以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図中同一又は相当する部分には同一符号を付す。
<熱膨張性シート10>
図1に、造形物を造形するための熱膨張性シート10の断面構成を示す。熱膨張性シート10は、予め選択された部分が加熱により膨張することによって造形物が造形される媒体である。造形物とは、立体的な形状を有する物体であって、2次元状のシートにおいて、シートのうちの一部分がシートに垂直な方向に膨張することによって造形される。造形物は、立体物又は立体画像とも言う。造形物の形状は、単純な形状、幾何学形状、文字等の形状一般を含む。
図1に示すように、熱膨張性シート10は、基材11と、熱膨張層12と、インク受容層13とを、この順に備えている。なお、図1は、造形物が造形される前、すなわちどの部分も膨張していない状態における熱膨張性シート10の断面を示している。
基材11は、熱膨張性シート10の元となるシート状の媒体である。基材11は、熱膨張層12とインク受容層13とを支持する支持体であって、熱膨張性シート10の強度を保持する役割を担う。基材11として、例えば、一般的な印刷用紙を用いることができる。或いは、基材11の材質は、合成紙、キャンバス地等の布、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のプラスチックフィルムであっても良く、特に限定されるものではない。
熱膨張層12は、基材11の上側に積層されており、規定の温度以上に加熱されることによって膨張する層である。熱膨張層12は、バインダと、バインダ内に分散配置された熱膨張剤と、を含む。バインダは、酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等の熱可塑性樹脂である。熱膨張剤は、具体的には、プロパン、ブタン等の低沸点で気化する物質を、熱可塑性樹脂の外殻に内包した、粒径が約5〜50μmの熱膨張性のマイクロカプセル(マイクロパウダー)である。熱膨張剤は、例えば80℃から120℃程度の温度に加熱されると、内包している物質が気化し、その圧力によって発泡及び膨張する。このようにして、熱膨張層12は、吸収した熱量に応じて膨張する。熱膨張剤は、発泡剤とも呼ぶ。
インク受容層13は、熱膨張層12の上側に積層された、インクを吸収して受容する層である。インク受容層13は、インクジェット方式のプリンタに用いられる印刷用のインク、レーザー方式のプリンタに用いられる印刷用のトナー、ボールペン又は万年筆のインク、鉛筆の黒鉛等を受容する。インク受容層13は、これらを表面に定着させるための好適な材料によって形成される。インク受容層13の材料として、例えば、インクジェット用紙に用いられている汎用的な材料を用いることができる。
図2(a),(b)に、熱膨張性シート10の裏面を示す。熱膨張性シート10の裏面は、熱膨張性シート10の基材11側の面であって、基材11の裏面に相当する。図2(a)は、シートのサイズが第1のサイズである熱膨張性シート10の裏面を示しており、図2(b)は、シートのサイズが第2のサイズである熱膨張性シート10の裏面を示している。一例として、第1のサイズはA3サイズであり、第2のサイズはA4サイズである。すなわち、図2(b)に示す熱膨張性シート10のサイズは、図2(a)に示す熱膨張性シート10のサイズの半分である。
図2(a),(b)に示すように、熱膨張性シート10の裏面には、その周縁部に沿って複数のバーコードBが付されている。より詳細には、バーコードBは、図2(a)に示す第1のサイズの熱膨張性シート10では、長手方向における一方側の端部に設けられており、図2(b)に示す第2のサイズの熱膨張性シート10では、短手方向における一方側の端部に設けられている。バーコードBは、熱膨張性シート10を識別するための識別子であって、熱膨張性シート10が造形物を造形するための専用のシートであることを示す識別子である。バーコードBは、照射装置50によって読み取られ、照射装置50において熱膨張性シート10の使用の可否を判定するために用いられる。また、バーコードBは、熱膨張性シート10のサイズが第1のサイズであるか第2のサイズであるかというサイズ情報、熱膨張性シート10の厚み、基材11の種類等の情報を含んでいる。
造形システム1は、このようなサイズが異なる複数種類の熱膨張性シート10に造形物を製造することができる。熱膨張性シート10の表面又は裏面のうちの膨張させたい部分には、カーボン分子が印刷される。カーボン分子は、黒色(カーボンブラック)又は他の色のインクに含まれ、電磁波を吸収して熱に変換する電磁波熱変換材料(発熱剤)の一種である。カーボン分子は、電磁波を吸収して熱振動することで熱を発生する。熱膨張性シート10において、カーボン分子が印刷された部分が加熱されると、その部分の熱膨張層12が膨張して隆起(バンプ)が形成される。このような熱膨張層12の隆起(バンプ)によって凸若しくは凹凸形状を造ることにより、熱膨張性シート10に造形物が製造される。
熱膨張性シート10における膨張させる箇所及び高さを組み合わせることにより、多彩な造形物を得ることができる。また、造形(造型)によって視覚又は触覚を通じて美感又は質感を表現することを「加飾(造飾)」と呼ぶ。
<造形システム1>
次に、図3(a)〜(c)を参照して、熱膨張性シート10に造形物を製造するための造形システム1について説明する。
図3(a)は、造形システム1の斜視図である。図3(b)は、造形システム1の正面図である。図3(c)は、天板22を開いた状態における造形システム1の平面図である。図3(a)〜(c)において、X方向は、印刷装置40と照射装置50とが並ぶ方向に相当し、Y方向は、印刷装置40及び照射装置50における熱膨張性シート10の搬送方向に相当し、Z方向は、鉛直方向に相当する。X方向とY方向とZ方向とは、互いに直交する。
図3(a)〜(c)に示すように、造形システム1は、制御ユニット30と、表示ユニット35と、印刷装置(印刷ユニット)40と、照射装置(照射ユニット)50と、を備える。制御ユニット30、印刷装置40及び照射装置50は、フレーム21内に載置される。フレーム21は、略矩形状の一対の側面板21aと、一対の側面板21aの間に設けられた連結部21bとを備え、側面板21aの上方に天板22が渡されている。また、連結部21bの上に印刷装置40及び照射装置50がX方向に並んで設置され、連結部21bの下に制御ユニット30が設置されている。表示ユニット35は、天板22内に、天板22の上面と高さが一致するように埋設されている。
<制御ユニット30>
制御ユニット30は、印刷装置40、照射装置50及び表示ユニット35を制御する。また、制御ユニット30は、印刷装置40、照射装置50、及び表示ユニット35に電源を供給する。制御ユニット30は、図4に示すように、制御部31と、記憶部32と、通信部33と、記録媒体駆動部34と、を備える。これら各部は、信号を伝達するためのバスによって接続されている。
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。制御部31では、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、造形システム1全体の動作を制御する。なお、制御部31は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用の制御回路であっても良い。
記憶部32は、フラッシュメモリ、ハードディスク等であって、制御部31によって実行されるプログラム又はデータを記憶している。例えば、記憶部32は、印刷装置40によって印刷されるカラー画像データ、表発泡データ及び裏発泡データを記憶している。
通信部33は、印刷装置40、照射装置50及び表示ユニット35を含む外部の装置と通信するためのインタフェースである。
記録媒体駆動部34は、可搬型の記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出す。可搬型の記録媒体とは、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、USB(Universal Serial Bus)規格のコネクタが備えられているフラッシュメモリ等である。例えば、記録媒体駆動部34は、印刷装置40によって印刷されるカラー画像データ、表発泡データ及び裏発泡データを、可搬型の記録媒体から読み出して取得する。
<表示ユニット35>
表示ユニット35は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置と、表示装置に画像を表示させる表示駆動回路と、を備える。表示ユニット35は、印刷装置40によって熱膨張性シート10に印刷される画像を表示する。また、表示ユニット35は、必要に応じて、印刷装置40及び照射装置50の現在の状態を示す情報を表示する。
なお、図示していないが、造形システム1は、ユーザによって操作される操作ユニットを備えていても良い。操作ユニットは、ボタン、スイッチ、ダイヤル等を備え、印刷装置40又は照射装置50に対する操作を受け付ける。或いは、表示ユニット35は、表示装置と操作装置とが重ねられたタッチパネル又はタッチスクリーンを備えていてもよい。
<印刷装置40>
印刷装置40は、熱膨張性シート10の表面又は裏面に印刷を行う印刷ユニットである。一例として、印刷装置40は、インクを微滴化し、被印刷媒体に対して直接に吹き付ける方式で画像を印刷するインクジェットプリンタである。印刷装置40では、例えば水性インク、溶剤インク、紫外線硬化インク等、任意のインクを使用することができる。
図3(c)に示すように、印刷装置40は、熱膨張性シート10を搬入するための搬入部40aと、熱膨張性シート10を搬出するための搬出部40bと、を備える。印刷装置40は、搬入部40aから搬入された熱膨張性シート10の表面又は裏面に指示された画像を印刷し、画像が印刷された熱膨張性シート10を搬出部40bから搬出する。
図5に、印刷装置40の詳細な構成を示す。図5に示すように、印刷装置40は、熱膨張性シート10が搬送される方向である副走査方向D1(Y方向)に直交する主走査方向D2(X方向)に往復移動可能なキャリッジ41を備える。
キャリッジ41には、印刷を実行する印刷ヘッド42と、インクを収容したインクカートリッジ43(43k,43c,43m,43y)が取り付けられている。インクカートリッジ43k,43c,43m,43yには、それぞれ、ブラックK、シアンC、マゼンタM、及びイエローYの色インクが収容されている。各色のインクは、印刷ヘッド42の対応するノズルから吐出される。
キャリッジ41は、ガイドレール44に滑動自在に支持されており、駆動ベルト45に挟持されている。キャリッジ41は、モータ45mの回転により駆動ベルト45が駆動することで、印刷ヘッド42及びインクカートリッジ43と共に、主走査方向D2に移動する。
フレーム47の下部には、印刷ヘッド42と対向する位置に、プラテン48が設けられている。プラテン48は、主走査方向D2に延在しており、熱膨張性シート10の搬送路の一部を構成している。熱膨張性シート10の搬送路には、給紙ローラ対49a(下のローラは不図示)と排紙ローラ対49b(下のローラは不図示)とが設けられている。給紙ローラ対49aと排紙ローラ対49bとは、プラテン48に支持された熱膨張性シート10を副走査方向D1に搬送する。
印刷装置40は、フレキシブル通信ケーブル46を介して制御ユニット30と接続されている。制御ユニット30は、フレキシブル通信ケーブル46を介して、印刷ヘッド42、モータ45m、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御する。具体的に説明すると、制御ユニット30は、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御して、熱膨張性シート10を搬送させる。また、制御ユニット30は、モータ45mを回転させてキャリッジ41を移動させ、印刷ヘッド42を主走査方向D2の適切な位置に搬送させる。
印刷装置40は、制御ユニット30から画像データを取得し、取得した画像データに基づいて印刷を実行する。具体的に説明すると、印刷装置40は、画像データとして、カラー画像データと表発泡データと裏発泡データとを取得する。カラー画像データは、熱膨張性シート10の表面に印刷するカラー画像を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、カラー画像を印刷する。
これに対して、表発泡データは、熱膨張性シート10の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。また、裏発泡データは、熱膨張性シート10の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、カーボンブラックを含むブラックKの黒色インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、黒色による濃淡画像(濃淡パターン)を印刷する。これにより、熱膨張性シート10の表面又は裏面に、電磁波を熱に変換する変換層が形成される。カーボンブラックを含む黒色インクは、電磁波を熱に変換する材料の一例である。
なお、造形システム1には、温度を検知する温度センサ23と湿度を検知する湿度センサ24とが設置されている。温度センサ23及び湿度センサ24は、一例として、図3(a)及び図3(c)に示すように、印刷装置40の搬入部40aの付近に設置されており、造形システム1が設置された環境における温度情報及び湿度情報を取得する。温度センサ23及び湿度センサ24は、照射装置50の筐体51からある程度離れた位置に設置されているため、照射装置50における熱膨張性シート10の加熱による影響を抑えつつ、温度及び湿度を検知することができる。
<照射装置50>
照射装置50は、熱膨張性シート10に対して電磁波を照射することにより、熱膨張性シート10を加熱して膨張させる照射ユニットである。照射装置50は、加熱装置、膨張装置等とも呼ばれる。
図3(c)に示したように、照射装置50は、熱膨張性シート10を搬入するための搬入部50aと、熱膨張性シート10を搬出するための搬出部50bと、を備える。また、図6及び図7に示すように、照射装置50は、筐体51と、搬送ローラ対52a〜52cと、搬送ガイド53a〜53cと、照射部60と、を備える。照射装置50は、図示しないケーブルを介して制御ユニット30と接続されており、制御ユニット30の制御のもとで、搬送ローラ対52a〜52cを駆動させて熱膨張性シート10を搬送させながら、照射部60によって熱膨張性シート10に向けて電磁波を照射する。以下、図6及び図7を参照して、照射装置50の構成について説明する。
搬送ローラ対52a〜52cは、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10を搬送する搬送手段として機能する。具体的に説明すると、搬送ローラ対52aは、搬入部50aに設置されており、搬入部50aに載置された熱膨張性シート10を筐体51の内部に搬入する。搬送ローラ対52bは、照射部60よりも搬入部50a側に設置されており、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10を照射部60により電磁波が照射される位置に搬送する。搬送ローラ対52cは、照射部60よりも搬出部50b側に設置されており、照射部60により電磁波が照射された後の熱膨張性シート10を搬出部50bに搬送する。このように熱膨張性シート10を搬送することにより、搬送ローラ対52a〜52cは、熱膨張性シート10と照射部60とを相対的に移動させる相対移動部として機能する。
搬送ローラ対52a〜52cは、それぞれ一対のローラを備えており、一対のローラによって熱膨張性シート10を挟持する。一対のローラは、図示しない搬送モータと接続されており、搬送モータの回転に伴う駆動力を動力源として回転する。搬送モータは、例えばパルス電力に同期して動作するステッピングモータである。このような構成により、搬送ローラ対52a〜52cは、熱膨張性シート10を、その表面又は裏面を照射部60に向けながら搬送する。
搬送ガイド53a〜53cは、搬送ローラ対52a〜52cにより搬送される熱膨張性シート10を、搬入部50aから照射部60により電磁波が照射される位置を通って搬出部50bに導く。具体的に説明すると、搬送ガイド53aは、搬入部50aに設置されており、搬入部50aに載置された熱膨張性シート10を筐体51の内部に搬入するためのガイドである。搬送ガイド53bは、搬入部50aと照射部60との間に設置されており、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10を照射部60により電磁波が照射される位置に搬送するためのガイドである。搬送ガイド53cは、照射部60と搬出部50bとの間に設置されており、照射部60により電磁波が照射された後の熱膨張性シート10を搬出部50bに搬送するためのガイドである。
搬送ガイド53a〜53cは、それぞれ上側部と下側部とを備えており、熱膨張性シート10は上側部と下側部との間を搬送される。言い換えると、搬送ガイド53a〜53cは、その上側部と下側部とで熱膨張性シート10の搬送経路を形成している。搬送ガイド53b,53cの上側部と下側部とのそれぞれには、図7に示すように、通気性を高めるため、多数の開口が設けられている。
搬送ガイド53bの経路の途中には、入口センサ54が設置されている。入口センサ54は、熱膨張性シート10が搬送ガイド53bを搬送されているか否かを検知する。入口センサ54は、一例として、搬送ガイド53bにより熱膨張性シート10が搬送される経路を挟むように発光部と受光部とを備える。そして、入口センサ54は、発光部から発せられた光が熱膨張性シート10によって遮られずに受光部により受光されたか否かによって、搬送ガイド53bを搬送される熱膨張性シート10の有無を検知する。
搬送ガイド53cの経路の途中には、出口センサ55が設置されている。出口センサ55は、熱膨張性シート10が搬送ガイド53cを搬送されているか否かを検知する。出口センサ55は、一例として、搬送ガイド53cにより熱膨張性シート10が搬送される経路を挟むように発光部と受光部とを備える。そして、出口センサ55は、発光部から発せられた光が熱膨張性シート10によって遮られずに受光部により受光されたか否かによって、搬送ガイド53cを搬送される熱膨張性シート10の有無を検知する。
照射部60は、電磁波を照射する機構であって、搬送ローラ対52a〜52cにより搬送される熱膨張性シート10に向けて電磁波を照射する照射手段として機能する。図6に示すように、照射部60は、ランプヒータ61と、反射板62と、を備える。
ランプヒータ61は、例えばハロゲンランプであって、熱膨張性シート10に対して、近赤外領域(波長750〜1400nm)、可視光領域(波長380〜750nm)、又は、中赤外領域(波長1400〜4000nm)の電磁波を照射する。カーボンブラックを含む黒色インクが印刷された熱膨張性シート10に電磁波を照射すると、黒色インクが印刷された部分では、黒色インクが印刷されていない部分に比べて、より効率良く電磁波が熱に変換される。そのため、熱膨張層12のうちの、黒色インクが印刷された部分が主に加熱されて、その結果、熱膨張層12は、黒色インクが印刷された部分が膨張する。
反射板62は、照射部60から照射された電磁波を受ける被照射体であって、ランプヒータ61から照射された電磁波を熱膨張性シート10に向けて反射する機構である。反射板62は、ランプヒータ61の上側を覆うように配置されており、ランプヒータ61から上側に向けて照射された電磁波を下側に向けて反射する。反射板62によって、ランプヒータ61から照射された電磁波を効率良く熱膨張性シート10に照射することができる。
反射板62の上側には、複数の冷却ファン63が設けられている。冷却ファン63は、照射装置50の外部から空気を吸い込んで反射板62に空気を送る。これにより、冷却ファン63は、ランプヒータ61が点灯することによって加熱された反射板62を冷却する。また、照射装置50の下側の端部には、排気ファン64が設けられている。排気ファン64は、筐体51の内部の空気を外部に排出することで、筐体51の内部を換気する。
更に図6に示すように、搬送ガイド53cの下側部には、搬送ガイド53cを乾燥させるための乾燥ファン67が設けられている。乾燥ファン67は、搬送ローラ対52a〜52cにより熱膨張性シート10が搬送されている際に、搬送ガイド53cに向けて送風する。これにより、乾燥ファン67は、搬送ガイド53c、及び搬送ガイド53cに導かれて搬送される熱膨張性シート10を乾燥させる。
搬送ガイド53cは、照射部60により電磁波が照射された後の熱膨張性シート10が搬送されるため、電磁波の照射によって発泡又は乾燥された熱膨張性シート10から生じた水分が付着し易い。このような水分が搬送ガイド53cを搬送される熱膨張性シート10に付着すると、熱膨張性シート10を汚す、損傷させる等のように、熱膨張性シート10を損ねる結果につながる。そこで、乾燥ファン67によって搬送ガイド53cに送風することにより、搬送ガイド53c及び熱膨張性シート10を乾燥させることができるため、熱膨張性シート10が損なわれることを抑制する。
また、照射装置50は、搬入部50aにおいて、バーコードリーダ65と、リフレクタ66と、を備える。バーコードリーダ65は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードBを読み取る読み取り手段として機能する。リフレクタ66は、光を反射するミラーであって、バーコードリーダ65に対して熱膨張性シート10の搬送路を挟んで反対側に設置されている。
バーコードリーダ65は、搬入部50aにセットされた熱膨張性シート10の前端部がバーコードリーダ65の位置に達すると、そこに付されたバーコードBを読み取る。具体的に説明すると、表面が上側を向いて熱膨張性シート10が照射装置50に挿入された場合、バーコードリーダ65は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードBを、リフレクタ66を介さずに読み取る。これに対して、裏面が上側を向いて熱膨張性シート10が照射装置50に挿入された場合、バーコードリーダ65は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードBを、リフレクタ66を介して読み取る。
照射装置50は、バーコードリーダ65によってバーコードBを読み取ることができたか否かに応じて、搬入部50aにセットされた媒体が、熱膨張性シート10であるか否か(照射装置50で使用可能か否か)を識別する。これは、造形物を製造するための専用のシートではない媒体が照射装置50に搬入されると、照射装置50が正常に動作しない可能性があるためである。
また、バーコードBは、熱膨張性シート10のサイズが第1のサイズであるか第2のサイズであるかというサイズ情報、熱膨張性シート10の厚み、基材11の種類等の情報を含んでいる。照射装置50は、バーコードリーダ65によってバーコードBを読み取ることにより、熱膨張性シート10のサイズ、厚み及び種類を識別する。
次に、図8を参照して、照射装置50の動作を制御する制御ユニット30の機能的な構成について説明する。図8に示すように、制御ユニット30は、機能的に、取得部310と、推定部320と、設定部330と、搬送制御部340と、を備える。制御部31において、CPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、これら各部として機能する。
取得部310は、照射装置50の周囲の温度及び湿度の計測値を取得する。照射装置50の周囲の温度及び湿度は、熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定するために用いられる指標であって、それぞれ印刷装置40の搬出部40b付近に設置された温度センサ23及び湿度センサ24によって計測される。取得部310は、適宜のタイミングで温度センサ23及び湿度センサ24と有線又は無線によって通信し、温度センサ23及び湿度センサ24から温度及び湿度の計測値を取得する。取得部310は、制御部31が通信部33と協働することによって実現される。
推定部320は、取得部310により取得された温度及び湿度の計測値に基づいて、熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定する。熱膨張性シート10は、周囲の環境によって、基材11等の内部に水分を含む。熱膨張性シート10に含まれる水分の量によって、熱膨張性シート10の内部における熱の伝わり方が変わるため、照射装置50において熱膨張性シート10が加熱されて膨張する際に、熱膨張性シート10の膨張の度合いに影響する。そのため、推定部320は、照射装置50における熱膨張性シート10の膨張の度合いを適切に制御するため、熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定する。
つまり、推定部320は、取得部310により取得された温度及び湿度の計測値から得られる水蒸気量を、熱膨張性シート10に含まれる水分の量と擬制して、造形システム1が置かれている環境の水分の量を測定する。これにより、推定部320は、照射装置50による電磁波の照射に伴って熱膨張性シート10が膨張する際に、当該熱膨張性シート10に影響を与える空気中の水分の量を推定する。
具体的に説明すると、推定部320は、取得部310により取得された温度の計測値と湿度の計測値とに基づいて、照射装置50の周囲の水蒸気量を計算する。照射装置50の周囲の水蒸気量とは、照射装置50が設置された環境における空気中に含まれる単位体積当たりの水蒸気の量である。推定部320は、計算した水蒸気量を指標として用いて、熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定する。
水蒸気量を指標に用いるのは、温度及び湿度は比較的短時間で変化し易いのに対して、空気中に含まれる水蒸気量は、温度及び湿度が変化してもそれによって急激には変化しない性質があるためである。また、造形システム1が置かれている環境は、熱膨張性シート10が保管されていた環境と同じである又は類似している場合が多い。そのため、造形システム1が置かれている環境における空気中の水蒸気量は、その環境における熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定するための良い指標となる。
より詳細に説明すると、空気中の水蒸気量は、飽和水蒸気量と湿度との積によって定められる。水蒸気を理想気体と仮定した場合における飽和水蒸気量(単位:g/m^3)は、温度T(単位:℃)の関数として下記(1)式のように定められる。ここで、(1)式におけるe(T)は飽和水蒸気圧(単位:hPa)を表している。飽和水蒸気圧は、近似的に下記(2)式のように定められる。なお、(2)式において「^」の記号はべき乗を表す。
飽和水蒸気量a(T)=217×e(T)/(T+273.15) …(1)
飽和水蒸気圧e(T)=6.1078×10^(7.5T/{T+237.3})
…(2)
推定部320は、取得部310によって取得された温度及び湿度の計測値を上記(1)式及び(2)式に適用することによって、水蒸気量を計算する。そして、推定部320は、計算した水蒸気量を、熱膨張性シート10に含まれる水分の推定値として用いる。推定部320は、制御部31によって実現される。
設定部330は、推定部320により推定された水分の量に応じて、熱膨張性シート10の移動速度を設定する。熱膨張性シート10の移動速度とは、照射装置50において搬送ローラ対52a〜52cにより搬送される熱膨張性シート10の搬送速度であって、位置が固定された照射部60に対する熱膨張性シート10の相対移動速度に相当する。設定部330は、熱膨張性シート10に含まれる水分の量が変動しても、熱膨張性シート10の膨張の度合いを安定させるために、熱膨張性シート10の搬送速度を水分の量に応じて異なる速度に設定する。これにより、設定部330は、熱膨張性シート10に単位面積当たりに照射される電磁波の量を調整する。
図9及び図10に、熱膨張性シート10の膨張高さと水蒸気量との関係を示す。ここで、図9は、インク受容層13の表面にマイクロフィルムが貼られていない熱膨張性シート10における膨張高さと水蒸気量との関係を示しており、図10は、インク受容層13の表面にマイクロフィルムが貼られた熱膨張性シート10における膨張高さと水蒸気量の関係を示している。図9及び図10において、実線は、電磁波を熱に変換する変換層を25%の濃度で熱膨張性シート10の表面に印刷した状態で熱膨張性シート10の表面に照射部60により電磁波を照射した、すなわち表発泡を実施した場合における熱膨張性シート10の膨張高さを表している。これに対して、破線は、電磁波を熱に変換する変換層を50%の濃度で熱膨張性シート10の裏面に印刷した状態で熱膨張性シート10の裏面に照射部60により電磁波を照射した、すなわち裏発泡を実施した場合における熱膨張性シート10の膨張高さを表している。
図9及び図10に示すように、水蒸気量がより多くなると、すなわち熱膨張性シート10に含まれる水分の量がより多くなると、熱膨張性シート10の膨張高さはより小さくなる傾向がある。そのため、設定部330は、推定部320により推定された水分の量がより多い場合には、熱膨張性シート10の移動速度をより低い速度に設定する。これにより、熱膨張性シート10の単位面積当たりに照射される電磁波の量を増加させる。逆に、設定部330は、推定部320により推定された水分の量がより少ない場合には、熱膨張性シート10の移動速度をより高い速度に設定する。これにより、熱膨張性シート10の単位面積当たりに照射される電磁波の量を減少させる。
このような水蒸気量と膨張高さとの関係は、予め計測されて記憶部32に記憶されている。設定部330は、記憶部32に記憶された水蒸気量と膨張高さとの関係を参照して、熱膨張性シート10の移動速度を設定する。設定部330は、制御部31が記憶部32と協働することによって実現される。
ここで、設定部330は、熱膨張性シート10の種類に応じて、及び表発泡か裏発泡かに応じて、熱膨張性シート10の移動速度を設定する。具体的に説明すると、例えば図9及び図10に示すように、熱膨張性シート10の表面にマイクロフィルムが貼られているか否かによって、膨張高さと水蒸気量との関係が変わる。また、図示していないが、熱膨張性シート10を構成する基材11の種類によっても、そこに含まれる水分の量によって熱の伝わり方が変わる。このように、熱膨張性シート10の種類によって膨張高さと水蒸気量との関係が変わるため、設定部330は、熱膨張性シート10の種類に応じて、熱膨張性シート10の移動速度を異なる速度に設定する。
また、一般的に、表発泡と裏発泡とでは、熱の伝わり方に差がある。具体的に説明すると、裏面と熱膨張層12との間には基材11が存在するため、裏発泡の方が表発泡よりも、熱膨張性シート10に含まれる水分の量によって熱の伝わり方により大きな影響を及ぼす傾向がある。そのため、設定部330は、照射部60により熱膨張性シート10の表面、すなわち熱膨張層12がある面に電磁波が照射される場合よりも、照射部60により熱膨張性シート10の裏面、すなわち熱膨張層12がある面とは反対側の面に電磁波が照射される場合の方が、推定部320により推定された水分の量に応じて移動速度をより大きく変化させる。
なお、図11に示すように、熱膨張性シート10の膨張高さは、熱膨張性シート10の表面又は裏面に印刷された電磁波を熱に変換する変換層の濃度によって変動する。そのため、設定部330は、熱膨張性シート10の表面又は裏面に印刷された変換層の濃度に応じて移動速度を設定しても良い。例えば、熱膨張性シート10の表面又は裏面に印刷される変換層の濃度に位置による違いがある場合には、設定部330は、一面に印刷される変換層(印刷パターン)の平均濃度に応じて移動速度を設定しても良い。
搬送制御部340は、照射部60に電磁波を照射させながら、設定部330により設定された移動速度で熱膨張性シート10を移動させる。具体的に説明すると、搬送制御部340は、設定部330により設定された移動速度に対応する回転速度で搬送ローラ対52a〜52cを駆動させて、熱膨張性シート10を搬送させる。そして、搬送制御部340は、照射部60を駆動させて、搬送される熱膨張性シート10に向けて電磁波を照射させる。これにより、搬送制御部340は、熱膨張性シート10における変換層が印刷された部分を膨張させて、造形物を製造する。搬送制御部340は、制御部31が通信部33と協働することによって実現される。
<造形物の製造処理>
次に、図12に示すフローチャート及び図13(a)〜(e)に示す熱膨張性シート10の断面図を参照して、造形システム1において実行される造形物の製造処理の流れについて説明する。
第1に、ユーザは、造形物が製造される前の熱膨張性シート10を準備し、操作ユニットを介して、カラー画像データ、表発泡データ及び裏発泡データを指定する。そして、ユーザは、熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の表面に変換層14を印刷する(ステップS1)。変換層14は、電磁波を熱に変換する材料を含むインク、例えばカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷装置40は、指定された表発泡データに従って、熱膨張性シート10の表面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図13(a)に示すように、インク受容層13上に変換層14が形成される。
第2に、ユーザは、変換層14が印刷された熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて照射装置50に挿入する。照射装置50は、挿入された熱膨張性シート10に対して表発泡工程を実施する(ステップS2)。具体的に説明すると、照射装置50は、照射部60によって熱膨張性シート10の表面に電磁波を照射する。熱膨張性シート10の表面に印刷された変換層14に含まれる熱変換材料は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。その結果、変換層14が発熱し、図13(b)に示すように、熱膨張性シート10の熱膨張層12のうちの変換層14が印刷された領域が膨張し、盛り上がる。
第3に、熱膨張層12の一部が膨張した熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の表面にカラーインク層15を印刷する(ステップS3)。具体的には、印刷装置40は、指定されたカラー画像データに従って、熱膨張性シート10の表面に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを吐出する。その結果、図13(c)に示すように、インク受容層13上にカラーインク層15が形成される。
第4に、ユーザは、カラーインク層15が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて照射装置50に挿入する。照射装置50は、挿入された熱膨張性シート10に対して乾燥工程を実施する(ステップS4)。具体的に説明すると、照射装置50は、照射部60によって熱膨張性シート10を裏面に電磁波を照射する。これにより、熱膨張性シート10の表面に印刷されたカラーインク層15中に含まれる溶媒を揮発させ、カラーインク層15を乾燥させる。
第5に、ユーザは、カラーインク層15が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の裏面に変換層16を印刷する(ステップS5)。変換層16は、熱膨張性シート10の表面に印刷された変換層14と同様に、電磁波を熱に変換する材料、具体的にはカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷装置40は、指定された裏発泡データに従って、熱膨張性シート10の裏面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図13(d)に示すように、基材11の裏面に変換層16が形成される。
第6に、ユーザは、変換層16が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて照射装置50に挿入する。照射装置50は、挿入された熱膨張性シート10に対して裏発泡工程を実施する(ステップS6)。具体的に説明すると、照射装置50は、照射部60によって熱膨張性シート10の裏面に電磁波を照射する。熱膨張性シート10の裏面に印刷された変換層16は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。その結果、図13(e)に示すように、熱膨張性シート10の熱膨張層12のうち、変換層16が印刷された領域が膨張し、盛り上がる。
以上のような手順によって、熱膨張性シート10の表面上に造形物が形成される。
なお、図13(a)〜(e)では、理解を容易とするため、インク受容層13上に変換層14が形成されているように図示しているが、より正確にはインクはインク受容層13中に受容されているため、インク受容層13中に変換層14が形成される。カラーインク層15及び裏側の変換層16についても同様である。
変換層14,16は表側のみ又は裏側のみに形成されてもよい。表側の変換層14のみを利用して熱膨張層12を膨張させる場合、上記の処理のうちステップS1〜S4を実施する。一方、裏側の変換層16のみを利用して熱膨張層12を膨張させる場合、上記の処理のうち、ステップS3〜S6を実施する。また、ステップS5,S6における裏発泡工程を、ステップS1,S2における表発泡工程よりも前に実施しても良いし、ステップS3,S4におけるカラーインク層15の印刷及び乾燥工程を、ステップS1,S2における表発泡工程よりも前に実施しても良い。或いは、ステップS1における表側の変換層14の印刷と、ステップS3におけるカラーインク層15の印刷を実施した後で、ステップS2における表発泡工程を実施しても良い。このように、上記ステップS1〜S6の順番を様々に入れ替えて実施しても良い。
次に、ステップS2における表発泡工程について、それぞれ図14を参照して説明する。図14に示す表発泡工程は、熱膨張性シート10がその表面に変換層14が印刷された状態で表面を上に向けて照射装置50の搬入部50aにセットされると、開始する。
表発泡工程を開始すると、制御部31は、バーコードBを読み取る(ステップS201)。具体的に説明すると、制御部31は、バーコードリーダ65を介して、セットされた熱膨張性シート10の裏面の端部に設けられたバーコードBを読み取る。これにより、制御部31は、セットされた熱膨張性シート10が適正なシートであるか否かを判別する。また、制御部31は、バーコードBを読み取ることにより、セットされた熱膨張性シート10のサイズ、厚み及び種類の情報を取得する。
バーコードBを読み取ると、制御部31は、取得部310として機能して、温度センサ23及び湿度センサ24から温度及び湿度の計測値を取得する(ステップS202)。これにより、制御部31は、照射装置50の周囲の現在の温度及び湿度の情報を取得する。
温度及び湿度の計測値を取得すると、制御部31は、推定部320として機能して、熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定する(ステップS203)。具体的に説明すると、制御部31は、取得した温度及び湿度の計測値から空気中に含まれる水蒸気量を計算し、計算した水蒸気量を、熱膨張性シート10に含まれる水分の量として推定する。
熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定すると、制御部31は、設定部330として機能して、推定した水分の量に応じて、熱膨張性シート10の搬送速度を設定する(ステップS204)。具体的に説明すると、制御部31は、予め計測された熱膨張性シート10の膨張高さと水分の量との関係を考慮して、搬送速度を設定する。このとき、制御部31は、バーコードBを読み取ることによって得られた熱膨張性シート10の種類に応じて、また表発泡であるか裏発泡であるかに応じて、搬送速度を設定する。
搬送速度を設定すると、制御部31は、搬送制御部340として機能して、熱膨張性シート10の搬送を開始する(ステップS205)。具体的に説明すると、制御部31は、搬送ローラ対52a〜52cを駆動させて、搬入部50aにセットされた熱膨張性シート10を筐体51の内部に搬送し始める。
熱膨張性シート10の搬送を開始すると、制御部31は、電磁波を照射して熱膨張性シート10を膨張させる(ステップS206)。具体的に説明すると、制御部31は、搬送される熱膨張性シート10の位置を入口センサ54及び出口センサ55によって検知しながら、適宜のタイミングで照射部60に電磁波の照射を開始させ、電磁波の照射を停止させる。これにより、熱膨張性シート10における変換層14,16が印刷された部分を膨張させて、造形物を製造する。以上によって、図14に示した表発泡工程は終了する。
なお、ステップS4における乾燥工程、及びステップS6における裏発泡工程において、制御部31は、表発泡工程におけるステップS201〜S206と同様の処理を実行する。但し、表発泡と裏発泡とでは熱膨張性シート10に含まれる水分の量と熱膨張性シート10の膨張高さとの関係が異なるため、裏発泡工程では、制御部31は、表発泡工程とは異なる基準に基づいて、推定した水分の量から搬送速度を設定する。また、乾燥工程では、カラーインク層15を乾燥させる工程であって熱膨張性シート10を膨張させる工程ではないため、制御部31は、表発泡工程とは異なる基準に基づいて、推定した水分の量から搬送速度を設定する。
以上説明したように、本実施形態に係る照射装置50は、搬送ローラ対52a〜52cにより搬送される熱膨張性シート10に電磁波を照射する装置であって、熱膨張性シート10に含まれる水分の量を推定し、推定した水分の量に応じた搬送速度で熱膨張性シート10を搬送させる。これにより、熱膨張性シート10に含まれる水分の量が周囲の環境に応じて変化しても、熱膨張性シート10の膨張の度合いを適切に制御することができる。その結果、照射装置50において、熱膨張性シート10を精度良く膨張させて所望の造形物を安定して得ることにつながる。
(変形例)
以上に本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例であり、本発明の適用範囲はこれに限られない。すなわち、本発明の実施形態は種々の応用が可能であり、あらゆる実施の形態が本発明の範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態では、照射装置50は、搬送ローラ対52a〜52cによって熱膨張性シート10を搬送させながら、位置が固定された照射部60から電磁波を照射する方式で、熱膨張性シート10を膨張させた。しかしながら、本発明において、照射装置50は、照射部60を移動させる移動機構を備えており、位置が固定された熱膨張性シート10に沿って照射部60を移動させながら、照射部60に電磁波を照射させる方式で、熱膨張性シート10を膨張させても良い。この場合、照射部60を移動させる移動機構が相対移動部として機能する。また、設定部330は、熱膨張性シート10の搬送速度の代わりに、推定部320により推定された水分の量に応じて、照射部60の移動速度を設定する。このように、照射装置50は、熱膨張性シート10と照射部60とを相対的に移動させることができれば、どのような方式で熱膨張性シート10を膨張させても良い。
上記実施形態では、熱膨張性シート10は、基材11と熱膨張層12とインク受容層13とを備えていた。しかしながら、本発明において、熱膨張性シート10の構成はこれに限らない。例えば、熱膨張性シート10は、インク受容層13を備えなくても良い。或いは、熱膨張性シート10は、基材11と熱膨張層12との間、熱膨張層12とインク受容層13との間、インク受容層13の表面、又は基材11の裏面に、他の任意の材料による層を備えていても良い。
印刷装置40の印刷方式は、インクジェット方式に限らず、任意の印刷方式であっても良い。変換層14,16は、電磁波を熱に変換しやすい材料であれば、カーボンブラックを含む黒インク以外の材料によって形成されても良い。この場合、変換層14,16は、印刷装置40以外の手段によって形成されるものであっても良い。
上記実施形態では、印刷装置40と照射装置50とは、一体となって1つの造形システム1を構成しており、それぞれ共通の制御ユニット30によって制御されて動作した。しかしながら、本発明に係る造形システム1において、印刷装置40と照射装置50とは、それぞれ独立した装置であっても良い。
また、照射装置50が、上記実施形態における制御ユニット30の機能、すなわち図8に示した取得部310、推定部320、設定部330及び搬送制御部340の各機能の少なくとも一部を備えていても良い。言い換えると、照射装置50が独立して、照射部60に電磁波を照射させながら、熱膨張性シート10と照射部60とを相対的に移動させて熱膨張性シート10を膨張させる機能を備えていても良い。
上記実施形態において、制御ユニット30は、CPUを備えており、CPUの機能によって、取得部310、推定部320、設定部330及び搬送制御部340の各部として機能した。しかし、本発明において、制御ユニット30は、CPUの代わりに、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、各種制御回路等の専用のハードウェアを備えていても良い。この場合、各処理を個別のハードウェアで実行しても良いし、各処理をまとめて単一のハードウェアで実行しても良い。また、各処理のうち、一部を専用のハードウェアによって実行し、他の一部をソフトウェア又はファームウェアによって実行しても良い。
なお、本発明に係る機能を実現するための構成を予め備えた照射装置として提供できることはもとより、プログラムの適用により、照射装置を制御するコンピュータに、上記実施形態で例示した照射装置50による各機能構成を実現させることもできる。すなわち、上記実施形態で例示した照射装置50による各機能構成を実現させるためのプログラムを、既存の情報処理装置等を制御するCPU等が実行できるように適用することができる。
また、このようなプログラムの適用方法は任意である。プログラムを、例えば、フレキシブルディスク、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納して適用できる。さらに、プログラムを搬送波に重畳し、インターネットなどの通信媒体を介して適用することもできる。例えば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)にプログラムを掲示して配信してもよい。そして、このプログラムを起動し、OS(Operating System)の制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上記の処理を実行できるように構成してもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(付記1)
加熱により膨張する熱膨張性シートに含まれる水分の量を推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記水分の量に応じて相対移動速度を設定する設定部と、
前記熱膨張性シートに電磁波を照射する照射部と、
前記照射部に電磁波を照射させながら、前記設定部により設定された前記相対移動速度で前記熱膨張性シートと前記照射部とを相対的に移動させる相対移動部と、
を備えることを特徴とする照射装置。
(付記2)
前記熱膨張性シートは、基材の上に熱膨張層が形成され、
前記設定部は、前記熱膨張性シートの前記熱膨張層がある面に前記照射部により電磁波が照射される場合よりも、前記熱膨張性シートの前記熱膨張層がある面とは反対側の面に前記照射部により電磁波が照射される場合の方が、前記水分の量に応じて前記相対移動速度をより大きく変化させる、
ことを特徴とする付記1に記載の照射装置。
(付記3)
前記照射装置の周囲の温度及び湿度の計測値を取得する取得部、を更に備え、
前記推定部は、前記取得部により取得された前記温度の計測値と前記湿度の計測値とに基づいて前記照射装置の周囲の水蒸気量を計算することにより、前記水分の量を推定する、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の照射装置。
(付記4)
前記設定部は、前記推定部により推定された前記水分の量がより多い場合には、前記相対移動速度をより低い速度に設定する、
ことを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の照射装置。
(付記5)
前記設定部は、前記熱膨張性シートの種類に応じて、前記相対移動速度を異なる速度に設定する、
ことを特徴とする付記1から4のいずれか1つに記載の照射装置。
(付記6)
加熱により膨張する熱膨張性シートに電磁波を照射する照射部と、
前記照射部による電磁波の照射に伴って前記熱膨張性シートが膨張する際に、当該熱膨張性シートに影響を与える空気中の水分の量を推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記水分の量に応じて相対移動速度を設定する設定部と、
前記照射部に電磁波を照射させながら、前記設定部により設定された前記相対移動速度で前記熱膨張性シートと前記照射部とを相対的に移動させる相対移動部と、
を備えることを特徴とする照射装置。
(付記7)
付記1から6のいずれか1つに記載の照射装置と、印刷装置と、を備える造形システムであって、
前記印刷装置は、電磁波を熱に変換する変換層を前記熱膨張性シートに印刷し、
前記照射装置において、
前記相対移動部は、前記照射部に電磁波を照射させながら、前記設定部により設定された前記相対移動速度で、前記変換層が印刷された前記熱膨張性シートと前記照射部とを相対的に移動させる、
ことを特徴とする造形システム。
(付記8)
加熱により膨張する熱膨張性シートに含まれる水分の量を推定する推定ステップと、
前記推定ステップで推定された前記水分の量に応じて相対移動速度を設定する設定ステップと、
照射部に前記熱膨張性シートに向けて電磁波を照射させながら、前記設定ステップで設定された前記相対移動速度で前記熱膨張性シートと前記照射部とを相対的に移動させる相対移動ステップと、
を含むことを特徴とする照射方法。
(付記9)
コンピュータを、
加熱により膨張する熱膨張性シートに含まれる水分の量を推定する推定部、
前記推定部により推定された前記水分の量に応じて相対移動速度を設定する設定部、
照射部に前記熱膨張性シートに向けて電磁波を照射させながら、前記設定部により設定された前記相対移動速度で前記熱膨張性シートと前記照射部とを相対的に移動させる相対移動部、
として機能させるためのプログラム。