JP2021138974A - 熱処理方法及び加工物 - Google Patents

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【課題】熱処理対象物を加熱した後、焼入れ処理及び焼戻し処理を順次行う熱処理方法において、靱性を確保しつつ硬度が高い領域をより深くまで形成する。【解決手段】熱処理対象物に対し、第1の所定温度(950〜1000℃)下で浸炭処理を行い(S1)、浸炭処理に用いる炭素源を除去し(S2)、第1の所定温度より高い第2の所定温度(1000〜1050℃)に加熱し(S3)、その後、焼き入れ処理(S4)及び焼戻し処理(S5)を順次行う。【選択図】図1

Description

本発明は、熱処理対象物を加熱した後、焼入れ処理及び焼戻し処理を順次行う熱処理方法、及びこのような方法により製造された加工物に関する。
鋼材により600℃以上の過酷環境で使用される金型等を作るにあたって、このような金型等の長寿命化を図るには、表面の硬度を高くしつつ、靱性を確保する必要がある。
一般に、熱処理により得られる加工物の表面の硬度を高くするための工程として、熱処理対象物を高温に加熱しその後急冷する焼入れ処理が行われる。また、焼入れ処理の後、加工物の靱性を確保するための工程として、焼戻し処理が行われる。
加工物の表面の硬度をより高くするための方策の一つとして、焼戻し処理の際の温度を低下させることが考えられる。ところが、焼戻し処理の温度を低下させると得られる加工物の靱性が低下するという問題が存在する。従って、加工物の靱性を確保するために、焼戻し処理の温度はある程度高くしておく必要がある。
加工物の靱性を確保しつつその表面の硬度を高くする方法の一つとして、ある程度高温で焼戻し処理を行った後、500〜580℃程度で浸炭窒化加工を行うことが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このように浸炭窒化加工を施すと、表面から0.2mmまたはそれ以下の深さの領域に硬度が高い層が形成され、その内側は靱性を保つ。しかしながら、得られる金型等の加工物の長寿命化を図るべく、靱性を確保しつつより深くまで硬度が高い層を形成する方法が求められている。
特開2007−056368号公報
本発明は、靱性を確保しつつ硬度が高い領域をより深くまで形成することができる熱処理方法の実現を図るものである。
以上の課題を解決すべく、請求項1に係る発明の熱処理方法は、以下に述べる処理を行う。すなわち請求項1に係る発明の熱処理方法は、熱処理対象物に対し、第1の所定温度下で浸炭処理を行い、浸炭処理に用いる炭素源を除去した後、第1の所定温度より高温の第2の所定温度に加熱し、その後、焼き入れ処理及び焼戻し処理を順次行う。
このようなものであれば、浸炭処理を行った後、炭素源を除去してさらに高温に加熱し、その後焼入れ処理を行い、高温で焼戻し処理を行うことにより、硬度が高い領域を従来のものより深くまで安定して形成できるとともに、熱処理により得られる加工物の靱性を確保することができる。
なお、本発明において、「炭素源」とは、浸炭処理に用いる炭素の供給源であり、アセチレン等の炭化水素ガスや、二酸化炭素、一酸化炭素等が用いられ得る。
また、前述した課題を解決すべく、請求項2に係る発明の熱処理方法は、以下に述べる処理を行う。すなわち請求項2に係る発明の熱処理方法は、熱処理対象物である熱間工具鋼により作成される金型となるべき物に対し、浸炭処理を行い、その後、焼き入れ処理及び焼戻し処理を順次行う。
このようなものであれば、ある程度炭素含有量が高い熱間工具鋼により作成された熱処理対象物に浸炭処理、焼き入れ処理及び焼戻し処理を順次行うことにより、靱性を確保しつつ、従来のものより深い領域まで硬度が高い領域を形成できる。
熱処理により得られる加工物の靱性を確保する具体的な方法の一つとして、焼戻し処理を600℃以上で行うものが挙げられる。
表面の硬度をさらに高める方法の一つとして、熱処理対象物に焼戻し処理を行った後、窒化処理を行うものが挙げられる。
本発明の熱処理方法によれば、靱性を確保しつつ硬度が高い領域をより深くまで形成することができる。
本実施形態に係る加工物を作成するための処理の手順を示す流れ図。 同実施形態の加工物及び従来品における表面からの距離及び硬度の関係を示すグラフ。 同実施形態及び他の実施形態の加工物における表面からの距離及び硬度の関係を示すグラフ。
本発明の一実施形態について、図1〜図3を参照しつつ以下に示す。
本実施形態の熱処理方法は、熱処理対象物である熱間工具鋼により作成される金型となるべき物に対して行うものである。
より具体的には、熱処理対象物の材料である熱間工具鋼は、SKD61として知られ、炭素を0.35〜0.42%含有するとともに、クロム、モリブデン、バナジウム等も含有する。熱処理対象物は、このような熱間工具鋼を金型としての所望の形に加工したものであり、熱処理を行った後必要であれば切削加工が施される。
本実施形態の熱処理は、図1に概略的に示した手順に沿って行われる。
まず、熱処理対象物を熱処理炉中に搬入し、浸炭処理を行う。具体的には、熱処理炉内を真空とした後炉内に炭素源であるアセチレンガスを導入し、第1の所定温度、本実施形態では950〜1000℃に所定時間加熱する(S1)。
その後、熱処理炉内を再度真空としてアセチレンガスを除去し(S2)、第1の所定温度より高い第2の所定温度、本実施形態では1000〜1050℃に所定時間加熱する(S3)。なお、第2の所定温度は、この種の熱間工具鋼により作成される加工物を作成すべく焼入れ処理を行う直前の加熱の際に通常用いられる温度である。
その後、熱処理対象物を油浴内に搬入して焼入れ処理(S4)を行い、さらに、例えば600℃(又はそれ以上の温度)で所定時間焼戻し処理を行う(S5)。本実施形態では、焼戻し処理は大気中で行われる。焼戻し処理を行った後、さらに窒化処理(S6)を行う。なお、本実施形態では、金型としての所望の形状とすべく、焼戻し処理を行った後窒化処理を行う前に切削加工による仕上げ処理を行うようにしている。以上の処理を行うことにより、加工物である金型が得られる。
なお、上述した熱処理対象物の加熱、焼入れ処理、焼戻し処理及び窒化処理は、この種の金型である加工物を得るための熱処理を行うために従来用いられている装置を利用して行われるものであり、焼入れ処理、焼戻し処理及び窒化処理はそれぞれ従来の手法により行われる。また、焼戻し処理は、真空中や不活性ガス雰囲気中で行うようにしてもよい。そして、上述した熱処理対象物の加熱処理及び焼戻し処理を行う所定時間は、熱処理対象物の寸法や形状に対応して適宜決定される。
ここで、本実施形態の熱処理を行った後の熱処理対象物の表面からの距離と硬度との関係を、図2及び図3を参照しつつ説明する。
図2は、表面から200μmまでの部位について、JIS Z2244に準拠した方法でピッカース硬度を測定した結果であり、測定の際の荷重は25gである。図2の実線aは本実施形態の熱処理方法を行ったものに対する測定結果であり、同図の破線xは加工対象物に浸炭処理を行わず、加熱、焼入れ、焼戻し、窒化処理を従来の手法で順次行ったものに対する測定結果である。なお、この測定に用いた測定片は、熱処理対象物に対し950〜1000℃で228分間その後1000〜1050℃で572分間加熱処理を行い、焼入れ処理を行った後100分間焼戻し処理を行い、その後窒化処理を行って得られた加工物から採取したものである。
図2より、本実施形態の熱処理方法を行ったものは表面から200μmの部位における硬度が約620HVであるのに対し、従来の熱処理方法を行ったものは表面から200μmの部位における硬度が約500HVであり、より深い部位まで炭素が浸透し硬度が高くなっている。
図3は、表面から3.0mmまでの部位について、JIS Z2244に準拠した方法でピッカース硬度を測定した結果であり、測定の際の荷重は300gである。図3の実線aは本実施形態の熱処理方法を行ったものに対する測定結果である。
図3より、本実施形態の熱処理方法を行ったものは、表面より約1.6mmの部位まで550HV以上の硬度を保っており、硬度が約500HVまで低下するのは表面より3.0mmの部位である。
以上に述べたように、本実施形態によれば、比較的炭素含有量が高い熱間工具鋼に対しあえて浸炭処理を行うことにより、従来のものと比較してより深い部位まで硬度が高い領域を形成することができ、深さ1〜2mmの領域まで切削しても硬度が高い領域が表面に露出することとなる。そのため、得られた加工物の金型としての寿命を従来のものと比較して長くすることもできる。
また、SKD61に対する焼入れ処理を行う直前には、熱処理対象物を通常1000〜1050℃まで加熱するが、それより低い950〜1000℃に加熱した状態で浸炭処理を行い、しかる後に真空中で本来の熱処理温度すなわち1000〜1050℃まで加熱するようにしているので、より安定して熱処理対象物の表面層に硬度が高い領域を形成することができる。
加えて、焼戻し処理後を600℃以上という高温で行うことにより、加工物である金型全体としての靱性をより確実に確保することができる。
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限らない。
例えば、焼戻し処理後の窒化処理は省略してもよい。
SKD61により作成された熱処理対象物に前述した実施形態の窒化処理以外の処理を同様の手順で行って得られた加工物の表面から3.0mmまでの部位について、JIS Z2244に準拠した方法でピッカース硬度を測定した結果を図3の破線bで示す。なお、測定の際の荷重は300gである。
図3に示すように、窒化処理を省略した場合であっても、窒化処理を行った場合とほぼ同様の硬度をほぼ同様の深さ領域まで形成することができる。
また、熱処理対象物は、SKD61以外に、SKD62等、他の熱間工具鋼であってもよい。さらに、マルテンサイト系ステンレス鋼等、他の材料に本発明の方法による熱処理を施してもよく、金型以外の加工物を得るために本発明に係る熱処理を行ってもよい。
加えて、前述した実施形態では熱処理炉内部を真空にした後アセチレンガスを炉内に導入して加熱する真空ガス浸炭と呼ばれる手法を採用しているが、炭素源としてはメタンガスや液化石油ガス等、種々のものを採用してもよい。
その上、前述した実施形態では、より安定して熱処理対象物の表面層に硬度が高い領域を形成させるべく、本来の熱処理温度よりも低温で浸炭処理を行った後炉内を真空として本来の熱処理温度に加熱しているが、炉内にアセチレンガス等の炭素源を導入した状態で本来の熱処理温度に加熱する態様を採用することを妨げない。また、焼入れ処理前に加熱する温度や加熱する時間の長さ、炭素源として使用するガスの濃度や圧力も、熱処理対象物の材質や所望の高硬度層の厚さ等に対応して適宜設定してよい。
そして、熱処理対象物が比較的小型のものであれば焼入れ処理は油浴でなく空冷により行うようにしてもよく、焼戻し処理の温度及び時間も加工物に求められる靱性等に対応して適宜設定してもよい。但し、前述したように、金型としての靱性を確保するには、焼戻し処理を600℃以上の温度で行うのが望ましい。
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変形してよい。

Claims (5)

  1. 熱処理対象物に対し、第1の所定温度下で浸炭処理を行い、
    浸炭処理に用いる炭素源を除去し、
    第1の所定温度より高い第2の所定温度に加熱し、
    その後、焼き入れ処理及び焼戻し処理を順次行う
    熱処理方法。
  2. 熱処理対象物である熱間工具鋼により作成される金型となるべき物に対し、浸炭処理を行い、
    その後、焼き入れ処理及び焼戻し処理を順次行う
    熱処理方法。
  3. 焼戻し処理を600℃以上で行う請求項1又は2記載の熱処理方法。
  4. 熱処理対象物に焼戻し処理を行った後、窒化処理を行う請求項1、2又は3記載の熱処理方法。
  5. 請求項1、2、3又は4記載の熱処理方法により形成された加工物。
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