JP2021119751A - 微生物の同定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】試料中の微生物を同定するための手段の提供。【解決手段】下記の工程A〜C:(A)試料中の微生物の核酸を増幅する工程、(B)複数の蛍光標識プローブの各々について、工程Aで得られた核酸増幅産物の共存下で温度を変化させて蛍光強度変化量のパターンを得る工程、及び(C)工程Bで得られたパターンに基づいて試料中の微生物を同定する工程を含む方法により、試料中の微生物を同定する。【選択図】なし

Description

微生物の同定方法及びこれに関連する技術が開示される。
微生物を同定する方法として、例えば、特許文献1には、微生物のDNAを抽出して、これを鋳型として、所定のプライマーセットで遺伝子増幅を行い、次いで、微生物に特異的な融解温度(Tm値)の組合せを解析することを特徴とする感染症起因菌の同定方法について記載されている。また、特許文献2には、ほぼ全ての真菌の18SrRNA遺伝子に共通する遺伝子領域を特定のプライマーセットを用いて増幅し、その増幅領域のTm値を取得し、Spa遺伝子及びmecA遺伝子の遺伝子領域を特定のプライマーセットを用いて増幅し、その増幅領域のTm値を取得し、細菌の16SrRNA遺伝子のうち、ほぼ全ての細菌に共通する塩基配列領域を含む特定の遺伝子領域を第1、第2、第3の3つ以上のプライマーセットを用いて増幅し、その増幅領域の各Tm値を取得し、各Tm値をデータベース化し、該データベース化に用いた特定のプライマーセットを用いて同定対象となる未知の微生物のDNAに対して遺伝子増幅を試み、陽性を示した特定の遺伝子領域のTm値の組合せから未知の微生物が細菌であることが疑わしい場合、前記第1のプライマーセットを用いて得られたTm値に基づいてその測定値及び測定機器の誤差範囲に含まれると推定される既知の細菌の群をデータベースから選び出し、当該選び出された既知の細菌の群の中から前記第2、第3プライマーセットを用いて順次得られた各Tm値の測定値に基づいて、当該測定機器の誤差範囲に含まれるものを順次絞り込むことで当該未知の微生物を同定することを特徴とする感染症起因菌の同定方法が記載されている。
国際公開第2007/097323号 特許第4590573号
本発明は、試料中の微生物を同定するための手段を提供することを主な課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、既知の微生物の核酸を増幅し、複数の蛍光標識プローブの各々について、前記核酸増幅産物の共存下で温度を変化させて蛍光強度変化量のパターンを観察したところ、複数の蛍光標識プローブの蛍光強度変化量のパターンの組合せが、微生物の種類に特有の組合せとなること、当該組合せに照らして、試料中の微生物を同定できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねて、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
項1.
試料中の微生物を同定する方法であって、
(A)試料中の微生物の核酸を増幅する工程、
(B)複数の蛍光標識プローブの各々について、工程Aで得られた核酸増幅産物の共存下で温度を変化させて蛍光強度変化量のパターンを得る工程、及び
(C)工程Bで得られたパターンに基づいて試料中の微生物を同定する工程
を含む方法。
項2.
工程Cが、既知の微生物における蛍光強度変化量のパターンに関する情報を含むデータベースを参照することを含む、項1に記載の方法。
項3.
微生物が感染症起因菌である、項1又は2に記載の方法。
項4.
感染症起因菌が抗酸菌である、項3に記載の方法。
項5.
複数の蛍光標識プローブが、2〜6種の蛍光標識プローブである、項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6.
複数の蛍光標識プローブが、それぞれ、蛍光消光プローブである、項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7.
複数の蛍光標識プローブが、配列番号1〜4のいずれかで示される塩基配列を含む12〜30塩基のオリゴヌクレオチドを含む、項1〜6のいずれかに記載の方法。
項8.
複数の蛍光標識プローブが、
配列番号1で示される塩基配列を含む14〜30塩基のオリゴヌクレオチド1、
配列番号2で示される塩基配列を含む12〜30塩基のオリゴヌクレオチド2、
配列番号3で示される塩基配列を含む13〜30塩基のオリゴヌクレオチド3、及び
配列番号4で示される塩基配列を含む12〜30塩基のオリゴヌクレオチド4
の組合せである、項1〜7のいずれかに記載の方法。
項9.
工程Cが、
(1)オリゴヌクレオチド1について59℃以上66℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド2〜4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium africanum、Mycobacterium bovis、Mycobacterium microti、又はMycobacterium tuberculosisであると同定し、
(2)オリゴヌクレオチド1について55℃以上59℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド2〜4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium haemophiliumであると同定し、
(3)オリゴヌクレオチド2について56℃以上64℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium avium subsp. avium、又はMycobacterium avium subsp. paratuberculosisであると同定し、
(4)オリゴヌクレオチド2について54℃以上56℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium manteniiであると同定し、
(5)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium heidelbergense、Mycobacterium montefiorense、Mycobacterium seoulense、又はMycobacterium simiaeであると同定し、
(6)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium triplexであると同定し、
(7)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1について、蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium genavense、又はMycobacterium lentiflavumであると同定し、
(8)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium florentinumであると同定し、
(9)オリゴヌクレオチド2について47℃以上50℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium Fluoranthenivorans、Mycobacterium intermedium、Mycobacterium kubicae、又はMycobacterium scrofulaceumであると同定し、
(10)オリゴヌクレオチド2について47℃以上50℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium bourgelatiiであると同定し、
(11)オリゴヌクレオチド2について43℃以上47℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium nebraskenseであると同定し、
(12)オリゴヌクレオチド2について43℃以上47℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium colombienseであると同定し、
(13)オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium chimaera、Mycobacterium marseillense、Mycobacterium timonense、又はMycobacterium yongonenseであると同定し、
(14)オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び2について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium stomatepiaeであると同定し、
(15)オリゴヌクレオチド3について46℃以上52℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacterium anyangense、Mycolicibacterium celeriflavum、Mycobacterium riyadhense、又はMycobacterium szulgaiであると同定し、
(16)オリゴヌクレオチド3について42℃以上46℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium conspicuum、Mycolicibacterium hodleri、又はMycobacterium noviomagenseであると同定し、
(17)オリゴヌクレオチド3について40℃以上42℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacillus trivialisであると同定し、
(18)オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1〜3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium arosiense、Mycobacterium parmense、又はMycolicibacterium vulnerisであると同定し、
(19)オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1〜3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacter hiberniae、又はMycolicibacter senuensisであると同定する
工程である、項8に記載の方法。
項10.
工程Aにおいて、核酸の増幅がPCRによって実施される、項1〜9のいずれかに記載の方法。
項11.
PCRがリアルタイムPCRである、項10に記載の方法。
項12.
項1〜11のいずれかに記載の試料中の微生物を同定する方法に用いるためのキットであって、核酸増幅用試薬及び複数の蛍光標識プローブを含むキット。
本発明の主たる効果として、試料中の微生物を同定するための手段を提供することが可能になる。
図1は、試験No.38に対する試薬A〜Dの反応性を測定した結果を示すグラフである。
<試料中の微生物の同定方法>
一実施態様において、試料中の微生物を同定する方法は、
(A)試料中の微生物の核酸を増幅する工程、
(B)複数の蛍光標識プローブの各々について、工程Aで得られた核酸増幅産物の共存下で温度を変化させて蛍光強度変化量のパターンを得る工程、及び
(C)工程Bで得られたパターンに基づいて試料中の微生物を同定する工程
を含むことが好ましい。
[工程A]
試料としては、同定対象の微生物を含む限り、特に制限されず、例えば、生体試料、食品、環境試料が挙げられる。
生体試料としては、例えば、血液、血漿、血清、体液、分泌物、排泄物、細胞、組織、咽頭拭い液、口腔拭い液、鼻腔拭い液、鼻咽頭拭い液、鼓膜切開液、気管支洗浄液、肺胞洗浄液、胃洗浄液、腸洗浄液、子宮頸管拭い液、カテーテル洗浄液、それらの培養液が挙げられる。これらのうち、体液、分泌物、又は排泄物の具体例としては、涙、膿、鼻汁、唾液、喀痰、吐瀉物、胸水、腹水、胃液、髄液、羊水、尿、糞便などが挙げられる。一実施態様において、生体試料は、哺乳動物から採取された試料であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギなどが挙げられる。また、一実施態様において、生体試料は、微生物感染症を患う又はその疑いのある対象から採取された試料であることが好ましい。
食品としては、例えば、水、アルコール飲料、清涼飲料水、加工食品、野菜、畜産物、海産物、卵、乳製品、生肉、生魚、惣菜が挙げられる。食品を試料とする場合、その食品の一部あるいは全部を使用できるだけでなく、食品表面を拭き取ったものも使用できる。
環境試料としては、例えば、水、氷、土壌が挙げられる。ここでいう水とは、例として、水道水、海水、又は川、滝、湖、池などから採取した水などが挙げられる。また、施設の壁面、床面、設備又は備品、便器などを拭き取ったもの、又はそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。
試料の採取方法は、特に制限されず、試料の種類、大きさ、目的に応じて公知又は慣用の方法を用いることができる。例えば、試料は、綿棒、スワブ、白金耳、スポイト、へら、さじなどの採取具を用いて採取することができる。
試料は、必要に応じて前処理されていてもよい。例えば、液体成分が多い試料については、乾燥、限外ろ過、蒸留などを行い、液体成分の一部又は全部を除去した試料を用いてもよい。例えば、粘性の高い試料(喀痰など)については、セミアルカリプロテアーゼ(SAP)処理、NALC−NaOH処理などを施した試料を用いてもよい。
試料中の微生物とは、広義の意味で小さな生物を示し、例えば、菌類(細菌、真菌など)、ウイルス、寄生虫、線虫などを含むが、これらに限定されない。一実施態様において、微生物は病原性微生物であることが好ましく、菌類は感染症起因菌であることが好ましい。感染症起因菌としては、例えば、グラム陽性菌、グラム陰性菌が挙げられる。グラム陽性菌の具体例としては、桿菌(炭疽菌、枯草菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、ジフテリア菌、抗酸菌(結核菌、非定型抗酸菌、らい菌)など)、球菌(ブドウ球菌、レンサ球菌、腸球菌など)が挙げられる。グラム陰性菌の具体例としては、桿菌(緑膿菌、ブルセラ菌、レジオネラ菌、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、チフス菌、ペスト菌、コレラ菌、腸炎ビブリオ菌、インフルエンザ菌、バクテロイデス、ポルフィロモナスなど)、球菌(淋菌、髄膜炎菌など)、らせん菌(カンピロバクター、ヘリコバクターなど)が挙げられる。
上記微生物のうち、抗酸菌は、発育が遅く培養に時間を要するため、臨床上の重要性及び緊急性が高いにもかかわらず、検出又は同定、機動的な診断及び投薬において大きな制約となっている。本発明では、抗酸菌の同定であっても迅速且つ簡便に行うことができる。
抗酸菌には、Mycobacteriaceae科の菌種が含まれる。Mycobacteriaceae科は、Mycobacterium属、Mycolicibacterium属、Mycolicibacter属、及びMycolicibacillus属などに細分化される。
Mycobacterium属の菌種としては、例えば、africanum、arosiense、avium subsp. avium、avium subsp. paratuberculosis、avium subsp. silvaticum、bourgelatii、bovis、chimaera、colombiense、conspicuum、florentinum、genavense、haemophilum、heidelbergense、intermedium、intracellulare、kubicae、lentiflavum、mantenii、marseillense、microti、montefiorense、nebraskense、noviomagense、parmense、riyadhense、scrofulaceum、senuensis、seoulense、simiae、stomatepiae、szulgai、timonense、triplex、tuberculosis、yongonenseが挙げられる。
Mycolicibacterium属の菌種としては、例えば、anyangense、celeriflavum、doricum、fluoranthenivorans、hodleri、vulnerisが挙げられる。
Mycolicibacter属の菌種としては、例えば、hiberniaeが挙げられる。
Mycolicibacillus属の菌種としては、例えば、trivialisなどが挙げられる。
微生物の核酸の増幅において、例えば、試料から微生物の核酸を抽出又は精製したもの(例えば、酵素、界面活性剤、カオトロピック剤などを用いて細胞を分解し、その分解物からフェノール又はフェノール・クロロホルムなどを用いて核酸を抽出したもの)を増幅に供してもよいが、試料そのもの、又は試料に1以上の処理(例えば、溶媒による希釈、加熱、撹拌、上清分離)を施したものを増幅に供してもよい。当該処理としては、例えば、特開2019−193607号公報に記載の処理などが挙げられる。
核酸を増幅する方法としては、公知又は慣用の方法を利用することができ、例えば、PCR(米国特許第4683195号、米国特許第4683202号、米国特許第4965188号参照)、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification;Nature 350巻91頁 1991年参照)、LCR(Ligase Chain Reaction;国際公開89/12696号、特開平2-2934号参照)、SDA(Strand Displacement Amplification;Nucleic acid research 20巻 1691頁 1992年参照)、RCR(Replication Cycle Reaction;国際公開90/1069号参照)、TMA(Transcription Mediated Amplification;J. Clin. Microbiol. 31巻 3270頁 1993年参照)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification;J. Clin. Microbiol. 42巻 1956頁 2004年参照)、ICAN(Isothermal and Chimeric Primer-Initiated Amplification of Nucleic Acids;Kekkaku. 78巻533頁 2003年参照)などが挙げられるが、これらに限定されない。
一実施態様において、核酸の増幅はPCRによって実施されることが好ましい。PCRは、例えば、増幅対象の核酸及び核酸増幅用試薬の存在下で、変性、アニーリング、及び伸長を含む反応サイクルを繰り返すことにより実施される。核酸増幅用試薬には、通常、2種以上のプライマー、4種のデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、及びDNAポリメラーゼが含まれる。
2種以上のプライマーは、増幅対象の核酸に結合して核酸の増幅を開始し得る配列を有する限り、特に制限されない。プライマーの配列は、同定対象の微生物の種類、蛍光標識プローブの結合領域などに応じて適宜選択することができる。例えば、同定対象の微生物が抗酸菌である場合、下記のプライマーセットを使用することができる。
(a)配列番号18(ACGGCGCTGAGTTCAACCTCAACG)で示されるオリゴヌクレオチド及び配列番号19(GAACAAGCCACCGAACAAGTCACCGAT)で示されるオリゴヌクレオチドの組合せ
(b)配列番号20(CCAAGCGCAGGAGTACGACGAA)で示されるオリゴヌクレオチド及び配列番号19で示されるオリゴヌクレオチドの組合せ
(c)配列番号21(CCAAGCGCAAGGAGTACGACGAA)で示されるオリゴヌクレオチド及び配列番号22(CGTCGAACATTTCGTTGAGGTTGAACT)で示されるオリゴヌクレオチドの組合せ
(d)配列番号21で示されるオリゴヌクレオチド及び配列番号23(CAAGCCACCGAACAGGTCGCCGAT)で示されるオリゴヌクレオチドの組合せ
これらのプライマーセットについては、例えば、特許第5286996号、特許第5286997号などを参照することができる。
DNAポリメラーゼとしては、特に限定されるものではないが、例えば、Taq、Tbr、Tfl、Tru、Tth、Tli、Tac、Tne、Tma、Tih、Tfi、Pfu、Pwo、Kod、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT(商標)、DEEPVENT(商標)、これらの変異体が挙げられる。
核酸増幅用試薬は、さらに、他の成分、例えば、緩衝剤、金属イオンなどを含んでいてもよい。緩衝剤としては、例えば、TRIS、TRICINE、BIS−TRICINE、HEPES、MOPS、TES、TAPS、PIPES、CAPSなどが挙げられる。金属イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。
一実施態様において、PCRは、リアルタイムPCRであることが好ましい。リアルタイムPCRは、通常、核酸検出用試薬の共存下で実施される。核酸検出用試薬としては、例えば、蛍光試薬、リアルタイムPCR用プローブなどが挙げられる。蛍光試薬としては、例えば、SYBR Green(商標)、Eva Green(商標)などのインターカレーターが挙げられる。リアルタイムPCR用プローブとしては、例えば、TaqManプローブ(米国特許第5925517号、米国特許第6103476号参照)、サイクリングプローブ(米国特許第5011769号、米国特許第5403711号参照)などが挙げられる。
核酸の増幅は、核酸増幅装置を用いて行ってもよい。核酸増幅装置としては、例えば、LightCycler(ロシュダイアグノスティクス社製)、GENECUBE(東洋紡社製)など、キャピラリー状の反応容器を用いる核酸増幅装置が挙げられる。
[工程B]
複数の蛍光標識プローブは、2種以上である限り、特に制限されないが、3種以上又は4種以上が好ましく、8種以下、7種以下、6種以下、又は5種以下が好ましい。
蛍光標識プローブとしては、例えば、単独で蛍光を示し且つハイブリッド(二本鎖)形成時には蛍光を示さないプローブ、又は、単独で蛍光を示さず且つハイブリッド形成時に蛍光を示すプローブが挙げられる。前者のプローブであれば、対象配列とハイブリッド形成している際には蛍光を示さず、加熱によりプローブが遊離すると蛍光を示す。一方、後者のプローブであれば、対象配列とハイブリッド形成することによって蛍光を示し、加熱によりプローブが遊離すると蛍光が消光する。
一実施態様において、複数の蛍光標識プローブは、それぞれ、単独で蛍光を示し且つハイブリッド形成により蛍光が消光するプローブ、すなわち、蛍光消光プローブ(Quenching Probe;Q−Probe)であることが好ましい。蛍光消光プローブとしては、典型的には、グアニン消光プローブが挙げられる。グアニン消光プローブは、通常、オリゴヌクレオチドの3’末端又は5’末端の塩基がシトシンであり、当該シトシンが相補的な塩基グアニンに近づくと消光する蛍光色素で末端が標識されたプローブである。このような蛍光色素としては、例えば、フルオロセイン又はその誘導体(例えばフルオロセインイソチオシアネート(FITC))、BODIPY(商標)シリーズ、ローダミン又はその誘導体(例えば、5−カルボキシローダミン6G(CR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA))などが挙げられる。これらの中では、BODIPYシリーズ、CR6Gが好ましい。
蛍光標識プローブの塩基長の下限は、特に限定されるものではないが、例えば10以上、好ましくは15以上である。蛍光標識プローブの塩基長の上限は、特に限定されるものではないが、例えば50以下、好ましくは45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、又は20以下である。
一実施態様において、複数の蛍光標識プローブの一部又は全部が、微生物の種間において共通性のない領域(又は保存されていない領域)を認識するプローブであることが好ましい。
一実施態様において、複数の蛍光標識プローブは、
配列番号1(CGAACCGGCGGTAC)、
配列番号2(GACACCGGTGGG)、
配列番号3(CTTCGGTGGCTTC)、及び
配列番号4(CCGACGTTGAAG)
のいずれかで示される塩基配列を含む12〜30塩基(好ましくは12〜25塩基、さらに好ましくは12〜20塩基)のオリゴヌクレオチドを含むことが好ましく、当該オリゴヌクレオチドから選択される2種以上であることが好ましい。また、これらの配列の相補鎖を用いても良い。
前記複数の蛍光標識プローブは、
配列番号1で示される塩基配列を含む14〜30塩基(好ましくは14〜25塩基、さらに好ましくは14〜20塩基)のオリゴヌクレオチド1、
配列番号2で示される塩基配列を含む12〜30塩基(好ましくは12〜25塩基、さらに好ましくは12〜20塩基)のオリゴヌクレオチド2、
配列番号3で示される塩基配列を含む13〜30塩基(好ましくは13〜25塩基、さらに好ましくは13〜20塩基)のオリゴヌクレオチド3、及び
配列番号4で示される塩基配列を含む12〜30塩基(好ましくは12〜25塩基、さらに好ましくは12〜20塩基)のオリゴヌクレオチド4
の組合せであることが好ましい。
オリゴヌクレオチド1〜4は、それぞれ、3’末端又は5’末端に蛍光色素(好ましくはBODIPYシリーズ)で標識されたシトシンを有することが好ましい。
オリゴヌクレオチド1は、配列番号1、配列番号5(CGAACCGGCGGTACCAC)、配列番号6(CCGAACCGGCGGTACCAC)、及び配列番号7(CAGCCGAACCGGCGGTAC)のいずれかで示されるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
オリゴヌクレオチド2は、配列番号2、配列番号8(GACACCGGTGGGTTCGGC)、配列番号9(CGACACCGGTGGGTTCGG)、配列番号10(CGACACCGGTGGGTTCGGC)、及び配列番号11(TTCGACACCGGTGGGTTC)のいずれかで示されるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
オリゴヌクレオチド3は、配列番号3、配列番号12(CGGCTTCGGTGGCTTC)、配列番号13(CGGCTTCGGTGGCTTCAA)、配列番号14(CGGCTTCGGTGGCTTCA)、及び配列番号15(CTTCGGTGGCTTCAAC)のいずれかで示されるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
オリゴヌクレオチド4は、配列番号4、配列番号16(CCGACGTTGAAGCC)、及び配列番号17(CCCGCCGACGTTGAAG)のいずれかで示されるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
オリゴヌクレオチド1〜4を用いることにより、微生物(特に抗酸菌)を迅速且つ簡便に同定することができる。
蛍光標識プローブを、工程Aで得られた核酸増幅産物と共存させる方法は、例えば、予め蛍光標識プローブを共存させて核酸増幅を行う方法であってもよく、核酸増幅後に核酸増幅産物と蛍光標識プローブとを接触させる方法であってもよい。
核酸増幅産物の共存下で温度を変化させる際、低温(例えば35℃、40℃、又は41℃)から高温(例えば85℃、80℃、又は75℃)に変化させてもよく、高温から低温に変化させてもよい。
蛍光強度変化量のパターンは、温度と蛍光強度変化量(蛍光微分値)との関係を示すものであり、融解曲線ともいう。一実施態様において、工程Bは、複数の蛍光標識プローブ(例えば蛍光消光プローブ)の各々について、蛍光強度変化量が最大となる温度を測定することを含むことが好ましい。前記工程Bは、さらに、蛍光強度変化量の最大値が、測定温度(例えば41〜75℃)の範囲において、カットオフ値以上で且つ極大値(ピークの頂点)となる場合、蛍光強度変化量が最大となる温度をピーク温度と判定することを含むことが好ましい。前記判定は、例えば、GENECUBE(東洋紡社製)を用いて行うことができる。GENECUBEを用いる場合、前記カットオフ値は、例えば4〜8の範囲又は4.5〜7.5の範囲で設定することができる。例えば、図1のような融解曲線の場合(カットオフ値:5)、試薬B及びDの蛍光強度変化量が最大となる温度はピーク温度である(当該温度にピークが存在する)と判定し、試薬A及びCの蛍光強度変化量が最大となる温度はピーク温度ではない(ピークが存在しない)と判定する。
[工程C]
工程Cは、工程Bで得られた蛍光強度変化量のパターンを利用する微生物の同定工程である限り、特に制限されない。一実施態様において、工程Cは、既知の微生物における蛍光強度変化量のパターンに関する情報を含むデータベースを参照することを含むことが好ましく、当該データベースに記録された既知の微生物における蛍光強度変化量のパターンと工程Bで得られた蛍光強度変化量のパターンとを比較することを含むことがより好ましい。
上記データベースは、例えば、
(C1)既知の微生物の核酸を増幅する工程、及び
(C2)複数の蛍光標識プローブの各々について、工程C1で得られた核酸増幅産物の共存下で温度を変化させて蛍光強度変化量のパターンを得る工程
を含む方法により作成することができる。工程C1及び工程C2は、それぞれ、工程A及び工程Bと同様の方法により実施することができる。
既知の微生物における蛍光強度変化量のパターン(工程C2で得られた蛍光強度変化量のパターン)と工程Bで得られた蛍光強度変化量のパターンとの比較において、例えば、両者の蛍光強度変化量のピーク温度の差が、例えば、4℃以下、3℃以下、2℃以下、又は1℃以下である場合、両ピークは同一であるとみなすことができる。
複数の蛍光標識プローブが、オリゴヌクレオチド1〜4である場合、工程Cは、次のように微生物を同定する工程であることが好ましい。
(1)オリゴヌクレオチド1について59℃以上66℃以下(好ましくは62℃以上65℃以下、さらに好ましくは63℃以上64℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド2〜4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium africanum、Mycobacterium bovis、Mycobacterium microti、又はMycobacterium tuberculosisであると同定し、
(2)オリゴヌクレオチド1について55℃以上59℃未満(好ましくは55℃以上58℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド2〜4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium haemophiliumであると同定し、
(3)オリゴヌクレオチド2について56℃以上64℃以下(好ましくは58℃以上64℃以下、さらに好ましくは59℃以上63℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下(好ましくは51℃以上58℃以下、さらに好ましくは52℃以上57℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium avium subsp. avium、又はMycobacterium avium subsp. paratuberculosisであると同定し、
(4)オリゴヌクレオチド2について54℃以上56℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下(好ましくは51℃以上56℃以下、さらに好ましくは52℃以上55℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium manteniiであると同定し、
(5)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium heidelbergense、Mycobacterium montefiorense、Mycobacterium seoulense、又はMycobacterium simiaeであると同定し、
(6)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満(好ましくは50℃以上53℃以下、さらに好ましくは50℃以上52℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下(好ましくは52℃以上56℃以下、さらに好ましくは52℃以上55℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium triplexであると同定し、
(7)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1について、蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium genavense、又はMycobacterium lentiflavumであると同定し、
(8)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満(好ましくは50℃以上53℃以下、さらに好ましくは50℃以上52℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下(好ましくは54℃以上58℃以下、さらに好ましくは55℃以上57℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満(好ましくは41℃以上46℃以下、さらに好ましくは41℃以上45℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium florentinumであると同定し、
(9)オリゴヌクレオチド2について47℃以上50℃未満(好ましくは48℃以上50℃未満)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium Fluoranthenivorans、Mycobacterium intermedium、Mycobacterium kubicae、又はMycobacterium scrofulaceumであると同定し、
(10)オリゴヌクレオチド2について47℃以上50℃未満(好ましくは48℃以上50℃未満)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満(好ましくは42℃以上46℃以下、さらに好ましくは43℃以上45℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium bourgelatiiであると同定し、
(11)オリゴヌクレオチド2について43℃以上47℃未満(好ましくは43℃以上46℃以下、さらに好ましくは44℃以上45℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium nebraskenseであると同定し、
(12)オリゴヌクレオチド2について43℃以上47℃未満(好ましくは44℃以上46℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下(好ましくは49℃以上54℃以下、さらに好ましくは49℃以上53℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium colombienseであると同定し、
(13)オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下(好ましくは53℃以上59℃以下、さらに好ましくは54℃以上58℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下(好ましくは50℃以上58℃以下、さらに好ましくは51℃以上57℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium chimaera、Mycobacterium marseillense、Mycobacterium timonense、又はMycobacterium yongonenseであると同定し、
(14)オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下(好ましくは54℃以上58℃以下、さらに好ましくは55℃以上57℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満(好ましくは43℃以上48℃以下、さらに好ましくは44℃以上47℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び2について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium stomatepiaeであると同定し、
(15)オリゴヌクレオチド3について46℃以上52℃未満(好ましくは47℃以上51℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacterium anyangense、Mycolicibacterium celeriflavum、Mycobacterium riyadhense、又はMycobacterium szulgaiであると同定し、
(16)オリゴヌクレオチド3について42℃以上46℃未満(好ましくは42℃以上45℃以下、さらに好ましくは42℃以上44℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium conspicuum、Mycolicibacterium hodleri、又はMycobacterium noviomagenseであると同定し、
(17)オリゴヌクレオチド3について40℃以上42℃未満(好ましくは41℃以上42℃未満)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacillus trivialisであると同定し、
(18)オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下(好ましくは50℃以上56℃以下、さらに好ましくは51℃以上55℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1〜3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium arosiense、Mycobacterium parmense、又はMycolicibacterium vulnerisであると同定し、
(19)オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満(好ましくは43℃以上48℃以下、さらに好ましくは44℃以上47℃以下)の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1〜3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacter hiberniae、又はMycolicibacter senuensisであると同定する。
一実施態様において、工程Cは、蛍光強度変化量が最大となる温度、蛍光強度変化量のピークの有無及びピーク温度などに加えて、最小検出感度を指標として、微生物を同定する工程であってもよい。
<試料中の微生物を同定する方法に用いるためのキット>
試料中の微生物を同定する方法に用いるためのキットは、核酸増幅用試薬及び複数の蛍光標識プローブを含む。
核酸増幅用試薬及び複数の蛍光標識プローブとしては、試料中の微生物を同定する方法で述べたものと同様のものを使用することができる。核酸増幅用試薬及び複数の蛍光標識プローブは同一の容器に収容されていてもよく、別々の容器に収容されていてもよい。
キットは、さらに取扱説明書を含んでいてもよい。当該取扱説明書は、例えば、微生物の種類に応じて複数の蛍光標識プローブの蛍光強度変化量のパターンの組合せがどのような組合せになるかについての記載を含んでいてもよい。
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[菌破砕液の調製]
(1)菌液の調製
小川培地に生育した抗酸菌コロニーをかきとり、抗酸菌菌液調製用分散チューブ(日本ビーシージー製造株式会社)に懸濁し、添付文書に従って高濃度菌液を調製した。次に、高濃度菌液を希釈して、濁度計を用いてマクファーランド1.0になるよう調整し、菌液を調製した。
(2)菌破砕液の調製
ジーンキューブ(R)専用イージー・ビーズ(東洋紡社)に、精製水1mL、マクファーランド1.0の菌液200μLを分注した。13,000g、3分間の遠心分離を行った後、上清1050μLを廃棄して容器に約150μL残した。ジーンキューブ(R)専用溶解液(東洋紡社)50μLを添加して混合した後、得られた混合液を95℃、10分間加熱後、オートミキサー(DISRUPTOR GENIE(Scientific Industries,Inc社)により、2,850rpm、3分間の撹拌を行い、ビーズ破砕を行った。得られた破砕液について13,000g、3分間の遠心分離を行った後、上清(菌破砕液)を回収し、1.5mLDNA低吸着チューブ(ザルスタット社)に分注し保存した。
[抗酸菌169菌種に対する4種類の試薬の反応性の測定]
(3)GENECUBE(R)による測定
4種類の試薬として、次の試薬A〜Dを用いた。
<試薬A>
Figure 2021119751
<試薬B>
Figure 2021119751
<試薬C>
Figure 2021119751
<試薬D>
Figure 2021119751
抗酸菌169菌種に対する試薬A〜Dの反応性を測定するために、(2)で調製した各菌株の菌破砕液(マクファーランド1.0相当)を試料として、GENECUBE(R)及び試薬A〜Dを用いて測定を行った。まず、各菌破砕液を20μLずつ0.5mLチューブ(ザルスタット社)に分注した。該チューブをGENECUBE(R)にセットし、試薬A〜Dの各々を使用して検出を行った。装置及び試薬の操作、取扱いは添付文書にしたがって行った。
GENECUBE(R)では、PCR及び融解曲線解析が全自動で行われ、PCR産物の融解曲線解析のピーク温度及び蛍光強度微分値のデータが生成される。
(4)各試薬の測定データの抽出
測定後は、測定データをGENECUBE(R)より取得し、試薬A〜Dの各試薬の抗酸菌169菌種に対する反応性(融解曲線におけるピークの有無)を確認した。融解曲線において蛍光強度微分値(単に「蛍光値」と称する場合がある)が最大となる温度、及び当該温度での蛍光値のデータを抽出した(表1)。
Figure 2021119751
Figure 2021119751
Figure 2021119751
Figure 2021119751
Figure 2021119751
Figure 2021119751
[最小検出感度及び検出温度範囲の測定]
(4)で抽出した蛍光強度微分値が当該試薬のカットオフ値(5.0)を超えた場合には、反応性ありと判断し、次に、その菌種と試薬の組合せについて、菌破砕液の10倍希釈系列を用いて最小検出感度及び検出温度範囲の測定を行った。ここで、最小検出感度とは、蛍光強度微分値のピークが検出された最小の菌破砕液濃度をいい、検出温度範囲とは、蛍光強度微分値のピークが検出されうる温度範囲をいう。
まず、マクファーランド1.0相当の菌破砕液を精製水にて10倍ずつ段階希釈し、10−1〜10−8の希釈倍率の希釈系列を調製した。これらを試料として、GENECUBE(R)を用いて測定を行った。測定後は、融解曲線解析のピーク温度及び蛍光強度微分値の測定データをGENECUBE(R)より取得した。蛍光強度微分値が各試薬のカットオフ値を超える場合に、反応性ありと判断し、反応性のあった最小の菌濃度を最小検出感度とした。また、反応性のあった各測定のピーク温度(検出温度)から検出温度範囲を求めた。
[検出データベースの作成]
類似の反応性パターンを示す菌種をグループ化し、グループ毎に(4)で抽出した最小検出感度及び検出温度範囲のデータをリスト化し、検出データベースを作成した(表2)。
Figure 2021119751
Figure 2021119751
[抗酸菌症の患者の検体からの菌種の判別]
本検出データベースを用いることにより、以下の手順により、実際の抗酸菌症の患者の検体に含まれる菌種を迅速に判別することが可能となる。すなわち、抗酸菌症の患者の検体を、GENECUBE(R)及び試薬A〜Dの各試薬を用いて測定を行い、各々の試薬での検出ピークの有無、及び検出ピークが観察された場合のピーク温度を測定する。その結果を当該検出データベースと比較し、反応性のあった試薬の組合せ及びピーク温度が一致する菌種を見出すことにより、検体に含まれる菌種を判別あるいは推定することができる。各試薬の反応性の組合せのみでなく、ピーク温度の一致を見ることでより正確な一致を確認できる。
本発明は、抗酸菌の菌種同定以外の他の様々な病原性微生物にも応用することが可能であり、臨床診断等の場面で非常に有益である。

Claims (12)

  1. 試料中の微生物を同定する方法であって、
    (A)試料中の微生物の核酸を増幅する工程、
    (B)複数の蛍光標識プローブの各々について、工程Aで得られた核酸増幅産物の共存下で温度を変化させて蛍光強度変化量のパターンを得る工程、及び
    (C)工程Bで得られたパターンに基づいて試料中の微生物を同定する工程
    を含む方法。
  2. 工程Cが、既知の微生物における蛍光強度変化量のパターンに関する情報を含むデータベースを参照することを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 微生物が感染症起因菌である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 感染症起因菌が抗酸菌である、請求項3に記載の方法。
  5. 複数の蛍光標識プローブが、2〜6種の蛍光標識プローブである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 複数の蛍光標識プローブが、それぞれ、蛍光消光プローブである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 複数の蛍光標識プローブが、配列番号1〜4のいずれかで示される塩基配列を含む12〜30塩基のオリゴヌクレオチドを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 複数の蛍光標識プローブが、
    配列番号1で示される塩基配列を含む14〜30塩基のオリゴヌクレオチド1、
    配列番号2で示される塩基配列を含む12〜30塩基のオリゴヌクレオチド2、
    配列番号3で示される塩基配列を含む13〜30塩基のオリゴヌクレオチド3、及び
    配列番号4で示される塩基配列を含む12〜30塩基のオリゴヌクレオチド4
    の組合せである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 工程Cが、
    (1)オリゴヌクレオチド1について59℃以上66℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド2〜4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium africanum、Mycobacterium bovis、Mycobacterium microti、又はMycobacterium tuberculosisであると同定し、
    (2)オリゴヌクレオチド1について55℃以上59℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド2〜4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium haemophiliumであると同定し、
    (3)オリゴヌクレオチド2について56℃以上64℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium avium subsp. avium、又はMycobacterium avium subsp. paratuberculosisであると同定し、
    (4)オリゴヌクレオチド2について54℃以上56℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium manteniiであると同定し、
    (5)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium heidelbergense、Mycobacterium montefiorense、Mycobacterium seoulense、又はMycobacterium simiaeであると同定し、
    (6)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium triplexであると同定し、
    (7)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1について、蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium genavense、又はMycobacterium lentiflavumであると同定し、
    (8)オリゴヌクレオチド2について50℃以上54℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium florentinumであると同定し、
    (9)オリゴヌクレオチド2について47℃以上50℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium Fluoranthenivorans、Mycobacterium intermedium、Mycobacterium kubicae、又はMycobacterium scrofulaceumであると同定し、
    (10)オリゴヌクレオチド2について47℃以上50℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium bourgelatiiであると同定し、
    (11)オリゴヌクレオチド2について43℃以上47℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、3、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium nebraskenseであると同定し、
    (12)オリゴヌクレオチド2について43℃以上47℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium colombienseであると同定し、
    (13)オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium chimaera、Mycobacterium marseillense、Mycobacterium timonense、又はMycobacterium yongonenseであると同定し、
    (14)オリゴヌクレオチド3について52℃以上60℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1及び2について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium stomatepiaeであると同定し、
    (15)オリゴヌクレオチド3について46℃以上52℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacterium anyangense、Mycolicibacterium celeriflavum、Mycobacterium riyadhense、又はMycobacterium szulgaiであると同定し、
    (16)オリゴヌクレオチド3について42℃以上46℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium conspicuum、Mycolicibacterium hodleri、又はMycobacterium noviomagenseであると同定し、
    (17)オリゴヌクレオチド3について40℃以上42℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1、2、及び4について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacillus trivialisであると同定し、
    (18)オリゴヌクレオチド4について49℃以上58℃以下の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1〜3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycobacterium arosiense、Mycobacterium parmense、又はMycolicibacterium vulnerisであると同定し、
    (19)オリゴヌクレオチド4について41℃以上49℃未満の範囲に蛍光強度変化量のピークが存在し、且つ、オリゴヌクレオチド1〜3について蛍光強度変化量のピークが存在しない場合、試料中の微生物が、Mycolicibacter hiberniae、又はMycolicibacter senuensisであると同定する
    工程である、請求項8に記載の方法。
  10. 工程Aにおいて、核酸の増幅がPCRによって実施される、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
  11. PCRがリアルタイムPCRである、請求項10に記載の方法。
  12. 請求項1〜11のいずれかに記載の試料中の微生物を同定する方法に用いるためのキットであって、核酸増幅用試薬及び複数の蛍光標識プローブを含むキット。
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