以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態による回転電機制御方法(モータ制御方法)を実行するためのモータ制御システム1の構成を説明するブロック図である。
本実施形態のモータ制御システム1は、三相型永久磁石同期モータとして構成されるモータ30の動作を制御するシステムである。
モータ30は、種々の駆動力要求装置の動力源として用いることができる。特に、モータ30は、電気自動車(EV)又はハイブリッド自動車(HEV)等の電動モータの駆動力で走行する任意の車両における駆動源としての用途が想定される。
図1に示すように、本実施形態のモータ制御システム1は、直流電源10と、三相電圧型のインバータ20と、電流センサ70と、磁極位置検出器40と、パルスカウンタ50と、3相/dq交流座標変換部80と、角速度演算部90と、電流指令値算出部100と、電圧指令値算出部110と、dq/3相交流座標変換器60と、を有している。なお、これらの各構成の機能は、適宜、当該機能を実行するようにプログラムされたコンピュータにより実現される。
直流電源10は、積層型リチウムイオンバッテリなどの蓄電デバイスにより構成される。
インバータ20は、直流電源10からの直流電圧をdq/3相交流座標変換器60で演算される三相電圧指令値(v* u,v* v,v* w)を三相交流電圧(vu,vv,vw)に変換し、モータ30に供給する。
電流センサ70は、モータ30の巻線に流れる三相交流電流(iu,iv,iw)を検出する。なお、以下では、この検出値を「三相交流電流検出値(ius,ivs,iws)」とも表記する。具体的に、電流センサ70は、三相交流電流(iu,iv,iw)のうち、少なくとも2相の電流(例えば、u相電流iu、v相電流iv)を検出する。例えば、電流センサ70をu相とv相の2相のみに取り付ける場合、残りの1相であるw相の電流検出値iwsは、次式(1)により求めることができる。
磁極位置検出器40は、モータ30の回転子位置に応じたA相B相Z相のパルスをパルスカウンタ50に出力する。
パルスカウンタ50は、磁極位置検出器40からのA相B相Z相のパルスに基づいて、モータ30の電気角θを演算する。
角速度演算部90は、パルスカウンタ50からの電気角θを時間微分して電気角速度ωを演算する。特に、本実施形態では、電気角速度ωに含まれるノイズ成分を除去する観点から、電気角速度ωの演算にあたり、適切な時定数が設定されたローパスフィルタを施す。
3相/dq交流座標変換部80は、パルスカウンタ50で演算される電気角θを用いて、電流センサ70で得られる三相交流電流検出値(ius,ivs,iws)を3相交流座標系(uvw軸座標系)から直交2軸直流座標系(dq軸座標系)に変換する。
具体的に、3相/dq交流座標変換部80は、以下の式(2)に基づき、三相交流電流検出値(ius,ivs,iws)を変換する。
なお、以下では、この3相/dq交流座標変換部80により三相交流電流検出値(ius,ivs,iws)を変換して得られた検出値相当のdq軸電流(id,iq)を、特に「dq軸電流検出値(ids,iqs)」と称する。
電流指令値算出部100は、図示しないメモリに記憶された予め定められたマップに基づいて、外部負荷などから要求される要求駆動力に基づいて定まるトルク指令値T*、及び角速度演算部90で演算された電気角速度ωに基づいて、dq軸電流指令値(i* d,i* q)を算出する。
電圧指令値算出部110は、3相/dq交流座標変換部80で演算されたdq軸電流検出値(ids,iqs)、角速度演算部90で演算された電気角速度ω、及び電流指令値算出部100で算出されたdq軸電流指令値(i* d,i* q)に基づいて、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)を算出する。特に、電流指令値算出部100は、dq軸電流検出値(ids,iqs)を所定の目標値に定常偏差なく所望の応答性で追従させるように、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)を算出する。なお、電流指令値算出部100におけるdq軸電圧指令値(v* d,v* q)の算出の詳細については後述する。
dq/3相交流座標変換器60は、電流指令値算出部100で算出されたdq軸電圧指令値(v* d,v* q)に対し、電気角速度ωで回転する直交2軸直流座標系(dq軸座標系)から3相交流座標系(uvw軸)への変換を行う。
具体的に、dq/3相交流座標変換器60は、以下の式(3)に基づき、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)から三相電圧指令値(v* u,v* v,v* w)を求める。
そして、dq/3相交流座標変換器60は、算出した三相電圧指令値(v* u,v* v,v* w)をインバータ20に出力する。以下、本実施形態に係る電流指令値算出部100における処理の詳細について説明する。
図2は、電圧指令値算出部110の詳細な構成を説明するブロック図である。なお、図2においては、モータ系150は、図1におけるモータ30、インバータ20、直流電源10、磁極位置検出器40、パルスカウンタ50、角速度演算部90、電流センサ70、3相/dq交流座標変換部80、及びdq/3相交流座標変換器60を包括して「モータ系150」と称する。
電圧指令値算出部110は、基本d軸電流制御部121で演算される基本電圧指令値としてのdq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)に対して、非干渉制御部130で演算される非干渉電圧としてのdq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)及び外乱補償部140で演算される外乱補償電圧としてのdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)を加算した値をdq軸電圧指令値(v* d,v* q)として出力する。電圧指令値算出部110の各部の詳細について説明する。
図示のように、電圧指令値算出部110は、基本電流制御部120と、非干渉制御部130と、外乱補償部140と、を有する。
基本電流制御部120は、基本d軸電流制御部121と、基本q軸電流制御部122と、を含む。
基本d軸電流制御部121は、d軸電流検出値idsをd軸電流指令値i* dに定常偏差なく所望の応答性で追従させる観点から、d軸電流検出値idsとd軸電流指令値i* dの偏差を入力とするPI制御により、基本d軸電圧指令値v* d_baseを演算する。
基本q軸電流制御部122は、q軸電流検出値iqsをq軸電流指令値i* qに定常偏差なく所望の応答性で追従させる観点から、q軸電流検出値iqsとq軸電流指令値i* qの偏差を入力とするPI制御により、基本q軸電圧指令値v* q_baseを演算する。
非干渉制御部130は、d軸干渉制御部131と、q軸干渉制御部132と、を含む。
d軸干渉制御部131は、電気角速度ω及びd軸電流指令値i* dを入力として、d軸とq軸の間の干渉電圧を相殺する観点から定まるd軸非干渉電圧v* d_dcplを演算する。一方、q軸干渉制御部132は、電気角速度ω及びq軸電流指令値i* qを入力として、d軸とq軸の間の干渉電圧を相殺する観点から定まるq軸非干渉電圧v* q_dcplを演算する。
d軸干渉制御部131によるd軸非干渉電圧v* d_dcplの演算にあたり、d軸電流指令値i* dに代え、d軸電流検出値ids又はd軸電流指令値i* dに基づいて算出されるd軸電流規範応答id_refを用いる構成を採用しても良い。同様に、q軸干渉制御部132によるq軸非干渉電圧v* q_dcplの演算にあたり、q軸電流指令値i* qに代え、q軸電流規範応答iq_refを用いる構成を採用しても良い。
外乱補償部140は、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)、及びdq軸電流検出値(ids,iqs)に基づいて、モータ系150に入力される外乱(例えば、車両の場合には路面勾配)に相当する外乱電圧をdq軸座標系で表したdq軸外乱電圧(dd,dq)を算出する。特に、本実施形態において、外乱補償部140は、非干渉制御部130による非干渉制御が実行された後の電圧指令値であるdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を用いて、dq軸外乱電圧(dd,dq)を推定し、その推定値に基づいて外乱を打ち消す補償電圧に相当するdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)を演算する。以下、外乱補償部140における演算の詳細について説明する。
先ず、単一巻線の3相型同期モータとして構成された本実施形態のモータ30に関する電圧方程式は以下の式(4)で表される。
式(4)中の各パラメータの定義は、既に説明したものも含めて以下のように定められる。
id:d軸電流
iq:q軸電流
vd:d軸電圧
vq:q軸電圧
R:固定子巻線抵抗
φa:回転子磁石磁束
Ld: d軸静的インダクタンス
Lq: q軸静的インダクタンス
L’d:d軸動的インダクタンス
L’q: q軸動的インダクタンス
ω:電気角速度
s:微分演算子(微分演算子「d/dt」をラプラス変換した演算子)
なお、式(4)中の静的インダクタンス(Ld,Lq)、動的インダクタンス(L’d,L’q)、固定子巻線抵抗R、及び回転子磁石磁束φaは、何れも公知の方法で検出又は推定可能なパラメータ(モータ特性パラメータ)である。
上記式(4)の右辺第1項の行列(以下、「伝達関数行列[Aij]」とも称する)は、本制御のプラントに相当する。特に、伝達関数行列[Aij]は、本実施形態においてモータ系150(モータ30)の特性に応じた電流から電圧へのdq軸座標系における伝達特性を表す。具体的、伝達関数行列[Aij]は、以下の式(5)により定義される。
ここで、この伝達関数行列[Aij]の対角成分である「A11」及び「A22」は、dq軸座標系における同一座標成分の間の伝達特性に相当する。より詳細には、「A11」は、d軸電流idからd軸電圧vdへの伝達特性に相当する。また、「A22」は、q軸電流iqからq軸電圧vqへの伝達特性に相当する。
さらに、伝達関数行列[Aij]の非対角成分である「A12」及び「A21」は、dq軸座標系における異なる座標成分の間の伝達特性(すなわち、干渉成分)に相当する。より詳細には、「A12」は、q軸電流iqからd軸電圧vdへの伝達特性に相当する。また、「A21」は、d軸電流idからq軸電圧vqへの伝達特性に相当する。
次に、上記式(4)の両辺の左側から伝達関数行列[Aij]の逆伝達関数行列[A-1 ij](すなわち、プラントの逆系)を施して変形することで以下の式(6)が得られる。
ここで、電流・電圧の応答(変動)に対して角速度変動は十分に遅い。このため、式(6)の右辺第2項「ωφa」は、制御周期において電流・電圧の変動に対して無関係な定数とみなすことができる。このため、右辺第2項「ωφa」は、非干渉制御部130における非干渉制御によるフィードフォワード補償によって補償することができる。そして、式(6)の右辺第2項「ωφa」をフィードフォワード補償によって補償する構成をとることで、さらにその後の外乱補償部140で重複した補償が実行されないように、式(6)の右辺第2項を無視する。
上述のように、式(6)の右辺第2項を無視することで、以下の式(7)を得る。
ここで、上記式(7)で表される伝達特性に、dq軸電流検出値(ids,iqs)、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)、dq軸外乱電圧(dd,dq)、及びモータ系150に実際に入力される電圧(以下、「dq軸実電圧(vdr,vqr)」とも称する)を適用すると、以下の式(8)及び式(9)により表される関係が得られる。
さらに、式(8)の両辺の左側から伝達関数行列[Aij]を施し、式(9)を用いて変形することで以下の式(10)が得られる。
ここで、式(10)を適宜解くことでdq軸実電圧(vdr,vqr)及びdq軸外乱電圧(dd,dq)を求めることができる。一方で、式(10)の第2式の右辺には微分演算子sの項が含まれているため、現実の制御装置により直接演算することは難しい。このため、式(10)に対し、一次遅れフィルタによるフィルタ処理を行った以下の式(11)及び式(12)に基づいて、dq軸実電圧(vdr,vqr)の推定値及びdq軸外乱電圧(dd,dq)の推定値をそれぞれ演算する。
ただし、式(11)の「τh」はフィルタの時定数である。また、「(v^dr,v^qr)」はdq軸実電圧(vdr,vqr)の推定値(以下、「推定dq軸実電圧(v^dr,v^qr)」と称する)である。さらに、式(12)の「(d^d,d^q)」はdq軸外乱電圧(dd,dq)の推定値(以下、「推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)」と称する)である。
また、以下の式(13)のように、この推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の符号を反転させた値をdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)として演算し、出力する。
したがって、このように演算されたdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)をdq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)に加算することで、モータ系150に入力される外乱(すなわち、dq軸外乱電圧(dd,dq))を好適に打ち消すことのできるdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を設定することができる。
図3は、上述した外乱補償部140における演算の詳細を説明するブロック図である。すなわち、図3は、上記式(11)〜式(13)を用いた演算と等価なブロック線図である。図3から理解されるように、外乱補償部140は、入力されるdq軸電圧指令値(v* d,v* q)に対して時定数τhの一次遅れフィルタKを施した値から、dq軸電流検出値(ids,iqs)に伝達関数行列[Aij]及び一次遅れフィルタKを施した値を減算する制御ロジックにより、上記外乱を打ち消すdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)を演算して出力することができる。
なお、伝達関数行列[Aij]及び一次遅れフィルタKは、モータ制御システム1の内部又は外部の図示しないメモリ等において記憶させておくことができる。特に、外乱補償部140は、適宜、この伝達関数行列[Aij]を読み出して、固定子巻線抵抗Rなどの既知のモータ特性パラメータ、及び回転状態パラメータとしての電気角速度ωを当てはめることで、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の算出を実現することができる。
以上説明した本実施形態の回転電機制御方法において、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)は、入力としてのdq軸電圧指令値(v* d,v* q)及びdq軸電流検出値(ids,iqs)に対してdq軸座標系におけるd軸とq軸の間に跨る伝達特性(非対角成分)を含む伝達関数行列[Aij]を施すことで演算されることとなる。
このため、d軸とq軸の間の相互干渉が考慮された推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を得ることができる。したがって、この推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)から干渉成分を好適に除去し得るdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)を得ることができる。結果として、このdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)を用いた外乱電圧補償を実行することで、上記d軸とq軸の相互干渉成分が好適に打ち消されたdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を得ることができる。
次に、本実施形態の回転電機制御方法を実行した場合(実施例1)の作用効果について、比較例1と対比しつつ説明する。特に、実施例1及び比較例1のシステムに所定の条件下でシミュレーションを行った結果について説明する。
(実施例1)
本実施形態のモータ制御システム1において、d軸の外乱(d軸外乱電圧dd)を印加した際の挙動を観測した。
(比較例1)
比較例1のシステム(以下では、「比較例システムref1」と称する)において、実施例1と同一の外乱を印加した際の挙動を観測した。
なお、比較例システムref1は、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)を演算するための構成を除いて実施例1のモータ制御システム1と同じ構成を備える。したがって、説明の簡略化のため、比較例システムref1において、実施例1のモータ制御システム1と同様の要素には同一の符号を用いる。
図11は、比較例システムref1におけるdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を演算するための電圧指令値補正部113´の構成を説明するブロック図である。
図示のように、比較例システムref1の電圧指令値補正部113´の外乱補償部140´は、dq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)に対してdq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)を加算する前(非干渉制御部130による非干渉制御の前)の電圧指令値(以下、「非干渉処理前dq軸電圧指令値(v* d_dsh,v* q_dsh)」とも称する)及びdq軸電流検出値(ids,iqs)に基づいて、dq軸外乱電圧(dd,dq)を算出する。
また、図12は、比較例システムref1の外乱補償部140´における演算の詳細を説明するブロック図である。
図示のように、比較例システムref1の外乱補償部140´では、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)及びdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)の演算を、d軸とq軸ごとに個別に実行する。
より詳細には、外乱補償部140´は、非干渉処理前d軸電圧指令値v* d_dshに対して時定数τhの一次遅れフィルタを施した値から、d軸電流検出値idsにd軸における電流−電圧特性に応じて定まる係数(伝達関数行列[Aij]の第1行第1列成分)及び一次遅れフィルタを施した値を減算してd軸外乱電圧補償値v* d_dist演算する。
一方、外乱補償部140´は、非干渉処理前q軸電圧指令値v* q_dshに対して時定数τhの一次遅れフィルタを施した値から、q軸電流検出値iqsにq軸における電流−電圧特性に応じて定まる係数(伝達関数行列[Aij]の第2行第2列成分)及び一次遅れフィルタを施した値を減算してq軸外乱電圧補償値v* q_dist演算する。
(結果)
図4A及び図4Bは、実施例1及び比較例1におけるシミュレーション結果を示すタイミングチャートである。特に、図4Aには、それぞれの推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の経時変化を示す。また、図4Bには、それぞれのdq軸電流検出値(ids,iqs)の経時変化を示す。また、図中において、実施例1のシミュレーション結果を実線で示し、比較例1のシミュレーション結果を一点二鎖線で示す。また、図中において破線で理論値を示す。
図4Aから理解されるように、実施例1では、比較例1に比べて推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を理論値により近い高精度な値として定まった。また、図4Bから理解されるように、実施例1では、外乱の影響で生じた電流偏差が比較例1に比べてより素早く収束した。
以上説明した本実施形態の回転電機制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
本実施形態では、電圧指令値としてのdq軸電圧指令値(v* d,v* q)に応じた電圧である三相電圧指令値(v* u,v* v,v* w)を供給することで回転電機としてのモータ30の作動を制御する回転電機制御方法が提供される。
この回転電機制御方法では、モータ30の電流指令値であるdq軸電流指令値(i* d,i* q)に基づいて基本電圧指令値としてのdq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)を算出し(図2の基本電流制御部120)、モータ30の電流検出値としてのdq軸電流検出値(ids,iqs)及びモータ30の回転状態を表す回転状態パラメータである電気角速度ωに基づいて、モータ30の回転に同期する同期座標空間(dq軸座標系)の異なる座標成分に跨って干渉する電圧を打ち消すための非干渉電圧であるdq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)を算出する(図2の非干渉制御部130)。また、モータ30に入力される外乱に応じて定まる外乱電圧としての推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を算出し(図2の外乱補償部140及び式(11))、dq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)をdq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)及び推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)により補正してdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を算出する(図2の電圧指令値算出部110)。
そして、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を、dq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)による補正後のdq軸電圧指令値(v* d,v* q)に基づいて算出する(図2の電圧指令値算出部110)。
すなわち、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の算出が、非干渉制御が実行された後のdq軸電圧指令値(v* d,v* q)に基づいて実行されることとなる。このため、d軸とq軸の間の干渉成分がより適切に考慮された推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を求めることができる。したがって、この推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を用いることで、外乱がより確実に抑制されたモータ30の作動制御を実現することができる。
また、本実施形態の回転電機制御方法では、dq軸座標系におけるモータ30の電流から電圧への同一の座標成分間(d軸からd軸又はq軸からq軸)及び異なる座標成分間(d軸からq軸又はq軸からd軸)の伝達特性を表す伝達関数としての伝達関数行列[Aij]を設定する(式(5)参照)。そして、dq軸電流検出値(ids,iqs)に伝達関数行列[Aij]を施すことでモータ30の実電圧としての推定dq軸実電圧(v^dr,v^qr)を算出し(図3及び式(11)参照)、算出した推定dq軸実電圧(v^dr,v^qr)からdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を減算することで推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を算出する(図3及び式(12)参照)。
これによれば、dq軸座標系におけるモータ30の伝達特性を表す伝達関数行列[Aij]を用いて、dq軸座標系における同一座標間における伝達特性に加え、異なる座標間における伝達特性(すなわち、干渉成分)がより確実に考慮された推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の算出を実現することができる。したがって、より高精度な推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を得るが可能となり、この推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を用いたモータ30の作動制御の精度もより向上させることができる。
特に、本実施形態では、上記伝達関数は、dq軸座標系における上の線形変換である伝達関数行列[Aij]として設定される。そして、伝達関数行列[Aij]は、同一の座標成分間におけるモータ30の電流から電圧への伝達特性を表す対角成分(式(5)の「A11」及び「A22」)及び異なる座標成分間におけるモータ30の電流から電圧への伝達特性を表す非対角成分(式(5)の「A12」及び「A21」)を含む。そして、対角成分及び非対角成分を、モータ30の回転状態を表す回転状態パラメータ(特に電気角速度ω)に基づいて設定する。
これにより、dq軸座標系における同一座標間及び異なる座標間における電流から電圧への伝達特性が考慮された推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の算出を、比較的簡素なロジックで実現することができる。
また、伝達関数行列[Aij]の非対角成分は回転状態パラメータとしてモータ30の角速度である電気角速度ωを含む。そして、モータ30の電気角速度ωの検出値(図1の磁極位置検出器40、パルスカウンタ50、及び角速度演算部90)を用いて非対角成分を設定する(図3参照)。
これにより、実際のモータ30の回転状態に相関する電気角速度ωの検出値に応じて伝達関数行列[Aij]の非対角成分が設定されることとなる。したがって、モータ30の現実の作動状態に応じてd軸とq軸の干渉成分がより適切に評価された伝達関数行列[Aij]を設定することができるので、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の精度をより向上させることができる。
特に、本実施形態では、電気角速度ωの検出値に対してローパスフィルタ処理を施して非対角成分を設定する。
これにより、検出される電気角速度ωのノイズ成分を除去することができるので、実際のd軸とq軸の干渉成分がより適切に反映された非対角成分を設定することができ、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の精度をさらに向上させることができる。
特に、モータ30の電気角速度ωは、実際のモータ30の作動状態の変化に対して敏感に応答する。このため、電気角速度ωの検出値には、この高い応答性に起因する高周波成分(ノイズ)が比較的多く含まれる。このため、このようなノイズを多く含む電気角速度ωの検出値をそのまま伝達関数行列[Aij]の非対角成分の設定に用いると、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の演算の精度が低下することが想定される。
これに対して、本実施形態ではローパスフィルタ処理された電気角速度ωを用いて伝達関数行列[Aij]を設定することによって、上述の推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の演算精度の低下を抑制することができる。
また、本実施形態の回転電機制御方法では、伝達関数行列[Aij]を施したdq軸電流検出値(ids,iqs)に一次遅れフィルタKを施してモータ30の実電圧(推定dq軸実電圧(v^dr,v^qr))を算出する(式(11))。そして、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)に一次遅れフィルタKを施して推定dq軸実電圧(v^dr,v^qr)から減算することで推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を算出する(式(12))。
これにより、入力としてのdq軸電流検出値(ids,iqs)に含まれる高周波成分をカットしつつ、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の現実の演算を煩雑にする要素(具体的には、微分演算子s)を解消するための簡素な演算ロジックを提供することができる。
さらに、本実施形態の回転電機制御方法では、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の正負を反転させて外乱電圧補償値としてのdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)を算出する(式(12)参照)。そして、dq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)をdq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)に加算してdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を算出する(図2参照)。
これにより、dq軸電圧指令値(v* d,v* q)に対する外乱補償が、上述した高精度の推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)に基づくdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)を用いて実行されることとなる。したがって、外乱の影響がより好適に反映されたdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を求め、これに基づいてモータ30への供給電圧を設定することができる。すなわち、外乱をより確実に抑制することのできるモータ30への供給電圧の制御を実現することができる。
さらに、本実施形態では、上記回転電機制御方法が実行される回転電機制御システムとしてのモータ制御システム1が提供される。
モータ制御システム1は、モータ30の電流指令値であるdq軸電流指令値(i* d,i* q)に基づいて基本電圧指令値としてのdq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)を算出する基本電圧指令値算出部としての基本電流制御部120と、モータ30の電流検出値としてのdq軸電流検出値(ids,iqs)及びモータ30の回転状態を表す回転状態パラメータである電気角速度ωに基づいて、モータ30の回転に同期する同期座標空間(dq軸座標系)の異なる軸に跨って干渉する電圧を打ち消すための非干渉電圧であるdq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)を算出する非干渉電圧算出部としての非干渉制御部130と、を有する。
また、モータ制御システム1は、外乱に応じて定まる外乱電圧としての推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を算出する外乱電圧推定部としての外乱補償部140と、dq軸基本電圧指令値(v* d_base,v* q_base)をdq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)及び推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)により補正してdq軸電圧指令値(v* d,v* q)を算出する電圧指令値算出部110と、を有する。
そして、外乱補償部140は、dq軸非干渉電圧(v* d_dcpl,v* q_dcpl)による補正後のdq軸電圧指令値(v* d,v* q)に基づいて推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を算出する
これにより、本実施形態の回転電機制御方法を実行するための好適なシステム構成が実現される。
(変形例)
以下、第1実施形態の変形例について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図5は、本変形例に係る外乱補償部140における演算の詳細を説明するブロック図である。
図示のように、本変形例における回転電機制御方法では、一次遅れフィルタKの時定数τhをd軸とq軸ごとに個別に、d軸用時定数τhd及びq軸用時定数τhqとして設定する。
より詳細には、本変形例における回転電機制御方法を実行するモータ制御システム1の外乱補償部140では、一次遅れフィルタKが、第1行第1列成分の値を「τhd」及び第2行第2列成分の値を「τhq」とする行列として設定される。
これにより、入力としてのdq軸電流指令値(i* d,i* q)及びdq軸電圧指令値(v* d,v* q)におけるd軸及びq軸に対して、それぞれd軸用時定数τhd及びq軸用時定数τhqの一次遅れ処理を施した上で、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)を求めることができる。
なお、d軸用時定数τhd及びq軸用時定数τhqは、d軸における伝達特性とq軸における伝達特性の相違に起因する制御安定性の低下を抑制する観点から適宜定めることができる。
以上説明した本変形例の構成及びそれによる作用効果について説明する。
本変形例では、一次遅れフィルタKの時定数τhを、dq軸座標系における座標成分ごとに個別に設定する。
これにより、モータ系150の制御において、d軸における伝達特性とq軸における伝達特性の相違に起因する制御安定性の低下を抑制することができる。
特に、一次遅れフィルタKの時定数τhの値を小さく設定するほど(カットオフ周波数を大きくするほど)、比較的高い周波数領域の外乱成分も考慮されることとなるので、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)の精度がより向上する。一方で、一次遅れフィルタKの時定数τhの値を小さくすると、その分、ノイズ成分も含まれ易くなり、制御安定性が低下して制御発散が生じる可能性が高くなる。
特に、モータ系150の仕様などによっては、d軸相互の間の伝達特性とq軸相互の伝達特性(電流又は電圧のq軸からq軸への伝達特性)との間に大きな差がある場合において、要求される制御安定性を確保する観点からd軸及びq軸に同じ値の時定数τhを設定すると、外乱抑制効果が十分に発揮されないことが想定される。
これに対して、本変形例の構成であれば、d軸及びq軸に、それぞれ異なるd軸用時定数τhd及びq軸用時定数τhqが設定される。このため、上記伝達特性の相違がある場合であっても、より確実に要求される制御安定性を確保しつつ十分な外乱抑制効果も実現することができる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図6は、本実施形態による回転電機制御方法(モータ制御方法)を実行するためのモータ制御システム1の構成を説明するブロック図である。
本実施形態のモータ制御システム1は、固定子(ステータ)に複数の多相巻線が設けられた多重多相回転電機として構成されたモータ30の動作を制御する。
ここで、本実施形態における多相巻線とは、各相(例えば、三相交流の場合、U相、V相、及びW相の各相)のそれぞれに対応する一組の巻線を組み合わせて成る巻線組を意味する。
また、以下の説明において、上記複数の多相巻線の内の特定の巻線組への通電を制御する一組の構成要素の単位を「制御系統」と称する。例えば、モータ30がいわゆる三相二重巻線型のモータで構成される場合には、ステータに2つの三相巻線が設けられる。したがって、この場合、モータ30の動作を制御するモータ制御システム1には、2つの巻線組へのそれぞれの通電を制御する2つの制御系統が存在することとなる。
そして、本実施形態では、特に、モータ30が三相二重巻線型の永久磁石同期モータとして構成されることを前提としたモータ制御システム1におけるモータ制御方法について説明する。しかしながら、このことは、本発明のモータ制御方法を、三相二重巻線型の永久磁石同期モータ以外の多重多相回転電機を有するシステムに適用することを妨げるものではない。
さらに、以下の説明においては、三相二重巻線型永久磁石同期モータとして構成されるモータ30を備えるモータ制御システム1において、上述した2つの制御系統をそれぞれ「制御系統1」及び「制御系統2」と称する。特に、制御系統1における各制御量(電流など)及び制御系統2における各制御量を区別する必要がある場合には、これら各制御量に「1」又は「2」という下付きの添え字を付する。
また、これら制御系統1及び制御系統2における各制御量を包括して説明する場合には、各制御量に「n」(n=1又は2)という下付きの添え字を付する。例えば、制御系統1における三相電圧の指令値「三相電圧指令値(v* u1,v* v1,v* w1)」及び制御系統2における三相電圧の指令値「三相電圧指令値(v* u2,v* v2,v* w2)」を包括して、「三相電圧指令値(v* un,v* vn,v* wn)」などと表記する。
本実施形態のインバータ20は、直流電源10からの直流電圧をdq/3相交流座標変換器60で演算される三相電圧指令値(v* un,v* vn,v* wn)を三相交流電圧(vun,vvn,vwn)に変換してモータ30に供給する。
電流センサ70は、三相交流電流(i
un,i
vn,i
wn)の内のu相とv相の電流(例えば、u相電流i
un、v相電流i
vn)を検出し、残りの1相であるw相の電流検出値i
wnsは、次式(14)により求めることができる。
また、第1実施形態と同様に磁極位置検出器40及びパルスカウンタ50によりモータ30の電気角θが取得され、角速度演算部90により電気角速度ωが演算される。
なお、本実施形態では、説明の簡略化のためのモータ30の各制御系統nにおいて同一の電気角θをとることを前提とする。一方で、各制御系統nの電気角θが異なる場合であっても、制御系統ごとの電気角θに基づき、本実施形態の各演算を同様に実行することができる。
3相/dq交流座標変換部80は、以下の式(15)に基づき、三相交流電流検出値(iuns,ivns,iwns)からdq軸電流検出値(idns,iqns)を算出する。
電流指令値算出部100は、図示しないメモリに記憶された予め定められたマップに基づいて、外部負荷などから要求される要求駆動力に基づいて定まるトルク指令値T*、及び角速度演算部90で演算された電気角速度ωに基づいて、dq軸電流指令値(i* dn,i* qn)を算出する。
電圧指令値算出部110は、dq軸電流検出値(idns,iqns)、電気角速度ω、及びdq軸電流指令値(i* dn,i* qn)に基づいて、dq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)を算出する。なお、電流指令値算出部100におけるdq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)の算出の詳細については後述する。
dq/3相交流座標変換器60は、以下の式(16)に基づき、dq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)から三相電圧指令値(v* un,v* vn,v* wn)を求める。
そして、dq/3相交流座標変換器60は、算出した三相電圧指令値(v* un,v* vn,v* wn)をインバータ20に出力する。以下、本実施形態に係る電流指令値算出部100における処理の詳細について説明する。
図7は、電圧指令値算出部110の詳細な構成を説明するブロック図である。
図示のように、本実施形態の基本電流制御部120は、基本第1d軸電流制御部121−1と、基本第2d軸電流制御部121−2と、基本第1q軸電流制御部122−1と、基本第2q軸電流制御部122−2と、を含む。
基本第1d軸電流制御部121−1は、モータ系150の制御系統1における基本電圧指令値としての基本第1d軸電圧指令値v* d1_baseを求める。より詳細には、基本第1d軸電流制御部121−1は、第1d軸電流検出値id1sを第1d軸電流指令値i* d1に定常偏差なく所望の応答性で追従させる観点から、第1d軸電流検出値id1sと第1d軸電流指令値i* d1の偏差を入力とするPI制御により、基本第1d軸電圧指令値v* d1_baseを演算する。
基本第2d軸電流制御部121−2は、モータ30の制御系統2における基本電圧指令値としての基本第2d軸電圧指令値v* d2_baseを求める。より詳細には、基本第2d軸電流制御部121−2は、第2d軸電流検出値id2sを第2d軸電流指令値i* d2に定常偏差なく所望の応答性で追従させる観点から、第2d軸電流検出値id2sと第2d軸電流指令値i* d2の偏差を入力とするPI制御により、基本第2d軸電圧指令値v* d2_baseを演算する。
基本第1q軸電流制御部122−1は、モータ30の制御系統1における基本電圧指令値としての基本第1q軸電圧指令値v* q1_baseを求める。より詳細には、基本第1q軸電流制御部122−1は、第1q軸電流検出値iq1sを第1q軸電流指令値i* q1に定常偏差なく所望の応答性で追従させる観点から、第1q軸電流検出値iq1sと第1q軸電流指令値i* q1の偏差を入力とするPI制御により、基本第1q軸電圧指令値v* q1_baseを演算する。
基本第2q軸電流制御部122−2は、モータ30の制御系統2における基本電圧指令値としての基本第2q軸電圧指令値v* q2_baseを求める。より詳細には、基本第2q軸電流制御部122−2は、第2q軸電流検出値iq2sを第2q軸電流指令値i* q2に定常偏差なく所望の応答性で追従させる観点から、第2q軸電流検出値iq2sと第2q軸電流指令値i* q2の偏差を入力とするPI制御により、基本第2q軸電圧指令値v* q2_baseを演算する。
また、非干渉制御部130は、第1d軸干渉制御部131−1と、第1q軸干渉制御部132−1と、第2d軸干渉制御部131−2と、第2q軸干渉制御部132−2と、を含む。
第1d軸干渉制御部131−1は、電気角速度ω及び第1d軸電流指令値i* d1を入力として、モータ30の制御系統1におけるd軸とq軸の間の干渉電圧を相殺する観点から定まる第1d軸非干渉電圧v* d1_dcplを演算する。一方、第1q軸干渉制御部132−1は、電気角速度ω及び第1q軸電流指令値i* q1を入力として、制御系統1におけるd軸とq軸の間の干渉電圧を相殺する観点から定まる第1q軸非干渉電圧v* q1_dcplを演算する。
第2d軸干渉制御部131−2は、電気角速度ω及び第2d軸電流指令値i* d2を入力として、モータ30の制御系統2におけるd軸とq軸の間の干渉電圧を相殺する観点から定まる第2d軸非干渉電圧v* d2_dcplを演算する。一方、第2q軸干渉制御部132−2は、電気角速度ω及び第2q軸電流指令値i* q2を入力として、制御系統2におけるd軸とq軸の間の干渉電圧を相殺する観点から定まる第2q軸非干渉電圧v* q2_dcplを演算する。
さらに、外乱補償部140は、dq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)、及びdq軸電流検出値(idns,iqns)に基づいて、モータ系150に入力される外乱に相当する外乱電圧をdq軸座標系で表したdq軸外乱電圧(ddn,dqn)を算出する。特に、本実施形態において、外乱補償部140は、非干渉制御部130による非干渉制御が実行された後の電圧指令値であるdq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)を用いて、dq軸外乱電圧(ddn,dqn)を推定し、その推定値に基づいて外乱を打ち消す補償電圧に相当するdq軸外乱電圧補償値(v* dn_dist,v* qn_dist)を演算する。以下、外乱補償部140における演算の詳細について説明する。
先ず、本実施形態のモータ30に関する電圧方程式は以下の式(17)で表される。
式(17)中の各パラメータの定義は、既に説明したものも含めて以下のように定められる。
id1:制御系統1のd軸電流(第1d軸電流)
iq1:制御系統1のq軸電流(第1q軸電流)
id2:制御系統2のd軸電流(第2d軸電流)
iq2:制御系統2のq軸電流(第2q軸電流)
vd1:制御系統1のd軸電圧(第1d軸電圧)
vq1:制御系統1のq軸電圧(第1q軸電圧)
vd2:制御系統2のd軸電圧(第2d軸電圧)
vq2:制御系統2のq軸電圧(第2q軸電圧)
R1:制御系統1の固定子巻線抵抗
R2:制御系統2の固定子巻線抵抗
φa1:制御系統1の回転子磁石磁束
φa2:制御系統2の回転子磁石磁束
Ld1:制御系統1のd軸静的インダクタンス
Lq1:制御系統1のq軸静的インダクタンス
Ld2:制御系統2のd軸静的インダクタンス
Lq2:制御系統2のq軸静的インダクタンス
L’d1:制御系統1のd軸動的インダクタンス
L’q1:制御系統1のq軸動的インダクタンス
L’d2:制御系統2のd軸動的インダクタンス
L’q2:制御系統2のq軸動的インダクタンス
ω:電気角速度
s:微分演算子(微分演算子「d/dt」をラプラス変換した演算子)
なお、式(17)中の静的インダクタンス(Ld1,Ld2,Lq1,Lq2)、動的インダクタンス(L’d1,L’d2,L’q1,L’q2)、固定子巻線抵抗(R1,R2)、及び回転子磁石磁束(φa1,φa2)は、何れも公知の方法で検出又は推定可能なパラメータ(モータ特性パラメータ)である。
そして、本実施形態において、モータ系150(モータ30)の特性に応じた電流から電圧へのdq軸座標系における伝達特性を表す伝達関数行列[Aij]は、以下の式(18)により定義される。
ここで、この伝達関数行列[Aij]の対角成分である「A11」及び「A22」は制御系統1のdq軸座標系における同一座標成分の間の伝達特性に相当する。また、「A33」、及び「A44」は、制御系統2のdq軸座標系における同一座標成分の間の伝達特性に相当する。
より詳細には、「A11」は、第1d軸電流id1から第1d軸電圧vd1への伝達特性に相当し、「A22」は、第1q軸電流iq1から第1q軸電圧vq1への伝達特性に相当する。また、「A33」は、第2d軸電流id2から第2d軸電圧vd2への伝達特性に相当し、「A44」は、第2q軸電流iq2から第2q軸電圧vq2への伝達特性に相当する。
さらに、伝達関数行列[Aij]の非対角成分である「A12」及び「A21」は、制御系統1のdq軸座標系における異なる座標成分の間の伝達特性(すなわち、干渉成分)に相当する。より詳細には、「A12」は、第1q軸電流iq1から第1d軸電圧vd1への伝達特性に相当する。また、「A21」は、第1d軸電流id1から第1q軸電圧vq1への伝達特性に相当する。
また、伝達関数行列[Aij]の非対角成分である「A13」、「A31」、「A14」、「A23」、「A32」、「A41」、「A24」、及び「A42」は、制御系統1と制御系統2の間の伝達特性に相当する。
より詳細には、「A13」は第2d軸電流id2から第1d軸電圧vd1への伝達特性、「A31」は第1d軸電流id1から第2d軸電圧vd2への伝達特性、「A14」は第2q軸電流iq2から第1d軸電圧vd1への伝達特性、「A23」は第2d軸電流id2から第1q軸電圧vq1への伝達特性、「A32」は第1q軸電流iq1から第2d軸電圧vd2への伝達特性、「A41」は第1d軸電流id1から第2q軸電圧vq2への伝達特性に相当する。また、「A24」は第2q軸電流iq2から第1q軸電圧vq1への伝達特性に相当する。さらに、「A42」は第1q軸電流iq1から第2q軸電圧vq2への伝達特性に相当する。
さらに、伝達関数行列[Aij]の非対角成分である「A34」及び「A43」は、制御系統2のdq軸座標系における異なる座標成分の間の伝達特性に相当する。
より詳細には、「A34」は第2q軸電流iq2から第2d軸電圧vd2への伝達特性に相当する。「A43」は第2d軸電流id2から第2q軸電圧vq2への伝達特性に相当する。
そして、第1実施形態と同様に、磁束φa1,φa2による誘起電圧の項を無視して式(17)を変形することで、以下の式(19)を得る。
さらに、上記式(19)で表される伝達特性に、dq軸電流検出値(idns,iqns)、dq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)、dq軸外乱電圧(ddn,dqn)、及びモータ系150に実際に入力される電圧としてのdq軸実電圧(vdnr,vqnr)を適用すると、以下の式(20)及び式(21)により表される関係が得られる。
さらに、式(20)の両辺の左側から伝達関数行列[Aij]を施し、式(21)を用いて変形することで以下の式(22)が得られる。
そして、第1実施形態と同様に、式(22)に対し、時定数τhの一次遅れフィルタによるフィルタ処理を行った以下の式(23)及び式(24)に基づいて、推定dq軸実電圧(v^dnr,v^qnr)及び推定dq軸外乱電圧(d^dn,d^qn)をそれぞれ演算する。
また、外乱補償部140は、以下の式(25)のように、この推定dq軸外乱電圧(d^dn,d^qn)の符号を反転させた値をdq軸外乱電圧補償値(v* dn_dist,v* qn_dist)として演算し、出力する。
したがって、このように演算されたdq軸外乱電圧補償値(v* dn_dist,v* qn_dist)をdq軸基本電圧指令値(v* dn_base,v* qn_base)に加算することで、複数制御系統で構成されるモータ系150に入力される外乱相当のdq軸外乱電圧(ddn,dqn)を好適に打ち消すことのできるdq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)を設定することができる。
図8は、本実施形態の外乱補償部140における演算の詳細を説明するブロック図である。すなわち、図3は、上記式(23)〜式(15)を用いた演算と等価なブロック線図である。
次に、本実施形態の回転電機制御方法を実行した場合(実施例2)の作用効果について、比較例2と対比しつつ説明する。特に、実施例2及び比較例2のシステムに所定の条件下でシミュレーションを行った結果について説明する。
(実施例2)
本実施形態のモータ制御システム1において、制御系統1のd軸の外乱(dd1)を印加した際の挙動を観測した。
(比較例2)
比較例2のシステム(以下では、「比較例システムref2」と称する)において、実施例2と同一の外乱を印加した際の挙動を観測した。
なお、比較例システムref2は、図11における比較例システムref1におけるモータ系150を、多重多相回転電機として構成したものである。
特に、比較例システムref2では、dq軸基本電圧指令値(v* dn_base,v* qn_base)に対してdq軸非干渉電圧(v* dn_dcpl,v* qn_dcpl)を加算する前(非干渉制御部130による非干渉制御の前)の非干渉処理前dq軸電圧指令値(v* dn_dsh,v* qn_dsh)及びdq軸電流検出値(idns,iqns)に基づいて、dq軸外乱電圧(ddn,dqn)を算出する。
また、比較例システムref2では、推定dq軸外乱電圧(d^d,d^q)及びdq軸外乱電圧補償値(v* d_dist,v* q_dist)の演算を、制御系統1のd軸、制御系統1のq軸、制御系統2のd軸、及び制御系統2のq軸ごとに個別に実行する。
(結果)
図9A及び図9Bは、実施例2及び比較例2におけるシミュレーション結果を示すタイミングチャートである。特に、図9Aには、それぞれの推定dq軸外乱電圧(d^dn,d^qn)の経時変化を示す。また、図9Bには、それぞれのdq軸電流検出値(idns,iqns)の経時変化を示す。また、図中において、実施例2のシミュレーション結果を太い実線で示し、比較例2のシミュレーション結果を一点二鎖線で示す。また、図中において破線で理論値を示す。
図9Aから理解されるように、実施例2では、比較例2に比べて推定dq軸外乱電圧(d^dn,d^qn)を理論値により近い高精度な値として定まった。また、図9Bから理解されるように、実施例2では、外乱の影響で生じた電流偏差が比較例2に比べてより素早く収束した。
以上説明した本実施形態の回転電機制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
本実施形態では、モータ30は固定子に複数の多相巻線が設けられた多重多相回転電機として構成される。そして、多相巻線ごとに制御系統(制御系統1及び制御系統2)を設定し、dq軸座標系におけるdq軸電流検出値(idns,iqns)を制御系統1,2に応じて並べたベクトルとして設定する(式(20)参照)。そして、伝達関数行列[Aij]を、このベクトルの次元数(本実施形態では4)と同一次数の正方行列(式(18))に設定する。
これにより、モータ30が多重多相回転電機として構成されており、複数の多相巻線ごとに制御系統が構成される場合においても、単一巻線の場合と同様の簡素な演算ロジックで推定dq軸外乱電圧(d^dn,d^qn)を算出することができる。
(変形例)
以下、第2実施形態の変形例について説明する。なお、第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図10は、本変形例に係る外乱補償部140における演算の詳細を説明するブロック図である。
図示のように、本変形例における回転電機制御方法では、一次遅れフィルタKの時定数τhを、制御系統1のd軸及びq軸、並びに制御系統2のd軸及びq軸ごとに個別に設定する。より詳細には、制御系統1のd軸に第1d軸用時定数τhd1、制御系統1のq軸に第1q軸用時定数τhq1、制御系統2のd軸に第2d軸用時定数τhd2、制御系統2のq軸に第2q軸用時定数τhq2を設定する。
特に、本変形例では、一次遅れフィルタKが、第1行第1列成分を「τhd1」、第2行第2列成分を「τhq1」、第3行第3列成分を「τhd2」、及び第4行第4列成分を「τhq2」とする行列として設定される。
これにより、複数制御系統で構成されるモータ系150において、各制御系統1,2及び各軸ごとにそれぞれの伝達特性の違いに応じた適切な時定数を設定することができるので、制御安定性の低下を抑制しつつ、外乱電圧を好適に推定することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
例えば、上記実施形態では、モータ30の回転子の種類が永久磁石型回転子である同期モータの場合を前提としている。しかしながら、これに限られず、モータ30を、巻線型回転子又は籠型回転子などの他の種類の回転子が用いられる同期モータにより構成しても良い。
また、上記各実施形態では、制御系統数が1つ又は2つである場合(単一巻線又は2つの巻線の場合)について説明したが、適宜、制御系統数が3以上のシステムにおいても、本発明の構成を適用できる。
特に制御系統数がN(Nは任意の自然数)である場合、第2実施形態におけるdq軸電流検出値(idns,iqns)及びdq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)の次元は2Nとなる。したがって、これに応じたモータ30の電流から電圧への伝達特性を表す伝達関数行列[Aij]は2N行2N列の正方行列として定めることで、上記第2実施形態と同様に、推定dq軸外乱電圧(d^dn,d^qn)及びdq軸電圧指令値(v* dn,v* qn)を算出することができる。