JP6808179B2 - 有機シリカ薄膜、その製造方法、それを用いたレーザー脱離イオン化質量分析用基板、及び、レーザー脱離イオン化質量分析法 - Google Patents

有機シリカ薄膜、その製造方法、それを用いたレーザー脱離イオン化質量分析用基板、及び、レーザー脱離イオン化質量分析法 Download PDF

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Description

本発明は、有機シリカ薄膜、その製造方法、それを用いたレーザー脱離イオン化質量分析用基板、及び、レーザー脱離イオン化質量分析法に関する。
従来より有機基を有する有機シリカからなる薄膜は様々な分野への応用が検討されており、その一分野としてレーザー脱離イオン化法(laser desorption/ionization:LDI)の分析用基板に有機シリカ薄膜を利用する研究も進められてきた。例えば、特開2014−115187号公報(特許文献1)においては、有機シリカ多孔体からなる薄膜を分析用基板として用いるレーザー脱離イオン化法が提案されており、照射レーザー光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカ多孔体に測定対象分子を含む試料を担持させた後、レーザー光を照射し、前記測定対象分子をイオン化させることにより質量分析を行う方法が開示されている。そして、このような特許文献1に記載の有機シリカ多孔体からなる薄膜は、いわゆるレーザー脱離イオン化法(LDI)に分析用基板として用いた場合に、マトリックスを使用することなく、十分に効率よく質量分析をすることが可能なものであった。
しかしながら、このような有機シリカ薄膜の分野においては、従来知られている有機シリカ多孔体の製造方法と比較して、より簡便な方法でより効率よく製造することが可能な有機シリカ薄膜及びその製造方法の出現が望まれている。
特開2014−115187号公報
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適に利用することが可能であり、かつ、より簡便な方法でより効率よく製造することが可能な有機シリカ薄膜、その有機シリカ薄膜の製造方法、その有機シリカ薄膜を用いたレーザー脱離イオン化質量分析用基板及びその有機シリカ薄膜を用いたレーザー脱離イオン化質量分析法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、有機シリカ薄膜を光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜とし、該有機基を波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものとし、該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合を、前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲となるようにし、該薄膜を凹凸構造を有するものとし、かつ、該凹凸構造の軸方向を、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向とすることにより、その有機シリカ薄膜が、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適に利用することが可能なものとなり、しかも、従来の有機シリカ多孔体の製造方法と比較してより簡便な方法でより効率よく製造することが可能なものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の有機シリカ薄膜は、光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜であり、
該有機基が波長300〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものであり、
該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合が、前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にあり、
該薄膜が、凹凸の平均ピッチが20〜1000nmである凹凸構造を有し、かつ、
該凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあること、
を特徴とするものである。
また、上記本発明の有機シリカ薄膜においては、前記有機基が波長300〜600nmの範囲に極大吸収波長を有することが好ましい。
さらに、上記本発明の有機シリカ薄膜においては、前記有機シリカ薄膜が、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造を有する多孔膜、又は、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造を有する薄膜であることが好ましい。
また、本発明の有機シリカ薄膜の製造方法は、光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物を部分的に重合せしめて得られたゾル溶液から得られる膜にナノインプリントにより凹凸構造を形成して硬化せしめることにより有機シリカ薄膜を得る工程を含み、
前記有機ケイ素化合物が、光を吸収可能な有機基として波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基を有しかつケイ素及び該有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にある有機ケイ素化合物であり、
前記有機シリカ薄膜が光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜であり、
該薄膜中の前記有機基が波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものであり、
該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にあり、
該薄膜が凹凸構造を有し、かつ、
該凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあること、
を特徴とする方法である。
上記本発明の有機シリカ薄膜の製造方法においては、前記有機シリカ薄膜が、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造を有する多孔膜、又は、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造を有する薄膜であることが好ましい。
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用基板は、レーザー脱離イオン化質量分析法に用いる基板であって、該基板が上記本発明の有機シリカ薄膜を備えることを特徴とするものである。
また、本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法は、分析用基板として上記本発明の有機シリカ薄膜を備える基板を用い、該有機シリカ薄膜に対して測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該膜の試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行うことを特徴とする方法である。
なお、本発明によって、上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、先ず、従来のレーザー脱離イオン化法(LDI)においては、一般に、マトリックスと呼ばれる光吸収特性を持つ物質の中に、測定対象となる分子(例えば、タンパク質、ペプチド、糖類等がある)を分散させて、そこにレーザーを照射してマトリックスと共に測定対象となる分子をイオン化する方法(いわゆるマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(matrix−assisted laser desorption/ionization:MALDI))が採用されていた。しかしながら、このようなマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を利用する質量分析法は、マトリックスと呼ばれる光吸収特性を持つ物質の中に、測定対象分子を分散させて、そこにレーザーを照射して、マトリックスと共に測定対象分子をイオン化するため、使用するマトリックスの選択や、マトリックスと測定対象分子との混合物の質等が分析の成否に大きな影響を与えてしまうといった問題があった。また、このようなマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を利用する質量分析法は、マトリクス由来のピークが検出されてしまうといった問題もあり、検出感度の点で十分なものではなかった。
そこで、上述のような特許文献1に記載の技術においては、有機シリカ多孔体(メソポーラス有機シリカ)からなる薄膜を分析用基板に利用することを提案している。このような特許文献1に記載の有機シリカ多孔体(メソポーラス有機シリカ)からなる薄膜を分析用基板に利用した場合、マトリクスの使用(添加)が不要となり、検出時にマトリクス由来のピークが検出されない。そのため、特許文献1に記載のレーザー脱離イオン化法(LDI)は、十分に検出感度や検出精度の高い分析法であるといえる。
しかしながら、このような特許文献1に記載のレーザー脱離イオン化法(LDI)においても、その分析用基板としての有機シリカ多孔体(メソポーラス有機シリカ)からなる薄膜が、細孔を形成させるために界面活性剤等のテンプレート材料を用いる方法を利用して製造されるものであることから、複数の基板を製造する必要がある場合等に、製造ロットごとに孔の状態(サイズや形状、その位置)などに多少のばらつきが生じ、全く同一の構造を有する基板を再現性よく製造することは困難な傾向にあった。また、特許文献1に記載の有機シリカ多孔体からなる薄膜は、製造時に前記テンプレート材料(界面活性剤等)を除去する工程が必要であるため、作業工程の負荷の観点からも、必ずしも効率よく薄膜を得ることができない傾向にもあった。更に、特許文献1に記載の有機シリカ多孔体からなる薄膜は、上述のようなテンプレート材料(界面活性剤等)を利用する製造方法を採用するため、その構造体内に、測定対象分子のイオン化への寄与が小さいと考えられる閉じた細孔(外部に連通されていない孔)が多く形成されてしまう傾向にもあると考えられる。更に、特許文献1に記載の機シリカ多孔体(メソポーラス有機シリカ)は、製造時に利用する前記テンプレート材料(界面活性剤等)が仮に細孔に微量でも残っていた場合には、そのテンプレート材料(界面活性剤等)が不要なピークとして検出されてしまうこともあると考えられる。そのため、特許文献1に記載の有機シリカ多孔体からなる薄膜を利用したレーザー脱離イオン化法は、それ以前のレーザー脱離イオン化法(LDI)と比較して十分に検出感度や検出精度の高い分析法ではあるものの、更に高度な検出感度や検出精度を発揮できるような方法やその方法に利用できる薄膜の出現が望まれている。なお、例えば、ナノ表面構造を有する基板(分析用の基板)の他の製造方法として公知のナノリソグラフィー法やナノエッチング法等を採用することも検討できるが、そのような方法はそもそも製造プロセスが複雑であり、簡便に基板を製造するといった点で問題があった。また、このようなナノ表面構造を有する固体基板の他の製造方法は、真空プロセスといった、煩雑かつコストのかかる工程を施すことも必要となり、経済性の面でも十分なものではなかった。さらに、ナノ表面構造を有する基板(分析用の基板)を製造するために、ナノリソグラフィー法やナノエッチング法等を採用した場合には、その煩雑さから、大面積化を図ることも困難であった。
そこで、本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、その理由は必ずしも定かではないが、光を吸収可能な波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基を有しかつケイ素及び該有機基の含有割合が前記有機基(波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基)の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にある有機ケイ素化合物を用いることで、その有機ケイ素化合物から得られるゾル溶液から得られる膜(該ゾル溶液を用いて得られる膜)に対して、ナノインプリントにより凹凸構造を形成することが可能となること、言い換えると、上記有機ケイ素化合物を有機シリカ材料として利用(より好ましくは、上記有機ケイ素化合物からゾル−ゲル重縮合反応によって生成される、有機ケイ素化合物のゾル溶液から得られる膜を利用)することで、有機シリカ薄膜の製造にナノインプリント技術を初めて適用することが可能となることを見出して、上記本発明を完成するに至っている。なお、このように、製造時に、前記有機ケイ素化合物のゾル溶液から得られる膜(未硬化又は半硬化の膜)を利用して、最終的に得られる有機シリカ薄膜中のケイ素含有量を調整することにより、製膜時の過度の架橋反応の進行を抑制しながら、ナノインプリント処理により、効率よく有機シリカ薄膜を製造することが可能となるものと本発明者らは推察している。そして、このような本発明によれば、ナノインプリントといった簡便な方法で有機シリカ薄膜を製造でき、生産性が向上するとともに、同様の構造を有する有機シリカ薄膜を十分に再現性よくかつ効率よく製造することも可能となるものと本発明者らは推察する。また、本発明においては、得られる薄膜が有する凹凸構造は、その凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にある。このように、略垂直な方向に配向した凹凸構造(例えば、略垂直な方向に細孔の軸が配列したナノ多孔構造;柱状体の軸が略垂直な方向となるようにして配列されたピラーアレイ構造;等)により、その凹凸構造を有する薄膜は表面積が増加するとともに、これをレーザー脱離イオン化法(LDI)に用いた場合に、光励起によって脱離しかつイオン化した測定対象分子(分析対象分子)を、薄膜(分析用基板)の外部へとスムーズかつ効率的に放出することが可能となるものと本発明者らは推察する。このように、本発明においては、ナノ多孔構造の形成に前述のようなテンプレート材料(分子性のテンプレート材料:界面活性剤等)を用いず、ナノインプリントといった簡便な方法で凹凸構造を形成するため、その薄膜の生産性が大幅に向上する。また、そのようにして得られた薄膜は、前記テンプレート材料(界面活性剤等)を用いないため、レーザー脱離イオン化法(LDI)に用いた場合に残留テンプレート由来のピークが検出されることもなく、測定対象分子(分析対象分子)を更に高い感度で検出すること(より検出し易くすること)が可能であるものと本発明者らは推察する。更に、上記有機基が波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基であることから、レーザー脱離イオン化法(LDI)で利用する波長範囲に併せて有機基を適宜選択して、レーザ光を吸収させることも可能であり、これにより質量分析に利用する波長域のレーザー光をより効率よく吸収させ、その光エネルギーを効率よく利用することも可能となることから、レーザー脱離イオン化法(LDI)において、測定対象分子(分析対象分子)をより効率よく脱離させてイオン化することが可能となる。なお、上述のような有機ケイ素化合物(光を吸収可能な上記特定の有機基を有する有機ケイ素化合物)から得られるゾル溶液の膜にナノインプリントにより凹凸構造を形成して硬化せしめることにより、得られる有機シリカ薄膜は、光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜となり、その薄膜中の前記有機基は波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものとなり、さらに、その薄膜を形成する有機シリカを構成する成分であるケイ素及び前記有機基の含有割合は前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲の値となる。さらに、このようにして得られる薄膜は、凹凸構造を有するものとなるばかりか、その凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあるものとなる。そのため、上記本発明の製造方法によれば、上記本発明の有機シリカ薄膜と同様のものを効率よく製造することができる。このようにして得ることが可能な上記本発明の有機シリカ薄膜は、その構造上の特性により、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適に利用でき、しかも、従来の製造方法と比較して、より簡便な方法でより効率よく製造することが可能なものとなると本発明者らは推察する。また、上述のような本発明の有機シリカ薄膜の製造方法は、ナノインプリント法を利用する方法であるため、大面積化を図ることも容易であると本発明者らは推察する。
本発明によれば、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適に利用することが可能であり、かつ、より簡便な方法でより効率よく製造することが可能な有機シリカ薄膜、その有機シリカ薄膜の製造方法、その有機シリカ薄膜を用いたレーザー脱離イオン化質量分析用基板及びその有機シリカ薄膜を用いたレーザー脱離イオン化質量分析法を提供することが可能となる。
有機シリカ薄膜を備える構造体(多層構造体:積層体)の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。 図1に示す有機シリカ薄膜を備える構造体の領域Rの拡大図である。 実施例1で用いた一般式(A)で表される化合物から得られる有機シリカ薄膜の紫外/可視吸収スペクトルを示すグラフである。 実施例1で得られた有機シリカ薄膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。 実施例1で得られた有機シリカ薄膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。 実施例2で測定されたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例3で測定されたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 実施例4で得られたナノモールドの表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。 実施例4で得られた有機シリカ薄膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。 図9に示す有機シリカ薄膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像の白線部分の断面図である。 実施例5で測定されたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 比較例1で測定されたマススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフである。 比較例2で用いた一般式(C)で表される化合物から得られる有機シリカ薄膜の紫外/可視吸収スペクトルを示すグラフである。 比較例2で得られた有機シリカ薄膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
[有機シリカ薄膜]
本発明の有機シリカ薄膜は、光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜であり、
該有機基が波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものであり、
該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合が、前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にあり、
該薄膜が凹凸構造を有し、かつ、
該凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあること、
を特徴とするものである。
このような薄膜を構成する有機シリカは、光を吸収可能な有機基を骨格に有するものである。ここで、「光を吸収可能」とは、吸収波長等は特に制限されず、いずれかの波長の光を吸収することが可能であればよい。また、本発明において「光を吸収可能な有機基」は、波長200〜1200nm(より好ましくは200〜600nm、更に好ましくは250〜450nm、特に好ましくは300〜400nm)の範囲に吸収極大波長を有する有機基である。このような有機基の吸収極大波長が前記下限未満では、例えば前記薄膜をレーザー脱離イオン化法(LDI)に利用した場合に、そのような波長の光(レーザー光)を吸収させると、測定対象物及び有機シリカ薄膜中の有機基が該光により分解されてしまい、結果的に効率よく質量分析することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、応用分野(用途)によっては利用することが困難となる場合が生じる。例えば、その有機基を備える有機シリカ薄膜をレーザー脱離イオン化法(LDI)に利用する場合において、有機基の吸収極大波長が前記上限を超える場合、そのような波長の光を照射して光を吸収させても、測定対象分子のイオン化に必要な光エネルギーを得ることは困難となる傾向にある。このように、前記有機基が上記波長範囲に吸収極大波長を有することで、様々な分野に応用可能となり、例えば、レーザー脱離イオン化法(LDI)に利用するために、質量分析に利用する波長域のレーザー光をより効率よく吸収させることも可能となる。
このような「光を吸収可能な有機基」としては、例えば、質量分析の際に利用するレーザー光を吸収することが可能な構造部分を有する有機基等が挙げられる。このような有機基としては、質量分析に利用する場合、その利用するレーザー光の波長にもよるが、レーザー光を吸収することが可能な構造部分として芳香環を有する有機基(例えばトリフェニルアミン、ナフタルイミド、フルオレン、アクリドン、メチルアクリドン、クアテルフェニル、アントラセン等)が挙げられる。このように、前記光を吸収可能な有機基(波長200〜1200nmの範囲に吸収極大波長を有する有機基)としては、例えば、それぞれ置換基を有していてもよい、トリフェニルアミン、ナフタルイミド、スチリルベンゼン、フルオレン、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、アクリドン、メチルアクリドン、クアテルフェニル、アントラセン等が挙げられる。
さらに、このような光を吸収可能な有機基(波長200〜1200nmの範囲に吸収極大波長を有する有機基)としては、芳香族環を2個以上(より好ましくは3個以上)有する基であること(芳香族有機基であること)が好ましい。また、このような有機基としては、10個以上の炭素を含む芳香族有機基であることがより好ましい。このような芳香族有機基によれば、より効率よくレーザー光を吸収することが可能となる。このような芳香族有機基としては、例えば、それぞれ置換基を有していてもよい、トリフェニルアミン、ナフタルイミド、スチリルベンゼン、フルオレン、アクリドン、メチルアクリドン、クアテルフェニル、アントラセン、ピレン、アクリジン、フェニルピリジン、ぺリレン、ペリレンビスイミド、ジフェニルピレン、テトラフェニルピレン、ポルフィリン、フタロシアニン、ジケトピロロピロール、ジチエニルベンゾチアジアゾール等が挙げられる。また、前記有機シリカ薄膜は、有機基として1種の有機基を単独で有するものであっても、あるいは、複数種の有機基を組み合わせて有するものであってもよい。
このような有機基としては、光照射による酸化・還元活性を示すものであることや安定であること等といった観点から、様々な分野に応用することがより容易であることから、トリフェニルアミン、ナフタルイミド、ピレン、ペリレン、及び、アクリドンのうちの少なくとも1種を含むこと(前記有機基の少なくとも1種がトリフェニルアミン、ナフタルイミド、ピレン、ペリレン、及び、アクリドンのうちの少なくとも1種であること)が好ましい。
また、本発明において「有機基を骨格に有する」とは、シリカ薄膜のシリカ骨格を形成するケイ素(Si)に、直接又は間接的に(他の元素を介して)結合された前記有機基が存在していることを意味する。なお、このような有機シリカ薄膜としては、シロキサン構造(式:−(Si−O)−構造)を形成するケイ素原子同士が有機基により架橋された構造(架橋構造)を有することにより、骨格に有機基が導入されていることが好ましい。
また、本発明の有機シリカ薄膜は、該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基(ここにいう「有機基」は、光を吸収可能な有機基でありかつ波長200〜1200nmの範囲に吸収極大波長を有する有機基をいう)の含有割合が、該有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50(より好ましくは0.10〜0.40、更に好ましくは0.10〜0.35、特に好ましくは0.15〜0.35)の範囲にあるものである。このような質量比([ケイ素の質量]/[有機基の質量])が前記下限未満では有機シリカ薄膜の架橋密度が低くなり、十分に膜が硬化しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、製膜の段階で架橋度が過度に上昇し、ナノインプリントにより凹凸構造(例えば多孔構造)を形成することが困難になる傾向にある。
また、このような有機シリカ薄膜としては、光を吸収可能な有機基として波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基を有しかつかつケイ素及び前記有機基の含有割合が、前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50(より好ましくは0.10〜0.40、更に好ましくは0.10〜0.35、特に好ましくは0.15〜0.35)の範囲にある有機ケイ素化合物の重合体(縮合体)からなる薄膜を好適に利用することができる。このような質量比([ケイ素の質量]/[有機基の質量])が前記下限未満では架橋密度が低くなり、十分に膜が硬化しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると製膜の段階で架橋度が過度に上昇し、ナノインプリントにより凹凸構造(例えば多孔構造)を形成することが困難になる傾向にある。
このような有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1−i)〜(1−iv):
[式(1−i)〜(1−iv)中、Xはm価の有機基を示し、Rは、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜5のアルコキシ基)、ヒドロキシル基(−OH)、アリル基(CH=CH−CH−)、エステル基(好ましくは炭素数1〜5のエステル基)及びハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子)からなる群から選択される少なくとも一つを示し、Rは、アルキル基及び水素原子からなる群から選択される少なくとも一つを示し、n及び(3−n)はそれぞれケイ素原子(Si)に結合しているR及びRの数を示し、nは1〜3の整数を示し、mは1〜4の整数を示し、式(1−iv)中のLは単結合又はエーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基及びウレタン基からなる群から選択されるいずれか1種の2価の有機基を示し、式(1−iv)中のYは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。]
で表され、かつ、ケイ素及び光を吸収可能な有機基の含有割合が、光を吸収可能な有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にある有機ケイ素化合物が好ましい。なお、このような一般式(1−i)〜(1−iv)で表される化合物中の「光を吸収可能な有機基」に関して、前記一般式(1−i)で表される化合物においては該式中においてXで表される基(m価の有機基(結合手は省略))が「光を吸収可能な有機基」となり、前記一般式(1−ii)で表される化合物においては、式:
[式(I)中、Xはm価の有機基を示し、mは1〜4の整数を示す(このように、X及びmは、一般式(1−i)〜(1−iv)中のX及びmと同義である)。]
で表される有機基が「光を吸収可能な有機基」となり、また、前記一般式(1−iii)で表される化合物においては、式:
[式(II)中、Xはm価の有機基を示し、mは1〜4の整数を示す(このように、X及びmは、一般式(1−i)〜(1−iv)中のX及びmと同義である)。]
で表される有機基が「光を吸収可能な有機基」となり、前記一般式(1−iv)で表される化合物においては、式:
X−(L−Y)− (III)
[式(III)中、Xはm価の有機基を示し、Lは単結合又はエーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基及びウレタン基からなる群から選択されるいずれか1種の2価の有機基を示し、Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、mは1〜4の整数を示す(このように、X、L、Y及びmは、一般式(1−iv)中のX、L、Y及びmと同義である)。]
で表される有機基が「光を吸収可能な有機基」となる。このように、化合物中のケイ素と結合する基であって式中のXで示す基を含有する構造部分の有機基が「光を吸収可能な有機基」となる。
本発明の有機シリカ薄膜としては、上記一般式(1−i)〜(1−iv)で表され、かつ、ケイ素及び光を吸収可能な有機基の含有割合が、その光を吸収可能な有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にある有機ケイ素化合物からなる群(以下、該有機ケイ素化合物からなる群を、便宜上、場合により単に「化合物群(A)」と称する)の中から選択される少なくとも1種の有機ケイ素化合物の重合体からなる有機シリカ薄膜が好ましい。このように、本発明の有機シリカ薄膜としては、前記化合物群(A)の中から選択される1種の有機ケイ素化合物の重合体からなる有機シリカ薄膜が好ましい。
このような化合物群(A)の中から選択される少なくとも1種の有機ケイ素化合物の重合体からなる有機シリカ薄膜によれば、いわゆる光捕集アンテナ機能をより効率よく発現させることが可能な傾向にあり、これにより、より効率よく測定対象分子をイオン化することが可能となる傾向にある。なお、ここにいう「光捕集アンテナ機能」とは、光を照射した場合に光エネルギーを吸収して励起したエネルギーを細孔の内部に集約する機能をいい、かかる機能を利用すれば、吸収したレーザー光の光エネルギーを細孔の内部に担持された測定対象分子により効率よく移動させることが可能となる傾向にある。なお、このような「光捕集アンテナ機能」の定義は特開2008−084836号公報に記載されている定義と同様である。
また、このような化合物群(A)の中から選択される少なくとも1種の有機ケイ素化合物の重合体は、シロキサン構造(式:−(Si−O)−で表される構造)を形成するケイ素原子同士が有機基により架橋された構造(架橋構造)を有するものとなり、これにより骨格に前記有機基を有する構造のものとなる(いわゆる「架橋型有機シリカ薄膜」となる)。ここで、上記一般式(1−i)で表されかつ式中のRがエトキシ基、nが3、mが2である有機ケイ素化合物の重合反応を一例として、かかる架橋構造について説明すると、下記一般式(2):
[式中、Xはm価の有機基を示し、pは繰り返し単位の数に相当する整数を示す。]
で表されるような反応により、重合後に得られる有機シリカ薄膜は、有機基(X)によりシロキサン構造(式:−(Si−O)−で表される構造)を形成するケイ素原子が架橋された構造の繰り返し単位を有するものとなる(なお、pの数は特に制限されないが、一般的には10〜1000程度の範囲であることが好ましい。)。なお、このような架橋構造が形成された場合(有機シリカ薄膜が前記架橋型有機シリカ薄膜となる場合)には、これを質量分析に利用した場合、照射レーザー光をより効率よく吸収し、有機シリカ薄膜の細孔内に担持された測定対象分子に対して、より効率良く励起エネルギーを移動できる傾向にある。なお、本発明においては、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する重合体からなる有機シリカは、その有機シリカ中の前記有機基(X)の総量(質量)とSiの総量(質量)の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])が0.05〜0.50の範囲の値となる。
また、上記一般式(1−i)〜(1−iv)におけるRとしては、縮合反応(重合反応)を制御し易いという観点からアルコキシ基及び/又はヒドロキシル基が好ましい。なお、同一分子中に複数のRが存在する場合、Rは同一でも異なっていてもよい。このような一般式(1−i)〜(1−iv)におけるRとして選択され得るアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。なお、同一分子中に複数のRが存在する場合、Rは同一でも異なっていてもよい。
上記一般式(1−i)〜(1−iv)において、式中のn及び(3−n)は、それぞれケイ素原子(Si)に結合しているR及びRの数を示す。ここにおいて、nは1〜3の整数を示すが、縮合した後の構造をより安定なものとすることが可能であるという点から、nが3であることが特に好ましい。
さらに、上記一般式(1−i)〜(1−iv)中のmは、前記有機基(X)に直接又は間接的に結合しているケイ素原子(Si)の数を示す。このようなmは1〜4の整数を示す。このようなmは、安定なシロキサンネットワークを形成し易いという観点から、2〜4(特に好ましくは2〜3)であることがより好ましい。
また、式(1−iv)中のLとしては、高い化学的安定性確保の観点から、単結合又はエーテル基であることがより好ましい。なお、同一分子中に複数のLが存在する場合、Lは同一でも異なっていてもよい。更に、式(1−iv)中のYとしては、重合後のケイ素の高密度化と膜の柔軟性の両立の観点から、エチレン基又はプロピレン基であることがより好ましい。なお、同一分子中に複数のYが存在する場合、Yは同一でも異なっていてもよい。
また、上記一般式(1−i)〜(1−iv)中のXはm価の有機基を示す。また、このようなm価の有機基としては、中でも、下記一般式(101)〜(111):
[上記一般式(101)〜(111)中、記号*は、該記号を付した結合手が上記式(1−i)〜(1−iv)中のXに結合する結合手であることを示す。
で表される有機基が特に好ましい。なお、このような一般式(101)〜(111)で表される有機基において、有機基の高密度化及び安定固定化の観点から、記号*で表される結合手は直接ケイ素に結合していることがより好ましい。
このような有機基(式(1−i)〜(1−iv)中のX)の中でも、上記一般式(101)〜(109)で表される有機基(上記式(101)、(102)、(103)、(104)、(105)、(106)、(107)、(108)及び(109)で表される有機基)のうちのいずれかがより好ましく、上記一般式(101)〜(106)で表される有機基のうちのいずれかが更に好ましく、上記一般式(101)で表される有機基(トリフェニルアミン)又は上記一般式(102)で表される有機基(ナフタルイミド)が特に好ましい。また、このような有機基を骨格に有する有機シリカ薄膜としては、1種の有機基を単独で含有するものであってもよく、あるいは、2種以上の有機基を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、2種以上の有機基を組み合わせて含有する有機シリカ薄膜としては、上記一般式(1−i)〜(1−iv)のうちのいずれかで表され且つXの種類が異なる、複数種の有機ケイ素化合物の重合体等が挙げられる。
なお、前述の化合物群(A)の中から選択される少なくとも1種の有機ケイ素化合物の重合体としては、本発明の効果を損なわない範囲(例えば薄膜自体が有機基の質量に対するケイ素の質量の比率などの条件を満たす範囲)で、その重合体を調製する有機ケイ素化合物に、前述の化合物群(A)の中から選択されるもの以外の他の有機ケイ素化合物を含んでいてもよい。このような他の有機ケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシランといったテトラアルコキシシラン等が挙げられる。
また、本発明の有機シリカ薄膜は凹凸構造を有する。このような凹凸構造は、柱状の空隙部からなる細孔が形成された多孔構造、あるいは、柱状体が配列されたピラーアレイ構造であることが好ましい。なお、ここにいう「柱状」は、略円柱、略多角柱等のいわゆる柱状のものの他、略円錐状、略多角錐状等のような、両端部の大きさ(直径、長さ等)が異なる形状のものも含む概念である。このような凹凸構造は、ナノインプリントにより効率よく製造できる。例えば、ナノインプリントに用いるモールドをピラーアレイ構造を有するものとした場合には、その構造の特性が転写された多孔構造を前記薄膜の凹凸構造とすることができ、反対に、ナノインプリントに用いるモールドを柱状の空隙部からなる細孔が形成された多孔構造を有するものとした場合には、その構造の特性が転写されたピラーアレイ構造を前記薄膜の凹凸構造とすることができる。また、ナノインプリントにより凹凸構造を形成する場合(ナノインプリント転写構造である凹凸構造)を形成する場合)、凹凸構造を有するモールドを用いて、その特性の転写や反転を繰り返して凹凸構造を形成してもよい。
また、本発明においては、このような凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にある。この点について、図面を参照しながら簡単に説明する。図1は、本発明の有機シリカ薄膜を備える構造体(多層構造体:積層体)の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。図1に示す積層体(多層構造体)は、基材1と、有機シリカ薄膜2とを備える(なお、このような基材1については後述する)。
本発明において「凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にある」とは、例えば、有機シリカ薄膜2の凹凸部分の空隙部(凹部の空間)が柱状の細孔である場合(有機シリカ薄膜2が多孔構造を有する場合)、かかる細孔の空間形状(空隙部の形状)の長軸の方向が有機シリカ薄膜2の凹凸構造が形成されている側の面Sとは反対側の面Sの表面に対して略垂直となっていることをいい、また、有機シリカ薄膜2の凹凸部分の凸部が柱状体(ピラー状)である場合(有機シリカ薄膜2がピラーアレイ構造を有する場合)、かかる柱状体(ピラー状)の長軸の方向が、有機シリカ薄膜2の凹凸構造が形成されている側の面Sとは反対側の面Sの表面に対して略垂直となっていることをいう。このように、「凹凸構造の軸方向」とは、凹凸構造が多孔構造の場合には細孔の長軸の方向をいい、また、凹凸構造がピラーアレイ構造の場合には柱状体(ピラー)の長軸の方向をいう。また、ここにいう「長軸」とは、細孔の空隙部の形状又は柱状体の重心部を通る長手方向の軸をいい、柱状体の縦断面図に基づいて求めることができる。
ここで、本発明にいう「略垂直」という概念について図2を参酌しながら説明する。図2は、図1に示す領域Rの拡大図である。ここで、図1及び図2に示す凹凸部分の空隙部(凹部の空間)が柱状の細孔である場合(凹部が柱状の細孔である多孔構造が形成されている場合)を例にして説明すると、凹凸構造の軸方向が面Sの表面に対して略垂直な方向にあるとは、有機シリカ薄膜2の凹凸構造が形成されている面Sとは反対側の面Sの表面に対して、細孔の空間形状(空隙部の柱状の形状)の長軸C(細孔の長軸C)がなす角度αが90°±30°(より好ましくは90°±20°)の範囲にあることをいう。なお、凸部が柱状体(ピラー状)である場合(有機シリカ薄膜2がピラーアレイ構造を有する場合)においても、凹凸構造の軸方向が面Sの表面に対して略垂直な方向にあるとは、有機シリカ薄膜2の凹凸構造が形成されている面Sとは反対側の面Sの表面に対して、かかる柱状体(ピラー状)の長軸がなす角度が90°±30°(より好ましくは90°±20°)の範囲にあることをいう。
このように、本発明においては、有機シリカ薄膜2に形成されている凹凸構造は、その凹凸構造の軸方向が有機シリカ薄膜2の面Sの表面に対して略垂直な方向(90°±30°、より好ましくは90°±20°)にある(該凹凸構造の軸方向と有機シリカ薄膜2の面Sの表面とのなす角度が略垂直(90°±30°、より好ましくは90°±20°)となるような方向にある)。なお、有機シリカ薄膜2に形成されている凹凸構造の軸方向が前記方向にない場合には、質量分析に利用する場合にレーザ光を照射しても、凹凸の空隙部(細孔の場合には細孔空間)に吸着させた分子を膜外に脱離、気化させることが困難となる傾向にある。なお、図1に示す積層体(多層構造体)の場合、有機シリカ薄膜2の面Sの表面は、平面であり、有機シリカ薄膜2が基材1上に積層されており、かつ、基材1の表面に対向する面となる。また、このように凹凸構造の軸方向が有機シリカ薄膜2の面Sの表面に対して略垂直な方向にあるか否かの判断は、以下のようにして行う。すなわち、有機シリカ薄膜の断面を原子間力顕微鏡(AFM)測定により求めて、任意の100点以上の凹凸構造の軸方向をそれぞれ測定して、いずれの凹凸の軸方向も凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直(90°±30°、より好ましくは90°±20°)となっている場合に、凹凸構造の軸方向が有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあるものと判断できる。
また、このような有機シリカ薄膜は、前記有機シリカ薄膜が、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造を有する多孔膜、又は、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造を有する薄膜であることが好ましい。すなわち、このような凹凸構造としては、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造であること、又は、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造であることが好ましい。
このような有機シリカ薄膜の凹凸構造において、凸部の壁面間の距離の平均値は、5〜500nmであることが好ましく、5〜200nmであることがより好ましく、5〜100nmであることが更に好ましい。このような凸部の壁面間の距離の平均値が前記下限未満では凹凸の空隙部(細孔の場合には細孔空間)に分子量の大きな分子を導入して吸着させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると凹凸構造の形成による表面積の増加効果を十分に得られない傾向にある。なお、このような凸部の壁面間の距離の平均値は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて凹凸構造を測定し、凹凸構造の断面図(縦断面図)を求めて、該断面図に基づいて、任意の100点以上の凸部について、該凸部の高さが後述の凸部の平均高さの半分となる位置(なお、壁面間の距離の測定に利用される凸部の高さ位置は、その凸部ごとに、該凸部と最近接の凸部との間の凹部の最下点を、高さの基準(高さが0nmである)とみなして求める)において、該凸部と最近接の凸部との間の壁面間の距離(水平方向の距離)を求めて、その平均を計算することにより求めることができる。なお、このように凸部の高さが後述の凸部の平均高さの半分となる位置における、最近接の凸部間の壁面間距離(水平方向の距離)を凸部間の距離とみなすことで、凸部が、両端部の大きさ(直径、長さ等)が異なる柱状体の形状を有するものであっても、その柱状体間の距離を測定でき、これにより、例えば、凹部に導入する測定対象分子等の種類に応じて、その設計を適宜検討することも可能となる。すなわち、かかる凸部間の壁面間距離は、凹部の空隙部の大きさの指標として利用できる。なお、このような凸部の壁面間の距離は、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造である場合においては、細孔の直径とみなすことができる。このような観点から、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造である場合には該細孔の平均細孔直径が、5〜500nm(より好ましくは5〜200nm、更に好ましくは5〜100nm)であることが好ましいといえ、同様に、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造である場合、凸部の壁面間の距離(ピラー間の距離)の平均値は5〜500nm(より好ましくは5〜200nm、更に好ましくは5〜100nm)であることが好ましいといえる。
また、このような有機シリカ薄膜の凹凸構造において、凸部の平均高さ(凹部の平均深さ)は、前記凸部の壁面間の距離の平均値以上であることが好ましく、20〜1500nmとすることが更に好ましく、50〜500nmとすることが特に好ましい。なお、凸部の平均高さ(凹部の平均深さ)は、後述の膜の厚みTと同程度の範囲とすることがより好ましい。このような凸部の平均高さ(凹部の平均深さ)が前記下限未満では凹凸構造の形成による表面積の増加効果を十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると有機シリカ薄膜を質量分析に利用する場合にレーザ光を照射しても、空隙部(細孔の場合には細孔空間内)の深部に吸着された分子を膜外に脱離、気化させることが困難となる傾向にある。なお、ここにいう凸部の平均高さ(凹部の平均深さ)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて凹凸構造を測定し、凹凸構造の断面図(縦断面図)を求めて、該断面図に基づいて、任意の100点以上の凸部に対して、隣接する凹部のうちの最も低い位置にある点(凹部の最下点)と該凸部の頂点の高さの差(垂直方向の距離)を求めて、その平均を計算することで求めることができる。
また、このような凹凸構造としては、凹凸の平均ピッチが20〜1000nmであることが好ましく、20〜500nmであることがより好ましく、20〜200nmであることが更に好ましい。このような凹凸の平均ピッチが前記下限未満では高アスペクト比の凹凸構造の製造が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると凹凸構造の形成による表面積の増加効果を十分に得られない傾向にある。このような平均ピッチとしては、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて凹凸構造を測定し、凹凸構造の断面図(縦断面図)を求めて、該断面図に基づいて、任意の100点以上の凸部について、その凸部と最近接の凸部との間において、凸部の頂点(凸部の断面形状が略長方形状等の形状で、凸部の上部が凸部の頂点を含む直線となっている場合(例えば凸部が円柱状で上部が平面である場合)には、その上部の中心点)間の水平方向の距離を測定し、それぞれの測定値の平均として求められる値を採用する。
なお、このような有機シリカ薄膜の凹凸構造が、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造である場合、該柱状体の短軸の平均長さは10〜500nmであることが好ましく、10〜200nmであることがより好ましく、10〜150nmであることが更に好ましい。このような短軸の平均長さが前記下限未満では高アスペクト比の凹凸構造の製造が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると凹凸構造の形成による表面積の増加効果を十分に得られない傾向にある。このような柱状体の短軸の長さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて凹凸構造を測定し、凹凸構造の断面図(縦断面図)を求めて、該断面図に基づいて、任意の100点以上の柱状体の短軸の長さを求めて、その平均を計算することにより求めることができる。なお、ここにいう柱状体の短軸とは、柱状体の重心を通り且つ長軸と垂直な軸をいい、柱状体の縦断面図に基づいて求めることができる。
また、このような有機シリカ薄膜の厚みTは、20〜2000nmであることが好ましく、50〜1000nmであることがより好ましく、100〜500nmであることが更に好ましい。このような厚みが前記下限未満では、質量分析の基板として利用した場合にレーザー光を十分に吸収できず、測定対象分子の脱離及びイオン化の効率が低下してしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、質量分析の基板として利用した場合に、レーザー光が薄膜の深部まで到達せず、深部に測定対象分子が吸着されていた場合に、その測定対象分子の脱離及びイオン化の効率が低下する傾向にある。
このような本発明の有機シリカ薄膜は、光を効率的に吸収させることが可能であるとともに、その凹凸構造に基づいてより大きな表面積を有するものとすることも可能であるため、特に、光電変換素子の光吸収層又は電荷分離層、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適に利用可能である。なお、このような有機シリカ薄膜は他の薄膜や基材上に積層した積層体などの形態で利用してもよい。
以下、このような本発明の有機シリカ薄膜を製造するための方法として好適に利用可能な、本発明の有機シリカ薄膜の製造方法について説明する。
(有機シリカ薄膜の製造方法)
本発明の有機シリカ薄膜の製造方法は、光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物を部分的に重合せしめて得られたゾル溶液から得られる膜にナノインプリントにより凹凸構造を形成して硬化せしめることにより有機シリカ薄膜を得る工程を含み、
前記有機ケイ素化合物が、光を吸収可能な有機基として波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基を有しかつケイ素及び該有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にある有機ケイ素化合物であり、
前記有機シリカ薄膜が光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜であり、
該薄膜中の前記有機基が波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものであり、
該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にあり、
該薄膜が凹凸構造を有し、かつ、
該凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあること、
を特徴とする方法である。
このような方法に用いる「光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物」である「光を吸収可能な有機基として波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基を有しかつケイ素及び該有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にある有機ケイ素化合物」は、前述の本発明の有機シリカ薄膜において説明したものと同様のものである(その好適なものも同様である)。なお、このような有機ケイ素化合物は、ケイ素と、波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基との含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50(より好ましくは0.10〜0.40、更に好ましくは0.10〜0.35、特に好ましくは0.15〜0.35)の範囲にある有機ケイ素化合物であるが、このような有機基の質量に対するケイ素の質量の比率が前記下限未満ではケイ素−ケイ素間の平均距離が長くなることで重縮合反応が抑制されるため、架橋密度が低くなってしまい、十分に膜を硬化させることが困難となって、ナノインプリントにより凹凸構造を形成することができない。また、このような有機基の質量に対するケイ素の質量の比率が前記上限を超えると、空間的に近い距離にあるケイ素同士が速やかに縮合反応を起こすと考えられるため、製膜の段階において架橋度が過度に上昇してしまい、ナノインプリントにより凹凸構造を形成することができない。なお、本発明者らは、上記特定のケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])の条件を満たす有機ケイ素化合物を利用することで、急速な縮合反応の進行を抑制しつつ、未硬化又は半硬化の状態を実現することが可能となり、柔軟性のある未硬化又は半硬化の状態を室温付近で保持することが可能となるため、ナノインプリントにより凹凸構造が形成された硬化膜からなる有機シリカ薄膜を得ることが可能となるものと推察する。
また、本発明に用いるゾル溶液(コロイド溶液)は、前記光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物を部分的に重合せしめて得られるものである。このようなゾル溶液は、前記有機ケイ素化合物を用いる以外は、シリカ構造体を製造する分野においていわゆるゾル−ゲル法として知られる公知の方法を採用してゾル溶液を形成すればよい。なお、このようなゾル溶液は、前記有機ケイ素化合物を部分的に加水分解及び縮合反応せしめて得られる部分重合物を含む溶液であることが好ましい。このような溶液に利用する溶媒としては、特に制限されず、いわゆるゾル−ゲル法に用いられる公知の溶媒を適宜利用でき、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、1,4−ジオキサン、アセトニトリル等の有機溶媒が挙げられる。このような溶媒の中でも室温付近での揮発性及び有機化合物の高い溶解性の観点から、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランが好ましい。
また、このようなゾル溶液を調製する際に、前記有機ケイ素化合物を部分的に重合せしめるための諸条件(温度や反応時間)は特に制限されず、用いる有機ケイ素化合物の種類に応じて、例えば、反応温度を0〜100℃程度、反応時間は5分〜24時間程度としてもよい。また、このような部分的な重合を効率よく進行せしめるといった観点からは、酸触媒を利用することが好ましい。このような酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸といった鉱酸等が挙げられる。なお、このような酸触媒を使用する場合の溶液は、pHが6以下(より好ましくは1〜4)の酸性であることが好ましい。
このようなゾル溶液を調製するための方法としては、例えば、前記有機ケイ素化合物と前記溶媒と前記酸触媒とを含む溶液を準備し、かかる溶液を室温(20〜28℃、好ましくは25℃)で0.5〜12時間程度撹拌することによって、前記有機ケイ素化合物を部分的に重合(部分加水分解および部分重縮合)させて、ゾル溶液を調製する方法を採用してもよい。このように撹拌して反応させる場合において、前記撹拌時間が前記下限未満になると、シリル基の加水分解反応が不十分となり、製膜後の膜の硬化反応が進行し難い傾向にある。
なお、前記ゾル溶液には、最終的に得られる有機シリカ薄膜を前述の条件を満たすものとすることが可能であれば、前記有機ケイ素化合物以外の他の有機ケイ素化合物(例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシランといったテトラアルコキシシラン等)を更に含有させてもよい。
また、ゾル溶液としては、溶媒中の前記有機ケイ素化合物の含有量が0.2〜20質量%であることが好ましく、0.5〜7質量%であることがより好ましい。このような有機ケイ素化合物の含有量が前記下限未満では厚みを制御しながら均一膜を製造することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとゾル溶液中において反応を制御することが困難となり、安定なゾル溶液を調製することが困難となる傾向にある。
さらに、このようなゾル溶液としては、溶媒中の前記有機ケイ素化合物の含有量が2〜200g/Lであることが好ましく、5〜70g/Lであることがより好ましい。このような有機ケイ素化合物の含有量が前記下限未満では厚みを制御しながら均一膜を製造することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとゾル溶液中において反応を制御することが困難となり、安定なゾル溶液を調製することが困難となる傾向にある。
また、このようなゾル溶液は、前記有機ケイ素化合物を部分的に重合せしめて形成した後、製造時のコンタミネーション防止及びより高い平滑性の確保の観点から、メンブレンフィルター等で濾過した後に製膜に利用することが好ましい。
また、上記のゾル溶液から得られる膜に関して、その形成方法は特に制限されず、ゾル溶液を、型にキャストする方法や各種コーティング方法で基材に塗布する方法が好適に採用される。さらに、このようなコーティング方法としては、公知の方法(例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーターなどを用いて塗布する方法、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング等といった方法)を適宜採用することができる。このような基材としては、前記有機シリカ薄膜を支持することが可能なものであればよく特に制限されないが、例えば、シリコン基材(Si基材)、ITO基材、FTO基材、石英基材、ガラス基材、各種金属基材等のような、シリカ膜を製造する際に利用することが可能な公知の基材を適宜利用できる。このような基材としては、その形態は特に制限されないが、平板状のものが好ましい。なお、このような基材は、前述の図1に示す積層体(多層構造体)中の基材1として、そのまま利用することができる。このように、本発明の有機シリカ薄膜は、用途に応じて、前記基材と前記有機シリカ薄膜とを備える多層構造体として適宜利用することができ、また、基材の種類は、その用途に応じて適宜選択すればよい。
また、このようなゾル溶液から得られる膜(未硬化又は半硬化)の厚みとしては、0.1〜100μmであることが好ましく、0.1〜25μmであることがより好ましい。このような膜の厚みが前記下限未満では基板全面において膜の厚みを均等に保つことが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると流動や液だれによって膜厚にむらができ易い傾向にある。
さらに、このようなゾル溶液から得られる膜(未硬化又は半硬化)は、溶媒の蒸発による構造収縮の影響を最小化するといった観点から、ナノインプリントにより凹凸構造を形成せしめる前に、予め溶媒を除去する処理を施してもよい。このような溶媒を除去する処理を施す場合、その方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、該ゾル溶液からなる膜を15〜35℃の温度条件下において1分〜12時間程度静置する方法を採用してもよい。なお、後述の硬化工程において加熱する方法を採用する場合には、加熱時に併せて溶媒を除去してもよい。また、このようなゾル溶液から得られる膜は、そのゾル溶液の溶媒に種類によっては、膜を形成する工程(塗布工程等)において、溶媒がほとんど蒸発(揮発)する場合があり、そのような場合には、特に溶媒を除去する処理を施さなくても、溶媒の蒸発(揮発)による構造収縮の影響を最小化することが可能である。
このように、本発明にかかるゾル溶液から得られる膜(未硬化又は半硬化)は、ゾル溶液を用いて得られる膜であればよく、特に制限されず、例えば、ゾル溶液を塗布して得られる塗膜(溶媒が残っている膜であっても、その膜の形成工程(塗布工程等)において揮発により溶媒が除去された状態となっている膜であってもよい)をそのまま用いてもよく、更には、ゾル溶液の塗膜等に対して前述のような溶媒を除去する処理を施して得られる未硬化又は半硬化の膜等を利用してもよい。なお、ナノインプリント工程において、溶媒が蒸発することによる構造収縮の影響が最小化するように、前記ゾル溶液から得られる膜は、溶媒が除去されている膜(上述の溶媒を除去する処理を施した膜であっても、揮発性の溶媒を利用して塗布工程において溶媒を揮発(除去)させて得られる膜であってもよい)とすることが好ましい。
また、本発明においては、前記ゾル溶液から得られる膜(未硬化又は半硬化の膜)に対して、ナノインプリントにより凹凸構造を形成して硬化せしめる。なお、ここにいう「ナノインプリント」には、いわゆるナノインプリント法として知られた公知の技術を適宜採用可能であり、微細な凹凸パターンが形成されたモールド(ナノ構造体)を用いて、そのモールドのパターンを転写する方法(ナノインプリント法)を適宜採用することが可能である。
なお、従来はナノインプリントにより凹凸構造を有する有機シリカ薄膜を製造することができなかったが、本発明においては、前述の特定の有機ケイ素化合物を利用して得られるゾル溶液から得られる膜(未硬化又は半硬化の状態の膜)に対して、ナノインプリントを施すため、ナノモールドの凹凸構造に有機ケイ素化合物を十分に充填することが可能となり、これにより、ナノインプリントにより凹凸構造が形成された硬化膜を形成することが可能となるものと本発明者らは推察する。
このようなナノインプリントに用いるモールドとしては、公知のナノインプリント法に利用可能なモールドを適宜利用することができ、市販品を利用してもよい。また、このようなモールド(ナノ構造体)としては、微細な凹凸パターンが形成されたナノ構造体をそのまま利用してもよく、また、モールドとしてそのまま利用可能なナノ構造体の凹凸パターンを転写(反転)させて形成したナノインプリント転写体をモールド(ナノ構造体)として利用してもよく、更には、前記ナノインプリント転写体を用いて凹凸パターンを更に転写(反転)させて形成した構造体をモールド(ナノ構造体)として利用してもよく、所望の凹凸構造が形成されているものであれば適宜利用することができる。
このようなナノインプリントに用いるモールドとしては、形成される有機シリカ薄膜の凹凸構造の軸方向が該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向となるような、凹凸構造を有するものであることが好ましい。そのようなモールドを用いることで、モールドの凹凸の特性を転写して、凹凸構造の軸方向が薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向となる、凹凸構造を有する有機シリカ薄膜を効率よく製造することが可能となる。例えば、凹凸構造が形成された平板をモールドとして利用する場合、そのモールドの凹凸構造を、凹凸構造の軸方向が該平板の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向となっているものとすることで、該モールドの凹凸パターンを転写させた際に、より効率よく、有機シリカ薄膜に形成される凹凸構造の軸方向を、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向とすることが可能である。
また、このようなナノインプリントに利用するモールドの凹凸構造は、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造、又は、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造であることが好ましい。なお、このようなモールドの凹凸構造は、ナノインプリントによりその凹凸構造の特性を転写(反転)させて有機シリカ薄膜に凹凸構造を形成するために利用するものであることから、その凹凸構造の好適な条件は、前述の有機シリカ薄膜の凹凸構造において説明した各種条件(例えば、平均細孔直径、平均ピッチ等)と同様となる。
また、ナノインプリントにより凹凸構造を形成して硬化せしめる方法としては、前記ゾル溶液から得られる膜(ゾル溶液の塗膜(未硬化又は半硬化)、ゾル溶液の塗膜に対して溶媒を除去する処理を施した膜(未硬化又は半硬化)等であってもよい)の表面に、前記モールドに形成されている凹凸の特性が転写(反転)されるように、モールドを乗せた後、該モールドを乗せたままの状態で前記ゾル溶液から得られる膜を加熱して硬化させる方法を採用することが好ましい。このようなゾル溶液から得られる膜は、前記有機ケイ素化合物及び/又は前記有機ケイ素化合物の部分重合物の加水分解及び縮合反応を更に進行せしめることで硬化することができる。そのため、このような加熱による硬化に際しては、用いた有機ケイ素化合物の種類に応じて、その加水分解及び縮合反応が進行するような条件を適宜採用すればよく、その温度や加熱時間等は特に制限されないが、25〜150℃程度の温度で1〜48時間程度の時間加熱せしめることが好ましい。このようにして、凹凸が転写されるように前記モールドを乗せたままの状態で加熱することで、モールドの凹凸の特性が反転(転写)した構造が表面に形成された硬化膜を得ることができる。
このようにして、ナノインプリント法を採用して凹凸を転写させつつ膜を硬化せしめることで、光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜であり、該薄膜中の前記有機基が波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものであり、該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にあり、該薄膜が凹凸構造を有し、かつ、該凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にある、有機シリカ薄膜を得ることができる。このように、本発明によれば、上記本発明の有機シリカ薄膜を効率よく得ることが可能となる。なお、このような本発明により得られる有機シリカ薄膜は、前記有機ケイ素化合物の重合体からなる膜となる。また、このような有機シリカ薄膜は、ゾル溶液から得られる膜が基材上に塗布して形成されたものである場合には、基材上に積層されたものとして得ることも可能であり、その場合、用途に応じて、そのまま積層体(多層構造体)として利用してもよく、或いは、積層体から有機シリカ薄膜のみを剥離して利用してもよい。
このような本発明の有機シリカ薄膜の製造方法によれば、得られる有機シリカ薄膜に、ナノインプリントといった簡便な方法で凹凸構造を形成でき、用途に応じた凹凸構造を容易に形成することができる。このように、本発明では、有機シリカ薄膜に対してナノインプリント処理により、簡単かつ再現良く凹凸構造を製造することが可能であり、かつ、形成される凹凸構造は、その軸方向が凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直に配向したものとなるため、有機シリカ薄膜に形成されている凹凸構造は、レーザー脱離やイオン化に適した多孔質構造となる。このように、本発明により得られる有機シリカ薄膜は、その凹凸構造に由来して、レーザー脱離イオン化質量分析法の分析用の基板、光電変換素子の電荷分離層等に好適に利用可能なものとなる。また、本発明の有機シリカ薄膜の製造方法は、界面活性剤を利用しない方法であるため、得られる有機シリカ薄膜に界面活性剤の残留物がなく、かかる観点からもレーザー脱離イオン化質量分析法に好適に利用することが可能であるといえる。また。本発明の有機シリカ薄膜の製造方法は、有機シリカ薄膜に対してナノインプリント処理により、簡単かつ再現良く凹凸構造を製造することが可能であるため、有機シリカ薄膜の大面積化や量産化にも適した方法として好適に利用可能である。
このように、本発明により得られる有機シリカ薄膜は、その表面に形成されている凹凸構造の軸方向が、該凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直に配向していること、薄膜中に界面活性剤の残留物がないこと、等から、より効率よくかつより精度高く質量分析を行うことが可能となるため、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適に利用可能なものとなる。
[レーザー脱離イオン化質量分析用基板]
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用基板は、レーザー脱離イオン化質量分析法に用いる基板であって、該基板が上記本発明の有機シリカ薄膜を備えることを特徴とするものである。
このように、本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用基板においては、上記本発明の有機シリカ薄膜を、いわゆるレーザー脱離イオン化質量分析用の基板(分析用基板)に利用する。このような分析用基板としての上記本発明の有機シリカ薄膜を備える基板(分析用基板)の形態は、特に制限されず、例えば、上記有機シリカ薄膜のみからなるものであってもよく、あるいは、前記有機シリカ薄膜を支持体(例えば上記基材1等)に積層した形態(例えば、製造時に利用する基材上に前記有機シリカ薄膜が積層された積層体等)として利用してよい。更に、上記本発明の有機シリカ薄膜を備える分析用基板を利用する際の形態(使用形態)としては、その調製の容易さ等の観点から、前記基材上に前記有機シリカ薄膜が積層された積層体の形態であること(例えば、前記基材上に有機シリカ薄膜を形成してそのまま利用すること)が好ましい。
また、このような質量分析の際に用いる上記本発明の有機シリカ薄膜としては、有機シリカ薄膜中の光を吸収可能な有機基が、用いるレーザ光の種類に応じ、照射レーザー光を吸収可能な有機基となるように、有機基の種類を適宜選択して利用すればよい。このように、分析用基板が備える有機シリカ薄膜中の光を吸収可能な有機基は、照射レーザー光を吸収可能な有機基(より好ましくは200〜600nmの範囲に吸収極大波長を有する有機基)であることが好ましい。なお、具体的なレーザー脱離イオン化質量分析法の方法については後述する。
[レーザー脱離イオン化質量分析法]
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法は、分析用基板として上記本発明の有機シリカ薄膜を備える基板を用い、該有機シリカ薄膜に対して測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該膜の試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行うことを特徴とする方法である。
本発明においては、分析用基板として上記本発明の有機シリカ薄膜を備える基板を用いる。このような分析用基板は、上記本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用基板と同様のものである。
また、本発明にかかる試料は、測定対象分子を含むものである。このような測定対象分子としては特に制限されないが、本発明により、より高い検出感度で測定することが可能となることから、生体由来の分子又は生体試料中の分子であることが好ましい。このような生体由来の分子又は生体試料中の分子としては、糖、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、核酸、糖脂質等がより好ましく、これらの分子に対しては、本発明の効果をより高度なものとすることが可能となる傾向にある。また、このような測定対象分子としては、天然物から調製されるもの、天然物を化学的又は酵素学的に一部改変して調製されるものの他、化学的又は酵素学的に調製されるものであってもよい。また、生体に含まれる分子の部分構造を有するものや生体に含まれる分子を模倣して作製されたものであってもよい。
また、本発明にかかる試料(測定対象分子を含む試料)としては、測定対象分子そのものであってもよいし、あるいは、測定対象分子を含むもの(例えば、生体の組織、細胞、体液や分泌物(例えば、血液、血清、尿、精液、唾液、涙液、汗、糞便等)等)であってもよい。このように、本発明にかかる試料(測定対象分子を含む試料)としては、直接生体試料を用いてもよい。また、試料の前駆体(測定対象分子の前駆体等)を有機シリカ薄膜に担持させた後に酵素処理等を行なって、測定対象分子を調製してもよい。この場合には、前記試料前駆体を有機シリカ薄膜に担持させた後に処理を行なうことで、結果的に試料を有機シリカ薄膜上に担持することとなる。
また、前述の「測定対象分子」としては、上記試料に含有されている分子であって、その化学構造を決定したい分子そのものであってもよく、あるいは、上記試料に含有されている分子であって、その化学構造を決定したい分子を誘導体化した分子(例えば、いわゆる標識分子を化学構造を決定したい分子に結合させることにより得られる質量分析に供される分子)であってもよい。このように、「測定対象分子」は、誘導化していない分子であってもよく、あるいは、標識分子により誘導化した分子であってもよい。なお、誘導化の有無は特に制限されず、利用する有機シリカ薄膜の有機基の種類や、化学構造を決定したい分子の種類等に応じて適宜決定すればよい。このように、化学構造を決定したい分子によっては必ずしも誘導化を行なう必要はない。なお、このような測定対象分子の分子量については特に限定はないが、他の測定方法での正確な測定が困難であり本発明の特徴をより発揮し易いことから、160以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1000以上であることが特に好ましい。
また、前記測定対象分子として、化学構造を決定したい分子を誘導体化した分子を利用する場合、その誘導体化は、前記有機基が吸収した光エネルギー(前記有機シリカ薄膜が吸収した光エネルギー)を受容可能にする標識分子、好ましくは、上記有機シリカ薄膜の発光スペクトルとスペクトルの重なりを有する吸収帯を有する標識分子と共有結合させることにより行うことが好ましい。
このような標識分子は、有機シリカ薄膜から供与されるエネルギーの受容体としての効果を有するものであれば特に限定されないが、蛍光標識試薬として市販されている分子を利用してもよい。このような標識分子としては、例えば、ピレン誘導体、fluorescein誘導体、rhodamine誘導体、シアニン色素、Alexa Fluor(登録商標)、2−アミノアクリドン、6−アミノキノリン等が挙げられる。
また、エネルギー供与体である有機シリカ薄膜とエネルギー受容体である標識分子の組合せは、エネルギー移動の効率、有機シリカ薄膜の発光スペクトルと測定対象分子の吸収スペクトルとの重なり、相互作用の強度等の点から適宜決定される。例えば、有機シリカ薄膜としてトリフェニルアミン基を有する架橋型有機シリカ薄膜を利用する場合は、標識分子として、2−アミノアクリドン等を好適に利用でき、また、有機シリカ薄膜としてメチルアクリドン基を有する架橋型有機シリカ薄膜を利用する場合は、標識分子として、4−Fluoro−7−nitrobenzofurazan、4−Fluoro−7−sulfobenzofurazan、3−Chlorocarbonyl−6,7−dimethoxy−1−methyl−2(1H)−quinoxalinone等を好適に利用できる。このような標識分子は、対象分子と化学結合し易い官能基を有することが好ましく、誘導体化は別の容器で行ってから使用してもよいし、有機シリカ薄膜上で行ってもよい。
なお、前記有機シリカ薄膜を備える基板を分析用基板として用いることによって測定対象分子をより効率よくイオン化することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明にかかる有機シリカ薄膜に対してレーザー光を照射すると、該膜中の有機基によりレーザー光が吸収される。このようにしてレーザー光を吸収させることで、前記有機シリカ薄膜に吸収された光エネルギーを測定対象分子(エネルギー受容体)に移動させることが可能となる。このように、本発明にかかる有機シリカ薄膜は、レーザー光を照射すると、光エネルギーを測定対象分子(エネルギー受容体)に移動させるエネルギー供与体として作用する。なお、このような有機シリカ薄膜(エネルギー供与体)から測定対象分子(エネルギー受容体)へのエネルギー移動としては、発光を経由しないエネルギー移動(例えば分子間の励起エネルギー移動や電子移動、あるいは、熱エネルギーとしての移動)、及び、発光を経由するエネルギー移動(例えばレーザー光を吸収した有機シリカ薄膜の有機基から発せられた光を測定対象分子が吸収するエネルギー移動(発光再吸収によるエネルギー移動))が考えられる。そして、このようなエネルギー移動により、レーザー光を利用してより効率よく測定対象分子をイオン化することが可能となるものと本発明者らは推察する。また、本発明においては、前記分析用基板として上記本発明の有機シリカ薄膜を供える基板を用いており、その薄膜には凹凸構造が形成されている。そして、かかる凹凸構造は、その軸方向が有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向に配向している。そして、このような配向特性を有する凹凸構造は、測定対象分子のレーザー脱離及びイオン化をより効率よく図ることが可能な構造であるといえることから、本発明によれば、前述のようなエネルギー移動を利用しつつ、その凹凸構造の特性から、よりイオン化を効率よく図ることが可能となり、これにより、より効率よくかつより精度の高い質量分析が可能となるものと本発明者らは推察する。さらに、本発明においては、有機シリカ薄膜が製造時に界面活性剤を利用せずに凹凸構造を形成することが可能であるため、界面活性剤の残留物が不要なピークとして現われることをより効率よく抑制でき、より高度な分析性能を得ることができるものと本発明者らは推察する。
また、本発明においては、このようなエネルギー移動により、レーザー光を利用してより効率よく測定対象分子をイオン化することを可能とするものであると考えられることから、測定対象分子と有機基は以下の関係を満たすようにして選択することが好ましい。すなわち、前記エネルギー移動(有機シリカ薄膜(エネルギー供与体)から測定対象分子(エネルギー受容体)へのエネルギー移動)がどのようなものであっても、より効率よくエネルギー移動させることが可能となるといった観点からは、上記有機シリカ薄膜中の前記有機基により照射レーザー光を吸収させた後に、該有機シリカ薄膜の有機基から発せられる光のスペクトル(有機基からの発光スペクトル)と、前記測定対象分子の吸収スペクトルとが少なくともある1つの波長において重なるようにして、有機基及び測定対象分子を選択することがより好ましい。このように、前記有機基からの発光スペクトルと前記測定対象分子の吸収スペクトルとがなくともある1つの波長において重なっている場合には、有機シリカ薄膜が吸収した光エネルギー又は有機シリカ薄膜の励起エネルギーが測定対象分子により効率よく移動する傾向にある。特に、発光を経由してエネルギー移動する場合、上記有機シリカ薄膜が照射レーザー光を吸収して発光するものであり、かつ、該有機シリカ薄膜の発光スペクトル(有機基からの発光スペクトル)と、上記測定対象分子の吸収スペクトルとが、少なくともある1つの波長において重なっていることがより好ましい。このような発光により有機シリカ薄膜から出た光エネルギーが測定対象分子に効率よく移動する傾向にあるためである。
また、エネルギー移動の形式がどのようなものであっても(発光を経由する場合であっても、発光を経由しない場合であっても)、上記有機シリカ薄膜の発光スペクトルの短波長端の方が、上記測定対象分子の吸収スペクトルの長波長端より短波長側にあることによって、該有機シリカ薄膜の発光スペクトルと、該測定対象分子の吸収スペクトルとが、少なくともある1つの波長において重なっていることがより好ましい。このような場合には、有機シリカ薄膜が吸収した光エネルギーが、光エネルギー又は励起エネルギーとして測定対象分子に対して、より効率よく移動する傾向にある。
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法においては、質量分析に際して、先ず、上記有機シリカ薄膜に対して、測定対象分子を含む試料を担持せしめる。このような試料の担持方法としては特に制限されないが、例えば、上記有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面(表面)に対して試料を載置することにより、該膜に試料を担持する方法を採用することが好ましい。このようにして、試料を有機シリカ薄膜の上記凹凸構造が形成されている面上に載置することで、試料は細孔の内部に容易に侵入して行き、これにより前記有機シリカ薄膜に効率よく試料を担持することが可能となる。例えば、測定対象分子を含む水溶液を準備し、該水溶液を前記有機シリカ薄膜の上記凹凸構造が形成されている面上に塗布したり或いは滴下したりすることによって、前記有機シリカ薄膜上に試料前駆体(水溶液)を載置した後、溶媒である水を乾燥除去することで、前記膜に試料を担持することができる(この例では、水を除去した後に残る測定対象分子そのものが前記有機シリカ薄膜に担持される試料となる)。また、前述のように、試料前駆体(酵素処理前の分子)を有機シリカ薄膜に担持した後に酵素処理を行なって、該膜上で測定対象分子(酵素処理物)を調製することにより、結果的に前記有機シリカ薄膜上に測定対象分子(酵素処理物)を含む試料を担持してもよい。このように、前記有機シリカ薄膜上に最終的に測定対象分子を含む試料(測定対象分子そのもの、測定対象分子の誘導化物、測定対象分子と標準物質との混合物等)を担持することが可能であれば、試料を担持する方法は特に制限されない。
本発明においては、上述のように前記有機シリカ薄膜に対して測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該膜の試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行う。
このような質量分析に用いるレーザー光源としては、特に制限されず、例えば、窒素レーザー(337nm)、YAGレーザー3倍波(355nm)、NdYAGレーザー(256nm)、炭酸ガスレーザー(9400nm、10600nm)等のレーザー光源が挙げられるが、有機シリカ薄膜が効率的に光を吸収できる波長のレーザー光源であるという観点から、窒素レーザー又はYAGレーザー3倍波のレーザー光源が好ましい。
また、本発明においては、前記レーザー光源(例えば窒素レーザーの光源)を用いて、レーザー光を前記有機シリカ薄膜の試料担持部位に照射する。このようにしてレーザー光を試料担持部位に照射することで、前記測定対象分子をイオン化することが可能となる。なお、イオン化のメカニズムは、既に説明した通り、レーザーの照射部位に存在する前記有機基により照射レーザーが吸収され、吸収された光エネルギーが効率よく測定対象分子に移動することにより生じるものであると本発明者らは推察する。また、本発明においては、上記本発明の有機シリカ薄膜を分析用基板として利用し、該膜の凹凸構造が形成されている面(表面)に試料を担持するため、例えば、試料を滴下して担持させる場合等においては、滴下した測定対象分子が薄膜内部に効率よく導入され、有機シリカ薄膜の有機基が吸収した光エネルギーをより受け取り易い状態で膜に担持されることとなり、レーザーの照射により、イオン化脱離がより促進され、より高い検出感度で質量分析を行なうことが可能となるものと本発明者らは推察する。
なお、レーザー光の照射条件(照射強度、照射時間等)は特に制限されず、測定対象分子に応じて、公知の質量分析の条件の中から最適となる条件を適宜選択して設定すればよい。
また、質量分析のためのイオンの分離検出方法は特に限定されず、二重収束法、四重極集束法(四重極(Q)フィルター法)、タンデム型四重極(QQ)法、イオントラップ法、飛行時間(TOF)法等を適宜採用でき、これによりイオン化した分子を質量/電荷比(m/z)に従って分離し検出することが可能である。なお、このようなイオンの分離検出には、市販の装置を適宜利用でき、例えば、ブルカー・ダルトニクス社製の質量分析計(商品名「autoflex」等)、Shimadzu社製のイオントラップ飛行時間型質量分析計(商品名「AXIMA−QIT等」)等を適宜利用してもよい。このようにして、イオン化された測定対象分子の質量分析を行うことができる。
このような本発明のレーザー脱離イオン化質量分析法は、分析用基板として上記本発明の有機シリカ薄膜を用いており、該薄膜に形成されている凹凸構造は、その軸方向が有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にある。そして、かかる凹凸構造は、測定対象分子のレーザー脱離及びイオン化をより効率よく図ることが可能な構造であるため、本発明によれば、より効率よくかつより精度の高い質量分析が可能となるものと本発明者らは推察する。また、上記本発明の有機シリカ薄膜を分析用基板として利用した場合には、測定対象分子(分析対象化合物)にマトリクス(低分子有機物)を混合した試料(サンプル)を利用する必要がないため(マトリクスの添加が不要となるため)、マトリクス由来のピークも検出されず、より精度の高い質量分析が可能となるものと本発明者らは推察する。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
下記一般式(A):
[式(A)中、Prで表される基はイソプロピル基を示す。]
で表される化合物(80mg、[ケイ素の質量]/[有機基の質量]の比率:0.174[ケイ素の質量割合が17.4質量%の化合物]:なお、ここにいう「有機基」は、一般式(A)から2つの式:−Si(OPr)で表される基を除いた残基をいう。)を、1,4−ジオキサン(1.5mL)中に溶解せしめて混合液を得た後、該混合液に2M(mol/L)の塩酸(15μL)を添加し、室温で2時間撹拌することにより、ゾル溶液を調製した。次いで、得られたゾル溶液をメンブレンフィルターで濾過した後、濾過後のゾル溶液をシリコン基板上にスピンコート([コートの条件]0rpmから1200rpmまで10秒かけて連続的に回転速度を上昇させて、1200rpmの回転で5秒間維持する条件を採用)することで、前記シリコン基板上に未硬化の有機シリカ薄膜(膜厚:200〜300nm)を形成した。なお、このようにして前記ゾル溶液から得られた膜(未硬化の有機シリカ薄膜)は、スピンコート時に溶媒の大半(ほとんど)が蒸発(揮発)した。このように製膜時に溶媒の大半が蒸発により除去されるため、塗膜の正確な膜厚を求めることは困難であったが、製膜直後の膜の原子間力顕微鏡(AFM)観察により、膜厚が所定の範囲(200〜300nmの範囲)にあることを確認した。
次いで、ポリエチレンテレフタレート製のナノモールド(綜研化学製の商品名「FleFimo」、ナノピラーアレイ、ピッチ250nm、ピラー直径150nm、ピラー高さ250nm)をナノインプリント用のモールド(ナノモールド)として利用し、前述のようにしてシリコン基板上に形成したスピンコート直後の薄膜(未硬化の有機シリカ薄膜)の表面に前記ナノモールドを押圧し、該ナノモールドをダブルクリップで固定した。このようにして、前記薄膜の表面に前記ナノモールドを押圧した状態のまま、80℃で72時間加熱処理を行って薄膜を硬化せしめ、その後、ナノモールドを除去することにより、有機シリカ薄膜(膜厚:250nm)を形成せしめた。
[実施例1で得られた有機シリカ薄膜の特性の評価]
実施例1で得られた有機シリカ薄膜中の有機基の吸収波長を測定するため、以下のようにして試料を形成して紫外/可視吸収スペクトルを測定した。すなわち、先ず、実施例1と同様にしてゾル溶液を調製し、メンブレンフィルターで濾過し、かかる濾過後のゾル溶液を利用して、石英基板上にスピンコート([コートの条件]0rpmから1200rpmまで10秒かけて連続的に回転速度を上昇させて、1200rpmの回転で5秒間維持する条件を採用)により、未硬化の有機シリカ薄膜(膜厚:200〜300nm)を形成して試料とした。このような試料の紫外/可視吸収スペクトルを図3に示す。なお、一般式(A)で表される化合物(有機ケイ素化合物)の重合物中の有機基は、図3に示す紫外/可視吸収スペクトルからも明らかなように、243nm、344nm、354nmに吸収極大波長を示すものであり、実施例1で得られた有機シリカ薄膜中の有機基が光を吸収可能であることが分かった。
また、実施例1で得られた有機シリカ薄膜の凹凸構造の状態を原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。得られた原子間力顕微鏡(AFM)像を図4に示す。図4に示すAFM像からも明らかように、ナノモールドの構造が転写された規則的なナノ多孔質構造(細孔構造)が形成されていることが分かった。なお、このようなAFM測定は測定箇所を変えて複数箇所について行い、かかる測定結果から、それぞれ断面図(縦断面図)を求めて、その複数の断面図から、任意の100点の凹凸構造の軸方向(細孔の長軸の方向)を測定したところ、測定した凹凸構造の軸方向はいずれも、有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して90°±20°の範囲内の角度となっており、凹凸構造の軸方向は有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直に配向していることが確認された。
また、このようなAFM測定の結果から、断面図(縦断面図)を求めて、任意の100点の凸部に関して、最近接の凸部との間の中心間(頂点間)の距離を測定し、その平均から凹凸の平均ピッチ(細孔の平均ピッチ)を求めたところ、有機シリカ薄膜の凹凸の平均ピッチは250nmであることが確認された。更に、AFM測定により得られる断面図から、任意の100点の凸部について、その凸部ごとに、後述の平均高さの半分の高さの位置における最近接の凸部との間の壁面間距離(水平方向の距離)を測定して(なお、壁面間距離(水平方向の距離)の測定に際しては、壁面間距離を測定するために任意に選択された凸部ごとに、該凸部と最近接の凸部との間の凹部の最下点を、高さ位置の基準(高さが0nmの位置)とした)、その平均を求め、凸部の壁面間の距離の平均値(平均細孔直径)を測定したところ、有機シリカ薄膜の凹凸構造の凸部の壁面間の距離の平均値は150nmであることが確認された。また、有機シリカ薄膜のAFM測定により得られる断面図から、任意の100点の凹凸構造に関して凸部の平均高さ(細孔(凹部)の平均深さ)を求めたところ、凸部の高さ(凹部の深さ)の平均値は220nmであることが分かった。
更に、実施例1で得られた有機シリカ薄膜の凹凸構造の状態を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した。得られた走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5に示す。このようなSEM測定は測定箇所を変えて複数箇所において行い、かかる測定結果(SEM像)からも、任意の100点の凹凸構造の軸方向(細孔の長軸の方向)を測定したところ、測定した凹凸構造の軸方向はいずれも、有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して90°±20°の範囲内の角度となっており、かかる測定からも、凹凸構造の軸方向は有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直に配向していることが確認された。
なお、上記AFM測定及びSEM測定は、前述のように測定箇所を変えて複数回行ったが、いずれの測定箇所においても同様の構造が観察され、前記ナノモールドを押圧した範囲では均質なナノ多孔構造が形成されていることが確認された。
さらに、用いた原料化合物の種類から、実施例1で得られた有機シリカ薄膜を構成するケイ素と有機基(光を吸収可能な有機基)の質量比([ケイ素の質量]/[有機基の質量])は0.174であることが明白である。
(実施例2)
実施例1で得られた有機シリカ薄膜を、レーザー脱離イオン化質量分析法に用いる分析用の基板として利用し、レーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)を行った。なお、実施例1で得られた有機シリカ薄膜はシリコン基板上に積層した状態で用いた。このようなレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)においては、先ず、測定対象分子としてアンジオテンシンIを選択し、アンジオテンシンIの水溶液(アンジオテンシンIの濃度:0.5pmol/μL、0.1質量%のトリフルオロ酢酸を含有)を準備し、該アンジオテンシンIの水溶液を有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている表面上に1μL塗布して、有機シリカ薄膜に試料(アンジオテンシンI)を担持した。次いで、該試料(アンジオテンシンI)を担持した有機薄膜に対して、MALDI−TOF−MS装置(照射レーザー光の波長:337nm)を利用して、波長337nmのレーザ光を照射してレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)を行った。このような分析の結果として、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフを図6に示す。
図6に示すマススペクトル(LDI−MSスペクトル)からも明らかなように、このようなレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)により、m/z=1297の位置においてマススペクトルのピーク(シグナル)が明確に検出できた。なお、このようなm/z=1297の位置におけるピークは、アンジオテンシンIに相当するものである。このように、本発明の有機シリカ薄膜(実施例1)を用いたレーザー脱離イオン化質量分析法によれば、マトリクスを利用することなく、アンジオテンシンIに相当するシグナル(m/z=1297)を明確に検出できることが分かった。
(実施例3)
アンジオテンシンIの水溶液の濃度を0.5pmol/μLから0.1pmol/μLに変更した以外は、実施例2と同様にしてレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)を行った。このような分析の結果として、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフを図7に示す。
図7に示すマススペクトル(LDI−MSスペクトル)からも明らかなように、このようなレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)により、m/z=1297の位置においてマススペクトルのピーク(シグナル)が明確に検出できた。なお、このようなm/z=1297の位置におけるピークは、アンジオテンシンIに相当するものである。このように、本発明の有機シリカ薄膜(実施例1)を用いたレーザー脱離イオン化質量分析法によれば、マトリクスを利用することなく、アンジオテンシンIに相当するシグナル(m/z=1297)を明確に検出できることが分かった。
(実施例4)
<ナノモールドの調製工程>
先ず、ポリジメチルシロキサン(PDMS)と紫外線硬化型液状シリコーンゴム(信越化学、KER−4690−A/B)とを質量比が1:1となる割合で混合し、ポリジメチルシロキサン前駆溶液(PDMS前駆溶液)を調製した。次いで、ナノインプリントニッケル標準モールド(綜研化学製の商品名「刻王」;ナノピラーアレイ、ピッチ250nm、ピラー直径150nm、ピラー高さ250nm)の凹凸面上に、PDMS前駆溶液(50μL)を滴下してPDMS前駆溶液の塗膜を形成し、該塗膜上に石英ガラスを乗せ、石英ガラスを乗せた状態で2分間保持して、ナノインプリントニッケル標準モールドと石英ガラスとの間に塗膜を挟んだ積層体を得た。その後、該積層体をUV式インプリント装置(エンジニアリングシステム、EUN−4200型)にセットし、375nmのUV光を30分間照射することで、PDMS前駆溶液の塗膜を硬化せしめた後、前記ナノインプリントニッケル標準モールドを取り外して、石英ガラス(石英基板)上に凹凸構造が形成されたPDMSの重合体からなる薄膜が積層されたPDMSモールド(転写構造体:ナノモールド)を得た。なお、このようにして得られたナノモールド(転写構造体)の凹凸構造の状態を原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。得られた原子間力顕微鏡(AFM)像を図8に示す。図8に示す結果(AFM像)からも明らかなように、PDMSモールド(転写構造体:ナノモールド)の凹凸構造は、ニッケル標準モールドの構造を反映したナノホールアレイ構造(多孔構造)となっていることが確認された。なお、このようなAFM測定は測定箇所を変えて複数箇所について行い、かかる測定結果から、それぞれ断面図(縦断面図)を求めて、任意の100点の凸部に関して、最近接の凸部との間の中心間(頂点間)の距離を測定し、その平均から凹凸の平均ピッチ(細孔の平均ピッチ)を求めたところ、ナノモールドの凹凸の平均ピッチは250nmであることが確認された。更に、AFM測定により得られる断面図から、任意の100点の凸部について、平均高さの半分の高さの位置における最近接の凸部との間の壁面間距離(水平方向の距離)を測定して、その平均を求め、凸部の壁面間の距離の平均値(平均細孔直径)を測定したところ、ナノモールドの凹凸構造の凸部の壁面間の距離の平均値は120nmであることが確認された。また、ナノモールドのAFM測定により得られる断面図から、任意の100点の凹凸構造に関して凸部の平均高さ(細孔(凹部)の平均深さ)を求めたところ、凸部の高さ(凹部の深さ)の平均値は110nmであることが分かった。更に、ナノモールドのAFM測定により得られた複数の断面図から、任意の100点の凹凸構造の軸方向(細孔の長軸の方向)を測定したところ、測定した凹凸構造の軸方向はいずれも、ナノモールドの凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して90°±20°の範囲内の角度となっており、凹凸構造の軸方向はナノモールドの凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直に配向していることが確認された。
<有機シリカ薄膜の調製>
下記一般式(B):
[式(B)中、Etで表される基はエチル基を示す。]
で表される化合物(30mg、[ケイ素の質量]/[有機基の質量]の比率:0.347[ケイ素の質量割合が34.7質量%の化合物]:なお、ここにいう「有機基」は、一般式(B)から3つの式:−Si(OEt)で表される基を除いた残基をいう)をエタノール(0.9mL)に溶解せしめて混合液を得た後、該混合液に2M(mol/L)の塩酸(6μL)を添加し、室温で24時間撹拌することにより、ゾル溶液を調製した。次いで、得られたゾル溶液をシリコン基板上にキャストすることで、前記シリコン基板上にゾル溶液の薄膜を形成した。次に、前述のようにして得られたPDMSモールド(ナノモールド)の凹凸面側が接触するようにして、前記ゾル溶液の薄膜上にPDMSモールド(ナノモールド)を載せて、室温で12時間静置した。その後、PDMSモールド(ナノモールド)を乗せたままで、前記ゾル溶液の薄膜に対して100℃で1時間加熱処理を行って薄膜を硬化せしめ、その後、PDMSモールド(ナノモールド)を除去することで、有機シリカ薄膜(膜厚:150nm)を形成せしめた。
[実施例4で得られた有機シリカ薄膜の特性の評価]
実施例4で得られた有機シリカ薄膜の凹凸構造の状態を原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。得られた原子間力顕微鏡(AFM)像を図9に示し、図9中の白線部分の断面像(縦断面図)を図10に示す。図9に示すAFM像からも明らかように、ナノモールドの構造が転写された規則的なナノ多孔質構造が形成されていることが分かった。また、図10に示す断面図からは、ナノモールドの構造が転写された高さ80〜130nmの範囲のナノピラーアレイ構造が形成されていることが分かった。なお、このようなAFM測定は測定箇所を変えて複数箇所について行い、かかる測定により得られる複数の断面図から、任意の100点の凹凸構造の軸方向(柱状体(凸部)の長軸の方向)を測定したところ、測定した凹凸構造の軸方向はいずれも、有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して90°±20°の範囲内の角度となっており、凹凸構造の軸方向は有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直に配向していることが確認された。
また、このようなAFM測定は測定箇所を変えて複数箇所について行い、かかる測定結果から、それぞれ断面図(縦断面図)を求めて、任意の100点の凸部に関して、最近接の凸部との間の中心間(頂点間)の距離を測定し、その平均から凹凸の平均ピッチ(ピラーの平均ピッチ)を求めたところ、有機シリカ薄膜の凹凸の平均ピッチは250nmであることが確認された。更に、AFM測定により得られる断面図から、任意の100点の凸部について、平均高さの半分の高さの位置における最近接の凸部との間の壁面間距離(水平方向の距離)を測定して、その平均を求め、凸部の壁面間の距離の平均値(ピラー間の平均距離)を測定したところ、有機シリカ薄膜の凹凸構造の凸部の壁面間の距離の平均値は80nmであることが確認された。また、有機シリカ薄膜のAFM測定により得られる断面図から、任意の100点の凹凸構造に関して凸部の平均高さ(ピラーの高さの平均値)を求めたところ、凸部の高さ(凹部の深さ)の平均値は105nmであることが分かった。
また、実施例4で得られた有機シリカ薄膜中の有機基の吸収波長を測定するため、以下のようにして試料を形成して紫外/可視吸収スペクトルを測定した。すなわち、先ず、実施例4と同様にしてゾル溶液を調製し、かかるゾル溶液を石英基板上にキャストした後、室温(25℃)で180分間静置することで、未硬化の有機シリカ薄膜(膜厚:150〜250nm)を形成して試料とした。このような試料の紫外/可視吸収スペクトルの測定結果から、311nmに吸収極大波長を示すものであり、有機シリカ薄膜中の有機基が光を吸収可能であることが分かった。
さらに、用いた原料化合物の種類から、実施例4で得られた有機シリカ薄膜を構成するケイ素と有機基(光を吸収可能な有機基)の質量比([ケイ素の質量]/[有機基の質量])は、0.347であることが明白である。
(実施例5)
実施例1で得られた有機シリカ薄膜の代わりに、実施例4で得られた有機シリカ薄膜を用い、かつ、アンジオテンシンIの水溶液の濃度を変更した以外は、実施例3で採用している方法と同様にしてレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)を行った。すなわち、アンジオテンシンIの水溶液(アンジオテンシンIの濃度:1.0pmol/μL、0.1質量%のトリフルオロ酢酸を含有)を有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている表面上に1μL塗布して、有機シリカ薄膜に試料(アンジオテンシンI)を担持した後、MALDI−TOF−MS装置(照射レーザー光の波長:337nm)を利用して、波長337nmのレーザ光を照射してレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)を行った。このような分析の結果として、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフを図11に示す。
図11に示すマススペクトル(LDI−MSスペクトル)からも明らかなように、このようなレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)により、m/z=1297の位置においてマススペクトルのピーク(シグナル)が明確に検出できた。なお、このようなm/z=1297の位置におけるピークは、アンジオテンシンIに相当するものである。このように、本発明の有機シリカ薄膜(実施例4)を用いたレーザー脱離イオン化質量分析法によれば、マトリクスを利用することなく、アンジオテンシンIに相当するシグナル(m/z=1297)を明確に検出できることが分かった。
(比較例1)
シリコン基板上にゾル溶液の薄膜を形成した後、該薄膜に対してナノモールドを押圧する工程を実施せずに、シリコン基板上にゾル溶液の薄膜を形成した後、ナノモールドを利用せずに、該薄膜に対してそのまま80℃で72時間加熱する処理を施した以外は実施例1と同様にして、凹凸構造の形成されていない状態の有機シリカ薄膜(非多孔質)を得た。次いで、このようにして得られた凹凸構造の形成されていない状態の有機シリカ薄膜(非多孔質)を、実施例1で得られた有機シリカ薄膜の代わりに利用した以外は、実施例2に記載されている方法と同様にして、レーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)を行った。このような分析の結果として、マススペクトル(LDI−MSスペクトル)のグラフを図12に示す。図12に示すマススペクトル(LDI−MSスペクトル)からも明らかなように、このようなレーザー脱離イオン化質量分析(LDI−MS)では、アンジオテンシンIに相当するシグナル(m/z=1297の位置においてマススペクトルのピーク(シグナル))を検出できないことが分かった。
(比較例2)
下記一般式(C):
[式(C)中、Etで表される基はエチル基を示す。]
で表される化合物(80mg、[ケイ素の質量]/[有機基の質量]の比率:0.737[ケイ素の質量割合が73.7質量%の化合物]:なお、ここにいう「有機基」は、一般式(C)から2つの式:−Si(OEt)で表される基を除いた残基をいう)をエタノール(1.5mL)に溶解せしめて混合液を得た後、該混合液に2M(mol/L)の塩酸(15μL)を添加し、室温で2時間撹拌することにより、ゾル溶液を調製した。次いで、得られたゾル溶液をメンブレンフィルターで濾過した後、濾過後のゾル溶液をシリコン基板上にスピンコート([コートの条件]0rpmから1200rpmまで10秒かけて連続的に回転速度を上昇させて、1200rpmの回転で5秒間維持する条件を採用)することで、前記シリコン基板上に有機シリカ薄膜(膜厚:200nm)を形成した。
次いで、該シリコン基板上に形成された前記薄膜に対して、実施例1で採用したナノインプリントの方法と同様の方法を採用して、ナノモールド(綜研化学製の商品名「FleFimo」)を押圧して固定した後、押圧した状態のまま80℃で72時間加熱処理を行った後、該ナノモールドを除去することにより、有機シリカ薄膜を形成せしめた。
[比較例2で得られた有機シリカ薄膜の特性の評価]
比較例2で得られた有機シリカ薄膜中の有機基の吸収波長を測定するため、以下のようにして試料を形成して紫外/可視吸収スペクトルを測定した。すなわち、先ず、実施例1と同様にしてゾル溶液を調製し、メンブレンフィルターで濾過し、かかる濾過後のゾル溶液を利用して、石英基板上にスピンコート([コートの条件]0rpmから1200rpmまで10秒かけて連続的に回転速度を上昇させて、1200rpmの回転で5秒間維持する条件を採用)により、有機シリカ薄膜(膜厚:200nm)を形成して試料とした。このような試料の紫外/可視吸収スペクトルを図13に示す。なお、一般式(C)で表される化合物(有機ケイ素化合物)の重合物中の有機基は、図13に示す紫外/可視吸収スペクトルからも明らかなように、220nm、271nm、277nmに吸収極大波長を示すものであり、有機シリカ薄膜中の有機基は光を吸収可能なものであることが分かった。
次いで、比較例2で得られた有機シリカ薄膜の表面の状態を原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。得られた原子間力顕微鏡(AFM)像を図14に示す。図14に示す結果(AFM像)からも明らかなように、比較例2で得られた有機シリカ薄膜は、ナノ凹凸構造が形成されていないことが確認され、ナノインプリント法を採用しても上記一般式(C)で表される化合物を利用して有機シリカ薄膜を製造した場合には、ナノ凹凸構造を形成できないことが確認された。実施例1と比較例2で採用した有機シリカ薄膜の製造方法を比較すると、用いた有機ケイ素化合物の種類が異なっており、ケイ素と有機基の質量比([ケイ素の質量]/[有機基の質量])によっては、ナノインプリント法を採用しても凹凸構造を形成することができないことが分かった。このような結果に関して、比較例2においては、ケイ素の含有量が高いことで製膜直後から硬化反応が急速に進行したため、モールドを押圧しながら加熱しても、モールドのナノピラー構造が膜内に進入できない状態となり、加熱後に得られた有機シリカ薄膜は、完全に硬化した非多孔質の膜となって、表面に凹凸構造を形成することができなかったものと本発明者らは推察する。
以上説明したように、本発明によれば、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適に利用することが可能であり、かつ、より簡便な方法でより効率よく製造することが可能な有機シリカ薄膜、その有機シリカ薄膜の製造方法、その有機シリカ薄膜を用いたレーザー脱離イオン化質量分析用基板及びその有機シリカ薄膜を用いたレーザー脱離イオン化質量分析法を提供することが可能となる。
このような本発明の有機シリカ薄膜は、レーザー脱離イオン化法(LDI)の分析用基板に好適な凹凸構造を有するものとすることができるため、例えば、レーザー脱離イオン化質量分析用基板等として有用である。
1…基材、2…有機シリカ薄膜、S…有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている側の面、S…面Sと反対側の面(凹凸構造が形成されていない側の面)、T…有機シリカ薄膜の厚み、C…細孔の空間形状(空隙部の柱状の形状)の長軸、α…面Sと細孔の空間形状の長軸Cとがなす角度。

Claims (7)

  1. 光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜であり、
    該有機基が波長300〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものであり、
    該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合が、前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にあり、
    該薄膜が、凹凸の平均ピッチが20〜1000nmである凹凸構造を有し、かつ、
    該凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあること、
    を特徴とする有機シリカ薄膜。
  2. 前記有機基が波長300〜600nmの範囲に極大吸収波長を有することを特徴とする請求項1に記載の有機シリカ薄膜。
  3. 前記有機シリカ薄膜が、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造を有する多孔膜、又は、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造を有する薄膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機シリカ薄膜。
  4. 光を吸収可能な有機基を有する有機ケイ素化合物を部分的に重合せしめて得られたゾル溶液から得られる膜にナノインプリントにより凹凸構造を形成して硬化せしめることにより有機シリカ薄膜を得る工程を含み、
    前記有機ケイ素化合物が、光を吸収可能な有機基として波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有する有機基を有しかつケイ素及び該有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にある有機ケイ素化合物であり、
    前記有機シリカ薄膜が光を吸収可能な有機基を骨格に有する有機シリカからなる薄膜であり、
    該薄膜中の前記有機基が波長200〜1200nmの範囲に極大吸収波長を有するものであり、
    該有機シリカを構成するケイ素及び前記有機基の含有割合が前記有機基の質量に対するケイ素の質量の比率([ケイ素の質量]/[有機基の質量])を基準として0.05〜0.50の範囲にあり、
    該薄膜が凹凸構造を有し、かつ、
    該凹凸構造の軸方向が、該有機シリカ薄膜の凹凸構造が形成されている面とは反対側の面の表面に対して略垂直な方向にあること、
    を特徴とする有機シリカ薄膜の製造方法。
  5. 前記有機シリカ薄膜が、凹部が柱状の細孔により形成されてなる凹凸構造を有する多孔膜、又は、凸部が柱状体により形成されかつ該柱状体が配列されてなるピラーアレイからなる凹凸構造を有する薄膜であることを特徴とする請求項4に記載の有機シリカ薄膜の製造方法。
  6. レーザー脱離イオン化質量分析法に用いる基板であって、該基板が請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の有機シリカ薄膜を備えることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用基板。
  7. 分析用基板として請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の有機シリカ薄膜を備える基板を用い、該有機シリカ薄膜に対して測定対象分子を含む試料を担持せしめた後、該膜の試料担持部位にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子をイオン化して質量分析を行うことを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析法。
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