以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図中同一又は相当する部分には同一符号を付す。
(実施形態1)
<熱膨張性シート100>
図1に、実施形態1に係る立体画像形成システム1によって立体画像を形成するための熱膨張性シート100の構成を示す。熱膨張性シート100は、予め選択された部分が膨張することによって立体画像が形成される媒体である。立体画像とは、2次元状のシートにおいて、シートのうちの一部分がシートに垂直な方向に膨張することによって形成される3次元状の画像である。
図1に示すように、熱膨張性シート100は、基材101と、熱膨張層102と、インク受容層103とを、この順に備えている。なお、図1は、立体画像が形成される前、すなわちどの部分も膨張していない状態における熱膨張性シート100の断面を示している。
基材101は、熱膨張性シート100の元となるシート状の媒体である。基材101は、熱膨張層102とインク受容層103とを支持する支持体であって、熱膨張性シート100の強度を保持する役割を担う。基材101として、例えば、一般的な印刷用紙を用いることができる。或いは、基材101の材質は、合成紙、キャンバス地等の布、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のプラスチックフィルムであっても良く、特に限定されるものではない。
熱膨張層102は、基材101の上側に積層されており、規定の温度以上に加熱されることによって膨張する層である。熱膨張層102は、バインダと、バインダ内に分散配置された熱膨張剤と、を含む。バインダは、酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等の熱可塑性樹脂である。熱膨張剤は、プロパン、ブタン等の低沸点で気化する物質を、熱可塑性樹脂の外殻に内包した、粒径が約5〜50μmの熱膨張性のマイクロカプセルである。熱膨張剤は、例えば80℃から120℃程度の温度に加熱されると、内包している物質が気化し、その圧力によって発泡及び膨張する。このようにして、熱膨張層102は、吸収した熱量に応じて膨張する。熱膨張剤は、発泡剤とも呼ぶ。
インク受容層103は、熱膨張層102の上側に積層された、インクを吸収して受容する層である。インク受容層103は、インクジェット方式のプリンタに用いられる印刷用のインク、レーザー方式のプリンタに用いられる印刷用のトナー、ボールペン又は万年筆のインク、鉛筆の黒鉛等を受容する。インク受容層103は、これらを表面に定着させるための好適な材料によって形成される。インク受容層103の材料として、例えば、インクジェット用紙に用いられている汎用的な材料を用いることができる。
図2に、熱膨張性シート100の裏面を示す。熱膨張性シート100の裏面とは、熱膨張性シート100の基材101側の面であって、基材101の裏面に相当する。これに対して、熱膨張性シート100の表面とは、熱膨張性シート100のインク受容層103側の面であって、インク受容層103の表面に相当する。
図2に示すように、熱膨張性シート100の裏面には、その縁部に沿って複数のバーコードBが付されている。バーコードBは、熱膨張性シート100を識別するための識別子であって、熱膨張性シート100が立体画像を形成するための専用のシートであることを示す情報である。バーコードBは、後述する立体画像形成システム1の膨張装置50によって読み取られ、膨張装置50において熱膨張性シート100の使用の可否を判定するための識別子である。
<立体画像形成システム1>
次に、図3を参照して、熱膨張性シート100に立体画像を形成するための立体画像形成システム1について説明する。図3に示すように、立体画像形成システム1は、端末装置30と、印刷装置40と、膨張装置50と、を備える。
端末装置30は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等の情報処理装置であって、印刷装置40及び膨張装置50を制御する制御ユニットである。図4に示すように、端末装置30は、制御部31と、記憶部32と、操作部33と、表示部34と、記録媒体駆動部35と、通信部36と、を備える。これら各部は、信号を伝達するためのバスによって接続されている。
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。制御部31において、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、端末装置30全体の動作を制御する。
記憶部32は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリであって、制御部31によって実行されるプログラム又はデータを記憶している。具体的に説明すると、記憶部32は、印刷装置40によって印刷されるカラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを記憶している。
操作部33は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパッド、タッチパネル等の入力装置を備えており、ユーザから操作を受け付ける。ユーザは、操作部33を操作することによって、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを編集する操作、印刷装置40又は膨張装置50に対する操作等を入力することができる。
表示部34は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置と、表示装置に画像を表示させる表示駆動回路と、を備える。例えば、表示部34は、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを表示する。また、表示部34は、必要に応じて、印刷装置40又は膨張装置50の現在の状態を示す情報を表示する。
記録媒体駆動部35は、可搬型の記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出す。可搬型の記録媒体とは、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、USB(Universal Serial Bus)規格のコネクタが備えられているフラッシュメモリ等である。例えば、記録媒体駆動部35は、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを、可搬型の記録媒体から読み出して取得する。
通信部36は、印刷装置40及び膨張装置50を含む外部の装置と通信するためのインタフェースを備える。端末装置30は、フレキシブルケーブル、有線LAN(Local Area Network)等の有線、又は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)等の無線を介して印刷装置40及び膨張装置50と接続されている。通信部36は、制御部31の制御の下、これらのうちの少なくとも1つの通信規格に従って、印刷装置40及び膨張装置50と通信する。
<印刷装置40>
印刷装置40は、熱膨張性シート100の表面又は裏面に画像を印刷する印刷ユニットである。印刷装置40は、インクを微滴化し、被印刷媒体に対して直接に吹き付ける方式で画像を印刷するインクジェットプリンタである。
図5に、印刷装置40の詳細な構成を示す。図5に示すように、印刷装置40は、熱膨張性シート100が搬送される方向である副走査方向D1(Y方向)に直交する主走査方向D2(X方向)に往復移動可能なキャリッジ41を備える。
キャリッジ41には、印刷を実行する印刷ヘッド42と、インクを収容したインクカートリッジ43(43k,43c,43m,43y)が取り付けられている。インクカートリッジ43k,43c,43m,43yには、それぞれ、ブラックK、シアンC、マゼンタM、及びイエローYの色インクが収容されている。各色のインクは、印刷ヘッド42の対応するノズルから吐出される。
キャリッジ41は、ガイドレール44に滑動自在に支持されており、駆動ベルト45に挟持されている。キャリッジ41は、モータ45mの回転により駆動ベルト45が駆動することで、印刷ヘッド42及びインクカートリッジ43と共に、主走査方向D2に移動する。
フレーム47の下部には、印刷ヘッド42と対向する位置に、プラテン48が設けられている。プラテン48は、主走査方向D2に延在しており、熱膨張性シート100の搬送路の一部を構成している。熱膨張性シート100の搬送路には、給紙ローラ対49a(下のローラは不図示)と排紙ローラ対49b(下のローラは不図示)とが設けられている。給紙ローラ対49aと排紙ローラ対49bとは、プラテン48に支持された熱膨張性シート100を副走査方向D1に搬送する。
印刷装置40は、フレキシブル通信ケーブル46を介して端末装置30と接続されている。端末装置30は、フレキシブル通信ケーブル46を介して、印刷ヘッド42、モータ45m、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御する。具体的に説明すると、端末装置30は、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御して、熱膨張性シート100を搬送させる。また、端末装置30は、モータ45mを回転させてキャリッジ41を移動させ、印刷ヘッド42を主走査方向D2の適切な位置に搬送させる。
印刷装置40は、端末装置30から画像データを取得し、取得した画像データに基づいて印刷を実行する。具体的に説明すると、印刷装置40は、画像データとして、カラー画像データと表面発泡データと裏面発泡データとを取得する。カラー画像データは、熱膨張性シート100の表面に印刷するカラー画像を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを熱膨張性シート100に向けて噴射させて、カラー画像を印刷する。
これに対して、表面発泡データは、熱膨張性シート100の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。また、裏面発泡データは、熱膨張性シート100の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、カーボンブラックを含むブラックKの黒色インクを熱膨張性シート100に向けて噴射させて、黒色による濃淡画像(濃淡パターン)を印刷する。カーボンブラックを含む黒色インクは、光を熱に変換する材料の一例である。
<膨張装置50>
膨張装置50は、熱膨張性シート100の表面又は裏面に光を照射し、熱膨張性シート100の表面又は裏面に印刷された濃淡画像を発熱させて、熱膨張性シート100のうちの濃淡画像が印刷された部分を膨張させる膨張ユニットである。
図6に、膨張装置50の構成を模式的に示す。図6において、X方向は、膨張装置50の幅方向に相当し、Y方向は、膨張装置50の長手方向に相当し、Z方向は、鉛直方向に相当する。X方向とY方向とZ方向とは、互いに直交する。図6に示すように、膨張装置50は、筐体51と、挿入部52と、トレイ53と、換気部54と、搬送モータ55と、搬送レール56と、照射部60と、冷却部64と、バーコードリーダ65と、電源基板69と、制御基板70と、を備える。
挿入部52は、開閉式の扉を備えており、立体画像を形成する対象となる熱膨張性シート100を筐体51の内部に挿入するための機構である。ユーザは、挿入部52を開き、トレイ53をスライドさせて手前側に引き出した後、熱膨張性シート100をその表面又は裏面を上に向けてトレイ53の上に設置する。このとき、ユーザは、熱膨張性シート100のバーコードBが付された端部が奥側に位置するように、熱膨張性シート100をトレイ53の上に設置する。そして、熱膨張性シート100が設置されたトレイ53を筐体51の内部に戻し、挿入部52を閉めると、熱膨張性シート100は、照射部60によって光を照射可能な位置に配置される。
トレイ53は、熱膨張性シート100を筐体51内の適正な位置に設置するための機構である。トレイ53は、熱膨張性シート100が設置される設置手段として機能する。図7に、熱膨張性シート100が設置された状態のトレイ53を上(Z方向)から見た様子を示す。図7に示すように、トレイ53は、四角形の枠状をした固定部材57を備えており、固定部材57によって、設置された熱膨張性シート100の4辺の縁部を上から押さえ込むことで固定する。また、トレイ53は、熱膨張性シート100を検出するセンサを備えており、熱膨張性シート100が設置されたか否か、及び、熱膨張性シート100が設置された場合にその熱膨張性シート100のサイズを検出する。
換気部54は、膨張装置50における奥側の端部に設けられており、膨張装置50の内部を換気する換気手段として機能する。換気部54は、少なくとも1つの排気ファンを備えており、筐体51の内部の空気を外部に排出することで筐体51の内部を換気する。筐体51内の空気は、冷却部64によって外部から供給されて、換気部54によって外部に排出される。換気部54は、冷却部64によって外部から供給された空気を外部に排出することによって、筐体51の内部の空気を循環させる。
搬送モータ55は、例えばパルス電力に同期して動作するステッピングモータであって、熱膨張性シート100の表面又は裏面に沿って照射部60を移動させる移動手段として機能する。筐体51の内部には、Y方向に、すなわち熱膨張性シート100の表面又は裏面に平行な方向に搬送レール56が設けられている。照射部60は、搬送レール56に沿って移動することができるように搬送レール56に取り付けられている。照射部60は、搬送モータ55の回転に伴う駆動力を動力源として、熱膨張性シート100との距離を一定に保ちながら、搬送レール56に沿って往復移動する。
具体的に説明すると、照射部60は、熱膨張性シート100の奥側の端部に対応する第1の位置P1と、熱膨張性シート100の手前側の端部に対応する第2の位置P2と、の間で往復移動する。第1の位置P1は、照射部60の初期位置(ホームポジション)である。照射部60は、膨張装置50が動作していない時には第1の位置P1で待機している。
第1の位置P1は、筐体51内の挿入部52が設けられた側とは反対側の位置であり、第2の位置P2は、筐体51内の挿入部52が設けられた側の位置である。言い換えると、第1の位置P1は、第2の位置P2よりも、膨張装置50において熱膨張性シート100が挿入される側の端部から離れた位置である。このように照射部60の初期位置が筐体51内における挿入部52とは反対側に設けられていることで、熱膨張性シート100を筐体51内に挿入する際にユーザが照射部60に触れないようにできる。そのため、ユーザは、熱膨張性シート100を円滑に設置することができる。
照射部60は、光を照射する機構である。照射部60は、トレイ53の上に配置された熱膨張性シート100に光を照射する照射手段として機能する。図6に示すように、照射部60は、ランプヒータ61と、反射板62と、温度センサ63と、冷却部64と、バーコードリーダ65と、を備える。
ランプヒータ61は、例えばハロゲンランプを備えており、熱膨張性シート100に対して、近赤外領域(波長750〜1400nm)、可視光領域(波長380〜750nm)、又は、中赤外領域(波長1400〜4000nm)の光を照射する。カーボンブラックを含む黒色インクによる濃淡画像が印刷された熱膨張性シート100に光を照射すると、濃淡画像が印刷された部分では、濃淡画像が印刷されていない部分に比べて、より効率良く光が熱に変換される。そのため、熱膨張性シート100のうちの濃淡画像が印刷された部分が主に加熱され、熱膨張剤が膨張を開始する温度に達すると膨張する。
反射板62は、ランプヒータ61の上側を覆うように配置されており、ランプヒータ61から照射された光を熱膨張性シート100に向けて反射する機構である。温度センサ63は、熱電対、サーミスタ等であって、反射板62の温度を測定する測定手段として機能する。
冷却部64は、反射板62の上側に設けられており、膨張装置50の内部を冷却する冷却手段として機能する。冷却部64は、少なくとも1つの給気ファンを備えており、膨張装置50の外部から照射部60に空気を送ることによって、照射部60を冷却する。具体的に説明すると、冷却部64は、冷却部64の上部に設けられた給気口から膨張装置50の外部の空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を照射部60に送る。冷却部64によって吸い込まれた空気は、反射板62に供給され、反射板62が空気冷却される。また、冷却部64によって吸い込まれた空気は、照射部60を通って膨張装置50の内部に供給され、トレイ53に設置された熱膨張性シート100を含む筐体51内の各部が冷却される。
バーコードリーダ65は、熱膨張性シート100の裏面に付されたバーコードBを読み取る読み取り手段として機能する。バーコードリーダ65は、熱膨張性シート100が表面を上側に向けて膨張装置50に挿入された場合、熱膨張性シート100の裏面に付されたバーコードBを、図示しないリフレクタを介して読み取る。リフレクタは、トレイ53の奥側の端部に設置されており、バーコードリーダ65がバーコードBを逆側から読み取ることができるようにするための反射鏡である。これに対して、熱膨張性シート100が裏面を上側に向けて膨張装置50に挿入された場合、バーコードリーダ65は、熱膨張性シート100の裏面に付されたバーコードBを、リフレクタを介さずに直接読み取る。
膨張装置50は、バーコードリーダ65によってバーコードBを読み取ることができたか否かに応じて、トレイ53に設置された媒体が膨張装置50で使用可能か否かを判別する。立体画像を形成するための専用のシートではない媒体が膨張装置50に挿入されると、膨張装置50が正常に動作しない可能性がある。そのため、膨張装置50は、バーコードリーダ65によってバーコードBを読み取れなかった場合には、照射部60による光照射処理を開始しない。これにより、膨張装置50の誤動作を抑制する。
電源基板69は、電源IC(Integrated Circuit)等を備え、膨張装置50内の各部に必要な電源を作り出して供給する。例えば、換気部54、搬送モータ55、ランプヒータ61及び冷却部64は、電源基板69から電力を得て動作する。
制御基板70は、筐体51の下部に配置された基板上に設けられており、膨張装置50の各部の動作を制御する。図8に示すように、制御基板70は、制御部71と、記憶部72と、計時部73と、通信部74と、を備える。
制御部71は、CPU、ROM及びRAMを備えており、命令やデータを転送するための伝送経路であるシステムバスを介して膨張装置50の各部と接続されている。CPUは、例えばマイクロプロセッサ等であって、様々な処理や演算を実行する中央演算処理部である。制御部71において、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、膨張装置50全体の動作を制御する。
記憶部72は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリである。記憶部72は、制御部71によって実行されるプログラム又はデータ、及び、制御部71が各種処理を行うことにより生成又は取得するデータを記憶する。計時部73は、RTC(Real Time Clock)等の計時デバイスを備えており、膨張装置50の電源がオフの間も計時を継続する。
通信部74は、端末装置30と通信するためのインタフェースを備える。通信部74は、制御部71の制御の下、端末装置30と有線又は無線で通信する。例えば、通信部74は、端末装置30においてユーザから入力された光照射処理を開始する指示を、端末装置30から取得する。また、通信部74は、膨張装置50の現在の状態を示す情報を端末装置30に送信する。
制御部71は、換気部54、搬送モータ55、照射部60及び冷却部64の動作を制御する制御手段として機能する。具体的に説明すると、制御部71は、熱膨張性シート100を膨張させる膨張処理と、膨張装置50の内部を冷却する冷却処理と、を実行する。以下、順に説明する。
<膨張処理>
制御部71は、トレイ53に設置された状態の熱膨張性シート100に対して照射部60により光を照射させることによって熱膨張性シート100を膨張させる膨張処理を実行する。具体的に説明すると、制御部71は、熱膨張性シート100が規定の温度以上に加熱されるように、照射部60に光を照射させながら搬送モータ55によって照射部60を移動させて、熱膨張性シート100を膨張させる。
図9に、膨張装置50が膨張処理を実行する様子を示す。膨張処理において、制御部71は、照射部60に電源電圧を供給してランプヒータ61を点灯させる。このとき、制御部71は、照射部60に供給する電源電圧を調整することによって、照射部60に所定の強度の光を照射させる。そして、制御部71は、照射部60に光を照射させている状態で搬送モータ55を駆動させることによって、照射部60を、第1の位置P1から第2の位置P2に向けて、所定の速度で移動させる。なお、膨張処理において、換気部54及び冷却部64は駆動していない。
照射部60によって光が照射されると、熱膨張性シート100のうちのカーボンブラックを含む濃淡画像が印刷された部分は発熱し、規定の温度にまで加熱されると膨張する。規定の温度は、熱膨張層102に含まれる熱膨張剤が膨張を開始する温度であって、例えば80℃から120℃程度の温度である。所定の強度及び所定の速度は、熱膨張性シート100を規定の温度以上の温度に加熱することができるように、予め設定される。
例えば、照射部60によって照射される光の強度が高くなるほど、熱膨張性シート100はより多くの光を受けるため、より加熱される。また、照射部60の移動速度が低くなるほど、照射時間が長くなるため、熱膨張性シート100はより加熱される。そのため、照射部60によって照射させる光の強度と照射部60の移動速度とのうちの少なくとも一方を調整することによって、熱膨張性シート100の各部分に加える熱量を調整することができる。
所定の強度及び所定の速度は、このような関係を考慮して、熱膨張性シート100に十分な熱量を加えることができる値に設定される。制御部71は、所定の強度で光を照射している照射部60を所定の速度で移動させることによって、熱膨張性シート100のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱する。これにより、熱膨張性シート100は、濃淡画像における黒色の濃さに応じた高さに膨張する。
<冷却処理>
膨張処理を実行した後、制御部71は、熱膨張性シート100がトレイ53に設置された状態を維持したままで冷却部64により熱膨張性シート100冷却させる冷却処理を実行する。
膨張処理によって、熱膨張性シート100を含む筐体51の内部は、多くの熱を含んでいる。熱膨張性シート100は、熱を含むと、その形状が歪んで変形することがある。例えば、熱膨張性シート100は、熱膨張性シート100に含まれる複数の層の熱特性の違いによって弓なりに曲がる、すなわち反ることがある。このような熱膨張性シート100の反りを抑制するため、制御部71は、膨張処理を実行した後、冷却部64を駆動させることによって、筐体51の内部及び熱膨張性シート100を冷却する。
図10に、膨張装置50が冷却処理を実行する様子を示す。膨張処理の直後、照射部60は、膨張装置50の手前側である第2の位置P2に到達している。冷却処理において、制御部71は、搬送モータ55によって照射部60を移動させながら冷却部64に膨張装置50の内部を冷却させる。具体的に説明すると、制御部71は、照射部60に対する電源電圧の供給を止めてランプヒータ61を消灯させる。そして、制御部71は、冷却部64を駆動させて、筐体51の外部の空気を筐体51の内部に供給する。制御部71は、冷却部64に冷却させている状態で搬送モータ55を駆動させることによって、照射部60を、第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる。
このとき、制御部71は、換気部54を駆動させて、筐体51内の空気を外部に排出する。このように冷却部64と換気部54とが駆動することによって、図10に示すように、冷却部64によって外部から供給された空気は、膨張装置50の奥側に流れ、換気部54から外部に排出される。
冷却部64は、照射部60に取り付けられているため、照射部60と共に移動する。そのため、照射部60を移動させながら冷却部64を駆動させることによって、筐体51の外部の空気を筐体51の内部に広く供給することができ、熱膨張性シート100の全体を満遍なく冷却することができる。このように、制御部71は、膨張処理を実行した後の熱膨張性シート100を、冷却部64を移動させながら、その4辺の縁部がトレイ53に固定されている状態で冷却する。これにより、熱膨張性シート100がトレイ53から取り外された後に反ることを抑制することができる。
<立体画像形成処理>
以上のように構成された立体画像形成システム1において実行される立体画像形成処理の流れについて、図11に示すフローチャート及び図12(a)〜(e)に示す熱膨張性シート100の断面図を参照して説明する。
第1に、ユーザは、立体画像が形成される前の熱膨張性シート100を準備し、端末装置30の操作部33を介して、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを指定する。そして、熱膨張性シート100を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート100の表面に光熱変換層104を印刷する(ステップS1)。光熱変換層104は、光を熱に変換する材料、具体的にはカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷装置40は、指定された表面発泡データに従って、熱膨張性シート100の表面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図12(a)に示すように、インク受容層103上に光熱変換層104が形成される。
第2に、ユーザは、光熱変換層104が印刷された熱膨張性シート100を、その表面を上側に向けて膨張装置50に挿入する。膨張装置50は、挿入された熱膨張性シート100の表面に照射部60によって光を照射する(ステップS2)。熱膨張性シート100の表面に印刷された光熱変換層104は、照射された光を吸収することによって発熱する。その結果、図12(b)に示すように、熱膨張性シート100のうちの光熱変換層104が印刷された部分が盛り上がって膨張する。
第3に、ユーザは、表面が加熱されて膨張した熱膨張性シート100を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート100の表面にカラーインク層105を印刷する(ステップS3)。具体的に説明すると、印刷装置40は、指定されたカラー画像データに従って、熱膨張性シート100の表面に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを吐出する。その結果、図12(c)に示すように、インク受容層103及び光熱変換層104の上にカラーインク層105が形成される。
なお、印刷装置40は、カラーインク層105において黒又はグレーの色の画像を印刷する場合には、シアンC、マゼンタM及びイエローYの3色のインクを混色して形成するか、或いはカーボンブラックを含まない黒色のインクを更に使用することによって形成する。これによって、カラーインク層105が形成された部分が膨張装置50において加熱されることを回避する。
第4に、ユーザは、カラーインク層105が印刷された熱膨張性シート100を裏返して、その裏面を上側に向けて膨張装置50に挿入する。膨張装置50は、挿入された熱膨張性シート100の裏面に照射部60によって光を照射し、熱膨張性シート100を裏面から加熱する。これにより、膨張装置50は、カラーインク層105中に含まれる溶媒を揮発させて、カラーインク層105を乾燥させる(ステップS4)。カラーインク層105を乾燥させることによって、後の工程で熱膨張性シート100を膨張させ易くする。
第5に、ユーザは、カラーインク層105が印刷された熱膨張性シート100を、その裏面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート100の裏面に光熱変換層106を印刷する(ステップS5)。光熱変換層106は、熱膨張性シート100の表面に印刷された光熱変換層104と同様に、光を熱に変換する材料、具体的にはカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷装置40は、指定された裏面発泡データに従って、熱膨張性シート100の裏面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図12(d)に示すように、基材101の裏面に光熱変換層106が形成される。
第6に、ユーザは、光熱変換層106が印刷された熱膨張性シート100を、その裏面を上側に向けて膨張装置50に挿入する。膨張装置50は、挿入された熱膨張性シート100の裏面に、照射部60によって光を照射する(ステップS6)。熱膨張性シート100の裏面に印刷された光熱変換層106は、照射された光を吸収することによって発熱する。その結果、図12(e)に示すように、熱膨張性シート100のうちの光熱変換層106が印刷された部分が盛り上がって膨張する。
なお、図12(a)〜(e)では、理解を容易にするため、光熱変換層104及びカラーインク層105は、インク受容層103の上に形成されているように示されている。しかしながら、より正確には、カラーインク及び黒色インクは、インク受容層103の内部に吸収されるため、インク受容層103の中に形成される。
以上のように、熱膨張性シート100のうちの光熱変換層104,106が形成された部分が膨張することによって、熱膨張性シート100にカラーの立体画像が形成される。光熱変換層104,106は、その濃度が濃い部分ほど大きく加熱されるため、より大きく膨張する。そのため、目標となる高さに応じて光熱変換層104,106の濃淡を調整することで、様々な形状の立体画像を得ることができる。
なお、熱膨張性シート100を表面から加熱する処理と裏面から加熱する処理とのうちのどちらか一方を省略しても良い。例えば、熱膨張性シート100の表面のみを加熱して膨張させる場合には、図11におけるステップS5,S6は省略される。これに対して、熱膨張性シート100の裏面のみを加熱して膨張させる場合には、図11におけるステップS1,S2は省略される。また、ステップS3におけるカラー画像の印刷は、ステップS6における熱膨張性シート100を裏面から加熱する処理の後で実行されても良い。
また、モノクロの立体画像を形成する場合には、印刷装置40は、ステップS3において、カラー画像の代わりにモノクロ画像を印刷しても良い。この場合、インク受容層103及び光熱変換層104の上には、カラーインク層105の代わりに黒インクによる層が形成される。
次に、図13に示すフローチャートを参照して、ステップS2,S6において、膨張装置50によって実行される処理の詳細について説明する。
ステップS2において、ユーザは、熱膨張性シート100をその表面を上側に向けてトレイ53に設置して、膨張装置50に挿入する。また、ステップS6において、ユーザは、熱膨張性シート100をその裏面を上側に向けてトレイ53に設置して、膨張装置50に挿入する。その後、ユーザは、端末装置30の操作部33を操作して、熱膨張性シート100を膨張させる指示を入力する。膨張装置50の制御部71は、このようにしてユーザから入力された指示を端末装置30から受信すると、図13に示す処理を開始する。
処理を開始すると、制御部71は、熱膨張性シート100が正しく設置されているか否かを判定する(ステップS11)。具体的に説明すると、制御部71は、トレイ53に設けられたセンサを介して、トレイ53上の適正な位置に熱膨張性シート100が設置されているか否かを判定する。
熱膨張性シート100が正しく設置されていない場合(ステップS11;NO)、制御部71は、処理をステップS11に留める。このとき、制御部71は、警告を発することで、熱膨張性シート100が正しく設置されていない旨をユーザに報知し、熱膨張性シート100を正しく設置するようにユーザに要求する。
熱膨張性シート100が正しく設置されている場合(ステップS11;YES)、制御部71は、バーコードリーダ65を介して熱膨張性シート100の裏面に付されたバーコードBを読み取れたか否かを判定する(ステップS12)。バーコードBは、熱膨張性シート100の使用の可否を判定するための識別子であって、トレイ53に設置された熱膨張性シート100の奥側の端部に設けられている。
熱膨張性シート100に付されたバーコードBを読み取ることがでなかった場合(ステップS12;NO)、制御部71は、処理をステップS11に戻す。このとき、制御部71は、熱膨張性シート100が使用できない旨をユーザに報知して、熱膨張性シート100を適正なものに交換するようにユーザに要求する。
バーコードBを読み取ることができた場合(ステップS12;YES)、制御部71は、プレヒートを実行する(ステップS13)。プレヒートとは、膨張装置50が主要動作を開始する前に、照射部60を予備的に加熱する処理である。具体的に説明すると、制御部71は、ランプヒータ61を点灯させて、照射部60を予め定められた温度まで加熱した後、冷却部64を駆動させて、照射部60を冷却する。
プレヒートを実行すると、制御部71は、膨張処理を実行する(ステップS14)。具体的に説明すると、制御部71は、ランプヒータ61を点灯させて、照射部60に所定の強度の光を照射させる。そして、制御部71は、図9に示したように、搬送モータ55を駆動させることによって、所定の強度で光を照射している照射部60を、第1の位置P1から第2の位置P2に向けて、所定の速度で移動させる。これにより、制御部71は、熱膨張性シート100のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱して、熱膨張性シート100を膨張させる。ステップS14は、膨張ステップの一例である。
膨張処理を実行した後、制御部71は、冷却処理を実行する(ステップS15)。具体的に説明すると、制御部71は、ランプヒータ61を消灯させて照射部60に光の照射を停止させ、且つ、冷却部64を駆動させる。そして、制御部71は、図10に示したように、冷却部64に冷却させている状態で搬送モータ55を駆動させることによって、照射部60を、第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる。これにより、制御部71は、膨張処理において加熱された熱膨張性シート100を冷却させて、熱膨張性シート100が反ることを抑制する。ステップS15は、冷却ステップの一例である。
以上説明したように、実施形態1に係る膨張装置50は、熱膨張性シート100に沿って照射部60を移動させながら照射部60に光を照射させることによって、熱膨張性シート100を膨張させる装置であって、熱膨張性シート100の膨張処理を実行した後、膨張装置50の内部の冷却処理を実行する。膨張処理の後に冷却処理を実行することによって、膨張処理において加熱された熱膨張性シート100を冷却することができるため、熱膨張性シート100が反って変形することを抑制できる。
特に、実施形態1に係る膨張装置50は、熱膨張性シート100を移動させる方式では無く、照射部60を移動させる方式で熱膨張性シート100を加熱する。そのため、膨張処理を実行した後に、照射部60を移動させながら光を照射させるという簡便な方法で、熱膨張性シート100を冷却することができる。
また、実施形態1に係る膨張装置50は、照射部60を第1の位置P1から第2の位置P2に向けて移動させる際に膨張処理を実行し、照射部60を第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる際に冷却処理を実行する。このように、膨張装置50は、第1の位置P1と第2の位置P2との間で照射部60を1回往復させる間に、膨張処理と冷却処理とを実行するため、膨張処理と冷却処理とを効率良く実行することができる。
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について説明する。実施形態2において、実施形態1と同様の構成については説明を省略する。
実施形態1では、膨張装置50は、熱膨張性シート100を膨張させる膨張処理と、膨張装置50の内部を冷却する冷却処理と、を実行した。これに対して、実施形態2では、膨張装置50は、膨張処理と冷却処理とに加えて、熱膨張性シート100を乾燥させる乾燥処理と、膨張装置50の内部を換気する換気処理と、を実行する。
図14に、実施形態2に係る膨張装置50によって実行される処理の流れを示す。図14に示す処理は、図13と同様に、熱膨張性シート100がその表面又は裏面を上側に向けて膨張装置50に挿入された状態で、端末装置30を介してユーザから熱膨張性シート100を膨張させる指示を受け付けると、開始する。なお、図14におけるステップS21〜S23の処理は、図13におけるステップS11〜S13の処理と同様であるため、説明を省略する。
<乾燥処理>
ステップS23においてプレヒートを実行すると、制御部71は、乾燥処理を実行する(ステップS24)。乾燥処理において、制御部71は、熱膨張性シート100が規定の温度未満に維持されるように、搬送モータ55によって照射部60を移動させながら照射部60に光を照射させることによって、熱膨張性シート100を乾燥させる。ステップS24は、乾燥ステップの一例である。
熱膨張性シート100は、例えば印刷装置40において塗布されたインクが十分に乾燥していない場合、又は周囲の環境等の要因によって、水分を含むことがある。熱膨張性シート100が多くの水分を含んでいると、熱膨張性シート100を膨張させる際に熱膨張性シート100が必要な温度まで加熱されずに、熱膨張性シート100を所望の高さまで膨張させ難くなる。このような事態を抑制して熱膨張性シート100を精度良く膨張させるため、膨張装置50は、熱膨張性シート100の膨張処理を実行する前に、熱膨張性シート100の乾燥処理を実行する。
図15に、膨張装置50が乾燥処理を実行する様子を示す。乾燥処理において、制御部71は、照射部60に電源電圧を供給してランプヒータ61を点灯させる。このとき、制御部71は、照射部60に供給する電源電圧を調整することによって、照射部60に第1の強度の光を照射させる。そして、制御部71は、照射部60に光を照射させている状態で搬送モータ55を駆動させることによって、照射部60を、第1の位置P1から第2の位置P2に向けて、第1の速度で移動させる。なお、乾燥処理において、換気部54及び冷却部64は駆動していない。
照射部60によって光が照射されると、熱膨張性シート100のうちのカーボンブラックを含む濃淡画像が印刷された部分は発熱する。乾燥処理において、制御部71は、熱膨張性シート100を膨張させずに乾燥させる。そのため、第1の強度及び第1の速度は、熱膨張性シート100を、熱膨張剤が膨張を開始する規定の温度未満に維持することができるように、言い換えると熱膨張性シート100が規定の温度以上には加熱されないように、予め設定される。
例えば、照射部60によって照射される光の強度が高くなるほど、熱膨張性シート100はより多くの量の光を受けるため、より加熱される。また、照射部60の移動速度が低くなるほど、照射時間が長くなるため、熱膨張性シート100はより加熱される。そのため、照射部60によって照射させる光の強度と照射部60の移動速度とのうちの少なくとも一方を調整することによって、熱膨張性シート100の各部分に加える熱量を調整することができる。
第1の強度及び第1の速度は、このような関係を考慮して、熱膨張性シート100に膨張しない程度の熱量を加えることができる値に設定される。制御部71は、第1の強度で光を照射している照射部60を第1の速度で移動させることによって、熱膨張性シート100を規定の温度未満の温度に維持する。これによって、熱膨張性シート100に含まれる水分を蒸発させて乾燥させる。
<換気処理>
乾燥処理を実行した後、制御部71は、換気処理を実行する(ステップS25)。換気処理において、制御部71は、搬送モータ55によって照射部60を移動させながら換気部54に膨張装置50の内部を換気させる。ステップS25は、換気ステップの一例である。
乾燥処理によって、筐体51内の空気は、熱膨張性シート100から蒸発した水分を含んでいる。このような筐体51内の水分を除去するために、制御部71は、乾燥処理を実行した後、換気部54を駆動させることによって、筐体51の内部を換気する。
図16に、膨張装置50が換気処理を実行する様子を示す。換気処理において、換気部54は、乾燥処理において照射部60が熱膨張性シート100に沿って移動した後の復路において、照射部60が移動する方向に膨張装置50の内部の空気を送って膨張装置50の外部に排出することで、膨張装置50の内部を換気する。具体的に説明すると、乾燥処理の直後、照射部60は、膨張装置50の手前側である第2の位置P2に到達している。換気処理において、制御部71は、照射部60に対する電源電圧の供給を止めてランプヒータ61を消灯させる。そして、制御部71は、換気部54を駆動させて、筐体51内の空気を外部に排気させる。制御部71は、換気部54に換気させている状態で搬送モータ55を駆動させることによって、照射部60を、第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる。
乾燥処理では、照射部60が第1の位置P1から第2の位置P2に向けて移動するため、熱膨張性シート100から蒸発した水分は、照射部60よりも奥側に多く含まれている。換気部54は、膨張装置50の奥側の端部に設置されているため、照射部60よりも奥側に含まれる水分を効率良く除去することができる。特に、照射部60を手前側から奥側に向けて移動させることによって、筐体51内の空気を奥側に向けて送ることができるため、奥側の端部に設置された換気部54から効率良く換気することができる。
<膨張処理>
換気処理を実行した後、制御部71は、膨張処理を実行する(ステップS26)。実施形態2における膨張処理は、実施形態1における膨張処理と同様である。ステップS26は、膨張ステップの一例である。
具体的に説明すると、制御部71は、ランプヒータ61を点灯させて、照射部60に第2の強度の光を照射させる。そして、制御部71は、図9に示したように、搬送モータ55を駆動させることによって、第2の強度で光を照射している照射部60を、第1の位置P1から第2の位置P2に向けて、第2の速度で移動させる。これにより、制御部71は、熱膨張性シート100のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱して、熱膨張性シート100を膨張させる。
ここで、乾燥処理に比べて熱膨張性シート100に多くの光を照射させるため、第2の強度は、乾燥処理における第1の強度よりも高い値に設定される。一例として、第2の強度は、第1の強度の2倍から3倍程度の強度に設定される。また、第2の強度が第1の強度よりも高い値に設定されると共に、又はこれに代えて、第2の速度は、乾燥処理における第1の速度よりも低い値に設定される。一例として、第2の速度は、第1の速度の半分から3分の1程度の速度に設定される。第2の速度が第1の速度よりも低い値に設定されることによって、乾燥処理に比べて照射部60の移動時間が長くなるため、より多くの光を熱膨張性シート100に照射することができる。
<冷却処理>
膨張処理を実行した後、制御部71は、冷却処理を実行する(ステップS27)。実施形態2における冷却処理は、実施形態1における冷却処理と同様である。ステップS27は、冷却ステップの一例である。
具体的に説明すると、制御部71は、ランプヒータ61を消灯させて照射部60に光の照射を停止させ、且つ、冷却部64を駆動させる。そして、制御部71は、図10に示したように、冷却部64に冷却させている状態で搬送モータ55を駆動させることによって、照射部60を、第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる。これにより、制御部71は、膨張処理において加熱された熱膨張性シート100を冷却させて、熱膨張性シート100が反ることを抑制する。
以上説明したように、実施形態2に係る膨張装置50は、熱膨張性シート100の膨張処理を実行する前に、乾燥処理と換気処理とを実行する。膨張処理の前に乾燥処理を実行することによって、膨張処理において熱膨張性シート100が加熱し難くなることを抑制することができるため、熱膨張性シート100を精度良く膨張させることができる。また、乾燥処理の後に換気処理を実行することによって、乾燥処理によって熱膨張性シート100から蒸発した水分を膨張装置50の内部から除去することができる。
また、実施形態2に係る膨張装置50は、照射部60を第1の位置P1から第2の位置P2に向けて移動させる際に乾燥処理を実行し、照射部60を第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる際に換気処理を実行し、照射部60を第1の位置P1から第2の位置P2に向けて移動させる際に膨張処理を実行し、照射部60を第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる際に冷却処理を実行する。このように、膨張装置50は、第1の位置P1と第2の位置P2との間で照射部60を2回往復させる間に、乾燥処理と換気処理と膨張処理と冷却処理を実行するため、これら4つの処理を効率良く実行することができる。
(変形例)
以上に本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例であり、本発明の適用範囲はこれに限られない。すなわち、本発明の実施形態は種々の応用が可能であり、あらゆる実施形態が本発明の範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態では、制御部71は、乾燥処理、換気処理、膨張処理及び冷却処理のそれぞれを、照射部60を第1の位置P1から第2の位置P2に向けて移動させる際に、又は、照射部60を第2の位置P2から第1の位置P1に向けて移動させる際に、実行した。しかしながら、本発明において、制御部71は、これら各処理を往路又は復路のみで実行することに限らず、必要であれば、各処理を実行するために、照射部60を第1の位置P1と第2の位置P2との間で1回又は複数回往復させても良い。
また、乾燥処理、換気処理、膨張処理及び冷却処理を実行する回数又は順序は、上記実施形態で説明したものに限らない。例えば、制御部71は、膨張処理の後に換気処理を実行しても良いし、乾燥処理又は換気処理を省略しても良い。
上記実施形態では、制御部71は、搬送モータ55により照射部60が第2の位置P2から第1の位置P1に戻されるときに、冷却処理を実行した。しかしながら、本発明において、制御部71は、膨張処理の後に熱膨張性シート100を含む膨張装置50の内部を冷却できさえすれば、照射部60が移動していないときに冷却処理を実行しても良い。
上記実施形態では、冷却部64は、照射部60に取り付けられており、照射部60と共に移動した。しかしながら、本発明において、冷却部64は、熱膨張性シート100を含む膨張装置50の内部を冷却することができれば、照射部60以外の場所に設けられていても良い。また、上記実施形態では、換気部54は、膨張装置50の奥側の端部に設けられていた。しかしながら、本発明において、換気部54は、膨張装置50の内部を換気することができれば、その他の場所に設けられていても良い。
上記実施形態では、照射部60の初期位置(ホームポジション)は、膨張装置50の奥側であった。しかしながら、照射部60の初期位置は、膨張装置50の手前側であっても良い。照射部60の初期位置が膨張装置50の手前側である場合、第1の位置P1と第2の位置P2との位置関係を逆にすることで、上記実施形態と同様に説明することができる。
上記実施形態では、トレイ53は、図7に示したように、固定部材57によって熱膨張性シート100の4辺を押さえ込むように構成されていた。しかしながら、本発明において、トレイ53は、熱膨張性シート100を固定することができれば、4辺の全てを押さえ込まなくても良い。例えば図17(a),(b)に示すように、トレイ53は、2つの棒状の固定部材57によって、互いに対向する2辺を押さえ込むように構成されても良い。或いは、図17(c),(d)に示すように、トレイ53は、2つの点状の固定部材57によって、互いに対向する2辺を押さえ込むように構成されても良い。このように、トレイ53は、熱膨張性シート100の4辺のうちの少なくとも互いに対向する2辺を押さえ込むように構成されていても良い。
更に、図18(a)に示すように、トレイ53は、4つの点状の固定部材57によって、熱膨張性シート100の四隅を押さえ込むように構成されても良い。或いは、図18(b),(c)に示すように、トレイ53は、2つの点状の固定部材57によって、熱膨張性シート100の四隅のうちの互いに対向する2つの隅を押さえ込むように構成されても良い。互いに対向する2つの隅とは、長方形状の熱膨張性シート100において対角線で結ばれる2つの隅である。このように、トレイ53は、熱膨張性シート100の四隅のうちの少なくとも互いに対向する2つの隅を押さえ込むように構成されていても良い。
上記実施形態では、熱膨張性シート100は、基材101と熱膨張層102とインク受容層103とを備えていた。しかしながら、本発明において、熱膨張性シート100の構成はこれに限らない。例えば、熱膨張性シート100は、インク受容層103を備えなくても良い。或いは、熱膨張性シート100は、基材101と熱膨張層102との間、又は、熱膨張層102とインク受容層103との間に、他の任意の材料による層を備えていても良い。
上記実施形態では、端末装置30と印刷装置40と膨張装置50とは、それぞれ独立した装置であった。しかしながら、本発明において、端末装置30と印刷装置40と膨張装置50とのうちの少なくともいずれか2つが一体となっていても良い。
印刷装置40の印刷方式は、インクジェット方式に限らない。例えば、印刷装置40は、レーザー方式のプリンタであって、トナーと現像剤とによって画像を印刷しても良い。また、光熱変換層104,106は、光を熱に変換しやすい材料であれば、カーボンブラックを含む黒インク以外の材料によって形成されても良い。この場合、光熱変換層104,106は、印刷装置40以外の手段によって形成されるものであっても良い。
上記実施形態において、膨張装置50の制御部71は、CPUを備えており、CPUの機能によって、熱膨張性シート100を乾燥させる乾燥処理と、膨張装置50の内部を換気する換気処理と、熱膨張性シート100を膨張させる膨張処理と、膨張装置50の内部を冷却する冷却処理と、を実行した。しかし、本発明に係る膨張装置50において、制御部71は、CPUの代わりに、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、各種制御回路等の専用のハードウェアを備え、専用のハードウェアが、乾燥処理、換気処理、膨張処理及び冷却処理のそれぞれを実行しても良い。この場合、各処理を個別のハードウェアで実行しても良いし、各処理をまとめて単一のハードウェアで実行しても良い。また、各処理のうち、一部を専用のハードウェアによって実行し、他の一部をソフトウェア又はファームウェアによって実行しても良い。
なお、本発明に係る機能を実現するための構成を予め備えた膨張装置として提供できることはもとより、プログラムの適用により、膨張装置を制御するコンピュータに、上記実施形態で例示した膨張装置50による各機能構成を実現させることもできる。すなわち、上記実施形態で例示した膨張装置50による各機能構成を実現させるためのプログラムを、既存の情報処理装置等を制御するCPU等が実行できるように適用することができる。
このようなプログラムの適用方法は任意である。プログラムを、例えば、フレキシブルディスク、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納して適用できる。さらに、プログラムを搬送波に重畳し、インターネットなどの通信媒体を介して適用することもできる。例えば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)にプログラムを掲示して配信してもよい。そして、このプログラムを起動し、OS(Operating System)の制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上記の処理を実行できるように構成してもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(付記1)
熱膨張性シートが設置される設置手段と、
前記設置手段に設置された状態の熱膨張性シートに対して照射手段により光を照射させることによって前記熱膨張性シートを膨張させる膨張処理を実行した後、前記熱膨張性シートが前記設置手段に設置された状態を維持したままで所定の冷却手段により前記熱膨張性シートを冷却させる冷却処理を実行する制御手段と、
を備えることを特徴とする膨張装置。
(付記2)
前記照射手段を第1の位置と第2の位置との間で往復移動可能に構成された移動手段を備え、
前記制御手段は、前記移動手段により前記照射手段が前記第1の位置から前記第2の位置に向けて移動されるときに前記膨張処理を実行し、前記移動手段により前記照射手段が前記第2の位置から前記第1の位置に戻されるときに、又は前記照射手段が移動していないときに、前記冷却処理を実行する、
ことを特徴とする付記1に記載の膨張装置。
(付記3)
前記設置手段は前記熱膨張性シートの少なくとも互いに対向する2つの隅を押さえ込むように構成されていることを特徴とする付記1又は2に記載の膨張装置。
(付記4)
前記設置手段は前記熱膨張性シートの少なくとも互いに対向する2辺を押さえ込むように構成されていることを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の膨張装置。
(付記5)
前記冷却手段は、前記照射手段に取り付けられている、
ことを特徴とする付記1から4のいずれか1つに記載の膨張装置。
(付記6)
前記冷却手段は、前記膨張装置の外部から前記照射手段に空気を送ることによって、前記照射手段を冷却する、
ことを特徴とする付記5に記載の膨張装置。
(付記7)
前記熱膨張性シートは、規定の温度以上に加熱されることによって膨張し、
前記制御手段は、前記熱膨張性シートが前記規定の温度未満に維持されるように、前記移動手段によって前記照射手段を移動させながら前記照射手段に光を照射させることによって、前記熱膨張性シートを乾燥させる乾燥処理を実行した後、前記熱膨張性シートが前記規定の温度以上に加熱されるように、前記移動手段によって前記照射手段を移動させながら前記照射手段に光を照射させることによって、前記熱膨張性シートを膨張させる前記膨張処理を実行する、
ことを特徴とする付記2に記載の膨張装置。
(付記8)
前記膨張装置の内部を換気する換気手段、を更に備え、
前記制御手段は、前記乾燥処理を実行した後であって、前記膨張処理を実行する前に、前記移動手段によって前記照射手段を移動させながら前記換気手段に前記膨張装置の内部を換気させる換気処理を実行する、
ことを特徴とする付記7に記載の膨張装置。
(付記9)
前記換気手段は、前記乾燥処理において前記照射手段が前記熱膨張性シートに沿って移動した後の復路において、前記照射手段が移動する方向に前記膨張装置の内部の空気を送って前記膨張装置の外部に排出することで、前記膨張装置の内部を換気することを特徴とする付記8に記載の膨張装置。
(付記10)
前記移動手段は、前記照射手段を第1の位置と第2の位置との間で往復移動させ、
前記制御手段は、前記乾燥処理では、前記移動手段によって前記照射手段を前記第1の位置から前記第2の位置に向けて移動させ、前記換気処理では、前記移動手段によって前記照射手段を前記第2の位置から前記第1の位置に向けて移動させ、前記膨張処理では、前記移動手段によって前記照射手段を前記第1の位置から前記第2の位置に向けて移動させ、前記冷却処理では、前記移動手段によって前記照射手段を前記第2の位置から前記第1の位置に向けて移動させる、
ことを特徴とする付記8又は9に記載の膨張装置。
(付記11)
前記第1の位置は、前記第2の位置よりも、前記膨張装置において前記熱膨張性シートが挿入される側の端部から離れた位置である、
ことを特徴とする付記2又は10に記載の膨張装置。
(付記12)
付記1から11のいずれか1つに記載の膨張装置と、
前記熱膨張性シートの表面又は裏面に、前記照射手段によって照射される光を熱に変換する光熱変換層を印刷する印刷装置と、を備え、
前記制御手段は、前記印刷装置によって前記光熱変換層が印刷された前記熱膨張性シートに対して、前記膨張処理と前記冷却処理とを実行する、
ことを特徴とする立体画像形成システム。
(付記13)
膨張装置によって実行される膨張方法であって、
熱膨張性シートの表面又は裏面に沿って照射手段を移動させながら前記照射手段に光を照射させることによって、前記熱膨張性シートを膨張させる膨張ステップと、
前記膨張ステップを実行した後、前記膨張装置の内部を冷却する冷却ステップと、
を含むことを特徴とする熱膨張性シートの膨張方法。
(付記14)
膨張装置を制御するコンピュータを、
光を照射する照射手段を、熱膨張性シートの表面又は裏面に沿って移動させる移動手段、
前記膨張装置の内部を冷却する冷却手段、
前記移動手段によって前記照射手段を移動させながら前記照射手段に光を照射させることによって、前記熱膨張性シートを膨張させる膨張処理を実行した後、前記冷却手段に前記膨張装置の内部を冷却させる冷却処理を実行する制御手段、
として機能させるためのプログラム。
上記目的を達成するために、本発明に係る造形物の製造方法は、トレイ上に載置した熱膨張性シートの周囲を所定の固定部材で全体的にまたは部分的に固定することにより、前記熱膨張性シートを前記トレイに固定する固定工程と、移動手段によって照射手段を第1の位置から第2の位置に向けて移動させながら、前記照射手段により光を照射させることによって、前記固定工程で前記トレイに固定された状態の前記熱膨張性シートを加熱により部分的に熱膨張させる熱膨張工程と、前記移動手段により前記照射手段を前記第2の位置から前記第1の位置に戻しながら、又は、前記移動手段により前記照射手段を移動していないときに、前記熱膨張工程で部分的に熱膨張された熱膨張性シートを、前記トレイに固定した状態のままで所定の冷却手段により冷却する冷却工程と、を有する、ことを特徴とする。