JP2021172741A - 熱可塑性樹脂組成物及びその成形品 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、耐衝撃性、透明性及び耐薬品性に優れる成形品、及びその成形品を与えることのできる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。【解決手段】特定のグラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)とポリオレフィン系ゴム(G)とを特定の割合で含有し、グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分におけるシアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布の2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークのピークトップにおける含有率C1が10質量%未満の範囲にあり、別の少なくとも1つの第2のピークのピークトップにおける含有率C2が10質量%以上55質量%以下の範囲にあり、かつC2とC1との差(C2−C1)が15質量%以上であり、熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)が33質量%以上である、熱可塑性樹脂組成物。【選択図】なし
Description
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関する。
スチレン系樹脂、特にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(以下「ABS樹脂」とも記す)は、耐衝撃性、剛性などの機械的特性や加工特性に優れていることから、従来より、自動車、住宅建材、家庭電気製品、化粧品容器などの様々な用途に使用されている。
特に透明ABS樹脂は着色による発色性が良好なため、化粧品容器など高い意匠性が求められる用途で使用されている。しかしながら、透明ABS樹脂は耐衝撃性が低いため、製品が落下した際に割れてしまうという実用面での課題がある。
特に透明ABS樹脂は着色による発色性が良好なため、化粧品容器など高い意匠性が求められる用途で使用されている。しかしながら、透明ABS樹脂は耐衝撃性が低いため、製品が落下した際に割れてしまうという実用面での課題がある。
またABS樹脂は薬液などが接触した場合に、浸透、吸収によって溶解や膨潤、あるいはクラックや破断などが起こることが知られている。
特に、攻撃試薬によるクラックや破断の発生は、環境応力破壊(ESC;Environmental Stress Cracking)と呼ばれており、樹脂材料としては大きな問題である。
この環境応力破壊は、成形品内部に残留する成形時の歪みによっても発生するため、樹脂材料の成形品に外力が負荷されていない状態でも起こる可能性があり、ABS樹脂の用途に大きな制限を与えている。
特に、攻撃試薬によるクラックや破断の発生は、環境応力破壊(ESC;Environmental Stress Cracking)と呼ばれており、樹脂材料としては大きな問題である。
この環境応力破壊は、成形品内部に残留する成形時の歪みによっても発生するため、樹脂材料の成形品に外力が負荷されていない状態でも起こる可能性があり、ABS樹脂の用途に大きな制限を与えている。
近年、屋外での作業やレジャー中に日に晒される皮膚を、日焼け、癌、及び光老化から保護する目的で日焼け止め化粧品が使用されている。
当該日焼け止め化粧品は、樹脂材料への攻撃性(アタック性)が高いため、日焼け止め化粧品が、ABS樹脂を用いた成形品、例えば化粧品容器等に接触すると、割れが生じ、商品価値を損なうおそれがある。このため、ABS樹脂を用いた成形品には高い耐薬品性が要求されている。
当該日焼け止め化粧品は、樹脂材料への攻撃性(アタック性)が高いため、日焼け止め化粧品が、ABS樹脂を用いた成形品、例えば化粧品容器等に接触すると、割れが生じ、商品価値を損なうおそれがある。このため、ABS樹脂を用いた成形品には高い耐薬品性が要求されている。
透明性と耐衝撃性とを両立する方法として、アクリロニトリル(AN)比率の異なる二種類のグラフト重合による方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
また、耐薬品性という問題を解決する方法として、ABS樹脂のアクリロニトリル成分の量を増大させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
ABS樹脂を用いた成形品の耐薬品性を向上させるためのその他の方法としては、ABS樹脂に耐薬品性に優れるポリエステルを添加する方法が知られている。例えば、特許文献3には、所定の固有粘度の共重合体成分を含む樹脂組成物に飽和ポリエステル樹脂を0.1〜50重量部添加する方法、特許文献4には、ポリブチレンテレフタレートを5〜55重量%添加する方法が、それぞれ記載されている。
しかしながら、特許文献1及び2に記載されている方法でも、ABS樹脂に対する影響が高い日焼け止め化粧品に対する耐薬品性については改善の余地がある。また、屈折率の異なる熱可塑性樹脂を組合わせるため、不透明であり、発色性も改善の余地がある。
また、特許文献3及び4に記載の方法は、ABSと屈折率が異なる樹脂を添加するため、透明性が低下したり、耐熱性、剛性などの機械的特性が低下したりすることがあり、ポリエステルの添加量が少ない場合には、耐薬品性向上効果において満足な結果を得ることができず改善の余地がある。
また、特許文献3及び4に記載の方法は、ABSと屈折率が異なる樹脂を添加するため、透明性が低下したり、耐熱性、剛性などの機械的特性が低下したりすることがあり、ポリエステルの添加量が少ない場合には、耐薬品性向上効果において満足な結果を得ることができず改善の余地がある。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、実用上十分な透明性、耐衝撃性(例えば、面衝撃強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強度)を有し、さらに耐薬品性にも優れる成形品、及びその成形品を与えることのできる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
〔1〕
グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含有し、
前記熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル系単量体単位を有する重合体を含み、
前記グラフト共重合体(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して、前記グラフト共重合体(A)の含有割合が15〜60質量部であり、前記熱可塑性樹脂(B)の含有割合が85〜40質量部であり、
前記グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、その幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖と、を有し、
前記グラフト共重合体(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して、ポリオレフィン系ゴム(G)を0.6〜8質量部含有し、
前記グラフト鎖が、シアン化ビニル系単量体単位、又は、シアン化ビニル系単量体単位と該シアン化ビニル系単量体と共重合可能な1種以上の単量体単位と、を有し、
前記グラフト共重合体(A)の前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布が、2つ以上のピークを有し、
前記グラフト共重合体(A)の前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布の2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークのピークトップにおける含有率C1が10質量%未満の範囲にあり、別の少なくとも1つの第2のピークのピークトップにおける含有率C2が10質量%以上55質量%以下の範囲にあり、かつC2とC1との差(C2−C1)が15質量%以上であり、
前記熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)が33質量%以上である、熱可塑性樹脂組成物。
〔2〕
熱可塑性樹脂組成物中の前記グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径が、0.10〜0.80μmである、〔1〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕
前記グラフト共重合体(A)におけるグラフト率が、80%以上240%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕
前記グラフト共重合体(A)において、前記第1のピーク由来の成分の重量平均分子量が0超30000以下であり、前記第2のピーク由来の成分の重量平均分子量が30000以上300000以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕
前記ポリオレフィン系ゴム(G)が、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕
前記ポリオレフィン系ゴム(G)が、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔7〕
〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する成形品。
〔8〕
前記成形品が筐体である、〔7〕に記載の成形品。
〔1〕
グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含有し、
前記熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル系単量体単位を有する重合体を含み、
前記グラフト共重合体(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して、前記グラフト共重合体(A)の含有割合が15〜60質量部であり、前記熱可塑性樹脂(B)の含有割合が85〜40質量部であり、
前記グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、その幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖と、を有し、
前記グラフト共重合体(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して、ポリオレフィン系ゴム(G)を0.6〜8質量部含有し、
前記グラフト鎖が、シアン化ビニル系単量体単位、又は、シアン化ビニル系単量体単位と該シアン化ビニル系単量体と共重合可能な1種以上の単量体単位と、を有し、
前記グラフト共重合体(A)の前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布が、2つ以上のピークを有し、
前記グラフト共重合体(A)の前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布の2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークのピークトップにおける含有率C1が10質量%未満の範囲にあり、別の少なくとも1つの第2のピークのピークトップにおける含有率C2が10質量%以上55質量%以下の範囲にあり、かつC2とC1との差(C2−C1)が15質量%以上であり、
前記熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)が33質量%以上である、熱可塑性樹脂組成物。
〔2〕
熱可塑性樹脂組成物中の前記グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径が、0.10〜0.80μmである、〔1〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕
前記グラフト共重合体(A)におけるグラフト率が、80%以上240%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕
前記グラフト共重合体(A)において、前記第1のピーク由来の成分の重量平均分子量が0超30000以下であり、前記第2のピーク由来の成分の重量平均分子量が30000以上300000以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕
前記ポリオレフィン系ゴム(G)が、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕
前記ポリオレフィン系ゴム(G)が、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔7〕
〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する成形品。
〔8〕
前記成形品が筐体である、〔7〕に記載の成形品。
本発明によると、耐衝撃性、透明性及び耐薬品性に優れる成形品、及びその成形品を与えることのできる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
本明細書における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味する。
本明細書における「VCN単位含有率」とは、グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分におけるシアン化ビニル系単量体(a)単位の含有率を意味する。
本明細書における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味する。
本明細書における「VCN単位含有率」とは、グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分におけるシアン化ビニル系単量体(a)単位の含有率を意味する。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含有し、熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル系単量体(b)単位を有する重合体(以下、「シアン化ビニル系重合体」ともいう。)を含み、そのグラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、その幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖とを有し、グラフト鎖は、シアン化ビニル系単量体(a)単位、又は、シアン化ビニル系単量体(a)単位と該シアン化ビニル系単量体(a)と共重合可能な1種以上の単量体単位とを有し、上記グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分におけるシアン化ビニル系単量体(a)単位の含有率(以下、「VCN単位含有率」ともいう。)の分布が、2つ以上のピークを有する。また、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して、グラフト共重合体(A)の含有割合が15〜60質量部であり、熱可塑性樹脂(B)の含有割合が85〜40質量部であり、さらにポリオレフィン系ゴム(G)を0.6〜8質量部含有する。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、VCN単位含有率の分布における2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークのピークトップにおける含有率(以下「C1」とも記す)が10質量%未満の範囲にあり、別の少なくとも1つの第2のピークのピークトップにおける含有率(以下「C2」とも記す)が10質量%以上55質量%以下の範囲にあり、かつC2とC1との差(C2−C1)が15質量%以上である。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)が33質量%以上である。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、VCN単位含有率の分布における2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークのピークトップにおける含有率(以下「C1」とも記す)が10質量%未満の範囲にあり、別の少なくとも1つの第2のピークのピークトップにおける含有率(以下「C2」とも記す)が10質量%以上55質量%以下の範囲にあり、かつC2とC1との差(C2−C1)が15質量%以上である。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)が33質量%以上である。
本実施形態に用いるグラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体としては、特に限定されないが、例えば、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム及びエチレン系ゴムが挙げられる。より具体的には、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体及びエチレン−アクリル酸メチル共重合体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらのうち、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体及びアクリロニトリル−ブタジエン共重合体からなる群より選ばれる1種以上のゴム質重合体が、耐衝撃性の点から好ましく用いられる。
上記ゴム質重合体が共重合体である場合、ゴム質重合体における各構成単位の組成(分布)は、均一であってもよいし、異なる組成であってもよいし、また、連続的に組成が変化しているものであってもよい。これらの各構成単位の組成は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により確認できる。
なお、本実施形態に用いるグラフト共重合体(A)における、ゴム質重合体は、幹ポリマーを構成するものである。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体は、シアン化ビニル系重合体を含む熱可塑性樹脂(B)の連続相(海)の中に分散した分散相(島)の形態、すなわち海島形態をとっていることが好ましい。分散したゴム質重合体の分散相の形状は、特に限定されず、例えば、不定形、棒状、平板状及び粒子状が挙げられる。これらの中では、耐衝撃性の点から、粒子状が好ましい。分散相は、上記熱可塑性樹脂(B)の連続相中に1つ1つ独立して分散してもよく、いくつかの分散相が凝集した集合体の状態で分散してもよいが、耐衝撃性の点から、1つ1つが独立して分散した方が好ましい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、上記グラフト共重合体(A)の大きさは、形状が粒子状である場合、質量平均粒子径として、耐衝撃性の点から0.10μm以上であることが好ましく、透明性の観点から0.80μm以下であることが好ましい。グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径は、より好ましくは0.10μm以上0.50μm以下であり、さらに好ましくは0.10μm以上0.35μm以下であり、特に好ましくは0.10μm以上0.28μm以下である。グラフト共重合体(A)の粒子径の分布は、目的とする物性に応じて、単分散、多分散、あるいは二山分布をとることができる。
グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径は、下記のようにして求められる。まず、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の成形品から超薄切片を作製し、その超薄切片を四酸化オスミウム、四酸化ルテニウム等の染色剤にて染色処理する。その後、染色処理した超薄切片を、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影し、超薄切片の任意の範囲(15μm×15μm)について、画像解析することで求められる。画像は、例えば画像解析ソフト「A像くん」(旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いて解析することができる。
グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体の含有割合は、グラフト共重合体(A)の質量を基準として、29.5〜55.5質量%であると好ましく、31.5〜50質量%であるとより好ましく、33.5〜40質量%であると更に好ましい。ゴム質重合体の含有割合が上記下限値以上及び上記上限値以下であることにより、耐衝撃性、特にデュポン衝撃試験に基づく耐衝撃性の観点から好ましい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、グラフト共重合体(A)のVCN単位含有率の分布は、2つ以上のピークを有する。当該ピークの数の上限は、特に限定されないが、例えば、4である。
VCN単位含有率の分布の2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークは、10質量%未満のVCN単位含有率の範囲内にピークトップを有し(以下「ピーク1」)、ピーク1のピークトップが示すVCN単位含有率を(C1)とする。VCN単位含有率の分布の2つ以上のピークのうち別の少なくとも1つの第2のピークは、10質量%以上55質量%以下のVCN単位含有率の範囲内にピークトップを有し(以下「ピーク2」)、ピーク2のピークトップが示すVCN単位含有率を(C2)とする。
VCN単位含有率の分布の2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークは、10質量%未満のVCN単位含有率の範囲内にピークトップを有し(以下「ピーク1」)、ピーク1のピークトップが示すVCN単位含有率を(C1)とする。VCN単位含有率の分布の2つ以上のピークのうち別の少なくとも1つの第2のピークは、10質量%以上55質量%以下のVCN単位含有率の範囲内にピークトップを有し(以下「ピーク2」)、ピーク2のピークトップが示すVCN単位含有率を(C2)とする。
複数のピーク1を有する場合、(C1)は以下のようにして求める。
ピーク1の各ピークトップが示すVCN単位含有率に、各ピークトップのピーク強度をかけて、それらを全て足し合わせたものを(C1−1)とする。各ピークトップのピーク強度を全て足し合わせたものを(C1−2)とする。これらを使用して次式によって(C1)を計算する。
(C1)=(C1−1)/(C1−2)
ピーク1の各ピークトップが示すVCN単位含有率に、各ピークトップのピーク強度をかけて、それらを全て足し合わせたものを(C1−1)とする。各ピークトップのピーク強度を全て足し合わせたものを(C1−2)とする。これらを使用して次式によって(C1)を計算する。
(C1)=(C1−1)/(C1−2)
複数のピーク2を有する場合、(C2)は以下のようにして求める。
ピーク2の各ピークトップが示すVCN単位含有率に、各ピークトップのピーク強度をかけて、それらを全て足し合わせたものを(C2−1)とする。各ピークトップのピーク強度を全て足し合わせたものを(C2−2)とする。これらを使用して次式によって(C2)を計算する。
(C2)=(C2−1)/(C2−2)
ピーク2の各ピークトップが示すVCN単位含有率に、各ピークトップのピーク強度をかけて、それらを全て足し合わせたものを(C2−1)とする。各ピークトップのピーク強度を全て足し合わせたものを(C2−2)とする。これらを使用して次式によって(C2)を計算する。
(C2)=(C2−1)/(C2−2)
また、複数のピークが一部重複する場合(ショルダーピークが存在する場合も含む。)は、重複したピークがそれぞれ正規分布であるとみなして分離処理することにより得られたピークに基づいて、各上記事項を判断する。
透明性の観点から、(C1)は、10質量%未満の範囲にあると好ましく、5質量%以下にあるとより好ましく、3質量%以下あるとさらに好ましい。(C1)の下限は、特に限定されないが、例えば、0質量%である。また、透明性の観点から、(C2)は10質量%以上55質量%以下の範囲にあると好ましく、15質量%以上50質量%以下の範囲にあるとより好ましく、20質量%以上45質量%以下の範囲にあるとさらに好ましい。
耐衝撃性の観点から、(C1)と(C2)との差((C2)−(C1))は、15質量%以上であると好ましく、より好ましくは22質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。(C1)と(C2)との差((C2)−(C1))の上限は、特に限定されないが、例えば、55質量%である。
グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分は、グラフト共重合体(A)の酸化分解を経て得られる。図1は、グラフト共重合体の酸化分解を経て得られるグラフト鎖由来の成分における、VCN単位含有率の分布の一例を模式的に示す図である。この図1は、ピーク1及びピーク2がそれぞれ1つの場合を示している。
VCN単位含有率の分布は、後述する所定の前処理によって熱可塑性樹脂組成物から得られるグラフト鎖由来の成分を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で測定して得られるクロマトグラムに基づいて求められる。詳細は後述する。なお、VCN単位含有率の分布において、ピークであるか否かの判断は、HPLCの検出器におけるノイズレベルの範囲内か否かによって決定される。
グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度(ηsp/c)は、面衝撃強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強度の点から、0.05〜1.50dL/gの範囲にあることが好ましい。グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度は、より好ましくは0.10〜1.30dL/gであり、更に好ましくは0.15〜1.10dL/gである。グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度を0.05dL/g以上とすることで、面衝撃強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強度の低下をより抑制することができ、グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度を1.50dL/g以下とすることで、グラフト共重合体(A)は熱可塑性樹脂(B)と均一混練可能となり、面衝撃強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強度の低下をより抑制することができる。
グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度は、下記のようにして求められる。熱可塑性樹脂組成物1.0gをアセトン20mLに溶解し、2時間振とうし、これを20000rpmで1時間、遠心分離することによりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離する。アセトン可溶分0.25gをメチルエチルケトン50mLにて溶解した溶液を、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することによりグラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度が得られる。一般的に、ゴム質重合体に2種以上の単量体をグラフト重合させる場合、グラフト鎖における単量体単位の含有率の分布を狭くすることを目的として、各単量体の仕込み比を一定にしてグラフト重合が行われる。これに対して、本実施形態においては、グラフトさせる各単量体の仕込み比を、連続的に又は段階的に変化させることによって、グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分における各構成単位の含有率、例えば、VCN単位含有率の分布を制御することができる。
具体的には、例えば、ゴム質重合体に、シアン化ビニル系単量体以外の単量体をグラフト重合させ、次いで、シアン化ビニル系単量体を含む2種以上の単量体をグラフト重合させることにより、VCN単位含有率の分布を制御する方法が挙げられ、この方法が好ましい。
なお、VCN単位含有率の分布において、それぞれのピークは、単分散及び多分散のいずれであってもよい。
なお、VCN単位含有率の分布において、それぞれのピークは、単分散及び多分散のいずれであってもよい。
グラフト共重合体(A)におけるVCN単位含有率の分布は、例えば、グラフト共重合体(A)を酸化分解した後にグラフト鎖由来の成分を単離して、そのグラフト鎖由来の成分を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定して得られるクロマトグラムに基づいて求めることができる。酸化分解の方法としては、例えば、オゾン分解、オスミウム酸分解などを用いることができる。より具体的には、例えば、高分子論文集(井手文雄ら、vol.32、No.7、PP.439−444(July.1975))に記載の方法を用いることができる。この文献において、単離された枝ポリマーが、本実施形態におけるグラフト鎖由来の成分に該当する。
より具体的には、例えば、下記のようにして、グラフト共重合体(A)におけるVCN単位含有率の分布が求められる。
まず、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分とアセトン不溶分とに分離する。このアセトン不溶分(0.5g)に四酸化オスミウム(0.0046g)、t−ブチルアルコール(10.7g)、有機過酸化物(「パーブチルH−69」(日油株式会社商品名)9.2g)を加えて、例えば30分間、還流させた後、溶媒除去により濃縮して、クロロホルム(20mL)に溶解させる。これを大過剰のメタノールに添加することで沈殿物が得られるので、その沈殿物を分離・乾燥して固形分を得る。得られた固形分(0.03g)を秤量して、テトラヒドロフラン(10mLの)に溶解させ、測定試料とする。
まず、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分とアセトン不溶分とに分離する。このアセトン不溶分(0.5g)に四酸化オスミウム(0.0046g)、t−ブチルアルコール(10.7g)、有機過酸化物(「パーブチルH−69」(日油株式会社商品名)9.2g)を加えて、例えば30分間、還流させた後、溶媒除去により濃縮して、クロロホルム(20mL)に溶解させる。これを大過剰のメタノールに添加することで沈殿物が得られるので、その沈殿物を分離・乾燥して固形分を得る。得られた固形分(0.03g)を秤量して、テトラヒドロフラン(10mLの)に溶解させ、測定試料とする。
上記とは別に、窒素分析によって、シアン化ビニル系単量体単位の含有率が既知である標準試料(ポリマー)を用いて、シアン化ビニル系単量体単位の含有率とHPLCにおけるリテンションタイムとの関係の検量線を作成しておく。上記測定試料を、HPLCで測定してクロマトグラムを得た後、そのクロマトグラムにおけるリテンションタイムから、上記検量線を用いて、VCN単位含有率の分布を求める。
条件は下記のとおりである。
測定装置:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)
サンプル濃度:サンプル30mg/THF10mL
カラム:シリカ系シアノプロピル処理品(島津製作所製、商品名「Shim−Pak CLC−CN」)
展開溶剤:テトラヒドロフラン(THF)/n−ヘキサン(2液グラジエント測定)
グラジエント条件:THF/n−ヘキサン=20/80の割合から15分間かけてTHF/n−ヘキサン=100/0へ徐々に割合を切替える。切替後、この状態を10分間保持する。測定後、THF/n−ヘキサン=20/80の割合の溶媒を流してカラム内を洗浄する。
カラム温度:40℃
検出器:紫外線(254nm)(例えば、島津製作所製紫外可視光検出器、商品名「SPD−20A」)
条件は下記のとおりである。
測定装置:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)
サンプル濃度:サンプル30mg/THF10mL
カラム:シリカ系シアノプロピル処理品(島津製作所製、商品名「Shim−Pak CLC−CN」)
展開溶剤:テトラヒドロフラン(THF)/n−ヘキサン(2液グラジエント測定)
グラジエント条件:THF/n−ヘキサン=20/80の割合から15分間かけてTHF/n−ヘキサン=100/0へ徐々に割合を切替える。切替後、この状態を10分間保持する。測定後、THF/n−ヘキサン=20/80の割合の溶媒を流してカラム内を洗浄する。
カラム温度:40℃
検出器:紫外線(254nm)(例えば、島津製作所製紫外可視光検出器、商品名「SPD−20A」)
グラフト共重合体(A)におけるピーク1(第1のピーク)に由来する成分の重量平均分子量(Mw)は、透明性の観点から、0超30000以下であることが好ましい。この重量平均分子量は、より好ましくは1000〜30000であり、更に好ましくは1000〜28000であり、特に好ましくは1000〜25000である。
グラフト共重合体(A)におけるピーク2(第2のピーク)に由来する成分の重量平均分子量(Mw)は、耐衝撃性の観点から、30000以上300000以下であることが好ましい。この重量平均分子量は、より好ましくは30000以上250000以下であり、更に好ましくは80000以上250000以下であり、特に好ましくは100000以上250000以下である。
グラフト共重合体(A)におけるピーク1に由来する成分の重量平均分子量、及びピーク2に由来する成分の重量平均分子量(Mw)は、ピーク1及びピーク2に該当する成分を前述のHPLCにて分取し、それぞれGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することで得られる。
条件は下記のとおりである。
測定機器:東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC
処理装置:マルチステーション GPC−8020
カラム:TOSOH TSK−GEL(G6000HXL、G5000HXL、G40000HXL、G3000HXL 直列)、ガードカラム有
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折検出器)
検出感度:3000mV/min
使用溶媒:THF(1級:安定剤含有)
ポリスチレンを標準物質として検量線法により重量平均分子量(Mw)が求められる。
条件は下記のとおりである。
測定機器:東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC
処理装置:マルチステーション GPC−8020
カラム:TOSOH TSK−GEL(G6000HXL、G5000HXL、G40000HXL、G3000HXL 直列)、ガードカラム有
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折検出器)
検出感度:3000mV/min
使用溶媒:THF(1級:安定剤含有)
ポリスチレンを標準物質として検量線法により重量平均分子量(Mw)が求められる。
本実施形態において、グラフト共重合体(A)は、幹ポリマーであるゴム質重合体に、シアン化ビニル系単量体(a)単独、又は、シアン化ビニル系単量体(a)とそのシアン化ビニル系単量体(a)と共重合可能な1種以上の単量体とを含む単量体の混合物をグラフト重合したグラフト共重合体である。グラフト共重合体(A)におけるグラフト率は、耐衝撃性、及び透明性の点から、80%以上240%以下であることが好ましく、より好ましくは100%以上220%以下、更に好ましくは120%以上200%以下、特に好ましくは150%以上200%以下である。
グラフト率は、幹ポリマーの質量に対するグラフト鎖の質量の割合(%)で定義される。グラフト率の測定法は、下記のとおりである。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分とアセトン不溶分とに分離する。この時、アセトンに不溶な成分は、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、その幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖であり、本実施形態に用いるグラフト共重合体(A)を含むものである。アセトンに可溶な成分は、本実施形態に用いるシアン化ビニル系重合体を含む熱可塑性樹脂(B)を含むものである。アセトンに不溶な成分を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により分析することによって、幹ポリマー及びグラフト鎖の構成比が得られ、その結果を元にして、グラフト率を求めることができる。
本実施形態の熱可塑性組成物において、グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計量(100質量部)に対して、グラフト共重合体(A)の含有割合は好ましくは16〜60質量部であり、より好ましくは20〜55質量部であり、さらに好ましくは25〜50質量部である。すなわち、グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計を100質量部とした場合、熱可塑性樹脂(B)の含有割合は好ましくは84〜40質量部であり、より好ましくは80〜45質量部であり、さらに好ましくは75〜50質量部である。グラフト共重合体(A)の含有割合を15質量部以上とすることは、耐衝撃性の点から好ましい。一方、グラフト共重合体(A)の含有割合を60質量部以下とすることは、成形品の透明性低下抑制の点から好ましい。さらに、グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体以外の構成単位の組成(構成単位の種類及び含有割合。以下同様。)と、シアン化ビニル系重合体を含む熱可塑性樹脂(B)の組成とを制御して相溶性を高めると、ゴム質重合体の分散状態が更に良好となり、成形品の耐衝撃性、透明性のバランスを一層向上させることができる。上記相溶性を高めるには、例えば、グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体以外の構成単位の種類と、シアン化ビニル系重合体(B)の構成単位の種類を同一のものにしたり、それぞれの構成単位の含有割合を近づけたりする方法が挙げられる。
グラフト共重合体(A)において、ゴム質重合体にグラフト重合されるシアン化ビニル系単量体(a)としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。シアン化ビニル系単量体単位は、少なくとも一部が、これと共重合可能な1種以上の単量体単位と共重合していてもよい。シアン化ビニル系単量体(a)と共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸等のアクリル酸類;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中で好ましいのは、強度の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルであり、強度の観点から、特に好ましくはスチレンである
グラフト共重合体(A)において、ゴム質重合体以外の全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)は、耐衝撃性の点から、5質量%以上であると好ましく、透明性の点から45質量%以下が好ましく、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは15〜35質量%、特に好ましくは20〜30質量%である。さらに、ピーク2が示すVCN単位含有率(C2)と、上記含有割合(E)との差(|(C2)−(E)|)は、耐衝撃性、特にシャルピー衝撃試験に基づく耐衝撃性の点から、25質量%以下であると好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。なお、差(|(C2)−(E)|)の下限は特に限定されない。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)との相溶性の点から、シアン化ビニル系単量体(b)単位を有する重合体を含む熱可塑性樹脂(B)を含有する。シアン化ビニル系単量体(b)としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。シアン化ビニル系単量体(b)単位は、これと共重合可能な1種以上の単量体単位と共重合していてもよい。シアン化ビニル系単量体(b)と共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸等のアクリル酸類;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中で好ましいのは、強度の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルであり、強度の観点から、特に好ましくはスチレンである。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、シアン化ビニル系重合体以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。その熱可塑性樹脂は、射出成形可能な樹脂であってもよく、射出成形品に実用上必要な強度、硬さ、耐熱性を付与できるものであってもよい。このような熱可塑性樹脂としては、グラフト共重合体(A)との混和性の点から、非晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。さらに、熱可塑性樹脂が、90〜300℃のガラス転移温度(Tg)を有することにより、実用上必要な強度、硬さ、耐熱性をも有する射出成形品を、より有効かつ確実に得ることができる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、メタクリル樹脂、メチルメタクリレート−スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエーテル樹脂、非晶性ポリエステルが挙げられる。これらは1種を単独又は2種以上を組み合わせ用いられる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)は、耐衝撃性の点から、33質量%以上であり、透明性の点から、55質量%以下であると好ましい。この含有割合(D)は、より好ましくは35〜50質量%、さらに好ましくは37〜45質量%、特に好ましくは38〜40質量%である。
ピーク2が示すVCN単量体含有率(C2)と、上記含有割合(D)との差(|(C2)−(D)|)は、透明性の点から、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。差(|(C2)−(D)|)をこの範囲内に収めることによって、透明性に更に優れた成形品を得ることができる。
なお、グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体の含有割合、ゴム質重合体以外の全単量体単位中のシアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)、熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により求めることができる。
具体的には下記のようにして求められる。
具体的には下記のようにして求められる。
(熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)の求め方)
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン可溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製する。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、2262cm-1の吸光度(A1)、2238〜2242cm-1のピーク吸光度(A2)、2222cm-1の吸光度(A3)、1792cm-1の吸光度(E1)、1734〜1738cm-1のピーク吸光度(E2)、1661cm-1の吸光度(E3)、1617cm-1の吸光度(S1)、1600〜1606cm-1のピーク吸光度(S2)、及び1575cm-1の吸光度(S3)を検出し、シアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)を下記式(1)より求めた。
(D)=A/(A+E+1.0)×100 ・・・ 式(1)
但し、A=AA/SS×0.27599
E=EE/SS×0.0438+0.005
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
EE=E2−(E1−E3)×(E2の波数−E3の波数)/(E1の波数−E3の波数)−E3
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン可溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製する。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、2262cm-1の吸光度(A1)、2238〜2242cm-1のピーク吸光度(A2)、2222cm-1の吸光度(A3)、1792cm-1の吸光度(E1)、1734〜1738cm-1のピーク吸光度(E2)、1661cm-1の吸光度(E3)、1617cm-1の吸光度(S1)、1600〜1606cm-1のピーク吸光度(S2)、及び1575cm-1の吸光度(S3)を検出し、シアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)を下記式(1)より求めた。
(D)=A/(A+E+1.0)×100 ・・・ 式(1)
但し、A=AA/SS×0.27599
E=EE/SS×0.0438+0.005
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
EE=E2−(E1−E3)×(E2の波数−E3の波数)/(E1の波数−E3の波数)−E3
(グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体以外の全単量体単位中のシアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)の求め方)
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン不溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製する。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、上記と同様にA1、A2、A3、S1、S2、S3を検出し、シアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)を下記式(2)より求めた。
(E)=A/(A+1.0)×100 ・・・ 式(2)
但し、A=AA/SS×0.27599
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン不溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製する。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、上記と同様にA1、A2、A3、S1、S2、S3を検出し、シアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)を下記式(2)より求めた。
(E)=A/(A+1.0)×100 ・・・ 式(2)
但し、A=AA/SS×0.27599
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
本実施形態において、熱可塑性樹脂(B)の還元比粘度(ηsp/c)は、耐衝撃性の点から0.20〜1.50dL/gの範囲にあることが好ましい。この還元比粘度は、より好ましくは0.30〜0.80dL/gであり、さらに好ましくは0.40〜0.70dL/gであり、特に好ましくは0.40〜0.55dL/gである。熱可塑性樹脂(B)の還元比粘度を0.20dL/g以上とすることで、耐衝撃性や強度の低下をより抑制することができ、熱可塑性樹脂(B)の還元比粘度を1.50dL/g以下とすることで、熱可塑性樹脂(B)とグラフト共重合体(A)との均一混練が可能となり、面衝撃強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強度の低下をより抑制することができる。還元比粘度は前述の方法により得られる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)、並びに、シアン化ビニル系重合体及び任意にシアン化ビニル系重合体以外の熱可塑性樹脂(以下、この熱可塑性樹脂を「任意の熱可塑性樹脂」という。)を含む熱可塑性樹脂(B)、ポリオレフィン系ゴム(G)を含有する他、必要に応じて、その他の任意成分の1種以上を含んでもよい。そのような任意成分としては、特に限定されないが、例えば、後述の成形品に含まれ得る各種添加剤や通常の熱可塑性樹脂組成物に含まれるものが挙げられる。熱可塑性樹脂組成物に含まれる任意成分の含有割合は、本発明の目的を達成できる範囲において特に限定されない。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上記の事項のいずれを組み合わせたものであってもよい。
グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状懸濁重合法、乳化重合等の方法が使用できる。これらのうち、粒子形状のゴム成分(分散相)が得られ、その粒子径の制御が容易であることから、乳化重合法、懸濁重合法、塊状懸濁重合法が好ましく用いられる。
乳化重合にてゴム質重合体を製造する場合、熱によりラジカルを発生する熱分解型の開始剤や、レドックス型の開始剤を用いることができる。また、別途乳化重合により得たゴム質重合体を用い、さらにビニル単量体をグラフト重合させる方法等を用いてもよい。ここで得られたグラフト鎖としては、シアン化ビニル系重合体と相溶するものが、耐衝撃性の点から好ましい。なお、粒子状のゴム質重合体を製造した後、同一の反応器で連続的に上記グラフト重合を行ってもよく、ゴム粒子を一旦ラテックスとして単離したのち、改めてグラフト重合を行ってもよい。
具体的には、例えば、乳化重合により得たポリブタジエンラテックスに、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及びアクリル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体をラジカル重合することにより、グラフト共重合体を得る方法が挙げられる。上記1種以上の単量体としては、例えば、スチレン及びアクリロニトリル;スチレン及びメタクリル酸メチル;スチレン;メタクリル酸メチル;及びアクリロニトリルが挙げられる。
特に、ゴム質重合体にグラフト重合する単量体が2種以上である場合、各単量体の仕込み比を連続的に又は段階的に変化させることにより、グラフト共重合体(A)におけるグラフト鎖の単量体の含有率の分布を制御することができる。また、ゴム質重合体は、各単量体の仕込み比を一定にした条件で得られた重合体であってもよいし、各単量体の仕込み比を変化させた条件で得られた重合体であってもよいし、各単量体の仕込み比を連続的に変化させた条件で得られた重合体であってもよい。
熱可塑性樹脂(B)に含まれるシアン化ビニル系重合体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状懸濁重合法、乳化重合等の方法が挙げられる。芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及びアクリル系単量体からなる群より選ばれる2種以上の単量体の共重合体を製造するには、ラジカル重合により製造するのが好ましい。また、シアン化ビニル系重合体は、グラフト共重合体(A)を製造する際に併せて製造されてもよい。例えば、グラフト共重合体(A)を製造する際にゴム質重合体にグラフト重合させるために添加する単量体自体が重合して、シアン化ビニル系重合体を形成してもよい。
シアン化ビニル系重合体中の各組成比は、シアン化ビニル系単量体が15〜50質量%が好ましく、より好ましくは25〜45質量%、さらに好ましくは30〜45質量%、芳香族ビニル系単量体が30〜85質量%が好ましく、より好ましくは40〜75質量%、さらに好ましくは45〜70質量%、アクリル系単量体が0〜15質量%、より好ましくは3〜12.5質量%、さらに好ましくは5〜11質量%であり、必要に応じて、その他の共重合可能な単量体と共重合させることもできる。
グラフト共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)を合計100質量%とした時、シアン化ビニル系単量体の含有割合は、20〜50質量%が好ましく、より好ましくは25〜45質量%、さらに好ましくは30〜40質量%である。
本実施形態に使用することができるポリオレフィン系ゴム(G)の種類は、特に限定されないが、例えば、エチレン/メチルアクリレート共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/ブチルアクリレート共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/オクテン−1共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体などのポリオレフィン系ゴム、又はカルボキシル基、無水カルボキシル基、エポキシ基、オキサゾリン基等で変性されたポリオレフィン系ゴムから選ばれる。これらは、必ずしも1種類で使用する必要はなく、2種類以上混合して使用することもできる。
ポリオレフィン系ゴム(G)としては、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体であることが好ましく、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体であることが好ましい。
ポリオレフィン系ゴム(G)としては、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素の三元共重合体が特に好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルのアクリル基は、直鎖状又は分岐状であって、その炭素数は1〜18が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等が例示され、炭素数2〜8のものがより好ましい。
また、各組成比は、エチレンが10〜87質量%が好ましく、より好ましくは40〜80質量%、(メタ)アクリル酸エステルが10〜50質量%が好ましく、より好ましくは15〜40質量%、一酸化炭素が5〜40質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%であり、必要に応じて、その他の共重合可能な単量体と共重合させることもできる。
ポリオレフィン系ゴム(G)としては、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素の三元共重合体が特に好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルのアクリル基は、直鎖状又は分岐状であって、その炭素数は1〜18が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等が例示され、炭素数2〜8のものがより好ましい。
また、各組成比は、エチレンが10〜87質量%が好ましく、より好ましくは40〜80質量%、(メタ)アクリル酸エステルが10〜50質量%が好ましく、より好ましくは15〜40質量%、一酸化炭素が5〜40質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%であり、必要に応じて、その他の共重合可能な単量体と共重合させることもできる。
ポリオレフィン系ゴム(G)の含有量は、グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対し、0.6〜8質量部であり、好ましくは1〜6.5質量部であり、より好ましくは2〜5.5質量部である。ポリオレフィン系ゴム(G)の含有量が0.6質量部以上であると、十分な耐薬品性が得られ、また、ポリオレフィン系ゴム(G)の含有量が8質量部以下であると透明性が向上して、発色性が良好となり、及び外力による変形を抑制することができる。
Small法で算出したポリオレフィン系ゴム(G)の溶解度パラメーター(SP値)は、好ましくは5〜20であり、より好ましくは6〜18であり、さらに好ましくは7〜16である。
本実施形態において、グラフト共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)とポリオレフィン系ゴム(G)との混合(混練)方法としては、特に限定されず、例えば、オープンロール、インテシブミキサー、インターナルミキサー、コニーダー、二軸ローター付の連続混練機、押出機等の混和機を用いた溶融混練方法が挙げられる。押出機としては、単軸又は二軸の押出機のいずれを用いることもできる。
グラフト共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)とポリオレフィン系ゴム(G)とを溶融混練機に供給する方法について、それら全てを同一の供給口に一度に供給してもよく、それらをそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。例えば、投入口を2ヶ所有する押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口からグラフト共重合体(A)を供給し、主投入口と押出機先端との間に設置した副投入口から熱可塑性樹脂(B)を供給して、溶融混練してもよい。
また、グラフト共重合体(A)と、熱可塑性樹脂(B)とポリオレフィン系ゴム(G)とを同一の供給口から供給する場合、予め両者を混合した後、押出機ホッパーに投入して混練することもできる。
好ましい溶融混練温度は、シアン化ビニル系重合体や任意の熱可塑性樹脂の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン樹脂を溶融混練する場合、シリンダー設定温度で180〜270℃程度であると好ましい。溶融混練温度をこのような範囲にすることにより、ゴム質重合体の分散状態が良好となり、成形品の耐衝撃性、透明性、耐薬品性のバランスを向上させることができる。
また、押出機を用いる場合、シリンダー温度のうち、供給ゾーンの温度を30〜200℃とすることが好ましく、溶融混練が行われる混練ゾーンの温度を、結晶性樹脂の場合はその融点+30〜100℃、非晶性樹脂の場合はそのTg+60〜150℃の範囲とすることが好ましい。温度設定をこのように二段階とすることにより、グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との混練がより円滑に行われ、成形品の耐衝撃性、透明性、耐薬品性が一段と優れたものとなる。
溶融混練時間は、特に限定されないが、耐衝撃性の点から、0.5〜5分程度であることが好ましい。
また、樹脂組成物を押し出しにより生産し、成形品を射出成形機で製造する場合、射出成形機に供給する段階で、樹脂組成物中の揮発分は1500ppm以下であることが好ましい。揮発分をかかる範囲にすることにより、一層優れた透明性が得られる。このような範囲の揮発分にするには、例えば、二軸押出機のシリンダーの中央部から押出機先端の間に設置されたベント孔から、減圧度−100〜−800hPaで揮発分を吸引するのが好ましい。
樹脂組成物を押し出しにより生産する場合、押し出された樹脂組成物を、直接切断してペレット化するか、又はストランドを形成した後ペレタイザーで切断してペレット化することができる。ペレットの形状は、特に限定されず、例えば、円柱、角柱、球状など、一般的な形状をとり得るが、円柱形状が好適である。
本実施形態の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物を含有する。本実施形態の成形品は、例えば、上述の熱可塑性樹脂組成物を含む材料を成形することにより得られる。熱可塑性樹脂組成物を含む材料の成形には、例えば射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形、プレス成形等の方法を用いることができる
特に、射出成形の方法として、例えば、射出圧縮成形、窒素ガスや炭酸ガスなどによるガスアシスト成形、及び金型温度を高温化にする高速ヒートサイクル成形が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。これらの中で、好ましくは、ガスアシスト成形、高速ヒートサイクル成形、及び、ガスアシスト成形と高速ヒートサイクル成形との組み合わせである。
ここで、「ガスアシスト成形」とは、一般的に公知の窒素ガスや炭酸ガスを用いた射出成形である。例えば、特公昭57−14968号公報等に記載のように、樹脂組成物を金型キャビティ内に射出した後に、成形体内部に加圧ガスを注入する方法、特許3819972号公報等に記載のように、樹脂組成物を金型キャビティ内に射出した後に、成形体の片面に対応するキャビティに加圧ガスを圧入する方法、特許3349070号公報等に記載のように、熱可塑性樹脂組成物に予めガスを充填させ成形する方法が挙げられる。これらのうち、成形体の片面に対応するキャビティに加圧ガスを圧入する方法が好ましい。
本実施形態では、ヒケ、ソリを防止するための保圧は、ガスアシストによる保圧が好ましい。ガスアシストによる保圧は、樹脂(組成物)による保圧と比較して、金型温度が比較的低いため、バリの発生をより抑制できると共に、ヒケやソリを防止するために必要な保圧時間を短縮することができる。
本実施形態の成形品は、例えば、グラフト共重合体(A)、シアン化ビニル系重合体及び任意の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂(B)、並びに、ポリオレフィン系ゴム(G)、更にはその他の任意成分との混練物を、上記のようにして製造したペレットから、射出成形機を用いることにより射出成形品を成形することができる。成形機の金型としては、好ましくは♯4000番手以上、より好ましくは♯12000番手以上のヤスリで仕上げられた金型を使用することができる。
射出成形時の樹脂組成物(上記混練物)温度は、成形される混練物に適した温度で成形されることが好ましい。例えば、混練物が、ABS系樹脂、ゴム変性ポリスチレン、及び/又は、メチルメタクリレート系樹脂を含む場合、220〜260℃の温度が好ましく、ポリカーボネートを含む場合には、260〜300℃の温度が好ましい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を含有する成形品の1種である筐体は、機械や電気など何らかの機能を有する機器の外装(カバー)であり、それらの機器に付属する外装であってもよい。筐体が用いられる機器としては、特に限定されないが、例えば、家電機器、OA機器、住設機器及び車両機器が挙げられる。家電機器としては、具体的に、特に限定されないが、例えば、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、電器ポット、電話機、コーヒーメーカー、液晶やプラズマなどのテレビ、ビジュアルレコーダー、オーディオステレオ、スマートフォンを含む携帯電話、据置型ゲーム機、携帯型ゲーム機、リモコンが挙げられる。OA機器としては、具体的に、特に限定されないが、例えば、ファックスやコピーなどの複合機器、液晶モニター、プリンター、パソコンが挙げられる。住設機器としては、具体的に、特に限定されないが、例えば、システムキッチン、洗面台、システムバスが挙げられる。車両機器としては、具体的に、特に限定されないが、例えば、自動車の内装のガーニッシュカバー、例えばシフトレバーインジケーターカバー、ドアハンドル枠、パワーウィンドウスイッチ枠、センタークラスター、カーステレオやカーナビ枠、センターピラーカバーが挙げられる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を達成できる範囲で、ホスファイト系、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエー系及びシアノアクリレート系の紫外線吸収剤及び酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系及び酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤及び可塑剤、モンタン酸及びその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステラアマイド及びエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤などの任意の添加剤を1種以上含んでもよい。これらの添加量は、それぞれ0.05〜1質量%であることが、透明性の点から好ましい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を達成できる範囲で、1,3−フェニレンビス(2,6−ジメチルフェニル=ホスファート)、テトラフェニル−m−フェニレンビスホスファート、フェノキシホスホリル、フェノキシホスファゼンなどのリン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤などの任意の難燃剤を1種以上含んでもよい。これらの添加量は、それぞれ1〜40質量%であることが、耐衝撃性の点から好ましい。
外観性を付与する目的で、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、無機顔料、有機系顔料、メタリック顔料、染料を含むこともできる。着色剤の中では、成形品の色を白、黒、赤にするものが、成形品の外観に特に際立った高級感を付与するので、好ましく用いられる。
無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸鉛系顔料、カドミウム系顔料が挙げられる。
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、アゾレーキ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジアリリド顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料が挙げられる。
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、リン片状のアルミのメタリック顔料、ウェルド外観を改良するために使用されている球状のアルミ顔料、パール調メタリック顔料用のマイカ粉、その他ガラス等の無機物の多面体粒子に金属をメッキやスパッタリングで被覆したものが挙げられる。
染料としては、特に限定されないが、例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン/ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン/インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン/オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料が挙げられる。
これらの着色剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの添加量は、色調の点から、グラフト共重合体(A)及びシアン化ビニル系重合体を含む熱可塑性樹脂(B)の合計質量に対し、0.05〜2質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜1.5質量%である。
本実施形態の成形品は、上記の事項のいずれを組み合わせたものであってもよい。
本実施形態によると、透明性、面衝撃強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強度、耐薬品性に優れる成形品を得ることができる。例えば、ISO179に従って測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が、5kJ/m2以上、好ましくは10kJ/m2以上、より好ましくは13kJ/m2以上、さらに好ましくは15kJ/m2以上の成形品を得ることができる。
また、本実施形態によると、ISO7765−2に従って測定したダート法による衝撃試験方法によって全貫通エネルギーが30J以上、好ましくは35J以上、より好ましくは40J以上の成形品を得ることができる。なお、全貫通エネルギーは面衝撃強度の指標である。
また、本実施形態によると、ISO13468に従って測定した2.5mm厚の射出成型品の全光線透過率が、50%以上、好ましくは53%以上、より好ましくは56%以上の成形品を得ることができる。
また、本実施形態によると、ISO14782に従って測定した2.5mm厚の射出成型品のヘーズが、60%未満、好ましくは50%未満、より好ましくは40%未満の成形品を得ることができる。
また、本実施形態によると、3mm厚のコンプレッション成形品の日焼け止め化粧品に対する耐薬品性を1/4楕円法で評価した際の臨界歪が、0.5%以上、より好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは0.9%以上の成形品を得ることができる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における各物性の測定及び評価は以下の方法に従って行った。
耐衝撃性の評価として、ノッチ付シャルピー衝撃強度(kJ/m2)、及び自由落下のダート法による衝撃試験方法によって全貫通エネルギー(J)を用いた。
(1)ノッチ付シャルピー衝撃強度(kJ/m2)
東芝機械製射出成形機(品番:EC60N)を用いて、熱可塑性樹脂組成物をシリンダー温度250℃、金型温度60℃にて成形し、縦8cm×横1cm、厚さ4mmの試験片を切り出した後、当該試験片ついて、ISO179に準じてノッチ付シャルピー衝撃強度を評価した。ノッチ付シャルピー衝撃強度が5kJ/m2以上で、化粧品容器、家電、ゲーム機、自動車の内装材等で実用上問題なく使用できる。ノッチ付シャルピー衝撃強度が5kJ/m2未満のものを「不可」、5kJ/m2以上10kJ/m2未満を「可」、10kJ/m2以上13kJ/m2未満を「良」、13kJ/m2以上15kJ/m2未満を「優良」、15kJ/m2以上を「最優良」とした。
東芝機械製射出成形機(品番:EC60N)を用いて、熱可塑性樹脂組成物をシリンダー温度250℃、金型温度60℃にて成形し、縦8cm×横1cm、厚さ4mmの試験片を切り出した後、当該試験片ついて、ISO179に準じてノッチ付シャルピー衝撃強度を評価した。ノッチ付シャルピー衝撃強度が5kJ/m2以上で、化粧品容器、家電、ゲーム機、自動車の内装材等で実用上問題なく使用できる。ノッチ付シャルピー衝撃強度が5kJ/m2未満のものを「不可」、5kJ/m2以上10kJ/m2未満を「可」、10kJ/m2以上13kJ/m2未満を「良」、13kJ/m2以上15kJ/m2未満を「優良」、15kJ/m2以上を「最優良」とした。
(2)全貫通エネルギー(J)
東芝機械製射出成形機(東芝機械(株)製、EC75S)を用いて、熱可塑性樹脂組成物からシリンダー温度250℃、金型温度60℃にて、10cm×10cm、厚さ2mmの平板を成形し、当該平板について、ISO7765−2に準じて全貫通エネルギーを評価した。全貫通エネルギーが30J以上で、化粧品容器、家電、ゲーム機、自動車の内装材等で実用上問題なく使用できる。全貫通エネルギーが30J未満のものを「不可」、30J以上35J未満のものを「可」、35J以上40J未満のものを「良」、40J以上のものを「優良」と評価した。
東芝機械製射出成形機(東芝機械(株)製、EC75S)を用いて、熱可塑性樹脂組成物からシリンダー温度250℃、金型温度60℃にて、10cm×10cm、厚さ2mmの平板を成形し、当該平板について、ISO7765−2に準じて全貫通エネルギーを評価した。全貫通エネルギーが30J以上で、化粧品容器、家電、ゲーム機、自動車の内装材等で実用上問題なく使用できる。全貫通エネルギーが30J未満のものを「不可」、30J以上35J未満のものを「可」、35J以上40J未満のものを「良」、40J以上のものを「優良」と評価した。
(3)透明性
透明性の基準として、全光線透過率(%)、及びヘーズ(%)を用いた。東芝機械製射出成形機(品番:EC60N)を用いて、熱可塑性樹脂組成物からシリンダー温度250℃、金型温度60℃にて、5cm×9cm、厚さ2.5mmの平板を成形した。得られた平板について、ISO13468に従って全光線透過率(%)、及びISO14782に従ってヘーズ(%)の測定を行った。
全光線透過率を50%以上とすることで、高品位のある外観性が得られやすくなる。高品位のある外観性とは、深みのある色調で高級感を強く感じ取ることができるものである。全光線透過率が50%未満のものを「不可」、50%以上53%未満のものを「可」、53%以上56%未満のものを「良」、56%以上のものを「優良」と評価した。
ヘーズを60%未満とすることで、高品位のある外観性が得られやすくなる。ヘーズが60%以上のものを「不可」、60%未満50%以上のものを「可」、50%未満40%以上のものを「良」、40%未満のものを「優良」と評価した。
透明性の基準として、全光線透過率(%)、及びヘーズ(%)を用いた。東芝機械製射出成形機(品番:EC60N)を用いて、熱可塑性樹脂組成物からシリンダー温度250℃、金型温度60℃にて、5cm×9cm、厚さ2.5mmの平板を成形した。得られた平板について、ISO13468に従って全光線透過率(%)、及びISO14782に従ってヘーズ(%)の測定を行った。
全光線透過率を50%以上とすることで、高品位のある外観性が得られやすくなる。高品位のある外観性とは、深みのある色調で高級感を強く感じ取ることができるものである。全光線透過率が50%未満のものを「不可」、50%以上53%未満のものを「可」、53%以上56%未満のものを「良」、56%以上のものを「優良」と評価した。
ヘーズを60%未満とすることで、高品位のある外観性が得られやすくなる。ヘーズが60%以上のものを「不可」、60%未満50%以上のものを「可」、50%未満40%以上のものを「良」、40%未満のものを「優良」と評価した。
(4)日焼け止め化粧品に対する耐薬品性
熱可塑性樹脂組成物を用いて、250℃で成形した3mm厚のコンプレッション成形品から10mmの長さの試験片を切り出した。その後、試験片を80℃で24時間アニールした。その後、試験片をベンディングバーに取り付け日焼け止め化粧品を塗布した。
その後、試験片を室温23℃、湿度50%の環境で24時間静置し、クラックが生じる臨界歪(%)の値を測定した。
日焼け止め化粧品としては、資生堂製のアネッサ 薬用美白エッセンスフェイシャルUV(SPF50+PA++++)を使用した。
臨界歪が0.5%以上あれば、日焼け止め化粧品の接触がクラックの発生の直接原因にはならないとし、試験片の耐薬品性について下記の基準で評価した。
臨界歪が0.5%未満のものを「不可」、0.5%以上0.7%未満のものを「可」、0.7%以上0.9%未満のものを「良」、0.9%以上のものを「優良」と評価した。
熱可塑性樹脂組成物を用いて、250℃で成形した3mm厚のコンプレッション成形品から10mmの長さの試験片を切り出した。その後、試験片を80℃で24時間アニールした。その後、試験片をベンディングバーに取り付け日焼け止め化粧品を塗布した。
その後、試験片を室温23℃、湿度50%の環境で24時間静置し、クラックが生じる臨界歪(%)の値を測定した。
日焼け止め化粧品としては、資生堂製のアネッサ 薬用美白エッセンスフェイシャルUV(SPF50+PA++++)を使用した。
臨界歪が0.5%以上あれば、日焼け止め化粧品の接触がクラックの発生の直接原因にはならないとし、試験片の耐薬品性について下記の基準で評価した。
臨界歪が0.5%未満のものを「不可」、0.5%以上0.7%未満のものを「可」、0.7%以上0.9%未満のものを「良」、0.9%以上のものを「優良」と評価した。
(5)グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径
グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径は、下記のようにして求めた。まず、熱可塑性樹脂組成物の成形品から超薄切片を作製し、その超薄切片を四酸化オスミウム(染色剤)にて染色処理した。その後、染色処理した超薄切片を、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影し、超薄切片の任意の範囲(15μm×15μm)について、画像解析することでグラフト共重合体(A)の質量平均粒子径を求めた。画像は、画像解析ソフト「A像くん」(旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いて解析した。
グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径は、下記のようにして求めた。まず、熱可塑性樹脂組成物の成形品から超薄切片を作製し、その超薄切片を四酸化オスミウム(染色剤)にて染色処理した。その後、染色処理した超薄切片を、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影し、超薄切片の任意の範囲(15μm×15μm)について、画像解析することでグラフト共重合体(A)の質量平均粒子径を求めた。画像は、画像解析ソフト「A像くん」(旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いて解析した。
(6)VCN単位含有率の分布
グラフト共重合体(A)におけるVCN単位含有率の分布は、後述する所定の前処理によって熱可塑性樹脂組成物から得られるグラフト鎖由来の成分を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定して得られるクロマトグラムに基づいて求めた。なお、VCN単位含有率の分布において、ピークであるか否かの判断は、HPLCの検出器におけるノイズレベルの範囲内か否かによって決定した。
より具体的には、以下のようにして、グラフト共重合体(A)におけるVCN単位含有率の分布を求めた。
まず、熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分とアセトン不溶分とに分離した。このアセトン不溶分(0.5g)に四酸化オスミウム(0.0046g)、t−ブチルアルコール(10.7g)、有機過酸化物(「パーブチルH−69」(日油株式会社商品名)9.2g)を加えて、30分間、還流させた後、溶媒除去により濃縮して、クロロホルム(20mL)に溶解させた。これを大過剰のメタノールに添加することで沈殿物を得た。その沈殿物を分離・乾燥して固形分を得た。得られた固形分(0.03g)を秤量して、テトラヒドロフラン(10mLの)に溶解させ、測定試料とした。
上記とは別に、窒素分析によって、シアン化ビニル系単量体単位の含有率が既知である標準試料(ポリマー)を用いて、シアン化ビニル系単量体単位の含有率とHPLCにおけるリテンションタイムとの関係の検量線を作成した。上記測定試料を、HPLCで測定してクロマトグラムを得た後、そのクロマトグラムにおけるリテンションタイムから、上記検量線を用いて、VCN単位含有率の分布を求めた。
条件は下記のとおりとした。
測定装置:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)
サンプル濃度:サンプル30mg/THF10mL
カラム:シリカ系シアノプロピル処理品(島津製作所製、商品名「Shim−Pak CLC−CN」)
展開溶剤:テトラヒドロフラン(THF)/n−ヘキサン(2液グラジエント測定)
グラジエント条件:THF/n−ヘキサン=20/80の割合から15分間かけてTHF/n−ヘキサン=100/0へ徐々に割合を切替えた。切替後、この状態を10分間保持する。測定後、THF/n−ヘキサン=20/80の割合の溶媒を流してカラム内を洗浄した。
カラム温度:40℃
検出器:紫外線(254nm)(例えば、島津製作所製紫外可視光検出器、商品名「SPD−20A」)
グラフト共重合体(A)におけるVCN単位含有率の分布は、後述する所定の前処理によって熱可塑性樹脂組成物から得られるグラフト鎖由来の成分を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定して得られるクロマトグラムに基づいて求めた。なお、VCN単位含有率の分布において、ピークであるか否かの判断は、HPLCの検出器におけるノイズレベルの範囲内か否かによって決定した。
より具体的には、以下のようにして、グラフト共重合体(A)におけるVCN単位含有率の分布を求めた。
まず、熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分とアセトン不溶分とに分離した。このアセトン不溶分(0.5g)に四酸化オスミウム(0.0046g)、t−ブチルアルコール(10.7g)、有機過酸化物(「パーブチルH−69」(日油株式会社商品名)9.2g)を加えて、30分間、還流させた後、溶媒除去により濃縮して、クロロホルム(20mL)に溶解させた。これを大過剰のメタノールに添加することで沈殿物を得た。その沈殿物を分離・乾燥して固形分を得た。得られた固形分(0.03g)を秤量して、テトラヒドロフラン(10mLの)に溶解させ、測定試料とした。
上記とは別に、窒素分析によって、シアン化ビニル系単量体単位の含有率が既知である標準試料(ポリマー)を用いて、シアン化ビニル系単量体単位の含有率とHPLCにおけるリテンションタイムとの関係の検量線を作成した。上記測定試料を、HPLCで測定してクロマトグラムを得た後、そのクロマトグラムにおけるリテンションタイムから、上記検量線を用いて、VCN単位含有率の分布を求めた。
条件は下記のとおりとした。
測定装置:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)
サンプル濃度:サンプル30mg/THF10mL
カラム:シリカ系シアノプロピル処理品(島津製作所製、商品名「Shim−Pak CLC−CN」)
展開溶剤:テトラヒドロフラン(THF)/n−ヘキサン(2液グラジエント測定)
グラジエント条件:THF/n−ヘキサン=20/80の割合から15分間かけてTHF/n−ヘキサン=100/0へ徐々に割合を切替えた。切替後、この状態を10分間保持する。測定後、THF/n−ヘキサン=20/80の割合の溶媒を流してカラム内を洗浄した。
カラム温度:40℃
検出器:紫外線(254nm)(例えば、島津製作所製紫外可視光検出器、商品名「SPD−20A」)
(7)グラフト共重合体(A)におけるピーク1及び2に由来する成分の重量平均分子量
グラフト共重合体(A)におけるピーク1に由来する成分の重量平均分子量、及びピーク2に由来する成分の重量平均分子量(Mw)は、ピーク1及びピーク2に該当する成分を上記(6)のHPLCにて分取し、それぞれGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することで得た。
条件は下記のとおりとした。
測定機器:東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC
処理装置:マルチステーション GPC−8020
カラム:TOSOH TSK−GEL(G6000HXL、G5000HXL、G40000HXL、G3000HXL 直列)、ガードカラム有
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折検出器)
検出感度:3000mV/min
使用溶媒:THF(1級:安定剤含有)
ポリスチレンを標準物質として検量線法により重量平均分子量(Mw)を求めた。
グラフト共重合体(A)におけるピーク1に由来する成分の重量平均分子量、及びピーク2に由来する成分の重量平均分子量(Mw)は、ピーク1及びピーク2に該当する成分を上記(6)のHPLCにて分取し、それぞれGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することで得た。
条件は下記のとおりとした。
測定機器:東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC
処理装置:マルチステーション GPC−8020
カラム:TOSOH TSK−GEL(G6000HXL、G5000HXL、G40000HXL、G3000HXL 直列)、ガードカラム有
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折検出器)
検出感度:3000mV/min
使用溶媒:THF(1級:安定剤含有)
ポリスチレンを標準物質として検量線法により重量平均分子量(Mw)を求めた。
(8)グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度
グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度は、下記のようにして求めた。熱可塑性樹脂組成物1.0gをアセトン20mLに溶解し、2時間振とうし、これを20000rpmで1時間、遠心分離することによりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離した。アセトン可溶分0.25gをメチルエチルケトン50mLにて溶解した溶液を、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することによりグラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度を得た。
グラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度は、下記のようにして求めた。熱可塑性樹脂組成物1.0gをアセトン20mLに溶解し、2時間振とうし、これを20000rpmで1時間、遠心分離することによりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離した。アセトン可溶分0.25gをメチルエチルケトン50mLにて溶解した溶液を、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することによりグラフト共重合体(A)のグラフト鎖由来の成分の還元比粘度を得た。
(9)グラフト共重合体(A)におけるグラフト率
グラフト共重合体(A)におけるグラフト率は、以下の方法で測定した。
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分とアセトン不溶分とに分離した。この時、アセトンに不溶な成分は、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、その幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖であり、グラフト共重合体(A)を含むものであった。アセトンに不溶な成分を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により分析することによって、幹ポリマー及びグラフト鎖の構成比が得られ、その結果を元にして、グラフト共重合体(A)におけるグラフト率を求めた。
グラフト共重合体(A)におけるグラフト率は、以下の方法で測定した。
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分とアセトン不溶分とに分離した。この時、アセトンに不溶な成分は、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、その幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖であり、グラフト共重合体(A)を含むものであった。アセトンに不溶な成分を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により分析することによって、幹ポリマー及びグラフト鎖の構成比が得られ、その結果を元にして、グラフト共重合体(A)におけるグラフト率を求めた。
(10)熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)の求め方
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン可溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製した。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、2262cm-1の吸光度(A1)、2238〜2242cm-1のピーク吸光度(A2)、2222cm-1の吸光度(A3)、1792cm-1の吸光度(E1)、1734〜1738cm-1のピーク吸光度(E2)、1661cm-1の吸光度(E3)、1617cm-1の吸光度(S1)、1600〜1606cm-1のピーク吸光度(S2)、及び1575cm-1の吸光度(S3)を検出し、シアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)を下記式(1)より求めた。
(D)=A/(A+E+1.0)×100 ・・・ 式(1)
但し、A=AA/SS×0.27599
E=EE/SS×0.0438+0.005
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
EE=E2−(E1−E3)×(E2の波数−E3の波数)/(E1の波数−E3の波数)−E3
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン可溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製した。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、2262cm-1の吸光度(A1)、2238〜2242cm-1のピーク吸光度(A2)、2222cm-1の吸光度(A3)、1792cm-1の吸光度(E1)、1734〜1738cm-1のピーク吸光度(E2)、1661cm-1の吸光度(E3)、1617cm-1の吸光度(S1)、1600〜1606cm-1のピーク吸光度(S2)、及び1575cm-1の吸光度(S3)を検出し、シアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)を下記式(1)より求めた。
(D)=A/(A+E+1.0)×100 ・・・ 式(1)
但し、A=AA/SS×0.27599
E=EE/SS×0.0438+0.005
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
EE=E2−(E1−E3)×(E2の波数−E3の波数)/(E1の波数−E3の波数)−E3
(11)グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体以外の全単量体単位中のシアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)の求め方
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン不溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製した。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、上記(10)と同様にA1、A2、A3、S1、S2、S3を検出し、シアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)を下記式(2)より求めた。
(E)=A/(A+1.0)×100 ・・・ 式(2)
但し、A=AA/SS×0.27599
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
熱可塑性樹脂組成物(1.0g)をアセトン(20mL)に溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離し、アセトン不溶分を圧縮成形により、厚み0.01〜0.08μmのフィルムを作製した。作製したフィルムについて、日本分光工業株式会社製FT/IR−7000により、上記(10)と同様にA1、A2、A3、S1、S2、S3を検出し、シアン化ビニル系単量体(a)単位の含有割合(E)を下記式(2)より求めた。
(E)=A/(A+1.0)×100 ・・・ 式(2)
但し、A=AA/SS×0.27599
AA=A2−(A1−A3)×(A2の波数−A3の波数)/(A1の波数−A3の波数)−A3
SS=S2−(S1−S3)×(S2の波数−S3の波数)/(S1の波数−S3の波数)−S3
(製造例1)
[ゴムラテックス(L−1)の製造]
ブタジエン18質量部、脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)160質量部、ロジン酸カリウム0.067質量部、オレイン酸カリウム0.033質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、水酸化ナトリウム0.03質量部、過硫酸ナトリウム0.075質量部、及び重炭酸ナトリウム0.10質量部を、真空に脱気した撹拌機を装備した耐圧容器に収納して、温度を室温から65℃まで上昇させ、重合を開始した。重合開始から2.5時間経過後、さらに5時間かけて、ブタジエンモノマー80質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.3質量部、不均化ロジン酸カリウム0.67質量部、オレイン酸カリウム0.33質量部、過硫酸ナトリウム0.1質量部、水酸化ナトリウム0.05質量部、重炭酸ナトリウム0.15質量部、及び脱イオン水50質量部を連続的に添加した後、系を80℃まで昇温し、重合開始から14時間経過後に冷却して重合を終了して、ゴムラテックス(L−1)を含む重合液が得られた。得られた重合液中、固形分(ゴムラテックス(L−1))は41.8質量%であり、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(商品名:nanotrac150)にて測定した固形分(ゴムラテックス(L−1))の質量平均粒子径は165nmであった。
[ゴムラテックス(L−1)の製造]
ブタジエン18質量部、脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)160質量部、ロジン酸カリウム0.067質量部、オレイン酸カリウム0.033質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、水酸化ナトリウム0.03質量部、過硫酸ナトリウム0.075質量部、及び重炭酸ナトリウム0.10質量部を、真空に脱気した撹拌機を装備した耐圧容器に収納して、温度を室温から65℃まで上昇させ、重合を開始した。重合開始から2.5時間経過後、さらに5時間かけて、ブタジエンモノマー80質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.3質量部、不均化ロジン酸カリウム0.67質量部、オレイン酸カリウム0.33質量部、過硫酸ナトリウム0.1質量部、水酸化ナトリウム0.05質量部、重炭酸ナトリウム0.15質量部、及び脱イオン水50質量部を連続的に添加した後、系を80℃まで昇温し、重合開始から14時間経過後に冷却して重合を終了して、ゴムラテックス(L−1)を含む重合液が得られた。得られた重合液中、固形分(ゴムラテックス(L−1))は41.8質量%であり、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(商品名:nanotrac150)にて測定した固形分(ゴムラテックス(L−1))の質量平均粒子径は165nmであった。
(製造例2)
[熱可塑性樹脂(I−1)の製造]
製造例1で得られたゴムラテックス(L−1)30質量部(固形分)に、脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)95質量部を添加し、気相部を窒素置換し、そこに、脱イオン水20質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0786質量部、硫酸第一鉄0.0036質量部、及びエチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.0408質量部を溶解してなる水溶液を添加した(以上、表1中の「初添」。)。その後、得られた溶液を70℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて、スチレン21質量部とクメンハイドロパーオキシド0.15質量部とからなる単量体混合液、及び、脱イオン水10.5質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0392質量部を溶解してなる水溶液を添加した(以上、表1中の「1段目追添」。)。続いて、3.5時間かけて、アクリロニトリル17.15質量部、及びスチレン31.85質量部とクメンハイドロパーオキシド0.035質量部とからなる単量体混合液、及び、脱イオン水24.5質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0914質量部を溶解してなる水溶液を添加した(以上、表1中の「2段目追添」。)。それらの添加終了後に、クメンハイドロパーオキシド0.02質量部を更に添加した後、さらに1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させ、そこにロジン酸カリウム0.5質量部を添加した(以上、表1中の「ショット」。)。こうしてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(以下「ABS」とも記す)ゴムラテックスを得た。
[熱可塑性樹脂(I−1)の製造]
製造例1で得られたゴムラテックス(L−1)30質量部(固形分)に、脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)95質量部を添加し、気相部を窒素置換し、そこに、脱イオン水20質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0786質量部、硫酸第一鉄0.0036質量部、及びエチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.0408質量部を溶解してなる水溶液を添加した(以上、表1中の「初添」。)。その後、得られた溶液を70℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて、スチレン21質量部とクメンハイドロパーオキシド0.15質量部とからなる単量体混合液、及び、脱イオン水10.5質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0392質量部を溶解してなる水溶液を添加した(以上、表1中の「1段目追添」。)。続いて、3.5時間かけて、アクリロニトリル17.15質量部、及びスチレン31.85質量部とクメンハイドロパーオキシド0.035質量部とからなる単量体混合液、及び、脱イオン水24.5質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0914質量部を溶解してなる水溶液を添加した(以上、表1中の「2段目追添」。)。それらの添加終了後に、クメンハイドロパーオキシド0.02質量部を更に添加した後、さらに1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させ、そこにロジン酸カリウム0.5質量部を添加した(以上、表1中の「ショット」。)。こうしてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(以下「ABS」とも記す)ゴムラテックスを得た。
このようにして得られたABSゴムラテックス100質量部に、シリコーン樹脂製消泡剤0.07質量部、及びフェノール系酸化防止剤エマルジョン0.6質量部を添加した後、固形分濃度が10質量%となるように脱イオン水を加えて調整した。得られた水溶液を、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、スクリュープレス機にて固液分離を行った。この時の固体中の含水率は10質量%であった。得られた固体を乾燥させて熱可塑性樹脂(I−1)を得た。この熱可塑性樹脂(I−1)は、グラフト共重合体(I−A−1)と、シアン化ビニル系重合体(I−B−1)とからなり、アセトン不溶分、すなわちグラフト共重合体(I−A−1)の含有割合は81.3質量%、アセトン可溶分、すなわちシアン化ビニル系重合体(I−B−1)の含有割合は18.7質量%であった。また、シアン化ビニル系重合体(I−B−1)の還元比粘度(ηsp/c)は0.54dL/gであった。なお、還元比粘度は、試料0.25gを2−ブタノン50mLにて溶解した溶液を、30℃におけるCannon−Fenske型毛細管を用いて粘度測定することで求めた(以下同様。)。
(製造例3〜5)
[熱可塑性樹脂(I−2)〜(I−4)の製造]
表1に記載の処方とした以外は製造例2と同様にして、熱可塑性樹脂(I−2)〜(I−4)を製造した。製造例3〜5の熱可塑性樹脂の材料及び仕込み比、並びにアセトン不溶分、アセトン可溶分の含有割合、アセトン可溶分の還元比粘度を表1に示す。
[熱可塑性樹脂(I−2)〜(I−4)の製造]
表1に記載の処方とした以外は製造例2と同様にして、熱可塑性樹脂(I−2)〜(I−4)を製造した。製造例3〜5の熱可塑性樹脂の材料及び仕込み比、並びにアセトン不溶分、アセトン可溶分の含有割合、アセトン可溶分の還元比粘度を表1に示す。
(製造例6)
[シアン化ビニル系重合体(II−B−1)の製造]
アクリロニトリル38.5質量部、スチレン31.0質量部、エチルベンゼン30.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.3質量部、及び下記式(3)で表される繰返し単位7個を有する過酸化物(10時間半減期:63.5℃)1.05質量部からなる単量体混合物を、空気と接触させない状態で調製し、連続的に撹拌機を装備した反応器に供給して重合を行った。重合温度は120℃に調整した。撹拌機の撹拌回転数は95回転に設定して十分に混合し、そのP/V値は4.0kw/m3であった。平均滞留時間は4.0時間とした。こうして得られた重合率55%、ポリマー濃度50質量%の重合混合物を、連続的に反応器から抜き出して第一分離槽へ移送した。第一分離槽において、熱交換器にて160℃に重合混合物を加熱し、真空度60Torrで脱揮して、重合混合物中のポリマー濃度を65質量%に調整した後、重合混合物を第一分離槽から排出して第二分離槽へ移送した。第二分離槽において、熱交換器にて260℃に重合混合物を加熱し、真空度32Torrで脱揮して、重合混合物中の揮発性成分の含有割合を0.7質量%、ポリマー濃度を99.4質量%に調整した後、重合混合物を排出してペレット状のシアン化ビニル系重合体(II−B−1)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−1)における各単量体単位の組成比は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR、日本分光株式会社製、品番:FT/IR−7000。以下同様。)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル単位が39.5質量%、スチレン単位が60.5質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−1)の還元比粘度は0.49dL/gであった。
[シアン化ビニル系重合体(II−B−1)の製造]
アクリロニトリル38.5質量部、スチレン31.0質量部、エチルベンゼン30.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.3質量部、及び下記式(3)で表される繰返し単位7個を有する過酸化物(10時間半減期:63.5℃)1.05質量部からなる単量体混合物を、空気と接触させない状態で調製し、連続的に撹拌機を装備した反応器に供給して重合を行った。重合温度は120℃に調整した。撹拌機の撹拌回転数は95回転に設定して十分に混合し、そのP/V値は4.0kw/m3であった。平均滞留時間は4.0時間とした。こうして得られた重合率55%、ポリマー濃度50質量%の重合混合物を、連続的に反応器から抜き出して第一分離槽へ移送した。第一分離槽において、熱交換器にて160℃に重合混合物を加熱し、真空度60Torrで脱揮して、重合混合物中のポリマー濃度を65質量%に調整した後、重合混合物を第一分離槽から排出して第二分離槽へ移送した。第二分離槽において、熱交換器にて260℃に重合混合物を加熱し、真空度32Torrで脱揮して、重合混合物中の揮発性成分の含有割合を0.7質量%、ポリマー濃度を99.4質量%に調整した後、重合混合物を排出してペレット状のシアン化ビニル系重合体(II−B−1)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−1)における各単量体単位の組成比は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR、日本分光株式会社製、品番:FT/IR−7000。以下同様。)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル単位が39.5質量%、スチレン単位が60.5質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−1)の還元比粘度は0.49dL/gであった。
(製造例7)
[シアン化ビニル系重合体(II−B−2)の製造]
アクリロニトリルの量を32.4質量部、スチレンの量を36.1質量部にした以外は製造例6と同じ方法で製造し、シアン化ビニル系重合体(II−B−2)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−2)における各単量体単位の組成比は、アクリロニトリル単位が35.0質量%、スチレン単位が65.0質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−2)の還元比粘度は0.61dL/gであった。
[シアン化ビニル系重合体(II−B−2)の製造]
アクリロニトリルの量を32.4質量部、スチレンの量を36.1質量部にした以外は製造例6と同じ方法で製造し、シアン化ビニル系重合体(II−B−2)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−2)における各単量体単位の組成比は、アクリロニトリル単位が35.0質量%、スチレン単位が65.0質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−2)の還元比粘度は0.61dL/gであった。
(製造例8)
[シアン化ビニル系重合体(II−B−3)の製造]
アクリロニトリルの量を25.6質量部、スチレンの量を41.7質量部にした以外は製造例6と同じ方法で製造し、シアン化ビニル系重合体(II−B−3)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−3)における各単量体単位の組成比は、アクリロニトリル単位が30.0質量%、スチレン単位が70.0質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−3)の還元比粘度は0.65dL/gであった。
[シアン化ビニル系重合体(II−B−3)の製造]
アクリロニトリルの量を25.6質量部、スチレンの量を41.7質量部にした以外は製造例6と同じ方法で製造し、シアン化ビニル系重合体(II−B−3)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−3)における各単量体単位の組成比は、アクリロニトリル単位が30.0質量%、スチレン単位が70.0質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−3)の還元比粘度は0.65dL/gであった。
(製造例9)
[シアン化ビニル系重合体(II−B−4)の製造]
アクリロニトリル33.2質量部、スチレン29.9質量部、ブチルアクリレート8.1質量部、エチルベンゼン28.8質量部、α−メチルスチレンダイマー0.3質量部、及びt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.01質量部からなる単量体混合物を、空気と接触させない状態で調製し、連続的に撹拌機を装備した反応器に供給して重合を行った。重合温度は142℃に調整した。撹拌機の撹拌回転数は95回転に設定して十分に混合し、そのP/V値は4.0kw/m3であった。平均滞留時間は1.65時間とした。こうして得られた重合率60%、ポリマー濃度50質量%の重合混合液を、連続的に反応器から抜き出して第一分離槽へ移送した。第一分離槽において、熱交換器にて160℃に重合混合物を加熱し、真空度60Torrで脱揮して、重合混合物中のポリマー濃度を65質量%に調整した後、重合混合液を第一分離槽から排出して第二分離槽へ移送した。第二分離槽において、熱交換器にて260℃に重合混合物を加熱し、真空度32Torrで脱揮して、重合混合物中の揮発性成分の含有割合を0.7質量%、ポリマー濃度を99.4質量%に調整した後、重合混合液を排出してペレット状のシアン化ビニル系重合体(II−B−4)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−4)における各単量体単位の組成比は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル単位が38.6質量%、スチレン単位が51.3質量%、アクリル酸ブチル単位が10.1質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−4)の還元比粘度は0.42dL/gであった。
[シアン化ビニル系重合体(II−B−4)の製造]
アクリロニトリル33.2質量部、スチレン29.9質量部、ブチルアクリレート8.1質量部、エチルベンゼン28.8質量部、α−メチルスチレンダイマー0.3質量部、及びt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.01質量部からなる単量体混合物を、空気と接触させない状態で調製し、連続的に撹拌機を装備した反応器に供給して重合を行った。重合温度は142℃に調整した。撹拌機の撹拌回転数は95回転に設定して十分に混合し、そのP/V値は4.0kw/m3であった。平均滞留時間は1.65時間とした。こうして得られた重合率60%、ポリマー濃度50質量%の重合混合液を、連続的に反応器から抜き出して第一分離槽へ移送した。第一分離槽において、熱交換器にて160℃に重合混合物を加熱し、真空度60Torrで脱揮して、重合混合物中のポリマー濃度を65質量%に調整した後、重合混合液を第一分離槽から排出して第二分離槽へ移送した。第二分離槽において、熱交換器にて260℃に重合混合物を加熱し、真空度32Torrで脱揮して、重合混合物中の揮発性成分の含有割合を0.7質量%、ポリマー濃度を99.4質量%に調整した後、重合混合液を排出してペレット状のシアン化ビニル系重合体(II−B−4)を得た。このシアン化ビニル系重合体(II−B−4)における各単量体単位の組成比は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル単位が38.6質量%、スチレン単位が51.3質量%、アクリル酸ブチル単位が10.1質量%であった。このシアン化ビニル系重合体(II−B−4)の還元比粘度は0.42dL/gであった。
以降、実施例及び比較例ではポリオレフィン系ゴム(G)として三井・ダウ ポリケミカル株式会社製 エチレン/エチルアクリレート/一酸化炭素共重合体「エルバロイHP4051」(SP値(Small法):9.8、屈折率:1.4885)を使用した。
(実施例1)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、ポリオレフィン系ゴム(G)として「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、二軸押出機(コペリオン(株)製、ZSK25MCを用いて押出し機のトップフィーダーより材料を供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
その際の溶融混練条件は、温度250℃、回転数250rpm、吐出量8kg/時間で行った。得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。なお、表3中、熱可塑性樹脂(I−1)におけるグラフト共重合体(I−A)及びシアン化ビニル系重合体(I−B)を、それぞれ「I−A−n」、「I−B−n」(nは整数)と示しているが、これは、表1に示す熱可塑性樹脂(I−n)に対応するものである。すなわち、例えば、実施例1において用いられた表3に示すグラフト共重合体(I−A−1)及びシアン化ビニル系重合体(I−B−1)は、表1に示す熱可塑性樹脂(I−1)に含まれるグラフト共重合体及びシアン化ビニル系重合体を指す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、ポリオレフィン系ゴム(G)として「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、二軸押出機(コペリオン(株)製、ZSK25MCを用いて押出し機のトップフィーダーより材料を供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
その際の溶融混練条件は、温度250℃、回転数250rpm、吐出量8kg/時間で行った。得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。なお、表3中、熱可塑性樹脂(I−1)におけるグラフト共重合体(I−A)及びシアン化ビニル系重合体(I−B)を、それぞれ「I−A−n」、「I−B−n」(nは整数)と示しているが、これは、表1に示す熱可塑性樹脂(I−n)に対応するものである。すなわち、例えば、実施例1において用いられた表3に示すグラフト共重合体(I−A−1)及びシアン化ビニル系重合体(I−B−1)は、表1に示す熱可塑性樹脂(I−1)に含まれるグラフト共重合体及びシアン化ビニル系重合体を指す。
(実施例2)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
(実施例3)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)66.6質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)33.4質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)66.6質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)33.4質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
(実施例4)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−1)32.5質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)22.5質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−1)32.5質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)22.5質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
(実施例5)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−2)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−2)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表3に示す。
(比較例1)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」10質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」10質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
(比較例2)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)16.7質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)83.4質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)16.7質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)83.4質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
(比較例3)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−2)32.5質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)22.5質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−2)32.5質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)22.5質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
(比較例4)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−3)32.5質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)22.5質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−3)32.5質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)22.5質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
(比較例5)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−1)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
(比較例6)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−3)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−3)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
(比較例7)
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−4)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
十分に乾燥し、水分を除去した後の熱可塑性樹脂(I−4)45質量部、シアン化ビニル系重合体(II−B−4)55質量部、エチレンビスステアリルアマイド1質量部、「エルバロイHP4051」2.5質量部を混合した後、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物における各樹脂の含有割合を表4に示す。
(実施例1の熱可塑性樹脂組成物の評価)
実施例1の熱可塑性樹脂組成物について、グラフト共重合体(I−A−1)におけるVCN単位含有率の分布を、上述の方法に従って求めたところ、2つ以上のピークが存在し、ピーク1のピークトップが示すVCN単位含有率(C1)は0.2質量%、ピーク2のピークトップが示すVCN単位含有率(C2)は34.4質量%であった。また、この熱可塑性樹脂組成物中に分散するグラフト共重合体(A)の質量平均粒子径を、前述の方法に準拠して(染色剤:四酸化オスミウム)求めたところ、0.20μmであった。
実施例1の熱可塑性樹脂組成物について、グラフト共重合体(I−A−1)におけるVCN単位含有率の分布を、上述の方法に従って求めたところ、2つ以上のピークが存在し、ピーク1のピークトップが示すVCN単位含有率(C1)は0.2質量%、ピーク2のピークトップが示すVCN単位含有率(C2)は34.4質量%であった。また、この熱可塑性樹脂組成物中に分散するグラフト共重合体(A)の質量平均粒子径を、前述の方法に準拠して(染色剤:四酸化オスミウム)求めたところ、0.20μmであった。
実施例1の熱可塑性樹脂組成物について、グラフト共重合体(I−A−1)における単量体の組成比を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(日本分光株式会社製、品番:FT/IR−7000)を用いて分析した結果、アクリロニトリル単位は15.2質量%、スチレン単位は47.9質量%、ブタジエン単位は36.9質量%であり、ゴム質重合体以外の全単量体単位中のシアン化ビニル系単量体単位の含有割合(E)は24.1質量%であり、グラフト率は171%であった。
一方、シアン化ビニル系重合体(I−B−1)とシアン化ビニル系重合体(II−B−4)とからなるシアン化ビニル系重合体における全単量体単位中のアクリロニトリル単位(シアン化ビニル系単量体単位)の含有割合(D)は38.1質量%であり、還元比粘度(ηsp/c)は0.50dL/gであった。これらの結果、及び各評価の結果を表5に示す。
一方、シアン化ビニル系重合体(I−B−1)とシアン化ビニル系重合体(II−B−4)とからなるシアン化ビニル系重合体における全単量体単位中のアクリロニトリル単位(シアン化ビニル系単量体単位)の含有割合(D)は38.1質量%であり、還元比粘度(ηsp/c)は0.50dL/gであった。これらの結果、及び各評価の結果を表5に示す。
(実施例2〜5、比較例1〜7の熱可塑性樹脂組成物の評価)
実施例1と同様にして、各熱可塑性樹脂組成物について評価を行った。結果を表5及び6に示す。実施例1〜5の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性に優れ、また、透明性及び耐薬品性に優れる結果となった。
一方、比較例1及び比較例6の熱可塑性樹脂組成物は透明性に劣り、比較例2及び比較例7の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性に劣り、比較例3から比較例5の熱可塑性樹脂組成物は耐薬品性が低く、不十分であった。
実施例1と同様にして、各熱可塑性樹脂組成物について評価を行った。結果を表5及び6に示す。実施例1〜5の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性に優れ、また、透明性及び耐薬品性に優れる結果となった。
一方、比較例1及び比較例6の熱可塑性樹脂組成物は透明性に劣り、比較例2及び比較例7の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性に劣り、比較例3から比較例5の熱可塑性樹脂組成物は耐薬品性が低く、不十分であった。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることで、塗装を施さなくても、耐衝撃性、透明性(外観性)、及び耐薬品性に優れる成形品が得られる。したがって、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、化粧品容器、高級家電、ゲーム機、カメラ、携帯電話等の筐体、テレビ等の飾り枠、自動車の内装部材の材料として用いることができる。家電としては、例えば、テレビ、電話、プリンター、コンピューター、掃除機、スピーカー等、自動車の内装部材としては、例えば、センタークラスター、スイッチボード、ピラー等が挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これらの分野で産業上の利用可能性がある。
Claims (8)
- グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含有し、
前記熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル系単量体単位を有する重合体を含み、
前記グラフト共重合体(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して、前記グラフト共重合体(A)の含有割合が15〜60質量部であり、前記熱可塑性樹脂(B)の含有割合が85〜40質量部であり、
前記グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、その幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖と、を有し、
前記グラフト共重合体(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して、ポリオレフィン系ゴム(G)を0.6〜8質量部含有し、
前記グラフト鎖が、シアン化ビニル系単量体単位、又は、シアン化ビニル系単量体単位と該シアン化ビニル系単量体と共重合可能な1種以上の単量体単位と、を有し、
前記グラフト共重合体(A)の前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布が、2つ以上のピークを有し、
前記グラフト共重合体(A)の前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布の2つ以上のピークのうち、少なくとも1つの第1のピークのピークトップにおける含有率C1が10質量%未満の範囲にあり、別の少なくとも1つの第2のピークのピークトップにおける含有率C2が10質量%以上55質量%以下の範囲にあり、かつC2とC1との差(C2−C1)が15質量%以上であり、
前記熱可塑性樹脂(B)における全単量体単位(100質量%)中のシアン化ビニル系単量体(b)単位の含有割合(D)が33質量%以上である、熱可塑性樹脂組成物。 - 熱可塑性樹脂組成物中の前記グラフト共重合体(A)の質量平均粒子径が、0.10〜0.80μmである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記グラフト共重合体(A)におけるグラフト率が、80%以上240%以下である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記グラフト共重合体(A)において、前記第1のピーク由来の成分の重量平均分子量が0超30000以下であり、前記第2のピーク由来の成分の重量平均分子量が30000以上300000以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記ポリオレフィン系ゴム(G)が、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記ポリオレフィン系ゴム(G)が、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素、及びこれらと共重合可能な単量体からなる共重合体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する成形品。
- 前記成形品が筐体である、請求項7に記載の成形品。
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