以下、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態による回転電機制御方法(モータ制御方法)を実行するためのモータ制御システム100の構成を説明するブロック図である。
本実施形態のモータ制御システム100は、固定子(ステータ)に複数の多相巻線が設けられた多重多相回転電機としてのモータ101の動作を制御するシステムである。
モータ101は、種々の駆動力要求装置の動力源として用いることができる。特に、モータ101は、電気自動車(EV)又はハイブリッド自動車(HEV)等の電動モータの駆動力で走行する任意の車両における駆動源としての用途が想定される。
ここで、本実施形態における多相巻線とは、各相(例えば、三相交流の場合、U相、V相、及びW相の各相)のそれぞれに対応する一組の巻線を組み合わせて成る巻線組を意味する。
また、以下の説明において、上記複数の多相巻線の内の特定の巻線組への通電を制御する一組の構成要素の単位を「系統」と称する。例えば、モータ101がいわゆる三相二重巻線型のモータで構成される場合には、ステータに2つの三相巻線が設けられる。したがって、この場合、モータ101の動作を制御するモータ制御システム100には、2つの巻線組へのそれぞれの通電を制御する2つの系統が存在することとなる。
そして、本実施形態では、特に、モータ101が三相二重巻線型の永久磁石同期モータとして構成されることを前提としたモータ制御システム100におけるモータ制御方法について説明する。しかしながら、このことは、本発明のモータ制御方法を、三相二重巻線型の永久磁石同期モータ以外の多重多相回転電機を有するシステムに適用することを妨げるものではない。
さらに、以下の説明においては、三相二重巻線型永久磁石同期モータとして構成されるモータ101を備えるモータ制御システム100において、上述した2つの系統をそれぞれ「系統1」及び「系統2」と称する。特に、系統1における各制御量(電流など)及び系統2における各制御量を区別する必要がある場合には、これら各制御量に「1」又は「2」という下付きの添え字を付する。
また、これら系統1及び系統2における各制御量を包括して説明する場合には、各制御量に「n」(n=1又は2)という下付きの添え字を付する。例えば、系統1における三相電圧の指令値「三相電圧指令値(v*
u1,v*
v1,v*
w1)」及び系統2における三相電圧の指令値「三相電圧指令値(v*
u2,v*
v2,v*
w2)」を包括して、「三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)」などと表記する。
図1に示すように、本実施形態のモータ制御システム100は、PWM変換器102と、三相電圧型のインバータ103と、直流電源104と、電流センサ105と、A/D変換器106と、3相/dq交流座標変換部109と、磁極位置検出器107と、パルスカウンタ108と、角速度演算部110と、電流指令値演算部111と、電流制御部112と、非干渉制御部113と、高調波電流制御部114と、電圧指令値演算部115と、dq/3相交流座標変換器116と、を有している。なお、これらの各構成の機能は、適宜、当該機能を実行するようにプログラムされたコンピュータにより実現される。
PWM変換器102は、2系統の三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)に基づいて、2系統の三相電圧型のインバータ103のスイッチング素子(IGBTなど)のPWM_Duty駆動信号(D*
uun,D*
uln,D*
vun,D*
vln,D*
wun,D*
wln)を生成する。
インバータ103は、PWM変換器102によって生成されるPWM_Duty駆動信号(D*
uun,D*
uln,D*
vun,D*
vln,D*
wun,D*
wln)に基づいてスイッチング素子を操作し、直流電源104からの直流電圧を三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)に応じた三相交流電圧(vun,vvn,vwn)に変換し、モータ101に供給する。
直流電源104は、積層型リチウムイオンバッテリなどの蓄電デバイスにより構成される。
電流センサ105は、モータ101の各多相巻線に流れる三相交流電流(i
uns,i
vns,i
wns)のうち、少なくとも2相の電流(例えば、u相電流i
un、v相電流i
vn)を検出する。なお、電流センサ105を2相のみに取り付ける場合、残りの1相の電流i
wnsは、次式(1)により求めることができる。
A/D変換器106は、電流センサ105による三相交流電流検出値をデジタル信号に変換する。
磁極位置検出器107は、モータ101の回転子位置に応じたA相B相Z相のパルスをパルスカウンタ108に出力する。
パルスカウンタ108は、磁極位置検出器107からのA相B相Z相のパルスに基づいて、モータ101の電気角度θreを演算する。この電気角度θreは、実際の機械角度θrm及びモータ101の構造により定まるモータ極対数p(磁極の対の数)に基づいて定まる、モータ101の電気角の実値に相当する値である。すなわち、電気角度θreはモータ101の回転子(ロータ)の回転状態を表す回転状態パラメータに相当する。
3相/dq交流座標変換部109は、パルスカウンタ108で演算される電気角度θreを用いて、A/D変換器106でデジタル信号に変換された三相交流電流検出値を3相交流座標系(uvw軸)から直交2軸直流座標系(dq軸)に変換する。
具体的に、先ず、3相/dq交流座標変換部109は、以下の式(2)及び式(3)に基づいて電気角度θreから系統nの電気角θnを算出する。
なお、式(2)及び式(3)中の「θoffset」は電気角度θreと系統1の位相差を意味する。また、「θ12」は、系統1に対する系統2の位相差を意味する。すなわち「θ12」は、「θ2-θ1」に相当する。
さらに、3相/dq交流座標変換部109は、以下の式(4)に基づき、電気角θnを用いて上記三相交流電流検出値から系統1のdq軸電流(id1,iq1)及び系統2のdq軸電流(id2,iq2)を算出する。なお、以下では、適宜、電流等のdq座標系におけるd軸成分及びq軸成分を包括する符号「x」(x=d又はq)を用いて、系統1及び2と、これら系統のそれぞれの電流等の制御量を包括した表示を行う。具体的に、dq軸電流(ixn)などの表示を用いる。
角速度演算部110は、パルスカウンタ108からの電気角度θreを時間微分して電気角速度ωreを演算する。また、角速度演算部110は、電気角速度ωreをモータ極対数pで除して機械角速度ωrmを演算する。
電流指令値演算部111は、図示しないメモリに記憶される予め定められたマップに基づいて、駆動力要求装置の要求駆動力に基づいて定まるトルク指令値T*、モータ回転数(機械角速度ωrm)、直流電源104からの供給電圧の大きさである直流電圧Vdcを入力情報とし、dq軸電流指令値(i*
xn)を算出する。
電流制御部112は、上述のように3相/dq交流座標変換部109で求められる実計測値相当のdq軸電流(ixn)が電流指令値演算部111からのdq軸電流指令値(i*
xn)に定常偏差なく所望の応答性で追従するように、基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)を算出する。
また、非干渉制御部113は、角速度演算部110からの電気角速度ωre、及び3相/dq交流座標変換部109からのdq軸電流(ixn)を入力情報として、d軸及びq軸間の干渉電圧を相殺するために必要な非干渉電圧(vxn_dcpl)を算出する。
なお、非干渉制御部113は、上記非干渉電圧(vxn_dcpl)の算出にあたり、実検出値相当のdq軸電流(ixn)に代え、dq軸電流指令値(i*
xn)に基づいて定まるdq軸電流規範応答(ixn_ref)を用いても良い。
高調波電流制御部114は、パルスカウンタ108からの電気角度θre、角速度演算部110からの電気角速度ωre、及び3相/dq交流座標変換部109からのdq軸電流(ixn)を入力情報として、dq軸補正電圧(vxn_hc)を演算する。なお、高調波電流制御部114におけるdq軸補正電圧(vxn_hc)の演算の詳細については後述する。
電圧指令値演算部115は、電流制御部112からの基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)、非干渉制御部113からの非干渉電圧(vxn_dcpl)、及び高調波電流制御部114からのdq軸補正電圧(vxn_hc)を入力情報として、dq軸電圧指令値(v*
xn)を求める。
具体的に、電圧指令値演算部115は、基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)に非干渉電圧(vdn_dcpl,vqn_dcpl)及びdq軸補正電圧(vxn_hc)を加算してdq軸電圧指令値(v*
xn)を算出する。
dq/3相交流座標変換器116は、パルスカウンタ108からの電気角度θre及び電圧指令値演算部115からのdq軸電圧指令値(v*
xn)を入力情報として、三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)を算出する。また、dq/3相交流座標変換器116は、算出した三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)をPWM変換器102に出力する。
具体的に、dq/3相交流座標変換器116は、上記式(2)及び式(3)に基づいて電気角度θreから系統nの電気角θnを算出する。
さらに、dq/3相交流座標変換器116は、電気角θnを用いて以下の式(5)に基づき、dq軸電圧指令値(v*
xn)を直交2軸直流座標系(dq軸)から3相交流座標系(uvw軸)に変換して三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)を求める。
次に、高調波電流制御部114における処理の詳細について説明する。
図2は、高調波電流制御部114の機能を説明するブロック図である。図示のように、高調波電流制御部114は、インダクタンス推定部201と、電圧補正値演算部202と、を有する。
インダクタンス推定部201は、dq交流座標変換部109からのdq軸電流(ixn)及びパルスカウンタ108からの電気角度θreを入力情報として、直流成分及び高調波成分からなるモータ101のインダクタンスを推定する。
電圧補正値演算部202は、推定されたインダクタンスに基づいて、当該インダクタンスの高調波成分によって生じるd軸及びq軸の高調波電流を相殺するために必要な補正電圧であるdq軸補正電圧(vxn_hc)を算出する。
以下、高調波電流制御部114におけるインダクタンス高調波推定値の演算及びdq軸補正電圧(vxn_hc)の演算のさらなる詳細について説明する。
[インダクタンス推定部201の演算]
先ず、インダクタンス推定部201において演算されるインダクタンスの具体的な定義について説明する。
三相二重巻線型永久磁石同期モータとして構成された本実施形態のモータ101に関する電圧方程式は以下の式(6)で表される。
式(6)中の各パラメータの定義は、既に説明したものも含めて以下のように定められる。
id1:第1系統のd軸電流
iq1:第1系統のq軸電流
id2:第2系統のd軸電流
iq2:第2系統のq軸電流
vd1:第1系統のd軸電圧
vq1:第1系統のq軸電圧
vd2:第2系統のd軸電圧
vq2:第2系統のq軸電圧
Ra1:第1系統の固定子巻線抵抗
Ra2:第2系統の固定子巻線抵抗
φa1:第1系統の回転子磁石磁束
φa2:第2系統の回転子磁石磁束
Ld1:第1系統のd軸静的インダクタンス
Lq1:第1系統のq軸静的インダクタンス
Ld2:第2系統のd軸静的インダクタンス
Lq2:第2系統のq軸静的インダクタンス
Md:第1系統と第2系統間のd軸相互インダクタンス
Mq:第1系統と第2系統間のq軸相互インダクタンス
L’d1:第1系統のd軸動的インダクタンス
L’q1:第1系統のq軸動的インダクタンス
L’d2:第2系統のd軸動的インダクタンス
L’q2:第2系統のq軸動的インダクタンス
M’d:第1系統と第2系統間のd軸動的相互インダクタンス
M’q:第1系統と第2系統間のq軸動的相互インダクタンス
ωre:電気角速度
s:微分演算子(微分演算子「d/dt」をラプラス変換した演算子)
なお、以下では、式(6)の第1項におけるLxn,L’xn,Mx,M'xを包括して「インダクタンスL[Lxn,L’xn,Mx,M'x]」又は「インダクタンスL」とも称する。すなわち、インダクタンスL[Lxn,L’xn,Mx,M'x]がインダクタンス推定部201において演算すべきモータ101のインダクタンスに相当する。
ここで、インダクタンスLの各成分にはモータ101の構造的要因により当該モータ101の回転状態(電気角度θre)に応じて変化する高調波成分総和を含む。
そして、本実施形態のように複数系統、より詳細には2つの系統として系統1及び系統2を備えるモータ101のインダクタンスLは、系統1の位相(電気角θ1)に応じて変化する高調波成分総和、及び系統2の位相(電気角θ2)に応じて変化する高調波成分総和を含む。
本実施形態では、モータ101において、全ての位相(周波数)における空間高調波の和を含むインダクタンス高調波Lxn_haをインダクタンス高調波と定義する。そして、推定、解析又は計測によって導出したインダクタンス高調波をインダクタンス高調波推定値と定義する。
以下、インダクタンス推定部201によるインダクタンスL[Lxn,L’xn,Mx,M'x]の算出についてより詳細に説明する。
先ず、インダクタンス推定部201は、各入力情報に基づいて、下記の式(7)にしたがい、インダクタンスL[Lxn,L’xn,Mx,M'x]の要素を構成する第n系統x軸静的インダクタンスLxn、及び第n系統x軸動的インダクタンスL'xnを演算する。なお、以下では、静的インダクタンスと動的インダクタンスを包括する場合に、第n系統x軸インダクタンス(Lxn,L'xn)と表記する。
なお、式(7)中の各パラメータの定義は、以下のように定められる。
lxn: 第n系統x軸静的インダクタンスの直流成分
lxn_ha: 第n系統x軸静的インダクタンスの空間高調波成分の総和
Axnm: 第n系統x軸静的インダクタンスの第m次空間高調波の振幅
Cxnm: 第n系統x軸静的インダクタンスの第m次空間高調波の位相
l’xn: 第n系統x軸動的インダクタンスの直流成分
l’xn_ha: 第n系統x軸動的インダクタンスの空間高調波成分の総和
A’xnm: 第n系統x軸動的インダクタンスの第m次空間高調波の振幅
C’xnm: 第n系統x軸動的インダクタンスの第m次空間高調波の位相
m: 空間高調波の次数
ここで、式(7)から理解されるように、第n系統x軸静的インダクタンスLxnは、その直流成分lxnと高調波総和lxn_haの和で表すことができる。なお、第n系統x軸動的インダクタンスL'xnについても同様に、その直流成分l'xnと高調波総和l'xn_haの和で表すことができる。
次に、インダクタンス推定部201は、x軸静的相互インダクタンスMx及びx軸動的相互インダクタンスM'xを演算する。
ここで、以下の式(8)のように、x軸静的相互インダクタンスMxはその直流成分mxと高調波成分総和mx_haの和で表すことができる。同様に、x軸動的相互インダクタンスM'xも、その直流成分m'xと高調波成分総和m'x_haの和で表すことができる。
一方、インダクタンスL(自己インダクタンス)と相互インダクタンスMの間には、一般に以下の式(9)の関係が成り立つ。
なお、式(9)中の「k」は、モータ101の仕様などに応じて定まる磁気結合係数である。
さらに、式(7)の関係を式(9)のx軸静的相互インダクタンスMxに適用して変形すると、以下の式(10)が得られる。
さらに、上記式(10)に対して、インダクタンスの直流成分(「lx1」及び「lx2」)と高調波成分総和(「lx1_ha」及び「lx2_ha」)の項を分離すべく、右辺を「lx1_ha/lx1」及び「lx2_ha/lx2」の級数に展開する。
具体的には、式(10)の右辺の2番目の平方根部分√(1+lx1_ha/lx1)と3番目の平方根部分√(1+lx2_ha/lx2)を「lx1_ha/lx1」及び「lx2_ha/lx2」の関数とみなして、それぞれに対してマクローリン展開を行う。
ここで、√(1+y)の形の関数はyに関して無限回微分可能である。また、インダクタンスは負値をとらず、一般的に直流成分lx1,lx2は高調波総和lx1_ha,lx2_haよりも大きい。すなわち、「lx1_ha/lx1」及び「lx2_ha/lx2」はいずれも1よりも小さくなる。
そのため、√(1+lx1_ha/lx1)及び√(1+lx2_ha/lx2)をそれぞれマクローリン展開して得られる無限級数は、何れも収束する。
したがって、式(10)に対して上記マクローリン展開を行うことで以下の式(11)を得ることができる。
ただし、式(11)中のO[(lxn_ha/lxn)2]は、(lxn_ha/lxn)の2次以上の項を意味する。より詳細には、O[(lxn_ha/lxn)2]は、少なくとも(lx1_ha/lx1)2、(lx2_ha/lx2)2、又は(lx1_ha/lx1)×(lx2_ha/lx2)を因数に持つ項の総和を意味する。
そして、式(8)の第1式及び式(11)を参照すれば、x軸静的相互インダクタンスMxに関し、以下の式(12)で表される関係が導かれる。
式(12)から理解されるように、x軸静的相互インダクタンスMxの高調波成分総和mx_haは、第1系統x軸インダクタンスの直流成分lx1、第2系統x軸インダクタンスの直流成分lx2、第1系統x軸インダクタンス高調波総和lx1_ha、及び第2系統x軸インダクタンス高調波総和lx2_haを用いて表すことができる。
x軸動的相互インダクタンスM'xに対しても、上述したx軸静的相互インダクタンスMxに対する演算と同様の演算を行うことで、以下の式(13)で表される関係が導かれる。
式(13)から理解されるように、x軸動的相互インダクタンスM'xの高調波成分総和m'x_haは、第1系統x軸動的インダクタンスの直流成分l'x1、第2系統x軸動的インダクタンスの直流成分l'x2、第1系統x軸動的インダクタンス高調波総和l'x1_ha、及び第2系統x軸動的インダクタンス高調波総和l'x2_haを用いて表すことができる。
そして、本実施形態のインダクタンス推定部201は、dq軸電流(ixn)及び電気角度θreに基づいて、インダクタンス直流成分lxn,l'xnを求める。
また、インダクタンス推定部201は、図示しないセンサ等により取得する各周波数のインダクタンス高調波の振幅Axnm,A'xnm及び位相Cxnm,C'xnmを用いて、各周波数相当の位相θn、2θn、3θn、4θn、・・・ごとの高調波成分(すなわち、式(7)の右辺のΣ内)を求め、これらの総和を取ることでインダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_haを算出する。そして、インダクタンス推定部201は、求めたインダクタンス直流成分lxn,l'xn及びインダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_haを式(7)に適用することで、第n系統x軸静的インダクタンスLxn及び第n系統x軸動的インダクタンスL'xnを求める。
さらに、インダクタンス推定部201は、求めたインダクタンス直流成分lxn,l'xn及びインダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_haを、式(8)~式(13)に適用することで、x軸静的相互インダクタンスMx及びx軸動的相互インダクタンスM'xを求める。
したがって、インダクタンス推定部201は、式(7)のインダクタンスL[Lxn,L’xn,Mx,M'x]を、各直流成分lxn,l'xn及び各高調波総和lxn_ha,l'xn_haで表す。さらに、インダクタンス推定部201は、これに式(7)を当てはめることで各周波数相当(m=1,2,3・・・)の三角関数の和として表されるインダクタンスL[ΣAxnmsin(mθn+Cxnm),ΣA'xnmsin(mθn+C'xnm)]をインダクタンス推定値として演算することができる。そして、インダクタンス推定部201は、このインダクタンスLを電圧補正値演算部202に出力する。
[電圧補正値演算部202の演算]
本実施形態の電圧補正値演算部202は、インダクタンス推定部201が求めたインダクタンス推定値からdq軸補正電圧(vxn_hc)を演算する。以下、その詳細を説明する。
先ず、上記式(6)の電圧方程式に対して、インダクタンス高調波総和を含む項とこれを含まない項に分離する変形を行う。
具体的には、式(6)に対して、式(7)及び式(8)を適用して、以下の式(14)を得る。
なお、式(14)の導出にあたり、微分演算子sが施されている項には、適宜、合成関数の微分の公式(連鎖公式)を用いた。また、特に、巻線抵抗又は静的インダクタンスなどの実質的に時間変化をしないとみなすことのできるパラメータについては、微分演算子sを施すにあたりこれを時間に対する定数関数とみなして演算を行っている。
ここで、式(14)においてインダクタンス高調波総和を含まない第1項及び第2項は、インダクタンスが空間高調波を持たない理想状態の場合の電圧値に相当する。一方、インダクタンス高調波総和を含む第3項及び第4項はそれぞれ、インダクタンスの空間高調波によって電流の高調波振動を発生させる電圧値となる。すなわち、式(14)の第3項及び第4項は、理想的な電圧方程式に対する外乱となる。
なお、以下では、式(14)の第3項における電流ベクトルに作用する行列を、第1インダクタンス空間高調波Lha1[lxn_ha,l’xn_ha,mx_ha,m’x_ha]と称する。また、また、式(14)の第4項における電流ベクトルの時間微分に作用する行列を、第2インダクタンス空間高調波Lha2[l’xn_ha,m’x_ha]と称する。
そして、本実施形態の電圧補正値演算部202は、式(14)の第3項及び第4項に含まれるインダクタンス高調波に起因する高調波電流を相殺する観点から、dq軸補正電圧(vxn_hc)を演算する。
すなわち、電圧補正値演算部202は、以下の式(15)にしたがい、dq軸補正電圧(vxn_hc)を算出する。
式(15)において第1インダクタンス空間高調波Lha1[lxn_ha,l’xn_ha,mx_ha,m’x_ha]を含む右辺第1項は、dq軸電流(ixn)の定常値に依存する項であり、当該dq軸電流(ixn)の時間変化に対する応答が相対的に低い定常状態を表す項である。一方、第2インダクタンス空間高調波Lha2[l’xn_ha,m’x_ha]を含む右辺第2項は、dq軸電流(ixn)の時間微分s・(ixn)に依存する工程であり、当該dq軸電流(ixn)の時間変化に対する応答が相対的に高い過渡状態を表す項である。
ここで、式(15)中の第1インダクタンス空間高調波Lha1[lxn_ha,l’xn_ha,mx_ha,m’x_ha]及び第2インダクタンス空間高調波Lha2[l’xn_ha,m’x_ha]を、インダクタンス高調波の振幅Axnm,A'xnm及び位相Cxnm,C'xnmを用いて表すために、相互インダクタンスの高調波成分総和mx_ha,m'x_haを消去するとともに、「sl'xn_ha」等の微分演算子を含む要素に対する演算を適宜行う。
具体的に、第n系統x軸動的インダクタンスの空間高調波の時間微分sl'xn_haは、上記式(7)の第2式を時間微分することにより、以下の式(16)のように定まる。
すなわち、式(16)及び余弦波と正弦波の位相差がπ/2[rad]であることを考慮すれば、第n系統x軸動的インダクタンスの空間高調波の時間微分sl'xn_haは、電気角速度ωre、第n系統x軸動的インダクタンス高調波総和l'xn_haで表現されていると言える。
また、x軸動的相互インダクタンスの空間高調波の時間微分sm'
x_haは、式(13)の第2式を時間微分して以下の式(17)で表される。
すなわち、第n系統x軸動的インダクタンスL'xnの直流成分l'xn及び高調波総和l'xn_haにより表すことができる。
したがって、電圧補正値演算部202は、式(15)における第1インダクタンス空間高調波Lha1[lxn_ha,l’xn_ha,mx_ha,m’x_ha]及び第2インダクタンス空間高調波Lha2[l’xn_ha,m’x_ha]に、インダクタンス推定部201で推定されたインダクタンスL[ΣAxnmsin(mθn+Cxnm),ΣA'xnmsin(mθn+C'xnm)]を適用することで、各周波数のインダクタンス高調波の振幅Axnm,A'xnm及び位相Cxnm,C'xnmに基づいて、dq軸補正電圧(vxn_hc)を演算することができる。
そして、電圧指令値演算部115において、基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)がdq軸補正電圧(vxn_hc)で補正されることで、インダクタンス高調波の影響を打ち消す観点から好適な最終的なdq軸電圧指令値(v*
xn)を求めることができる。
以上説明した本実施形態の回転電機制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
本実施形態の回転電機制御方法は、固定子に複数の多相巻線(系統1及び系統2)が設けられた多重多相回転電機としてのモータ101において、各多相巻線に電圧指令値としての三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)に基づく電圧を供給することでモータ101の作動を制御する。
そして、この回転電機制御方法は、モータ101の回転子の回転状態を表す回転状態パラメータ(電気角度θre、電気角速度ωre、及び機械角速度ωrm)及び各多相巻線に供給される電流の検出値である電流検出値としてのdq軸電流(ixn)を取得する入力工程(電流センサ105、A/D変換器106、3相/dq交流座標変換部109、磁極位置検出器107、及びパルスカウンタ108)と、電気角度θre及びdq軸電流(ixn)に基づいてモータ101のインダクタンスLを推定する推定工程(インダクタンス推定部201)と、電気角速度ωre、dq軸電流(ixn)、及び推定したインダクタンスLに基づいて三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)を算出する電圧指令値算出工程(電流指令値演算部111、電流制御部112、電圧補正値演算部202、及び電圧指令値演算部115)と、を有する。
これにより、多重多相回転電機として構成されるモータ101の各多相巻線に供給される実際の電流に応じて高調波成分を含むインダクタンスLを推定し、このインダクタンスLの推定値に応じてモータ101の作動電圧を調節することができる。すなわち、各系統に供給する電流を揃えるなどの制限に起因する電流制御の自由度の低下を抑制することができる。
特に、本実施形態の回転電機制御方法によれば、上記推定工程では、インダクタンスLに含まれるインダクタンス高調波としてのインダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haを演算する(上記式(7)~式(13)参照)。電圧指令値算出工程では、回転状態パラメータとしての機械角速度ωrm及びdq軸電流(ixn)に基づいて三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)の基本値である基本電圧指令値としての基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)を算出する(電流制御部112)。さらに、電圧指令値算出工程では、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haに基づいて、当該インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haを打ち消すように基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)を補正するための電圧補正値としてdq軸補正電圧(vxn_hc)を算出する(電圧補正値演算部202)。さらに、基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)及びdq軸補正電圧(vxn_hc)に基づいて三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)を算出する(電圧指令値演算部115及びdq/3相交流座標変換器116)。
これにより、複数の系統(系統1及び系統2)を備えるモータ101において、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haを打ち消すように観点からdq軸補正電圧(vxn_hc)を演算し、当該dq軸補正電圧(vxn_hc)を用いて外部の駆動力要求などに基づいて定まる基本dq軸電圧指令値(vxn_dsh)を補正した結果の電圧をモータ101に印加することができる。したがって、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haに起因する各系統1,2の高調波電流の発生を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、dq軸補正電圧(vxn_hc)を、dq軸電流(ixn)の時間微分値(式(15)の右辺第2項)に基づいて演算する(電圧補正値演算部202)。
これにより、各系統1,2に流れる電流が過渡状態(すなわち、電流の時間変化率が所定閾値を越える場合)において、当該時間変化に応じて変動する高調波成分(式(15)の第2項)の影響が考慮されたdq軸補正電圧(vxn_hc)を演算することができる。すなわち、本実施形態の回転電機制御方法であれば、電流の過渡状態においても電流高調波成分を打ち消すことのできる三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)を定め、エネルギー損失及び振動の発生が抑制された好適なモータ101の作動を実現することができる。
さらに、本実施形態の回転電機制御方法では、上記推定工程において、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haを、dq軸電流(ixn)及び電気角度θreに基づいて、周波数ごと(m=1,2・・・)のインダクタンス高調波成分の振幅(「Axnm」,「A’xnm」)及び位相(「mθn+Cxnm」,「mθn+C’xnm」)を推定し((式(7)のΣ内))、推定されたインダクタンス高調波成分Axnmsin(mθn+Cxnm),A'xnmsin(mθn+C'xnm)の和を取ることで算出する(インダクタンス推定部201及び式(7))。
これにより、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haを比較的簡易な演算で求めることができる。
さらに、本実施形態では、上記回転電機制御方法が実行される回転電機制御システムとしてのモータ制御システム100が提供される。
モータ制御システム100は、固定子に複数の多相巻線が設けられた多重多相回転電機としてのモータ101において、各多相巻線に電圧指令値としての三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)に基づく電圧を供給することでモータ101の作動を制御する。
特に、モータ制御システム100は、モータ101の回転子の回転状態を表す回転状態パラメータ(電気角度θre、電気角速度ωre、及び機械角速度ωrm)及び各多相巻線に供給される電流の検出値である電流検出値としてのdq軸電流(ixn)を取得する入力情報取得部(電流センサ105、A/D変換器106、3相/dq交流座標変換部109、磁極位置検出器107、及びパルスカウンタ108)と、電気角度θre及びdq軸電流(ixn)に基づいてモータ101のインダクタンスLを推定する推定部(インダクタンス推定部201)と、電気角速度ωre、dq軸電流(ixn)、及び推定したインダクタンスLに基づいて三相電圧指令値(v*
un,v*
vn,v*
wn)を算出する電圧指令値算出部(電流指令値演算部111、電流制御部112、電圧補正値演算部202、及び電圧指令値演算部115)と、を有する。
これにより、本実施形態の回転電機制御方法を実行するための好適なシステム構成が実現される。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施形態では、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_haが、インダクタンス直流成分lxn,l'xnに比べて十分に小さいことを前提とする。すなわち、上記式(11)などに含まれている(l'xn_ha/l'xn)の2次以上の項であるO[(lxn_ha/lxn)2]及びO[(l'xn_ha/l'xn)2]を0とみなした場合における高調波電流制御部114における処理について説明する。
図3は、第2実施形態の高調波電流制御部114の構成を説明するブロック図である。
図示のように、本実施形態の高調波電流制御部114のインダクタンス推定部201は、各周波数mのインダクタンス高調波成分Axnmsin(mθn+Cxnm),A'xnmsin(mθn+C'xnm)を演算する第m次インダクタンス推定部201mにより構成されている。なお、以下では、周波数mのインダクタンス高調波成分Axnmsin(mθn+Cxnm),A'xnmsin(mθn+C'xnm)を「第m次インダクタンス高調波成分lxnm_ha」とも称する。
第m次インダクタンス推定部201mは、第m次インダクタンス高調波成分lxnm_ha、及びインダクタンス直流成分lxn,l’xn,mx,m'xを電圧補正値演算部202に出力する。
さらに、本実施形態の電圧補正値演算部202は、第m次電圧補正値演算部202mと、加算部203と、を有している。
第m次電圧補正値演算部202mは、第m次インダクタンス推定部201mからのインダクタンス直流成分lxn,l’xn,mx,m'x及び第m次インダクタンス高調波成分lxnm_haに基づいて、当該第m次インダクタンス高調波成分lxnm_haを打ち消すための第m次dq軸補正電圧(vxnm_hc)を演算する。
また、加算部203は、第m次電圧補正値演算部202mで演算される第m次dq軸補正電圧(vxnm_hc)のmに関する総和をとってdq軸補正電圧(vxn_hc)を算出する。
以下では、図3に示す機能ブロックによりdq軸補正電圧(vxn_hc)を好適に算出できる理由について説明する。
先ず、上述のように、O[(lxn_ha/lxn)2]及びO[(l'xn_ha/l'xn)2]を0とみなした場合、式(12)及び式(13)にしたがい、x軸静的相互インダクタンスの高調波成分総和mx_ha,m'x_haは、以下の式(18)及び式(19)のように近似することができる。
また、x軸動的相互インダクタンスの高調波成分総和m'x_haの時間微分sm'x_haは、上記式(19)を参照すると、以下の式(20)で表される。
したがって、O[(lxn_ha/lxn)2]及びO[(l'xn_ha/l'xn)2]を0とみなすと、x軸相互インダクタンスの高調波成分総和mx_ha,m'x_ha、及びその時間微分sm'x_haは、いずれも(lxn_ha/lxn)又は(l'xn_ha/l'xn)の一次の項のみで表すことができる。
ここで、直流成分lxn,l’xn,mx,m'xは実質的に時間に依存しない定数とみなすことができる。また、既に説明したように、式(7)を参照するとわかるように、(lxn_ha/lxn)及び(l'xn_ha/l'xn)は、それぞれ、Axnmsin(mθn+Cxnm)及びA'xnmsin(mθn+C'xnm)の線形和(Σ)の形で表される。
したがって、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haは、周波数mの三角関数(すなわち、上述の第m次インダクタンス高調波成分lxnm_ha)の線形和で表すことができる。
したがって、上記式(15)を用いると、本実施形態のdq軸補正電圧(vxn_hc)は以下の式(21)のように表すことができる。
ただし、式(21)の右辺のF[mθ1,mθ2]及びG[mθ1,mθ2]は、mθ1及びmθ2の関数を成分とする4×4行列である。より詳細には、F[mθ1,mθ2]及びG[mθ1,mθ2]のそれぞれの第i行第j列成分(i,j=1~4)であるFij及びGijは、位相mθ1若しくはmθ2の三角関数、又はその三角関数の和により定まる。また、式(21)の右辺のΣ内が上述の第m次dq軸補正電圧(vxnm_hc)に相当する。
行列F[mθ1,mθ2]は、具体的に以下の式(22)のように表される。
より詳細に、各成分Fijは以下の式(23)のように定まる。
さらに、行列G[mθ1,mθ2]は、具体的に以下の式(24)のように表示される。
より詳細には、各成分Gijは以下の式(25)のように定まる。
上記式(21)~式(25)を参照すると理解されるように、本実施形態のdq軸補正電圧(vxn_hc)は、各周波数mの第m次インダクタンス高調波成分lxnm_haを打ち消す観点から定まる第m次dq軸補正電圧(vxnm_hc)を求め、mに関する線形和を演算することで求めることができる。
次に、本実施形態の回転電機制御方法を実行した場合(実施例)の作用効果について比較例と対比しつつ、説明する。
(比較例)
高調波電流制御部114を備えていない以外は、第2実施形態で説明したモータ制御システム100と同じ構成を有するシステムの動作をシミュレーションして、各系統のインダクタンス波形及び電流の変化を計測した。
(実施例)
第2実施形態で説明したモータ制御システム100の動作をシミュレーションして、各系統の電流の変化を計測した。
(結果)
図4Aは、比較例におけるインダクタンスの波形を示している。特に、図4A(a)は、電気角度θreの変化に応じた各系統におけるd軸インダクタンスLdnとd軸相互インダクタンスMdの変化を示している。また、図4A(b)は、電気角度θreの変化に応じた各系統におけるq軸インダクタンスLqnの変化とq軸相互インダクタンスMqの変化を示している。
さらに、図4Aでは、系統1のd軸インダクタンスLd1を実線で示し、系統2のd軸インダクタンスLd2を一点鎖線グラフで示す。また、d軸相互インダクタンスMd及びq軸相互インダクタンスMqは何れも、破線グラフで示している。
また、図4Aに示すインダクタンス波形は、インダクタンス直流成分で正規化している。
ここで、一般的に、インダクタンスの空間高調波はdq軸座標系において電気角度θreの6m次の周波数成分が特に問題となる。すなわち、電気角度θreを時間微分して得られる電気角速度ωreの6m倍相当の周波数の空間高調波が特に問題となる。図4Aに示す比較例のシステムでは、特に、6次、12次、及び18次の周波数成分の空間高調波の影響が強く現れている。
例えば、図4A(a)に示す系統1のd軸インダクタンスLd1では、6次、12次、及び18次の周波数成分の空間高調波が合成された結果のピーク(極大値)が、電気角度θreの一周期(360°)の内に6つ現れている。
このような6m次の周波数成分の空間高調波による影響によってモータ101に供給される電流が変動することで、エネルギー損失及び振動騒音がもたらされることが想定される。
一方、図4B及び図4Cには、比較例と実施例のそれぞれにおける各系統の電気角度θreに応じた電流波形を示す。
特に、図4B(a)及び図4B(b)には、それぞれ、系統1及び系統2のd軸電流id1,id2の変化を示す。また、実施例におけるd軸電流idnの変化を実線で表し、比較例におけるd軸電流idnの変化を点線で表す。
また、図4C(a)及び図4C(b)には、それぞれ、系統1及び系統2のq軸電流iq1,iq2の変化を示す。また、実施例におけるq軸電流iqnを実線で表し、比較例におけるq軸電流iqnを点線で表す。
さらに、図4B及び図4Cに示す電流波形は、電流目標値(≒dq軸電流指令値(i*
dn,i*
qn))で正規化している。
図4B及び図4Cから理解されるように、点線で示す比較例における各系統のdq軸電流(ixn)には、6次、12次、及び18次の周波数成分の電流高調波が生じている。これに対して、実線で示す実施例における各系統のdq軸電流(ixn)では、6次、12次、及び18次の周波数成分の電流高調波が相殺されている。このため、dq軸電流(ixn)は、電気角度θreの変化に対して略一定値をとっている。したがって、インダクタンスの高調波成分総和に起因するエネルギー損失及び振動騒音の発生を抑制することができる。
以上説明した本実施形態の回転電機制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
本実施形態の回転電機制御方法では、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_haが、インダクタンス直流成分lxn,l'xnよりも所定値以上小さい場合に、インダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haを周波数成分としての第m次インダクタンス高調波成分lxnm_haごとに演算する。そして、dq軸補正電圧(vxn_hc)を第m次インダクタンス高調波成分lxnm_haに基づく電圧補正値成分としての第m次dq軸補正電圧(vxnm_hc)の線形和として演算する(図3参照)。
これにより、各周波数mに対応する第m次インダクタンス高調波成分lxnm_haを個別に求め、これらの和をとるという簡素な演算によってインダクタンス高調波総和lxn_ha,l'xn_ha,mx_ha,m'x_haを推定し、これに基づいてdq軸補正電圧(vxn_hc)を定めることができる。
特に、周波数mごとに第m次インダクタンス高調波成分lxnm_haを求めるので、モータ101の動作に比較的大きい影響を与え得るインダクタンス周波数成分(例えば6m次の周波数成分)を他の影響が小さい周波数成分から分離して把握することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
例えば、上記実施形態では、モータ101の回転子の種類が永久磁石型回転子である場合を前提としている。しかしながら、これに限られず、モータ101の回転子として、巻線型回転子、又は籠型回転子などの他の種類の回転子を採用しても良い。
また、上記各実施形態では、系統数が2つである場合について説明したが、適宜、系統数が3以上のシステムにおいて本発明の構成を適用しても良い。
さらに、上記実施形態では、図2及び図3に示すように、インダクタンス推定部201がdq軸電流(ixn)を入力情報として取得している例を説明した。しかしながら、電流変化に応じてインダクタンスの変化が実質的に無視できる場合には、インダクタンス推定部201にdq軸電流(ixn)を入力させない構成を採用しても良い。