JP2021150282A - リチウムの回収方法及びリチウムイオン二次電池の処理方法 - Google Patents

リチウムの回収方法及びリチウムイオン二次電池の処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】リチウムイオン二次電池の放電が不要となり、熱処理工程でのエネルギーコストを下げることができるリチウムの回収方法等の提供。【解決手段】リチウムイオン二次電池からリチウムを回収するリチウムの回収方法であって、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程と、前記熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物から、リチウムを回収するリチウム回収工程と、を含むリチウムの回収方法等である。【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池からのリチウムの回収方法及びリチウムイオン二次電池の処理方法に関する。
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、高起電力の二次電池であり、パソコン、電気自動車、携帯機器などの二次電池として使用されている。例えば、リチウムイオン二次電池の正極には、コバルトやニッケルなどの有価物が、コバルト酸リチウム(LiCoO)、三元系正極材(LiNiCoMn(x+y+z=1))などとして使用されている。
リチウムイオン二次電池は、今後も使用の拡大が予想されていることから、製造過程で発生した不良品や使用機器および電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池からリチウムなどの有価物を回収することが、資源リサイクルの観点から望まれている。リチウムイオン二次電池からリチウムなどの有価物を回収する際には、リチウムイオン二次電池に使用されている種々の金属や不純物を分離して回収することが、回収物の価値を高める点から重要である。
リチウムイオン二次電池から有価物を回収する技術としては、例えば、使用済みのリチウムイオン二次電池に放電工程を行い、放電後のリチウムイオン二次電池に対して、熱分解工程、破砕工程、篩分工程、風力選別工程、及び磁力選別工程を行うことにより、銅箔、アルミニウム箔、活物質成分、金属材などの有価物を回収する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上述したような従来技術では、安全面などの問題から、放電した状態のリチウムイオン二次電池を、熱処理や有価物を選別する処理の対象とすることを当然の前提としている。このように、従来技術では、電圧が残っている(残存している)状態のリチウムイオン二次電池を処理することについては、そもそも検討の対象となるものではなく、全く検討されてこなかった。
また、リチウムイオン二次電池からリチウムを回収する技術に種々の検討が行われているが、従来技術においては、リチウムの回収率を向上させることに限界があり、リチウムの回収率をより高くできる手法を見出すことは困難を極めていた。
さらに、上述したように、リチウムイオン二次電池については使用の拡大が予測されることから、廃棄物としての発生量も増大すると考えられる。
従来技術においては、多量のリチウムイオン二次電池からリチウム等の有価物を回収するにあたり、電池を放電させる工程が必要であることや、熱処理工程でのエネルギー消費が大きいという問題があった。また、回収されるリチウムの純度を向上する手法が求められていた。
したがって、廃棄されるリチウムイオン二次電池の放電が不要となり、熱処理工程でのエネルギーコストを下げることが求められており、この手法を実現するためには、電圧が残った状態のリチウムイオン二次電池を安全かつ簡便に処理できる手法が必要となる。
特許第6198027号公報
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち、本発明は、リチウムイオン二次電池の放電が不要となり、熱処理工程でのエネルギーコストを下げることができる、リチウムの回収方法及びリチウムイオン二次電池の処理方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するための手段としては、以下の通りである。すなわち、
<1> リチウムイオン二次電池からリチウムを回収するリチウムの回収方法であって、
定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程と、
前記熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る破砕工程と、
前記破砕物から、リチウムを回収するリチウム回収工程と、
を含むことを特徴とするリチウムの回収方法。
<2> 前記熱処理工程が、前記リチウムイオン二次電池を350℃以上550℃以下に加熱する処理を含む、<1>に記載のリチウムの回収方法。
<3> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じているときの熱の供給量を、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じる前の熱の供給量の50%以下に変更する、<2>に記載のリチウムの回収方法。
<4> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池自体の発火が終了した後に、前記リチウムイオン二次電池を750℃以上1,085℃未満で更に熱処理する、<2>から<3>のいずれか記載のリチウムの回収方法。
<5> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行う、<1>から<4>のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
<6> 前記収容容器が、気体を流通可能な開口部を有する、<5>に記載のリチウムの回収方法。
<7> 前記収容容器が、前記リチウムイオン二次電池を収容するための開閉可能な蓋部を有する、<5>から<6>のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
<8> 前記収容容器の融点が、前記リチウムイオン二次電池を熱処理する際の温度より高い、<5から<7>のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
<9> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎が、前記収容容器に当たらないようにして熱処理を行う、<5>から<8>のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
<10> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための前記火炎の放射方向を、前記収容容器に向けずに熱処理を行う、<9>に記載のリチウムの回収方法。
<11> 前記破砕工程の後に、前記破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程を含み、
前記リチウム回収工程において、前記細粒産物からリチウムを回収する、<1>から<10>のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
<12> 前記リチウム回収工程において、前記破砕物を水に浸けることにより、リチウムを含む浸出液を得る、<1>から<11>のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
<13> 前記リチウム回収工程において、前記浸出液をろ過することにより、前記浸出液を、リチウムを含む溶液と残渣とに固液分離する、<12>に記載のリチウムの回収方法。
<14> 前記リチウム回収工程において、前記浸出液に対して湿式磁力選別を行うことにより、前記浸出液を、リチウム及び非磁着物を含むスラリーと、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを含む磁着物とに選別する、<12>に記載のリチウムの回収方法。
<15> 前記リチウム回収工程において、前記スラリーをろ過することにより、前記スラリーを、リチウムを含む溶液と非磁着物を含む残渣とに固液分離する、<14>に記載のリチウムの回収方法。
<16> 前記リチウム回収工程において、前記溶液に水酸化カルシウムを添加して、前記溶液に含まれるフッ素をフッ化カルシウムとして固化させた後、前記溶液をろ過して固液分離することにより、前記溶液からフッ素を除去する、<15>に記載のリチウムの回収方法。
<17> 前記リチウム回収工程において、フッ素を除去した前記溶液に二酸化炭素を添加して、前記溶液に含まれるカルシウムを炭酸カルシウムとして固化させた後、前記溶液をろ過して固液分離することにより、前記溶液からカルシウムを除去する、<16>に記載のリチウムの回収方法。
<18> 前記リチウム回収工程において、カルシウムを除去した前記溶液を加熱することにより炭酸リチウムを回収する、<17>に記載のリチウムの回収方法。
<19> 定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の処理方法。
<20> 前記熱処理工程が、前記リチウムイオン二次電池を350℃以上550℃以下に加熱する処理を含む、<19>に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<21> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じているときの熱の供給量を、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じる前の熱の供給量の50%以下に変更する、<20>に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<22> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池の発火が終了した後に、前記リチウムイオン二次電池を750℃以上1,085℃未満で更に熱処理する、<20>から<21>のいずれか記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<23> 前記リチウムイオン二次電池がアルミニウムを含む外装ケースを有し、
前記熱処理工程において、前記外装ケースを溶融させることによりアルミニウムを回収する、<22>に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<24> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行う、<19>から<23>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<25> 前記収容容器が、気体を流通可能な開口部を有する、<24>に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<26> 前記収容容器が、前記リチウムイオン二次電池を収容するための開閉可能な蓋部を有する、<24>から<25>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<27> 前記収容容器の融点が、前記リチウムイオン二次電池を熱処理する際の温度より高い、<24>から<26>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<28> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎が、前記収容容器に当たらないようにして熱処理を行う、<24>から<27>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<29> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための前記火炎の放射方向を、前記収容容器に向けずに熱処理を行う、<28>に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<30> 前記熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る破砕工程と、
前記破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程と、
を更に含む、<19>から<28>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<31> 前記分級工程において、前記粗粒産物に銅を回収する、<30>に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<32> 前記細粒産物を水に浸けることにより、リチウムを含む浸出液を得る浸出工程を更に含む、<30>から<31>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<33> 前記浸出液に対して湿式磁力選別を行うことにより、前記浸出液を、リチウム及び非磁着物を含むスラリーと、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを含む磁着物とに選別する湿式磁力選別を更に含む、<32>に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
<34> 前記リチウムイオン二次電池における、正極活物質中のニッケルの割合が75%以上である、<19>から<33>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、リチウムイオン二次電池の放電が不要となり、熱処理工程でのエネルギーコストを下げることができる、リチウムの回収方法及びリチウムイオン二次電池の処理方法を提供することができる。
さらに、本発明によると、リチウムイオン二次電池からリチウムを高い回収率で回収可能なリチウムの回収方法を提供することができる。加えて、本発明によると、例えば、安全かつ簡便に低コストで、リチウムイオン二次電池を処理して無害化(例えば、放電及び電解液の除去)することができるリチウムイオン二次電池の処理方法を提供することができる。
図1は、本発明のリチウムの回収方法の一実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
(リチウムの回収方法及びリチウムイオン二次電池の処理方法)
本発明のリチウムの回収方法は、熱処理工程と、破砕工程と、リチウム回収工程とを含み、分級工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
また、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法は、熱処理工程を含み、破砕工程、分級工程、浸出工程、湿式磁力選別工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
ここで、本発明では、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理する。
本発明者らが、リチウムイオン二次電池から、リチウムなどの有価物を回収する技術について、鋭意検討を重ねる中で、リチウムイオン二次電池における電圧の残存量によらずリチウムイオン二次電池からリチウムの回収を行うことができることを見出した。
本発明者らが検討を進めたところ、リチウムイオン二次電池における電圧の残存量が所定量以上である場合に、熱処理時のエネルギー効率を向上できることを知見した。本発明のリチウムの回収方法は、この知見に基づくものである。
また、電圧が残っているリチウムイオン二次電池の熱処理に関しては、例えば、『リチウムイオン電池の安全性評価試験における発生事象について(交通安全環境研究所フォーラム講演概要,135−138,2012)(https://www.ntsel.go.jp/forum/2012files/pt_21.pdf)』において、「リチウムイオン電池が外部加熱されると、電池内部で正極材料、電解液、負極材料が単独及び相互に発熱反応を起こす」と記載されている。このように、電圧が残っているリチウムイオン二次電池が加熱されると、リチウムイオン二次電池内で発熱反応が生じ、蓄えられていた電気エネルギーが熱エネルギーに変換され、リチウムイオン二次電池自体が発熱する。
本発明のリチウムの回収方法では、電圧を所定以上残した状態のリチウムイオン二次電池に対して熱処理を行うため、熱処理の際に、リチウムイオン二次電池内で発熱反応が生じ、蓄えられていた電気エネルギーが熱エネルギーに変換され、リチウムイオン二次電池自体が発熱する場合がある。
このため、本発明のリチウムの回収方法では、一つの側面では、従来技術と比べて、少ないエネルギー(熱エネルギー)で熱処理を行うこと、即ち、加熱の温度をより低くすることや加熱する時間をより短くすることができる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法においては、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理する。より具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、例えば、リチウムイオン二次電池を所定の温度(例えば、350℃以上550℃以下)で熱処理する。本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、こうすることにより、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(自燃)を生じさせて発火させる。
上述したように、電圧が残っているリチウムイオン二次電池が加熱されると、リチウムイオン二次電池自体が発熱するため、この発熱を利用してリチウムイオン二次電池自体を燃焼させることができる。このため、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、従来技術よりも省エネルギーで、リチウムイオン二次電池におけるバインダ樹脂や電解液、正極活物質を熱分解させることができ、リチウムイオン二次電池から有価物である銅、アルミニウム、コバルト、ニッケルなどの有価物を回収しやすくすることができる。また、正極活物質の分解によりリチウムが水に溶解しやすくなる。
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、例えば、リチウムイオン二次電池を所定の温度で熱処理することにより、リチウムイオン二次電池の自燃を生じさせて発火させることで、リチウムイオン二次電池の熱暴走を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池の電圧由来のエネルギーを利用して、リチウムイオン二次電池の処理を行うことができる。このようにしてリチウムイオン二次電池を処理することにより、有毒なガスなどの発生を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池を安定的に失活(放電及び電解液の除去等)させることができると共に、処理に必要となるエネルギーを抑制することができる。
以下では、まず、本発明のリチウムの回収方法について説明する。
本発明のリチウムの回収方法は、リチウムイオン二次電池からリチウムを回収するための方法である。
また、本発明においては、リチウム以外の物質を更に回収してもよく、例えば、リチウムイオン二次電池に含まれるリチウム以外の有価物を更に回収してもよい。
ここで、有価物とは、廃棄せずに取引対象たりうるものを意味し、例えば、各種金属などが挙げられる。リチウムイオン二次電池における有価物としては、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。
−リチウムイオン二次電池−
本発明において、リチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
リチウムイオン二次電池の形状、構造、大きさ、材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
また、リチウムイオン二次電池の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バッテリーセル、バッテリーモジュール、バッテリーパックなどが挙げられる。ここで、バッテリーモジュールは、単位電池であるバッテリーセルを複数個接続して一つの筐体にまとめたものを意味し、バッテリーパックとは、複数のバッテリーモジュールを一つの筐体にまとめたものを意味する。また、バッテリーパックは、制御コントローラーや冷却装置を備えたものであってもよい。
リチウムイオン二次電池としては、例えば、正極と、負極と、セパレータと、電解質および有機溶剤を含有する電解液と、正極、負極、セパレータ、及び電解液を収容する電池ケースである外装容器と、を備えたものなどが挙げられる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極や負極などが脱落した状態であってもよい。
−−正極−−
正極としては、正極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体を有することが好ましい。
正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
−−−正極集電体−−−
正極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
正極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。
正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムを含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。
正極活物質としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNiCoMn(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNiCoAl(x+y+z=1)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、チタン酸リチウム(LiTiO)などが挙げられる。この中で、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNiCoMn(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNiCoAl(x+y+z=1)が、熱処理でリチウムを水に可溶な形態に変化させやすい事から好適である。
導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体または共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。
−−負極−−
負極としては、負極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、負極集電体を有することが好ましい。
負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
−−−負極集電体−−−
負極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
負極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。
負極活物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、シリコン、チタネイトなどが挙げられる。
以下では、本発明のリチウムの回収方法における各工程について、詳細に説明する。
<熱処理工程>
熱処理工程は、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る工程である。
また、熱処理物(焙焼物)は、リチウムイオン二次電池を熱処理して得られたものを意味する。
このように、一定量以上の電圧が残存するリチウムイオン二次電池を熱処理することで、電池内の電気エネルギーが熱エネルギーに変換されて、リチウムイオン二次電池自体が発熱し、正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)Oや電解質中のLiPFにおけるリチウムが、フッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(LiCO)や酸化リチウム(LiO)などリチウムが水溶液に可溶な形態の物質を形成するようになる。
ここで、リチウムイオン二次電池における定格の電圧とは、リチウムイオン二次電池を通常の状態で使用したときの電圧(起電力)を意味し、当該リチウムイオン二次電池が製品として使用されるときの電圧とすることができる。つまり、リチウムイオン二次電池における定格の電圧は、例えば、劣化していないリチウムイオン二次電池を十分に充電した状態で使用したときの端子間の電圧とすることができ、より具体的には、リチウムイオン二次電池における公称電圧とすることができる。
また、本発明においては、複数のリチウムイオン二次電池を一括して熱処理する場合に、全てのリチウムイオン二次電池が定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存した状態であってもよいし、一部のリチウムイオン二次電池が定格の電圧に対し80%以上の電圧であってもよい。つまり、本発明において、複数のリチウムイオン二次電池を一括して熱処理する場合には、処理を行うリチウムイオン二次電池の中に、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存した状態のものが含まれていればよい。
ここで、複数のリチウムイオン二次電池を一括して熱処理する場合における、熱処理するリチウムイオン二次電池の総数に対する、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存した状態のリチウムイオン二次電池の個数の割合としては、30個数%以上が好ましく、60個数%以上がより好ましい。
また、複数のリチウムイオン二次電池セルによって構成されるリチウムイオン二次電池パック又はリチウムイオン二次電池モジュールを熱処理する場合、パック又はモジュール全体の電圧がパック又はモジュールの定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存した状態であってもよいし、パック又はモジュールを構成する全てのリチウムイオン二次電池セルが定格の電圧の80%以上の電圧を残存した状態であってもよいし、パック又はモジュールを構成する一部のリチウムイオン二次電池セルが定格の電圧に対し80%以上の電圧であってもよい。
つまり、本発明において、リチウムイオン二次電池パック又はモジュールを熱処理する場合には、パック又はモジュールを構成するリチウムイオン二次電池セルの中に、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存した状態のものが含まれていればよい。
ここで、リチウムイオン二次電池パック又はモジュールを熱処理する場合における、パック又はモジュールに含まれるリチウムイオン二次電池セルの総数に対する、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存した状態のリチウムイオン二次電池セルの個数の割合としては、30個数%以上が好ましく、60個数%以上がより好ましい。
また、リチウムイオン二次電池における電圧(起電力)は、例えば、公知のテスターを用いて測定することができる。
ここで、リチウムイオン二次電池における定格の電圧は、例えば、リチウムイオン二次電池外装に記載された電圧情報を確認すること、リチウムイオン二次電池を製品として初めて使用する際の満充電時の電圧をテスターなどで測定すること、リチウムイオン二次電池の製造メーカに定格の電圧を問い合わせることなどにより、確認することができる。
熱処理工程における熱処理を行う手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の焙焼炉によりリチウムイオン二次電池を加熱することにより熱処理を行うことができる。
焙焼炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル等のバッチ式炉、キュポラ、ストーカー炉、プッシャー式連続炉などが挙げられる。これらの中でも、バッチ式炉及びプッシャー式連続炉が好ましい。また、バッチ式炉とプッシャー式連続炉とを組み合わせて用いることも好ましい。
<<熱処理の条件>>
リチウムイオン二次電池を熱処理(加熱)する条件(熱処理条件)としては、リチウムイオン二次電池の各構成部品を、後述する破砕工程において分離して破砕可能な状態とすることができる条件であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
熱処理に用いる雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。
大気雰囲気とは、空気を用いた雰囲気を意味する。
不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を例示できる。
還元性雰囲気とは、例えば、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H、HS、SOなどを含む雰囲気を意味する。
低酸素雰囲気とは、酸素分圧が11%以下である雰囲気を意味する。
本発明においては、これらの中でも、リチウムイオン二次電池における正極集電体由来の有価物(例えば、アルミニウム)及び負極集電体由来の有価物(例えば、銅)の回収率及び品位をより向上できる点で、低酸素雰囲気を用いることが好ましい。
また、本発明では、上述したように熱処理工程が、リチウムイオン二次電池を350℃以上550℃以下に加熱する処理を含むことが好ましい。こうすることにより、リチウムイオン二次電池の熱暴走を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池の電圧由来のエネルギーを利用してリチウムイオン二次電池の発火(自燃)を開始させることができる。この自燃は、リチウムイオン二次電池におけるセパレータの溶断に伴う、正極と負極のショート(電圧の熱エネルギー化)により継続し、この自燃(電圧の熱エネルギー化及び電解液の燃焼)の継続によりリチウムイオン二次電池の熱処理にかかるエネルギーを低減できる。
また、この自燃は、リチウムイオン二次電池内部の正極材の分解・酸素の放出に伴い促進され、リチウムイオン二次電池の外部の熱を用いてリチウムイオン二次電池を加熱する場合よりも、効率的にリチウムイオン二次電池におけるリチウムの可溶化、銅とカーボンの間のバインダの分解、コバルト及びニッケルのメタル化(磁着性の向上)を行うことができる。
熱処理温度の調整には、加熱のコントロールの他に、空気の吹込みによる降温処理が利用できる。
ここで、「リチウムイオン二次電池を350℃以上550℃以下に加熱する処理」における加熱温度は、リチウムイオン二次電池の表面温度のことを意味する。なお、リチウムイオン二次電池を収容容器に入れて加熱処理する場合には、炉内温度に比べてリチウムイオン二次電池の表面温度が低くなることがある。
リチウムイオン二次電池の表面温度の測定は、例えば、リチウムイオン二次電池の上下の表面に熱電対を設け、双方の測定温度の平均値をとることで確認できる。また、炉内温度は、例えば、炉内上部に設けられた排ガス出口の壁面に設置された熱電対により測定できる。
ここで、リチウムイオン二次電池の発火(例えば、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(自燃))が生じているときの、リチウムイオン二次電池自体の温度は、700℃以上900℃以下が好ましく、700℃以上850℃以下がより好ましい。自燃が生じているときのリチウムイオン二次電池自体の温度を700℃以上とすることにより、正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)Oや電解質中のLiPFにおけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(LiCO)や酸化リチウム(LiO)などリチウムが水溶液に可溶な形態の物質にすることができ、リチウムを浸出時にフッ素以外の不純物と分離することができる。
また、自燃が生じているときのリチウムイオン二次電池自体の温度を700℃以上とすることにより、正極活物質として含まれるコバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムなどを熱分解し、コバルトやニッケルの金属粒子を形成させ、磁選で磁着物に選択的に回収しやすくすることができる。また、負極集電体の銅とカーボンのバインダを熱分解し、銅からカーボンを分離しやすくできる。加えて、自燃が生じているときのリチウムイオン二次電池自体の温度を700℃以上とすることにより、正極集電体のアルミニウムを脆化させることができるため、破砕・分級により細粒産物側に除去可能となり、粗粒産物側に回収される銅と、アルミニウムを分離できるようになる。なお、自燃が生じているときのリチウムイオン二次電池自体の温度が950℃を超えないようにすることにより、熱暴走を抑制することができ、炉内の酸素濃度の急減やその結果としての排ガス中のCO濃度の増加(不完全燃焼)を抑制することができる。
なお、リチウムイオン二次電池自体の温度は、熱処理温度中のリチウムイオン二次電池に、カップル、サーミスタなどの温度計を差し込むことにより、測定することができる。
熱処理時間(熱処理を行う時間)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、リチウムイオン二次電池自体の発火(自燃)を生じさせることができる時間とすることができ、1分間以上5時間以下が好ましく、1分間以上2時間以下がより好ましく、1分間以上1時間以下が特に好ましい。熱処理時間は、例えば、リチウムイオン二次電池が上記の熱処理温度に到達するまでの時間であってもよく、保持時間は短くてもよい。熱処理時間が、1分間以上5時間以下であることにより、熱処理にかかるコストを抑制できるとともに、熱処理の効率を向上させることができる点で有利である。
また、熱処理工程において、例えば、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(自燃)が確認された後に、リチウムイオン二次電池の加熱を弱めることが好ましい。こうすることにより、熱処理に必要となるエネルギーを、特に少なくすることができることに加え、リチウムイオン電池の熱暴走を防ぐことができる。
より具体的には、例えば、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(発火)が生じているときの熱の供給量を、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼が生じる前の熱の供給量の50%以下に変更することが好ましい。また、熱処理工程における熱の供給量は、例えば、供給する燃料の量を変更することや、電力量を調節することにより制御することができる。
本発明においては、リチウムイオン二次電池における発火(自燃)が継続し、リチウムイオン二次電池におけるバインダ樹脂や電解液を十分に熱分解できる。加えて、この場合には、熱処理におけるリチウムイオン二次電池の加熱を終了した後においても、リチウムイオン二次電池における燃焼が継続することにより、例えば、正極集電体由来の有価物の一例であるアルミニウムを十分に酸化(脆化)させることができ、負極集電体由来の有価物の一例である銅と選別しやすくすることができ、銅及びアルミニウムの回収率及び品位をより向上させることができる。また、この発熱自体で正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)Oや電解質中のLiPFにおけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(LiCO)や酸化リチウム(LiO)などリチウムが水溶液に可溶な形態の物質にすることができる。
また、本発明では、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(発火)が終了した後に、再び熱の供給量を上げることで、リチウムイオン二次電池を750℃以上1,085℃未満で更に熱処理することが好ましい。この追加の熱処理により、リチウムイオン二次電池の自燃のみでは熔融しなかったアルミニウムを熔融させて分離回収することができる。
具体的には、この熱処理温度で更に熱処理を行うことで、例えば、リチウムイオン二次電池セルの外装容器や、モジュール又はパックの構成部材にアルミニウムが用いられているとき、これらのアルミニウムを溶融させて回収することができる。すなわち、熱処理工程においてリチウムイオン二次電池を750℃以上で熱処理することにより、リチウムイオン二次電池の筐体に含まれるアルミニウムと、リチウムイオン二次電池における他の部分(例えば、電極など)とを、容易に選別(分離)して、筐体由来のアルミニウムを簡便に回収することができる。
また、正極集電体がアルミニウム(融点:660℃)であり、負極集電体が銅(融点:1,085℃)である場合には、例えば、熱処理温度を750℃以上1,085℃未満とすることにより、アルミニウム箔で形成される正極集電体が溶融して脆性化し、後述する破砕工程において細粒化しやすくなる。一方、銅箔で形成される負極集電体は、銅の融点未満の温度で熱処理されるため、溶融することがない。このため、熱処理工程により得た熱処理物を破砕工程で破砕して得た破砕物における銅は、破砕後も箔に近い形状として存在するため、分級工程において粗粒産物として容易に回収できる。
<<収容容器>>
本発明では、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行うことが好ましい。
ここで、リチウムイオン二次電池を熱処理する際、リチウムイオン二次電池に電圧が多く残存している場合に、熱処理の条件等によっては、リチウムイオン二次電池が「熱暴走」と称される現象を起こす場合がある。
「熱暴走」とは、「何らかの原因により電池内部の特定部が発熱し、その発熱が電池内部の反応を引き起こして更なる発熱を招き、電池全体が温度上昇して発熱・発火・発煙などを引き起こす」現象である(例えば、『リチウムイオン電池の安全性評価試験における発生事象について(交通安全環境研究所フォーラム講演概要,135−138,2012)(https://www.ntsel.go.jp/forum/2012files/pt_21.pdf)』参照)。また、上記の文献には、リチウムイオン二次電池が熱暴走に至る原因として、外部から加熱されることが例示されている。
さらに、上記の文献においては、「連鎖的にセルが熱暴走した場合、発生したガスの噴出のタイミングが一致し、多量のガスによる電池パック内部の圧力上昇により、電池パックが破裂することも懸念される」と記載されている。
加えて、『リチウムイオン電池の安全性試験と発生ガス分析(東レリサーチセンター)(https://www.toray−research.co.jp/technical−info/trcnews/pdf/201801−02.pdf)』においても、充電された状態のリチウムイオン二次電池に対して高温加熱試験を行った結果として、「昇温に伴いセルが膨れ始め、白煙が発生した」と記載されている。
これらの文献にも記載されているように、リチウムイオン二次電池が熱暴走した場合には、熱暴走で生じたガスによりリチウムイオン二次電池内の圧力が上昇して、リチウムイオン二次電池が破裂することがある。
熱処理の際にリチウムイオン二次電池が熱暴走して破裂すると、熱処理に用いる焼却炉の炉体が損傷してしまう場合がある。
このため、本発明の好ましい形態においては、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行う。こうすることにより、リチウムイオン二次電池に対する温度上昇の程度(リチウムイオン二次電池の周囲の雰囲気や加熱温度など)をより緩やか制御可能となり、リチウムイオン二次電池の破裂を抑制することができる。さらに、リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行うことにより、リチウムイオン二次電池が熱処理の際に破裂した場合においても、熱処理に用いる焼却炉の炉体の損傷を抑制することができる。
収容容器としては、リチウムイオン二次電池を収容可能な容器であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、収容容器としては、リチウムイオン二次電池のパック又はモジュールにおける外装容器をそのまま用いてもよい。
また、収容容器の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。収容容器の形状としては、熱処理を行うリチウムイオン二次電池の周囲を取り囲むような形状であることが好ましい。
収容容器の大きさとしては、熱処理を行うリチウムイオン二次電池を収容することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、複数のリチウムイオン二次電池を一括して熱処理する場合は、処理する全てのリチウムイオン二次電池を収容可能な大きさであることが好ましい。
ここで、収容容器は、気体を流通可能な開口部を有することが好ましい。この場合、収容容器は、開口部以外の部分では気体が流通しないように、リチウムイオン二次電池を収容することが好ましい。収容容器が開口部を有することにより、収容容器の内部の圧力や雰囲気を制御できる。
開口部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、収容容器における開口部の位置としては、熱処理時に気体を流通可能な位置であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、開口部は、収容容器に複数設けられていてもよい。
また、開口部として、リチウムイオン二次電池のパック又はモジュールの外装容器に設けられた孔を用いてもよい。リチウムイオン二次電池のパックには、通常、充放電を行うケーブルやプラグを、パック又はモジュール内部の通電部に接続するための孔が設けられており、これを開口部として活用することが可能である。
開口部の大きさ(面積)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、収容容器の表面積に対して、12.5%以下であることが好ましく、6.3%以下であることがより好ましい。開口部の大きさが、収容容器の表面積に対して12.5%以下であることにより、熱処理時において集電体に含まれる有価物の酸化を抑制することができる。以下では、収容容器の表面積に対する開口部の面積を「開口率」と称することがある。なお、開口率は、収容容器に開口部が複数設けられる場合、収容容器の表面積に対する、それぞれの開口部の面積の合計とすることができる。
収容容器における開口率が、上記の好ましい範囲内であると、例えば、収容容器の外部の雰囲気が大気雰囲気である場合などに、熱処理を行う際の収容容器の内部の雰囲気を低酸素雰囲気とすることができる。このため、熱処理時のリチウムイオン二次電池の過剰な燃焼を抑制できるため、リチウムイオン二次電池の熱暴走及び熱暴走による破裂を抑制することができ、焼却炉の炉体の損傷を抑制することができる。
ここで、収容容器としては、リチウムイオン二次電池を収容するための開閉可能な蓋部を有するものが好ましい。こうすることにより、収容容器にリチウムイオン二次電池を容易に収容でき、更に、熱処理工程の後に、熱処理されたリチウムイオン二次電池(熱処理物)を容易に取り出すことができる。
蓋部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、蓋部としては、例えば、ヒンジなどにより開閉可能に固定された形態であってもよし、蓋部を取り外しすることにより開閉する形態であってもよい。
また、収容容器の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱処理温度(熱処理における最高温度)より高い融点の材質であることが好ましい。つまり本発明においては、収容容器の融点が、リチウムイオン二次電池を熱処理する際の温度より高いことが好ましい。こうすることにより、熱処理を行う際における、収容容器の脆化や溶融を防止できる。
収容容器における具体的な材質としては、例えば、鉄、ステンレス鋼などが挙げられる。例えば、熱処理温度を660℃以上1,085℃未満とする場合、鉄及びステンレス鋼の融点は熱処理温度よりも高いため、鉄又はステンレス鋼で形成された収容容器を用いることにより、熱処理を行う際における、収容容器の脆化や溶融を防止できる。
本発明では、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎が、収容容器に当たらないようにして熱処理を行うことが好ましい。つまり、本発明では、熱処理が燃料を用いる場合、収容容器に火炎を直接当てず、収容容器周囲の気体を加熱して熱処理を行うことが好ましい。こうすることにより、収容容器内のリチウムイオン二次電池の熱暴走による破裂を防ぐことができる。
また、リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎が、収容容器に当たらないようにして熱処理を行う具体的な手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、火炎の放射方向を収容容器に向けずに熱処理を行うことが好ましい。言い換えると、本発明では、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎の放射方向を、収容容器に向けずに熱処理を行うことが好ましい。
<破砕工程>
破砕工程は、熱処理物(リチウムイオン二次電池を熱処理したもの)を破砕することにより、破砕物を得る工程である。
破砕工程としては、熱処理物(焙焼物)を破砕して、破砕物を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、破砕物とは、熱処理物を破砕したものを意味する。
破砕工程としては、例えば、熱処理物を衝撃により破砕して破砕物を得る工程であることが好ましい。また、リチウムイオン二次電池の外装容器(リチウムイオン二次電池のパックやモジュールにおける外装ケースを含む)が熱処理中に溶融しない場合には、熱処理物に衝撃を与える前に、切断機により熱処理物を切断する予備破砕しておくことがより好ましい。
衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転する打撃板により熱処理物を投げつけ、衝突板に叩きつけて衝撃を与える方法や、回転する打撃子(ビーター)により熱処理物を叩く方法が挙げられ、例えば、ハンマークラッシャーなどにより行うことができる。また、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、セラミックなどのボールにより熱処理物を叩く方法でもよく、この方法は、ボールミルなどにより行うことができる。また、衝撃による破砕は、例えば、圧縮による破砕を行う刃幅、刃渡りの短い二軸破砕機等を用いて行うこともできる。
さらに、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転させた2本のチェーンにより、熱処理物を叩いて衝撃を与える方法も挙げられ、例えば、チェーンミルなどにより行うことができる。
衝撃により熱処理物を破砕することで、正極集電体(例えば、アルミニウム)の破砕が促進されるが、形態が著しく変化していない負極集電体(例えば、銅)は、箔状などの形態で存在する。そのため、破砕工程において、負極集電体は切断されるにとどまるため、後述する分級工程において、正極集電体由来の有価物(例えば、アルミニウム)と負極集電体由来の有価物(例えば、銅)とを、効率的に分離できる状態の破砕物を得ることができる。
破砕工程における破砕時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムイオン二次電池1kgあたりの破砕時間としては、1秒間以上30分間以下が好ましく、2秒間以上10分間以下がより好ましく、3秒間以上5分間以下が特に好ましい。
また、本発明においては、熱処理の際にリチウムイオン二次電池自体が発熱する場合、熱処理におけるリチウムイオン二次電池の加熱を終了した後においても、リチウムイオン二次電池における燃焼が継続する。このため、リチウムイオン二次電池の燃焼が終了してから、破砕を行うことが好ましい。
<分級工程>
分級工程は、破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る工程である。
分級工程としては、破砕物を分級して粗粒産物(篩上物)と細粒産物(篩下物)を得ることができる工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
分級方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩などを用いて行うことができる。分級により、銅、鉄、アルミニウム等を粗粒産物中に分離でき、リチウムを細粒産物中に濃縮できる。
分級の粒度(分級点、篩の目開き)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。分級により、銅、鉄、アルミニウム等を粗粒産物中に分離し、リチウム、コバルト、ニッケル等を細粒産物中に濃縮することを目的とする場合は、分級の粒度としては、0.6mm以上2.4mm以下が好ましく、0.85mm以上1.7mm以下がより好ましい。分級の粒度が2.4mm以下の場合、細粒産物中への銅・鉄・アルミニウム等の混入を抑制できる。分級の粒度が0.6mm以上の場合、粗粒産物中へのリチウム、コバルト、ニッケル等の混入を抑制できる。
また、分級方法として篩を用いる場合に、篩上に解砕促進物として、例えば、ステンレス球やアルミナボールを乗せて分級を行うことにより、大きな破砕物に付着している小さな破砕物を、大きな破砕物から分離させることで、大きな破砕物と小さな破砕物を、より効率的に分離することができる。こうすることにより、回収する金属の品位を更に向上させることができる。
なお、破砕工程と分級工程は、同時進行で行うこともできる。例えば、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する破砕・分級工程(破砕・分級)として行ってもよい。
なお、粗粒産物と細粒産物との分級を複数回繰り返してもよい。この再度の分級により、各産物の不純物品位をさらに低減することができる。
<リチウム回収工程>
本発明のリチウムの回収方法におけるリチウム回収工程は、破砕物等からリチウムを回収する工程である。リチウム回収工程としては、破砕物、細粒産物、リチウムを含む浸出液、リチウムを含む溶液などから、リチウムを回収することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明では、リチウム回収工程において、破砕物又は細粒産物を水に浸けることにより、リチウムを含む浸出液を得る(浸出液にリチウムを浸出させて回収する)ことが好ましい。言い換えると、本発明において、リチウム回収工程は、破砕物又は細粒産物を水に浸けることにより、リチウムを含む浸出液を得る浸出工程を含むことが好ましい。
浸出工程としては、破砕工程において破砕した破砕物又は分級工程において回収した細粒産物を水に浸ける(浸す、水に入れる)ことにより、水にリチウムを浸出させて浸出液を得ることができる工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、浸出工程においては、分級工程において回収した細粒産物を水に浸けることが好ましい。
なお、浸出液は、通常、スラリー状の液体(懸濁液)となる。
破砕物又は細粒産物を浸出させる水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業用水、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。
例えば、酸化リチウム(LiO)や炭酸リチウム(LiCO)を含む破砕物又は細粒産物を水に浸けることにより、リチウムを水酸化リチウム(LiOH)や炭酸リチウム(LiCO)として水に浸出させて、高い効率で回収することができる。
ここで、浸出工程における浸出手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単に破砕物又は細粒産物を水に投入しておく手法、破砕物又は細粒産物を水に投入して撹拌する手法、破砕物又は細粒産物を水に投入して、超音波を当てながら緩やかに撹拌する手法、破砕物又は細粒産物に水をかけ流す手法などが挙げられる。浸出手法としては、例えば、破砕物又は細粒産物を水に投入して撹拌する手法が好ましい。
浸出工程における水の撹拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、200rpmとすることができる。
浸出工程における浸出時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1時間とすることができる。
<湿式磁選工程>
本発明においては、浸出工程の後に、浸出液に湿式磁選(湿式磁力選別)を行ってもよい。湿式磁選によりコバルトとニッケルとマンガンなどの正極活物質由来の成分、及び鉄などの磁性を有するリチウムイオン二次電池部材由来の成分を回収できる。これは後段のろ過工程の負荷を減らす意味でも有効である。
つまり、本発明では、リチウム回収工程において、浸出液に対して湿式磁力選別を行うことにより、浸出液を、リチウム及び非磁着物を含むスラリーと、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを含む磁着物とに選別することが好ましい。
<固液分離工程>
本発明においては、リチウム回収工程において、リチウムを含む浸出液をろ過することにより、当該浸出液を、リチウムを含む溶液と残渣とに固液分離する(リチウムを溶液に回収する)ことが好ましい。言い換えると、本発明において、リチウム回収工程は、リチウムを含む浸出液をろ過することにより、浸出液を、リチウムを含む溶液と残渣とに固液分離する固液分離工程を含むことが好ましい。
また、本発明では、浸出液に対して湿式磁力選別を行う場合、湿式磁力選別により得たスラリーをろ過することにより、当該スラリーを、リチウムを含む溶液と非磁着物を含む残渣とに固液分離することが好ましい。
本発明においては、固液分離工程を含むことにより、浸出液に含まれるニッケル、コバルトを、残渣としてほぼ全て(100%)回収可能とすることができる。また、浸出液に含まれるリチウムを、溶液中に分離することができる。
固液分離を行う手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、スラリー状のリチウム浸出液を、ろ紙やフィルタープレスなどを用いて固液分離する手法が好ましい。
<フッ素除去工程>
本発明のリチウムの回収方法においては、上述した固液分離工程の後に、リチウムを含む溶液におけるフッ素イオンを除去するフッ素除去工程を更に含んでいてもよい。こうすることにより、例えば、フッ素除去工程後のリチウム溶液から、不純物であるフッ素の品位を低減した炭酸リチウムを、晶析可能とすることができる。
リチウムを含む溶液からのフッ素の除去には、例えば、水酸化カルシウム(消石灰)を用いることができる。水酸化カルシウムを用いることにより、溶液中のフッ素をフッ化カルシウムとして固化し、固液分離で除去できる。つまり、本発明では、リチウム回収工程において、溶液に水酸化カルシウムを添加して、溶液に含まれるフッ素をフッ化カルシウムとして固化させた後、溶液をろ過して固液分離することにより、溶液からフッ素を除去することが好ましい。
リチウムを含む溶液に水酸化カルシウムを添加することで、フッ素とカルシウムイオンによりフッ化カルシウムが形成され、固液分離することにより除去可能となる。また、カルシウムイオンは、後述する二酸化炭素の添加により容易に除去することができるため、リチウムを含む溶液(リチウム溶液)における不純物をより低減することができる。
ここで、水酸化カルシウムをリチウム溶液に添加する際には、水酸化カルシウムを直接的に添加してもよいし、水酸化カルシウムを含む化合物等を添加してもよい。
水酸化カルシウムを直接的に添加する場合には、例えば、水酸化カルシウムで形成された固体をリチウム溶液に添加してもよいし、水酸化カルシウムが溶解した溶液を添加してもよい。
これらの中でも、水酸化カルシウムを溶解した溶液を添加する方法が、フッ素の除去効率の面で好適である。水酸化カルシウムを溶解した溶液を添加することで、水酸化カルシウムを予めイオン化した状態でリチウム溶液に添加でき、フッ素との反応効率を高められる。
言い換えると、固体で添加した場合に生じ得る、次のような不具合を防ぐことができる。すなわち、炭酸イオン(CO 2−)などのリチウム溶液中に存在する溶存成分と水酸化カルシウムを含む固体表面との反応・その結果としての固体表面での非フッ素反応相の形成を防ぐことができる。例えば、消石灰を固体で添加する場合、消石灰表面とリチウム溶液中に溶存する炭酸イオン(CO 2−)が反応し炭酸カルシウム相を形成し、フッ素の除去効率が低下する。
リチウム溶液の全量に対する水酸化カルシウムの添加量としては、リチウム溶液に含まれるフッ素及び炭酸イオンの双方と水酸化カルシウムが反応できるような量とすることが好ましく、例えば、リチウム溶液中のフッ素Xモル(mol)及び炭酸イオンYモル(mol)に対する水酸化カルシウムの添加量としては、0.5×(X+2Y)mol以上10×(X+2Y)mol以下が好ましく、0.75×(X+2Y)mol以上5×(X+2Y)mol以下がより好ましい。
また、水酸化カルシウムを添加した後に、リチウム溶液を撹拌することが好ましい。
リチウム溶液の撹拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、20rpm以上2000rpm以下とすることが好ましく、50rpm以上1000rpm以下とすることがより好ましい。
リチウム溶液の撹拌時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5分以上240分以下とすることが好ましく、15分以上120分以下とすることがより好ましい。また、撹拌時間(反応時間)を240分以下とすることで、固化したフッ素の再溶解を防ぐことができる。
本発明の一実施形態においては、水にリチウムを浸出させる際のリチウム濃度を調整することにより、リチウム溶液のpHを10.5以上にすることができる。これは、リチウム溶液が水酸化リチウム溶液となるためであると考えられる。浸出時にpHを高くすることで、水酸化カルシウム添加後のpHを12以上に上げためのアルカリの添加量を減らすことができる。また、水酸化カルシウム添加後のリチウム溶液のpHが12未満の場合は、アルカリを追加で添加してpHを12以上に調整することが好ましい。また、pHの調整は水酸化カルシウムの添加のみで行うことができる。
この条件下では、カルシウムの溶解度積に鑑みると、カルシウムイオン(Ca2+)の溶存量を、2,000mg/L未満まで抑制できる。このため、カルシウムイオン(Ca2+)を除去するための成分(例えば、二酸化炭素)の添加量を低減することができる。
上述したように、カルシウムイオン濃度が2,000mg/Lと低水準であるにも関わらず、リチウムを含む溶液からのフッ素の除去は良好に行われる。
さらに、本発明では、フッ素を除去するためにリチウム溶液に添加した水酸化カルシウムにおけるカルシウムイオンを、リチウム溶液に二酸化炭素を添加することによりカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして固化し、固液分離で除去することが好ましい。つまり、本発明では、リチウム回収工程において、フッ素を除去した溶液に二酸化炭素を添加して、溶液に含まれるカルシウムを炭酸カルシウムとして固化させた後、溶液をろ過して固液分離することにより、溶液からカルシウムを除去することが好ましい。
さらに、リチウム溶液のpHが高い場合(例えば、10.5以上の場合)、リチウム溶液に二酸化炭素をCO 2−イオンとして効率的に吸収・液中に保持させることができ、第二除去工程での第二成分の除去に寄与しなかった分のCO 2−イオンを後段の炭酸リチウムの晶析のための成分(CO)として有効利用できる。
カルシウムイオン除去後の液は、例えば、蒸発濃縮により品位99%以上の炭酸リチウムが回収できる。
二酸化炭素をリチウム溶液に添加する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、二酸化炭素を含む気体をリチウム溶液に供給(散気)する手法、二酸化炭素で形成された固体をリチウム溶液に添加する手法などが挙げられる。これらの中でも、不純物を溶液中に追加せずに済むという面で、二酸化炭素を含む気体をリチウム溶液に供給(散気)する手法が好ましい。
二酸化炭素を含む気体としては、例えば、二酸化炭素ガス、COを含むガスとして空気(Air)などが挙げられる。これらの中でも、二酸化炭素ガスが好ましい。言い換えると、二酸化炭素としての二酸化炭素を含む二酸化炭素ガスを、リチウム溶液に添加することが好ましい。こうすることにより、リチウム溶液に添加する二酸化炭素の量を容易に制御できるとともに、効率的に二酸化炭素を添加することができる。
二酸化炭素を含む気体のリチウム溶液に対する供給(散気)方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、直径5mmの穴を20箇所あけた20Aの塩ビ管(硬質ポリ塩化ビニル管)を用いることができる。また、二酸化炭素を含む気体のリチウム溶液に対する供給(散気)は、例えば、上・下水処理場、廃水処理場、大型浄化槽などで利用される公知のディフューザーを利用することや、φ(直径)1mm以上のノズルから二酸化炭素を含む気体を供給し、このノズル上部に取り付けた攪拌羽根で気体を分散させることにより行ってもよい。
また、二酸化炭素を含む気体をリチウム溶液に供給(散気)する際の供給条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。二酸化炭素を含む気体として二酸化炭素ガスを用いる場合においては、例えば、25L/分で30分間かけて散気する条件で二酸化炭素ガスを供給するようにしてもよい。
加えて、例えば、リチウム溶液に残存する水酸化カルシウムの全量を除去可能となるように、二酸化炭素を供給することが好ましい。
<濃縮工程(晶析工程)>
本発明のリチウムの回収方法においては、上述した固液分離工程又はフッ素除去工程の後に、溶液におけるリチウムを濃縮する濃縮工程を更に含んでいてもよい。こうすることにより、例えば、溶液に含まれるリチウムを、炭酸リチウムとして容易に晶析可能とすることができる。
濃縮工程における濃縮の手法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸発濃縮、膜分離による濃縮、真空濃縮などが挙げられるが、蒸発濃縮が好ましい。これは、工場排熱の利用などでコストを小さく実施できる点、蒸発濃縮時に後述の加熱による炭酸リチウムの晶析も同時に実施でき、プロセスを簡易にできるためである。リチウムの濃縮は、液中のリチウム濃度が1500mg/L以上となるまで行うことが望ましい。
また、本発明のリチウムの回収方法では、濃縮工程において、リチウムを含む溶液に二酸化炭素(CO)を加えることが好ましい。こうすることにより、リチウムを含む溶液中の炭酸リチウムがより析出しやすくなり、他の不純物(例えば、フッ素など)と結合したリチウム(例えば、フッ化リチウム)よりも炭酸リチウムが優先して析出するため、より品位の高い炭酸リチウムを回収することができる。
また、リチウムを含む溶液に二酸化炭素を加える手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、二酸化炭素ガスの吹込みにより行うことが好ましい。また、二酸化炭素を供給した後のリチウムを含む溶液の炭酸イオン濃度としては、3000mg/L以上が好ましく、6000mg/L以上がより好ましい。
リチウムを含む溶液を蒸発濃縮する際の濃縮倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5倍以上70倍以下であることが好ましく、2倍以上35倍以下であることがより好ましい。
リチウムを含む溶液を蒸発濃縮する際の溶液の温度としては、リチウムを含む溶液を蒸発させることが可能な温度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、60℃以上105℃以下が好ましい。
また、浸出液又は溶液からリチウムを回収する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、浸出液又は溶液を加熱することにより、リチウムを回収することが好ましく、溶液を加熱することにより、リチウムを炭酸リチウムとして回収することがより好ましい。つまり、本発明では、リチウム回収工程において、カルシウムを除去した溶液を加熱することにより炭酸リチウムを回収することが好ましい。
例えば、リチウムを含む溶液を加熱して温度を上昇させると、溶液におけるリチウムの溶解度が下がるため、溶存できなくなったリチウムをリチウム化合物として析出させて、容易に回収することができる。
また、析出させたリチウム(炭酸リチウム)は、例えば、匙、レーキ、スクレーパーなどの公知の器具で回収することができる。また、匙、レーキ、スクレーパーなどの公知の器具で回収した炭酸リチウムを、さらに固液分離して付着水分を低減することにより、炭酸リチウムの不純物品位を低減できる。
ここで、浸出液又は溶液を加熱する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のヒータにより加熱する手法などが挙げられる。
例えば、リチウムを含む溶液を加熱してリチウムを析出させる際の溶液の温度としては、リチウムを析出させることが可能な温度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、60℃以上105℃以下が好ましい。
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾式磁選工程などが挙げられる。
<<乾式磁選工程>>
本発明では、分級工程の後に、粗粒産物に乾式磁選(乾式磁力選別)を行うことにより、粗粒産物を、磁着物と非磁着物とに選別する乾式磁選工程を更に含んでいてもよい。
乾式磁選工程としては、乾式磁選により、粗粒産物を、磁着物と非磁着物とに選別できる工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明においては、例えば、粗粒産物に乾式磁選(乾式磁力選別)を行うことにより、非磁着物に銅(銅濃縮物)を回収することが好ましい。負極集電体の銅はカーボンが塗布されてバインダで結合されているが、例えば、リチウムイオン二次電池の残電圧を活用した自燃によりこのバインダは分解するため、カーボン品位が低減された高品位の銅を非磁着物に回収することができる。
乾式磁選工程は、公知の磁力選別機(磁選機)などを用いて行うことができる。
本発明で用いることができる磁力選別機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、棒磁石、ハンドマグネット、格子型マグネット、ロータリーマグネット、マグネットストレーナー、高磁力プーリ(マグネットプーリ)磁選機、吊下げ型磁選機などが挙げられる。
また、乾式磁選工程における磁力は、選別対象に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄を選別する場合は、0.01T(テスラ)以上0.3T以下とすることが好ましい。また、ステンレス鋼を選別する場合は、上記の範囲よりも高磁力を用いてもよい。なお、異なる磁力を組み合わせて多段階で使用することも可能である。
このようにすることにより、本発明の有価物の回収方法では、鉄やステンレス鋼などの磁着物と、銅などの非磁着物とを選択的に回収することができる。
続いて、以下では、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法について説明する。
<熱処理工程>
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法は、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程を含む。
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法における熱処理工程の詳細は、本発明のリチウムの回収方法における熱処理工程の詳細と同様とすることができる。
つまり、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池を350℃以上550℃以下で熱処理することにより、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(自燃)を生じさせて発火させることが好ましい。こうすることにより、リチウムイオン二次電池におけるバインダ樹脂や電解液を効率的に熱分解させることができ、リチウムイオン二次電池から有価物である銅、アルミニウムコバルト、ニッケルなどの有価物を回収しやすくすることができる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、例えば、リチウムイオン二次電池の熱暴走を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池の電圧由来のエネルギーを利用して、リチウムイオン二次電池の処理を行うことができる。このため、有毒なガスなどの発生を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池を安定的に失活(放電及び電解液の除去等)させることができると共に、処理に必要となるエネルギーを抑制することができる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、本発明のリチウムの回収方法と同様に、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行うことが好ましい。また、収容容器ついての詳細は、本発明のリチウムの回収方法における収容容器と同様とすることができる。
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、本発明のリチウムの回収方法と同様に、リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎の放射方向を収容容器に向けずに熱処理を行い、火炎が収容容器に当たらないようにして熱処理を行うことが好ましい。こうすることにより、リチウムイオン二次電池の急激な温度上昇を防ぐことができるため、より安全に、より有価物を回収しやすくなる。
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、本発明のリチウムの回収方法と同様に、リチウムイオン二次電池がアルミニウムを含む外装ケース(筐体)を有し、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(自燃)が終了した後に行う熱処理工程において、外装ケースを溶融させることによりアルミニウムを回収することが好ましい。具体的には、例えば、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(自燃)が終了した後に行う熱処理工程においてリチウムイオン二次電池を750℃以上で熱処理することにより、リチウムイオン二次電池の外装ケース(筐体)に含まれるアルミニウムと、リチウムイオン二次電池における他の部分(例えば、電極など)とを、容易に選別(分離)して、筐体由来のアルミニウムを簡便に回収することができる。
また、この場合には、リチウムイオン二次電池を網の上に載置して熱処理することや、リチウムイオン二次電池を溝(スリット)の上に載置して熱処理することなどにより、溶融したアルミニウムをより容易に回収できるようにすることが好ましい。このような網や溝は、例えば、収容容器に設けてもよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、上述したように、安全かつ簡便に低コストで、リチウムイオン二次電池を処理して無害化でき、例えば、リチウムイオン二次電池における熱暴走による破裂及びそれに起因する熱処理に用いる炉の損傷を生じさせることなく処理を行うことができる。
リチウムイオン二次電池の熱暴走による破裂は、正極活物質のニッケルの割合が高いもの、例えば、Ni、Co、Mn、Alのうち、Niが重量で75%以上を占めるNCA系やNCM811等を熱処理する際に特に生じやすい。このため、本発明においては、正極活物質中のニッケルの割合が75%以上であるリチウムイオン二次電池についても、好適に熱処理を行うことができる。
<破砕工程及び分級工程>
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法は、熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る破砕工程と、破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程と、を更に含むことが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法における破砕工程及び分級工程の詳細は、本発明のリチウムの回収方法における破砕工程及び分級工程の詳細と同様とすることができる。
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、分級工程において、粗粒産物に銅を回収することが好ましい。ここで、上述したように、負極集電体の銅はカーボンが塗布されてバインダで結合されているが、例えば、リチウムイオン二次電池の残電圧を活用した自燃によりこのバインダは分解するため、粗粒産物に対して乾式磁力選別を行うことにより、カーボン品位が低減された高品位の銅を非磁着物に回収することができる。
<浸出工程及び湿式磁力選別工程>
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法は、細粒産物を水に浸けることにより、リチウムを含む浸出液を得る浸出工程、浸出液に対して湿式磁力選別を行うことにより、浸出液を、リチウム及び非磁着物を含むスラリーと、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを含む磁着物とに選別する湿式磁力選別工程などを更に含むことが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法における浸出工程及び湿式磁力選別工程の詳細は、本発明のリチウムの回収方法における浸出工程及び湿式磁力選別工程の詳細と同様とすることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池自体の発熱による燃焼(自燃)を生じさせることにより、例えば、コバルト及びニッケルのメタル化(磁着性の向上)を行うことができる。このため、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法では、湿式磁力選別を行うことにより、例えば、コバルト及びニッケルのメタルを、磁着物として高い回収率及び品位で回収することができる。
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
<第1の実施形態>
ここで、図面を参照して、本発明のリチウムの回収方法における実施形態の一例について説明する。図1は、本発明のリチウムの回収方法の一実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
第1の実施形態においては、まず、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させた状態の(未放電の)リチウムイオン二次電池(LIB;Lithium Ion Battery)に対して熱処理(熱処理工程)を行い、LIB熱処理物を得る。熱処理においては、リチウムイオン二次電池の電気エネルギーを熱処理に活用できる。また、アルミニウムの融点以上の温度で熱処理を行うことにより、LIBにおけるアルミニウム(Al)を熔融し分離することができる。
次に、第1の実施形態においては、LIB熱処理物に対して、破砕及び分級(破砕工程及び分級工程)を行い、粗粒産物と細粒産物とを得る。ここで、粗粒産物として、銅(Cu)や鉄(Fe)などを分離することができる。
続いて、第1の実施形態では、細粒産物を水に浸けることにより、スラリー状の浸出液を得る。このとき、リチウム(酸化リチウム又は炭酸リチウム)を水に浸出すると共に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣が、浸出液中に形成される。
定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させた状態の(未放電の)リチウムイオン二次電池は、前述の通りLiCやLi(1−x)CoO(0<x≦1)などの熱力学的に不安定な状態で存在しているため、熱処理によりフッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(LiCO)や酸化リチウム(LiO)などの、リチウムが水に可溶な形態の物質にさせやすく、結果として、浸出液中のリチウムの回収率(浸出率)を向上できる。
そして、リチウムが浸出した液中から、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣を固液分離により除去して、リチウムが浸出した溶液が得られる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
<熱処理>
まず、重量の合計が400kgのリチウムイオン二次電池(正極活物質中のCo・Ni・Mn・Al量に占めるNiの割合が平均75%、電圧が100%残存)を、幅2350mm、奥行1650mm、高さ400mm、板厚4mmのSUS304製収容容器に入れ、この容器を、炉内幅3050mm、奥行8950mm、高さ3940mmの炉内の中央部に配した。炉内温度は、炉内上部に設けられた排ガス出口の壁面に設置された熱電対より測定した。
この収容容器には、蓋中央部に直径500mmの開口部が設けられていると共に、収容容器底面には熔融したアルミニウムを回収するための幅30mmのスリット(溝)が設けられている。また、この収容容器中のリチウムイオン二次電池の上部及び下部の表面に、熱電対を配置し、後述する熱処理の際のリチウムイオン二次電池のパック本体の温度を測定した。
続いて、炉の開口部から1000mmの位置の両側面に配された灯油バーナー2本と、炉開口部から7950mmの位置の両側面に配された灯油バーナー2本の計4本のバーナーを燃焼させることにより炉内を加温し、バーナーの火炎が収容容器に当たらないように熱処理した。つまり、実施例1では、リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎の放射方向を、収容容器に向けずに熱処理を行った。
バーナーの火炎による熱処理では、まず、炉内温度が約20℃から1時間で400℃まで昇温した。そして、炉内温度400℃を1時間保持した段階で、炉内カメラの画像により収容容器の開口部及び蓋と本体の隙間から火炎が発生し、収容容器の内部のリチウムイオン二次電池の自己燃焼(自燃)による発火が開始したことを確認された。そして、リチウムイオン二次電池の自己燃焼が確認されたときから、バーナーに用いる灯油の供給量を、炉内温度を400℃に保持するときの灯油の供給量を100%とした場合の20%まで低下させた。
リチウムイオン二次電池の自己燃焼(自燃)による発火は、30分間継続し、リチウムイオン二次電池本体温度は、自己燃焼直前の430℃から最高温度800℃まで到達した。リチウムイオン二次電池の自己燃焼の終了後(収容容器から火炎が確認されなくなった後)、すべてのバーナーの燃焼を停止して、1時間放熱した後、炉内から収容容器を取り出して、内部のリチウムイオン二次電池(熱処理後)と、収容容器下部のスリットに回収されたアルミニウムを回収した。
<破砕及び分級>
次いで、破砕装置として、ハンマークラッシャー(マキノ式スイングハンマークラッシャーHC−20−3.7、槇野産業株式会社製)を用い、50Hz(ハンマー周速38m/s)、出口部分のパンチングメタルの孔径10mmの条件で、熱処理を行ったリチウムイオン二次電池(リチウムイオン二次電池の熱処理物)を破砕し、リチウムイオン二次電池の破砕物を得た。
続いて、篩目の目開き(分級点)が1.2mmの篩(直径200mm、東京スクリーン株式会社製)を用いて、リチウムイオン二次電池の破砕物を篩分け(分級)した。そして、篩分け後の1.2mmの篩上(粗粒産物)と篩下(細粒産物)をそれぞれ採取した。
<粗粒産物の乾式磁選(銅濃縮物の回収)>
次に、得られた粗粒産物を、磁束密度が1500G(0.15T)の乾式ドラム型磁選機(CC 15“φ×20”W、日本エリーズマグネチックス株式会社製)を用いて、フィード速度0.5kg/分の条件で、磁力選別(乾式磁選)を行い、磁着物と非磁着物(銅濃縮物)を分離して回収した。
<細粒産物の浸出及び湿式磁選>
また、分級により得られた細粒産物100kgを、400Lの水に浸けて、固液比25%、攪拌速度400rpm、浸出時間1時間の条件で、水にリチウムを浸出させた。この水にリチウムを浸出させて得たスラリーを、ドラム型磁選機(商品名:WD L−8ラボモデル、エリーズマグネチックス社製)を用いて、磁力:1500G、ドラム回転数45rpm、固液比25%、スラリー供給速度100L/h/minで湿式磁選(湿式磁力選別)を行い、磁着物と、非磁着物を含むスラリー200Lとを回収した。この非磁着物を含むスラリーをろ布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力で加圧ろ過して非磁着物を固液分離し、リチウム浸出液(リチウムを含む溶液)を得た。
<リチウム浸出液のフッ素除去>
得られたリチウム浸出液(pH約10.5、フッ素濃度500mg/L)をFRP製タンク(製作品、直径1084mm、高さ1500mm)内に準備した。これを攪拌機(HP−5006、阪和化工機製)で攪拌した状態で、スラリー濃度25%の消石灰(水酸化カルシウム)及び水を添加し、pH12.0に調整しながら、1時間反応させた(フッ化カルシウムの形成)後、ろ布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力の加圧ろ過で固液分離して、フッ素を除去したリチウム溶液(フッ素除去後液、フッ素濃度15mg/L)を得た。
<リチウム溶液中のカルシウム除去>
リチウム溶液(フッ素除去後液)におけるカルシウムの濃度を測定したところ、リチウム溶液にカルシウムが135mg/L溶存していた。これを除去するため、二酸化炭素(CO)ガスを、直径5mmの穴を20箇所あけた20Aの塩ビ管(硬質ポリ塩化ビニル管)を用いて、リチウム溶液中に25L/分で30分間かけて散気し、リチウム溶液に残存するカルシウム(Ca2+イオン)を、炭酸カルシウムとして析出させた。
そして、この炭酸カルシウムを析出させたリチウム溶液を、ろ布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力の加圧ろ過で固液分離して、カルシウムを除去したリチウム溶液(カルシウム除去後液)を得た。
<炭酸リチウムの晶析>
リチウム溶液(カルシウム除去後液、450L)を250LのSUS304製円筒容器(製作品、内径650mm、高さ1180mm)内に、初めに200Lを準備した後に、撹拌機(品名:スーパーアジテーター、型番TTF−2V、トヨキ工業製)で200rpmの攪拌速度で攪拌しながら、残りを7L/hの速度で連続的に供給した。さらに、この容器内に配されたテフロン(登録商標)製のチューブ型熱交換器(カンセツ産業製、製作品、伝熱面積1.4m)内に158℃の蒸気を供給して液温が100℃となる条件で熱交換して、常圧で5倍(蒸発濃縮後液(炭酸リチウムの晶析物を含む)の容積が90L)に蒸発濃縮し、蒸発濃縮した液をろ布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力で加圧ろ過して、炭酸リチウムの晶析物を得た。
(実施例2)
実施例1において、リチウムイオン二次電池の自己燃焼の終了後、再度バーナー4本の燃焼を再開して炉内温度800℃まで1hで昇温後、800℃を1時間保持し、追加の熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして熱処理を行った。実施例2では、この熱処理後にすべてのバーナーの燃焼を停止して、1時間放熱した後、炉内から収容容器を取り出して、内部のリチウムイオン二次電池(熱処理後)と、収容容器下部のスリットに回収されたアルミニウムを回収した。
また、実施例2では、熱処理以降の処理を、実施例1と同様にして行い、炭酸リチウム等を回収した。
(実施例3)
実施例1において、炉内温度が約20℃から1時間で800℃(実施例1では400℃)まで昇温して熱処理を行った以外は、実施例1と同様の処理を行った。実施例3では、炉内温度が700℃に到達した時点(リチウムイオン二次電池本体温度は430℃)で収容容器から発火が確認された。実施例3では、収容容器から発火が確認されたときに、バーナーの燃焼を完全に停止したが、炉内温度は10分で700℃から960℃まで上昇した。実施例3では、実施例1と比べると、収容容器内部の急激な燃焼(酸化反応)により銅箔が脆化し、破砕・分級後の粗粒産物への銅回収率及び細粒産物中のリチウムの水への浸出率が低下(実施例1の47%)したものの、後述する比較例1と比べると、リチウム(炭酸リチウム)の回収率は高くなった。
(実施例4)
実施例1において、熱炉内温度が400℃まで昇温した段階で、収容容器に火炎が当たる位置のバーナー1本の燃焼を開始し、収容容器に火炎を当てながら熱処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。実施例4では、火炎を当て始めてから3分で(リチウムイオン二次電池本体温度430℃)で収容容器から発火が確認された。実施例4では、収容容器から発火が確認されたときに、バーナーの燃焼を完全に停止したが、炉内温度は10分で400℃から920℃まで上昇した。実施例4では、収容容器内部の急激な燃焼(酸化反応)により銅箔が脆化し、破砕・分級後の粗粒産物への銅回収率及び細粒産物中のリチウムの水への浸出率が低下(実施例1の32%)したものの、後述する比較例1と比べると、リチウム(炭酸リチウム)の回収率は高くなった。
(比較例1)
実施例1において、リチウムイオン二次電池を残電圧が50%となるまで放電した後に熱処理を行った以外は、実施例1と同様の処理を行った。比較例1では、リチウムイオン二次電池の発火(自燃)が生じず、バインダの分解や正極活物質の分解(リチウムの可溶化及びコバルト及びニッケルのメタル化)が生じなかった。また、熱処理後のリチウムイオン電池を解体し、セパレータ、並びに正極及び負極の表面が電解液で湿潤しており、無害化が完了していないことが確認された。
このため、比較例1では、高品位の銅濃縮物が回収できず(銅の品位が低く)、リチウムの浸出率は低く、コバルト及びニッケルは磁着物中の回収率が低下した。また、比較例1ではリチウムイオン二次電池の発火(自燃)が生じなかったため、実施例1と比べて、熱処理終了までに要した灯油の量が20%増加した。
ここで、処理の対象としたリチウムイオン二次電池に含まれていた、各元素の量を100%とした場合の、各回収物への各元素の回収率を表1に示す。
Figure 2021150282
また、各回収物中の各元素の品位を表2に示す。
Figure 2021150282
また、いずれの実施例においても、リチウムイオン二次電池を収容容器内に収容したことにより、リチウムイオン二次電池の破裂による炉体の損傷を防止できた。また、いずれの実施例においても、電解液は完全に除去されていた。
以上、説明したように、本発明のリチウムの回収方法は、リチウムイオン二次電池からリチウムを回収するリチウムの回収方法であって、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程と、熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る破砕工程と、破砕物から、リチウムを回収するリチウム回収工程と、を含む。これにより、本発明のリチウムの回収方法は、リチウムイオン二次電池の放電が不要となり、熱処理工程でのエネルギーコストを下げることができると共に、リチウムイオン二次電池からリチウムを高い回収率で回収することができる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法は、定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程を含む。これにより、本発明のリチウムイオン二次電池の処理方法は、リチウムイオン二次電池の放電が不要となり、熱処理工程でのエネルギーコストを下げることができ、安全かつ簡便に低コストで、リチウムイオン二次電池を処理して無害化(例えば、電解液の除去)することができる。

Claims (34)

  1. リチウムイオン二次電池からリチウムを回収するリチウムの回収方法であって、
    定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程と、
    前記熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る破砕工程と、
    前記破砕物から、リチウムを回収するリチウム回収工程と、
    を含むことを特徴とするリチウムの回収方法。
  2. 前記熱処理工程が、前記リチウムイオン二次電池を350℃以上550℃以下に加熱する処理を含む、請求項1に記載のリチウムの回収方法。
  3. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じているときの熱の供給量を、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じる前の熱の供給量の50%以下に変更する、請求項2に記載のリチウムの回収方法。
  4. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池の発火が終了した後に、前記リチウムイオン二次電池を750℃以上1,085℃未満で更に熱処理する、請求項2から3のいずれか記載のリチウムの回収方法。
  5. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行う、請求項1から4のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
  6. 前記収容容器が、気体を流通可能な開口部を有する、請求項5に記載のリチウムの回収方法。
  7. 前記収容容器が、前記リチウムイオン二次電池を収容するための開閉可能な蓋部を有する、請求項5から6のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
  8. 前記収容容器の融点が、前記リチウムイオン二次電池を熱処理する際の温度より高い、請求項5から7のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
  9. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎が、前記収容容器に当たらないようにして熱処理を行う、請求項5から8のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
  10. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための前記火炎の放射方向を、前記収容容器に向けずに熱処理を行う、請求項9に記載のリチウムの回収方法。
  11. 前記破砕工程の後に、前記破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程を含み、
    前記リチウム回収工程において、前記細粒産物からリチウムを回収する、請求項1から10のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
  12. 前記リチウム回収工程において、前記破砕物を水に浸けることにより、リチウムを含む浸出液を得る、請求項1から11のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
  13. 前記リチウム回収工程において、前記浸出液をろ過することにより、前記浸出液を、リチウムを含む溶液と残渣とに固液分離する、請求項12に記載のリチウムの回収方法。
  14. 前記リチウム回収工程において、前記浸出液に対して湿式磁力選別を行うことにより、前記浸出液を、リチウム及び非磁着物を含むスラリーと、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを含む磁着物とに選別する、請求項12に記載のリチウムの回収方法。
  15. 前記リチウム回収工程において、前記スラリーをろ過することにより、前記スラリーを、リチウムを含む溶液と非磁着物を含む残渣とに固液分離する、請求項14に記載のリチウムの回収方法。
  16. 前記リチウム回収工程において、前記溶液に水酸化カルシウムを添加して、前記溶液に含まれるフッ素をフッ化カルシウムとして固化させた後、前記溶液をろ過して固液分離することにより、前記溶液からフッ素を除去する、請求項15に記載のリチウムの回収方法。
  17. 前記リチウム回収工程において、フッ素を除去した前記溶液に二酸化炭素を添加して、前記溶液に含まれるカルシウムを炭酸カルシウムとして固化させた後、前記溶液をろ過して固液分離することにより、前記溶液からカルシウムを除去する、請求項16に記載のリチウムの回収方法。
  18. 前記リチウム回収工程において、カルシウムを除去した前記溶液を加熱することにより炭酸リチウムを回収する、請求項17に記載のリチウムの回収方法。
  19. 定格の電圧に対し80%以上の電圧を残存させたリチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の処理方法。
  20. 前記熱処理工程が、前記リチウムイオン二次電池を350℃以上550℃以下に加熱する処理を含む、請求項19に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  21. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じているときの熱の供給量を、前記リチウムイオン二次電池の発火が生じる前の熱の供給量の50%以下に変更する、請求項20に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  22. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池の発火が終了した後に、前記リチウムイオン二次電池を750℃以上1,085℃未満で更に熱処理する、請求項20から21のいずれか記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  23. 前記リチウムイオン二次電池がアルミニウムを含む外装ケースを有し、
    前記熱処理工程において、前記外装ケースを溶融させることによりアルミニウムを回収する、請求項22に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  24. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を収容容器に収容して熱処理を行う、請求項19から23のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  25. 前記収容容器が、気体を流通可能な開口部を有する、請求項24に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  26. 前記収容容器が、前記リチウムイオン二次電池を収容するための開閉可能な蓋部を有する、請求項24から25のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  27. 前記収容容器の融点が、前記リチウムイオン二次電池を熱処理する際の温度より高い、請求項24から26のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  28. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための火炎が、前記収容容器に当たらないようにして熱処理を行う、請求項24から27のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  29. 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を熱処理するための前記火炎の放射方向を、前記収容容器に向けずに熱処理を行う、請求項28に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  30. 前記熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る破砕工程と、
    前記破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程と、
    を更に含む、請求項19から29のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  31. 前記分級工程において、前記粗粒産物に銅を回収する、請求項30に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  32. 前記細粒産物を水に浸けることにより、リチウムを含む浸出液を得る浸出工程を更に含む、請求項30から31のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  33. 前記浸出液に対して湿式磁力選別を行うことにより、前記浸出液を、リチウム及び非磁着物を含むスラリーと、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを含む磁着物とに選別する湿式磁力選別を更に含む、請求項32に記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。
  34. 前記リチウムイオン二次電池における、正極活物質中のニッケルの割合が75%以上である、請求項19から33のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の処理方法。

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