、回転加速度ω′、イナーシャJ、回転速度ω、粘性係数cを用いて算出する。即ち、数3式中の大カッコ「{・・・・・}」は、必要トルクに対応する。必要トルクは、回転加速度ω′と回転速度ωによるトルク変化分を考慮しているため、電動モータ7Aの回転状態による推力のばらつきを補正することができる。そして、目標電流閾値Iは、必要トルクと逆起電圧定数ktから求めることができる。モニタ電流は、モニタした際に誤差が発生する場合があるため、モニタ誤差αを考慮する。
S8に続くS9では、S8で求めた目標電流閾値Iが予め決定した補正範囲内であるか否かを判定する。補正範囲は、目標電流閾値Iが過剰な値または過小な値として算出されたときに、推力が過剰または過小にならないように予め設定しておく。例えば、補正範囲は、9.0[A]~11.0[A]とする。S9で「YES」、即ち、目標電流閾値Iが補正範囲であると判定された場合は、S8で求めた目標電流閾値I、即ち、補正後の電流閾値を選択する。即ち、S10では、補正あり電流閾値(S8で求めた目標電流閾値I)を選択する。これに対して、S9で「NO」、即ち、目標電流閾値Iが補正範囲でないと判定された場合は、S8で求めた目標電流閾値Iではなく、予め設定した所定値Itを選択する。即ち、S11では、補正なし電流閾値(予め設定した所定値It)を選択する。
所定値Itは、電動モータ7Aの駆動を停止する目標電流値として推力が過小または過大にならない値として予め設定しておく。S10またはS11に続くS12では、現在のモニタ電流と選択した電流閾値(目標電流閾値Iまたは所定値It)とを比較し、電動モータ7Aを停止するタイミングに到達したかを判断する。即ち、S12では、モニタ電流が電流閾値よりも大きいか否かを判定する。S12で「NO」、即ち、モニタ電流が電流閾値よりも小さいと判定された場合は、リターンする。これに対して、S12で「YES」、即ち、モニタ電流が電流閾値以上であると判定された場合は、S13およびS14に進む。即ち、この場合は、モニタ電流が電流閾値に達したため、S13でアプライ完了フラグをONにする。また、S3のカウンタをリセットする。続く、S14では、電動モータ7Aへの通電を停止し、リターンする。
以上のように、実施形態によれば、パーキングブレーキ制御装置24は、制動力を保持する際の電動モータ7Aの回転加速度ω′に応じて、電動モータ7Aの駆動を停止する目標電流閾値Iを変更する。即ち、電動モータ7Aの駆動を停止する目標電流閾値Iを、電動モータ7Aの回転加速度ω′に応じて変更する。換言すれば、パーキングブレーキ制御装置24は、トルク演算部とトルク補正部と目標電流決定部とを有している。この場合、目標電流決定部は、電動モータ7Aの回転加速度ω′からトルク演算部で求められる電動モータ7Aのトルクを補正するトルク補正部の出力に応じて、電動モータ7Aの駆動を停止させる目標電流閾値Iを演算する。
このため、目標電流閾値Iを、電動モータ7Aに印加される電圧によって変化する回転加速度ω′に応じて補正することができる。これにより、電動モータ7Aの駆動に基づく推力がばらつくことを抑制できる。即ち、所望の推力で電動モータ7Aの駆動を精度よく停止することができ、推力の適正化を図ることができる。この結果、最大推力を低減することができ、小型化、低コスト化を図ることができる。
しかも、実施形態によれば、電動モータ7Aの回転速度ωと回転加速度ω′とに応じて目標電流閾値Iを変更する。このため、回転加速度ω′だけでなく、回転加速度ω′と回転速度ωとに応じて目標電流閾値Iを補正することができる。これにより、さらなる推力の適正化を図ることができる。しかも、実施形態では、電動モータ7Aの電圧に基づいて、回転速度ωと回転加速度ω′を求める。このため、回転センサを用いなくても、電動モータ7Aの回転速度ωと回転加速度ω′を求めることができる。
なお、実施形態では、電動モータ7Aの回転速度ωと回転加速度ω′とに応じて目標電流閾値Iを変更する構成の場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、回転速度ωを用いずに、回転加速度ω′に応じて目標電流閾値Iを変更する構成としてもよい。即ち、次の数7式を用いて目標電流閾値Iを演算してもよい。この場合、粘性係数cの最大値が減速機効率ηGRに含まれるようにする。
実施形態では、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。さらに、前輪側ディスクブレーキ5と後輪側ディスクブレーキ6との両方を、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。要するに、車両の車輪のうち少なくとも左右一対の車輪のブレーキを電動パーキングブレーキにより構成することができる。
実施形態では、電動ブレーキ機構として、電動パーキングブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ6を例に挙げて説明した。しかし、ディスクブレーキ式のブレーキ機構に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ機構として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動パーキングブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキの保持を行う構成等、電動パーキングブレーキの構成は各種のものを採用することができる。
以上説明した実施形態に基づく電動パーキングブレーキ装置およびブレーキ制御装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、制動部材を被制動部材へ押圧し制動力を保持する電動機構を駆動する電動機と、前記電動機の駆動を制御する制御装置と、を備える電動パーキングブレーキ装置において、前記制御装置は、制動力を保持する際に、前記電動機の駆動を停止させる目標電流閾値に、前記電動機の電流値が達したときに、前記電動機の駆動を停止するものであって、前記目標電流閾値を前記電動機の回転加速度に応じて変更する。
この第1の態様によれば、制動力を保持する際の電動機の回転加速度に応じて、電動機の駆動を停止する目標電流閾値を変更する。このため、目標電流閾値を、電動機に印加される電圧によって変化する回転加速度に応じて補正することができる。これにより、電動機の駆動に基づく推力がばらつくことを抑制できる。即ち、所望の推力で電動機の駆動を精度よく停止することができ、推力の適正化を図ることができる。この結果、最大推力を低減することができ、小型化、低コスト化を図ることができる。
第2の態様としては、第1の態様において、前記制御装置は、前記電動機の回転速度と前記回転加速度とに応じて前記目標電流閾値を変更する。この第2の態様によれば、回転加速度だけでなく、回転加速度と回転速度とに応じて目標電流閾値を補正することができる。これにより、さらなる推力の適正化を図ることができる。
第3の態様としては、第2の態様において、前記制御装置は、前記電動機の電圧に基づいて、前記回転速度と前記回転加速度を求める。この第3の態様によれば、回転速度を検出する回転センサを用いなくても、電動機の回転速度と回転加速度を求めることができる。
第4の態様としては、制動部材を被制動部材へ押圧し制動力を保持する電動機構を駆動する電動機と、前記電動機の駆動を制御する制御装置と、を備える電動パーキングブレーキ装置において、前記制御装置は、制動力を保持するために必要となる前記電動機のトルクを演算するトルク演算部と、前記電動機の回転加速度から前記トルク演算部で求められる前記電動機のトルクを補正するトルク補正部と、前記トルク補正部の出力に応じて、前記電動機の駆動を停止させる目標電流閾値を演算する目標電流決定部と、を有する。
この第4の態様によれば、目標電流決定部は、電動機の回転加速度からトルク演算部で求められる電動機のトルクを補正するトルク補正部の出力に応じて、電動機の駆動を停止させる目標電流閾値を演算する。このため、目標電流閾値を、電動機に印加される電圧によって変化する回転加速度に応じて補正することができる。これにより、電動機の駆動に基づく推力がばらつくことを抑制できる。即ち、所望の推力で電動機の駆動を精度よく停止することができ、推力の適正化を図ることができる。この結果、最大推力を低減することができ、小型化、低コスト化を図ることができる。
第5の態様としては、電動機を駆動し制動部材を被制動部材へ押圧し制動力を保持する際に、前記電動機の駆動を停止させる目標電流閾値に、前記電動機の電流値が達したときに、前記電動機の駆動を停止するブレーキ制御装置において、前記目標電流閾値を前記電動機の回転加速度に応じて変更する。
この第5の態様によれば、目標電流閾値を電動機の回転加速度に応じて変更する。このため、目標電流閾値を、電動機に印加される電圧によって変化する回転加速度に応じて補正することができる。これにより、電動機の駆動に基づく推力がばらつくことを抑制できる。即ち、所望の推力で電動機の駆動を精度よく停止することができ、推力の適正化を図ることができる。この結果、最大推力を低減することができ、小型化、低コスト化を図ることができる。