JP2021157909A - 真空除電装置 - Google Patents
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Abstract
Description
蒸着が施される樹脂製のフィルムは、絶縁性のため、静電気帯電しやすい性質を持っている。また、蒸着プロセスの雰囲気は高真空なので、電気的に絶縁性である。
帯電すると、フィルム同士は付着しやすく、搬送不良を起こしたり、しわや傷の原因になったりする。
また、蒸着処理の前にフィルム表面が帯電していると、蒸着が不均一になってしまうこともある。
このように、高真空エリアで行なわれる、フィルムの真空製膜プロセスや静電気敏感デバイスの製造プロセスなどで、除電の用途がある。
しかし、コロナ放電によって生成されるイオンでフィルムの表面電荷を中和する一般的な除電装置をそのまま用いることはできない。
なぜなら、真空製膜プロセスや静電気敏感デバイスの製造が実行される高真空下では、コロナ放電によってイオンを生成することができないからである。
この従来の装置では、高真空を維持した空間内に電圧を印加するメッシュ電極と接地電極とを設け、メッシュ電極に5[kV]以上の高電圧を印加して電界を形成し、この電界内にパルス的にガスを供給し、瞬間的、局所的に真空度を下げて放電を発生させるようにしていた。この放電によってプラズマが生成され、このプラズマを介して帯電物体の表面電荷が接地側へ流れて除電されるというものである。
なお、上記ガスの供給はパルス的、すなわち瞬間的に行なわれるので、真空度はすぐに回復し、高真空度を保つことができる。
例えば0.1[Pa]以下の高真空状態では、電離可能なガス分子も、ガス分子に衝突してガス分子を電離させるための電子も少ないため、放電は発生しにくい。このような空間に、パルス的にガスを供給して瞬間的に真空度を下げたとしても、放電のきっかけとなる電子数はそれほど多くはならない。このように空間に存在する電子数が少ない状態で放電を発生させるためには、個々の電子の運動量を大きくして少ないガス分子への電離衝突確率を高める必要がある。なお、電離衝突とは、電子がガス分子に衝突してガス分子を電離させる衝突のことであり、電子の運動量がガス分子を電離させることができる程度に大きいときの衝突である
そして、上記電子の運動量を大きくするため、従来では、メッシュ電極に高電圧を印加して電子の周囲の電界強度を高くせざるを得なかった。
この発明の目的は、低電圧でも放電によってプラズマ生成ができ、実用化が容易な真空除電装置を提供することである。
なお、この発明における低電圧とは、電子技術協会の定義より、直流750[V]、交流600[V]以下のことである。
そして、上記熱電子がメッシュ電極で形成される電界で運動してガス分子に衝突し、ガス分子を電離させて放電のきっかけを作る。
フィラメントがメッシュ電極に近ければ近いほど、熱電子の移動速度が大きくなって、ガス分子への電離衝突確率が上がるのでガス分子を電離させる機能が高まると推測できる。ただし、放電を促すガス分子への電離衝突確率は、フィラメントに供給する電流IFや、メッシュ電極の印加電圧Vm、メッシュ電極とフィラメント間距離Lとの相対的な関係で決まる。
また、フィラメントの位置は、メッシュ電極を境にして接地電極と同じ側であっても、反対側であっても良い。
第3の発明は、上記ガス供給空間内に上記フィラメントを設けている。
フィラメントから熱電子が放射されることによって、ガス分子に衝突する電子の数を多くできるため、個々の電子の運動量をそれほど大きくしなくても、ガス分子を電離させて放電のきっかけを作ることができる。個々の電子の運動量をそれほど大きくしなくても良いので、メッシュ電極で形成される電界強度を高くする必要がなく、その分メッシュ電極に印加する電圧を低く抑えることができる。
メッシュ電極への高電圧印加が不要になれば、大きな電源が必要なく、省エネルギー化もできて実用性が高まる。
真空エリアに供給されても、プラズマ生成に寄与しないガスは単に真空度を下げるものになってしまうが、この発明ではより効率的なプラズマ生成ができ、真空度の低下も最小限に抑えることができる。
この実施形態の真空除電装置では、図1に示すように接地電位を保つ真空チャンバー1が図示しない真空ポンプによって高真空に保たれるようにしている。この実施形態における高真空とは、1×0.1[Pa]以下の圧力のことである。
そして、上記真空チャンバー1及び接地電極2は導体である金属で形成され、接地電極2及び真空チャンバー1は同じ接地電位を保っている。
また、上記接地電極2には、真空チャンバー1側の面に上記開口1aと一致する円形の凹部2aが形成されるとともに、その中央部にはガス供給孔2bが形成されている。このガス供給孔2bには後で説明するガス供給手段Gが接続されている。
上記メッシュ電極6には直流電源8が接続され、プラスの電圧が印加される。
また、上記のようにリング部材4を介して対向する接地電極2とメッシュ電極6とで囲まれた空間がこの発明のガス供給空間Sとなる。
メッシュ電極6に対して上記直流電源8と並列に接続されたコンデンサCは、蓄電機能を発揮して、放電発生時にメッシュ電極6に電流を安定して流す機能を発揮する。
また、コンデンサCと直流電源8との間に設けられた抵抗R1は可変直流電源11を保護するものであり、コンデンサCとメッシュ電極6との間に設けられた抵抗R2はメッシュ電極6に過大な電流が流れないようにするためのものである。
なお、上記近傍とは、フィラメント10から放射された熱電子がメッシュ電極6で形成される電界の影響を受ける範囲である。このような範囲を保っていれば、熱電子が十分に運動でき、ガス分子との電離衝突確率を高くできる。
フィラメント10がメッシュ電極6に近ければ近いほど、熱電子の移動速度が大きくなって、ガス分子への電離衝突確率が上がるのでガス分子を電離させる機能が高まると推測できる。ただし、放電を促すガス分子への電離衝突確率は、フィラメント10に供給するフィラメント電流IFや、メッシュ電極6の印加電圧Vm、メッシュ電極6とフィラメント10との間の距離Lとの相対的な関係で決まる。
そして、このバルブ制御部14が、バルブ12の開閉時間を制御することによって、ガス供給空間Sに必要量のガスをパルス的に供給することができるようにしている。
なお、上記バルブ12、ガス源13及びバルブ制御部14が相まってこの発明のガス供給手段Gを構成している。
まず、図示していない真空ポンプを作動させて真空チャンバー1内を約1×10−4[Pa]に維持しながら、上記フィラメント10に通電してフィラメント10から熱電子を放射させる。
なお、フィラメント10から放射される熱電子量はフィラメント10を流れるフィラメント電流IFに依存する。そこで、熱電子の放射に必要なフィラメント電流IFを確認するため、図2に示す可変直流電源11によってフィラメント電流IFを変化させ、メッシュ電極6に流れる電流を熱電子電流IEとして測定した。
図3からは、フィラメント10へ供給するフィラメント電流IFが1.4[A]以上になると熱電子電流値IEが急増し、フィラメント電流IFが1.7[A]を超えるとその増加量が小さくなることが分かった。
上記熱電子電流IEはフィラメント10から放射された熱電子がメッシュ電極6を流れた量を示すものである。したがって、この実施形態においてフィラメント10から熱電子を放射させるためには、フィラメント10に1.4[A]以上のフィラメント電流IFを供給しなければならないことがわかった。
メッシュ電極6にプラス電圧が印加されると、上記フィラメント10から放射された熱電子は、メッシュ電極6のプラス電位によって形成された電界から力を受けて運動する。具体的には、熱電子がプラスのメッシュ電極6に引き付けられるように移動するが、熱電子がすぐにメッシュ電極6に吸収されるのではなく、上記熱電子はメッシュ電極6を一旦通過して反対側へ移動する。
なお、供給されたガス中の電子も、上記熱電子と同様の往復運動をしながらガス分子を電離させて放電に寄与する。
そのため、熱電子の生成がない従来装置のように、ガス供給空間Sの電界強度を高くしなくても、電子の電離衝突確率を高くしてガス分子を電離させることが可能になる。そのため、メッシュ電極6への印加電圧が低くても、パルス的に供給されたガスを電離させて除電に必要なプラズマを生成することができる。
実験条件は以下の通りである。
真空チャンバー1内を1×10−4[Pa]に維持し、メッシュ電極6への印加電圧は500[V]に固定した。
そして、フィラメント電流IFを、1.4,1.5,1.6,1.7,1.8[A]とし、各フィラメント電流IFに対して、上記バルブ12の開時間のパルス幅を100[ms]から減少させて、放電が起こる最小のパルス幅を求めた。
また、この実験で用いるガスは空気であり、ガス源13の圧力は大気圧である。
図4に示すように、フィラメント電流IFが1.4[A]では、ガス供給時間が100[ms]でも放電は発生しなかった。このことから、フィラメント電流IFが1.4[A]では、フィラメント10から放射される熱電子の量が少なすぎて放電を発生させることができないことが分かった。
また、フィラメント電流IFが1.5[A]では、ガス供給のパルス幅が50[ms]でメッシュ電極6の電圧低下が徐々に起こった。このことから、フィラメント電流IFが1.5[mA]では、放電は起こるが、一気に全ての電荷が放出されたのではなく、弱い放電しか起こらないことがわかった。そして、このような弱い放電では、エネルギー不足で除電に必要なプラズマ生成はできないと推測される。
そして、上記フィラメント電流IF=1.6[A]に対応する熱電子電流IE=12[mA]が、低電圧(+500[V])でも確実に放電を発生させることができる、最低の熱電子量に相当する(図3参照)。
そのため、この実施形態では、メッシュ電極6用として高電圧の大型電源の必要がなく、その分、除電装置の実用性が高まる。
このことも、上記実施形態で、メッシュ電極6が低電圧でも放電が発生するのは、フィラメント10から放射される熱電子がガス分子の電離に効率的に寄与しているからという推測の裏付けとなる。
そして、フィラメント10にフィラメント電流IFを供給するか否かによって、メッシュ電極6の印加電圧を10[kV]以上から500[V]まで下げることができるメリットは大きい。
また、この実施形態では、フィラメント10をガス供給空間S内に設けているので、供給されたガス分子を熱電子により衝突し易くすることができる。
ただし、上記フィラメント10は、メッシュ電極6の近傍に設けられれば、放射された熱電子を十分に運動させてガス分子への電離衝突確率を高めることができるので、ガス供給空間Sの外に設けてもよい。
2 接地電極
6 メッシュ電極
8 (プラス)電源
10 フィラメント
11 (フィラメントの)可変直流電源
12 バルブ
13 ガス源
14 バルブ制御部
G ガス供給手段
Claims (4)
- 真空エリア内に、
プラス電圧が印加されるメッシュ電極と、
このメッシュ電極との間で電界を形成する接地電極と、
上記真空エリア内にパルス的にガスを供給するガス供給手段と
を備え、
上記ガス供給手段からガスが供給されたとき、上記電界内にプラズマが生成され、このプラズマを介して、上記真空エリア内の帯電物体の表面電荷を接地側へ流す構成にした真空除電装置であって、
上記メッシュ電極の近傍に、熱電子を放射するフィラメントを設けた真空除電装置。 - 上記メッシュ電極と上記接地電極とで囲まれたガス供給空間を備え、
このガス供給空間内に上記ガスを供給する構成にした請求項1に記載の真空除電装置。 - 上記ガス供給空間内に、
上記フィラメントを設けた請求項2に記載の真空除電装置。 - 上記メッシュ電極と上記接地電極との間に形成された電界内に、上記フィラメントから熱電子を放射させた後に、
上記ガス供給手段が、上記電界内にパルス的にガスを供給する構成にした
請求項1〜3のいずれか1に記載の真空除電装置。
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