JP2021047151A - レーザー脱離/イオン化質量分析用基板、及び、それを用いたレーザー脱離/イオン化質量分析法 - Google Patents

レーザー脱離/イオン化質量分析用基板、及び、それを用いたレーザー脱離/イオン化質量分析法 Download PDF

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Abstract

【課題】レーザー脱離/イオン化質量分析法による質量分析時にマトリクス化合物を利用しなくても測定対象分子のシグナルを十分に高感度に検出でき、しかも測定対象が比較的高分子量の化合物であっても十分に質量分析することを可能とするレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を提供する。【解決手段】基板1が一方の面に窒化チタンのナノピラー11からなるピラーアレイ構造を有しており、かつ、ピラーアレイ構造を形成するナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、レーザー脱離/イオン化質量分析用基板、並びに、それを用いたレーザー脱離/イオン化質量分析法に関する。
質量分析法(mass spectrometry:MS)は、測定対象分子を含む試料(サンプル)をイオン化して測定対象分子由来のイオンを質量電荷比(質量/電荷(m/z))によって分離して検出することにより、その測定対象分子の化学構造に関する情報を得る分析方法である。このような質量分析法(MS)の一つとして、近年では、試料のイオン化にレーザー脱離/イオン化法(laser desorption/ionization:LDI)を利用する、いわゆるレーザー脱離/イオン化質量分析法が研究されている。
そして、このようなレーザー脱離/イオン化質量分析法においては、例えば、イオン化法に、測定対象分子を含む試料とマトリクス化合物(例えば、低分子量の添加物)との混合物にレーザーを照射して試料をイオン化する、いわゆるマトリクス支援レーザー脱離/イオン化法(matrix−assisted laser desorption/ionization:MALDI)を採用することが提案されている。しかしながら、このようなMALDI法をイオン化法として利用する場合、試料のイオン化の際にマトリクス化合物も同時にイオン化されてしまうことから、質量分析時に測定対象分子に由来するピークとともにマトリクス化合物に由来するピークも同時に検出されてしまい、マトリクス由来のシグナルが検出される分子領域においては、測定対象分子に由来するピークを高感度で測定することができなかった。
また、このようなレーザー脱離/イオン化質量分析法においては、近年では、例えば、いわゆる表面支援レーザー脱離/イオン化(surface−assisted laser desorption/ionization:SALDI)法において、ナノ粒子を利用してレーザー脱離/イオン化質量分析を行う方法が提案されおり、例えば、Martin Schurenberg et al.の論文「Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry of Peptides and Proteins with Particle Suspension Matrixes(非特許文献1:1999年1月1日発行のAnalytical Chemistry(Vol.71,No.1)の221頁−229頁に記載された論文)」には、測定対象分物の溶液と、窒化チタンの粒子をグリセロールに分散させて形成された分散液(懸濁液)とをステンレス鋼ターゲット上で混合し、これにレーザー光を照射することで質量分析を行う方法が開示されている。このような非特許文献1においては、窒化チタンの粒子の粒子径と、該粒子がイオン化を支援する性能との関係が議論されている。しかしながら、このような非特許文献1には、該文献に記載の方法で30kDaより大きな質量を有するタンパクのイオンの検出ができなかった旨が記載されている。また、このような非特許文献1においては、窒化チタンの粒子をグリセロールに分散させて形成された懸濁液を用いており、かかるグリセロールが液体のマトリクスとなってしまうことから、MALDI法で利用されるマトリクス化合物と同様に、レーザー照射によりグリセロール自体もイオン化され、かかるグリセロールに由来するピークも同時に検出されてしまうため、分析感度の低下が生じたり、試料の種類によってはシグナルピークの解析が困難となるといった点で問題があった。
一方、本願の発明者のうちの一人である矢次を著者に含む論文「Highly anisotropic titanium nitride nanowire arrays for low-loss hyperbolic metamaterials fabricated via dynamic oblique deposition(非特許文献2:2019年8月16日発行のNanotechnology(Vol.30,No.33)に記載された論文)」においては、斜め方向からの電子ビーム(electron beam:EB)蒸着を利用して基材上に、窒化チタン(TiN)のナノワイヤが配列された構造体を製造する方法が開示されている。
Martin Schurenberg et al.,"Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry of Peptides and Proteins with Particle Suspension Matrixes",Analytical Chemistry,1999年1月1日発行,Vol.71,No.1,221頁−229頁 Kenichi Yatsugi et al.,"Highly anisotropic titanium nitride nanowire arrays for low-loss hyperbolic metamaterials fabricated via dynamic oblique deposition",Nanotechnology,Vol.30,No.33,2019年8月16日発行
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、レーザー脱離/イオン化質量分析法による質量分析時にマトリクス化合物を利用しなくても測定対象分子のシグナルを十分に高感度に検出でき、しかも測定対象が比較的高分子量の化合物であっても十分に質量分析することを可能とするレーザー脱離/イオン化質量分析用基板、及び、それを用いたレーザー脱離/イオン化質量分析法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板を、一方の面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有するものとし、かつ、該ピラーアレイ構造を形成するナノピラーのアスペクト比の平均値を1.5以上とすることにより、これを用いたレーザー脱離/イオン化質量分析法による質量分析時に、マトリクス化合物や液体マトリクスを利用しなくても測定対象分子のシグナルを十分に高感度に簡便に検出することが可能となり、しかも測定対象が比較的高分子量の化合物であっても十分に質量分析することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板は、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板であって、該基板が一方の面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有しており、かつ、該ピラーアレイ構造を形成するナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上であることを特徴とするものである。
上記本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板においては、前記ナノピラーがチタンの蒸着粒子の堆積物の窒化物からなることが好ましい。
また、上記本発明にかかるピラーアレイ構造において、前記ナノピラーの平均直径が5〜300nmであり、かつ、前記ナノピラーの平均高さが40〜1500nmであることが好ましい。
また、上記本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板においては、前記ピラーアレイ構造が形成されている基板表面を上方から走査型電子顕微鏡により測定した場合に、前記基板表面上の測定領域の面積に対して該測定領域内に存在する全てのナノピラーが占める面積の割合が30%〜90%であることが好ましい。
また、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析法は、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用基板が、上記本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板であることを特徴とする方法である。
なお、本発明によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板においては、該基板の一方の面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造(複数のナノピラーが配列されてなる構造)が形成されている。そして、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板においては、前記ピラーアレイ構造を形成するナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上となっている。なお、一般に、レーザー脱離/イオン化質量分析に固体基板の表面を利用する、いわゆる表面支援レーザー脱離/イオン化(SALDI)法においては、レーザー光を効率よく利用するといった観点から、基板表面がレーザー光を効率よく吸収することが可能なものであることが望まれる。ここで、バルク状の窒化チタンについて検討すると、バルク状の窒化チタンは紫外光から近赤外光までの波長領域の光の反射率が比較的大きいため、単にバルク上の窒化チタンの固体表面を有する基板を用いた場合には、基板にレーザー光を効率よく吸収させることは困難である。これに対して、本発明においては、上述のような特定のアスペクト比の平均値を有するナノピラーからなるピラーアレイ構造が形成されていることから、その構造に由来して紫外光から近赤外光までの波長領域の光の反射率を十分に低下させることが可能となる。そのため、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を表面に形成することで、基板の表面(固体表面)にレーザー脱離/イオン化質量分析に利用するレーザー光の波長を含む紫外域の波長の光をより効率よく吸収させることが可能となる。このような観点から、窒化チタンのナノピラーが配列されたピラーアレイ構造を有する基板の表面は、バルク状の窒化チタン(例えば、薄膜状の窒化チタン)からなる基板の表面と比較して、より効率よくレーザー光を吸収することが可能であり、その基板に照射されたレーザー光をより効率よく吸収して、その表面に担持されている試料に、より効率よくレーザー光のエネルギーを移動させ、イオン化を効率よく支援することが可能である。そのため、窒化チタン(TiN)をナノピラー形状にして配列したピラーアレイ構造により、該構造上に担持された試料(測定対象分子:分析対象物)の脱離とイオン化を十分に促進でき、より高いイオン化効率で分析対象物の脱離/イオン化を行うことが可能となる。このように、本発明においては、その基板の表面に形成されているピラーアレイ構造を利用して試料のイオン化を支援することが可能であるため、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いた場合には、質量分析時にマトリクス化合物を利用しなくても、測定対象分子を含む試料を、基板から十分に効率よくレーザー脱離/イオン化させることが可能となるものと本発明者らは推察する。また、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板においては、上述のような基板の表面構造(基板の表面が有するピラーアレイ構造)に由来するイオン化支援性能により、分子量の低いペプチドや糖類に加えて高分子量のタンパク類を測定対象とした場合においても効率よくレーザー脱離/イオン化させることが可能であり、これらの測定対象物を十分に高い精度で分析することが可能である。従って、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板によれば、上記特許文献1に記載のような従来の測定方法と対比して、より高分子量の化合物を測定対象とすることも可能であるものと本発明者らは推察する。
ここで、従来の質量分析法について検討する。上記非特許文献1に記載のような従来のナノ粒子を用いた質量分析法においては、分析用試料を調整するために、基本的に、ナノ粒子と分析対象物とを混合してナノ粒子表面に測定対象分子(分析対象物質)を吸着する等の操作が必要である。また、上記非特許文献1に記載のような従来のナノ粒子を用いた質量分析法は、分析対象物毎に個別の分析用試料を調製することが必要であり、その工程は煩雑である。このように、上記非特許文献1に記載のような従来のナノ粒子を用いた質量分析法は、分析対称の検体毎に(一つの検体毎に)個別にナノ粒子粉末を利用して分析用試料を調整する必要があり、時間とコストがかかってしまう。これに対して、本発明においては、例えば、ピラーアレイ構造を有する基板の表面上に測定対象分子を含む試料を担持せしめる工程(例えば、測定対象分子を含む試料の溶液を滴下する方法を採用して試料を担持せしめる工程等)を採用して分析用試料を簡便に調製することもできるため、分析用試料の調製をより効率よく行うことも可能であるばかりか、個別に分析用試料を調製する必要もない。また、マトリクス化合物(有機マトリクス)を用いる従来のMALDI法においては、使用するマトリックス化合物の選択や、マトリクス化合物と測定対象分子との混合割合、等が分析の成否に大きな影響を与えてしまうことから分析用試料の調製工程が煩雑なものとなる。これに対して、本発明においては、質量分析時にマトリクス化合物を利用しなくてもよいため、マトリックス化合物の選択やマトリックス化合物との混合等といった煩雑な工程を実施する必要がない。このように、本発明によれば、従来の質量分析法と対比して分析用試料の調製がより簡便となることから、ハイスループット(処理能力が高く)かつ簡便な質量分析方法を提供することも可能となる。このような観点から、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析法は、上記非特許文献1に記載のナノ粒子を用いる質量分析法や従来のMALDI法よりも、汎用性が高く有用な方法であるものと本発明者らは推察する。
本発明によれば、レーザー脱離/イオン化質量分析法による質量分析時にマトリクス化合物を利用しなくても測定対象分子のシグナルを十分に高感度に検出でき、しかも測定対象が比較的高分子量の化合物であっても十分に質量分析することを可能とするレーザー脱離/イオン化質量分析用基板、及び、それを用いたレーザー脱離/イオン化質量分析法を提供することが可能となる。
本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。 電子ビーム蒸着装置の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。 実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の表面の斜め方向の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。 実施例3で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の表面の斜め方向の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。 図4に示すレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の表面の一部を拡大して示す走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。 実施例4で行った質量分析(実施例1で得られた基板を利用した質量分析)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 比較例3で行った質量分析(比較例1で得られた基板を利用した質量分析)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 比較例4で行った質量分析(比較例2で得られた基板を利用した質量分析)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例1で得られた基板のピラーアレイ構造が形成されている側の表面の光の反射スペクトルと、比較例1で得られた基板の窒化チタン薄膜側の表面の光の反射スペクトルとを示すグラフである。 実施例5で行った質量分析(実施例1で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例6で行った質量分析(実施例1で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例7で行った質量分析(実施例2で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例8で行った質量分析(実施例2で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例9で行った質量分析(実施例3で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例10で行った質量分析(実施例1で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例11で行った質量分析(実施例1で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例12で行った質量分析(実施例1で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例13で行った質量分析(実施例2で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例14で行った質量分析(実施例3で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例15で行った質量分析(実施例3で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例16で行った質量分析(実施例3で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例17で行った質量分析(実施例3で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例18で行った質量分析(実施例3で得られた基板を利用)の結果として得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
<レーザー脱離/イオン化質量分析用基板>
本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板は、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板であって、該基板が一方の面に窒化チタン(TiN)のナノピラーからなるピラーアレイ構造を有しており、かつ、該ピラーアレイ構造を形成するナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上であることを特徴とするものである。
このように、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(以下、場合により、短に「本発明の質量分析用基板」と称する)は、基板の一方の面(質量分析時に試料を担持させる側の面)に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有する。すなわち、本発明の質量分析用基板においては、基板の一方の面に窒化チタンのナノピラーが配列されてなるピラーアレイ構造が形成されている。このようなナノピラーからなるピラーアレイ構造を有することで、その構造が形成されている側の基板の表面のレーザー光の反射率が十分に低下してレーザー光の吸収効率が向上するため、レーザー脱離/イオン化を支援する性能がより向上して、より効率よく測定対象分子を脱離/イオン化することが可能となる。
このようなピラーアレイ構造は、窒化チタンのナノピラーが配列されてなる構造を有していればよく、特に制限されず、その配列が規則的なものであっても、あるいは、不規則なものでもよい。
また、このようなピラーアレイ構造を形成するナノピラー(窒化チタンのナノピラー)は、特に制限されるものではないが、チタンの蒸着粒子の堆積物の窒化物からなることが好ましい。蒸着によりチタンの粒子を堆積させた後、窒化することにより得られるチタンの蒸着粒子の堆積物の窒化物からなるナノピラーにおいては、蒸着堆積時の粒子の形状に由来してナノピラーの表面にナノ凹凸が付与されるため(堆積した粒子に起因するナノ凹凸がナノピラーの表面に付与されるため)、試料(分析対象物等)の吸着サイトを増加させることが可能となり、試料をより効率よく担持することが可能となる。また、このようなチタンの蒸着粒子の堆積物の窒化物からなるナノピラー(蒸着によりチタンの粒子を堆積させた後、窒化することにより得られるナノピラー)が配列されたピラーアレイ構造においては、ナノピラーの配列構造による凹凸構造とともに、前述のようにナノピラーの表面に粒子の形状に由来する微細な突起形状(凹凸形状)が存在するため、ピラーの配列構造によりレーザー光の反射率を低下させて基板の表面において十分にレーザー光を吸収させることが可能となるとともに、蒸着粒子の形状に由来して形成されるピラーの表面の微細な突起部分においてサンプル分子の電解が集中して引き起され易くなり(該部分においてナノピラーが吸収したレーザー光のエネルギーをより効率よくサンプル分子(分析対象物の分枝)に移動させて、より効率よく電解・脱離させることが可能となり)、試料の脱離/イオン化を促進することが可能となることから、イオン化効率をより高いものとすることもできる。そのため、かかる構造を有する基板を利用することで質量分析時に測定対象分子のシグナルをより高い感度で検出することが可能となる。また、このようなチタンの蒸着粒子の堆積物を窒化することによりナノピラーを形成する場合、質量分析用基板の調製に、チタンの蒸着及び窒化といった非常に簡便な方法を採用でき、これにより安価に基板を製造できるといった点においても有利である。なお、このようなチタンの蒸着粒子の堆積物の窒化物からなるナノピラーによりピラーアレイ構造を調製する場合、その調製方法としては特に制限されるものではないが、後述の本発明の質量分析用基板を調製するための方法として好適に利用することが可能な電子ビーム(electron beam:EB)蒸着を利用する調製方法を好適に採用することができる。
また、本発明においては、前記ピラーアレイ構造を形成するナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上である。前記ピラーアレイ構造においてナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5未満ではナノピラーのレーザー光の吸収能及びサンプル分子の導入量が低下してしまう。また、このようなピラーアレイ構造におけるナノピラーのアスペクト比の平均値は、1.5〜150であることが好ましく、1.6〜50であることがより好ましい。このようなアスペクト比の平均値を前記範囲内とすることで、ナノピラーのレーザー光の吸収能及びサンプル分子の導入量を、より高くすることが可能となる傾向にある。なお、アスペクト比の平均値が前記上限を超えるとナノピラーの作成に時間がかかり、コストが高くなる傾向にある。
このようなアスペクト比の平均値は、以下のようにして測定されるナノピラーの直径(D)の平均値と、ナノピラーの高さ(H)の平均値とに基づいて求めることができる。なお、ここにいう「アスペクト比の平均値」は、ナノピラーの直径(D)の平均値と、高さ(H)の平均値との比([平均高さ]/[平均直径])である。
以下、先ず、ナノピラーの平均直径の測定方法を説明する。すなわち、このようなナノピラーの平均直径の測定に際しては、先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて分析用基板の上面(上方(基板の表面から垂直な方向)から測定した面)を測定して、分析用基板の上面のSEM像を求める。次いで、かかる上面のSEM像について、画像処理ソフトウエア(例えば、Image J(アドレス:https://rsb.info.nih.gov/ij/))を用いて、閾値を120に設定して、かかる閾値未満の画素値の部分をすべて0(黒)とし、反対に、前記閾値以上の画素値の部分を全て255(白)に置き換えることにより、SEM像を2値化し、得られた2値化した画像において白で表示されている部分を測定領域内に存在するナノピラーであるものと認定する。次いで、このように得られた分析用基板の上面のSEM像の2値化した画像の中から無作為に50点以上のナノピラー(任意の50点以上のナノピラー)を選択する。次に、無作為に選択した各ナノピラーの直径(D)を求める。ここで、直径を求めるナノピラーの上面の形状(上方から測定した形状)が円形ではない場合には、該ナノピラーの上面の最大の外接円の直径をナノピラーの直径として採用する。そして、このようにして求められた各ナノピラーの直径(D)の値を平均化することで、ナノピラーの平均直径を求めることができる。
次に、ナノピラーの平均高さの求め方を説明する。ここで、このようなナノピラーの平均高さの値に関して、先ず、ナノピラーの高さが50nm〜1000nmの範囲内にあるものに関しては、以下のような原子間力顕微鏡による測定を採用して求められる値をナノピラーの平均高さとして採用できる。すなわち、ナノピラーの高さが50nm〜1000nmの範囲内にあるものに関しては、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて分析用基板の表面上の凹凸高さ(基材(板)の表面からのナノピラーの高さ)に関するデータを求め、そのAFM測定の結果から、直径を求めたナノピラー(2値化した画像においてナノピラーと認定されたものの中から無作為に選択された50点以上のナノピラー:任意の50点以上のナノピラー)の高さ(H)をそれぞれ求めて、その平均値を算出することにより、ナノピラーの平均高さを求めることができる。他方、ナノピラーの高さが50nm〜1000nmの範囲外にあるものに関しては、以下のような走査型電子顕微鏡による測定を採用して求められる値をナノピラーの平均高さとして採用できる。すなわち、ナノピラーの高さが50nm〜1000nmの範囲外にあるものに関しては、先ず、断面を確認するために分析用基板を縦に割ったものを測定試料として準備し、走査型電子顕微鏡(SEM)の断面観察用のホルダに測定試料を搭載する。次に、該ホルダを15°に傾けた状態で加速電圧1.5kVで測定試料(分析用基板の断面)をSEMにより測定(撮影)する(SEMによる断面測定)。このようなSEMによる断面測定は観察視野を変えて複数回行う。そして、かかる複数回の断面測定により観察されたナノピラーの中から、無作為に50点以上(任意の50点以上)のナノピラーを選択し、SEMに付属されたソフトにより高さをそれぞれ計測して、その平均値を算出することにより、ナノピラーの平均高さを求めることができる。なお、ナノピラーの平均高さに関しては、例えば、後述の電子ビーム蒸着(EB蒸着)を利用する調製方法を採用してナノピラーを製造しているような場合においては、通常、蒸着装置に蒸着速度(蒸着レート)と蒸着時間を設定することにより蒸着装置側で蒸着物の高さを調整(コントロール)することが可能であり、蒸着時の蒸着速度(蒸着レート)と蒸着時間から算出できる高さの理論値(計算値:[蒸着レート]×[時間])と、上述のようにAFM等を用いて測定を行って求められる平均値(実測値)とにおいて大きな差が生じないため、電子ビーム蒸着(EB蒸着)を利用する調製方法を採用して形成されたナノピラーについては、前記高さの理論値(計算値:[蒸着レート]×[時間])を前述のナノピラーの平均高さと擬制して利用してもよい。そして、このように求められるナノピラーの平均直径と平均高さとから、アスペクト比の平均値を求めることができる。なお、本発明においては、上述のようにして測定した直径(D)が1〜500nmの範囲内にある柱状体(直径の大きさよりも高さの大きさが大きいもの:より好ましくはアスペクト比([高さ]/[直径])が1.4以上のもの)を「ナノピラー」と判断することができる。
また、このようなピラーアレイ構造を形成するナノピラーとしては、平均直径が5〜300nm(より好ましくは20〜200nm)のものが好ましい。このような平均直径が前記下限未満となる場合にはナノピラー自体の製造が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、表面積が低下してしまい、測定対象分子を含む試料(分析対象物)が部分的に凝集構造を形成し易く、試料をナノピラーに均一に担持することが困難となる傾向にある。また、このようなピラーアレイ構造を形成するナノピラーとしては、平均高さが40〜1500nm(より好ましくは45〜1400nm、更に好ましくは50〜1300nm)のものが好ましい。このような平均高さが前記下限未満ではアスペクト比が低下して基板の紫外線の波長域の光の吸収性能が低下してしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、製造に時間がかかってしまいコストが増加する傾向にある。このようなナノピラーの平均直径や平均高さは、アスペクト比の平均値を求める際に説明した方法と同様にして求めることができる。
また、本発明においては、前記ピラーアレイ構造が形成されている基板表面を上方から走査型電子顕微鏡により測定した場合に、前記基板表面上の測定領域の面積に対して該測定領域内に存在する全てのナノピラーが占める面積の割合(測定視野内の基板の表面の面積に対する前記ナノピラーの総面積の割合(密度))は30%〜90%(より好ましくは35%〜85%、更に好ましくは40%〜80%)であることが好ましい。このような密度が前記下限未満では、表面積が低下してしまい、測定時に十分な量の試料(測定対象分子を含む試料:分析対象物)をナノピラーに担持することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ナノピラーが密に配列されているため、ピラー間に十分な量の試料を導入することが困難となる傾向にある。なお、このようなナノピラーが占める面積の割合は、以下のようにして求めることができる。すなわち、ピラーアレイ構造が形成されている基板の表面を上方(基板の表面に対して垂直な方向)から走査型電子顕微鏡(SEM)により測定して、縦2μm及び横2μmの測定領域のSEM像(グレースケール:255階調)を求めた後、画像処理ソフトウエア(例えば、Image J(アドレス:https://rsb.info.nih.gov/ij/))を用いて、閾値を120に設定して、かかる閾値未満の画素値の部分をすべて0(黒)とし、反対に、前記閾値以上の画素値の部分を全て255(白)に置き換えることにより、SEM像を2値化し、得られた2値化した画像において白で表示されている部分を測定領域内に存在するナノピラーであるものと認定して、2値化したSEM像の全画素数(測定領域の全ピクセル数)に対する白で表示されている部分の画素の総数(白で表示されている部分のピクセルの総数)の割合を求め、かかる割合を前記基板表面上の測定領域の面積に対して該測定領域内に存在する全てのナノピラーが占める面積の割合と擬制して求めることができる。
また、本発明の質量分析用基板は、試料の種類等に応じて、前記ナノピラーの表面上に積層された疎水層を更に備えていてもよい。なお、このような疎水層の厚みは、0.2〜5.5nmであることが好ましい。このような疎水層の調製方法については後述する。
また、本発明の質量分析用基板としては、基材と、該基材の表面の一方に配列されたナノピラーとを備える形態の質量分析用基板を好適に利用できる。このような基材としては、ナノピラーを支持することが可能なものであればよく、特に制限されず、レーザー脱離/イオン化質量分析に利用可能な公知の材料からなるものを適宜利用でき、単層のものであっても、多層構造のものであってもよい。
このような基材としては、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析法において分析用の基板に利用可能な公知のもの(例えば、シリコン基材(Si基材)、ITO基材、FTO基材、石英基材、ガラス基材、各種金属基材、各種薄膜等)を適宜利用でき、中でも、レーザー脱離/イオン化質量分析により好適に利用できることから、導電性の材料からなる導電性基材を好適に利用できる。また、このような導電性基材としては、特に制限されるものではないが、例えば、ステンレス鋼、シリコン基材、ITO膜からなる基材、ZnO膜からなる基材、SnO膜からなる基材、FTO膜からなる基材等が挙げられる。また、このような基材としては、特に制限されるものではないが、上述のような導電性基材と、該導電性基材の表面に形成された窒化チタンからなる薄膜とを備えるものを利用してもよい。このように、前記基材としては、例えば、上述の導電性基材(例えばシリコン基材)をそのまま利用してもよく、あるいは、かかる導電性基材と該導電性基材の表面に積層された窒化チタンからなる薄膜とを備える多層構造のものを利用してもよい。
また、このような基材としては、レーザー光のエネルギーが基材側に透過することを十分に抑制して、かかるレーザー光のエネルギーの吸収効率をより高めることが可能となるといった観点からは、導電性基材と該導電性基材の表面に積層された窒化チタンからなる薄膜とを備える積層体を好適に利用でき、また、製造工程をより簡略化することが可能であるといった観点からは、導電性基材のみからなるものを好適に利用できる。
また、このような導電性基材の厚みは、質量分析用の基板を、質量分析装置に導入できるような大きさとすればよく、特に制限されない。また、前記窒化チタンからなる薄膜の厚みは特に制限されないが、10〜300nmであることが好ましい。このような厚みが前記下限未満では薄膜により導電性基材側に透過する光の量を軽減させる効果を十分に得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると製造に時間がかかり、コストが高くなる傾向にある。なお、このような窒化チタンからなる薄膜の形成方法は特に制限されず、例えば、スパッタ法を採用してもよい。更に、このような基材の形状は、特に制限されないが、レーザー脱離/イオン化質量分析法に好適に利用できることから、平板状であることが好ましい。
以下、図1を参照しながら、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の好適な実施形態について簡単に説明する。なお、以下において、好適な実施形態の説明や図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図1に示す実施形態の質量分析用基板1は、基材10と、基材10の一方の面に配列された複数のナノピラー11とを備えており、かかる基材10は、導電性基材10Aと該導電性基材10Aの表面上に積層された薄膜10Bとを備える多層構造のものである。なお、図1に示す実施形態の質量分析用基板1においては、基材10中の薄膜10Bの表面上に複数のナノピラー11が配列されている。また、このような質量分析用基板1は、基材10の表面上に形成されているピラーアレイ構造においてナノピラーのアスペクト比の平均値(直径(D)の平均値と、高さ(H)の平均値の比:[平均高さ]/[平均直径])は1.5以上となっている。
図1に示す実施形態の質量分析用基板1においては、導電性基材10Aとしてシリコン基材を利用している。また、図1に示す実施形態の質量分析用基板1においては、薄膜10Bは、スパッタ法により積層された窒化チタンの薄膜である。このような窒化チタンの薄膜を薄膜10Bとして利用することで、照射されたレーザー光のエネルギーの吸収効率をより高めることが可能となる。そして、図1に示す実施形態の質量分析用基板1においては、窒化チタンの薄膜10B上に、窒化チタンからなるナノピラーが配列されている。このように、図1に示す実施形態の質量分析用基板1は、該基板1の一方の面(図1では10Bの表面上)に窒化チタン(TiN)のナノピラーが配列されてなるピラーアレイ構造を有し、かつ、該ピラーアレイ構造を形成するナノピラー11のアスペクト比の平均値が1.5以上のものである。
このような実施形態の質量分析用基板1は、ピラーアレイ構造が形成されている側の面に試料を担持し、その試料の担持領域にレーザー光を照射することで試料を効率よく脱離させてイオン化することが可能であり、マトリクス化合物を利用しなくても測定対象分子のシグナルを十分に高感度に検出でき、しかも測定対象が比較的高分子量の化合物であっても十分に質量分析することが可能である。
以上、本発明の質量分析用基板の好適な実施形態について図1を参照しながら簡単に説明したが、本発明の質量分析用基板は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示す実施形態においては、質量分析用基板を構成する基材10が窒化チタンの薄膜10Bを備える多層構造のものとなっているが、前述のように、基材10の構造は、これに制限されるものではなく、基材10を、導電性基材10Aのみからなるものとして利用してもよく、更には、薄膜10B以外の別の層を更に含む形態としてもよい。なお、基材10としては、前述のように、導電性基材10Aのみからなるもの;又は、導電性基材10Aと該基材10Aの表面上に積層された窒化チタン薄膜10Bとを備えるもの;が好ましい。
以上、本発明の質量分析用基板の好適な実施形態について説明したが、以下、本発明の質量分析用基板を調製するための方法として好適に利用可能な方法について説明する。
(本発明の質量分析用基板を調製するための方法)
本発明の質量分析用基板を調製するための方法は特に制限されず、得られる基板の一方の面にピラーアレイ構造を形成することが可能な方法(前記基材の表面上にピラーアレイ構造を形成することが可能な方法)である限り適宜利用できる。このような本発明の質量分析用基板を調製するための方法としては、中でも、斜め方向からの電子ビーム蒸着法を利用してターゲットとなるチタン(メタル状)に電子ビームを照射して、基材上にチタンの蒸着粒子を堆積させて、複数のナノピラー(チタン(メタル状)の蒸着粒子の堆積物)が配列された構造を形成する工程(I)と、該工程(I)により得られたチタン(メタル状)からなるナノピラーをそれぞれ窒化することにより前記基材上に窒化チタンからなるナノピラーを配列させたピラーアレイ構造を形成して、上記本発明の質量分析用基板を得る工程(II)とを含む方法(かかる方法を、便宜上、「電子ビーム蒸着を利用する調製方法」と称する)を好適に採用することができる。以下、このような電子ビーム蒸着を利用する調製方法において採用する工程(I)と工程(II)を分けて説明する。
(工程(I):電子ビーム蒸着工程)
工程(I)は、電子ビーム蒸着法を利用してターゲットとなるチタン(メタル状)に電子ビームを照射して、基材上にチタンの蒸着粒子を堆積させて、複数のナノピラー(チタン(メタル状)の蒸着粒子の堆積物)が配列された構造を形成する工程(電子ビーム蒸着工程)である。以下、このような電子ビーム蒸着工程を図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図2は、前記電子ビーム蒸着工程に利用することが可能な、電子ビーム蒸着装置の好適な実施形態を模式的に示す概略断面図(模式図)である。図2に示す実施形態の電子ビーム蒸着装置は、密封可能な反応容器(チャンバ)20と、電子ビーム源21と、電子ビームの照射ターゲットを導入して保持するための容器22と、該容器内に導入された粉末状のチタン(メタル状)からなるターゲット(蒸着源:蒸着材料)23と、基材載置台24A及び支持棒24Bからなる基材ホルダ24と、基材ホルダ24の基材載置台24A上に保持された基材10とを備える。なお、点線C1は基材ホルダ24の中心軸(基材載置台24A及び支持棒24Bの中心軸)を概念的に示すものであり、基材ホルダ24は図示を省略したモータに接続されて中心軸C1を中心に回転可能となっている。また、基材10は、その中心に点線C1が通過するように、基材10の中心と基材載置台24Aの中心を合せるようにして基材載置台24A上に保持されている。また、点線C2は、容器22の底面の中心及び容器22の開口部の中心を通る容器22の中心軸を示す。なお、図2に示す実施形態の電子ビーム蒸着装置においては、中心軸C1と中心軸C2とが直交するように、容器22、基材載置台24A、支持棒24B、及び、基材10が配置されており、基材10の表面と点線C2は平行となっている。また、タブレット状のターゲット23は、処理前のターゲット23の表面と点線C1とが平行となるように容器22中に導入されている。また、点線L1は、中心軸C2とタブレット状のターゲット23との交点と、中心軸C1と基材10の交点とを結ぶ線を概念的に示すものであり、また、角度θは点線L1と点線C1とのなす角度を概念的に示すものである。さらに、図中の点線Eは電子ビーム源21から照射される電子ビーム(EB)を概念的に示すものである。また、図中のhはターゲット23の表面から点線C1までの高さ(ターゲット23の表面から垂直な方向における点線C1までの距離)を概念的に示し、dは基材10の表面から垂直な方向における点線C2までの距離を概念的に示す。
このような電子ビーム蒸着装置において、反応容器(チャンバ)20、電子ビーム源21並びに基材ホルダ24(基材載置台24A及び支持棒24B)は、それぞれ、特に制限されるものではなく、電子ビーム蒸着装置に利用可能な公知のものを適宜利用できる。例えば、電子ビーム源21としては公知の電子ビーム蒸着用の電子銃を適宜利用できる。なお、このような反応容器(チャンバ)20は、図示を省略した真空ポンプやガスボンベに接続されており、内部を真空状態としたり、所定のガス雰囲気とすることが可能となっている。また、電子ビームEの照射ターゲット23を導入して保持するための容器22も特に制限されず、電子ビーム蒸着装置に利用可能なものであってかつタブレット状のターゲットを導入して保持することが可能な、公知の容器を適宜利用できる。このような容器22としては、例えば、坩堝を利用することができる。
タブレット状のターゲット23としては、タブレット状のチタン(メタル状のチタンからなるもの)を利用することが好ましい。このようなターゲット23がメタル状のチタンからなるものではなく、例えば、チタニア(酸化物)からなる場合、チタニアから発生する酸素ガスによって真空状態を保持することが困難となる。また、このようなターゲット23として、タブレット状のものを利用している。ここで、ターゲット23として、仮に、粉末状のチタンを利用した場合には、電子ビームの照射時にチタンの粉が飛び散ってしまう場合が生じ得るため、取扱いが煩雑になってしまう。また、ターゲットとして、仮に、サイズのより大きなバルク状のものを利用した場合には、ターゲット内において温度分布が大きくなってしまう可能性が生じる。そのため、適度な大きさのタブレット状のものを利用することが好ましい。このような観点から、電子ビームEの照射ターゲット23としては、タブレット状のチタン(メタル状のチタンからなるタブレット)を利用することが望ましい。また、このようなタブレット状のチタンとしては、平均直径が5〜15mmで、かつ、厚みが1〜10mmのものが好ましい。
基材10としては、前述の本発明の質量分析用基板に利用可能なものとして説明した基材と同様のものであり、前記導電性基材、又は、前記導電性基材とその表面に積層された窒化チタンからなる薄膜とを備える積層体を好適に利用することができる。
以下、このような電子ビーム蒸着装置を用いて、タブレット状のチタンからなるターゲット23に電子ビームEを照射して、基材10上にチタンの蒸着粒子を堆積させて、複数の堆積物からなるナノピラー(チタン(メタル状)の蒸着粒子の堆積物からなるナノピラー)が配列された構造を形成するための好適な条件について説明する。
このようなチタン(メタル状)からなるナノピラー(堆積物)を形成するためには、前記電子ビーム蒸着装置において、点線L1と中心軸C1とのなす角度θ(蒸着角度)が59〜88°(より好ましくは68〜87°)となるように、基材10とターゲット23とが配置されるように各構成物を配置することが好ましい。このような角度θが前記下限未満では蒸着粒子を堆積させてピラー状のものを形成することが困難となり、蒸着により薄膜が形成されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、基材10の表面にナノピラーを成長させることが困難となる傾向にある。なお、このような角度θの条件を満たすように蒸着源及び基材を配置する斜め蒸着法により電子ビーム蒸着を行うことで、いわゆる自己陰影効果(self−shadowing effect)が得られ、蒸着時の条件に応じて柱状(ピラー状)に蒸着粒子を堆積することが可能となる。すなわち、このような角度θの条件を満たす斜め入射の電子ビーム蒸着(EB蒸着)により、柱状に蒸着粒子を堆積させて、ナノピラーを効率よく製造することが可能となる。
また、前記電子ビーム蒸着装置において、ターゲット23の表面と点線C1との間の距離(高さh)は、100〜400mmであることが好ましく、200〜300mmであることがより好ましい。このような高さhが前記下限未満では蒸着粒子を堆積させてピラー状のものを形成することが困難となり、蒸着により薄膜が形成されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると基材10の表面にナノピラーを成長させることが困難となる傾向にある。
さらに、前記電子ビーム蒸着装置において、基材10の表面と点線C2との間の距離(平行距離)dは、10〜150mmであることが好ましく、10〜100mmであることがより好ましい。このような距離dが前記下限未満では蒸着粒子を堆積させてピラー状のものを形成することが困難となり、蒸着により薄膜が形成されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると基材10の表面にナノピラーを成長させることが困難となる傾向にある。
また、前記ターゲット23に電子ビームEを照射して基材10上にチタンの蒸着粒子を堆積させる際には、電子ビームを安定的に発生させるために、反応容器(チャンバ)20内が真空状態であることが好ましい。このような反応容器内の真空状態としては、真空度(圧力)が10−2Pa以下であることが好ましく、10−3Pa以下であることがより好ましい。このような真空度が前記下限未満では安定的に電子ビームを発生させることが困難となる傾向にある。
さらに、前記ターゲット23に電子ビームEを照射して基材10上にチタンの蒸着粒子を堆積させる際には、蒸着速度が0.1〜10Å/秒(より好ましくは1〜3Å/秒)となるように、電子ビームEの照射条件等を適宜変更することが好ましい。このような蒸着速度が前記下限未満では、所望の高さのナノピラーを作成する際に多くの時間がかかってしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると形成されるナノピラーが螺旋状のものとなってしまう傾向にある。
さらに、前記ターゲット23に電子ビームEを照射して基材10上にチタンの蒸着粒子を堆積させる際には、前記ターゲット23に照射する電子ビームEの加速電圧を5〜10kV(より好ましくは7〜9kV)の範囲に調整することが好ましい。このような加速電圧が前記下限未満では電子ビームが発生し難くなり、ナノピラーを効率よく成長させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると蒸着速度が大きくなり過ぎてナノピラーが螺旋状になってしまう傾向にある。
また、電子ビーム源21から出射されるエミッション電流を10〜70mA(より好ましくは30〜50mA)の範囲に調整することが好ましい。このようなエミッション電流が前記下限未満ではは電子ビームが発生し難くなり、ナノピラーを効率よく成長させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると蒸着速度が大きくなり過ぎてナノピラーが螺旋状になってしまう傾向にある。
また、基材10上にチタンの蒸着粒子を堆積させる際には、基材10の表面に対して垂直方向にナノピラーを成長させるために、基材ホルダ24を回転させることにより、基材10を回転させながら基材の表面に蒸着粒子を堆積させることが好ましい。このように基材ホルダ24を回転させる場合には、その回転速度を1.5〜15rpm(より好ましくは2〜6rpm)とすることが好ましい。このような回転速度が前記下限未満では形成されるナノピラーが螺旋状のものとなってしまう傾向にある。なお、回転速度を前記上限を超えるように設定して蒸着工程を実施しても、回転速度が前記範囲内にある場合と同様に粒子を蒸着することが可能であることから特に問題はないが、回転速度を上記上限よりも早くしても特に大きなメリットがある訳ではないため、前記回転速度の範囲内で回転させることがより好ましい。
さらに、前記ターゲット23に電子ビームEを照射して基材10上にチタンの蒸着粒子を堆積させる際には、温度を30℃以下(より好ましくは−200℃〜25℃)とすることが好ましい。このような蒸着時の温度が前記上限を超えると蒸着時に原子が拡散して、ナノピラーではなく薄膜が形成され易くなってしまう傾向にある。
このようにして、前記電子ビーム蒸着装置を用いて、例えば基材10を回転させながら、粉末状のチタンからなるターゲット23に電子ビームEを照射し、基材10上にチタンの蒸着粒子を堆積させることで、より効率よくチタン(メタル状)からなるナノピラー(堆積物)を複数形成することが可能であり、これにより、複数のナノピラー(チタン(メタル状)の蒸着粒子の堆積物)が配列された構造(ピラーアレイ構造)を、より効率よく形成することが可能である。なお、このようにしてピラーアレイ構造を形成する場合には、工程(I)及び(II)を施して最終的に得られる質量分析用基板が本発明の質量分析用基板となるように、その基板の目的の設計に応じて、蒸着時に採用する条件を適宜変更すればよい(例えば、ピラーアレイ構造中のナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上となるように蒸着速度等を適宜変更してもよい)。
(工程(II):質量分析用基板を得る工程)
工程(II)は、前記工程(I)により得られたチタン(メタル状)からなるナノピラーをそれぞれ窒化することにより前記基材上に窒化チタンからなるナノピラーを配列させたピラーアレイ構造を形成して、上記本発明の質量分析用基板を得る工程である。
このような工程(II)における、チタン(メタル状)からなるナノピラーを窒化する工程(窒化処理の方法)は、特に制限されないが、例えば、チタン(メタル状)からなるナノピラーが形成された基材を、アンモニアを含有するガス雰囲気中において加熱することにより、ナノピラーを構成するチタンを窒化する方法を採用することができる。なお、このような窒化処理にアンモニアを利用することでナノピラーアレイを一度に窒化することが可能となり、効率よくナノピラーを窒化することが可能となる。また、このような窒化方法を採用する場合、前記アンモニアを含有するガス雰囲気を、アンモニアと不活性ガス(アルゴン、窒素等)とからなる混合ガス雰囲気とすることが好ましい。なお、ガス雰囲気中に不活性ガス以外に、例えば、酸素が含まれていた場合にはチタンナノピラーが酸化されてチタニアになってしまうため、前記アンモニアを含有するガス雰囲気は、アンモニアと不活性ガス(アルゴン、窒素等)とからなる混合ガス雰囲気とすることが好ましい。また、このようなアンモニアを含有するガス雰囲気が前記混合ガス雰囲気である場合、アンモニアと不活性ガス(アルゴン、窒素等)との比率は容量比([アンモニア]:[不活性ガス]が10:1〜5:1であることが好ましい。
また、このような窒化処理を採用して、アンモニアを含有するガス雰囲気中において加熱する場合においては、ガス雰囲気中のアンモニア濃度を一定に保つといった観点から、アンモニアを含有するガスを流しながら(かかるガスの気流下において)加熱することがより好ましい。ここにおいて、アンモニアを含有するガスとしてアンモニアと不活性ガス(好ましくはアルゴン)とからなる混合ガスを利用し、かかる混合ガスを流しながら加熱する場合には、アンモニアの流量を0.1〜1L/分(より好ましくは0.3〜0.7L/分)とすることが好ましく、また、前記不活性ガスの流量は0.05〜0.3L/分(より好ましくは0.05〜0.2L/分)とすることが好ましい。このようなアンモニアの流量が前記下限未満では窒化が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとガスの温度が不十分となり、やはり窒化が不十分となる傾向にある。また、前記不活性ガスの流量が前記上限を超えると不活性ガスの容量比が多くなるため窒化を効率よく行うことが困難となり、結果的に窒化が不十分となる傾向にある。
また、このような加熱に際しては、温度を700〜900℃(より好ましくは750〜850℃)として1〜3時間(より好ましくは1〜2時間)保持することが好ましい。このような加熱時の保持温度や保持時間が前記下限未満では窒化が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとピラー同士が融着してしまう傾向にある。また、このような保持温度まで昇温する際には、昇温速度を5〜10℃/分とすることが好ましい。このような昇温速度が前記下限未満では設定した保持温度までゆっくり加熱されるため、設定温度付近の高温の状態の時間が長くなってしまい、結果的にピラー同士が融着し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると昇温時に設定保持温度に対してオーバーシュートして、より高い温度まで加熱され易くなり、それによりピラー同士が融着し易くなる傾向にある。
なお、このような窒化方法を採用する場合には、ガスの導入及び排出が可能な公知の反応容器を適宜利用することができる。また、上記工程(I)において電子ビーム蒸着装置の反応容器20内でナノピラーを形成した後、その反応容器20内でそのまま前述の窒化処理を施してもよい。また、このような窒化処理の具体的な方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、密封することが可能な反応容器にアンモニアの導入管、不活性ガス導入管及びガス排出管を接続しておき、該容器内にアンモニアと不活性ガスを上記流量で導入して、容器内のガス雰囲気をアンモニアと不活性ガス(好ましくはアルゴン)の混合ガスにより形成される雰囲気(アンモニアを含有するガス雰囲気)とし、かかるガス雰囲気中において容器内に配置されたナノピラーが形成された基材を加熱する方法を挙げることができる。このようにしてアンモニアを含有するガス雰囲気中で加熱することにより、効率よくチタン(メタル状)を窒化チタンとすることが可能であり、これにより前記工程(I)により得られたチタン(メタル状)からなるナノピラーをそれぞれ窒化することが可能となる。そのため、このような窒化処理の方法を採用することにより、効率よく基材上に窒化チタンからなるナノピラーを配列させたピラーアレイ構造を形成することが可能であり、これにより、効率よく本発明の質量分析用基板を得ることができる。なお、このような工程(I)及び(II)を使用した方法は工程自体が蒸着と窒化といった簡便なものであることから、簡便で安価に高性能な基板を得ることができる。
なお、このようにして得られた質量分析用基板は、そのままレーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として、そのまま好適に利用することが可能であるが、前記ピラーアレイ構造を有する側の前記基板の表面上に更に疎水層を積層させることにより、質量分析用基板中のナノピラーを、その表面上に積層された疎水層を備える形態のものとして利用してもよい。以下、このような疎水層を積層させる方法(疎水層の調製方法)として好適に利用可能な方法を簡単に説明する。
(疎水層の調製方法)
このような疎水層の調製方法は、特に制限されないが、例えば、疎水性材料を含む疎水化処理液を、前記ピラーアレイ構造を有する側の前記基板の表面上に接触せしめることで、ナノピラーの表面上に疎水層を調製する方法を好適に利用することが可能である。以下、このような疎水層の調製方法として好適に利用することが可能な方法について簡単に説明する。
このような疎水層の調製方法に利用する疎水性材料としては、特に制限されず、疎水基をナノピラーの表面に導入可能なものが好ましい。なお、通常、空気に暴露されると窒化チタンからなるナノピラーの最表面の部分は、空気中の酸素で窒化チタンが酸化されて酸化チタンとなり、その後、その最表面の部分が空気中の水分によって水酸基により覆われた構造となる。そのため、窒化チタンからなるナノピラーを備える基板が空気に晒された場合、通常、その基板の窒化チタンからなるナノピラーの最表面は水酸基により覆われた構造を有するものとなる。このような構造を考慮すれば、前記疎水性材料としては、ナノピラーの最表面の水酸基と反応して共有結合することを可能とする官能基と疎水基とを有する材料が好ましく、中でも、前記疎水基を備える加水分解性シラン化合物、前記疎水基を有する金属アルコキシド、側鎖に前記疎水基を有するとともに前記官能基を有するシリコーン樹脂を好適に利用することができる。
また、このような疎水基としては、特に制限されないが、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、フッ素原子含有基(好ましくはフルオロアルキル基、フルオロエーテル基)、及び、フッ素原子以外のハロゲン原子を含有するハロゲン原子含有基からなる群から選択される少なくとも1種の基がより好ましい。このような疎水基として好適な前記アルキル基、前記アルキニル基、前記アルケニル基は、それぞれ、炭素数が1〜40(更に好ましくは1〜30、特に好ましくは1〜20)のものがより好ましい。また、前記フルオロアルキル基としては、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されたアルキル基(水素原子が部分的にフッ素原子に置換されたアルキル基又はパーフルオロアルキル基)であることが好ましく、例えば、式:CF−、CF−CH−、CF−CF−、CF−CH−CH−、CF−CF−CH−、CF−CF−CF−、CF−CF−CH−CH−、F−CH−CF−CH−CH−、CF(CF)−CH−CH−で表される基等が挙げられる。また、このようなフルオロアルキル基(水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されたアルキル基)の主骨格(炭素骨格)の炭素数(アルキル鎖の炭素数)は1〜16(更に好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜8)であることが好ましい。また、前記フルオロエーテル基としては、式:−(R−O)−で表される構造を有する基[式中、Rは、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換された2価のアルキレン基(フッ化アルキレン基)を示す。]
であることが好ましく、例えば、式:−CF−CF−O−、−CF−CF−CF−O−、−CF−CF−CF−CF−O−で表される基等が挙げられる。
また、このような疎水性材料としては、例えば、下記一般式(1):
Figure 2021047151
[式中のhは1〜16(より好ましくは1〜10)の整数を示す。]
で表される化合物(高分子成分);トリメトキシ(3,3,3−トリフルオロプロピル)シラン、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ノナフルオロヘキシル)シラン、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロオクチル)シラン)等のフッ化アルキルトリアルコキシシラン;トリフルオロプロピルジメチルクロロシラン等のトリフルオロアルキルジアルキルクロロシラン;クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、トリプロピルクロロシラン等のトリアルキルクロロシラン;(2−クロロエチル)トリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等の塩化アルキルトリアルコキシシラン;(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、テトラメチル−1,3−ビス(クロロメチル)ジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン等の疎水基を含有するシラン化合物;等を好適に利用できる。なお、このような疎水性材料としては、市販品を適宜利用してもよく、例えば、上記式(1)で表される化合物としてダイキン工業製の商品名「オプツール(登録商標)DSX」を利用してもよい。
また、前記疎水化処理液の溶媒としては、特に制限されず、公知の溶媒を適宜利用することが可能であり、例えば、疎水性材料中の疎水基がフッ素原子含有基である場合には、フッ素系溶媒、ヘキサン、クロロホルム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド等を適宜利用することができ、中でも、疎水性材料中の疎水基がフッ素原子含有基である場合、未反応分子を完全に除去することが可能となることから、フッ素系溶媒がより好ましい。このようなフッ素系溶媒としては、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテル等が挙げられる。また、このような疎水化処理液中の疎水性材料の含有量としては特に制限されないが、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜1質量%であることがより好ましい。このような疎水性材料の含有量が前記下限未満では、ナノピラーの表面を疎水性材料の分子で均一に被覆することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると疎水層が厚くなってしまう傾向にある。
また、前記疎水化処理液をピラーアレイ構造を有する側の前記基板の表面上に接触せしめる方法は特に制限されず、前記基板を前記疎水化処理液に浸す方法、前記基板の前記ピラーアレイ構造を有する側の表面に前記疎水化処理液を塗布する方法等、公知の方法を適宜採用できる。
さらに、前記疎水化処理液を前記ピラーアレイ構造を有する側の前記基板の表面上に接触せしめた後においては、該疎水性材料と、窒化チタンからなるナノピラーの最表面の水酸基との反応を進行させる(前述のように、通常、空気に暴露されると、窒化チタンからなるナノピラーの最表面の部分においては、空気中の酸素で窒化チタンが酸化されて酸化チタンとなり、その後、その最表面の部分が空気中の水分によって水酸基により覆われた構造となるため、かかる水酸基と疎水性材料の官能基を反応させる)。ここにおいて、前記疎水性材料が加水分解性の置換基を有するものである場合には、室温で加湿をしなくても時間をかければ十分に反応を進行させることが可能であることから、前記反応を進行させるための方法(工程)は、特に制限されるものではないが、反応がより効率よく進行するように、加熱条件下において飽和水蒸気に暴露する工程を採用することが好ましい。このように、飽和水蒸気に暴露することで、前記疎水性材料をより効率よく加水分解させて、ナノピラーの最表面の水酸基と反応せしめて、ナノピラーの最表面に形成されている酸化チタンと共有結合させることが可能となる。なお、このような飽和水蒸気に暴露する工程における加熱条件としては、30〜150℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。また、このような飽和水蒸気に暴露する工程における加熱時間としては0.5〜24時間であることがより好ましい。さらに、前記疎水化処理液に接触せしめて反応させた後においては、余剰な疎水化材料を除去するために、前記溶媒を利用して洗浄処理を施すことが好ましい。このようにして、前記疎水化処理液を前記ピラーアレイ構造を有する側の前記基板の表面上に接触せしめた後に反応させることで、前記疎水性材料からなる前記疎水層を形成することができる。
以上、本発明の質量分析用基板について説明したが、以下、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析法を説明する。
[レーザー脱離/イオン化質量分析法]
本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析法は、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用基板が、上記本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板であることを特徴とする方法である。
このようなレーザー脱離/イオン化質量分析の方法としては、分析用基板として上記本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(以下、場合により、単に「上記本発明の質量分析用基板」と称する)を用いる以外は、特に制限されず、例えば、上記本発明の質量分析用基板を用いて、公知の方法で採用している条件と同様の条件を採用することによりレーザー脱離/イオン化質量分析する方法を適宜採用できる。
このようなレーザー脱離/イオン化質量分析の方法としては、例えば、分析用基板として上記本発明の質量分析用基板を用い、該質量分析用基板のナノピラー構造が形成されている側の面(表面)上に、測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該基板上の前記試料の担持部位(試料担持部位)にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行う方法を好適な方法として採用することができる。以下、このような本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析法として好適な質量分析法について簡単に説明する。
このような方法に用いる試料は、測定対象分子を含むものである。このような測定対象分子としては特に制限されないが、本発明により、より高い検出感度で測定することが可能となることから、生体由来の分子又は生体試料中の分子であることが好ましい。このような生体由来の分子又は生体試料中の分子としては、糖、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、核酸、糖脂質等がより好ましく、これらの分子に対しては、本発明の効果をより高度なものとすることが可能となる傾向にある。また、このような測定対象分子としては、天然物から調製されるもの、天然物を化学的又は酵素学的に一部改変して調製されるものの他、化学的又は酵素学的に調製されるものであってもよい。また、生体に含まれる分子の部分構造を有するものや生体に含まれる分子を模倣して作製されたものであってもよい。
また、このような試料(測定対象分子を含む試料)は、測定対象分子そのものであってもよいし、あるいは、測定対象分子を含むもの(例えば、生体の組織、細胞、体液や分泌物(例えば、血液、血清、尿、精液、唾液、涙液、汗、糞便等)等)であってもよい。このように、前記試料(測定対象分子を含む試料)としては、直接生体試料を用いてもよい。また、試料の前駆体(測定対象分子の前駆体等)を上記本発明の質量分析用基板のナノピラー構造が形成されている側の面(表面)上に担持させた後に酵素処理等を行なって、質量分析用基板の表面上で測定対象分子を調製してもよい。この場合には、前記試料前駆体を、上記本発明の質量分析用基板に担持させた後に処理を行なうことで、結果的に試料を上記本発明の質量分析用基板のナノピラー構造が形成されている側の面(表面)上に担持することとなる。
また、前述の「測定対象分子」としては、上記試料に含有されている分子であって、その化学構造を決定したい分子そのものであってもよく、あるいは、上記試料に含有されている分子であって、その化学構造を決定したい分子を誘導体化した分子(例えば、いわゆる標識分子を化学構造を決定したい分子に結合させることにより得られる質量分析に供される分子)であってもよい。このように、「測定対象分子」は、誘導化していない分子であってもよく、あるいは、標識分子により誘導化した分子であってもよい。このように、誘導化の有無は特に制限されず、化学構造を決定したい分子によっては、必ずしも誘導化を行なう必要はない。なお、このような測定対象分子の分子量については特に限定はないが、他の測定方法では測定が煩雑となったり、正確な測定が困難となる等の不都合が生じるのに対して、本発明の質量分析法では、その特徴をより発揮し易く、十分に高感度な質量分析を行うことが可能であることから、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましい。なお、本発明は、分子量が10000よりも大きくなるような比較的高分子量の測定対象分子であっても十分に測定を行うことができることから、そのような高分子量の測定対象分子(例えば、上記非特許文献1に記載の技術おいては検出できないような、分子量が30000よりも大きくなるような高分子量の測定対象分子等)に対する分析法としても好適に利用できる。
また、前記測定対象分子として、化学構造を決定したい分子を誘導体化した分子を利用する場合、その誘導体化は、ナノピラーが吸収した光エネルギーを受容可能にする標識分子と共有結合させることにより行うことが好ましい。このような標識分子は特に限定されないが、蛍光標識試薬として市販されている分子を利用してもよい。このような標識分子としては、例えば、ピレン誘導体、fluorescein誘導体、rhodamine誘導体、シアニン色素、Alexa Fluor(登録商標)、2−アミノアクリドン、6−アミノキノリン等が挙げられる。
このようなレーザー脱離/イオン化質量分析法においては、質量分析に際して、先ず、上記本発明の質量分析用基板のピラーアレイ構造が形成されている側の面上に、測定対象分子を含む試料を担持せしめる。このような試料の担持方法としては特に制限されないが、例えば、上記質量分析用基板のピラーアレイ構造が形成されている面(表面)に対して前記試料を含む溶液を塗布し、溶媒を除去することで試料を載置(担持)することにより、上記本発明の質量分析用基板に対して試料を担持する方法を採用することが好ましい。
このような試料を含む溶液に利用する溶媒としては特に制限されないが、測定対象分子としてペプチド分子を利用する場合において、その溶解性の観点、更には、汎用性の観点から、水、アセトニトリル、メタノール、及び、これらの2種以上の混合溶媒を利用することが好ましい。また、前記試料を含む溶液を塗布する方法は特に制限されないが、調整溶液量が少量でよく、規定量の試料をより効率よく導入(担持)できることから、該溶液を滴下することにより塗布する方法を採用することが好ましい。なお、このような試料を含む溶液には、質量分析時の測定対象分子のイオン化をより促進させるために、イオン化剤(イオン化助剤)を適宜添加してもよい。このようなイオン化剤としては、特に制限されず、公知のイオン化剤(例えば、クエン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸ナトリウム、クエン酸水素二アンモニウム等)を適宜利用できる。
また、前述のように、試料前駆体(例えば酵素処理前の分子)を上記本発明の質量分析用基板に担持した後に処理(例えば酵素処理)を行って、該基板上で測定対象分子(酵素処理物)を調製することにより、結果的に上記本発明の質量分析用基板のピラーアレイ構造が形成されている側の面(表面)上に、測定対象分子(酵素処理物)を含む試料を担持してもよい。このように、上記本発明の質量分析用基板上に最終的に測定対象分子を含む試料(測定対象分子そのもの、測定対象分子の誘導化物、測定対象分子と標準物質との混合物等)を担持することが可能であれば、試料を担持する方法は特に制限されない。
本発明においては、上述のようにして、上記本発明の質量分析用基板のピラーアレイ構造が形成されている側の面上に測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、その試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行う。このような質量分析に用いるレーザー光源としては、特に制限されず、例えば、窒素レーザー(337nm)、YAGレーザー3倍波(355nm)、NdYAGレーザー(256nm)、炭酸ガスレーザー(9400nm、10600nm)等のレーザー光源が挙げられ、中でも、窒素レーザー又はYAGレーザー3倍波のレーザー光源が好ましい。
また、前記レーザー光源(例えば窒素レーザーの光源)を用いて、レーザー光を前記質量分析用基板上の試料担持部位に照射することにより、前記測定対象分子をイオン化することが可能となる。なお、レーザー光の照射条件(照射強度、照射時間等)は特に制限されず、測定対象分子に応じて、公知の質量分析の条件の中から最適となる条件を適宜選択して設定すればよい。
また、質量分析のためのイオンの分離検出方法は特に限定されず、二重収束法、四重極集束法(四重極(Q)フィルター法)、タンデム型四重極(QQ)法、イオントラップ法、飛行時間(TOF)法等を適宜採用でき、これによりイオン化した分子を質量/電荷比(m/z)に従って分離し検出することが可能である。なお、このようなイオンの分離検出には、市販の装置を適宜利用でき、例えば、ブルカー・ダルトニクス社製の質量分析計(商品名「Autoflex maX」等)、Shimadzu社製のイオントラップ飛行時間型質量分析計(商品名「AXIMA−QIT等」)等を適宜利用してもよい。このようにして、イオン化された測定対象分子の質量分析を行うことができる。
なお、このような本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析法は、分析用基板として上記本発明の質量分析用基板を用いていることから、レーザー光を照射することで、容易に測定対象分子を脱離/イオン化することが可能であり、測定対象分子のシグナル強度をより高いものとした、より高感度な分析を行うことが可能である。また、本発明においては、測定対象分子(分析対象化合物)にマトリクス化合物(低分子有機物)を混合した試料(サンプル)を利用する必要がないことから、マトリクス由来のピークを検出することなく、測定対象分子に由来するピークを高感度で測定することも可能である。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
レーザー脱離/イオン化質量分析用基板を以下のようにして製造した。以下、図1及び図2を参照しながら説明する。
<工程(A):基材10の調製工程>
スパッタ法により、平板状のシリコン基材(縦:10mm、横:10mm、厚み:0.525mm)の表面上に100nmの窒化チタン薄膜を成膜し、シリコン基材10Aと該基材10A上に積層された窒化チタン薄膜10Bとを備える基材10を調製した。なお、製膜時に採用したスパッタ条件は、雰囲気:アルゴンと窒素の混合ガス雰囲気(窒素の含有量:5.9容量%)、ターゲット:Ti、圧力:0.3Pa、電力:500W及びスパッタ時間:13分50秒という条件とした。
<工程(B):ピラーアレイ構造の形成工程>
工程(A)で得られた基材10を用い、該基材の窒化チタン薄膜10Bの表面上に、いわゆる斜め入射の電子ビーム蒸着(EB蒸着)により、チタン(メタル状)からなるナノピラー(蒸着粒子の堆積物)を複数形成し、窒化チタン薄膜10Bの表面上にチタンのナノピラーが配列されたピラーアレイ構造を形成せしめて、基板の前駆体を得た。なお、前記EB蒸着(ピラーアレイ構造の形成)に際しては、電子ビーム蒸着装置(キャノンアネルバ株式会社製の商品名「L−045E蒸着装置」)を用い、図2に模式的に示すように基材10やターゲット(蒸着源)23等を配置し、基材ホルダ24を回転させながらターゲット23に対して電子ビームEを照射して、基材10の窒化チタン薄膜10Bの表面上にチタン粒子の蒸着を行うことで、チタンの蒸着粒子の堆積物からなる複数のナノピラー11を形成した。なお、このようなEB蒸着において採用した具体的な条件を以下に示す。
〈EB蒸着条件〉
・基材10:工程(A)で調製した基材
・容器22:直径20mm、高さ20mmのカーボン製の坩堝
・ターゲット23:チタンのタブレット(直径10mm、高さ5mm、純度:99.9%)
・基材ホルダ24の回転速度:4.6rpm
・平行距離d及び高さh:d=250mm、h=20mm
・蒸着速度:2Å/秒
・蒸着角度(角度θ):85.4°
・圧力:10−3Pa以下の真空条件
・蒸着時の温度条件:25℃
・蒸着時間:ナノピラーの高さ(計算値)が250nmとなるまで実施。
<工程(C):ナノピラーの窒化工程>
先ず、ガス導入管と排ガス管とが接続された容器を準備し、かかる容器内にアンモニアとアルゴンの混合ガス(アンモニアのキャリアガスとしてアルゴンを利用)を流して、容器内のガス雰囲気をアンモニアとアルゴン(不活性ガス)とからなるガス雰囲気(アンモニアとアルゴンの混合ガス雰囲気:アンモニアとアルゴンの容量比は0.5:0.1)に置換した。次いで、該容器内に前記工程(B)で得られた基板の前駆体を投入した後、該容器内にアンモニアとアルゴンとを流量がそれぞれ0.5L/分(アンモニア)及び0.1L/分(アルゴン)となるような条件で流しながら、昇温速度10℃/分の条件で室温(25℃)から800℃まで昇温し、800℃にて1時間保持することによりアンモニアの存在するガス雰囲気下において前記前駆体を加熱し、該前駆体の表面上に形成されているチタンのナノピラーを窒化した。このようにして、基材10の表面上(窒化チタン薄膜10Bの表面上)に窒化チタンのナノピラー11が複数配列されてなるピラーアレイ構造が形成されたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板1を得た。なお、このようにして得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の表面上に形成されたピラーアレイ構造の特性を以下に示す。
〈ピラーアレイ構造の特性について〉
上述のようにして得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板1の表面に形成されたピラーアレイ構造の特性を確認するために、先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた測定を行った。なお、走査型電子顕微鏡(SEM)としては、日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡(商品名「Hitachi S−4800」)を用いた。
このような走査型電子顕微鏡(SEM)による測定に際しては、前記基板1の上方(垂直な方向)から前記基板1の表面を測定(上面を測定)するとともに、陰影によりピラーアレイ構造がより確認しやすいことから、斜め方向からの測定も行った。このような測定の結果として、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の表面の斜め方向の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真:ナノピラーが形成された表面に対して垂直な方向に対してなす角度が30°となる斜めの方向から確認した走査型電子顕微鏡像)を図3に示す。
また、このようなSEM観察により得られた基板1の上面のSEM像を利用し、画像処理ソフトウエア(Image J(アドレス:https://rsb.info.nih.gov/ij/))を用いて、閾値を120に設定して、かかる閾値未満の画素値の部分をすべて0(黒)とし、反対に、前記閾値以上の画素値の部分を全て255(白)に置き換えることにより、SEM像を2値化した。次に、2値化した画像において白で表示されている部分をナノピラーであるものと認定し、かかる2値化した画像の中から無作為に50点のナノピラー(任意の50点のナノピラー)を選択して、そのナノピラーの直径(D)をそれぞれ求めた(なお、直径を求めるナノピラーの上面の形状(上方から測定した形状)が円形ではない場合には、該ナノピラーの上面の最大の外接円の直径をナノピラーの直径として求めた)。次いで、このようにして求められた任意の50点のナノピラーの直径の平均値を算出したところ、ナノピラーの平均直径は105nmであった。
ここで、上述のナノピラーの製造方法においては、蒸着時の蒸着速度(蒸着レート)と蒸着時間から蒸着装置によりナノピラーの高さを調整(コントロール)していることから、その製造条件を考慮して、本実施例においては、高さの理論値([蒸着レート]×[時間])がナノピラーの高さの平均値であるものと擬制した(ナノピラーの平均高さは250nm(高さの理論値:蒸着装置の操作時の蒸着レート及び蒸着時間で調整した高さ)であるものとみなした)。このようなナノピラーの平均高さの値と前述のナノピラーの平均直径の値とからナノピラーのアスペクト比の平均値([平均高さ(250nm)]/[平均直径(105nm)])を算出して求めたところ、ナノピラーのアスペクト比の平均値は2.4であった。なお、2値化した画像や、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定の結果(例えば図3に示す結果)等からも、直径を測定したナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上であることは明らかである。また、原子間力顕微鏡(AFM)として「走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス製の商品名「NanoNavi E−sweep」)」を用いて、基板1の凹凸の高さに関するデータを求めて、直径(D)を求めた50点のナノピラーについて高さ(H)の平均値を求めたところ、その高さの平均値(実測値)はおおむね250nmであった。なお、図3や2値化した画像等から、直径を測定したピラー(無作為に選択した50点のピラー)はいずれも、直径が60〜179nmの範囲に入っており、かつ、その形状は直径の大きさよりも高さの大きさが大きな柱状体となっていることが確認できたことから(ナノピラーの高さがいずれも上記計算値(250nm)であると擬制した場合にはアスペクト比は1.4以上の柱状体である)、これらはいずれも「ナノピラー」であると判断できた。また、基板1の上面のSEM像から、基板表面上の測定領域の面積に対して該測定領域内に存在する全てのナノピラーが占める面積の割合(測定視野内の基板の表面の面積に対する前記ナノピラーの総面積の割合(密度))を上述の方法(2値化した画像より求める方法:画像処理ソフトウエアとしてImage J(アドレス:https://rsb.info.nih.gov/ij/)を利用)で求めたところ、かかる割合(密度)は46.7%となっていた。
このような測定の結果から、実施例1で得られた基板1は、該基板の一方の面にアスペクト比の平均値が2.4のナノピラー(窒化チタンからなるもの)が複数配列されたピラーアレイ構造が形成されていることが分かった。また、図3に示す結果から、基板上に配列されている各ナノピラーは、その表面に微細なナノ凹凸形状を有しており、突起状の構造が多く存在し、表面積が高いものとなることが分かった。なお、図3に示す画像により確認できる各ナノピラーの表面の微細な凹凸形状は、ナノピラーが蒸着粒子の堆積により形成されたものであることに起因して形成されたものであることは明らかである。
(実施例2)
<レーザー脱離/イオン化質量分析用基板の調製工程>
実施例1で採用した方法(工程(A)〜(C)を実施する方法)と同様の方法を採用して、一方の面にアスペクト比の平均値が2.4のナノピラー11が複数配列されたピラーアレイ構造が形成されたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板1を調製した(図1参照)。
<疎水層の調製工程>
上述のようにして得られた基板1の表面上に、以下のようにして疎水層を形成し、窒化チタンからなるナノピラーが形成されている面の表面上に積層された疎水層を有する形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を得た。すなわち、先ず、疎水基としてフルオロエーテル基を有するケイ素アルコキシド(ダイキン工業製の商品名「オプツール(登録商標)DSX」)からなる疎水性材料をハイドロフルオロエーテルで0.1質量%に希釈することにより疎水化処理液を調製した。次に、該疎水化処理液中に前記基板1を1分間浸した後、前記基板1を前記疎水化処理液からゆっくり引き上げ、60℃の飽和水蒸気に3時間暴露することにより、基板1の表面に疎水性材料からなる疎水層を形成した。次いで、このようにして疎水層を形成した基板1をハイドロフルオロエーテルに浸漬し、5分間超音波洗浄を行うことで、余剰の疎水性材料を除去した。このようにして基板の表面の全面に疎水層を形成し、窒化チタンからなるナノピラーが形成されている面の表面上に積層された疎水層(疎水性材料からなる層)を有する形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を得た。なお、このような疎水層を有する形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板は、疎水化処理前の基板が実施例1と同様の方法で製造したものであることから、アスペクト比の平均値が1.5以上のナノピラー(窒化チタンからなり、かつ、表面に疎水層が積層された柱状体)が複数配列されたピラーアレイ構造を表面に有する基板であることは明らかである。
(実施例3)
工程(A)を実施せずに、工程(B)において工程(A)で得られた基材10を用いる代わりに平板状のシリコン基材(縦:10mm、横:10mm、厚み:0.525mm)をそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、一方の面に窒化チタンからなるナノピラーが複数配列されてなるピラーアレイ構造が形成されたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を得た(シリコン基材の表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を直接形成して、レーザー脱離/イオン化質量分析用基板を得た)。なお、このようにして得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板に対して、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた測定を行って平均直径を求めた結果、ナノピラーの平均直径は100nmであることが確認された。また、ナノピラーの平均高さは、実施例1と同様に、その製造条件から250nm(計算値:[蒸着速度]×[蒸着時間])であるものと擬制した。そのため、ナノピラーのアスペクト比の平均値は2.5であることが確認された。また、実施例1と同様にして基板表面上の測定領域の面積に対して該測定領域内に存在する全てのナノピラーが占める面積の割合(密度)を求めたところ、その割合(密度)は48.0%となっていた。また、このような測定の結果として、実施例3で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の表面の斜め方向のSEM写真(ナノピラーが形成された表面に対して垂直な方向に対してなす角度が35°となる斜め方向から確認したSEM像)を図4に示し、図4中の一部を拡大したSEM写真を図5に示す。なお、図4や前述のように2値化した画像等から、直径を測定したピラー(無作為に選択した50点のピラー)はいずれも、直径が65〜170nmの範囲に入っており、かつ、その形状は直径の大きさよりも高さの大きさが大きな柱状体となっていることが確認できたことから(ナノピラーの高さがいずれも上記計算値(250nm)であると擬制した場合にはアスペクト比はいずれも1.47以上である)、これらはいずれも「ナノピラー」であると判断できた。
このような測定の結果から、実施例3で得られた基板は、該基板の一方の面にアスペクト比の平均値が2.5のナノピラー(窒化チタンからなるもの)が複数配列されたピラーアレイ構造が形成されていることが分かった。また、図4〜5に示す結果から、基板上に配列されている各ナノピラーは、その表面に微細な凹凸形状を有していることが分かった。
(比較例1)
実施例1で採用している工程(A)と同様の工程を採用して、シリコン基材と該基材の表面上に積層された100nmの窒化チタン薄膜とを備える積層体を調製し、得られた積層体をそのまま、比較のためのレーザー脱離/イオン化質量分析用基板とした。
(比較例2)
先ず、市販の窒化チタンのナノ粒子からなる粉末(富士フィルム和光純薬社製の商品名「窒化チタン」、平均粒径:50nm)を用いて、窒化チタンのナノ粒子の濃度が10mg/mLとなるように、アセトニトリル(溶媒)中に窒化チタンのナノ粒子を導入(分散)し、超音波で20分間処理して分散液を得た。次に、実施例1の工程(A)で用いたシリコン基材と同様のシリコン基材を準備し、該シリコン基材の表面上に前記分散液を0.5mL滴下し、溶媒を蒸発させて、前記シリコン基材の表面上に窒化チタンのナノ粒子を担持した。このようにして得られた、窒化チタンのナノ粒子を担持したシリコン基材を、比較のためのレーザー脱離/イオン化質量分析用基板とした。
(実施例4)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(以下、場合により、単に「実施例1で得られた基板」と称する)を利用し、以下のようにして、レーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行った。
すなわち、先ず、測定対象分子(分析対象物質)としてアンジオテンシンI(Angiotensin I、分子量:1296.5)を選択した。次に、水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル30容量%)中にイオン化剤(イオン化助剤)としてのクエン酸を2nmol/μLの濃度となるように添加した試料用の溶媒を準備し、該溶媒中にアンジオテンシンIを溶解して、濃度が1pmol/μLのアンジオテンシンIの溶液(試料担持用溶液)を得た。
次に、実施例1で得られた基板中の窒化チタンのナノピラーが複数配列されている側の面(窒化チタンのナノピラー薄膜)の表面上に、前記試料担持用溶液を1.0μL滴下することにより塗布した。次いで、実施例1で得られた基板に塗布した前記試料担持用溶液を自然乾燥させて(溶液から溶媒を蒸発させて)、該基板の表面上にアンジオテンシンI(試料)を担持した。次いで、質量分析計としてブルカー・ダルトニクス社製の商品名「Autoflex maX」を用いて、リフレクトロンモードにて、前記基板のアンジオテンシンIを担持した領域(溶液を塗布した箇所)内の任意の一箇所(1スポット)に、レーザー強度60%の条件でレーザー光(YAGレーザー3倍波、波長:355nm、)を10回照射し(レーザー光を1スポットあたり計10ショットし)、レーザー光のショットごとに得られるスペクトルを積算(スペクトルの積算回数:10回)することにより、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた。このようにして求められたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図6に示す(図6中の右上の差し込み図は、質量電荷比(m/z)の値が1290〜1300付近のマススペクトルのグラフの拡大図である)。
(比較例3)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例1で得られた基板を用いる代わりに比較例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(シリコン基材/窒化チタン薄膜(100nm)の積層体)を用いた以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた(なお、質量分析に際しては、基板の窒化チタン薄膜の表面上にアンジオテンシンI(試料)を担持した)。このようにして求められたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図7に示す(図7中の右上の差し込み図は、質量電荷比(m/z)の値が1290〜1310付近のマススペクトルのグラフの拡大図である)。
(比較例4)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例1で得られた基板を用いる代わりに比較例2で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(窒化チタンのナノ粒子を担持したシリコン基材)を用いた以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた(なお、質量分析に際しては、基板の窒化チタンナノ粒子の担持部位にアンジオテンシンI(試料)を担持した)。このようにして求められたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図8に示す。
〔実施例4及び比較例3〜4の質量分析(LDI−MS)の結果について〕
実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いて、レーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合(実施例4)には、図6に示す結果からも明らかなように、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)において、同位体を含むアンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナルを明瞭に確認することができることが分かった(同位体を含むアンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナルの検出強度が約3000となっていた)。これに対して、比較例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いて、レーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合(比較例3)には、図7に示す結果からも明らかなように、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)において、同位体を含むアンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナルを確認できるものの、かかるシグナルの検出強度は約70程度に過ぎず、実施例4で確認された検出強度(約3000)と対比すると非常に検出強度が低いものとなった。また、比較例2で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いて、レーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合(比較例4)には、アンジオテンシンIに由来するシグナル(ピーク)を全く観察することができなかった。
このような結果から、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いてレーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析することにより、非常に高い検出強度で測定対象分子のシグナル(アンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナル)を十分に明瞭に確認でき、測定対象分子に由来するシグナルを、より高感度に検出できることが分かった。このような実施例4及び比較例3〜4の質量分析の結果から、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いた場合には、質量分析時にマトリクス化合物を利用しなくても測定対象分子のシグナル(アンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナル)を十分に高感度に検出できることが確認された。
なお、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板と、比較例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板は、基板の表面上に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有するか否かといった点で構造が異なるが、このような構造の違いによるレーザー光の吸収効率の違いを確認するために、これらの各基板の表面(実施例1:窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造が形成されている側の表面、比較例1:窒化チタン薄膜(100nm)側の表面)にそれぞれ紫外から近赤外の波長範囲(200nm〜900nm)の光を照射して反射スペクトルをそれぞれ測定した。得られた反射スペクトルのグラフを図9に示す。図9に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板のピラーアレイ構造が形成されている側の表面は測定した波長領域の全領域(紫外から近赤外の波長範囲)において、光の反射率が20%以下となっており、十分に反射率が低いことが確認された。なお、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板のピラーアレイ構造が形成されている側の表面は、特に、実施例4の質量分析時に利用したレーザー光の波長(355nm)付近において光の反射率が5%以下となっていた。これに対して、比較例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板の窒化チタン薄膜(100nm)側の表面は、測定した波長領域の全領域(紫外から近赤外の波長範囲)において、光の反射率が20%以上となっていた。このような結果から、窒化チタンの薄膜を形成した基板(比較例1で得られた基板)を利用した場合と比較して、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有する基板(実施例1で得られた基板)を用い、これにレーザー光を照射した場合に、より効率よくレーザー光を吸収させることが可能となることが分かった。このような図9に示す結果と図6〜8に示す質量分析の結果とを併せ勘案すれば、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を一方の面の表面に有するレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例1で得られた基板)を用いることで、レーザー脱離/イオン化質量分析法において、レーザー光のエネルギーをより効率よく利用することが可能となり、これにより高感度な質量分析を行うことが可能となったものと理解できる。
(実施例5)
試料担持用溶液(アンジオテンシンIの溶液)中のアンジオテンシンIの濃度を1pmol/μLから1fmol/μLに変更し、かつ、質量分析時にスペクトルの積算回数(レーザー光の照射回数)を10回から400回に変更した以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた。このようにして求められたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図10に示す。
図10に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いてレーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合には、基板に担持された測定対象分子の量が非常に少ない場合(1fmol/μLといった低濃度の溶液を利用して測定対象分子を担持させた場合)であっても、同位体を含むアンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナルを明瞭に確認することができることが分かった。このような結果から、レーザー脱離/イオン化質量分析法に、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を一方の面の表面に有するレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例1)を用いることにより、レーザー脱離/イオン化質量分析法でアンジオテンシンI等のペプチド類の分子を十分に高感度に検出することが可能であることは明らかである。
(実施例6)
測定対象分子(分析対象物質)をアンジオテンシンIからマルトヘプタオース(Maltoheptaose、分子量:1153)に変更し、試料担持用溶液としてアンジオテンシンIの溶液を用いる代わりに、濃度が5pmol/μLのマルトヘプタオースの溶液を用いた以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた。なお、濃度が5pmol/μLのマルトヘプタオースの溶液は、超純水中にマルトヘプタオースを濃度が5pmol/μLとなるように溶解するとともにイオン化剤としてのクエン酸を濃度が20nmol/μLとなるように添加することにより調製した。このようにして求められたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図11に示す(図11中の右上の差し込み図は、質量電荷比(m/z)の値が1150〜1200付近のマススペクトルのグラフの拡大図である)。
図11に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いてレーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合には、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)において、マルトヘプタオースのNa付加体のシグナルを明瞭に確認することができることが分かった。このような結果から、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を一方の面の表面に有するレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例1)を用いることにより、レーザー脱離/イオン化質量分析法でマルトヘプタオースのような糖類の分子を十分に高感度に検出することが可能となることが分かり、糖類の質量分析支援基板として十分に利用可能であることは明らかである。
(実施例7)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例1で得られた基板を用いる代わりに実施例2で得られた基板(ナノピラーが形成されている面の表面上に疎水層が積層されている形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板:窒化チタンのナノピラーが複数配列されている側の面を利用)を用い、かつ、イオン化剤としてクエン酸の代わりにトリフルオロ酢酸を用いてトリフルオロ酢酸の濃度が6.14nmol/μLとなる試料用の溶媒を準備した以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた。このようにして求められたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図12に示す(図12中の右上の差し込み図は、質量電荷比(m/z)の値が1290〜1300付近のマススペクトルのグラフの拡大図である)。
図12に示す結果からも明らかなように、実施例2で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(ナノピラーの表面に疎水層が積層されている形態のもの)を用いてレーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合には、同位体を含むアンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナルを明瞭に確認することができることが分かった。なお、比較例3で得られた結果と対比した場合に、実施例2で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(ナノピラーの表面に疎水層が積層されている形態のもの)を用いてレーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合(実施例7)には、より高い検出強度で測定対象分子のシグナル(アンジオテンシンIのプロトン付加体のシグナル)を確認できることも分かり、実施例2で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(ナノピラーの表面に疎水層が積層されている形態のもの)を用いることによって、測定対象分子に由来するシグナルをより高感度に検出できることも分かった。このような結果から、レーザー脱離/イオン化質量分析法に、表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有しかつ該ナノピラーの表面に疎水層が積層されている形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例2)を用いた場合においても、レーザー脱離/イオン化質量分析法でアンジオテンシンI等のペプチド類の分子を十分に高感度に検出可能であることは明らかである。
(実施例8)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例1で得られた基板を用いる代わりに実施例2で得られた基板(ナノピラーが形成されている面の表面上に疎水層が積層されている形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板:窒化チタンのナノピラーが複数配列されている側の面を利用)を用い、かつ、質量分析時にレーザー強度を60%から70%に変更するとともにスペクトルの積算回数(レーザー光の照射回数)を10回から100回に変更した以外は、実施例6で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた。このようにして求められたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図13に示す(図13中の右上の差し込み図は、質量電荷比(m/z)の値が1150〜1200付近のマススペクトルのグラフの拡大図である)。
図13に示す結果からも明らかなように、実施例2で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いてレーザー脱離/イオン化質量分析法により質量分析した場合においても、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)において、マルトヘプタオースのNa付加体のシグナルを明瞭に確認することができることが分かった。このような結果から、表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有しかつ該ナノピラーの表面に疎水層が積層されている形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例2)を用いた場合にも、レーザー脱離/イオン化質量分析法でマルトヘプタオースのような糖類の分子を十分に高感度に検出することが可能となることが分かり、かかる基板が糖類の質量分析支援基板としても十分に有用であることは明らかである。
(実施例9)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例1で得られた基板を用いる代わりに実施例3で得られた基板(シリコン基材の表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造が直接形成されたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板:窒化チタンのナノピラーが複数配列されている側の面を利用)を用い、測定対象分子(分析対象物質)をアンジオテンシンIからポリエチレングリコール4000(Polyethylene Glycol 4000:PEG4000、平均分子量:2700〜3500)に変更し、試料担持用溶液としてアンジオテンシンIの溶液を用いる代わりに濃度が2.5pmol/μLのポリエチレングリコール4000の溶液を用い、質量分析時にレーザー強度を60%から70%に変更するとともにスペクトルの積算回数(レーザー光の照射回数)を10回から100回に変更した以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)を求めた。得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図14に示す。なお、濃度が2.5pmol/μLのポリエチレングリコール4000の溶液は、水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル30容量%)中にイオン化剤(イオン化助剤)としてのクエン酸を20nmol/μLの濃度となるように添加した試料用の溶媒を準備し、該溶媒中にポリエチレングリコール4000を溶解することにより調製した。
図14に示す結果からも明らかなように、エチレンオキサイドのような繰り返し単位を含むポリマー特有の等間隔なシグナルパターン(ポリマーに特徴的なピーク形状)が明瞭に観測され、実施例3で得られた有機シリカ基板を質量分析に利用した場合、ポリマーに対して十分に高感度な分析を行うことが可能であることが分かった。このような結果から、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を一方の面の表面に有するレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例3)を用いた場合、レーザー脱離/イオン化質量分析法でポリエチレングリコール(PEG)のような高分子材料の分子を十分に高感度に検出することが可能となることは明らかであり、かかる基板が高分子材料の質量分析支援基板として十分に有用であることは明白である。
(実施例10〜12)
測定対象分子(分析対象物質)としてアンジオテンシンIの代わりに、下記表1に記載のポリペプチド及びタンパク(インスリン、ユビキチン、及び、シトクロム C)のうちのいずれかを選択し、試料担持用溶液としてアンジオテンシンIの溶液の代わりに下記試料担持用溶液(A)〜(C)のうちのいずれかを用い、質量分析時にレーザー強度を下記表1に記載の強度に変更し、質量分析時にスペクトルの積算回数(レーザー光の照射回数)を下記表1に記載の回数に変更し、更に、リフレクトロンモードからリニアモードに変更して測定を行った以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)をそれぞれ求めた。
〈試料担持用溶液(A)〜(C)について〉
・試料担持用溶液(A):濃度が2.5pmol/μLのインスリンの溶液(溶媒:水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル30容量%)、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
・試料担持用溶液(B):濃度が5pmol/μLのユビキチンの溶液(溶媒:水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル30容量%)、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
・試料担持用溶液(C):濃度が2.5pmol/μLのシトクロム Cの溶液(溶媒:水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル50容量%)、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
Figure 2021047151
このような実施例10〜12の質量分析(LDI−MS)の結果として、得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)をそれぞれ図15(実施例10)、図16(実施例11)、図17(実施例12)に示す。なお、図15中のピークP1のシグナルがインスリンに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)であり、図16中のピークP2のシグナルがユビキチンに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)であり、図17中のピークP3のシグナルがシトクロム Cに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)である。
図15〜17に示すように、いずれの場合も一価のプロトン付加体に由来するピークが明瞭に確認された。また、図16〜17に示すように、ユビキチン(Ubiquitin)の平均分子量(8600)以上の平均分子量を有するタンパクの測定においては、多価のプロトン付加体に由来するピークも確認された。一方、図15〜17に示すグラフにおいてはフラグメントイオン(タンパク等の分解物の分子イオン)に由来するピークは検出されていない。このような結果から、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を一方の面の表面に有するレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例1)を用いた場合には、ポリペプチドやタンパクといった高分子量の測定対象分子であってもソフトにイオン化でき、レーザー脱離/イオン化の際に試料の分解を十分に抑制しながらポリペプチドやタンパクといった高分子量の測定対象分子を、十分に高い感度で分析することが可能であることは明らかである。
(実施例13)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例1で得られた基板を用いる代わりに実施例2で得られた基板(窒化チタンのナノピラーが複数配列されている側の面を利用)を用い、レーザー強度を60%に変更し、スペクトルの積算回数(レーザー光の照射回数)を100回に変更した以外は、実施例10で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)をそれぞれ求めた。得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)を図18に示す。なお、図18中のピークP4のシグナルがインスリンに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)である。
図18に示す結果からも明らかなように、実施例2で得られたレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いた場合に得られたマススペクトルにおいて、インスリンの一価のプロトン付加体に由来するピークのみが明瞭に確認された(このように、図18に示すグラフにおいてもフラグメントイオンに由来するピークは検出されていない)。このような結果から、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として、表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有しかつ該ナノピラーの表面に疎水層が積層されている形態のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例2)を用いた場合、測定対象分子(インスリン)をソフトにイオン化でき、かかる基板もインスリンのような高分子量の測定対象分子を十分に高い感度で分析することが可能なものであることは明白である。
(実施例14〜18)
レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例1で得られた基板を用いる代わりに実施例3で得られた基板(窒化チタンのナノピラーが複数配列されている側の面を利用)を用い、測定対象分子(分析対象物質)としてアンジオテンシンIの代わりに下記表2に記載のタンパク(シトクロム C、ミオグロビン、トリプシノーゲン、アルブミン、トランスフェリン)のうちのいずれかを選択し、試料担持用溶液としてアンジオテンシンIの溶液の代わりに下記試料担持用溶液(D)〜(H)のうちのいずれかを用い、質量分析時にレーザー強度を下記表2に記載の強度に変更し、質量分析時にスペクトルの積算回数(レーザー光の照射回数)を下記表2に記載の回数に変更し、更に、リフレクトロンモードからリニアモードに変更して測定を行った以外は、実施例4で採用している方法と同様にしてレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)を行い、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)をそれぞれ求めた。
〈試料担持用溶液(D)〜(H)について〉
・試料担持用溶液(D):濃度が5pmol/μLのシトクロム Cの溶液(溶媒:水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル50容量%)、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
・試料担持用溶液(E):濃度が5pmol/μLのミオグロビンの溶液(溶媒:水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル50容量%)、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
・試料担持用溶液(F):濃度が5pmol/μLのトリプシノーゲンの溶液(溶媒:水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル50容量%)、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
・試料担持用溶液(G):濃度が5pmol/μLのアルブミンの溶液(溶媒:水とアセトニトリルの混合溶媒(アセトニトリル30容量%)、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
・試料担持用溶液(H):濃度が5pmol/μLのトランスフェリンの溶液(溶媒:超純水、イオン化剤として20nmol/μLのクエン酸を含む)
Figure 2021047151
このような実施例14〜18の質量分析(LDI−MS)の結果として、得られたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)をそれぞれ図19(実施例14)、図20(実施例15)、図21(実施例16)、図22(実施例17)、図23(実施例18)に示す。なお、図19中のピークP5のシグナルがシトクロム Cに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)であり、図20中のピークP6のシグナルがミオグロビンに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)であり、図21中のピークP7のシグナルがトリプシノーゲンに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)であり、図22中のピークP8のシグナルがアルブミンに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)であり、図23中のピークP9のシグナルがトランスフェリンに由来するピーク(一価のプロトン付加体に由来するピーク)である。
図19〜23に示すように、平均分子量が約80000(78000)までのタンパクを測定対象分子として測定して、いずれの場合も一価のプロトン付加体に由来するピークが明瞭に確認された。なお、このようなタンパク(平均分子量が12230以上のタンパク)の質量分析に際しては、多価のプロトン付加体に由来するピークも確認された。また、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として実施例3で得られた基板(表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造が形成された基板)を用いた場合には、図22〜23に示す結果からも明らかなように、平均分子量が66000以上の比較的高い分子量を有する測定対象分子に対しても、レーザー脱離/イオン化質量分析法による測定が可能であることも分かった。一方、図19〜23に示すグラフにおいてはフラグメントイオン(タンパク等の分解物の分子イオン)に由来するピークは検出されていない。このような結果から、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として、窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を一方の面の表面に有するレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例3)を用いた場合には、タンパクのような高分子量の測定対象分子であってもソフトにイオン化でき、かかる基板により、十分に高い分子量を有する測定対象分子を、十分に高い感度で分析することが可能となることは明白である。
上述のような結果(実施例1〜18)からも明らかなように、表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有する本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板(実施例1〜3)を用いて質量分析を行った場合には、レーザー脱離/イオン化質量分析法による質量分析時に、マトリクス化合物を利用しなくても測定対象分子のシグナルを十分に高感度に検出できることが確認された(実施例4〜18)。また、表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有する本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いた場合において、測定対象分子を比較的高分子量のタンパク等とした場合(実施例10〜18:なお、実施例17や18においては平均分子量が66000〜78000のタンパクを測定対象分子として利用)においても、その測定対象分子に由来するシグナルを十分に確認することができ、比較的高分子量の化合物の測定(質量分析)を行うことも可能であることが分かった。このような実施例10〜18に示す結果から、表面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有する本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板を用いた場合においては、分子量の高いタンパクの分子を、分解を十分に抑制しながらソフトにレーザー脱離/イオン化することが可能となることが明らかであり、かかる基板が、例えば、プロテオミクスによるバイオマーカーの探索や臨床試験等のような、分子量の高いタンパクの分子の脱離/イオン化が要求されるような用途(一般にプロテオミクスによるバイオマーカーの探索や臨床応用等といった用途に利用するためには分子量の大きなタンパクの検出が可能であることが要求される)に十分に応用可能であることは明白である。
以上説明したように、本発明によれば、レーザー脱離/イオン化質量分析法による質量分析時にマトリクス化合物を利用しなくても測定対象分子のシグナルを十分に高感度に検出でき、しかも測定対象が比較的高分子量の化合物であっても十分に質量分析することを可能とするレーザー脱離/イオン化質量分析用基板、及び、それを用いたレーザー脱離/イオン化質量分析法を提供することが可能となる。このように、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板は、レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板(例えば、プロテオミクスによるバイオマーカーの探索をレーザー脱離/イオン化質量分析法により行う場合に利用する分析用の基板等)として特に有用である。
1…レーザー脱離/イオン化質量分析用基板、10…基材、10A…導電性基材、10B…薄膜、11…ナノピラー、D…ナノピラーの直径、H…ナノピラーの高さ、20…反応容器(チャンバ)、21…電子ビーム源、22…電子ビームの照射ターゲットを導入して保持するための容器、23…ターゲット、24…基材ホルダ、24A…基材載置台、24B…支持棒、C1…基材ホルダ24の中心軸、C2…容器22の中心軸、L1…中心軸C2と粉末状のターゲット23との交点と中心軸C1と基材10の交点とを結ぶ線、θ…点線L1と点線C1とのなす角度、E…電子ビーム源21から照射される電子ビーム、h…ターゲット23の表面から点線C1までの高さ(ターゲット23の表面から垂直な方向における点線C1までの距離)、d…基材10の表面から垂直な方向における点線C2までの距離。

Claims (5)

  1. レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用の基板であって、該基板が一方の面に窒化チタンのナノピラーからなるピラーアレイ構造を有しており、かつ、該ピラーアレイ構造を形成するナノピラーのアスペクト比の平均値が1.5以上であることを特徴とするレーザー脱離/イオン化質量分析用基板。
  2. 前記ナノピラーがチタンの蒸着粒子の堆積物の窒化物からなることを特徴とする請求項1に記載のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板。
  3. 前記ピラーアレイ構造において、前記ナノピラーの平均直径が5〜300nmであり、かつ、前記ナノピラーの平均高さが40〜1500nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板。
  4. 前記ピラーアレイ構造が形成されている基板表面を上方から走査型電子顕微鏡により測定した場合に、前記基板表面上の測定領域の面積に対して該測定領域内に存在する全てのナノピラーが占める面積の割合が30%〜90%であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板。
  5. レーザー脱離/イオン化質量分析法に用いる分析用基板が、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のレーザー脱離/イオン化質量分析用基板であることを特徴とするレーザー脱離/イオン化質量分析法。
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