(第1実施形態)
以下、図1から図8を参照して、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス10の測定装置(以下、単に「測定装置」と称する。)1について説明する。
まず、図1を参照して、蓄電デバイス10の構成及び測定装置1の構成について説明する。図1は、測定装置1の構成を示す図である。
蓄電デバイス10は、例えば、リチウムイオン二次電池の単一の蓄電セルである。蓄電デバイス10は、二次電池(化学電池)に限らず、例えば、電気二重層キャパシタであってもよい。また、蓄電デバイス10は、複数の蓄電セルが直列に接続されてなる蓄電モジュールであってもよい。
蓄電デバイス10は、図1のように、等価回路モデルによって示される。蓄電デバイス10は、等価回路モデルによれば、正極電極11と、負極電極12と、蓄電部13と、内部抵抗14と、並列抵抗15と、を有する。蓄電部13、内部抵抗14及び並列抵抗15は、それぞれ蓄電デバイス10の内部状態を表わす等価回路の素子である。
蓄電部13は、蓄電デバイス10の静電容量成分であり、この静電容量成分は、例えば、数百[F]又は数千[F]程度である。蓄電部13は、蓄電デバイス10のセル電圧よりも高い電圧が印加されると、電荷が蓄積されて充電される。蓄電部13では、充電時に流れる電流が比較的小さい場合には、主に電気二重層反応が起こり、充電時に流れる電流が比較的大きい場合には、主に化学反応が起こる。ここでは、蓄電部13の静電容量をCst[F]とし、蓄電部13に流れる電流をIst[A]とする。
内部抵抗14は、正極電極11と負極電極12との間で、蓄電部13に直列に接続される直列抵抗である。ここでは、内部抵抗14の抵抗値をRir[mΩ]とし、内部抵抗14に流れる電流をIir[A]とする。
並列抵抗15は、蓄電部13に並列に接続される放電抵抗である。並列抵抗15に流れる電流は、自己放電電流、いわゆる漏れ電流である。ここでは、並列抵抗15の抵抗値をRpr[kΩ]とし、並列抵抗15に流れる自己放電電流をIpr[A]とする。
測定装置1は、蓄電デバイス10の状態を測定するための装置又はシステムであり、蓄電デバイス10の電圧についての時間変化、即ち電圧変化を検出する検出装置を含む。測定装置1は、供給手段としての定電流源2と、検出手段及び測定手段としての電圧センサ3と、演算手段としてのコントローラ4と、表示部5と、を備える。
定電流源2は、蓄電デバイス10の内部状態を検出するための定電流を蓄電デバイス10に供給することによって蓄電デバイス10を充電する直流電源である。定電流源2は、蓄電デバイス10に供給される電流を所定の大きさに維持する。定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。
定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流は、蓄電デバイス10の自己放電電流の値に基づき設定することができ、例えば10[μA]である。以下では、このような定電流のことを「微小な定電流」とも称し、定電流を供給して充電することを「微小充電」とも称する。
ここで、蓄電デバイス10に定電圧を印加して蓄電デバイス10を充電する場合は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電圧を安定して印加することは困難である。これに対して、定電流源2を用いてマイクロアンペア(μA)オーダーの比較的小さい電流を供給することは容易である。よって、測定装置1では、定電流源2を用いることによって、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を安定して供給することができる。
電圧センサ3は、蓄電デバイス10の電圧を測定する直流電圧計である。電圧センサ3は、測定した電圧を時系列に示す電気信号をコントローラ4に出力する。本実施形態では、電圧センサ3は、定電流源2から定電流が供給された状態を含み、少なくとも二回以上、蓄電デバイス10の電圧を測定する。
コントローラ4は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ4は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。コントローラ4は、ROMに記憶されたプログラムをCPUによって読み出すことによって測定装置1の各種動作を制御する制御装置である。
コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10への電流供給を制御し、電圧センサ3を用いて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。即ち、コントローラ4は、電圧センサ3が測定した電圧を示す電気信号に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。
本実施形態では、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給した状態において電圧センサ3から電気信号を取得し、その電気信号に示される蓄電デバイス10の電圧について時間変化を検出する。コントローラ4は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電状態などの内部状態を推定する。
例えば、コントローラ4は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づき、蓄電デバイス10の内部状態についての良否を判定する。あるいは、コントローラ4は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づき、並列抵抗15に流れる自己放電電流、並列抵抗15の抵抗値又は蓄電部13の静電容量を算出してもよい。
本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内である場合には、蓄電デバイス10が正常であると判定し、蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内でない場合には、蓄電デバイス10が異常であると判定する。このように、コントローラ4は、蓄電デバイス10の良否を判定する。
表示部5は、コントローラ4による判定結果又は算出結果などの情報を表示して使用者に通知する。表示部5は、例えばタッチスクリーンであり、使用者が情報を視認可能、かつ使用者が操作可能なように構成される。
次に、本実施形態に係る測定装置1の動作について図面を参照して説明する。
図2は、測定装置1を用いて蓄電デバイス10の状態を測定する測定方法の一例を示すフローチャートである。図2に示す例では、測定装置1は、例えば雰囲気温度を一定に維持可能な恒温槽の中に蓄電デバイス10を収容するなどして、蓄電デバイス10の温度変化を抑制した環境にて測定を実行する。
まず、上記測定を実行するにあたり、測定装置1を蓄電デバイス10に接続し、電圧センサ3によって蓄電デバイス10の電圧を測定可能な状態にするとともに、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給可能な状態にする。
ステップS1では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の測定電圧決定処理を実行する。この測定電圧決定処理において、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10の静電容量Cstとの関係に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧を決定する。
蓄電デバイス10の測定電圧とは、蓄電デバイス10に定電流を供給して蓄電デバイス10の状態を測定する際の蓄電デバイス10の電圧のことである。測定電圧は、蓄電デバイス10の静電容量Cstを考慮した所定の値であり、電圧値又は電圧範囲を示す。
上述した蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10の静電容量Cstとの関係は、例えば、蓄電デバイス10の実測データ、シミュレーション結果などの解析データ、理論データ又は統計データに基づいて求められる。本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧に対する静電容量Cstの特性を特定するための実測データを用いて蓄電デバイス10の測定電圧を決定する。この測定電圧決定処理については図3を参照して後述する。
ステップS2では、コントローラ4は、電圧センサ3に対し、蓄電デバイス10の電圧を測定させる。これにより、電圧センサ3から、蓄電デバイス10の電圧に対応する電気信号がコントローラ4に入力される。
ステップS3では、コントローラ4は、電気信号によって示される蓄電デバイス10の電圧が所定範囲内にあるか否かを判定する。即ちコントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧が所定の値を示す測定電圧であるか否かを判断する判断手段を構成する。ステップS3にて、蓄電デバイス10の電圧が所定範囲内にあると判定された場合には、コントローラ4は、ステップS4へ進む。蓄電デバイス10の電圧が所定範囲内にないと判定された場合には、コントローラ4は、ステップS7へ進む。
ステップS7では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧を測定電圧に調整するための電圧制御を実行する。この電圧制御においてコントローラ4は、蓄電デバイス10で化学反応が起きるように比較的大きな電流を供給して蓄電デバイス10を充電又は放電する。このような充電又は放電のことを、以下では「通常充電」又は「通常放電」とも称する。
本実施形態では、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10へ微小な定電流よりも大きな充電電流又は放電電流を供給して蓄電デバイス10を充電又は放電する。このとき、定電流源2から蓄電デバイス10の正極電極11へ供給される充電電流は、例えば+190[mA]であり、定電流源2から蓄電デバイス10の負極電極12へ供給される放電電流は、例えば−190[mA]である。
これに代えて、蓄電デバイス10の性能試験での充放電サイクル工程において、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧が測定電圧に達した際に、この工程を中断することによって、蓄電デバイス10の電圧を測定電圧に調整してもよい。
ステップS7にて電圧制御が完了すると、コントローラ4は、ステップS2に戻り、ステップS3にて蓄電デバイス10の電圧が所定範囲内にあると判定し場合には、ステップS4へ進む。
ステップS4では、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10に微小な定電流を供給して微小充電を開始する。
ステップS5では、電圧センサ3は、微小充電状態において蓄電デバイス10の電圧を測定する。これにより、コントローラ4は、電圧センサ3から測定データとして、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧を示す電気信号を取得することができる。
ステップS6では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の状態演算処理を実行する。この状態演算処理においてコントローラ4は、電気信号により示される蓄電デバイス10の電圧に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。この状態演算処理の詳細については図6を参照して後述する。
ステップS6の処理が完了すると、測定装置1による測定方法についての一連の処理手順が終了する。
次に、図3を参照して、ステップS1で実行される測定電圧決定処理について説明する。図3は、測定装置1による測定電圧決定処理(S1)の一例を示すフローチャートである。
ステップS11では、コントローラ4は、電圧センサ3に対し、蓄電デバイス10の電圧を測定させる。これにより、電圧センサ3から、蓄電デバイス10の電圧に対応する電気信号がコントローラ4に入力される。
ステップS12では、コントローラ4は、蓄電デバイス10で化学反応が起こるように蓄電デバイス10を充電又は放電する充放電制御を実行する。本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に充電電流を供給して通常充電を行う充電制御と、蓄電デバイス10に放電電流を供給して通常放電を行う放電制御と、を共に一回以上行う。放電電流及び充電電流の絶対値は、定電流に対して数万倍の大きさに設定される。
ステップS13では、電圧センサ3は、蓄電デバイス10に充放電制御を行っているときに蓄電デバイス10の電圧を測定する。これにより、コントローラ4は、電圧センサ3から測定データとして、充放電制御を行っている際の蓄電デバイス10の電圧を示す電気信号を取得することができる。この電気信号は、蓄電デバイス10の静電容量Cstと蓄電デバイス10の電圧との関係を特定するための測定データとして用いられる。
ステップS14では、コントローラ4は、電圧センサ3から取得した電気信号に基づいて、蓄電デバイス10の静電容量Cstと蓄電デバイス10の電圧との関係を示す特性データを生成する。
本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧値ごとに、次式(1)のように、電流Iとしての充電電流Ic又は放電電流Idと単位電圧dVあたりの時間変化量dtとを乗じて蓄電デバイス10の静電容量Cstを算出する。このように、コントローラ4は、特性データを生成する。この特性データは、コントローラ4のメモリに記録される。
これに代えて、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧値ごとに単位時間あたりの電圧変化量、即ち蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを算出することによって、蓄電デバイス10の電圧と電圧変化の傾きとの関係を示す特性データを生成してもよい。この場合、蓄電デバイス10の静電容量Cstが小さくなるにつれて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きは大きくなる。
ステップS15では、コントローラ4は、生成した特性データに基づいて蓄電デバイス10の測定電圧を決定する。
本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが、その最大値よりも小さな閾値を下回る電圧値を蓄電デバイス10の測定電圧として決定する。即ち、コントローラ4は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる電圧値近傍を避けるように測定電圧を決定する。
これにより、蓄電デバイス10の静電容量Cstがその最大値よりも小さくなるので、蓄電デバイス10に微小な定電流を供給した際の蓄電デバイス10の電圧変化を大きくすることができる。上述した閾値は、例えば、蓄電デバイス10の静電容量Cstの最大値又は平均値に基づいて設定される。
ステップS15の処理が完了すると、本実施形態における測定電圧決定処理についての一連の処理手順が終了し、コントローラ4は、図2に示した測定方法の処理手順に戻り、ステップS2へ進む。
ここで、ステップS13乃至S15の処理の具体例について、図4及び図5を参照して説明する。図4は、蓄電デバイス10に充放電制御を実行した際の経過時間に対する蓄電デバイス10の電圧の変化を例示する図である。図5は、蓄電デバイス10の電圧と静電容量Cstとの関係を例示する図である。
図4に示す例では、蓄電デバイス10に+190[mA]の充電電流Icを供給する充電制御が行われた後、蓄電デバイス10に−190[mA]の放電電流Idを供給する放電制御が行われ、このときの蓄電デバイス10の電圧変化が示されている。ここでは、横軸が、蓄電デバイス10に対して充放電制御を開始してからの経過時間を示し、縦軸が、蓄電デバイス10の電圧を示す。
図4に示す実線は、ステップS13の処理によって取得された測定データに基づいて描かれている。蓄電デバイス10の充電容量が0%(パーセント)のときの蓄電デバイス10の完全放電電圧Vlが約3.0[V]であり、蓄電デバイス10の充電容量が100%のときの蓄電デバイス10の満充電電圧Vuが約4.2[V]である。このように、充放電制御を行ったときに完全放電電圧Vlから満充電電圧Vuまでの範囲で、蓄電デバイス10の電圧が変化する。
図4に示すように、蓄電デバイス10の電圧が3.0[V]から3.5[V]までの範囲では、実線の傾きが大きいので、蓄電デバイス10の静電容量Cstが小さいといえる。電圧が3.5[V]から3.7[V]までの範囲では、実線の傾きが小さいので、蓄電デバイス10の静電容量Cstが大きいとえる。
このように、充放電制御を行った際の蓄電デバイス10の電圧変化を示す測定データを取得することによって、静電容量Cstが比較的大きくなる蓄電デバイス10の電圧値を特定することが可能となる。したがって、この測定データは、蓄電デバイス10の電圧に対する静電容量Cstの特性を特定するための特性データとして用いることができる。
続いて、蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10の静電容量Cstとの関係についてより詳細に説明する。
図5の横軸は、蓄電デバイス10の電圧を示し、縦軸は、蓄電デバイス10の静電容量Cstを示す。蓄電デバイス10の静電容量Cstは、上式(1)のように算出される。
図5に示す実線は、蓄電デバイス10の電圧−静電容量特性を示す線であり、ステップS14の処理によって生成される特性データに基づいて描かれている。充電制御時の静電容量Cstはプラスの値で示され、放電制御時の静電容量Cstは便宜的にマイナスの値で示されており、両者の電圧−静電容量特性は同様の特性を有している。以下では、充電制御時における電圧−静電容量特性に着目して説明する。
図5に示すように、蓄電デバイス10の電圧が約3.4[V]と約3.7[V]のときに、蓄電デバイス10の静電容量Cstが極大となり、電圧が約3.7[V]のときに静電容量Cstが最大となる。
本実施形態では、蓄電デバイス10の内部状態を測定するにあたり、蓄電デバイス10に微小な定電流を供給した際の蓄電デバイス10の電圧変化を求めることが必要となる。この蓄電デバイス10の電圧変化については、蓄電デバイス10の静電容量Cstが大きいほど電圧変化の程度が小さくなってしまうので、電圧変化を測定するのに時間を要する。
この対策として、図3に示したステップS15の処理においてコントローラ4は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる最大点Bに対応する蓄電デバイス10の電圧値とその近傍を避けるように、蓄電デバイス10の測定電圧を決定する。
具体的には、蓄電デバイス10の測定電圧は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが所定の閾値Thを下回る電圧値に設定される。例えば、閾値Thは、静電容量Cstの最大値に基づいて定められ、本実施形態では静電容量Cstの最大値の二分の一の値に設定されている。これに代えて、閾値Thは、静電容量Cstの平均値に基づいて定められてもよい。
また、蓄電デバイス10がリチウムイオン二次電池である場合は、蓄電デバイス10の電圧が満充電電圧Vuに近づくほど、蓄電デバイス10において分解反応が起こり易くなる。したがって、蓄電デバイス10の劣化を抑制する観点から、蓄電デバイス10の測定電圧は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる電圧値よりも低い電圧値に設定されることが好ましい。それゆえ、コントローラ4は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる電圧値よりも蓄電デバイス10の測定電圧を低くしてもよい。
本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最小となる最小点Aに対応する蓄電デバイス10の電圧値、即ち完全放電電圧Vl近傍の電圧値を、蓄電デバイス10の測定電圧として決定する。これにより、蓄電デバイス10の微小充電時の電圧変化を最大にすることができる。
これに代えて、コントローラ4は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが極小となる極小点Cに対応する蓄電デバイス10の電圧値に測定電圧を決定する。これにより、蓄電デバイス10が安定した状態において迅速に蓄電デバイス10の電圧変化を検出することができる。
この後、コントローラ4は、ステップS3にて、蓄電デバイス10の電圧が所定範囲を示す測定電圧にあるか否かを判断する。即ち、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧に基づいて、蓄電デバイス10の静電容量Cstが閾値を超えているか否かを判断する。
次に、図2に示したステップS6で実行される状態演算処理について図6乃至図8を参照して説明する。
図6は、測定装置1による状態演算処理(S6)の一例を示すフローチャートである。図7は、本実施形態における微小な定電流の供給時間に対する蓄電デバイス10の電圧変化の例を示す図である。図8は、比較例として、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる電圧値における微小な定電流の供給時間に対する蓄電デバイス10の電圧変化の例を示す図である。
図6に示す例では、コントローラ4は、状態演算処理(S6)として、蓄電デバイス10の電圧変化に基づき蓄電デバイス10の良否を判定する。
ステップS61では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に微小な定電流の供給を開始してからの経過時間である供給時間が所定の時間を超えたか否かを判定する。所定の時間は、蓄電デバイス10が正常な場合と異常な場合とで電圧の変化に差が現れる程度の長さに予め設定される。
ステップS61にて、定電流の供給時間が所定の時間を超えていないと判定された場合には、コントローラ4は、供給時間が所定の時間を超えると判定されるまで、蓄電デバイス10に微小な定電流を供給し続ける。一方、供給時間が所定の時間を超えたと判定された場合には、コントローラ4は、ステップS62へ移行する。
このように、電圧センサ3は、定電流の供給開始時の電圧である初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における微小充電電圧と、を測定する。即ち、電圧センサ3は、蓄電デバイス10の電圧を、定電流源2から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する。
ステップS62では、コントローラ4は、電圧センサ3によって測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。具体的には、コントローラ4は、供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における微小充電電圧と、に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求める。より詳細には、コントローラ4は、制御周期ごとに測定した微小充電電圧に基づき、最小二乗法によって蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求める。
これに代えて、コントローラ4は、供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における供給電圧との差分から蓄電デバイス10の電圧変化を検出するようにしてもよい。この場合、電圧センサ3によって蓄電デバイス10の電圧を二回測定すればよいので、例えばマルチプレクサを用いて切り換えて電圧測定を行うことも可能である。それゆえ、測定装置1を簡素化することができる。
ステップS63では、近似直線の傾きが所定範囲内であるか否かを判定する。近似直線の傾きが上限値と下限値との間の所定範囲内であると判定された場合には、蓄電デバイス10は正常な状態であるので、ステップS64へ移行する。一方、ステップS63にて、近似直線の傾きが所定範囲内ではない、即ち所定範囲の上限値よりも大きいか、又は所定範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、蓄電デバイス10は異常な状態であるので、ステップS65へ移行する。
ステップS64では、コントローラ4は、蓄電デバイス10が正常な状態であるとして、表示部5にその旨を表示して使用者に通知する。一方、ステップS65では、コントローラ4は、蓄電デバイス10が異常な状態であるとして、表示部5にその旨を表示して使用者に通知する。
以上の状態演算処理(S6)を実行することにより、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
次に、ステップS62及びステップS63の処理の具体例について図7及び図8を参照して説明する。図7及び図8の横軸は、蓄電デバイス10に微小な定電流の供給を開始してからの経過時間である供給時間[s]を示し、縦軸は、電圧センサ3が測定した微小充電電圧と初期電圧との差分[μV]を示す。
図7に示す例では、供給開始時の初期電圧が、図5に示した最小点Aに対応する電圧値であり、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最も小さい状態であるときの測定データが示されている。
図7に示す実線のデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときの電圧変化であり、実線の直線は、ステップS62の処理によって求めた電圧変化の近似直線Ln1である。一方、図7に示す点線のデータは、蓄電デバイス10が異常な状態であるときの電圧変化であり、破線の直線は、ステップS62の処理によって求めた電圧変化の近似直線La1である。また、近似直線Ln1の傾きをRnとし、近似直線La1の傾きをRaとする。
また、図7に示す二本の二点鎖線の直線は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとを各々示すものであり、二本の二点鎖線の直線の間が、蓄電デバイス10が正常な状態における傾きである。なお、近似直線の傾きの上限値Rmax及び下限値Rminは、正常な状態の蓄電デバイス10を用いて予め実測して求めた近似直線の例えば±10%に設定される。
図7を参照すると、実線で示す近似直線Ln1(傾きRn)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っている。よって、コントローラ4は、蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。一方、破線で示す近似直線La1(傾きRa)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っていない。よって、コントローラ4は、蓄電デバイス10が異常な状態であると判定する。
このように、コントローラ4は、近似直線の傾きが上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っているか否かに基づいて、蓄電デバイス10が正常な状態であるか、あるいは異常な状態であるかを判定する。
なお、図7に示す例では、蓄電デバイス10の良否判定に600[s]の測定時間T1をかけているが、実線で示す近似直線Ln1と破線で示す近似直線La1との傾きの差は、供給時間が100[s]程度経過すれば明確に確認できる。このように、測定装置1では、蓄電デバイス10の良否判定を数分程度の短い時間で実行することができる。
一方、図8に示す例では、供給開始時の初期電圧が、図5に示した最大点Bに対応する電圧値であり、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最も大きい状態であるときの測定データが示されている。実線のデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときの電圧変化であり、実線の直線は、ステップS62の処理によって求めた電圧変化の近似直線Ln0である。
図8に示すように、600[s]の測定時間T1では実線で示す近似直線Ln0の傾きがほぼゼロであるため、良否判定を行うことは困難である。このため、蓄電デバイス10の静電容量Cstが比較的大きいときには、良否判定を行う時間を長くしなければならない。
以上のように、本実施形態の測定装置1は、定電流源2からの微小な定電流によって蓄電デバイス10を充電し、定電流が供給された状態における微小充電電圧を測定して蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。そして検出した蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内であるか否かを判断し、電圧変化が正常範囲内である場合に、蓄電デバイス10が正常であると判定する。そのため、蓄電デバイス10の電圧が自己放電により低下するまで待つ必要がないので、蓄電デバイス10の良否判定にかかる時間が短い。
このとき、定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。よって、定電流の大きさが比較的小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きい。そのため、並列抵抗15の有無による微小充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10が正常であるか否かの判定が容易である。
これに加え、測定装置1は、蓄電デバイス10の電圧に対する静電容量Cstの特性に基づいて蓄電デバイス10の静電容量Cstの最大値を避けるように測定電圧を決定し、蓄電デバイス10の電圧が測定電圧となるときに微小充電を行う。そのため、蓄電デバイス10の静電容量Cstに起因する電圧変化の縮小が抑制される。
したがって、短い時間で蓄電デバイス10の良否判定を行うことができる。
なお、上記実施形態では電圧センサ3が微小な定電流の供給を開始してから初期電圧として蓄電デバイス10の電圧を測定したが、これに代えて微小な定電流の供給を開始する前に、電圧センサ3が初期電圧として蓄電デバイス10の電圧を測定してもよい。この場合であっても、蓄電デバイス10の電圧を、定電流が供給された状態を含み二回以上測定することができるので、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求めることができる。
次に、第1実施形態による作用効果について説明する。
本実施形態における蓄電デバイス10の状態を測定する測定方法は、蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10の静電容量Cstとの関係に基づいて蓄電デバイス10の状態を測定する際の測定電圧を決定する決定ステップ(S1)を備える。さらに、測定方法は、蓄電デバイス10の電圧が上記測定電圧であるときに蓄電デバイス10に定電流を供給する供給ステップ(S4)と、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧を測定する測定ステップ(S5)と、測定した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する演算ステップ(S6)と、を備える。
そして、本実施形態における蓄電デバイス10の電圧変化を検出する検出装置を含む測定装置1は、蓄電デバイス10の電圧が所定の値であるときに蓄電デバイス10に定電流を供給する定電流源2と、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧を測定する電圧センサ3と、測定した蓄電デバイス10の電圧に基づいて蓄電デバイス10の電圧変化を検出するコントローラ4と、を備える。上記所定の値は、蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10の静電容量Cstとの関係を特定するためのデータに基づいて定められる。
さらに、本実施形態における蓄電デバイス10の状態を測定する測定装置1は、上述した定電流源2、電圧センサ3及びコントローラ4を備え、コントローラ4は、測定した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。
まず、蓄電デバイス10の内部状態の違いは、蓄電デバイス10の電圧の時間変化の違いに現われる。そのため、上述した構成によれば、蓄電デバイス10に定電流が供給されることによって蓄電デバイス10の電圧変化を大きくすることができる。したがって、蓄電デバイス10の電圧変化及び内部状態を求める時間を短縮することができる。
これに加え、上述した構成によれば、蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10の静電容量Cstとの関係を考慮して測定電圧が所定の値に決定される。これにより、蓄電デバイス10の静電容量Cstが比較的小さいときに蓄電デバイス10に定電流を供給することが可能になるので、蓄電デバイス10の電圧変化を大きくすることができる。
このように、蓄電デバイス10の静電容量Cstを考慮して蓄電デバイス10の電圧変化を大きくすることが可能となるので、短い時間で蓄電デバイス10の状態を求めることができる。
また、上述した構成によれば、蓄電デバイス10に定電圧を供給する場合と比較して、定電流源2を用いて比較的小さい電流を供給することは容易である。よって、測定装置1では、定電流源2を用いることで、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を安定して供給することができる。
また、本実施形態における測定装置1のコントローラ4は、通常の放電又は充電によって蓄電デバイス10の電圧が変化する範囲のうち、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる電圧値近傍を避けるよう測定電圧を決定する。例えば、測定電圧は、放電又は充電によって蓄電デバイス10の電圧が変化する範囲のうち、蓄電デバイス10の静電容量成分が閾値を下回る電圧値に設定される。閾値は、前記蓄電デバイス10の静電容量Cstの最大値又は平均値に基づいて設定される。
この構成によれば、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大値(上限値)よりも小さいときに蓄電デバイス10に定電流が供給される。これにより、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる状態で微小充電を行う場合に比べて、蓄電デバイス10の電圧変化を大きくすることができる。
また、本実施形態におけるコントローラ4は、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる電圧値よりも蓄電デバイス10の測定電圧を低くする。これにより、蓄電デバイス10で生じる分解反応が起こり難くなるので、蓄電デバイス10の電圧変化を大きくしつつ蓄電デバイス10の劣化を抑制することができる。
また、本実施形態におけるコントローラ4は、蓄電デバイス10を充電又は放電する制御を行う制御ステップ(S12)と、この制御を行っているときに蓄電デバイス10の電圧を測定する制御測定ステップ(S13)と、測定した蓄電デバイス10の電圧に基づいて蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10の静電容量Cstとの関係を特定するためのデータを生成する生成ステップ(S14)と、を実行する。
この構成によれば、蓄電デバイス10の実測データに基づいて蓄電デバイス10の測定電圧が決定されることになるので、蓄電デバイス10の静電容量Cstが最大となる電圧値を的確に避けることができる。
また、本実施形態における定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給する。
この構成によれば、定電流の大きさが小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きくなる。そのため、並列抵抗15の有無による微小充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10が正常であるか否かの判定が容易である。
<変形例>
次に、第1実施形態の変形例に係る測定装置1のコントローラ4について説明する。本変形例のコントローラ4は、蓄電デバイス10の測定条件に基づいて測定電圧を決定する点が上記実施形態と異なる。
本変形例のコントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧を測定するための測定時間T1又は電圧変化の検出に必要とされる電圧変化量ΔVに基づいて、図5に示した静電容量Cstに関する閾値Thを設定する。ここでは、電圧変化量ΔVは、初期電圧から測定時間T1が経過した時の変化量を指す。
例えば、別個の測定装置1ごとに測定時間T1又は電圧変化量ΔVが異なる場合は、コントローラ4は、予め定められた測定時間T1と電圧変化量ΔVとに基づいて、電圧変化を検出可能な静電容量Cstの上限値を算出する。具体的には、コントローラ4は、上式(1)を用いて、測定時間T1の値をdtに代入し、電圧変化量ΔVの値をdtに代入することにより、静電容量Cstの上限値を算出する。
そしてコントローラ4は、算出した静電容量Cstの上限値を閾値Thに設定する。閾値Thは、言い換えると、測定時間T1又は電圧変化量ΔVに基づいて設定される。これにより、コントローラ4は、算出した静電容量Cstの上限値を下回る電圧値を測定電圧として決定することができる。
このように、コントローラ4は、測定時間T1又は電圧変化量ΔVに基づいて蓄電デバイス10の測定電圧を決定する。
また、測定時間T1が可変である場合は、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧の現在値に基づいて測定時間T1を設定してもよい。この場合、コントローラ4は、電圧センサ3から蓄電デバイス10の電圧を取得すると、図5に示した特性データを参照し、取得した電圧に対応付けられた静電容量Cstを算出する。そしてコントローラ4は、算出した静電容量Cstと予め定められた電圧変化量ΔVとを式(1)に代入して、測定時間T1の値を算出する。電圧変化量ΔVが可変である場合についても同様である。
第1実施形態の変形例によれば、コントローラ4は、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧変化を検出するための測定時間T1又は検出に必要とされる電圧変化量ΔVに基づいて蓄電デバイス10の測定電圧を決定する。これにより、蓄電デバイス10の静電容量Cstが上限を超えない状態で微小充電が行われるので、蓄電デバイス10の測定精度を確保することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る測定装置1のコントローラ4について説明する。以下では、並列抵抗15の抵抗値を放電抵抗Rprと称し、並列抵抗15に流れる電流を自己放電電流Iprと称する。
本実施形態のコントローラ4は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rpr又は自己放電電流Iprを演算する点が第1実施形態とは異なる。
コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の電流値を示す定電流と、第二の電流値を示す定電流と、の間で切り替える。以下では、第一の電流値を示す定電流を、単に「第一の定電流」とも称し、第二の電流値を示す定電流を、単に「第二の定電流」とも称する。
第一の電流値は、第1実施形態と同様、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定され、本実施形態では、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定される。また、第二の電流値は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して数十倍以上に設定され、本実施形態では、自己放電電流Iprの基準値の五十倍に設定される。
上述した自己放電電流Iprの基準値は、既知の情報であり、例えば、多数の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの試験結果などを用いて予め定められる。
続いて、コントローラ4は、定電流源2から供給された定電流の大きさごとに、蓄電デバイス10の電圧に基づいて蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。
本実施形態では、コントローラ4は、定電流の各々について、図7に示したように、定電流の供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における微小充電電圧と、に基づき蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを求める。これに代えて、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさごとに、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Ln1を求め、その近似直線Ln1の傾きを電圧変化の傾きとして用いてもよい。
コントローラ4は、定電流の大きさごとに求められた蓄電デバイス10の電圧変化の傾きと、蓄電デバイス10の蓄電部13の静電容量Cstを求める数式と、を用いて、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する。ここで、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの演算手法について説明する。
蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA1と、蓄電部13に充電される電流Ist[A]と、を用いて表わすことができる。蓄電部13に充電される電流Ist[A]は、静電容量Cstに蓄積される単位時間あたりの電荷量であり、図1に示した内部抵抗14に流れる電流である第一の電流値I1から、並列抵抗15に流れる自己放電電流Iprを減じた値(I1−Ipr)に相当する。
したがって、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1と、第一の定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA1と、を用いて、次式(2)のように表わすことができる。
さらに、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、第二の電流値I2と、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA2と、を用いて、次式(3)のように表わすことができる。
上式(3)において、静電容量Cstに充電される電流Ist[A]は、第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた値(I2−Ipr)に相当する。しかしながら、図1に示した内部抵抗14に流れる電流である第二の定電流の電流値I2は、上述のとおり、並列抵抗15に流れる自己放電電流Iprよりも十分に大きいため、次式(4)のように近似することができる。
このため、上式(3)では、第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた電流値(I2−Ipr)に代えて、第二の定電流の電流値I2が用いられている。続いて、式(2)及び式(3)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(5)が導出される。
このように、定電流の大きさごとに求めた電圧変化の傾きA1,A2及び定電流の電流値I1,I2を、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式に代入することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。
続いて、コントローラ4は、算出した自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する。
本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprにより蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出する。蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)は、定電流の供給を開始する前に電圧センサ3によって測定された蓄電デバイス10の電圧値を用いてもよく、あるいは、蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められた電圧値を用いてもよい。
これに代えて、コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと放電抵抗Rprとの関係を表わす対応テーブル又は関数を予め記憶しておき、この対応テーブル又は関数を用いて放電抵抗Rprを算出してもよい。
最後に、コントローラ4は、算出した放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。
本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。所定の抵抗範囲の上限値及び下限値は、複数の蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。
そしてコントローラ4は、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあると判定した場合には、蓄電デバイス10が正常な状態であると判定し、放電抵抗Rprの算出値が所定の範囲内にないと判定した場合には、蓄電デバイス10が異常であると判定する。
これに代えて、放電抵抗Rprごとに蓄電デバイス10の正常又は異常を示す診断テーブルをコントローラ4に予め記憶してもよい。この場合、コントローラ4は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出すると、診断テーブルを参照し、算出した放電抵抗Rprに対応付けられた蓄電デバイス10の内部状態を特定する。
なお、本実施形態ではコントローラ4が、放電抵抗Rprの算出値に基づいて蓄電デバイス10の良否判定を行ったが、これに代えて、自己放電電流Iprの算出値を用いて蓄電デバイス10が正常な状態であるか否かを判定してもよい。この場合、コントローラ4は、自己放電電流Iprの算出値が、例えば所定の電流範囲内にあるか否かを判定し、その算出値が所定の電流範囲内にあると判定したときに蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。
また、本実施形態ではコントローラ4が、蓄電デバイス10に電流値が異なる定電流を順次供給するように定電流源2の動作を制御したが、蓄電部13の静電容量Cstが既知であれば、第一の電流値I1を示す定電流のみ供給するようにしてもよい。この場合、蓄電部13の静電容量Cstがコントローラ4に予め記憶され、コントローラ4は、蓄電部13の静電容量Cstと、第一の電流値I1と、第一の電流値I1に対応する電圧変化の傾きA1と、を上式(2)に代入して自己放電電流Iprを算出する。
コントローラ4に記憶される静電容量Cstについては、複数の蓄電デバイス10における蓄電部13の静電容量Cstを集計した統計データ、又は、特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。これに代えて、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電し、そのときの電圧変化の傾きA2と第二の電流値I2とを上式(3)に代入して蓄電部13の静電容量Cstを求めてもよい。
次に、図9を参照して、第2実施形態に係る測定装置1を用いた測定方法について説明する。図9は、測定装置1による状態演算処理(S6)の一例を示すフローチャートである。
本実施形態に係る状態演算処理(S6)は、図6に示したステップS63の処理に代えて、ステップS631乃至S635の処理を備えている。ここでは、ステップS631乃至S635の各処理についてのみ説明し、他の処理については第1実施形態と同じであるため説明を省略する。
ステップS62にて、コントローラ4は、図2のステップS4で設定された第一の電流値I1を示す定電流を充電したときの蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Ln1を求めて近似直線Ln1の傾きA1を取得し、ステップS631へ進む。
ステップS631では、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の定電流から、第一の電流値I1よりも大きい第二の電流値I2を示す定電流へ切り替える。
ステップS632及びステップS633の処理は、それぞれステップS61及びステップS62の処理と同様である。そのため、ステップS632及びS633では、コントローラ4は、所定の時間だけ蓄電デバイス10の電圧を測定し、第二の定電流を充電したときの電圧変化の近似直線Ln2を求めて近似直線Ln2の傾きA2を取得する。
ステップS634では、コントローラ4は、第一の電流値I1及び第二の電流値I2を示す定電流の大きさごとに取得した近似直線の傾きA1,A2に基づいて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する。
本実施形態では、コントローラ4は、第一の電流値I1と、近似直線の傾きA1と、第二の電流値I2と、近似直線の傾きA2と、を上式(5)に代入して蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出する。そしてコントローラ4は、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を蓄電デバイス10の自己放電電流Iprで除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出する。
ステップS635では、コントローラ4は、算出した蓄電デバイス10の放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。
本実施形態では、コントローラ4は、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあると判定された場合には、コントローラ4は、蓄電デバイス10は正常な状態であるため、ステップS64へ進む。一方、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にはない、即ち、抵抗範囲の上限値よりも大きいか、又は抵抗範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、蓄電デバイス10は異常な状態である、コントローラ4は、ステップS65へ進む。
以上の状態演算処理(S6)を実行することで、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
なお、図9に示した例では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを一回だけ切り替えて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを二回求めることにより自己放電電流Iprを算出した。これに代えて、複数回、定電流の大きさを切り替えて電圧変化の近似直線の傾きを順次求めることにより複数の自己放電電流Iprを算出し、これらの平均値又は中央値などの統計値を最終結果として用いてもよい。
また、本実施形態ではコントローラ4が定電流源2から蓄電デバイス10の正極電極11に供給される定電流の大きさを切り替えて自己放電電流Iprを算出したが、これに限られるものではない。例えば、定電流源2と蓄電デバイス10との接続関係を逆にし、定電流源2から蓄電デバイス10の負極電極12に定電流を供給して蓄電デバイス10を放電し、この状態において定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合であっても、上記実施形態のように自己放電電流Iprを算出することが可能である。
さらに、本実施形態では定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを切り替えたが、定電流の向きを切り替えても自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを算出することができる。以下に、蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを切り替えた場合における蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する手法について簡単に説明する。
蓄電部13の静電容量Cstは、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きAcと、を用いて次式(6)のように表わすことができる。さらに蓄電部13の静電容量Cstは、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第二の電流値I2を示す定電流によって蓄電デバイス10が放電したときの電圧変化の傾きAdと、を用いて次式(7)のように表わすことができる。
上記の式(6)及び式(7)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(8)が導出される。
したがって、第一の電流値I1を示す定電流を充電したときの電圧変化の傾きAcと、第二の電流値I2を示す定電流で放電したときの電圧変化の傾きAdと、を上式(8)に代入することで、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。算出した自己放電電流Iprで蓄電デバイス10の開放電圧を除して放電抵抗Rprが算出される。
この場合、第一の電流値I1及び第二の電流値I2については、少なくとも一方の絶対値が、自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定されていればよく、双方の絶対値が、互いに同じ値でも異なる値であってもよい。例えば、第一の電流値I1は、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定され、第二の電流値I2は、第一の電流値I1に「−1」を乗算した値、即ち−10[μA]に設定される。また、電圧変化の傾きAc,Adについては、図7で述べた手法と同様の手法により取得される。
また、本実施形態ではコントローラ4が定電流の大きさを切り替えたが、定電流の大きさを切り替えた後に定電流の向きを切り替えてもよく、定電流の向きを切り替えた後に定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合には、複数の自己放電電流Iprが得られるので、これらの平均値などを最終結果として用いてもよい。
また、本実施形態ではコントローラ4が定電流を切り替えて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出したが、定電流を切り替えることなく自己放電電流Iprを算出してもよい。例えば、式(2)中の蓄電部13の静電容量Cstが既知であれば、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線の傾きA1を求め、その傾きA1と、第一の電流値I1と、既知の静電容量Cstを上式(2)に代入して自己放電電流Iprを算出してもよい。あるいは、上式(2)中の蓄電部13の静電容量Cst及び第一の電流値I1に、予め実測した測定値又は予測値をそれぞれ代入して近似直線の傾きA1と自己放電電流Iprとの関係を示す演算テーブルを生成し、これをコントローラ4に予め記録しておいてもよい。この場合、コントローラ4は、近似直線の傾きA1を求めると、演算テーブルを参照し、求めた近似直線の傾きA1に関係付けられた自己放電電流Iprを算出する。
また、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprは、上述したように、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を自己放電電流Iprで除して算出される。このため、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)が既知であれば、近似直線の傾きA1と放電抵抗Rprとの関係を示す演算テーブルを生成してコントローラ4に予め記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線の傾きA1を求めると、演算テーブルを参照し、求めた近似直線の傾きA1に関係付けられた放電抵抗Rprを算出する。
以上のように、本実施形態では、短い時間で検出した蓄電デバイス10の一又は複数の電圧変化に基づいて自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprが算出されるので、コントローラ4は、蓄電デバイス10の内部状態を迅速に推定することができる。
次に、第2実施形態による作用効果について説明する。
本実施形態における測定装置1のコントローラ4は、測定した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は自己放電電流Iprが流れる蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する。
この構成によれば、短い時間で蓄電デバイス10の電圧変化の検出した結果を、例えば上記の式(2)、式(5)又は式(8)に代入することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを求めることができる。したがって、短い時間で、蓄電デバイス10の内部状態として自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを測定することができる。
(第3実施形態)
次に、図10を参照して、第3実施形態に係る測定装置1について説明する。図10は、測定装置1の構成を示す図である。測定装置1は、図1に示した構成に加えて基準電圧源30を備えている。
基準電圧源30は、蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する。例えば、基準電圧は、蓄電デバイス10の電圧が3V程度である場合は、蓄電デバイス10の電圧に対して「−1V」から「+1V」までの範囲内に設定される。基準電圧源30は、例えば電圧生成回路によって構成される。
電圧センサ3は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定する。すなわち、電圧センサ3は、間接的に蓄電デバイス10の電圧の変化を測定する。
第3実施形態によれば、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定することによって、蓄電デバイス10の電圧の直流成分の一部が除去されるので、電圧センサ3の分解能を上げることができる。それゆえ、電圧センサ3の内部ノイズによる影響が低減されるので、測定時間を短縮することができる。
なお、基準電圧源30は、蓄電デバイス10と同じ種類である他の蓄電デバイスによって構成されてもよい。同じ環境下にある蓄電デバイス10と他の蓄電デバイスとの電位差を測定することによって、蓄電デバイス10の温度変化に伴う電圧変動成分が除去されるので、蓄電デバイス10の内部状態の違いに起因する電圧変化の検出精度を高めることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、蓄電デバイス10の電圧変化の程度は蓄電デバイス10の内部温度に応じて変わる。この性質を利用して蓄電デバイス10の電圧変化と内部温度との関係を示す温度テーブルをコントローラ4に予め記憶しておき、コントローラ4は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の内部温度を推定してもよい。
また、上記実施形態では蓄電デバイス10の電圧変化を用いて自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを算出したが、蓄電部13の静電容量Cstを算出してもよい。例えば、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA2と第二の電流値I2とを上式(3)に代入して蓄電部13の静電容量Cstを算出する。
これに加え、コントローラ4は、算出した静電容量Cstに基づいて蓄電デバイス10の内部状態を判定してもよい。例えば、コントローラ4は、静電容量Cstの算出値が所定の正常範囲内にあるか否かを判定することで、蓄電デバイス10の良否を判定する。
また、上記実施形態では一つの蓄電デバイス10を測定したが、複数の蓄電デバイス10が直列接続された蓄電装置を測定することができる。また、測定装置1には表示部5が含まれているが、表示部5を省略してもよい。