以下、実施形態による電動ブレーキ装置およびブレーキ制御装置を、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4等に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
図1ないし図6は、第1の実施形態を示している。図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL,RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。車輪(各前輪2、各後輪3)は、車体1と共に車両を構成している。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキである前輪側ディスクブレーキ5により制動力が付与される。後輪3用のディスクロータ4は、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである後輪側ディスクブレーキ6により制動力が付与される。
左右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の後輪側ディスクブレーキ6は、液圧によりブレーキパッド6C(図2参照)をディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。図2に示すように、後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材6Aと、ホイルシリンダとしてのキャリパ6Bと、制動部材(摩擦部材、摩擦パッド)としての一対のブレーキパッド6Cと、押圧部材としてのピストン6Dとを備えている。この場合、キャリパ6Bとピストン6Dは、シリンダ機構、即ち、液圧によって移動してブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧するシリンダ機構を構成している。
取付部材6Aは、車両の非回転部に固定され、ディスクロータ4の外周側を跨いで形成されている。キャリパ6Bは、取付部材6Aにディスクロータ4の軸方向への移動を可能に設けられている。キャリパ6Bは、シリンダ本体部6B1と、爪部6B2と、これらを接続するブリッジ部6B3とを含んで構成されている。シリンダ本体部6B1には、シリンダ(シリンダ穴)6B4が設けられており、シリンダ6B4内にはピストン6Dが挿嵌されている。ブレーキパッド6Cは、取付部材6Aに移動可能に取付けられ、ディスクロータ4に当接可能に配置されている。ピストン6Dは、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する。
ここで、キャリパ6Bは、ブレーキペダル9の操作等に基づいてシリンダ6B4内に液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)されることにより、ブレーキパッド6Cをピストン6Dで推進する。このとき、ブレーキパッド6Cは、キャリパ6Bの爪部6B2とピストン6Dとによりディスクロータ4の両面に押圧される。これにより、ディスクロータ4と共に回転する後輪3に制動力が付与される。
さらに、後輪側ディスクブレーキ6は、電動アクチュエータ7と回転直動変換機構8とを備えている。電動アクチュエータ7は、電動機としての電動モータ7Aと、該電動モータ7Aの回転を減速する減速機(図示せず)とを含んで構成されている。電動モータ7Aは、ピストン6Dを推進するための推進源(駆動源)となるものである。回転直動変換機構8は、ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する保持機構(押圧部材保持機構)を構成している。
この場合、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位(直動変位)に変換すると共に該ピストン6Dを推進する回転直動部材8Aを含んで構成されている。回転直動部材8Aは、例えば、雄ねじが形成された棒状体からなるねじ部材8A1と、雌ねじ穴が内周側に形成された推進部材となる直動部材8A2とにより構成されている。即ち、回転直動変換機構8は、スピンドルナット機構により構成されている。
回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位に変換すると共に、電動モータ7Aにより推進したピストン6Dを保持する。即ち、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aによりピストン6Dに推力を与え、該ピストン6Dによりブレーキパッド6Cを推進してディスクロータ4を押圧し、該ピストン6Dの推力を保持する。
回転直動変換機構8は、電動モータ7Aと共に、電動パーキングブレーキの電動機構を構成している。電動機構は、電動モータ7Aの回転力を減速機と回転直動変換機構8とを介して推力に変換し、ブレーキパッド6Cを押圧するピストン6Dに推力を作用させて制動力の保持または解除をする。即ち、電動機構は、ピストン6Dを推進し、車両に制動力を付与し、該制動力を保持する。電動モータ7Aは、電動機構を駆動する。電動モータ7Aは、後述の制動用制御装置17と共に、電動ブレーキ装置を構成している。
後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生するブレーキ液圧によりピストン6Dを推進させ、ブレーキパッド6Cでディスクロータ4を押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、後輪側ディスクブレーキ6は、後述するように、パーキングブレーキスイッチ24からの信号等に基づく作動要求に応じて、電動モータ7Aにより回転直動変換機構8を介してピストン6Dを推進させ、車両に制動力(パーキングブレーキ、必要に応じて補助ブレーキ)を付与する。
即ち、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aを駆動し、回転直動部材8Aによりピストン6Dを推進することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して保持する。この場合、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(駐車ブレーキ)を付与するためのアプライ要求となるパーキングブレーキ要求信号(アプライ要求信号)に応じて、ピストン6Dを電動モータ7Aで推進して車両の制動を保持することが可能となっている。これと共に、後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作に応じて、液圧源(後述のマスタシリンダ12、必要に応じて液圧供給装置16)からの液圧供給により車両の制動が可能となっている。
このように、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aによりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧し該ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する回転直動変換機構8を有し、かつ、電動モータ7Aによる押圧とは別に付加される液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧可能に構成されている。
一方、左右の前輪2に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の前輪側ディスクブレーキ5は、パーキングブレーキの動作に関連する機構を除いて、後輪側ディスクブレーキ6とほぼ同様に構成されている。即ち、図1に示すように、前輪側ディスクブレーキ5は、取付部材(図示せず)、キャリパ5A、ブレーキパッド(図示せず)、ピストン5B等を備えているが、パーキングブレーキの作動、解除を行うための電動アクチュエータ7(電動モータ7A)、回転直動変換機構8等を備えていない。しかし、前輪側ディスクブレーキ5は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生する液圧によりピストン5Bを推進させ、車輪(前輪2)延いては車両に制動力を付与する点で、後輪側ディスクブレーキ6と同様である。即ち、前輪側ディスクブレーキ5は、液圧によりブレーキパッドをディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。
なお、前輪側ディスクブレーキ5は、後輪側ディスクブレーキ6と同様に、電動パーキングブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、実施形態では、電動ブレーキ機構(電動パーキングブレーキ)として、電動モータ7Aを備えた液圧式の後輪側ディスクブレーキ6を用いている。しかし、これに限定されず、電動ブレーキ機構は、例えば、電動キャリパを備えた電動式ディスクブレーキ、電動モータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式のパーキングブレーキを備えたディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式電動パーキングブレーキ等を用いてもよい。即ち、電動ブレーキ機構は、電動モータ(電動アクチュエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力の保持と解除とを行うことができる構成であれば、各種の電動ブレーキ機構を用いることができる。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル9が設けられている。ブレーキペダル9は、車両のブレーキ操作時に運転者(ドライバ)によって踏込み操作される。各ディスクブレーキ5,6は、ブレーキペダル9の操作に基づいて、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル9には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ(ブレーキスイッチ)、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)10が設けられている。
ブレーキ操作検出センサ10は、制動用制御装置17に接続されている。ブレーキ操作検出センサ10は、ブレーキペダル9の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を制動用制御装置17に出力する。ブレーキ操作検出センサ10の検出信号は、例えば、車両データバス20を介して伝送される(他の制御装置に出力される)。
ブレーキペダル9の踏込み操作は、倍力装置11を介して、油圧源(液圧源)として機能するマスタシリンダ12に伝達される。倍力装置11は、ブレーキペダル9とマスタシリンダ12との間に設けられた負圧ブースタ(気圧倍力装置)または電動ブースタ(電動倍力装置)として構成されている。倍力装置11は、ブレーキペダル9の踏込み操作時に、踏力を増力してマスタシリンダ12に伝える。
このとき、マスタシリンダ12は、マスタリザーバ13から供給(補充)されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ13は、ブレーキ液が収容された作動液タンクとなるものである。ブレーキペダル9により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ12内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して、液圧供給装置16(以下、ESC16という)に送られる。ESC16は、各ディスクブレーキ5,6とマスタシリンダ12との間に配置されている。ESC16は、マスタシリンダ12からシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して出力される液圧を、ブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配、供給する。即ち、ESC16は、ブレーキペダル9の操作に応じた液圧(ブレーキ液圧)を、各車輪(各前輪2、各後輪3)に設けられたディスクブレーキ5,6(キャリパ5A,6B)へ供給するものである。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与することができる。
ここで、ESC16は、液圧ブレーキ(前輪側ディスクブレーキ5、後輪側ディスクブレーキ6)の液圧を制御する液圧制御装置である。このために、ESC16は、複数の制御弁と、ブレーキ液圧を加圧する液圧ポンプ(いずれも図示せず)と、該液圧ポンプを駆動する電動モータ16Aと、余剰のブレーキ液を一時的に貯留する液圧制御用リザーバ(図示せず)とを含んで構成されている。ESC16の各制御弁および電動モータ16Aは、制動用制御装置17と接続されており、ESC16は、制動用制御装置17を含んで構成されている。
ESC16の各制御弁の開閉と電動モータ16Aの駆動は、制動用制御装置17により制御される。即ち、制動用制御装置17は、ESC16の制御を行うESC制御装置(ESC用ECU)である。なお、後述するように、制動用制御装置17は、ESC16の制御を行うESC制御装置であることに加えて、後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7A)の制御を行うパーキングブレーキ制御装置(パーキングブレーキ用ECU)でもある。
即ち、第1の実施形態では、ESC制御装置(ESC用コントロールユニット)とパーキングブレーキ制御装置(パーキングブレーキ用コントロールユニット)とを、一つの制動用制御装置17で構成している。後述するように、制動用制御装置17は、マイクロコンピュータを含んで構成され、ESC16(の各制御弁のソレノイド、電動モータ16A)を電気的に駆動制御する。これに加えて、制動用制御装置17は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aを電気的に駆動制御する。制動用制御装置17の構成については、後で詳しく説明する。
制動用制御装置17は、ESC16の各制御弁(のソレノイド)、液圧ポンプ用の電動モータ16Aを個別に駆動制御する。これにより、制動用制御装置17は、ブレーキ側配管部15A−15Dを通じて各ディスクブレーキ5,6に供給するブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧)を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、それぞれのディスクブレーキ5,6毎に個別に行う。
この場合、制動用制御装置17は、ESC16を作動制御することにより、例えば以下の(1)−(8)等の制御を実行することができる。
(1)車両の制動時に接地荷重等に応じて各車輪2,3に適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2)制動時に各車輪2,3の制動力を自動的に調整して各車輪2,3のロック(スリップ)を防止するアンチロックブレーキ制御(液圧ABS制御)。
(3)走行中の各車輪2,3の横滑りを検知してブレーキペダル9の操作量に拘わらず各車輪2,3に付与する制動力を適宜自動的に制御しつつ、アンダーステアおよびオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定化制御。
(4)坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御。
(5)発進時等において各車輪2,3の空転を防止するトラクション制御。
(6)先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御。
(7)走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(8)車両進行方向の障害物との衡突を回避する障害物回避制御(自動ブレーキ制御、衝突被害軽減ブレーキ制御)。
ESC16は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時においては、マスタシリンダ12で発生した液圧を、ディスクブレーキ5,6(のキャリパ5A,6B)に直接供給する。これに対し、例えば、アンチロックブレーキ制御等を実行する場合は、増圧用の制御弁を閉じてディスクブレーキ5,6の液圧を保持し、ディスクブレーキ5,6の液圧を減圧するときには、減圧用の制御弁を開いてディスクブレーキ5,6の液圧を液圧制御用リザーバに逃がすように排出する。
さらに、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ディスクブレーキ5,6に供給する液圧を増圧または加圧するときは、供給用の制御弁を閉弁した状態で電動モータ16Aにより液圧ポンプを作動させ、該液圧ポンプから吐出したブレーキ液をディスクブレーキ5,6に供給する。このとき、液圧ポンプの吸込み側には、マスタシリンダ12側からマスタリザーバ13内のブレーキ液が供給される。
制動用制御装置17には、車両電源となるバッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が、電源ライン19を通じて給電される。図1に示すように、制動用制御装置17は、車両データバス20に接続されている。なお、ESC16の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC16を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ12とブレーキ側配管部15A−15Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス20は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器(例えば、制動用制御装置17等を含む各種のECU)は、車両データバス20により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。この場合、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ10、ホイルシリンダ圧を検出するW/C圧力センサ21、マスタシリンダ圧を検出するM/C圧力センサ22、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ(傾斜センサ)、シフトセンサ(トランスミッションデータ)、加速度センサ(Gセンサ)、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号(出力信号)による情報(車両情報)が挙げられる。
さらに、車両データバス20に送られる車両情報としては、それぞれの車輪(左前輪2、右前輪2、左後輪3、右後輪3)の速度(車輪速)を検出する車輪速センサ23からの検出信号(情報)も挙げられる。図1に示すように、車輪速センサ23は、左前輪2、右前輪2、左後輪3、右後輪3のそれぞれに対応して合計4個設けられている。車輪速センサ23は、例えば、磁気エンコーダ等の回転速度センサにより構成することができる。
車輪速センサ23は、検出信号として車輪2,3の速度(車輪速)に応じた信号(車輪速パルス)を出力する。例えば、車輪速センサ23は、車両データバス20を介して車輪速パルスを制動用制御装置17に出力する。車輪速センサ23の検出信号は、それぞれの車輪2,3の車輪速の情報(車輪速情報)として、制動用制御装置17でESC16および電動パーキングブレーキの制御に用いられる。車両に搭載された多数の電子機器(各種のECU)は、車輪速情報を含む各種の車両情報(信号)を、車両データバス20を通じて取得することができる。車輪速センサ23は、複数の車輪の車輪速(即ち、左前輪2の車輪速、右前輪2の車輪速、左後輪3の車輪速、右後輪3の車輪速)をそれぞれ検出する車輪速検出手段に対応する。
次に、電動パーキングブレーキについて説明する。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、電動パーキングブレーキのスイッチとしてのパーキングブレーキスイッチ(PKB−SW)24が設けられている。パーキングブレーキスイッチ24は、運転者によって操作される操作指示部となるものである。パーキングブレーキスイッチ24は、運転者の操作指示に応じたパーキングブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、制動用制御装置17へ伝達する。即ち、パーキングブレーキスイッチ24は、電動モータ7Aの駆動(回転)に基づいてピストン6D延いてはブレーキパッド6Cをアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(保持要求信号となるアプライ要求信号、解除要求信号となるリリース要求信号)を、制動用制御装置17に出力する。
運転者によりパーキングブレーキスイッチ24が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を付与するためのアプライ要求(制動保持要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ24からアプライ要求信号(パーキングブレーキ要求信号、アプライ指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側に回転させるための電力が、制動用制御装置17を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転に基づいてピストン6Dをディスクロータ4側に推進(押圧)し、推進したピストン6Dを保持する。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(制動保持状態)となる。
一方、運転者によりパーキングブレーキスイッチ24が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(制動解除要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ24からリリース要求信号(パーキングブレーキ解除要求信号、リリース指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側とは逆方向に回転させるための電力が、制動用制御装置17を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転によりピストン6Dの保持を解除する(ピストン6Dによる押圧力を解除する)。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(制動解除状態)となる。
パーキングブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、制動用制御装置17でのパーキングブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)することができる。また、パーキングブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が6km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、制動用制御装置17でのパーキングブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)することができる。オートアプライ、オートリリースは、パーキングブレーキスイッチ24が故障したときに、自動的に制動力の付与または解除を行うスイッチ故障時補助機能として構成することができる。
さらに、車両の走行時にパーキングブレーキスイッチ24の操作があった場合、より具体的には、走行中に緊急的にパーキングブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的パーキングブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合は、例えば、パーキングブレーキスイッチ24の操作に応じてESC16による制動力の付与と解除を行うようにすることができる。この場合、制動用制御装置17は、パーキングブレーキスイッチ24の操作に応じてESC16を制御する。例えば、制動用制御装置17は、パーキングブレーキスイッチ24が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)液圧による制動力を付与し、その操作が終了すると液圧による制動力の付与を解除する。
一方、車両の走行時にパーキングブレーキスイッチ24の操作があった場合に、ESC16による制動力の付与と解除に代えて、例えば、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aの駆動による制動力の付与と解除を行うようにすることができる。この場合は、例えば、制動用制御装置17は、パーキングブレーキスイッチ24が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)電動モータ7Aの駆動による制動力を付与し、その操作が終了すると電動モータ7Aの駆動による制動力の付与を解除する。このとき、制動用制御装置17は、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)するか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることができる。
制御装置(電動ブレーキ制御装置)としての制動用制御装置17は、後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7Aおよび回転直動変換機構8)と共に、電動ブレーキ装置を構成している。制動用制御装置17は、電動モータ7Aの駆動を制御する。このために、図3に示すように、制動用制御装置17は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)25およびメモリ26を有している。制動用制御装置17には、バッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が電源ライン19を通じて給電される。演算回路25は、例えば、同じ処理を並列に行うと共に互いに処理結果に相違がないかを監視するデュアルコア(二重回路)とすることができる。この場合には、一方のコア(回路)が故障しても、他方のコア(回路)で制御を継続(バックアップ)することができる。また、図示は省略するが、ESC用の演算回路と電動パーキングブレーキ用の演算回路との2つの演算回路を設ける構成としてもよい。
制動用制御装置17は、前述したように、ESC16の各制御弁の開閉と電動モータ16Aの駆動を制御し、各ディスクブレーキ5,6に供給するブレーキ液圧を減圧、保持、増圧または加圧する。これに加えて、制動用制御装置17は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aの駆動を制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(パーキングブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、制動用制御装置17は、左右の電動モータ7Aを駆動することにより、ディスクブレーキ6をパーキングブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。
このために、制動用制御装置17は、入力側がパーキングブレーキスイッチ24に接続され、出力側は各ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに接続されている。そして、制動用制御装置17は、ESC16の液圧供給の制御、車両の動き出しの検出、電動パーキングブレーキの電動モータ7Aの駆動指示の判定等を行うための演算回路25と、ESC16の電動モータ16A等を制御するためのESC駆動回路27と、電動パーキングブレーキの電動モータ7Aを制御するためのパーキング駆動回路28,29とを内蔵している。この場合、ESC駆動回路27は、液圧供給を制御するため、および、故障を検出するための回路である。
制動用制御装置17は、運転者のパーキングブレーキスイッチ24の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、パーキングブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、左右の電動モータ7Aを駆動し、左右のディスクブレーキ6のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、後輪側ディスクブレーキ6では、各電動モータ7Aの駆動に基づいて、回転直動変換機構8によるピストン6Dおよびブレーキパッド6Cの保持または解除が行われる。このように、制動用制御装置17は、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号に応じて、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)を推進するべく電動モータ7Aを駆動制御する。
図3に示すように、制動用制御装置17の演算回路25には、記憶部としてのメモリ26に加えて、パーキングブレーキスイッチ24、車両データバス20、駆動回路27,28,29等が接続されている。車両データバス20からは、ESC16の制御、および、電動パーキングブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。例えば、制動用制御装置17は、車両データバス20を介して車輪速センサ23の検出信号(車輪速パルス)を取得することができる。
なお、車両データバス20から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを制動用制御装置17(の演算回路25)に直接的に接続することにより取得する構成としてもよい。例えば、車輪速センサ23を制動用制御装置17に直接的に接続してもよい。W/C圧力センサ21、M/C圧力センサ22を制動用制御装置17に直接的に接続してもよい。また、制動用制御装置17の演算回路25は、車両データバス20に接続された他の制御装置(ESC)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによるパーキングブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、制動用制御装置17に代えて、他の制御装置で行う構成とすることができる。
制動用制御装置17は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部としてのメモリ26を備えている。メモリ26には、ESC16の制御プログラム、電動パーキングブレーキ(電動モータ7A)の制御プログラムが格納されている。この場合、メモリ26には、後述の図4および図5に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、アプライおよびアプライ完了後の車両の動き出しの検知とディスクロータ4の温度とに基づく再アプライ(リクランプ)の制御に用いる処理プログラムが格納されている。
図3に示すように、制動用制御装置17には、ESC16の電動モータ16Aおよび各制御弁(のソレノイド)を駆動するESC駆動回路27、一方(例えば左方)の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aを駆動する一側パーキング駆動回路28、他方(例えば右方)の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aを駆動する他側パーキング駆動回路29が内蔵されている。さらに、図示は省略するが、制動用制御装置17には、電源ライン19からの電圧を検出する電圧センサ、電動モータ7A,16Aのそれぞれのモータ電流を検出する電流センサ等も内蔵されている。ESC駆動回路27、一側パーキング駆動回路28、他側パーキング駆動回路29、電圧センサ、電流センサは、それぞれ演算回路25に接続されている。
これにより、制動用制御装置17の演算回路25では、例えば、電流センサにより検出されるESC16の電動モータ16Aの電流値、さらには、前述のブレーキ操作検出センサ10により検出されるブレーキ操作の有無、W/C圧力センサ21および/またはM/C圧力センサ22により検出される液圧値等に基づいて、ディスクブレーキ5,6に対する液圧供給が正常か否かを判定することができる。また、制動用制御装置17の演算回路25では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサにより検出される電動モータ7Aの電流値(の変化)に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの当接・離接の判定、電動モータ7Aの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
ところで、前述した従来技術は、停車状態とした車両の予期せぬ動き出し(ずり下がり)を検出したときには、電動ブレーキ装置の推力を増大させてリクランプ(ずり下がりリクランプ)を実施する。しかし、例えば、車両が急勾配の坂道でずり下がりを生じた場合等においては、車両の停車を維持するために必要な電動ブレーキ装置の推力が、想定値よりも高いと考えられる。このため、アプライ時のディスクロータの推定温度に基づいて決定された実施時間および推力でリクランプ(温度推定リクランプ)を行うと、温度推定リクランプが実施される前(実施時間前)に、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまい、車両がずり下がる可能性がある。
そこで、第1の実施形態では、制動用制御装置17は、車両の停車時に電動アクチュエータ7(電動モータ7A)による推力を維持した後に、車両の駆動力が発生していないにも拘わらず車両の予期せぬ動き(ずり下がり)が検出されたときには、車両の停車維持に必要な推力(下限推力)を変更する。そして、制動用制御装置17は、下限推力の変更に伴い、温度推定リクランプを実施する時期(タイミング)を変更する。即ち、制動用制御装置17は、ずり下がり検知時の推力(推定推力)が補正後下限推力(所定の推力しきい値)を下回ったときに、温度推定リクランプを実施する構成となっている。このような制動用制御装置17によるアプライおよび再アプライ(リクランプ)の制御処理、即ち、図4および図5に示す制御処理については、後に詳しく述べる。
第1の実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル9を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置11を介してマスタシリンダ12に伝達され、マスタシリンダ12によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ12内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管14A,14B、ESC16およびブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
この場合、各ディスクブレーキ5,6では、キャリパ5A,6B内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストン5B,6Dがブレーキパッド6Cに向けて摺動的に変位し、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ5A,6B内へのブレーキ液圧の供給が停止されることにより、ピストン5B,6Dがディスクロータ4,4から離れる(後退する)ように変位する。これによって、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4から離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者がパーキングブレーキスイッチ24を制動側(アプライ側)に操作したときは、制動用制御装置17から左右の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、電動モータ7Aが回転駆動される。後輪側ディスクブレーキ6では、電動モータ7Aの回転運動が回転直動変換機構8により直線運動に変換され、回転直動部材8Aによりピストン6Dが推進する。これにより、ブレーキパッド6Cによりディスクロータ4が押圧される。このとき、回転直動変換機構8(直動部材8A2)は、例えば、螺合による摩擦力(保持力)により制動状態を保持される。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ7Aへの給電を停止した後にも、回転直動変換機構8により、ピストン6Dは制動位置に保持される。
ここで、停車状態とした車両の予期せぬ動き出し(ずり下がり)を検出したときには、電動モータ7Aによるピストン6Dの推力を増大させてリクランプ(ずり下がりリクランプ)を実施する。このとき、例えば、車両が急勾配の坂道で過積載によりずり下がりを生じた場合には、停車を維持するために必要な推力がアプライ時の想定値よりも高いと考えられる。一方、走行中のサービスブレーキの使用により、ブレーキパッド6Cやディスクロータ4の温度が上昇した場合を考える。この場合、電動モータ7Aを駆動してパーキングブレーキをアプライした後、ディスクロータ4およびブレーキパッド6Cの温度が低下すると、熱収縮に伴って推力が低下する可能性がある。そこで、制動用制御装置17は、このような熱収縮(推力の低下)を考慮して、ディスクロータ4の推定温度に応じてアプライから所定時間経過後に再アプライ(リクランプ、増し締め、増し引き)する。しかし、ずり下がりを検出した場合に、アプライ時のディスクロータの推定温度に基づいて決定された実施時間および推力でリクランプ(温度推定リクランプ)を行うと、温度推定リクランプが実施される前(実施時間前)に、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまい、車両がずり下がる可能性がある。このため、制動用制御装置17は、車両の停車時にずり下がりが検出されたときには、車両の停車維持に必要な推力(下限推力)を変更し、温度推定リクランプを実施する時期(タイミング)を変更する。
即ち、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを実施した後、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて下限推力FLLを変更する。具体的には、ずり下がり検知時の現在推力にマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。また、制動用制御装置17は、補正後下限推力FLL′から下限推力FLLを減算することにより下限推力の増加分(下限推力増加分ΔF)を算出し、この下限推力増加分ΔFに必要推力Fn(ディスクロータ4等の熱収縮によって推力が低下した場合でも、車両がずり下がりを生じない推力)を加算することにより補正後必要推力Fnupdを算出する。そして、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプ後の現在推力、即ち、アプライ時からの推力の低下とディスクロータ4の推定温度に基づいて算出された推定推力(図6中の特性線31)が、補正後下限推力FLL′以下となったときに、温度推定リクランプを実施する。
次に、制動用制御装置17の演算回路25で行われる制御処理について、図4および図5を参照しつつ説明する。なお、図4および図5の制御処理は、例えば、制動用制御装置17に通電している間、繰り返し実行される。
ECU(Electronic Control Unit)である制動用制御装置17が起動すると、図4の制御処理が開始される。制動用制御装置17は、S1で、ディスクロータ4の温度(ロータ推定温度)の推定を開始する。このロータ推定温度は、例えば特開2006−307994号公報に開示された方法等を用いて推定することができる。S1でディスクロータ4の温度の推定が開始されると、ディスクロータ4の温度は、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し推定される。即ち、ディスクロータ4の推定温度は、リアルタイムで算出される。S2では、S1で推定されたロータ推定温度に基づいて必要推力Fnを算出する。必要推力Fnは、ディスクロータ4の温度が低下して推力が下がってもリクランプしなくて済む推力、即ち、温度が低下しても下限推力FLLを下回らない推力に対応する。そして、ロータ推定温度と必要推力Fnとは相関関係にあるため、ロータ推定温度に基づいて必要推力Fnを算出することができる。ディスクロータ4の温度と必要推力Fnとの関係は、例えば、予め実験、計算、シミュレーション等により求めておく。S2で必要推力Fnの算出が開始されると、必要推力Fnは、ディスクロータ4の推定温度と共に、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し算出される。即ち、必要推力Fnもリアルタイムで算出される。S3では、アプライ指示があるか否かを判定する。アプライ指示があるか否かは、パーキングブレーキスイッチ24から制動用制御装置17にパーキングブレーキの作動要求信号が入力されたか否か、またはオートアプライによるアプライ指示があるか否かによって判定することができる。S3で「NO」と判定した場合にはS3の前に戻り、S3の処理を繰り返す。一方、S3で「YES」と判定した場合にはS4に進む。
S4では、初回アプライを実施する。即ち、制動用制御装置17から左右の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、後輪側ディスクブレーキ6が、パーキングブレーキとして作動(アプライ)される。初回のアプライは、例えば、そのときに算出された必要推力Fnが上限推力FUL以下の場合は、必要推力Fnで実施し、必要推力Fnが上限推力FULよりも大きい場合は、上限推力FULで実施する。上限推力FULは、後輪側ディスクブレーキ6で付与することが可能な最大推力、例えば、その推力でアプライしても必要とされる耐久性を確保できる推力の上限値として設定することができる。上限推力FULも、予め実験、計算、シミュレーション等により求めておく。S5では、現在推力(例えば、図6の特性線31)の算出を開始する。この場合、アプライ時の推力は時間の経過とともに低下するため、アプライ時からの経過時間による推力の低下とロータ推定温度との関係に基づいて、現在推力(推定推力)を算出することができる。即ち、「温度の低下と推力の低下との関係」と「初回アプライ時の推力(必要推力Fnまたは上限推力FUL)」とから、現在の推力を算出する。なお、温度の低下と時間の経過とは相関関係がある。このため、推力と温度と時間との関係を、予め実験、計算、シミュレーション等により求めておく。S5で現在推力の算出が開始されると、現在推力は、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し算出される。即ち、初回アプライが実施されると、それ以降、現在推力がリアルタイムで算出される。S6では、アプライ時のロータ推定温度が、しきい値以上であるか否かを判定する。このしきい値は、熱収縮によるリクランプ(温度推定リクランプ)が必要となるディスクロータ4の温度(例えば300℃)として設定されている。従って、S6で「NO」と判定した場合には、温度推定リクランプを行う必要がないため、制御処理を終了する。一方、S6で「YES」と判定した場合には、S7に進む。なお、しきい値は、必要推力Fnと上限推力FULとが一致する温度に対応する。
S7では、アプライ時のロータ推定温度から、温度推定リクランプの実施時間(アプライから温度推定リクランプを実施するまでの時間)と、温度推定リクランプの実施回数を決定する。アプライ時のロータ推定温度は、時間の経過とともに低下していく。このため、アプライ時のロータ推定温度に対する温度推定リクランプの実施時間が設定されたテーブルを用いることにより、温度推定リクランプの実施時間と、温度推定リクランプの実施回数を決定することができる。S8では、S7で決定された温度推定リクランプの実施時間に達するまでの待ち時間(リクランプ待ち時間)のカウントを開始する。S9では、アプライ時の推力を保持した後に、車両の駆動力が発生していない状態で、車両のずり下がり(予期せぬ動き)が検知されていないか否かを判定する。車両のずり下がりは、例えば、車輪速センサ23により検出することができる。S9で「NO」と判定した場合、即ち、車両のずり下がりが検知された場合には、S13(図5参照)に進む。一方、S9で「YES」と判定した場合には、S10に進む。
S10では、リクランプ待ち時間が、温度推定リクランプの実施時間に到達したか否かを判定する。S10で「NO」と判定した場合にはS9に戻り、S10で「YES」と判定した場合には、S11に進む。S11では、温度推定リクランプを実施する。即ち、制動用制御装置17は、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動することにより、リクランプ(再アプライ)を実施する。S11では、上限推力FULで温度推定リクランプを実施する。なお、最終回の温度推定リクランプは、そのときのロータ推定温度に応じた必要推力Fnで実施することができる。S12では、温度推定リクランプが、S7で決定された既定の回数(リクランプ実施回数)に到達したか否かを判定する。S12で「NO」と判定した場合には、温度推定リクランプがS7で決定された実施回数に達していないのでS9に戻り、S9からS11の制御処理を繰返す。
これにより、初回アプライ後に車両のずり下がりが検知されない場合には、ディスクロータ4およびブレーキパッド6Cの熱収縮によって推力が低下したとしても、アプライ時のロータ推定温度に基づいて設定された所定のタイミングおよび回数で温度推定リクランプを実施することにより、車両のずり下がりを抑えることができる。そして、S12で「YES」と判定した場合には、温度推定リクランプがS7で決定された実施回数に達しているので制御処理を終了する。
次に、S9で「NO」と判定した場合、即ち、車両のずり下がりが検知された場合には、図5のS13に進む。S13では、ずり下がりリクランプを実施する。即ち、車両のずり下がりが検知されると、制動用制御装置17は、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動することにより、上限推力FULによってずり下がりリクランプ(再アプライ)を実施する。S14では、車両のずり下がりを検知した時の推力(現在推力)から補正後下限推力FLL′を決定する。即ち、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知した時の現在推力に、所定のマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。S15では、下限推力FLLの増加分(下限推力増加分ΔF)を算出する。この下限推力増加分ΔFは、S14で決定された補正後下限推力FLL′から下限推力FLLを減算することにより算出することができる(下限推力増加分ΔF=補正後下限推力FLL′−下限推力FLL)。S16では、補正後必要推力Fnupdを算出する。この補正後必要推力Fnupdは、必要推力Fn(ディスクロータ4等の熱収縮によって推力が低下した場合でも、車両がずり下がりを生じない推力)に、S15で算出された下限推力増加分ΔFを加算することにより算出することができる(補正後必要推力Fnupd=必要推力Fn+下限推力増加分ΔF)。
S17では、補正後必要推力Fnupdが、上限推力FULよりも大きいか否かを判定する。S17で「YES」と判定した場合には、S18に進む。S17で「NO」と判定した場合、即ち、補正後必要推力Fnupdが、上限推力FUL以下となった場合には、S20に進む。S18では、ずり下がりリクランプ後の現在推力、即ち、初回アプライ時からの推力の低下とディスクロータ4の推定温度に基づいて算出された推定推力が、補正後下限推力FLL′(所定の推力しきい値)以下であるか否かを判定する。S18で「NO」と判定した場合には、S17に戻る。一方、S18で「YES」と判定した場合には、S19に進み、上限推力FULで温度推定リクランプを実施した後、S17に戻る。S20では、最終の温度推定リクランプ(最終温度推定リクランプ)を実施する。S20では、そのときのロータ推定温度に応じた補正後必要推力Fnupdで、温度推定リクランプを実施することができる。このように、補正後必要推力Fnupdが上限推力FUL以下となったタイミングで温度推定リクランプを行うことにより、その後、推力が低下したとしても、補正後下限推力を下回ることはない。
図6は、第1の実施形態による推力の時間変化の一例を示している。実線の特性線31は、下限推力を補正した第1の実施形態による推力を示し、破線の特性線31′は、下限推力を補正する前の比較例による推力を示している。パーキングブレーキスイッチ24からパーキングブレーキの作動要求信号が出力されると、制動用制御装置17は、時点t1において初回アプライを実施する(S4)。初回アプライ後、車両のずり下がりを検知すると、制動用制御装置17は、時点t2において上限推力FULでずり下がりリクランプを実施する(S13)。ここで、制動用制御装置17は、ずり下がり検知時の現在推力にマージン量αを加算し、補正後下限推力FLL′を決定する(S14)。次に、制動用制御装置17は、補正後下限推力FLL′に基づいて下限推力増加分ΔFを算出し(S15)、この下限推力増加分ΔFを必要推力Fn(t)に加算することにより、補正後必要推力Fnupd(t)を算出する(S16)。そして、ずり下がりリクランプ後の現在推力が、補正後下限推力FLL′以下に達した時点t3、t4において、例えば2回の温度推定リクランプを実施する(S19)。これにより、第1の実施形態による推力31は、下限推力FLLよりも大きな補正後下限推力FLL′に達したときに、比較例による推力31′よりも早く温度推定リクランプを実施することができる。なお、図6では、2回の温度推定リクランプを実施した場合を例示しているが、初回アプライ時のディスクロータ4の推定温度に応じて3回以上の温度推定リクランプを実施してもよい。
このように、第1の実施形態では、車両が急勾配の坂道に過積載で停車した場合等において、車両のずり下がりに対してずり下がりリクランプを実施した後に、ずり下がり検知時の現在推力にマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する(下限推力FLLを変更する)。そして、ずり下がりリクランプ後の現在推力(推定推力)が、補正後下限推力FLL′(所定の推力しきい値)を下回ったときに、温度推定リクランプを実施する。これにより、車両が急勾配の坂道に過積載で停車した場合等において、車両の停車を維持するために必要な電動ブレーキ装置の推力が、初回アプライ時の想定値よりも高くなったとしても、温度推定リクランプを実施する時期を早めることができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。しかも、第1の実施形態では、温度推定リクランプを実施するときの上限推力FULを増加させることなく、車両のずり下がりを防止できる。従って、後輪側ディスクブレーキ6のキャリパ6B等に作用する負荷を低減し、これらの耐久性を高めることができる。
次に、図4、図7ないし図9は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、制御装置は、下限推力の変更に伴い、ロータ推定温度に応じて、ずり下がりリクランプ後に温度推定リクランプを行う時期(温度)を変更する構成としたことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第2の実施形態では、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを実施した後、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて下限推力FLLを変更する。具体的には、ずり下がり検知時の現在推力にマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。また、制動用制御装置17は、補正後下限推力FLL′と必要推力Fnとに基づいて、温度推定リクランプを実施すべき温度(実施温度)を決定する。具体的には、図9の必要推力とロータ推定温度との関係を示すテーブルを用いて、必要推力Fnが補正後下限推力FLL′を下回るときのロータ推定温度を求め、このロータ推定温度を、温度推定リクランプを実施すべき温度(リクランプ実施温度)として決定する。そして、ロータ推定温度がリクランプ実施温度に達したときに、温度推定リクランプを実施する。このようにして、制動用制御装置17は、ロータ推定温度に基づいて、ずり下がりリクランプ後に温度推定リクランプを行う時期を変更する。
図4および図7は、第2の実施形態による制御処理を示している。第2の実施形態では、図4および図7に示す処理フローを実行するための処理プログラムが制動用制御装置17のメモリ26に格納されている。なお、図7に示す処理フローは、図4に示す処理フローのS9で「NO」と判定した後に実行されるものである。
図4に示す処理フローのS9で「NO」と判定した場合には、図7に示す処理フローのS21に進む。S21では、ずり下がりリクランプを実施する。即ち、車両のずり下がりが検知されると、制動用制御装置17は、上限推力FULによってずり下がりリクランプを実施する。S22では、ずり下がり検知時の現在推力から補正後下限推力FLL′を決定する。即ち、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知した時の現在推力に、所定のマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。S23では、補正後下限推力FLL′と必要推力Fnから、温度推定リクランプの実施温度(リクランプ実施温度)を決定する。このリクランプ実施温度は、図9に示す必要推力とロータ推定温度との関係を示すテーブルから、必要推力Fnが補正後下限推力FLL′を下回るときのロータ推定温度を求めることにより決定することができる。
S24では、ロータ推定温度が、S23で決定されたリクランプ実施温度に到達したか否かを判定する。S24で「NO」と判定する間は、S24の判定を繰返し、S24で「YES」と判定した場合には、S25に進む。S25では、上限推力FULで温度推定リクランプを実施する。S26では、既定の温度推定リクランプ実施回数に到達したか否かを判定する。温度推定リクランプ実施回数は、例えば図4に示す処理フローのS7で決定された値を用いる。S26で「NO」と判定した場合はS24に戻り、S24以降の処理フローを繰返す。S26で「YES」と判定した場合は、図4に示す処理フローの「END」に進み、制御処理を終了する。
図8は、第2の実施形態による推力の温度変化の一例を示している。実線の特性線32は、第2の実施形態による下限推力を補正した推力を示し、破線の特性線32′は、下限推力を補正する前の推力を示している。制動用制御装置17は、ロータ推定温度Taにおいて初回アプライを実施する(S4)。初回アプライ後、ロータ推定温度Tzrにおいて車両のずり下がりを検知すると、制動用制御装置17は、上限推力FULでずり下がりリクランプを実施する(S21)。ここで、制動用制御装置17は、下限推力FLLに下限推力増加分ΔFを加算し、補正後下限推力FLL′を決定する(S22)。次に、制動用制御装置17は、温度推定リクランプを実施すべきリクランプ実施温度としてTor1、Tor2を決定する(S23)。この場合、ずり下がりリクランプ時のロータ推定温度Tzrにおける補正後必要推力Fnzrから推力余裕代ΔFmrg分の推力が低下する温度として、リクランプ実施温度Tor1を決定することができる。また、1回目の温度推定リクランプ時のロータ推定温度Tor1における補正後必要推力Fnor1から推力余裕代ΔFmrg分の推力が低下する温度として、リクランプ実施温度Tor2を決定することができる。推力余裕代ΔFmrgは、上限推力FULと補正後下限推力FLL′との差に相当する。そして、制動用制御装置17は、ロータ推定温度がリクランプ実施温度Tor1に達すると1回目の温度推定リクランプを実施し、リクランプ実施温度Tor2に達すると2回目の温度推定リクランプを実施する(S25)。なお、図8では、2回の温度推定リクランプを実施した場合を例示しているが、初回アプライ時のディスクロータ4の推定温度に応じて3回以上の温度推定リクランプを行う構成としてもよい。
このように、第2の実施形態では、補正後下限推力と必要推力とに基づいて決定されたリクランプ実施温度によって、温度推定リクランプを実施する時期を変更することにより、下限推力FLLよりも大きく設定された補正後下限推力FLL′で温度推定リクランプを実施することができる。この結果、車両が急勾配の坂道に過積載で停車した場合等において、車両の停車を維持するために必要な電動ブレーキ装置の推力が、初回アプライ時の想定値よりも高くなったとしても、温度推定リクランプを実施する時期を早めることができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。
次に、図10ないし図12は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、制御装置が、下限推力の変更に伴い、ずり下がりリクランプ後に温度推定リクランプを行う時期を変更する構成としたことにある。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第3の実施形態では、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを実施した後、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて下限推力FLLを変更する。具体的には、ずり下がり検知時の現在推力にマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。そして、補正後下限推力FLL′と必要推力Fnとに基づいて、温度推定リクランプを実施すべき時間と回数を更新(変更)する。具体的には、ずり下がり検知時のロータ推定温度に対する温度推定リクランプの実施時間が設定されたテーブルを用いることにより、ずり下がりリクランプ後に実施すべき温度推定リクランプの実施時間と、温度推定リクランプの実施回数を決定(アプライ時からの実施時間と実施回数を更新)することができる。そして、ずり下がりリクランプを実施した後、更新された温度推定リクランプの実施時間に達したときには、温度推定リクランプを更新された実施回数だけ実施する。このようにして、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプ後に温度推定リクランプを行う時期を変更する。
図10および図11は、第3の実施形態による制御処理を示している。第3の実施形態では、図10および図11に示す処理フローを実行するための処理プログラムが制動用制御装置17のメモリ26に格納されている。なお、図10中のS1〜S12は、第1の実施形態と同様の処理であるため、その説明は省略する。また、図11に示す処理フローは、図10中のS9で「NO」と判定した後に実行されるものである。
図10に示す処理フローのS9で「NO」と判定した場合には、図11に示す処理フローのS31に進む。S31では、ずり下がりリクランプを実施する。即ち、車両のずり下がりが検知されると、制動用制御装置17は、上限推力FULによってずり下がりリクランプを実施する。S32では、ずり下がり検知時の現在推力から補正後下限推力FLL′を決定する。即ち、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知した時の現在推力に、所定のマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。S33では、補正後下限推力FLL′と必要推力Fnとに基づいて、温度推定リクランプを実施すべき時間(実施時間)と実施回数を更新(変更)する。この温度推定リクランプの実施時間と実施回数は、ずり下がり検知時のロータ推定温度に対する温度推定リクランプの実施時間が設定されたテーブルを用いて決定される。これにより、S7で決定されたアプライ時からの温度推定リクランプの実施時間と実施回数を更新することができる。
S33で温度推定リクランプの実施時間と実施回数を更新した後には、S9に進む。S9では、車両のずり下がりが検知されていないか否かを判定する。S9で「NO」と判定した場合、即ち、車両のずり下がりが検知された場合には、S31に進み、S31からS33の制御処理を繰返す。一方、S9で「YES」と判定した場合には、S10に進む。S10では、リクランプ待ち時間が、S7で決定された温度推定リクランプ実施時間またはS33で更新された温度推定リクランプの実施時間に到達したか否かを判定する。S10で「NO」と判定した場合にはS9に戻り、S10で「YES」と判定した場合には、S11に進む。S11では、ずり下がりリクランプ後の温度推定リクランプを実施する。S12では、温度推定リクランプの回数が、S7で決定されたリクランプ実施回数またはS33で更新されたリクランプ実施回数に到達したか否かを判定する。S12で「NO」と判定した場合には、S9に戻り、S9以降の制御処理を繰返す。一方、S12で「YES」と判定した場合には、制御処理を終了する。
図12は、第3の実施形態による推力の時間変化の一例を示している。実線の特性線33は、第3の実施形態による下限推力を補正した推力を示し、破線の特性線33′は、下限推力を補正する前の推力を示している。制動用制御装置17は、時点t1において初回アプライを実施する(S4)。初回アプライ後、車両のずり下がりを検知すると、制動用制御装置17は、時点t2において上限推力FULでずり下がりリクランプを実施する(S31)。ここで、制動用制御装置17は、下限推力FLLに下限推力増加分ΔFを加算し、補正後下限推力FLL′を決定する(S32)。次に、制動用制御装置17は、補正後下限推力FLL′と必要推力Fn(t)とに基づいて、アプライ時からの温度推定リクランプの実施時間t3、t4と実施回数を更新する。この場合、ずり下がりリクランプ時(t2)の補正後必要推力Fnzrから推力余裕代ΔFmrg分の推力が低下する時間として、リクランプ実施時間t3を決定することができる。また、1回目の温度推定リクランプ時(t3)の補正後必要推力Fnzr1から推力余裕代ΔFmrg分の推力が低下する時間として、リクランプ実施時間t4を決定することができる。そして、制動用制御装置17は、リクランプ待ち時間が、温度推定リクランプ実施時間t3に達すると1回目の温度推定リクランプを実施し、温度推定リクランプ実施時間t4に達すると2回目の温度推定リクランプを実施する(S11)。なお、図12では、2回の温度推定リクランプを実施した場合を例示しているが、初回アプライ時のディスクロータ4の推定温度に応じて3回以上の温度推定リクランプを行う構成としてもよい。
このように、第3の実施形態では、補正後下限推力FLL′と必要推力Fn(t)とに基づいて更新された温度推定リクランプ実施時間とリクランプ実施回数によって、温度推定リクランプを実施する時期を変更することができる。この結果、車両が急勾配の坂道に過積載で停車した場合等において、車両の停車を維持するために必要な電動ブレーキ装置の推力が、初回アプライ時の想定値よりも高くなったとしても、温度推定リクランプを実施する時期を早めることができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。
次に、図13ないし図15は、第4の実施形態を示している。第4の実施形態の特徴は、制御装置が、下限推力の変更に伴い、ロータ推定温度に応じて温度推定リクランプを行う時間の間隔を変更する構成としたことにある。なお、第4の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第4の実施形態では、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを実施した後、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間をラッチ(保持)する。そして、ずり下がりリクランプ後に温度推定リクランプが実施されるまでのリクランプ実施時間を、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間よりも短い時間間隔に更新(変更)する。そして、ずり下がりリクランプを実施した後、更新された温度推定リクランプの実施時間に達したときには、温度推定リクランプを更新された実施回数だけ実施する。このようにして、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプ後に温度推定リクランプを行う時間間隔を変更することにより、実質的に下限推力を変更している。
図13および図14は、第4の実施形態による制御処理を示している。第4の実施形態では、図13および図14に示す処理フローを実行するための処理プログラムが制動用制御装置17のメモリ26に格納されている。なお、図13中のS1〜S4、S6〜S12は、第1の実施形態と同様の処理であるため、その説明は省略する。また、図14に示す処理フローは、図13中のS9で「NO」と判定した後に実行されるものである。
図13に示す処理フローにおいて、S4で初回アプライを実施した後には、S41に進む。S41では、初回アプライを実施した時点からの経過時間のカウントを開始する。そして、S9で「NO」と判定したときには、図14に示す処理フローのS42に進む。S42では、ずり下がりリクランプを実施する。S43では、S41でカウントが開始された経過時間により、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間ta(図15参照)をラッチ(保持)する。S44では、S7で決定されたアプライ時からの温度推定リクランプの実施時間を、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間taよりも短い時間となる温度推定リクランプ実施時間tbに更新(変更)する。また、S44では、S7で決定されたアプライ時からの温度推定リクランプの実施回数を更新する。
S44で温度推定リクランプの実施時間と実施回数を更新した後には、S9に進む。S9では、車両のずり下がりが検知されていないか否かを判定する。S9で「NO」と判定した場合、即ち、車両のずり下がりが検知された場合には、S42に進み、S42からS44の制御処理を繰返す。一方、S9で「YES」と判定した場合には、S10に進む。S10では、リクランプ待ち時間が、S7で決定された温度推定リクランプ実施時間またはS44で更新された温度推定リクランプ実施時間tbに到達したか否かを判定する。S10で「NO」と判定した場合にはS9に戻り、S10で「YES」と判定した場合には、S11に進む。S11では、ずり下がりリクランプ後の温度推定リクランプを実施する。S12では、温度推定リクランプの回数が、S7で決定されたリクランプ実施回数またはS44で更新されたリクランプ実施回数に到達したか否かを判定する。S12で「NO」と判定した場合には、S9に戻り、S9以降の制御処理を繰返す。一方、S12で「YES」と判定した場合には、制御処理を終了する。
図15は、第4の実施形態による推力の時間変化の一例を示している。実線の特性線34は、第4の実施形態による推力、即ち、図14のS44で更新された温度推定リクランプ実施時間に基づいて温度推定リクランプを行う場合の推力を示し、破線の特性線34′は、温度推定リクランプ実施時間を更新せずに温度推定リクランプを行う場合の推力を示している。パーキングブレーキの作動要求信号が出力されると、制動用制御装置17は、時点t1において初回アプライを実施する(S4)。初回アプライ後、車両のずり下がりを検知すると、制動用制御装置17は、時点t2において上限推力FULでずり下がりリクランプを実施する(S42)。ここで、制動用制御装置17は、初回アプライを行った時点t1からずり下がりを検知した時点t2までの経過時間taをラッチする(S43)。そして、制動用制御装置17は、温度推定リクランプの実施時間を、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間taよりも短い温度推定リクランプ実施時間tbに変更する(S44)。そして、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを行った時点t2から温度推定リクランプ実施時間tbが経過した時点t3において、1回目の温度推定リクランプを実施し、これ以降、経過時間tbごとに、時点t4から時点t8まで複数回(合計7回)の温度推定リクランプを実施する(S11)。なお、図15では、7回の温度推定リクランプを実施した場合を例示しているが、初回アプライ時のディスクロータ4の推定温度に応じて6回以下、または8回以上の温度推定リクランプを行う構成としてもよい。
このように、第4の実施形態では、温度推定リクランプの実施時間を、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間taよりも短い温度推定リクランプ実施時間tbに変更することにより、ずり下がりリクランプ後の温度推定リクランプを、短時間で繰返し実施することができる。このように、温度推定リクランプ実施時間tbを短く変更することにより、下限推力は、実質的に図15に示す下限推力FLLよりも大きな値に変更されている。この結果、第4の実施形態では、車両が急勾配の坂道に過積載で停車した場合等において、車両の停車を維持するために必要な電動ブレーキ装置の推力が、初回アプライ時の想定値よりも高くなったとしても、温度推定リクランプを実施する時期を早めることができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。
次に、図10、図16および図17は、第5の実施形態を示している。第5の実施形態の特徴は、制御装置が、下限推力の変更に伴い、温度推定リクランプを行う推力(推力の上限値)を変更する構成としたことにある。なお、第5の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第5の実施形態では、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを実施した後、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて下限推力FLLを変更する。即ち、ずり下がり検知時の現在推力にマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。そして、補正後下限推力FLL′に基づいて温度推定リクランプの上限推力FULを更新する。具体的には、補正後下限推力FLL′から下限推力FLLを減算して下限推力の増加分(下限推力増加分ΔF)を算出し、この下限推力増加分ΔFを上限推力FULに加算することにより、上限推力FULを補正後上限推力FUL′に更新する。このようにして、制動用制御装置17は、温度推定リクランプを行うときの上限推力を増加(変更)する。
図10および図16は、第5の実施形態による制御処理を示している。なお、図10中のS1〜S12は、第1の実施形態と同様の処理であるため、その説明は省略する。また、図16に示す処理フローは、図10中のS9で「NO」と判定した後に実行されるものである。
図10に示す処理フローのS9で「NO」と判定した場合には、図16に示す処理フローのS51に進む。S51では、ずり下がりリクランプを実施する。即ち、車両のずり下がりが検知されると、制動用制御装置17は、上限推力FULによってずり下がりリクランプを実施する。S52では、ずり下がり検知時の現在推力から補正後下限推力FLL′を決定する。即ち、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知した時の現在推力に、所定のマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。S53では、補正後下限推力FLL′に基づいて温度推定リクランプの上限推力FULを更新する。即ち、S52で決定した補正後下限推力FLL′と補正前の下限推力FLLとの差である下限推力増加分ΔFを上限推力FULに加算することにより、上限推力を補正後上限推力FUL′に更新する。
S53で温度推定リクランプの上限推力FULを補正後上限推力FUL′に更新した後には、S9に進む。S9では、車両のずり下がりが検知されていないか否かを判定する。S9で「NO」と判定した場合、即ち、車両のずり下がりが検知された場合には、S51に進み、S51からS53の制御処理を繰返す。一方、S9で「YES」と判定した場合には、S10に進む。S10では、リクランプ待ち時間が、温度推定リクランプの実施時間に到達したか否かを判定する。S10で「NO」と判定した場合にはS9に戻り、S10で「YES」と判定した場合には、S11に進む。S11では、S53で更新された上限推力(補正後上限推力FUL′)で温度推定リクランプを実施する。S12では、温度推定リクランプが既定の実施回数に到達したか否かを判定する。S12で「NO」と判定した場合には、温度推定リクランプがS7で決定された実施回数に達していないのでS9に戻り、S9以降の制御処理を繰返す。一方、S12で「YES」と判定した場合には、制御処理を終了する。
図17は、第5の実施形態による推力の時間変化の一例を示している。実線の特性線35は、温度推定リクランプの上限推力を変更した場合の推力の変化を示し、破線の特性線35′は、上限推力を変更していない場合の比較例による推力の変化を示している。パーキングブレーキの作動要求信号が出力されると、制動用制御装置17は、時点t1において初回アプライを実施する(S4)。初回アプライ後、車両のずり下がりを検知すると、制動用制御装置17は、時点t2において上限推力FULでずり下がりリクランプを実施する(S51)。ここで、制動用制御装置17は、下限推力FLLに下限推力増加分ΔFを加算して補正後下限推力FLL′を決定し(S52)、さらに、下限推力増加分ΔFを上限推力FULに加算することにより、上限推力FULを補正後上限推力FUL′に更新する(S53)。そして、リクランプ待ち時間が、温度推定リクランプ実施時間に達すると、制動用制御装置17は、時点t3において、補正後上限推力FUL′で1回目の温度推定リクランプを実施し、時点t4において2回目の温度推定リクランプを実施する(S11)。この温度推定リクランプは、既定の回数(S7で決定されたリクランプ実施回数)だけ実施される。なお、図17では、2回の温度推定リクランプを実施した場合を例示しているが、初回アプライ時のディスクロータ4の推定温度に応じて3回以上の温度推定リクランプを行う構成としてもよい。
このように、第5の実施形態は、ずり下がりリクランプを実施した後、既定の温度推定リクランプ実施時間後に実施される温度推定リクランプの上限推力FULが、補正後上限推力FUL′に増加されている。従って、第5の実施形態による推力35は、比較例による推力35′による上限推力FULよりも大きな推力(補正後上限推力FUL′)で、温度推定リクランプを行うことができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。しかも、第5の実施形態では、温度推定リクランプを実施するときの上限推力を増加させることにより、温度推定リクランプの実施回数を低減することができる。この結果、温度推定リクランプが複数回に亘って連続的に作動するのを抑えることができ、この温度推定リクランプの連続的な作動による騒音、消費電力の増加を抑制することができ、さらに、電動モータ7Aのブラシの摩耗を抑制することができる。
次に、図4、図18および図19は、第6の実施形態を示している。第6の実施形態の特徴は、制御装置が、下限推力の変更に伴い、温度推定リクランプを行う推力を変更(所定量増加)する構成としたことにある。なお、第6の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第6の実施形態では、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを実施した後、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて下限推力FLLを変更する。即ち、ずり下がり検知時の現在推力にマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。また、制動用制御装置17は、補正後下限推力FLL′から下限推力FLLを減算して下限推力の増加分(下限推力増加分ΔF)を算出し、この下限推力増加分ΔFを必要推力Fnに加算することにより、補正後必要推力Fnupdを算出する。また、制動用制御装置17は、温度推定リクランプを実施するときの上限推力FULを、補正後必要推力Fnupdの値に更新(所定量増加)する。そして、リクランプ待ち時間が、温度推定リクランプの実施時間に達すると、その時点の補正後必要推力Fnupd(FUL′)で温度推定リクランプを実施する。
図4および図18は、第6の実施形態による制御処理を示している。なお、図4中のS1〜S12は、第1の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。また、図18に示す処理フローは、図4中のS9で「NO」と判定した後に実行されるものである。
図4に示す処理フローのS9で「NO」と判定した場合には、図18に示す処理フローのS61に進む。S61では、ずり下がりリクランプを実施する。即ち、車両のずり下がりが検知されると、制動用制御装置17は、上限推力FULによってずり下がりリクランプを実施する。S62では、ずり下がり検知時の現在推力から補正後下限推力FLL′を決定する。即ち、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知した時の現在推力に、所定のマージン量αを加算して補正後下限推力FLL′を決定する。S63では、下限推力増加分ΔFを算出する。この下限推力増加分ΔFは、S62で決定された補正後下限推力FLL′から下限推力FLLを減算することにより算出することができる(下限推力増加分ΔF=補正後下限推力FLL′−下限推力FLL)。S64では、補正後必要推力Fnupdを算出する。この補正後必要推力Fnupdは、S63で算出された下限推力増加分ΔFを必要推力Fnに加算することにより算出することができる(補正後必要推力Fnupd=必要推力Fn+下限推力増加分ΔF)。
S65では、温度推定リクランプを実施するときの上限推力FULを、補正後必要推力Fnupdの値に更新する。即ち、S64で算出した補正後必要推力Fnupdの値を、温度推定リクランプを実施するときの上限推力(補正後上限推力FUL′)として用いる。これにより、上限推力FULを所定量増加することができる。S66では、リクランプ待ち時間が、温度推定リクランプの実施時間に到達したか否かを判定する。S66で「NO」と判定した場合にはS66に戻り、S66で「YES」と判定した場合には、S67に進む。S67では、その時点の補正後必要推力Fnupdの値に更新された上限推力(補正後上限推力FUL′)で、温度推定リクランプを実施する。そして、S67で温度推定リクランプを実施した後、制御処理を終了する。この場合、補正後必要推力Fnupdは、ディスクロータ4等が熱収縮した場合でも車両がずり下がりを生じない必要推力を、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて補正(増加)した値となっている。従って、1回の温度推定リクランプを行うだけで、ずり下がりリクランプ後の車両の停車を維持することができる。
図19は、第6の実施形態による推力の時間変化の一例を示している。実線の特性線36は、温度推定リクランプの上限推力FULを補正後必要推力Fnupd(t)の値に変更した場合の推力の変化を示し、破線の特性線36′は、上限推力FULを変更していない場合の比較例による推力の変化を示している。制動用制御装置17は、時点t1において初回アプライを実施する(S4)。初回アプライ後、車両のずり下がりを検知すると、制動用制御装置17は、時点t2において上限推力FULでずり下がりリクランプを実施する(S61)。ここで、制動用制御装置17は、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて補正後下限推力FLL′を決定し(S62)、補正後下限推力FLL′から下限推力FLLを減算して下限推力増加分ΔFを算出する(S63)。また、制動用制御装置17は、下限推力増加分ΔFを必要推力Fn(t)に加算することにより、補正後必要推力Fnupd(t)を算出する(S64)。さらに、制動用制御装置17は、上限推力FULを、補正後必要推力Fnupd(t)の値に更新した補正後上限推力FUL′とする(S65)。そして、リクランプ待ち時間が、温度推定リクランプ実施時間に達すると、制動用制御装置17は、その時点の補正後必要推力Fnupd(t)の値に更新された補正後上限推力FUL′で、1回の温度推定リクランプを実施する(S67)。
このように、第6の実施形態は、ずり下がりリクランプを実施した後、ずり下がり検知時の現在推力に基づいて必要推力必要推力Fn(t)を補正し、この補正後必要推力Fnupd(t)の値に更新した補正後上限推力FUL′によって温度推定リクランプを行うことができる。従って、第6の実施形態による推力36は、比較例による推力36′による上限推力FULよりも大きな推力(補正後上限推力FUL′)で、温度推定リクランプを行うことができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。しかも、第6の実施形態では、温度推定リクランプを実施するときの上限推力を増加させることにより、温度推定リクランプの実施回数を低減することができる。この結果、温度推定リクランプが複数回に亘って連続的に作動するのを抑えることができ、この温度推定リクランプの連続的な作動による騒音、消費電力の増加を抑制することができ、さらに、電動モータ7Aのブラシの摩耗を抑制することができる。
次に、図13および図20は、第7の実施形態を示している。第7の実施形態の特徴は、制御装置が、下限推力の変更に伴い、推力を保持してから車両の駆動力が発生していない状態で、車両の動きが検出されるまでの時間に応じて、温度推定リクランプの時期または推力を変更する構成としたことにある。なお、第7の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第7の実施形態では、制動用制御装置17は、ずり下がりリクランプを実施した後、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間をラッチ(保持)する。そして、初回アプライ時からずり下がりが検知されるまでの経過時間が、所定のしきい値よりも短いか否かを判定する。そして、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が、しきい値よりも短い場合には、ずり下がりが検知されるまでの経過時間に応じて、温度推定リクランプを実施するときの上限推力を更新する。ここで、ずり下がりが検知されるまでの経過時間がしきい値よりも短い場合には、下限推力が大きくなり、上限推力と下限推力との間隔が小さくなるため、温度推定リクランプの実施回数が増加傾向となる。即ち、第7の実施形態では、ずり下がりが検知されるまでの経過時間を比較するしきい値に応じて、下限推力を変更することができる。そして、上限推力は、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が短いほど大きく更新される。一方、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が、しきい値以上となる場合には、ずり下がりが検知されるまでの経過時間に応じて、初回アプライ時から温度推定リクランプを実施するまでの時間(温度推定リクランプを実施する時期)を更新する。即ち、ずり下がりが検知されるまでの経過時間がしきい値以上の場合には、温度推定リクランプ実施時間は、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が長いほど長く更新される。
図13および図20は、第7の実施形態による制御処理を示している。なお、図13中のS1〜S4、S41、S6〜S12は、第4の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。また、図20に示す処理フローは、図13中のS9で「NO」と判定した後に実行されるものである。
図13に示す処理フローのS9で「NO」と判定したときには、図20に示す処理フローのS71に進む。S71では、ずり下がりリクランプを実施する。S72では、S41でカウントが開始された経過時間により、初回アプライ時からずり下がり検知時までの経過時間をラッチ(保持)する。S73では、初回アプライ時からずり下がりが検知されるまでの経過時間が、所定のしきい値よりも短いか否かを判定する。S73で「YES」と判定した場合、即ち、ずり下がり検知時までの経過時間がしきい値よりも短い場合には、S74に進む。一方、S73で「NO」と判定した場合、即ち、ずり下がり検知時までの経過時間がしきい値以上である場合には、S75に進む。
S74では、ずり下がりが検知されるまでの経過時間に応じて、温度推定リクランプを実施するときの上限推力を更新する。この場合、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が短いほど、上限推力を大きく更新する。S74で温度推定リクランプを実施するときの上限推力を更新した後には、図13の処理フローのS9に進む。一方、S75では、ずり下がりが検知されるまでの経過時間に応じて、初回アプライ時から温度推定リクランプを実施するまでの時間(温度推定リクランプ実施時間)を更新する。この場合、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が長いほど、温度推定リクランプ実施時間を長く更新する。そして、S74で温度推定リクランプを実施するときの上限推力を更新した後、およびS75で温度推定リクランプの実施時間を更新した後にはS9に進む。
S9では、車両のずり下がりが検知されていないか否かを判定する。S9で「NO」と判定した場合、即ち、車両のずり下がりが検知された場合には、S71に進み、S71以降の制御処理を繰返す。一方、S9で「YES」と判定した場合には、S10に進む。S10では、リクランプ待ち時間が、S7で決定された温度推定リクランプ実施時間に到達したか否かを判定する。S10で「NO」と判定した場合にはS9に戻り、S10で「YES」と判定した場合には、S11に進む。S11では、ずり下がりリクランプ後の温度推定リクランプを実施する。この温度推定リクランプを実施するときの上限推力は、S74で更新された上限推力である。S12では、温度推定リクランプの実施回数が、S7で決定したリクランプ実施回数に到達したか否かを判定する。S12で「NO」と判定した場合には、S9以降の制御処理を繰返す。一方、S12で「YES」と判定した場合には、制御処理を終了する。
ここで、S73で、ずり下がりが検知されるまでの経過時間がしきい値よりも短いと判定した場合には、下限推力が大きく、上限推力と下限推力との間隔が小さいと考えられる。このため、S74では、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が短いほど、上限推力を大きく更新する。これにより、上限推力と下限推力との間隔が適度に保たれるようになり、温度推定リクランプの実施回数を低減することができる。一方、S73で、ずり下がりが検知されるまでの経過時間がしきい値以上と判定した場合には、下限推力が小さいため、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が長いほど、温度推定リクランプ実施時間を長く更新する。これにより、温度推定リクランプの実施回数を低減することができる。
このように、第7の実施形態によれば、初回アプライ時からずり下がりが検知されるまでの経過時間が、所定のしきい値よりも短い場合には、温度推定リクランプを実施するときの上限推力を、ずり下がり検知までの経過時間が短いほど大きく更新することにより、温度推定リクランプの実施回数を低減することができる。一方、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が、所定のしきい値以上である場合には、ずり下がりが検知されるまでの経過時間が長いほど、温度推定リクランプ実施時間を長く更新することにより、温度推定リクランプの実施回数を低減することができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。しかも、第7の実施形態では、温度推定リクランプの連続的な作動による騒音、消費電力の増加を抑制することができ、さらに、電動モータ7Aのブラシの摩耗を抑制することができる。
次に、図10および図21は、第8の実施形態を示している。第8の実施形態の特徴は、制御装置が、推力を保持したあとに車両の駆動力が発生していない状態で、車両の動きが検出されたときに、ずり下がりリクランプおよび温度推定リクランプで付与する推力を増加させる構成としたことにある。なお、第8の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第8の実施形態では、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知すると、このずり下がり検知時の現在推力に基づいて補正後下限推力を決定する。即ち、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知した時の現在推力に、所定のマージン量αを加算して補正後下限推力を決定する。また、制動用制御装置17は、決定した補正後下限推力に基づいて、ずり下がりリクランプおよび温度推定リクランプで付与する上限推力を増加(更新)する。例えば下限推力に対する補正後下限推力の増加分を、既定の上限推力に加算することにより、ずり下がりリクランプおよび温度推定リクランプで付与する上限推力を増加する。そして、制動用制御装置17は、増加した上限推力でずり下がりリクランプを実施する。また、初回アプライ時から温度推定リクランプを実施すべき時間(温度推定リクランプ実施時間)に達すると、増加した上限推力で温度推定リクランプを実施する。
図10および図21は、第8の実施形態による制御処理を示している。なお、図10中のS1〜S12は、第3の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。また、図21に示す処理フローは、図10中のS9で「NO」と判定した後に実行されるものである。
図10に示す処理フローのS9で「NO」と判定したときには、図21に示す処理フローのS81に進む。S81では、ずり下がり検知時の現在推力から補正後下限推力を決定する。即ち、制動用制御装置17は、車両のずり下がりを検知した時の現在推力に、所定のマージン量αを加算して補正後下限推力を決定する。S82では、補正後下限推力からずり下がりリクランプおよび温度更新リクランプの上限推力を更新する。例えばS81で決定した補正後下限推力の下限推力に対する増加分を、既定の上限推力に加算することにより、上限推力を増加(更新)する。S83では、S82で更新した上限推力で、ずり下がりリクランプを実施する。
S83でずり下がりリクランプを実施した後には、S9に進む。S9では、車両のずり下がりが検知されていないか否かを判定する。S9で「NO」と判定した場合にはS81に進み、S81からS83の制御処理を繰返す。一方、S9で「YES」と判定した場合には、S10に進む。S10では、リクランプ待ち時間が温度推定リクランプの実施時間に到達したか否かを判定し、「NO」と判定した場合にはS9に戻り、「YES」と判定した場合には、S11に進む。S11では、S82で更新した上限推力でずり下がりリクランプ後の温度推定リクランプを実施する。S12では、温度推定リクランプの実施回数が、S7で決定されたリクランプ実施回数に到達したか否かを判定する。S12で「NO」と判定した場合にはS9に戻り、S12で「YES」と判定した場合には、制御処理を終了する。
このように、第8の実施形態によれば、車両のずり下がりを検知したときに、このずり下がり検知時の現在推力から補正後下限推力を決定し、この補正後下限推力に基づいて、ずり下がりリクランプおよび温度推定リクランプで付与する上限推力を増加することができる。これにより、予め設定された上限推力を、車両のずり下がりが発生したときの現在推力に応じて補正することにより、適正な上限推力でずり下がりリクランプおよび温度推定リクランプを行うことができる。この結果、温度推定リクランプの推力が、停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑えることができ、車両の停車を維持してずり下がりを防止することができる。
次に、図22は、第9の実施形態を示している。第9の実施形態の特徴は、制動制御装置に代わるパーキングブレーキ制御装置を用いてディスクブレーキの制御を行うことにある。なお、第9の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
図22において、ブレーキ制御装置としてのパーキングブレーキ制御装置41は、後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7A)の制御を行うパーキングブレーキ用コントロールユニット(パーキングブレーキ用ECU)である。パーキングブレーキ制御装置41は、第1の実施形態の制動用制御装置17と同様に、マイクロコンピュータを含んで構成され、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aを駆動制御する。パーキングブレーキ制御装置41は、ESC16の制御を行わない点で、制動用制御装置17と相違する。
パーキングブレーキ制御装置41は、ESC制御装置(図示せず)を含む各種の制御装置(ECU:Electronic Control Unit)と車両データバス20を介して接続されている。車両データバス20からは、パーキングブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。また、パーキングブレーキ制御装置41には、パーキングブレーキスイッチ24が接続されている。
パーキングブレーキ制御装置41は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aを制御することにより、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(パーキングブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。なお、パーキングブレーキ制御装置41は、左右で2つの後輪側ディスクブレーキ6を制御するようにしているが、左右の後輪側ディスクブレーキ6毎に設けるようにしてもよく、この場合には、それぞれのパーキングブレーキ制御装置41を後輪側ディスクブレーキ6に一体的に設けることもできる。
パーキングブレーキ制御装置41は、演算回路42、記憶部としてのメモリ43、左右の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aをそれぞれ駆動する駆動回路44,45を含んで構成されている。メモリ43には、電動パーキングブレーキ(電動モータ7A)の制御プログラムが格納されている。また、メモリ43には、アプライおよびアプライ完了後の車両のずり下がり検知とディスクロータ4の温度とに基づく再アプライ(リクランプ)の制御に用いる処理プログラムが格納されている。
パーキングブレーキ制御装置41は、第1の実施形態の制動用制御装置17と同様に、車両の停車時に電動アクチュエータ7(電動モータ7A)による推力を維持した後に、車両の駆動力が発生していないにも拘わらず車両の予期せぬ動き(ずり下がり)が検出されたときには、車両の停車維持に必要な推力(下限推力)を変更する。そして、パーキングブレーキ制御装置41は、下限推力の変更に伴い、温度推定リクランプを実施する時期(タイミング)を変更する。即ち、パーキングブレーキ制御装置41は、ずり下がり検知時の推力(推定推力)が補正後下限推力(所定の推力しきい値)を下回ったときに、温度推定リクランプを実施する。
第9の実施形態は、パーキングブレーキ制御装置41により後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7A)の制御を行うもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第9の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、ずり下がりリクランプ後に必要な温度推定リクランプを行うことができる。
次に、図23は、第10の実施形態を示している。第10の実施形態の特徴は、電動機構を駆動する指令を送信するブレーキ制御装置と、このブレーキ制御装置からの指令を受信する車体側制御装置とを備える構成としたことにある。なお、第10の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
電動モータ7Aの駆動を制御する制御装置(電動ブレーキ制御装置)としての制動用制御装置17(または、パーキングブレーキ制御装置41)は、HOST(ホスト)に対応する車体側制御装置51とPBC(パーキングブレーキコントローラ)に対応するブレーキ制御装置52とを備えている。車体側制御装置51は、車輪速センサ23から直接または車両データバス20を介して車輪速(車輪速パルス)を受信すると共に、この受信した車輪速(車輪速パルス)を車輪速パルス数(例えば、10ms周期のパルス数)としてブレーキ制御装置52に送信する。また、車体側制御装置51は、ブレーキ制御装置52からの指令(電動機駆動指令)に基づいて電動機としての電動モータ7Aを駆動する。
このために、車体側制御装置51は、左前輪2、右前輪2、左後輪3、右後輪3のそれぞれに対応して設けられた車輪速センサ23(図1参照)と直接、または、車両データバス20を介して接続されている。車体側制御装置51は、複数の車輪2,3からの車輪速情報、即ち、前後左右の合計4個の車輪2,3の車輪速を、車輪速センサ23から直接、または、車両データバス20を介して受信する。車体側制御装置51は、受信した車輪速情報(車輪速)をそれぞれの車輪2,3の車輪速パルス数としてブレーキ制御装置52に送信する。
ブレーキ制御装置52は、複数の車輪2,3からの車輪速情報(車輪速パルス数)を車体側制御装置51から受信する。また、ブレーキ制御装置52は、車両に制動力を付与して該制動力を保持する電動機構を駆動する指令(電動機駆動指令)を、車体側制御装置51へ送信する。即ち、ブレーキ制御装置52は、電動パーキングブレーキの電動機構(電動モータ7A)を駆動する電動機駆動指令を車体側制御装置51に送信する。また、ブレーキ制御装置52は、電動機構が制動力保持状態に遷移した情報を、車体側制御装置51へ送信する。この場合、ブレーキ制御装置52は、電動機構が制動力保持状態(アプライ状態)に遷移した情報を車体側制御装置51へ送信した後に、車体側制御装置51から、車両の駆動力が発生していない状態で車両の動きを検出した情報を受信した場合、車体側制御装置51へ制動力を付与するように電動モータ7Aを駆動する指令を送信し、停車維持に必要な下限推力を変更する。車両の動き出し(ずり下がり)は車輪速により検出される。
即ち、ブレーキ制御装置52は、前述の図4に示す処理フローを実行する。この場合、ブレーキ制御装置52は、図4のS4で左右両輪(左右の後輪3)の電動パーキングブレーキが初回アプライを実施すると、車体側制御装置51に電動機構が制動力保持状態に遷移した情報を送信する。その後、ブレーキ制御装置52は、S9で車体側制御装置51から車両のずり下がりに基づく車輪速を検知した情報(ずり下がり情報)を受信した場合、S11で車体側制御装置51に制動力を付与するように、電動モータ7Aを駆動する指令(電動機駆動指令)を送信する。
第10の実施形態は、上述の如き車体側制御装置51とブレーキ制御装置52とを備えた制動用制御装置17(または、パーキングブレーキ制御装置41)により電動モータ7Aの駆動を行うもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
なお、各実施形態では、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。さらに、前輪側ディスクブレーキ5と後輪側ディスクブレーキ6との両方を、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。
各実施形態では、ブレーキ機構として、電動パーキングブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ6を例に挙げて説明した。しかし、ディスクブレーキ式のブレーキ機構に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ機構として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動パーキングブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキの保持を行う構成等、電動パーキングブレーキの構成は各種のものを採用することができる。
また、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上説明した実施形態に基づく電動ブレーキ装置およびブレーキ制御装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、車両の制動部材に被制動部材に向かう方向へ推力を伝達し制動力を付与し、該推力を保持する電動機構と、前記電動機構へ推力を伝達する電動機と、前記電動機の駆動と、推力を保持したあとに前記被制動部材の推定温度と車両の停車維持に必要な下限推力とに基づいて、推力を付与して保持をする温度推定リクランプと、を制御する制御装置と、を有する電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、推力を保持したあとに前記車両の駆動力が発生していない状態で前記車両の動きが検出されたときに、前記下限推力を変更する。
第1の態様によれば、車両の停車を維持するための推力が保持された状態で、車両の予期せぬ動き(ずり下がり)が検出されたときに、停車を維持するための下限推力が変更される。これにより、温度推定リクランプを車両のずり下がりに伴って変更された下限推力に基づいて実施することができる。この結果、例えば車両が急勾配の坂道に停車した場合、あるいは車両が過積載の状態で坂道に停車した場合等においても、制動部材および被制動部材の熱収縮による推力の低下に関わらず、適正な推力によって温度推定リクランプを実施することができ、車両に必要な制動力を付与することができる。
第2の態様としては、第1の態様において、前記制御装置は、前記下限推力の変更に伴い、前記温度推定リクランプを行う時期を変更する。第2の態様によれば、温度推定リクランプを実施する時期を早めることにより、温度推定リクランプを最適な時期に実施することができる。
第3の態様としては、第2の態様において、前記制御装置は、前記下限推力の変更に伴い、前記推定温度による推定推力が所定の推力しきい値を下回ったとき、前記温度推定リクランプをする。第3の態様によれば、推定推力が変更した下限推力(推力しきい値)を下回ったときに、温度推定リクランプを実施することにより、温度推定リクランプを実施する時期を早めることができ、車両のずり下がりを防止することができる。
第4の態様としては、第2の態様において、前記制御装置は、前記下限推力の変更に伴い、前記推定温度に応じて前記温度推定リクランプを行う時期を変更する。第4の態様によれば、温度推定リクランプを実施する時期を、被制動部材の推定温度に基づいて早めることができ、車両のずり下がりを防止することができる。
第5の態様としては、第2の態様において、前記制御装置は、前記下限推力の変更に伴い、前記推定温度に応じて前記温度推定リクランプを行う時間間隔を変更する。第5の態様によれば、例えば温度推定リクランプを実施する時間間隔を短く変更することにより、温度推定リクランプを短時間で繰返して実施することができ、車両のずり下がりを防止することができる。
第6の態様としては、第1の態様において、前記制御装置は、前記下限推力の変更に伴い、前記温度推定リクランプを行う推力を変更する。第6の態様によれば、例えば温度推定リクランプの推力を大きくすることにより、温度推定リクランプの推力が停車を維持するために必要な推力を下回ってしまうのを抑え、車両のずり下がりを防止することができる。
第7の態様としては、第6の態様において、前記制御装置は、前記温度推定リクランプ時の推力の上限値を変更する。第7の態様によれば、変更した上限値で温度推定リクランプを実施することにより、車両のずり下がりを防止することができる。また、第8の態様としては、第6の態様において、前記制御装置は、前記温度推定リクランプ時の推力を所定量増加する。第8の態様によれば、所定量増加した推力で温度推定リクランプを実施することにより、車両のずり下がりを防止することができる。
第9の態様としては、第1の態様において、前記制御装置は、前記下限推力の変更に伴い、前記推力を保持してから前記車両の駆動力が発生していない状態で前記車両の動きが検出されるまでの時間に応じて、前記温度推定リクランプの時期または推力を変更する。第9の態様によれば、温度推定リクランプの時期または推力を変更することにより、車両のずり下がりを防止することができる。
第10の態様としては、第1の態様において、前記制御装置は、推力を保持したあとに前記車両の駆動力が発生していない状態で前記車両の動きが検出されたときに、推力を付与して保持するずり下がりリクランプを行う。第10の態様によれば、例えば車両が停車した状態でずり下がりを検知したときに、ずり下がりリクランプを行うことにより、車両のずり下がりを防止することができる。
第11の態様としては、第1の態様において、前記制御装置は、推力を保持したあとに前記車両の駆動力が発生していない状態で前記車両の動きが検出されたときに、ずり下がりリクランプおよび前記温度推定リクランプで付与する推力を増加させる。第11の態様によれば、ずり下がりリクランプおよび温度推定リクランプの推力が増加することにより、車両のずり下がりを防止することができる。
第12の態様としては、車両の制動部材に被制動部材に向かう方向へ推力を伝達し制動力を付与し、該制動力を保持する電動機構を駆動する電動機と、前記電動機の駆動を制御する制御装置と、を備える電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、制動力を保持したあとに、前記被制動部材の推定温度に基づいて再保持を行う温度推定リクランプを制御し、前記車両の駆動力が発生していない状態で前記車両の動きが検出された場合、前記温度推定リクランプを行う時期または推力を変更する。第12の態様によれば、車両の停車を維持するための推力が保持された状態で、車両の期せぬ動き(ずり下がり)が検出されたときに、温度推定リクランプを行う時期または推力が更される。この結果、例えば車両が急勾配の坂道に過積載で停車した場合等において、制動部材および被制動部材の熱収縮による推力の低下に関わらず、車両に必要な制動力を付与することができ、車両の停車を維持することができる。
第13態様としては、車輪速情報を車体側制御装置から受信し、車両に制動力を付与して該制動力を保持する電動機構を駆動する指令を前記車体側制御装置へ送信するブレーキ制御装置であって、前記電動機構が制動力保持状態に遷移した情報を前記車体側制御装置へ送信したあとに、前記車体側制御装置から前記車両の駆動力が発生していない状態で前記車両の動きを検出した情報を受信した場合、前記車体側制御装置へ制動力を付与するように電動機を駆動する指令を送信し、停車保持に必要な下限推力を変更する。第13の態様によれば、車両の動きを検出した情報を受信したときに、停車保持に必要な下限推力を変更することにより、車両の停車を維持することができる。