JP2021055174A - 樹脂成形体の表面改質および金属皮膜形成方法 - Google Patents

樹脂成形体の表面改質および金属皮膜形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 第5世代移動通信システム等次世代の通信システムに使用される電子基板は母材となる樹脂材料の電気特性が優れている事に加え、伝達される電気信号の減衰を防ぐため母材となる樹脂基板の表面平滑性を維持したまま高い密着強度で金属皮膜を形成する事が求められる。本発明では樹脂成形体表面の平滑性を維持したまま高密着強度を有する金属皮膜を形成する方法を提供する。【解決手段】 樹脂成形体への金属皮膜形成に際して樹脂と金属の間の接着は分子接合剤(トリアジンチオール誘導体)を用いるが、母材となる樹脂成形体表面を194nmから1064nmの波長領域を有し1から5Wで出力された微弱なレーザー光で掃引する事により、樹脂表面の平滑度を損ねる事無く樹脂と金属皮膜との接着接合を阻害する低分子量体有機物および樹脂成形体内部に含蓄された水分を気化させる。その後分子接合剤を用いた樹脂成形体と金属皮膜との接着接合により高い密着強度を持ちながら表面粗度の低い金属−樹脂複合体を得る事が出来る。

Description

発明の詳細説明
本発明は、樹脂成形体と無電解めっき皮膜との接着接合において接合を阻害する樹脂成形体最表面の脆弱層と前記脆弱層に含有される水分とを微弱なレーザー光により気化させる表面改質方法に関する
最新の情報通信システムとして開発および導入が進められている第5世代移動通信システムは情報通信端末をはじめ、それらの端末に情報を伝達する基地局や我々の生活に直結する交通インフラ、医療、スポーツ等の様々な分野においてより深化する情報化社会とそこに根付くライフスタイル確立のためには必要不可欠な技術である。大容量・同時接続を最大の特徴とする第5世代移動通信システムは多量の電気信号の減衰を防ぐため、基板回路が面平均粗さ数μmの平滑性である事が求められる。樹脂基板上に金属であるめっき皮膜を形成する方法には特許文献1のような無水クロム酸と硫酸の混酸を用いて基材表面の一部を酸化溶解させる方法がある。これにより形成された樹脂基材表面の凹凸内部にめっき層が浸透する事により機械的に樹脂基材とめっき皮膜との密着を得ている。しかしながら、この方法では樹脂基材表面を薬品で組化して密着を得る方法である事から平滑性が求められる前述の高周波基板への使用には適していない。
樹脂成形体の表面平滑性を維持したまま金属皮膜を形成する手法については特許文献2のような分子接合剤を介した化学結合の形成により達成する方法が報告されている。この方法では樹脂成形体表面に導入された分子接合剤と樹脂基材上に形成された金属皮膜との間で化学的な結合が形成され、前述の無水クロム酸と硫酸の混酸を用いた手法に比べ、金属皮膜との密着は機械的機構に依らないため樹脂表面の持つ平滑性を損ねる事がない。
基板の材料となる樹脂は多種多様であるが、樹脂材料の中には成形体表面に出発原料の低分子量体や吸収された水分、成形時に発生したガス等の蓄積、或いは添加物の浮き等により樹脂成形体最表層の機械的強度が不十分な表面脆弱層とも呼ばれる層が存在する。そういった樹脂材料では分子接合剤と樹脂基板表面との間で結合が形成されても、機械的或いは熱的外力等が働けば表面脆弱層内部で壊裂が発生し十分な密着強度が得られない。本発明の目的は前述の表面脆弱層を微弱なレーザー光の照射により無力化することにある。
樹脂成形体表面にレーザー照射を行い表面改質を行う手段としては特許文献3が提案されている。この発明では波長領域が193〜400nmのレーザーを合成樹脂基体に照射しレーザー光の持つ光エネルギーと照射部周辺の酸素との反応によりレーザー照射箇所の表面粗化と改質を同時に行う事を特徴としている。しかしながらこの方法では照射するレーザーの出力が高く、被照射領域において表面改質だけでなく粗化も起こるため、表面粗さが150μmを超えない事を特徴とするとの記載がある。従って前述のように高い表面平滑性が求められる次世代の高周波基板に対し有効であるとは言えない。また、レーザー光を利用しためっき工法としては他に特許文献4、5が報告されているがいずれもレーザー光照射による樹脂基材表面の粗化および表面改質あるいは樹脂内部に埋没していた無電解めっき用の触媒核を露出させる目的で使用されており、特許文献3の発明と同じく被照射領域の表面粗化効果によりめっき皮膜との密着を得ている。
先行特許文献
特許文献
特開1998−335781 特開2007−131580 特開2012−136769 特開1998−308562 特開1995−116870
発明が解決しようとする課題
前述の通り、5G等に使用される先進高周波基板では表面の半滑性を保ち伝達される電気信号の損失を抑制する低伝導損失性を持つ事が肝要である。しかしながら比誘電率等の電気的特性に優れた樹脂材料に対して、樹脂基材の表面粗化或いは表面粗化された銅箔を樹脂基材に張り合わせる等の機械的密着機構に頼らず金属皮膜と樹脂基材との接合を実現する事は難しい。
表面粗化に依らず樹脂基材と金属膜との高密着強度接合を果たすには、特許文献2のような樹脂基材の親水化や分子接合剤を利用した化学的結合を介しての接着接合が手法として挙げられる。これらの手法は表面平滑性の維持の観点において有力であるが基材となる樹脂基材表面の性質に大きく影響される。即ち前述のように樹脂基材表面に機械的強度が脆弱な層が存在した場合、脆弱層内部で容易に壊裂が起こり十分な密着強度が得られないケースがある。
そこで本発明では表面平滑性を損ねない強度のレーザー光を樹脂基材表面に照射し、その光エネルギーあるいは熱エネルギーをもって基材表面の前記脆弱層を気化させ、分子接合剤による接着接合の性能を最大限引き出す工法の提供を目的とする。
樹脂基材へのレーザーの照射に際しては、前述の高周波基板用途に耐える平滑性を維持するため照射するレーザー光の出力を1〜5Wとし、波長領域は194nm〜1064nmであれば問題ないが、樹脂基材が透明であるものは透過を防ぐために低波長のレーザー光を使用する。その際レーザー光の出力の他、周波数や走査速度をレーザー光照射前後の面平均粗さの差が2μm以内となるよう調整を行う。
前記1〜5Wの微弱なレーザー光を樹脂基材に照射すれば、表面平滑性を損ねる事無く樹脂基材最表面に存在する機械的強度の低い脆弱層のみ選択的に気化させる事が出来る。この後トリアジンチオール誘導体を樹脂基材に塗布し254nmの波長域を有するUVに露光させる事により樹脂基材表面と分子接合剤との間に化学結合が形成される。この時の積算露光量は50〜800mJ/cmである事が望ましい。
樹脂基材表面に分子接合剤を導入後、無電解めっきの触媒として働くパラジウム−錫コロイド或いはパラジウムイオンを含有する水溶液に前記樹脂基材を浸漬させ核付けを行う。その後パラジウム核を金属パラジウムに変換する活性化処理を実施し、無電解めっき工程を経て金属皮膜を形成すれば高度な表面平滑性と0.7kg/cm以上の高い密着強度を併有する金属皮膜付き樹脂成形体が得られる。
すなわち本発明による樹脂成形体上への金属皮膜の形成法は、樹脂成形体表層に存在する成形体を構成する材料の低分子量体および水分等からなる脆弱層を、表面平滑性を維持したまま除去する方法である。その手段は194〜1064nmの波長領域を有するレーザー光を樹脂材料の表面粗化を伴わない微弱な出力で照射し前述の樹脂成形体表面の脆弱層を気化させる事を特徴としており、レーザー処理後にトリアジンチオール誘導体等の分子接合剤を用いた樹脂成形体と金属皮膜との分子接着接合により樹脂成形体の有する表層の平滑度を維持したまま高密着強度で金属皮膜で覆う事が可能である。
樹脂成形体へのレーザー照射は成形体表面がレーザー光により粗化されない範囲での運用を行う。詳しくはレーザー光のピーク出力は1から5W、レーザー照射速度は500mm/秒から2000mm/秒、レーザー光のパルス幅が750フェムト秒から100ナノ秒であればレーザー光照射前後の成形体表面の平均粗さの差が2μm以下となり、且つ分子接合剤と樹脂との接着接合を妨げる成形体表層に残留していた樹脂材料の低分子量体および水分を除去する事ができる。これにより表面平滑性を保ったまま平滑材料に金属皮膜を形成させる事が可能となる。
発明の効果
樹脂成形体表層部に照射されたレーザー光は樹脂成形体表層部に残留する低分子量体や水分を気化させる効果を齎す。分子接合剤を用いた樹脂と金属との接着接合においてそれらの低分子量体や水分は密着強度低下因子として働くため、レーザー照射後は高い密着強度を伴った樹脂−金属間接着接合が可能となる。
本発明において使用するレーザー光は樹脂成形体を構成する有機成分のうちオリゴマーやマクロモノマー等の低分子量体および樹脂成形体内部に蓄えられている水分に優先的に作用し、レーザー照射前後の表面粗さは殆ど変化しない。また、樹脂成形体とめっき金属皮膜との接着接合は分子接合財として働くトリアジンチオール誘導体を介して成されるため、最終的な樹脂−金属複合体は母材となる樹脂成形体の表面平滑性を維持したまま得ることが可能である。
樹脂成形体への整面処理方法を示す工程図である。 整面処理した樹脂成形体へ金属皮膜を形成する方法を示す工程図である。 分子接合剤を使用しない場合の樹脂成形体への金属皮膜形成方法を示す工程図である。
図1に示す通り樹脂成形体への整面処理工程は第1から第5までの工程より構成されている。第1工程(a)では熱可塑性樹脂(例えばポリプラスチックス株式会社のポリフェニレンスルフィド「ジュラファイド 6465A6」)を射出成形により樹脂成形体1を造形する。
第2工程(b)は樹脂成形体1表面にレーザー光2を照射し、第1工程(a)の際に発生し樹脂成形体1表層に残留するポリフェニレンスルフィドの低分子量体や分解生成物3を気化させる。レーザー光の照射にはPCL株式会社のレーザー照射機「PCLC−20」を使用する。レーザー光2の波長は1064nmで20Wを5%(2W)で出力した。また、パルス周波数を40kHz、レーザー光が通過するスポット間の距離を0.1mm、レーザー光の走査速度を1000mm/秒とした。この時第2工程前後での面平均粗さの差は2.0μmを超えない。
第3工程(c)では整面処理が完了した樹脂成形体1に分子接合剤4を導入する。分子接合剤は株式会社いおう化学研究所の「MB1013」を使用し、浸漬あるいは吹付けにより樹脂成形体1に分子接合剤4を塗布する。塗布後温風乾燥により分子接合剤に含まれる溶剤を揮発させる。
第4工程(d)では低圧水銀ランプを備えるUV露光機より185〜254nmの波長を発するUV5を樹脂成形体1に照射し樹脂成形体1と分子接合剤4を接着接合させる。UVの照射に際しては10mW/cmの照度で10秒間樹脂成形体1を露光せしめ、積算露光量では100mJ/cmとなるように調整した。
第5工程(e)ではUV5の露光後、樹脂成形体1と接着接合が起きなかった未反応の分子接合剤6が残る樹脂成形体1を純度99.50%のエタノール(米山薬品工業株式会社)で洗浄する事により取り除く工程となる。
温風乾燥によりエタノールを気化させれば樹脂表層と接着接合された分子接合剤7を有する樹脂成形体8が得られる。
図2に示す工程は分子接合剤が導入された樹脂成形体8に金属皮膜を形成する第1から第4の工程より成る。
第1工程(f)では樹脂成形体8表面に導入された分子接合剤に無電解めっき工程で触媒として機能するパラジウム−錫コロイド或いはパラジウムイオン9を吸着させる。使用する薬液としてはロームアンドハース電子材料株式会社の「キャタポジット44」等が挙げられる。薬液中に含まれるパラジウム濃度は30〜100ppm、望ましくは40〜60ppmが良い。
第2工程(g)では第1工程(f)で樹脂成形体8に吸着されたパラジウム触媒のコロイドあるいはイオン9を無電解めっきに際し触媒活性を発揮する0価のパラジウム金属10へと還元させる。使用する薬液としてはロームアンドハース電子材料株式会社の「コンバーター5410」等が挙げられる。
第3工程(h)では第2工程(g)により還元された樹脂成形体8表層のパラジウム金属10を触媒核として樹脂成形体外周部に無電解ニッケルや無電解銅めっきによる金属皮膜11を形成させる。使用する薬液としてはロームアンドハース電子材料株式会社の「サーキュポジット4500無電解銅」や上村工業株式会社の「ニムデンKSL」等が挙げられる。
第4工程(i)では樹脂成形体表層に導入された分子接合剤7と第3工程(h)で形成されためっき皮膜11とで接着接合が形成される事により金属−樹脂複合体12を得る。これは時間の経過で進行するものであるがめっき形成後樹脂成形体を加熱処理(母材樹脂材料がポリフェニレンスルフィドである場合180℃で30分程)する事で促進する事も出来る。
図3に示す工程は分子接合剤を用いずレーザーによる樹脂表面の粗化により樹脂−金属皮膜の接合を果たす特許文献3の既知技術を表したものである。この場合樹脂成形体12表層にレーザー光を照射する事で微細な凹凸部13を設け、その後図2の第1工程(f)、第2工程(g)、第3工程(h)のような手順で金属皮膜14を形成した時、凹凸部13内部にめっき皮膜が入り込むアンカー効果や、レーザー照射の際に凹凸部13表層に生成された水酸基(−OH)やアルデヒド(−COH)カルボン酸基(−COOH)と金属皮膜14の水酸基(−OH)とパラジウムイオン触媒が電気的に引き合う事により強固な密着が得られる。
図3の工程と比較すると本発明の図1および図2に示す工程により得られる金属−樹脂複合体12は、樹脂表面の粗化を含まないため表面粗さにおいて母材となる樹脂成形体1と遜色のない平滑性を有する。具体例を挙げれば、ポリエニレンスルフィド(ポリプラスチックス株式会社の「ジュラファイド 6465A6」)であればレーザー照射前後の平均面粗さの差は5点測定の平均で0.75μmであった。
さらに樹脂−金属層間は分子接合剤を介した接着接合によりポリフェニレンスルフィド樹脂であれば1.2〜1.5kg/cmの高い密着強度を発揮する。また、レーザー処理しないものでは0.8〜1.0kg/cm、分子接合剤を使用せずレーザー処理のみの場合では0.2kg/cm未満の密着強度であった。
現在の第4移動通信システムに替わる第5世代移動通信システムは大容量・同時接続を最大の特徴となっており、伝達される多量の電気信号の減衰を防ぐため、基板回路が面平均粗さ数μm、具体的には1.0μm以下の平滑性である事が求められる。
また、運用時に樹脂基板上に設けられた電気回路が樹脂基板上より剥がれない密着強度が必要があり、具体的には1.0kg/cm以上である事が望ましいとされている。
本発明によれば既存の通信基板で使用されているポリイミドよりも比誘電率や誘電正接等の電気的特性に優れる材料に対しても高い表面平滑性を維持したまま金属皮膜との強固な接着接合が可能である。
1 ・・・樹脂成形体
2 ・・・レーザー光
3 ・・・低分子量体有機物
4 ・・・分子接合剤
5 ・・・UV(波長185〜254nm)
6 ・・・接着接合に寄与しない分子接合剤
7 ・・・樹脂成形体と接着接合した分子接合剤
8 ・・・表層に分子接合剤が導入された樹脂成形体
9 ・・・パラジウム−錫コロイドあるいはパラジウムイオン
10・・・金属パラジウム
11・・・無電解めっき皮膜
12・・・金属−樹脂複合体
13・・・レーザー光により粗化された樹脂成形体表層
14・・・無電解めっき皮膜

Claims (4)

  1. 波長が194nm〜1064nmのレーザービームを低出力で樹脂成形体表層に照射し、樹脂成形体と無電解めっき皮膜との接着接合を阻害する成形体表面の脆弱層および前記脆弱層に含有されている水分を光エネルギーにより気化させる第一の工程と、レーザー照射した樹脂成形体に後工程で形成されるめっき皮膜を接着接合させる分子接合剤を塗布した後、波長185nm〜365nmのUVに露光させる事により前記成形体表層に分子接合剤を固着する第二の工程、前記成形体表層に固着された分子接合剤上に無電解めっき触媒となる金属触媒を担持させる第三の工程、そして前記樹脂成形体に無電解めっき層を形成する第四の工程から成る事を特徴とする樹脂成形体の表面改質および金属皮膜形成方法。
  2. 樹脂成形体に照射するレーザーは194nm〜1064nmの波長領域を有し、樹脂成形体に対しパルス幅、繰り返し周波数、パルスエネルギー、およびピーク出力を調整した微弱なレーザーを照射する事で照射前後の樹脂成形体の平均表面粗さの差が2μm以下となる事を特徴とする、樹脂成形体の表面平滑性を維持したまま無電解めっき皮膜との接着接合を阻害し、且つ前記レーザー照射条件で容易に気化する樹脂成形体極表層の低分子量体や同層に含まれる水分とを除去する表面改質方法。
  3. 前記樹脂成形体がポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー等のポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンおよび4T、6T、9T、10T等の芳香族ナイロンを含むポリアミドやポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ABS、ABS/ポリカーボネート、ポリカーボネート、または非結晶性のアタクチック構造、結晶性のアイソタクチックおよびシンジオタクチック構造を有するポリスチレンのいずれかにより構成され、それらがガラス繊維やタルク等の添加剤を含有しても良い事を特徴とする請求項1の表面改質方法および金属皮膜形成方法。
  4. 前記樹脂成形体に対し照射するレーザー光のパルス幅が750フェムト秒〜100ナノ秒且つピーク出力が1W〜5Wである事を特徴とする請求項2の樹脂表面改質方法
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