JP2021085077A - 複合めっき材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】挿抜可能な接続端子の材料として使用した場合に、挿抜の繰り返しにより摩擦係数が上昇し難い複合めっき材およびその製造方法を提供する。【解決手段】炭素粒子として(好ましくは平均粒径1〜15μmの)人造黒鉛粒子を(好ましくは炭素含有量が10〜100g/Lになるように)添加した銀めっき液(好ましくはスルホン酸系銀めっき液)を使用して(好ましくは電流密度1〜5A/dm2で)電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を(好ましくは銅または銅合金からなる)素材上に形成して複合めっき材を製造する。【選択図】なし

Description

本発明は、複合めっき材およびその製造方法に関し、特に、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として使用される複合めっき材およびその製造方法に関する。
従来、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを施した銀めっき材が使用されている。
しかし、銀めっきは、軟質で摩耗し易く、一般に摩擦係数が高いため、摺動により剥離し易いという問題がある。この問題を解消するため、耐熱性、摩耗性、潤滑性などに優れた黒鉛やカーボンブラックなどの炭素粒子のうち、黒鉛粒子を銀マトリクス中に分散させた複合材の皮膜を電気めっきにより導体素材上に形成して耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、黒鉛粒子の分散に適した湿潤剤が添加されためっき浴を使用することにより、黒鉛粒子を含む銀めっき皮膜を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、ゾル−ゲル法によって炭素粒子を金属酸化物などでコーティングして、銀と炭素粒子の複合めっき液中における炭素粒子の分散性を高め、めっき皮膜中に複合化する炭素粒子の量を増大する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかし、特許文献1〜3の方法により製造された複合めっき材は、摩擦係数が比較的高く、接点や端子の高寿命化に対応することができないという問題があり、特許文献1〜3の方法により製造された複合めっき材よりも炭素粒子の含有量や表面の炭素粒子が占める割合を増大させて、さらに優れた耐摩耗性の複合めっき材を提供することが望まれている。
このような複合めっき材を製造する方法として、酸化処理を行った炭素粒子を添加したシアン系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する方法(例えば、特許文献4参照)、電解処理を行った炭素粒子を添加したシアン系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する方法(例えば、特許文献5参照)、シアン化アルカリ金属塩とシアン化銀と光沢剤と炭素繊維を混合しためっき液中で電気めっきを行うことにより、銀のマトリックス中に炭素繊維がランダムに分散した組織を有する銀複合材料を製造する方法(例えば、特許文献6参照)、金属イオン源およびカーボンブラックナノ粒子を含む組成物に基体を接触させて、電気めっきを行うことにより、金属とカーボンブラックナノ粒子との複合体を基体上に形成する方法などが提案されている。
特開平9−7445号公報(段落番号0005−0007) 特表平5−505853号公報(第1−2頁) 特開平3−253598号公報(第2頁) 特開2006−37225号公報(段落番号0009) 特開2007−16251号公報(段落番号0009) 特開2008−56950号公報(段落番号0009−0013) 特開2013−216971号公報(段落番号0009−0010)
しかし、特許文献4〜5の方法では、炭素粒子として鱗片状黒鉛粒子(天然黒鉛粒子)を使用しているが、炭素粒子の層が剥がれ易く、これらの方法により製造された複合めっき材を挿抜可能な接続端子の材料として使用した場合に、挿抜の繰り返しにより摩擦係数が上昇し易くなることがわかった。また、特許文献6〜7の方法では、炭素粒子として平均直径200nm以下のカーボンナノチューブや5〜500nmのサイズのカーボンブラックナノ粒子のような非常に小さい炭素粒子を使用しているため、これらの方法により製造された銀複合材料または複合体を挿抜可能な接続端子の材料として使用した場合に、挿抜の繰り返しにより、摺動痕に炭素粒子が広がるよりも、銀同士が凝着し易くなるので、摩擦係数が上昇し易くなる。
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、挿抜可能な接続端子の材料として使用した場合に、挿抜の繰り返しにより摩擦係数が上昇し難い複合めっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、炭素粒子を添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を素材上に形成して複合めっき材を製造する方法において、炭素粒子として人造黒鉛粒子を使用することにより、挿抜可能な接続端子の材料として使用した場合に、挿抜の繰り返しにより摩擦係数が上昇し難い複合めっき材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明による複合めっき材の製造方法は、炭素粒子を添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を素材上に形成して複合めっき材を製造する方法において、炭素粒子として人造黒鉛粒子を使用することを特徴とする。
この複合めっき材の製造方法において、炭素粒子が菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合が40%以下であるのが好ましい。また、銀めっき液がスルホン酸系銀めっき液であるのが好ましく、炭素粒子が、酸化処理を行った炭素粒子であるのが好ましい。また、素材が銅または銅合金からなるのが好ましく、複合めっき皮膜を形成する前に素材上に下地めっき皮膜を形成してもよい。
また、本発明による複合めっき材は、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が素材上に形成された複合めっき材において、炭素粒子が人造黒鉛粒子であることを特徴とする。
この複合めっき材において、炭素粒子が菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合が40%以下であるのが好ましい。また、複合めっき皮膜中の炭素含有量が0.5〜5質量%であるのが好ましい。また、複合めっき皮膜の厚さが0.5〜15μmであるのが好ましく、複合めっき皮膜の表面のビッカース硬さHVが100以下であるのが好ましい。また、素材が銅または銅合金からなるのが好ましく、複合めっき皮膜と素材との間に下地めっき皮膜が形成してもよい。また、複合めっき材から切り出した試験片を平板状試験片とするとともに、インデント加工として内側R=1.0mmの半球状の打ち出し加工をした素材に厚さ5μmのAgSbめっき皮膜が形成されたビッカース硬さHV180のAgSbめっき材をインデント付き試験片とし、摺動摩耗試験機により、平板状試験片にインデント付き試験片を一定の加重2Nで押し当てながら、摺動距離10mm、摺動速度3mm/sで往復摺動動作を行ったときの300回目の往復摺動動作の往路の摩擦係数が0.4以下であるのが好ましい。
本発明によれば、挿抜可能な接続端子の材料として使用した場合に、挿抜の繰り返しにより摩擦係数が上昇し難い複合めっき材およびその製造方法を提供することができる。
本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、炭素粒子として(好ましくは平均粒径1〜15μmの)人造黒鉛粒子を添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を(好ましくは銅または銅合金からなる)素材上に形成して複合めっき材を製造する。
炭素粒子は、菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合が40%以下であるのが好ましく、35%以下であるのがさらに好ましく、30%以下であるのが最も好ましい。また、この割合は、5%以上であるのが好ましく、10%以上であるのがさらに好ましい。なお、炭素粒子は、電気めっき後も殆ど変質しないので、複合めっき皮膜中の炭素粒子も菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、上記の割合も殆ど変化しない。
炭素粒子を銀めっき液に添加する前に、炭素粒子を酸化処理するのが好ましく、この酸化処理により炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去することができる。このような親油性有機物として、(ノナンやデカンなどの)アルカンや、(メチルヘプテンなどの)アルケンのような脂肪酸炭化水素や、(キシレンなどの)アルキルベンゼンのような芳香族炭化水素が含まれる。炭素粒子の酸化処理として、湿式酸化処理の他、Oガスなどによる乾式酸化処理を使用することができるが、量産性の観点から湿式酸化処理を使用するのが好ましく、湿式酸化処理によって表面積が大きい炭素粒子を均一に処理することができる。
湿式酸化処理の方法としては、導電塩を含む水中に炭素粒子を懸濁させた後に陰極や陽極となる白金電極などを挿入して電気分解を行う方法や、炭素粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができるが、生産性を考慮すると後者の方法を使用するのが好ましい。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。炭素粒子に付着している親油性有機物は、添加された酸化剤により酸化されて水に溶けやすい形態になり、炭素粒子の表面から適宜除去されると考えられる。また、湿式酸化処理を行った後、ろ過を行い、さらに炭素粒子を水洗することにより、炭素粒子の表面から親油性有機物を除去する効果をさらに高めることができる。
上記の酸化処理により炭素粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、300℃加熱ガスによる分析によれば、酸化処理後の炭素粒子を300℃で加熱して発生したガス中には、アルカンやアルケンなどの親油性脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの親油性芳香族炭化水素が殆ど含まれてない。酸化処理後の炭素粒子中に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が若干含まれていても、炭素粒子を銀めっき液に分散させることができるが、炭素粒子中に分子量160以上の炭化水素が含まれず且つ炭素粒子中の分子量160未満の炭化水素の300℃加熱発生ガス強度(パージ・アンド・ガスクロマトグラフ質量分析強度)が5,000,000以下になるのが好ましい。炭素粒子中に分子量の大きな炭化水素が含まれると、炭素粒子の表面が強い親油性の炭化水素で被覆され、水溶液である銀めっき溶液中で炭素粒子が互い凝集し、めっき皮膜中に炭素粒子が複合化しなくなると考えられる。
このような酸化処理により脂肪酸炭化水素と芳香族炭化水素を除去した炭素粒子を銀めっき液に懸濁させて電気めっきを行う際に、銀めっき液としてスルホン酸系銀めっき液を使用するのが好ましい。このスルホン酸銀として、メタンスルホン酸銀、アルカノールスルホン酸銀、フェノールスルホン酸銀などを使用することができる。また、スルホン酸系銀めっき液は、Agイオン源としてのスルホン酸銀と、錯化剤としてのスルホン酸を含み、光沢剤などの添加剤を含んでもよい。この銀めっき液中のAg濃度は、5〜150g/Lであるのが好ましく、10〜120g/Lであるのがさらに好ましく、20〜100g/Lであるのが最も好ましい。
また、銀めっき液中の炭素粒子の量は、10〜100g/Lであるのが好ましく、20〜50g/Lであるのがさらに好ましい。銀めっき液中の炭素粒子の量が10g/L未満であると、複合めっき層中の炭素粒子の含有量を十分に多くすることができないおそれがあり、100g/Lより多くしても、複合めっき層中の炭素粒子の含有量を多くすることはできない。
また、電気めっきの際の電流密度は、1〜15A/dmであるのが好ましく、2〜7A/dmであるのがさらに好ましい。Ag濃度や電流密度が低過ぎると、複合めっき皮膜の形成が遅くなって効率的でなく、Ag濃度や電流密度が高過ぎると、複合めっき皮膜の外観にムラが生じ易い。
また、複合めっき皮膜を形成する前に、素材上にニッケルめっき皮膜や銅めっき皮膜などの下地めっき皮膜(好ましくはニッケルめっき皮膜)を形成してもよい。
また、本発明による複合めっき材の実施の形態は、銀層中に炭素粒子として(レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した平均粒径が好ましくは1〜15μmの)人造黒鉛粒子を含有する複合材からなる(好ましくは炭素含有量0.5〜5質量%、ビッカース硬さHV100以下の)複合めっき皮膜が(好ましくは銅または銅合金からなる)素材上に形成されている。
炭素粒子は、菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合が40%以下であるのが好ましく、35%以下であるのがさらに好ましく、30%以下であるのが最も好ましい。
複合めっき皮膜の厚さは0.5〜15μmであるのが好ましく、1〜13μmであるのがさらに好ましく、3〜12μmであるのが最も好ましい。複合めっき皮膜の厚さが0.5μm未満であると、複合めっき材の耐摩耗性が十分でなく、15μmを超えると、銀の量が多くなり、複合めっき材の製造コストが高くなる。
また、複合めっき皮膜と素材との間にニッケルめっき皮膜や銅めっき皮膜などの下地めっき皮膜(好ましくはニッケルめっき皮膜)が形成してもよい。
また、複合めっき材から切り出した試験片を平板状試験片とするとともに、インデント加工として内側R=1.0mmの半球状の打ち出し加工をした素材に厚さ5μmのAgSbめっき皮膜が形成されたビッカース硬さHV180のAgSbめっき材をインデント付き試験片とし、摺動摩耗試験機により、平板状試験片にインデント付き試験片を一定の加重2Nで押し当てながら、摺動距離10mm、摺動速度3mm/sで往復摺動動作を行ったときの300回目の往復摺動動作の往路の摩擦係数が0.4以下であるのが好ましい。また、上記の往復摺動動作を500回行っても、素材の露出が確認されないのが好ましい。
以下、本発明による複合めっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
[実施例1]
まず、炭素粒子として平均粒径5μmの人造黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製の塊状黒鉛PAG−3000)を用意した。この炭素粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3000II)により測定した。この炭素粒子について、卓上型X線回折装置(BRUKER社製のD2 PHASER)により、CuKα管球を用いて、管電圧を30kV、管電流10mAとして、X線回折(XRD)測定を行った。このX線回折測定により得られたX線回折パターンから、この炭素粒子は、菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含んでいることがわかった。また、炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合(%)を算出したところ、炭素粒子の菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度をそれぞれr(101)およびr(102)とし、六方晶系の回折ピークの積分強度をそれぞれh(101)およびh(102)とすると、[r(101)+r(102)]×100/[r(101)+r(102)+h(101)+h(102)]=26%であった。
この炭素粒子(人造黒鉛粒子)6重量%を3Lの純水中に添加し、この混合溶液を攪拌しながら50℃に昇温させた。次に、この混合溶液に酸化剤として0.1モル/Lの過硫酸カリウム水溶液1.2Lを徐々に滴下した後、2時間攪拌して酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行ない、水洗を行った。
この酸化処理の前後の炭素粒子について、パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析装置(日本分析工業JHS−100)(島津製作所製のGCMAS QP−5050A)を使用して、300℃加熱発生ガスの分析を行ったところ、上記の酸化処理により、炭素粒子に付着していた(ノナン、デカン、3−メチル−2−ヘプテンなどの)親油性脂肪族炭化水素や、(キシレンなどの)親油性芳香族炭化水素が除去されているのがわかった。
また、素材として50mm×50mm×0.2mmのCu−Ni−Sn−P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuである銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB109EH)を用意し、この素材と(チタンのメッシュ素材を白金めっきした)チタン白金メッシュ電極板を1.5Lのビーカーに入れて、それぞれカソードおよびアノードとして使用し、錯化剤としてスルホン酸を含むスルホン酸系Agストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE−ST)1L中において、電流密度5A/dmで30秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った。
また、錯化剤としてスルホン酸を含むAg濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE−PL(無光沢))に、上記の酸化処理を行った炭素粒子(人造黒鉛粒子)を添加して、30g/Lの炭素粒子と30g/LのAgを含むスルホン酸系銀めっき液を用意した。
次に、上記のAgストライクめっきした素材をカソード、Ag電極板をアノードとして使用して、上記の炭素粒子を添加したスルホン酸系銀めっき液1L中において、スターラにより500rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで250秒間電気めっき(電流効率95%)を行い、銀めっき層中に炭素粒子を含有する複合めっき皮膜(Ag−Cめっき皮膜)が素材上に形成された複合めっき材を作製した。
このようにして得られた複合めっき材の複合めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT9450)で測定したところ、5μmであった。
また、この複合めっき材(素材を含む)から切り出した(5mm×5mmの大きさで約5gの重量の)試料をAgおよびCの分析用にそれぞれ用意し、一方の試料を溶解して試料中のAgの含有量(X重量%)を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)(株式会社日立ハイテクサイエンス製のSPS5100)によって求めるとともに、他方の試料中のCの含有量(Y重量%)を微量炭素・硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製のEMIA−810W)を用いて赤外線吸収法によって求め、複合めっき皮膜中のCの含有量をY/(X+Y)として算出したところ、複合めっき皮膜中のCの含有量は1.8重量%であった。
また、この複合めっき材の表面のビッカース硬さHVを、マイクロビッカース硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM−221)を使用して、測定荷重を0.1Nとして測定したところ、HV70であった。
また、この複合めっき材から切り出した試験片を平板状試験片(評価試料)とするとともに、40mm×10mm×0.2mmのCu−Ni−Sn−P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuである銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB109EH)にインデント加工として内側R=1.0mmの半球状の打ち出し加工をした素材に(後述する比較例2と同様の方法により)厚さ5μmのAgSbめっき皮膜が形成されたビッカース硬さHV180のAgSbめっき材をインデント付き試験片(圧子)とし、摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製)により、平板状試験片にインデント付き試験片を一定の加重2Nで押し当てながら、素材が露出するまで往復摺動動作(摺動距離10mm、摺動速度3mm/s)を継続して、平板状試験片の摩耗状態を確認する摩耗試験を行うことにより、耐摩耗性の評価を行った。その結果、500回の往復摺動動作後に、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX−1000)により平板状試験片の摺動痕の中心部を倍率200倍で観察したところ、(茶色の)素材が露出していないことが確認され、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、上記の往復摺動動作のうちの300回目の往復摺動動作の往路において水平方向にかかる力を測定してその平均値Fを算出し、平板状試験片とインデント付き試験片との間の動摩擦係数(μ)をμ=F/N(Nは垂直抗力)から算出したところ、動摩擦係数は0.29であり、上記の往復摺動動作のうちの最初の往復摺動動作の往路において水平方向にかかる力を測定してその平均値Fを算出し、平板状試験片とインデント付き試験片との間の動摩擦係数(μ)をμ=F/N(Nは垂直抗力)から算出したところ、動摩擦係数は0.18であった。
[実施例2]
炭素粒子としてX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合[r(101)+r(102)]×100/[r(101)+r(102)+h(101)+h(102)]が21%である以外は、実施例1と同様の人造黒鉛粒子を用意し、実施例1と同様の方法により、この炭素粒子の酸化処理を行うとともに、Agストライクめっきを行った後に、電気めっき時間を50秒間とした以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜(Ag−Cめっき皮膜)が素材上に形成された複合めっき材を作製した。
このようにして得られた複合めっき材の複合めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを、実施例1と同様の方法により測定したところ、1μmであった。
また、この複合めっき材の複合めっき皮膜中のCの含有量を、実施例1と同様の方法により算出したところ、2.7重量%であった。
また、この複合めっき材の表面のビッカース硬さHVを、実施例1と同様の方法により測定したところ、HV75であった。
また、この複合めっき材の耐摩耗性の評価を、実施例1と同様の方法により行ったところ、500回の往復摺動動作後に、素材が露出していないことが確認され、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、300回目の往復摺動動作の往路と最初の往復摺動動作の往路における摩擦係数を、実施例1と同様の方法により算出したところ、動摩擦係数はそれぞれ0.25および0.18であった。
[実施例3]
炭素粒子としてX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合[r(101)+r(102)]×100/[r(101)+r(102)+h(101)+h(102)]が24%である以外は、実施例1と同様の人造黒鉛粒子を用意し、実施例1と同様の方法により、この炭素粒子の酸化処理を行うとともに、Agストライクめっきを行った後に、電気めっき時間を500秒間とした以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜(Ag−Cめっき皮膜)が素材上に形成された複合めっき材を作製した。
このようにして得られた複合めっき材の複合めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを、実施例1と同様の方法により測定したところ、10μmであった。
また、この複合めっき材の複合めっき皮膜中のCの含有量を、実施例1と同様の方法により算出したところ、0.7重量%であった。
また、この複合めっき材の表面のビッカース硬さHVを、実施例1と同様の方法により測定したところ、HV70であった。
また、この複合めっき材の耐摩耗性の評価を、実施例1と同様の方法により行ったところ、500回の往復摺動動作後に、素材が露出していないことが確認され、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、300回目の往復摺動動作の往路と最初の往復摺動動作の往路における摩擦係数を、実施例1と同様の方法により算出したところ、動摩擦係数はそれぞれ0.27および0.18であった。
[実施例4]
炭素粒子としてX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合[r(101)+r(102)]×100/[r(101)+r(102)+h(101)+h(102)]が26%である以外は、実施例1と同様の人造黒鉛粒子を用意し、実施例1と同様の方法により、この炭素粒子の酸化処理を行った。また、素材をカソード、Ni電極板をアノードとして使用して、80g/Lのスルファミン酸ニッケルと45g/Lのホウ酸からなるニッケルめっき浴中において、液温45℃、電流密度4A/dmで攪拌しながら30秒間電気めっき(Niめっき)を行って、素材上に厚さ0.3μmのNiめっき皮膜を形成した。次に、実施例1と同様の方法により、Agストライクめっきを行った後、複合めっき皮膜(Ag−Cめっき皮膜)が素材上に形成された複合めっき材を作製した。
このようにして得られた複合めっき材の複合めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを、実施例1と同様の方法により測定したところ、5μmであった。
また、この複合めっき材の複合めっき皮膜中のCの含有量を、実施例1と同様の方法により算出したところ、1.8重量%であった。
また、この複合めっき材の表面のビッカース硬さHVを、実施例1と同様の方法により測定したところ、HV70であった。
また、この複合めっき材の耐摩耗性の評価を、実施例1と同様の方法により行ったところ、500回の往復摺動動作後に、素材が露出していないことが確認され、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、300回目の往復摺動動作の往路と最初の往復摺動動作の往路における摩擦係数を、実施例1と同様の方法により算出したところ、動摩擦係数はそれぞれ0.29および0.18であった。
[比較例1]
実施例1と同様の方法により、Agストライクめっきを行った後に、炭素粒子を添加しない銀めっき液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜が素材上に形成された銀めっき材を作製した。
このようにして得られた銀めっき材の銀めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを、実施例1と同様の方法により測定したところ、5μmであった。
また、この銀めっき材の表面のビッカース硬さHVを、実施例1と同様の方法により測定したところ、HV70であった。
また、この銀めっき材の耐摩耗性の評価を、実施例1と同様の方法により行ったところ、57回の往復摺動動作後に、素材が露出していることが確認され、耐摩耗性が良好でないことがわかった。また、最初の往復摺動動作の往路における摩擦係数を、実施例1と同様の方法により算出したところ、動摩擦係数は1.85であった。
[比較例2]
3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムを含むシアン系Agストライクめっき液を使用して、電流密度3A/dmで10秒間電気めっきを行った以外は、実施例1と同様の方法により、Agストライクめっきを行い、シアン化銀とシアン化ナトリウムとアンチモンと60g/LのAgを含むシアン系AgSbめっき液(日進化成株式会社製)を使用して、このシアン系AgSbめっき液に炭素粒子を添加しないで、電流密度1A/dmで450秒間電気めっきを行った以外は、実施例1と同様の方法により、AgSbめっき皮膜が素材上に形成されたAgSbめっき材を作製した。
このようにして得られたAgSbめっき材のAgSbめっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを、実施例1と同様の方法により測定したところ、5μmであった。
また、このAgSbめっき材の表面のビッカース硬さHVを、実施例1と同様の方法により測定したところ、HV180であった。
また、このAgSbめっき材の耐摩耗性の評価を、実施例1と同様の方法により行ったところ、370回の往復摺動動作後に、素材が露出していることが確認され、耐摩耗性が良好でないことがわかった。また、300回目の往復摺動動作の往路と最初の往復摺動動作の往路における摩擦係数を、実施例1と同様の方法により算出したところ、動摩擦係数はそれぞれ1.48および0.82であった。
[比較例3]
まず、炭素粒子として平均粒径5μmの鱗片状黒鉛粒子(SEC社製のSN−5)を用意した。この炭素粒子について、実施例1と同様の方法により、X線回折(XRD)測定を行い、このX線回折測定により得られたX線回折パターンから、この炭素粒子は、菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合(%)を算出したところ、[r(101)+r(102)]×100/[r(101)+r(102)+h(101)+h(102)]=45%であることがわかった。
この炭素粒子を使用して、実施例1と同様の方法により、この炭素粒子の酸化処理を行うとともに、比較例2と同様の方法により、Agストライクめっきを行った。
また、シアン化銀カリウム(KAg(CN))とシアン化カリウム(KCN)とセレノシアン酸カリウム(KSeCN)とを含む水溶液からなるシアン系銀めっき液に、上記の酸化処理を行った炭素粒子(鱗片状黒鉛粒子)を添加して、80g/Lの炭素粒子と80g/LのAgを含むシアン系銀めっき液を用意した。このシアン系銀めっき液を使用し、電気めっき時間を200秒間とした以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜(Ag−Cめっき皮膜)が素材上に形成された複合めっき材を作製した。
このようにして得られた複合めっき材の複合めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを、実施例1と同様の方法により測定したところ、5μmであった。
また、この複合めっき材の複合めっき皮膜中のCの含有量を、実施例1と同様の方法により算出したところ、2.0重量%であった。
また、この複合めっき材の表面のビッカース硬さHVを、実施例1と同様の方法により測定したところ、HV90であった。
また、この複合めっき材の耐摩耗性の評価を、実施例1と同様の方法により行ったところ、500回の往復摺動動作後に、素材が露出していないことが確認され、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、300回目の往復摺動動作の往路と最初の往復摺動動作の往路における摩擦係数を、実施例1と同様の方法により算出したところ、動摩擦係数はそれぞれ0.50および0.19であった。
[比較例4]
まず、炭素粒子として平均粒径5μmの鱗片状黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製のJ−CPB)を用意した。この炭素粒子について、実施例1と同様の方法により、X線回折(XRD)測定を行い、このX線回折測定により得られたX線回折パターンから、この炭素粒子は、菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合(%)を算出したところ、[r(101)+r(102)]×100/[r(101)+r(102)+h(101)+h(102)]=51%であることがわかった。
この炭素粒子を使用して、実施例1と同様の方法により、この炭素粒子の酸化処理を行うとともに、Agストライクめっきを行った後に、複合めっき皮膜(Ag−Cめっき皮膜)が素材上に形成された複合めっき材を作製した。
このようにして得られた複合めっき材の複合めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを、実施例1と同様の方法により測定したところ、5μmであった。
また、この複合めっき材の複合めっき皮膜中のCの含有量を、実施例1と同様の方法により算出したところ、1.5重量%であった。
また、この複合めっき材の表面のビッカース硬さHVを、実施例1と同様の方法により測定したところ、HV70であった。
また、この複合めっき材の耐摩耗性の評価を、実施例1と同様の方法により行ったところ、500回の往復摺動動作後に、素材が露出していないことが確認され、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、300回目の往復摺動動作の往路と最初の往復摺動動作の往路における摩擦係数を、実施例1と同様の方法により算出したところ、動摩擦係数はそれぞれ0.41および0.19であった。
これらの実施例および比較例のめっき材の製造条件および特性を表1〜表3に示す。
Figure 2021085077
Figure 2021085077
Figure 2021085077

Claims (14)

  1. 炭素粒子を添加した銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を素材上に形成して複合めっき材を製造する方法において、炭素粒子として人造黒鉛粒子を使用することを特徴とする、複合めっき材の製造方法。
  2. 前記炭素粒子が菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、前記炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合が40%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の複合めっき材の製造方法。
  3. 前記銀めっき液がスルホン酸系銀めっき液であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合めっき材の製造方法。
  4. 前記炭素粒子が、酸化処理を行った炭素粒子であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
  5. 前記素材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
  6. 前記複合めっき皮膜を形成する前に、前記素材上に下地めっき皮膜を形成することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
  7. 銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が素材上に形成された複合めっき材において、炭素粒子が人造黒鉛粒子であることを特徴とする、複合めっき材。
  8. 前記炭素粒子が菱面体晶系と六方晶系の黒鉛構造を含み、前記炭素粒子のX線回折測定による菱面体晶系および六方晶系のそれぞれの(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計に対する菱面体晶系の(101)面および(102)面の回折ピークの積分強度の合計の割合が40%以下であることを特徴とする、請求項7に記載の複合めっき材。
  9. 前記複合めっき皮膜中の炭素含有量が0.5〜5質量%であることを特徴とする、請求項7または8に記載の複合めっき材。
  10. 前記複合めっき皮膜の厚さが0.5〜15μmであることを特徴とする、請求項7乃至9のいずれかに記載の複合めっき材。
  11. 前記複合めっき皮膜の表面のビッカース硬さHVが100以下であることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれかに記載の複合めっき材。
  12. 前記素材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項7乃至11のいずれかに記載の複合めっき材。
  13. 前記複合めっき皮膜と前記素材との間に下地めっき皮膜が形成されていることを特徴とする、請求項7乃至12のいずれかに記載の複合めっき材。
  14. 前記複合めっき材から切り出した試験片を平板状試験片とするとともに、インデント加工として内側R=1.0mmの半球状の打ち出し加工をした素材に厚さ5μmのAgSbめっき皮膜が形成されたビッカース硬さHV180のAgSbめっき材をインデント付き試験片とし、摺動摩耗試験機により、平板状試験片にインデント付き試験片を一定の加重2Nで押し当てながら、摺動距離10mm、摺動速度3mm/sで往復摺動動作を行ったときの300回目の往復摺動動作の往路の摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする、請求項7乃至13のいずれかに記載の複合めっき材。
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